説明

マスタ軸とスレーブ軸との同期制御を行うモータ制御装置

【課題】マスタ軸を駆動するマスタ軸モータとスレーブ軸を駆動するスレーブ軸モータとを正確に同期制御することができる、小型で低価格のモータ制御装置を実現する。
【解決手段】マスタ軸を駆動するマスタ軸モータ14とスレーブ軸を駆動するスレーブ軸モータ54とを同期制御するモータ制御装置1は、マスタ軸の位置データと所定一定周期の基準信号とを出力するマスタ軸位置検出器11と、マスタ軸位置検出器11が出力した位置データと基準信号とを受信するマスタ軸受信回路13と、マスタ軸受信回路13が受信した位置データと基準信号を受信した時点の位置データとの差分を、マスタ軸差分として算出するマスタ軸演算回路13と、マスタ軸差分をマスタ軸モータ14の動作と同期を取るための信号として用いてスレーブ軸モータ54の動作を制御するスレーブ軸モータ制御部55と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスタ軸を駆動するマスタ軸モータとスレーブ軸を駆動するスレーブ軸モータとを同期制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械においては、工作機械の駆動軸ごとにモータを有し、これらモータをモータ制御装置により駆動制御する。モータ制御装置は、工作機械の駆動軸を駆動する駆動軸数分のモータに対し、モータの速度、トルク、もしくは回転子の位置を指令し制御する。
【0003】
図7は、ギア加工機の工具軸およびワーク軸を説明する図である。ギア加工機の駆動軸として、砥石やカッターなどの工具を駆動する軸(工具軸)とワークを駆動する軸(ワーク軸)とがある。工具軸とワーク軸とはワークギアを介して機械的に結合される。
【0004】
このようなギア加工機において、工具軸を駆動するモータをマスタ軸モータとし、マスタ軸モータの位置データを読み取り、それをワーク軸を駆動するスレーブ軸モータの指令としても利用するマスタ・スレーブ同期方式に基づいてスレーブ軸とスレーブ軸との各位相(回転角度)を同期させて制御する方法がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
図8は、従来技術によるマスタ軸とスレーブ軸との同期制御のための回路を概略的に示す原理ブロック図である。以降、異なる図面において同じ参照符号が付されたものは同じ機能を有する構成要素であることを意味するものとする。従来技術によるモータ制御装置100においては、マスタ軸に設けられたマスタ軸位置検出器111から出力されたアナログ信号である位置データおよび所定一定周期の基準信号(1回転信号等)を、分岐回路110で分岐してマスタ軸およびスレーブ軸の両方について設けられた受信回路112および152で受信し、これら受信回路112および152にそれぞれ接続された演算回路113および153により角度情報である「基準信号位置からの移動距離」をそれぞれ作成し、これら角度情報を、マスタ軸を駆動するマスタ軸モータの動作を制御するためのマスタ軸モータ制御部115とスレーブ軸を駆動するスレーブ軸モータの動作を制御するためのマスタ軸モータ制御部155へそれぞれ送信する。マスタ軸モータ制御部115およびマスタ軸モータ制御部155は、それぞれが個別に受信した角度情報に基づいてマスタ軸モータとスレーブ軸モータとを同期制御して、マスタ軸とスレーブ軸との間の位相(回転速度)合わせを行う。
【0006】
図9は、図8に示す原理ブロック図のより具体的な構成を示すブロック図である。移動指令値作成部122は、記憶部121に記憶されたプログラムに従ってマスタ軸モータ114およびスレーブ軸モータ154のそれぞれための移動指令を作成し、これら各移動指令をマスタ軸モータ制御部115およびスレーブ軸モータ制御部155にそれぞれ入力する。マスタ軸モータ制御部115内の位置・速度制御部116は、移動指令とマスタ軸モータ114からフィードバックされた回転速度(マスタ軸速度フィードバック)とマスタ軸位置検出器111からフィードバックされた角度情報(マスタ軸位置フィードバック)とに基づいてマスタ軸モータ114のロータの位置(マスタ軸位置)および回転速度を制御する。また、スレーブ軸モータ制御部155内の位置・速度制御部156は、移動指令とスレーブ軸モータ154からフィードバックされた回転速度(スレーブ軸速度フィードバック)とマスタ軸位置検出器111から分岐回路110を経由して送られてきた角度情報とに基づいてスレーブ軸モータ154のロータの位置(スレーブ軸位置)および回転速度を制御する。図8を参照して説明して説明したように、マスタ軸位置検出器111から出力された位置データおよび所定一定周期の基準信号(1回転信号等)が分岐回路110で分岐されたのち受信回路112および152においてそれぞれ受信され、これら受信回路112および152にそれぞれ接続された演算回路113および153が角度情報をそれぞれ個別に作成する。
【0007】
マスタ軸とスレーブ軸との各位相を同期させて制御する別の方法として、異なる駆動軸系統に跨って所望の比率で所望の位相関係を持って同期制御する方法がある(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
マスタ軸とスレーブ軸との各位相の同期制御を高速に行う方法も提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−42307号公報
【特許文献2】特開2005−322076号公報
【特許文献3】特開平8−202420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のようにマスタ・スレーブ同期方式では、マスタ軸に設けられたマスタ軸位置検出器111から出力されたアナログ信号である位置データおよび所定一定周期の基準信号を分岐し、これをマスタ軸用およびスレーブ軸用それぞれ個別に設けられた受信回路112および152でそれぞれ受信している。このため、各受信回路112および152に使用する素子のバラツキ、伝送経路の違い、温度変化等により、各受信回路112および152間において基準信号の受信タイミングを厳密に一致させることは難しい。この結果、次のような問題が生じる。
【0011】
図10は、マスタ軸位置検出器から出力される位置データを用いた角度情報の生成原理を説明する図である。マスタ軸位置検出器111は例えばロータリーエンコーダからなり、マスタ軸の回転速度(位置)および回転方向を検出できるようにするために例えば図10(a)に示すようなA相信号およびB相信号の2つの信号からなる位置データを出力する。マスタ軸位置検出器111は、図10(b)に示すような基準信号を一定周期で出力しており、例えばそれは一回転信号である。各演算回路113および153は、基準信号を受信した時点の図10(c)に示すような位置カウンタのカウント値を読み取り、次に基準信号を受信した時点の位置カウンタのカウント値を読み取って先のカウント値からの増分を計算することで図10(d)に示すような基準信号位置からの移動距離、すなわちロータの1回転内の角度情報を算出する。しかしながら、マスタ軸用およびスレーブ軸用それぞれ個別に設けられた受信回路112と152との間において、上述の理由により基準信号の受信タイミングにずれが生じると(図10(b)の点線)、基準信号の受信時に読み取られる位置カウンタのカウント値がマスタ軸とスレーブ軸との間でずれてしまい、その結果、図10(d)に示すように各演算回路113および153で算出される角度情報に位相ずれが生じることになる。このように、マスタ軸用とスレーブ軸用とに受信回路112および152がそれぞれ個別に設けられるので、同じマスタ軸位置検出器111から出力された位置データおよび基準信号を用いたとしても、受信回路112および152における受信タイミングのずれに起因して、各演算回路113および153で算出される角度情報に位相ずれが生じる。このような位相ずれを有する角度情報を用いるとマスタ軸モータ114とスレーブ軸モータ154との同期制御は実現不可能となる。
【0012】
また、従来のマスタ・スレーブ同期方式では、分岐回路を必要とするので、モータ制御装置はその分高価となり、大型化する。
【0013】
従って本発明の目的は、上記問題に鑑み、マスタ軸を駆動するマスタ軸モータとスレーブ軸を駆動するスレーブ軸モータとを正確に同期制御することができる、小型で低価格のモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を実現するために、本発明においては、マスタ軸を駆動するマスタ軸モータとスレーブ軸を駆動するスレーブ軸モータとを同期制御するモータ制御装置は、マスタ軸の位置データと所定一定周期の基準信号とを出力するマスタ軸位置検出器と、マスタ軸位置検出器が出力した位置データと基準信号とを受信するマスタ軸受信回路と、マスタ軸受信回路が受信した位置データと基準信号を受信した時点の位置データとの差分を、マスタ軸差分として算出するマスタ軸演算回路と、マスタ軸差分をマスタ軸モータの動作と同期を取るための指令として用いてスレーブ軸モータの動作を制御するスレーブ軸モータ制御部と、を備える。ここで、マスタ軸位置検出器が出力する基準信号は、マスタ軸の位置データと同期して出力されるものである。
【0015】
ここで、モータ制御装置は、マスタ軸演算回路に接続され、マスタ軸演算回路から受信したマスタ軸差分をフィードバックしてマスタ軸モータの動作を制御するマスタ軸モータ制御部を備える。上述のように、マスタ軸差分は、スレーブ軸モータ制御部によりスレーブ軸モータの動作を制御するためにも用いられるので、マスタ軸モータとスレーブ軸モータとの動作が同期することになる。
【0016】
ここで、マスタ軸差分を、マスタ軸モータ制御部からスレーブ軸モータ制御部へ転送するようにしてもよい。
【0017】
また、モータ制御装置は、スレーブ軸の位置データと所定一定周期の基準信号とを出力するスレーブ軸位置検出器と、スレーブ軸位置検出器が出力した位置データと基準信号とを受信するスレーブ軸受信回路と、スレーブ軸受信回路が受信した位置データと基準信号を受信した時点の位置データとの差分を、スレーブ軸差分として算出するスレーブ軸演算回路と、を備え、スレーブ軸モータ制御部は、マスタ軸差分とスレーブ軸差分とが一定の差もしくは一定の比となるようにスレーブ軸モータの動作を制御してもよい。ここで、スレーブ軸位置検出器が出力する基準信号は、スレーブ軸の位置データと同期して出力されるものである。
【0018】
また、マスタ軸演算回路、マスタ軸モータ制御部およびスレーブ軸モータ制御部のうちの少なくとも1つは、マスタ軸モータ制御部とスレーブ軸モータ制御部との間のデータ伝送遅れ時間を用いてマスタ軸差分を補正する補正回路を有してもよい。
【0019】
例えば、マスタ軸は、ギア加工機における工具を駆動する軸であり、スレーブ軸は、加工機におけるワークを駆動する軸である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、マスタ軸を駆動するマスタ軸モータとスレーブ軸を駆動するスレーブ軸モータとを正確に同期制御することができる。
【0021】
本発明によれば、マスタ軸位置検出器が出力したマスタ軸の位置データと所定一定周期の基準信号とを1箇所の受信回路において受信し、この受信回路に接続された1箇所の演算回路において位置データと基準信号を受信した時点の位置データとの差分を算出してこれをマスタ軸モータの動作と同期を取るための指令として用いてスレーブ軸モータの動作を制御するので、上記受信タイミングのずれに起因した基準信号位置からの移動距離(例えば角度情報)の位相ずれを除去することでき、マスタ軸モータとスレーブ軸モータとを正確に同期制御することができる。また、マスタ軸位置データおよび基準信号をマスタ軸モータ制御部とスレーブ軸モータ制御部とに向けて分岐するための分岐回路を設ける必要がないので、モータ制御装置の小型化および低価格化を実現することができる。
【0022】
また、マスタ軸演算回路、マスタ軸モータ制御部およびスレーブ軸モータ制御部のうちの少なくとも1つは、マスタ軸モータ制御部とスレーブ軸モータ制御部との間のデータ伝送遅れ時間を用いてマスタ軸差分を補正するようにしてもよく、これによれば、マスタ軸モータとスレーブ軸モータとをより正確に同期制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例によるモータ制御装置の原理ブロック図である。
【図2】図1に示す原理ブロック図のより具体的な構成を示すブロック図である。
【図3】スレーブ軸モータ制御部における同期制御の変形例を説明する図である。
【図4】本発明の実施例によるモータ制御装置の動作フローを示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施例によるモータ制御装置の変形例を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施例によるモータ制御装置のさらなる変形例を示すブロック図である。
【図7】ギア加工機の工具軸およびワーク軸を説明する図である。
【図8】従来技術によるマスタ軸とスレーブ軸との同期制御のための回路を概略的に示す原理ブロック図である。
【図9】図8に示す原理ブロック図のより具体的な構成を示すブロック図である。
【図10】マスタ軸位置検出器から出力される位置データを用いた角度情報の生成原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の実施例によるモータ制御装置の原理ブロック図である。また、図2は、図1に示す原理ブロック図のより具体的な構成を示すブロック図である。本発明の実施例によるモータ制御装置1は、駆動軸ごとにモータを有する工作機械に適用することができ、例えば、マスタ軸は加工機における工具を駆動する軸であり、スレーブ軸は加工機におけるワークを駆動する軸である。例えばギア加工機で言えば、マスタ軸は砥石やカッターなどの工具を駆動する工具軸であり、スレーブ軸はワークを駆動するワーク軸である。また、図示の例では、一例としてスレーブ軸を1つとしたが、本発明はスレーブ軸の数によって限定されるものではなく、スレーブ軸が複数であってもよい。
【0025】
本発明の実施例によれば、図1に示すように、マスタ軸を駆動するマスタ軸モータ14とスレーブ軸を駆動するスレーブ軸モータ54とを同期制御するモータ制御装置1は、マスタ軸の位置データと所定一定周期の基準信号とを出力するマスタ軸位置検出器11と、マスタ軸位置検出器11が出力した位置データと基準信号とを受信するマスタ軸受信回路12と、マスタ軸受信回路12が受信した位置データと基準信号を受信した時点の位置データとの差分を、マスタ軸差分として算出するマスタ軸演算回路13と、マスタ軸差分をマスタ軸モータ14の動作と同期を取るための指令として用いてスレーブ軸モータ54の動作を制御するスレーブ軸モータ制御部55と、を備える。ここで、マスタ軸位置検出器11が出力する基準信号は、マスタ軸の位置データと同期して出力されるものである。マスタ軸差分は、マスタ軸受信回路13が受信した現在の位置データと、該位置データよりも前に基準信号を受信した時点の位置データとの差分であることから、「基準信号位置からの移動距離」であるということができ、例えばマスタ軸モータ14のロータの1回転内の角度情報である。
【0026】
図2を参照してより具体的に説明すると次の通りである。図2に示すモータ制御装置1において、マスタ軸位置検出器11は、マスタ軸モータ14が駆動するマスタ軸近傍に設けられており、マスタ軸の位置データと所定一定周期の基準信号とを出力する。マスタ軸受信回路12は、マスタ軸位置検出器11が出力した位置データおよび基準信号を受信する。マスタ軸演算回路13は、マスタ軸受信回路12が受信した現在の位置データと該位置データよりも前に基準信号を受信した時点の位置データとの差分を、マスタ軸差分として算出する。このマスタ軸差分は、上記の通り「基準信号位置からの移動距離」である。マスタ軸差分は、マスタ軸モータ制御部15内の位置・速度制御部16に送られてマスタ軸モータ14のロータの位置および回転速度を制御するとともに、マスタ軸モータ制御部15とスレーブ軸モータ制御部16との間に設けられた通信バスを介してスレーブ軸モータ制御部へ送られる。
【0027】
スレーブ軸位置検出器51は、スレーブ軸モータ54が駆動するスレーブ軸近傍に設けられており、スレーブ軸の位置データと所定一定周期の基準信号とを出力する。ここで、スレーブ軸位置検出器51が出力する基準信号は、スレーブ軸の位置データと同期して出力されるものである。スレーブ軸受信回路52は、スレーブ軸位置検出器51が出力した位置データおよび基準信号を受信する。スレーブ軸演算回路53は、スレーブ軸受信回路52が受信した現在の位置データと該位置データよりも前に基準信号を受信した時点の位置データとの差分を、スレーブ軸差分として算出する。このスレーブ軸差分は、マスタ軸差分の場合と同様、「基準信号位置からの移動距離」である。スレーブ軸差分は、スレーブ軸モータ制御部55内の位置・速度制御部56に送られる。
【0028】
移動指令値作成部22は、上位の数値制御部(図示せず)の制御に基づき、記憶部21に記憶されたプログラムに従ってマスタ軸モータ14およびスレーブ軸モータ54のそれぞれのための移動指令を作成し、これら各移動指令をマスタ軸モータ制御部15およびスレーブ軸モータ制御部55にそれぞれ入力する。
【0029】
マスタ軸モータ制御部15内の位置・速度制御部16は、移動指令とマスタ軸モータ14からフィードバックされた回転速度(マスタ軸速度フィードバック)とマスタ軸位置検出器11からフィードバックされた角度情報(マスタ軸位置フィードバック)とに基づいてマスタ軸モータ14のロータの位置および回転速度を制御する。
【0030】
スレーブ軸モータ制御部55内の位置・速度制御部56は、移動指令と、スレーブ軸モータ54からフィードバックされた回転速度(スレーブ軸速度フィードバック)と、マスタ軸演算回路13により作成されたマスタ軸差分すなわち「基準信号位置からの移動距離」と、に基づいてスレーブ軸モータ54のロータの位置および回転速度を制御する。なお、この変形例として、スレーブ軸モータ制御部55は、マスタ軸差分とスレーブ軸差分とが一定の差もしくは一定の比となるようにスレーブ軸モータ54の動作を制御するようにしてもよい。図2は本変形例としてマスタ軸差分とスレーブ軸差分とが一定の比(同期比)となるように制御する場合について示されており、マスタ軸演算回路13により作成されたマスタ軸差分に、乗算器57により同期比を乗算し、これを同期指令としている。移動指令地作成部22により作成された移動指令に、加算器58により同期指令を加算して、これを位置・速度制御部56に入力する。
【0031】
なお、上記のようにマスタ軸差分とスレーブ軸差分とが一定の差もしくは一定の比となるようにスレーブ軸モータ54の動作を制御するのではなく、単純にマスタ軸演算回路13により作成されたマスタ軸差分を用いてスレーブ軸モータ54のロータの位置および回転速度を制御するような場合には、図2の乗算器57、スレーブ軸受信回路52およびスレーブ軸演算回路53を特に設ける必要はなく、この場合は、移動指令値作成部22により作成された移動指令に、マスタ軸演算回路13により生成されたマスタ軸差分をそのまま同期指令として加算器58により加算し、これを位置・速度制御部56に入力するようにすればよい。これによれば、モータ制御装置1をより小型化、低コスト化することができる。
【0032】
図3は、スレーブ軸モータ制御部における同期制御の変形例を説明する図である。参考として、図3(a)に、マスタ軸演算回路13により生成されたマスタ軸差分であるマスタ軸についての「基準信号位置からの移動距離」が、スレーブ軸演算回路53により生成されたスレーブ軸差分であるスレーブ軸についての「基準信号位置からの移動距離」と一致する場合を示す。図3(b)は、マスタ軸差分とスレーブ軸差分とが一定の差となるようにスレーブ軸モータ54の動作を制御する場合における、マスタ軸演算回路13により生成されたマスタ軸差分である「基準信号位置からの移動距離」とスレーブ軸演算回路53により生成されたスレーブ軸差分である「基準信号位置からの移動距離」との位相関係を示している。また、図3(c)は、マスタ軸差分とスレーブ軸差分とが一定の比となるようにスレーブ軸モータ54の動作を制御する場合における、マスタ軸演算回路13により生成されたマスタ軸差分である「基準信号位置からの移動距離」とスレーブ軸演算回路53により生成されたスレーブ軸差分である「基準信号位置からの移動距離」との位相関係を示しており、一例としてマスタ軸差分とスレーブ軸差分との比が2対1である場合を示している。
【0033】
このように、マスタ軸モータ制御部15およびスレーブ軸モータ制御部55は、ともにマスタ軸演算回路13により作成されたマスタ軸差分を少なくとも用いてマスタ軸モータ14およびスレーブ軸モータ54の動作を同期制御することになるので、従来のような受信タイミングのずれに起因した基準信号位置からの移動距離(例えば角度情報)の位相ずれを除去することでき、マスタ軸モータ14とスレーブ軸モータ54とを正確に同期制御することができる。また、マスタ軸の位置データおよび基準信号をマスタ軸モータ制御部15およびスレーブ軸モータ制御部55それぞれに向けて伝送するための分岐回路を設ける必要がないので、モータ制御装置1の小型化および低価格化を実現することができる。
【0034】
図4は、本発明の実施例によるモータ制御装置の動作フローを示すフローチャートである。
【0035】
まず、マスタ軸側処理として、ステップS101において、マスタ軸受信回路12は、マスタ軸位置検出器11からアナログ信号の位置データおよび基準信号を受信する。次いでステップS102において、マスタ軸受信回路12に接続されたマスタ軸演算回路13は、受信した位置データおよび基準信号をディジタル信号に変換する。次いでステップS103において、マスタ軸演算回路13は、マスタ軸受信回路12が受信した現在の位置データと該位置データよりも前に基準信号を受信した時点の位置データとの差分であるマスタ軸差分、すなわちマスタ軸についての「基準信号位置からの移動距離」を算出する。次いでステップS104において、マスタ軸演算回路13は、マスタ軸差分である「基準信号位置からの移動距離」を、スレーブ軸モータ制御部55へ送る。
【0036】
上記マスタ軸側の処理に次いで、スレーブ軸側処理として、まずステップS201において、スレーブ軸モータ制御部55は、マスタ軸演算回路13からマスタ軸差分である「基準信号位置からの移動距離」を取得し、自軸(すなわちスレーブ軸)の指令位置を作成する。次いでステップS202において、スレーブ軸モータ制御部55は、取得したマスタ軸差分である「基準信号位置からの移動距離」と、スレーブ軸位置検出器51からスレーブ軸受信回路52およびスレーブ軸演算回路53を経由してフィードバックされた自軸位置に関する情報と、を用いてスレーブ軸モータ54のロータの位置および回転速度を制御する。これにより、スレーブ軸位置検出器51で検出される位置データは、マスタ軸位置検出器11で検出される位置データと同期することになる(ステップS203)。
【0037】
図5は、本発明の実施例によるモータ制御装置の変形例を示すブロック図である。上述したように、マスタ軸演算回路13で生成されたマスタ軸差分は、マスタ軸モータ制御部15から通信バスを経由してスレーブ軸モータ制御部55へ伝送されるが、本変形例は、図2を参照して説明したモータ制御装置1に、マスタ軸モータ制御部15とスレーブ軸モータ制御部55との間のデータ伝送遅れ時間分だけマスタ軸差分を補正するための補正回路を設けたものである。この補正回路は、マスタ軸演算回路13、マスタ軸モータ制御部15およびスレーブ軸モータ制御部55のうちの少なくとも1つに設ければよく、図5に示す例では、一例としてスレーブ軸モータ制御部55に補正回路を設けている。例えば、マスタ軸モータ14のマスタ軸速度がV[deg/秒]であるとき、マスタ軸モータ制御部15とスレーブ軸モータ制御部55との間のデータ伝送遅れ時間がt[秒]存在したとすると、遅れ量(位置)はV×t[deg]であるので、これを加算器59にさらに加算し、同期指令を作成する。これにより、マスタ軸モータ14とスレーブ軸モータ54とを、より正確に同期制御することができる。なお、これ以外の回路構成要素については図2に示す回路構成要素と同様であるので、同一の回路構成要素には同一符号を付して当該回路構成要素についての詳細な説明は省略する。
【0038】
図6は、本発明の実施例によるモータ制御装置のさらなる変形例を示すブロック図である。本変形例は、図1を参照して説明したモータ制御装置1において、複数存在するスレーブ軸モータ制御部55それぞれについて、マスタ軸モータ制御部15との間に個別の通信バスを設け、マスタ軸演算回路13で生成されマスタ軸モータ制御15に入力されたたマスタ軸差分を、マスタ軸モータ制御15から通信バスを介して各スレーブ軸モータ制御部55へ転送するようにしたものである。なお、これ以外の回路構成要素については図1に示す回路構成要素と同様であるので、同一の回路構成要素には同一符号を付して当該回路構成要素についての詳細な説明は省略する。
【0039】
なお、上述の本発明の実施例によるモータ制御装置1は、各変形例を適宜組み合わせて実施してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、マスタ軸を駆動するマスタ軸モータとスレーブ軸を駆動するスレーブ軸モータとを同期制御するモータ制御装置に適用することができる。このモータ制御装置は、駆動軸ごとにモータを有する工作機械に適用することができ、例えば、マスタ軸は、加工機における工具を駆動する軸であり、スレーブ軸は、加工機におけるワークを駆動する軸とすることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 モータ制御装置
11 マスタ軸位置検出器
12 マスタ軸受信回路
13 マスタ軸演算回路
14 マスタ軸モータ
15 マスタ軸モータ制御部
16 位置・速度制御部
21 記憶部
22 移動指令値作成部
51 スレーブ軸位置検出器
52 スレーブ軸受信回路
53 スレーブ軸演算回路
54 スレーブ軸モータ
55 スレーブ軸モータ制御部
56 位置・速度制御部
57 乗算器
58、59 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタ軸を駆動するマスタ軸モータとスレーブ軸を駆動するスレーブ軸モータとを同期制御するモータ制御装置であって、
前記マスタ軸の位置データと所定一定周期の基準信号とを出力するマスタ軸位置検出器と、
前記マスタ軸位置検出器が出力した前記位置データと前記基準信号とを受信するマスタ軸受信回路と、
前記マスタ軸受信回路が受信した前記位置データと前記基準信号を受信した時点の位置データとの差分を、マスタ軸差分として算出するマスタ軸演算回路と、
受信した前記マスタ軸差分を前記マスタ軸モータの動作と同期を取るための指令として用いて前記スレーブ軸モータの動作を制御するスレーブ軸モータ制御部と、
前記マスタ軸演算回路に接続され、前記マスタ軸演算回路から受信した前記マスタ軸差分を用いて前記マスタ軸モータの動作を制御するとともに、前記マスタ軸差分を前記スレーブ軸モータ制御部へ転送するマスタ軸モータ制御部と、
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記マスタ軸位置検出器が出力する前記基準信号は、前記マスタ軸の位置データと同期して出力されるものである請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記スレーブ軸の位置データと所定一定周期の基準信号とを出力するスレーブ軸位置検出器と、
前記スレーブ軸位置検出器が出力した前記位置データと前記基準信号とを受信するスレーブ軸受信回路と、
前記スレーブ軸受信回路が受信した前記位置データと前記基準信号を受信した時点の位置データとの差分を、スレーブ軸差分として算出するスレーブ軸演算回路と、
を備え、
前記スレーブ軸モータ制御部は、前記マスタ軸差分と前記スレーブ軸差分とが一定の差もしくは一定の比となるように前記スレーブ軸モータの動作を制御する請求項1または2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記スレーブ軸位置検出器が出力する前記基準信号は、前記スレーブ軸の位置データと同期して出力されるものである請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記マスタ軸演算回路、前記マスタ軸モータ制御部および前記スレーブ軸モータ制御部のうちの少なくとも1つは、前記マスタ軸モータ制御部と前記スレーブ軸モータ制御部との間のデータ伝送遅れ時間を用いて前記マスタ軸差分を補正する補正回路を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記マスタ軸は、ギア加工機における工具を駆動する軸であり、前記スレーブ軸は、前記加工機におけるワークを駆動する軸である請求項1〜5のいずれか一項に記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−114340(P2013−114340A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258008(P2011−258008)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】