説明

マトリックスセンサ及びセンサシステム

【課題】小型化してもセンサ部の感度の低下を抑制できるマトリックスセンサ及び当該マトリックスセンサを備えるセンサシステムを提供する。
【解決手段】マトリックスセンサ10は、基板11と、基板11上に、2次元マトリックス状に配置された複数のセンサ部20と、基板11上に配置され、センサ部20,20同士を隔てる隔壁部14と、を備え、センサ部20は、基板11上に配置された電極12と、電極12上に配置され、少なくとも基板11に対して略垂直方向に貫通する細孔13aを有する多孔体13と、多孔体13の細孔13aの内部に担持され、検出対象物質と選択的に反応する酵素Eと、を有し、電極12によりその反応に伴う所定の変化を検出するよう構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックスセンサ及びセンサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のセンサ部が2次元マトリックス状に配置されたマトリックスセンサが知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
具体的には、特許文献1及び2に記載のマトリックスセンサが有するセンサ部は、検出素子(電極)と、検出素子上又は検出素子上に配置された多孔性フィルムの上面に固定された反応物質(生体物質)と、を備えており、反応物質と、その反応物質に特異的に反応する物質と、の相互作用を検出素子で検出するようになっている。
【特許文献1】特開2004−020238号公報
【特許文献2】特開2003−043009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1及び2において、反応物質は、検出素子上又は検出素子上に配置された多孔性フィルムの上面に固定されているため、マトリックスセンサを小型化するためにセンサ部のサイズを小さくすると、反応物質を固定するための領域(検出素子上面)の面積も小さくなる。したがって、マトリクスセンサを小型化すると、センサ部内の反応物質の量が減少してしまうため、センサ部の感度が低下してしまうという問題がある。
また、酵素や金属触媒など、ナノサイズのタンパク質や有機・無機の物質は互いに凝集しやすいため、そのままでは十分な性能が引き出せない。多孔体に分散して配置しても、そのままでは基質や生成物の拡散性が悪く、センサ感度を向上することができない。
【0004】
本発明の課題は、小型化してもセンサ部の感度の低下を抑制できるマトリックスセンサ及び当該マトリックスセンサを備えるセンサシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
マトリックスセンサにおいて、
基板と、
前記基板上に、2次元又は3次元マトリックス状に配置された複数のセンサ部と、
前記基板上に配置され、前記センサ部同士を隔てる隔壁部と、
を備え、
前記センサ部は、前記基板上に配置された検出素子と、前記検出素子上に配置され、少なくとも前記基板に対して略垂直方向に貫通する細孔を有する多孔体と、前記多孔体の細孔の内部に担持され、検出対象物質と選択的に反応する反応物質と、を有し、前記検出素子により前記反応に伴う所定の変化を検出することを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、
センサシステムにおいて、
基板と、前記基板上に、2次元又は3次元マトリックス状に配置された複数のセンサ部と、前記基板上に配置され、前記センサ部同士を隔てる隔壁部と、を有するマトリックスセンサと、
前記複数のセンサ部のうちの、所定のセンサ部を指定する指定手段と、
前記指定手段により指定されたセンサ部による検出データを取得する取得手段と、
を備え、
前記センサ部は、前記基板上に配置された電極と、前記電極上に配置され、少なくとも前記基板に対して略垂直方向に貫通する細孔を有する多孔体と、前記多孔体の細孔の内部に担持され、検出対象物質と選択的に反応する生体物質と、を有し、前記電極により前記反応に伴う所定の変化を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、マトリックスセンサが、基板と、基板上に、2次元又は3次元マトリックス状に配置された複数のセンサ部と、基板上に配置され、センサ部同士を隔てる隔壁部と、を備え、センサ部は、基板上に配置された検出素子と、検出素子上に配置され、少なくとも基板に対して略垂直方向に貫通する細孔を有する多孔体と、多孔体の細孔の内部に担持され、検出対象物質と選択的に反応する反応物質と、を有し、検出素子によりその反応に伴う所定の変化を検出するようになっている。
すなわち、検出対象物質と選択的に反応する反応物質を多孔体に固定しているため、反応物質を検出素子上に固定する場合と比較して、センサ部が備える反応物質の量が多量となり、マトリックスセンサを小型化しても、センサ部の感度の低下を抑制することができる。
したがって、反応物質を検出素子上に固定する場合と比較して、より小型のマトリックスセンサの提供が可能となるため、好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、発明の範囲は、図示例に限定されない。
本実施の形態では、酵素センサとして機能するセンサ部を有するマトリックスセンサを備えたセンサシステムを例示して説明することとする。
【0009】
[第1の実施の形態]
まず、第1の実施の形態におけるセンサシステム1及びセンサシステム1が備えるマトリックスセンサ10について説明する。
【0010】
<センサシステム>
図1は第1の実施の形態のセンサシステム1の機能的構成を示すブロック図、図2は第1の実施の形態のセンサシステム1を模式的に示す図である。
【0011】
センサシステム1は、例えば、マトリックスセンサ10を用いて、検出対象物質を検出して、その検出対象物質の濃度を測定するシステムである。
具体的には、センサシステム1は、例えば、マトリックスセンサ10と、封止除去部30と、検出データ取得部40と、制御部50と、メモリ部60と、操作部70と、表示部80と、などを備えて構成される。
なお、センサシステム1において、マトリックスセンサ10と、封止除去部30や検出データ取得部40、制御部50、メモリ部60などとは、別々に構成しても良いし、封止除去部30や検出データ取得部40、制御部50、メモリ部60などをマトリックスセンサ10と同一の基板11上に形成して、集積化して構成(ワンチップ化)しても良い。また、ワンチップ化する場合は、マトリックスセンサ10と、封止除去部30や検出データ取得部40、制御部50、メモリ部60などが配置された基板と、を積み重ねることによって、多層型にしても良い。
【0012】
<マトリックスセンサ>
図3はマトリックスセンサ10の平面斜視図、図4はマトリックスセンサ10の分解図、図5は図3のV−V線における断面図、図6は電極12が形成された基板11の平面図、図7はセンサ部20の特定の仕方を説明するための図である。
【0013】
マトリックスセンサ10は、例えば、図3に示すように、5×5の2次元マトリックス状に配置された25個のセンサ部20を有している。センサ部20は、例えば、酵素Eの特性を利用して気体試料中や液体試料中の検出対象物質を電気化学的計測法によって検出する酵素センサである。
【0014】
ここで、マトリックスセンサ10の基板11側を下側、カバー部材18側を上側とし、マトリックスセンサ10の行方向を左右方向、列方向を前後方向とする。
また、例えば、図7に示すように、各行(X)に、上から順に「1」〜「5」の番号を割り当てるとともに、各列(Y)に、左から順に「1」〜「5」の番号を割り当てて、センサ部20を特定する際、センサ部(X,Y)と呼ぶこととする。
【0015】
具体的には、センサ部20は、例えば、図5に示すように、基板11上に配置された検出層21と、検出層21上に配置された透過層22と、透過層22上に配置された供給層23と、により構成されている。
検出層21は、電解液で満たされている。検出素子としての電極12は、検出層21に配置されており、検出対象物質と選択的に反応する反応物質(生体物質)としての酵素Eは、多孔体13に担持(固定)された状態で検出層21に含有されている。そして、供給層23の透過層22と対向する側の面(すなわち、センサ部20の基板11と対向する側の面)は、除去可能な封止部材17により封止されている。
すなわち、センサ部20は、検出層21に電解液と酵素Eとを含有した状態で、封止部材17により外部から遮断されている。
【0016】
センサ部20において、封止部材17が除去されて供給層23に試料が供給されると、その試料中の検出対象物質は、透過層22を透過して検出層21に移行し、検出層21が備える酵素Eと反応する。そして、センサ部20は、その反応に伴う所定の変化(具体的には、作用電極121と対向電極123との間に流れる電流量の変化)を電極12により検出することによって、検出対象物質を検出するようになっている。
すなわち、例えば、検出対象物質をホルムアルデヒド(HCHO)、酵素Eをホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼとした場合、ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼが補酵素(NAD)の存在下でホルムアルデヒドを酸化する反応(HCHO+NAD+3HO ―(酵素E)→ HCOO+NADH+2H)により生成される還元型酵素の量の変化を、作用電極121と対向電極123との間に流れる電流量の変化として電極12で検出することによって、検出対象物質を検出するようになっている。具体的には、酸化型のホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼがホルムアルデヒドを酸化する反応に伴い、酸化型のホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ(酸化型酵素)は還元型のホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ(還元型酵素)となり、その還元型酵素は、直接的に又は電子伝達体を介して間接的に電子(e)を作用電極121に渡して酸化型酵素に戻る。この際、作用電極121と対向電極123との間に流れる還元型酵素又は還元型電子伝達体を再酸化するための電流量を電極12で検出することによって、検出対象物質を検出するようになっている。
また、例えば、検出対象物質(基質)をグルコース、酵素Eをグルコースオキシダーゼとした場合、酵素反応(基質+O ―(酵素E)→ 生成物+H)により生成される過酸化水素や消費される酸素などの電極活性物質の量の変化を、作用電極121と対向電極123との間に流れる電流量の変化として電極12で検出することによって、検出対象物質を検出するようになっている。
【0017】
マトリックスセンサ10は、例えば、図5に示すように、上面に疎水性絶縁膜112が形成された基板11と、基板11上面の分析部111内に配置された電極12(作用電極121、参照電極122及び対向電極123)と、電極12上に配置された多孔体13と、多孔体13の細孔13aの内部に担持された酵素Eと、基板11上に配置された隔壁部14と、隔壁部14上に配置された透過膜15と、透過膜15上に配置されたスペーサ16と、スペーサ16上に配置された封止部材17と、封止部材17上に配置されたカバー部材18と、などを備えて構成される。
【0018】
(基板)
基板11は、例えば、平面視略矩形状に形成されている。基板11は、例えば、基板11上面に、5×5の2次元マトリックス状に並んだ平面視略円形状の分析部111を有しており、例えば、基板11上面における分析部111に対応する領域以外の領域に、SiO薄膜等の疎水性絶縁膜112が形成されている。
【0019】
基板11としては、例えば、半導体基板、絶縁基板、高分子基板等を用いることができる。
ここで、半導体基板としては、例えば、シリコン基板等を用いることができる。
また、絶縁基板としては、例えば、ガラス基板、セラミックス基板、紙基板、木材基板等を用いることができる。
また、高分子基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのエステル類、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))などのフッ素ポリマー類、ポリエーテル類、ポリスチレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン類、ポリイミド類等を用いることができる。
【0020】
なお、例えば、薄膜トランジスタ(TFT)などを基板11上に形成する場合(例えば、マトリックスセンサ10と、検出データ取得部40や制御部50、メモリ部60などと、を一体的に構成(ワンチップ化)する場合等)は、予め層間絶縁層を形成し、そして、フォトグラフィー法などによりスルーホールを形成することによって、電気的接続を確保しておくと良い。
【0021】
(電極)
電極12(作用電極121、参照電極122及び対向電極123)は、例えば、図6に示すように、基板11上面における分析部111の内部に形成されており、作用電極121、参照電極122及び対向電極123に対応して設けられたパッド124,124,124と配線を介して接続されている。
パッド124は、例えば、図6に示すように、基板11上面における基板11の縁部に形成されている。
【0022】
電極12、パッド124及び電極12とパッド124とを接続する配線は、例えば、蒸着法又はスパッタリング法により電極用薄膜を成膜して、フォトリソグラフィー工程でパターニングすることによって作成することができる。なお、電極12、パッド124及び配線の作成は、フォトリソプロセスでの作成に限定されるものではなく、例えば、スクリーン印刷の手法を用いて簡易的に行っても良い。
電極用薄膜の材質としては、例えば、Al、Cr、Mo、Ta、Ti、W、Nb、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Pd、Pt、Ru、RuO、C等及びこれらの合金から選ばれる少なくとも1つを用いることができる。
また、参照電極122は銀/塩化銀電極であるのが好ましい。銀/塩化銀電極である参照電極122は、例えば、参照電極122となる電極用薄膜上に、銀/塩化銀インクを塗布してベーキングすることにより作成しても良いし、スクリーン印刷法や蒸着法、スパッタリング法などによって一旦銀電極を形成させた後に、一定電流を電解したり、塩化第2銀水溶液中に浸漬したりすることにより作成しても良い。
また、コンタクト特性や電気導電性の向上という観点から、異なる種類の金属膜を積層したものを電極用薄膜としても良い。
【0023】
(多孔体)
多孔体13は、例えば、基板11に対して略垂直方向に貫通する細孔13aを有している。
多孔体13は、例えば、平面視略円形状に形成されている。多孔体13の平面視におけるサイズ(径)は、分析部111のサイズ(径)と同一又はそれ以下となるよう設定されており、多孔体13の厚み(上下方向の長さ)は、電極12と透過膜15との間の距離と同一又はそれ以下となるよう設定されている。
【0024】
多孔体13としては、例えば、シート状、バルク状、膜状、特に、シート状又は膜状のシリカ系メソ多孔体を好ましく用いることができる。
シリカ系メソ多孔体は、例えば、ケイ酸やアルミナなどの各種金属酸化物、ケイ酸と他種の金属との複合酸化物等によって構成することができる。
例えば、ケイ酸により構成されるシリカ系メソ多孔体の作製においては、例えば、カネマイトのような層状シリケート、アルコキシシラン、シリカゲル、水ガラス、ケイ酸ソーダ等を好ましく用いることができる。
【0025】
具体的には、シリカ系メソ多孔体は、例えば、無機材料を界面活性剤と混合反応させて、界面活性剤のミセルの周りに無機の骨格が形成された界面活性剤/無機複合体を形成させた後、例えば、400℃〜600℃で焼成したり有機溶剤で抽出したりする等して界面活性剤を除去することにより作製される。これにより、シリカ系メソ多孔体は、無機骨格中に、界面活性剤のミセルと同じ形状のメソポア細孔(細孔13a)を有するものとなる。
【0026】
シリカ系メソ多孔体の作製において、ケイ酸等のケイ素含有化合物を出発材料とする場合には、例えば、カネマイトのような層状シリケートを形成して、この層間にミセルを挿入し、そして、ミセルが存在しない層間をシリケート分子でつなぎ、その後、ミセルを除去することによって細孔13aを形成することができる。
また、シリカ系メソ多孔体の作製において、水ガラス等のケイ素含有物質を出発材料とする場合には、例えば、ミセルの周囲にシリケート分子を集合させて重合させることによりシリカを形成し、その後、ミセルを除去することによって細孔13aを形成することができる。この場合、通常、ミセルの形状は柱状となり、その結果、シリカ系メソ多孔体に、柱状の細孔13aが形成されることになる。
【0027】
シリカ系メソ多孔体は、作製段階で、界面活性剤のアルキル鎖の長さを変えてミセルの径を変化させることによって、細孔13aの内径を制御することができる。また、界面活性剤と併せて、トリメチルベンゼン、トリプロピルベンゼン等の比較的疎水性の分子を添加することによって、ミセルを膨潤させ、さらに大きな内径の細孔13aを形成することもできる。
シリカ系メソ多孔体の細孔13aのサイズ(細孔13aの径)は、固定する酵素Eのサイズ(酵素Eの径)に応じて決定される。すなわち、例えば、ミセルのサイズ(ミセルの径)が、酵素Eのサイズの0.5〜2.0倍となる界面活性剤を用いてシリカ系メソ多孔体を作製することによって、細孔13aのサイズが、固定する酵素Eのサイズの0.5〜2.0倍となるシリカ系メソ多孔体を得ることができる。
【0028】
シリカ系メソ多孔体における細孔13aの貫通方向は、少なくとも基板11に対して略垂直方向を含むのであれば任意であり、ランダムであっても良いし、一次元シリカナノチャンネルの集合体のように方向性が制御されたものであっても良い。
また、シリカ系メソ多孔体の作成方法としては、上記のように個別に形成しても良いし、或いは、スピンコートや核成長による析出、光配向、電場、磁場、shear flowなどによる外場を利用して基板11や電極12上へ孔サイズに加えて、方向制御された形で直接作成することもできる。
【0029】
シリカ系メソ多孔体の種類としては、細孔13aのサイズが均一であり、かつ、大きな空隙率を持つという特徴を有する、例えば、KSW、FSM、SBA、MCM、HOM等の公知の種類を採用することができる。
さらに、シリカ系メソ多孔体の種類としては、細孔13aのサイズが均一であり、かつ、細孔13a(チャンネル)の方向が一方向に向いているという特徴を有する、例えば、CTAB−M、P123−M、F127-M等の公知の種類を採用することができる。具体的には、CTAB−M、P123−M、F127-M等は、例えば、円筒形のアルミナ細孔内に界面活性剤を鋳型として作製される、アルミナ細孔の方向と同一のチャンネル方向を有するメソポーラスシリカナノチャンネル集合体(一次元シリカナノチャンネルの集合体)が充填された膜状のシリカ系メソ多孔体である。
【0030】
シリカ系メソ多孔体の細孔13aのサイズは、固定された酵素Eの立体構造の変化を防止可能な程度に設定されている。
具体的には、シリカ系メソ多孔体の細孔13aのサイズは、例えば、固定される酵素E(酵素分子又は活性部位を含む酵素の断片)のサイズの0.5〜2.0倍程度であることが好ましく、固定される酵素Eのサイズの0.7〜1.4倍程度であることがより好ましく、固定される酵素Eのサイズとほぼ同一であることが最も好ましい。すなわち、シリカ系メソ多孔体における細孔13aの直径(中心細孔直径)は、固定される酵素Eの直径の0.5〜2.0倍程度であることが好ましく、固定される酵素Eの直径の0.7〜1.4倍程度であることがより好ましく、固定される酵素Eの直径とほぼ同一であることが最も好ましい。なお、具体的な中心細孔直径の値は、酵素Eの直径との関係で決定されるので一律には規定できないが、例えば、1〜50nm程度とすることができる。
ここで、酵素Eが多量体を形成する場合には、固定される酵素Eのサイズ(直径)は、多量体のサイズ(直径)とすることができる。ここで、多量体とは、2以上の酵素(タンパク質)が、直接に、又は水などの低分子を介して結合してなる化合物をいい、結合には、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合が含まれる。しかし、これらの結合の種類は、特に制限されない。
【0031】
シリカ系メソ多孔体の細孔13aのサイズを、固定する酵素Eのサイズの0.5〜2.0倍程度(より好ましくは0.7〜1.4倍程度、最も好ましくはほぼ同一)にすることによって、固定する酵素Eの立体構造の維持が容易となるため、シリカ系メソ多孔体の細孔13aの内部に固定された酵素Eを安定化することができる。
さらに、シリカ系メソ多孔体の比表面積は、例えば、200〜1500m程度であるため、酵素Eをシリカ系メソ多孔体に固定することによって、酵素Eを電極12の表面に直接固定する場合と比較して、検出層21に多量の酵素Eを含有させることができるため、センサ部20による検出対象物質の検出を高感度化することができる。
また、シリカ系メソ多孔体の細孔13aには、基板11に対して略垂直方向に貫通する細孔13aが含まれるため、基板11に対して略垂直方向に貫通する細孔13aを含まない場合と比較して、酵素Eの活性中心と電極12(作用電極121)との電子移動がスムーズになるため、センサ部20による検出対象物質の検出を高速化することができる。
【0032】
なお、多孔体13は、シリカ系メソ多孔体に限ることはなく、酵素Eを固定することができ、かつ、少なくとも基板11に対して略垂直方向に貫通する細孔13aを有するのであれば任意であり、例えば、親水性テフロン膜、ナイロン膜やその他の材質(例えば、セルロース混合エステル、ポリビニリデンジフロライド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタートなど)からなる親水性膜、多孔質アルミナ等の多孔体、ナイロンメッシュ等のメッシュ体などであっても良い。また、酵素Eを固定するための担体は、多孔体13に限ることはなく、多孔体13と同等の機能を有するもの(電極12よりも比表面積が大きく、かつ、基板11に対して略垂直方向に貫通する細孔13a(流路)を持つもの)であれば任意であり、例えば、カーボンナノチューブ等の繊維状集合体などであっても良い。
或いは、公知の方法により、基板11に対して略垂直方向に貫通する細孔13aを有する構造体を、電極12上に直接形成しても良い。具体的には、例えば、陽極酸化により基板11に略垂直方向に貫通する陽極酸化アルミナを形成することもできるし、その中にさらに小さな細孔径を有するシリカチャンネルの束を形成することもできる。
【0033】
(酵素)
酵素Eは、検出対象物質と選択的に反応する酵素であれば任意であり、検出対象物質の種類によって適宜変更可能である。
具体的には、酵素Eは、例えば、酸化還元酵素、加水分解酵素、転移酵素、異性化酵素などの酵素(酵素タンパク質)である。
また、酵素Eは、例えば、生来の酵素分子であっても、活性部位を含む酵素の断片であっても良い。当該酵素分子又は当該活性部位を含む酵素の断片は、例えば、動植物や微生物から抽出したものであっても良いし、所望によりそれを切断したものであっても良いし、遺伝子工学的に又は化学的に合成したものであっても良い。
【0034】
酸化還元酵素としては、例えば、グルコースオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、ホルムアルデヒドオキシダーゼ、ソルビトールオキシダーゼ、フルクトースオキシダーゼ、ザルコシンオキシダーゼ、フルクトシルアミンオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、サルコシンオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、グルタメートデヒドロゲナーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、ウリカーゼ等を用いることができる。この他に、コレステロールエステラーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、ブチリルコリンエステラーゼ、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、DNAポリメラーゼ、さらにこれら酵素のミュータント等を用いることができる。
【0035】
加水分解酵素としては、例えば、プロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、インベルターゼ、マルターゼ、β−ガラクトシダーゼ、リゾチーム、ウレアーゼ、エステラーゼ、ヌクレアーゼ群、ホスファターゼ群等を用いることができる。
【0036】
転移酵素としては、例えば、各種アシル転移酵素、キナーゼ群、アミノトランスフェラーゼ群等を用いることができる。
【0037】
異性化酵素としては、例えば、ラセマーゼ群、ホスホグリセリン酸ホスホムターゼ、グルコース6−リン酸イソメラーゼ等を用いることができる。
【0038】
多孔体13に固定する酵素Eは、1種類の酵素であっても、2種類以上の酵素であっても良い。
具体的には、多孔体13に固定する酵素Eは、例えば、1種類の酵素であっても、分子量及び/又はサイズ(径)が略同一の2種類以上の酵素であっても、分子量及び/又はサイズが異なる2種類以上の酵素であっても良い。また、多孔体13に固定する酵素Eが2種類以上である場合、酵素Eは、例えば、同種の検出対象物質(基質)に作用する2種類以上の酵素であっても、異種の検出対象物質に作用する2種類以上の酵素であっても、同種及び/又は異種の検出対象物質に作用する2種類以上の酵素であっても良い。
【0039】
また、多孔体13に固定する酵素Eが2種類以上である場合、その2種類以上の酵素は、多孔体13における別々の細孔13aの内部に固定されていても、同一の細孔13aの内部に固定されていても良い。
ここで、特に、多孔体13に固定する酵素Eが2種類以上であって、その2種類以上の酵素が異種の検出対象物質に作用する場合、センサ部20は、その異種の検出対象物質(2種類以上の検出対象物質)を同時に検出することができる。
【0040】
酵素Eを多孔体13に固定する方法としては、例えば、多孔体13に酵素Eを含む溶液を滴下するディップ法、酵素Eを含む溶液に多孔体13を漬侵する漬侵法、電場などの外場を利用して酵素Eを多孔体13に導入する方法等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これにより、高次構造と活性を保持したまま、酵素Eを多孔体13に固定化することができる。
さらに、必要に応じて、公知の酵素固定化法(例えば、導電性高分子、グルタルアルデヒド、光架橋性樹脂等を用いる固定化法等)と併用することもできる。
また、酵素Eを多孔体13に固定した後、その多孔体13を電極12上に配置しても良いし、電極12上に多孔体13を配置した後、その多孔体13に酵素Eを固定するようにしても良い。
【0041】
ここで、酵素Eと電極12(作用電極121)との間の電子の受け渡しを促進するための電子伝達体を、検出層21に含有させるのが好ましい。
なお、電子伝達体は、検出層21に含有されていれば任意であり、例えば、検出層21を満たす電解液に溶解した状態で検出層21に含有されていても良いし、例えば、多孔体13の細孔13aの内部に導入(固定)された状態で検出層21に含有されていても良いし、例えば、電極12(作用電極121)に直接固定された状態で検出層21に含有されていても良い。
具体的には、電子伝達体としては、例えば、ポリアニリンなどの導電性高分子、キノンやキノン誘導体(ナフトキノンやベンゾキノンなど)などのキノン系化合物、フェロセンやフェロセン誘導体などのフェロセン系化合物、フェリシアン化カリウム、オスミウム錯体、各種ビタミン、ビオロゲン等が挙げられる。
【0042】
また、酵素Eの活性の発現を触媒するための補酵素を、検出層21に含有させるのも好ましい。
なお、補酵素は、検出層21に含有されていれば任意であり、例えば、検出層21を満たす電解液に溶解した状態で検出層21に含有されていても良いし、例えば、多孔体13の細孔13aの内部に導入(固定)された状態で検出層21に含有されていても良いし、例えば、電極12(作用電極121)に直接固定された状態で検出層21に含有されていても良い。
また、補酵素300は、例えば、補因子としての各種金属原子や金属イオン、金属錯体、各種色素など(例えば、Fe2+、Mn2+、Cu2+、Zn2+、Co3+等)とともに検出部10に含有されていても良い。
【0043】
例えば、不安的中間体を経由する反応等、酵素Eのアミノ酸側鎖の触媒作用では容易に進まない反応の場合、適当な構造を有し、酵素反応の発現に関与する低分子量の有機小分子や金属イオン、金属錯体などを補因子(cofactor)として使用することが多い。補因子の中でも有機小分子や金属錯体を補酵素と呼ぶ。特に、酵素Eとして、補酵素依存型酵素を用いた場合、検出層21に補酵素を導入することによって、酵素反応を効率よく行わせることができる。
【0044】
補酵素は、酵素E(補酵素依存型酵素)の種類に応じて、適宜選択することができる。具体的には、補酵素としては、例えば、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)、補酵素I、補酵素II、フラビンモノヌクレオチド(FMN)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、リポ酸、アデノシン三リン酸(ATP)、チアミンピロリン酸(TPP)、ピリドキサルリン酸(PALP)、テトラヒドロ葉酸(THF,Coenzyme F)、UDPグルコース(UDPG)、補酵素A、補酵素Q、ビオチン、補酵素B12(コバラミン)、S−アデノシルメチオニン等の1種又は2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0045】
(隔壁部)
隔壁部14は、例えば、平面視略矩形状に形成されており、分析部111に対応する領域に、上下方向に貫通する開口部を有している。隔壁部14は、例えば、基板11(疎水性絶縁膜112)の上面に熱圧着されたり接着されたりして、基板11上に固定されている。
分析部111内及び隔壁部14の開口部内が、センサ部20の検出層21となる。すなわち、センサ部20,20同士は、隔壁部14と、基板11上面の疎水性絶縁膜112と、によって隔てられている。
【0046】
隔壁部14としては、例えば、半導体製の板状部材、絶縁体製の板状部材、高分子材料製の板状部材等に、エッチング等によって開口部を形成することにより作成することができる。
また、隔壁部14は、例えば、陽極酸化アルミナ等の、基板11に対して略垂直方向に貫通する貫通孔を有する構造体であっても良い。
【0047】
また、隔壁部14は、基板11と一体的に形成されていても良い。
すなわち、例えば、光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂などを用いてフォトリソグラフィー法等により基板11上に隔壁部14を形成しても良いし、例えば、基板11上に電極12を形成する前に、基板11上面にエッチング等により凹部を形成してそれを検出層21(隔壁部14の開口部)としても良いし、例えば、スクリーン印刷等により基板11上に隔壁部14としてガラス隔壁等を形成しても良い。
【0048】
(透過膜)
透過膜15は、例えば、平面視略矩形状に形成されており、例えば、基板11(疎水性絶縁膜112)の上面に熱圧着されたり接着されたりして、基板11上に固定されている。
【0049】
透過膜15における分析部111に対応する領域は、センサ部20の透過層22となっており、検出層21と供給層23とを隔てている。検出層21と供給層23とを透過層22で隔てることによって、試料が気体試料である場合には、例えば、センサ部20の使用中に検出層21を満たす電解液が漏れてしまうのを防止したり、センサ部20の使用中に検出層21を満たす電解液が蒸発してしまうのを抑制したりすることができる。また、試料が液体試料である場合には、例えば、センサ部20の使用の際に、検出層21を満たす電解液と、供給層22に供給される液体試料と、が混合してしまうのを防止することができる。
【0050】
供給層23に供給された試料中の検出対象物質は、透過層22(透過膜15)を透過して検出層21に移行し、検出層21が備える酵素Eと反応するようになっている。したがって、透過膜15は、少なくとも検出対象物質が透過する膜であれば任意であり、検出対象物質の種類によって適宜変更可能である。
特に、試料が気体試料である場合、透過膜15としては、検出対象物質(検出対象ガス)は透過するが、電解液等の液体は透過しないガス透過膜が好ましい。
ここで、ガス透過膜としては、例えば、通気性を有するポリエチレン膜やテフロン膜などを用いることができる。
【0051】
(スペーサ)
スペーサ16は、例えば、平面視略矩形状に形成されており、分析部111に対応する領域に、上下方向に貫通する開口部を有している。スペーサ16は、例えば、透過膜15の上面に熱圧着や熱融着されたり接着されたりして、透過膜15上に固定、或いは、絶縁性の光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂などを用いてフォトリソグラフィー、スクリーン印刷等により形成されている。
スペーサ16の開口部内が、センサ部20の供給層23となる。
【0052】
スペーサ16は、透過膜15と封止部材17とを隔てて配置するために設けられている。これにより、封止部材17を除去する際に、透過膜15が傷付いたり透過膜15も除去されたりするのを防止することができる。
なお、封止部材17を除去する際に、透過膜15が傷付いたり透過膜15も除去されたりすることがないのであれば、スペーサ16を省略して、透過膜15上に直接、封止部材17を配置しても良い。ここで、封止部材17を除去する際に、透過膜15が傷付いたり透過膜15も除去されたりすることがない場合とは、例えば、透過膜15として耐熱性の高い膜を用いるとともに、封止部材17として耐熱性の低い部材を用いて、電圧印加等の熱で加熱することにより封止部材17を除去する場合等である。
【0053】
スペーサ16としては、例えば、半導体製の板状部材、絶縁体製の板状部材、高分子材料製の板状部材等に、エッチング等によって開口部を形成することにより作成することができる。
【0054】
(封止部材)
封止部材17は、例えば、平面視略矩形状に形成されており、例えば、スペーサ16の上面に熱圧着されたり接着されたりして、スペーサ16上に固定されている。
【0055】
封止部材17は、複数のセンサ部20それぞれを外部から遮断するために設けられている。したがって、センサ部20を封止する封止部材17が除去されるまでは、外部からそのセンサ部20へ気体や液体が浸入することがなく、かつ、そのセンサ部20から外部へ気体や液体が放出されることがない。これにより、検出層21を満たす電解液が蒸発したり、検出層21が備える酵素Eや電極12が劣化(酸化等)したりするのを防止することができる。
【0056】
封止部材17としては、センサ部20を外部から遮断できるものであれば、すなわち、気体及び液体を透過しないものであれば任意であり、例えば、ガス不透過性の膜状部材などを用いることができる。
ここで、ガス不透過性の膜状部材としては、例えば、塩化ビニル膜などの高分子材料製の膜状部材、アルミ薄膜、これらに高分子材料をラミネートしたもの、特性の異なる高分子材料同士をラミネートしたもの、等を用いることができる。
【0057】
(カバー部材)
カバー部材18は、各センサ部20に気体試料や液体試料を供給するための上下方向に貫通する供給口を有しており、当該供給口が分析部111に対応するように、封止部材17の上面に配置又は形成されている。カバー部材18は、例えば、封止部材17の上面に熱圧着や熱融着されたり接着されたりして、封止部材17上に固定、或いは、絶縁性の光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂などを用いてフォトリソグラフィー、スクリーン印刷等により形成されている。
【0058】
カバー部材18は、例えば、封止部材17が意図しないときに除去されたり傷付いたりするのを防止するために設けられているとともに、マトリックスセンサ10の外観から各センサ部20の位置を認識可能とするために設けられている。
【0059】
カバー部材18としては、例えば、半導体製の板状部材、絶縁体製の板状部材、高分子材料製の板状部材等に、エッチング等によって開口部を形成することにより作成することができるし、或いは、絶縁性の光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂などを用いてフォトリソグラフィー、スクリーン印刷等により直接形成することもできる。
【0060】
<封止除去部>
封止除去部30は、例えば、制御部50から入力される制御信号に従って、除去手段として、指定されたセンサ部20に対応する封止部材17を除去する。
具体的には、封止除去部30は、例えば、図2に示すように、封止部材17を機械的に除去する針31と、針31を移動させる移動部32と、移動部32を移動させる駆動部33と、などを備えて構成される。
【0061】
針31は、例えば、針31の軸が上下方向に対して略平行となるように、かつ、針31の先端が下方(マトリックスセンサ10側)を向くように、移動部32に取り付けられている。
【0062】
移動部32は、例えば、その先端に針31が取り付けられており、例えば、マトリックスセンサ10の上方に配置されている。そして、移動部32は、例えば、上下方向、左右方向及び前後方向に移動できるようになっている。
【0063】
駆動部33は、例えば、この駆動部33の駆動源から発生する力を用いて、針31が取り付けられた移動部32を上下方向、左右方向及び前後方向に移動させることによって、針31の先端部を、制御部50により指定されたセンサ部20に対応する封止部材17に刺し込んだり、封止部材17から引き上げたりするためのものである。
【0064】
ここで、移動部32の上下方向の下限は、移動部32の下方に配置されたマトリックスセンサ10が備える封止部材17を針31で破って封止部材17に穴を開けることができるように、かつ、マトリックスセンサ10が備える透過膜15に針31が接触しないように、設定されている。
【0065】
<検出データ取得部>
図8は検出データ取得部40の駆動回路を示す図、図9は作用電極121に接続されたアドレシング可能な能動素子(AC)を示す回路図であり、図10〜図12は図9に示す能動素子(AC)の一例を示す回路図である。
【0066】
ここで、図8〜図12において、“WXY”はセンサ部(X,Y)の作用電極121を示し、“RXY”はセンサ部(X,Y)の参照電極122を示し、“CXY”はセンサ部(X,Y)の対向電極123を示す。
【0067】
検出データ取得部40は、例えば、制御部50から入力される制御信号に従って、取得手段として、指定されたセンサ部20による検出データ(指定されたセンサ部20が備える作用電極121と対向電極123との間に流れる電流量に基づく検出データ)を取得し、制御部50に出力する。
すなわち、検出データ取得部40は、例えば、指定されたセンサ部20について、参照電極122に対して作用電極121に所定の電圧値の電圧を印加し、その際に作用電極121から出力される電流の電流値(応答電流値)を取得して、制御部50に出力する。
【0068】
具体的には、検出データ取得部40は、例えば、図8に示すように、セレクト回路41と、ポテンショスタット回路42と、などを備えて構成される。
【0069】
セレクタ回路41は、例えば、制御部50から入力される制御信号に従って、制御部50により指定されたセンサ部20が備える作用電極121をONする。
具体的には、セレクト回路41は、例えば、図8に示すように、作用電極121とポテンショスタット回路42との接続をON/OFFするセレクタスイッチ411と、制御部50から入力される制御信号に従ってセレクタスイッチ411を制御する回路412(ドライブ回路(能動素子)及びシフトレジスタ回路)と、などを備えて構成される。
【0070】
セレクタスイッチ411は、例えば、作用電極121と接続する能動素子(AC)などにより構成されている。
能動素子(AC)は、例えば、図9に示すように、マトリックスセンサ10が有する作用電極121それぞれに対応して設けられており、信号線Aと信号線Bとに接続されてアドレシング可能となっている。
能動素子(AC)としては、例えば、図10に示すような、2つのダイオードで構成された能動素子、図11に示すような、コンデンサと接続した抵抗を持つダイオードで構成された能動素子、図12に示すような、MOSトランジスタで構成された能動素子などを用いることができる。
【0071】
シフトレジスタを含む回路412は、例えば、制御部50から入力されるシリアル形式のデータをパラレル形式のデータに変換して、制御部50により指定されたセンサ部20が備える作用電極121がポテンショスタット回路42と接続するように、セレクタスイッチ411を制御する。すなわち、制御部50から送付されたセレクタ信号に対応する信号線A及び信号線Bを選択する。
具体的には、シフトレジスタを含む回路412は、例えば、制御部50から行(X)と列(Y)が指定されると、対応する信号線A及び信号線Bに信号を供給して、センサ部(X,Y)が備える作用電極121(WXY)と、ポテンショスタット回路42と、の接続をONする。
より具体的には、シフトレジスタを含む回路412は、例えば、制御部50から「行(X)=2、列(Y)=5」を選択する旨のデータが送付されると、信号線A及び信号線Bに信号を供給して、センサ部(2,5)が備える作用電極121(W25)と、ポテンショスタット回路42と、の接続をONする。
【0072】
ポテンショスタット回路42は、例えば、シングルチャンネルのポテンショスタット回路である。ポテンショスタット回路42は、例えば、制御部50から入力される制御信号に従って、参照電極122に対して作用電極121に所定の電圧値の電圧を印加し、その際に作用電極121から出力される電流の電流値(応答電流値)を取得して、制御部50に出力する。
ポテンショスタット回路42は、制御部50からの信号及びデータにより、順次、D/A変換器412、制御アンプ422、電位計測回路423へ電圧を設定・出力、及びそれに同期させてセレクタスイッチ411を切り替えて対応する作用電極121を選択して順次連続的に電流値を取り込むことにより、シングルチャンネルで複数のセンサの出力を取り込むことができ、マルチチャンネル回路の役割を果たすことができる。したがって、コスト及び面積を大幅に削減することができる。
具体的には、ポテンショスタット回路42は、例えば、図8に示すように、D/A変換器421と、制御アンプ422と、電位計測回路423と、電流電圧変換回路424と、A/D変換器425と、などを備えて構成される。
【0073】
D/A変換器421は、例えば、制御部50から所定の電圧値に関するデジタル信号が入力されると、そのデジタル信号をアナログ信号に変換して、対向電極123の制御アンプ422にその所定の電圧値の電圧信号を出力する。
対向電極123の制御アンプ422は、例えば、参照電極122の電位を計測する電位計測回路423と接続されており、参照電極122の電位を基準にして、D/A変換器421から入力された電圧データに相当する電圧値を、対向電極123に印加する。
そして、その際に作用電極121から出力される応答電流は、例えば、電流電圧変換回路424で電圧信号(アナログ信号)に変換され、A/D変換器425でデジタル信号に変換されて、制御部50に出力されるようになっている。
【0074】
<制御部>
制御部50は、例えば、図1に示すように、CPU(Central Processing Unit)51と、RAM(Random Access Memory)52と、記憶部53と、などを備えている。
【0075】
CPU51は、例えば、記憶部53に記憶されたセンサシステム1用の各種処理プログラムに従って各種の制御動作を行う。
【0076】
RAM52は、例えば、CPU51によって実行される処理プログラムなどを展開するためのプログラム格納領域や、入力データや上記処理プログラムが実行される際に生じる処理結果などを格納するデータ格納領域などを備える。
【0077】
記憶部53は、例えば、センサシステム1で実行可能なシステムプログラム、当該システムプログラムで実行可能な各種処理プログラム、これら各種処理プログラムを実行する際に使用されるデータ、CPU51によって演算処理された処理結果のデータなどを記憶する。なお、プログラムは、コンピュータが読み取り可能なプログラムコードの形で記憶部53に記憶されている。
【0078】
具体的には、記憶部53は、例えば、図1に示すように、劣化判断プログラム531と、センサ部指定プログラム532と、封止除去制御プログラム533と、検出データ取得制御プログラム534と、濃度算出プログラム535と、などを記憶している。
【0079】
劣化判断プログラム531は、例えば、封止除去部30により封止部材17が除去されたセンサ部20が劣化しているか否か判断する機能を、CPU51に実現させる。
【0080】
具体的には、CPU51は、例えば、センサ部20に対応する封止部材17が除去されてからの期間が、予め設定された“センサ部20の有効使用期間”を超えたか否か判断する。そして、センサ部20の有効使用期間を超えたと判断した場合に、そのセンサ部20が劣化していると判断する。
【0081】
ここで、センサ部20は、センサ部20を封止する封止部材17が除去されると、検出層21を満たす電解液が蒸発したり検出層21が備える酵素Eや電極12が劣化(酸化等)したりして、感度が低下していく。したがって、センサ部20の有効使用期間としては、例えば、封止部材17を除去してからセンサ部20の感度の低下の度合いが予め設定された“許容感度範囲”を超えるまでに要する一般的な期間等を予め計測して、メモリ部60に記憶しておき、それを用いるのが好ましい。
CPU51は、かかる劣化判断プログラム531を実行することによって、判断手段として機能する。
【0082】
センサ部指定プログラム532は、例えば、複数のセンサ部20のうちの、所定のセンサ部20(例えば、所定の一のセンサ部20)を指定する機能を、CPU51に実現させる。
【0083】
具体的には、CPU51は、例えば、劣化判断プログラム531を実行したCPU51によりセンサ部20が劣化していると判断された場合に、予め設定された“使用するセンサ部20の順番”に従ってセンサ部20(封止部材17が除去されていないセンサ部20)を指定する。
【0084】
ここで、使用するセンサ部20の順番は任意であり、具体的には、例えば、“センサ部(1,1)→センサ部(1,2)→・・・→センサ部(1,5)→センサ部(2,1)→センサ部(2,2)→・・・→センサ部(2,5)→センサ部(3,1)→センサ部(3,2)→・・・→センサ部(3,5)→センサ部(4,1)→センサ部(4,2)→・・・→センサ部(4,5)→センサ部(5,1)→センサ部(5,2)→・・・→センサ部(5,5)”等である。使用するセンサ部20の順番は、例えば、メモリ部60に記憶されている。
CPU51は、かかるセンサ部指定プログラム532を実行することによって、指定手段として機能する。
【0085】
封止除去制御プログラム533は、例えば、封止除去部30に制御信号を入力して、センサ部指定プログラム532を実行したCPU51により指定されたセンサ部20に対応する封止部材17を除去させる機能を、CPU51に実現させる。
【0086】
ここで、封止除去部30が備える移動部32の左右方向及び前後方向の初期位置は、例えば、針31がセンサ部(1,1)の直上に位置するように設定されているとともに、移動部32の上下方向の初期位置は、針31の先端がマトリックスセンサ10のカバー部材18よりも上側に位置するように設定されている。CPU71が封止除去部30を制御することによって、移動部32は、例えば、左右方向及び前後方向の初期位置から指定されたセンサ部20の直上まで移動し、次いで、上下方向の初期位置から下方向に移動して針31で封止部材17を除去し、次いで、上下方向の初期位置に戻って、左右方向及び前後方向の初期位置に戻るように移動するようになっている。
【0087】
検出データ取得制御プログラム534は、例えば、検出データ取得部40に制御信号を入力して、センサ部指定プログラム532を実行したCPU51により指定されたセンサ部20(封止部材17が除去されたセンサ部20)による検出データを取得させ、制御部50に出力させる機能を、CPU51に実現させる。
なお、CPU51は、検出データ取得部40から入力された検出データを、例えば、メモリ部60に記憶させたり、表示部80に表示させたりするようになっている。
【0088】
ここで、マトリックスセンサ10に対する試料の供給方法は、センサ部20の供給層23に試料が供給されるのであれば任意であり、具体的には、例えば、マトリックスセンサ10を試料中に放置して、供給層23に対して自然に試料を供給するようにしても良いし、チューブやキャピラリなどを用いて、マトリックスセンサ10の上面全体に試料を吹き付けたり、使用するセンサ部20の上面に試料を吹き付けたりして、供給層23に対して強制的に試料を供給するようにしても良い。なお、強制的に試料を供給する場合は、試料の供給速度は一定であるのが好ましい。
供給層23に対して強制的に試料を供給する場合、試料を吹き付ける試料供給装置は、センサシステム1に備えられていても良いし、センサシステム1の外部装置であっても良い。なお、試料供給装置がセンサシステム1に備えられている場合は、例えば、検出データ取得制御プログラム534を実行したCPU51が、検出データ取得部40を制御して、指定されたセンサ部20による検出データを取得させるとともに、試料供給装置を制御して、指定されたセンサ部20の供給層23に試料を供給させることとする。また、試料供給装置がセンサシステム1に備えられている場合は、試料供給装置をマトリックスセンサ10に公知のMEMS等の微細加工技術を用いて一体型として直接形成して構成することもできる。
【0089】
濃度算出プログラム535は、例えば、検出データ取得部40により取得された検出データに基づいて、検出対象物質の濃度を算出する機能を、CPU51に実現させる。
【0090】
具体的には、CPU51は、例えば、予め取得された“検量線”と、検出データ取得部40により取得された検出データ(応答電流値)と、に基づいて、検出対象物質の濃度を算出する。
【0091】
ここで、検量線は、例えば、横軸を検出対象物質(基質)の濃度、縦軸を応答電流として、センサ部20を使用して予め作成された検量線であり、例えば、メモリ部60に記憶されている。
なお、CPU51は、算出された検出対象物質の濃度を、例えば、メモリ部60に記憶させたり、表示部80に表示させたりするようになっている。
また、CPU51は、検量線と、検出データと、に基づいて、検出対象物質の濃度を算出できない場合、例えば、所定のエラー表示を表示部80に表示させるようになっている。
CPU51は、かかる濃度算出プログラム535を実行することによって、算出手段として機能する。
【0092】
<メモリ部>
メモリ部60は、例えば、磁気的記録媒体、光学的記録媒体、或いは、半導体メモリで構成され、例えば、制御部50から入力される制御信号に従って、所定のデータを記憶する。
【0093】
<操作部>
操作部70は、例えば、操作キーなどから構成され、ユーザにより操作されると、当該操作信号を制御部50に出力する。なお、操作部70は、必要に応じてマウスやタッチパネルなどのポインティングデバイス、リモートコントローラ等、その他の操作装置を備えるものとしても良い。
【0094】
<表示部>
表示部80は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)パネルなどから構成され、例えば、制御部50から入力される制御信号に従って、所与の表示処理を行う。
【0095】
なお、センサシステム1は公知の半導体技術を用いてチップ上に一体型として構成しても良い。こうすることにより、小型化することができ、携帯用製機器等に組み込む、或いは、大量のセンサシステム1からのデータを無線により取得して常時モニタリングすることなどもでき、環境計測や健康モニタリング等の用途への応用が可能となる。
【0096】
<検出対象物質濃度測定処理>
センサシステム1による検出対象物質の濃度の測定に関する処理の一例について、図13のフローチャートを参照して説明する。
【0097】
まず、例えば、ユーザによる操作部70の操作によって、試料中の検出対象物質の濃度を測定するよう指示されると、CPU51は、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10が未使用のマトリックスセンサであるか否か(すなわち、センサシステム1中のマトリックスセンサ10が備える全てのセンサ部20が封止部材17で封止されているか否か)を判断する(ステップS11)。
具体的には、CPU51は、例えば、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10の“使用履歴(例えば、封止部材17が除去されたセンサ部20を識別するためのセンサ部識別情報)”に基づいて、そのマトリックスセンサ10が未使用のマトリックスセンサであるか否か判断する。
ここで、使用履歴とは、例えば、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10を識別するためのマトリックスセンサ識別情報と、封止部材17が除去されたセンサ部20を識別するためのセンサ部識別情報と、その封止部材17が除去された日時と、などが対応付けられた情報であり、例えば、メモリ部60に記憶されている。
【0098】
ステップS11で、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10は未使用のマトリックスセンサであると判断すると(ステップS11;Yes)、CPU51は、ステップS15の処理に移行する。
【0099】
一方、ステップS11で、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10は未使用のマトリックスセンサでないと判断すると(ステップS11;No)、CPU51は、劣化判断プログラム531を実行して、前回の検出に使用したセンサ部20(封止部材17が除去されたセンサ部20)が劣化しているか否か判断する(ステップS12)。
具体的には、CPU51は、例えば、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10の“使用履歴(例えば、封止部材17が除去された日時)”に基づいて、前回の検出に使用したセンサ部20が劣化しているか否か判断する。
【0100】
ステップS12で、前回の検出に使用したセンサ部20は劣化していないと判断すると(ステップS12;No)、CPU51は、センサ部指定プログラム532を実行して、その前回の検出に使用したセンサ部20を指定し(ステップS13)、ステップS17の処理に移行する。
【0101】
一方、ステップS12で、前回の検出に使用したセンサ部20は劣化していると判断すると(ステップS12;Yes)、CPU51は、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10が備えるセンサ部20の中に封止部材17が除去されていないセンサ部20があるか否か判断する(ステップS14)。
具体的には、CPU51は、例えば、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10の“使用履歴(例えば、封止部材17が除去されたセンサ部20を識別するためのセンサ部識別情報)”に基づいて、そのマトリックスセンサ10が備えるセンサ部20の中に封止部材17が除去されていないセンサ部20があるか否か判断する。
【0102】
ステップS14で、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10が備えるセンサ部20の中に封止部材17が除去されていないセンサ部20がないと判断すると(ステップS14;No)、CPU51は、本処理を終了する。
そして、CPU51は、例えば、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10を交換する旨の所定の表示を表示部80に表示させる等して、ユーザに、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10を交換するよう促す。
【0103】
一方、ステップS14で、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10が備えるセンサ部20の中に封止部材17が除去されていないセンサ部20があると判断すると(ステップS14;Yes)、CPU51は、センサ部指定プログラム532を実行して、予め設定された使用するセンサ部20の順番に従って、センサ部20(封止部材17が除去されていないセンサ部20)を指定する(ステップS15)。
【0104】
次いで、CPU51は、封止除去制御プログラム533を実行して、封止除去部30に、指定されたセンサ部20に対応する封止部材17を除去させる(ステップS16)。
【0105】
次いで、CPU51は、検出データ取得制御プログラム534を実行して、検出データ取得部40に、指定されたセンサ部20による検出データを取得させる(ステップS17)。
具体的には、例えば、作用電極121への電圧印加を開始し、供給層23に対して強制的に試料を供給する場合は供給層23への試料供給を開始する。そして、その作用電極121からの応答電流が平衡に達すると、電圧印加を終了し、供給層23に対して強制的に試料を供給していた場合はその供給を終了する。この一連の処理を指定されたセンサ部20に対して行う。
【0106】
次いで、CPU51は、濃度算出プログラム535を実行して、取得された検出データに基づいて、検出対象物質の濃度を算出し(ステップS18)、本処理を終了する。
そして、CPU51は、例えば、ステップS17で取得された検出データやステップS18で算出した検出対象物質の濃度をメモリ部60に記憶させたり表示部80に表示させたりする。
無論、ステップS11〜ステップS18の間に、ユーザによる操作部70の操作等によって、検出対象物質の濃度の測定を中止するよう指示されると、CPU51は、その時点で、本処理を終了する。
【0107】
以上説明した第1の実施の形態におけるセンサシステム1によれば、2次元マトリックス状に配置された複数のセンサ部20と、複数のセンサ部20それぞれを外部から遮断する封止部材17と、を有するマトリックスセンサ10と、複数のセンサ部20のうちの、所定のセンサ部20を指定するセンサ部指定プログラム532を実行したCPU51と、指定されたセンサ部20に対応する封止部材17を除去する封止除去部30と、指定されたセンサ部20による検出データを取得する検出データ取得部40と、を備えている。
【0108】
具体的には、第1の実施の形態におけるセンサシステム1は、基板11と、基板11上に、2次元マトリックス状に配置された複数のセンサ部20と、基板11上に配置され、センサ部20,20同士を隔てる隔壁部14と、センサ部20の基板11と対向する側の面を封止することによって、複数のセンサ部20それぞれを外部から遮断する封止部材17と、を有するマトリックスセンサ10と、複数のセンサ部20のうちの、所定のセンサ部20を指定するセンサ部指定プログラム532を実行したCPU51と、指定されたセンサ部20に対応する封止部材17を除去する封止除去部30と、指定されたセンサ部20による検出データを取得する検出データ取得部40と、を備え、センサ部20は、電解液と、検出対象物質と選択的に反応する反応物質(生体物質)としての酵素Eと、を含有した状態で、封止部材17により外部から遮断されている。
すなわち、封止部材17によりセンサ部20が外部から遮断されているため、指定されて封止部材17が除去されるまでは大気等への曝露に伴うセンサ部20の劣化を防止することができるとともに、複数のセンサ部20のうちの指定されたセンサ部20のみを使用するため、指定されて使用されるまでは使用に伴うセンサ部20の劣化を防止することができる。さらに、マトリックスセンサ10が備える複数のセンサ部20全てを同時に使用するのではなく、複数のセンサ部20のうちの指定されたセンサ部20のみを使用(封止部材17を除去して使用)するため、複数のセンサ部20全てを使い切るまでは、マトリックスセンサ10は使用可能である。したがって、個々のセンサ部の寿命が短いものであっても、マトリックスセンサ10のセンサとしての寿命を大幅に増加することができる。
また、指定されたセンサ部20に対応する封止部材17の除去が自動的に行われるため、検出時にユーザが封止部材17を除去する等の手間がなくなって、検出時の煩わしさを低減することができる。
【0109】
また、以上説明した第1の実施の形態におけるセンサシステム1によれば、封止部材17が除去されたセンサ部20が劣化しているか否か判断する劣化判断プログラム531を実行したCPU51を備え、センサ部指定プログラム532を実行したCPU51は、センサ部20が劣化していると判断された場合に、封止部材17が除去されていないセンサ部20を指定するようになっている。
すなわち、複数のセンサ部20のうちの指定されたセンサ部20のみを使用(封止部材17を除去して使用)し、そのセンサ部20が劣化すると、次に使用するセンサ部20(封止部材17が除去されていないセンサ部20)を指定するようになっているため、マトリックスセンサ10のセンサとしての寿命を大幅に増加することができるとともに、マトリックスセンサ10のセンサとしての信頼性を高めることができる。
【0110】
また、以上説明した第1の実施の形態におけるマトリックスセンサ10によれば、基板11と、基板11上に、2次元マトリックス状に配置された複数のセンサ部20と、基板11上に配置され、センサ部20,20同士を隔てる隔壁部14と、を備え、センサ部20は、基板11上に配置された検出素子としての電極12と、電極12上に配置され、少なくとも基板11に対して略垂直方向に貫通する細孔13aを有する多孔体13と、多孔体13の細孔13aの内部に担持され、検出対象物質と選択的に反応する反応物質(生体物質)としての酵素Eと、を有し、その反応に伴う所定の変化を電極12により検出するようになっている。
すなわち、検出対象物質と選択的に反応する酵素Eを多孔体13に固定しているため、酵素Eを電極12上に直接固定する場合と比較して、センサ部20が備える酵素Eの量が増加し、マトリックスセンサ10を小型化しても、センサ部20が高感度となる。
したがって、酵素Eを電極12上に直接固定する場合と比較して、より小型の高感度マトリックスセンサ10の提供が可能となるため、好適である。
さらに、多孔体13は、基板11に対して略垂直方向に貫通する細孔13aを有する多孔体であるため、反応物質(酵素E)を適度に分散でき、しかも、基質や生成物の拡散性が良いので、センサ感度の向上が期待できる。
【0111】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態におけるセンサシステム1A及びセンサシステム1Aが備えるマトリックスセンサ10Aについて説明する。
なお、第2の実施の形態のセンサシステム1Aは、マトリックスセンサ10Aが、複数のセンサ部20として、検出濃度範囲が異なる複数種類のセンサ部20を備えている点が、第1の実施の形態のセンサシステム1と異なる。したがって、異なる箇所のみについて説明し、その他の共通する部分は同一符号を付して説明する。
【0112】
<センサシステム>
図14は第2の実施の形態のセンサシステム1Aの機能的構成を示すブロック図である。
【0113】
センサシステム1Aは、例えば、マトリックスセンサ10Aと、封止除去部30と、検出データ取得部40と、制御部50Aと、メモリ部60と、操作部70と、表示部80と、などを備えて構成される。
【0114】
<マトリックスセンサ>
図15はマトリックスセンサ10Aの平面斜視図、図16はマトリックスセンサ10Aの分解図、図17は図15のXVII−XVII線における断面図である。
【0115】
マトリックスセンサ10Aは、例えば、検出対象物質を検出可能な検出濃度範囲が異なる5種類のセンサ部20を備えている。
具体的には、センサシステム1Aにおいて、マトリックスセンサ10Aが備える25個のセンサ部20は、例えば、列が同一のセンサ部20,20同士は検出濃度範囲が同一であり、列が異なるセンサ部20,20同士は検出濃度範囲が異なることとする。すなわち、例えば、センサ部(1,1)、(2,1)、(3,1)、(4,1)、(5,1)(=センサ部(X,1))の検出濃度範囲はそれぞれ同一であり、センサ部(1,2)、(2,2)、(3,2)、(4,2)、(5,2)(=センサ部(X,2))の検出濃度範囲はそれぞれ同一であり、センサ部(1,3)、(2,3)、(3,3)、(4,3)、(5,3)(=センサ部(X,3))の検出濃度範囲はそれぞれ同一であり、センサ部(1,4)、(2,4)、(3,4)、(4,4)、(5,4)(=センサ部(X,4))の検出濃度範囲はそれぞれ同一であり、センサ部(1,5)、(2,5)、(3,5)、(4,5)、(5,5)(=センサ部(X,5))の検出濃度範囲はそれぞれ同一であるとともに、センサ部(X,1)と、センサ部(X,2)と、センサ部(X,3)と、センサ部(X,4)と、センサ部(X,5)と、はそれぞれ検出濃度範囲が異なることとする。
【0116】
そして、センサシステム1Aにおいて、マトリックスセンサ10Aが備える25個のセンサ部20は、例えば、行が同一のセンサ部20,20同士はグルーピングされていることとする。すなわち、25個のセンサ部20は、例えば、センサ部(1,Y)のグループと、センサ部(2,Y)のグループと、センサ部(3,Y)のグループと、センサ部(4,Y)のグループと、センサ部(5,Y)のグループと、のグルーピングされていることとする。
したがって、一のグループに所属する5個のセンサ部20は、検出濃度範囲が異なる5種類のセンサ部20を含んでいることになる。
【0117】
具体的には、マトリックスセンサ10Aは、例えば、基板11と、電極12(作用電極121、参照電極122及び対向電極123)と、多孔体13と、酵素Eと、隔壁部14と、透過膜15と、透過膜15上に配置された調整用透過膜19と、スペーサ16と、封止部材17と、カバー部材18と、などを備えて構成される。
【0118】
(調整用透過膜)
調整用透過膜19は、例えば、平面視略矩形状に形成されており、平面視におけるサイズが、分析部111を被覆可能なサイズとなるよう設定されている。調整用透過膜19は、例えば、調整用透過膜19における分析部111に対応する領域以外の領域が、透過膜15の上面に熱圧着されたり接着されたりして、透過膜15上に固定されている。
【0119】
透過膜15における分析部111に対応する領域、或いは、調整用透過膜19及び透過膜15における分析部111に対応する領域は、センサ部20の透過層22となっており、検出層21と供給層23とを隔てている。
調整用透過膜19は、センサ部20の検出濃度範囲を調整するためのものである。センサ部20の検出濃度範囲は、透過層22及び検出層21中での検出対象物質の拡散に依存する。すなわち、検出対象物質が拡散しやすい場合には、センサ部20の検出濃度範囲は低濃度側となり、検出対象物質が拡散しにくい場合には、センサ部20の検出濃度範囲は高濃度側となる。したがって、調整用透過膜19により検出対象物質が透過層22を透過する際の透過率を変えることによって、センサ部20の検出濃度範囲を変えることができる。
【0120】
マトリックスセンサ10Aが備える調整用透過膜19の種類は、例えば、第1調整用透過膜と、第1調整用透過膜よりも検出対象物質が透過しにくい(第1調整用透過膜よりも透過係数が低い)第2調整用透過膜と、第2調整用透過膜よりも透過係数が低い第3調整用透過膜と、第3調整用透過膜よりも透過係数が低い第4調整用透過膜と、の4種類であり、例えば、第1調整用透過膜はセンサ部(X,2)に対応する位置に備えられ、第2調整用透過膜はセンサ部(X,3)に対応する位置に備えられ、第3調整用透過膜はセンサ部(X,4)に対応する位置に備えられ、第4調整用透過膜はセンサ部(X,5)に対応する位置に備えられている。
したがって、検出対象物質が透過層22を透過する際の透過率は、センサ部(X,1)>センサ部(X,2)>センサ部(X,3)>センサ部(X,4)>センサ部(X,5)となっており、センサ部(X,1)の検出濃度範囲が最も低濃度側であり、センサ部(X,5)の検出濃度範囲が最も高濃度側となっている。
【0121】
供給層23に供給された試料中の検出対象物質は、透過層22(透過膜15、或いは、調整用透過膜19及び透過膜15)を透過して検出層21に移行し、検出層21が備える酵素Eと反応するようになっている。したがって、調整用透過膜19は、少なくとも検出対象物質が透過する膜であれば任意であり、検出対象物質の種類によって適宜変更可能である。
特に、試料が気体試料である場合には、調整用透過膜19としては、検出対象物質(検出対象ガス)は透過するが、電解液等の液体は透過しないガス透過膜が好ましい。
ここで、ガス透過膜としては、例えば、通気性を有するポリエチレン膜やテフロン膜などを用いることができる。
【0122】
<制御部>
制御部50Aは、例えば、図14に示すように、CPU51と、RAM52と、記憶部53Aと、などを備えている。
【0123】
記憶部53Aは、例えば、図14に示すように、劣化判断プログラム531と、センサ部指定プログラム532Aと、封止除去制御プログラム533と、検出データ取得制御プログラム534と、濃度算出プログラム535Aと、などを記憶している。
【0124】
センサ部指定プログラム532Aは、例えば、複数のセンサ部20のうちの、所定のグループ(例えば、所定の一のグループ)に所属するセンサ部20を指定する機能を、CPU51に実現させる。
【0125】
具体的には、CPU51は、例えば、劣化判断プログラム531を実行したCPU51によりセンサ部20が劣化していると判断された場合に、予め設定された“使用するグループの順番”に従ってグループを選択し、その選択されたグループに所属するセンサ部20(封止部材17が除去されていないセンサ部20)を指定する。
ここで、使用するグループの順番は任意であり、具体的には、例えば、“センサ部(1,Y)グループ→センサ部(2,Y)グループ→センサ部(3,Y)グループ→センサ部(4,Y)グループ→センサ部(5,Y)”等である。
CPU51は、かかるセンサ部指定プログラム532Aを実行することによって、指定手段として機能する。
【0126】
センサ部指定プログラム532Aを実行したCPU51により、例えば、所定の一のグループに所属するセンサ部20が指定されるため、封止除去部30は、その一のグループに所属する5種類のセンサ部20(検出濃度範囲が異なる5種類のセンサ部20)それぞれに対応する封止部材17を除去し、検出データ取得部40は、その一のグループに所属する5種類のセンサ部20(検出濃度範囲が異なる5種類のセンサ部20)それぞれによる検出データを取得することとなる。
【0127】
濃度算出プログラム535Aは、例えば、検出データ取得部40により取得された検出データに基づいて、検出対象物質の濃度を算出する機能を、CPU51に実現させる。
【0128】
具体的には、CPU51は、例えば、予め設定された“許容電流範囲”と、検出データ取得部40により取得された5種類のセンサ部20それぞれによる検出データ(応答電流値)と、に基づいて、この5種類のセンサ部20の中から最適な検出濃度範囲を有するセンサ部20を決定する。
【0129】
ここで、センサ部20の検量線として、例えば、図18に示すような検量線を取得した場合、CPU51は、例えば、検出濃度範囲をC1〜C4と判断し、検出濃度範囲に対応する応答電流の範囲をI1〜I4と決定する。
そして、検出濃度範囲が異なる5種類のセンサ部20それぞれの検量線として、例えば、図19に示すような検量線(検出濃度範囲が異なる5種類のセンサ部20(例えば、センサ部A、センサ部B、センサ部C、センサ部D、センサ部E)それぞれの検量線)を取得した場合、CPU51は、例えば、各検出濃度範囲に対応する応答電流の範囲をそれぞれ決定し、許容電流範囲として、各検出濃度範囲に対応する応答電流の範囲の全てに収まる範囲(例えば、I2〜I3)を決定する。なお、許容電流範囲は、各検出濃度範囲に対応する応答電流の範囲の全てに収まる範囲、すなわち、センサ部Aの検出濃度範囲に対応する応答電流の範囲と、センサ部Bの検出濃度範囲に対応する応答電流の範囲と、センサ部Cの検出濃度範囲に対応する応答電流の範囲と、センサ部Dの検出濃度範囲に対応する応答電流の範囲と、センサ部Eの検出濃度範囲に対応する応答電流の範囲と、の全てに収まる範囲であれば任意である。
そして、CPU51は、決定した許容電流範囲(I2〜I3)と、検出データ取得部40により取得された5種類のセンサ部20それぞれによる応答電流値と、を比較して、応答電流値が許容電流範囲内にあるセンサ部20を、最適な検出濃度範囲を有するセンサ部20として決定する。すなわち、例えば、センサ部(1,1)、(1,2)による応答電流値が“応答電流値>I3”であり、センサ部(1,3)による応答電流値が“I2≦応答電流値≦I3”であり、センサ部(1,4)、(1,5)による応答電流値が“応答電流値<I2”である場合、CPU51は、最適な検出濃度範囲を有するセンサ部20としてセンサ部(1,3)を決定する。
【0130】
次いで、CPU51は、例えば、予め取得された“検量線”のうちの、その決定されたセンサ部20の検出濃度範囲に対応する検量線と、その決定されたセンサ部20による検出データ(平衡状態での応答電流値)と、に基づいて、検出対象物質の濃度を算出する。
なお、最適な検出濃度範囲を有するセンサ部20として複数のセンサ部20が決定された場合、CPU51は、例えば、その決定された複数のセンサ部20のうちの一のセンサ部20を選択し、その選択した一のセンサ部20による検出データに基づいて、検出対象物質の濃度を算出しても良いし、その決定された複数のセンサ部20それぞれによる検出データに基づいて、検出対象物質の濃度をそれぞれ求め、その求めた濃度を用いて所定の統計処理(例えば、平均値を求める処理)を行い、その所定の統計処理の結果を、算出された検出対象物質の濃度としても良い。
CPU51は、かかる濃度算出プログラム535Aを実行することによって、算出手段として機能する。
【0131】
なお、所定の統計処理は、平均値を求める処理に限ることはなく、例えば、中間値を求める処理であっても良いし、平均や分散、標準偏差などから値の確からしさを求める処理であっても良いし、各検出データを加算する処理であっても良いし、各検出データの差分を取る処理であっても良い。
ここで、各検出データを加算する処理とは、例えば、検出対象物質が異なるセンサ部20を複数用意して、各センサ部20による検出データの和を取る処理である。具体的には、センサ部Aの検出対象物質がホルムアルデヒドであり、センサ部Bの検出対象物質がベンゼンであり、センサ部Cの検出対象物質がキシレンであり、センサ部Dの検出対象物質がトルエンである場合、各センサ部20による検出データの和をVOC(揮発性有機化合物)と定義して、この和に基づいて、VOCの濃度を算出することができる。
また、各検出データの差分を取る処理とは、例えば、検出対象物質が異なるセンサ部20を複数用意して、各センサ部20による検出データの差を取る処理である。具体的には、センサ部Aの検出対象物質が水素化合物及び硫黄系物質であり、センサ部Bの検出対象物質が硫黄系物質のみである場合、各センサ部20の検出データの差に基づいて、水素化合物の濃度を算出することができる。
【0132】
<検出対象物質濃度測定処理>
センサシステム1Aによる検出対象物質の濃度の測定に関する処理の一例について、図20のフローチャートを参照して説明する。
【0133】
まず、例えば、ユーザによる操作部70の操作によって、試料中の検出対象物質の濃度を測定するよう指示されると、CPU51は、センサシステム1Aに組み込まれているマトリックスセンサ10Aが未使用のマトリックスセンサであるか否か(すなわち、センサシステム1A中のマトリックスセンサ10Aが備える全てのセンサ部20が封止部材17で封止されているか否か)を判断する(ステップS21)。
具体的には、CPU51は、例えば、センサシステム1Aに組み込まれているマトリックスセンサ10Aの“使用履歴(例えば、封止部材17が除去されたセンサ部20を識別するためのセンサ部識別情報)”に基づいて、そのマトリックスセンサ10Aが未使用のマトリックスセンサであるか否か判断する。
【0134】
ステップS21で、センサシステム1Aに組み込まれているマトリックスセンサ10Aは未使用のマトリックスセンサであると判断すると(ステップS21;Yes)、CPU51は、ステップS25の処理に移行する。
【0135】
一方、ステップS21で、センサシステム1Aに組み込まれているマトリックスセンサ10Aは未使用のマトリックスセンサでないと判断すると(ステップS21;No)、CPU51は、劣化判断プログラム531を実行して、前回の検出に使用したグループに所属するセンサ部20(封止部材17が除去されたセンサ部20)が劣化しているか否か判断する(ステップS22)。
具体的には、CPU51は、例えば、センサシステム1Aに組み込まれているマトリックスセンサ10Aの“使用履歴(例えば、封止部材17が除去された日時)”に基づいて、前回の検出に使用したグループに所属するセンサ部20が劣化しているか否か判断する。
【0136】
ステップS22で、前回の検出に使用したグループに所属するセンサ部20は劣化していないと判断すると(ステップS22;No)、CPU51は、センサ部指定プログラム532Aを実行して、その前回の検出に使用したグループに所属するセンサ部20を指定し(ステップS23)、ステップS27の処理に移行する。
【0137】
一方、ステップS22で、前回の検出に使用したグループに所属するセンサ部20は劣化していると判断すると(ステップS22;Yes)、CPU51は、センサシステム1Aに組み込まれているマトリックスセンサ10Aが備えるセンサ部20の中に封止部材17が除去されていないセンサ部20があるか否か判断する(ステップS24)。
具体的には、CPU51は、例えば、センサシステム1Aに組み込まれているマトリックスセンサ10Aの“使用履歴(例えば、封止部材17が除去されたセンサ部20を識別するためのセンサ部識別情報)”に基づいて、そのマトリックスセンサ10Aが備えるセンサ部20の中に封止部材17が除去されていないセンサ部20があるか否か判断する。
【0138】
ステップS24で、センサシステム1Aに組み込まれているマトリックスセンサ10Aが備えるセンサ部20の中に封止部材17が除去されていないセンサ部20がないと判断すると(ステップS24;No)、CPU51は、本処理を終了する。
そして、CPU51は、例えば、センサシステム1Aに組み込まれているマトリックスセンサ10Aを交換する旨の所定の表示を表示部80に表示させる等して、ユーザに、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10を交換するよう促す。
【0139】
一方、ステップS24で、センサシステム1Aに組み込まれているマトリックスセンサ10Aが備えるセンサ部20の中に封止部材17が除去されていないセンサ部20があると判断すると(ステップS24;Yes)、CPU51は、センサ部指定プログラム532Aを実行して、予め設定された使用するグループの順番に従ってグループを選択し、その選択したグループに所属するセンサ部20(封止部材17が除去されていないセンサ部20であって、検出濃度範囲が異なる各種類のセンサ部20)を指定する(ステップS25)。
【0140】
次いで、CPU51は、封止除去制御プログラム533を実行して、封止除去部30に、指定されたセンサ部20に対応する封止部材17を除去させる(ステップS26)。
【0141】
次いで、CPU51は、検出データ取得制御プログラム534を実行して、検出データ取得部40に、指定されたセンサ部20による検出データを取得させる(ステップS27)。
具体的には、例えば、指定されたセンサ部20が備える作用電極121を選択して、その作用電極121への電圧印加を開始し、供給層23に対して強制的に試料を供給する場合は供給層23への試料供給を開始する。そして、その作用電極121からの応答電流が平衡に達すると、チャンネルを切り替えて順次指定されたセンサ部20が備える作用電極121を選択し、同様の操作を繰り返す。そして、電圧印加を終了し、供給層23に対して強制的に試料を供給していた場合はその供給を終了する。この一連の処理を指定されたセンサ部20全てに対して行う。
なお、パルスボルタンメトリーの手法を使って、連続的に作用電極121を順次切り替えていき、各シーケンスに対応して適切なパルスを順次印加することにより、短時間で全チャンネルからの応答を取得することもできる。
【0142】
次いで、CPU51は、濃度算出プログラム535Aを実行して、取得された検出データに基づいて、各種類のセンサ部20の中から最適な検出濃度範囲を有するセンサ部を決定し(ステップS28)、その決定された最適な検出濃度範囲を有するセンサ部による検出データに基づいて、検出対象物質の濃度を算出し(ステップS29)、本処理を終了する。
そして、CPU51は、例えば、ステップS27で取得された検出データやステップS29で算出した検出対象物質の濃度をメモリ部60に記憶させたり表示部80に表示させたりする。
無論、ステップS21〜ステップS29の間に、ユーザによる操作部70の操作等によって、検出対象物質の濃度の測定を中止するよう指示されると、CPU51は、その時点で、本処理を終了する。
【0143】
以上説明した第2の実施の形態におけるセンサシステム1Aによれば、検出対象物質を検出する複数のセンサ部20と、センサ部20による検出データを取得する検出データ取得部40と、検出データ取得部40により取得された検出データに基づいて、検出対象物質の濃度を算出する濃度算出プログラム535Aを実行したCPU51と、を備え、複数のセンサ部20は、検出対象物質を検出可能な検出濃度範囲が異なる複数種類のセンサ部20を含むとともに、複数のグループにグルーピングされており、一のグループに所属する複数のセンサ部20は、検出濃度範囲が異なる各種類のセンサ部20を含み、検出データ取得部40は、複数のグループのうちの一のグループに所属する各種類のセンサ部20それぞれによる検出データを取得し、濃度算出プログラム535Aを実行したCPU51は、検出データ取得部40により取得された検出データに基づいて各種類のセンサ部20の中から最適な検出濃度範囲を有するセンサ部20を決定し、その決定されたセンサ部20による検出データに基づいて、検出対象物質の濃度を算出するようになっている。
したがって、検出濃度範囲が異なる複数種類のセンサ部20を備えるという簡易な構成で、センサシステム1A(マトリックスセンサ10A)全体では、広範な検出濃度範囲を有することができるとともに、複数種類のセンサ部20のうちの最適な検出濃度範囲を有するセンサ部20で検出対象物質を検出することができるため、検出対象物質の濃度が未知であっても、適切な検出濃度範囲で当該検出対象物質を検出して、当該検出対象物質の濃度を算出することができる。
また、複数のグループのうちの指定されたグループのみを使用し、そのグループが劣化すると、次に使用するグループを指定して新たに使用するようになっているため、マトリックスセンサ10Aのセンサとしての寿命を延ばすことができる。
【0144】
[第3の実施の形態]
次に、第3の実施の形態におけるセンサシステム1Bについて説明する。
なお、第3の実施の形態のセンサシステム1Bは、検出濃度範囲が同一である複数のセンサ部20それぞれによる検出データを用いて所定の統計処理を行い、その所定の統計処理の結果に基づいて、検出対象物質の濃度を算出する点が、第1の実施の形態のセンサシステム1と異なる。したがって、異なる箇所のみについて説明し、その他の共通する部分は同一符号を付して説明する。
【0145】
<センサシステム>
図21は第3の実施の形態のセンサシステム1Bの機能的構成を示すブロック図である。
【0146】
センサシステム1Bは、例えば、マトリックスセンサ10と、封止除去部30と、検出データ取得部40と、制御部50Bと、メモリ部60と、操作部70と、表示部80と、などを備えて構成される。
【0147】
ここで、センサシステム1Bにおいて、マトリックスセンサ10が備える25個のセンサ部20は、例えば、検出濃度範囲が全て同一である。そして、一度に使用するセンサ部20の個数は、例えば、予め設定されており、マトリックスセンサ10が備える25個のセンサ部20は、例えば、その一度に使用するセンサ部20の個数毎にグルーピングされていることとする。
具体的には、例えば、一度に使用するセンサ部20の個数が5個と設定されている場合、マトリックスセンサ10が備える25個のセンサ部20は、5個のセンサ部20を一組として、5つのグループにグルーピングされていることとする。
【0148】
<制御部>
制御部50Bは、例えば、図21に示すように、CPU51と、RAM52と、記憶部53Bと、などを備えている。
【0149】
記憶部53Bは、例えば、図21に示すように、劣化判断プログラム531と、センサ部指定プログラム532Bと、封止除去制御プログラム533と、検出データ取得制御プログラム534と、濃度算出プログラム535Bと、などを記憶している。
【0150】
センサ部指定プログラム532Bは、例えば、複数のセンサ部20のうちの、所定のグループ(例えば、所定の一のグループ)に所属するセンサ部20を指定する機能を、CPU51に実現させる。
【0151】
具体的には、CPU51は、例えば、劣化判断プログラム531を実行したCPU51によりセンサ部20が劣化していると判断された場合に、予め設定された“使用するグループの順番”に従ってグループを選択し、その選択されたグループに所属するセンサ部20(封止部材17が除去されていないセンサ部20)を指定する。
CPU51は、かかるセンサ部指定プログラム532Bを実行することによって、指定手段として機能する。
【0152】
センサ部指定プログラム532Bを実行したCPU51により、例えば、所定の一のグループに所属するセンサ部20が指定されるため、封止除去部30は、その一のグループに所属する複数のセンサ部20(検出濃度範囲が同一である複数のセンサ部20)それぞれに対応する封止部材17を除去し、検出データ取得部40は、その一のグループに所属する複数のセンサ部20(検出濃度範囲が同一である複数のセンサ部20)それぞれによる検出データを取得することとなる。
【0153】
濃度算出プログラム535Bは、例えば、検出データ取得部40により取得された検出データに基づいて、検出対象物質の濃度を算出する機能を、CPU51に実現させる。
【0154】
具体的には、CPU51は、例えば、検出データ取得部40により取得された検出データを用いて所定の統計処理を行い、その所定の統計処理の結果に基づいて、検出対象物質の濃度を算出する。
ここで、所定の統計処理とは、例えば、平均値を求める処理である。
すなわち、CPU51は、例えば、検出濃度範囲が同一である複数のセンサ部20による検出データ(平衡状態での応答電流値)の平均値を求め、その平均値と、予め取得された検量線と、に基づいて、検出対象物質の濃度を算出する。
CPU51は、かかる濃度算出プログラム535Bを実行することによって、算出手段として機能する。
【0155】
なお、所定の統計処理は、平均値を求める処理に限ることはなく、例えば、中間値を求める処理であっても良いし、平均や分散、標準偏差などから値の確からしさを求める処理であっても良いし、各検出データを加算する処理であっても良いし、各検出データの差分を取る処理であっても良い。
【0156】
<検出対象物質濃度測定処理>
センサシステム1Bによる検出対象物質の濃度の測定に関する処理の一例について、図22のフローチャートを参照して説明する。
【0157】
まず、例えば、ユーザによる操作部70の操作によって、試料中の検出対象物質の濃度を測定するよう指示されると、CPU51は、センサシステム1Bに組み込まれているマトリックスセンサ10が未使用のマトリックスセンサであるか否か(すなわち、センサシステム1B中のマトリックスセンサ10が備える全てのセンサ部20が封止部材17で封止されているか否か)を判断する(ステップS31)。
具体的には、CPU51は、例えば、センサシステム1Bに組み込まれているマトリックスセンサ10の“使用履歴(例えば、封止部材17が除去されたセンサ部20を識別するためのセンサ部識別情報)”に基づいて、そのマトリックスセンサ10が未使用のマトリックスセンサであるか否か判断する。
【0158】
ステップS31で、センサシステム1Bに組み込まれているマトリックスセンサ10は未使用のマトリックスセンサであると判断すると(ステップS31;Yes)、CPU51は、ステップS35の処理に移行する。
【0159】
一方、ステップS31で、センサシステム1Bに組み込まれているマトリックスセンサ10は未使用のマトリックスセンサでないと判断すると(ステップS31;No)、CPU51は、劣化判断プログラム531を実行して、前回の検出に使用したグループに所属するセンサ部20(封止部材17が除去されたセンサ部20)が劣化しているか否か判断する(ステップS32)。
具体的には、CPU51は、例えば、センサシステム1Bに組み込まれているマトリックスセンサ10の“使用履歴(例えば、封止部材17が除去された日時)”に基づいて、前回の検出に使用したグループに所属するセンサ部20が劣化しているか否か判断する。
【0160】
ステップS32で、前回の検出に使用したグループに所属するセンサ部20は劣化していないと判断すると(ステップS32;No)、CPU51は、センサ部指定プログラム532Bを実行して、その前回の検出に使用したグループに所属するセンサ部20を指定し(ステップS33)、ステップS37の処理に移行する。
【0161】
一方、ステップS32で、前回の検出に使用したグループに所属するセンサ部20は劣化していると判断すると(ステップS32;Yes)、CPU51は、センサシステム1Bに組み込まれているマトリックスセンサ10が備えるセンサ部20の中に封止部材17が除去されていないセンサ部20があるか否か判断する(ステップS34)。
具体的には、CPU51は、例えば、センサシステム1Bに組み込まれているマトリックスセンサ10の“使用履歴(例えば、封止部材17が除去されたセンサ部20を識別するためのセンサ部識別情報)”に基づいて、そのマトリックスセンサ10が備えるセンサ部20の中に封止部材17が除去されていないセンサ部20があるか否か判断する。
【0162】
ステップS34で、センサシステム1Bに組み込まれているマトリックスセンサ10が備えるセンサ部20の中に封止部材17が除去されていないセンサ部20がないと判断すると(ステップS34;No)、CPU51は、本処理を終了する。
そして、CPU51は、例えば、センサシステム1Bに組み込まれているマトリックスセンサ10を交換する旨の所定の表示を表示部80に表示させる等して、ユーザに、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10を交換するよう促す。
【0163】
一方、ステップS34で、センサシステム1Bに組み込まれているマトリックスセンサ10が備えるセンサ部20の中に封止部材17が除去されていないセンサ部20があると判断すると(ステップS34;Yes)、CPU51は、センサ部指定プログラム532Bを実行して、予め設定された使用するグループの順番に従ってグループを選択し、その選択したグループに所属するセンサ部20(封止部材17が除去されていないセンサ部20であって、検出濃度範囲が同一である複数のセンサ部20)を指定する(ステップS35)。
【0164】
次いで、CPU51は、封止除去制御プログラム533を実行して、封止除去部30に、指定されたセンサ部20に対応する封止部材17を除去させる(ステップS36)。
【0165】
次いで、CPU51は、検出データ取得制御プログラム534を実行して、検出データ取得部40に、指定されたセンサ部20による検出データを取得させる(ステップS37)。
具体的には、例えば、指定されたセンサ部20が備える作用電極121を選択して、その作用電極121への電圧印加を開始し、供給層23に対して強制的に試料を供給する場合は供給層23への試料供給を開始する。そして、その作用電極121からの応答電流が平衡に達すると、チャンネルを切り替えて順次指定されたセンサ部20が備える作用電極121を選択し、同様の操作を繰り返す。そして、電圧印加を終了し、供給層23に対して強制的に試料を供給していた場合はその供給を終了する。この一連の処理を指定されたセンサ部20全てに対して行う。
なお、パルスボルタンメトリーの手法を使って、連続的に作用電極121を順次切り替えていき、各シーケンスに対応して適切なパルスを順次印加することにより、短時間で全チャンネルからの応答を取得することもできる。
【0166】
次いで、CPU51は、濃度算出プログラム535Bを実行して、取得された検出データの平均値を求め(ステップS38)、その平均値に基づいて、検出対象物質の濃度を算出し(ステップS39)、本処理を終了する。
そして、CPU51は、例えば、ステップS37で取得された検出データやステップS38で求めた平均値、ステップS39で算出した検出対象物質の濃度をメモリ部60に記憶させたり表示部80に表示させたりする。
無論、ステップS31〜ステップS39の間に、ユーザによる操作部70の操作等によって、検出対象物質の濃度の測定を中止するよう指示されると、CPU51は、その時点で、本処理を終了する。
【0167】
以上説明した第3の実施の形態におけるセンサシステム1Bによれば、検出対象物質を検出する複数のセンサ部20と、センサ部20による検出データを取得する検出データ取得部40と、検出データ取得部40により取得された検出データに基づいて、検出対象物質の濃度を算出する濃度算出プログラム535Bを実行したCPU51と、を備え、複数のセンサ部20は、検出濃度範囲が同一である複数のセンサ部20を含み、検出データ取得部40は、検出濃度範囲が同一である複数のセンサ部20それぞれによる検出データを取得し、濃度算出プログラム535Bを実行したCPU51は、検出データ取得部40により取得された検出データを用いて所定の統計処理を行い、その所定の統計処理の結果に基づいて、検出対象物質の濃度を算出するようになっている。
すなわち、複数のセンサ部20それぞれによる検出データを統計処理した結果に基づいて、検出対象物質の濃度を算出するため、センサシステム1Bの濃度測定精度を高めることができる。
【0168】
[第4の実施の形態]
次に、第4の実施の形態におけるセンサシステム1C及びセンサシステム1Cが備えるマトリックスセンサ10Cについて説明する。
なお、第4の実施の形態のセンサシステム1Cは、マトリックスセンサ10Cが、酵素Eを備える複数のセンサ部20と、酵素Eを備えていない複数の差分用センサ部20C(差分用基準センサ部)と、を備えている点が、第1の実施の形態のセンサシステム1と異なる。したがって、異なる箇所のみについて説明し、その他の共通する部分は同一符号を付して説明する。
【0169】
<センサシステム>
図23は第4の実施の形態のセンサシステム1Cの機能的構成を示すブロック図である。
【0170】
センサシステム1Cは、例えば、マトリックスセンサ10Cと、封止除去部30と、検出データ取得部40Cと、制御部50Cと、メモリ部60と、操作部70と、表示部80と、などを備えて構成される。
【0171】
<マトリックスセンサ>
図24はマトリックスセンサ10Cの平面斜視図、図25は図24のXXV−XXV線における断面図である。
【0172】
マトリックスセンサ10Cは、複数のセンサ部20と、複数の差分用センサ部20Cと、を備えている。マトリックスセンサ10Cが備える差分用センサ部20Cの構成は、例えば、図25に示すように、センサ部20(図5参照)から酵素Eのみを除いた構成となっている。また、マトリックスセンサ10Cが備える複数のセンサ部20は、全て検出濃度範囲が同一である。
具体的には、例えば、図24に示すように、センサシステム1Cにおいて、センサ部(1,Y)、(2,Y)、(3,Y)はセンサ部20(検出用センサ部)であり、センサ部(4,Y)、(5,Y)は差分用センサ部20Cである。
なお、差分用センサ部20Cの構成は、例えば、図25に示すように、酵素Eを備えていないという点以外は、センサ部20の構成(図5参照)と同一であるため、詳細な説明は省略する。
【0173】
<検出データ取得部>
検出データ取得部40Cは、例えば、制御部50Cから入力される制御信号に従って、取得手段として、指定されたセンサ部20による検出データ(指定されたセンサ部20が備える作用電極121と対向電極123との間に流れる電流量に基づく検出データ)を取得し、制御部50Cに出力するとともに、差分用取得手段として、指定された差分用センサ部20Cによる検出データ(指定された差分用センサ部20Cが備える作用電極121と参照電極122との間に流れる電流量に基づく検出データ)を取得し、制御部50Cに出力する。
すなわち、検出データ取得部40Cは、例えば、指定されたセンサ部20について、参照電極122に対して作用電極121に所定の電圧値の電圧を印加し、その際に作用電極121から出力される電流の電流値(応答電流値)を取得して、制御部50Cに出力するとともに、指定された差分用センサ部20Cにおいて、参照電極122に対して作用電極121に所定の電圧値の電圧を印加し、その際に作用電極121から出力される電流の電流値(応答電流値)を取得して、制御部50Cに出力する。
【0174】
<制御部>
制御部50Cは、例えば、図23に示すように、CPU51と、RAM52と、記憶部53Cと、などを備えている。
【0175】
記憶部53Cは、例えば、図23に示すように、劣化判断プログラム531Cと、センサ部指定プログラム532Cと、封止除去制御プログラム533Cと、検出データ取得制御プログラム534Cと、濃度算出プログラム535Cと、などを記憶している。
【0176】
劣化判断プログラム531Cは、例えば、封止除去部30により封止部材17が除去されたセンサ部20が劣化しているか否か判断するとともに、封止除去部30により封止部材17が除去された差分用センサ部20Cが劣化しているか否か判断する機能を、CPU51に実現させる。
CPU51は、かかる劣化判断プログラム531Cを実行することによって、判断手段として機能する。
【0177】
センサ部指定プログラム532Cは、例えば、複数のセンサ部20のうちの、所定のセンサ部20(例えば、所定の一のセンサ部20)を指定するとともに、複数の差分用センサ部20Cのうちの、所定の差分用センサ部20C(例えば、所定の一の差分用センサ部20C)を指定する機能を、CPU51に実現させる。
CPU51は、かかるセンサ部指定プログラム532Cを実行することによって、指定手段として機能する。
【0178】
封止除去制御プログラム533Cは、例えば、封止除去部30に制御信号を入力して、センサ部指定プログラム532Cを実行したCPU51により指定されたセンサ部20に対応する封止部材17を除去させるとともに、センサ部指定プログラム532Cを実行したCPU51により指定された差分用センサ部20Cに対応する封止部材17を除去させる機能を、CPU51に実現させる。
【0179】
検出データ取得制御プログラム534Cは、例えば、検出データ取得部40Cに制御信号を入力して、センサ部指定プログラム532Cを実行したCPU51により指定されたセンサ部20(封止部材17が除去されたセンサ部20)による検出データを取得させ、制御部50Cに出力させるとともに、センサ部指定プログラム532Cを実行したCPU51により指定された差分用センサ部20C(封止部材17が除去された差分用センサ部20C)による検出データを取得させ、制御部50Cに出力させる機能を、CPU51に実現させる。
【0180】
濃度算出プログラム535は、例えば、検出データ取得部40Cにより取得された検出データに基づいて、検出対象物質の濃度を算出する機能を、CPU51に実現させる。
【0181】
具体的には、CPU51は、例えば、検出データ取得部40Cにより取得されたセンサ部20による検出データと、検出データ取得部40Cにより取得された差分用センサ部20Cによる検出データと、の差分を取り、その差分に基づいて、検出対象物質の濃度を算出する。
すなわち、CPU51は、例えば、センサ部20による検出データ(応答電流値)と、差分用センサ部20Cによる検出データ(応答電流値)と、の差分を取り、その差分の経時変化から平衡状態での応答電流値を取得し、その平衡状態での応答電流値と、予め取得された“検量線”と、に基づいて、検出対象物質の濃度を算出する。
CPU51は、かかる濃度算出プログラム535Cを実行することによって、算出手段として機能する。
【0182】
<検出対象物質濃度測定処理>
センサシステム1Cによる検出対象物質の濃度の測定に関する処理の一例について、図26のフローチャートを参照して説明する。
【0183】
まず、例えば、ユーザによる操作部70の操作によって、試料中の検出対象物質の濃度を測定するよう指示されると、CPU51は、センサシステム1Cに組み込まれているマトリックスセンサ10Cが未使用のマトリックスセンサであるか否か(すなわち、センサシステム1C中のマトリックスセンサ10Cが備える全てのセンサ部20及び差分用センサ部20Cが封止部材17で封止されているか否か)を判断する(ステップS41)。
具体的には、CPU51は、例えば、センサシステム1Cに組み込まれているマトリックスセンサ10Cの“使用履歴(例えば、封止部材17が除去されたセンサ部20及び差分用センサ部20Cを識別するためのセンサ部識別情報)”に基づいて、そのマトリックスセンサ10が未使用のマトリックスセンサであるか否か判断する。
【0184】
ステップS41で、センサシステム1Cに組み込まれているマトリックスセンサ10Cは未使用のマトリックスセンサであると判断すると(ステップS41;Yes)、CPU51は、ステップS45の処理に移行する。
【0185】
一方、ステップS41で、センサシステム1Cに組み込まれているマトリックスセンサ10Cは未使用のマトリックスセンサでないと判断すると(ステップS41;No)、CPU51は、劣化判断プログラム531Cを実行して、前回使用したセンサ部20及び差分用センサ部20C(封止部材17が除去されたセンサ部20及び差分用センサ部20C)が劣化しているか否か判断する(ステップS42)。
具体的には、CPU51は、例えば、センサシステム1Cに組み込まれているマトリックスセンサ10Cの“使用履歴(例えば、封止部材17が除去された日時)”に基づいて、前回使用したセンサ部20及び差分用センサ部20Cが劣化しているか否か判断する。
【0186】
ステップS42で、前回使用したセンサ部20及び差分用センサ部20Cは劣化していないと判断すると(ステップS42;No)、CPU51は、センサ部指定プログラム532Cを実行して、その前回使用したセンサ部20及び差分用センサ部20Cを指定し(ステップS43)、ステップS47の処理に移行する。
【0187】
一方、ステップS42で、前回使用したセンサ部20及び差分用センサ部20Cは劣化していると判断すると(ステップS42;Yes)、CPU51は、センサシステム1Cに組み込まれているマトリックスセンサ10Cが備えるセンサ部20及び差分用センサ部20Cの中に封止部材17が除去されていないセンサ部20及び差分用センサ部20Cがあるか否か判断する(ステップS44)。
具体的には、CPU51は、例えば、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10の“使用履歴(例えば、封止部材17が除去されたセンサ部20及び差分用センサ部20Cを識別するためのセンサ部識別情報)”に基づいて、そのマトリックスセンサ10が備えるセンサ部20の中に封止部材17が除去されていないセンサ部20及び差分用センサ部20Cがあるか否か判断する。
【0188】
ステップS44で、センサシステム1Cに組み込まれているマトリックスセンサ10Cが備えるセンサ部20及び差分用センサ部20Cの中に封止部材17が除去されていないセンサ部20及び差分用センサ部20Cがないと判断すると(ステップS44;No)、CPU51は、本処理を終了する。
そして、CPU51は、例えば、センサシステム1Cに組み込まれているマトリックスセンサ10Cを交換する旨の所定の表示を表示部80に表示させる等して、ユーザに、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10を交換するよう促す。
【0189】
一方、ステップS44で、センサシステム1Cに組み込まれているマトリックスセンサ10Cが備えるセンサ部20及び差分用センサ部20Cの中に封止部材17が除去されていないセンサ部20及び差分用センサ部20Cがあると判断すると(ステップS44;Yes)、CPU51は、センサ部指定プログラム532Cを実行して、予め設定された使用するセンサ部20の順番に従って、センサ部20(封止部材17が除去されていないセンサ部20)を指定するとともに、予め設定された使用する差分用センサ部20Cの順番に従って、差分用センサ部20C(封止部材17が除去されていない差分用センサ部20C)を指定する(ステップS45)。
【0190】
次いで、CPU51は、封止除去制御プログラム533Cを実行して、封止除去部30に、指定されたセンサ部20及び差分用センサ部20Cに対応する封止部材17を除去させる(ステップS46)。
【0191】
次いで、CPU51は、検出データ取得制御プログラム534Cを実行して、検出データ取得部40Cに、指定されたセンサ部20及び差分用センサ部20Cによる検出データを取得させる(ステップS47)。
具体的には、例えば、指定されたセンサ部20が備える作用電極121を選択して、その作用電極121への電圧印加を開始し、供給層23に対して強制的に試料を供給する場合は供給層23への試料供給を開始する。そして、その作用電極121からの応答電流が平衡に達すると、チャンネルを切り替えて順次指定されたセンサ部20が備える作用電極121を選択し、同様の操作を繰り返す。そして、電圧印加を終了し、供給層23に対して強制的に試料を供給していた場合はその供給を終了する。この一連の処理を指定されたセンサ部20及び差分用センサ部20Cに対して行う。
なお、パルスボルタンメトリーの手法を使って、連続的に作用電極121を順次切り替えていき、各シーケンスに対応して適切なパルスを順次印加することにより、短時間で全チャンネルからの応答を取得することもできる。
【0192】
次いで、CPU51は、濃度算出プログラム535Cを実行して、取得されたセンサ部20による検出データと、取得された差分用センサ部20Cによる検出データと、の差分を取り(ステップS48)、その差分に基づいて、検出対象物質の濃度を算出し(ステップS49)、本処理を終了する。
そして、CPU51は、例えば、ステップS47で取得された検出データやステップS48で取った差分、ステップS49で算出した検出対象物質の濃度をメモリ部60に記憶させたり表示部80に表示させたりする。
無論、ステップS41〜ステップS49の間に、ユーザによる操作部70の操作等によって、検出対象物質の濃度の測定を中止するよう指示されると、CPU51は、その時点で、本処理を終了する。
【0193】
以上説明した第4の実施の形態におけるセンサシステム1Cによれば、検出対象物質と選択的に反応する酵素Eとその反応に伴う所定の変化を検出する電極12とを備えるセンサ部20と、センサ部20から酵素Eを除いた差分用センサ部20Cと、センサ部20が備える電極12により検出された所定の変化に基づく検出データを取得するとともに、差分用センサ部20Cが備える電極12により検出された所定の変化に基づく検出データを取得する検出データ取得部40Cと、を備え、濃度算出プログラム535Cを実行したCPU51は、検出データ取得部40Cにより取得されたセンサ部20による検出データと、検出データ取得部40Cにより取得された差分用センサ部20Cによる検出データと、の差分を取り、その差分に基づいて、検出対象物質の濃度を算出するようになっている。
すなわち、差分用センサ部20Cは、検出対象物質と酵素Eとの反応に伴う所定の変化を検出する際に観測されるドリフトのみを検出することができる。したがって、差分を取ることにより、検出対象物質と酵素Eとの反応に伴う所定の変化のみを検出することができるため、センサシステム1Cの濃度測定精度を高めることができるとともに、ドリフトが収束(バックグラウンドが安定)するまで待機する必要がないため、センサシステム1Cによる濃度測定を高速化することができる。
【実施例1】
【0194】
以下、具体的な実施例によって本発明を説明するが、発明はこれらに限定されるものではない。
【0195】
<1>マトリックスセンサの作成
まず、マトリックスセンサMを作成した。本実施例では、マトリックスセンサMとして、ホルムアルデヒドガスを検出するためのマトリックスセンサを作成した。酵素としては、補酵素(NAD)依存型酵素であるホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ホルムアルデヒド脱水素酵素)を用いた。
【0196】
<1―1>電極基板の作成
まず、基板11上に、作用電極121、参照電極122及び対向電極123の三極構造のパターンを25個作成した。
具体的には、基板11として、平面視略矩形状に形成されたガラス基板を用意した。そして、この基板11を、ホットプレートを用いて95℃にて90秒間プレベークした。次いで、スピンコーターを用いてネガ型レジストを100μL塗布し、紫外露光装置を用いて作用電極121、参照電極122及び対向電極123の三極構造のフォトマスクパターンを転写した。次いで、120℃で60秒間ポストベークして、その後、現像液にて70秒間現像し、蒸留水で洗浄した。次いで、スパッタ法によって、膜厚が800nmの電極用薄膜(白金薄膜)を成膜した。次いで、リフトオフ法によって、アセトンに浸して超音波で30分間洗浄し、レジストを剥がして白金電極を形成した。白金層の成膜条件は、真空度を10−5Pa、基板温度を60℃、アルゴンガスの流量を40sccmとした。
【0197】
次に、分析部111の周囲に疎水性絶縁膜112を作成し、銀/塩化銀電極である参照電極122を作成した。
具体的には、スパッタ法によって、平面視略円形状の分析部111に対応する領域以外の領域に、膜厚が500nmのSiO薄膜を形成することによって、分析部111の周囲に疎水性絶縁膜112を作成した。次いで、参照電極122のパターンに、銀/塩化銀インク(BAS社製)を塗布して120度で焼結し、銀/塩化銀電極である参照電極122を作成して、電極基板を作成した。
【0198】
<1−2>酵素固定化膜用の多孔体の作成
まず、多孔体13として、一次元シリカナノチャンネルの集合体が充填された膜状のシリカ系メソ多孔体を作成した。
具体的には、PEG−PPG共重合体1.0gをエタノール20mL、水2mL、濃塩酸100μLと混合した後、攪拌しながら60℃で1時間還流した。次いで、オルトけい酸テトラエチル(TEOS)を2.1g添加し、60℃で2時間還流した。次いで、この溶液を4mL採取して、多孔性の陽極酸化アルミナ膜(直径47mm、厚み60μm、細孔径0.1μm)に滴下し、吸引濾過を行った後、20分間デシケータ中で常温乾燥させた。これを500℃の電気炉で5時間焼成することによって、膜状のシリカ系メソ多孔体を得た。
この膜状のシリカ系メソ多孔体を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した結果、陽極酸化アルミナ膜の細孔内に、アルミナ細孔壁に沿って平均細孔直径約8nmのシリカナノチャンネルが充填されていることを確認した。
【0199】
次に、作成した膜状のシリカ系メソ多孔体を切り出して、酵素固定化膜用の多孔体13を作成した。
具体的には、作成した膜状のシリカ系メソ多孔体を、分析部111と略同一サイズの平面視略円形状にレーザ加工することによって、酵素固定化膜用の多孔体13を作成した。
【0200】
<1−3>マトリックスセンサの作成
まず、酵素溶液を作成した。
具体的には、0.5Uのホルムアルデヒド脱水素酵素、0.25μmolのNAD、10μmolのナフサキノンを、50%のグリセリンを含む1000μLのリン酸緩衝液(pH7.4)へ溶解して、酵素溶液を作成した。
また、0.25μmolのNAD、10μmolのナフサキノンを、50%のグリセリンを含む1000μLのリン酸緩衝液(pH7.4)へ溶解して、酵素が含有されていないブランク溶液を作成した。
【0201】
次に、例えば、図27に示すようにして、マトリックスセンサMを作成した。
具体的には、まず、隔壁部14として、分析部111に対応する領域に開口部を有する、基板11と略同一サイズの平面視略矩形状に形成された板状部材(厚み:200μm、ポリエステル製)を用意した。そして、この隔壁部14を、上記作成した電極基板上に接着し、一晩、常温にて乾燥させた。
次いで、上記作成した酵素固定化膜用の多孔体13それぞれを、隔壁部14が有する各開口部内に設置した。
【0202】
次いで、上記作成した酵素溶液を各々20μLずつマイクロピペットで採取して、センサ部(1,Y)(=センサ部(1,1)、(1,2)、(1,3)、(1,4)、(1,5))と、センサ部(2,Y)(=センサ部(2,1)、(2,2)、(2,3)、(2,4)、(2,5))と、センサ部(3,Y)(=センサ部(3,1)、(3,2)、(3,3)、(3,4)、(3,5))と、センサ部(4,Y)(=センサ部(4,1)、(4,2)、(4,3)、(4,4)、(4,5))と、に対応する位置に設置された酵素固定化膜用の多孔体13に滴下した。すなわち、本実施例で作成するマトリックスセンサMにおいて、センサ部(1,Y)、(2,Y)、(3,Y)、(4,Y)は、センサ部20(検出用センサ部)である。
また、上記作成したブランク溶液を各々20μLずつマイクロピペットで採取して、センサ部(5,Y)(=センサ部(5,1)、(5,2)、(5,3)、(5,4)、(5,5))に対応する位置に設置された酵素固定化膜用の多孔体13に滴下した。すなわち、本実施例で作成するマトリックスセンサMにおいて、センサ部(5,Y)は、差分用センサ部20Cである。
【0203】
次いで、透過膜15として、基板11と略同一サイズの平面視略矩形状に形成されたガス透過膜(透過係数:1.44cc・cm/(cm・min・kPa)、厚み:100μm、ゴアテックス製)を用意した。そして、この透過膜15を、隔壁部14上に接着した。
【0204】
次いで、センサ部20の検出濃度範囲を調整するための調整用透過膜19として、透過係数がそれぞれ異なる4種類のガス透過膜(透過係数:2.40cc・cm/(cm・min・kPa)、1.11cc・cm/(cm・min・kPa)、0.72cc・cm/(cm・min・kPa)、0.13cc・cm/(cm・min・kPa)、厚み:100μm、ゴアテックス製)を用意した。そして、これらの調整用透過膜19それぞれを、分析部111を被覆可能なサイズに加工した。次いで、透過膜15上におけるセンサ部(1,2)に対応する位置に透過係数が2.40cc・cm/(cm・min・kPa)の調整用透過膜19を設置し、センサ部(1,3)に対応する位置に透過係数が1.11cc・cm/(cm・min・kPa)の調整用透過膜19を設置し、センサ部(1,4)に対応する位置に透過係数が0.72cc・cm/(cm・min・kPa)の調整用透過膜19を設置し、センサ部(1,5)に対応する位置に透過係数が0.13cc・cm/(cm・min・kPa)の調整用透過膜19を設置して、透過膜15上に接着した。
【0205】
次いで、スペーサ16として、分析部111に対応する領域に開口部を有する、基板11と略同一サイズの平面視略矩形状に形成された板状部材(厚み:200μm、ポリエステル製)を用意した。そして、このスペーサ16を、調整用透過膜19が接着された透過膜15上に接着した。
【0206】
次いで、封止部材17として、基板11と略同一サイズの平面視略矩形状に形成されたガス不透過性の膜状部材(厚み:200μm、テフロン製)を用意した。そして、この封止部材17をスペーサ16上に接着した。
【0207】
次いで、カバー部材18として、分析部111に対応する領域に分析部111と略同一サイズの平面視略矩形状の開口部を有する、基板11と略同一サイズの平面視略矩形状に形成された板状部材(厚み:200μm、ポリエステル製)を用意した。そして、このカバー部材18を、封止部材17上に接着することによって、マトリックスセンサMを作成した。
【0208】
<2>マトリックスセンサ及びセンサシステムの評価
次に、上記作成したマトリックスセンサMを用いて、本発明のセンサシステム及び本発明のセンサシステムが備えるマトリックスセンサを評価した。
【0209】
まず、本発明のセンサシステム及び本発明のセンサシステムが備えるマトリックスセンサを評価するための測定装置Nについて説明する。
測定装置Nは、例えば、図28に示すように、封止除去部30と、検出データ取得部40Cと、規定濃度のホルムアルデヒドガスを生成するホルムアルデヒドガス生成器N1と、ホルムアルデヒドガス生成器N1により生成されたホルムアルデヒドガスをマトリックスセンサMが備えるセンサ部20や差分用センサ部20Cの供給層23に供給するためのテフロン製のチューブN2と、などを備えて構成される。
【0210】
チューブN2は、例えば、図28に示すように、チューブN2の先端が針31の先端よりも上側で針31の側面に固定されるようにして、測定装置Nに備えられている。
これにより、使用する一のセンサ部20又は一の差分用センサ部20Cに対応する封止部材17を針31で除去した後、その使用する一のセンサ部20又は一の差分用センサ部20Cの上面に試料(ホルムアルデヒドガス生成器M1により生成されたホルムアルデヒドガス)を吹き付けることができるようになっている。
【0211】
そして、上記説明した測定装置Nを用いて、本発明のセンサシステム及び本発明のセンサシステムが備えるマトリックスセンサを評価した。
具体的には、上記作成したマトリックスセンサM(作成直後のマトリックスセンサM)を、封止除去部30の針31の下方に配置して、検出データ取得部40Cに接続した。次いで、マトリックスセンサMが備える20個のセンサ部20のうちの使用する一のセンサ部20について、或いは、マトリックスセンサMが備える5個の差分用センサ部20Cのうちの使用する一の差分用センサ部20Cについて、封止部材17を除去し、そして、室温(25℃)にて、参照電極122に対して作用電極121に+650mVの電圧を印加するとともに、供給層23に規定濃度のホルムアルデヒドガスを供給して、アンペロメトリー法による電流計測により測定を行った。
【0212】
<2−1>センサ部の応答
センサ部(1,1)を使用して、ホルムアルデヒドガスを供給したときのセンサ部20の応答を観察するための実験を行った。
具体的には、作用電極121に電圧を印加して、ホルムアルデヒド濃度が20ppbのホルムアルデヒドガスを生成して供給し、応答電流を測定した。ホルムアルデヒドガスの供給は、作用電極121に電圧を印加してから応答電流(充電電流)が十分に安定した後に(具体的には、作用電極121に電圧を印加してから7分後に)行った。その結果を図29に示す。
【0213】
図29においては、横軸に電圧を印加してからの時間(min)、縦軸に応答電流(nA)を示す。
【0214】
図29の結果から、センサ部(1,1)の作用電極121に電圧を印加した直後から充電電流が流れ、電圧を印加してから5分程度で充電電流が落ち着くことが分かった。
そして、センサ部(1,1)の検出層23にホルムアルデヒドガスを供給した直後から応答電流が増加し、ホルムアルデヒドガスを導入してから2分程度で平衡状態に落ち着くことが分かった。これにより、本発明のセンサシステム(第1〜第4の実施の形態のセンサシステム)が備えるマトリックスセンサが有する一のセンサ部20を用いることによって、検出対象物質を検出できることが分かった。
【0215】
<2−2>検出濃度範囲が異なる複数種類のセンサ部を備えることによる効果の実証
検出濃度範囲がそれぞれ異なる5種類のセンサ部20(センサ部(1,1)、(1,2)、(1,3)、(1,4)、(1,5))を使用して、検出濃度範囲が異なる複数種類のセンサ部20を備えることによる効果を実証するための実験を行った。
具体的には、作用電極121に電圧を印加して、ホルムアルデヒド濃度が異なるホルムアルデヒドガスを順次生成して供給し、応答電流を測定することによって、検量線を作成した。供給するホルムアルデヒドガスの濃度は、1ppb、10ppb、20ppb、100ppb、200ppb、1000ppb、2000ppb、10000ppb、100000ppbとした。その結果を図30に示す。
【0216】
図30においては、横軸にホルムアルデヒド濃度(ppb)、縦軸に応答電流(nA)を示し、菱形プロット(◇)でセンサ部(1,1)の平衡状態での応答電流値、四角プロット(□)でセンサ部(1,2)の平衡状態での応答電流値、三角プロット(△)でセンサ部(1,3)の平衡状態での応答電流値、丸プロット(○)でセンサ部(1,4)の平衡状態での応答電流値、逆三角プロット(▽)でセンサ部(1,5)の平衡状態での応答電流値を示す。
【0217】
図30によれば、センサ部(1,1)、(1,2)、(1,3)、(1,4)、(1,5)の中で最も透過層22の透過率(検出対象物質が透過層22を透過する際の透過率)が高いセンサ部(1,1)の検出濃度範囲は、1ppb〜100ppbであることが分かった。
また、センサ部(1,1)、(1,2)、(1,3)、(1,4)、(1,5)の中でセンサ部(1,1)の次に透過層22の透過率が高いセンサ部(1,2)の検出濃度範囲は、10ppb〜200ppbであることが分かった。
また、センサ部(1,1)、(1,2)、(1,3)、(1,4)、(1,5)の中でセンサ部(1,2)の次に透過層22の透過率が高いセンサ部(1,3)の検出濃度範囲は、20ppb〜1000ppbであることが分かった。
また、センサ部(1,1)、(1,2)、(1,3)、(1,4)、(1,5)の中でセンサ部(1,3)の次に透過層22の透過率が高いセンサ部(1,4)の検出濃度範囲は、100ppb〜2000ppbであることが分かった。
また、センサ部(1,1)、(1,2)、(1,3)、(1,4)、(1,5)の中で最も透過層22の透過率が低いセンサ部(1,5)の検出濃度範囲は、200ppb〜10000ppbであることが分かった。
【0218】
図30の結果から、センサ部(1,1)、(1,2)、(1,3)、(1,4)、(1,5)は、それぞれ検出濃度範囲が狭いが、それぞれで検出濃度範囲が異なることが分かった。これにより、本発明のセンサシステム(第2の実施の形態にセンサシステム)が備えるマトリックスセンサは、5種類のセンサ部20(例えば、センサ部(1,1)、(1,2)、(1,3)、(1,4)、(1,5))、或いは、5種類のセンサ部20のうちの何れか複数種類のセンサ部20(例えば、センサ部(1,1)、(1,3)、(1,5))を同時に使用することによって、広範な検出濃度範囲を有するセンサとして使用できることが分かった。また、使用した複数種類のセンサ部20のうちの適切な種類のセンサ部20(最適な検出濃度範囲を有するセンサ部20)で検出対象物質を検出して、その検出対象物質の濃度を算出できることが分かった。
【0219】
ここで、試料中における検出濃度範囲の濃度は未知である場合が多いため、広範な検出濃度範囲を有するセンサが望まれているが、従来のセンサでは、検出濃度範囲が広範になるほど、その広範な検出濃度範囲を部分的に見た場合には精度が悪く、検出誤差が大きくなる傾向がある。
これに対し、本発明のセンサシステム(第2の実施の形態のセンサシステム)では、マトリックスセンサが、検出濃度範囲が異なる複数種類のセンサ部20を備えているため、この複数種類のセンサ部20を同時に使用することによって、マトリックスセンサを広範な検出濃度範囲を有するセンサとして使用できるとともに、各センサ部20の検出濃度範囲が狭いため、検出濃度範囲が広範な従来のセンサと比較して検出誤差が小さく、最適な検出濃度範囲を有するセンサ部20による検出データに基づいて検出対象物質の濃度を算出することによって、より正確な濃度を算出することができ、好適である。
【0220】
<2−3>検出データの平均値を求めることによる効果の実証
検出濃度範囲が同一である15個のセンサ部20(センサ部(2,Y)、(3,Y)、(4,Y))を使用して、検出データ(応答電流値)の平均値を求めることによる効果を実証するための実験を行った。
具体的には、作用電極121に電圧を印加して、ホルムアルデヒド濃度が20ppbのホルムアルデヒドガスを生成して供給し、応答電流を測定した。そして、この一連の処理を15回繰り返して行った。その結果を図31に示す。
【0221】
図31においては、横軸に測定回数(N)、縦軸に応答電流(nA)を示し、三角プロット(△)で1個のセンサ部20(センサ部(2,1))の平衡状態での応答電流値、丸プロット(○)で15個のセンサ部20(センサ部(2,Y)、(3,Y)、(4,Y))の平衡状態での応答電流値の平均値を示す。
【0222】
図31の結果から、応答電流の測定を15回繰り返し行っても、応答電流値の低下等が生じることがなかった。これにより、本発明のセンサシステム(第1〜第4の実施の形態のセンサシステム)が備えるマトリックスセンサは、再現性の良い検出が可能であることが分かった。
【0223】
また、図31の結果から、1個のセンサ部20(センサ部(2,1))のみの応答電流値のばらつきと比較して、15個のセンサ部20(センサ部(2,Y)、(3,Y)、(4,Y))の応答電流値の平均値のばらつきの方が小さいことが分かった。さらに、図31の結果から標準偏差を算出すると、1個のセンサ部20の標準偏差は2.80、15個のセンサ部20の平均の標準偏差は0.73であり、0.73/2.80≒1/√15であるから、15個のセンサ部20の平均の標準偏差は、1個のセンサ部20の標準偏差の“1/√n(n:センサ部20の個数)”程度になることが分かった。これにより、本発明のセンサシステム(第3の実施の形態のセンサシステム)では、複数のセンサ部20による検出データを用いて平均値を求める処理を行い、その平均値に基づいて検出対象物質の濃度を算出することによって、より正確な濃度を算出できることが分かった。
【0224】
<2−4>検出データの差分を取ることによる効果の実証
センサ部20(センサ部(1,1))と、差分用センサ部20C(センサ部(5,1))と、を使用して、検出データの差分を取ることによる効果を実証するための実験を行った。
具体的には、作用電極121に電圧を印加して、ホルムアルデヒド濃度が10ppbのホルムアルデヒドガスを生成して供給し、応答電流を測定した。ホルムアルデヒドガスの供給は、作用電極121に電圧を印加してから応答電流(充電電流)が安定する前に(具体的には、作用電極121に電圧を印加してから90秒後に)行った。その結果を図32に示す。
【0225】
図32においては、横軸に電圧を印加してからの時間(min)、縦軸に応答電流(nA)を示し、破線でセンサ部(1,1)の応答電流値の経時変化、一点鎖線でセンサ部(5,1)の応答電流値の経時変化、実線で差分(センサ部(1,1)の応答電流値からセンサ部(5,1)の応答電流値を引いた差)の計時変化を示す。
【0226】
図32の結果から、センサ部20(センサ部(1,1))では、ホルムアルデヒドガスを供給した直後から応答電流が増加するのに対し、差分用センサ部20C(センサ部(5,1))では、ホルムアルデヒドガスを供給しても応答電流が増加しないことが分かった。これは、センサ部20の検出層21にホルムアルデヒドを基質とする酵素Eが含有されているのに対し、差分用センサ部20Cの検出層21にはその酵素Eが含有されていないためである。
【0227】
また、図32のセンサ部20(センサ部(1,1))結果から、充電電流が安定する前にホルムアルデヒドガスを供給したため、ホルムアルデヒドガスを供給した後も充電電流の減少に対応するドリフトが観測され、ホルムアルデヒドガスを供給してから3分以上経過しても平衡状態に達しないことが分かった。これに対し、図32の差分の結果から、差分を取ると、このドリフトが消去され、ホルムアルデヒドガスを供給してから1分程度で平衡状態に落ち着くことが分かった。これにより、本発明のセンサシステム(第4の実施の形態のセンサシステム)では、センサ部20による検出データと、差分用センサ部20Cによる検出データと、の差分を取り、その差分に基づいて検出対象物質の濃度を算出することによって、ゼロ点調整を行わなくても安定した平衡状態が直ちに得られることとなって、検出時間を短縮できることが分かった。
【0228】
ここで、マトリックスセンサMのように検出層21内にナフトキノンなどの電子伝達体を含有すると、電子伝達体の種類によっては、ドリフトが収束(バックグラウンドが安定)するまでにかなりの時間を要する場合がある。そのような場合は、特に、本発明のセンサシステム(第4の実施の形態のセンサシステム)のように差分を取ると、バックグラウンドが安定する前(充電電流が落ち着く前)に試料を供給して測定できるため、検出時間及び全測定時間を短縮でき、好適である。
【0229】
なお、本発明の実施の形態は、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0230】
<変形例1>
第1の実施の形態において、電極12の対向電極123は、図6及び図8に示すようなセンサ部20それぞれに対応して個別に形成されたものに限ることはなく、例えば、図33及び図34に示す電極12Dの対向電極123Dのように、一体的に形成されていても良い。ここで、図33においても、図6と同様、ドットパターンで塗りつぶした部分が電極12D(作用電極121D、参照電極122D及び対向電極123D)である。
第2〜第4の実施の形態においても同様である。
【0231】
具体的には、例えば、図33及び図34に示すように、各電極12Dの作用電極121Dは、基板11上面における分析部111の内部に形成され、センサ部20それぞれに対応して個別に形成されており、各電極12Dの参照電極122Dは、基板11上面における分析部111の内部に形成され、センサ部20それぞれに対応して個別に形成されており、各電極12Dの対向電極123Dは、基板11上面における分析部111内及び分析部111外に一体的に形成されている。そして、対向電極123Dのうちの分析部の内部に形成された部分が、センサ部20それぞれに対応する対向電極として機能する。
この場合、電極12D(作用電極121D、参照電極122D及び対向電極123D)は、公知の方法により、ビアホールを介して、基板11背面の配線パターンと電気的に接続されている。
【0232】
変形例1によれば、各センサ部20の対向電極が一体的に構成されているため、例えば、図34に示すように、各センサ部20の対向電極を個別に構成する場合(図8)と比較して、配線を個別に引き出す必要もなく、マトリックセンサ10と検出データ取得部40との間の配線を単純化できため、簡略化することができるとともに、センサチップとして一体化する場合などは、小型化することができる。
【0233】
<変形例2>
第1の実施の形態において、検出対象物質濃度測定処理は、例えば、図13に示すような、ユーザにより試料中の検出対象物質の濃度を測定するよう指示された際に、単発的に検出対象物質の濃度の測定を行うもの(すなわち、ユーザにより検出対象物質を検出するよう指示されてセンサ部20が指定されると、作用電極121への電圧印加を開始し、作用電極121からの応答電流が平衡に達すると、電圧印加を終了するもの)に限ることはなく、例えば、図35に示すように、連続的に検出対象物質の濃度の測定を行うようにしても良い。
第2〜第4の実施の形態においても同様である。
【0234】
<検出対象物質濃度測定処理>
センサシステム1による検出対象物質濃度の測定に関する処理の他の一例について、図35のフローチャートを参照して説明する。
【0235】
まず、例えば、ユーザによる操作部70の操作によって、試料中の検出対象物質の濃度の測定を開始するよう指示されると、CPU51は、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10が未使用のマトリックスセンサであるか否か(すなわち、センサシステム1中のマトリックスセンサ10が備える全てのセンサ部20が封止部材17で封止されているか否か)を判断する(ステップS51)。
具体的には、CPU51は、例えば、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10の“使用履歴(例えば、封止部材17が除去されたセンサ部20を識別するためのセンサ部識別情報)”に基づいて、そのマトリックスセンサ10が未使用のマトリックスセンサであるか否か判断する。
【0236】
ステップS51で、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10は未使用のマトリックスセンサであると判断すると(ステップS51;Yes)、CPU51は、ステップS55の処理に移行する。
【0237】
一方、ステップS51で、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10は未使用のマトリックスセンサでないと判断すると(ステップS51;No)、CPU51は、劣化判断プログラム531を実行して、前回の検出に使用したセンサ部20(封止部材17が除去されたセンサ部20)が劣化しているか否か判断する(ステップS52)。
具体的には、CPU51は、例えば、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10の“使用履歴(例えば、封止部材17が除去された日時)”に基づいて、前回の検出に使用したセンサ部20が劣化しているか否か判断する。
【0238】
ステップS52で、前回の検出に使用したセンサ部20は劣化していないと判断すると(ステップS52;No)、CPU51は、センサ部指定プログラム532を実行して、その前回の検出に使用したセンサ部20を指定し(ステップS53)、ステップS57の処理に移行する。
【0239】
一方、ステップS52で、前回の検出に使用したセンサ部20は劣化していると判断すると(ステップS52;Yes)、CPU51は、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10が備えるセンサ部20の中に封止部材17が除去されていないセンサ部20があるか否か判断する(ステップS54)。
具体的には、CPU51は、例えば、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10の“使用履歴(例えば、封止部材17が除去されたセンサ部20を識別するためのセンサ部識別情報)”に基づいて、そのマトリックスセンサ10が備えるセンサ部20の中に封止部材17が除去されていないセンサ部20があるか否か判断する。
【0240】
ステップS54で、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10が備えるセンサ部20の中に封止部材17が除去されていないセンサ部20がないと判断すると(ステップS54;No)、CPU51は、本処理を終了する。
そして、CPU51は、例えば、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10を交換する旨の所定の表示を表示部80に表示させる等して、ユーザに、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10を交換するよう促す。
【0241】
一方、ステップS54で、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10が備えるセンサ部20の中に封止部材17が除去されていないセンサ部20があると判断すると(ステップS54;Yes)、CPU51は、センサ部指定プログラム532を実行して、予め設定された使用するセンサ部20の順番に従って、センサ部20(封止部材17が除去されていないセンサ部20)を指定する(ステップS55)。
【0242】
次いで、CPU51は、封止除去制御プログラム533を実行して、封止除去部30に、指定されたセンサ部20に対応する封止部材17を除去させる(ステップS56)。
【0243】
次いで、CPU51は、検出データ取得制御プログラム534を実行して、検出データ取得部40に、指定されたセンサ部20による検出データを取得させる(ステップS57)。
具体的には、例えば、作用電極121への電圧印加を開始し、供給層23に対して強制的に試料を供給する場合は供給層23への試料供給を開始する。この一連の処理を指定されたセンサ部20に対して行う。
【0244】
次いで、CPU51は、濃度算出プログラム535を実行して、取得された検出データに基づいて、検出対象物質の濃度を算出する(ステップS58)。
そして、CPU51は、例えば、ステップS57で取得された検出データやステップS58で算出した検出対象物質の濃度をメモリ部60に順次記憶させたり表示部80に順次表示させたりする。
【0245】
次いで、CPU51は、劣化判断プログラム531を実行して、使用中のセンサ部20(封止部材17が除去されたセンサ部20)が劣化したか否か判断する(ステップS59)。
具体的には、CPU51は、例えば、センサシステム1に組み込まれているマトリックスセンサ10の“使用履歴(例えば、封止部材17が除去された日時)”に基づいて、使用中のセンサ部20が劣化しているか否か判断する。
【0246】
ステップS59で、使用中のセンサ部20が劣化していないと判断すると(ステップS59;No)、CPU51は、ステップS57以降の処理を繰り返して行う。
【0247】
一方、ステップS59で、使用中のセンサ部20が劣化したと判断すると(ステップS59;Yes)、CPU51は、ステップS54以降の処理を繰り返して行う。
無論、ステップS51〜ステップS59の間に、ユーザによる操作部70の操作等によって、検出対象物質の濃度の測定を終了するよう指示されると、CPU51は、その時点で、本処理を終了する。
【0248】
なお、第1の実施の形態において、センサ部20の配置の仕方は、5×5の2次元マトリックス状に限ることはなく、マトリックスセンサ10が複数のセンサ部20を有していれば任意である。すなわち、例えば、センサ部20は、X×Yの2次元マトリックス状(XとYは自然数であり、X=Yであっても、X≠Yであっても良い。)に配置されていても良いし、X×Y×Zの3次元マトリックス状(XとYとZは自然数であり、X=Yであっても、X≠Yであっても、Y=Zであっても、Y≠Zであっても、Z=Xであっても、Z≠Xであっても良い。)に配置されていても良い。X×Y×Zの3次元マトリックスの場合は、実施の形態のセンサマトリックス10を積み重ねる等して構成することができる。もちろん、MEMS等の微細加工技術やフォトリソ等の半導体技術を利用して作成することが可能である。
第2〜第4の実施の形態においても同様である。
【0249】
また、第1の実施の形態において、マトリックスセンサ10が有する複数のセンサ部20は、同一基板上に形成された一体的なものに限ることはなく、マトリックスセンサ10が複数のセンサ部20を有しているのであれば、それぞれ別体であっても良い。
第2〜第4の実施の形態においても同様である。
【0250】
また、第1の実施の形態において、各センサ部20を封止する封止部材17は、一体的に形成されたものに限ることはなく、対応するセンサ部20を外部から遮断することができるのであれば任意であり、例えば、各センサ部20それぞれに対応して個別に形成されていても良い。
透過膜15も、一体的に形成されたものに限ることはなく、例えば、各センサ部20それぞれに対応して個別に形成されていても良い。
第2〜第4の実施の形態においても同様である。
【0251】
また、第1の実施の形態において、封止部材17の除去の仕方は、針31を用いて機械的に除去するものに限ることはなく、指定されたセンサ部20に対応する封止部材17を除去することができるのであれば任意であり、例えば、針31以外のものを封止部材17に刺し込むことによって、機械的に除去するようにしても良いし、所定の封止部材加熱機構を用いて封止部材17を焼いたり溶かしたりすることによって、或いは、予め封止部材17や封止部材17近傍に抵抗体を組み込んで電圧を印加することによって、熱的・電気的に除去するようにしても良いし、所定の封止部材移動機構を用いて封止部材17を移動(スライド等)させることによって、電気的に除去するようにしても良いし、レーザ等を使用して、その圧力で封止部材17を破ったり焼き切ったりして除去するようにしても良い。なお、封止部材17を移動させて除去する場合、封止部材17を各センサ部20それぞれに対応して個別に形成するのが好ましい。
第2〜第4の実施の形態においても同様である。
【0252】
また、第1の実施の形態において、センサ部20の劣化の判断の仕方は、センサ部20の有効使用期間を用いて判断するものに限ることはなく、センサ部20を封止する封止部材17を除去してからの感度の低下の度合いが予め設定された“許容感度範囲”を超えた際に、そのセンサ部20が劣化していると判断できるのであれば任意であり、例えば、定期的に標準試料(検出対象物質の濃度が一定の試料)中の検出対象物質を検出して、その際の感度(検出データ(応答電流値))に基づいて判断するようにしても良い。
また、検出対象物質の濃度を測定する前に、標準試料(検出対象物質の濃度が一定の試料)中の検出対象物質を検出し、その際の感度(検出データ(応答電流値))に基づいて、キャリブレーションを行うようにしても良い。この場合、センサ部20が劣化等して、センサ部20の感度が低下していても、そのセンサ部20が検出対象物質を検出できない状態になるまでは、そのセンサ部20を使用して検出対象物質の濃度を測定できるため、本発明のマトリックスセンサを長寿命化することができるとともに、本発明のマトリックスセンサのセンサとしての信頼性を高めることができ、好適である。ここで、センサ部20が検出対象物質を検出できない状態とは、例えば、検出対象物質を供給しても応答電流が上昇しない状態等である。
第2〜第4の実施の形態においても同様である。
【0253】
さらには、全ての実施の形態において、センサ部20が、例えば、金属酸化物半導体式センサや固体電解質式センサなどの場合、同時に同一種類のセンサ部20を複数開封して使用し、一方を使用環境に一定濃度で存在する基準ガスを検知するセンサとすれば、この基準ガスセンサの応答出力が一定値以下になると劣化していると判断することができる。基準ガスは、一酸化炭素、硫化水素などを含む各種のガスで良い。ガス種に応じて、作用電極121と参照電極122との間の印加電圧を設定すれば良い。或いは、センサ部20が、高温で使用するセンサの場合、温度センサを同時に装備し、予めメモリ上に記憶してある温度と寿命の関係データから、演算により劣化を判断することもできる。
また、最初の劣化判断をせずに、第3の実施の形態に従って、同時に複数のセンサ部20を動作させ、平均から極端に値がずれたものを“故障したセンサ部”として除外することにより劣化を検出する(そのセンサ部20はそれ以降、使用しない)こともできる。
【0254】
また、第1の実施の形態において、酵素Eが固定された縦孔構造を有する多孔体13は、少なくとも作用電極121の上面に配置されていれば良い。特に、陽極酸化や界面活性剤を使用した金属のめっきなどの方法、或いは、外場により方向性を制御したメソポーラスシリカなど、電極12上に基板11に対して略垂直方向に貫通する細孔13aを有する有機・無機の構造体を直接形成しても良い。例えば、アルミナの陽極酸化により基板11に略垂直方向に貫通する陽極酸化アルミナを形成することもできるし、さらに、その細孔の中にさらに小さなナノの細孔径を有するシリカチャンネルの束を形成することもできる。
さらに、第1の実施の形態において、酵素Eは、多孔体13に固定された状態で検出層21に含有されていなくても良く、例えば、多孔体13以外の担体(例えば、カーボンナノチューブやシリカナノチューブなど)に固定された状態で検出層21に含有されていても良いし、電極12に直接固定された状態で検出層21に含有されていても良いし、検出層21を満たす電解液に溶解した状態(遊離酵素の状態)で検出層21に含有されても良い。
第2〜第4の実施の形態においても同様である。
【0255】
また、第1の実施の形態において、電解液は、予め検出層21に含有されていなくても良く、例えば、封止部材17が除去された後に検出層21に導入されても良い。この場合、酵素E、電子伝達体、補酵素などを乾燥状態のまま検出層21に予め含有させておき、封止部材17が除去された直後に、インクジェットヘッド、ディスペンサ、シリンジ、ピペット等を用いて電解液を供給すると良い。
さらに、第1の実施の形態において、酵素Eは、予め検出層21に含有されていなくても良く、例えば、封止部材17が除去された後に検出層21に導入されても良い。
なお、電解液も酵素Eも予め検出層21に含有されない場合には、センサ部20は、封止部材17で封止されていなくても良い。この場合、電解液や酵素Eなどの検出層21への導入は、公知のMEMS等の微細加工技術やフォトリソ等の半導体技術などを利用して、マイクロ流路やマイクロポンプをチップ上に直接、或いは、個別に形成して、これらを用いて導入することもできる。
第2〜第4の実施の形態においても同様である。
【0256】
また、第1の実施の形態において、電極12は、三極構造(作用電極121、参照電極122及び対向電極123の三極構造)に限るものではなく、例えば、参照電極122を設けない二極構造(作用電極121及び対向電極123の二極構造)であっても良い。
第2〜第4の実施の形態においても同様である。
【0257】
また、第1の実施の形態において、検出データ取得部40が備えるポテンショスタット回路42は、シングルチャンネルのポテンショスタット回路に限るものではなく、マルチチャンネルのポテンショスタット回路であっても良い。
第2〜第4の実施の形態においても同様である。
【0258】
また、第1の実施の形態において、基板11上面に疎水性絶縁膜112を備えずに、隔壁部14のみでセンサ部20,20(検出層21,21)同士を隔てるようにしても良い。
第2〜第4の実施の形態においても同様である。
【0259】
また、第1の実施の形態において、センサ部20それぞれに温度センサと温度調整素子(例えば、ヒータ膜やペルチェ素子など)とを備え、指定されたセンサ部20の温度制御が行えるよう構成しても良い。この場合、検出時の温度管理ができるため、検出精度を向上させることができる
第2〜第4の実施の形態においても同様である。
【0260】
また、第1の実施の形態において、電極12の一部(例えば、参照電極122及び/又は対向電極123)を、基板11の上面ではなく、透過膜15の下面(透過膜15の基板11と対向する側の面)にスパッタ法等により形成しても良い。
第2〜第4の実施の形態においても同様である。
【0261】
また、第1の実施の形態において、試料が気体試料である場合には、酵素Eが溶解する電解液を担体(ガラス繊維等)に保持させて、その担体を検出層21(作用電極121上)に配置し、そして、基板11の上面に作用電極121を形成するとともに、その担体に参照電極122及び対向電極123を形成しても良い。この場合、必ずしも多孔体13や透過膜15を備える必要はない。
第2〜第4の実施の形態においても同様である。
【0262】
また、第1の実施の形態において、センサ部20の構成は、検出対象物質の種類に応じて適宜変更可能である。
具体的には、検出層21に含有される生体物質は、酵素Eに限るものではなく、検出対象物質と選択的に反応する生体物質であれば任意である。具体的には、検出対象物質と選択的に反応する生体物質としては、例えば、酵素E等の生体触媒、抗原、抗体、脂質、細胞、菌、DNA、糖鎖等を用いることができる。
さらに、検出層21に含有される反応物質は、生体物質に限ることはなく、検出対象物質と選択的に反応する物質であれば任意である。具体的には、検出対象物質と選択的に反応する物質としては、例えば、上記生体物質、金属触媒、有機触媒、無機触媒、各種ポリマー、ポリマーコンプレックス、ポリイオンコンプレックス、吸光物質、蛍光物質等を用いることができる。特に、金属触媒としては、白金、パラジウム、ニオブ、イリジウム、タンタル、ニッケル、鉄、コバルト、ベリリウム、タングステン、ロジウム、ジルコニウム、銅、モリブデン、チタン、ルテニウム、タリウムなどの金属又はこれらの合金、さらには、酸化スズSnO、酸化亜鉛ZnO、酸化第二鉄Fe、四三酸化鉄Fe、アルミナAl、酸化マグネシウムMgO、酸化チタンTiO、ニ酸化モリブデンMnO、三酸化モリブデンMnO、酸化ニッケルNi、酸化クロムCrなどのいずれかの酸化物或いは多孔質金属酸化物、又はこれらの複合酸化物を用いることができる。検出層21に含有される反応物質の種類は、1種類であっても良いし、複数種類であっても良い。
なお、検出層21を満たす電解液は、検出層21に含有される反応物質の種類に応じて、適宜変更可能である。具体的には、検出層21に含有される反応物質が金属触媒(金属酸化物等)である場合は、金属酸化物半導体式センサなど、センサの検出方法によっては、電解液を入れてはいけない。また、検出層21及び供給層23(透過膜15と封止部材17との間の部分)を窒素等の気体で満たすと良い場合もある。
【0263】
また、検出素子は、電極12に限るものではなく、検出対象物質と、検出対象物質と選択的に反応する反応物質と、の反応に伴う所定の変化(例えば、物質変化、色変化、吸熱変化、発熱変化、質量変化、抵抗変化、容量変化等)を検出して電気信号に変換できるのであれば任意である。具体的には、検出素子としては、例えば、電極(過酸化水素電極、溶存酸素電極、電気伝導度電極、イオン電極、酸化還元電位電極、櫛型電極、並行平板電極等)、半導体、受光素子、感熱素子、圧電素子、サーミスタ、カンチレバー、イオン感応性電界効果型トランジスタ(ISFET)、水晶振動子(QCM)、弾性表面波(SAW:surface acoustic wave)デバイス等を用いることができる。
さらに、センサ部20は検出素子を備えていなくても良い。この場合の検出法としては、例えば、センサ部20(マトリックスセンサ10)の外部から、光学的検出法等によって、化学発光、吸光、蛍光、プラズモン現象等を検出することにより、検出対象物質を検出する方法等を用いることができる。
【0264】
また、センサ部20は、電極式の酵素センサとして機能するものに限ることはなく、検出対象物質を検出できるセンサであれば任意である。検出対象物質を検出できるセンサとしては、例えば、電気化学式センサ、固体電解質式センサ、触媒燃焼式センサ、金属酸化物半導体式センサ、電界効果型トランジスタ式センサ、水晶振動子式センサ、電極式センサ、イオン感応性電界効果型トランジスタ(ISFET)式センサ、光学式センサ等が挙げられる。
【0265】
ここで、電気化学式センサは、例えば、電解液中に溶け込んだ検出対象物質の反応に伴い発生する電流を検出することで、検出対象物質を検出するセンサである。
【0266】
また、固体電解質式センサは、例えば、固定電解質で隔てられた両側の濃度差(検出対象物質の濃度の差)に伴い発生する起電力を検出することで、検出対象物質を検出するセンサである。
【0267】
また、触媒燃焼式センサは、例えば、貴金属(白金やパラジウムなど)をコートした白金線を300℃〜400℃に加熱しておくと、白金線にコートされた貴金属に接触した検出対象物質はその貴金属の触媒作用で燃焼するが、この燃焼に起因する温度変化に伴う抵抗変化を検出することで、検出対象物質を検出するセンサである。
【0268】
また、金属酸化物半導体式センサは、例えば、n型半導体表面に大気中で吸着していた酸素は、n型半導体と検出対象物質との相互作用によって、n型半導体表面から除去されるが、この除去に伴うn型半導体の抵抗変化を検出することで、検出対象物質を検出するセンサである。
【0269】
また、電界効果型トランジスタ式センサは、例えば、電界効果型トランジスタ(FET)のゲート部に感応膜(検出対象物質と選択的に反応する感応膜)をコートしておき、検出対象物質の感応膜中への拡散に伴うドレイン電流の変化を検出することで、検出対象物質を検出するセンサである。
【0270】
また、水晶振動子式センサは、例えば、検出対象物質が水晶振動子(QCM)の表面に付着・乖離することに伴う重量変化を、水晶振動子の周波数変化として検出することで、検出対象物質を検出するセンサである。また、水晶振動子式センサとしては、水晶振動子の表面に、検出対象物質と選択的に反応する感応膜(有機感応膜や無機感応膜)や検出対象物質と選択的に反応する生体物質(生体物質が固定された担体であっても良い。)などを固定したものも知られている。
同様に、カンチレバー式センサは、例えば、検出対象物質とカンチレバー表面との相互作用により生じる表面応力の変化を、カンチレバーのたわみ量(変位量)により検出するというものであるが、カンチレバーが検出対象物質に接触させる前後において、カンチレバーの変位量を測定することにより、検出対象物質を検出するセンサである。
【0271】
また、電極式センサは、例えば、金属やカーボンなどの電極に電圧を印加して、検出対象物質を電気化学的に酸化したり還元したりすることで生じる拡散電流を測定することで、検出対象物質を検出するセンサである。電極式センサとしては、例えば、電極(過酸化水素電極、溶存酸素電極、電気伝導度電極、イオン電極、酸化還元電位電極等)と、検出対象物質と選択的に反応する感応膜(有機感応膜や無機感応膜)や検出対象物質と選択的に反応する生体物質(生体物質が固定された担体であっても良い。)などと、を組み合わせたもの等が知られている。具体的には、例えば、溶存酸素電極と微生物固定膜とを組み合わせることにより、微生物固定膜の酸素消費量から微生物の呼吸活性を検出することで、有害物質(検出対象物質)を検出する電極式のバイオセンサが知られている。
ここで、電極式センサのうち、電極と酵素(生体物質)とを組み合わせたものが、実施の形態のセンサ部20(電極式の酵素センサ)に対応する。
【0272】
また、ISFET式センサは、例えば、半導体又は絶縁性基板上に電界効果型トランジスタや貴金属電極を設置し、この上にイオン感応性膜を配置したセンサであり、液中のpH計測用の独立したセンサとして用いることもできるし、さらにイオン感応性膜の上に検出対象物質と選択的に反応する生体物質(生体物質が固定された担体であっても良い。)を固定化することでバイオセンサとして用いることもできる。具体的には、例えば、全血又は生体表面から浸出させた浸出液のような溶液中に存在する特定の有機物(検出対象物質)が、酵素の触媒作用により化学反応をした時に生じる水素イオン濃度又は電子濃度の変化を検出することで、特定の有機物を検出するISFET式のバイオセンサが知られている。
【0273】
また、光学式センサは、例えば、識別素子(検出対象物質と選択的に反応する生体物質など)により検出対象物質を捕らえ、化学発光、吸光、蛍光、表面プラズモン現象等を利用して光信号の変化を検出することで、検出対象物質を検出するセンサである。
【0274】
ここで、センサ部20が触媒燃焼式センサや金属酸化物半導体式センサなどとして機能する場合は、必ずしもセンサ部20を封止部材17で封止する必要がないが、常温でも空気中の物質(ガス)が吸着したりすれば感度は落ちるので、封止部材17で封止する方が好ましい。
また、センサ部20が触媒燃焼式センサや金属酸化物半導体式センサなどとして機能する場合は、必ずしも隔壁部14を備える必要はないが、電気的なクロストークの防止や使用部周辺への熱拡散の防止などの観点から、隔壁部14を備えるのが好ましい。
なお、触媒燃焼式センサや金属酸化物半導体式センサなどは素子を高温で使用するため、小型にすると使用による電極劣化或いは触媒の剥離や亀裂などの発生が顕著である。したがって、これらを本発明のマトリックスセンサにすることで、センサとしての寿命を大幅に増加することができる。
【0275】
そして、上記のようにセンサ部20の構成を適宜変更することによって、マトリックスセンサ10を、所望の検出対象物質を検出するためのセンサとして用いることができる。
また、マトリックスセンサ10は、検出可能な検出対象物質の種類が異なる複数種類のセンサ部20を有するものであっても良い。
第2〜第4の実施の形態においても同様である。
【0276】
また、第1の実施の形態において、試料が液体試料である場合には、各センサ部20を、リアクタやフローセルと組み合わせたり、マイクロ流路やマイクロリアクタ中の流路内に形成したりしても良い。
第2〜第4の実施の形態においても同様である。
【0277】
また、第2の実施の形態において、マトリックスセンサ10Aは、検出濃度範囲が異なる5種類のセンサ部20を備えるものに限ることはなく、検出濃度範囲が異なる複数種類のセンサ部20を備えていれば良い。
【0278】
また、第2の実施の形態において、センサ部20の検出濃度範囲の調整の仕方は、調整用透過膜19を用いるものに限ることはなく、マトリックスセンサ10Aが、検出濃度範囲が異なる複数種類のセンサ部20を備えることができるのであれば任意であり、例えば、透過膜15と電極12との間の距離を調整することによって、センサ部20の検出濃度範囲を調整するようにしても良い。この場合、透過膜15と電極12との間の距離が小さいほど、検出濃度範囲は低濃度側となり、透過膜15と電極12との間の距離が大きいほど、検出濃度範囲は高濃度側となる。
また、マトリックスセンサ10Aに、機能が異なる複数種類のセンサ部20を備えることによって、マトリックスセンサ10Aを、検出濃度範囲が異なる複数種類のセンサ部20を備えるものとしても良い。すなわち、例えば、マトリックスセンサ10Aに、電極式センサ(電極式の酵素センサ)として機能するセンサ部20と、固体電解質式センサとして機能するセンサ部20と、金属酸化物半導体式センサとして機能するセンサ部20と、水晶振動子式センサとして機能するセンサ部20と、などを備えることによって、マトリックスセンサ10Aを、検出濃度範囲が異なる複数種類のセンサ部20を備えるものとしても良い。
また、例えば、第1の実施の形態において、センサ部20の供給層23に対する試料の供給速度を変化させることによって、センサ部20の検出濃度範囲を調整することもできる。この場合、供給速度が速いほど、検出濃度範囲は低濃度側となり、供給速度が遅いほど、検出濃度範囲は高濃度側となる。
【0279】
また、第2の実施の形態において、最適な検出濃度範囲を有するセンサ部20(最適なセンサ部20)の決定の仕方は、許容電流範囲と、検出データ取得部40により取得された複数種類のセンサ部20それぞれによる応答電流値と、を比較して決定するものに限ることはなく、検出対象物質の濃度を含む検出濃度範囲を有するセンサ部20を、最適なセンサ部20として決定することができるのであれば任意である。すなわち、例えば、検出対象物質の濃度が500ppmであり、検出濃度範囲が1ppm〜100ppmのセンサ部20(センサ部A)と、検出濃度範囲が20ppm〜1000ppmのセンサ部20(センサ部C)と、がある場合、最適なセンサ部20としてセンサ部Bを決定することができるのであれば任意である。
具体的には、例えば、センサ部A(検出濃度範囲が1ppm〜100ppm)、センサ部B(検出濃度範囲が10ppm〜200ppm)、センサ部C(検出濃度範囲が20ppm〜1000ppm)があり、センサ部Aの検出濃度範囲が最も低濃度側であり、センサ部Cの検出濃度範囲が最も高濃度側である場合、センサ部C→センサ部B→センサ部Aの順に最適なセンサ部20であるか否か判断して、最適なセンサ部20を決定するようにしても良い。より具体的には、例えば、センサ部Cの検出データに基づいて、センサ部Cが最適なセンサ部20であるか否か判断し、センサ部Cが最適なセンサ部20であると判断した場合に、最適なセンサ部20としてセンサ部Cを決定する。センサ部Cが最適なセンサ部20でないと判断した場合には、センサ部Bの検出データに基づいて、センサ部Bが最適なセンサ部20であるか否か判断し、センサ部Bが最適なセンサ部20であると判断した場合に、最適なセンサ部20としてセンサ部Bを決定する。センサ部Bが最適なセンサ部20でないと判断した場合には、センサ部Aの検出データに基づいて、センサ部Aが最適なセンサ部20であるか否か判断し、センサ部Aが最適なセンサ部20であると判断した場合に、最適なセンサ部20としてセンサ部Aを決定し、センサ部Aが最適なセンサ部20でないと判断した場合には、例えば、検出エラーを表示する等する。このようにして、最適なセンサ部20を決定するようにしても良い。なお、判断の順番は、センサ部C→センサ部B→センサ部Aの順に限ることはなく、例えば、センサ部A→センサ部B→センサ部Cの順であっても良い。
【0280】
また、第2の実施の形態において、検出対象物質の濃度の範囲が予め分かっている場合等には、一のグループに所属する各種類のセンサ部20それぞれによる検出データに基づいて各種類のセンサ部20の中から最適な検出濃度範囲を有するセンサ部20を決定する必要はない。すなわち、検出対象物質の濃度の範囲が予め分かっている場合等には、例えば、その検出対象物質の濃度の範囲を含む検出濃度範囲を有するセンサ部20を、最適な検出濃度範囲を有するセンサ部20として決定しても良い。
【0281】
また、第2の実施の形態は、第3の実施の形態と組み合わせても良い。
具体的には、例えば、第2の実施の形態のマトリックスセンサ10Aを用いて、最適な検出濃度範囲を有する複数のセンサ部20それぞれによる検出データを取得し、その取得された検出データを用いて所定の統計処理を行い、その所定の統計処理の結果に基づいて、検出対象物質の濃度を算出するようにしても良い。
この場合、検出対象物質の測定精度を高めることができる。
【0282】
また、第2の実施の形態は、第4の実施の形態と組み合わせても良い。
具体的には、例えば、第2の実施の形態のマトリックスセンサ10Aに差分用センサ部20Cを設けて、最適な検出濃度範囲を有するセンサ部20による検出データと、差分用センサ部20Cによる検出データと、の差分を取り、その差分に基づいて、検出対象物質の濃度を算出するようにしても良い。
【0283】
また、第2の実施の形態は、第3の実施の形態及び第4の実施の形態と組み合わせても良い。
具体的には、例えば、第2の実施の形態のマトリックスセンサ10Aに差分用センサ部20Cを設け、その差分用センサ部20Cが設けられたマトリックスセンサ10Aを用いて、最適な検出濃度範囲を有する複数のセンサ部20それぞれによる検出データを取得し、その取得された複数のセンサ部20それぞれによる検出データと、差分用センサ部20Cによる検出データと、の差分をそれぞれ取り、その差分を用いて所定の統計処理を行い、その所定の統計処理の結果に基づいて、検出対象物質の濃度を算出するようにしても良い。
【0284】
また、第3の実施の形態は、第4の実施の形態と組み合わせても良い。
具体的には、例えば、第4の実施の形態のマトリックスセンサ10Cを用いて、検出濃度範囲が同一である複数のセンサ部20それぞれによる検出データを取得し、その取得された複数のセンサ部20それぞれによる検出データと、差分用センサ部20Cによる検出データと、の差分をそれぞれ取り、その差分を用いて所定の統計処理を行い、その所定の統計処理の結果に基づいて、検出対象物質の濃度を算出するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0285】
【図1】第1の実施の形態のセンサシステムの機能的構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施の形態のセンサシステムを模式的に示す図である。
【図3】第1の実施の形態のマトリックスセンサの平面斜視図である。
【図4】第1の実施の形態のマトリックスセンサの分解図である。
【図5】図3のV−V線における断面図である。
【図6】第1の実施の形態のマトリックスセンサが備える基板であって、電極が形成された基板の平面図である。
【図7】第1の実施の形態のマトリックスセンサが有するセンサ部の特定の仕方を説明するための図である。
【図8】第1の実施の形態のセンサシステムが備える検出データ取得部の駆動回路を示す図である。
【図9】第1の実施の形態のマトリックスセンサが備える作用電極に接続されたアドレシング可能な能動素子を示す回路図である。
【図10】図9に示す能動素子の一例を示す回路図である。
【図11】図9に示す能動素子の一例を示す回路図である。
【図12】図9に示す能動素子の一例を示す回路図である。
【図13】第1の実施の形態のセンサシステムによる検出対象物質の濃度の測定に関する処理を説明するためのフローチャートである。
【図14】第2の実施の形態のセンサシステムの機能的構成を示すブロック図である。
【図15】第2の実施の形態のマトリックスセンサの平面斜視図である。
【図16】第2の実施の形態のマトリックスセンサの分解図である。
【図17】図15のXVII−XVII線における断面図である。
【図18】検出濃度範囲と、検出濃度範囲に対応する応答電流の範囲と、を説明するための図である。
【図19】許容電流範囲の決定の仕方を説明するための図である。
【図20】第2の実施の形態のセンサシステムによる検出対象物質の濃度の測定に関する処理を説明するためのフローチャートである。
【図21】第3の実施の形態のセンサシステムの機能的構成を示すブロック図である。
【図22】第3の実施の形態のセンサシステムによる検出対象物質の濃度の測定に関する処理を説明するためのフローチャートである。
【図23】第4の実施の形態のセンサシステムの機能的構成を示すブロック図である。
【図24】第4の実施の形態のマトリックスセンサの平面斜視図である。
【図25】図24のXXV−XXV線における断面図である。
【図26】第4の実施の形態のセンサシステムによる検出対象物質の濃度の測定に関する処理を説明するためのフローチャートである。
【図27】実施例で作成したマトリックスセンサの分解図である。
【図28】実施例で使用した測定装置を模式的に示す図である。
【図29】実施例で作成したマトリックスセンサが有するセンサ部を用いて行った、ホルムアルデヒドガスを供給したときのセンサ部の応答を観察するための実験の実験結果を示す図である。
【図30】実施例で作成したマトリックスセンサが有するセンサ部(検出濃度範囲が異なる複数種類のセンサ部)を用いて行った、検出濃度範囲が異なる複数種類のセンサ部を備えることによる効果を実証するための実験の実験結果を示す図である。
【図31】実施例で作成したマトリックスセンサが有するセンサ部(検出濃度範囲が同一である複数のセンサ部)を用いて行った、検出データの平均値を求めることによる効果を実証するための実験の実験結果を示す図である。
【図32】実施例で作成したマトリックスセンサが有するセンサ部と差分用センサ部とを用いて行った、検出データの差分を取ることによる効果を実証するための実験の実験結果を示す図である。
【図33】マトリックスセンサが備える基板であって、電極が形成された基板の平面図の変形例である。
【図34】センサシステムが備える検出データ取得部の駆動回路を示す図の変形例である。
【図35】センサシステムによる検出対象物質の濃度の測定に関する処理の変形例を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0286】
1,1A,1B,1C センサシステム
10,10A,10C マトリックスセンサ
11 基板
12 電極(検出素子)
13 多孔体
13a 細孔
14 隔壁部
17 封止部材
20 センサ部
20C 差分用センサ部
30 封止除去部(除去手段)
40 検出データ取得部(取得手段)
40C 検出データ取得部(取得手段、差分用取得手段)
51 CPU(判断手段、指定手段、算出手段)
531,531C 劣化判断プログラム(判断手段)
532,532A,532B,532C センサ部指定プログラム(指定手段)
535,535A,535B,532C 濃度算出プログラム(算出手段)
E 酵素(反応物質(生体物質))

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に、2次元又は3次元マトリックス状に配置された複数のセンサ部と、
前記基板上に配置され、前記センサ部同士を隔てる隔壁部と、
を備え、
前記センサ部は、前記基板上に配置された検出素子と、前記検出素子上に配置され、少なくとも前記基板に対して略垂直方向に貫通する細孔を有する多孔体と、前記多孔体の細孔の内部に担持され、検出対象物質と選択的に反応する反応物質と、を有し、前記検出素子により前記反応に伴う所定の変化を検出することを特徴とするマトリックスセンサ。
【請求項2】
基板と、前記基板上に、2次元又は3次元マトリックス状に配置された複数のセンサ部と、前記基板上に配置され、前記センサ部同士を隔てる隔壁部と、を有するマトリックスセンサと、
前記複数のセンサ部のうちの、所定のセンサ部を指定する指定手段と、
前記指定手段により指定されたセンサ部による検出データを取得する取得手段と、
を備え、
前記センサ部は、前記基板上に配置された電極と、前記電極上に配置され、少なくとも前記基板に対して略垂直方向に貫通する細孔を有する多孔体と、前記多孔体の細孔の内部に担持され、検出対象物質と選択的に反応する生体物質と、を有し、前記電極により前記反応に伴う所定の変化を検出することを特徴とするセンサシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【公開番号】特開2010−19570(P2010−19570A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177720(P2008−177720)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(505303059)株式会社船井電機新応用技術研究所 (108)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】