説明

マフラーサポート

【課題】ゴム材料自体の低ばね化やゴムボリュームの減少による耐久性の低下および振動入力方向のばね特性の高ばね化による防振性能の低下の問題を伴うことなく、装着時における排気管側と車体側との各取付位置の相対的な寸法ばらつきに起因する装着作業の困難さを効果的に軽減せしめ得る、新規な構造のマフラーサポートを提供すること。
【解決手段】インナ取付部材12とアウタ取付部材14を連結するゴム弾性体16に特定の傾斜部分を設けたことで、ゴム弾性体16に剪断成分が有効に生ぜしめられ、排気管18の振動入力方向となる鉛直方向の振動に対して優れた防振性能と、耐久性能とが、発揮されると共に、インナ取付部材12とアウタ取付部材14との水平方向での相対変位が容易に許容されて、排気管18側と車体20側との各取付位置の相対的な寸法ばらつきに対応した装着作業性の向上が、効果的に達成され得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の排気管を車体に対して防振支持せしめるマフラーサポートに係り、特にマフラーサポートの防振性能や耐久性を損なうことなく装着作業を容易に行うことを可能にした新規構造のマフラーサポートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、排気管の車体への支持部位には、マフラーサポートが用いられている。マフラーサポートとしてゴム単品で形成された吊り下げタイプもあるが、かかるゴム単品のマフラーサポートでは、排気管の他部品への干渉を避けるために排気管の変位量を確実に制限することが難しい。そこで、例えば、特開2005−2963号公報(特許文献1)に示されているように、車体に取り付けられる溝形取付金具の溝内に、排気管に取り付けられる取付軸金具を挿通配置させて、取付軸金具を溝形取付金具の両側壁に対して一対のゴム弾性体で連結せしめた構造のマフラーサポートが提案されている。
【0003】
ところで、マフラーサポートには、充分な耐久性を確保しつつ、排気管の振動絶縁のために一般の防振マウント等に比して柔らかいばね特性を確保することが要求される。そこで、上記特許文献1にも示されているように、ゴムボリュームを確保して耐久性を維持しつつ、排気管の振動入力方向となる上下方向で柔らかいばね特性を実現するために、取付軸金具を挟んだ両側で溝形取付金具の両側壁に向かって略水平方向に延びる一対のゴム弾性体が採用されており、このゴム弾性体における排気管の振動入力方向の主たる変形が剪断変形となるようにされている。
【0004】
一方、排気管は長尺で車体のフロントからリヤまで延びていることから、自動車の各部品や組付けのばらつきに起因して、マフラーサポートにおける排気管側の取付位置と車体側の取付位置とが相互に位置ずれし易い。それ故、マフラーサポートには、そのような取付位置のずれがあった場合でも、大きな支障なく良好な作業性をもって装着できることが要求される。
【0005】
ところが、上述の特許文献1に記載の如き従来構造のマフラーサポートでは、柔らかいばね特性を実現するために採用された略水平方向に延びるゴム弾性体が、取付軸金具の溝形取付金具に対する水平方向の相対変位に際して圧縮/引張変形することになる。そのために、取付軸金具の排気管側への取付位置と溝形取付金具の車体側への取付位置とにずれが生じた場合に、取付軸金具を溝形取付金具に対して相対変位させて排気管側と車体側との各取付位置に取り付けるに際して、それら取付軸金具と溝形取付金具との間でゴム弾性体が圧縮/引張変形することとなって大きな変形剛性のために装着作業が非常に困難になっていたのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−2963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであり、その解決課題とするところは、ゴム材料自体の低ばね化やゴムボリュームの減少による耐久性の低下の問題および振動入力方向のばね特性の高ばね化による防振性能の低下の問題を伴うことなく、装着時における排気管側と車体側との各取付位置の相対的な寸法ばらつきに起因する装着作業の困難さを効果的に軽減せしめ得る、新規な構造のマフラーサポートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の第一の態様は、排気管に取り付けられるインナ取付部材を、車体に取り付けられるアウタ取付部材に設けられた一対の対向板部間に配設して、該インナ取付部材から該一対の対向板部に向かって両側に延びる一対のゴム弾性体を設けたマフラーサポートにおいて、前記一対のゴム弾性体において、それぞれ、前記一対の対向板部の対向方向に対して側方に傾斜し、前記インナ取付部材の該対向板部への接近および離隔方向への変位に際して剪断成分をもって弾性変形せしめられる傾斜部分を設けたマフラーサポートを、特徴とする。
【0009】
本態様のマフラーサポートでは、排気間側と車体側との各取付板の相対的な寸法ばらつきに起因して、インナ取付部材とアウタ取付部材とを相対変位させなければならない装着時において、インナ取付部材をアウタ取付部材に対して装着時の水平方向で例えば一対の対向板部の対向方向やその直交方向に相対変位させた場合に、何れも、一対のゴム弾性体は剪断成分をもって弾性変形することとなる。それ故、剪断変形に基づく柔らかいばね特性に基づいて、インナ取付部材とアウタ取付部材とにおける排気管側と車体側への取付位置を相対的に調節することが容易となる。従って、部品寸法誤差や組付誤差等による車両毎の個体差により、マフラーサポートの排気管側への取付位置と車体側への取付位置とが相対的にずれている場合でも、マフラーサポートのインナ取付部材とアウタ取付部材をそれら各取付位置に対して容易に取り付けることができて、優れた作業性をもってマフラーサポートを車両に対して装着することが可能となる。
【0010】
しかも、振動入力方向においても、一対の対向板部の対向方向に直交する鉛直上下方向でインナ取付部材がアウタ取付部材に対して相対変位するに際して、一対のゴム弾性体には主として剪断変形が生ぜしめられることとなる。それ故、入力振動に対して、一対のゴム弾性体における低ばね特性により優れた振動絶縁効果が発揮され得る。
【0011】
加えて、排気管の支持荷重入力方向でもある振動入力方向では、上述のとおり一対のゴム弾性体に主として剪断変形が生ぜしめられるものであることから、低ばね特性による防振性能を損なうことなく一対のゴム弾性体のゴムボリュームを充分に確保することが可能となる。これにより、優れた防振性能を確保しつつ、排気管の防振支持機能を充分な耐久性をもって実現することができるのである。
【0012】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係るマフラーサポートにおいて、更に、前記インナ取付部材が直線的に延びる軸形状とされている一方、前記アウタ取付部材が底板部の両側に一対の側板部が一体形成された溝形状とされており、該アウタ取付部材の溝部内を溝方向に延びる状態で該インナ取付部材が配設されて、該インナ取付部材から前記一対の対向板部としての該一対の側板部に向かって両側に延びる前記一対のゴム弾性体により該インナ取付部材と該アウタ取付部材とが弾性連結されている構造とされたものである。
【0013】
本態様のマフラーサポートでは、インナ取付部材が軸形状とされて軸方向長さが確保されることにより、インナ取付部材と一対の対向板部との対向面間を弾性連結するゴム弾性体の傾斜部分を、インナ取付部材の軸方向に向かって一層大きく傾斜させることが出来る。その結果、インナ取付部材が一対の対向板部に対して軸直角方向で接近/離隔せしめられる変位方向におけるゴム弾性体の剪断成分を一層大きく設定して、そのばね特性をより柔らかくすることで、装着作業性の更なる向上を図ることが可能となる。
【0014】
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係るマフラーサポートであって、更に、前記一対のゴム弾性体において、それぞれ、前記一対の対向板部の対向方向への直交方向で互いに反対向きに傾斜して対を為す反対傾斜部を設けたものである。
【0015】
本態様のマフラーサポートでは、インナ取付部材とアウタ取付部材との間に荷重が及ぼされてそれら両取付部材が相対変位せしめられた際に、ゴム弾性体に傾斜部分を設けることに伴って、ゴム弾性体の弾性反力としてインナ取付部材とアウタ取付部材との間に及ぼされるおそれのあるこじり方向の力が、反対傾斜部の相殺作用で効果的に軽減され得る。それ故、例えば略鉛直方向に入力される排気管の支持荷重や振動荷重、略水平方向に入力される装着時の排気管側と車体側との相対位置ずれに起因する取付荷重などがインナ取付部材とアウタ取付部材との間に及ぼされた場合でも、インナ取付部材やアウタ取付部材における排気管や車体への取付部の方向が維持されて排気管や車体へのこじり方向の力の作用が抑えられて目的とする防振効果が安定して発揮されると共に、ゴム弾性体における歪の集中等の問題も緩和され得る。
【0016】
特に、反対傾斜部は、協働して、要求される排気管の支持荷重や防振荷重を分担することから、反対傾斜部の合計ボリュームとしては、単一方向の傾斜部分を設けた本発明のマフラーサポートのゴム弾性体や、特許文献1に記載の如き従来構造の傾斜部分を有しないマフラーサポートにおけるゴム弾性体と比しても、略同じボリュームで防振性能や耐久性の要求特性を達成することが出来、著しく大型化することも無いのである。
【0017】
本発明の第四の態様は、前記第三の態様に係るマフラーサポートにおいて、更に、互いに反対向きに傾斜して対を為す前記反対傾斜部が、前記排気管の支持荷重入力方向で互いに離隔して且つ該支持荷重入力方向の投影で少なくとも一部が重なる状態で設けられている構造を、採用したものである。
【0018】
本態様のマフラーサポートでは、反対傾斜部を排気管の支持荷重入力方向となる装着状態での略鉛直方向で上下に位置するように設けたことにより、マフラーサポートの部品サイズを、水平方向においてコンパクト化することが出来る。また、前述のとおり反対傾斜部は協働して排気管の支持荷重や防振荷重を分担し得ることから、本態様のマフラーサポートは、鉛直方向においても、従来構造のマフラーサポートに比して著しく大形化することが無い。
【0019】
本発明の第五の態様は、前記第一〜四の何れか一の態様に係るマフラーサポートにおいて、更に、前記インナ取付部材から前記一対の対向板部に向かって両側に延びる前記一対のゴム弾性体が、それぞれ、該インナ取付部材と該対向板部との間の全長に亘って前記傾斜部分とされている構造を、採用したものである。
【0020】
本態様のマフラーサポートでは、ゴム弾性体の全体ボリュームに対して傾斜部分のボリュームを大きく確保できることから、かかる傾斜部分による前述の如き本発明の作用効果が、一層効果的に発揮され得る。
【発明の効果】
【0021】
本発明に従う構造とされたマフラーサポートでは、インナ取付部材とアウタ取付部材を連結するゴム弾性体に特定の傾斜部分を設けたことにより、排気管の支持荷重や振動荷重の主たる入力方向となる鉛直方向だけでなく、水平方向となる前後方向や左右方向においても、かかるゴム弾性体に剪断成分が有効に生ぜしめられて、柔らかいばね特性が発揮される。それ故、車両上下方向の振動に対して発揮される低ばね特性による優れた防振性能と、低ばね特性を維持しつつ確保され得るゴムボリュームによる優れた耐久性能とが、何れも発揮されると共に、インナ取付部材とアウタ取付部材との水平方向での相対変位が低ばね剛性下で容易に許容されることにより、排気管側と車体側との各取付位置の相対的な寸法ばらつきに対応した装着作業性の向上が、効果的に達成され得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第一実施形態としてのマフラーサポートの正面図。
【図2】図1に示されたマフラーサポートの平面図。
【図3】図1の右側面図。
【図4】本発明の第二実施形態としてのマフラーサポートの平面図。
【図5】本発明の第三実施形態としてのマフラーサポートの平面図。
【図6】本発明の第四実施形態としてのマフラーサポートの正面図。
【図7】図6に示されたマフラーサポートの平面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1〜3には、本発明の第一実施形態としてのマフラーサポート10が示されている。このマフラーサポート10は、インナ取付部材12とアウタ取付部材14とが、一対のゴム弾性体16,16で弾性連結された構造を有している。そして、インナ取付部材12が排気管18に対して固定的に取り付けられる一方、アウタ取付部材14が車両の車体20に対して固定的に取り付けられることにより、排気管18の長さ方向中間部分を車体20に対して防振支持するようになっている。
【0025】
なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、車両装着状態において略鉛直上下方向となる図1中の上下方向を言う。また、車両装着状態で何れも略水平方向となる、図1中の左右方向を左右方向と言うと共に、図1の紙面に垂直な方向を前後方向という。実際の車両装着状態では、かかる説明中の左右方向と前後方向の何れが、車両左右方向または車両前後方向であっても良いし、更に排気管の支持位置や装着スペース等によって、車両左右方向や前後方向に対して傾斜した斜め方向であっても良い。
【0026】
また、自動車への装着状態では、インナ取付部材12とアウタ取付部材14との間に、排気管18の分担支持荷重が及ぼされる。それにより、ゴム弾性体16,16が弾性変形せしめられて、インナ取付部材12がアウタ取付部材14に対して下方に所定量だけ相対変位して位置せしめられることとなる。
【0027】
より詳細には、インナ軸部材12は、装着状態で前後方向に向かって一定断面形状で直線的に延びる軸形状の金具であり、中心軸上には軸方向に貫通して延びる取付孔22が形成されている。インナ軸部材12の外周面は、両側上部が上下に延びる略平行面24,24とされている一方、両側下部が下方に向かって次第に幅寸法が小さくなる下向きの傾斜面26,26とされている。また、インナ軸部材12の取付孔22には、軸方向に延びる凹凸が付されており、全体として花びら型の断面形状とされている。
【0028】
そして、図1中に仮想線で示されているように、排気管18に固着された鉤形(逆L字形)の取付軸28が、インナ軸部材12の取付孔22に嵌め入れられ、必要に応じてボルト等で固定されることによって取り付けられている。なお、取付軸28の外周面には、取付孔22の内周面に対応した凹凸が付されており、インナ軸部材12に対する取付軸28の中心軸回りの回転が阻止されるようになっている。
【0029】
一方、アウタ取付部材14は、帯板形状の金具をプレス加工すること等によって形成されたものであり、左右方向に延びる平坦な底板部30の長さ方向両側にそれぞれ上方に向かって立ち上がる一対の対向板部としての左右一対の側板部32,32が一体形成された溝形状とされている。なお、底板部30と側板部32,32は、インナ軸部材12の軸方向長さと略同じ略一定の幅寸法で延びている。また、底板部30および両側板部32,32には、幅方向中央部分を略全長に亘って延びる補強リブ34が設けられている。更にまた、一対の側板部32,32の上側部分32a,32aが、上下に略平行に延びており、インナ軸部材12の平行面24,24に対して対向位置せしめられている。一方、一対の側板部32,32の下側部分32b,32bは、下方に向かって次第に対向距離が狭くなるように傾斜しており、インナ軸部材12の傾斜面26,26に対して対向位置せしめられている。
【0030】
また、アウタ取付部材14には、両側板部32,32の各上端縁部から相互に離隔する外方に向かって水平に広がる取付板部36,36が一体形成されている。これら取付板部36,36には、各中央部分にボルト孔38,38が設けられており、図示しない固定ボルトがボルト孔38に挿通されて車体20に螺合されることにより、両側板部32,32が車体20に対してボルト固定されて取り付けられるようになっている。なお、各側板部32と取付板部36との間には、幅方向両側縁部間に跨がって延びる補強片40,40が一体形成されている。
【0031】
そして、前後方向に延びる溝形状とされたアウタ取付部材14に対して、かかる溝部内の幅方向中央部分で底部から所定距離だけ上方に離れた位置を前後方向に延びる状態でインナ取付部材12が配設されている。更に、インナ取付部材12を軸直角方向に挟んだ左右両側には、一対のゴム弾性体16,16が配設されており、インナ取付部材12の左右両側面とアウタ取付部材14の左右両側板部32,32との各対向面が、かかる一対のゴム弾性体16,16で弾性連結されている。
【0032】
本実施形態のゴム弾性体16は、図1中の上下方向となる厚さ方向で互いに所定の空間41を隔てて独立状態で配設された上側ゴム弾性体16aおよび下側ゴム弾性体16bから構成されている。これら上側ゴム弾性体16aと下側ゴム弾性体16bは、互いに同じゴム材料で一体成形されており、何れも、インナ取付部材12とアウタ取付部材14とに固着されており、それらインナ取付部材12とアウタ取付部材14を含むゴム弾性体16,16の一体加硫成形品として、本実施形態のマフラーサポート10が構成されている。
【0033】
また、上側ゴム弾性体16aは、インナ取付部材12の平行面24とアウタ取付部材14の側板部32の上側部分32aとの対向面間に跨がって配設されている一方、下側ゴム弾性体16bは、インナ取付部材12の傾斜面26とアウタ取付部材14の側板部32の下側部分32bとの対向面間に跨がって配設されている。更に、これら上側ゴム弾性体16aと下側ゴム弾性体16bは、ゴムボリュームが相互に略同じに設定されている。
【0034】
更にまた、図1に示されているように前後方向の正面視では、上側ゴム弾性体16aと下側ゴム弾性体16bが互いに略同一形状とされており、且つ互いに平行に延びる直線的な弾性主軸をもってインナ取付部材12とアウタ取付部材14との対向面間に延びている。特に本実施形態では、上側ゴム弾性体16aと下側ゴム弾性体16bの何れも、インナ取付部材12からアウタ取付部材14の側板部32,32に向かって下方に傾斜する弾性主軸をもって設けられている。
【0035】
一方、図2に示されているように上下方向の平面視では、上側ゴム弾性体16aと下側ゴム弾性体16bとが、互いに幅寸法は略同じであるものの、インナ取付部材12の軸方向となる前後方向において互いに反対側に向かって、交差するように各直線的に延びる弾性主軸をもって、インナ取付部材12とアウタ取付部材14との対向面間に延びている。
【0036】
なお、インナ取付部材12を軸直角方向に挟んだ左右両側の一対の上側ゴム弾性体16a,16aは、インナ取付部材12から左右両側の側板部32,32に対して何れも車両前後方向の一方の側に向かって延びる方向に傾斜している。一方、インナ取付部材12を軸直角方向に挟んだ左右両側の一対の下側ゴム弾性体16b,16bは、インナ取付部材12から左右両側の側板部32,32に対して何れも車両前後方向の他方の側に向かって延びる方向に傾斜している。
【0037】
特に本実施形態では、上側ゴム弾性体16aと下側ゴム弾性体16bとの各固着位置の前後方向ずれ量が、アウタ取付部材14よりインナ取付部材12において大きくされている。これにより、インナ取付部材12に対するゴム弾性体16の固着面が軸方向に大きく設定されており、インナ取付部材12の上下方向への傾斜変位(こじり方向変位)に対して、ゴム弾性体16によるばね剛性が一層効果的に発揮されるようになっている。
【0038】
このような構造とされたマフラーサポート10は、その装着状態下、インナ取付部材12とアウタ取付部材14との間へ、排気管18の分担支持荷重が上下方向に及ぼされる。そして、かかる分担荷重でゴム弾性体16,16が弾性変形することにより、インナ取付部材12がアウタ取付部材14に対して下方に所定量だけ相対変位して位置せしめられることとなり、図1中、インナ取付部材12は、アウタ取付部材14の凹溝内の略中央に位置するようにされている。
【0039】
そして、かかる状態下、防振すべき主たる振動が上下方向に及ぼされると、一対のゴム弾性体16,16を構成する上下各一対の上側ゴム弾性体16a,16aと下側ゴム弾性体16b,16bとの弾性変形に基づいて、インナ取付部材12がアウタ取付部材14に対して弾性変位せしめられて、目的とする防振効果が発揮されることとなる。また、かかる振動入力に際して、一対のゴム弾性体16,16を構成する上下各一対の上側ゴム弾性体16a,16aと下側ゴム弾性体16b,16bは、実質的に剪断変形せしめられることから、柔らかいばね特性が発揮されて、優れた振動絶縁効果を得ることができるのである。
【0040】
さらに、自動車では、排気管18や車体20の各種構成部材における寸法誤差や組付誤差の重畳に起因して、マフラーサポート10の装着部位における排気管18と車体20の固定用ねじ穴との間に相対的な位置ずれが発生し易い。かかる位置ずれには、マフラーサポート10の装着時にインナ取付部材12とアウタ取付部材14を相対変位させて、それらインナ取付部材12とアウタ取付部材14を排気管18と車体20とに各々取り付けることによって対応することとなる。
【0041】
その際、上述の構造とされたマフラーサポート10では、ゴム弾性体16を構成する上下のゴム弾性体16a,16bが平面視で傾斜部分を備えていることから、インナ取付部材12とアウタ取付部材14を鉛直上下方向だけでなく水平直交方向となる前後方向や左右方向への相対変位までも、ゴム弾性体16,16が剪断成分をもって弾性変形せしめられることとなる。それ故、前後方向や左右方向に向けて、インナ取付部材12とアウタ取付部材14を相対変位させることが、ゴム弾性体16,16の小さいばね剛性のもとで容易に許容され得ることとなり、排気管18と車体20の固定用ねじ穴との相対的な位置ずれに対処してマフラーサポート10を自動車に対して良好な作業性をもって装着することが可能となるのである。
【0042】
加えて、本実施形態のマフラーサポート10では、上下のゴム弾性体16a,16bが平面視において一対の対向板部の対向方向への直交方向である前後方向で互いに反対向きに傾斜して対を為す反対傾斜部を備えていることから、上下方向や前後方向,左右方向の荷重がインナ取付部材12とアウタ取付部材14との間に及ぼされた際のそれら両取付部材12,14間におけるこじり方向の相対変位が、相殺的に抑えられる。特に、本実施形態では、上下のゴム弾性体16a,16bが略同じゴムボリュームで且つ左右方向線を挟んで相互に対称的に形成されていることから、荷重入力時におけるこじり方向変位の相殺効果が一層効果的に発揮される。これにより、排気管18の支持の際や排気管18と車体20の固定用ねじ穴との相対的な位置ずれに対処する際にインナ取付部材12とアウタ取付部材14とが相対変位せしめられた際にも、排気管18へのこじり方向の外力作用が回避されると共に、ゴム弾性体16における応力集中も軽減され得る。
【0043】
さらに、上述のとおり、本実施形態のマフラーサポート10においては、排気管18の振動入力方向となる上下方向だけでなく、排気管18の支持の際や排気管18と車体20の固定用ねじ穴との相対的な位置ずれに対処する際の外力が及ぼされる前後方向や左右方向において、変位せしめられた際にも、ゴム弾性体16,16の弾性変形が剪断成分をもって生ぜしめられることから、それら各方向に要求される低ばね特性を達成しつつ、ゴムボリュームを充分に確保することができるのであり、その結果、優れた耐久性も実現され得るのである。
【0044】
更にまた、本実施形態のマフラーサポート10は、インナ取付部材14が軸形状とされて軸方向長さが確保されることにより、インナ取付部材14と一対の側板部32,32との対向面間を弾性連結するゴム弾性体16,16の傾斜部分を、インナ取付部材14の軸方向に向かって一層大きく傾斜させることが出来る。それ故、インナ取付部材14が一対の側板部32,32に対して軸直角方向で接近/離隔変位せしめられる左右方向におけるゴム弾性体の剪断成分を一層大きく設定して、そのばね特性をより柔らかくすることで、装着作業性の更なる向上を図ることが可能となる。
【0045】
次に、上述の第一の実施形態のマフラーサポート10において、その一対のゴム弾性体16,16として採用され得る他の具体例を、第二〜四の実施形態として以下に示す。なお、以下の実施形態において、第一の実施形態と同様な構造とされた各部材および部位には、それぞれ、第一の実施形態と同一の符号を付することにより詳細な説明を省略する。また、以下の各実施形態に示されたマフラーサポートは、改めて記載しないが、第一の実施形態と同様な作用効果を発揮し得るものである。
【0046】
図4に示された第二の実施形態のマフラーサポート42および図5に示された第三の実施形態のマフラーサポート44は、何れも、第一の実施形態のマフラーサポート10に比して、一対のゴム弾性体16,16を構成する上側ゴム弾性体16aおよび下側ゴム弾性体16bに関し、それらの平面視の形状の別例を示すものである。
【0047】
先ず、図4に示された第二の実施形態において、マフラーサポート42の上下のゴム弾性体16a,16bは、インナ取付部材12とアウタ取付部材14との対向面間に延びる長さ方向において、インナ取付部材12側とアウタ取付部材14側との両端部分が、それぞれ、インナ取付部材12の軸直角方向で直線的に延びる非傾斜部分46,48とされている。そして、これら非傾斜部分46,48間に位置せしめられた、上下のゴム弾性体16a,16bにおける長さ方向の中間部分が、前後方向(図4中の上下方向)で互いに反対側に向かって略同じ角度で傾斜して延びる傾斜部分50,50とされている。なお、本実施形態においては、上下のゴム弾性体16a,16bにおける傾斜部分50,50が対を為して反対傾斜部を構成している。
【0048】
このように、傾斜部分50の長さを、上下のゴム弾性体16a,16bの長さ方向で適当な大きさに調節することにより、インナ取付部材12とアウタ取付部材14の左右方向での相対変位に対してゴム弾性体16,16に及ぼされる剪断成分の大きさ延いてはゴム弾性体16,16によって発揮される左右方向のばね特性を、ゴム弾性体16,16のゴムボリュームや鉛直方向のばね特性を略一定に保ちつつ、変更チューニングすることが可能となる。
【0049】
また、図5に示された第三の実施形態において、マフラーサポート44の上下のゴム弾性体16a,16bは、何れも、インナ取付部材12とアウタ取付部材14との対向面間に延びる長さ方向において、前後方向(図5中の上下方向)で略円弧形状に湾曲しており、かかる湾曲により傾斜部分が構成されている。特に本実施形態では、上下のゴム弾性体16a,16bが、何れも、略一定の断面形状(幅寸法)で長さ方向の全長に亘って湾曲して延びていることにより、その全長が湾曲部分とされている。なお、長さ方向の中央部分に位置する変曲点を挟んだ両側(インナ取付部材12側およびアウタ取付部材14側)に、互いに前後方向で反対側に傾斜した傾斜部分を構成することも可能である。なお、本実施形態においても、上下のゴム弾性体16a,16bにおける傾斜部分が対を為して反対傾斜部を構成している。
【0050】
更にまた、本実施形態のマフラーサポート44では、上側ゴム弾性体16aと下側ゴム弾性体16bとにおいて、その湾曲方向が前後方向で互いに反対向きとなるように設定されている。これにより、左右方向や前後方向等の荷重入力時に、ゴム弾性体16,16の弾性反力としてインナ取付部材12とアウタ取付部材14との間に及ぼされるこじり方向の力成分が一層効果的に相殺軽減され得る。
【0051】
さらに、図6〜7には、本発明の第四の実施形態としてのマフラーサポート52が示されている。本実施形態のマフラーサポートも、第一の実施形態に比してゴム弾性体16,16の別態様を示すものであり、第一の実施形態と同様な構造とされた部材および部位に対しては、それぞれ、第一の実施形態と同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0052】
本実施形態のマフラーサポート52では、インナ取付部材12とアウタ取付部材14とを連結する一対のゴム弾性体16,16が、それぞれ、インナ取付部材12の軸方向となる前後方向において互いに反対側に向かって傾斜して延びる第一のゴム弾性体16aと第二のゴム弾性体16bとによって構成されている。特に本実施形態では、これら第一のゴム弾性体16aと第二のゴム弾性体16bが、アウタ取付部材14の前後方向中央部分からインナ取付部材12に向かって、インナ取付部材12の軸方向両側に向かって相互に開くようにしてそれぞれ直線的に傾斜して延びている。
【0053】
そして、第一のゴム弾性体16aと第二のゴム弾性体16bとが、図7に示された平面視に示されているように、インナ取付部材12の軸直角方向線を挟んで対称形状とされている。また、これら第一のゴム弾性体16aと第二のゴム弾性体16bは、何れも、略一定の断面形状で直線的に延びており、互いにゴムボリュームも略同じとされている。即ち、本実施形態では、第一のゴム弾性体16aと第二のゴム弾性体16bの各々全長により、何れも傾斜部分が構成されている。
【0054】
このような本実施形態のマフラーサポート52では、インナ取付部材12の軸方向で互いに反対向きに傾斜して対を為す反対傾斜部としての傾斜部分を有する第一及び第二のゴム弾性体16a,16bを、図6に示された正面視で重なるように設けたことにより、本体ゴム弾性体16,16の全体ゴムボリュームを確保しつつ、図6中の高さ方向の寸法を小さく設定することも可能となる。なお、これら第一及び第二のゴム弾性体16a,16bの弾性変形作用に基づいて、ゴム材料自体の低ばね化やゴムボリュームの減少による耐久性の低下の問題および振動入力方向のばね特性の高ばね化による防振性能の低下の問題などを伴うことなく、装着時における排気管18側と車体20側との各取付位置の相対的な寸法ばらつきに起因する装着作業の困難さを軽減せしめ得る等といった、第一の実施形態のマフラーサポート10と同様な技術的効果を達成し得るものであることは、言うまでもない。
【0055】
以上、本発明の幾つかの実施形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、かかる実施形態における具体的な記載によって本発明が限定的に解釈されるものでない。例えば、ゴム弾性体における弾性変形に伴ってインナ取付部材12とアウタ取付部材14との間に及ぼされるこじり方向力が問題とならない場合等には、第一〜第四の実施形態においてゴム弾性体16を協働して構成するゴム弾性体16a,16bの何れか一方だけを採用しても良い。
【0056】
また、ゴム弾性体16として互いに反対向きに傾斜した二つのゴム弾性体16a,16bを採用する場合でも、それら二つのゴム弾性体16a,16bにおける傾斜角度や傾斜部分の長さ,断面積,形状等を相互に異ならせることも可能である。特にインナ取付部材12およびアウタ取付部材14の形状等の理由により、二つのゴム弾性体16a,16bの全長が異なる場合には、それら二つのゴム弾性体16a,16bの傾斜部分の長さや断面積,形状等を積極的に異ならせて、こじり方向の相殺作用が効率的に発揮されるようにすることができる。
【0057】
また、前記実施形態に示されている如き互いに反対向きに傾斜した傾斜部分がそれぞれ設けられた一組のゴム弾性体16a,16bを、二組以上設けることでゴム弾性体16を構成すること等も可能である。
【0058】
また、インナ取付部材12やアウタ取付部材14の具体的形状は、排気管や車体への取付構造等によって適宜に変更されるものであり、例えばインナ取付部材として例示の軸形状の他にブロック形状や筒形状等が採用可能であり、アウタ取付部材における一対の対向板部を相互に独立部材として構成すること等も可能である。
【符号の説明】
【0059】
10,42,44,52:マフラーサポート、12:インナ取付部材、14:アウタ取付部材、16:ゴム弾性体、16a:上側ゴム弾性体(ゴム弾性体)、16b:下側ゴム弾性体(ゴム弾性体)、18:排気管、20:車体、30:底板部、32:側板部(対向板部)、50:傾斜部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気管に取り付けられるインナ取付部材を、車体に取り付けられるアウタ取付部材に設けられた一対の対向板部間に配設して、該インナ取付部材から該一対の対向板部に向かって両側に延びる一対のゴム弾性体を設けたマフラーサポートにおいて、
前記一対のゴム弾性体において、それぞれ、前記一対の対向板部の対向方向に対して側方に傾斜し、前記インナ取付部材の該対向板部への接近および離隔方向への変位に際して剪断成分をもって弾性変形せしめられる傾斜部分を設けたことを特徴とするマフラーサポート。
【請求項2】
前記インナ取付部材が直線的に延びる軸形状とされている一方、前記アウタ取付部材が底板部の両側に一対の側板部が一体形成された溝形状とされており、
該アウタ取付部材の溝部内を溝方向に延びる状態で該インナ取付部材が配設されて、該インナ取付部材から前記一対の対向板部としての該一対の側板部に向かって両側に延びる前記一対のゴム弾性体により該インナ取付部材と該アウタ取付部材とが弾性連結されている請求項1に記載のマフラーサポート。
【請求項3】
前記一対のゴム弾性体において、それぞれ、前記一対の対向板部の対向方向への直交方向で互いに反対向きに傾斜して対を為す反対傾斜部を設けた請求項1又は2に記載のマフラーサポート。
【請求項4】
互いに反対向きに傾斜して対を為す前記反対傾斜部が、前記排気管の支持荷重入力方向で互いに離隔して且つ該支持荷重入力方向の投影で少なくとも一部が重なる状態で設けられている請求項3に記載のマフラーサポート。
【請求項5】
前記インナ取付部材から前記一対の対向板部に向かって両側に延びる前記一対のゴム弾性体が、それぞれ、該インナ取付部材と該対向板部との間の全長に亘って前記傾斜部分とされている請求項1〜4の何れか1項に記載のマフラーサポート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−117403(P2012−117403A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266074(P2010−266074)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】