説明

マリンホース

【課題】徐々に漏洩する液体燃料を検知することのできるマリンホースを提供する。
【解決手段】ホース本体10内に導電性エラストマー部材30が設けられ、導電性エラストマー部材30は原油によって膨潤するとともに、膨潤によって抵抗値が大きくなり、導電性エラストマー部材30の抵抗値が検出器41によって検出されることから、内側ゴム層11から徐々に原油が漏洩すると、導電性エラストマー部材30の抵抗値が膨潤によって大きくなり、その抵抗値が検出器41によって検出される。即ち、検出器41によって検出される抵抗値に基づいて、内側ゴム層11から徐々に漏洩する原油を検知することができ、ホース本体10からの液体燃料の漏洩による環境汚染を防止する上で極めて有利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば原油等の液体燃料をタンカーから陸上のタンクに輸送するための液体燃料輸送用のマリンホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種のマリンホースとしては、耐油性の内側ゴム層と内側ゴム層の外側に配置された補強層とが設けられたホース本体と、ホース本体の軸方向の両端にそれぞれ設けられた口金とを備え、ホース本体内の補強層の外周面側にホース本体の軸方向に連通する通路を設けるとともに、ホース本体の軸方向端部における前記通路の端部に検知器を設け、内側ゴム層及び補強層の外側に漏洩した原油等の液体燃料が前記通路の端部まで流通すると、その液体燃料が検知器によって検知されるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開昭55−33946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前記マリンホースでは、内側ゴム層及び補強層の外側に漏洩した液体燃料が前記通路の端部まで流通すると、その液体燃料が検知器によって検知されるようになっているが、前記通路は細長く、液体燃料が前記通路の端部まで流通するには極めて大きな圧力が必要であることから、内側ゴム層及び補強層が液体燃料の圧力で瞬間的に大きく破損した場合は、検知器によって液体燃料が検知されるが、液体燃料が内側ゴム層及び補強層の外側に徐々に漏洩する場合は、検知器によって液体燃料が検知されないという問題点があった。
【0004】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、徐々に漏洩する液体燃料を検知することのできるマリンホースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は前記目的を達成するために、所定の液体燃料に対する耐油性を有する内側ゴム層と内側ゴム層よりも外側に配置された補強層とが少なくとも設けられた多層構造のホース本体と、ホース本体の軸方向の両端にそれぞれ設けられた口金とを備えたマリンホースにおいて、前記ホース本体内に設けられ、前記所定の液体燃料によって膨潤するとともに、膨潤によって抵抗値が大きくなる導電性エラストマー部材と、導電性エラストマー部材の抵抗値を検出する検出手段とを備えている。
【0006】
これにより、ホース本体内に導電性エラストマー部材が設けられ、導電性エラストマー部材は前記所定の液体燃料によって膨潤するとともに、膨潤によって抵抗値が大きくなり、導電性エラストマー部材の抵抗値が検出手段によって検出されることから、例えば導電性エラストマー部材がホース本体内における内側ゴム層と補強層との間に設けられた場合は、内側ゴム層から徐々に原油等の液体燃料が漏洩すると、液体燃料によって導電性エラストマー部材が膨潤するとともに、膨潤によって導電性エラストマー部材の抵抗値が大きくなり、その抵抗値が検出手段によって検出される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば導電性エラストマー部材がホース本体内における内側ゴム層と補強層との間に設けられた場合は、内側ゴム層から徐々に原油等の液体燃料が漏洩すると、導電性エラストマー部材の抵抗値が膨潤によって大きくなり、その抵抗値が検出手段によって検出されるので、検出手段によって検出される抵抗値に基づいて、内側ゴム層から徐々に漏洩する液体燃料を検知することができ、ホース本体からの液体燃料の漏洩による環境汚染を防止する上で極めて有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1乃至図4は本発明の一実施形態を示すもので、図1はマリンホースの要部断面図、図2はマリンホースの側面図、図3はコントロールボックスのブロック図、図4はコントロールボックスの判定部の動作を示すフローチャートである。
【0009】
このマリンホースは、ホース本体10と、ホース本体10の軸方向の両端にそれぞれ設けられた口金20とを備えている。このマリンホースは、例えば海上に停泊しているタンカーと陸上のタンクとを接続し、タンカーから陸上のタンクに原油を給送するために用いられる。
【0010】
ホース本体10は、原油に対する耐油性を有する内側ゴム層11と、内側ゴム層11の外周面側に配置された補強層12と、補強層12の外周面側に配置された浮力材層13と、内側ゴム層11、補強層12及び浮力材層13を覆うように形成されたカバーゴム層14とを備えている。即ち、ホース本体10は各層11,12,13,14を有する多層構造である。
【0011】
内側ゴム層11はアクリロニトリルブタジエンゴム等の周知の耐油性ゴムから成り、ホース本体10の最も径方向内側に設けられている。即ち、ホース本体10の内側ゴム層11の中を原油が流通するようになっている。
【0012】
補強層12は例えば第1耐圧コード層12aと第2耐圧コード層12bとを有する。各耐圧コード層12a,12bはナイロンコード、ポリエステルコード、金属コード等によって補強されたゴム層であり、ホース本体10に用いられる周知の構造を有するものである。
【0013】
浮力材層13はスポンジ状部材から成り、マリンホースを海上に浮かせるために設けられている。
【0014】
カバーゴム層14はスチレンブタジエンゴムやクロロプレンゴム等の耐候性を有するゴム材料から成る。
【0015】
尚、内側ゴム層11、補強層12、浮力材層13及びカバーゴム層14を有するマリンホースは一般的であり、必要に応じて浮力材層13を省いた構成にすることも可能であり、その他の構成を追加することも可能である。
【0016】
各口金20は金属材料から成り、他のマリンホースの口金20と着脱自在に接続されるようになっている。
【0017】
ホース本体10の内側ゴム層11と補強層12との間には導電性エラストマー部材30が設けられている。導電性エラストマー部材30は周知の導電性カーボンが配合されたイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム等の合成ゴムから成り、原油によって膨潤するようになっている。また、導電性エラストマー部材30を導電性カーボンが配合された天然ゴムから構成することも可能であり、導電性カーボンが配合されたゴム状弾性を有する他の材料から構成することも可能である。さらに、導電性カーボンの代わりに導電性を有する他の粉状の補強剤や粉状の充填剤を用いることも可能である。
【0018】
即ち、導電性エラストマー部材30は導電性を有し、例えば導電性エラストマー部材30が原油によって膨潤すると、導電性エラストマー部材30内の導電性カーボン同士の間隔が大きくなり、導電性エラストマー部材30の抵抗値が大きくなる。
【0019】
導電性エラストマー部材30は長尺状に形成され、ホース本体10内における内側ゴム層11と補強層12との間に螺旋状に延びるように配置されている。また、導電性エラストマー部材30はホース本体10の軸方向長さに対して略80%以上の範囲に配置されるように設けられている。
【0020】
ホース本体10の軸方向一端側にはコントロールユニット40が設けられている。コントロールユニット40は、抵抗値を検出可能な周知の検出器41と、検出器41と接続されている判定部42と、判定部42に接続されている表示装置43とを有する。判定部42はマイクロコンピュータ等の周知の機器から成る。尚、判定部42をワイヤードオア回路を利用した周知のアナログ回路から構成することも可能である。検出器41は、導線41aを介して導電性エラストマー部材30の長さ方向の一端に接続されるとともに、導線(図示せず)を介して導電性エラストマー部材30の長さ方向の他端に接続されている。表示装置43は検出器41の抵抗値が所定の大きさ以上であるか否かを表示可能な周知の機器から成り、コントロールユニット40におけるホース本体10から露出している部分に設けられている。
【0021】
以上のように構成されたマリンホースは、内側ゴム層11から原油が漏洩すると、その漏洩を検知することができる。原油の漏洩を検知する場合について、判定部42の動作を示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0022】
例えば内側ゴム層11から徐々に原油が漏洩し、原油によって導電性エラストマー部材30が膨潤するとともに、膨潤によって導電性エラストマー部材30の抵抗値が大きくなり、導電性エラストマー部材30の抵抗値が予め判定部42に設定されている所定の大きさ以上になると(S1)、ホース本体10に原油漏れが生じていると判定するとともに(S2)、表示装置43に所定の表示を行わせる(S3)。
【0023】
このように、本実施形態によれば、ホース本体10内に導電性エラストマー部材30が設けられ、導電性エラストマー部材30は原油によって膨潤するとともに、膨潤によって抵抗値が大きくなり、導電性エラストマー部材30の抵抗値が検出器41によって検出されることから、内側ゴム層11から徐々に原油が漏洩すると、導電性エラストマー部材30の抵抗値が膨潤によって大きくなり、その抵抗値が検出器41によって検出される。即ち、検出器41によって検出される抵抗値に基づいて、内側ゴム層11から徐々に漏洩する原油を検知することができ、ホース本体10からの原油の漏洩による環境汚染を防止する上で極めて有利である。ここで、原油の圧力で内側ゴム層11が瞬間的に大きく破損し、導電性エラストマー部材30が切断される場合でも、導電性エラストマー部材30の抵抗値が無限大に大きくなるので、内側ゴム層11からの原油の漏洩を検知することができる。
【0024】
ここで、導電性エラストマー部材30を内側ゴム層11と補強層12との間に設けているが、導電性エラストマー部材30は導電性カーボンが配合された合成ゴムから成るので、導電性エラストマー部材30と内側ゴム層11及び補強層12との接着を良好に行うことができるとともに、導電性エラストマー部材30が内側ゴム層11や補強層12の変形に円滑に追随するので、内側ゴム層11と補強層12との間に層間剥離が生ずることがなく、マリンホースの耐久性を向上する上で極めて有利である。導電性エラストマー部材30が天然ゴムやゴム状弾性を有する他の材料から構成されている場合も同様である。
【0025】
また、導電性エラストマー部材30の抵抗値の変化を利用して原油の漏洩を検知することから、例えば内側ゴム層11からわずかに原油が漏洩しただけでは、導電性エラストマー部材30の抵抗値が大きく変化することがないので、無用に原油の漏洩が検知されることを防止可能である。また、導電性エラストマー部材30の体積や材質の変更によって導電性エラストマー部材30の膨潤のし易さを変化させることにより、検知する感度を任意に設定することができる。
【0026】
また、導電性エラストマー部材30を内側ゴム層11と補強層12との間に設けたので、耐油性を有する内側ゴム層11から原油が漏洩した際に、その漏洩を早期に検知することができ、ホース本体10からの液体燃料の漏洩による環境汚染を防止する上で極めて有利である。
【0027】
また、導電性エラストマー部材30をホース本体10内における内側ゴム層11と補強層12との間に螺旋状に延びるように配置したので、原油の漏洩をホース本体10の全体において監視する上で極めて効率的である。
【0028】
尚、本実施形態では、コントロールユニット40の判定部42によって燃料漏れの有無を判定するようにしたものを示したが、判定部42を設けずに表示部43に検出器41の検出結果を直接表示させることも可能である。
【0029】
また、本実施形態では、コントロールユニット40に判定部42及び表示装置43を設けたものを示したが、判定部42及び表示部43を設ける代わりにコントロールユニット40に情報送信装置を設けるとともに、マリンホースの外部に情報受信装置を設け、情報受信装置によって検出器41の検出結果の判定、表示等を行うことも可能である。この場合、情報受信装置を陸上に設けることが可能となり、燃料漏れの監視を効率的に行う上で極めて有利である。
【0030】
尚、本実施形態では、長尺状の導電性エラストマー部材30を1つだけ設けたものを示したが、長尺状の導電性エラストマー部材30を2つ設けることも可能である。この場合、例えば一方の導電性エラストマー部材30を内側ゴム層11と補強層12との間に設け、他方の導電性エラストマー部材30を補強層12と浮力材層13との間に設けることも可能である。これにより、各導電性エラストマー部材30の抵抗値の変化に基づいて、原油の漏洩状況を検知することができるので、マリンホースの補修や交換の要否を正確に判断する上で極めて有利である。
【0031】
また、本実施形態では、導電性エラストマー部材30を内側ゴム層11と補強層12との間に設けたものを示したが、内側ゴム層11の外側にブレーカー層が設けられている場合に、導電性エラストマー部材30を内側ゴム層11とブレーカー層との間に設けることも可能である。さらに、内側ゴム層11が2層設けられるとともに、各内側ゴム層11の外側にブレーカー層が設けられている場合に、各内側ゴム層11の間に導電性エラストマー部材30を設けることも可能である。即ち、導電性エラストマー部材30は導電性カーボンが配合された合成ゴムから成るので、ホース本体10を構成する各層と導電性エラストマー部材30との接着を良好に行うことができるとともに、導電性エラストマー部材30が各層の変形に円滑に追随するので、導電性エラストマー部材30はホース本体10を構成する各層の層間のうち任意の層間に設けることが可能である。
【0032】
即ち、本実施形態のように、ホース本体10に内側ゴム層11、補強層12、浮力材層13、及びカバーゴム層14が設けられている場合は、導電性エラストマー部材30を各層11,12,13,14の層間のうち任意の層間に設けることが可能である。これに対し、図5に示すように、ホース本体10に内側ゴム層11、補強層12、浮力材層13、カバーゴム層14、緩衝層15及び補助補強層16が設けられている場合は、導電性エラストマー部材30を各層11,12,13,14,15,16の層間のうち任意の層間に設けることが可能である。図5は一例として導電性エラストマー部材30を補強層12と緩衝層15との層間に設けたものである。緩衝層15はスポンジ状部材から成り、補強層12の外側に漏洩した原油を吸収するために設けられている。補助補強層16は補強層12と同様の構成を有する。尚、導電性エラストマー部材30を緩衝層15内に設けることも可能である。
【0033】
また、本実施形態では、長尺状の導電性エラストマー部材30を螺旋状に延びるように配置したものを示したが、長尺状の導電性エラストマー部材30をホース本体10の軸方向に延びるように配置することも可能である。
【0034】
尚、本実施形態では、1本の長尺状の導電性エラストマー部材30がホース本体10の軸方向長さに対して略80%以上の範囲に配置されるようにし、その導電性エラストマー部材30によってホース本体10の全体の燃料漏れを監視するようにしたものを示した。これに対し、複数本の長尺状のエラストマー部材30を螺旋状に延びるように配置するか、複数本の長尺状のエラストマー部材30をホース本体10の軸方向に延びるように配置することにより、ホース本体10の全体の燃料漏れを監視することも可能である。
【0035】
また、本実施形態では、内側ゴム層11が原油に対して耐油性を有する耐油性ゴムから成るものを示したが、給送する液体燃料の種類に応じ、内側ゴム層11のゴム材料を選定するとともに、導電性エラストマー部材30の材料を選定することにより、各種液体燃料用のマリンホースにおいて前述と同様の効果を達成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明における一実施形態を示すマリンホースの要部断面図
【図2】マリンホースの側面図
【図3】コントロールボックスのブロック図
【図4】コントロールボックスの判定部の動作を示すフローチャート
【図5】本実施形態の変形例を示すマリンホースの要部断面図
【符号の説明】
【0037】
10…ホース本体、11…内側ゴム層、12…補強層、12a…第1耐圧コード層、12a…第2耐圧コード層、13…浮力材層、14…カバーゴム層、15…緩衝層、16…補助補強層、20…口金、30…導電性エラストマー部材、40…コントロールユニット、41…検出器、41a…導線、42…判定部、43…表示装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の液体燃料に対する耐油性を有する内側ゴム層と内側ゴム層よりも外側に配置された補強層とが少なくとも設けられた多層構造のホース本体と、ホース本体の軸方向の両端にそれぞれ設けられた口金とを備えたマリンホースにおいて、
前記ホース本体内に設けられ、前記所定の液体燃料によって膨潤するとともに、膨潤によって抵抗値が大きくなる導電性エラストマー部材と、
導電性エラストマー部材の抵抗値を検出する検出手段とを備えた
ことを特徴とするマリンホース。
【請求項2】
前記導電性エラストマー部材をホース本体内に螺旋状に延びるように配置した
ことを特徴とする請求項1記載のマリンホース。
【請求項3】
前記導電性エラストマー部材を複数設け、
各エラストマー部材を、ホース本体を構成する各層の層間のうち互いに異なる層間に設けた
ことを特徴とする請求項1または2記載のマリンホース。
【請求項4】
前記導電性エラストマー部材を内側ゴム層と補強層との間に設けた
ことを特徴とする請求項1または2記載のマリンホース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−2457(P2009−2457A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164994(P2007−164994)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】