説明

マルチチップ実装用緩衝フィルム

【課題】マルチチップ実装する際に、アライメントずれを生じさせることなく、良好な接続信頼性を確保できるようにする。
【解決手段】マルチチップ実装用緩衝フィルムは、80ppm/℃以下の線膨張係数を有する耐熱性樹脂層と、JIS−K6253によるショアA硬度が10〜80である樹脂材料から形成された柔軟性樹脂層とが積層された構造を有する。マルチチップモジュールは、複数のチップ素子を、接着剤を介して基板にアライメントし、仮貼りした後、チップ素子とボンディングヘッドとの間に、マルチチップ実装用緩衝フィルムを、その耐熱性樹脂層がチップ素子側になるように配置し、複数のチップ素子をボンディングヘッドで基板に対し加熱加圧して接続することにより製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチチップ実装用緩衝フィルム、及びそれを用いてマルチチップモジュールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基板に複数のLED素子などのチップ素子を、絶縁性接着剤や異方導電性接着剤を介してボンディングヘッドで加熱加圧して一括的に接続することが行われていた。ところが、チップ素子間の高さの相違ないしバラツキや、チップ素子や基板に形成される配線厚やバンプ高さの相違ないしはバラツキのために、チップ素子毎に印加される熱と圧力とが相違してしまい、結果的に十分に加熱加圧されないチップ素子や過度に加熱加圧されてしまうチップ素子が生ずるおそれがあった。前者については接続不良が生じるおそれがあり、後者についてはチップ素子の破損等が生ずるおそれがあった。
【0003】
このため、ボンディングヘッドでの接続操作の際に、チップ素子間の高さの相違ないしバラツキ等をキャンセルするために、基板とボンディングヘッドとの間に緩衝材として耐熱性ゴム状弾性体を配置し、耐熱性ゴム状弾性体を介してチップ素子を基板に加熱加圧することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−256311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示のようにゴム状弾性体を緩衝層として使用した場合、それぞれのチップ素子の接続強度は良好であるものの、加熱加圧ヘッドにより緩衝層が基板平面方向に押し拡がるように変形し、その変形に伴ってチップ素子のアライメントずれが生じ、場合により接続信頼性が低下するという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、以上の従来の問題点を解決しようとするものであり、マルチチップ実装の際に、アライメントずれを生じさせることなく、良好な接続信頼性を確保できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、マルチチップ実装の際に使用すべき緩衝材として、チップ素子側に配されるべき耐熱性樹脂層であって、所定の線膨張係数を超えない比較的変形しにくい耐熱性樹脂層と、ボンディングヘッド側に配されるべき柔軟性樹脂層であって、所定のショアA硬度を示す材料からなる比較的変形し易い柔軟性樹脂とを積層した構造のものを使用することにより、上述の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、耐熱性樹脂層と、その上に形成された柔軟性樹脂層とを有するマルチチップ実装用緩衝フィルムであって、耐熱性樹脂層が80ppm/℃以下の線膨張係数を有し、柔軟性樹脂層が、JIS−K6253によるショアA硬度が10〜80である樹脂材料から形成されたものであるマルチチップ実装用緩衝フィルムを提供する。
【0009】
また、本発明は、基板上に複数のチップ素子を接着剤を介してボンディングヘッドにより加熱加圧することによりマルチチップ実装してなるマルチチップモジュールの製造方法において、以下の工程(A)〜(C):
工程(A)
複数のチップ素子を、接着剤を介して基板にアライメントし、仮貼りする工程;
工程(B)
チップ素子とボンディングヘッドとの間に、上述のマルチチップ実装用緩衝フィルムを、その耐熱性樹脂層がチップ素子側になるように配置する工程;
工程(C)
マルチチップ実装用緩衝フィルムを介して、複数のチップ素子をボンディングヘッドで基板に対し加熱加圧することにより基板に接続する工程
を有する製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のマルチチップ実装用緩衝フィルムは、チップ素子側に配されるべき耐熱性樹脂層であって、所定の線膨張係数を超えない比較的変形しにくい耐熱性樹脂層に、ボンディングヘッド側に配されるべき柔軟性樹脂層であって、所定のショアA硬度を示す材料からなる比較的変形し易い柔軟性樹脂を積層した構造を有する。このため、マルチチップ実装において、ボンディングヘッドにより緩衝フィルムを加熱加圧した際、チップ素子に接している耐熱性樹脂層は変形し難いので、結果的にチップ素子のアライメントずれを抑制することが可能となる。他方、ボンディングヘッドに接している柔軟性樹脂層は変形しやすいので、チップ素子の高さの相違やバラツキ等をキャンセルし、複数のチップ素子のそれぞれに対し良好な加熱加圧を行い、良好な接続信頼を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明のマルチチップ実装用緩衝フィルムの概略断面図である。
【図2】図2は、本発明のマルチチップモジュール製造方法の説明図である。
【図3】図3は、枚葉でマルチチップ実装用緩衝フィルムを適用した本発明のマルチチップモジュール製造方法の説明図である。
【図4】図4は、ロールツーロールでマルチチップ実装用緩衝フィルムを適用した本発明のマルチチップモジュール製造方法の説明図である。
【図5】図5は、本発明のマルチチップモジュール製造方法の説明図である。
【図6】図6は、本発明のマルチチップモジュール製造方法により得られたマルチチップモジュールの概略断面図である。
【図7A】光反射性異方性導電接着剤に使用する光反射性導電粒子の概略断面図である。
【図7B】光反射性異方性導電接着剤に使用する光反射性導電粒子の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
図1は、耐熱性樹脂層1と、その上に形成された柔軟性樹脂層2とを有するマルチチップ実装用緩衝フィルム10の断面図である。
【0014】
本発明のマルチチップ実装用緩衝フィルム10を構成する耐熱性樹脂層1は、マルチチップ実装の際に、チップ素子側に配されるものであり、アライメントずれを効果的に抑制するために、ガラス転移温度以下の温度領域で80ppm/℃以下、好ましくは20〜50ppm/℃の線膨張係数を有する。なお、線膨張係数の好ましい範囲の下限以上であれば、チップ素子等の高さ相違ないしバラツキを十分にキャンセルすることができる。また、線膨張係数の好ましい範囲の上限以下であれば、よりアライメントずれを抑制することができる。
【0015】
このような耐熱性樹脂層1としては、ポリイミド樹脂フィルム(例えば、宇部興産(株)のユーピレックス−25S等)、ポリエステル樹脂フィルム(例えば、帝人(株)のテイジンテトロンフィルム等)、ポリ塩化ビニル樹脂フィルム(例えば、太平化学製品(株)のエピロンCB3005)等、ポリオレフィン樹脂フィルム((株)テックジャムのSAN8041等)又はフッ素樹脂フィルム(日東電工(株)のニフトロン(ポリテトラフルオロエチレン))等を挙げることができる。
【0016】
耐熱性樹脂層1の層厚としては、厚すぎるとチップ部品等の高さ相違ないしバラツキを十分にキャンセルすることができないので、好ましくは200μm以下、より好ましくは10〜50μmである。なお、この層厚の好ましい範囲の下限以上であれば、よりアライメントずれを効果的に抑制することができ、好ましい範囲の上限以下であれば、チップ素子等の高さ相違ないしバラツキを十分にキャンセルすることができる。
【0017】
本発明のマルチチップ実装用緩衝フィルム10を構成する柔軟性樹脂層2は、マルチチップ実装の際に、ボンディングヘッド側に配されるものであり、JIS−K6253によるショアA硬度が10〜80、好ましくは40〜75の樹脂材料から形成されたものである。ショアA硬度がこの範囲であれば、チップ素子等の高さ相違ないしバラツキを十分にキャンセルすることができる。
【0018】
このような樹脂材料としては、シリコーン樹脂材料が好ましくは挙げられる。より好ましくは、アニオンリビング重合性のシリコーン樹脂組成物が挙げられる。具体的には、シリコーン(信越シリコーン(株)のKE−1281、X−32−2020、MOMENTIVE社のXE13−C1822等)、ジメチルシリコーン(信越シリコーン(株)のKER−2600、KER−2500等)が挙げられる。
【0019】
柔軟性樹脂層2の層厚としては、薄すぎるとチップ部品等の高さ相違ないしバラツキを十分にキャンセルすることができず、良好な接続信頼性が得られないので、好ましくは10μm以上、より好ましくは40〜60μmである。なお、この層厚の好ましい範囲の下限以上であれば、チップ部品等の高さ相違ないしバラツキをより十分にキャンセルすることができ、好ましい範囲の上限以下であれば、良好な接続信頼性を確保することが可能になる。
【0020】
以上説明したマルチチップ実装用緩衝フィルム10は、本発明の効果を損なわない範囲で、耐熱性樹脂層1と柔軟性樹脂層2との間に別の樹脂層を設けてもよい。
【0021】
本発明のマルチチップ実装用緩衝フィルム10は、フィルム状の耐熱性樹脂層1に、柔軟性樹脂層2を形成するための樹脂材料を常法に従って塗布し、乾燥(もしくは重合)することにより製造することができる。
【0022】
次に、本発明のマルチチップ実装用緩衝フィルム10は、基板上に複数のチップ素子を接着剤を介してボンディングヘッドを用いて加熱加圧することによりマルチチップ実装してなるマルチチップモジュールの製造方法に好ましく適用することができる。このマルチチップモジュールの製造方法は、以下の工程(A)〜(C)を有する。
【0023】
<工程(A)>
まず、チップ素子を、接着剤を介して基板にアライメントし、仮貼りする。具体的には、図2に示すように、ステンレススチール等からなる公知の熱圧着用のステージ21上に配線22とバンプ23とが形成された基板24を配置し、接着剤25を介してチップ素子26をフリップチップ方式でアライメントし、仮貼りする。チップ素子26のアライメント操作並びに仮貼り操作自体については、特に制限はなく、従来のマルチチップモジュールの製造方法におけるアライメント操作並びに仮貼り操作を適用することができる。
【0024】
本発明の製造方法に適用可能なチップ素子26としては、IC素子、LED(発光ダイオード)素子等をあげることができる。
【0025】
また、配線22とバンプ23とが形成された基板24としては、各種金属材料やITO等の透明電極材料等から、プリント法、ドライメッキ法、ウェットメッキ法、フォトリソ法等により形成された配線と、蒸着法、めっき法、印刷法、ボンダー法(スタッドバンプ)等により形成された金バンプ、ハンダバンプ等のバンプとを有するガラス基板、プラスチック基板、セラミック基板等を挙げることができる。
【0026】
接着剤25としては、公知の絶縁性接着ペースト(NCP)やフィルム(NCF)、異方性導電ペースト(ACP)やフィルム(ACF)を使用することができる。特に、チップ素子26がLED素子である場合、接着剤25として、生産性等の点から異方性導電接着剤(ACP、ACF)を使用することが好ましく、特に異方性導電接着剤自体が光反射性を示すことが、光の取り出し効率を向上させる点から好ましい。このような光反射性を有する異方性導電接着剤には光反射性針状絶縁粒子を含有させることが好ましい。その詳細については、工程(C)の説明の後で、改めて説明する。
【0027】
<工程(B)>
次に、図3に示すように、チップ素子26と、好ましくは金属圧着面を有し、ヒーターを備えたボンディングヘッド27との間に、本発明のマルチチップ実装用緩衝フィルム10を配置する。この場合、マルチチップ実装用緩衝フィルム10の耐熱性樹脂層1がチップ素子26側になるようにする。
【0028】
ここで、マルチチップ実装用緩衝フィルム10は、図3に示すように、枚葉で適用してもよいが、図4に示すように、ロールツーロールで適用することが好ましい。ロールツーロールであれば、マルチチップ実装用緩衝フィルム10の交換操作が容易になり、生産性を向上させることができる。
【0029】
<工程(C)>
次に、図5に示すように、マルチチップ実装用緩衝フィルム10を介して、複数のチップ素子26をボンディングヘッド27で基板24に対し加熱加圧する。加熱加圧終了後に、図6に示すマルチチップモジュール50を得ることができる。
【0030】
前述したように、接着剤25として好ましく適用できる光反射性を有する異方性導電接着剤について詳細に説明する。
【0031】
チップ素子がLED素子である場合に好ましく適用できる接着剤は、光反射性異方性導電接着剤であり、熱硬化性樹脂組成物と、導電粒子と、アスペクト比が所定範囲の光反射性針状絶縁粒子とを含有するものである。光反射性絶縁粒子として針状のものを使用することにより、異方性導電接着剤におけるクラックの発生を防止して高い導通信頼性を得ることができる。
【0032】
なお、熱硬化性樹脂組成物が球状粒子を含有する場合、温度変化に伴い樹脂組成物の伸縮性が低下する(硬くなる)と、熱硬化性樹脂組成物(ないしその硬化物)の内部応力によって球状粒子と熱硬化性樹脂組成物との界面にクラックが発生し易くなる。光反射性異方性導電接着剤にクラックが生じると、導通信頼性を損なうことになる。そのため、光反射性異方性導電接着剤は優れた強靭性を有することが必要となるが、前述したように、アスペクト比が所定範囲の針状の光反射性絶縁粒子を熱硬化性樹脂組成物に添加することにより異方性導電接着剤に高い強靭性を付与することができる。これは、熱硬化性樹脂組成物中において、それぞれランダムな方向に配置される針状の光反射性絶縁粒子が、それ自体が撓み易くしかもベンディングし易いために、温度変化に伴う熱硬化性樹脂組成物の内部応力を針状結晶中に伝搬及び吸収させることができ、熱硬化性樹脂組成物にこの内部応力が伝わるのを抑制することができるためである。よって、光反射性針状絶縁性粒子を含有する光反射性異方性導電接着剤は、優れた強靭性を発揮して、温度変化によって熱硬化性樹脂組成物が伸縮してもクラックの発生や接着面の剥離を抑制することができる。
【0033】
このような光反射性針状絶縁粒子は、好ましくは白色を呈する針状無機化合物からなるものであり、光反射性異方性導電接着剤に入射した光を外部に反射する。光反射性針状絶縁粒子自体が白色を呈することにより、可視光に対する反射特性の波長依存性を小さくすることができ、可視光を効率的に反射することができる。
【0034】
このような光反射性異方性導電接着剤は、白色を呈するとともにアスペクト比が所定範囲の針状形状を有する無機化合物からなる粒子(以下、これを「白色針状無機粒子」という。)を含有することにより、発光素子から出射された光に対する反射率の低減を抑制して発光素子の発光効率を維持するとともに、クラック等を防止して高い導通信頼性を得ることができる。
【0035】
白色針状無機粒子としては、例えば酸化亜鉛ウィスカ、酸化チタンウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ、チタン酸ウィスカ等のチタン酸塩ウィスカ、ホウ酸アルミニウムウィスカ、ウォラストナイト(カオリンシリケートの針状結晶)等の針状形状の無機化合物を挙げることができる。ウィスカは、特殊な製法によって針状に成長した結晶であり、結晶構造に乱れがないため弾力性に富み、変形しにくいという利点を有する。これらの無機化合物は、可視光領域では白色を呈するため、可視光に対する反射特性の波長依存性が小さく、且つ可視光を反射しやすい。中でも、酸化亜鉛ウィスカは、白色度が高く、且つ、硬化した異方性導電接着剤における熱硬化性樹脂組成物の硬化物の光劣化が懸念される場合であっても光劣化に対して触媒性がないことから、特に好ましい。
【0036】
白色針状無機粒子は、一本の針状形状を有する結晶(単針状結晶)からなる場合には、その繊維径(短方向粒径)は、5μm以下が好ましい。また、単針状結晶からなる白色針状無機粒子のアスペクト比は、10よりも大きく35未満が好ましく、10よりも大きく20未満が特に好ましい。白色針状無機粒子のアスペクト比が10よりも大きい場合には、熱硬化性樹脂組成物の内部応力を十分に伝搬及び吸収させることができる。また、白色針状無機粒子のアスペクト比が35未満である場合には、針状の結晶が折れにくくなるとともに、熱硬化性樹脂組成物中へ均一に分散することができる。このアスペクト比が20未満である場合には、熱硬化性樹脂組成物中への分散性をさらに向上させることができる。
【0037】
このように、アスペクト比が10よりも大きく35未満の白色針状無機粒子を熱硬化性樹脂組成物に添加することにより、熱硬化性樹脂組成物の強靭性を高めることができるため、光反射性異方性導電接着剤が伸縮しても接着面の剥離やクラックが発生することを抑制することができる。
【0038】
なお、白色針状無機粒子としては、このような単針状結晶であるものに代えて、例えばテトラポッド(登録商標)のような四面体の中心部と頂点とをそれぞれ結合してなる形状等の、複数本の針状形状を有する結晶(複針状結晶)を使用するようにしてもよい。複針状結晶の白色針状無機粒子は、単針状結晶の白色針状無機粒子に比べて熱伝導性が大きい点で優れているが、単針状結晶よりも、かさ高い結晶構造であるため、熱圧着時に針状部分によって基板や素子の接合部品を傷付けないように注意する必要がある。
【0039】
また、針状白色無機粒子は、例えばシランカップリング剤で処理したものであってもよい。針状白色無機粒子がシランカップリング剤で処理されていることにより、熱硬化性樹組成物中での分散性を向上させることができる。このため、シランカップリング剤で処理した針状白色無機粒子を短時間に均一に熱硬化性樹脂組成物中に混合させることができる。
【0040】
白色針状無機粒子は、その屈折率(JIS K7142)が、好ましくは熱硬化性樹脂組成物の硬化物の屈折率(JIS K7142)よりも大きいこと、より好ましくは少なくとも0.02程度大きいことが好ましい。屈折率の差が小さいと、それらの界面での反射効率が低下するからである。すなわち、白色針状無機粒子としては、光反射性且つ絶縁性を有する無機粒子であっても、SiOのように、その屈折率が使用する熱硬化性樹脂組成物の屈折率以下であるものは適用できない。
【0041】
白色針状無機粒子の光反射性異方性導電接着剤中の配合量は、少なすぎると十分な光反射を実現することができなくなる傾向があり、他方、多すぎると熱硬化性樹脂の接着性が低下する傾向があるため、熱硬化性樹脂組成物に対し、1〜50体積%(Vol%)であることが好ましく、5〜25体積%であることが特に好ましい。
【0042】
本発明の製造方法に適用できる光反射性異方性導電接着剤は、このような白色針状無機粒子を含有することで、導電粒子の大部分を覆うため、導電粒子が茶色等の色を呈する場合であっても、熱硬化性樹脂の白色性を実現する。このような白色性により、可視光に対する反射特性の波長依存性を小さくし、且つ可視光を反射しやすくなるため、基板電極の色の種類に関係なく、LED素子から出射される光の反射率の低下を抑制するとともに、LED素子がその下面側に向けて発光する光も効率的に利用することができる。その結果、LED素子の発光効率(光取り出し効率)を向上させることができる。
【0043】
なお、以上説明した光反射性異方性導電接着剤は、白色針状無機粒子に加えて、白色を呈する球状形状の絶縁粒子として、白色を呈する球状形状の無機化合物からなる粒子(以下、これを「白色球状無機粒子」という。)を添加するようにしてもよい。白色針状無機粒子とともに白色球状無機粒子を添加することで、熱硬化性樹脂組成物をさらに白色化してLED素子の光取り出し効率をより向上させることができる。また、この場合においても、熱硬化性樹脂組成物の強靭性を高めることができる。ここで、白色針状無機粒子の添加量(Vol%)は、白色球状無機粒子の添加量(Vol%)と同量以上とすることが好ましい。
【0044】
光反射性異方性導電接着剤において、白色針状無機粒子とともに白色球状無機粒子が添加されている場合においても、光反射性異方性導電接着剤は、優れた強靭性を発揮することができることにより、伸縮しても接着面の剥離やクラックが発生することを抑制することができる。
【0045】
以上説明したような光反射性異方性導電接着剤が含有する導電粒子としては、異方性導電接続用の従来の導電粒子において使用されている金属材料の粒子を使用することができる。すなわち、導電粒子の金属材料としては、例えば金、ニッケル、銅、銀、半田、パラジウム、アルミニウム、それらの合金、それらの多層化物(例えば、ニッケルメッキ/金フラッシュメッキ物)等を挙げることができる。
【0046】
なお、金、ニッケル或いは銅を金属材料とする導電粒子は、茶色を呈することから、本発明の効果を他の金属材料よりも享受することができる。すなわち、上述したように、熱硬化性樹脂組成物中において、白色針状無機粒子が導電粒子の大部分を覆うため、導電粒子に起因して熱硬化性樹脂組成物が茶色を呈するのを抑制し、熱硬化性樹脂組成物全体が高い白色性を呈するようになる。
【0047】
また、導電粒子としては、樹脂粒子を金属材料で被覆した金属被覆樹脂粒子を使用するようにしてもよい。このような樹脂粒子としては、スチレン系樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子、ナイロン樹脂粒子等を挙げることができる。樹脂粒子を金属材料で被覆する方法としては、従来公知の方法を採用することができ、例えば無電解メッキ法、電解メッキ法等を利用することができる。また、被覆する金属材料の層厚は、良好な接続信頼性を確保できる厚さであればよく、樹脂粒子の粒径や金属の種類にもよるが、通常、0.1〜3μmである。
【0048】
また、樹脂粒子の粒径は、小さすぎると銅通不良が生じ、大きすぎるとパターン間ショートが生じる傾向にあるので、1〜20μmが好ましく、3〜10μmがより好ましく、さらには3〜5μmが特に好ましい。この場合、樹脂粒子の形状としては球形が好ましいが、フレーク状、ラクビーボール状であってもよい。
【0049】
金属被覆樹脂粒子は、球状形状であり、その粒径は、大きすぎると接続信頼性の低下となるため、1〜20μmが好ましく、3〜10μmがより好ましい。
【0050】
なお、以上説明したような光反射性異方性導電接着剤が含有する導電粒子は、例えば図7A、図7Bの断面図に示されるような、光反射性を付与した光反射性導電粒子とすることも可能である。
【0051】
図7Aに示す光反射性導電粒子100は、金属材料で被覆されているコア粒子110と、その表面に酸化チタン(TiO)粒子、酸化亜鉛(ZnO)粒子又は酸化アルミニウム(Al)粒子から選択された少なくとも一種の無機粒子120から形成される光反射層130とから構成される。このような無機粒子から形成された光反射層130は、白色から灰色の範囲にある色を呈する。このため、上述したように、可視光に対する反射特性の波長依存性が小さく、且つ可視光を反射しやすくなり、LED素子の発光効率をより向上させることができる。
【0052】
なお、酸化チタン粒子、酸化亜鉛粒子又は酸化アルミニウム粒子のうち、硬化した光反射性異方性導電接着剤の熱硬化性樹脂組成物の硬化物の光劣化が懸念される場合には、上述したように、光劣化に対して触媒性がなく、屈折率も高い酸化亜鉛を好ましく使用することができる。
【0053】
コア粒子110は、異方性導電接続に共するものであり、表面が金属異材料で構成されている。コア粒子110の態様としては、例えばコア粒子110そのものが金属材料である態様、又は樹脂粒子の表面が金属材料で被覆された態様を挙げることができる。
【0054】
無機粒子120から形成された光反射層130の層厚は、コア粒子110の粒径との相対的大きさの観点からみると、コア粒子110の粒径に対して小さすぎると反射率の低下が著しくなり、大きすぎると導通不良が生じる。このため、光反射層130の層厚は、0.5〜50%が好ましく、1〜25%がより好ましい。
【0055】
また、光反射性導電粒子100において、光反射層130を構成する無機粒子120の粒径は、小さすぎると光反射現象が生じ難くなり、大きすぎると光反射層の形成が困難となる傾向がある。このため、無機粒子120の粒径は、0.02〜4μmが好ましく、0.1〜1μm、0.2〜0.5μmが特に好ましい。この場合、光反射させる光の波長の観点からみると、無機粒子120の粒径は、反射させるべき光(すなわち、発光素子が発する光)が透過してしまわないように、その光の波長の50%以上であることが好ましい。この場合、無機粒子120の形状としては無定型、球状、鱗片状、針状等を挙げることができるが、中でも、光拡散効果の点から球状、全反射効果の点から鱗片状の形状が好ましい。
【0056】
光反射性導電粒子100は、大小の粉末同士を物理的に衝突させることにより大粒径粒子の表面に小粒子からなる膜を形成させる公知の成膜技術(いわゆるメカノフュージョン法)により製造することができる。この場合、無機粒子120は、コア粒子110の表面の金属材料に食い込むように固定され、他方、無機粒子同士が融着固定されにくいから、無機粒子のモノレイヤが光反射層130を構成する。したがって、図7Aの場合、光反射層130の層厚は、無機粒子120の粒径と同等乃至わずかに薄くなると考えられる。
【0057】
図7Bに示す光反射性導電粒子200は、光反射層230が接着剤として機能する熱可塑性樹脂240を含有し、この熱可塑性樹脂240により無機粒子220同士も固定され、無機粒子220が多層化(例えば2層又は3層)している点で、図7Aの光反射性導電粒子100と相違する。このような熱可塑性樹脂240を含有することにより、光反射層230の機械的強度が向上し、無機粒子の剥落等が生じにくくなる。
【0058】
熱可塑性樹脂240としては、環境低負荷を意図してハロゲンフリーの熱可塑性樹脂を好ましく使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンやポリスチレン、アクリル樹脂等を好ましく使用することができる。
【0059】
このような光反射性導電粒子200も、メカフュージョン法により製造することができる。メカフュージョン法に適用する熱可塑性樹脂240の粒子径は、小さすぎると接着機能が低下し、大きすぎるとコア粒子に付着しにくくなるので、0.02〜4μmが好ましく、0.1〜1μmがより好ましい。また、このような熱可塑性樹脂240の配合量は、少なすぎると接着機能が低下し、多すぎると粒子の凝集体が形成されるので、無機粒子220の100質量部に対し、0.2〜500質量部が好ましく、4〜25質量部がより好ましい。
【0060】
光反射性異方性導電接着剤に含まれる熱硬化性樹脂組成物としては、なるべく無色透明なものを使用することが好ましい。光反射性異方性導電接着剤中の光反射性導電粒子の光反射効率を低下させず、更には入射光の光色を変えずに反射させるためである。ここで、無色透明とは、光反射性異方性導電接着剤の硬化物が、波長380〜780nmの可視光に対して光路長1cmの光透過率(JIS K7105)が80%以上、好ましくは90%以上となることを意味する。
【0061】
光反射性異方性導電接着剤において、熱硬化性樹脂組成物100質量部に対する光反射性導電粒子等の導電粒子の配合量は、少なすぎると導通不良が生じ、多すぎるとパターン間ショートが生じる傾向があるので、1〜100質量部が好ましく、10〜50質量部がより好ましい。
【0062】
光反射性異方性導電接着剤は、熱硬化性樹脂組成物に白色針状無機粒子を加えることで、波長450nmの光に対する反射率(JIS K7105)が、9%よりも高い値となる。光反射性異方性導電接着剤の反射特性は、その他の様々な因子、例えば光反射性導電粒子の反射特性や配合量、熱硬化性樹脂組成物の配合組成等を適宜調整することで、波長450nmの光に対する反射率(JIS K7105)で、30%以上を実現する。通常、反射特性の良好な光反射性導電粒子の配合量を増量すれば、反射率も増大する傾向がある。
【0063】
また、光反射性異方性導電接着剤の反射特性は屈折率という観点から評価することもできる。すなわち、その硬化物の反射率が、導電粒子と光反射性絶縁粒子とを除いた熱硬化性樹脂組成物の硬化物の屈折率よりも大きいと、光反射性絶縁粒子とそれを取り巻く熱硬化性樹脂組成物の硬化物との界面での光反射量が増大するからである。具体的には、光反射性絶縁粒子の屈折率(JIS K7142)から、熱硬化性樹脂組成物の硬化物の屈折率(JIS K7142)を差し引いた差が、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.2以上であることが望まれる。なお、通常、エポキシ樹脂を主体とする熱硬化性樹脂組成物の屈折率は、約1.5である。
【0064】
熱硬化性樹脂組成物としては、従来の異方性導電接着剤において使用されているものを利用することができる。一般に、このような熱硬化性樹脂組成物は、絶縁性バインダ樹脂に硬化剤を配合したものである。絶縁性バインダ樹脂としては、脂環式エポキシ化合物や複素環系エポキシ化合物や水素添加エポキシ化合物等を主成分としたエポキシ系樹脂が好ましく挙げられる。
【0065】
脂環式エポキシ化合物としては、分子内に2つ以上のエポキシ基を有するものが好ましく挙げられる。これらは、液状であっても固体状であってもよい。具体的には、グリシジルヘキサヒドロビスフェノールA、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート等を挙げることができる。中でも、硬化物にLED素子の実装等に適した光透過性を確保でき、速硬化性にも優れている点から、グリシジルヘキサビドロビスフェノールA、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートを好ましく使用することができる。
【0066】
複素環状エポキシ化合物としては、トリアジン環を有するエポキシ化合物を挙げることができ、特に好ましくは1,3,5−トリス(2,3−エポキシプロピル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオンを挙げることができる。
【0067】
水添加エポキシ化合物としては、先述の脂環式エポキシ化合物や複素環系エポキシ化合物の水素添加物や、その他公知の水素添加エポキシ樹脂を使用することができる。
【0068】
脂環式エポキシ化合物や複素環系エポキシ化合物や水素添加エポキシ化合物は、単独で使用してもよいが、2種以上を併用することができる。また、これらのエポキシ化合物に加えて本発明の効果を損なわない限り、他のエポキシ化合物を併用してもよい。例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、テトラメチルビスフェノールA、ジアリールビスフェノールA、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、クレゾール、テトラブロモビスフェノールA、トリヒドロキシビフェニル、ベンゾフェノン、ビスレゾルシノール、ビスフェノールヘキサフルオロアセトン、テトラメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン、ビキシレノール、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等の多価フェノールとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるグリシジルエーテル;グリセリン、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコールとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルエーテル;p−オキシ安息香酸、β−オキシナフトエ酸のようなヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるグリシジルエーテルエステル;フタル酸、メチルフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラハイドロフタル酸、エンドメチレンテトラハイドロフタル酸、エンドメチレンヘキサハイドロフタル酸、トリメット酸、重合脂肪酸のようなポリカルボン酸から得られるポリグリシジルエステル;アミノフェノール、アミノアルキルフェノールから得られるグリシジルアミノグリシジルエーテル;アミノ安息香酸から得られるグリシジルアミノグリシジルエステル;アニリン、トルイジン、トリブロムアニリン、キシリレンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、ビスアミノメチルシクロヘキサン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等から得られるグリシジルアミン;エポキシ化ポリオレフィン等の公知のエポキシ樹脂類が挙げられる。
【0069】
硬化剤としては、酸無水物、イミダゾール化合物、ジシアン等を挙げることができる。中でも、硬化物を変色させ難い酸無水物、特に脂環式酸無水物系硬化剤を好ましく使用できる。具体的には、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物等を好ましく挙げることができる。
【0070】
熱硬化性樹脂組成物において、脂環式エポキシ化合物と脂環式酸無水物系硬化剤とを使用する場合、それぞれの使用量は、脂環式酸無水物系硬化剤が少なすぎると未硬化エポキシ化合物が多くなり、多すぎると余剰の硬化剤の影響で被着体材料の腐食が促進される傾向があるので、脂環式エポキシ化合物100質量部に対し、脂環式酸無水物系硬化剤を、好ましくは80〜120質量部、より好ましくは95〜105質量部の割合で使用する。
【0071】
光反射性異方性導電接着剤は、熱硬化性樹脂組成物と、導電粒子と、光反射性絶縁粒子である白色針状無機粒子とを均一に混合することにより製造することができる。また、光反射性異方性導電フィルムとする場合には、熱硬化性樹脂組成物と、導電粒子と、光反射性絶縁粒子である白色針状無機粒子とをトルエン等の溶媒とともに分散混合し、剥離処理したPETフィルムに所期の厚さとなるように塗布し、約80℃程度の温度で乾燥すればよい。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0073】
<実施例1〜6、比較例1〜4>
(マルチチップ実装用緩衝フィルムの作製)
表1に示す耐熱性樹脂フィルム(耐熱性樹脂層)に、表1のシリコーン系樹脂組成物をスクリーン印刷法により塗布し、120℃で1時間乾燥させて柔軟性樹脂層を形成することにより、マルチチップ実装用緩衝フィルムを作製した。
【0074】
なお、耐熱性樹脂フィルム並びにシリコーン系樹脂組成物としては以下の材料を使用した。
【0075】
ポリイミド樹脂フィルム: ユーピレックス−25S、宇部興産(株)
ポリエステル樹脂フィルム: テイジンテトロンフィルム、帝人(株)
ポリ塩化ビニル樹脂フィルム: エピロンCB3005、太平化学製品(株)
ポリオレフィン樹脂フィルム: SAN8041、(株)テックジャム
フッ素樹脂フィルム(ポリテトラフルオロエチレン):ニフトロン、日東電工(株)
シリコーン: KE−1281、X−32−2020、信越シリコーン(株)
シリコーン: XE13−1822、MOMENTIVE社
ジメチルシリコーン: KER−2600、信越シリコーン(株)
ジメチルシリコーン: KER−2500、信越シリコーン(株)
【0076】
作製したマルチチップ実装用緩衝フィルムと、以下に説明する光反射性異方性導電接着剤とを使用し、回路基板に複数のLED素子をフリップチップ方式で一括にマルチチップ実装し、得られマルチチップモジュールについて「導通信頼性」と「アライメントずれ」とについて試験評価した。得られた評価結果を表1に示す。
【0077】
<光反射性異方性導電接着剤の調製>
白色針状無機粒子と、球状樹脂の表面を金メッキ処理した導電粒子(粒径5μm)とをエポキシ硬化系接着剤(CEL2021P−MeHHPAを主成分とした接着性バインダ)からなる熱硬化性樹脂組成物に混合し、光反射性異方性導電接着剤を作製した。白色針状無機粒子の添加量は、熱硬化性樹脂組成物に対して12.0体積%とした。白色針状無機粒子としては、長方向粒径1.7μm、短方向粒径0.13μm(アスペクト比13.1)の二酸化チタン(TiO)ウィスカを使用した。また、導電粒子の添加量は、熱硬化性樹脂組成物に対して10質量%とした。
【0078】
<マルチチップモジュールの作製>
100μmピッチの銅配線にNi/Au(5.0μm厚/0.3μm厚)メッキ処理した配線を有し、20個のLED素子を実装可能なガラスエポキシ基板に、バンプホルダ(FB700、カイジョー(株))を用いて10μm高の金(Au)バンプを形成した。この金バンプ付きガラスエポキシ基板に、前述の異方性導電接着剤を15μm厚となるように塗布し、その上に0.3mm角のLEDチップ素子20個を搭載し、仮貼りした。金属製の加熱加圧ヘッドを備えたフリップチップボンダーを用いて、この仮貼りしたLEDチップ素子と加熱加圧ヘッドとの間に実施例又は比較例のマルチチップ実装用緩衝フィルムを配し、200℃で30秒間、本加熱加圧することによりマルチチップモジュールを得た。
【0079】
<導通信頼性評価>
まず、得られた直後のマルチチップモジュールの導通抵抗をカーブトレーサー(TCT−2004、國洋電機工業(株))を用いて測定した。得られた結果を表1に示す。次に、マルチチップモジュールを冷熱サイクル試験(TCT:−40℃及び100℃の雰囲気に各30分間曝し、これを1サイクルとする冷熱サイクルを500サイクル又は1000サイクル実施)後、再度、導通抵抗を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0080】
なお、導通信頼性の評価は、If=20mA時のVf値を測定し、以下の基準で評価した。なお、実装時のチップ破損などで短絡(リーク)が確認された場合には「*」で示し、また、オープン(導通不能)の場合を「−」で示した。
【0081】
ランク 基準
AA: 初期Vf値からのVf値の上昇分が±0.05V未満
A: 初期Vf値からのVf値の上昇分が±0.05V以上未満±0.07V未満
B: 初期Vf値からのVf値の上昇分が±0.07V以上±0.1V未満
C: 初期Vf値からのVf値の上昇分が±0.1V以上
【0082】
<アライメントずれ評価>
得られたマルチチップモジュールの外観を顕微鏡を用いて観察し、LEDチップ素子と基板のバンプとの間のずれを観察し、以下の基準で評価した。
【0083】
ランク 基準
AA: LED素子の電極と基板のバンプとの間でずれが全くない場合
A: LED素子の電極と基板のバンプとの間で一部ずれが観察されたが、実用上問題がない場合
B: LED素子の電極と基板のバンプとの間でずれが観察されたが、電気的接続は得られている場合
C: LED素子の電極と基板のバンプとの間で著しくずれが観察され、電気的接続が全くない場合
【0084】
【表1】




【0085】
表1から、実施例1〜6のマルチチップ実装用緩衝フィルムを用いて製造されたマルチチップモジュールは、LEDチップのアライメントずれが観察されず、また、初期及びTCT1000サイクル後の接続信頼性も良好であった。特に、実施例1の場合、他の実施例よりも良好な結果を示した。
【0086】
他方、比較例1のマルチチップ実装用緩衝フィルムを用いて製造されたマルチチップモジュールは、LEDチップのアライメントずれが観察されなかったが、柔軟性樹脂層が存在しないため、導通信頼性試験の初期評価でリークが観察され、良好な導通信頼性が得られなかった。
【0087】
比較例2のマルチチップ実装用緩衝フィルムを用いて製造されたマルチチップモジュールは、LEDチップのアライメントずれが観察されなかったが、柔軟性樹脂層が比較的硬いため、導通信頼性に問題があった。
【0088】
比較例3のマルチチップ実装用緩衝フィルムを用いて製造されたマルチチップモジュールの場合、緩衝フィルムの耐熱性樹脂層が熱収縮してしまい、LEDチップのアライメントずれが観察された。しかも初期導通信頼性は良好であったが、TCT500サイクル後にはVf値が著しく上昇し、更にTCT1000サイクル後にはオープンとなった。
【0089】
比較例4のマルチチップ実装用緩衝フィルムを用いて製造されたマルチチップモジュールの場合、緩衝フィルムが歪んでしまい、LEDチップのアライメントが完全にずれてしまった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のマルチチップ実装用緩衝フィルムは、チップ素子側に配すべき、所定の線膨張係数を超えない比較的変形しにくい耐熱性樹脂層に、ボンディングヘッド側に配されるべき、所定のショアA硬度を示す材料からなる比較的変形し易い柔軟性樹脂を積層した構成を有する。このため、マルチチップ実装において、ボンディングヘッドにより緩衝フィルムを加熱加圧した際、チップ素子に接している耐熱性樹脂層は変形し難いので、結果的にチップ素子のアライメントズレを抑制することが可能となる。他方、ボンディングヘッドに接している柔軟性樹脂層は変形しやすいので、チップ素子の高さの相違やバラツキをキャンセルし、複数のチップ素子のそれぞれに対し良好な加熱加圧を行い、良好な接続信頼を確保することができる。よって、基板上に複数のチップ素子を一括実装するマルチチップ実装に有用である。
【符号の説明】
【0091】
1 耐熱性樹脂層
2 柔軟性樹脂層
10 マルチチップ実装用緩衝フィルム
21 ステージ
22 配線
23 バンプ
24 基板
25 接着剤
26 チップ素子
27 ボンディングヘッド
50 マルチチップモジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性樹脂層と、その上に形成された柔軟性樹脂層とを有するマルチチップ実装用緩衝フィルムであって、耐熱性樹脂層が80ppm/℃以下の線膨張係数を有し、柔軟性樹脂層が、JIS−K6253によるショアA硬度が10〜80である樹脂材料から形成されたものであるマルチチップ実装用緩衝フィルム。
【請求項2】
耐熱性樹脂層が、ポリイミド樹脂フィルム、ポリエステル樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル樹脂フィルム、ポリオレフィン樹脂フィルム又はフッ素樹脂フィルムである請求項1記載のマルチチップ実装用緩衝フィルム。
【請求項3】
柔軟性樹脂層を構成する樹脂材料が、アニオンリビング重合性のシリコーン樹脂組成物である請求項1又は2記載のマルチチップ実装用緩衝フィルム。
【請求項4】
耐熱性樹脂層の層厚が200μm以下であり、柔軟性樹脂層の層厚が10μm以上である請求項1〜3のいずれかに記載のマルチチップ実装用緩衝フィルム。
【請求項5】
基板上に複数のチップ素子を接着剤を介してボンディングヘッドにより加熱加圧することによりマルチチップ実装してなるマルチチップモジュールの製造方法において、以下の工程(A)〜(C):
工程(A)
複数のチップ素子を、接着剤を介して基板にアライメントし、仮貼りする工程;
工程(B)
チップ素子とボンディングヘッドとの間に、請求項1〜4のいずれかに記載のマルチチップ実装用緩衝フィルムを、その耐熱性樹脂層がチップ素子側になるように配置する工程;
工程(C)
マルチチップ実装用緩衝フィルムを介して、複数のチップ素子をボンディングヘッドで基板に対し加熱加圧することにより接続する工程
を有する製造方法。
【請求項6】
チップ素子が、LED素子である請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
マルチチップ実装用緩衝フィルムが、枚葉で適用される請求項5又は6記載の製造方法。
【請求項8】
マルチチップ実装用緩衝フィルムが、ロールツーロールで適用される請求項5又は6記載の製造方法。
【請求項9】
接着剤が、光反射性針状絶縁粒子を含有する異方性導電接着剤である請求項6〜8のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2012−84582(P2012−84582A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227420(P2010−227420)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】