説明

ミシン、メンテナンス情報報知プログラム及びその記録媒体

【課題】縫製時間と針数の少なくとも一方の累積値に基づいてメンテナンス情報を報知する報知時期を演算し、報知時期に達した場合にメンテナンス情報を複数回報知可能にしたミシン、メンテナンス情報報知プログラム、その記録媒体を提供する。
【解決手段】縫製時間Taと針数Na,Na1,Na2の累積値の何れかがメンテナンス情報を報知する複数の報知時期の何れかに達したか否かが判断され(S4)、メンテナンス情報表示回数Dに「3」が設定されて(S6)、予め設定されているメンテナンス情報を液晶ディスプレイ28に表示させる(S9)。次に、メンテナンス情報表示回数Dが「1」だけデクリメントされる(S10)。このメンテナンス情報が3回表示されると、S7の判定がNoになるので、メンテナンス情報が表示されなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシン、メンテナンス情報報知プログラム及びその記録媒体に関し、特に縫製時間や針数の累積値から決定される報知時期に達したときメンテナンス情報を複数の設定回数だけ報知するように構成したものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミシンにおいて、縫製時間の累積値が所定時間を経過したとき、潤滑油の補充や交換を促すための警告を表示可能にした警告報知装置が実用化されている。例えば、特許文献1には、ミシンの潤滑油を補充又は交換する保守時期の指標となるミシンの針棒の上下動回数を累積的にカウントし、ミシンの実際の縫製回数の累積値を反映するタイミングでミシンの潤滑油の保守時期を報知可能にしたミシンの潤滑油保守時期報知装置が開示されている。
【0003】
特許文献2に記載のミシンの補給時期警報装置においては、ミシンの標準的使用条件と、この標準的使用条件で使用した場合に摺動部に潤滑油を補給する標準的補給時期とを対応させた標準補給情報を記憶しておき、実際の使用条件を検知し、その検知した使用条件に応じて標準的補給時期を補正した補正補給時期を求め、この補正補給時期に達する毎に、補給を促す警告を発するようになっている。
【特許文献1】特開2005−110732号公報
【特許文献2】特開2006−263268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の潤滑油保守時期報知装置においては、保守時期の指標となる針棒の上下動回数の累積値は、電源遮断時に不揮発性記憶素子に書き込まれて更新される。しかし、この場合、電源遮断後に残存する電圧を活用して累積値を更新する関係上、電圧の不足等により累積値が正常に更新されず、異常値が記憶される虞がある。
【0005】
特許文献2のミシンの補給時期報知装置においては、潤滑油を補給する補給時期に達したときに警告が表示されるが、この警告は1回表示されるだけであるから、その警告を見落としてしまう可能性があり、その場合には、摺動部のオイル切れにより、焼き付きが発生してしまう虞がある。
【0006】
本発明の目的は、縫製時間と針数の少なくとも一方の累積値に基づいてメンテナンス情報を報知する報知時期を演算可能にし、報知時期に達した場合にメンテナンス情報を複数回報知可能にしたミシン、メンテナンス情報報知プログラム、その記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1のミシンは、メンテナンス情報を記憶するメンテナンス情報記憶手段と、前記メンテナンス情報を報知可能な報知手段とを備えたミシンにおいて、縫製時間と針数の少なくとも一方の累積値データを記憶する累積値データ記憶手段と、前記累積値データに基づいて前記メンテナンス情報を報知する報知時期に達したか否かを判定する判定手段と、前記報知時期に達したとき前記メンテナンス情報を報知した報知回数を記憶する報知回数記憶手段と、前記判定手段により報知時期に達したと判定されたとき、前記報知回数記憶手段に記憶された報知回数に基づいて、前記メンテナンス情報を前記報知手段に複数の設定回数だけ報知させる報知制御手段とを備えたことを特徴としている。
【0008】
ミシンにより縫製が行われる毎に、累積値データ記憶手段は、縫製時間と針数の少なくとも一方の累積値データを記憶していく。判定手段は、記憶した累積値データに基づいてメンテナンス情報を報知する報知時期に達したか否かを判定する。報知回数記憶手段は、メンテナンス情報を報知した報知回数を記憶する。報知制御手段は、判定手段の判定結果と報知回数記憶手段に記憶された報知回数とに基づいて、メンテナンス情報を報知する。
【0009】
請求項2のミシンは、前記累積値データ記憶手段は、縫製時間と針数の少なくとも一方の第1累積値データと、縫製時間と針数の少なくとも一方についての電源遮断時における第2累積値データとを記憶することを特徴としている。
【0010】
請求項3のミシンは、請求項2の発明において、前記第1累積値データは、前記ミシンの電源投入毎に最新のデータに更新され、前記第2累積値データは、前記ミシンの電源遮断時毎に最新のデータに更新されることを特徴としている。
【0011】
請求項4のミシンは、請求項1〜3の何れかの発明において、前記累積値データ記憶手段は、針数の累積値データを、刺繍模様を縫製したときの針数の累積値データと実用模様を縫製したときの針数の累積値データとに区別して記憶することを特徴としている。
【0012】
請求項5のミシンは、請求項1〜4の何れかの発明において、前記メンテナンス情報を報知する報知時期は、前記累積値データと対応づけて複数時期設定されており、報知されるメンテナンス情報は、前記複数時期のうちの該当する報知時期に応じて決定される情報であることを特徴としている。
【0013】
請求項6のミシンは、請求項1〜5の何れかの発明において、前記報知手段はディスプレイを有する表示手段で構成され、前記メンテナンス情報は、図形、文字、数字等で表した情報であることを特徴としている。
【0014】
請求項7のメンテナンス情報報知プログラムは、メンテナンス情報を記憶するメンテナンス情報記憶手段と、前記メンテナンス情報を報知可能な報知手段と、前記メンテナンス情報の報知回数を記憶する報知回数記憶手段とを有するミシンを制御するコンピュータを、縫製時間と針数の少なくとも一方の累積値データを累積値データ記憶手段に記憶させる累積値データ記憶制御手段と、前記累積値データに基づいてメンテナンス情報を報知する報知時期に達したか否かを判定する判定手段と、前記報知時期に達し前記メンテナンス情報を報知した報知回数を報知回数記憶手段に記憶させる報知回数記憶制御手段と、前記判定手段により報知時期に達したと判定されたとき、前記報知回数記憶手段に記憶された報知回数に基づいて、前記メンテナンス情報を前記報知手段に複数の設定回数だけ報知させる報知制御手段と、として機能させることを特徴としている。
【0015】
請求項8の記録媒体は、請求項7のメンテナンス情報報知プログラムをコンピュータ読取り可能に記録したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、メンテナンス情報を記憶するメンテナンス情報記憶手段と、前記メンテナンス情報を報知可能な報知手段とを備えたミシンにおいて、累積値データ記憶手段に記憶された累積値データに基づいて、判定手段がメンテナンス情報を報知する報知時期に達したか否かを判定し、報知時期に達する毎に報知回数記憶手段に記憶された報知回数に基づいて、報知制御手段がメンテナンス情報を複数の設定回数だけ報知するので、メンテナンス情報を確実に報知することができる。従って、ユーザーは、確実にメンテナンス情報を知ることができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、累積値データ記憶手段は、縫製時間と針数の少なくとも一方の第1累積値データと、縫製時間と針数の少なくとも一方についての電源遮断時におけるの第2累積値データとを記憶する。従って、第1累積値データと第2累積値データの何れか一方の累積値データに異常値が生じても、他方の累積値データによりバックアップすることができ、第1,第2累積値データの信頼性を高めることができる。その他、請求項1の発明と同様の効果を奏することができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、第1累積値データは、ミシンの電源投入毎に最新のデータに更新され、第2累積値データは、ミシンの電源遮断時毎に最新のデータに更新される。従って、電源投入時に更新される第1累積値データと電源遮断時に更新される第2累積値データとを比較することにより、何れか一方の累積値データに異常値が生じても、その異常値を容易に判別することができる。その他、請求項2の発明と同様の効果を奏することができる。
【0019】
このように、更新時期を異ならせた第1,第2累積値データを二重に記憶していくことにより、第1,第2累積値データの信頼性を高め、メンテナンス情報を報知する報知時期を精度良く求めることができる。
【0020】
請求項4の発明によれば、累積値データ記憶手段は、針数の累積値データを、刺繍模様を縫製したときの針数の累積値データと実用模様を縫製したときの針数の累積値データとに区別して記憶するので、ミシンの使用状況に応じた累積値データを記憶させことができる。従って、これらの累積値データに基づいて、ミシンの使用状況に応じたメンテナンス情報を報知することができる。その他、請求項1〜3の何れかの発明と同様の効果を奏することができる。
【0021】
請求項5の発明によれば、メンテナンス情報を報知する報知時期は、累積値データと対応づけて複数時期設定されており、報知されるメンテナンス情報は、複数時期のうちの該当する報知時期に応じて決定される情報であるので、累積値データに応じた適切なメンテナンス情報を報知することができる。その他、請求項1〜4の何れかの発明と同様の効果を奏することができる。
【0022】
請求項6の発明によれば、報知手段はディスプレイを有する表示手段で構成され、メンテナンス情報は、図形、文字、数字等で表した情報であるので、ユーザーは、そのメンテナンス情報を容易に視認でき、且つ容易に理解することができる。その他、請求項1〜5の何れかの発明と同様の効果を奏することができる。
【0023】
請求項7の発明によれば、ミシンを制御するコンピュータにメンテナンス情報報知プログラムを実行させることにより、請求項1の発明の効果と同様の効果を奏することができる。
【0024】
請求項8の発明によれば、請求項7に記載のメンテナンス情報報知プログラムを記録した記録媒体を、ミシンを制御するコンピュータに読取らせ、このメンテナンス情報報知プログラムをコンピュータに実行させることにより、請求項7の発明の効果と同様の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施する為の最良の形態について図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0026】
図1に示すように、刺繍縫製可能なミシンMは、ベッド部1と、ベッド部1の右端部から立設された脚柱部2と、脚柱部2の上端からベッド部1に対向するように左方へ延びるアーム部3とを有する。ベッド部1の針板1aの下側には、送り歯(図示略)を上下動させる送り歯上下動機構(図示略)と、送り歯を前後動させる送り歯前後動機構(図示略)と、下糸ボビン(図示略)を着脱自在に装着する釜機構(図示略)等が設けられている。
【0027】
ベッド部1のフリーアーム部分には、加工布(図示略)を展張保持する刺繍枠(図示略)を用いて刺繍縫製する為の刺繍装置10が着脱可能に装着される。刺繍装置10は、本体カバー11内に収容され且つ刺繍枠をX方向(左右方向)に移動させるX方向駆動機構及びX方向駆動モータ26(図2参照)と、キャリッジカバー12内に収容され且つ刺繍枠をY方向(前後方向)に移動させるY方向駆動機構及びY方向駆動モータ27(図2参照)等を有する。脚柱部2の前面には、カラーの液晶ディスプレイ6が設けられ、この液晶ディスプレイ6には、メニュー画面や模様選択画面や刺繍模様等が表示される。
【0028】
この液晶ディスプレイ6の前面には、透明電極からなる複数のタッチキーをマトリックス状に設けた操作用のタッチパネル7が設けられている。そこで、模様選択や縫製機能を指示する場合、ユーザーが該当するタッチキーを指で押圧操作することにより、液晶ディスプレイ6に表示された複数の縫製模様の中から所望の模様選択や縫製機能の実行指示が可能になっている。ここで、縫製模様としては、送り歯で加工布を移送しながら直線やジグザグ等の縫目を形成する実用模様と、前記刺繍装置10により加工布に模様を形成するように縫製する刺繍模様がある。尚、液晶ディスプレイ6が「報知手段」に相当する。
【0029】
アーム部3には、ミシンモータ24(図2参照)で回転駆動される左右方向に延びる主軸(図示略)と、この主軸を手動操作で回転可能なハンドプーリ9と、下端に縫針4を装着した針棒5を上下動させる針棒駆動機構(図示略)と、針棒5を布送り方向と直交する方向に揺動させる針棒揺動機構(図示略)、天秤(図示略)を含む天秤機構(図示略)等が設けられている。アーム部3の前側には、縫製作業の始動と停止を指令する起動・停止スイッチ8等の各種のスイッチが設けられている。
【0030】
次に、刺繍縫製可能なミシンMの制御系について説明する。
図2に示すように、制御装置Cは、CPU15とROM16とRAM17と記憶情報を書換え可能な不揮発性のEEPROM18とを含むマイクロコンピュータと、このマイクロコンピュータにデータバスなどを介して接続された入力インターフェース19及び出力インターフェース20等を有する。
【0031】
入力インターフェース19には、起動・停止スイッチ8と、主軸の回転位置を検知するタイミング信号発生器23と、タッチパネル29等がそれぞれ接続されている。出力インターフェース20には、ミシンモータ24、針棒5を左右方向に揺動させる針棒揺動機構を駆動する針振り用パルスモータ25、刺繍枠をX方向に移動させるX方向駆動機構を駆動するX方向駆動モータ26、刺繍枠をY方向に移動させるY方向駆動機構を駆動するY方向駆動モータ27、液晶ディスプレイ28及びタッチパネル29等が、それぞれ駆動回路30〜34を介して電気的に接続されている。尚、コネクタ21には、CD−ROMドライブ等の外部記憶装置22を接続することができる。
【0032】
ROM82には、実用模様を縫製する為の制御プログラムと、刺繍データに基づいて刺繍模様を縫製する為の制御プログラムと、液晶ディスプレイ6に各種情報を表示させる表示制御プログラムと、液晶ディスプレイ6に表示される複数の縫製模様の中から任意の縫製模様を選択する模様選択制御プログラム、後述するメンテナンス情報を報知するためのメンテナンス情報報知プログラム等が予め格納されている。
【0033】
EEPROM18には、複数の縫製模様の縫製データが予め格納されたデータメモリと、種々のワークメモリが設けられている。ミシンMにて縫製処理を行う際には、選択された縫製模様の縫製データが、このEEPROM18から読み出されてRAM17のデータメモリに格納される。RAM17には、縫製に供する縫製データがEEPROM18から読み込まれて記憶されるデータメモリと、種々のワークメモリが設けられている。
【0034】
次に、図3に基づいて、後述するメンテナンス情報報知の為に実行されるメンテナンス情報報知プログラムで使用する種々の累積値データについて説明する。
縫製時間Taは、ユーザーがミシンを初めて使用開始したときから計時される縫製時間の累積値であり、この縫製時間Taはミシンの電源の投入毎に更新される。
針数Naは、ユーザーがミシンを初めて使用開始したときからカウントされる針数の累積値であり、この針数Naはミシンの電源の投入毎に更新される。ここで、針数Naは、刺繍模様を縫製した針数Na1の累積値と実用模様を縫製した針数Na2の累積値を合計した値であり、これら針数Na1,Na2もミシンの電源の投入毎に更新される。縫製時間Taと針数Na,Na1,Na2は、「第1累積値データ」に相当するものであり、EEPROM18に記憶されている。
【0035】
縫製時間Tbは、ミシンの電源を遮断する毎に更新される縫製時間の累積値である。針数Nbは、ミシンの電源を遮断する毎に更新される針数の累積値である。ここで、針数Nbは、刺繍模様を縫製した針数Nb1の累積値と実用模様を縫製した針数Nb2の累積値を合計した値であり、これら針数Nb1,Nb2もミシンの電源を遮断する毎に更新される。縫製時間Tb、針数Nb,Nb1,Nb2は、「第2累積値データ」に相当するものであり、EEPROM18に記憶されている。
【0036】
縫製時間Tcは、電源を投入したときから電源ON状態が継続している間に計時された今回の縫製の縫製時間の累積値である。針数Ncは、電源を投入したときから電源ON状態が継続している間にカウントされた今回の縫製の針数の累積値であって、刺繍模様を縫製した針数Nc1と実用模様を縫製した針数Nc2を合計した値である。縫製時間Tc、針数Nc,Nc1,Nc2は、RAM17のデータメモリに記憶されている。
【0037】
次に、制御装置Cにより実行される本願特有のメンテナンス情報報知制御について、図4〜図7のフローチャートに基づいて説明する。尚、図中Si(i=1,2,・・)は各ステップを示す。ミシンMの電源を投入するとこの制御が開始される。最初に、縫製時間Taと、針数Na,Na1,Na2を更新する更新処理(図6参照)が実行される(S1)。まず、この縫製時間と針数の累積値を更新する更新処理について説明する。
【0038】
図6に示すように、S20において、縫製時間と針数の初期化処理が未だか否か判定され、初期化処理が未だの場合(S20:Yes)には、S21において縫製時間と針数の初期化処理が実行される。この場合、縫製時間Taと、針数Na,Na1,Na2に夫々予め設定された初期値が設定される。
【0039】
ここで、この縫製時間と針数の初期化処理は、通常、工場出荷時に行われる。しかし、ユーザーが既に所有しているミシンに対しては、メンテナンス情報報知プログラムをウェブサーバー等から通信回線によりダウンロード可能に提供するようにしてもよい。この場合、メンテナンス情報報知プログラムをミシンに読込ませた後に、このメンテナンス情報報知プログラムを最初に実行する際に、縫製時間と針数の初期化処理が行われる。ここで、ユーザーが所有しているミシンが、針数の累積値だけを記憶するようになっている場合には、この初期化処理で、例えば、針数の5針を縫製時間の1秒と換算して、この換算値を縫製時間の初期値としてもよい。尚、この縫製時間と針数の初期化処理が実行されると、初期化済みフラグがセットされてEEPROM18のワークメモリに記憶される。
【0040】
縫製時間と針数の初期化処理が済んでいる場合、また、S21の初期化処理実行後には、S22へ移行する。S22においては、針数Nb,Nb1,Nb2の累積値が正常か否か判定される。
【0041】
具体的には、針数Nbと針数Na、針数Nb1と針数Na1、及び針数Nb2と針数Na2とが夫々比較され、針数Nb,Nb1,Nb2の値が、針数Na、Na1,Na2よりも小さくなっている場合や、逆に、通常のミシンの使用状況では有り得ない程大きくなり過ぎている場合には、針数Nb,Nb1,Nb2が正常でないと判定されてS24へ移行する。それ以外の場合には、針数Nb,Nb1,Nb2が正常であると判定されてS23へ移行する。
【0042】
S23においては、針数Nb,Nb1,Nb2が正常であるので、針数Na,Na1,Na2のデータが針数Nb,Nb1,Nb2のデータでもって夫々更新される。S24においては、針数Nb,Nb1,Nb2が正常でないので、針数Nb,Nb1,Nb2がEEPROM18に記憶されている針数Na,Na1,Na2に書き換えるように修正される。
【0043】
次のS25においては、縫製時間Tbが正常か否か判定される。つまり、縫製時間Tbと縫製時間Taが比較されて、縫製時間Tbが縫製時間Taよりも小さくなっている場合や、逆に、通常のミシンの使用状況では有り得ない程大きくなり過ぎている場合には、縫製時間Tbが正常でないと判定されてS27へ移行する。それ以外の場合には、縫製時間Tbが正常であると判定されてS26へ移行する。
【0044】
S26においては、縫製時間Tbが正常であるので、縫製時間Taが縫製時間Tbでもって更新される。また、S27においては、縫製時間Tbが正常でないので、縫製時間TbがEEPROM18に記憶されている縫製時間Taで書き換えることで修正され、その後、図4のフローチャートのS2へリターンする。
【0045】
次に、図4のS2において、今回の電源ON状態に縫製した縫製時間と針数を計数する為、縫製時間Tcと針数Nc,Nc1,Nc2が0にクリアされる。次に、メンテナンス情報を報知する時期に達したか否かを判定するためのメンテナンス情報表示時期判定処理(図7参照)が実行される(S3)。
【0046】
図7に示すメンテナンス情報表示時期判定処理が開始されると、EEPROM18に記憶している縫製時間Taがメンテナンス情報を表示すべき縫製時間に達したか否か判定され(S30)、その判定がNoの場合はS31へ移行し、また、Yesの場合にはS36へ移行する。例えば、メンテナンス情報を表示すべき縫製時間としては、例えば、500時間、600時間、700時間、800時間、900時間、1000時間の6とおりの時間が設定されてROM16に記憶されている。
【0047】
また、メンテナンス情報を表示すべき刺繍縫製の針数としては、例えば、600万針、800万針、1000万針、1200万針の4とおりの針数が設定されてROM16に記憶されている。また、メンテナンス情報を表示すべき実用縫製の針数としては、例えば、300万針、400万針、500万針、600万針の4とおりの針数が設定されてROM16に記憶されている。また、メンテナンス情報を表示すべきトータルの針数としては、例えば、900万針、1200万針、1500万針、1800万針の4とおりの針数が設定されてROM16に記憶されている。
【0048】
次に、S31においては、EEPROM18に記憶している刺繍模様を縫製した刺繍針数Na1が、メンテナンス情報を表示すべき刺繍針数に達したか否か判定され、その判定がNoの場合はS32へ移行し、また、Yesの場合にはS36へ移行する。
【0049】
次に、S32においては、EEPROM18に記憶している実用模様を縫製した実用針数Na2が、メンテナンス情報を表示すべき実用針数に達したか否か判定され、その判定がNoの場合はS33へ移行し、また、Yesの場合にはS36へ移行する。
【0050】
次に、S33においては、EEPROM18に記憶しているトータルの針数Naが、メンテナンス情報を表示すべきトータル針数に達したか否か判定され、その判定がNoの場合はS34へ移行し、また、Yesの場合にはS36へ移行する。
【0051】
次に、S34においては、縫製時間と針数の関係に問題が無いか否か判定される。例えば、縫製時間と針数より単位時間あたりの針数を演算し、この単位時間あたりの針数が、ミシンの通常の使用状態における標準針数と比較されて判定される。この標準針数は予め設定されてROM16に記憶されている。そして、その判定がNoの場合はS35へ移行し、また、Yesの場合にはS36へ移行する。
【0052】
次に、S35では、メンテナンス情報を報知する報知時期に達していないため、フラグFが「0」に設定され、また、S36では、メンテナンス情報を報知する報知時期に達しているため、フラグFが「1」に設定され、次に図4のS4へリターンする。
【0053】
以上説明したメンテナンス情報表示時期判定処理のS30において、例えば、縫製時間については、メンテナンス情報を報知すべき複数の時期として、500時間、600時間、700時間、800時間、900時間、1000時間の6とおり設定されている関係上、縫製時間が500時間経過し、図4に示す表示回数Dが「3」に設定後、メンテナンス情報の表示が3回実行されてD=0になった以降は、縫製時間が600時間になるまで、S30の判定がNoとなるようにこの制御プログラムが構成されている。このことは、S31,S32,S33についても同様である。
【0054】
図4のS4においては、メンテナンス情報表示の複数時期の何れかに到達したか否か前記フラグFに基づいて判定され、その判定がYesの場合はS5へ移行し、また、その判定がNoの場合はS11へ移行する。S5においては、メンテナンス情報表示回数Dを設定する設定条件が成立したか否か判定される。例えば、縫製時間Taについては、最初に500時間、600時間、700時間、800時間、900時間、1000時間の何れかに達した場合に設定条件が成立したと判定され、それ以外の場合はNoと判定される。尚、このことは、刺繍針数Na1、実用針数Na2、トータル針数Naについても同様である。
【0055】
S5の判定がNoの場合はS7へ移行するが、S5の判定がYesの場合は、メンテナンス情報表示回数Dに、例えば「3」が設定され(S6)、次にメンテナンス情報表示回数Dが0より大きいか否か判定され(S7)、その判定がNoの場合はS11へ移行するが、その判定がYesの場合はS8において、メンテナンス情報を決定するメンテナンス情報決定処理が実行される。
【0056】
このメンテナンス情報決定処理においては、例えば、縫製時間Taが500時間に達した場合、予め設定されてROM16に記憶されているメンテナンス情報の「縫製時間が○○○時間を超えました。メンテナンスを行って下さい。」という表示データの空欄○○○に該当する時間に「500」を書き込み、RAM17のワークメモリに記憶させる処理が行われる。また、刺繍針数、実用針数、トータル針数についても同様な処理が行われる。これらのメンテナンス情報の例を図8に示す。
【0057】
次に、S9においては、S8において決定されたメンテナンス情報が、液晶ディスプレイ28に表示される。図9、図10は、液晶ディスプレイ28への表示例を示すものであり、図9、図10に示すように文字、数字に加えて所定の図形を表示してもよい。尚、縫製時間と針数の関係に問題がある場合には、図8に示すように、例えば、「使用方法に問題があります。高速縫製が多すぎます。」のような警告メッセージが表示される。次に、S10ではメンテナンス情報表示回数Dが「1」だけデクリメントされ、S11へ移行する。S11では、ミシンの通常作業(縫製作業)が実行されると共に、縫製時間Tcと、針数Nc,Nc1,Nc2がカウントされて更新される。
【0058】
次に、電源が遮断されると、この電源遮断直後の例えば約80ms程度の微小時間に降下中の電圧を活用して、縫製時間Tbと、針数Nb,Nb1,Nb2が演算されて書き込まれる(S13)。この場合、前回の累積値に今回縫製分の値を加算する為に、Tb=Tb+Tc、Nb=Nb+Nc、Nb1=Nb1+Nc1、Nb2=Nb2+Nc2の式にて演算される。こうして、電源遮断時の縫製時間Tbと、針数Nb,Nb1,Nb2が更新されると、このメンテナンス情報報知制御は終了する。
【0059】
ここで、次回の縫製に際して電源が投入されると、上述のようにS1〜S13が実行される。このとき、メンテナンス情報表示回数D=2であるので、メンテナンス情報の表示が前記と同様に実行される。このように、メンテナンス情報が3回表示されると、メンテナンス情報表示回数D=0となり、S7の判定がNoになるので、メンテナンス情報が表示されなくなる。
【0060】
例えば、縫製時間を例にして補足説明すると、縫製時間が500時間に達した際に、電源の投入毎に1回ずつ計3回だけメンテナンス情報を報知する表示が実行され、その後、縫製時間が600時間に達した際にも前記同様に計3回だけメンテナンス情報を報知する表示が実行され、以後同様に、700時間、800時間、900時間、1000時間に達した際に、夫々、計3回だけメンテナンス情報を報知する表示が実行される。
【0061】
尚、図4〜図7のフローチャートが請求項7の「メンテナンス情報報知プログラム」に相当し、この「メンテナンス情報報知プログラム」をミシンを制御するコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体が請求項8の「記録媒体」に相当する。
【0062】
以上説明したミシンのメンテナンス情報報知制御の作用、効果について説明する。
電源遮断毎に更新される縫製時間Tb、針数Nb,Nb1,Nb2の累積値と、電源投入毎に、縫製時間Tb、針数Nb,Nb1,Nb2の累積値を用いて更新される縫製時間Ta、針数Na,Na1,Na2の累積値とを別々に更新しながら記憶していくため、一方の累積値(Ta、Na,Na1,Na2)と、他方の累積値(Tb、Nb,Nb1,Nb2)を比較することにより、それらの累積値の正常、異常をチェックし、異常な累積値になっている場合には、正常な方の累積値を用いて異常な累積値を修正することができる。
【0063】
それ故、縫製時間Tb、針数Nb,Nb1,Nb2の累積値と、縫製時間Ta、針数Na,Na1,Na2の累積値の信頼性を高め、メンテナンス情報を報知する報知時期を精度良く求めることができ、メンテナンスの必要な時期に確実にメンテナンス情報を報知することができる。特に、メンテナンス情報を電源投入毎に1回ずつ計3回報知するため、ユーザーにメンテナンス情報を確実に報知することができる。従って、ユーザーは、確実にメンテナンス情報を知ることができる。
【0064】
針数Naの累積値を、刺繍模様を縫製したときの針数Na1の累積値と実用模様を縫製したときの針数Na2の累積値とに区別して記憶するので、ミシンの使用状況に応じた累積値を記憶させことができる。従って、これらの累積値に基づいて、ミシンの使用状況に応じたメンテナンス情報を報知することができる。
【0065】
メンテナンス情報を報知する報知時期は、縫製時間Taと針数Na,Na1,Na2の累積値と対応づけて複数時期設定されており、報知されるメンテナンス情報は、複数時期のうちの該当する報知時期に応じて決定される情報であるので、累積値に応じた適切なメンテナンス情報を報知することができる。
【0066】
メンテナンス情報は、図8、図9、図10に例示するように、図形、文字、数字等で表した情報であるので、ユーザーは、そのメンテナンス情報を容易に視認でき、且つ容易に理解することができる。
【0067】
ここで、本実施例を部分的に変更する例について説明する。
(1)本実施例では、縫製時間の累積値と針数の累積値との両方を記憶するように構成したが、何れか一方の累積値を記憶するように構成してもよい。また、針数はトータルの針数だけを記憶するように構成してもよい。
【0068】
(2)液晶ディスプレイ28に表示するメンテナンス情報は、図8、図9、図10に例示するもの以外に、種々のメンテナンス情報を採用可能である。また、メンテナンス情報を液晶ディスプレイ28に表示する以外に、スピーカーを設け、音声によるメッセージやブザー音によりメンテナンス情報を報知してもよい。また、警告ランプを設け、この警告ランプを点灯又は点滅させるようにして報知してもよい。
【0069】
(3)メンテナンス情報を表示すべき縫製時間、刺繍針数、実用針数、トータル針数は、本実施例に例示した数値に限定されるものではない。また、メンテナンス情報を表示する表示回数は電源投入毎に1回ずつ計3回としたが、3回に限定されるものではない。また、これらの数値をユーザーが適宜設定できるように構成してもよい。
(4)その他、当業者ならば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例を部分的に変更して実施可能であり、本発明はそのような変更例をも包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施例に係るミシンの斜視図である。
【図2】ミシンの制御系のブロック図である。
【図3】縫製時間と針数の累積値を説明する説明図表である。
【図4】メンテナンス情報報知制御の一部のフローチャートである。
【図5】メンテナンス情報報知制御の残部のフローチャートである。
【図6】縫製時間と針数の累積値を更新する更新処理のフローチャートである。
【図7】メンテナンス情報表示時期判定処理のフローチャートである。
【図8】メンテナンス情報の例を示す図表である。
【図9】メンテナンス情報を液晶ディスプレイに表示する例を示す説明図である。
【図10】メンテナンス情報を液晶ディスプレイに表示する例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0071】
M ミシン
C 制御装置
15 CPU
16 ROM
17 RAM
18 EEPROM
28 液晶ディスプレイ(報知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メンテナンス情報を記憶するメンテナンス情報記憶手段と、前記メンテナンス情報を報知可能な報知手段とを備えたミシンにおいて、
縫製時間と針数の少なくとも一方の累積値データを記憶する累積値データ記憶手段と、 前記累積値データに基づいて前記メンテナンス情報を報知する報知時期に達したか否かを判定する判定手段と、
前記報知時期に達したとき前記メンテナンス情報を報知した報知回数を記憶する報知回数記憶手段と、
前記判定手段により報知時期に達したと判定されたとき、前記報知回数記憶手段に記憶された報知回数に基づいて、前記メンテナンス情報を前記報知手段に複数の設定回数だけ報知させる報知制御手段と、
を備えることを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記累積値データ記憶手段は、縫製時間と針数の少なくとも一方の第1累積値データと、縫製時間と針数の少なくとも一方についての電源遮断時における第2累積値データとを記憶することを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記第1累積値データは、前記ミシンの電源投入毎に最新のデータに更新され、前記第2累積値データは、前記ミシンの電源遮断時毎に最新のデータに更新されることを特徴とする請求項2に記載のミシン。
【請求項4】
前記累積値データ記憶手段は、針数の累積値データを、刺繍模様を縫製したときの針数の累積値データと実用模様を縫製したときの針数の累積値データとに区別して記憶することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のミシン。
【請求項5】
前記メンテナンス情報を報知する報知時期は、前記累積値データと対応づけて複数時期設定されており、報知されるメンテナンス情報は、前記複数時期のうちの該当する報知時期に応じて決定される情報であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のミシン。
【請求項6】
前記報知手段はディスプレイを有する表示手段で構成され、前記メンテナンス情報は、図形、文字、数字等で表した情報であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のミシン。
【請求項7】
メンテナンス情報を記憶するメンテナンス情報記憶手段と、前記メンテナンス情報を報知可能な報知手段と、前記メンテナンス情報の報知回数を記憶する報知回数記憶手段とを有するミシンを制御するコンピュータを、
縫製時間と針数の少なくとも一方の累積値データを累積値データ記憶手段に記憶させる累積値データ記憶制御手段と、
前記累積値データに基づいてメンテナンス情報を報知する報知時期に達したか否かを判定する判定手段と、
前記報知時期に達し前記メンテナンス情報を報知した報知回数を報知回数記憶手段に記憶させる報知回数記憶制御手段と、
前記判定手段により報知時期に達したと判定されたとき、前記報知回数記憶手段に記憶された報知回数に基づいて、前記メンテナンス情報を前記報知手段に複数の設定回数だけ報知させる報知制御手段と、
として機能させることを特徴とするメンテナンス情報報知プログラム。
【請求項8】
請求項7のメンテナンス情報報知プログラムをコンピュータ読取り可能に記録した記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−125076(P2009−125076A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299630(P2007−299630)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】