説明

ミリ波送信装置及びミリ波送受信システム

【課題】ミリ波帯の局発信号を用いてテレビ放送信号をアップコンバートし、アップコンバート後のテレビ放送信号と局発信号とを無線送信するミリ波送信装置において、無線送信するテレビ放送信号と局発信号とのレベル差を適正値に制御できるようにする。
【解決手段】自己ヘテロダイン方式の受信装置30において、送信装置10でアップコンバートされる前のCATV信号を正常に復元できるようにするには、受信信号内のCATV信号と局発信号とのレベル差を適正値(略15dB)にする必要がある。そこで、送信装置10には、アップコンバート前のCATV信号に対応したパイロット信号と局発信号とのレベル差が目標レベル差となるよう、CATV信号をレベル調整するAGC回路14を設ける。この結果、アップコンバート後のCATV信号と局発信号とのレベル差を適正値に制御して、受信装置30によるダウンコンバートを正常に実行させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波帯の局発信号を用いてテレビ放送信号をアップコンバートし、アップコンバート後のテレビ放送信号と局発信号とを無線送信するミリ波送信装置、及び、このミリ波送信装置とミリ波受信装置とから構成される自己ヘテロダイン方式のミリ波送受信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、CATVシステムや集合住宅のテレビ放送受信システム等では、テレビ放送信号を、同軸ケーブル等の伝送線を利用することなく加入者側の受信端末へ伝送できるようにするために、伝送線の末端に、テレビ放送信号をミリ波帯にアップコンバートして送信アンテナから無線送信させる送信装置を設け、加入者側には、この送信装置からの送信電波を受信し、その受信信号をダウンコンバートすることによってアップコンバート前の元のテレビ放送信号を復元する受信装置を設けることが提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
また、この種のミリ波送受信システムにおいて、受信装置側で伝送信号(テレビ放送信号)を正確に復元するには、送信装置側で伝送信号をアップコンバートするのに用いられた局発信号と同一周波数の局発信号が必要になるが、この局発信号は、周波数が数十GHzのミリ波帯となるため、周波数変動が生じ易く、受信装置側で送信装置と同じ局発信号を生成するのは難しいという問題があった。
【0004】
一方、こうした問題を防止することのできるミリ波送受信システムとして、送信装置からは、ミリ波へアップコンバートした伝送信号と、そのアップコンバートに用いた局発信号とを同時に送信し、受信装置側では、受信信号に含まれる伝送信号と局発信号とを乗積することで、アップコンバート前の元の伝送信号を復元することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
この提案のミリ波送受信システムにおいて、受信装置は、所謂自己ヘテロダイン方式の受信装置となり、ダウンコンバート用の局発信号を生成することなく、送信装置側の局発信号を用いて伝送信号をダウンコンバートすることができることから、局発信号に周波数変動が生じても、送信装置でアップコンバートされる前の元の伝送信号を正確に復元できることになる。
【0006】
従って、CATVシステム等、テレビ放送信号を伝送するシステムにおいて、テレビ放送信号をミリ波帯にアップコンバートして加入者側に無線伝送する際にも、この提案の自己ヘテロダイン方式の送/受信装置を使用するようにすれば、加入者側でアップコンバート前の元のテレビ放送信号を正確に復元できるようになる。
【特許文献1】特許3889885号公報
【特許文献2】特開2001−53640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、自己ヘテロダイン方式の受信装置側で、送信装置からミリ波帯のテレビ放送信号と共に送信されてきた局発信号を用いて、テレビ放送信号をダウンコンバートするには、局発信号が飽和領域となり、テレビ放送信号がリニア領域となるよう、局発信号の信号レベルをテレビ放送信号よりも充分大きくする必要がある。
【0008】
一方、ミリ波を無線送信する送信装置からの送信電力は、通常、電波法等でその上限が規定されることから、受信装置側でテレビ放送信号を復元できるように局発信号とテレビ放送信号とのレベル差を大きくすると、送信装置から送信されるテレビ放送信号の信号レベル(絶対レベル)が小さくなって、受信装置側でダウンコンバートすることにより得られるテレビ放送信号の品質(C/N:キャリア対ノイズ比)が劣化してしまう、という問題がある。
【0009】
このため、テレビ放送信号と局発信号とを同時に送信する自己ヘテロダイン方式のミリ波送信装置を構成する際には、送信アンテナから送信するミリ波帯のテレビ放送信号と局発信号とのレベル差が適正値となるように、これら各信号の信号レベルを調整すべきである。
【0010】
しかし、従来では、こうしたレベル調整については考えられていないため、例えば、CATVシステム等で伝送されるアップコンバート前のテレビ放送信号がレベル変動すると、それに応じてアップコンバート後のテレビ放送信号と局発信号とのレベル差が変動して、そのレベル差が適性値から外れてしまうことが考えられる。
【0011】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、ミリ波帯の局発信号を用いてテレビ放送信号をアップコンバートし、アップコンバート後のテレビ放送信号と局発信号とを無線送信するミリ波送信装置において、無線送信するテレビ放送信号と局発信号とのレベル差を適性値に制御して、受信装置側で元のテレビ放送信号を良好に復元できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載のミリ波送信装置は、ミリ波帯で一定周波数の局発信号を生成する局発信号生成手段と、この局発信号生成手段にて生成された局発信号を用いて、テレビ放送信号をミリ波帯にアップコンバートするアップコンバート手段と、このアップコンバート手段にてアップコンバートされたミリ波帯のテレビ放送信号と前記局発信号とを送信信号として送信アンテナに出力し、送信アンテナから無線送信させる出力手段と、この出力手段から出力されるテレビ放送信号と局発信号とのレベル差が、前記送信信号を受信したミリ波受信装置側で当該局発信号を用いて前記テレビ放送信号をダウンコンバートするのに適した設定値となるよう、前記アップコンバート手段へ入力されるテレビ放送信号及び前記局発信号の少なくとも一方の信号レベルを調整するレベル調整手段と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載のミリ波送信装置は、請求項1に記載のミリ波送信装置において、前記レベル調整手段は、前記出力手段から出力されるテレビ放送信号が、前記局発信号に比べて、6dB以上26dB以下の範囲内に設定された設定値だけ小さくなるよう、前記テレビ放送信号及び前記局発信号の少なくとも一方の信号レベルを調整することを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に記載のミリ波送信装置は、請求項1又は請求項2に記載のミリ波送信装置において、前記レベル調整手段は、当該ミリ波送信装置に入力されるテレビ放送信号の入力レベルに応じて、該入力レベルが高いときには前記レベル差が小さく、前記入力レベルが低いときには前記レベル差が大きくなるよう、前記アップコンバート手段へ入力されるテレビ放送信号及び前記局発信号の少なくとも一方の信号レベルを調整することを特徴とする。
【0015】
また、請求項4に記載のミリ波送信装置は、請求項1〜請求項3の何れかに記載のミリ波送信装置において、前記レベル調整手段は、前記テレビ放送信号を前記アップコンバート手段へ入力する入力経路に増幅回路と共に設けられた利得調整回路と、前記アップコンバート手段によりアップコンバートされる前のテレビ放送信号の信号レベルと、前記局発信号の信号レベルとに基づき、前記利得調整回路による利得調整量を制御する第一制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また次に、請求項5に記載のミリ波送信装置は、請求項1〜請求項3の何れかに記載のミリ波送信装置において、前記レベル調整手段は、前記局発信号生成手段から前記アップコンバート手段への局発信号の入力経路に設けられた可変減衰器と、前記アップコンバート手段によりアップコンバートされる前のテレビ放送信号の信号レベルに基づき、前記可変減衰器の減衰量を制御する第二制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
また、請求項6に記載のミリ波送信装置は、請求項1〜請求項5の何れかに記載のミリ波送信装置において、前記アップコンバート手段は、前記局発信号を用いて、59GHz以上66GHz以下の周波数帯域内で、帯域幅が2.5GHz以下となるように、前記テレビ放送信号をアップコンバートすることを特徴とする。
【0018】
一方、請求項7に記載の発明は、テレビ放送信号を、ミリ波帯で一定周波数の局発信号を用いてアップコンバートし、そのアップコンバート後のテレビ放送信号と局発信号とを送信アンテナから無線送信するミリ波送信装置と、前記ミリ波送信装置からの送信電波を受信アンテナにて受信し、その受信信号に含まれる局発信号を用いてテレビ放送信号をアップコンバート前の元の周波数帯にダウンコンバートするミリ波受信装置と、を備えた自己ヘテロダイン方式のミリ波送受信システムであって、前記ミリ波送信装置として、請求項1〜請求項6の何れかに記載のミリ波送信装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載のミリ波送信装置においては、アップコンバート手段が、局発信号生成手段にて生成された局発信号を用いてテレビ放送信号をミリ波帯にアップコンバートし、出力手段が、このアップコンバート手段にてアップコンバートされたミリ波帯のテレビ放送信号と局発信号とを送信信号として送信アンテナに出力することで、送信アンテナから無線送信させる。
【0020】
そして、レベル調整手段が、この出力手段から出力されるテレビ放送信号と局発信号とのレベル差が、送信アンテナからの送信信号を受信したミリ波受信装置側でその受信信号に含まれる局発信号を用いてテレビ放送信号をダウンコンバートするのに適した設定値となるよう、アップコンバート手段へ入力されるテレビ放送信号及び局発信号の少なくとも一方の信号レベルを調整する。
【0021】
従って、本発明のミリ波送信装置によれば、送信アンテナから無線送信されるテレビ放送信号と局発信号とのレベル差を、設定値(換言すれば適性値)に制御して、ミリ波受信装置に対し、アップコンバート前の元のテレビ放送信号を良好に復元させることができる。
【0022】
ここで、レベル調整手段がテレビ放送信号及び局発信号の少なくとも一方の信号レベルを調整する際の目標値となる、アップコンバート後のテレビ放送信号と局発信号とのレベル差の設定値は、ミリ波受信装置側でそのテレビ放送信号と局発信号との乗積によりテレビ放送信号をダウンコンバートすることのできる下限値以上で、しかも、そのダウンコンバートにより得られるテレビ放送信号の品質(C/N)を確保し得る上限値以下であればよい。
【0023】
そして、このレベル差の設定値(換言すれば適性値)は、ミリ波に変換して無線伝送するテレビ放送信号の波数(チャンネル数)や周波数帯域幅によっても変化するが、本発明者が実験により調べたところ、請求項2に記載のように、6dB以上26dB以下の範囲内に設定すればよく、より好ましくは略15dBにするとよいことが判った。
【0024】
また、このレベル差は、一定値(例えば15dB)に固定するようにしてもよいが、請求項3に記載のように、当該ミリ波送信装置に入力されるテレビ放送信号の入力レベルに応じて変化させてもよい。
【0025】
そして、請求項3に記載のミリ波送信装置によれば、テレビ放送信号の入力レベルが低いときに、アップコンバート後のテレビ放送信号と局発信号とのレベル差が大きくなるよう、テレビ放送信号及び局発信号の少なくとも一方の信号レベルが調整されることから、受信装置側では、テレビ放送信号に比べて局発信号の信号レベルがより大きくなり、その局発信号を用いてテレビ放送信号をダウンコンバートする際の変換効率を改善することができる。
【0026】
このため、ミリ波送信装置に入力されるテレビ放送信号の信号レベルが低く、その品質(C/N)が低下している場合に、ミリ波による無線伝送によって、受信装置側で得られるテレビ放送信号の品質(C/N)が更に劣化するのを防止できる。
【0027】
また、請求項3に記載のミリ波送信装置によれば、テレビ放送信号の入力レベルが高いとき(換言すれば、ミリ波送信装置に入力されるテレビ放送信号の品質(C/N)が高いとき)には、アップコンバート後のテレビ放送信号と局発信号とのレベル差が小さくなるよう、テレビ放送信号及び局発信号の少なくとも一方の信号レベルが調整される。
【0028】
このため、ミリ波送信装置を、送信電力が一定電力になるように構成すれば、テレビ放送信号の送信レベルをより大きくして、テレビ放送信号の品質(C/N)が低下するのを防止できる。
【0029】
次に、アップコンバート後のテレビ放送信号と局発信号とのレベル差が設定値(例えば15dB)となるように、アップコンバート前のテレビ放送信号の信号レベルを調整するには、請求項4に記載のように、テレビ放送信号をアップコンバート手段へ入力する入力経路に利得調整回路付きの増幅回路を設け、この利得調整回路による利得調整量を、第一制御手段にて、アップコンバート前のテレビ放送信号の信号レベルと局発信号の信号レベルとに基づき制御するようにすれば良い。
【0030】
つまり、アップコンバート後のテレビ放送信号と局発信号とのレベル差は、アップコンバート前のテレビ放送信号と局発信号とのレベル差に応じて変化することから、これらのレベル差に基づき利得調整回路を制御することで、アップコンバート前のテレビ放送信号の信号レベルを調整すれば、ミリ波受信装置に向けて無線送信されるアップコンバート後のテレビ放送信号と局発信号とのレベル差を設定値(換言すれば適性値)に制御することができる。
【0031】
また、アップコンバート後のテレビ放送信号と局発信号とのレベル差が設定値(例えば15dB)となるように、アップコンバート前のテレビ放送信号の信号レベルを調整するには、請求項5に記載のように、局発信号生成手段からアップコンバート手段への局発信号の入力経路に可変減衰器を設け、第二制御手段にて、この可変減衰器の減衰量を、アップコンバート前のテレビ放送信号の信号レベルに基づき制御するようにしてもよい。
【0032】
つまり、このように局発信号の信号レベルを調整するようにしても、ミリ波受信装置に向けて無線送信されるアップコンバート後のテレビ放送信号と局発信号とのレベル差を設定値(換言すれば適性値)に制御することができる。
【0033】
一方、現在、日本国内で60GHz帯のミリ波を使ってテレビ放送信号等を無線伝送するのに利用可能な連続した周波数帯域幅は、2.5GHzであり、そのミリ波の周波数帯域は、59GHz〜66GHzである。
【0034】
このため、アップコンバート手段は、請求項6に記載のように、局発信号を用いて、59GHz以上66GHz以下の周波数帯域内で、帯域幅が2.5GHz以下となるように、テレビ放送信号をアップコンバートするよう構成することが望ましく、そのためには、局発信号の周波数を、60.25GHz〜64.75GHz内の任意の周波数に設定するとよい。
【0035】
次に、請求項7に記載のミリ波送受信システムは、ミリ波送信装置が、ミリ波帯にアップコンバートしたテレビ放送信号と、そのアップコンバートに用いた局発信号とを無線送信し、ミリ波受信装置側では、その送信電波を受信した受信信号を、その受信信号に含まれる局発信号を用いてダウンコンバートすることで、ミリ波送信装置がアップコンバートする前の元のテレビ放送信号を復元する、自己ヘテロダイン方式のミリ波送受信システムである。
【0036】
そして、このミリ波送受信システムにおいては、ミリ波送信装置として、請求項1〜請求項6の何れかに記載のミリ波送信装置が設けられていることから、ミリ波受信装置側では、テレビ放送信号の品質(C/N)を低下させることなく、ミリ波送信装置がアップコンバートする前の元のテレビ放送信号を正確に復元することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は、本発明が適用されたミリ波送受信システム全体の構成を表す構成図である。
本実施形態のミリ波送受信システムは、CATVシステムの伝送線の端末側に設けられ、CATVシステムで伝送される地上波(VHF,UHF)、BS、CS等の各種テレビ放送信号からなるCATV信号(周波数:70MHz〜1250MHz)を、ミリ波帯(60GHz帯)に周波数変換して、加入者側の受信端末(テレビ受像機等)に無線伝送するためのものであり、ミリ波送信装置10と、ミリ波受信装置30とから構成されている。
【0038】
CATVシステムは、地上波(VHF,UHF)、BS、CS等の各種テレビ放送電波を受信する複数の受信アンテナ2(図では一つのみ記載)、各受信アンテナ2からの受信信号を処理して伝送線へ送出するヘッドエンド4、ヘッドエンド4から伝送線を介して伝送されてきたテレビ放送信号を増幅して端末側へ出力する増幅器6、8、…等からなる周知のものである。
【0039】
また、ヘッドエンド4は、各受信アンテナ2からの受信信号(つまりテレビ放送信号)だけでなく、その受信信号と同じ周波数帯で特定チャンネルのテレビ放送信号と重複しない一定周波数(例えば、450MHz)のパイロット信号を出力する。そして、このパイロット信号は、CATVシステムを構成する増幅器6、8等の伝送機器が、CATV信号の信号レベルを調整するのに使用される。
【0040】
次に、ミリ波送信装置10には、伝送線を介して入力されるヘッドエンド4からのCATV信号を増幅する増幅回路12、増幅回路12からのCATV信号の出力レベルを調整するAGC回路(自動利得調整回路)14、ミリ波帯で一定周波数(例えば、60.25GHz)の局発信号を発生する局部発振器16、AGC回路14から出力されたCATV信号と局部発振器16が発生した局発信号とを混合することでCATV信号をミリ波帯にアップコンバートするミキサ18、ミキサ18から出力されるミリ波帯の信号の内、局発信号を中心とする上下の側波帯(ダブルサイドバンド:DSB)となるCATV信号、つまり、周波数:60.25GHz±1.25GHzのミリ波信号(図1に一点鎖線で示す枠内参照)、を選択的に通過させるバンドパスフィルタ(BPF)20、及び、バンドパスフィルタ20を通過したミリ波帯のCATV信号を増幅してミリ波送信アンテナ24に出力することで、ミリ波送信アンテナ24からミリ波帯のCATV信号を無線送信させる増幅回路22、が設けられている。
【0041】
また、ミリ波送信装置10には、入力側の増幅回路12で増幅されたCATV信号の中からパイロット信号を抽出する狭帯域のバンドパスフィルタ(BPF)26が設けられており、このバンドパスフィルタ26にて抽出されたパイロット信号は、局部発振器16が発生した局発信号と共に、AGC回路14に入力される。
【0042】
AGC回路14は、減衰量を調整可能な可変減衰器(以下、単にアッテネータ(ATT)という)28と、このアッテネータ28の減衰量を調整する制御回路27とから構成されており、増幅回路12から出力されたCATV信号をアッテネータ28で減衰させてミキサ18に出力することで、ミキサ18に入力されるCATV信号の信号レベルを調整する。
【0043】
また、制御回路27は、バンドパスフィルタ26にて抽出されたパイロット信号と、局部発振器16が発生した局発信号との信号レベルを比較し、そのレベル差が予め設定された目標レベル差となるよう、アッテネータ28の減衰量(換言すれば、増幅回路12の増幅率(利得)を制御する。
【0044】
なお、制御回路27がアッテネータ28の減衰量を制御するのに用いる目標レベル差は、増幅回路22からミリ波送信アンテナ24に出力されて、ミリ波送信アンテナ24から無線送信される送信信号(図1に一点鎖線で示す枠内の信号)において、アップコンバート後のCATV信号と局発信号とのレベル差が15dBとなるように予め設定されている。この結果、ミリ波送信装置10からは、局発信号に比べて、概ね15dBだけ信号レベルが低いミリ波帯のCATV信号が、局発信号と共に無線送信されることになる。
【0045】
一方、ミリ波受信装置30には、ミリ波送信装置10のミリ波送信アンテナ24から送信された電波を受信するためのミリ波受信アンテナ32、ミリ波受信アンテナ32からの受信信号を増幅する増幅回路34、この増幅回路34にて増幅された受信信号のうち、ミリ波送信装置10側でミリ波帯にアップコンバートされたCATV信号と局発信号とからなるダブルサイドバンド(DSB)信号、つまり、周波数:60.25GHz±1.25GHzのミリ波信号(図1に一点鎖線で示す枠内参照)、を選択的に通過させるバンドパスフィルタ(BPF)36、このバンドパスフィルタ36を通過したDSB信号を乗積(二乗)する乗算器38、この乗算器38からの出力信号のうち、ミリ波帯のCATV信号と局発信号との周波数の差に対応した、アップコンバート前の元のCATV信号(周波数:70MHz〜1250MHz)を選択的に通過させるバンドパスフィルタ(BPF)40、及び、このバンドパスフィルタ40を通過したCATV信号を増幅して、テレビ受像機等の受信端末へ出力する増幅回路42、が設けられている。
【0046】
つまり、ミリ波受信装置30は、ミリ波送信装置10からの受信信号を乗算器38にて積乗することで、その受信信号に含まれるミリ波帯のCATV信号を、同じ受信信号に含まれる局発信号を用いて周波数変換させ、その周波数変換した信号の中から、ミリ波送信装置10でアップコンバートされる前の元のCATV信号を抽出する、自己ヘテロダイン方式の受信装置として構成されている。
【0047】
そして、この自己へテロダイン方式のミリ波受信装置30にて、受信信号からCATV信号を復元できるようにするには、局発信号が飽和領域、CATV信号がリニア領域となるよう、受信信号に含まれるCATV信号と局発信号とのレベル差を適正値(本実施形態では略15dB)にする必要がある。
【0048】
これに対し、本実施形態では、ミリ波送信装置10が、CATV信号と局発信号とを混合して、CATV信号をミリ波帯にアップコンバートする際、アップコンバート前のCATV信号と局発信号とのレベル差が目標レベル差となるよう、AGC回路14にて、CATV信号の信号レベル(換言すれば増幅回路12の増幅率(利得))を調整する。
【0049】
このため、ミリ波受信装置30がミリ波送信装置10からの送信電波を受信した際、その受信信号に含まれるCATV信号と局発信号とのレベル差は、受信信号の信号レベルにかかわらず略一定となり、しかも、上記目標レベル差は、アップコンバート後のCATV信号と局発信号とのレベル差が15dBとなるように設定されていることから、受信信号に含まれるCATV信号と局発信号とのレベル差も略15dBとなる。
【0050】
よって、本発明のミリ波送信装置10によれば、ミリ波送信アンテナ24から無線送信されるCATV信号(複数チャンネルのテレビ放送信号)と局発信号とのレベル差を適性値である略15dBに制御して、ミリ波受信装置30に対し、アップコンバート前の元のCATV信号を良好に復元させることができる。
【0051】
なお、本実施形態のミリ波送信装置10において、局部発振器16は、本発明の局発信号生成手段に相当し、ミキサ18は、本発明のアップコンバート手段に相当し、バンドパスフィルタ20及び増幅回路22は、本発明の出力手段に相当し、AGC回路14は、本発明のレベル調整手段に相当する。また、AGC回路14内のアッテネータ28は、本発明の利得調整回路に相当し、同じくAGC回路14内の制御回路27は、本発明の第一制御手段に相当する。
【0052】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて、種々の態様をとることができる。
例えば、上記実施形態では、アップコンバート前のCATV信号を代表する信号として、バンドパスフィルタ26にて、ヘッドエンド4からCATV信号と共に出力されるパイロット信号を抽出し、その抽出したパイロット信号をAGC回路14に入力するものとして説明したが、パイロット信号に代えて、CATV信号に含まれる特定チャンネルのテレビ放送信号をバンドパスフィルタ26にて抽出し、その抽出したテレビ放送信号をAGC回路14に入力するようにしてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、ミリ波送信装置10にAGC回路14を設け、このAGC回路14にてアップコンバート前のCATV信号のレベル調整を行うことで、ミリ波送信装置10から無線送信されるCATV信号と局発信号とのレベル差を、設定値(15dB)に制御するようにしたが、このレベル差を設定値に制御するには、アップコンバート前のCATV信号の信号レベルと、局部発振器16から出力された局発信号の信号レベルとをそれぞれ調整するようにしてもよく、或いは、局発信号の信号レベルのみを調整するようにしてもよい。
【0054】
そして、このように、局発信号の信号レベルのみを調整することで、ミリ波送信装置10から無線送信されるCATV信号と局発信号とのレベル差を設定値(15dB)に制御する際には、ミリ波送信装置10を、図2に示すように構成すればよい。
【0055】
即ち、図2に示すミリ波送信装置10においては、可変減衰器としてのアッテネータ28が、局部発振器16からミキサ18に至る局発信号の伝送経路上に設けられており、制御回路27が、増幅回路12にて増幅されたCATV信号に含まれるパイロット信号(若しくは特定チャンネルのテレビ放送信号)をバンドパスフィルタ26を介して取り込み、その取り込んだパイロット信号(若しくはテレビ放送信号)の信号レベルに基づき、アッテネータ28の減衰量を調整するよう構成されている。
【0056】
従って、図2に示すミリ波送信装置10によれば、制御回路27を、本発明の第二制御手段として機能させ、CATV信号のアップコンバートのためにミキサ18に入力される局発信号の信号レベルを調整することで、ミリ波送信装置10から無線送信されるCATV信号と局発信号とのレベル差を設定値(15dB)に制御させることができるようになる。
【0057】
また次に、上記実施形態では、ミリ波受信装置30にて、アップコンバート前のCATV信号を復元するのに適した、局発信号とミリ波帯のCATV信号とのレベル差は、15dBであるとして説明したが、このレベル差の適正値は、CATV信号を構成するテレビ放送信号のチャンネル数や、CATV信号の周波数帯域、或いは、ミリ波受信装置30の特性等で変化する。
【0058】
そして、本発明者の実験によれば、このレベル差の適性値は、概ね6dB以上26dB以下の範囲内にすればよいことから、制御回路27がアッテネータ28の減衰量を制御するのに用いるアップコンバート前のCATV信号と局発信号との目標レベル差も、その範囲内で最も適したレベル差(設定値)に基づき設定するようにすればよい。
【0059】
一方、図1、2に示したミリ波送信装置10において、制御回路27は、アッテネータ28の減衰量を調整することで、アップコンバート前のCATV信号若しくは局発信号の信号レベルを、アップコンバート後のCATV信号と局発信号とのレベル差が一定の設定値(15dB)となるように制御するものとして説明した。
【0060】
しかし、ミリ波送信装置10は、図3(a)、(b)に示すように、制御回路27に、バンドパスフィルタ29を介して、増幅回路12で増幅される前のCATV信号に含まれるパイロット信号(若しくは特定チャンネルのテレビ放送信号)を入力するようにし、制御回路27が、図4に示す制御特性に従い、その入力されたパイロット信号(若しくは特定チャンネルのテレビ放送信号)の信号レベルに応じて、アップコンバート前のCATV信号若しくは局発信号の信号レベルを制御するよう構成してもよい。
【0061】
つまり、制御回路27に、増幅回路12で増幅される前のCATV信号(詳しくはパイロット信号若しくはテレビ放送信号)を入力することで、その入力されたCATV信号の信号レベルが小さいほど、アップコンバート後のCATV信号と局発信号とのレベル差が大きくなるよう、アップコンバート前のCATV信号若しくは局発信号の信号レベルを制御させるのである。
【0062】
そして、このようにミリ波送信装置10を構成すれば、ミリ波送信装置10へのCATV信号の入力レベルが低く、CATV信号の品質(C/N)が低下し易いときには、アップコンバート後のCATV信号に比べて、局発信号の信号レベルがより大きくなるため、ミリ波受信装置30側でCATV信号をダウンコンバートする際の変換効率を改善して、ダウンコンバートによりCATV信号の品質(C/N)が劣化するのを防止できる。
【0063】
また、この場合、CATV信号の入力レベルが高いとき(換言すれば、テレビ放送信号の品質(C/N)が高いとき)には、アップコンバート後のCATV信号と局発信号とのレベル差が小さくなるので、出力段の増幅回路22が、アンテナ24からの送信電力を一定に制御するよう構成されていれば、CATV信号の送信レベルをより大きくすることができる。よってこの場合にも、ミリ波受信装置30側でダウンコンバートされるCATV信号の品質(C/N)が劣化するのを防止できる。
【0064】
なお、図4の特性図は、CATV信号の入力レベルが57〜81[dBμV]であるとき、アップコンバート後のCATV信号と局発信号とのレベル差(設定値)を26〜6[dB]の範囲内で制御することを表している。
【0065】
そして、このように、アップコンバート後のCATV信号と局発信号とのレベル差(設定値)を、ミリ波送信装置10へのCATV信号の入力レベルに応じて制御する際には、図4に点線で示すように、CATV信号の入力レベルの変化に応じてレベル差(設定値)を連続的に変化させるようにしてもよい。
【0066】
また、図4に実線で示すように、CATV信号の入力レベルが57〜64[dBμV]及び74〜81[dBμV]の範囲内にあるときにはレベル差(設定値)を連続的に変化させ、CATV信号の入力レベルが64〜74[dBμV]の範囲内にあるときには、レベル差(設定値)を基準となる15[dB]に固定するようにしてもよい。
【0067】
また次に、上記実施形態では、ミリ波送信装置10にてCATV信号をミリ波帯にアップコンバートする際には、周波数60.25GHzの局発信号を使用し、CATV信号を、局発信号を中心とする周波数60.25GHz±1.25GHzのミリ波信号に変換するものとして説明したが、この局発信号の周波数は、CATV信号の無線送信に利用可能なミリ波の周波数に応じて適宜設定すればよい。
【0068】
そして、現在、日本国内で60GHz帯のミリ波を使ってテレビ放送信号等を無線伝送するのに利用可能な連続した周波数帯域幅は、2.5GHzであり、そのミリ波の周波数帯域は、59GHz〜66GHzであることから、この点を考慮すると、アップコンバート後のCATV信号は、59GHz以上66GHz以下の周波数帯域内で、帯域幅が2.5GHz以下となるようにすることが望ましく、そのためには、局発信号の周波数を、60.25GHz〜64.75GHz内の任意の周波数に設定するとよい。
【0069】
また更に、上記実施形態では、CATVシステムの端末側に本発明のミリ波送受信システムを構築した場合について説明したが、本発明のミリ波送受信システムは、例えば、集合住宅や個人住宅等で受信アンテナからの受信信号を1又は複数の受信端末まで伝送する受信システムであっても、上記実施形態と同様に適用することができる。
【0070】
そして、この場合、端末側に伝送する受信信号には、通常、パイロット信号は付与されないことから、ミリ波送信装置10のAGC回路14には、アップコンバート前の受信信号の信号レベルを表す信号として、特定チャンネルのテレビ放送信号を入力するようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施形態のミリ波送受信システム全体の構成を表すブロック図である。
【図2】図1に示したミリ波送信装置の変形例を表すブロック図である。
【図3】図1,2に示したミリ波送信装置の更なる変形例を表すブロック図である。
【図4】図3に示したミリ波送信装置におけるレベル差の制御特性を表す説明図である。
【符号の説明】
【0072】
2…受信アンテナ、4…ヘッドエンド、6,8…増幅器、10…ミリ波送信装置、12…増幅回路、14…AGC回路、16…局部発振器、18…ミキサ、20…バンドパスフィルタ、22…増幅回路、24…ミリ波送信アンテナ、26…バンドパスフィルタ、27…制御回路、28…アッテネータ、29…バンドパスフィルタ、30…ミリ波受信装置、32…ミリ波受信アンテナ、34…増幅回路、36…バンドパスフィルタ、38…乗算器、40…バンドパスフィルタ、42…増幅回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波帯で一定周波数の局発信号を生成する局発信号生成手段と、
前記局発信号生成手段にて生成された局発信号を用いて、テレビ放送信号をミリ波帯にアップコンバートするアップコンバート手段と、
前記アップコンバート手段にてアップコンバートされたミリ波帯のテレビ放送信号と前記局発信号とを送信信号として送信アンテナに出力し、送信アンテナから無線送信させる出力手段と、
前記出力手段から出力されるテレビ放送信号と局発信号とのレベル差が、前記送信信号を受信したミリ波受信装置側で当該局発信号を用いて前記テレビ放送信号をダウンコンバートするのに適した設定値となるよう、前記アップコンバート手段へ入力されるテレビ放送信号及び前記局発信号の少なくとも一方の信号レベルを調整するレベル調整手段と、
を備えたことを特徴とするミリ波送信装置。
【請求項2】
前記レベル調整手段は、前記出力手段から出力されるテレビ放送信号が、前記局発信号に比べて、6dB以上26dB以下の範囲内に設定された設定値だけ小さくなるよう、前記テレビ放送信号及び前記局発信号の少なくとも一方の信号レベルを調整することを特徴とする請求項1に記載のミリ波送信装置。
【請求項3】
前記レベル調整手段は、当該ミリ波送信装置に入力されるテレビ放送信号の入力レベルに応じて、該入力レベルが高いときには前記レベル差が小さく、前記入力レベルが低いときには前記レベル差が大きくなるよう、前記アップコンバート手段へ入力されるテレビ放送信号及び前記局発信号の少なくとも一方の信号レベルを調整することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のミリ波送信装置。
【請求項4】
前記レベル調整手段は、
前記テレビ放送信号を前記アップコンバート手段へ入力する入力経路に増幅回路と共に設けられた利得調整回路と、
前記アップコンバート手段によりアップコンバートされる前のテレビ放送信号の信号レベルと、前記局発信号の信号レベルとに基づき、前記利得調整回路による利得調整量を制御する第一制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載のミリ波送信装置。
【請求項5】
前記レベル調整手段は、
前記局発信号生成手段から前記アップコンバート手段への局発信号の入力経路に設けられた可変減衰器と、
前記アップコンバート手段によりアップコンバートされる前のテレビ放送信号の信号レベルに基づき、前記可変減衰器の減衰量を制御する第二制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載のミリ波送信装置。
【請求項6】
前記アップコンバート手段は、前記局発信号を用いて、59GHz以上66GHz以下の周波数帯域内で、帯域幅が2.5GHz以下となるように、前記テレビ放送信号をアップコンバートすることを特徴とする請求項1〜請求項5の何れかに記載のミリ波送信装置。
【請求項7】
テレビ放送信号を、ミリ波帯で一定周波数の局発信号を用いてアップコンバートし、そのアップコンバート後のテレビ放送信号と局発信号とを送信アンテナから無線送信するミリ波送信装置と、
前記ミリ波送信装置からの送信電波を受信アンテナにて受信し、その受信信号に含まれる局発信号を用いてテレビ放送信号をアップコンバート前の元の周波数帯にダウンコンバートするミリ波受信装置と、
を備えた自己ヘテロダイン方式のミリ波送受信システムであって、
前記ミリ波送信装置として、請求項1〜請求項6の何れかに記載のミリ波送信装置を備えたことを特徴とするミリ波送受信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−50816(P2010−50816A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214155(P2008−214155)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000113665)マスプロ電工株式会社 (395)
【Fターム(参考)】