説明

メタルドーム押しボタンスイッチ

【課題】
メタルドームを用いる押しボタンスイッチにおいて、印刷配線基板のスルーホールを用いることなく、メタルドームと固定電極との間の安定な接触を確保し、かつ、当該押しボタンスイッチが多数回にわたって操作された場合であっても、その安定な接触を維持し、さらに、これを安価に得ること。
【解決手段】
スルーホールを用いることなく回路が接続され、押しボタンスイッチが押下された際にメタルドームの頂部が接触する中央電極と、メタルドームの外周が接触する環状電極とを、印刷配線基板上に導電性インクを印刷することによって形成し、これらの固定電極の上に、バネ性を有するメタルドームを載置して構成される押しボタンスイッチにおいて、環状電極のメタルドームが接触する範囲の全域にわたって、印刷層構成が同一となるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器などに備えられた押しボタンスイッチに関するものであり、さらに詳しくは、機器内部の印刷配線基板上に、バネ性を有するメタルドームを載置することによって構成される押しボタンスイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器などを操作するための押しボタンスイッチを形成する手段の一つとして、バネ性を有するメタルドーム用いる方法が挙げられる。メタルドームを用いる押しボタンスイッチは、押しボタンスイッチを形成するための他の代表的な手段である、コンタクトラバーを用いるものと比較して、押下時のクリック感に優れ、操作者に対して、より良好な操作時フィードバックを与えることができる。このことから、近年、携帯電話をはじめとする電子機器類の押しボタンスイッチ、あるいは、家電製品などを遠隔操作するためのリモコンの押しボタンスイッチに極めて広く応用されている。
【0003】
メタルドームを用いる押しボタンスイッチの接点部は、メタルドームを、印刷配線基板上に設けられた少なくとも二つの固定電極の上に、所定の位置関係を保って載置することによって構成される。メタルドームは、バネ性を有する可動部材としての機能と、可動接点としての機能を兼ね備える。
【0004】
実際の製品においては、所定の外形に型抜きされ、片面に粘着材を有するベースシートに、必要な押しボタンスイッチの数に相当する複数のメタルドームを貼り付けたメタルドーム貼り付けシートを予め構成しておき、このメタルドーム貼り付けシートを、印刷配線基板の上に所定の位置関係を保って貼り付けることによって、メタルドーム貼り付けシートと印刷配線基板のみによって、複数の押しボタンスイッチを構成する例が一般的である。
【0005】
固定電極の形成方法については、代表的なものとして、銅箔パターンを所定の形状にエッチングし、その表面にメッキを施して形成する方法と、導電性カーボンインクに代表される導電性インクを、所定の形状に印刷して形成する方法とが挙げられる。
【0006】
固定電極は、押しボタンスイッチが押下された際にメタルドームの頂部が接触する中央電極と、メタルドームの外周が接触する環状電極とを配設して形成される場合が多い。このように構成された押しボタンスイッチは、押下されていない状態においては、メタルドームの頂部が中央電極と接触していないため、電気的にオフとなり、押下された状態においては、押しボタンの押下方向への変位に伴ってメタルドームが撓み、メタルドームの頂部が中央電極と接触すると、メタルドームを介して双方の固定電極間が短絡され、電気的にオンとなる。
【0007】
メタルドームを用いる押しボタンスイッチを構成するための印刷配線基板に関して、最も望ましいのは、表裏面それぞれに銅箔パターンを有し、かつ、表裏面の銅箔パターン間を接続するスルーホールを有するタイプの両面銅張り印刷配線基板である。このようなタイプの両面銅張り印刷配線基板を用いれば、環状電極を完全なドーナツ形とした上で、環状電極の内周の内側にスルーホールを設け、このスルーホールによって、固定電極が設けられていない方の面の回路パターンと中央電極とを接続することができる。
【0008】
このように構成することによって、メタルドームと環状電極とが完全に平行となり、メタルドームへの押下荷重がメタルドームの外周の全てに均等に分散されるため、相互間の理想的な接触を得ることができる。尚、表裏面のみならず、中間層に銅箔パターンを有する複層タイプの印刷配線基板であっても、同様にスルーホールを用いて中央電極と、環状電極とを構成することができる。
【0009】
このような理想的な接触を得られるスルーホールを有する両面銅張り印刷配線基板は、極めて高価であることが難点である。これを安価にするための手段として、スルーホールタイプの両面銅張り印刷配線基板に代えて、片面側にのみ回路パターンを有し、スルーホールを有しない片面銅張り印刷配線基板を用いることが考えられる。
【0010】
片面銅張り印刷配線基板における回路パターンは、銅箔をエッチングすることによって得られる導体パターンと、導電性カーボンインクを印刷することによって得られる導体パターンとを併用して形成される場合が多い。このように構成された片面銅張り印刷配線基板では、導電性カーボンインクによる導体パターンを印刷する際に、所定の形状の固定電極を同時に印刷することによって、固定電極を容易に形成することができるため、この観点からは、メタルドームを用いる押しボタンスイッチにとって好適であると言える。
【0011】
ところが、片面銅張り印刷配線基板の場合には、スルーホールを用いることができないため、環状電極の外部から、中央電極へ回路パターンを接続することに困難が生じる。このことへの対応として、環状電極の一部を切り離してC字状の円弧状電極を形成し、切り離した部分に銅箔による回路パターンを通すことによって、中央電極へ回路パターンを接続する方法がある。このように構成した場合においては、切り離し部分を通過する中央電極への回路パターンと、円弧状電極上に載置されるメタルドームとの間の絶縁性を確保することが重要な課題となる。
【0012】
この部分の絶縁性を確保するために、従来は、図4、及び、図5に示すように、前述の切り離し部分を通過する中央電極への回路パターンの上に、絶縁層の印刷を行うことで対応が行われてきた。しかしながら、このような構成とすると、円弧状電極部分と、円弧状電極の切り離し部分との間での印刷層構成が異なることとなり、その結果、円弧状電極部分よりも、円弧状電極の切り離し部分の印刷膜厚さが厚くなる。このことに起因して、メタルドームの永久的な座窟反転が発生する場合があること、及び、押しボタンスイッチの操作に伴って、メタルドーム外周によって削られる絶縁層の屑によって、接点の接触に支障を来す場合があることなどが知られている(特許文献1、段落0006、0007、0008)。尚、メタルドームの永久的な座窟反転は、メタルドームが押下された際、押下に伴って、メタルドームの頂部が、メタルドームの外周によって定められる面を越えて、さらに変位した場合に発生する。
【0013】
このような問題点に対して、特許文献1には、1層目を印刷法あるいはエッチング法によって形成し、2層目を印刷法あるいはメッキ法によって形成することによる2層構造の円弧形状部を形成することによって、第2電極配線部の印刷膜厚さよりも、円弧形状部の厚さを厚くすることが開示されている(段落0016)。
【0014】
しかしながら、印刷法によって形成される各印刷層の印刷膜厚は、印刷するインクの粘度、印刷を行う環境の温度、湿度などに依存して変化し得るものであり、これを設定値の通りに、あるいは、設定値の近傍値内に収めるように管理することは極めて難しい。従って、印刷法によって円弧形状部、及び、第2電極配線部の絶縁皮膜層を形成し、それぞれの印刷高さを所定の相互関係に保つことは、極めて厳格な印刷膜厚管理を要求するものであり、引いては、このような印刷配線基板の高価格化を来す。
【0015】
また、特許文献1に開示されているメッキ法による円弧状電極の嵩上げに関しては、印刷法に対して極めて生産性が低く、メッキ法を用いて生産される印刷配線基板の価格は、メッキ法を用いない印刷配線基板に比べて、著しく高価である。同じように、特許文献1に開示されている、エッチング法、あるいは、研磨法によって第2電極配線部を薄くする方法(段落0019)についても、同様に、印刷配線基板の高価格化を招くものである。
【0016】
加えて、これらの方法は、依然として、その一部が切り欠かれた従来通りの円弧形状をなす固定電極を採用していることに変わりはない。
【0017】
押しボタンスイッチの押下操作に伴うメタルドームへの押下方向荷重が発生した場合、即ち、印刷配線基板上の固定電極、とりわけ、メタルドームの外周を支持する円弧形状部に対して、メタルドーム外周からの押下方向荷重が発生した場合に着目すると、押しボタンスイッチへの押下荷重は同じ荷重値であっても、円弧形状の電極の場合は、切り離し部を除いた残存円弧部でこの荷重を受けることとなるため、切り欠きのない完全なドーナツ形状の電極の場合と比較して、メタルドーム外周との接触部における押下方向荷重の圧力が大きくなる。言うまでもなく、切り離し部の長さが長く、円弧形状部の円弧長が短いほど、さらに、この傾向が顕著となる。
【0018】
メタルドームにおいては、その頂点部に押下荷重を加えた場合、押下方向の変位が発生することに伴って、外周径も若干変化する。具体的には、無負荷時における外周径に対して、頂点部を押下することに伴う押下方向の変位が進むにつれて、外周径がわずかに大きくなる。このことは、押しボタンスイッチの押下、及び、開放を繰り返すことによって、メタルドーム外周と、環状電極、あるいは、円弧状電極の表面との間に摺動摩擦が生じることを意味する。このことと、前述の押下荷重による圧力とを関係付けて考察すると明らかなように、ドーナツ形状の電極と比較して、より大きい押下荷重の圧力を受ける円弧形状の電極の方が、その表面の摩耗が早期に進行することとなり、この摩耗が、押しボタンスイッチを長期間にわたって使用した場合の機能阻害要因となる。
【0019】
ここまで述べてきた通り、中央電極とC字状の円弧形状電極とを用い、円弧形状電極の切り離し部に中央電極へ接続される回路パターンを通過させ、その通過パターンの上に絶縁層を形成して構成されていた従来のメタルドームを用いる押しボタンスイッチにおいては、根本的に、円弧形状電極と、通過パターンの上の絶縁層と、という異なる印刷層構成を含む範囲の上にメタルドームが載置される構成となっていることに起因する様々な問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2002−290000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、このような現状を鑑み、従来の円弧形状の固定電極を用いたメタルドームを用いる押しボタンスイッチが有していた種々の問題点を一挙に解決することを目的としてなされたものであり、メタルドームと固定電極との間の安定な接触を確保し、かつ、当該押しボタンスイッチが多数回にわたって操作された場合であっても、その安定な接触を維持し、さらには、これを安価に得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明による請求項1記載の押しボタンスイッチは、印刷配線基板上に設けられた固定電極の上に、バネ性を有するメタルドームを載置して構成され、固定電極は、スルーホールを用いずに回路が接続され、前記押しボタンスイッチが押下された際に、前記メタルドームの頂部が接触する中央電極と、前記メタルドームの外周が接触し、前記中央電極の外側を取り囲むように配設された環状電極とからなり、前記中央電極と環状電極は、いずれも導電性インクを印刷して形成され、環状電極におけるメタルドームが接触する範囲の全域にわたって、印刷層構成が同一であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明による請求項2記載の押しボタンスイッチは、前記中央電極の少なくとも一部における印刷層構成と、前記環状電極におけるメタルドームが接触する範囲の印刷層構成とが同一であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明による請求項3記載の押しボタンスイッチは、前記固定電極が、円形の中央電極と、円ドーナツ形の環状電極とを同心円状に配置して形成されており、前記メタルドームが、円形であって、前記固定電極の上に同心円状に載置され、外周の全てが環状電極と接することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に記載の本発明によれば、印刷配線基板上に設けられる固定電極を、スルーホールを用いずに回路が接続された中央電極と、中央電極を取り囲む環状電極とで構成し、さらに、環状電極のメタルドームが接触する範囲の印刷層構成を同一としたことによって、メタルドームと環状電極とが平行となり、従来、スルーホールを用いることでのみ実現されていた理想的な接触を、スルーホールを用いない印刷配線基板であっても実現することが可能となる。この結果、円弧状電極の印刷膜厚さよりも、円弧状電極の切り離し部分の印刷膜厚さが厚くなることに起因するメタルドームの永久的な座窟反転、及び、メタルドーム外周によって削られる絶縁層の屑による接触不良などの従来の問題点を一掃できる。
【0026】
また、環状電極のメタルドームが接触する範囲の印刷層構成を同一としたことによって、一層一層の印刷膜厚さに設定値との相違を生じたとしても、印刷配線基板の基材表面から環状電極表面までの印刷厚さが変化するのみであり、印刷膜厚さの変化に依存するメタルドームの不均一な状態での固定電極への載置を来すことがないため、一般的な印刷膜厚管理に基づく印刷配線基板であっても、本発明を好適に実施できる。
【0027】
請求項2に記載の本発明によれば、中央電極の少なくとも一部の印刷層構成と、環状電極の印刷層構成とを同一として、中央電極の印刷厚さと、環状電極の印刷厚さとを同じ厚さとすることによって、メタルドームの頂部が、押下方向へ過度に変位することが防がれるため、メタルドームの永久的な座窟反転を効果的に防ぐことができる。
【0028】
請求項3に記載の本発明によれば、メタルドームの外周の全てが均等に環状電極と接するため、押下荷重が外周の全てに均等に分散することとなり、この結果、メタルドームの外周が環状電極に与える圧力が、円弧形状であった従来の固定電極に対する圧力よりも低減され、環状電極とメタルドームとが接触している部分の摩擦が低減される。これによって、従来の環状電極における摩耗が低減され、メタルドームを用いる押しボタンの押下操作回数寿命の改善に寄与する。
【0029】
加えて、スルーホールを有しない片面銅張り印刷配線基板を用いて本発明を実施することで、従来のスルーホールを有する印刷配線基板を用いる場合に対しては、極めて安価に、また、従来の片面銅張り印刷配線基板上に円弧状電極を備える場合に対しては、高価格化を来すことなく、本発明による押しボタンスイッチを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、直径φ5.0mmの真円形メタルドーム11を用いた本発明による押しボタンスイッチの実施例について、図1乃至図3を参照して説明する。
【0031】
図1は、本実施例を構成する各部位の外観をそれぞれ示したものである。印刷配線基板20の上に、円形の中央電極21と、ドーナツ形の環状電極22とが同心円状に配設されており、それらの上に、真円形メタルドーム11が同心円状に載置されている。尚、メタルドーム11は、ベースシート31に予め貼り付けられており、このベースシート31を、印刷配線基板20上に貼り付けることによって、固定電極に対して所定の位置関係が保持されている。尚、図1に示されるベースシート31の中央部に破線で示された円形は、メタルドーム11の貼り付け箇所に該当する部分を示したものである。
【0032】
本実施例に用いられている印刷配線基板20は、片面側にのみ銅箔パターンを有する片面印刷配線基板であって、銅箔を所定のパターン形状にエッチングすることによるエッチング回路パターンと、導電性カーボンインクを所定のパターン形状に印刷することによる印刷回路パターンとを併用する簡易二層導体タイプ片面印刷配線基板である。簡易二層導体タイプ片面印刷配線基板の場合は、エッチング回路パターンと、印刷回路パターンとが積層する箇所における相互間の絶縁を確実なものとするため、当該積層箇所よりもやや大きい範囲に、第一絶縁層25、第二絶縁層26、及び、第三絶縁層27からなる三層の絶縁層を形成することが一般的である。このように構成することによって、例えば、絶縁層にピンホールがあった場合における絶縁不良の発生を大幅に低減することができる。本実施例の印刷層構成は、このような簡易二層導体タイプ片面印刷配線基板において必要となる三層構成の絶縁層の印刷層を利用した形態となっており、本実施例を構成するために新たに印刷層を追加する、などのようなことは全く不要である。よって、本実施例に用いる片面印刷配線基板の生産コストは、従来の簡易二層導体タイプ片面印刷配線基板と同一となる。
【0033】
図2は、図1におけるA−A線による断面図を示しており、特に、印刷配線基板における、固定電極部分の印刷層の構成について詳しく示したものである。また、図3は、本実施例の中央電極21、及び、環状電極22を形成するための各印刷層の形状を具体的に示しており、(a)は銅箔のエッチング形状を、(b)は第一絶縁層25の印刷形状を、(c)は第二絶縁層26の印刷形状を、(d)は第三絶縁層27の印刷形状を、(e)は導電性カーボン層の印刷形状をそれぞれ示している。(e)において、上方左側の横方向より環状電極へ接続されている印刷パターンは、外部回路からの接続部分を示したものである。尚、各絶縁層について、それぞれ、第一絶縁層25は「ソルダーレジスト」、第二絶縁層26は「第一アンダーコート」、第三絶縁層27は「第二アンダーコート」と呼ばれる場合もある。 これら図2、図3を用いて、本実施例における印刷層の構成と、各印刷層の形状とについて、詳細に説明する。
【0034】
本実施例では、銅箔パターン24を、環状電極22の外周径よりもやや大きく、具体的にはφ7.0mmでエッチングしている。図3(a)に示すように、この円形銅箔パターンには、同図視左側より、中央電極21へ回路パターンが接続されている。(同図においては、その回路パターンの一部のみを示している。)
【0035】
この円形銅箔パターンの直上には、第一絶縁層25が印刷されている。第一絶縁層25は、中央電極21の外径よりも小さいφ1.8mmの内径と、中央電極21の外径と同じφ2.4mmの外径とをもつドーナツ形状の第一絶縁層非印刷範囲を除いた範囲の全体にわたって印刷されている。尚、ドーナツ形状の第一絶縁層非印刷範囲は、円形銅箔パターン24と同心円状に配設されている。
【0036】
第一絶縁層25の上には、第二絶縁層26が、第二絶縁層26の上には、さらに第三絶縁層27が印刷されている。第二絶縁層26と第三絶縁層27の印刷形状は全く同一であって、中央電極21よりもやや小さい円形の範囲と、環状電極22よりもやや大きいドーナツ形の範囲に、それぞれ印刷されている。中央電極21部分の第二絶縁層26、及び、第三絶縁層27の印刷範囲の外径は、第一絶縁層非印刷範囲の内径よりも小さいφ1.2mmである。また、環状電極22部分の第二絶縁層26、及び、第三絶縁層27の印刷範囲の内径は、第一絶縁層非印刷範囲の外径よりも大きいφ3.5mmであり、外径は、環状電極22の外径と同じφ6.4mmである。中央電極21部分と、環状電極22部分のそれぞれの第二絶縁層印刷範囲、及び、第三絶縁層印刷範囲も、各々、円形銅箔パターン24と同心円状に配設されている。
【0037】
第三絶縁層27の上には、中央電極21と環状電極22とが導電性カーボンインクによって形成されている。印刷版寸法の上で、中央電極21の直径は、第一絶縁層非印刷範囲の内径よりもやや大きいφ2.4mmであり、環状電極22の内径は、第一絶縁層非印刷範囲の外周径よりもやや大きいφ4.0mmであり、環状電極22の外径は、内径に対して直径で2.4mm大きい値、即ちφ6.4mmとしてある。環状電極22の電極幅は1.2mmであるが、この値は、メタルドーム11の載置位置寸法の公差、あるいは、印刷配線基板20における印刷層配設位置公差を考慮して決定されたものであり、それぞれの公差が最大累積した場合であっても、メタルドーム11が環状電極22の外径内に十分に収まるように決定されたものである。
【0038】
固定電極を構成する各層の印刷膜厚は、概ね、次の通りである。
銅箔パターン24 : 35μm
第一絶縁層25 : 15μm
第二絶縁層26 : 20μm
第三絶縁層27 : 20μm
導電性カーボン層28 : 20μm
【0039】
中央電極21への回路接続について述べる。中央電極21の導電性カーボン層の直径は、円形に印刷された第一絶縁層25の直径よりも大きいため、中央電極21を形成する導電性カーボンインク印刷が第一絶縁層25の周囲からはみ出すように印刷されることとなる。この結果、第一絶縁層25非印刷範囲に露出している銅箔パターン24と、中央電極21を形成する導電性カーボン層とが接触することとなるため、これら相互間の接触によって、中央電極21への回路接続が得られる。
【0040】
このように、本実施例においては、中央電極21への回路パターンが、固定電極の下部に位置する銅箔パターンを介して接続されるため、従来の円弧形状電極のように、メタルドームの外周が接する電極の一部を切り離して、その部分に銅箔による回路パターンを通すことが不要となる。これによって、環状電極22は完全なドーナツ形をなし、なおかつ、環状電極22の全域にわたって、印刷配線基板の印刷層構成が、銅箔パターン24、第一絶縁層25、第二絶縁層26、第三絶縁層27、導電性カーボン層28の五層からなる構成で同一となる。この結果、片面印刷配線基板であっても、スルーホールを用いて中央電極22へ回路パターンを接続した場合と同様の、理想的なメタルドーム11と環状電極22との間の接触を得ることが可能となる。
【0041】
また、このような印刷層構成は、中央電極21内の、少なくとも第二絶縁層26、第三絶縁層27が印刷される範囲においても同様であり、このように構成することによって、本実施例による押しボタンスイッチ1を押下した際、メタルドーム11の頂部が、過度に変位することを防ぐことができるため、メタルドーム11の永久的な座窟反転を効果的に防ぐことができる。
【0042】
本実施例による押しボタンスイッチ10に対して、十分な押下荷重を伴って十万回の打鍵試験を行ったところ、メタルドーム11と環状電極22との接触部分における摩耗の発生、あるいは、削れカスの発生は見られず、極めて良好な結果を得た。尚、これと同一の条件で、従来の円弧状電極41の切り離し部分の印刷膜厚さが厚く構成されたメタルドームを用いる押しボタンスイッチの打鍵試験を行ったところ、試験後の外観において、円弧状電極41の切り離し部分の絶縁層42表面に、メタルドームの外周との摩擦に伴うキズが発生していることが確認された。
【0043】
また、同一な押下荷重を与える条件下において、中央電極21から、メタルドーム11を介して、環状電極22に至るまでの接触抵抗を確認したところ、従来の構成による押しボタンスイッチの場合は、5〜10Ωの範囲であったのに対して、本実施例の場合は、50〜100Ωの範囲であった。これは、中央電極21への回路接続を得るための銅箔パターンと導電性カーボンインク印刷との間の接触において、従来は、中央電極のほぼ全ての範囲が接触していたものに対して、本実施例では、前述の通り、第一絶縁層非印刷範囲による接触に限定されたことに伴って、従来の構成よりも相互間の接触面積が減少したことに起因するものである。
【0044】
一般的に、押しボタンの押下状態を検知する実際の回路構成においては、押下状態を正常に検知するために許容される押しボタン押下時の経路抵抗値は、10kΩ〜30kΩ程度である。ここで、経路抵抗値とは、押しボタンの状態を検知するための信号を出力する手段から押しボタンの一方の固定電極(中央電極21、環状電極22のいずれか)へ至る回路パターンの経路抵抗値と、押しボタン押下時における接触抵抗値と、押しボタンの他方の固定電極から押しボタンの状態を検知するための信号が入力される手段に至るまでの経路抵抗値を指す。このことから鑑みると、本実施例の場合の接触抵抗であっても、十分に実用可能な範囲である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、携帯電話をはじめとする電子機器類、あるいは、リモコンなどの押下スイッチとして、極めて広い範囲で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明によるメタルドームを用いる押しボタンスイッチの一実施例の分解斜視図である。
【図2】図1における、メタルドームが載置された状態のA−A線断面図であり、ベースシートを割愛して示している。
【図3】本発明によるメタルドームを用いる押しボタンスイッチの一実施例における、印刷配線基板の各印刷層の形状を示す平面図である。
【図4】従来のメタルドームを用いる押しボタンスイッチの分解斜視図である。
【図5】図4における、メタルドームが載置された状態のB−B線断面図であり、ベースシートを割愛して示している。
【符号の説明】
【0047】
10 押しボタンスイッチ
11 メタルドーム
20 印刷配線基板
21 中央電極
22 環状電極
23 基材
24 銅箔パターン
25 第一絶縁層
26 第二絶縁層
27 第三絶縁層
28 導電性カーボン層
31 ベースシート
41 円弧状電極
42 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷配線基板上に設けられた固定電極の上に、バネ性を有するメタルドームを載置して構成される押しボタンスイッチであって、
前記固定電極は、
スルーホールを用いずに回路が接続され、前記押しボタンスイッチが押下された際に、前記メタルドームの頂部が接触する中央電極と、
前記メタルドームの外周が接触し、前記中央電極の外側を取り囲むように配設された環状電極と、
からなり、
前記中央電極と環状電極は、いずれも導電性インクを印刷して形成され、
環状電極におけるメタルドームが接触する範囲の全域にわたって、印刷層構成が同一である
ことを特徴とする押しボタンスイッチ。
【請求項2】
前記中央電極の少なくとも一部における印刷層構成と、
前記環状電極におけるメタルドームが接触する範囲の印刷層構成と、
が同一であることを特徴とする請求項1記載の押しボタンスイッチ。
【請求項3】
前記固定電極は、
円形の中央電極と、
円ドーナツ形の環状電極と、
を同心円状に配置して形成されており、
前記メタルドームは、
円形であって、前記固定電極の上に同心円状に載置され、外周の全てが環状電極と接する
ことを特徴とする請求項1乃至2記載の押しボタンスイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−134673(P2011−134673A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295118(P2009−295118)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000102500)SMK株式会社 (528)
【Fターム(参考)】