説明

メタルハニカム基材、その製造方法、及びメタルハニカム触媒コンバータ

【課題】ウォッシュコート液との塗れ性に優れ、激しい振動や衝撃にも耐えうる、触媒層との密着性に優れ、耐衝撃剥離性や耐落下衝撃剥離性に優れた酸化物層を備えたメタルハニカム基材、及びその製造方法を提供し、激しい振動や衝撃でも、触媒層が剥離しないメタルハニカム触媒コンバータを提供する。
【解決手段】メタルハニカム基材に3質量%〜10質量%のシリカを含有する活性アルミナが被覆され、前記被覆層の表面の算術平均粗さRaが、0.3μm〜3.0μmであり、前記被覆層の表面の凹凸平均間隔RSmが、0.3μm〜26.0μmであるメタルハニカム基材、前記メタルハニカム基材の製造方法、前記メタルハニカム基材を用いたメタルハニカム触媒コンバータである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタルハニカム基材、その製造方法、及びメタルハニカム触媒コンバータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、建設機械、船舶、発電機、農業機械等の各種内燃機関、ボイラーをはじめとする燃焼機器、焼却炉や火力発電をはじめとする燃焼設備等から発生する排気ガスの浄化には、触媒コンバータが使用される。前記触媒コンバータは、ハニカム構造の基材に触媒を担持した触媒担体粉末をコートして作製されている。即ち、触媒担持粉末をハニカム構造の基材の内壁にウォッシュコートしたものを触媒コンバータとしている。前記ハニカム構造の基材としては、コージェライトや炭化珪素等のセラミックスハニカムや、ステンレス等の金属箔を加工したメタルハニカムが使用されている。これまで、排気ガス浄化の触媒コンバータには、セラミックスハニカムが基材として多く使用されてきた。
【0003】
しかしながら、最近ではメタルハニカムの基材も注目され、その使用量が増加している。その理由として、セラミックスハニカムでは激しい衝撃に弱く、破損することがあるのに対し、メタルハニカムでは激しい衝撃を受けても変形することはあっても破損しないので、取り扱い易く、激しい振動や衝撃を受ける環境下の使用でも耐久性に優れるためである。また、メタルハニカムは、従来のセラミックスハニカムに比べて熱容量が小さいので、触媒が作用する温度に早く加熱され、自動車等ではエンジン始動初期の排気ガス浄化能力が優れた触媒コンバータとすることができる。更に、セラミックスハニカムに比べて、メタルハニカムはハニカム体の壁が薄いステンレス箔からなるので、排気抵抗が小さくなり、エンジン出力の損失が少ない。さらに、メタルハニカムは、温度の急激で大きな変化(熱衝撃)でも破損が無く、耐久性に優れている等、その他にも多くの利点を有している。
【0004】
メタルハニカムは、前述のように多くの利点を有しているが、セラミックスハニカムに比べて、基材に対する触媒層の密着性が低く、触媒層が剥がれ易いという問題がある。通常、ハニカム基材に触媒を担持した担体がコートされている触媒層は、前記触媒の担体がアルミナ等の酸化物であるので、セラミックスとの密着性はよいが金属(メタル)には接着し難い。また、触媒層をコートするウォッシュコートの工程においても、水懸濁液であるウォッシュコート液の濡れ性に関し、セラミックスの方がよく濡れ、メタルの方が濡れ難いという問題がある。
【0005】
前記問題を解決するために、これまで、次のようなことがなされてきた。
【0006】
ウォッシュコートの濡れ性に関しては、メタルハニカムの場合、有機溶媒等で脱脂処理をすると濡れ性が改善される。但し、脱脂の必要がないセラミックスハニカムに比べて、メタルハニカムは脱脂という工程が増えることになる。
【0007】
メタルハニカムに対する触媒層の密着性に関しては、メタル表面に酸化物被膜を形成して密着性を向上させるということが行われている。例えば、アルミニウム含有量の多いステンレス箔を使用したメタルハニカムにおいては、空気中などの酸化雰囲気で800〜1100℃程度の高温で熱処理することで、ステンレス箔の表面にα−アルミナからなる酸化物被膜が形成される。メタルハニカムの表面がセラミックスハニカムと同じように酸化物になるので、触媒の担体が酸化物である触媒層の密着性は向上する。しかしながら、前記熱処理で形成されるのは、α−アルミナであり、触媒の担体とて使用されるγ−アルミナ等の活性アルミナとは結晶構造が異なるので、触媒層の付着強度は十分ではないという問題がある。前記問題を解決するために、特許文献1では、窒素ガス雰囲気下で熱処理することで、ステンレス箔の表面に、窒素−アルミニウムの化合物の被膜を形成し、活性アルミナとの親和性を向上させている。また、特許文献2では、アルカリ土類の硝酸塩水溶液を予め塗布し、その後800℃程度で熱処理してアルミナ被膜をステンレス箔の表面に形成している。このようにすると、α−アルミナの形成を抑制でき、γ−アルミナ、δ―アルミナ、θ―アルミナ等の活性アルミナの被膜が形成できるとしている。
【0008】
また、メタル表面に酸化物被膜を形成する他の方法としては、酸化物をメタルハニカムに塗布して形成するという方法がある。特許文献3では、触媒層(ウォッシュコート層)との密着性を確保するために、ゾル・ゲル法によってTiO2をステンレス表面にコーティングしたメタルハニカムが開示されている。具体的には、ゾル・ゲル法で形成したAl23やSiO2をコーティングした比較例に対し、TiO2をコーティングした方が、ベーマイト、γ−Al23、Ce2Oからなるウォッシュコート層の剥離が少ないという結果が示されている。特許文献4では、ステンレス表面に含酸素有機金属化合物を被覆したメタルハニカムが開示されている。前記含酸素有機金属化合物は、金属アルコキシド等を加水分解および縮重合反応して得られる、いわゆる、ゾル・ゲル法で形成されるものである。前記金属アルコキシドとしては、チタニウム、アルミニウム、シリコン、ジルコニウム、マグネシウムのアルコキシドであり、具体的には、チタニウムあるいは、チタニウムにアルミニウム或いはシリコンが混合された金属アルコキシドで形成される被膜が示されている。特許文献5では、ステンレス基材の表面を4価のセリウム塩溶液で表面処理することが開示され、前記処理によって触媒層の剥離が抑制できるとされている。特許文献6では、ハニカム構造ではなくステンレスのエキスパンドメタルを基材とするものであって、メタルの熱容量の向上を目的とするものであるが、触媒層のアンダーコート層として、セレンとアルミニウムを含有する酸化物を施した例が開示されている。前記酸化物のアンダーコート層により、触媒層の密着性も向上することも記載されている。
【0009】
また、特許文献7には、多孔質の酸化物被膜を形成した金属ハニカムが開示され、その形成方法は、Al拡散剤に金属ハニカムを埋没させ、700〜950℃で無酸化雰囲気中熱処理するというものである。
【0010】
特許文献8は、熱処理によってステンレス表面に酸化物層を形成する方法と、ゾル・ゲル法によって酸化アルミニウムの接着層を形成する方法とを組み合わせたものである。前記熱処理によって形成される酸化物層は、更に、表面粗さ(Ra)が2〜4μmで、ピークから谷の平均高さ(Rz)が0.2μmにすることが好ましいとしている。また、前記酸化物層の上に形成する接着層は、100ないし200m2/gの比表面積を有するものが好ましいとしている。
【0011】
また、セラミックスハニカムにおいても、ウォッシュコート層の下にアンダーコート層を施して、密着性を向上させることがなされている(特許文献9)。特許文献9では、アンダーコート層としては、低熱膨張セラミックス粒子を含む層とし、前記低熱膨張セラミックス粒子としては、窒化ケイ素、窒化ホウ素、シリカ、リチウムアルミノシリケート、アルミニウムシリケート、アルミニウムチタネート、コーディェライト、α−アルミナが挙げられている。
【0012】
【特許文献1】特開平6−71185号公報
【特許文献2】特開昭62−254845号公報
【特許文献3】特開平9−75751号公報
【特許文献4】特開平6−47286号公報
【特許文献5】特開平2−174940号公報
【特許文献6】特開平9−206598号公報
【特許文献7】特開平7−323233号公報
【特許文献8】特表平9−505238号公報
【特許文献9】特開2004−50062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、メタルハニカムのウォッシュコート性を向上(ウォッシュコート液の濡れ性の向上)及び触媒担持の活性アルミナ担体等の触媒層との密着性の向上には、ステンレス箔等のメタル表面に酸化物層を形成することである。前記酸化物層の形成方法に関し、熱処理によってメタル(ステンレス)表面を酸化させて、アルミナ層を形成する方法では、ステンレス中のアルミニウムが表面に拡散して酸化し、アルミナ被膜を形成するので、鋼中のアルミニウム含有量が減少し、ステンレス箔の耐高温酸化性が損なわれるという問題がある。
【0014】
一方、ゾル・ゲル法等によって酸化物をメタル表面に塗布して酸化物層を形成する方法では、前記熱酸化における問題は解消できる。しかしながら、特許文献3〜7の酸化物層や酸化物層の形成方法では、必ずしも、触媒層との密着性に優れるというわけでない。二輪車や建設機械等では、激しい振動や衝撃を受けることが多く、従来の塗布型の酸化物層では、触媒層との密着性、及びメタルとの密着性は不十分である。また、自動車等においても、舗装道路では、激しい振動や衝撃を受けることは少ないが、未舗装等の整備の不十分な道路やオフロードを走行する場合には激しい振動や衝撃を受けることになり、従来の塗布型の酸化物層では、不十分である。
【0015】
また、酸化物層を形成したメタルハニカム基材をトラック等で輸送し、触媒コートメーカーや触媒コート工場でウォッシュコートして触媒層を形成する場合には、輸送中の振動や衝撃、搬送入での振動や衝撃、メタルハニカム基材同士の衝突、場合よってはメタルハニカム基材の落下等の激しい振動や衝撃を受けると、触媒層を形成する前の段階で酸化物層がメタルから剥離する。したがって、耐衝撃剥離性や耐落下衝撃剥離性に優れた酸化物層を有するメタルハニカム基材が望まれる。
【0016】
本発明は、ウォッシュコート液との塗れ性に優れ、激しい振動や衝撃にも耐えうる、触媒層との密着性に優れ、耐衝撃剥離性や耐落下衝撃剥離性に優れた酸化物層を備えたメタルハニカム基材、及びその製造方法を提供することを目的とする。また、激しい振動や衝撃でも、触媒層が剥離しないメタルハニカム触媒コンバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記の問題を解決するべく、メタルハニカム基材の表面に形成する酸化物層を詳細に検討した結果、特定の少量の範囲でシリカを含有した活性アルミナが被覆され、前記被覆層の表面が、特定の幾何学的な粗さであると、密着性の優れた酸化物層であって、ウォッシュコート液と良好に濡れ、ウォッシュコート液から形成された触媒層の密着性にも優れて、激しい振動や衝撃にも耐えられることを見いだした。すなわち、本発明は以下の要旨とするものである。
【0018】
(1)メタルハニカム基材に3質量%〜10質量%のシリカを含有する活性アルミナが被覆され、前記被覆層の表面の算術平均粗さRaが、0.3μm〜3.0μmであり、前記被覆層の表面の凹凸平均間隔RSmが、0.3μm〜26.0μmであることを特徴とするメタルハニカム基材。
【0019】
(2)前記被覆層が、メタルハニカム基材の容積当りの質量として、100g/L〜300g/Lであることを特徴とする(1)記載のメタルハニカム基材。
【0020】
(3)水溶性有機樹脂バインダーを水に溶解して水溶液を調製する工程と、前記水溶液に活性アルミナを分散して懸濁液を調製する工程と、前記懸濁液にコロイダルシリカ分散水溶液を添加して、シリカ/(アルミナ+シリカ)の質量%で3質量%〜10質量%の塗布用懸濁液を調製する工程と、前記塗布用懸濁液をメタルハニカム基材に塗布して乾燥する工程と、前記乾燥体を500℃〜700℃の温度で熱処理する工程と、を含むことを特徴とするメタルハニカム基材の製造方法。
【0021】
(4)前記塗布用懸濁液中の水溶性有機樹脂バインダーの含有量が、1.3質量%〜3.1質量%であることを特徴とする(3)記載のメタルハニカム基材の製造方法。
【0022】
(5)前記塗布用懸濁液中の活性アルミナとコロイダルシリカの含有量が28質量%〜38質量%であることを特徴とする(3)記載のメタルハニカム基材の製造方法。
【0023】
(6)上記(1)又は(2)に記載のメタルハニカム基材に、排気ガス浄化触媒の触媒層を有することを特徴とするメタルハニカム触媒コンバータ。
【0024】
(7)前記排気ガス浄化触媒が、三元触媒又は窒素酸化物除去触媒であることを特徴とする(6)記載のメタルハニカム触媒コンバータ。
【0025】
(8)前記三元触媒が、貴金属触媒を担持したSr−Fe−O系酸化物触媒であることを特徴とする(7)記載のメタルハニカム触媒コンバータ。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ウォッシュコート液との濡れ性に優れ、激しい振動や衝撃に対しても触媒層の密着性に優れるメタルハニカム基材及びその製造方法を提供できる。更に、前記メタルハニカム基材の表面に施している酸化物被複層は、耐衝撃剥離性や耐落下衝撃剥離性に優れたものである。したがって、本発明のメタルハニカム基材に触媒層をウォッシュコートして得られる排ガス浄化用触媒コンバータは、激しい振動や衝撃を受けても触媒層が殆ど剥離しないものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明のメタルハニカム基材は、メタルハニカム基材に3質量%〜10質量%のシリカを含有する活性アルミナが被覆されている。通常、ウォッシュコートで形成される触媒層の下層に、シリカが含まれると、前記シリカ成分が触媒を徐々に劣化させる。シリカはアルミナに比べ反応性が高いことや、酸性酸化物であることから、使用中徐々に、塩基性の助触媒と反応したり、NOx吸蔵還元触媒に使用されるアルカリ金属塩と反応したりして、触媒活性の劣化(低寿命)を招くものである。また、セラミックスハニカムとして多く使用されているコーディェライト(Mg2Si4Al518)ハニカムに、上記のようにシリカを含む被覆がなされると、被覆層とハニカム界面でシリカが反応してコーディェライト以外の相が形成されて、被覆層の剥離が起こりやすくなるので、シリカを含有させることは現実的には行わない。一方、特許文献8では、メタルハニカム基体の表面に密着性よくアルミナ(酸化アルミニウム)被覆層を形成するために、予め熱処理によってメタル表面に熱酸化アルミナ層を形成し、前記熱酸化アルミナ層の表面に凹凸を形成することで、ゾル・ゲル法で形成するアルミナ被覆層の密着性を向上させるという方法を行っている。前記方法では、シリカを含有せずアルミナだけで被覆層の密着性を向上するものであるが、メタルハニカム基体の熱酸化処理という工程が必要であり、熱酸化アルミナを形成するということは、上述のように、メタル中のアルミの拡散による濃度低下によりメタルの耐熱性低下を招くという欠点がある。前述のような現状の中、本発明者らは、メタルハニカム基材においては、上記のように、3質量%〜10質量%のシリカを含有する活性アルミナを被覆層にすると、活性アルミナのみの被覆層に比べて遙かに密着性の高い、特に、耐衝撃剥離性や耐落下衝撃剥離性に優れた被覆層とできることを見出し、更に、前記シリカの含有範囲内であれば、上述のような、ウォッシュコートで形成される触媒層の触媒活性を劣化させることがないことを見出した。シリカの含有量が3質量%未満では、被覆層のメタルハニカム基材に対する密着性、特に、十分な耐衝撃剥離性や耐落下衝撃剥離性が得られない。シリカの含有量が10質量%を超えると、被膜層の上に形成された触媒層の触媒活性の劣化が著しくなる。シリカの含有量のより好ましい範囲は、4質量%〜8質量%である。前記活性アルミナに含有するシリカは、シリカとして活性アルミナと混合されているシリカ分、及び、ケイ酸アルミニウムとして活性アルミナと化合物を形成しているシリカ分の両方を含むものである。より好ましい形態は、活性アルミナ粒子の周囲にシリカ又はケイ酸アルミニウムとして存在しているものである。したがって、上記シリカの含有量は、活性アルミナ被覆層におけるAlとSiの合計に対するSiの割合を、SiO2の質量換算したものである。また、シリカ含有量は、蛍光X線分析法、誘導結合プラズマ(IPC)発光分析法、X線マイクロアナライザー分析法等の既存の元素分析法であれば、どの分析方法であっても測定でき、1つの分析手法で得られた値が本発明の範囲内であればよい。
【0028】
更に、前記被覆層の表面は、表面の算術平均粗さRaが、0.3μm〜3.0μmであり、表面の凹凸平均間隔RSmが、0.3μm〜26.0μmである。上述のように、メタルハニカム基材の表面が、酸化物であると、メタル表面に比べて、ウォッシュコート液の塗れ性がよく、形成される触媒層の密着性に優れるものとなるのであるが、激しい振動や衝撃に対しては不充分である。前記被覆層が平坦であると、前記被覆層が酸化物であっても、触媒層との界面から剥離が起こりやすい。触媒層との界面での剥離を抑制するためには、被覆層に凹凸を形成して触媒層を施すことが考えられる。しかしながら、被覆層の表面に単に凹凸があるだけでは、また、激しい振動や衝撃に対しては不充分である。激しい機械的衝撃や熱的衝撃を受けると、クラックの発生や伝搬が、前記被覆層と触媒層の界面で起こりやすい。本発明者らは、前記被覆層の表面を、表面の算術平均粗さRaが、0.3μm〜3.0μmで、かつ、表面の凹凸平均間隔RSmが、0.3μm〜26.0μmとすることで、激しい機械的衝撃や熱的衝撃にも耐えうる触媒層との界面を形成できることを見出した。ここで、算術平均粗さRaは、次式で表され、基準長さLにおける凹凸振幅Z(x)の絶対値の平均である。
【0029】
【数1】

【0030】
また、表面の凹凸平均間隔RSmは、次式で表され、基準長さLにおける輪郭曲線要素Xsiの長さXsの平均である。
【0031】
【数2】

【0032】
本発明では、Ra及びRSmの前記基準長さLに関し、凹凸の周期が10周期以上となるようにLを設定する。例えば、L=300μmである。また、評価長さは、Lの5倍とする。
【0033】
被覆層の表面に関し、凹凸の大きさを示すRaと、凹凸の周期長(振幅幅)を示すRSmとの両方を前記特定の範囲内にすると、触媒層が形成された後の被覆層と触媒層の界面におけるクラックの発生や伝搬が抑制でき、その結果、剥離が起こり難くなる。これは、被覆層と触媒層の界面構造が特定の振幅幅と周期でジグザク(凹凸)になっていると、衝撃による内部応力場の振動(変動)を吸収し、低減して、クラックの発生を抑制できたり、衝撃による振動が微少クラックへ伝搬するのを低減して、クラックの伝搬を抑制できたりするためと推測する。
【0034】
前記被覆層の表面の算術平均粗さRaが、0.3μm未満では、激しい機械的な衝撃や熱衝撃でも剥離しないような、触媒層との密着性が得られない。前記理由は、凹凸が小さすぎるためと推定される。一方、前記Raが、3.0μmを越えると、前記被覆層を施したメタルハニカム基材の輸送や運搬中に、被覆層の凸部が欠け落ちやすくなり、好ましくない。即ち、凹凸が大きすぎて、振動や衝撃で大きな凸部が破損する。前記Raの更に好ましい範囲は、0.6μm〜2.5μmである。
【0035】
前記被覆層の表面の凹凸平均間隔RSmが、0.3μm未満では、激しい機械的な衝撃や熱衝撃にも耐えうる触媒層との界面とならない。前記理由は、凹凸の周期長が小さすぎるので、衝撃等による振動の波長と干渉できなくなり、クラック発生や伝搬の抑制効果が得られなくなるめと推測される。前記RSmが、26.0μmを超えると、激しい機械的な衝撃や熱衝撃にも耐えうる触媒層との界面とならない。前記理由は、凹凸の周期長が大きすぎるので、衝撃等による振動の波長と干渉できなくなり、クラック発生や伝搬の抑制効果が得らなくなるためと推測される。また、凹凸の周期長が長すぎると、凹凸の山谷の変化がなだらかにあり、触媒層との接触面積が小さくなって密着性の低下を招くということもある。前記RSmのより好ましい範囲は、3.0μm〜20.0μmである。
【0036】
更に、前記Raと前記RSmとの関係が、1.0≦4Ra/RSm≦3である方が、より好ましい。前記範囲であると、適度な凹凸の振幅と適度な凹凸の間隔であり、上記クラックの伝搬をより効果的に抑制できる。
【0037】
前記被覆層の表面に関し、Ra及びRSmは、原子間力顕微鏡(AFM)、触針式粗さ計、表面形状顕微鏡等で測定できる。どの測定手法においても、本発明の範囲のRaとRSmであれば、本発明の作用効果が得られるものであり、1つの測定手法で得られた値が本発明の範囲内であればよい。
【0038】
前記被覆層が、メタルハニカム基材の容積当りの質量として、100g/L〜300g/Lであることがより好ましい。前記被覆層が、100g/L未満であると、メタル表面を全て被覆できなかったりする場合がある。また、被覆層が薄くなりすぎたりして、前記凹凸が形成できなくて触媒層との高い密着性が確保できなくなったりする場合がある。一方、前記被覆層が、300g/Lを超えると、被覆層の厚さが大きくなりすぎて経済的でなかったり、ハニカムの孔が狭くなってガスの圧損が大きくなりすぎたりする場合がある。また、前記被覆層の厚さとしては、セルの平坦部で1μm以上10μm以下がより好ましい。
【0039】
前記被覆層の活性アルミナとは、例えば、γ-アルミナ、ρ-アルミナ、χ-アルミナ、η-アルミナ、δ-アルミナ、κ-アルミナ、θ-アルミナ、無定形アルミナ等である。
【0040】
前記被覆層を施すメタルハニカム基材とは、耐熱性を有する鋼板や箔を用いて、反応ガスとの接触面積を大きくする構造に加工しているものである。例えば、ステンレス箔を使用し、該平箔と該波箔とをスパイラル状に巻き回して積層して製造されるメタルハニカム基材である。前記ハニカム構造には平箔と波箔とで囲まれた多数のセルが形成され、このセルを構成する箔の表面に触媒を担持し、排気ガス等がこのセルを通過する際に、排気ガスの浄化反応等の触媒反応が効率よく起こる。前記メタルハニカム基材のセル密度は、使用目的によって選ばれるものであり、特に限定しないが、例えば、50cpsi〜900cpsi(7.8セル/cm2〜140セル/cm2)の範囲である。具体的な例としては、100cpsi(15.5セル/cm2)、200cpsi(31.0セル/cm2)、300cpsi(46.5セル/cm2)、400cpsi(62.0セル/cm2)、500cpsi(77.5セル/cm2)、600cpsi(93.0セル/cm2)等が使用される。
【0041】
前記被覆層を施したメタルハニカム基材には、前記被覆層の上に、三元触媒、窒素酸化物除去触媒、酸化触媒等の排気ガス浄化触媒を触媒層として、ウォッシュコートして形成して排気ガス浄化用のメタルハニカム触媒コンバータとすることができる。
【0042】
前記三元触媒としては、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を同時に浄化できる触媒であれば、特に限定しないが、例えば、白金、パラジウム、ロジウムの貴金属触媒を担持したγ−アルミナである。前記三元触媒に、酸素吸蔵能を有する助触媒、例えば、酸化セリウム、酸化セリウム−ジルコニア等を含有した触媒等が挙げられる。
【0043】
また、前記三元触媒として、貴金属触媒を担持したSr−Fe−O系酸化物を含む触媒層をウォッシュコートした排気ガス浄化用触媒コンバータとすることができる。前記排ガス浄化用触媒コンバータは、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を同時に浄化できる三元触媒コンバータとして使用される。前記貴金属触媒としては、特に、Pd又はRhの貴金属の1種又は2種が好ましい。また、前記Sr−Fe−O系酸化物としては、SrFeO3-δ、SrFe24-δ、Sr7Fe1022-δ、又はSrFe1219-δ(ここで、δは電荷中性条件を満たすように決まる値である。)の結晶相等が挙げられ、前記結晶を1種以上含むSr−Fe−O系酸化物がより好ましい。
【0044】
前記窒素酸化物除去触媒としては、例えば、尿素、炭化水素等の還元剤を使用して窒素酸化物を還元する選択還元触媒(Selective Catalytic Reduction、SCR触媒)、NOx吸蔵還元触媒等が挙げられる。
【0045】
前記酸化触媒は、ディーゼルエンジン等の排気ガスに含まれる、粒子状物質(PM)や粒子状物質を形成する前駆体となるタール状揮発物質を酸化する触媒であり、白金をγ−アルミナに担持した触媒が典型的であり、基本的な組み合わせである。
【0046】
本発明のメタルハニカム基材の製造方法、すなわち、前記被覆層の形成方法としては、本発明の被覆層がメタルハニカム基材の表面に形成できる方法であれば、どのような方法であっても、本発明の作用効果が得られるものである。例えば、化学気相堆積法やゾル・ゲル法で、シリカを含む活性アルミナ被覆層をメタルハニカム基材に形成することができる。より好ましい製造方法は、次のような製造方法である。
【0047】
即ち、水溶性有機樹脂バインダーを水に溶解して水溶液を調製する工程と、前記水溶液に活性アルミナを分散して懸濁液を調製する工程と、前記懸濁液にコロイダルシリカ分散水溶液を添加して、シリカ/(アルミナ+シリカ)の質量%[100×SiO2質量/(Al2O3質量+SiO2質量)]で3質量%〜10質量%の塗布用懸濁液を調製する工程と、前記塗布用懸濁液をメタルハニカム基材に塗布して乾燥する工程と、前記乾燥体を500℃〜700℃の温度で熱処理する工程と、によりメタルハニカム基材を製造する製造方法である。
【0048】
前記活性アルミナを分散した懸濁液を調製し、前記懸濁液にコロイダルシリカを分散した分散水溶液を添加することで、活性アルミナの粒子の表面にコロイダルシリカ粒子が付着した複合粒子を効率よく形成することができ、その結果、得られる被覆層の構造が、活性アルミナ粒子同士との結合、及び、活性アルミナとメタルハニカム基材表面との結合をシリカやケイ酸アルミニウムで強固した構造となる。よって、前記被覆層が、より耐衝撃剥離性や耐落下衝撃剥離性に優れるものとなる。
【0049】
前記分散する活性アルミナの粒子は、特に限定されないが、平均粒径で50nm〜500nmが好ましい。また、活性アルミナの粒径は、酸化物粒子の粒径を測定する通常の方法で測定できるが、例えば、レーザー回折法、遠心沈降法等により測定される。また、平均粒子径とは、質量累積粒度分布の50%径である。平均粒径が50nm未満である場合は、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡で直接観察して、円相当直径を測定し、数平均の粒子径として求める。
【0050】
活性アルミナの比表面積は、60〜100m2/gの範囲がより好ましい。前記比表面積は、ガス吸着法(BET法)によって測定できる。
【0051】
また、前記活性アルミナを分散した懸濁液に添加するコロイダルシリカの平均粒子径Dsは、活性アルミナ一次粒子の平均粒子径Daの1/5以下であることが好ましく、1/100<Ds/Da<1/5の範囲である。前記粒径のコロイダルシリカであると、少量のシリカで活性アルミナ粒子の多くの表面を覆った複合粒子とすることができ、前記複合粒子から形成される被覆層は、より耐衝撃剥離性や耐落下衝撃剥離性に優れるものとなる。コロイダルシリカの平均粒子径のより好ましい範囲は、5nm〜40nmである。コロイダルシリカの平均粒子径は、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡で直接観察して、円相当直径を測定し、数平均の粒子径として求める。また、前記コロイダルシリカ分散水溶液は、SiO2とした固形分で、10〜30質量%であるのがより好ましい。
【0052】
前記複合粒子を形成するには、活性アルミナの粒子のゼータ電位(ζ)と反対の電荷を有するコロイダルシリカの粒子であって、活性アルミナの粒子のゼータ電位とコロイダルシリカの粒子のゼータ電位との差が大きいコロイダルシリカがより好ましい。例えば、活性アルミナの粒子、及び、コロイダルシリカの粒子のゼータ電位は、図1に示しているようにpHで制御できる。図1の波線のpHでは、活性アルミナの粒子のゼータ電位は、正であり、一方、コロイダルシリカの粒子のゼータ電位は、負になっており、更に、活性アルミナの粒子径に比べてコロイダルシリカの粒子径がはるかに小さいと、活性アルミナ粒子の表面にコロイダルシリカの粒子が静電引力で付着して複合粒子となる。前記ゼータ電位の関係にすると、活性アルミナ粒子をコロイダルシリカで複合粒子とした懸濁液の粘度が小さくり、メタルハニカム基材への塗布性も向上する。前記複合粒子は、付着するコロイダルシリカの粒子の数(量)にもよるが、付着したコロイダルシリカの粒子によって、負に帯電している。前記複合粒子の負の帯電が、活性アルミナ粒子の正の帯電に比べて、その絶対値が大きければ、活性アルミナの粒子に比べて複合粒子の方が、粒子間の反発力が大きくなり、その結果として、懸濁液の粘度を下げることになる。前記複合粒子の形成に関し、上記製造方法のように、活性アルミナを分散した懸濁液に、コロイダルシリカを分散した分散水溶液を添加することで、コロイダルシリカが順次添加されるので各活性アルミナ粒子の表面に均等にコロイダルシリカが付着し、その結果として、活性アルミナの粒子の全てに平均的にコロイダルシリカを付着できるので複合粒子を効率よく形成できる(図2)。一方、コロイダルシリカを分散した分散水溶液に、活性アルミナを分散した懸濁液を添加すると、先に混ざる活性アルミナの粒子は過剰のコロイダルシリカと接触するので表面にはコロイダルシリカの粒子が多く付着し、最後から混ざる活性アルミナの粒子の表面にはコロイダルシリカの粒子が付着しないというようになり、得られる複合粒子が不均―となるので適切ではない(図3)。前記方法では、複合粒子の電荷が不均一となり、複合粒子間の反発力が十分でない粒子ができるので、塗布用懸濁液の粘度が高くなったり、複合粒子の凝集が起こったりするからである。
【0053】
前記水溶性有機樹脂バインダーとは、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、でんぷん(スターチ)、ゼラチン、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。
【0054】
前記塗布用懸濁液中の前記水溶性有機樹脂バインダーの含有量は、得られる被覆層の表面形状に影響し、前記含有量が小さいとRa及びRSmが小さくなり、前記含有量が大きいとRa及びRSmが大きくなる。したがって、本発明のRa及びRSmを容易に得るには、前記含有量が、前記塗布用懸濁液に対して、1.3質量%〜3.2質量%であるのが、より好ましい。1.3質量%未満では、十分大きなRaやRSmを有する表面が得られない場合がある。3.2質量%を越えると、RaやRSmが大きすぎたり、被覆層の緻密性に欠けて被覆層が脆くなったりする場合がある。
【0055】
活性アルミナを分散した懸濁液を調製する工程において、更に、本発明の効果が損なわれない範囲で、界面活性剤、消泡剤の1種以上を添加してもよい。前記界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等挙げられるが、特に好ましいのは、非イオン性界面活性剤である。
【0056】
前記塗布後の乾燥は、水分を蒸発して、その後の熱処理において残留水分が突沸や急激な蒸発によって、乾燥被膜が壊れない程度の乾燥であればよい。
【0057】
前記乾燥体の熱処理は、上述のように、500℃〜700℃の温度で行う。500℃未満であると、十分な付着力を有する被覆層が得られない。700℃を越えても、被覆層の耐衝撃剥離性や耐落下衝撃剥離性は変わらないので、生産性を観点から熱処理温度の上限を700℃とした。
【0058】
前記塗布用懸濁液中に含有する活性アルミナとコロイダルシリカとの総質量に対して、コロイダルシリカは、3質量%〜10質量%である。前記範囲であれば、得られる被覆層は、シリカ含有量が3質量%〜10質量%の活性アルミナとなる。
【0059】
更に、前記塗布用懸濁液中の活性アルミナとコロイダルシリカの含有量(固形分の含有量)が、27質量%〜38質量%であることが、より好ましい。活性アルミナとコロイダルシリカの含有量が、27質量%未満であると、塗布用懸濁液中の固形分が少ないので、1回の塗布で得られる被覆層が薄くなったり、被覆層が形成されない部分ができたりする場合がある。活性アルミナとコロイダルシリカの含有量が、38質量%を越えると、塗布用懸濁液の粘度が高くなり過ぎたり、流動性が悪くなったりして、塗布の際にセルの一部が目詰まりする場合がある。
【0060】
本発明のメタルハニカム基材には、上述のように、三元触媒、窒素酸化物除去触媒、又は酸化触媒の少なくとも1種の触媒層を形成して排気ガス浄化用触媒コンバータとすることができる。また、貴金属触媒を担持したSr−Fe−O系酸化物を含む触媒層を形成した排気ガス浄化用触媒コンバータとすることもできる。窒素酸化物除去触媒としては、NOx吸蔵還元触媒、選択還元型NOx触媒、NOx直接還元触媒等がある。
【0061】
前記触媒層の形成方法、従来のウォッシュコート法で製造できる。特に、本発明のメタルハニカム基材では、メタルハニカム特有の脱脂処理等の前処理をしなくても、容易にウォッシュコートできる。また、使用するウォッシュコート液の設計や調整に関しても、特別な注意を払う必要がなく、セラミックスハニカムと同様のウォッシュコート液で、良好な触媒層を形成できる。
【実施例】
【0062】
本発明について、以下に具体的実施例を示すことで詳細に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものでなく、この考え方を適用できる各種の実施形態を含む。
【0063】
メタルハニカム基材に施す活性アルミナの被覆層を形成するために、まず、次のようにして塗布用懸濁液を調製した。出発原料は、活性アルミナ(γ−アルミナ)粉末、コロイダルシリカ分散水溶液(シリカゾル)、純水、水溶性有機樹脂バインダー(メチルセルロース)、及び消泡剤である。前記活性アルミナ及びシリカは、表1に示した平均粒径のものを使用した。活性アルミナの平均粒径は、レーザー回折法で測定した値である。シリカの平均粒径は、透過型電子顕微鏡で測定した値である。メチルセルロースを水に溶解して2.5質量%の水溶液を調製した。前記水溶液に、活性アルミナ粉末を添加し、撹拌して分散させ、懸濁液を調製した。前記懸濁液に、コロイダルシリカ分散水溶液を滴下しながら添加して塗布用懸濁液を調製した。前記塗布用懸濁液には、2滴の消泡剤も添加した。前記塗布用懸濁液中の水溶性有機バインダー、活性アルミナ、及びシリカの含有量は、表1に示した割合になるように調整した。塗布用懸濁液中の水分量については、純水の添加又は濃縮で調整した。但し、表1のNo.1−34は、コロイダルシリカ水溶液に、活性アルミナ懸濁液を滴下しながら添加して調製したものである。
【0064】
前記塗布用懸濁液を塗布するメタルハニカム基材としては、直径25cm、長さ60cmの円筒型のステンレス鋼製を用いた。前記メタルハニカムのセル密度は、表1〜4に示した、300cpsi(46.5cell/cm2)、400cpsi(62cell/cm2)、600cpsi(93cell/cm2)のものを使用した。これらのメタルハニカム基材を垂直に保持し、その上部端面に過剰量の上記塗布用懸濁液を一様に盛り、メタルハニカム基材下部端面から吸引してメタルハニカム基材内壁に前記塗布用懸濁液を塗布するとともに、余剰懸濁液を除去した。メタルハニカム基材の外表面に付着した懸濁液は、乾燥してしまう前に拭き取った。前記吸引を継続しつつ、ハニカム基材上部端面をエアーブローして、塗布した懸濁液を乾燥した。次に、メタルハニカム基材の上下を逆転させ、前記と同様の操作を行い、塗布用懸濁液を均一に塗布するようにした。表1に示した各塗布用懸濁液に関し、 次のようにして塗布性を評価した。全てのセルが目詰まりせずに塗布できたもの:◎、セルの目詰まりがあり5%未満であるもの、又は、塗布されない部分があり5%未満であるもの:○、セルの目詰まりが5%以上10%未満であるもの、又は、塗布されない部分が5%以上10%未満であるもの:△、セル目詰まりが10%以上であるもの、又は、塗布されない部分が10%以上であるもの:×。塗布用懸濁液の塗布性に関しては、コロイダルシリカ水溶液と活性アルミナ懸濁液の混合方法を本発明とは逆にしたNo.1−34は、コロイダルシリカ水溶液に活性アルミナ懸濁液を添加して調製した塗布用懸濁液では、懸濁液の粘度が高く、目詰まりして塗布できなかった。水溶性有機樹脂バインダーの含有量が、1.3質量%〜3.1質量%である塗布用懸濁液は、より良好な塗布性を示した。また、塗布用懸濁液中の活性アルミナとコロイダルシリカの含有量が、28質量%〜38質量%にある場合も、より良好な塗布性を示した。
【0065】
前記塗布、乾燥した後のメタルハニカム基材を、大気中、表1に示した熱処理温度で、1時間熱処理することで、活性アルミナ層を被覆層としてメタルハニカム基材を作製した。活性アルミナ層の塗布量は、メタルハニカム基材の塗布前後の質量を測定して算出した。表2〜4の被覆層の各調製条件は、表1の1−1〜1−32とそれぞれ同じである。作製した活性アルミナ層に含有するシリカ含有量は、ICP分析で測定した結果を表1に示しているが、塗布用懸濁液におけるシリカ含有量から計算される値と一致した。作製した活性アルミナ層の表面に関し、表面の算術平均粗さRa及び表面の凹凸平均間隔RSm(L=300μm)は、表面形状顕微鏡で測定した。それらの結果は、表1に示している。
【0066】
メタルハニカム基材に形成した活性アルミナ層の耐衝撃剥離性は、次のようにして評価した。活性アルミナ層を施したメタルハニカム基材を、図4に示すように、鋼材ブロックの上に置き、メタルハニカム基材の上部の高さ(h1)50cmから100gの分銅を落下させて、メタルハニカム基材に衝撃を与えた。その後、メタルハニカム基材の質量を測定し、質量の減少量から、被覆層の耐衝撃剥離性を評価した。被覆層の剥離割合が、1質量%未満:◎、1質量%以上2質量%未満:○、2質量%以上5質量%未満:△、5質量%以上:×とした。その結果は、表1に示している。
【0067】
メタルハニカム基材に形成した活性アルミナ層の耐落下衝撃剥離性は、次のようにして評価した。図5に示すように、活性アルミナ層を施したメタルハニカム基材を、高さ(h2)30cmから鋼材ブロックに落下させた。その後、メタルハニカム基材の質量を測定し、質量の減少量から、被覆層の耐衝撃剥離性を評価した。被覆層の剥離割合が、1質量%未満:◎、1質量%以上2質量%未満:○、2質量%以上5質量%未満:△、5質量%以上:×とした。その結果は、表1に示している。
【0068】
活性アルミナ層(被覆層)に関し、シリカ含有量が、0.3質量%〜10質量%である場合には、耐衝撃剥離性及び耐落下衝撃剥離性とも良好であった。シリカ含有が、0.4質量%以上であると、耐衝撃剥離性及び耐落下衝撃剥離性とも優れたものとなった。
【0069】
上記結果は、400cpsi(62cell/cm2)、600cpsi(93cell/cm2)のメタルハニカム基材でも同様の結果が得られた。
【0070】
次に、活性アルミナ層(被覆層)の上に、触媒層をウォッシュコートして形成した。触媒としては、三元触媒(表1)、窒素酸化物除去触媒(表2)、酸化触媒(表3)、Pd担持Sr-Fe-O酸化物触媒(表4)をウォッシコートした。表2〜表4に関しては、表1のNo.1−01〜1−33と同じ活性アルミナ層を下記メタルハニカム基材に施した。三元触媒は、貴金属として、Pt、Rh、Pdを活性アルミナ(γ−アルミナ)に担持し、助触媒として酸化セリアおよびジルコニアを含む触媒粉末を用いた。窒素酸化物除去触媒としては、尿素やアンモニア等を還元剤とするWO3−V25/TiO2触媒粉末を使用した。酸化触媒としては、Ptを担持した活性アルミナ(γ−アルミナ)触媒粉末を使用した。Pd担持Sr-Fe-O酸化物触媒は、Pdを担持したSr−Fe−O複合酸化物触媒粉末であり、三元触媒として使用されるものである。前記各触媒粉末は、硝酸アルミニウム、純水、メチルセルロース、及び消泡剤と混合して、各ウォッシュコート液を調製した。上記の被覆層を施したメタルハニカム基材を垂直に保持し、その上部端面に過剰量の前記ウォッシュコート液を一様に盛り、メタルハニカム基材下部端面から吸引してメタルハニカム基材内壁に前記ウォッシュコート液を塗布するとともに、余剰ウォッシュコート液を除去した。メタルハニカム基材の外表面に付着したウォッシュコート液は、乾燥してしまう前に拭き取った。前記吸引を継続しつつ、ハニカム基材上部端面をエアーブローして、塗布したウォッシュコート液を乾燥した。次に、メタルハニカム基材の上下を逆転させ、前記と同様の操作を行い、ウォッシュコート液を均一に塗布するようにした。前記塗布、乾燥した後のメタルハニカム基材を、大気中、650℃で、1時間熱処理して、触媒層を形成した。
【0071】
上記触媒層を形成した後、各メタルハニカム基材は、耐衝撃剥離性及び耐落下衝撃剥離性の評価試験を行った。前記両評価の試験方法は、上述と同様に行った。ここで、剥離割合は、前記触媒層と被覆層との両方を合算したものである。前記剥離割合が、1質量%未満:◎、1質量%以上2質量%未満:○、2質量%以上5質量%未満:△、5質量%以上:×とした。その結果は、表1〜4に示している。表1〜4のいずれの触媒層においても、活性アルミナ被覆層の表面に関し、算術平均粗さRaが、0.3μm〜3.0μmであり、凹凸平均粗さRSmが、0.3μm〜26.0μmである場合に、耐衝撃剥離特性及び耐落下衝撃剥離性が良好であった。前記Raが、0.6μm〜2.5μmである場合には、更に優れるものであった。前記RSmが、3μm〜20μmである場合には、更に優れているものであった。
【0072】
次に各触媒活性評価について述べる。
【0073】
上記三元触媒とPdを担持したSr−Fe−O複合酸化物触媒については、次のようにして触媒活性を評価した。
【0074】
触媒層がウォッシュコートされたメタルハニカム基材を、表5のストイキ条件の雰囲気中に450〜500℃で1時間保持した後、一旦、常温付近まで冷却した。続いて、評価装置にセットし、入り側から表5の組成のモデルガスを導入し、これを排ガス浄化反応部に流通させて、出口側に排出するものである。モデルガスを外部ヒーターにて加熱して排ガス浄化反応部に送ることで、浄化反応部分が加熱されるものである。昇温しながら、表5に示した3条件(リッチ→ストイキ→リーン)をサイクリックに繰り返し、NO分解についてはリッチ条件において、CO及び炭化水素(以下HC)についてはストイキ条件において、流出側(触媒部分通過後)のガス組成を分析し、CO、HC、及びNO濃度の変化率を求めることにより、各々の浄化特性を評価した。空間速度は5万hr-1とした。測定は、入口ガス組成を切り替えた後、入口ガス組成が安定したと見なし得る時点で行い、その後、別な入口ガス組成に変えて同様に測定する方法を用いた。本発明の評価装置においては、入口ガス組成を切り替えた後100秒後に測定を行い、180秒後に別な入口ガス組成に切り替える操作を繰り返した。
【0075】
触媒活性については、初期の触媒活性試験を行い、その後、同メタルハニカム基材を900℃、5時間、空気中で保持した後、再度、触媒活性試験を行って、初期特性と熱処理後の特性の差において評価を実施した。
【0076】
前記初期と熱処理との間で、触媒活性がほとんど変化しない(劣化しない)もの(触媒活性の劣化が1%未満):◎、触媒活性の劣化が1%〜20%未満のものを○、触媒活性の劣化が20%以上のもの:×、として、表1及び4に示している。
【0077】
窒素酸化物除去触媒については、次のようにして、触媒活性を評価した。
【0078】
前記触媒がウォッシュコートされたメタルハニカム基材を、評価装置にセットし、入り側から表6の組成のモデルガスを導入し、これを排ガス浄化反応部に流通させて、出口側に排出するものである。モデルガスを外部ヒーターにて加熱して排ガス浄化反応部に送ることで、浄化反応部分が加熱されるものである。前記反応は、350℃で行った。空間速度は5万hr-1とした。窒素酸化物(NO)の測定は、入口ガス組成を切り替えた後、入口ガス組成が安定したと見なし得る時点で行い、その後、別な入口ガス組成に変えて同様に測定する方法を用いた。触媒活性は、NOの分解率で評価した。本発明の評価装置においては、入口ガス組成を切り替えた後100秒後に測定を行い、180秒後に別な入口ガス組成に切り替える操作を繰り返した。
【0079】
触媒活性については、初期の触媒活性試験を行い、その後、同メタルハニカム基材を900℃、5時間、空気中で保持した後、再度、触媒活性試験を行って、初期特性と熱処理後の特性の差において評価を実施した。
【0080】
前記初期と熱処理との間で、触媒活性がほとんど変化しない(劣化しない)もの(触媒活性の劣化が1%未満):◎、触媒活性の劣化が1%〜20%未満のものを○、触媒活性の劣化が20%以上のもの:×、として、表2に示している。
【0081】
酸化触媒については、次のようにして、触媒活性を評価した。
【0082】
前記触媒がウォッシュコートされたメタルハニカム基材を、評価装置にセットし、入り側から表7の組成のモデルガスを導入し、これを排ガス浄化反応部に流通させて、出口側に排出するものである。モデルガスを外部ヒーターにて加熱して排ガス浄化反応部に送ることで、浄化反応部分が加熱されるものである。前記反応は、500℃で行った。空間速度は5万hr-1とした。炭化水素(C1022)の分解割合で、前記酸化触媒の触媒性能を評価した。炭化水素(C1022)の測定は、入口ガス組成を切り替えた後、入口ガス組成が安定したと見なし得る時点で行い、その後、別な入口ガス組成に変えて同様に測定する方法を用いた。本発明の評価装置においては、入口ガス組成を切り替えた後100秒後に測定を行い、180秒後に別な入口ガス組成に切り替える操作を繰り返した。
【0083】
触媒活性については、初期の触媒活性試験を行い、その後、同メタルハニカム基材を900℃、5時間、空気中で保持した後、再度、触媒活性試験を行って、初期特性と熱処理後の特性の差において評価を実施した。
【0084】
前記初期と熱処理との間で、触媒活性がほとんど変化しない(劣化しない)もの(触媒活性の劣化が1%未満):◎、触媒活性の劣化が1%〜20%未満のものを○、触媒活性の劣化が20%以上のもの:×、として、表3に示している。
【0085】
表1〜4における触媒活性を見ると、活性アルミナ被覆層の含有するシリカ含有量が、10質量%以下であるものが、触媒活性の劣化が小さいものであった。前記シリカ含有量が8質量%以下であると、触媒活性の劣化がより小さくなった。前記シリカ含有量が10質量%を越えて、触媒活性が大きく劣化した比較例の触媒活性評価後の触媒層を分析した結果、どの触媒層に関しても、シリカが含まれており、活性アルミナ被覆層に含有していたシリカが拡散して反応しているので触媒活性が大きく劣化したものと考えられる。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
【表5】

【0091】
【表6】

【0092】
【表7】

【0093】
【表8】

【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】活性アルミナ(γ−Al2O3)とシリカのゼータ電位の関係、及び、活性アルミナ粒子の表面にシリカ粒子が静電的に付着した複合粒子の形成を説明する模式図である。
【図2】活性アルミナの懸濁液にコロイダルシリカ水溶液を添加した場合の複合粒子の形成を示す模式図である。
【図3】コロイダルシリカ水溶液に活性アルミナ懸濁液を添加した場合の複合粒子の形成を示す模式図である。
【図4】耐衝撃剥離性の評価方法を示す図である。
【図5】耐落下衝撃剥離性の評価方法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタルハニカム基材に3質量%〜10質量%のシリカを含有する活性アルミナが被覆され、前記被覆層の表面の算術平均粗さRaが、0.3μm〜3.0μmであり、前記被覆層の表面の凹凸平均間隔RSmが、0.3μm〜26.0μmであることを特徴とするメタルハニカム基材。
【請求項2】
前記被覆層が、メタルハニカム基材の容積当りの質量として、100g/L〜300g/Lであることを特徴とする請求項1記載のメタルハニカム基材。
【請求項3】
水溶性有機樹脂バインダーを水に溶解して水溶液を調製する工程と、
前記水溶液に活性アルミナを分散して懸濁液を調製する工程と、
前記懸濁液にコロイダルシリカ分散水溶液を添加して、シリカ/(アルミナ+シリカ)の質量%で3質量%〜10質量%の塗布用懸濁液を調製する工程と、
前記塗布用懸濁液をメタルハニカム基材に塗布して乾燥する工程と、
前記乾燥体を500℃〜700℃の温度で熱処理する工程と、
を含むことを特徴とするメタルハニカム基材の製造方法。
【請求項4】
前記塗布用懸濁液中の水溶性有機樹脂バインダーの含有量が、1.3質量%〜3.1質量%であることを特徴とする請求項3記載のメタルハニカム基材の製造方法。
【請求項5】
前記塗布用懸濁液中の活性アルミナとコロイダルシリカの含有量が28質量%〜38質量%であることを特徴とする請求項3記載のメタルハニカム基材の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のメタルハニカム基材に、排気ガス浄化触媒の触媒層を有することを特徴とするメタルハニカム触媒コンバータ。
【請求項7】
前記排気ガス浄化触媒が、三元触媒又は窒素酸化物除去触媒であることを特徴とする請求項6記載のメタルハニカム触媒コンバータ。
【請求項8】
前記三元触媒が、貴金属触媒を担持したSr−Fe−O系酸化物触媒であることを特徴とする請求項7記載のメタルハニカム触媒コンバータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−297691(P2009−297691A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158254(P2008−158254)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】