説明

モータとそれを用いた電子機器

【課題】磁気特性劣化を低減し、駆動効率を向上するモータおよびそれを用いた電子機器を提供する。
【解決手段】周方向に、複数の磁極3aを第一の所定間隔で配置したステータ3と、このステータ3の対向する位置に、回転自在に配置したロータ4と、前記ロータ4の表面周方向に、第二の所定間隔ごとに配置された磁石5とを備え、前記ステータ3は板状体を積層して形成し、この積層体の、少なくとも最外層を含む積層された複数の板状体を、前記磁石5と実質的に平行方向に曲げて延長部3bを形成し、この延長部3bを含む磁石にもっとも近接している磁極先端部の磁石対向面積をS、磁極の断面積をaとしたとき、面積比率(S/a)が4.8>(S/a)の関係を満たしているモータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータとそれを用いた電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器、例えばレーザープリンターでは、本体ケース内に設けた紙送り用ローラ(被駆動体)をモータに連結し、このモータの駆動により、紙送り用ローラを回動し、紙を所定部分に送っている。
【0003】
上記モータは、外周部の周方向に、複数の磁極を第一の所定間隔で配置したステータと、このステータの外周に配置したロータとを備え、前記ロータの内周には、周方向に、第二の所定間隔ごとに、異極に着磁された磁石を配置した構造となっていた。
【0004】
また前記ステータの磁極には、その磁極基部から、前記磁石と略平行方向に伸ばした延長部を形成し、これにより駆動効率を高めている。
【0005】
つまり、磁石の幅(周方向に直交する方向)は、ロータの回転を磁気的に検出する磁気検出素子に出来るだけ近接させるため、ステータの磁極基部の同方向幅(周方向に直交する方向の幅)よりも大きくなっているので、ステータの磁極基部から、前記磁石と略平行方向に伸ばした延長部を形成し、これによりステータの磁極と、磁石との対向面積を大きくし、それにより駆動力、駆動効率を高めようとしているのである(これに類似する技術は、例えば下記特許文献1および2に記載されている。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−285044号公報
【特許文献2】特開2007−244004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のごとく、ステータの磁極の磁極基部から、前記磁石と実質的に平行方向に伸ばした延長部を形成した従来のモータでは、ロータの磁石と、ステータの磁極との対向面積が大きくなるので、一般的には、駆動力が大きく、駆動効率を高めることが出来ると考えられていた。
【0008】
しかしながら、本発明者の検討によれば、延長部を設けただけでは必ずしも駆動効率の向上を図ることは出来なかった。
【0009】
つまり、ステータの磁極の磁極基部から、前記磁石と実質的に平行方向に伸ばした延長部を形成した従来のモータでは、対向する磁石からの磁束量がそれにしたがって増加するが、磁束量が増加することにより磁気飽和が発生しやすくなり、その結果駆動力、駆動効率を高めることが出来なくなることを、本発明者は見出した。
【0010】
そこで、本発明は駆動効率の向上を図ることを目的とするものである
【課題を解決するための手段】
【0011】
周方向に、複数の磁極を第一の所定間隔で配置したステータと、このステータの対向する位置に、回転自在に配置したロータと、前記ロータの表面周方向に、第二の所定間隔ごとに配置された磁石とを備え、前記ステータは板状体を積層して形成し、この積層体の、少なくとも最外層を含む積層された複数の板状体を、前記磁石と実質的に平行方向に曲げて延長部を形成し、この延長部を含む磁石にもっとも近接している磁極先端部の磁石対向面積をS、磁極の断面積をaとしたとき、面積比率(S/a)が4.8>(S/a)の関係を満たしている。
これにより所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ステータの磁極に、その磁極基部から、磁石と実質的に平行方向に伸ばした延長部を設け、なおかつ、この延長部を含む磁石にもっとも近接している磁極先端部の磁石対向面積をS、磁極の断面積をaとしたとき、面積比率(S/a)が4.8>(S/a)の範囲に設定する。上記構成により、その外周方向に位置する磁石との対向面積が増加し、磁極に流入する磁束量が増加するが、一方で、面積比率(S/a)が4.8>(S/a)の範囲であれば磁石からの流入磁束量が過剰に増加することによる磁気飽和を回避でき、結果、鉄損の著しい増加を防ぐため、モータとしての駆動効率が向上するのである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態の電子機器の断面図
【図2】本発明の一実施形態のステータの斜視図
【図3】本発明の一実施形態のステータの正面図
【図4】本発明の磁石対向面積比率と誘起電圧の変化を示す図
【図5】本発明の磁石対向面積比率と損失の変化を示す図
【図6】本発明のモータを用いた電子機器の一例の概略構成を示した図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明の一実施形態を、添付図面を用いて説明する。
【0015】
(実施の形態)
図1において、1は電子機器(例えばレーザープリンター)の配線基板で、本体ケース(図示せず)内において水平方向(または垂直方向)に配置されている。
【0016】
また、この配線基板1上にはモータ2が実装されている。
【0017】
モータ2は、図1、図2のごとく板状体を積層して形成したステータ3と、このステータ3の外周に回転自在に配置した、下面が開放した円筒状のロータ4とを備え、前記ロータ4の内周には、所定間隔を置いて複数の磁石5を円周方向に固定している。
【0018】
これら複数の磁石5は円周方向において、隣接極が異極となるように、N極に着磁された磁石5と、S極に着磁された磁石5が、所定間隔をおいて交互に配置されている。
【0019】
また、ステータ3の外周部には、複数の磁極3aを所定間隔で配置しており、各磁極3aの内方の磁路3e部分には、図1、図2のごとく電磁石用のコイル6が巻回されている。
【0020】
すなわち、コイル6に交流電力を加えることで各磁極3aを交互に、N極とS極に着磁し、その外周に存在する磁石5との間で吸引力と反発力を発生させ、これがロータ4の回転駆動力となるよう構成されているのである。
【0021】
前記ステータ3は、保持部3cを介して配線基板1に固定されており、このステータ3の内周に複数のベアリング7が設けられている。
【0022】
そしてこのベアリング7群部分を上下方向に貫通して駆動軸8が設けられ、この駆動軸8の上端がロータ4の天面4aに固定されている。
【0023】
したがって、上記コイル6に交流電力を加え、各磁極3aを交互に、N極とS極に着磁し、磁石5との間で、吸引力と反発力を発生させれば、ロータ4がこの駆動軸8を中心に回転し、またその回転力は駆動軸8を介して紙送り用ローラに、伝達されるようになっている。
【0024】
具体的には、本実施形態では、駆動軸8の下端は配線基板1の貫通孔1aを貫通して配線基板1下に伸ばされ、この駆動軸8下部に歯車(図示せず)が装着され、この歯車にギアボックス(図示せず)が連結され、それによってレーザープリンターにおける複数の紙送り用ローラ(図示せず)が回動し、これにより紙送りが行われるようになっている。
【0025】
また、配線基板1上の磁石5下端対応部分の表面上(下面側でも良い)には、磁気検出素子としてホールIC9が実装され、周知のごとく、このホールIC9により、ロータ4の回転スピードや回動量(位置)を検出し、回転数制御を行うようになっている。
【0026】
また、磁石5はホールIC9に出来るだけ近づけるため、その下端をホールIC9近傍まで延長した形状としており、さらにこのように磁石5の下端を下方に延長した時のステータ3に対するバランスずれを回避するために、この磁石5の上端も同量上方に延長している。
【0027】
結論として磁石5の上下方向寸法は大きくなっており、それに合せるごとく、本実施形態では、図1〜図3に示すように上記ステータ3の各磁極3aには、その磁極基部3dから、前記磁石5と略平行方向に上、下方向に伸ばした延長部3bを一体に形成している。
【0028】
この延長部3bは具体的には、ステータ3を構成する積層された複数の板状体の内、上、下面(最外層)を含む板状体の外周部分を、前記磁石5と略平行方向にそれぞれ上、下方向に折り曲げ、なおかつ、この延長部を含む磁石にもっとも近接している磁極先端部の磁石対向面積をS、磁極の断面積をaとしたとき、面積比率(S/a)が4.8>(S/a)を満足するように、板状体の折り曲げ高さを調整することによりステータ3を形成したものである。
【0029】
そして、このようにステータ3を構成する積層された複数の板状体の内、上、下面の板状体の外周部分を、前記磁石5と略平行方向にそれぞれ上、下方向に曲げることで延長部3bを形成すると、上記上、下方向に延長された磁石5との対向面積が図1のごとく大きくなり、その結果として磁石5からの磁束流入量が多くなり、ロータ4には大きな駆動力が与えられることになる。その際、この延長部を含む磁石にもっとも近接している磁極先端部の磁石対向面積をS、磁極の断面積をaとしたとき、磁石対向面積比率(S/a)が4.8>(S/a)を満足するように構成すれば、図4のように磁石対向面積増加により誘起電圧が増加する。一方、磁石対向面積比率(S/a)が4.8<(S/a)の範囲ならば、磁石対向面積が増加しても誘起電圧は変化が乏しくなる。これは磁極が磁気飽和することにより増加した磁束が磁極を通りにくくなるためである。そのため、磁石対向面積を増加しても、磁石使用量を増加しても大きな駆動力増加は期待できなくなる。また、磁極が磁気飽和する場合、鉄損が増加し駆動効率は悪化する。
【0030】
上記に述べたように、延長部を含む磁石にもっとも近接している磁極先端部の磁石対向面積をS、磁極の断面積をaとしたとき、面積比率(S/a)が4.8>(S/a)の範囲にすることにより、その外周方向に位置する磁石との対向面積が増加し、磁極に流入する磁束量が増加することが可能であるとともに、面積比率(S/a)が4.8>(S/a)の範囲では磁石からの流入磁束量が過剰に増加することによる磁気飽和を回避することもでき、結果、鉄損の著しい増加を防ぐため、モータとしての駆動効率が向上する。
【0031】
また、上記磁石対向面積比率(S/a)を3.3<(S/a)にすることにより、図5のようにモータ損失を低減することができる。これは磁石対向面積増加による、誘起電圧増加での銅損の低減と、磁石対向面積増加による磁極に流入する磁束の増加での鉄損の増加が相殺し、損失が最適化され、結果、トータルの損失が低減されるためである。これらの結果より、磁石対向面積比率(S/a)が3.3<(S/a)のとき、モータの損失が低減され、駆動効率を向上させることができる。
【0032】
本実施形態では希土類ボンド磁石を、磁石と磁極基部の空隙を0.3mmとして用いたが、希土類ボンド磁石と異なる磁石、本実施形態と異なる空隙距離においては、それぞれのモータにおける磁石の動作点の残留磁束密度の比によって磁石対向面積を変化することにより磁石対向面積比率を決定する。例えば、希土類ボンド磁石より弱い磁石Mを用いる場合、希土類ボンド磁石の動作点の残留磁束密度をxとしたとき、弱い磁石Mの動作点の残留磁束密度が、希土類ボンド磁石の1/2倍である0.5xであるとする。弱い磁石Mの動作点の残留磁束密度が0.5xであるため、磁極に流入する磁束量比は(0.5x)/(x)=0.5となる。このため、弱い磁石Mを用いる場合、磁極が磁気飽和するために必要な磁石対向面積は希土類ボンド磁石を用いた場合の2倍必要となる。このように動作点の残留磁束密度の値を考慮する事により、磁石対向面積比率(S/a)を4.8>(S/a)、もしくは3.3<(S/a)、またはその両方の範囲を満足することにより、モータの駆動効率を最大化することを可能とする。
【0033】
図6は、本発明のモータを用いた電子機器の一例の概略構成を示した図である。図6において、電子機器61は、本体ケースとしての筐体62と、筐体62内に搭載されるモータ67と、モータ67を駆動するための駆動器65と、駆動器65に給電するための電源68と、モータ67を動力源として駆動される機構部等の負荷(被駆動体)69とを含んでいる。ここで、モータ67と駆動器65とでモータ駆動装置63が構成される。モータ67は、電源68から電力供給を受けて駆動器65を介して駆動される。モータ67の駆動軸を介して負荷69に回転トルクが伝達される。モータ67として、本発明のモータ2を用いることができる。
【0034】
電子機器61として、例えばレーザープリンターを例示することができる。この場合、負荷69としては紙送り用ローラが該当する。図1に示した本発明のモータ2は、レーザープリンターの本体ケース内において、水平方向に配置された配線基板11上に、各種の電子部品とともに載置されていても良い。モータ2の、配線基板11を貫通して下側に延びた駆動軸18の下部に歯車(図示せず)を固定し、この歯車と、紙送り用ローラに設けられた歯車とを減速機構としてのギアボックス(図示せず)を介して連結することができる。本発明のモータ2は、高い駆動効率を有しているので、効率良い紙送りが可能なレーザープリンターを実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、駆動効率が向上したモータを提供できるため、例えばレーザープリンターやレーザ複写機などの電子機器に使用されるモータに好適である。但し、本発明のモータはこれらに限定されず、高い駆動効率が要求されるモータとして広範囲に利用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 配線基板
2 モータ
3 ステータ
3a 磁極
3b 延長部
3c 保持部
3d 磁極基部
3e 磁路
4 ロータ
4a ロータの天面
5 磁石
6 コイル
7 ベアリング
8 駆動軸
9 ホールIC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に、複数の磁極を第一の所定間隔で配置したステータと、このステータの対向する位置に、回転自在に配置したロータと、前記ロータの表面周方向に、第二の所定間隔ごとに配置された磁石とを備え、前記ステータは板状体を積層して形成し、この積層体の、少なくとも最外層を含む積層された複数の板状体を、前記磁石と実質的に平行方向に曲げて延長部を形成し、この延長部を含む磁石にもっとも近接している磁極先端部の磁石対向面積をS、磁極基部の断面積をaとしたとき、面積比率(S/a)が4.8>(S/a)を満足することを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記面積比率(S/a)が3.3<(S/a)を満足することを特徴とする請求項1記載のモータ。
【請求項3】
周方向に、複数の磁極を第一の所定間隔で配置したステータと、このステータの対向する位置に、回転自在に配置したロータと、前記ロータの表面周方向に、第二の所定間隔ごとに配置された磁石とを備え、前記ステータは板状体を積層して形成し、この積層体の、少なくとも最外層を含む積層された複数の板状体を、前記磁石と実質的に平行方向に曲げて延長部を形成し、この延長部を含む磁石にもっとも近接している磁極先端部の磁石対向面積をS、磁極基部の断面積をaとしたとき、面積比率(S/a)が3.3<(S/a)を満足することを特徴とするモータ。
【請求項4】
前記磁石に希土類磁石を用いることを特徴とした請求項1から請求項3のいずれかに記載のモータ。
【請求項5】
前記磁石にフェライト磁石を用いることを特徴とした請求項1から請求項3のいずれかに記載のモータ。
【請求項6】
本体ケースと、前記本体ケース内に設けられた被駆動体と、前記被駆動体に連結されたモータとを備えた電子機器であって、前記モータが請求項1から請求項5のいずれかに記載のモータである電子機器。
【請求項7】
前記本体ケース内に配線基板が設けられ、前記配線基板に前記モータが取り付けられており、前記モータの前記磁石に対向するように前記配線基板に磁気検出素子が設けられている請求項6に記載の電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−147302(P2011−147302A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7714(P2010−7714)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】