説明

モータの構造

【課題】 起動死点が回避でき、かつ、回転時の振動および騒音が低い放熱ファン用モータの構造を提供する。
【解決手段】
固定子22と回転子21からなるモータの構造である。回転子21は、極間部分212”をそれぞれ備えた複数の磁気領域212’を有する磁性構造体212からなる。固定子22と磁性構造体212との間には均一で等距離のエアギャップ27が形成される。このような構成から、モータがスムーズに起動し、回転時の振動と騒音が大幅に低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの構造に関し、特に、放熱ファンに用いられ、低振動、低騒音、かつ円滑に起動することのできるモータの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在のモータ技術では、ファンを回転させるために磁気的反発力を利用する。通常モータは回転子と固定子から構成され、回転子ないし固定子のいずれか一方が永久磁石、他方が電磁石からなっている。電磁石のコイルが通電されると、コイル付近に磁界が発生し、この磁界が永久磁石の磁界と反発し合う。回転子を回転させるには、かかる磁気的反発力が十分でなくてはならない。よって、回転子を滑らかに回転させるために採られている最も一般的な手法は、例えば、ケイ素鋼板の数を増やす、もしくはその外径を大きくする、またはケイ素鋼板に巻装されているコイルの巻き数を増やすことにより、モータの出力を高めるというものである。
【0003】
図1Aに示すのは、従来の4極モータの構造を説明する断面図である。このモータでは、回転子12がその静止から起動の間にデッドポイントが生じ、起動不能とならないように、固定子11を構成するケイ素鋼板の磁極面を非対称の円弧ないしR角111に形成する、または固定子11を磁気抵抗がアンバランスとなるような構造に設計した上で、積層後のケイ素鋼片にコイル13を巻装し、一方、回転子12はフレーム121と永久磁石122で構成されるが、この永久磁石122を、図1Bに示すように、N極−S極−N極−S極の順に交互に着磁された対称な環状に形成するという構成が採られている。かかる構成によって、固定子11と回転子12との間にできるエアギャップの大きさを変える、または図1Aに示す如くの不等間隔なエアギャップ14にすることにより、コギングトルクを発生させて回転子をその平衡位置に偏移させ、駆動中に吸引作用により回転不能となったり、または起動死点にあったりすることのないようにして、モータをスムーズに回転させるのである。
【0004】
上述のモータの構造によれば、その起動特性は改善されるが、モータ回転のトルクリップルが増大して、振動と騒音が生じるという欠点がある。また、固定子は複数のケイ素鋼板から構成され、各板は基本的に同じ形状であるが、そのうちの一部は異なる形状とする、または非対称の円弧もしくはR角を作る必要があるため、製造の困難度が増すと共に、コストも高くなり、かつ、モータのトルクリップルを除去するのも容易ではない。さらに、上述のモータの構造では、固定子と回転子との間のエアギャップが比較的大きいので、形成される磁路の磁束損失も大きくなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上述した従来技術の欠点に鑑みて、鋭意研究を重ねた結果、これら諸欠点を解消できるモータの構造を完成するに至った。
【0006】
そこで、本発明の目的は、起動死点が回避でき、かつ、回転時の振動および騒音が低い放熱ファン用モータの構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、複数個の磁極を有する固定子、および、磁性構造体を有し、この磁性構造体と前記複数個の磁極との間に等間隔のエアギャップを形成させて前記固定子に連結する回転子、を備えるモータの構造に関する。
【0008】
前記モータの起動をスムーズにすべく、前記磁性構造体は複数の磁気領域からなり、これら各磁気領域が極間部分をそれぞれ備えていることが好ましい。
【0009】
前記磁性構造体の各磁気領域とその極間部分とが異極となるようそれぞれ着磁されることが好ましい。
【0010】
前記極間部分は、無着磁の部分である、または貫穿された穴であることが好ましい。
【0011】
前記極間部分は、四角形、三角形、円形またはその他の任意の形状であることが好ましい。
【0012】
前記モータの磁極の位相変化を検出するホールセンサをさらに備え、前記極間部分が、前記回転子の該ホールセンサに検出される検出端面とは反対側の端部に配置されることが好ましい。
【0013】
前記固定子は、対称状の磁極を持った形状が同じケイ素鋼板を複数枚積層してなり、該磁極にはコイルが巻装されることが好ましい。
【0014】
前記固定子は、それぞれ複数の磁極を備えるように一体射出成形または打ち抜き加工されたケイ素鋼板からなる上下2つの固定子部材が、相互に嵌合して構成されたものであり、これら上下固定子部材が互いに嵌合することで形成される内部空間にはボビンが収容されることが好ましい。
【0015】
前記回転子は、さらに、前記磁性構造体を内装させるフレームと回転軸を備え、前記磁性構造体は円筒状のマグネットまたはマグネットリングであることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、モータの構造であって、固定子、および、前記モータをスムーズに起動させるべく複数の磁気領域と極間部分が備えられた磁性構造体から構成され、前記固定子に連結する回転子、からなるモータの構造に関する。
【0017】
前記磁性構造体の各磁気領域とその極間部分とが異極となるようそれぞれ着磁されることが好ましい。
【0018】
前記極間部分は、無着磁の部分である、または貫穿された穴であることが好ましい。
【0019】
前記極間部分は、四角形、三角形、円形またはその他の任意の形状であることが好ましい。
【0020】
前記モータの磁極の位相変化を検出するホールセンサをさらに備え、前記極間部分が、前記回転子の該ホールセンサに検出される検出端面とは反対側の端部に配置されることが好ましい。
【0021】
前記固定子は、対称な磁極を持った、同形状のケイ素鋼板を複数枚積層し、該磁極にコイルを巻装してなることが好ましい。
【0022】
前記固定子は、それぞれ複数の磁極を備えるように一体射出成形または打ち抜き加工されたケイ素鋼板からなる上下2つの固定子部材が、相互に嵌合して構成されたものであり、これら上下固定子部材が互いに嵌合することで形成される内部空間にはボビンが収容されることが好ましい。
【0023】
前記固定子と前記磁性構造体との間には、均一で等間隔のエアギャップが形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明が提供するモータの構造によれば、起動死点が回避され得ると共に、低騒音、低振動が実現でき、さらに、製造のコスト削減、時間短縮および困難度の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明に係るモータの構造は、回転子と固定子を備えてなる。回転子は磁性構造体からなり、磁性構造体は、それぞれに極間部分を有する複数の磁気領域から構成されている。また、固定子は、磁性構造体との間に等間隔のエアギャップが形成されるように回転子に連結されている。こうした構成により、モータはより滑らかに起動できることとなる。
【0026】
磁性構造体の各磁気領域とその極間部分とは、互いに異極となるように着磁されているのが好ましい。また、極間部分が無着磁の部分である、あるいは貫穿された穴である構成としてもよい。極間部分の形状は、四角形、三角形、円形またはその他任意の形とすることができる。
【0027】
また、本発明に係るモータの構造は、モータの磁極の位相変化を検出するホールセンサをさらに備えていてもよい。この場合、極間部分は、回転子のホールセンサに検出される検出端面とは反対側の端部に配置されることとなる。より好適には、極間部分が、磁性構造体における、検出される検出端面とは反端側のコーナー部分に位置するように配されるとよい。
【0028】
固定子は、対称な磁極を持った、形状が同一のケイ素鋼板を複数枚積層した上で、この複数の積層された磁極にコイルを巻装して構成される。あるいは、固定子は、上下の固定子部材を、ボビンを両者間にできる内部空間に収容させて嵌合した構成とすることができる。この場合、上下固定子部材は、一体射出成形または打ち抜き加工した、それぞれに複数の磁極を備えるケイ素鋼板からなる。
【0029】
回転子は、フレームと回転軸をさらに備え、磁性構造体をこのフレームに嵌装することとしてもよい。該磁性構造体は、円筒状のマグネットまたはマグネットリングであり得る。
【0030】
以下、本発明がより理解され得るように、実施例を挙げて図面と対応させながら詳細に説明する。
【実施例】
【0031】
図2Aから2Cに示すのは、本発明実施例による放熱ファン用モータの構造を説明する図である。このモータは、回転子21、上下2つの固定子部材221,222からなる固定子22、ボビン23、軸受24および回路板25から構成される。回路板25上には、モータの磁極の位相変化を検知するホールセンサ26が設けられている。回転子21は、フレーム211(例えば、鉄製フレーム)、磁性構造体212および回転軸213からなる。組み立ては、ボビン23とこれに巻装されるコイル231がその内部に収容されるように、上固定子部材221と下固定子部材222を、磁極221a,221bと磁極222a,222bとを介して互いに嵌合してから、軸受24に装着することで行う。
【0032】
本発明に係るモータの構造において、上下固定子部材221,222は、一体射出成形または打ち抜き加工されたケイ素鋼板からなるものとすることができる。図2Cに示すように、上下固定子部材221,222と磁性構造体との間には、均一で等間隔のエアギャップ27が形成される。製造コストを抑えるという観点から、上下固定子部材221,222は、同一の型で作製することとしてもよい。
【0033】
回転子21の磁性構造体212はマグネットリングまたは円筒状のマグネットからなり、それぞれ極間部分212”が形成された複数の磁気領域212’に分かれている。着磁後のマグネットの磁気抵抗は約1であって空気に近いため、こうした構成によれば、モータ回転時の振動と騒音を効果的に軽減することができる。各磁気領域212’とその極間部分212”とは、次の数種の形態をとることができる。各磁気領域212’とその極間部分212”とが互いに異極となるよう着磁された形態、例えば、磁気領域212’がN極に、その極間部分212”がS極になるよう着磁する形態(図3(A))、極間部分212”を無着磁とする形態(図3(B))、あるいは、極間部分212’を貫穿した穴として形成する形態(図3(C))などである。極間部分212”は、磁性構造体212の各磁気領域212’において四角形、三角形または円形に形成され得るが、これらに限定されることはなく、その他任意の形状に形成することが可能である。また、極間部分212”は、回転子22の、ホールセンサ26に検出される検出端面212bとは反対側の端部212a、つまり、磁性構造体212における、検出端面212bとは反対側のコーナー部分にそれぞれ配置され、ホールセンサ26は、磁性構造体212の内側、つまり、極間部分212”が配されていない方の側に設けられる。
【0034】
なお、本発明に係る放熱ファン用モータの構造は、上述した実施例の構成のほか、変形例として、図4に示すように、固定子22を、対称な磁極22a,22b,22c,22dを有した、同形状のケイ素鋼板を複数枚積層した上で、コイル231をこれら磁極22a,22b,22c,22dにそれぞれ巻装した構成とすることもできる。この固定子22は、複数枚のケイ素鋼板を同一の型で対称を呈するよう同形状に作製し、これらを積層してなるものであるため、コストダウン、製造時間の短縮、および製造難度の軽減を図ることができる。また、実施例の構成と同じように、磁極22a,22b,22c,22dと磁性構造体212との間のエアギャップは、等間隔で均一である。
【0035】
一般に、単相ブラシレスモータ動作時の回転トルクTは励磁トルクTexcと、コギングトルクTcogとの和であり、つまり、
T = Texc + Tcog
である。モータの無励磁状態において存在するのはコギングトルクだけであるから、設計にあたり、次のような関係が成り立つ。
(1)Tcog > Tfriであると、モータは、コギングトルクに依存して設計当初の停止位置または起動位置に戻る。但し、Tfriは摩擦トルクである。
(2)Texc > Tcog + Tfriであると、モータはスムーズに起動し、コギングトルクによって磁気抵抗がアンバランスとなる。つまり、
cog = −1/2ψg(dR/dθ) …… (a)
となる。ただし、ψgはマグネットが生じた全磁束を表し、dR/dθは、モータがθ方向に回転運動する際の磁気抵抗変化率を表わす。
【0036】
コギングトルクの式(a)からわかるように、モータがθ方向に回転運動する際の磁気抵抗変化率を低くすれば、モータのコギングトルクを効果的に低減することができるため、モータ回転時の振動と騒音が抑えられる。そうすると、本発明は、回転子のマグネットと固定子とのエアギャップが等間隔で均一となるように設計し、かつ、該マグネットを、極間部分をそれぞれ有する複数の磁気領域からなる磁性構造体としたため、本発明によれば、従来のモータにおける、磁気抵抗が非対称となる構造に起因するコギングトルクの問題を有効に改善することができる。
【0037】
以上、本発明について説明したが、特許請求の範囲を逸脱しない限りにおいて、本発明を任意に変更し、各種修飾を加えることは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1A】図1Aは、従来のモータ構造を示す断面図である。
【図1B】図1Bは図1Aのモータ構造の永久磁石の配置を説明する図である。
【図2A】図2Aは、本発明実施例1による放熱ファン用モータの構造の立体分解図である。
【図2B】図2Bは、図2Aのモータにおける回転子の立体分解図である。
【図2C】図2Cは、図2Aのモータを組み立てた後の断面図である。
【図3】本発明に係るモータ構造の永久磁石の配置を説明する図である。
【図4】本発明変形例による放熱ファンに用いるモータ構造を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0039】
21 回転子
211 フレーム
212 磁性構造体
212’ 磁気領域
212” 極間部分
212a 検出端面と反対側の端部
212b 検出端面
213 回転軸
22 固定子
221,222 固定子部材
221a,221b,221c,221d 磁極
23 ボビン
24 軸受
25 回路板
26 ホールセンサ
27 エアギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の磁極を有する固定子と、
磁性構造体を有し、この磁性構造体と前記複数個の磁極との間に等間隔のエアギャップを形成させて前記固定子に連結する回転子と
を備えるモータの構造。
【請求項2】
前記モータの起動をスムーズにすべく、前記磁性構造体は複数の磁気領域からなり、これら各磁気領域が極間部分をそれぞれ備えている、請求項1記載のモータの構造。
【請求項3】
前記磁性構造体の各磁気領域とその極間部分とが異極となるようそれぞれ着磁されてなる、請求項2記載のモータの構造。
【請求項4】
前記極間部分は、無着磁の部分であるか、または貫穿された穴である、請求項2記載のモータの構造。
【請求項5】
前記極間部分は、四角形、三角形、円形またはその他任意の形状である、請求項2記載のモータの構造。
【請求項6】
前記モータの磁極の位相変化を検出するホールセンサをさらに備え、前記極間部分が、前記回転子の該ホールセンサに検出される検出端面とは反対側の端部に配置される、請求項2記載のモータの構造。
【請求項7】
前記固定子は、対称な磁極を持った、形状が同じケイ素鋼板を複数枚積層し、該磁極にコイルを巻装してなる、請求項1記載のモータの構造。
【請求項8】
前記固定子は、それぞれ複数の磁極を備えるように一体射出成形または打ち抜き加工されたケイ素鋼板からなる上下2つの固定子部材が、相互に嵌合して構成されたものであり、これら上下固定子部材が互いに嵌合することで形成される内部空間にはボビンが収容される、請求項1記載のモータの構造。
【請求項9】
前記回転子は、さらに、前記磁性構造体を内装させるフレームと回転軸とを備え、前記磁性構造体は円筒状のマグネットまたはマグネットリングである、請求項1記載のモータの構造。
【請求項10】
固定子と、
前記モータをスムーズに起動させるべく複数の磁気領域と極間部分が備えられた磁性構造体から構成され、前記固定子に連結する回転子と、
からなるモータの構造。
【請求項11】
前記磁性構造体の各磁気領域とその極間部分とが異極となるようそれぞれ着磁されてなる、請求項10記載のモータの構造。
【請求項12】
前記極間部分は、無着磁の部分であるか、または貫穿された穴である、請求項10記載のモータの構造。
【請求項13】
前記極間部分は、四角形、三角形、円形またはその他の任意の形状である、請求項10記載のモータの構造。
【請求項14】
前記モータの磁極の位相変化を検出するホールセンサをさらに備え、前記極間部分が、前記回転子の該ホールセンサに検出される検出端面とは反対側の端部に配置される、請求項10記載のモータの構造。
【請求項15】
前記固定子は、対称な磁極を持った、形状が同じケイ素鋼板を複数枚積層し、該磁極にコイルを巻装してなる、請求項10記載のモータの構造。
【請求項16】
前記固定子は、それぞれ複数の磁極を備えるように一体射出成形または打ち抜き加工されたケイ素鋼板からなる上下2つの固定子部材が、相互に嵌合して構成されたものであり、これら上下固定子部材が互いに嵌合することで形成される内部空間にはボビンが収容される、請求項10記載のモータの構造。
【請求項17】
前記固定子と前記磁性構造体との間には、均一で等間隔のエアギャップが形成されている、請求項10記載のモータの構造。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−25586(P2006−25586A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296257(P2004−296257)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(596039187)台達電子工業股▲ふん▼有限公司 (192)
【Fターム(参考)】