説明

モータ内蔵自転車用ハブ

【課題】モータ内蔵自転車用ハブにおいて、軸受の外輪をすきま嵌めでロータに装着しても騒音を抑えることができるようにする。
【解決手段】モータ内蔵ハブは、ハブ軸15と、モータと、第1軸受66aと、第2軸受66bと、移動制限部68と、押圧部73と、を備えている。モータは、ロータ21と、ロータ21の外周側に配置されるステータと、を有する。第1軸受66a及び第2軸受66bは、ハブ軸15に装着される第1内輪71a及び第2内輪72aとロータ21に装着される第1外輪71b及び第2外輪72bと両輪の間に配置される第1転動体71c及び第2転動体72cとを有する。移動制限部68は、第1内輪71aの、第2軸受66bから離反する方向の移動を制限する。押圧部73は、第1外輪71bを第2軸受66bに向けて押圧可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車用ハブ、特に、自転車の車輪のハブを構成するモータ内蔵自転車用ハブに関する。
【背景技術】
【0002】
自転車において、人力による駆動力をモータにより補助するアシスト自転車が従来知られている。アシスト自転車には、モータ内蔵自転車用ハブが設けられているものがある。モータ内蔵自転車用ハブにおいて、ロータを左右一対の転がり軸受で支持されたものが従来知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−335536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえば組立て性を考慮して、外輪をすきま嵌めでロータに装着する必要がある場合では、外輪のガタツキによる騒音が発生するおそれがある。
【0005】
本発明の課題は、モータ内蔵自転車用ハブにおいて、軸受の外輪をすきま嵌めでロータに装着しても騒音を抑えることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明1に係るモータ内蔵自転車用ハブは、自転車の車輪のハブを構成するモータ内蔵自転車用ハブである。モータ内蔵自転車用ハブは、ハブ軸と、モータと、第1軸受と、第2軸受と、移動制限部と、押圧部と、を備えている。モータは、ハブ軸回りに回転するロータと、ハブ軸に対して回転不能でありロータの外周側に配置されるステータと、を有する。第1軸受は、第1内輪と第1外輪と第1転動体とを有し、ロータをハブ軸に回転自在に支持するためのものである。第1内輪は、ハブ軸に装着される。第1外輪は、ロータに装着される。第1転動体は、第1内輪及び第1外輪の間に配置される。第2軸受は、第2内輪と第2外輪と第2転動体とを有し、ハブ軸方向に第1軸受とは間隔を隔てて配置され、ロータをハブ軸に回転自在に支持するためのものである。第2内輪は、ハブ軸に装着される。第2外輪は、ロータに装着される。第2転動体は、第2内輪及び第2外輪の間に配置される。移動制限部は、第1内輪の、第2軸受から離反する方向の移動を制限する。押圧部は、第1外輪を第2軸受に向けて押圧可能である。
【0007】
このモータ内蔵自転車用ハブでは、第1外輪は、押圧部により第2軸受に向けて押圧されている。また、第1内輪は、移動制限部により第2軸受から離反する方向の移動が規制されている。これにより、第1外輪をすきま嵌めでロータに装着しても、移動制限部材によって移動が制限される第1内輪に対して、第1外輪だけ第2軸受とは反対側に移動しようとすることを抑制することができる。第1外輪の第2軸受とは反対側への移動を規制することにより第1外輪のガタツキを抑えることができ、軸受の外輪をすきま嵌めでロータに装着しても騒音を抑えることができる。
【0008】
発明2に係るモータ内蔵自転車用ハブは、発明1に係るモータ内蔵自転車用ハブにおいて、押圧部は、第1外輪を付勢する付勢部材を有する。
【0009】
この場合には、弾性体及びばね部材等の付勢部材により第1外輪を押圧できるので、安定して第1外輪を押圧できる。
【0010】
発明3に係るモータ内蔵自転車用ハブは、発明2に係るモータ内蔵自転車用ハブにおいて、付勢部材は、ばね部材である。
【0011】
この場合には、コイルばねや皿ばね等のばね部材は、ゴム等の弾性体に比べて長期間にわたり安定して第1外輪を付勢できる。
【0012】
発明4に係るモータ内蔵自転車用ハブは、発明1から3のいずれかに係るモータ内蔵自転車用ハブにおいて、ロータの回転を減速する減速機構をさらに備える。ロータは、減速機構に連結されている。
【0013】
この場合には、モータの回転が減速機構により減速されるので、車輪の回転トルクを大きくすることができる。
【0014】
発明5に係るモータ内蔵自転車用ハブは、発明4に係るモータ内蔵自転車用ハブにおいて、付勢部材は、第1端が減速機構に当接し、第2端が第1外輪に当接する。
【0015】
この場合には、付勢部材が異なる部材に当接しているため、付勢部材の形状及び配置の自由度が高くなる。また付勢部材を配置するときに、減速機構との間に生じる空間を効率的に利用することができ、付勢部材を配置するために自転車用ハブが大型化することを抑制することができる。
【0016】
発明6に係るモータ内蔵自転車用ハブは、発明5に係るモータ内蔵自転車用ハブにおいて、押圧部は、減速機構に装着された第1位置決め部と、ロータに軸方向移動自在に装着された第2位置決め部と、を有する。第1位置決め部は、付勢部材の第1端側をハブ軸の径方向に位置決めする。第2位置決め部は、付勢部材の第2端側をハブ軸の径方向に位置決めする。
【0017】
この場合には、付勢部材のハブ軸の径方向の位置が位置決めされるので、ロータが回転して付勢部材に遠心力が作用しても、付勢部材が付勢方向以外に移動しにくくなり、付勢力が安定する。
【0018】
発明7に係るモータ内蔵自転車用ハブは、発明5又は6に係るモータ内蔵自転車用ハブにおいて、減速機構は、ロータに一体回転可能に連結された太陽ギアを有する遊星歯車機構である。付勢部材の第1端は、太陽ギアに当接している。
【0019】
この場合には、付勢部材が一体回転する太陽ギアに当接するので、ロータが回転したときに、付勢部材を第1外輪とともに回転させることが可能となり、付勢部材と第1外輪との擦動を抑制することができる
発明8に係るモータ内蔵自転車用ハブは、発明1から7のいずれかに係るモータ内蔵自転車用ハブにおいて、移動制限部は、ハブ軸の外周面から突出して形成され、第1内輪に接触可能な突起を有する。
【0020】
この場合には、ハブ軸に突起を設けるだけの簡素な構成で第1内輪の移動を規制できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、移動制限部側の第1外輪は、押圧部により第2軸受に向けて押圧されている。また、第1内輪は、移動制限部により第2軸受から離反する方向の移動が規制されている。これにより、第1外輪をすきま嵌めでロータに装着しても、移動制限部材によって移動が制限される第1内輪に対して、第1外輪だけ第2軸受とは反対側に移動しようとすることを抑制することができる。第1外輪の第2軸受とは反対側への移動を規制することによって、第1外輪のガタツキを抑えることができ、軸受の外輪をすきま嵌めでロータに装着しても騒音を抑えることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態によるモータ内蔵ハブの斜視図。
【図2】モータ内蔵ハブの断面図。
【図3】ロータ支持部分の断面拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1において、本発明の一実施形態によるモータ内蔵ハブ10は、人力による駆動をモータにより補助するアシスト自転車に用いられる。
【0024】
<モータ内蔵ハブの概略構成>
モータ内蔵ハブ10は、自転車の前輪のハブを構成するものである。モータ内蔵ハブ10は、自転車のフロントフォークの先端の前爪部103aに装着されており、人力による駆動を補助するためのものである。モータ内蔵ハブ10は、図2に示すように、ハブ軸15と、モータ11と、第1軸受66aと、第2軸受66bと、スペーサ67と、移動制限部68と、押圧部73と、を備えている。また、モータ内蔵ハブ10は、モータケース17と、モータケース17内に収納された回転伝達機構25と、をさらに備えている。モータ11は、ハブ軸15回りに回転するロータ21と、ハブ軸15に対して回転不能でありロータ21の外周側に配置されるステータ22と、を有している。第1軸受66aは、ロータ21をハブ軸15に回転自在に支持するための転がり軸受である。第2軸受66bは、ハブ軸方向に第1軸受66aとは間隔を隔てて配置され、ロータ21をハブ軸15に回転自在に支持するための転がり軸受である。移動制限部68は、第1軸受66aの第2軸受66bから離反する方向の移動を制限する。押圧部73は、第1軸受66aの後述する第1外輪71bを第2軸受66bに向けて押圧する。
【0025】
<ハブ軸>
ハブ軸15は、たとえば、焼き入れが行われていない鋼鉄等の鉄系金属製であり、前爪部103aに両端部が回転不能に装着可能である。ハブ軸15の両端外周面には、前爪部103aに固定するためのナット部材50が螺合する左右1対の第1雄ねじ部15a及び第2雄ねじ部15bが形成されている。また、第1雄ねじ部15a及び第2雄ねじ部15bの外周面には、互いに平行な二面を有する第1係止部15c及び第2係止部15dが形成されている。第2係止部15dのハブ軸方向内方には、モータケース17の後述する第1ケース部材32を回転不能に連結するための回転係止部15eが形成されている。第1雄ねじ部15aには、ナット部材50と、第1ロックナット51と、が螺合している。第2雄ねじ部15bには、ナット部材50と、第1ケース部材32をハブ軸15に固定する第2ロックナット52と、が螺合している。ナット部材50の軸方向内方には、第1係止部15c及び第2係止部15dに各別に回転不能に係合し、かつフロントフォークの装着溝に係合してハブ軸15を回り止めするための回り止めワッシャ54がそれぞれ装着されている。
【0026】
また、第1雄ねじ部15aのハブ軸方向内方には、モータケース17の後述する第2ケース部材34の第2端を回転自在に支持する軸受31が螺合する第3雄ねじ部15fが形成されている。ハブ軸15の中間部分は、第1雄ねじ部15a及び第2雄ねじ部15bより大径である。
【0027】
ハブ軸15の第1軸受66aの装着部分には、外周面から突出する突起で構成される移動制限部68が形成されている。移動制限部68は、この実施形態では、ハブ軸15と一体形成された環状突起68aで構成されている。移動制限部68は、第1軸受66aの後述する第1内輪71aに接触して、第1内輪71aの第2軸受66bから離反する方向の移動を規制する。
【0028】
<モータケース>
図2に示すように、モータケース17は、ハブ軸15に回転不能に連結される第1ケース部材32と、第1ケース部材32に第1端(図2右端)が、ハブ軸15に第2端(図2左端)がそれぞれ回転自在に支持される第2ケース部材34と、を有している。第2ケース部材34は、たとえばアルミニウム合金によって形成される。
【0029】
第1ケース部材32は、ハブ軸15に回転不能に装着されるケース本体36と、ケース本体36の外側面に固定されるカバー部材38と、有している。カバー部材38とケース本体36との間には、空間が形成される。ケース本体36及びカバー部材38は、たとえばアルミニウム合金によって形成される。
【0030】
ケース本体36は、ハブ軸15に回転不能に連結される第1ボス部36aと、第1ボス部36aと一体形成される円形の隔壁部36bと、隔壁部36bの外周部から第2ケース部材34に向かって延びる筒状の第1円筒部36cと、を有している。第1ボス部36aの内周面には、ハブ軸15の回転係止部15eに回転不能に連結される非円形の連結孔36dが形成されている。ケース本体36は、第2ロックナット52によりハブ軸15に回転不能に固定される。
【0031】
隔壁部36bの外側面は概ね平坦面である。隔壁部36bの内側面には、モータ11のステータ22の位置を調整するための筒部43dが形成されている。筒部43dの径方向外方の隔壁部36bの内側面には、モータ11のステータ22をボルト部材39により固定するための複数(たとえば3つ)のネジ穴43eが周方向に間隔を隔てて形成されている。隔壁部36bの第1円筒部36cと筒部43dの間には、周方向に間隔を隔てて配置された複数(たとえば3つ)の取付部43fが形成されている。
【0032】
第1円筒部36cの外周面には、第2ケース部材34の第1端を回転自在に支持する、たとえば玉軸受の形態の軸受30の内輪30aが装着されている。第1円筒部36cの先端部外周面には、第1円筒部36cに回転不能に連結される筒状のギア取付部35が同芯に位置決めして嵌合している。ギア取付部35は、第1円筒部36cの外周面に嵌合する一端(図2右端)が円筒部分35aと、円筒部分35aの内周面に一体形成される環状の取付部分35bと、を有している。円筒部分35aの他端(図2左端)の内周面には、後述する内歯ギア48bが回転不能に連結されるセレーション部35cを有している。ギア取付部35は、3つの取付部43fにボルト部材45により固定されている。
【0033】
カバー部材38は、図1に示すように、外側面に凹部32a及び膨出部32bを有している。凹部32aは、様々な形状のフロントフォークを挿入可能にするために、通常のフロントフォークの先端の形状より僅かに幅広に形成されている。
【0034】
図2に示すように、第2ケース部材34は、通常の自転車用ハブのハブシェルに類似する構造であり、有底筒状部の部材である。第2ケース部材34は、軸受31に支持される第2ボス部34bと、第2ボス部34bと一体形成された円板部34cと、円板部34cの外周部からハブ軸方向内方に筒状に延びる第2円筒部34dと、を有している。
【0035】
第2ボス部34bの内周面には、ハブ軸15との間に軸受31が装着されている。軸受31は、内輪31aがハブ軸15に形成された第3雄ねじ部15fに螺合して軸方向位置を調整可能である。調整後の内輪31aは、第1ロックナット51により回り止めされる。外輪31bは、第2ボス部34bの内周面に装着されている。
【0036】
第2円筒部34dは、第1円筒部36cの外周側に配置されている。第2円筒部34dの第1端側内周面に軸受30の外輪30bが装着されている。第2円筒部34dの外周面には、前輪のリムとモータ内蔵ハブ10とをスポークにより連結するための第1ハブフランジ40a及び第2ハブフランジ40bがハブ軸方向の両端部に間隔を隔て形成されている。
【0037】
<モータ>
モータ11は、前述したように、ロータ21と、ロータ21の外周側にロータ21と対向して配置されるステータ22と、を有している。
【0038】
ロータ21は、ハブ軸15に回転自在に支持されている。ロータ21は、たとえば周方向に複数の磁極を有する磁石21aと、磁石21aを保持する磁石保持部21bとを有している。磁石保持部21bは、ハブ軸方向に間隔を隔てて配置される第1軸受66a及び第2軸受66bによりハブ軸15に回転自在に支持されている。
【0039】
ステータ22は、ロータ21の外周側に配置されている。ステータ22は、ケース本体36の隔壁部36bに固定され、周方向に間隔を隔てて配置される複数(たとえば6つ)のコイル部46を有している。また、ステータ22は、コイル部46を固定するための取付部49を有している。取付部49は、ヨークとして機能する。取付部49は、金属製の筒状部材であり、一端外周面に3つの固定用の凸部49aを有している。取付部49は、芯出し筒部43dの外周面に装着され、内周面が芯出し筒部43dにより芯出される。この実施形態では、凸部49aを貫通してネジ穴43eに螺合する3本のボルト部材39により、取付部49は、隔壁部36bに固定されている。複数のコイル部46は、図示しないモータ制御回路によりスイッチングされた交流により順次励磁され、ロータ21を自転車の進行方向に回転させる。
【0040】
<第1軸受及び第2軸受並びにスペーサ>
第1軸受66aは、図3に示すように、ロータ21の回転軸線方向の第1端の内周面とハブ軸15の外周面との間に配置されている。第1軸受66aは、ハブ軸15に装着される第1内輪71aと、ロータ21に装着される第1外輪71bと、第1内輪71a及び第1外輪71bの間に配置される第1転動体71cとを有している。第1内輪71aは、前述したように移動制限部68に接触して配置されている。第1内輪71aは、ハブ軸15の外周面にしまり嵌めで装着されている。したがって、第1内輪71aは、ハブ軸15の外周面に圧入により移動制限部68に接触して固定されている。また第1内輪71aはスペーサ67、第2内輪72b、第1ボス部36aおよび第2ロックナット52を含む第1内輪押圧構造によって、移動制限部68側に押圧されている。第1外輪71bは、ロータ21の第1端の内周面で磁石保持部21bに凹んで形成された第1軸受収納部21cに第2軸受66b側への移動が制限された状態で、すきま嵌めで装着されている。第1外輪71bの第2軸受66b側の側面は、磁石保持部21bの凹部の段差部分に接触してもよく、磁石保持部21bの凹部の段差部分からわずかに離反していてもよい。
【0041】
第2軸受66bは、ロータ21の磁石保持部21bの回転軸線方向の第2端の内周面とハブ軸15の外周面との間に配置されている。第2軸受66bは、ハブ軸15に装着される第2内輪72aと、ロータ21に装着される第2外輪72bと、第2内輪72a及び第2外輪72bの間に配置される第2転動体72cとを有している。第2内輪72aは、第1内輪71aとスペーサ67を挟んで配置されている。第2内輪72aは、ハブ軸15の外周面にすきま嵌めで装着されている。しかし、第2内輪72aは、スペーサ67とケース本体36の第1ボス部36aとの間に配置されており、ハブ軸方向に移動できない。
【0042】
ハブ軸15において、第1内輪と第2内輪との内径が同一の場合には、第2内輪72aの第2装着部分15hは、第1内輪71aの第1装着部分15gより外径が僅かに小さい。これにより、第2内輪72aをすきま嵌めで装着できる。なお、図3では、わかりやすくするために第1装着部分15gと第2装着部分15hの外径の差を実際より大きく描いている。第1内輪の内径が第2内輪との内径よりもわずかに大きい場合には、第2装着部分15hを第1装着部分15gと等しい外形とすることができる。第2外輪72bは、ロータ21の第2端で磁石保持部21bの内周面に凹んで形成された第2軸受収納部21dにしまり嵌めで装着されている。したがって、第2外輪72bは第2軸受収納部21dに圧入により固定されている。第2外輪72bの第1外輪71a側の側面が、磁石保持部21bの凹部の段差部分に接触し、第2外輪72bは位置決めされる。
【0043】
なお、ハブ軸15において、第2装着部分15hと第2雄ネジ部15bが形成された部分との段差15iは、第2軸受66bの第1軸受66aとは反対側の端面より第1軸受66a側に位置している。また、第1装着部分15gと第2装着部分15hとの境界部分15jは、第2軸受66bの第1軸受66a側の端面より第1軸受66a側に位置している。
【0044】
スペーサ67は、第1内輪71aと第2内輪72aとの間に配置された金属製の筒状の部材である。スペーサ67は、ハブ軸15の外径より大きい内径を有している。スペーサ67の第1内輪71aに接触する部分の外径は、第1外輪71bの内径より小さければよく、スペーサ67の第2内輪72aに接触する部分の外径は、第2外輪72bの内径より小さければよい。この実施形態では、スペーサ67の外径は、第1内輪71aおよび第2内輪72aの外径よりも小さい。このスペーサ67により、すきま嵌めでハブ軸15に装着された第2軸受66bの第2内輪72aの軸方向及び回転方向の移動を抑制している。これを実現するために、第2ロックナット52が押圧部材として機能し、第2内輪72aを第1内輪71a側に押圧する。第2ロックナット52は、前述したように、ケース本体36をハブ軸に固定するためのものである。しかし、第2ロックナット52を締め込むと、第2ロックナット52がケース本体36を押圧し、ケース本体36の第1ボス部36aが第2内輪72aを押圧する。第2内輪72aが押圧されてスペーサ67に接触すると、スペーサ67はそれ以上移動できないため、第2内輪72aは、第2ロックナット52により押圧された状態になる。これより、第2内輪72aは、ハブ軸方向及び回転方向の移動が規制される。このため、第1内輪71a及び第2内輪72aがハブ軸15に対して滑りにくくなり、ハブ軸15、第1内輪71a及び第2内輪72aが磨耗しにくくなる。ここではケース本体36が第2内輪72aに接触しているが、ケース本体36と第2内輪72aとの間に環状の部材を設け、この環状の部材を介してケース本体36が第2内輪72aを押圧する構成としてもよい。
【0045】
<回転伝達機構>
回転伝達機構25は、図2に示すように、ロータ21の回転を第2ケース部材34に減速して伝達する。また、回転伝達機構25は、回生制動時には、第2ケース部材34の回転を増速してロータ21に伝達する。回転伝達機構25は、遊星歯車機構48を有している。遊星歯車機構48は、減速機構の一例である。遊星歯車機構48は、太陽ギア48aと、太陽ギア48aの外周側に配置された内歯ギア48bと、太陽ギア48aと内歯ギア48bとに噛み合う複数(たとえば3つ)の遊星ギア48cと、を有している。太陽ギア48aは、ロータ21と連結するための連結部分48eを有している。連結部分48eは、たとえば筒状に形成され、太陽ギア48の歯が形成される部分よりも大きな内径を有する。太陽ギア48aは、連結部分48eに装着されたボルト部材55によりロータ21の磁石保持部21bに一体回転可能に連結されている。内歯ギア48bはケース本体36のギア取付部35に回転不能に連結されている。複数の遊星ギア48cは、キャリア48dによって回転可能に支持されている。各遊星ギア48cは、歯数の異なる2つの第1のギア部56a及び第2のギア部56bを有する。第1のギア部56aは、太陽ギア48aに噛み合い、第2のギア部56bは、内歯ギア48bに噛み合っている。キャリア48dは、第2ケース部材34の円板部34cの内側面に固定されている。この遊星歯車機構48では、ケース本体36に設けられた内歯ギア48bがハブ軸15に回転不能に固定されるため、ロータ21が連結された太陽ギア48aの回転が減速して第2ケース部材34に伝達される。
【0046】
<押圧部>
押圧部73は、図3に示すように、回転軸線方向の第1端が太陽ギア48aに当接し、第2端が第1外輪71bに当接する付勢部材74を有している。また、押圧部73は、付勢部材74の第1端側をハブ軸15の径方向に位置決めする第1位置決め部75と、付勢部材74の第2端側をハブ軸15の径方向に位置決めする第2位置決め部76と、をさらに有している。付勢部材74は、ハブ軸15の外周側に配置され、太陽ギア48aと第1外輪71bとの間に圧縮状態で配置されたばね部材としてのコイルばね74aを有している。このコイルばね74aにより、すきま嵌めされた第1外輪71bのガタツキを抑えることができる。
【0047】
第1位置決め部75は、太陽ギア48aの連結部分48eの内周側に配置される筒状の部材であり、第1鍔部75aと、第1筒部75bとを有する。第1鍔部75aは、半径方向に延び、連結部分48eの内周面に当接して設けられている第1鍔部75aは、連結部分48eの内周面に固定されていてもよい。第1筒部75bは、第1鍔部75の内周部からハブ軸の軸線方向に延び、コイルバネ74aの内周側に配置されてコイルばね74aを径方向に位置決めする。
第2位置決め部76は、第1位置決め部75と同様な形状の鍔付き筒状の部材であり、第2鍔部76aと第2筒部76bとを有する。第2位置決め部76は、ロータ21および連結部材48eの少なくとも一方の内周部に配置される。第2位置決め部76は、磁石保持部21bの第1軸受収納部21cに、ハブ軸方向移動自在に装着されている。第2鍔部76aは、第1外輪71bの端面に当接している。また第2鍔部76aは、第1軸受収容部21cによって半径方向の移動が規制されている。第2鍔部76aは、第1軸受収容部21cに接触して設けられてもよい。第2筒部76bは、第2鍔部76の内周部からハブ軸の軸線方向に延び、コイルバネ74aの内周側に配置されてコイルばね74aを径方向に位置決めする。
第1位置決め部75及び第2位置決め部76により、ロータ21が回転して付勢部材74に遠心力が作用しても、付勢部材74が付勢方向以外に移動しにくくなり、付勢力が安定する。また、コイルばね74aを太陽ギア48aと磁石保持部21bとの間に装着するときに、第1位置決め部75及び第2位置決め部76によってコイルばね74aの脱落を防止できるので、コイルばね74aの装着が容易になる。
【0048】
<ロータの組み込み手順>
ロータ21をハブ軸15に組み込む際には、最初に第1軸受66aをハブ軸15の第1装着部分15gに圧入する。圧入の際には、適宜の治具を用いて第1軸受66aの第1内輪71aが移動制限部68に接触するまで第1内輪71aを押圧する。また、ロータ21の磁石保持部21bの第2軸受収納部21dに第2軸受66bの第2外輪72bを圧入する。この圧入の際にも、適宜の治具を用いて第2軸受の第2外輪72bが第2軸受収納部21dの壁面に接触するまで第2外輪72bを押圧する。第1軸受66aをハブ軸15に装着し、第2軸受66bをロータ21に装着すると、ハブ軸15の外周側にスペーサ67を第1内輪71aに接触するように装着する。この状態で第2軸受66bが装着されたロータ21をハブ軸15に装着する。このとき、第1軸受収納部21cに第1軸受66aの第1外輪71bを嵌合させ、ハブ軸15の外周面に第2軸受66bの第2内輪72aを嵌合させる。
【0049】
次に、太陽ギア48aの筒状連結部分48e及び磁石保持部21bの第1軸受収納部cに第1位置決め部75及び第2位置決め部76を各別に装着する。そして、コイルばね74aを第1位置決め部75の第1筒部75b及び第2位置決め部76の第2筒部76bの外周側に配置して、太陽ギア48aを磁石保持部21bにボルト部材55により固定する。これにより、コイルばね74aが圧縮され、第1外輪71bがコイルばね74aにより第2軸受に向けて押圧される。第1外輪71bの第2軸受66bとは反対側への移動を規制することにより第1外輪66aのガタツキを抑えることができる。このため、第1軸受66aの第1外輪71bをすきま嵌めでロータ21に装着しても騒音を抑えることができる。
【0050】
そして、ステータ22が予め装着されたケース本体36の第1ボス部36aをハブ軸15の回転係止部15eに係合させる。次に、第2ロックナット52を第2雄ネジ部15bにねじ込んで締め付けることにより、第1ボス部36aが第2内輪72aを押圧する。押圧された第2内輪72aがスペーサ67に接触した後、さらに第2ロックナット52を締め込むと、第2内輪72aがスペーサ67と第1ボス部36aとの間で第1ボス部36aを介して押圧される。これにより、第2内輪72aのハブ軸方向及び回転方向の移動が制限される。この結果、ハブ軸15及び第2内輪72aの磨耗を軽減できる。
【0051】
<他の実施形態>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0052】
(a)前記実施形態では、前輪用のモータ内蔵ハブを開示したが、後輪用のモータ内蔵ハブにも本発明を適用できる。
【0053】
(b)前記実施形態では、転がり軸受として玉軸受を図示したが、転がり軸受は玉軸受に限定されない。
【0054】
(c)モータ11の機械的な構成は、上記構成に限定されない。たとえば前記実施形態では、インナーロータのモータであるが、アウターロータのモータであってもよい。
【0055】
(d)前記実施形態では、移動制限部68の突起をハブ軸に一体形成された環状突起としたが、本発明はこれに限定されない。突起は、たとえば、ハブ軸と一体でも別体でもよい。また、突起は、外周面から突出して第1内輪の移動を制限できるものであればよく、たとえば放射状に複数設けられていてもよい。しかし、一体形成された環状突起は、機械加工が容易でありコストを低減できる。
【0056】
(e)前記実施形態では、押圧部73を太陽ギア48aと第1外輪71bとの間に配置したが、本発明はこれに限定されない。たとえば、押圧部73としては、第1軸受収納部21cの内周面に一端が係止され、他端が第1外輪71bに接触する皿ばね又は波板ばね等のばね部材やゴム等の弾性体を配置してもよい。したがって、ばね部材はコイルばねに限定されず前述した皿ばねや波板ばねでもよい。またタケノコばね等も用いることができる。
【0057】
(f)前記実施形態では、押圧部に用いる付勢部材としてばね部材を例示したが、押圧部材は第1外輪71bを第2軸受66bに向けて押圧可能な部材であればどのような形態でもよい。たとえば、第1軸受収納部21cの内周面に雌ネジ部を形成し、雌ネジ部にネジ部材を螺合させて第1外輪71bを押圧してもよい。
【符号の説明】
【0058】
10 モータ内蔵ハブ
11 モータ
15 ハブ軸
21 ロータ
22 ステータ
48 遊星歯車機構
48a 太陽ギア
66a 第1軸受
66b 第2軸受
68 移動制限部
68a 環状突起
71a 第1内輪
71b 第1外輪
71c 第1転動体
72a 第2内輪
72b 第2外輪
72c 第2転動体
73 押圧部
74 付勢部材
74a コイルばね
75 第1位置決め部
76 第2位置決め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車の車輪のハブを構成するモータ内蔵自転車用ハブであって、
ハブ軸と、
前記ハブ軸回りに回転するロータと、前記ハブ軸に対して回転不能であり前記ロータの外周側に配置されるステータと、を有するモータと、
前記ハブ軸に装着される第1内輪と、前記ロータにすきま嵌めで装着される第1外輪と、前記第1内輪及び前記第1外輪の間に配置される第1転動体とを有し、前記ロータを前記ハブ軸に回転自在に支持するための第1軸受と、
前記ハブ軸に装着される第2内輪、前記ロータに装着される第2外輪、前記第2内輪と 前記第2外輪との間に配置される第2転動体を有し、前記ハブ軸方向に前記第1軸受とは間隔を隔てて配置され、前記ロータを前記ハブ軸に回転自在に支持するための第2軸受と、
前記第1内輪の、前記第2軸受から離反する方向の移動を制限する移動制限部と、
前記第1外輪を前記第2軸受に向けて押圧可能な押圧部と、
を備えたモータ内蔵自転車用ハブ。
【請求項2】
前記押圧部は、前記第1外輪を付勢する付勢部材を有する、請求項1に記載のモータ内蔵自転車用ハブ。
【請求項3】
前記付勢部材は、ばね部材である、請求項2に記載のモータ内蔵自転車用ハブ。
【請求項4】
前記ロータの回転を減速する減速機構をさらに備え、
前記ロータは、前記減速機構に連結されている、請求項1から3のいずれか1項に記載のモータ内蔵自転車用ハブ。
【請求項5】
前記付勢部材は、第1端が前記減速機構に当接し、第2端が前記第1外輪に当接する、請求項4に記載のモータ内蔵自転車用ハブ。
【請求項6】
前記押圧部は、
前記減速機構に装着され、前記付勢部材の前記第1端側を前記ハブ軸の径方向に位置決めする第1位置決め部と、
前記ロータに軸方向移動自在に装着され、前記付勢部材の前記第2端側を前記ハブ軸の径方向に位置決めする第2位置決め部と、をさらに有する、請求項5に記載のモータ内蔵自転車用ハブ。
【請求項7】
前記減速機構は、前記ロータに一体回転可能に連結された太陽ギアを有する遊星歯車機構であり、
前記付勢部材の前記第1端は、前記太陽ギアに当接している、請求項5又は6に記載のモータ内蔵自転車用ハブ。
【請求項8】
前記移動制限部は、前記ハブ軸の外周面から突出して形成され、前記第1内輪に接触可能な突起を有する、請求項1から7のいずれか1項に記載のモータ内蔵自転車用ハブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−136081(P2012−136081A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288203(P2010−288203)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】