説明

モータ制御装置及びモータ制御方法

【課題】PMW制御中の三相同期モータに発生するトルクの変動や異音を抑制することが可能な、モータ制御装置及びモータ制御方法を提供する。
【解決手段】三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)をパルス幅変調で制御して三相同期モータ2を制御するモータ制御装置1であって、三相同期モータ2に供給されるQ軸電圧VQ及びD軸電圧VDに基づいて、三相電圧(VU、VV、VW)を算出するDQ‐UVW変換部22と、DQ‐UVW変換部22が算出した三相電圧(VU、VV、VW)を三乗した値を、Q軸電圧VQとD軸電圧VDとの二乗和で除算して、三次高調波を演算し、さらに、演算した三次高調波を三相電圧(VU、VV、VW)に重畳して、三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)を演算する三次高調波重畳部24を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相同期モータ(電動機)を、インバータのPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)で制御するモータ制御装置及びモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三相同期モータをインバータのPMWで制御(以降の説明では、「PMW制御」と記載する場合がある)するモータ制御装置としては、例えば、特許文献1に記載されているものがある。
特許文献1に記載されているモータ制御装置は、三次高調波を近似した波形を生成し、この生成した波形をPWM制御のための三相電圧指令値とするとともに、三相(U相、V相、W相)間の相間電圧を電源電圧とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009‐124799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のモータ制御装置では、相間電圧の波形が正弦波とならないため、PMW制御中の三相同期モータに、トルクの変動や異音が発生するおそれがある。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、PMW制御中の三相同期モータに発生するトルクの変動や異音を抑制することが可能な、モータ制御装置及びモータ制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、三相同期モータに供給されるQ軸電圧及びD軸電圧に基づいて算出した三相電圧を三乗した値を、Q軸電圧とD軸電圧との二乗和で除算して、三次高調波を演算する。そして、演算した三次高調波を三相電圧に重畳して、パルス幅変調で制御する三相電圧指令値を演算する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、三相電圧を三乗した値を、Q軸電圧とD軸電圧との二乗和で除算して、三次高調波を演算する。これに加え、演算した三次高調波を三相電圧に重畳して、三相電圧指令値を演算するため、相間電圧の波形を、正弦波とすることが可能となる。これにより、PMW制御中の三相同期モータに発生するトルクの変動や異音を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第一実施形態のモータ制御装置の概略構成を示す図である。
【図2】コントローラの概略構成を示すブロック図である。
【図3】各相の正弦波に三次高調波を重畳した場合の、三相電圧と相間電圧の波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図1は、本実施形態のモータ制御装置1の概略構成を示す図である。
モータ制御装置1は、三相電圧指令値をパルス幅変調(以降の説明では、「PMW」と記載する場合がある)で制御して、三相同期モータ2を制御(以降の説明では、「PMW制御」と記載する場合がある)する装置である。
また、図1中に示すように、モータ制御装置1は、モータ回転角センサ4と、インバータ6と、電圧センサ8と、コントローラ10を備える。
【0009】
三相同期モータ2は、U相のコイル12Uと、V相のコイル12Vと、W相のコイル12Wを有し、これら三相のコイル(12U、12V、12W)へ適切な電流を流すことで回転するモータである。
なお、本実施形態では、一例として、三相同期モータ2を、電気自動車(EV:hybrid vehicle)や、ハイブリッド自動車(HEV:hybrid electric vehicle)の走行用モータとして用いる場合を説明する。
【0010】
モータ回転角センサ4は、上述した各コイル(12U、12V、12W)と三相同期モータ2が有する図示しないロータ(回転子)との電気角(電気角度)を検出する。そして、モータ回転角センサ4は、検出した電気角を含む情報信号を、コントローラ10へ出力する。
インバータ6は、三相同期モータ2及び電源14と接続する。
また、インバータ6は、U相プラス側スイッチ16UPと、U相マイナス側スイッチ16UMと、V相プラス側スイッチ16VPと、V相マイナス側スイッチ16VMと、W相プラス側スイッチ16WPと、W相マイナス側スイッチ16WMを備える。
【0011】
上述した各スイッチ(16UP、16UW、16VP、16VM、16WP、16WM)は、例えば、パワーMOSFET等のスイッチング素子を用いて形成する。
U相プラス側スイッチ16UPは、U相プラス側アーム18UPと、U相プラス側環流用ダイオード20UPを有する。
U相プラス側アーム18UPは、電源14からU相のコイル12Uへの電力供給経路間に介装する。また、U相プラス側アーム18UPは、コントローラ10が出力する駆動指令信号VUPに応じて作動し、電源14からU相のコイル12Uへの電力供給経路を接続または遮断する。
【0012】
U相プラス側環流用ダイオード20UPは、U相プラス側アーム18UPと並列に接続して、電源14からU相のコイル12Uまでの電力供給経路間に介装する。また、U相プラス側環流用ダイオード20UPが電流の流れを許容する方向は、電源14からU相のコイル12Uへの電力供給方向とは逆方向に向ける。
U相マイナス側スイッチ16UMは、U相マイナス側アーム18UMと、U相マイナス側環流用ダイオード20UMを有する。
【0013】
U相マイナス側アーム18UMは、U相プラス側アーム18UPと直列に接続するとともに、電源14からU相のコイル12Uへの電力供給経路間に介装する。また、U相マイナス側アーム18UMは、コントローラ10が出力する駆動指令信号VUMに応じて作動し、電源14からU相のコイル12Uへの電力供給経路を接続または遮断する。
U相マイナス側環流用ダイオード20UMは、U相マイナス側アーム18UMと並列に接続して、電源14からU相のコイル12Uまでの電力供給経路間に介装する。また、U相マイナス側環流用ダイオード20UMが電流の流れを許容する方向は、U相プラス側環流用ダイオード20UPと同様、電源14からU相のコイル12Uまでの電力供給方向とは逆方向に向ける。
【0014】
V相プラス側スイッチ16VPは、V相プラス側アーム18VPと、V相プラス側環流用ダイオード20VPを有する。
V相プラス側アーム18VPは、電源14からV相のコイル12Vへの電力供給経路間に介装する。また、V相プラス側アーム18VPは、コントローラ10が出力する駆動指令信号VVPに応じて作動し、電源14からV相のコイル12Vへの電力供給経路を接続または遮断する。
【0015】
V相プラス側環流用ダイオード20VPは、V相プラス側アーム18VPと並列に接続して、電源14からV相のコイル12Vへの電力供給経路間に介装する。また、V相プラス側環流用ダイオード20VPが電流の流れを許容する方向は、電源14からV相のコイル12Vまでの電力供給方向とは逆方向に向ける。
V相マイナス側スイッチ16VMは、V相マイナス側アーム18VMと、V相マイナス側環流用ダイオード20VMを有する。
【0016】
V相マイナス側アーム18VMは、V相プラス側アーム18VPと直列に接続するとともに、電源14からV相のコイル12Vへの電力供給経路間に介装する。また、V相マイナス側アーム18VMは、コントローラ10が出力する駆動指令信号VVMに応じて作動し、電源14からV相のコイル12Vへの電力供給経路を接続または遮断する。
V相マイナス側環流用ダイオード20VMは、V相マイナス側アーム18VMと並列に接続して、電源14からV相のコイル12Vへの電力供給経路間に介装する。また、V相マイナス側環流用ダイオード20VMが電流の流れを許容する方向は、V相プラス側環流用ダイオード20VPと同様、電源14からV相のコイル12Vまでの電力供給方向とは逆方向に向ける。
【0017】
W相プラス側スイッチ16WPは、W相プラス側アーム18WPと、W相プラス側環流用ダイオード20WPを有する。
W相プラス側アーム18WPは、電源14からW相のコイル12Wへの電力供給経路間に介装する。また、W相プラス側アーム18WPは、コントローラ10が出力する駆動指令信号VWPに応じて作動し、電源14からW相のコイル12Wへの電力供給経路を接続または遮断する。
【0018】
W相プラス側環流用ダイオード20WPは、W相プラス側アーム18WPと並列に接続して、電源14からW相のコイル12Wへの電力供給経路間に介装する。また、W相プラス側環流用ダイオード20WPが電流の流れを許容する方向は、電源14からW相のコイル12Wまでの電力供給方向とは逆方向に向ける。
W相マイナス側スイッチ16WMは、W相マイナス側アーム18WMと、W相マイナス側環流用ダイオード20WMを有する。
【0019】
W相マイナス側アーム18WMは、W相プラス側アーム18WPと直列に接続するとともに、電源14からW相のコイル12Wへの電力供給経路間に介装する。また、W相マイナス側アーム18WMは、コントローラ10が出力する駆動指令信号VWMに応じて作動し、電源14からW相のコイル12Wへの電力供給経路を接続または遮断する。
W相マイナス側環流用ダイオード20WMは、W相マイナス側アーム18WMと並列に接続して、電源14からW相のコイル12Wへの電力供給経路間に介装する。また、W相マイナス側環流用ダイオード20WMが電流の流れを許容する方向は、W相プラス側環流用ダイオード20WPと同様、電源14からW相のコイル12Wまでの電力供給方向とは逆方向に向ける。
【0020】
電圧センサ8は、電源14の電圧を検出し、この検出した電圧を含む情報信号を、コントローラ10へ出力する。
ここで、電圧センサ8が検出する電圧は、三相同期モータ2が発生させるトルクや、三相同期モータ2の回転数に応じた電圧であり、具体的には、Q軸電圧と、D軸電圧である。
Q軸電圧は、三相同期モータ2が有する磁石が発生する磁束の方向に沿った電圧であり、D軸電圧は、Q軸電圧と直交する方向の電圧である。すなわち、D軸電圧とQ軸電圧は、直交回転座標系における二軸の電圧である。
【0021】
コントローラ10は、モータ回転角センサ4が出力する情報信号と、電圧センサ8が出力する情報信号の入力を受ける。そして、コントローラ10は、入力を受けた情報信号が含む電気角と、D軸電圧及びQ軸電圧に応じて、上述した各駆動指令信号(VUP、VUM、VVP、VVM、VWP、VWM)を生成する。さらに、コントローラ10は、生成した駆動指令信号を、インバータ6へ出力する。これにより、上述した電気角に応じて、三相のコイル(12U、12V、12W)の電圧を、「0」〜「電源14が供給する電圧(供給電圧)」の間で変化させる。
【0022】
以下、図1を参照しつつ、図2を用いて、コントローラ10の詳細な構成を説明する。
図2は、コントローラ10の構成を示すブロック図である。
コントローラ10は、DQ‐UVW変換部22と、三次高調波重畳部24と、PWMデューティ変換部26と、PWM波形生成部28を備える。
【0023】
DQ‐UVW変換部22は、モータ回転角センサ4が出力する情報信号が含む電気角θと、電圧センサ8が出力する情報信号が含むD軸電圧VD及びQ軸電圧VQに基づき、三相電圧(VU、VV、VW)を算出する。
すなわち、DQ‐UVW変換部22は、三相同期モータ2に供給されるQ軸電圧VD及びQ軸電圧VQに基づいて、三相電圧(VU、VV、VW)を算出する。
ここで、三相電圧(VU、VV、VW)を算出する際には、以下の計算式(1)を用いる。
【0024】
【数1】

【0025】
そして、DQ‐UVW変換部22は、算出した三相電圧(VU、VV、VW)を含む情報信号を、三次高調波重畳部24へ出力する。
三次高調波重畳部24は、三相同期モータ2を制御するためにPMW制御で制御する三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)を演算する。なお、三相電圧指令値の演算は、DQ‐UVW変換部22が出力した情報信号が含む三相電圧(VU、VV、VW)と、電圧センサ8が出力する情報信号が含むD軸電圧VD及びQ軸電圧VQに基づいて行う。
ここで、三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)を算出する際には、以下の計算式(2)を用いる。
【0026】
【数2】

【0027】
すなわち、三次高調波重畳部24は、DQ‐UVW変換部22が算出した三相電圧(VU、VV、VW)を三乗した値(VU3、VV3、VW3)を、D軸電圧VDとQ軸電圧VQとの二乗和で除算して、三次高調波を演算する。
これに加え、三次高調波重畳部24は、上記のように演算した三次高調波を、DQ‐UVW変換部22が算出した三相電圧(VU、VV、VW)に重畳して、波形が正弦波である三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)を演算する。なお、三次高調波重畳部24が演算する三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)の波形が正弦波となる理由は、後述する。
【0028】
そして、三次高調波重畳部24は、演算した三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)を含む情報信号を、PWMデューティ変換部26へ出力する。
PWMデューティ変換部26は、三次高調波重畳部24が出力した情報信号が含む三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)に基づき、この三相電圧指令値を実現するためのPWMデューティ比(DU、DV、DW)を演算する。
【0029】
そして、PWMデューティ変換部26は、演算したPWMデューティ比(DU、DV、DW)を含む情報信号を、PWM波形生成部28へ出力する。
PWM波形生成部28は、PWMデューティ変換部26が出力した情報信号が含むPWMデューティ比(DU、DV、DW)に基づき、このPWMデューティ比に応じた矩形波を生成する。
【0030】
そして、PWM波形生成部28は、生成した矩形波に基づき、上述した各駆動指令信号(VUP、VUM、VVP、VVM、VWP、VWM)を生成する。
さらに、PWM波形生成部28は、生成した各駆動指令信号(VUP、VUM、VVP、VVM、VWP、VWM)を含む情報信号を、対応する各スイッチ(16UP、16UW、16VP、16VM、16WP、16WM)へ出力する。
【0031】
(三次高調波重畳部24が演算する三相電圧指令値の波形が正弦波となる理由)
以下、三次高調波重畳部24が演算する三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)の波形が正弦波となる理由を説明する。
まず、上述した計算式(2)中のうち、三乗した三相電圧(VU3、VV3、VW3)を除算する値である、D軸電圧VDとQ軸電圧VQとの二乗和を、以下の計算式(3)を用いて変換する。
【0032】
【数3】

【0033】
さらに、三相電圧(VU、VV、VW)を、それぞれ、以下の式(4)として変換する。
【0034】
【数4】

【0035】
なお、三相電圧(VU、VV、VW)を、それぞれ、上式(4)とする変換は、以下の式(5)から(8)に基づいて行う。
【0036】
【数5】

【0037】
ここで、上式(5)は、D軸電圧VDとQ軸電圧VQを用い、さらに、各相の正弦波に三次高調波を重畳せずに演算した場合の、U相の電圧VUを示す式である。また、上式(5)から(8)中に示すδは、D軸電圧VDとQ軸電圧VQの大きさで決定する角度である。なお、以降の説明では、簡略化のために、角度δに関する記載を省略する。
【0038】
また、上式(6)は、上式(5)中におけるsinの関数を示す式である。
また、三相同期モータ2においては、三相電圧をPWMで制御する場合に、各相(U相、V相、W相)の位相を2π/3radずつ変化させた正弦波を用いて、三相同期モータ2を駆動させる。なお、三相電圧をPWMで制御する場合に、各相の位相を2π/3radずつ変化させた正弦波を用いて、三相同期モータ2を駆動させると、各相の正弦波の振幅は、電源14の電圧の1/2となる。
【0039】
このため、上式(4)中に示すV相の電圧VVにおけるsinの関数βは、上式(6)中に示すαの位相を2π/3rad変化させた値となる。同様に、上式(4)中に示すW相の電圧VWにおけるsinの関数γは、上式(6)中に示すαの位相を4π/3rad変化させた値となる。
なお、三相電圧(VU、VV、VW)を、それぞれ、上式(4)とする変換は、上式(5)の代わりに、以下の式(9)に基づいて行ってもよい。
【0040】
【数6】

【0041】
ここで、上式(9)は、上式(5)と異なり、D軸電圧VDとQ軸電圧VQを用い、さらに、各相の正弦波に三次高調波を重畳して演算した場合の、U相の電圧VUを示す式である。
次に、上式(3)及び(4)を用いて、以下の式(10)を変換し、三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)を示す式(11)を形成する。
【0042】
【数7】

【0043】
ここで、上式(10)は、三相同期モータ2の電気角をθとし、制御対象である電源14の電圧をVとした場合に、波形が正弦波であるU相の電圧VUを示す式である。なお、特に記載しないが、V相の三相電圧指令値VVCMD及びW相の三相電圧指令値VWCMDに関しても、U相の三相電圧指令値VUCMDと同様に変換して形成する。
【0044】
なお、上式(10)は、各相の正弦波に三次高調波を重畳して、例えば、図3中に示すように、各相間(例えば、U相とV相)の電圧(以下、「相間電圧」と記載する)の振幅を、電源14の電圧の1/2とするとともに、相間電圧の波形を正弦波とする式である。なお、図3は、各相の正弦波に三次高調波を重畳した場合の、三相電圧(図中では、U相電圧)と相間電圧(図中では、U相とV相との間の電圧)の波形を示す図である。
【0045】
ここで、三相電圧をPWMで制御する場合に、各相の位相を2π/3radずつ変化させた正弦波を用いると、各相の正弦波の振幅は電源14の電圧の1/2となるものの、相間電圧の振幅が電源14の電圧の√3/4となる。このため、電源14の電圧を有効に使い切ることが困難となるという問題が発生する。
しかしながら、上式(10)を用いてU相の電圧VUを演算すると、相間電圧の振幅を電源14の電圧の1/2とするとともに、相間電圧の波形を正弦波とすることが可能となる。
さらに、以下の式(12)を用いて、上式(11)中の3次の項を変換し、以下の式(13)を形成する。
【0046】
【数8】

【0047】
ここで、上式(12)は、公知の「3倍角の公式」である。
次に、上式(4)から、以下の式(14)を形成する。
【0048】
【数9】

【0049】
そして、上式(14)を、上式(13)中に代入して、以下の式(15)を形成する。
【0050】
【数10】

【0051】
さらに、上式(3)を用いて上式(15)中のVsqを変換し、以下の式(16)を形成する。
【0052】
【数11】

【0053】
上式(16)に示すように、上式(3)を用いて上式(15)中のVsqを変換すると、上式(2)と等しい三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)が演算されることとなる。
ここで、上式(16)は、上式(10)、すなわち、波形が正弦波であるU相の電圧VUを示す式を変換して形成した式である。
【0054】
したがって、上式(2)は、波形が正弦波であるU相の電圧VUを示す式と等価な式となり、三次高調波重畳部24が演算する三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)の波形は、正弦波となる。これに加え、三次高調波重畳部24が演算する三相電圧指令値の波形は、相間電圧の振幅を電源14の電圧の1/2とすることが可能な正弦波となる。
【0055】
(動作)
次に、図1から図3を参照して、本実施形態のモータ制御装置1が行なう動作の一例について説明する。
ここで、本実施形態では、三相同期モータ2を、電気自動車やハイブリッド自動車の走行用モータとして用いる。すなわち、本実施形態では、三相同期モータ2を備える車両(電気自動車、ハイブリッド自動車)の使用時(走行時等)を、モータ制御装置1の動作時とする。
【0056】
したがって、モータ制御装置1の動作時には、上述したように、モータ回転角センサ4が検出した電気角θと、電圧センサ8が検出したD軸電圧VD及びQ軸電圧VQに基づき、DQ‐UVW変換部22が三相電圧(VU、VV、VW)を算出する。
そして、DQ‐UVW変換部22が算出した三相電圧に基づき、三次高調波重畳部24が、波形が正弦波である三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)を演算する。
【0057】
次に、PWMデューティ変換部26が、三次高調波重畳部24が演算した三相電圧指令値を実現するためのPWMデューティ比(DU、DV、DW)を演算する。さらに、PWM波形生成部28が、PWMデューティ変換部26が演算したPWMデューティ比に基づき、このPWMデューティ比に応じた矩形波を生成する。
【0058】
そして、PWM波形生成部28が、上述した各駆動指令信号(VUP、VUM、VVP、VVM、VWP、VWM)を生成し、これらの生成した各駆動指令信号を含む情報信号を、対応する各スイッチ16へ出力する。
各駆動指令信号を含む情報信号の入力を受けた、各スイッチ(16UP、16UW、16VP、16VM、16WP、16WM)が備えるアーム18は、駆動指令信号に応じて作動し、電源14からコイル12への電力供給経路を接続または遮断する。
【0059】
アーム18の作動により、電源14からコイル12への電力供給経路を接続または遮断すると、三相同期モータ2が回転して車両が走行する。
ここで、上述したように、PWM波形生成部28が各スイッチ16へ出力する駆動指令信号は、波形が正弦波である三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)に基づいて生成した信号である。
【0060】
このため、PWM波形生成部28が各スイッチ16へ出力する駆動指令信号は、相間電圧の振幅を電源14の電圧の1/2とすることが可能となるとともに、相間電圧の波形を正弦波とすることが可能な信号となる。
これにより、PMW制御中の三相同期モータ2に発生するトルクの変動や異音を抑制することが可能となるため、三相同期モータ2を備える車両の走行時において、トルクの変動や異音の発生を抑制することが可能となる。
【0061】
なお、上述したように、本実施形態のモータ制御装置1の動作で実施するモータ制御方法は、三相電圧(VU、VV、VW)を三乗した値を、Q軸電圧VQとD軸電圧VDとの二乗和で除算して、三次高調波を演算する三次高調波演算ステップを有する。これに加え、モータ制御方法は、三次高調波演算ステップで演算した三次高調波を三相電圧(VU、VV、VW)に重畳して、三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)を演算する三相電圧指令値演算ステップを有する。
【0062】
ここで、三相電圧(VU、VV、VW)は、三相同期モータ2に供給されるQ軸電圧VQ及びD軸電圧VDに基づいて算出する。また、三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)は、三相同期モータを制御するためにパルス幅変調で制御する指令値である。
以上により、DQ‐UVW変換部22は、三相電圧算出部に対応する。また、三次高調波重畳部24は、三次高調波演算部及び三相電圧指令値演算部に対応する。
また、三次高調波重畳部24で行う処理は、三次高調波演算ステップ及び三相電圧指令値演算ステップに対応する。
【0063】
(第一実施形態の効果)
(1)DQ‐UVW変換部22が、三相同期モータ2に供給されるQ軸電圧VQ及びD軸電圧VDに基づいて、三相電圧(VU、VV、VW)を算出する。これに加え、三次高調波重畳部24が、DQ‐UVW変換部22が算出した三相電圧(VU、VV、VW)を三乗した値を、Q軸電圧VQとD軸電圧VDとの二乗和で除算して、三次高調波を演算する。さらに、三次高調波重畳部24が、DQ‐UVW変換部22が算出した三相電圧(VU、VV、VW)に三次高調波を重畳して、三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)を演算する。
【0064】
このため、三相同期モータ2の駆動させるための駆動指令信号が、相間電圧の振幅を電源14の電圧の1/2とするとともに、相間電圧の波形を正弦波とすることが可能な信号となる。
その結果、PMW制御中の三相同期モータ2に発生するトルクの変動や異音を抑制することが可能となる。これにより、三相同期モータ2を備える車両の走行時において、トルクの変動や異音の発生を抑制することが可能となる。
また、D軸電圧VDとQ軸電圧VQの大きさで決定する角度δの演算を必要としないため、演算負荷の増加を抑制することが可能となる。
【0065】
(2)DQ‐UVW変換部22が、三相同期モータ2に供給されるQ軸電圧VQ及びD軸電圧VDに加え、モータ回転角センサ4が検出した電気角θに基づいて、三相電圧(VU、VV、VW)を算出する。
このため、電気角θを用いずに、Q軸電圧VQ及びD軸電圧VDに基づいて三相電圧(VU、VV、VW)を算出する場合と比較して、三相同期モータ2の状態を反映した三相電圧(VU、VV、VW)を算出することが可能となる。
その結果、電気角θを用いずに、Q軸電圧VQ及びD軸電圧VDに基づいて三相電圧(VU、VV、VW)を算出する場合と比較して、三相同期モータ2の状態を反映した三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)を演算することが可能となる。
【0066】
(3)本実施形態のモータ制御方法では、三次高調波重畳部24で行う処理で、DQ‐UVW変換部22で算出した三相電圧(VU、VV、VW)を三乗した値を、Q軸電圧VQとD軸電圧VDとの二乗和で除算して、三次高調波を演算する。これに加え、三次高調波重畳部24で行う処理で、DQ‐UVW変換部22が算出した三相電圧(VU、VV、VW)に三次高調波を重畳して、三相電圧指令値(VUCMD、VVCMD、VWCMD)を演算する。
【0067】
このため、三相同期モータ2の駆動させるための駆動指令信号が、相間電圧の振幅を電源14の電圧の1/2とするとともに、相間電圧の波形を正弦波とすることが可能な信号となる。
その結果、PMW制御中の三相同期モータ2に発生するトルクの変動や異音を抑制することが可能となる。これにより、三相同期モータ2を備える車両の走行時において、トルクの変動や異音の発生を抑制することが可能となる。
また、D軸電圧VDとQ軸電圧VQの大きさで決定する角度δの演算を必要としないため、演算負荷の増加を抑制することが可能となる。
【0068】
(変形例)
(1)本実施形態のモータ制御装置1では、三相同期モータ2を、電気自動車やハイブリッド自動車の走行用モータとして用いたが、三相同期モータ2を用いる対象は、車両に限定するものではない。すなわち、三相同期モータ2を、例えば、工作機械を駆動させるためのアクチュエータとして用いてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 モータ制御装置
2 三相同期モータ
4 モータ回転角センサ
6 インバータ
8 電圧センサ
10 コントローラ
12 コイル
14 電源
16 スイッチ
18 アーム
20 ダイオード
22 DQ‐UVW変換部
24 三次高調波重畳部
26 PWMデューティ変換部
28 PWM波形生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相電圧指令値をパルス幅変調で制御して三相同期モータを制御するモータ制御装置であって、
前記三相同期モータに供給されるQ軸電圧及びD軸電圧に基づいて、三相電圧を算出する三相電圧算出部と、
前記三相電圧算出部が算出した前記三相電圧を三乗した値を前記Q軸電圧と前記D軸電圧との二乗和で除算して、三次高調波を演算する三次高調波演算部と、
前記三相電圧算出部が算出した前記三相電圧に前記三次高調波演算部が演算した三次高調波を重畳して、前記三相電圧指令値を演算する三相電圧指令値演算部と、を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
三相電圧指令値をパルス幅変調で制御して三相同期モータを制御するモータ制御方法であって、
前記三相同期モータに供給されるQ軸電圧及びD軸電圧に基づいて算出した三相電圧を三乗した値を前記Q軸電圧と前記D軸電圧との二乗和で除算して、三次高調波を演算する三次高調波演算ステップと、
前記三次高調波演算ステップで演算した三次高調波を前記三相電圧に重畳して、前記三相電圧指令値を演算する三相電圧指令値演算ステップと、を有することを特徴とするモータ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−46520(P2013−46520A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183726(P2011−183726)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】