説明

モータ

【課題】ロータハブにヨークをバランスよく固定しながらディスク載置面の熱変形を防止することのできるディスク駆動モータを提供する。
【解決手段】ディスクDを載置するためのフランジ部72を有するロータハブ7と、フランジ部72の底面に固定されるヨーク8と、このヨーク8により保持される界磁用マグネット9と、を備える。フランジ部72の外周面には環状溝73が形成され、その環状溝73を介して、フランジ部72がディスクDを支持する第1フランジ72aとヨーク8を固定する第2フランジ72bとに区分される。ヨーク8は、円筒状のヨーク本体81と該ヨーク本体の一端より内方に折れ曲がる内フランジ82とを有し、該内フランジ82の外側平面が第2フランジ72bの底面に密着されると共に、ロータハブ7には、第2フランジ72bに連ねてヨーク8の内フランジ82を外周側に嵌める凸条74が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハードディスク、CD、CD−ROM、又はDVDといったディスクを回転させるためのモータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報記録媒体としてのディスクの回転駆動用として、動圧型の流体軸受を備えたスピンドルモータが多用されている。
【0003】
係るモータは、例えばステータを構成するモータベースに円筒状の軸受部材を固着し、その軸受部材とロータ軸との間に潤滑油を充填した構成であり、その利点として荷重負荷能力が大きく、高速性能に優れることなどが挙げられる。
【0004】
その構成例を図6に示して説明すれば、Mbはステータを構成するモータベースで、そのモータベースMbにはステータコアScが固着され、そのステータコアにステータコイルCoが巻回される構成とされる。
【0005】
一方、モータベースMbには円筒状の軸受部材Beが固着され、その軸受部材Beによりロータ軸Rsが回転自在に支持されている。又、ロータ軸Rsにはフランジ部fを有するロータハブRhが固着される。フランジ部fは、ディスクDを載置するためのもので、該フランジ部fの底面側にはロータハブRhに形成される凸条mを塑性変形させることによりヨークYkが固定される。そして、そのヨークYkに、回転力を発生するのに必要な磁束を発生する界磁用マグネットMaが装着されるようになっている。
【0006】
尚、ロータハブRhはアルミニウムをはじめとする軽量軟質金属から形成される一方、ヨークYkは鉄をはじめとする硬質な磁性材料により形成されるところ、ロータハブRhのフランジ部fに対してヨークYkを密着状態で固定してしまうと、モータの駆動によりロータハブのフランジ部fとヨークYkの部分が加熱されたとき、フランジ部fが熱応力により変形し、これに載置されるディスクDが面振れして情報の読み書きが正確に行えなくなる。
【0007】
そこで、従来では図6のように、ヨークYkを固定するための凸条mに隣接してロータハブRhに突起nを形成し、その突起nによりロータハブのフランジ部fとヨークYkとの間に間隙が形成されるようにしている(例えば、特許文献1)。
【0008】
そして、特許文献1によれば、フランジ部f(ディスク載置部)とヨークYkとの間に熱応力が生じても、その熱応力が突起nの弾性変形、およびフランジ部fとヨークYkとの間隙により吸収される結果、フランジ部fの熱変形を防止可能とされる。
【0009】
【特許文献1】特開平10−4665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1では、凸条mをカシメ加工により塑性変形させてロータハブRhにヨークYkを固定するとき、突起nの存在によりヨークYkを支持する受け面が小さくなるので、ヨークYkの固定精度が狂い易い。このため、ロータハブRhの回転バランスが不安定となり、取り分け高速回転時には大きな振動を生じてディスクDに対する情報の読み書きが行えなくなるという問題があった。
【0011】
又、ヨークYkを固定するときの圧力により突起nが押し潰され、フランジ部fとヨークYkとの間に熱応力を吸収するに足る間隙が形成されなくなる可能性もある。
【0012】
本発明は以上のような事情に鑑みて成されたものであり、その目的はロータハブにヨークをバランスよく高精度に固定しながら、ディスク載置面の熱変形を防止することのできるディスク駆動モータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記の目的を達成するため、
ディスクDを載置するためのフランジ部72を有するロータハブ7と、フランジ部72の底面に固定されるヨーク8と、このヨーク8により保持される界磁用マグネット9と、を備えたモータにおいて、
フランジ部72は外周面に環状溝73を有し、該フランジ部72は環状溝73を介して、ディスクDを支持する第1フランジ72aとヨーク8が固定された第2フランジ72bとに区分されていることを特徴とする。
【0014】
加えて、ヨーク8は、円筒状のヨーク本体81と該ヨーク本体の一端より内方に折れ曲がる内フランジ82とを有し、該内フランジ82の外側平面が第2フランジ72bの底面に密着されると共に、
ロータハブ7には、第2フランジ72bに連ねてヨーク8の内フランジ82を外周側に嵌める凸条74が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るモータによれば、ロータハブのフランジ部の外周面に形成される環状溝を介して、そのフランジ部がディスクを支持する第1フランジとヨークを固定する第2フランジとに区分されることから、ロータハブのフランジ部とヨークとの間に熱応力が生じても、その熱応力は環状溝により吸収される。このため、第1フランジが熱変形せず、これにより支持されるディスクを面振れなく良好に回転させることが可能となる。
【0016】
又、ヨークは、円筒状のヨーク本体と該ヨーク本体の一端より内方に折れ曲がる内フランジとを有し、その内フランジの外側平面が第2フランジの底面に密着され、ロータハブには、第2フランジに連ねてヨークの内フランジを外周側に嵌める凸条が形成されることから、ロータハブに対してヨークを高精度に固定することができる。
【0017】
このため、ヨークの固定不良に起因する回転アンバランスを生じることがなく、しかもヨークはロータハブのフランジ部の底面に固定されるので、ヨークの固定後にフランジ部の外周面に環状溝を形成して、ヨーク固定時の圧力によりフランジ部が変形するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明を詳しく説明する。図1は本発明に係るモータ(電動機)を示した縦断面図である。尚、本例において、係るモータは、ハードディスクなどを回転させるディスク駆動用スピンドルモータとして図示せぬディスク駆動装置内に組み込まれる。
【0019】
図1において、1はステータを構成するモータベースである。このモータベース1はアルミニウムなどから形成されるもので、その中央部分には円筒状の筒状部1aが一体に形成される。
【0020】
そして、モータベース1の筒状部1aの外周にはステータコア2が固着され、そのステータコア2にステータコイル3(電機子巻線)が巻回される構成とされる。
【0021】
4はモータベース1の筒状部1a内に嵌め込まれる円筒状の軸受部材であり、この軸受部材4は、筒状部1aとの間に塗工される接着剤によりモータベース1に固着される。特に、軸受部材4は、動圧型の流体軸受を構成するラジアル軸受であり、その一端はシール板5により密封される。
【0022】
又、軸受部材4の内部にはロータ軸6が挿入され、そのロータ軸6が軸受部材4内に充填される潤滑油を介して軸受部材4で回転自在に支持されている。特に、軸受部材4の内周面には、ラジアル荷重を支持するラジアル軸受部4aが形成される。
【0023】
ラジアル軸受部4aは、ロータ軸6の回転時に軸受部材4内の潤滑油の圧力を高めてロータ軸6のラジアル荷重を支持する動圧を発生するもので、これは軸受部材4の内周面にヘリングボーン形などの溝を形成して成る。
【0024】
更に、ロータ軸6の一端外周には、シール板5に対向して鍔部6aが形成される。そして、その鍔部6aと軸受部材4との間、及びロータ軸6の端面とシール板5との間には、それぞれロータ軸6のスラスト荷重を支持するスラスト軸受部4bが形成される。尚、このスラスト軸受部4bも軸受部材4内における潤滑油の圧力を高めるための溝を軸受部材4などに形成して成る。
【0025】
一方、軸受部材4から突出するロータ軸6の先端には、ディスクDを保持するためのロータハブ7が圧入状態で固着される。ロータハブ7は、ロータ軸6に固着されるボス部71とその外周側に広がるフランジ部72とをアルミニウムなどの軽量材料から一体成形したもので、そのフランジ部72の表面上にディスクDが載置され、そのディスクDの中心部分がロータハブ7に装着される図示せぬクランプ部材によりフランジ部72の表面に押し付けられると共に、フランジ部72の底面にはヨーク8が固定される構成としてある。
【0026】
特に、フランジ部72の外周面には、熱応力を吸収するための断面コ字形の環状溝73が形成されており、その環状溝73を介してフランジ部72が軸方向で対向する2つのフランジ(第1フランジ72aおよび第2フランジ72b)に区分されている。そして、一方の第1フランジ72aによりディスクDが支持され、他方の第2フランジ72bの底面に鉄その他の磁性材料から成るヨーク8が固定されるようにしている。
【0027】
ヨーク8は、ロータハブ7と略同じ径を有する円筒状のヨーク本体81と、該ヨーク本体81の一端よりその内方に直角に折れ曲がる内フランジ82とを有する構造体で、ヨーク本体81の内周面にはステータコア2に対向して界磁用マグネット9(永久磁石)が装着される。そして、ステータコイル3に駆動電流を流すことにより発生される回転磁界に対し、界磁用マグネット9の磁束が作用することによりロータハブ7の回転が行われるようになっている。
【0028】
尚、ヨーク8は、内フランジ82の外側平面がロータハブ7の第2フランジ72bの底面に密着する状態に固定されるが、ロータハブ7には、ヨーク8を固定すべく第2フランジ72bに連ねて環状の凸条74が形成される。そして、凸条74の外周側にヨーク8の内フランジ82を嵌め、その状態で凸条74の先端部をカシメ加工により塑性変形させることにより、ヨーク8は内フランジ82の内周面を凸条74の外周面に密着させた状態でロータハブ7に締結される。
【0029】
以上のように構成される本願モータによれば、ステータコイル3への通電より発生する熱がロータハブ7とヨーク8に伝達してその両者7,8間に熱応力が生じても、これが環状溝73により吸収、解放されるため、第1フランジ72aに変形力が伝達されることがない。従って、第1フランジ72aの熱変形を防止して該第1フランジ72aで支持されるディスクDを面振れなく良好に回転させることができる。
【0030】
ここで、図2に示すよう、フランジ部72の厚さをt1、フランジ部72の径方向の幅をL1、環状溝73の口幅をt2、環状溝73の深さをL2として、本例ではt2=2.5mm、L2=2.0mmとされるが、第1フランジ72aの熱変形を防止するには、
t2≧t1/3、L2≧L1/3、に設定することが望ましい。
【0031】
次に、同モータの製造方法を図3、図4に基づいて説明すれば、図3において、Jは断面凹字形のカップ状の治具であり、その治具J上には上記環状溝73が未加工のロータハブ7が凸条74を上向きにして配置される。
【0032】
しかして、治具Jの開口縁によりフランジ部72が支持された状態で、凸条74の外周側にヨーク8の内フランジ82が嵌められ、その状態にして凸条74の先端部がカシメ加工により塑性変形される。これにより、ヨーク8は内フランジ82の外側平面の全面がフランジ部72の底面に密着し、且つ内フランジ82の内周面が凸条74の外周面に密着した状態でロータハブ7に固定される。
【0033】
上記のようにしてヨーク8を固定したロータハブ7は、図4のように工作機械(NC旋盤など)のチャックCにより回転自在に支持された後、これを回転させながら図示せぬ切削工具によりフランジ部72の外周面に環状溝73が形成される。
【0034】
このように、本願モータによれば、ヨーク8はその内フランジ82がロータハブ7におけるフランジ部72の底面と凸条74の外周面とに密着された状態で固定されるので、その固定精度が高く、しかもロータハブ7に対するヨーク8の固定後に環状溝73が形成されることにより、ヨーク8を固定するときの加圧力でフランジ部72が変形(第1フランジ72aと第2フランジ72bが環状溝73を塞ぐように接近)するのを防止することができる。
【0035】
以上、本発明に係るモータの好適な一例を説明したが、環状溝73は断面コ字形であることに限らず、これを図5のようにV字形の形態としてもよい。尚、環状溝73をV字形とした場合でも、その口幅と深さはフランジ部72に対して上記例と同様の関係を有することが望ましい。又、図1および図5に示すモータにおいて、環状溝73の形態が相違するほかは同一の構成とされる。
【0036】
更に、本発明において、軸受部材4は動圧型であることに限らず、これに転がり軸受を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係るモータの構成例を示す縦断面図
【図2】同モータの要部を示す部分拡大断面図
【図3】ロータハブにヨークを固定する状態を示す説明図
【図4】環状溝の形成例を示す説明図
【図5】本発明に係るモータの他の実施形態を示す縦断面図
【図6】従来モータを示す縦断面図
【符号の説明】
【0038】
1 モータベース
2 ステータコア
3 ステータコイル
4 軸受部材
6 ロータ軸
7 ロータハブ
71 ボス部
72 フランジ部
72a 第1フランジ
72b 第2フランジ
73 環状溝
74 凸条
8 ヨーク
81 ヨーク本体
82 内フランジ
9 界磁用マグネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクを載置するためのフランジ部を有するロータハブと、前記フランジ部の底面に固定されるヨークと、このヨークにより保持される界磁用マグネットと、を備えたモータにおいて、
前記フランジ部は外周面に環状溝を有し、該フランジ部は前記環状溝を介して、前記ディスクを支持する第1フランジと前記ヨークが固定された第2フランジとに区分されていることを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記ヨークは、円筒状のヨーク本体と該ヨーク本体の一端より内方に折れ曲がる内フランジとを有し、該内フランジの外側平面が前記第2フランジの底面に密着されると共に、
前記ロータハブには、前記第2フランジに連ねて前記ヨークの内フランジを外周側に嵌める凸条が形成されることを特徴とする請求項1記載のモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−99368(P2008−99368A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275587(P2006−275587)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】