モールドシートの製造方法
【課題】生産性が高いモールドシートの製造方法を提供する。
【解決手段】複数のエンボスパターンが形成された転写面を有する転写シートを準備し、転写シートの転写面上に、シリコーン組成物を含有する未硬化層を形成する。未硬化層が形成された転写シートを巻き取りロール105に巻き取る。未硬化層が巻き取られた巻き取りロール105を熱キュア装置200で熱処理する。このとき、未硬化層が熱硬化してモールドシートが製造される。
【解決手段】複数のエンボスパターンが形成された転写面を有する転写シートを準備し、転写シートの転写面上に、シリコーン組成物を含有する未硬化層を形成する。未硬化層が形成された転写シートを巻き取りロール105に巻き取る。未硬化層が巻き取られた巻き取りロール105を熱キュア装置200で熱処理する。このとき、未硬化層が熱硬化してモールドシートが製造される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールドシートの製造方法に関し、さらに詳しくは、複数のエンボスパターンを有するモールドシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細パターンの転写技術として、ソフトリソグラフィが提案されている。ソフトリソグラフィでは、表面にエンボスパターンを有する樹脂モールド(スタンプともいう)を用いてパターン転写を行う。より具体的には、樹脂モールドのエンボスパターンにインクを塗布する。インクが塗布されたエンボスパターンを基板に接触させてパターン転写を行う。
【0003】
特開2009−292150号公報(特許文献1)は、有機モールドの製造方法が開示される。具体的には、平板状のマスタモールドのパターン面上に樹脂組成物がコーティングされる。次に、活性エネルギ線を樹脂組成物に照射して樹脂組成物を硬化し、有機モールドを形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009―292150号公報
【特許文献2】特開2008−34686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される有機モールドの製造方法は、平板状のマスタモールドを用いたバッチ処理である。そのため、モールドの生産性が低い。
【0006】
本発明の目的は、生産性が高いモールドシートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明によるモールドシートの製造方法は、複数のエンボスパターンが形成された転写面を有する転写シートを準備する工程と、転写面上に、シリコーン組成物を含有する未硬化層を形成する工程と、未硬化層が形成された転写シートをロールに巻き取る工程と、ロールに巻き取られた未硬化層を熱硬化してモールドシートを形成する工程とを備える。
【0008】
本発明によるモールドシートの製造方法では、モールドシートを製造するための型として、転写シートを利用する。そして、転写シート上に未硬化層を連続的に形成する。そのため、バッチ処理による製造と比較して、生産性が向上する。
【0009】
好ましくは、モールドシートを形成する工程では、ロールを熱処理装置内に装入して未硬化層を熱硬化する。
【0010】
付加反応型のシリコーン組成物は、硬化に時間がかかる。そのため、ロールに巻き取る前に未硬化層を熱硬化すれば、生産性が低下する。本発明によるモールドシートの製造方法では、未硬化層が形成された転写シートをロールに巻き取るまでの工程を連続的に行い、その後、未硬化層が巻き取られたロールを熱処理装置で熱処理することにより、生産性が向上する。
【0011】
好ましくは、モールドシートは、基材フィルムと、基材フィルム上に形成され、未硬化層が熱硬化してなるエンボス層とを備える。モールドシートの製造方法はさらに、基材フィルムを未硬化層上に配置する工程を備え、巻き取る工程では、基材フィルム及び未硬化層を転写シートとともにロールに巻き取る。
【0012】
この場合、モールドシートは、シリコーン組成物からなるエンボス層と、基材フィルムとを備えるため、モールドシートを転写シートから取り外しやすい。
【0013】
好ましくは、基材フィルムはさらに、表面に形成される接着層を備える。基材フィルムを未硬化層上に配置する工程では、接着層を未硬化層に接触する。
【0014】
この場合、エンボス層が基材フィルムにより強く結合する。
【0015】
好ましくは、未硬化層を形成する工程では、シリコーン組成物と、溶剤とを含有する塗布液を転写面上に塗布して未硬化層を形成する。
【0016】
この場合、転写シートのエンボスパターンが精度よく未硬化層に転写される。
【0017】
好ましくは、未硬化層は、白金触媒を含有する。転写シートはさらに、転写面に形成された金属薄膜を備える。
【0018】
この場合、転写シートの素材に起因して未硬化層の付加反応が停滞するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態によるモールドシートの断面図である。
【図2】本実施の形態によるモールドシートの製造方法に利用される転写シートの断面図である。
【図3】図2に示す転写シート上に未硬化層を形成する工程の説明図である。
【図4】図3に示す未硬化層上に基材フィルムを貼付する工程の説明図である。
【図5】図4に示す中間シートを巻き取る巻き取りロールの側面図である。
【図6】図5に示す巻き取りロールを熱処理する熱キュア装置の模式図である。
【図7】図4に示す中間シートの製造装置の模式図である。
【図8】図4に示す中間シートの製造工程を示すフロー図である。
【図9】図8の製造工程により製造された中間シートを用いてモールドシートを製造する工程を示すフロー図である。
【図10】図9中のモールドシートを取り外す工程の説明図である。
【図11】中間シートと、金属薄膜が形成された転写シートとの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0021】
[モールドシートの構成]
本実施の形態によるモールドシートは、たとえば、ソフトリソグラフィに用いられる。図1は、モールドシート1の断面図である。図1を参照して、モールドシート1は、シート状又はフィルム状である。モールドシート1は、基材フィルム11と、エンボス層13とを備える。基材フィルム11は、表面に接着層12を備える。
【0022】
基材フィルム11は、可撓性及び耐熱性を有する樹脂からなる。基材フィルム11の樹脂はたとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)や、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、シクロオレフィン樹脂(COP)等である。
【0023】
エンボス層13は、基材フィルム11上に形成される。より具体的には、エンボス層13は、基材フィルム11の接着層12上に形成される。エンボス層13は、表面131を有する。表面131には、エンボスパターンが形成される。エンボスパターンは、複数の凸部131Aを有する。凸部131Aの高さL1は、10nm〜500μmである。高さL1は以下の方法により求められる。任意の20個の凸部131Aの高さを測定し、測定された20個の凸部131Aの高さの平均を、エンボスパターンの高さL1と定義する。
【0024】
エンボス層13は、付加反応型である。より具体的には、エンボス層13は、シリコーン組成物で構成される。シリコーン組成物は、熱により硬化する付加反応型である。付加反応型のシリコーン組成物は周知の組成物である。付加反応型のシリコーン組成物はたとえば、アルケニル基を含有するポリオルガノシロキサンと、ヒドロシリル基を含有するポリオルガノシロキサン(ポリオルガノハイドロジェンシロキサン)と白金触媒とを含有する。ポリオルガノシロキサンはたとえば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である。シリコーン組成物は、上記化合物以外の他の周知の材料を一部含有してもよい。
【0025】
エンボス層13は、有機高分子との親和性が低いため、優れた離型性を有する。そのため、エンボス層13は、モールドとしての使用に適する。エンボス層13はさらに、耐熱性や自己粘着性、柔軟性に優れる。
【0026】
上述のとおり、基材フィルム11の表面には接着層12が形成される。つまり、接着層12は、基材フィルム11の表面とエンボス層13との間に配置される。接着層12の下面は基材フィルム11の表面と接触し、上面はエンボス層13と接触する。接着層12は、エンボス層13の基材フィルム11に対する接着性を向上する。要するに、エンボス層13は、接着層12により、基材フィルム11に強く結合する。
【0027】
接着層12はたとえば、シランカップリング剤である。シランカップリング剤は、加水分解基と有機官能基とを有し、基材フィルム11と、エンボス層13とを強固に結合する。接着層12の厚さL2は、1nm〜1000nmであり、好ましくは、50nm〜500nmである。
【0028】
以上の構成を有するモールドシート1は、種々の分野に利用可能である。たとえば、モールドシート1は、ソフトリソグラフィに利用される。上述のとおり、エンボス層13は優れた離型性を有する。エンボス層13のエンボスパターンにインクを塗布し、エンボスパターンを基板に接触すれば、接触した部分のインクはエンボス層13から容易に離れ、基板に転写される。したがって、モールドシート1は、ソフトリソグラフィでの利用に適する。
【0029】
モールドシート1はさらに、マイクロレンズアレイやプリズムシート、レンチキュラレンズシートといった種々の光学シートを製造するための型としても利用可能である。
【0030】
図1に示す基材フィルム11は、接着層12を備える。しかしながら、基材フィルム11は、表面に接触層12を備えなくてもよい。つまり、本実施の形態によるモールドシート1は接着層12を備えなくてもよい。
【0031】
さらに、モールドシート1は、基材フィルム11を備えなくてもよい。要するに、モールドシート1は、エンボス層13のみからなるフィルムであってもよい。
【0032】
[モールドシート1の製造方法の概要]
本実施の形態によるモールドシート1は、以下の製造方法により製造される。初めに、ロールツーロール法により、未硬化のシリコーン組成物からなる未硬化層が形成された基材フィルム11を製造する。以下、未硬化層と、基材フィルム11とを備えるシートを、「中間シート」という。中間シートは以下の方法で製造される。
【0033】
初めに、図2に示すフィルム状の転写シート15を準備する。転写シート15は、エンボスパターンが形成された転写面151を有する。転写面151のエンボスパターンは、モールドシート1のエンボス層13の表面131に形成されるエンボスパターンに対応する。したがって、転写面151は、複数の凸部151Aを有し、凸部151Aの高さは、凸部131Aと同様に10nm〜500μmである。
【0034】
転写シート15は、要するに、モールドシート1用の「モールド」である。転写シート15は可撓性を有する周知の樹脂で構成される。転写シート15の素材となる樹脂は、たとえば、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、脂環式ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエーテルスルホン酸系樹脂、トリアセチルセルロース系樹脂等の樹脂である。凸部151Aは、紫外線硬化樹脂により形成されてもよい。転写シート15は周知の製造方法により製造される。転写シート15はたとえば、ロール版を用いたロールツーロール法により製造される。
【0035】
上述の転写シート15を準備した後、図3に示すように、転写シート15の転写面151上に未硬化のシリコーン組成物からなる未硬化層300を形成する。未硬化層300を形成した後、図4に示すとおり、未硬化層300上に基材フィルム11を配置する。このとき、基材フィルム11の表面に形成された接着層12を未硬化層300と接触する。以上の工程により、基材フィルム11と未硬化層300とを備える中間シート350を製造する。中間シート350を製造するまでの工程は、ロールツーロール法により実施される。そのため、中間シート350は連続的に製造される。したがって、中間シート350の生産性は高い。
【0036】
続いて、図5に示すとおり、製造された中間シート350を転写シート15とともに、巻き取りロール105に巻き取る。つまり、基材フィルム11及び未硬化層300を転写シート15とともに巻き取りロール105に巻き取る。巻き取られた中間シート350の未硬化層300は硬化していない。しかしながら、未硬化層300は粘性を有する。そのため、未硬化層300は、転写シート15と基材フィルム11とに挟まれたまま、維持される。
【0037】
未硬化層300は硬化していないため、図6に示すように、中間シート350を備える巻き取りロール105を、熱処理装置(熱キュア装置)200に装入し、加熱する。加熱により、中間シート350内の未硬化層300が熱硬化し、エンボス層13が形成される。以上の工程により、モールドシート1が製造される。
【0038】
上述の製造方法では、ロールツーロール法により中間シート350を連続的に製造する。未硬化層300を構成するシリコーン組成物は、熱硬化するが、硬化に時間がかかる。たとえば、雰囲気温度が100℃である場合、未硬化層300が完全に熱硬化してエンボス層13になるのに必要な時間は1時間以上である。雰囲気温度が150℃である場合、熱硬化に必要な時間は15分以上である。
【0039】
ロールツーロール法による連続製造ライン内で、未硬化層を熱硬化すれば、熱硬化に時間がかかる。そのため、生産性が向上しにくい。そこで、本実施の形態によるモールドシート1の製造方法では、連続製造ライン上では、中間シート350までを製造し、オフラインで中間シート350を熱硬化してモールドシート1を製造する。これにより、熱硬化による生産の低下を抑制でき、生産性が向上する。したがって、後のソフトリソグラフィ工程での生産性を格段に高めることができる。以下、モールドシート1の製造方法の詳細を説明する。
【0040】
[モールドシートの製造方法の詳細]
上述のとおり、モールドシートの製造方法は、(1)中間シート350を連続的に製造する工程と、(2)製造された中間シート350を熱処理装置内で加熱してモールドシート1を製造する工程とを備える。
【0041】
[中間シートの製造工程]
図7は、上述の中間シート350を連続的に製造する製造装置100の構成図である。図8は中間シート350の製造工程を示すフロー図である。図7を参照して、製造装置100は、供給ロール101及び104と、塗布装置102と、乾燥装置103と、巻き取りロール105と、一対のニップロール106と、搬送ロール107とを備える。
【0042】
図7及び図8を参照して、初めに、図2に示す転写シート15を準備する(S1)。供給ロール101には、転写シート15が巻かれている。供給ロール101は、転写シート15を巻き取りロール105に送り出す。
【0043】
続いて、図3に示すように、転写シート15上に未硬化層300を形成する(S2)。塗布装置102は、供給ロール101と巻き取りロール105との間に配置される。塗布装置102はたとえば、ダイコータやグラビアコータ、ナイフコータである。塗布装置102は、未硬化のシリコーン組成物からなる塗布液を、転写シート15の転写面151上に塗布して未硬化層300を形成する。
【0044】
続いて、乾燥装置103により、未硬化層300を乾燥する(S3)。乾燥装置103は、塗布装置102と、巻き取りロール105との間に配置される。未硬化層300を形成する塗布液は、シリコーン組成物とともに、周知の溶剤を含有してもよい。溶剤はたとえば、トルエンやキシレン、ベンゼンである。溶剤を含有することにより、塗布液の粘性は低下する。そのため、塗布液は塗布しやすくなる。さらに、転写面151に形成されたエンボスパターンの凹凸に塗布液が充填されやすくなる。その結果、エンボスパターンの転写の精度が向上し、モールドシート1のエンボス層13のエンボスパターンの寸法精度が向上する。ステップS3では、乾燥装置103により、未硬化層300が含有する溶剤を揮発する。
【0045】
続いて、中間シート350を製造する(S4)。供給ロール104には、基材フィルム11が巻かれる。本例では、供給ロール104に巻かれた基材フィルム11の表面には既に、接着層12が形成されている。基材フィルム11の表面に接着層12を形成する方法は以下のとおりである。供給ロール101に巻き取られる前の基材フィルム11上に、ダイコータ等により、接着層12の原料となる塗布液を塗布し、接着層12を形成する。接着層12が形成された後、基材フィルム11は供給ロール101に巻き取られる。
【0046】
供給ロール104は、基材フィルム11を巻き取りロール105方向に送り出す。一対のニップロール106は、乾燥装置103を通過した未硬化層300上に基材フィルム11を貼付する。このとき、基材フィルム11の接着層12が未硬化層300と接触する。以上の工程により、図4に示すとおり、基材フィルム11と、未硬化層300とを備えた中間シート350が製造される。
【0047】
転写シート15上に形成された中間シート350をニップロール106及び搬送ロール107により、巻き取りロール105に搬送する。巻き取りロール105は、図5に示すように、中間シート350を転写シート15とともに巻き取る(S5)。以上の工程により、中間シート350を製造し、巻き取りロール105に巻き取る。
【0048】
[中間シートを利用したモールドシートの製造工程]
図9は、中間シート350からモールドシート1を製造する工程を示すフロー図である。参照して、中間シート350が巻き取られた巻き取りロール105を、製造装置100から取り外す。そして、図6に示すように、中間シート350を備えた巻き取りロール105を、熱処理装置200に装入する。このとき、複数の巻き取りロールを熱処理装置200に装入するのが好ましい。生産性が向上するためである。装入後、熱処理装置200は巻き取りロールを加熱(キュア)する(S6)。好ましい加熱温度は、室温(25℃)〜150℃である。上述のとおり、加熱温度が低ければ、未硬化層300が熱硬化してエンボス層13となるまでに時間がかかる。しかしながら、熱処理装置200は、製造装置100とは別個の製造ラインに配置される。そのため、熱処理装置200で加熱時間が長くても、中間シート350の生産性は低下しない。このように、本実施の形態によるモールドシート1の製造方法では、未硬化層300を熱硬化する工程を、中間シート350の連続製造工程と別個に実施する。そのため、モールドシート1の生産性を向上できる。
【0049】
熱処理装置200での加熱により、未硬化層300は熱硬化してエンボス層13が形成される。以上の工程により、モールドシート1が製造される。
【0050】
モールドシート1を製造後、モールドシート1を備える巻き取りロール105を熱処理装置200から取り出す。巻き取りロール105から、モールドシート1が付着した転写シート15を送り出す。そして、図10に示すように、送り出された転写シート15からモールドシート1を取り外す(S7)。このとき、エンボス層13は、接着層12により基材フィルム11と強固に結合している。そのため、モールドシート1は転写シート15から剥がしやすい。
【0051】
以上のとおり、本実施の形態によるモールドシート1の製造方法では、中間シート350を製造する工程(中間シート製造工程:図8)と、中間シート350を熱硬化してモールドシート1を製造する工程(熱硬化工程:図9)とを、それぞれ別個に実施する。そのため、熱硬化工程は、中間シート製造工程の生産性を低下しない。中間シート製造工程では、ロールツーロール法により、中間シート350を連続的に生産できる。熱硬化工程では、熱硬化に時間がかかるものの、中間シート350を備える複数の巻き取りロール105を一度に(バッチ処理により)熱処理できる。従って、モールドシート1の生産性を向上できる。
【0052】
[第2の実施の形態]
上述の実施の形態では、モールドシート1は、基材フィルム11を備える。しかしながら、上述のとおり、モールドシート1は、基材フィルム11を備えなくてもよい。つまり、モールドシート1は、エンボス層13で構成されてもよい。
【0053】
この場合、図8中のステップS4の工程が省略される。そのため、巻き取りロールに巻き取られるとき、未硬化層300は、転写シート15に挟まれる。
【0054】
このように、モールドシートが基材フィルム11を備えなくても、上述の方法によりモールドシートを製造できる。
【0055】
[第3の実施の形態]
上述の実施の形態によるモールドシート1の製造方法では、転写面151上に未硬化層300が形成される。未硬化層300を構成するシリコーン組成物は、白金触媒を含有する。白金触媒はたとえば、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等である。白金触媒は、シリコーン組成物の付加反応を促進する。しかしながら、転写シート15の素材となる樹脂が、ウレタンや燐、硫黄、アミン等を含有する場合、これらの化合物及び元素が、白金触媒の触媒機能を低下する可能性がある。
【0056】
そこで、図11に示すとおり、転写シート15は、転写面151に金属薄膜16を備えてもよい。金属薄膜16はたとえば、チタンやアルミニウム等の金属や合金、金属酸化物で構成され、蒸着法により、転写面151上に形成される。この場合、図11に示すとおり、未硬化層300は金属薄膜16上に形成され、転写シート15本体と直接接触しない。そのため、仮に、転写シート15が白金触媒の触媒作用を低下する化合物又は元素を含有していても、未硬化層300は、これらの化合物及び元素の影響を受けない。
【0057】
[第4の実施の形態]
上述の実施の形態によるモールドシート1の製造方法では、供給ロール101が転写シート15を送り出し、供給ロール104が基材フィルム11を送り出す。第4の実施の形態では、供給ロール101が基材フィルム11を送り出し、供給ロール104が転写シート15を送り出す。この場合、供給ロール101から送り出された基材フィルム11上に未硬化層300が形成される。
本実施の形態では、図7に示す乾燥装置103が省略されてもよい。本実施の形態による製造方法では、ニップロール106は、未硬化層300上に転写シート15を貼付する。このとき、未硬化層300が転写シート15の転写面151に形成されたエンボスパターンの凹凸と接触する。以上の工程により、中間シート350が製造され、巻き取りロール105に巻き取られる。その後、第1の実施の形態によるモールドシート1の製造方法と同様にして、中間シート350からモールドシート1が製造される。
未硬化層300を形成する塗布液は、溶剤を含有してもよい。この場合、塗布液の粘度が調整により塗布しやすい。
【0058】
[その他の実施の形態]
本実施の形態によるモールドシート1の製造方法では、接着層12が基材フィルム11の表面に形成されている。しかしながら、上述のとおり、基材フィルム11は、接着層12を備えなくてもよい。この場合、未硬化層300は、基材フィルム11の表面に直接貼付される。
【実施例】
【0059】
上述の実施の形態に開示した製造方法により、モールドシートを製造した。初めに、接着層を備える基材フィルムを製造した。具体的には、東洋紡績株式会社製のPETフィルム(商品名A4300、厚さ100μm)を準備した。株式会社康井精機製のマイクログアコータを利用して、準備されたPETフィルム上に、接着層(東レダウコーニング株式会社製 商品名1200OS)を形成した。以上の工程により、基材フィルムを製造した。
【0060】
次に、転写シートを以下の方法で製造した。PETフィルム(東洋紡績株式会社製 商品名A4300 厚さ100μm)上に紫外線硬化樹脂(大日精化工業株式会社製 商品名 EXF−01B)を塗布し、ロール版に押し当てながら紫外線照射を照射した。以上の工程により、紫外線硬化樹脂を硬化して転写シートを製造した。
【0061】
未硬化層13を形成する塗布液を準備した。塗布液は、シリコーン組成物からなり、シリコーン組成物は、PDMSプレポリマであった。PDMSプレポリマは、87重量%のシリコーンエラストマ(商品名Sylgard 184:東レダウコーニング株式会社製)と、8.7重量%の触媒と、ジメチルポリシロキサン(商品名 SH200FRUID20CS)とを含有した。
【0062】
上述の塗布液をナイフコータを用いて転写フィルム上に15m/minの速度で塗布し、未硬化層を形成した。形成された未硬化層上に基材フィルムを貼付し、中間シートを製造した。製造された中間シートを転写シートとともに、巻き取りロールに巻き取った。
【0063】
中間シートを含む巻き取りロールを熱処理装置に装入し、65℃で75時間加熱した。以上の工程によりモールドシートを製造した。本実施例では、15m/minの速度で中間シートを製造できるため、生産性が高かった。
【0064】
[比較例]
モールドシートをロールツーロール法に基づいて製造した。基材フィルムとしてPENフィルム(帝人株式会社製 商品名Q51)を用いた。ダイコータを用いて、PENフィルム上に塗布液を塗布して接着層を形成した。塗布液として、東レダウコーニング株式会社製の商品「1200OS」を用いた。接着層が形成された後、PENフィルムを供給ロールに巻き取った。
【0065】
続いて、供給ロールからPENフィルムを送り出し、マイクログラビアコータを用いて、PENフィルム上に未硬化層を形成した。未硬化層を構成するシリコーン組成物は、上記実施例と同じとした。未硬化層を、100℃に加熱されたロール版に押し当てた。このとき、未硬化層は、ロール版によりエンボスパターンを転写されながら熱硬化してエンボス層を形成した。
【0066】
以上の工程により、ロールツーロール法によりモールドシートが製造された。しかしながら、未硬化層をロール版に接触している間に熱硬化させる必要があるため、未硬化層の搬送速度は0.1m/min以下であった。そのため、生産性が低かった。
【0067】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 モールドシート
11 基材フィルム
12 接着層
13 エンボス層
15 転写フィルム
16 金属薄膜
151 転写面
100 製造装置
200 熱処理装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールドシートの製造方法に関し、さらに詳しくは、複数のエンボスパターンを有するモールドシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細パターンの転写技術として、ソフトリソグラフィが提案されている。ソフトリソグラフィでは、表面にエンボスパターンを有する樹脂モールド(スタンプともいう)を用いてパターン転写を行う。より具体的には、樹脂モールドのエンボスパターンにインクを塗布する。インクが塗布されたエンボスパターンを基板に接触させてパターン転写を行う。
【0003】
特開2009−292150号公報(特許文献1)は、有機モールドの製造方法が開示される。具体的には、平板状のマスタモールドのパターン面上に樹脂組成物がコーティングされる。次に、活性エネルギ線を樹脂組成物に照射して樹脂組成物を硬化し、有機モールドを形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009―292150号公報
【特許文献2】特開2008−34686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示される有機モールドの製造方法は、平板状のマスタモールドを用いたバッチ処理である。そのため、モールドの生産性が低い。
【0006】
本発明の目的は、生産性が高いモールドシートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明によるモールドシートの製造方法は、複数のエンボスパターンが形成された転写面を有する転写シートを準備する工程と、転写面上に、シリコーン組成物を含有する未硬化層を形成する工程と、未硬化層が形成された転写シートをロールに巻き取る工程と、ロールに巻き取られた未硬化層を熱硬化してモールドシートを形成する工程とを備える。
【0008】
本発明によるモールドシートの製造方法では、モールドシートを製造するための型として、転写シートを利用する。そして、転写シート上に未硬化層を連続的に形成する。そのため、バッチ処理による製造と比較して、生産性が向上する。
【0009】
好ましくは、モールドシートを形成する工程では、ロールを熱処理装置内に装入して未硬化層を熱硬化する。
【0010】
付加反応型のシリコーン組成物は、硬化に時間がかかる。そのため、ロールに巻き取る前に未硬化層を熱硬化すれば、生産性が低下する。本発明によるモールドシートの製造方法では、未硬化層が形成された転写シートをロールに巻き取るまでの工程を連続的に行い、その後、未硬化層が巻き取られたロールを熱処理装置で熱処理することにより、生産性が向上する。
【0011】
好ましくは、モールドシートは、基材フィルムと、基材フィルム上に形成され、未硬化層が熱硬化してなるエンボス層とを備える。モールドシートの製造方法はさらに、基材フィルムを未硬化層上に配置する工程を備え、巻き取る工程では、基材フィルム及び未硬化層を転写シートとともにロールに巻き取る。
【0012】
この場合、モールドシートは、シリコーン組成物からなるエンボス層と、基材フィルムとを備えるため、モールドシートを転写シートから取り外しやすい。
【0013】
好ましくは、基材フィルムはさらに、表面に形成される接着層を備える。基材フィルムを未硬化層上に配置する工程では、接着層を未硬化層に接触する。
【0014】
この場合、エンボス層が基材フィルムにより強く結合する。
【0015】
好ましくは、未硬化層を形成する工程では、シリコーン組成物と、溶剤とを含有する塗布液を転写面上に塗布して未硬化層を形成する。
【0016】
この場合、転写シートのエンボスパターンが精度よく未硬化層に転写される。
【0017】
好ましくは、未硬化層は、白金触媒を含有する。転写シートはさらに、転写面に形成された金属薄膜を備える。
【0018】
この場合、転写シートの素材に起因して未硬化層の付加反応が停滞するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態によるモールドシートの断面図である。
【図2】本実施の形態によるモールドシートの製造方法に利用される転写シートの断面図である。
【図3】図2に示す転写シート上に未硬化層を形成する工程の説明図である。
【図4】図3に示す未硬化層上に基材フィルムを貼付する工程の説明図である。
【図5】図4に示す中間シートを巻き取る巻き取りロールの側面図である。
【図6】図5に示す巻き取りロールを熱処理する熱キュア装置の模式図である。
【図7】図4に示す中間シートの製造装置の模式図である。
【図8】図4に示す中間シートの製造工程を示すフロー図である。
【図9】図8の製造工程により製造された中間シートを用いてモールドシートを製造する工程を示すフロー図である。
【図10】図9中のモールドシートを取り外す工程の説明図である。
【図11】中間シートと、金属薄膜が形成された転写シートとの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0021】
[モールドシートの構成]
本実施の形態によるモールドシートは、たとえば、ソフトリソグラフィに用いられる。図1は、モールドシート1の断面図である。図1を参照して、モールドシート1は、シート状又はフィルム状である。モールドシート1は、基材フィルム11と、エンボス層13とを備える。基材フィルム11は、表面に接着層12を備える。
【0022】
基材フィルム11は、可撓性及び耐熱性を有する樹脂からなる。基材フィルム11の樹脂はたとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)や、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、シクロオレフィン樹脂(COP)等である。
【0023】
エンボス層13は、基材フィルム11上に形成される。より具体的には、エンボス層13は、基材フィルム11の接着層12上に形成される。エンボス層13は、表面131を有する。表面131には、エンボスパターンが形成される。エンボスパターンは、複数の凸部131Aを有する。凸部131Aの高さL1は、10nm〜500μmである。高さL1は以下の方法により求められる。任意の20個の凸部131Aの高さを測定し、測定された20個の凸部131Aの高さの平均を、エンボスパターンの高さL1と定義する。
【0024】
エンボス層13は、付加反応型である。より具体的には、エンボス層13は、シリコーン組成物で構成される。シリコーン組成物は、熱により硬化する付加反応型である。付加反応型のシリコーン組成物は周知の組成物である。付加反応型のシリコーン組成物はたとえば、アルケニル基を含有するポリオルガノシロキサンと、ヒドロシリル基を含有するポリオルガノシロキサン(ポリオルガノハイドロジェンシロキサン)と白金触媒とを含有する。ポリオルガノシロキサンはたとえば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である。シリコーン組成物は、上記化合物以外の他の周知の材料を一部含有してもよい。
【0025】
エンボス層13は、有機高分子との親和性が低いため、優れた離型性を有する。そのため、エンボス層13は、モールドとしての使用に適する。エンボス層13はさらに、耐熱性や自己粘着性、柔軟性に優れる。
【0026】
上述のとおり、基材フィルム11の表面には接着層12が形成される。つまり、接着層12は、基材フィルム11の表面とエンボス層13との間に配置される。接着層12の下面は基材フィルム11の表面と接触し、上面はエンボス層13と接触する。接着層12は、エンボス層13の基材フィルム11に対する接着性を向上する。要するに、エンボス層13は、接着層12により、基材フィルム11に強く結合する。
【0027】
接着層12はたとえば、シランカップリング剤である。シランカップリング剤は、加水分解基と有機官能基とを有し、基材フィルム11と、エンボス層13とを強固に結合する。接着層12の厚さL2は、1nm〜1000nmであり、好ましくは、50nm〜500nmである。
【0028】
以上の構成を有するモールドシート1は、種々の分野に利用可能である。たとえば、モールドシート1は、ソフトリソグラフィに利用される。上述のとおり、エンボス層13は優れた離型性を有する。エンボス層13のエンボスパターンにインクを塗布し、エンボスパターンを基板に接触すれば、接触した部分のインクはエンボス層13から容易に離れ、基板に転写される。したがって、モールドシート1は、ソフトリソグラフィでの利用に適する。
【0029】
モールドシート1はさらに、マイクロレンズアレイやプリズムシート、レンチキュラレンズシートといった種々の光学シートを製造するための型としても利用可能である。
【0030】
図1に示す基材フィルム11は、接着層12を備える。しかしながら、基材フィルム11は、表面に接触層12を備えなくてもよい。つまり、本実施の形態によるモールドシート1は接着層12を備えなくてもよい。
【0031】
さらに、モールドシート1は、基材フィルム11を備えなくてもよい。要するに、モールドシート1は、エンボス層13のみからなるフィルムであってもよい。
【0032】
[モールドシート1の製造方法の概要]
本実施の形態によるモールドシート1は、以下の製造方法により製造される。初めに、ロールツーロール法により、未硬化のシリコーン組成物からなる未硬化層が形成された基材フィルム11を製造する。以下、未硬化層と、基材フィルム11とを備えるシートを、「中間シート」という。中間シートは以下の方法で製造される。
【0033】
初めに、図2に示すフィルム状の転写シート15を準備する。転写シート15は、エンボスパターンが形成された転写面151を有する。転写面151のエンボスパターンは、モールドシート1のエンボス層13の表面131に形成されるエンボスパターンに対応する。したがって、転写面151は、複数の凸部151Aを有し、凸部151Aの高さは、凸部131Aと同様に10nm〜500μmである。
【0034】
転写シート15は、要するに、モールドシート1用の「モールド」である。転写シート15は可撓性を有する周知の樹脂で構成される。転写シート15の素材となる樹脂は、たとえば、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、脂環式ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエーテルスルホン酸系樹脂、トリアセチルセルロース系樹脂等の樹脂である。凸部151Aは、紫外線硬化樹脂により形成されてもよい。転写シート15は周知の製造方法により製造される。転写シート15はたとえば、ロール版を用いたロールツーロール法により製造される。
【0035】
上述の転写シート15を準備した後、図3に示すように、転写シート15の転写面151上に未硬化のシリコーン組成物からなる未硬化層300を形成する。未硬化層300を形成した後、図4に示すとおり、未硬化層300上に基材フィルム11を配置する。このとき、基材フィルム11の表面に形成された接着層12を未硬化層300と接触する。以上の工程により、基材フィルム11と未硬化層300とを備える中間シート350を製造する。中間シート350を製造するまでの工程は、ロールツーロール法により実施される。そのため、中間シート350は連続的に製造される。したがって、中間シート350の生産性は高い。
【0036】
続いて、図5に示すとおり、製造された中間シート350を転写シート15とともに、巻き取りロール105に巻き取る。つまり、基材フィルム11及び未硬化層300を転写シート15とともに巻き取りロール105に巻き取る。巻き取られた中間シート350の未硬化層300は硬化していない。しかしながら、未硬化層300は粘性を有する。そのため、未硬化層300は、転写シート15と基材フィルム11とに挟まれたまま、維持される。
【0037】
未硬化層300は硬化していないため、図6に示すように、中間シート350を備える巻き取りロール105を、熱処理装置(熱キュア装置)200に装入し、加熱する。加熱により、中間シート350内の未硬化層300が熱硬化し、エンボス層13が形成される。以上の工程により、モールドシート1が製造される。
【0038】
上述の製造方法では、ロールツーロール法により中間シート350を連続的に製造する。未硬化層300を構成するシリコーン組成物は、熱硬化するが、硬化に時間がかかる。たとえば、雰囲気温度が100℃である場合、未硬化層300が完全に熱硬化してエンボス層13になるのに必要な時間は1時間以上である。雰囲気温度が150℃である場合、熱硬化に必要な時間は15分以上である。
【0039】
ロールツーロール法による連続製造ライン内で、未硬化層を熱硬化すれば、熱硬化に時間がかかる。そのため、生産性が向上しにくい。そこで、本実施の形態によるモールドシート1の製造方法では、連続製造ライン上では、中間シート350までを製造し、オフラインで中間シート350を熱硬化してモールドシート1を製造する。これにより、熱硬化による生産の低下を抑制でき、生産性が向上する。したがって、後のソフトリソグラフィ工程での生産性を格段に高めることができる。以下、モールドシート1の製造方法の詳細を説明する。
【0040】
[モールドシートの製造方法の詳細]
上述のとおり、モールドシートの製造方法は、(1)中間シート350を連続的に製造する工程と、(2)製造された中間シート350を熱処理装置内で加熱してモールドシート1を製造する工程とを備える。
【0041】
[中間シートの製造工程]
図7は、上述の中間シート350を連続的に製造する製造装置100の構成図である。図8は中間シート350の製造工程を示すフロー図である。図7を参照して、製造装置100は、供給ロール101及び104と、塗布装置102と、乾燥装置103と、巻き取りロール105と、一対のニップロール106と、搬送ロール107とを備える。
【0042】
図7及び図8を参照して、初めに、図2に示す転写シート15を準備する(S1)。供給ロール101には、転写シート15が巻かれている。供給ロール101は、転写シート15を巻き取りロール105に送り出す。
【0043】
続いて、図3に示すように、転写シート15上に未硬化層300を形成する(S2)。塗布装置102は、供給ロール101と巻き取りロール105との間に配置される。塗布装置102はたとえば、ダイコータやグラビアコータ、ナイフコータである。塗布装置102は、未硬化のシリコーン組成物からなる塗布液を、転写シート15の転写面151上に塗布して未硬化層300を形成する。
【0044】
続いて、乾燥装置103により、未硬化層300を乾燥する(S3)。乾燥装置103は、塗布装置102と、巻き取りロール105との間に配置される。未硬化層300を形成する塗布液は、シリコーン組成物とともに、周知の溶剤を含有してもよい。溶剤はたとえば、トルエンやキシレン、ベンゼンである。溶剤を含有することにより、塗布液の粘性は低下する。そのため、塗布液は塗布しやすくなる。さらに、転写面151に形成されたエンボスパターンの凹凸に塗布液が充填されやすくなる。その結果、エンボスパターンの転写の精度が向上し、モールドシート1のエンボス層13のエンボスパターンの寸法精度が向上する。ステップS3では、乾燥装置103により、未硬化層300が含有する溶剤を揮発する。
【0045】
続いて、中間シート350を製造する(S4)。供給ロール104には、基材フィルム11が巻かれる。本例では、供給ロール104に巻かれた基材フィルム11の表面には既に、接着層12が形成されている。基材フィルム11の表面に接着層12を形成する方法は以下のとおりである。供給ロール101に巻き取られる前の基材フィルム11上に、ダイコータ等により、接着層12の原料となる塗布液を塗布し、接着層12を形成する。接着層12が形成された後、基材フィルム11は供給ロール101に巻き取られる。
【0046】
供給ロール104は、基材フィルム11を巻き取りロール105方向に送り出す。一対のニップロール106は、乾燥装置103を通過した未硬化層300上に基材フィルム11を貼付する。このとき、基材フィルム11の接着層12が未硬化層300と接触する。以上の工程により、図4に示すとおり、基材フィルム11と、未硬化層300とを備えた中間シート350が製造される。
【0047】
転写シート15上に形成された中間シート350をニップロール106及び搬送ロール107により、巻き取りロール105に搬送する。巻き取りロール105は、図5に示すように、中間シート350を転写シート15とともに巻き取る(S5)。以上の工程により、中間シート350を製造し、巻き取りロール105に巻き取る。
【0048】
[中間シートを利用したモールドシートの製造工程]
図9は、中間シート350からモールドシート1を製造する工程を示すフロー図である。参照して、中間シート350が巻き取られた巻き取りロール105を、製造装置100から取り外す。そして、図6に示すように、中間シート350を備えた巻き取りロール105を、熱処理装置200に装入する。このとき、複数の巻き取りロールを熱処理装置200に装入するのが好ましい。生産性が向上するためである。装入後、熱処理装置200は巻き取りロールを加熱(キュア)する(S6)。好ましい加熱温度は、室温(25℃)〜150℃である。上述のとおり、加熱温度が低ければ、未硬化層300が熱硬化してエンボス層13となるまでに時間がかかる。しかしながら、熱処理装置200は、製造装置100とは別個の製造ラインに配置される。そのため、熱処理装置200で加熱時間が長くても、中間シート350の生産性は低下しない。このように、本実施の形態によるモールドシート1の製造方法では、未硬化層300を熱硬化する工程を、中間シート350の連続製造工程と別個に実施する。そのため、モールドシート1の生産性を向上できる。
【0049】
熱処理装置200での加熱により、未硬化層300は熱硬化してエンボス層13が形成される。以上の工程により、モールドシート1が製造される。
【0050】
モールドシート1を製造後、モールドシート1を備える巻き取りロール105を熱処理装置200から取り出す。巻き取りロール105から、モールドシート1が付着した転写シート15を送り出す。そして、図10に示すように、送り出された転写シート15からモールドシート1を取り外す(S7)。このとき、エンボス層13は、接着層12により基材フィルム11と強固に結合している。そのため、モールドシート1は転写シート15から剥がしやすい。
【0051】
以上のとおり、本実施の形態によるモールドシート1の製造方法では、中間シート350を製造する工程(中間シート製造工程:図8)と、中間シート350を熱硬化してモールドシート1を製造する工程(熱硬化工程:図9)とを、それぞれ別個に実施する。そのため、熱硬化工程は、中間シート製造工程の生産性を低下しない。中間シート製造工程では、ロールツーロール法により、中間シート350を連続的に生産できる。熱硬化工程では、熱硬化に時間がかかるものの、中間シート350を備える複数の巻き取りロール105を一度に(バッチ処理により)熱処理できる。従って、モールドシート1の生産性を向上できる。
【0052】
[第2の実施の形態]
上述の実施の形態では、モールドシート1は、基材フィルム11を備える。しかしながら、上述のとおり、モールドシート1は、基材フィルム11を備えなくてもよい。つまり、モールドシート1は、エンボス層13で構成されてもよい。
【0053】
この場合、図8中のステップS4の工程が省略される。そのため、巻き取りロールに巻き取られるとき、未硬化層300は、転写シート15に挟まれる。
【0054】
このように、モールドシートが基材フィルム11を備えなくても、上述の方法によりモールドシートを製造できる。
【0055】
[第3の実施の形態]
上述の実施の形態によるモールドシート1の製造方法では、転写面151上に未硬化層300が形成される。未硬化層300を構成するシリコーン組成物は、白金触媒を含有する。白金触媒はたとえば、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等である。白金触媒は、シリコーン組成物の付加反応を促進する。しかしながら、転写シート15の素材となる樹脂が、ウレタンや燐、硫黄、アミン等を含有する場合、これらの化合物及び元素が、白金触媒の触媒機能を低下する可能性がある。
【0056】
そこで、図11に示すとおり、転写シート15は、転写面151に金属薄膜16を備えてもよい。金属薄膜16はたとえば、チタンやアルミニウム等の金属や合金、金属酸化物で構成され、蒸着法により、転写面151上に形成される。この場合、図11に示すとおり、未硬化層300は金属薄膜16上に形成され、転写シート15本体と直接接触しない。そのため、仮に、転写シート15が白金触媒の触媒作用を低下する化合物又は元素を含有していても、未硬化層300は、これらの化合物及び元素の影響を受けない。
【0057】
[第4の実施の形態]
上述の実施の形態によるモールドシート1の製造方法では、供給ロール101が転写シート15を送り出し、供給ロール104が基材フィルム11を送り出す。第4の実施の形態では、供給ロール101が基材フィルム11を送り出し、供給ロール104が転写シート15を送り出す。この場合、供給ロール101から送り出された基材フィルム11上に未硬化層300が形成される。
本実施の形態では、図7に示す乾燥装置103が省略されてもよい。本実施の形態による製造方法では、ニップロール106は、未硬化層300上に転写シート15を貼付する。このとき、未硬化層300が転写シート15の転写面151に形成されたエンボスパターンの凹凸と接触する。以上の工程により、中間シート350が製造され、巻き取りロール105に巻き取られる。その後、第1の実施の形態によるモールドシート1の製造方法と同様にして、中間シート350からモールドシート1が製造される。
未硬化層300を形成する塗布液は、溶剤を含有してもよい。この場合、塗布液の粘度が調整により塗布しやすい。
【0058】
[その他の実施の形態]
本実施の形態によるモールドシート1の製造方法では、接着層12が基材フィルム11の表面に形成されている。しかしながら、上述のとおり、基材フィルム11は、接着層12を備えなくてもよい。この場合、未硬化層300は、基材フィルム11の表面に直接貼付される。
【実施例】
【0059】
上述の実施の形態に開示した製造方法により、モールドシートを製造した。初めに、接着層を備える基材フィルムを製造した。具体的には、東洋紡績株式会社製のPETフィルム(商品名A4300、厚さ100μm)を準備した。株式会社康井精機製のマイクログアコータを利用して、準備されたPETフィルム上に、接着層(東レダウコーニング株式会社製 商品名1200OS)を形成した。以上の工程により、基材フィルムを製造した。
【0060】
次に、転写シートを以下の方法で製造した。PETフィルム(東洋紡績株式会社製 商品名A4300 厚さ100μm)上に紫外線硬化樹脂(大日精化工業株式会社製 商品名 EXF−01B)を塗布し、ロール版に押し当てながら紫外線照射を照射した。以上の工程により、紫外線硬化樹脂を硬化して転写シートを製造した。
【0061】
未硬化層13を形成する塗布液を準備した。塗布液は、シリコーン組成物からなり、シリコーン組成物は、PDMSプレポリマであった。PDMSプレポリマは、87重量%のシリコーンエラストマ(商品名Sylgard 184:東レダウコーニング株式会社製)と、8.7重量%の触媒と、ジメチルポリシロキサン(商品名 SH200FRUID20CS)とを含有した。
【0062】
上述の塗布液をナイフコータを用いて転写フィルム上に15m/minの速度で塗布し、未硬化層を形成した。形成された未硬化層上に基材フィルムを貼付し、中間シートを製造した。製造された中間シートを転写シートとともに、巻き取りロールに巻き取った。
【0063】
中間シートを含む巻き取りロールを熱処理装置に装入し、65℃で75時間加熱した。以上の工程によりモールドシートを製造した。本実施例では、15m/minの速度で中間シートを製造できるため、生産性が高かった。
【0064】
[比較例]
モールドシートをロールツーロール法に基づいて製造した。基材フィルムとしてPENフィルム(帝人株式会社製 商品名Q51)を用いた。ダイコータを用いて、PENフィルム上に塗布液を塗布して接着層を形成した。塗布液として、東レダウコーニング株式会社製の商品「1200OS」を用いた。接着層が形成された後、PENフィルムを供給ロールに巻き取った。
【0065】
続いて、供給ロールからPENフィルムを送り出し、マイクログラビアコータを用いて、PENフィルム上に未硬化層を形成した。未硬化層を構成するシリコーン組成物は、上記実施例と同じとした。未硬化層を、100℃に加熱されたロール版に押し当てた。このとき、未硬化層は、ロール版によりエンボスパターンを転写されながら熱硬化してエンボス層を形成した。
【0066】
以上の工程により、ロールツーロール法によりモールドシートが製造された。しかしながら、未硬化層をロール版に接触している間に熱硬化させる必要があるため、未硬化層の搬送速度は0.1m/min以下であった。そのため、生産性が低かった。
【0067】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 モールドシート
11 基材フィルム
12 接着層
13 エンボス層
15 転写フィルム
16 金属薄膜
151 転写面
100 製造装置
200 熱処理装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のエンボスパターンが形成された転写面を有する転写シートを準備する工程と、
前記転写面上に、シリコーン組成物を含有する未硬化層を形成する工程と、
前記未硬化層が形成された転写シートをロールに巻き取る工程と、
前記ロールに巻き取られた前記未硬化層を熱硬化してモールドシートを形成する工程とを備える、モールドシートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のモールドシートの製造方法であって、
前記モールドシートを形成する工程では、前記ロールを熱処理装置に装入して前記未硬化層を熱硬化する、モールドシートの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のモールドシートの製造方法であってさらに、
前記モールドシートを形成した後、前記転写フィルムから前記モールドシートを取り外す工程を備える、モールドシートの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3に記載のモールドシートの製造方法であって、
前記モールドシートは、
基材フィルムと、
前記基材フィルム上に形成され、前記未硬化層が熱硬化してなるエンボス層とを備え、
前記モールドシートの製造方法はさらに、
基材フィルムを前記未硬化層に貼付する工程を備え、
前記巻き取る工程では、前記基材フィルム及び前記未硬化層を前記転写シートとともに前記ロールに巻き取ることを特徴とする、モールドシートの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のモールドシートの製造方法であって、
前記基材フィルムはさらに、表面に形成される接着層を備え、
前記基材フィルムを前記未硬化層上に貼付する工程では、前記接着層を前記未硬化層に接触する、モールドシートの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のモールドシートの製造方法であって、
前記未硬化層を形成する工程では、前記シリコーン組成物と、溶剤とを含有する塗布液を前記転写面上に塗布して前記未硬化層を形成する、モールドシートの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のモールドシートの製造方法であって、
前記未硬化層は、白金触媒を含有し、
前記転写シートはさらに、前記転写面に形成された金属薄膜を備える、モールドシートの製造方法。
【請求項1】
複数のエンボスパターンが形成された転写面を有する転写シートを準備する工程と、
前記転写面上に、シリコーン組成物を含有する未硬化層を形成する工程と、
前記未硬化層が形成された転写シートをロールに巻き取る工程と、
前記ロールに巻き取られた前記未硬化層を熱硬化してモールドシートを形成する工程とを備える、モールドシートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のモールドシートの製造方法であって、
前記モールドシートを形成する工程では、前記ロールを熱処理装置に装入して前記未硬化層を熱硬化する、モールドシートの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のモールドシートの製造方法であってさらに、
前記モールドシートを形成した後、前記転写フィルムから前記モールドシートを取り外す工程を備える、モールドシートの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3に記載のモールドシートの製造方法であって、
前記モールドシートは、
基材フィルムと、
前記基材フィルム上に形成され、前記未硬化層が熱硬化してなるエンボス層とを備え、
前記モールドシートの製造方法はさらに、
基材フィルムを前記未硬化層に貼付する工程を備え、
前記巻き取る工程では、前記基材フィルム及び前記未硬化層を前記転写シートとともに前記ロールに巻き取ることを特徴とする、モールドシートの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のモールドシートの製造方法であって、
前記基材フィルムはさらに、表面に形成される接着層を備え、
前記基材フィルムを前記未硬化層上に貼付する工程では、前記接着層を前記未硬化層に接触する、モールドシートの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のモールドシートの製造方法であって、
前記未硬化層を形成する工程では、前記シリコーン組成物と、溶剤とを含有する塗布液を前記転写面上に塗布して前記未硬化層を形成する、モールドシートの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のモールドシートの製造方法であって、
前記未硬化層は、白金触媒を含有し、
前記転写シートはさらに、前記転写面に形成された金属薄膜を備える、モールドシートの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−20541(P2012−20541A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161749(P2010−161749)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
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