説明

モールド材およびモールド成形体

【課題】熱硬化性樹脂を主体とした成形体を、エネルギー消費、騒音発生を抑えて、減容化、再利用できる技術を提供する。
【解決手段】モールド材を、熱硬化性樹脂と木質系材料由来のリグニン系化合物とを少なくとも含むものとする。これを用いたモールド成形体、たとえばモールドモータは、廃棄時にアルカリ性溶液などでモールド材8を短時間で崩壊あるいは分解し、減容化することが可能である。内部に含まれている固定子鉄芯6や固定子巻線7などの有価物を取り出し、再利用することも可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂を主体としたモールド材およびモールド成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂など、熱硬化反応により三次元架橋させた熱硬化性樹脂は通常、不溶不融の固体となるので、分解処理は困難である。そのため廃棄処理は焼却処理や土中への埋立処理が一般的であり、一部、熱回収等のリサイクルが行われている。
【0003】
繊維強化プラスチック(FRP)、バルクモールディングコンパウンド(BMC)、シートモールドコンパウンド(SMC)など、無機物が添加されている熱硬化性樹脂については、粉砕してフィラーとしてバージン材料に20%程度まで添加する再利用のほか、熱分解や加水分解などで化学原料に戻して再利用するケミカルリサイクル、マイクロ波による分解処理等が提案されている。
【0004】
例えば、廃プラスチックを油化する装置(特許文献1、特許文献2)や、ガラス繊維強化熱硬化性樹脂を熱分解する方法(特許文献3)等がある。これらの装置、方法において、前処理のためにはハンマーミル等の粉砕機が用いられ、油化、熱分解のためには加熱器等が用いられている。
【0005】
またエステル結合やアミド結合等を有する樹脂の処理方法として、水分の存在下で100℃以上、1気圧以上の加温加圧の状態で加水分解する方法(特許文献4)、アルカリ性溶液で分解する方法(特許文献5)等が提案されている。
【0006】
最近では、超臨界または亜臨界流体を用いて分解処理する方法が多く提案されている。超臨界水や亜臨界水に酸素、空気、過酸化水素を加えて酸化分解する方法(特許文献6)、電子部品用樹脂封止やプリント基板などの樹脂成形体からの有価物回収に超臨界水酸化分解を利用する方法(特許文献7)、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂を超臨界状態あるいは亜臨界状態の低級アルコールで分解する方法(特許文献8)などがある。
【0007】
上述の処理方法はいずれも、既存の熱硬化性樹脂を対象として分解処理する方法であるが、予め熱硬化性樹脂自体を分解処理しやすい構造にする方法もある。たとえば、生分解性樹脂を添加してモールド材とし、活性汚泥などに埋めて処理する方法(特許文献9)、付加重合性モノマーにアクリル酸ヒドロキシエチルなどを含む不飽和ポリエステル樹脂を用い、塩基性水溶液で分解処理する方法(特許文献10)、コイルケースを生分解性樹脂で被覆する方法(特許文献11)などが提案されている。
【特許文献1】特開昭62−32131公報
【特許文献2】特開昭62−184034公報
【特許文献3】特開平4−100834公報
【特許文献4】特開平5−178976公報
【特許文献5】特開平6−49266公報
【特許文献6】特開平10−287766公報
【特許文献7】特開2001−79511公報
【特許文献8】特開2001−55468公報
【特許文献9】特開平7−75280公報
【特許文献10】特開平9−151222公報
【特許文献11】特開2000−195740公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、樹脂成形体は占有容積が大きく、保管や輸送の効率が悪いため、廃棄時にはまず機械的な破砕が行われているのであるが、破砕のためのエネルギーが大きく、騒音なども発生するので、容易に減容化する技術が求められている。
【0009】
熱硬化性樹脂は、上述のように一般に不溶不融であるため、破砕処理されることも多く、減容化技術の必要性は大きい。一方で、熱硬化性樹脂は構造材として使用されることが多く、例えばモールドモータやモールドトランスのモールド材として利用される他、半導体封止材(これもモールド材としての利用である)などとして利用されるため、内部に金属等が包含されている場合が多い。しかし熱硬化性樹脂が不溶不融であることから、埋め立て処理されることが多く、内部の有用な部品、金属材料などの有価物の回収は殆ど行われず、再生・再利用は困難な状況である。
【0010】
FRP、SMC、BMC等のリサイクル方法である粉砕法、熱分解法、マイクロ波による分解法等についても、専用の大がかりな装置が必要な上、多量のエネルギーを消費する。特に熱分解方法については様々な提案がなされているが、いずれも300℃以上の高温を要する。
【0011】
超臨界あるいは亜臨界流体を用いた分解法では、主に水やアルコールが使用されており、処理後の分解産物の分離や廃液処理などに多くの工程を必要とするため、装置が大きく複雑になり、処理エネルギーやコストも大きくなる。生分解性樹脂を添加する方法では、微生物による分解処理に長時間を要する。
【0012】
樹脂以外の廃棄物についても、地球環境保護の観点から、廃棄物処理場の不足もあって、再利用・リサイクルなどの対策技術が求められている。たとえば、間伐材、剪定枝、樹皮、建築廃材などの木質系廃材の再利用技術の開発が強く求められている。木質系廃材のなかには、東南アジアなどで多く栽培されているパーム椰子から大量に発生する椰子殻廃材や廃葉・廃幹などもある。
【0013】
本発明は、上記問題に鑑み、熱硬化性樹脂を主体とした成形体を、エネルギー消費、騒音発生を抑えて、減容化、再利用できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明のモールド材は、熱硬化性樹脂と木質系材料由来のリグニン系化合物とを少なくとも含むことを特徴とする。
本発明のモールド成形体は、上記のモールド材を用いて成形されたことを特徴とする。
【0015】
熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂または不飽和ポリエステル樹脂であってよく、エポキシ樹脂などであっても構わない。
本発明において、木質系材料由来のリグニン系化合物とは、木質系材料からリグニンを基に生成した化合物を言い、アルカリなどにより分解可能である。かかるリグニン系化合物にはたとえば、木質系材料からフェノール系溶剤と酸とを用いて分離したリグノフェノールあるいはその誘導体がある。
【0016】
リグニン系化合物を含んだモールド材、それを用いたモールド成形体をたとえばアルカリ性溶液に浸漬すると、溶液に接触した部分のリグニン系化合物が分解し、モールド成形体の内部まで溶液が浸透する。そしてそのことにより、熱硬化性樹脂中のエステル結合やエーテル結合などが切断され易くなる。よって、モールド成形体を廃棄時に短時間で崩壊あるいは分解して減容化することが可能であり、そのためのエネルギー消費、騒音発生も低減できる。リグニン系化合物は低収縮効果も発揮するため、不飽和ポリエステル樹脂に従来より添加されている低収縮剤に代替することも可能である。
【0017】
木質系材料は、針葉樹、広葉樹等の木材、草本類などの植物体であってよいが、間伐材、剪定枝、樹皮、建築廃材、パーム椰子の椰子殻あるいは廃葉あるいは廃幹から選ばれる少なくとも1種の廃材であるのが、資源の有効利用、環境保護のために都合よい。
【0018】
モールド成形体はモールドモータあるいはモールドトランスであってよい。これらは内部に有価物を多く含むため、モールド材部分の分解性が良好であることが特に都合よい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のモールド材は、リグニン系化合物を含有しているため、これを用いたモールド成形体の廃棄時にアルカリ性溶液などで短時間で崩壊あるいは分解し、減容化することが可能であり、そのためのエネルギー消費、騒音発生も低減できる。リグニン系化合物は低収縮効果も発揮するため、不飽和ポリエステル樹脂に従来より添加されている低収縮剤に代替することも可能である。
【0020】
また上記のようにモールド成形体を短時間で崩壊あるいは分解できることから、その内部に有価物、例えば鉄芯や巻線などを有しているモールドモータやモールドトランスなどである場合に、内部の有価物を取り出すことができ、再利用を図ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明に用いるリグニン系化合物の原料である木質系材料は、主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成されている。木質中でセルロースが整然と並び、その間にヘミセルロースとリグニンが充填されていて、木質の強度が保たれている。セルロースおよびヘミセルロースはグルコースを構成単位とする多糖類であり、リグニンは以下の式で表される構造を基本とする無定形高分子物質である。
【0022】
【化1】

このようにセルロースおよびヘミセルロースとリグニンとは分子構造が全く異なるため、木質系材料の分解・利用のためには、これらの分離・分解が必要となる。分離・分解の方法としては、パルプ工業で一般に用いられているアルカリによる蒸解処理や、蒸煮・爆砕処理、酸処理による分解、酵素や菌類などを利用する生物分解、超臨界水やアルコールによる処理などがある。分解条件などが厳しいと、リグニンが低分子化しすぎて樹脂として利用することが困難になる場合もあるので注意を要する。
【0023】
本発明に用いるリグニン系化合物を得るためには、特開2001−261839公報に開示されているような、フェノール系溶剤で処理した後に酸で処理する相分離系変換システムを用いたリグニン分離方法が好ましい。分離効率が高く、リグニンを樹脂としても利用しやすい形で分離できるためである。この方法により分離されるリグニン系化合物に、たとえば、リグノフェノールやその誘導体がある。
【0024】
木質系材料は、針葉樹、広葉樹等の木材や草本類であってよいが、間伐材、剪定枝、樹皮、建築廃材、パーム椰子の椰子殻あるいは廃葉あるいは廃幹などの廃材の使用が、資源の有効利用、環境保護のためにも都合よい。
【0025】
木質系材料を処理するフェノール系溶剤としては、1価、2価、3価のフェノール系溶剤を用いることができる。1価のフェノール系溶剤としては、例えば、フェノール、クレゾールや2,4ジメチルフェノールなどのアルキルフェノール、メトキシフェノール、ナフトールなどが挙げられ、2価のフェノール系溶剤としては、例えば、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノンなどが挙げられ、3価のフェノール系溶剤としては、例えば、ピロガロールなどが挙げられる。
【0026】
また酸としては、例えば硫酸、硝酸、塩酸、リン酸などの無機酸が挙げられ、その濃度は処理する木質系材料によって適宜選択されるが、反応を速やかに行うためには、例えば60%以上の高濃度の酸が好ましい。
【0027】
熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などを使用することができる。
不飽和ポリエステル樹脂を使用する場合は一般に低収縮剤が添加される。低収縮剤としては、熱可塑性樹脂や熱可塑性ゴムなどが用いられる。熱可塑性樹脂には例えば、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリ−ε−カプロラクタム、飽和ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリブタジエン、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体等がある。熱可塑性ゴムには、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴムなどがある。
【0028】
ここで、上述の方法で得られるリグニン系化合物は低収縮効果も発揮する。熱硬化性樹脂の分解や資源再利用という観点からは、合成の低収縮剤の添加を抑えることが望ましいため、できるだけリグニン系充填材で代替するのが好ましい。ただし合成の低収縮剤のなかでポリカプロラクトンのような生分解性を有している樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂の分解性を向上させるので、併用することが好ましい。
【0029】
不飽和ポリエステル樹脂に対しては、低収縮剤およびリグニン系化合物の添加量は、樹脂の収縮率に応じて調整するが、当該樹脂部分の総量の5〜50wt%となる量が好ましく、10〜30wt%がさらに好ましい。5wt%よりも少ないと、所望の収縮防止効果が得られず、リグニン系化合物を用いていても分解性が十分でない。また50wt%よりも多いと、強度が不足する場合がある。
【0030】
フェノール樹脂やエポキシ樹脂などの他の熱硬化性樹脂に対しては、リグニン系化合物の添加量は5〜30wt%が好ましく、10〜20wt%がさらに好ましい。5wt%よりも少ないと分解性が十分でなく、30wt%よりも多いと強度が不足する場合がある。
【0031】
無機充填材や繊維状補強材を添加しても勿論かまわない。無機充填材としては、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラス球等を使用できる。補強材としては、ガラス繊維や、ポリアクリロニトリル系あるいはレーヨン系もしくはピッチ系の炭素繊維、ビニロン、ポリプロピレン、ポリエステル、アラミド繊維等の有機繊維などを使用できる。この繊維状補強材に、木質系材料から得られる繊維を利用してもかまわない。
【0032】
着色剤として、一般的な染料や顔料を添加してもよい。例えば、酸化鉄、酸化チタン、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、クロムバーミリオン、群青等の無機顔料やアゾ化合物、シアニンブルー、塩素化シアニンブルー、シアニングリーン等の有機顔料、インジゴレッド、オイルレッド等の染料やカーボンブラック等を使用することができる。
【0033】
増粘剤や難燃材、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、多価イソシアナート化合物等を添加してもかまわない。離型剤、例えば、フッ素系界面活性剤、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等を添加してもよい。
【0034】
以上のような材料を混合することにより、本発明のモールド材を得ることができる。またこのモールド材を用いて、本発明のモールド成形体を作成することができる。モールド成形体の具体例には、モータやトランス、樹脂封止半導体素子などがある。
【0035】
本発明のモールド成形体を分解処理するためには、たとえば、アルカリ性溶液に浸漬する。このことにより、モールド成形体中のリグニン系化合物が加水分解され、それに伴い成形体内部にアルカリ溶液が浸透していくことで、熱硬化性樹脂中のエステル結合やエーテル結合、たとえば不飽和ポリエステル樹脂中のエステル結合なども切断され易くなり、成形体を短時間で分解、崩壊させ、減容化することが可能となる。エネルギー消費、騒音発生を低減できる処理法である。
【0036】
アルカリ性溶液としては、たとえば、アルカリ金属化合物あるいはアルカリ土類金属化合物の水溶液(いわゆるアルカリ溶液)を用いることができる。アルカリ(土類)金属化合物としては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、ナトリウムエトキシド、カリウムブトキシド等、アルカリ(土類)金属の水酸化物、アルコキシド、炭酸塩などが挙げられる。アルカリ(土類)金属化合物は、単成分に限らず、複数成分含まれていてもよい。
【0037】
溶液中の化合物濃度が大きいほど、水酸化物イオン濃度を増加させ、加水分解を促進する一方で、ナトリウムイオンやカリウムイオン等も多くなり、溶液の粘度が高くなって、樹脂中への溶液の浸透性が低下するので、十分な加水分解反応が起きる水酸化物イオンを与え、かつ溶液の浸透性も低下させないような濃度を選択する。10規定以下が好ましく、2〜7規定がより好ましい。
【0038】
樹脂中へのアルカリ性溶液の浸透性を改善するために親水性溶媒を添加してもよい。たとえば、メチルアルコールやエチルアルコールなどのアルコール類、アセトン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアミン等を使用できる。
【0039】
処理温度が高い方がモールド成形体の分解速度が大きくなるので、モールド成形体を浸漬したアルカリ性溶液を水の沸点以下(常圧では100℃以下)の範囲内で加温してもよいが、アルコール類が含まれている場合はその沸点以下が好ましい。
【0040】
アルカリ溶液を用いるのでなく、水の電気分解装置により生成するアルカリ水を使用してもよい。その場合はpH11以上のものを用いるのが好ましい。pH11未満では、十分な加水分解反応が起きず、処理時間が長くなる可能性がある。電気分解時に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化ナトリウム、塩酸等を少量、電解質として添加してもよい。塩化ナトリウムあるいは塩化カリウムが取扱い上好ましい。
【0041】
分解処理を酸処理や溶剤処理などで行ってもかまわない。使用可能な酸としては、例えば硫酸、硝酸、塩酸、リン酸などの無機酸が挙げられ、その濃度は分解処理する成形体の大きさやモールド厚みによって適宜選択されるが、数%〜30%程度の範囲が好ましい。これよりも濃度が小さいと分解に長時間を要し、濃度が大きすぎると酸水溶液の粘度が上昇するため成形体内部への浸透性が低下する可能性がある。また取扱上もあまり高濃度でない方が好ましい。
【0042】
使用可能な溶剤は、リグニン系化合物の種類によって選択される。例えば、リグニン系化合物がリグノフェノールやその誘導体である場合は、アセトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノールなどが好ましい。これらの溶剤を2種以上混合したものでもかまわない。いずれも、モールド成形体に液が浸透して樹脂の分解を引き起こす。
【0043】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
(実施例1〜4)
木質系材料としてパーム椰子の廃幹を200×300×50mmの板状に切り出し、カッターミル(槇野産業製,VM−22,φ10mmのスクリーン付き)で数mm程度に粗粉砕し、さらに微粉砕機(槇野産業製,DD−2−3.7,φ0.35mmのスクリーン付き)で平均粒径100μm程度に粉砕し、106μmの篩目を有する篩で分級した。
【0044】
106μmの篩目を通過した粉末100gをアセトン1000gで脱脂し、p−クレゾール32gを添加したアセトン溶液600gに入れ、室温で撹拌・混合し、一晩静置した。アセトンを揮散させ、残留物に72%硫酸500gを添加して室温で15分間撹拌し、この反応混合物を遠心分離(5000rpm、10分間)し、沈殿物を回収した後、蒸留水で洗浄し、40℃で1週間乾燥させた。
【0045】
乾燥物をアセトン300gで抽出し、抽出物を40℃で1日乾燥させ、アセトン50gに再溶解させた後、ジエチルエーテル500g中に滴下した。生成した沈殿を遠心分離(5000rpm、10分間)にて回収し、40℃で3日間乾燥させて、リグノフェノール24gを得た。さらにリグノフェノールを0.5M水酸化ナトリウム水溶液200g、170℃で処理して、リグノフェノール誘導体20gを得た。このリグノフェノール誘導体は以下の式で表される基本骨格を有している。
【0046】
【化2】

次に、不飽和ポリエステル樹脂(大日本インキ化学工業製PB210)と上記のリグノフェノール誘導体と架橋剤としてのスチレンモノマーとを5:4:1(重量比)で混合し、この混合物を100重量部として、重合開始剤としての1,1−ジブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン1重量部を加え、攪拌混合して、樹脂混合物を得た。
【0047】
次に、充填剤である炭酸カルシウム28重量部および水酸化アルミニウム43重量部と、離型剤であるステアリン酸亜鉛1.4重量部と、着色剤である炭素粉末0.3重量部とをニーダ中で乾式混合し、約5分後、均一に混合されたこの乾式混合物に上記の樹脂混合物21.2重量部を徐々に加えて混練した。約10分の混練後、長さ3mmのガラス繊維6.1重量部を添加し混練して、実施例1のペースト状モールド材を得た。
【0048】
同様にして、不飽和ポリエステル樹脂(大日本インキ化学工業製PB210)とリグノフェノール誘導体とスチレンモノマーとを、6:3:1、7:2:1、8:1:1の割合で混合して、実施例2〜4のペースト状モールド材を得た。
【0049】
比較のために、不飽和ポリエステル樹脂(大日本インキ化学工業製PB210)とリグノフェノール誘導体に代わる市販の低収縮剤(大日本インキ化学工業製PB987)とを7:3の割合で混合した以外は実施例1と同様にして、比較例1のペースト状モールド材を作成した。なおPB210およびPB987にはスチレンモノマーが約35wt%程度含まれており、これらの市販品のみを使用する場合は通常、実施例1のようにスチレンモノマーを新たに添加することはない。
【0050】
実施例1〜4,比較例1のモールド材の流動性、その成形体の曲げ強度、成形収縮率を調べた。流動性は、スパイラル形状の溝を掘った金型(金型温度145℃)をトランスファー成形機に取り付け、成形圧力5MPa、硬化時間120秒、モールド材の投入量50gで成形を行い、中心部からのスパイラル長を読み取り、スパイラルフローとして評価した。曲げ強度は、同じトランスファー成形機を用いて、金型温度145℃、成形圧力5MPaにて、長さ127mm、幅12.7mm、厚み3.2mmの成形体(試験片)を作成して、その成形体について島津製作所製オートグラフを用いてテストスピード10mm/minで測定した。成形収縮率は、JIS K 6911に準拠する成形体(試験片)を作成して測定した。結果をまとめて以下の表1に示す。不飽和ポリエステル樹脂とリグノフェノール誘導体との重量比も併せて示す。
【0051】
【表1】

表1の結果から、リグノフェノール誘導体の割合が高いほど、流動性、強度は低下するが、成形収縮率は小さくなり、収縮抑制効果があることがわかる。比較例1の従来型のモールド材とほぼ同等の流動性、曲げ強度、成形収縮率を得るためには、実施例2の配合にすればよい。
【0052】
次に、実施例1〜4,比較例1のモールド材を用いた成形体について、液の浸透度を調べた。上述の曲げ強度測定用の成形体を80℃、5規定の水酸化ナトリウム水溶液に10時間浸漬した後、切断して、浸透度を評価した。液の浸透度は、一部の成形体において、浸透した部分の色の変化から目視で評価した浸透度と、X線マイクロアナライザで測定したナトリウムの浸透度とが一致していたため、目視評価で簡易的に行った。結果を以下の表2に示す。
【0053】
【表2】

表2の結果によれば、リグノフェノール誘導体の割合が高いほど、水酸化ナトリウム水溶液の浸透度が大きい。液が浸透した部分は軟らかくなっており、全浸透した成形体は手で容易に崩壊させることができた。
【0054】
このことは、水酸化ナトリウム水溶液をはじめとするアルカリ性溶液、酸、溶剤などの処理液(前掲)を用いることで、液の浸透による分解促進を利用して、成形体を容易に分解、崩壊できることを示すものである。内部に有価物を含んだモールド成形体であれば、有価物を容易に取り出し、リサイクルすることが可能となる。
【0055】
(実施例5)
フェノール樹脂(大日本インキ化学工業製フェノライトP5510)と実施例1で作成したリグノフェノール誘導体とを8:2の重量比で混合して、粉末状のモールド材(実施例5のモールド材と呼ぶ)を作成し、このモールド材を、長さ100mm、幅10mmの板状物を成形できる金型に充填し、金型温度150℃、圧縮圧力50MPaで10分間加圧成形して、厚み3mmの成形体試験片を作成した。
【0056】
比較のために、リグノフェノール誘導体を添加せずに、フェノール樹脂(フェノライトP5510)のみをモールド材(比較例2のモールド材と呼ぶ)として用いて、上記と同様にして成形体試験片を作成した。
【0057】
実施例5,比較例2のモールド材からなる成形体の曲げ強度を前記と同様にして調べた。実施例5による成形体の曲げ強度は73MPaで、比較例2による成形体の曲げ強度は79MPaであり、ほぼ同程度であった。
【0058】
また各曲げ強度測定用の成形体について、前記と同様にして水酸化ナトリウム水溶液に浸漬処理した。実施例5による成形体では、液は全浸透し、手で容易にぼろぼろに崩壊させることができた。比較例2による成形体では、表面のみ若干液が浸透していたが、まだ十分に硬く、手で崩壊させることはできなかった。
【0059】
(実施例6)
木質系材料として杉木材を用い、粉砕機で数mm程度に粗粉砕した粉砕物をアセトンで脱脂したこと以外は、実施例1と同様にして、リグノフェノール誘導体を作成した。そして、不飽和ポリエステル樹脂(大日本インキ化学工業製PB210)と杉木材由来のリグノフェノール誘導体とスチレンモノマーとの6:3:1の混合物を得たこと以外は、実施例1と同様にして、ペースト状のモールド材(実施例6のモールド材と呼ぶ)を作成した。
【0060】
この実施例6のモールド材の流動性、その成形体の曲げ強度、成形収縮率を前記と同様にして調べたところ、スパイラルフローは185cm、曲げ強度は59MPa、成形収縮率は0.06であった。また曲げ強度測定用の成形体について、前記と同様にして水酸化ナトリウム水溶液に浸漬処理したところ、液は全浸透し、手で容易にぼろぼろに崩壊させることができた。
【0061】
(実施例7)
木質系材料としてパーム椰子の廃幹を用い、p−クレゾールに代えてヒドロキノンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、リグノフェノールを作成した。そして、不飽和ポリエステル樹脂(大日本インキ化学工業製PB210)とパーム椰子由来のリグノフェノールとポリカプロラクトンとの混合物(2:1)とスチレンモノマーとの6:3:1混合物を得たこと以外は、実施例1と同様にして、ペースト状のモールド材(実施例7のモールド材と呼ぶ)を作成した。
【0062】
この実施例7のモールド材の流動性、その成形体の曲げ強度、成形収縮率を前記と同様にして調べたところ、スパイラルフローは191cm、曲げ強度は50MPa、成形収縮率は0.09であった。また曲げ強度測定用の成形体について、前記と同様にして水酸化ナトリウム水溶液に浸漬処理したところ、液は全浸透し、手で容易にぼろぼろに崩壊させることができた。
【0063】
さらに、この実施例7のモールド材を用いてモールドモータを作成した。その概略縦断面図を図1に示す。ブラケット2に設けたベアリング10に、回転子3のシャフト9が回転自在に軸支されている。回転子3を間隔を隔てて囲むように配された固定子1があり、固定子鉄芯6の珪素鋼板にエナメル被覆銅線から成る固定子巻線7が巻かれている。この固定子鉄芯6、固定子巻線7及びブラケット2に接してモールド材8によりモールドした構成となっている。フランジ部4もモールド材8で一体構成されている。5は取付孔である。モールド厚みは薄い部分で約4mm、厚い部分で約10mm程度である。
【0064】
このモールドモータを100℃、5規定の水酸化ナトリウム水溶液に50時間浸漬する処理を行った。処理後のモールドモータのモールド材8の硬度は24(一般ゴムの硬度の測定に用いられるJIS K 6253準拠のタイプAゴム硬度計による)となり、そのモールド材8のみを素手で綺麗に剥離して、内部の固定子鉄芯6や固定子巻線7をモールド前の状態のまま回収することができた。
【0065】
ここに図示したモールドモータにかぎらず、内部に金属類が含まれている他のモールド成形体、たとえばモールドトランスや樹脂封止半導体素子についても、同様にして内部の金属類を回収できることは理解されよう。金属類などの有価物を回収しない場合も容易に減容化できる利点がある。実施例7のモールド材に限らず、実施例1〜6のモールド材を用いた場合も同様である。
【0066】
また実施例1〜7ではリグノフェノールあるいはその誘導体を熱硬化性樹脂に添加したが、これらに限定されず、他の方法で分離・分解して取得したリグニン系化合物を添加して同様の効果を得ることも可能である。
【0067】
分解処理も、上述のアルカリ性溶液による処理に限らず、酸処理や溶剤処理などの他の分解処理を行うことも可能である。さらにはリグニン系化合物は未確認ではあるが生分解性を有する可能性があり、モールド成形体あるいはそのモールド材部分のみを土壌中などに配置した場合に、徐々に分解され、崩壊する可能性もある。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のモールド材、モールド成形体は、強度などの他の特性が殆ど低下することなく分解性を具備するので、廃棄時の減容処理の容易化、エネルギー消費、騒音の低減、有価物のリサイクルなどを実現できる樹脂製品として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施形態であるモールドモータの概略縦断面図
【符号の説明】
【0070】
1 固定子
2 ブラケット
3 回転子
4 フランジ部
5 取付孔
6 固定子鉄芯
7 固定子巻線
8 モールド材
9 シャフト
10 ベアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と木質系材料由来のリグニン系化合物とを少なくとも含んだモールド材。
【請求項2】
熱硬化性樹脂がフェノール樹脂または不飽和ポリエステル樹脂である請求項1記載のモールド材。
【請求項3】
リグニン系化合物が、木質系材料からフェノール系溶剤と酸とを用いて分離したリグノフェノールあるいはその誘導体である請求項1記載のモールド材。
【請求項4】
木質系材料が、間伐材、剪定枝、樹皮、建築廃材、パーム椰子の椰子殻あるいは廃葉あるいは廃幹から選ばれる少なくとも1種の廃材である請求項1記載のモールド材。
【請求項5】
請求項1記載のモールド材を用いて成形されたモールド成形体。
【請求項6】
モールドモータあるいはモールドトランスである請求項5記載のモールド成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−167306(P2009−167306A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7479(P2008−7479)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【Fターム(参考)】