説明

モールド構造体及びそれを用いたインプリント方法、並びに磁気記録媒体及びその製造方法

【課題】耐久性に優れ、かつ基板に対する転写性が高く、イオンミリング法によって断面角型に近い高精細なパターンが形成でき、ディスクリートトラックメディア及びパターンドメディアに高品質なパターンを転写し、形成することができるモールド構造体及びそれを用いたインプリント方法、並びに磁気記録媒体の製造方法の提供。
【解決手段】円板状の基板と、該基板の一方の表面に複数の凸部及び凹部が配列されたことによって形成された凹凸部を有してなり、前記凹部の配列方向における断面形状が、該凹部における底辺の両端部が中央部よりも陥没した略凸形状であるモールド構造体である。該凹部の断面形状が、該凹部における底辺の両端部が中央部から漸次傾斜して陥没した略凸形状である態様、凹部の深さAと、凹部における底辺の略凸形状の高さBとの比率〔(B/A)×100〕が5%〜30%である態様などが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体に情報を転写するための凹凸状パターンを備えたモールド構造体及び該モールド構造体を用いたインプリント方法、並びに磁気記録媒体及び磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速性やコストに優れたハードディスクドライブが、ストレージ機器の主力として、携帯電話、小型音響機器、ビデオカメラ等のポータブル機器に搭載され始め、より一層の小型大容量化という要求に応えるために、記録密度を向上させる技術が求められている。
ハードディスクドライブの記録密度を高めるためには、磁気記録媒体の高性能化、及び磁気ヘッド幅の狭小化という手法が用いられてきたが、データトラック間隔を狭めることによる隣接トラック間の磁気の影響(クロストーク)、熱揺らぎの影響が無視できなくなり、磁気ヘッドの狭小化などによる面記録密度の向上には限界があった。
【0003】
そこで、前記クロストークによるノイズを解決する手段として、ディスクリートトラックメディアと呼ばれる形態の磁気記録媒体が提案されている(特許文献1〜2参照)。このディスクリートトラックメディアは、隣接するトラック間に非磁性のガードバンド領域を設けて個々のトラックを磁気的に分離したディスクリート構造とすることにより、隣接トラック間の磁気的干渉を低減したものである。
【0004】
前記熱揺らぎによる減磁を解決する手段として、信号記録のための個々のビットを予め所定の形状パターンで備えたパターンドメディアと呼ばれる形態の磁気記録媒体が提案されている(特許文献3参照)。
【0005】
前記ディスクリートトラックメディア及びパターンドメディアを製造する際には、特許文献4に開示されているように、レジストパターン形成用モールド(以下、「スタンパ」と称することもある)を用いて、表面に磁性層を具備した磁気記録媒体用基板上に形成されたレジスト層に所望のパターンを転写するインプリント法がある。
【0006】
ところで、磁気記録媒体の用途では、微細かつ広面積に対してナノインプリントリソグラフィー(NIL)を行う必要があるため、NIL均一性、及び安定性が重要となる。また磁気ヘッドの位置決めを行うサーボ信号、実際のデータを記録するデータ信号の2種類のパターンを加工する必要がある。データ部は、ディスクリートトラックメディア(DTM)では同心円パターン、ビットパターンドメディア(BPM)ではドットパターン等の単純なパターンから構成される。サーボ部はプリアンブル、サーボタイミングマーク、アドレス(セクタ、シリンダ)、バースト等の主に4種類のパターンから構成されており、アドレス(セクタ、シリンダ)、バーストパターン部は粗密信号が混在し、複雑なパターン配列となっている。
このようにディスク全面に対して複雑なパターンが密に形成されていることから、NILの際に、モールド構造体の凹凸パターンがインプリントレジスト層全面に忠実に転写されることが要求される。
【0007】
このインプリント法では、コストダウンの観点から多数回転写プロセスが必要であり、少なくとも数百〜数万回転写可能なモールド耐久性が要求される。そこで、モールド耐久性を付与するため、モールド表面に離型剤を液相又は気相中で付与するプロセスが行われていた。しかし、前記離型剤は、インプリントプロセスを重ねるうちに枯渇していき、終にはモールド構造体の凹凸パターンへのレジスト目詰まりが発生する。
【0008】
また、前記インプリント法を用いて、ハードディスク、光ディスク等の情報記録媒体を得る場合、インプリントプロセスにて形成された有機物レジストパターンをマスクとして、ウェットエッチング方式又はドライエッチング方式によって、微細パターン加工が行われる。前記ウェットエッチング方式は生産性が高く、かつ有機物レジストパターンを用いることで、最適なエッチング液を選択することにより、磁性層の選択エッチングが可能である。しかし、ウェットエッチング方式はコンタミコントロールが困難であり、かつエッチングが等方的に進むため、非常に微細なパターンを加工する際には不適である。
一方、前記ドライエッチング方式はウェットエッチング方式に比べて、コンタミコントロールが容易であり、かつ反応性イオンエッチングの場合、最適な反応ガスを選択することで、磁性層のエッチングが可能である。しかし、これまでの検討から、磁性層をエッチングするための反応ガスは、塩素系、又は中谷プロセス(NH+CO)等のカルボニル系化合物を得るプロセスに限られ、これらのエッチングプロセスに対して、有機物レジストマスクは耐性が低く、充分な選択比を稼ぐことができないという課題がある。
【0009】
これに対し、従来から検討されてきたアルゴンイオンミリング法は、加工異方性に優れ、有機物レジストマスクとの選択比も稼げるものの、物質選択性が低く加工後のパターン形状が悪い(例えば、バリが生じる、壁角度の制御が困難など)とされ、高微細パターンが求められるディスクリートトラックメディア及びパターンドメディアの製造プロセスには適さないと言われてきた。特に、パターンの角がエッチングされやすく、丸みを帯びたパターン形状となってしまうという問題がある。
【0010】
したがって、耐久性に優れ、かつ基板に対する転写性が高く、イオンミリング法によって断面角型に近い高精細なパターンが形成できるモールド構造体、及びその関連技術は未だ実現されておらず、その提供が望まれているのが現状である。
【0011】
【特許文献1】特開昭56−119934号公報
【特許文献2】特開平2−201730号公報
【特許文献3】特開平3−22211号公報
【特許文献4】特開2004−221465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、耐久性に優れ、かつ基板に対する転写性が高く、イオンミリング法によって断面角型に近い高精細なパターンが形成でき、ディスクリートトラックメディア及びパターンドメディアに高品質なパターンを転写し、形成することができるモールド構造体及び該モールド構造体を用いたインプリント方法、並びに磁気記録媒体及び磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、モールド構造体の凹部の配列方向の断面形状を、該凹部における底辺の両端部が中央部よりも陥没した略凸形状とすることにより、該略凸形状の凹部内に離型剤が溜まり易くなり、インプリントプロセスを多数回実施した場合でも、前記略凸形状の凹部内に溜まった離型剤が供給され、耐久性が向上する。また、前記凹部の断面形状が略凸形状のモールド構造体を用いることで、凸部における頂辺の両端部が中央部より突出した略凹形状を有する有機物レジストマスクのパターンを形成することが可能となる。これにより、アルゴンイオンミリングプロセスにおいて、レジストパターンの凸部の角が削られて丸まったとしても、磁性層の凹凸パターン加工が断面角型に近い高微細な形状が得られることを知見した。
【0014】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 円板状の基板と、該基板の一方の表面に複数の凸部及び凹部が配列されたことによって形成された凹凸部を有するモールド構造体であって、
前記凹部の配列方向における断面形状が、該凹部における底辺の両端部が中央部よりも陥没した略凸形状であることを特徴とするモールド構造体である。
<2> 凹部の断面形状が、該凹部における底辺の両端部が中央部から漸次傾斜して陥没した略凸形状である前記<1>に記載のモールド構造体である。
<3> 凹部の深さAと、凹部における底辺の略凸形状の高さBとの比率〔(B/A)×100〕が5%〜30%である前記<1>から<2>のいずれかに記載のモールド構造体である。
<4> 石英、金属、及び樹脂のいずれかの材料からなる前記<1>から<3>のいずれかに記載のモールド構造体である。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載のモールド構造体を、磁気記録媒体用基板上に形成されたインプリントレジスト組成物からなるインプリントレジスト層に押圧して前記モールド構造体に形成された凹凸部に基づく凹凸パターンを転写する転写工程を少なくとも含むことを特徴とするインプリント方法である。
<6> 前記<5>に記載のインプリント方法を用いて磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法であって、
転写され、硬化後のレジストパターンの凸部の配列方向における断面形状が、該凸部における頂辺の両端部が中央部より突出した略凹形状を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法である。
<7> 基板上に形成された凹凸パターンをマスクとして、イオンミリング法でエッチングを行う前記<6>に記載の磁気記録媒体の製造方法である。
<8> 前記<6>から<7>のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法を用いて製造されたことを特徴とする磁気記録媒体である。
<9> ディスクリート型磁気記録媒体、及びパターンドメディア型磁気記録媒体の少なくともいずれかである前記<8>に記載の磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、従来における諸問題を解決でき、耐久性に優れ、かつ基板に対する転写性が高く、イオンミリング法によって断面角型に近い高微細なパターンを形成でき、ディスクリートトラックメディア及びパターンドメディアに高品質なパターンを転写し形成することができるモールド構造体及びそれを用いたインプリント方法、並びに磁気記録媒体、及び磁気記録媒体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(モールド構造体)
本発明のモールド構造体は、円板状の基板と、該基板の一方の表面に複数の凸部及び凹部が配列されたことによって形成された凹凸部を有してなり、更に必要に応じてその他の構成を有してなる。
【0017】
前記凸部は、磁気記録媒体のサーボ部及びデータ部に対応して設けられている。
前記データ部は、略同心円状の凸パターンからなり、データを記録する領域である。
前記サーボ部は、凸部面積の異なる複数種類の凸パターンからなる。
前記サーボ部としては、トラッキングサーボ制御用の信号に対応するものであり、例えばプリアンブル、サーボタイミングマーク、アドレスパターン、バーストパターン、などで主に構成されている。
前記プリアンブルパターンは、アドレスパターン領域等から各種制御信号を読み取るための基準クロック信号を生成する部位である。
前記サーボタイミングマークは、アドレス、バーストパターンを読み取るためのトリガー信号である。
前記アドレスマークは、セクタ(角度)情報、トラック(半径)情報で構成されており、ディスクの絶対位置(アドレス)を示している。
前記バーストパターンは、磁気ヘッドがオントラック状態にあるとき、ヘッド走行位置を微調整し、高精度な位置決めを達成する機能を有している。
【0018】
前記凹部の配列方向における断面形状は、該凹部における底辺の両端部が中央部よりも陥没した略凸形状である。これにより、略凸形状の凹部内に離型剤が溜まり易くなり、インプリントプロセスを多数回実施した場合でも、前記略凸形状の凹部内に溜まった離型剤が供給され、転写耐久性が向上できる。また、前記凹部の配列方向における断面形状が略凸形状のモールド構造体を用いることで、凸部における頂辺の両端部が中央部より突出した略凹形状を有する有機物レジストマスクのパターンを形成することが可能となる。その結果、イオンミリングプロセスにおいて、レジストパターンの凸部の角が削られて丸まっても、断面角型に近い高精細なパターンが得られる。
また、前記凹部の配列方向における断面形状は、該凹部における底辺の両端部が中央部から漸次傾斜して陥没した略凸形状であることが、それ以降のエッチング加工性の観点から好ましい。これは、レジストパターン角部ではプラズマ密度が高くなり、レジストマスク形状を保持できなくなるためである。
【0019】
前記モールド構造体の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、石英、金属、及び樹脂のいずれかの材料が好適である。
前記金属としては、例えばNi、Cu、Al、Mo、Co、Cr、Ta、Pd、Pt、Au等の各種金属、又はこれらの合金を用いることができる。これらの中でも、Ni、Ni合金が特に好ましい。
前記樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、低融点フッ素樹脂、ポリメタアクリル酸メチル(PMMA)、トリアセテートセルロース(TAC)、などが挙げられる。
【0020】
ここで、図1は、本発明に係るモールド構造体の一実施形態における構成を示す部分斜視図であり、図2は、図1のA−A線での断面図である。
図1に示すように、本発明のモールド構造体1は、円板状をなす基板2の一方の表面2a(以下、基準面2aということがある)に、複数の凸部3a及び凹部3bが同心円状に形成されてなる。この場合、凸部3aと、複数の凸部3a間に形成された凹部3bとを総称して凹凸部3とする。
凹部3bは、図2に示すように、基準面2aに略平行面をなす底辺4と、該底辺4の両端部4b,4bが中央部4aよりも陥没した略凸形状を示している。なお、底辺の両端部及び中央部とは、底辺を3等分した1/3ずつの部分を意味する。
前記凸部の配列方向(凸部が列設されている方向、円板状基板の半径方向)の長さは、100nm以下が好ましく、70nm以下がより好ましい。前記凸部の配列方向の長さが100nmを超えると、記録部分が少なくなり、記録密度を高めることができないことがある。
また、基板2の厚みは、0.5mm以上10mm以下であることが好ましい。
【0021】
また、前記凹部の深さAと、凹部における底辺の略凸形状の高さBとの比率〔(B/A)×100〕は5%〜30%が好ましく、5%〜20%がより好ましい。ここで、凹部の深さAは図2に示すように、凹部の最も深い点までの距離を表し、略凸部形状の高さは、図2に示すように、凹部の最も深い点と略凸部形状の最も高い点との距離を表す。
前記比率〔(B/A)×100〕が、5%未満であると、モールド構造体の凹部に供給された離型剤が枯渇し、複数回のインプリントプロセスに対して耐久性の低下をもたらすことがあり、30%を超えると、レジストパターンの両端に鋭利な凸形状が形成され、インプリント剥離時にパターンの成形不良が生じ、磁性層の凹凸パターン精度が低下する可能性がある。
【0022】
また、前記凹部3bの配列方向における断面形状は、例えば、矩形をなしている。
なお、前記凹部3bの配列方向における断面形状は、矩形に限られず、目的に応じて、後述するエッチング工程を制御することにより、任意の形状を選択することができる。
本発明において、前記「断面(形状)」とは、特に断りがない限り、前記凹部3bの配列方向(凹部3bが列設されている方向)における断面(形状)を指す。
【0023】
前記凹部の配列方向における断面形状は、該凹部における底辺の両端部が中央部よりも陥没した略凸形状である。
前記底辺の略凸部形状としては、底辺の両端部が中央部よりも陥没した略凸形状であれば特に制限はなく、図2に示した形状以外にも、図3〜図8に示すものなどが挙げられる。例えば図3は、図2において中央部が凸状に形成されたものである。また、図4は、略凸部形状が略半円状に形成されたものである。また、図5は、図2において中央部が凹状に形成されたものである。また、図6は、底辺の両端部が矩形状に形成されたものである。また、図7は、底辺の両端部が正方形状に形成されたものである。また、図8は、底辺の両端部が略三角形状に形成されたものである。
なお、モールド構造体の凹部の配列方向における断面形状を、該凹部における底辺の両端部が中央部よりも陥没した略凸形状となるように形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、エッチングガス及びエッチングプロセス条件を適宜調整する方法、異なるエッチングプロセスを複数回実施する方法、エッチングイオンの入射角を適宜調整する方法、電子ビーム(EB)描画条件を適宜調整する方法、などが挙げられる。
【0024】
<モールド構造体の製造方法>
以下、本発明に係るモールド構造体の製造方法について、図9及び図10を参照して説明する。
−第1の実施形態−
<<原盤の作製>>
図9は、本発明のモールド構造体の製造方法における原盤の作製の一例を示す断面図である。
まず、図9のAに示すように、Si基板10上に、スピンコート法などによりPMMAなどのフォトレジスト液を塗布し、フォトレジスト層21を形成する。前記レジスト層の材料としては、ポジ型レジスト材料及びネガ型レジスト材料のいずれであってもよい。
次に、図9のBに示すように、Si基板10を回転させながら、データ記録用トラック及びサーボ情報の少なくともいずれかに対応して変調したレーザー光(又は電子ビーム)を照射し、フォトレジスト全面に所定のパターン、例えば略同心円状の凸パターンからなるデータトラックパターンと、凸部面積の異なる複数種類の凸パターンからなるサーボパターンと、前記データトラックパターンと前記サーボパターンとの間に半径方向に繋がった略放射状の凸パターンからなる緩衝パターンとを露光する。
次に、図9のCに示すように、フォトレジスト層21を現像処理し、露光部分を除去して残ったフォトレジスト層21によって所望の凹凸パターンを形成する。
次に、図9のDに示すように、形成されたフォトレジスト層21のパターンをマスクにしてRIE(Reactive Ion Etching;反応性イオンエッチング)などにより選択エッチングを行い、基板10に凹凸パターンを形成する。
次に、図9のEに示すように、残余フォトレジスト層21を除去して、凹凸形状を有する原盤11を作製する。
【0025】
<<モールド構造体の作製>>
図10は、本発明のモールド構造体の製造方法におけるモールド構造体の作製の一例を示す断面図である。
図10のAに示すように、例えば光硬化性樹脂を含有するインプリントレジスト液を塗布してなるインプリントレジスト層24が一方の面に形成された被加工基板としての石英基板30に対して、原盤11を押し当て、原盤11上に形成された凸部のパターンがインプリントレジスト層24に転写される。
【0026】
<<インプリントレジスト層>>
前記インプリントレジスト層は、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び光硬化性樹脂の少なくともいずれかを含有するインプリントレジスト組成物(以下、「インプリントレジスト液」ということがある。)であって、基板や磁気記録媒体等に塗布することによって形成される層である。
インプリントレジスト層の厚さは、例えば、エリプソメーター等を用いた光学的な測定あるいは触針式段差計、原子間力顕微鏡(AFM)等の接触測定等により計測できる。
また、前記インプリントレジスト組成物としては、熱可塑性を有するもの、あるいは光硬化性を有するもの、あるいは、ゾルゲルなどが用いられる。それらの特徴を有し、かつドライエッチング耐性の高いノボラック樹脂、エポキシ樹脂、脂環式樹脂や、剥離性の良好なフッ素系樹脂などが好適である。
【0027】
ここで、本発明における被加工基板の材料は、光透過性を有し、モールド構造体として機能する強度を有する材料であれば、特に制限されることなく、目的に応じて適宜選択され、例えば、石英(SiO)、樹脂(PET、PEN、ポリカーボネート、低融点フッ素樹脂、PMMA)等が挙げられる。
また、前記「光透過性を有する」とは、具体的には、被加工基板にインプリントレジスト層が形成される一方の面から出射するように、前記被加工基板の他方の面から光を入射した場合に、インプリントレジストが十分に硬化することを意味しており、少なくとも、前記他方の面から前記一方の面への光透過率が50%以上であることを意味する。
また、前記「モールド構造体として機能する強度を有する」とは、磁気記録媒体の基板上に形成されたインプリントレジスト層に対して、平均面圧力が4kgf/cmという条件下で押し当て、加圧しても耐えられるような強度を意味する。
【0028】
次に、図10のBに示すように、インプリントレジスト層24に紫外線などを照射して転写されたパターンを硬化させる。
【0029】
その後、図10のCに示すように、転写されたパターンをマスクにしてRIEなどにより選択エッチングを行い、図10のDに示すように凹部の断面形状が、該凹部における底辺の両端部が中央部よりも陥没した略凸形状であるモールド構造体1を作製する。
前記選択エッチングは、エッチングガス及びエッチングプロセス条件を適宜調整する方法、異なるエッチングプロセスを複数回実施する方法、エッチングイオンの入射角を適宜調整する方法などにより、モールド構造体1の凹部の断面形状が、図2〜図8のいずれかに示す断面形状となるように行われる。
【0030】
<<剥離層形成工程>>
作製したモールド構造体の凹凸面に剥離剤層を形成する。剥離剤はインプリント後にモールド構造体とインプリントレジスト層の界面で剥離できるよう、モールド構造体表面に形成することが好ましい。剥離剤材料としては、モールド構造体に付着、結合しやすく、インプリントレジスト層表面に吸着しにくいという目的に合致する中で、適宜選択できる。中でもレジスト層表面に吸着しにくいと言う点で、フッ素系樹脂が好ましい。
剥離剤層厚みとしては、厚いとパターン精度が劣化するため、可能な限り薄層化することが好ましく、具体的には10nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましい。
剥離剤層の形成手段としては、塗布又は蒸着手段を用いることができる。さらに、剥離剤層を形成した後、ベーキング等の手段によりモールド構造体への吸着性を高める等の工程を付与してもよい。
【0031】
−第2の実施形態−
<<原盤の作製>>
図11A〜図11Bは、第2の実施形態におけるモールド構造体の作製方法を示す断面図である。図11Aに示すように、第1の実施形態と同様に凹凸パターンを有する原盤11を作製した。なお、図11A〜図11Bにおいて、モールド構造体などの凸部の丸味を帯びた形状は略して記載している。
<<モールド構造体の作製>>
図11Bに示すように、原盤11の表面にスパッタリング法により、導電膜22を形成し、該導電膜22が付与された原盤11を、Ni電鋳浴に浸漬させて電鋳処理を行い、Niモールド構造体23を作製した。
前記原盤11の凹凸パターン上への導電膜22の形成は、導電材料を真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の真空成膜手段、メッキ法などを用いて行うことができる。
前記導電材料としては、後工程(電鋳)に応じて適宜選択できるが、Ni系、Fe系、Co系の金属又は合金材料等が好ましい。電鋳処理により得られたNiモールド構造体の厚みは、20〜800μmの範囲が好ましく、40〜400μmがより好ましい。
<<剥離層形成工程>>
前記第1の実施形態と同様にNiモールド構造体の表面に剥離剤層を形成することが好ましい。
【0032】
−第3の実施形態−
<<原盤の作製>>
図12A〜図12Bは、第3の実施形態におけるモールド構造体の作製方法を示す断面図である。図12Aに示すように第1の実施形態と同様に凹凸パターンを有する原盤11を作製した。なお、図12A〜図12Bにおいて、モールド構造体などの凸部の丸味を帯びた形状は略して記載している。
<<モールド構造体の作製>>
図12Bに示すように、熱可塑性樹脂シート31に対して、前記原盤11を押し当てる。その後、加熱して樹脂の軟化点以上の温度とすることで、樹脂の粘度が低下し原盤11上に形成された凸部のパターンが樹脂シート31に転写された。その後、冷却して転写されたパターンを硬化させ、原盤から樹脂シートを剥離することで、凹凸形状を有する樹脂モールド構造体1を作製した。
ここで、樹脂材料としては、熱可塑性、光透過性を有し、モールド構造体として機能する強度を有する材料であれば、特に制限されることなく、目的に応じて適宜選択され、例えば、PET、PEN、ポリカーボネート、低融点フッ素樹脂、PMMA等が挙げられる。
また、前記「光透過性を有する」とは、具体的には、被加工基板にインプリントレジスト層が形成される一方の面から出射するように、前記被加工基板の他方の面から光を入射した場合に、インプリントレジストが十分に硬化することを意味しており、少なくとも、前記他方の面から前記一方の面への光透過率が50%以上であることを意味する。
また、前記「モールド構造体として機能する強度を有する」とは、磁気記録媒体の基板上に形成されたインプリントレジスト層に対して、平均面圧力が4kgf/cmという条件下で押し当て、加圧しても耐えられるような強度を意味する。
<<剥離層形成工程>>
前記第1の実施形態と同様に樹脂モールド構造体の表面に剥離剤層を形成することが好ましい。
【0033】
本発明のモールド構造体は、該モールド構造体の凸部及び凹部をインプリントレジスト層に対向させて該インプリントレジスト層に前記凹凸パターンを転写する転写工程を少なくとも含むインプリント方法に好適に用いられ、以下に説明する本発明の磁気記録媒体の製造方法に特に好適である。
【0034】
(磁気記録媒体の製造方法)
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、本発明の前記インプリント方法を用いて磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法であって、
転写され、硬化後のレジストパターンの凸部の配列方向における断面形状が、該凸部における頂辺の両端部が中央部より突出した略凹形状を有する。
この場合、基板上に形成されレジストパターン(インプリントレジスト層の凹凸パターン)をマスクとして、イオンミリング法でエッチングを行っても、パターンの頂辺の両端部における突出部分が先にエッチングされ、断面角型に近い、高微細パターンを得ることができる。
前記イオンミリング法は、イオンビームエッチングとも言われ、イオン源にArなどの不活性ガスを導入し、イオンを生成し、これをグリッド等を用いて加速して、試料基板に衝突させてエッチングするものである。前記イオン源としては、カウフマン型、高周波型、電子衝撃型、デュオプラズマトロン型、フリーマン型、ECR(電子サイクロトロン共鳴)型、Closed drift型などが挙げられる。
【0035】
以下、本発明に係るモールド構造体を用いて、ディスクリートトラックメディアや、パターンドメディアなどの磁気記録媒体を製造する製造方法(インプリント法)について図面を参照して説明する。
【0036】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、本発明のモールド構造体を、磁気記録媒体の基板上に形成したインプリントレジスト層に押圧して前記モールド構造体に形成された凹凸パターンを転写する転写工程と、
前記インプリントレジスト層に転写された凹凸パターンを硬化させ、モールド構造体を剥離する硬化工程と、
前記凹凸パターンが転写されたインプリントレジスト層をマスクにして、前記磁気記録媒体の基板の表面に形成された磁性層をエッチングして、前記凹凸パターンに基づく磁性パターン部を前記磁性層に形成する磁性パターン部形成工程と、
前記磁性層上に形成された凹部に非磁性材料を埋め込む非磁性パターン部形成工程と、を少なくとも含み、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
【0037】
以下、ディスクリートトラックメディアや、パターンドメディアなどの磁気記録媒体の製造方法の一例について図面を参照して説明する。
[転写工程]
アルミニウム、ガラス、シリコン、石英等の基板上に、Fe又はFe合金、Co又はCo合金等の磁性層50を有する磁気記録媒体中間体の磁性層上にポリメタアクリル酸メチル(PMMA)等のインプリントレジスト液を塗布してなるレジスト層24を形成したレジスト層付き磁気記録媒体中間体に対して、凹部の配列方向における断面形状が、該凹部における底辺の両端部が中央部よりも陥没した略凸形状であるモールド構造体1を押し当て、加圧することにより、モールド構造体上に形成された凹凸パターンをレジスト層24に転写する。
【0038】
[硬化工程]
―光照射による硬化―
インプリントレジスト層を形成するインプリントレジスト組成物が、光硬化性樹脂を含む場合、紫外線などの電子線を透明性を有するインプリント用モールド構造体1を介してインプリントレジスト層に照射し、該インプリントレジスト層が硬化することとなる。
ここで用いる光硬化性樹脂としては、ラジカル重合タイプとカチオン重合タイプがあるが、要求されるパターン形状精度や硬化速度に対し適宜選択することができる。
―加熱による硬化―
インプリントレジスト層を形成するインプリントレジスト組成物が、熱可塑性樹脂を含む場合、インプリントレジスト層にインプリント用モールド構造体1を押し当てる際に、系を前記レジスト液のガラス転移点(Tg)付近に維持しておき、転写後、前記レジスト液のガラス転移点よりも低下することによりインプリントレジスト層が硬化することとなる。更に、必要に応じて紫外線などを照射してパターンを硬化させてもよい。
なお、インプリントレジスト組成物が、熱硬化性樹脂を含む場合、室温あるいは加熱して流動性を示す状態でインプリントレジスト層にインプリント用モールド構造体1を押し当てて凹凸パターンを転写した後、樹脂の硬化温度まで加熱することにより、インプリントレジスト層が硬化することとなる。転写された硬化後の凸部の配列方向における断面形状が、該凸部における頂辺の両端部が中央部より突出した略凹形状を有する。
【0039】
[磁性パターン部形成工程]
次に、凹凸部のパターンが転写されたレジスト層をマスクにして、ドライエッチングを行い、レジスト層に形成された凹凸パターン形状に基づく凹凸形状を磁性層に形成する。
前記ドライエッチングとしては、磁性層に凹凸形状を形成できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオンミリング法、反応性イオンエッチング(RIE)、スパッタエッチング、等が挙げられる。これらの中でも、イオンミリング法が特に好ましい。
前記イオンミリング法は、イオンビームエッチングとも言われ、イオン源にAr等の不活性ガスを導入し、イオンを生成した。これを、グリッドを通して加速して、試料基板に衝突させてエッチングするものである。前記イオン源としては、カウフマン型、高周波型、電子衝撃型、デュオプラズマトロン源、フリーマン型、ECR(電子サイクロトロン共鳴)型、Closed drift型などが挙げられる。
イオンビームエッチングでのプロセスガスとしてはArに酸素、窒素、水素ガスを微量添加したものなどを用いることができる。
【0040】
[非磁性パターン部形成工程]
次に、形成された凹部に非磁性材料を埋め込み、表面を平坦化した後、必要に応じて、保護膜などを形成して磁気記録媒体100を作製することができる。
前記非磁性材料としては、例えばSiO、カーボン、アルミナ、ポリメタアクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)等のポリマー、円滑油などが挙げられる。
前記保護膜としては、ダイヤモンドカーボン(DLC)、スパッタカーボン等が好ましく、該保護膜の上に更に潤滑剤層を設けてもよい。
【0041】
本発明の磁気記録媒体の製造方法により製造された磁気記録媒体は、ディスクリート型磁気記録媒体及びパターンドメディア型磁気記録媒体の少なくともいずれかであることが好適である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
<モールド構造体の製造>
−原盤の作製−
図9のAに示すように、Si基板10上に、電子線レジストをスピンコート法により、厚みが100nmとなるように塗布してレジスト層を形成した。次に、回転式電子線露光装置にて所望のパターンを露光し、現像することで、凹凸パターンを有するレジスト層付きSi基板を作製した。
その後、レジストパターンをマスクにして、以下の反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)を行い、Si基板上に凹凸形状を形成した。
−反応性イオンエッチングの条件−
・ プラズマ源:ICP型(Inductively Coupled Plasma)
・ ガス:CF系ガス、及び微量の水素ガス
・ 圧力:0.5Pa
・ 投入電力:ICP-300W、Bias-50W
【0044】
その後、残存するレジストを可溶溶剤にて洗浄することで除去し、乾燥させて原盤を作製した。
この実施例に使用したパターンはデータ部とサーボ部に大別される。データ部は凸幅:120nm、凹幅:30nm(TP=150nm)のパターンとした。
サーボ部は最内周でのサーボ基本ビット長が90nm、総セクタ数が240、プリアンブル(45bit)/サーボマーク(10bit)/SectorCode(8bit)、CylinderCode(32bit)/Burstパターンで構成した。
サーボマーク部は“0000101011”であり、SectorがBinary、CylinderはGray変換を用いる。Burst部は一般的な位相バースト信号(16bit)である。
【0045】
−モールド構造体の作製−
次に、石英基板上に光硬化性アクリル系インプリントレジスト液(東洋合成工業株式会社製、PAK−01)を100nmの厚みとなるようにスピンコート法により塗布し、レジスト層を形成した。
次に、前記原盤をモールド構造体として使用し、UVナノインプリントを行った。UVナノインプリントでは、1MPaの圧力で5秒間加圧してパターン転写した後、25mJ/cmのUV光を10秒間照射してパターン硬化させた。
ナノインプリント後の凹凸レジストパターンを元に、以下に示すRIEにより選択エッチングを行い、石英基板上に凹凸形状を形成した。
・ プラズマ源:ICP型(Inductively Coupled Plasma)
・ ガス:CF系ガスとArガスを1:1、微量の水素ガス添加
・ 圧力:0.5Pa
・ 投入電力:ICP-300W、Bias-60W
その後、残存するレジストを可溶溶剤にて洗浄することで除去し、乾燥させて石英モールドを作製した。
得られたモールド構造体の凹部は、該凹部の配列方向における断面形状が、該凹部における底辺の両端部が中央部よりも陥没した略凸形状となっており、凹部の深さAは40nm、略凸形状の高さBは2nmであり、比率〔(B/A)×100〕は5%であった。尚、凹部の深さA及び略凸形状の高さBは、断面切片を切り出し、TEM(透過型電子顕微鏡)にて測長した。
【0046】
<剥離層形成>
作製したモールド構造体の凹凸面にウェット法により剥離剤層を形成した。剥離剤層材料としてはF13−OTCS(Tridecafluoro−1,1,2,2−tetrahydro−OctylTriChloroSilane)(Gelest社製)を用い、アサヒクリンAK225(旭硝子株式会社製)溶媒で0.1質量%の剥離層液を調製した。この剥離層液を用い、Dip法により1mm/sec.の引き上げ速度により、厚み5.25nmの剥離層を石英モールド上に形成した。
剥離層を形成したモールド構造体を90℃、80%RHの環境下に5時間暴露し、モールド構造体表面に剥離層材料を化学的に吸着させた(化学結合処理)。以上により、実施例1のモールド構造体を作製した。
【0047】
<磁気記録媒体中間体の作製>
2.5インチのガラス基板上に、以下のようにして、軟磁性層、第1非磁性配向層、第2非磁性配向層、磁気記録層、及び保護層をこの順に成膜した。軟磁性膜、第1非磁性配向層、第2非磁性配向層、磁気記録層、及び保護層はスパッタリング法で成膜した。なお、保護層上の潤滑剤層はディップ法で形成した。
まず、軟磁性層材料としてCoZrNbを厚みが100nmとなるように積層した。具体的には、ガラス基板をCoZrNbターゲットと対向させて設置し、Arガスを圧力が0.6Paになるように流入し、DC1,500Wで軟磁性層を成膜した。
次に、第1非磁性配向層としてPtを厚みが5nmとなるように積層した。具体的には、基板上に形成された軟磁性層をPtターゲットと対向設置し、Arガスを圧力が0.5Paになるように流入し、DC1,000Wで放電して、第1非磁性配向層を成膜した。
次に、第2非磁性配向層としてRuを厚みが10nmとなるように積層した。具体的には、基板上に形成された第1非磁性配向層をRuターゲットと対向させて設置し、Arガスを圧力が0.5Paになるように流入し、DC1,000Wで放電して、第2非磁性配向層を成膜した。
次に、磁気記録層としてCoPtCr−SiOを厚みが15nmとなるように積層した。具体的には、基板上に形成された第2非磁性配向層をCoPtCr−SiOターゲットと対向させて設置し、Arガスを圧力が1.5Paになるように流入し、DC1000Wで放電し、磁気記録層を成膜した。
磁気記録層を形成した後、基板上に形成された磁気記録層をCターゲットと対向させて設置し、Arガスを圧力が0.5Paになるように流入し、DC1,000Wで放電し、厚み4nmの保護層を成膜した。以上により、磁気記録媒体中間体を作製した。得られた磁気記録媒体中間体の保磁力は、334kA/m(4.2kOe)であった。
【0048】
<ナノインプリント及びディスクリート型垂直磁気記録媒体の作製>
作製した磁気記録媒体中間体に対して光硬化性アクリル系インプリントレジスト液(東洋合成工業株式会社製:PAK−01)を100nmの厚みとなるようにスピンコート法により塗布し、レジスト層を形成した。
得られたレジスト層付き磁気記録媒体中間体に対し、上記モールド構造体を対向させて配置し、磁気記録媒体中間体を1MPaの圧力で5秒間加圧してパターン転写した後、25mJ/cmのUV光を10秒間照射してパターン硬化させた。その後、モールド構造体と磁気記録媒体中間体を剥離して、磁気記録媒体中間体上のレジスト層に凹凸パターンを形成した。
その後、図13のCに示すように、凹凸部のパターンが転写されたインプリントレジスト層25をマスクにして、アルゴンイオンミリング法(Advanced Energy社製イオンガン、プロセス圧力=0.05Pa、投入電力=200W)によりエッチングを行い、インプリント用モールド構造体1上に形成された凹凸部3のパターン形状に基づく凹凸形状を磁性層50に形成し、凹部に非磁性材料70(SiOをCVD方式で形成)を埋め込み、表面を平坦化(CMP処理)した後、保護膜を形成(DLCからなる保護層をCVD方式で形成)して磁気記録媒体100を得た。以上により、実施例1のディスクリート型垂直磁気記録媒体を作製した。
【0049】
(実施例2〜8、及び比較例1、2)
実施例1において、表1に示すように、原盤のエッチング加工条件を変えて凹部の深さ及び凸形状高さに調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜8、及び比較例1、2のモールド構造体を作製した。
作製した各モールド構造体を用いて、実施例1と同様にして、インプリント法により磁気記録媒体を作製した。
【0050】
(実施例9)
実施例1と同様にして、凹凸パターンを有する原盤を作製した。但し、原盤作製時のイオンエッチングの条件は、ガスをCF系ガス:Ar=1:1、及び微量の水素ガスに変更した以外は、実施例1と同様にして、原盤を作製した。
次に、原盤11の表面の凹凸パターンをもとに、この表面にスパッタリング法により、導電膜を形成した。導電膜が形成された原盤を、下記組成のNi電鋳浴に浸漬させて50rpm〜150rpmの回転速度で回転させながら、電鋳処理を行い、厚み300μmのNi盤を作製した。その後、このNi盤を原盤から剥離し、残留するレジスト膜を除去し、洗浄した。以上により、実施例9のNiモールド構造体を作製した。
−Ni電鋳浴組成及び温度−
・スルファミン酸ニッケル・・・600g/L
・ホウ酸・・・40g/L
・界面活性剤(ラウリル硫酸ナトリウム)・・・0.15g/L
・pH=4.0
・温度=55℃
【0051】
得られたモールド構造体の凹部は、該凹部の配列方向における断面形状が、該凹部における底辺の両端部が中央部よりも陥没した略凸形状となっており、凹部の深さAは40nm、略凸形状の高さBは2nmであり、比率〔(B/A)×100〕は5%であった。なお、凹部の断面形状の調整は、原盤のエッチング加工条件を実施例1と同様にして行った。
【0052】
<磁気記録媒体の作製>
実施例1と同様に作製した磁気記録媒体中間体に対してPMMA樹脂からなるインプリントレジスト液を100nmの厚みとなるようにスピンコート法により塗布し、レジスト層を形成した。
得られたレジスト層付き磁気記録媒体中間体に対し、上記Niからなるモールド構造体を対向させて配置し、150℃に加熱した状態で3MPaの圧力で30秒間加圧してパターン転写した後、60℃まで冷却してパターン硬化させた。その後、モールド構造体と磁気記録媒体中間体を剥離して、磁気記録媒体中間体上のレジスト層に凹凸パターンを形成した。
次いで、形成した凹凸パターンをマスクとしてエッチングを行い、凹凸形状を磁気記録層に形成した。以上により、実施例9の垂直磁気記録媒体を作製した。
【0053】
(実施例10)
実施例1と同様にして、凹凸パターンを有する原盤を作製した。但し、原盤作製時のイオンエッチングの条件は、ガスをCF系ガス:Ar=1:1、及び微量の水素ガスに変更した以外は、実施例1と同様にして、原盤を作製した。
次に、PMMAからなる熱可塑性樹脂シートを対向して配置し、150℃に加熱した状態で3MPaの圧力で30秒間加圧してパターン転写した後、60℃まで冷却してパターン硬化させた。その後、モールド構造体と剥離することで、凹凸形状を有する樹脂モールド構造体1を得た。
得られたモールド構造体の凹部は、該凹部の配列方向における断面形状が、該凹部における底辺の両端部が中央部よりも陥没した略凸形状となっており、凹部の深さAは40nm、略凸形状の高さBは2nmであり、比率〔(B/A)×100〕は5%であった。なお、凹部の断面形状の調整は、原盤のエッチング加工条件を実施例1と同様にして行った。
作製した樹脂モールド構造体を用いて、実施例1と同様にして、インプリント法により磁気記録媒体を作製した。
【0054】
次に、実施例1〜10及び比較例1、2の各モールド構造体について、以下のようにして、耐久性、及びサイズ精度を評価した。更に、作製した各磁気記録媒体について以下のとおり、サーボ特性を評価した。結果を表1に示す。
【0055】
<耐久性の評価>
作製した各モールド構造体を用いて、基板側に形成した樹脂上に凹凸微細パターンを転写するプロセスを100回繰り返して実施し、該プロセス後に原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)を用いて、各モールド構造体の半径位置25mm箇所で90°毎に4箇所の1μm角エリアを測定し、目詰まり、パターン倒れの有無を下記の基準で評価した。
〔評価基準〕
○:凹部の深さが所定の40%未満のパターン、又はパターン倒れが1点もない。
×:凹部の深さが所定の40%未満のパターン、又はパターン倒れが1点以上存在する。
【0056】
<サイズ精度の評価>
作製した各モールド構造体を用いて、インプリントプロセス後のパターン幅と、エッチング後のパターン幅とを比較し、下記基準でサイズ精度を評価した。
〔評価基準〕
◎:幅の変化量が5%以下
○:幅の変化量が10%以下
×:幅の変化量が10%を超える
【0057】
<<サーボ特性の評価>>
作製した各磁気記録媒体について、再生トラック幅0.1μm、再生ギャップ0.06μmのGMRヘッドを搭載したハードディスク用磁気ヘッドテスタ(アイメス社製、BitFinder Model‐YS 3300)により、再生信号の位置誤差信号(PES)測定を行い、下記評価基準に基づいて、評価した。結果を表1に示す。
[評価基準]
◎:サーボフォローイングでき、かつPESがトラック幅の±10%以内の媒体
○:サーボフォローイングできたが、PESがトラック幅の±10%以上±20%以下の媒体
×:サーボフォローイングできなかった媒体
【0058】
【表1】

表1に示すように、パターン凹部の底辺が略凸形状である実施例1〜9のモールド構造体は、モールド耐久性に加え、サイズ精度も良好であり、ディスクリートトラックメディアや、パターンドメディアに高品質なパターンを転写形成するモールド構造体を提供することができた。
一方、パターン凹部が略凹形状である比較例1及び2では、モールド耐久性、サイズ精度とも評価基準を満たすことができず、サーボ特性も不十分な結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のモールド構造体及び該モールド構造体を用いたインプリント法は、耐久性に優れ、かつ基板に対する転写性が高く、イオンミリング法によって断面角型に近い高精細なパターンが得られるので、ディスクリートメディアの作製や、パターンドメディアの作製に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、本発明のモールド構造体の一例を示す部分斜視図である。
【図2】図2は、図1のA−A線での概略断面図である。
【図3】図3は、本発明のモールド構造体の別の概略断面図である。
【図4】図4は、本発明のモールド構造体の別の概略断面図である。
【図5】図5は、本発明のモールド構造体の別の概略断面図である。
【図6】図6は、本発明のモールド構造体の別の概略断面図である。
【図7】図7は、本発明のモールド構造体の別の概略断面図である。
【図8】図8は、本発明のモールド構造体の別の概略断面図である。
【図9】図9は、本発明のモールド構造体の製造方法における原盤の作製を示す工程図である。
【図10】図10は、本発明のモールド構造体の製造方法におけるモールドの作製を示す工程図である。
【図11A】図11Aは、モールド構造体の製造方法の他の一例を示す工程図である。
【図11B】図11Bは、モールド構造体の製造方法の他の一例を示す工程図である。
【図12A】図12Aは、モールド構造体の製造方法の更に他の一例を示す工程図である。
【図12B】図12Bは、モールド構造体の製造方法の更に他の一例を示す工程図である。
【図13】図13は、本発明のモールド構造体を用いて磁気記録媒体を製造する方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0061】
1 モールド構造体
2 基板
3 凹凸部
3a 凸部
3b 凹部
4 底辺
4a 中央部
4b 端部
24 インプリントレジスト層
40 磁気記録媒体用基板
50 磁性層
100 磁気記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板状の基板と、該基板の一方の表面に複数の凸部及び凹部が配列されたことによって形成された凹凸部を有するモールド構造体であって、
前記凹部の配列方向における断面形状が、該凹部における底辺の両端部が中央部よりも陥没した略凸形状であることを特徴とするモールド構造体。
【請求項2】
凹部の断面形状が、該凹部における底辺の両端部が中央部から漸次傾斜して陥没した略凸形状である請求項1に記載のモールド構造体。
【請求項3】
凹部の深さAと、凹部における底辺の略凸形状の高さBとの比率〔(B/A)×100〕が5%〜30%である請求項1から2のいずれかに記載のモールド構造体。
【請求項4】
石英、金属、及び樹脂のいずれかの材料からなる請求項1から3のいずれかに記載のモールド構造体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のモールド構造体を、磁気記録媒体用基板上に形成されたインプリントレジスト組成物からなるインプリントレジスト層に押圧して前記モールド構造体に形成された凹凸部に基づく凹凸パターンを転写する転写工程を少なくとも含むことを特徴とするインプリント方法。
【請求項6】
請求項5に記載のインプリント方法を用いて磁気記録媒体を製造する磁気記録媒体の製造方法であって、
転写され、硬化後のレジストパターンの凸部の配列方向における断面形状が、該凸部における頂辺の両端部が中央部より突出した略凹形状を有することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
磁気記録媒体用基板上に形成された凹凸パターンをマスクとして、イオンミリング法でエッチングを行う請求項6に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
請求項6から7のいずれかに記載の磁気記録媒体の製造方法によって作製されたことを特徴とする磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−310944(P2008−310944A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15174(P2008−15174)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】