説明

モールド用離型シート及びその製造法

【課題】 本発明は、シートを利用して半導体パッケージをモールドする際、シートを装着した側の金型の汚染を防止するモールド用離型シートを提供するものである。
【解決手段】 1層もしくは2層以上の層からなるプラスチックフィルムの少なくとも片面に多孔質層を形成してなるモールド用離型シート。多孔質層としては、微粒子積層膜が好ましく、その微粒子は、無機微粒子であること、また、その平均一次粒子径が1〜100nmであることが好ましい。多孔質層はその面積1mあたり0.02cc以上の空隙体積を有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は離型シートに関し、さらに詳しくは半導体パッケージのモールド時の離型を容易にするための離型シートでかつ金型汚染性の少ない離型シート及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップは通常、外気からの遮断・保護のため樹脂で封止されパッケージと呼ばれる成形品として基板上に実装される。半導体パッケージは封止樹脂の流路であるランナーを介して連結した1チップ毎の成形品として注入成形されている。近年、ボールグリッドアレイ(BGA)方式やクワッドフラットノンリード(QFN)方式などの実装が、パッケージの小型化、多ピン化の要請から用いられている。これら方式では端子がパッケージの底面に設置されるため、多数個のパッケージを成形する一括モールド法も提案されている。この方法は金型の低価格化、パッケージの生産性向上に有効である。
【0003】
従来、半導体パッケージの離型は、金型に設けたエジェクトピンによる突き出しによりなされるが、半導体パッケージにダメージを与える恐れがあり、このような突き出し機構によって金型が高価格になるという問題がある。また、上述の一括モールド法では、成形品が大きくなるため、離型がより困難となる。さらに、金型のキャビティ等に封入樹脂等が付着して汚れるために頻繁にクリーニングする必要があるなどの問題がある。
【0004】
これらの対策として、樹脂製シートを金型内に装着して離型を容易にすることが行なわれている(特許文献1参照)。また、QFN方式ではスタンドオフの確保および端子部への封止材のバリ発生を防止するため、やはり、樹脂製シートが金型内に装着して用いられる。ところが、これらの場合において、使用する樹脂製シートによってはシートを装着した側の金型を封止材中の成分によって汚染する場合がある。シートを使用する方法でシート装着側の金型が汚染した場合、クリーニングレジンを利用した清掃ができないため、金型清掃に大きな労力を必要とする。
【0005】
【特許文献1】特開2004−79567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、シートを利用して半導体パッケージをモールドする際、シートを装着した側の金型の汚染を防止するモールド用離型シート及びその製造法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、つぎのものに関する。
1. 1層もしくは2層以上の層からなるプラスチックフィルムの少なくとも片面に多孔質層を形成してなるモールド用離型シート。
2. 多孔質層が微粒子積層膜である項1記載のモールド用離型シート。
3. 多孔質層である微粒子積層膜が、交互積層法により作製されたものである項1記載のモールド用離型シート。
4. 微粒子積層膜を構成する微粒子が無機微粒子である項2又は3記載のモールド用離型シート。
5. 微粒子積層膜を構成する微粒子の平均一次粒子径が1〜100nmである項2〜4のいずれかに記載のモールド用離型シート。
6. 多孔質層の空隙体積が、多孔質層の面積1mあたり0.02cc以上である項1〜5のいずれかに記載のモールド用離型シート。
7. 多孔質層の空隙率が、20〜80%である項1〜6のいずれかに記載のモールド用離型シート。
8.1層もしくは2層以上の層からなるプラスチックフィルムの少なくとも片面に交互積層法により微粒子積層膜から成る多孔質層を形成することを特徴とするモールド用離型シートの製造法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るモールド用離型シートにおいて、プラスチックフィルムの少なくとも金型に接触する面に多孔質層を形成することで、封止材およびプラスチックフィルムに起因する異物を多孔質層で吸収するために、金型の汚染を低減することができる。これにより、金型清掃頻度を低減することができ、半導体パッケージの生産効率が向上する。
【0009】
微粒子積層膜は、上記多孔質層の機能を容易に発揮することができ、微粒子として無機微粒子を含むことで、多孔質層の硬度と耐熱性が向上し、パッケージ成型工程においても、多孔質構造を維持することが容易になる。また、微粒子の平均一次粒子径が1〜100nmと規定することで、比表面積を大きくすることができ、多孔質層の封止材およびプラスチックフィルムに起因する異物を吸着する性能を向上することができる。
【0010】
本発明に係るモールド用離型シートにおいて、微粒子積層膜を交互積層法により形成することで、多孔質層内の空隙の体積率を高めることができ、多孔質層が封止材およびプラスチックフィルムに起因する異物を吸収する性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明におけるモールド用離型シートは、パッケージ成形後に、そのパッケージと接触する面が剥離しやすいものである。たとえば、25mm幅、180℃、剥離角度180°、剥離速度2m/分の条件で測定したとき、好ましくは2N/25mm以下、より好ましくは0.5N/25mm以下、さらに好ましくは0.001〜0.1N/25mmである。パッケージ成形後の金型開放直後に自然に剥離する場合は、0N/25mmと認識できる。
また、同様に、上記モールド用離型シートは、パッケージ成形後、金型から剥離しやすいものである。特に、金型解放直後に自然に剥離するか、僅かな剥離力で剥離する物が好ましく、25mm幅、180℃、剥離角度180°、剥離速度2m/分の条件で測定したとき、好ましくは2N/25mm以下、より好ましくは0.5N/25mm以下、より好ましくは0.001〜0.1N/25mmである。パッケージ成形後の金型開放直後に自然に剥離する場合は、0N/25mmと認識できる。
【0012】
本発明におけるモールド用離型シートはプラスチックフィルム(基材)と多孔質層から形成される。このシートの金型と接触する層は、多孔質層からなり、その反対側の層(成形品と接触する層)は、プラスチックフィルム又は多孔質層からなる。
従って、本発明におけるモールド用離型シートにおけるプラスチックフィルム及び多孔質層は、それぞれ、パッケージの成型温度に対する耐熱性を有するものが使用される。例えば、パッケージの成型温度(例えば、150〜200℃)を越える融点又は分解点を有するものである。
また、基材であるプラスチックフィルムが直接パッケージ成形品に接触する場合には、パッケージ成形後に、そのパッケージと接触する面が剥離しやすいものである。たとえば、25mm幅、180℃、剥離角度180°、剥離速度2m/分の条件で測定したとき、好ましくは2N/25mm以下、より好ましくは0.5N/25mm以下、より好ましくは0.001〜0.1N/25mmである。パッケージ成形後の金型開放直後に自然に剥離する場合は、0N/25mmと認識できる。
【0013】
上記プラスチックフィルムの素材としては、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン系重合体、これをPTFEと略称する)、ポリエステル、ポリアミド、メチルペンテン、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド、ポリ(4−メチルペンテン−1)、シンジオタクチック・ポリスチレン、耐熱性を有するアクリル酸ポリマーおよび/またはメタアクリル酸ポリマーを主成分としたアクリル樹脂(例えばアクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリル酸ヒドロキシエチル等の重合物またはこれら2種以上の共重合物、さらにこれら重合物、共重合物と酢酸ビニルとの共重合物)、合成ゴム(例えば(ポリイソブチレン、ポリブタジエン)等がある。これらから、適宜、成形品との離型性のより良い樹脂が選ばれる。特に、アクリル樹脂では架橋を行なうことが好ましい。架橋の方法としては、アクリル樹脂配合物溶液に架橋剤を添加したものをフィルム状にし、加熱乾燥とともに熱架橋する方法が一般的である。架橋剤としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、トルイジンジイソシアネート(TDI)等のイソシアネート系架橋剤、メラミン、ベンゾグアナミン等のメラミン系架橋剤等がある。A層に用いるその他の樹脂としては、シリコーン樹脂が挙げられ、付加タイプ、縮合タイプのいずれのシリコーン樹脂も使用することができ、具体的には、例えば、ジメチルポリシロキサンとメチルハイドジェンポリシロキサンを有機錫等の触媒を用いて硬化させるシリコーン樹脂が挙げられる。また、紫外線、電子線等の放射線を利用して架橋することもできる。
【0014】
上記のプラスチックフィルムは、1層もしくは2層以上の層からなる。
前記した耐熱性を有するアクリル酸ポリマーおよび/またはメタアクリル酸ポリマーを主成分としたアクリル樹脂(例えばアクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸、アクリロニトリル、メタクリル酸ヒドロキシエチル等の重合物またはこれら2種以上の共重合物、さらにこれら重合物、共重合物と酢酸ビニルとの共重合物)、合成ゴム(例えば、ポリイソブチレン、ポリブタジエン)等からは、成形品から容易に剥離しやすいものを簡単に選択することができるが、これらはフィルム状に形態を保持する能力(自己支持性)に劣るため、支持フィルムに積層しておくことが好ましい。このように自己支持性が劣り、前記の耐熱性と成形品に対する剥離性を有する材料からなる層(A層)を使用する場合は、自己支持性のフィルム(支持体フィルム;B層)上に、積層して使用される。前記の耐熱性と成形品に対する剥離性を有し、しかも自己支持性を有する材料からなる層(A層)であっても、さらに、耐熱性の補強その他の役目を担う層(B層;最低限前記した耐熱性を有する)を積層してプラスチックフィルムとしてもよい。
B層としては、ポリエステル、ポリアミド、メチルペンテン、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド等がある。
【0015】
プラスチックフィルムの厚さは、特に制限はないが、25〜150μmであることが好ましい。
また、A層の厚みは特に限定されないが、0.1〜100μmであることが好ましい。
上記B層は、成形時にA層より金型に近く配置するようにする層である。B層の厚みは特に制限はないが、5〜50μmであることが望ましい。
プラスチックフィルム、又は、A層とB層は金型内面に設置され、その厚みはパッケージ肉厚に影響するため、大きすぎない方がよい。
【0016】
本発明に用いられるプラスチックフィルムは、次のようにして製造することができる。
例えば、押出機を用いて1層のプラスチックフィルムを得ることができる。また、T型ダイやインフレーション用ダイをもつ押出機を用いて、共押出法により各層を所定の厚さをもつシートに加工し各層をラミネートして2層以上の層からなるプラスチックフィルムを作製することもできる。ラミネートにあたっては必要に応じて適切な接着剤を介することやコロナ放電処理等の表面処理を施すこともある。また、溶剤に溶解し又は加熱溶融したA層材料を、B層に塗布することにより2層のプラスチックフィルムを作製することもできる。
【0017】
本発明のモールド用離型シートは多孔質層を有することを特徴とする。
この多孔質層は、前記したとおり耐熱性を有するものであり、また、金型からの剥離性を有するものであるが、さらに、汚染抑制機能を有する。
この汚染抑制機能は、多孔質層が有する空孔、空隙等に汚染源となる樹脂成分を吸収・吸着させ、さらに保持する機能である。この多孔質層は汚染源となる樹脂成分を吸収・吸着することにより、金型材料の汚染を抑制する。
金型は、モールド時にモールド用離型シートの構成材料であるプラスチックフィルムや封止剤に含まれ、また、発生する金型の汚染源となる樹脂成分が付着することにより汚染される。金型とプラスチックフィルムの間に多孔質層が配置されるようにプラスチックフィルム上に多孔質層を形成することで、金型の汚染源となる樹脂成分を多孔質層の内部の空孔、空隙等により捕捉させることができる。
【0018】
この汚染源となる樹脂成分は、例えば、ポリエチレンフィルムからはエチレンオリゴマーが、ポリスチレンからはスチレンオリゴマーが、ポリエステルフィルムからはエステルオリゴマーが、ポリエチレンテレフタレートからは環状の3量体オリゴマーなどであり、封止剤からはポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸無水物、エポキシ樹脂などであるが、このような樹脂成分で分子量が数百程度ものが、主に、金型の汚染源となると考えられる。
【0019】
汚染源を捕捉するためには多孔質層の空隙の体積は、面積1mあたり0.02cc以上が望ましい。汚染源となる樹脂成分を吸収しきれば良いため、面積1mあたりの微粒子積層膜が有する空隙の体積は、0.02cc〜2.0ccでも良い。
汚染源となる樹脂成分を吸収するために、多孔質層の内部の空隙率は20%以上80%以下が好ましい。空隙率が20%未満では、汚染源となる樹脂成分の捕捉性能が不十分になる傾向があり、また、80%よりも大きいと、膜としての形状を留めておくことが困難となる傾向があり、膜強度の観点から空隙率は70%以下であることがより好ましい。
また、多孔質層内の空孔・空隙は、多孔質層の厚さ方向に繋がっていることが好ましく、特に、表面から裏面(基材側の面)まで連続してつながっていることが好ましい。
このような多孔質層の汚染源の捕捉性能は、毛細管現象により発揮されるものと考えられる。
【0020】
多孔質層は金型から離型しやすいものが選ばれるが、そのために金型材料と親和性の低い無機材料を用いて多孔質層を構成することが好ましい。
プラスチックフィルムや封止材からの汚染物質は多孔質層に吸収され、その層を通過して金型の界面に達することはないため、多孔質層表面の金型に対する剥離性は、成型後も保持される。
【0021】
本発明に係るモールド用離型シートは、プラスチックフィルムに多孔質層を積層したものであり、この層を金型に接触させるように使用する。前記のA層とB層を含むプラスチックフィルムの場合、多孔質層は、少なくとも、プラスチックフィルムのB層側の表面に積層される。
本発明に係るモールド用離型シートには、さらに、成形品に接する面にも多孔質層を設けて良い。この場合、多孔質層は、成形品から剥離しやすいものであるが、無機材料により多孔質層を形成することにより、そのような特性を確保しやすくなる。
また、この場合、モールド用離型シートにおいて、プラスチックフィルムが、多孔質層から剥離するものであってもよい。この場合、成形後プラスチックフィルムを剥離したときには、成形品表面に多孔質層が残存することになるが、多孔質層の素材としては、残存しても製品に悪影響のない材料(例えば、シリカ等)を選ぶことが好ましい。また、成形品表面に残存した多孔質層は、酸、アルカリにより容易に溶解し、除去することができるものが好ましい。
【0022】
多孔質層は、上記の何れの場合もその厚みは特に限定されないが、0.1〜10μmであることが好ましく、0.2〜5μmがさらに好ましく、0.3〜3μmが最も好ましい。多孔質層の厚みが0.1μm未満の場合は、汚染源を捕捉するためには多孔質層の空隙の体積を確保しにくくなる。また、多孔質層の厚みは汚染源を捕捉するために十分な厚みがあれば良いため、10μm以下で十分である。厚みは10μmを越えてもよいが膜形成が難しくなる傾向がある。
【0023】
前記した多孔質層の好ましい例としては、微粒子を積層して得られる微粒子積層膜がある。その微粒子積層膜は、金型からの剥離性及び成型時の耐熱性を有するものを容易に選択使用することができる。
微粒子の一次粒子径が1〜100nmの場合、このような微粒子を積層することで、微粒子積層膜の内部に1〜100nmのサイズの空隙を導入できる。この微粒子積層膜の内部の空隙は、微粒子積層膜の表面から裏面(基材側の面)まで連続してつながっている。
1〜100nmのサイズの連続した空隙は毛細管現象を起こす。そのため、微粒子積層膜の内部の空隙は、接触した汚染源を吸収できる。特に、主な金型汚染源となる分子量数百程度の樹脂成分は、多くの樹脂材料や無機材料にぬれ広がるため、空隙に毛管現象により吸収される。モールド時に気化した汚染源となる樹脂成分は、空隙の内壁に吸着する。そのため、多孔質層の空隙内部の表面積は大きいほど、揮発した樹脂成分を多く吸着できる。ただし、空隙のサイズが小さいほど空隙内部の表面積は大きくなるため、空隙のサイズは100nm以下が望ましい。
空隙のサイズはガス吸着法により評価できる。まず、温度一定の多孔質層に窒素を吸着させて吸着平衡後の窒素吸着量を測定し、窒素の圧力を変化させながら測定を繰り返すことで多孔質層の窒素の吸着等温線を得る。次いで、例えば、空隙の形状を円筒形だと仮定し(BJH法)、円筒の体積を縦軸、円筒の半径を横軸にした細孔分布を吸着等温線から算出する。その結果、どの半径の円筒形の空隙が最も体積を占めて存在するかがわかる。この空隙体積が最大となる空隙の半径は、多孔質中に存在する代表的な空隙のサイズとして評価できる。また、前記の細孔分布に最大値が現れない際等に、次のようにして空隙のサイズを評価することもできる。まず、吸着等温線を測定し、BETプロットすることで比表面積を求める。次いで、窒素の相対圧が1に近い状態での窒素吸着量に、すなわち多孔質層中の全空隙体積に、2をかけて前記の比表面積で割ると、平均細孔半径が求められる。この計算は空隙が平均細孔半径の円筒のみからなると仮定したものである。この平均細孔半径も多孔質中に存在する代表的な空隙のサイズとして評価できる。
【0024】
汚染源となる樹脂成分を吸着・吸収するために、面積1mあたりの微粒子積層膜が有する空隙の体積は0.02cc以上が望ましい。樹脂成分を吸収しきれば良いため、面積1mあたりの微粒子積層膜が有する空隙の体積は、0.02cc〜2.0ccでも良い。
汚染源となる樹脂成分を吸収するために、微粒子積層膜の内部の空隙率は20%以上80%以下が好ましい。空隙率が20%未満では、汚染源となる樹脂成分の捕捉性能が不十分になる傾向があり、また、80%よりも大きいと、粒子間の結着が不十分なために、膜としての形状を留めておくことが困難となる傾向があり、膜強度の観点から空隙率は70%以下であることがより好ましい。なお、均一な球状の粒子が理想的に最密充填されたときの空隙率は26%(面心立方格子構造)である。
前記微粒子積層膜の厚みは、上記の空隙の体積を与えるのに必要なだけあれば良い。例えば、空隙率30%の微粒子積層膜は70nm以上の厚みがあれば、0.02cc/mの空隙体積を有することができる。0.02cc〜2.0ccの空隙体積を得るために必要な微粒子積層膜の厚みは、空隙率30%の場合は70nm〜7μmで良く、空隙率60%の場合は35nm〜3.5μmあれば良い。
【0025】
一次粒子径の小さな微粒子を疎に積層することで、空隙率を向上することができる。空隙率が高まる理由は、サイズの大きな空隙の存在する割合が高まるためである。さらに詳述すると、微粒子の積層は、溶媒中に分散した微粒子を基材に吸着させる、または微粒子が分散した溶媒を基材上で乾燥させる等の方法で、行うことができる。この時、溶媒中の微粒子の分散状態を制御することで、微粒子積層膜の内部の空隙分布を制御できる。例えば、凝集剤を添加する、もしくは分散剤を除くなどにより、一次粒子径の小さな微粒子を溶媒中で二次粒子に凝集させた場合、二次粒子内部には一次粒子が近接していない空隙が発生する。そのため、この微粒子を積層した場合には、一次粒子同士の間の小さなサイズの空隙と、二次粒子内部で一次粒子同士が近接していない中程度のサイズの空隙と、二次粒子同士の間の大きなサイズの空隙が微粒子積層膜中に導入される。
また、微粒子を積層する際に、微粒子分散溶媒を基材に複数回接触させることで、微粒子の吸着を複数回繰り返したり、微粒子分散溶媒の塗布と乾燥を繰り返して微粒子積層膜を形成したりする場合、微粒子は大きな空隙を埋めるように積層配置される。そのため、厚み方向に空隙が連続して重なることがなく、サイズが小さくなる部分が配置される。つまり、分子量の比較的小さな樹脂成分は、空隙サイズの小さい部分が妨げになって、空隙サイズのより大きな部分に留まる。このようにして、微粒子積層膜は比較的分子量の大きな樹脂成分から分子量の比較的小さな樹脂成分まで吸着・吸収できる。
【0026】
微粒子にモールド時の温度や圧力で変形しないものを用いることで、微粒子積層膜の空隙はモールド時に汚染源となる樹脂成分を吸収できる。そのような微粒子の材料には無機物が望ましい。
【0027】
微粒子の形状は特に限定されず、微粒子がプラスチックフィルムに積層された際に多孔質構造(上記の空隙)を有すれば良い。
【0028】
微粒子積層膜の形成方法は特に限定されず、公知の方法で形成することができる。例えば、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、リバースロール・コート法、キス・コート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、カーテン・コート法、スピンコート法、ディップコート法、交互積層法などを採用することができる。これらの方法を単独であるいは組み合わせて行うことができる。
多孔質層の形成方法にディップコート法、交互積層法などを採用する場合には、1層もしくは2層以上の層からなるプラスチックフィルムの片面にカバーフィルムを設置することで、カバーフィルムの反対面にのみ多孔質層を形成することができる。
【0029】
本発明において、このような空隙を有する微粒子積層膜の形成方法としては、形成された微粒子積層膜の空隙率を予め決定できることから、交互積層法を用いることが好ましい。
【0030】
上記の交互積層法は、次のようにして行うことができる。
プラスチックフィルムを高分子電解質溶液(ポリカチオンまたはポリアニオン)と微粒子分散溶液に交互に浸し、微粒子積層膜をプラスチックフィルム上に作製する。
プラスチックフィルムの表面電荷がマイナスであれば、はじめにカチオン性の溶液に浸漬する。逆に、プラスチックフィルムの表面電荷がプラスであれば、はじめにアニオン性の溶液に浸漬する。浸漬時間はポリマーや微粒子、積層したい膜厚によって適宜調整する。微粒子積層膜が、適当な膜厚になるまで、高分子電解質溶液と微粒子分散溶液への浸漬を交互に繰り返す。反対電荷を有する溶液又は分散液に浸漬する前に溶媒のみのリンスによって余剰の溶液を洗い流す工程を経ることが好ましい。微粒子積層膜が、適当な膜厚になるまで、高分子電解質溶液と微粒子分散溶液への浸漬を交互に繰り返す。また、積層された高分子電解質や微粒子が膜を形成しているが、互いに静電的に吸着しているために、このリンス工程で剥離することはない。また、リンス工程は、反対電荷の溶液に、静電的に吸着していない高分子電解質または微粒子、言い換えれば、分子間力などの弱い結合によって吸着しており、脱離しやすいものを次の作業又は工程に持ち込むことを防ぐために、リンス工程は、行った方が好ましい。反対電荷を有する物質を次の作業又は工程に持ち込むことによって溶液内でカチオン、アニオンが混ざり、沈殿を起こすことがある。高分子電解質溶液への浸漬後にリンス工程を行うことによって、微粒子の間に入り込んだ余分の高分子電解質を取り除く効果がある。
【0031】
上記の交互積層法において、高分子電解質又は微粒子の層の形成は、これらを含む溶液又は分散液のプラスチックフィルムへの浸漬により行う場合を説明したが、このような場合に限らず、上記の溶液又は分散液が、プラスチックフィルムに接触して膜を形成することができる方法であればよい。具体的には、スプレー、キャスト、バーコートなどを用いて、プラスチックフィルム上に液膜を形成することができる。これらの場合も、その後、リンスすることで吸着しない余剰の高分子電解質または微粒子を洗い流すという工程を行うことが上記と同様の意味で好ましい。
【0032】
高分子電解質の濃度は、溶媒に対する高分子電解質の溶解度及びによって適宜決定されるが、適正な濃度よりも高濃度であると、リンス工程で余剰の溶液を洗い流しにくくなるために、空隙を埋めてしまう。また低濃度すぎると、吸着するプラスチックフィルムの面積に対して、溶質である高分子電解質の量が十分でないため、交互積層による膜形成ができない。
高分子電解質の濃度及び微粒子の濃度は、それぞれ、0.00001重量%以上30重量%以下の範囲から適宜選択することが好ましく、0.001重量%以上20重量%以下がさらに好ましく、0.01重量%以上10重量%以下が特に好ましい。高分子電解質溶液及び微粒子分散液による浸漬時間は、それぞれ、1秒間以上120分間以下の間で適宜選択することが好ましく、10秒間以上300秒間以下の範囲であることがより好ましい。
形成された、微粒子積層膜の中に含まれる、高分子電解質の比率は、1重量%以下であり、微粒子間の空隙を埋めるものではない。
【0033】
空隙率の調整は、微粒子積層膜の作製時に使用する微粒子分散液のpHを調整する方法(pHを3〜9に調整すると空隙率は比較的高く、それ以外の範囲では空隙率が比較的低くなるように制御される)等、微粒子の表面電位を調整することにより行うことができる。微粒子の表面電位の制御方法は、特開2006−301125号公報、特開2006−297680号公報、特開2006−301124号公報に記載の方法を用いることができる。
【0034】
本発明における微粒子としては、無機微粒子があるが、具体的は、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、シリコン、錫、チタン、ジルコニウム、イットリウム、ビスマス、ニオブ、セリウム、コバルト、銅、鉄、ホルミウム、マンガン等のハロゲン化物や酸化物などが使用されるが、さらに具体的には、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化アルミニウム(AlF)、酸化アルミニウム(Al)、酸化亜鉛(ZnO)、インジウムスズ酸化物(ITO)、シリカ(SiO)、酸化スズ(SnO)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化イットリウム(Y)、酸化ビスマス(Bi)、酸化ニオブ(Nb)、セリア(CeO)、酸化コバルト(CoO)、銅(CuO)、鉄(Fe)、ホルミウム(Ho)、マンガン(Mn)等が挙げられ、これらは単独で又は二種類以上を混合して使用することができる。微粒子は不定型であっても良いし、取り得る結晶型に特に制限はない。例えば、TiOは、ルチル型でもアナターゼ型でも良い。このような無機微粒子の市販品としては、例えば、多木化学(株)製のチタニア微粒子水分散液(タイノックM−6)、住友大阪セメント(株)製の酸化亜鉛微粒子水分散液(ZnO−350)、多木化学(株)製のセリア微粒子水分散液(ニードラールP10)、多木化学(株)製の酸化錫微粒子水分散液(セラメースS−8)、多木化学(株)製の酸化二オブ微粒子水分散液(バイラールNB−X10)、日産化学工業(株)製のアルミナ微粒子水分散液(アルミナゾル−5)、日産化学工業(株)製のシリカ微粒子水分散液(スノーテックス(ST)20)等が利用できる。上記の無機微粒子の中でも、安価な材料としてシリカ(SiO)が好ましい。
【0035】
本発明における微粒子として、ポリマー微粒子も用いることができ、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、アクリル系ポリマー、シリコンポリマー、フェノール樹脂、ポリアミド、天然高分子を挙げることができ、これらは単独で又は二種類以上を混合して使用することができる。それらは液相から溶液噴霧法、脱溶媒法、水溶液反応法、エマルション法、懸濁重合法、分散重合法、アルコキシド加水分解法(ゾル−ゲル法)、水熱反応法、化学還元法、液中パルスレーザーアブレーション法などの製造方法で合成される。ポリマー微粒子の市販品としては、例えば、ミストパール(荒川化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0036】
微粒子分散液を用いて前記の方法で膜を形成することで多孔質層を形成することができる。例えば、バーコート法で微粒子積層膜を形成する場合は、微粒子分散液をそのままコートしても良く、微粒子分散液にバインダー樹脂を混ぜた溶液をコートしても良い。また、交互積層法を用いて、すなわち、微粒子分散液を吸着させる工程と電解質ポリマーを吸着させる工程を交互に繰り返すことで、微粒子積層膜を形成しても良い。いずれの方法でも、微粒子積層膜が形成でき、微粒子積層膜中に多孔質構造を導入することができる。
【0037】
微粒子積層膜が多孔質であることは、屈折率から確認することができる。シリカ膜からなる微粒子積層膜(多孔質層)をシリコンウエハ上に前記のいずれかの方法により形成し、自動エリプソメータ(ファイブラボ(株)製、MARY−102)にて屈折率と膜厚を測定した結果、シリコンウエハ上のシリカ膜の屈折率は波長632.8nmでは1.20〜1.40であった。また、このシリカ膜が形成したシリコンウエハの表面反射スペクトルを瞬間測光分光光度計(フィルメトリクス(株)製、F20)にて測定し、反射率分光法及びカーブフィット法を組み合わせた解析プログラムにより屈折率を求めた。その結果、シリコンウエハ上のシリカ膜の屈折率は波長400〜800nmでは1.20〜1.40であった。
なお、シリカ膜の膜厚は、自動エリプソメータと瞬間分光光度計のような光学測定と解析により評価できる。プラスチックフィルムが平坦ではなく、光を散乱する場合には、そのプラスチックフィルムに形成したシリカ膜の膜厚は赤外線吸収により測定しても良い。まず、シリコンウエハ上のシリカ膜の膜厚を光学測定と解析から評価し、シリカ膜の赤外線吸光度を測定することで、シリカ膜の赤外線吸光度と膜厚の関係を評価する。次いで、プラスチックフィルム上のシリカ膜の赤外線吸光度を測定し、前記の吸光度と膜厚の関係から膜厚を算出することができる。
【0038】
シリカ膜からなる微粒子積層膜の屈折率が低い理由は、シリカ膜が空隙を有する(多孔質層である)からである。一方、蒸着法によりシリカ膜をシリコンウエハ上に形成し、前記の方法で屈折率を評価すると、シリコンウエハ上のシリカ膜の屈折率は400〜800nmでは1.48であった。蒸着法やスパッタ法により得られるシリカ膜は粒子間空隙を有する多孔質層にならないと考えられる。このシリカ膜をバルク状のシリカ膜ということにすると、バルク状のシリカ膜の屈折率は1.48となる。下記の空隙率を求める式によるとバルク状のシリカ膜の空隙率は0ということになる。なお、本明細書において、バルク状の膜とは蒸着法やスパッタ法により得られる膜をいう。
【0039】
多孔質層の内部に含まれる空気の体積率(空隙率ρ)は次式から求めることができる。
【数1】

(ただし、式中、nは微粒子積層膜(多孔質層)等の空隙率を測定する対象の膜の屈折率、nは微粒子を構成する物質のバルク状の膜の屈折率、nは空気の屈折率=1.0を示す。)(薄膜・光デバイス、吉田貞史、矢嶋弘義著、東京大学出版会、pp.34−37、1994年9月20日発行、参照)。例えば、シリカ膜からなる微粒子積層膜(多孔質層)の屈折率が1.3であれば、空隙率ρは42%となる。これより、この空隙率42%の微粒子積層膜(多孔質層)が厚さ0.6μmの時、面積1mの微粒子積層膜(多孔質層)が有する空隙体積は0.25cc(=0.6×10−4×1×10×0.42cc)であることもわかる。
【0040】
多孔質層の空隙はSEM(走査型電子顕微鏡)、TEM(透過型電子顕微鏡)やAFM(原子間力顕微鏡)による観察でも評価できる。例えば、多孔質層の内部の空隙が、多孔質層の表面から裏面(基材側面)まで連続してつながっている場合、まずSEMもしくはAFMにより多孔質層表面に空孔やへこみが観察される。また、TEMにより多孔質層の断面を観察すると、空隙がつながっていること、及び空隙のサイズが評価できる。
【0041】
多孔質層は微粒子積層膜に限らず、空隙を有する限り同様の効果をもたらす。シリカエアロゲルのように空隙を体積率90%以上も含む多孔質層や、多孔質SOG、フッ化マグネシウムの多孔質膜のような無機材料の多孔質膜を用いることができる。または、フッ素モノマーの重合体からなる微粒子を融着させた多孔質材料も用いることができる。これらの多孔質膜の作製に焼成を必要とする場合は、焼成温度をプラスチックフィルムの耐熱性のある範囲内にすることが望ましい。
【0042】
1層もしくは2層以上の層からなるプラスチックフィルムはパッケージ成形時の加熱・加圧により汚染源となる樹脂成分を溶出する。本発明のモールド用離型シートが有する多孔質層は、プラスチックフィルムから溶出される樹脂成分を多孔質内部の空隙中に吸収することができ、その結果、金型の汚染を抑制することができる。また、封止剤に含まれる樹脂成分がプラスチックフィルムを透過した場合に金型の汚染源となることがあるが、多孔質層により汚染源となる封止剤成分を吸収することで金型汚染を抑制することができる。この多孔質層は毛細管現象により樹脂成分を空隙中に吸収するため、樹脂成分の種類に関わらず吸収する。そのため、プラスチックフィルムを構成する層のいずれから溶出する樹脂成分も、さらには、封止剤に含まれる樹脂成分も多孔質層は吸収する。なお、プラスチックフィルムから溶出される樹脂成分や封止剤から溶出される樹脂成分は、液体状態に限らず、気体状態も含まれる。液体状態の樹脂成分も気体状態の樹脂成分もこの多孔質層は毛細管現象により吸収する。
【0043】
多孔質層が白濁している場合は測定した反射率から屈折率を求めることができず、光学的解析から多孔質層が有する空隙率及び空隙体積を評価することはできない。また、多孔質層を形成するプラスチックフィルムが白濁している場合でも、光学的解析から多孔質層が有する空隙率及び空隙体積を評価することができない。
このような場合、ガス吸着法により多孔質層内の空隙体積を評価すると良い。吸着ガスには窒素、アルゴン、クリプトンガス、二酸化炭素を用いることができる。これらのガスを多孔質層に吸着させ、吸着等温線を測定する。この吸着等温線を解析することで、多孔質内の空隙直径に対する空隙体積の分布が測定できる。なお、解析上、空隙は細孔とみなされる。毛管凝縮現象が起きる2〜100nmの空隙直径の範囲で空隙容積を積分することで、多孔質層が有する空隙の総体積を評価することができる。また、ガスの相体圧が十分に1に近い状態、すなわち飽和蒸気圧付近の圧力にて、吸着ガスの量を測定し、液体に換算することで多孔質層内の空隙の総体積を求めても良い。また、ガス吸着法と同様な評価方法として水銀圧入法を用いても良い。
【0044】
微粒子の粒子径は特に限定されないが、プラスチックフィルムから溶出した汚染源となる樹脂成分や封止剤からの汚染源を毛細管現象により空隙中に吸収させる観点から、比表面積を増加させるために、微粒子の一次粒子径は1〜100nmであることが好ましく、5〜50nmであることがさらに好ましい。
【0045】
ゾルゲル法によって内部に空隙を有する多孔質層を形成しても良い。公知のSOG(スピンオンガラス)塗布方法を利用して、ケイ酸化合物を有機溶剤に溶かしたSOG材料をプラスチックフィルムに塗布し、200℃で熱処理することで内部に空隙を有するSiO2膜を得ることができる(特開2003−158125号公報参照)。これより、空隙率40%で厚みが2μm以下の多孔質層が得られる。
【0046】
本発明に係るモールド用離型シートを用いるパッケージ成形工程を以下に示す。パッケージ成形工程では多孔質層を金型面に向けて金型内にモールド用離型シートをセットし、必要に応じてバキューム等により金型内面に密着させる。型締めを行い、封止樹脂をトランスファーモールド法等により金型内に注入する。一定時間の保持の後、型を開き成形品を取り出す。使用するシートはロール状としておき、1回の成形が完了した段階でシートを金型の大きさだけ巻取り、金型内に新しいシートが供給されるようにすることが好ましい。
【0047】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明の範囲はこれら実施例によって何等限定されるものではない。
【実施例1】
【0048】
A層としてアクリル樹脂(帝国化学産業(株)製:WS−023)100重量部に対し、架橋剤としてコロネートL(日本ポリウレタン工業(株)商品名)を5重量部添加したものを15%のトルエン溶液とし、B層である40μmのPETフィルムをコロナ処理した後、ロールコータを用いて、乾燥後の厚みが15μmになるように塗工乾燥してA層を形成し、2層のプラスチックフィルムを得た。
この2層のプラスチックフィルムに、以下に示す交互積層法によりシリカ膜を形成した。BET法で測定した平均一次粒子径が15nmのシリカ微粒子が分散したシリカ水分散液(スノーテックス(ST)20、日産化学工業(株)製)を6.6重量部に対して、超純水93.4重量部を加えてシリカゾルとして用いた。重量平均分子量100,000〜200,000のポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)20%水溶液(アルドリッチ(株)製)1.5重量部に対して超純水98.5重量部を加え、水酸化ナトリウム1規定水溶液を加えてpH9に調整したものを電解質ポリマー水溶液として用いた。2層のプラスチックフィルムを、電解質ポリマー水溶液に1分間浸漬し、リンス用の超純水に3分間浸漬する工程(ア)、シリカゾルに1分間浸漬した後、リンス用の超純水に3分間浸漬する工程(イ)をこの順に施した。この工程(ア)1回と工程(イ)1回を順に行うのを1サイクルとし、このサイクルを11回(微粒子交互積層回数)行い、2層のプラスチックフィルムにシリカ膜を形成し、シリカ膜/A層/B層/シリカ膜からなるモールド用離型シートを得た。
前記と同じ条件でシリコンウエハにシリカ膜を形成し、自動エリプソメータ(ファイブラボ(株)製、MARY−102)にて屈折率と膜厚を測定した結果、シリカ膜の屈折率は波長632.8nmでは1.30であり、膜厚は110nmであった。これより、シリカ膜からなる多孔質層の空隙率が42%であり、面積1mの多孔質層が有する空隙体積は0.05ccであることがわかった。
この半導体モールド用離型シートを、下型に半導体ベアチップをセットしたトランスファーモールド金型の上型に装着し、真空で固定した後、型締めし、封止材をトランスファーモールドした。金型温度は180℃、成形圧力1.96MPa(20kgf/cm2)、成形時間90秒とした。成形後に上型の真空吸引孔を大気圧に戻した後、金型を開放すると、この半導体モールド用離型シートは金型から自然に剥離した。成形品に付着している半導体モールド用離型シートを、180℃にて剥離角度180°剥離速度2m/分で剥離すると、0.01N/25mmの剥離力で剥離した。以上の工程を1回の成形試験とした。1回の成形試験が終了するごとに半導体モールド用離型シートを新しいものと取り替えさらに9回成形を行ったところ、各回の成形毎に上記と同様の結果が得られた。
また、異物試験を次のようにして行った。金型と離型シートの間にハードクロムめっきされたステンレス板をハードクロムめっき面が離型シート側を向くように挿入し、半導体モールド用離型シートを毎回新しいものと取り替えながら(ただし、ハードクロムめっきされたステンレス板はそのままにして取り替えずに)、上記の成型試験を続けて10回行った。この後ハードクロムめっきされたステンレス板のハードクロム表面を5000倍の倍率で任意に22箇所(1カ所の面積0.00046mm)について走査型電子顕微鏡(エフイーアイカンパニィ(FEI Company)製 XL30 ESEM)にて観察し、直径0.5μm以上の異物数を数えた。その結果、上記ステンレス板のハードクロムめっき表面には観察総面積(0.01mm)に対して最大長さが0.5μm以上の異物が、何個付着しているかを調べた。この異物試験の結果、異物数は、10個であった。また、異物をエネルギー分散型蛍光X線(EDX)分析装置にて元素分析した結果、炭素のピークが強く現れ、異物が有機物からなることがわかった。
【実施例2】
【0049】
実施例1と同様に2層からなるプラスチックフィルムを得た。
微粒子交互積層回数を15回としたこと以外は、実施例1と同様にシリカ膜/A層/B層/シリカ膜からなるモールド用離型シートを得た。
微粒子交互積層回数を80回としたこと以外は、実施例1と同様にシリコンウエハにシリカ膜を形成し、実施例1と同様に屈折率と膜厚を測定した結果、シリカ膜の屈折率は波長632.8nmでは1.30であり、膜厚は800nmであった。これより、シリカ膜からなる多孔質層の空隙率が42%であり、面積1mの多孔質層が有する空隙体積は0.34ccであることがわかった。
前記モールド用離型シートを用いて、実施例1と同じ条件で成形試験を行なった。成形後に上型の真空吸引孔を大気圧に戻した後、金型を開放すると、この半導体モールド用離型シートは金型から自然に剥離した。成形品に付着している半導体モールド用離型シートを、180℃にて剥離角度180°剥離速度2m/分で剥離すると、0.01N/25mmの剥離力で剥離した。また、半導体モールド用離型シートにシワは見られず、破れも見られなかった。以上の工程を1回の成形試験とした。1回の成形試験が終了するごとに半導体モールド用離型シートを新しいものと取り替え、さらに9回成形を行ったところ、各回の成形毎に上記と同様の結果が得られた。
また、実施例1と同様にして異物試験を行った。その結果、異物数は1個であった。異物をEDX分析装置にて元素分析した結果、炭素のピークが強く現れ、異物が有機物からなることがわかった。
【実施例3】
【0050】
実施例1と同様に2層からなるプラスチックフィルムを得た。
BET法で測定した平均一次粒子径が8nmのシリカ微粒子が分散したシリカIPA分散液(IPA−ST−UP)を33重量部に対して、IPA67重量部を加えてシリカゾルとして用いた。2層のプラスチックフィルムにシリカゾルをバーコートし、A層/B層/シリカ膜からなるモールド用離型シートを得た。
前記と同じ条件でシリコンウエハにシリカ膜を形成し、実施例1と同様に屈折率と膜厚を測定した結果、シリカ膜の屈折率は波長632.8nmでは1.22であり、膜厚は1000nmであった。これより、シリカ膜からなる多孔質層の空隙率が59%であり、面積1mの多孔質層が有する空隙体積は0.59ccであることがわかった。
前記モールド用離型シートを用いて、実施例1と同じ条件で成形試験を行なった。成形後に上型の真空吸引孔を大気圧に戻した後、金型を開放すると、この半導体モールド用離型シートは金型から自然に剥離した。成形品に付着している半導体モールド用離型シートを、180℃にて剥離角度180°剥離速度2m/分で剥離すると、0.01N/25mmの剥離力で剥離した。また、半導体モールド用離型シートにシワは見られず、破れも見られなかった。以上の工程を1回の成形試験とした。1回の成形試験が終了するごとに半導体モールド用離型シートを新しいものと取り替え、さらに9回成形を行ったところ、各回の成形毎に上記と同様の結果が得られた。
また、実施例1と同様にして異物試験を行った。その結果、異物数は1個であった。異物をEDX分析装置にて元素分析した結果、炭素のピークが強く現れ、異物が有機物からなることがわかった。
【実施例4】
【0051】
実施例1と同様に2層からなるプラスチックフィルムを得た。
BET法で測定した平均一次粒子径が8nmのシリカ微粒子が分散したシリカIPA分散液(IPA−ST−UP)を67重量部に対して、IPA33重量部を加えてシリカゾルとして用いた。2層のプラスチックフィルムにシリカゾルをバーコートし、A層/B層/シリカ膜からなるモールド用離型シートを得た。
実施例1と同様にシリコンウエハにシリカ膜を形成し、実施例1と同様に屈折率と膜厚を測定した結果、シリカ膜の屈折率は波長632.8nmでは1.22であり、膜厚は3000nmであった。これより、シリカ膜からなる多孔質層の空隙率が59%であり、面積1mの多孔質層が有する空隙体積は1.77ccであることがわかった。
前記モールド用離型シートを用いて、実施例1と同じ条件で成形試験を行なった。成形後に上型の真空吸引孔を大気圧に戻した後、金型を開放すると、この半導体モールド用離型シートは金型から自然に剥離した。成形品に付着している半導体モールド用離型シートを、180℃にて剥離角度180°剥離速度2m/分で剥離すると、0.01N/25mmの剥離力で剥離した。また、半導体モールド用離型シートにシワは見られず、破れも見られなかった。以上の工程を1回の成形試験とした。1回の成形試験が終了するごとに半導体モールド用離型シートを新しいものと取り替え、さらに9回成形を行ったところ、各回の成形毎に上記と同様の結果が得られた。
また、実施例1と同様にして異物試験を行った。その結果、異物数は0個であった。異物をEDX分析装置にて元素分析した結果、炭素のピークが強く現れ、異物が有機物からなることがわかった。
【0052】
(比較例1)
実施例1と同様に2層のプラスチックフィルムを得た。
この2層のプラスチックフィルムを用いて、実施例1と同じ条件で成形試験を行なった。成形後に上型の真空吸引孔を大気圧に戻した後、金型を開放すると、この半導体モールド用離型シートは金型から自然に剥離した。成形品に付着している半導体モールド用離型シートを、180℃にて剥離角度180°剥離速度2m/分で剥離すると、0.01N/25mmの剥離力で剥離した。また、半導体モールド用離型シートにシワは見られず、破れも見られなかった。以上の工程を1回の成形試験とした。1回の成形試験が終了するごとに半導体モールド用離型シートを新しいものと取り替え、さらに9回成形を行ったところ、各回の成形毎に上記と同様の結果が得られた。
また、実施例1と同様にして異物試験を行った。その結果、異物数は300個であった。異物をEDX分析装置にて元素分析した結果、炭素のピークが強く現れ、異物が有機物からなることがわかった。
【0053】
(比較例2)
実施例1と同様に2層のプラスチックフィルムを得た。
この2層のプラスチックフィルムにスパッタ法によりシリカ膜を形成し、A層/B層/シリカ膜からなるモールド用離型シートを得た。
前記と同じ条件でシリコンウエハにシリカ膜を形成し、実施例1と同様に屈折率と膜厚を測定した結果、シリカ膜の屈折率は波長632.8nmでは1.47であり、膜厚は50nmであった。このシリカ膜の表面をSEM観察した結果、外接円の直径が10〜100nmの空孔やへこみが観察されなかった。これらより、バルク状のシリカ膜は、実質的に空隙率は0%であり、面積1mのバルク状のシリカ膜が有する空隙体積は実質的に0ccであることがわかった。
前記モールド用離型シートを用いて、実施例1と同じ条件で成形試験を行なった。成形後に上型の真空吸引孔を大気圧に戻した後、金型を開放すると、この半導体モールド用離型シートは金型から自然に剥離した。成形品に付着している半導体モールド用離型シートを、180℃にて剥離角度180°剥離速度2m/分で剥離すると、0.01N/25mmの剥離力で剥離した。また、半導体モールド用離型シートにシワは見られず、破れも見られなかった。以上の工程を1回の成形試験とした。1回の成形試験が終了するごとに半導体モールド用離型シートを新しいものと取り替え、さらに9回成形を行ったところ、各回の成形毎に上記と同様の結果が得られた。
また、、実施例1と同様にして異物試験を行った。その結果、異物数は280個であった。異物をEDX分析装置にて元素分析した結果、炭素のピークが強く現れ、異物が有機物からなることがわかった。
【0054】
実施例1〜4及び比較例1〜2のシリカ膜の態様及び異物試験の結果を表1に示す。
【0055】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1層もしくは2層以上の層からなるプラスチックフィルムの少なくとも片面に多孔質層を形成してなるモールド用離型シート。
【請求項2】
多孔質層が微粒子積層膜である請求項1記載のモールド用離型シート。
【請求項3】
多孔質層である微粒子積層膜が、交互積層法により作製されたものである請求項1記載のモールド用離型シート。
【請求項4】
微粒子積層膜を構成する微粒子が無機微粒子である請求項2又は3記載のモールド用離型シート。
【請求項5】
微粒子積層膜を構成する微粒子の平均一次粒子径が1〜100nmである請求項2〜4のいずれかに記載のモールド用離型シート。
【請求項6】
多孔質層の空隙体積が、多孔質層の面積1mあたり0.02cc以上である請求項1〜5のいずれかに記載のモールド用離型シート。
【請求項7】
多孔質層の空隙率が、20〜80%である請求項1〜6のいずれかに記載のモールド用離型シート。
【請求項8】
1層もしくは2層以上の層からなるプラスチックフィルムの少なくとも片面に交互積層法により微粒子積層膜から成る多孔質層を形成することを特徴とするモールド用離型シートの製造法。

【公開番号】特開2009−248420(P2009−248420A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98122(P2008−98122)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】