説明

ライニング材及びそのライニング材を使用した既設管の更生方法

【課題】熱可塑性の母材樹脂フィラメント及び補強材料の複合材料でなるライニング材に対し、加熱の不均一化を解消することができるライニング材及びそのライニング材を使用した既設管の更生方法を提供する。
【解決手段】一実施形態としてのライニング材1は、母材樹脂フィラメント及び補強材料を含む複合材料からなる可撓性を有する複数のライナー基材21、22を備え、ライナー基材2の外周側に着色層3を有している。既設管5の更生は、ライニング材1を既設管5内に挿入して補修対象箇所に配置し、母材樹脂フィラメント融点以上の温度で加熱して軟化させ、拡径用チューブにより内側から加圧して既設管5の内周面に沿う管状に成形し、拡径したライナー基材21、22を冷却及び硬化させて既設管5をライニングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライニング材及びそのライニング材を使用した既設管の更生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道管等の地中埋設管を開削せずに更生する方法として、未硬化のFRP筒状体を管路内に挿入して一体化する方法や、熱可塑性樹脂製の管状のライニング材を既設管内に挿入して内面に貼り付けることにより、この既設管内面をライニングする方法などがあり、実用化されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されているように、既設管の内径よりも小径であって、形状記憶温度において管状に形状回復するライニング材を既設管内に挿入し、ライニング材を加熱して形状回復させた後、加圧して膨張拡径させ、既設管の内周面に密着させてライニングする更生方法がある。
【0004】
また、最近では、特許文献2や特許文献3に記載されているように、繊維で補強された熱可塑性複合材料からなるライナーをダクト内に挿入し、そのライナーを加熱するとともに内側から圧力を加え、既設管に接触させてライニングする方法もある。
【0005】
具体的に、この特許文献2や特許文献3に開示されているライナーは、加熱される前段階では、熱可塑性プラスチック材料でなる母材樹脂フィラメントと、ガラス繊維でなる補強繊維フィラメントとによる複合材料によって略筒型に形成されている。そして、このライナーを使用した既設管の更生方法としては、ダクト内に前記ライナーを挿入した後、加熱手段によってライナーを加熱することで、前記母材樹脂フィラメントを溶融させる。これにより、溶融したプラスチック材料の中に補強繊維フィラメントが分散されることになる。その後、ライナー内側に圧力を加えて拡径させるとともにプラスチック材料を冷却固化させることで、補強繊維フィラメントで補強された強固な複合ライニング材が成形され、この複合ライニング材によって既設管が更生されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−230412号公報
【特許文献2】特許第4076188号公報
【特許文献3】特表2004−508989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、前記特許文献2や特許文献3に開示されているような、繊維で補強された熱可塑性樹脂複合材料からなるライニング材を使用したライニング方法にあっては、次に述べるような課題があった。
【0008】
まず、母材樹脂フィラメントを構成しているプラスチック材料の溶融に比較的長い時間を要することが挙げられる。例えば、老朽化した既設管の損傷箇所から地中水が既設管内部に浸入している場合、その部分では浸入水によってライニング材が冷やされてしまい、プラスチック材料の溶融が迅速に行えなくなる。
【0009】
ライニング材の一部分においてプラスチック材料の溶融が迅速に行えない状況になると、加熱の不均一化に伴って母材樹脂フィラメントに溶け残りを生じることがある。このような溶け残りが発生すると、その部分では、母材樹脂材料の中に補強材が分散及び接着して、応力負担しうる材料構成が得られなくなり、ライニング材の強度の不均一化や、ピンホール等による水密性の低下を招いてしまうことになり好ましくない。
【0010】
そのため、前記溶け残りの発生を回避するべく、加熱温度を高く設定したり、加熱時間を長く設定することが考えられる。しかしながら、これでは、部分的に加熱が過剰となる可能性があり、この加熱過剰箇所にあってはプラスチック材料の一部分が流動して(流れ出して)ライニング材に偏肉が発生してしまう可能性がある。このような偏肉が発生した場合にもライニング材の強度の不均一化を招いてしまうことになる。
【0011】
そこで、かかるライニング材を使用して既設管を更生するにあたり、ライニング材の母材樹脂フィラメントに溶け残りが生じていないかどうかを判断できるようにし、必要に応じて、再度ライニング材を加熱し、溶け残り箇所を解消できるようにすることが求められた。
【0012】
本発明は、かかる点にかんがみてなされたものであり、その目的とするところは、母材樹脂フィラメント及び補強材料の複合材料からなるライニング材に対し、加熱不足箇所や、加熱過剰箇所が発生するのを防ぎ、十分な強度を安定的に発現させることのできるライニング材及びそのライニング材を使用した既設管の更生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、既設管の内周面を更生するライニング材を前提とする。このライニング材に対し、複合材料からなる筒状のライナー基材と、このライナー基材の外側の着色層とを備えることとし、前記ライナー基材を、熱可塑性の母材樹脂フィラメント及び補強材料で構成するとともに、母材樹脂フィラメントを無色の透明又は半透明とする。
【0014】
この構成により、ライニング材は、ライナー基材の母材樹脂フィラメントが完全に溶融すると、ライニング材の内側からライナー基材を通して着色層を視認することができるものとなる。言い換えると、ライニング材は、母材樹脂フィラメントに溶け残りがあると、その部分では着色層が見えなくなる。したがって、既設管の内周面にライニング材を施工後、内側から着色層を視認できれば、母材樹脂フィラメントに溶け残りが無いと判断することができる。着色層を視認できない部分があれば、部分的にライニング材を再加熱し、溶け残り箇所を解消することができる。よって、あらかじめライニング材の加熱温度を高く設定しておいたり、加熱時間を必要以上に長く設定する必要がなくなる。その結果、ライニング材に対する加熱を均一化でき、最終的には、母材樹脂フィラメントの溶け残りを防ぎ、また、母材樹脂フィラメントの一部分が過剰加熱されて流動し、偏肉してしまうといったことも回避できる。これにより、補強材料で補強される強固な複合材料のライニング材とすることが可能となり、このライニング材によって安定した強度の管更生が可能となる。
【0015】
前記ライニング材のより具体的な構成として、前記着色層を、ライナー基材の母材樹脂フィラメントを構成する熱可塑性材料よりも、高い融点を有する合成樹脂系材料で構成したものとする。
【0016】
また、前記着色層を、ライナー基材の母材樹脂フィラメントを構成する熱可塑性材料よりも、高い融点を有する無機顔料で着色して形成してもよい。
【0017】
上記構成により、まず、ライナー基材は、母材樹脂フィラメントに対応した温度で加熱されて溶融し、流動性を有するものとなる。一方、着色層は、当該加熱によっては溶けず、そのまま、流動性をもったライナー基材がこの着色層に溶着する。これにより、ライナー基材と着色層とを、一体の成形体として形成することができる。また、ライナー基材に対する加熱の前後で着色層は変化しないので、着色層を利用した、母材樹脂フィラメントの溶け残りの有無の判断に影響を与えず、信頼性を高めることができる。
【0018】
ここで、前記着色層には、蛍光材又は蓄光材により形成したものも含む。このような着色層の場合、着色層を発光させて見せることが可能となり、着色層を浮き上がらせて、より鮮明に視認できるものとなる。
【0019】
また、前記着色層の具体的構成としては以下に述べる複数のものが挙げられる。
【0020】
まず、着色層を、フィルム材又はシート材から構成することである。また、着色層を、熱可塑性樹脂フィラメントの織布又は不織布から構成してもよい。
【0021】
これらの場合、着色層とライナー基材とを個別に製作することができるので、生産性が高く、取り扱いも容易である。また、既設管の更生に際しては、既設管内に、着色層とライナー基材とを同時に挿入するだけでなく、必要に応じてこれらを別々に挿入することも可能であり、施工性や作業性を高めることができる。
【0022】
また、前記着色層を、ライナー基材の外周面に塗料を塗布して形成してもよい。さらに、前記着色層を、ライナー基材の外周面に粉体を付着させることで形成してもよい。
【0023】
これらの場合、着色層とライナー基材とを一体のライニング材として形成することができ、ライニング材の構成の簡素化を図ることができる。また、既設管の更生に際して、既設管内へ一度の挿入作業で済み、作業時間の短縮化が図れる。
【0024】
上記構成のランニング材において、前記補強材料を、ガラス、炭素、もしくはアラミドからなる繊維状、針状、又は粒状材料とすることが好ましい。繊維状の材料には、ガラス繊維フィラメント、炭素繊維フィラメント、及びアラミド繊維フィラメント等が含まれる。また、針状の材料には、針状形状のフィラー等が含まれる。これにより、ライニング材を、補強材料を混合した強化複合材料とすることが可能となる。
【0025】
また、前記の目的を達成するための本発明の解決手段として、既設管の内周面を更生するライニング材に対し、複合材料からなる筒状のライナー基材と、このライナー基材の外側の着色層とを備えさせ、前記ライナー基材を、熱可塑性の母材樹脂材料、及び補強材料で構成してもよい。この場合には、母材樹脂材料を無色の透明又は半透明とする。
【0026】
前記母材樹脂材料には、例えば多層構造状の熱可塑性フィルム材等が挙げられる。かかる構成によっても、ライニング材は、ライナー基材の母材樹脂材料が完全に溶融すると、ライニング材の内側からライナー基材を通して着色層を視認することができるものとなる。したがって、既設管の内周面にライニング材を施工後、内側から着色層を視認できれば、母材樹脂材料に溶け残りが無いと判断することができる。着色層を視認できない部分があれば、部分的にライニング材を再加熱し、溶け残り箇所を解消することができる。よって、あらかじめライニング材の加熱温度を高く設定しておいたり、加熱時間を必要以上に長く設定する必要がなくなる。その結果、ライニング材に対する加熱を均一化でき、最終的には、母材樹脂材料の溶け残りを防ぎ、また、母材樹脂材料の一部分が過剰加熱されて流動し、偏肉してしまうといったことも回避できる。これにより、補強材料で補強される強固な複合材料のライニング材とすることが可能となり、このライニング材によって安定した強度の管更生が可能となる。
【0027】
また、上述した各解決手段に係るライニング材を使用した既設管の更生方法も本発明の技術的思想の範疇である。つまり、既設管の内周面をライニング材により更生する既設管の更生方法を前提とする。また、ライニング材に、複合材料からなる筒状のライナー基材と、このライナー基材の外側の着色層とを備えさせ、前記ライナー基材を、熱可塑性の母材樹脂フィラメント及び補強材料から構成するとともに、母材樹脂フィラメントを無色の透明又は半透明とする。そして、更生方法として、ライニング材を既設管内に挿入して補修対象箇所に配置する挿入工程と、ライナー基材の内側及び外側に配設した加熱手段を移動させつつ加熱してライナー基材を軟化させる加熱工程と、ライナー基材を拡径手段により内側から加圧し、ライナー基材及び着色層が一体の管状ライニング層を成形する拡径工程と、成形したライニング層を冷却して既設管の内周面に沿って硬化させる冷却工程とを含むものとする。
【0028】
このような更生方法により、ライナー基材を内外両側から効率よく加熱することができ、ライナー基材の外周に着色層を有する一体の管状ライニング層を、既設管の内周面に迅速に形成することができる。そして、既設管の更生作業後、ライニング材の内側から着色層を視認できるかどうかで、母材樹脂フィラメントの溶け残りの有無を確認でき、必要に応じてライナー基材の加熱を補う対応が可能となる。その結果、ライニング材の強度を均一なものとし、安定した強度を発現させることが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明では、母材樹脂フィラメント及び補強材料からなる複合材料のライナー基材の外側に着色層を備えさせ、加熱不足箇所の有無を判断するのに利用することができる。これにより、施工後のライニング材に加熱不足箇所があれば随時対応して、母材樹脂フィラメントを完全に溶融させることができ、また、加熱過剰箇所の発生によってライニング材が偏肉するのを防ぎ、安定した強度を発現させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る既設管の更生方法を示す説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係るライニング材を既設管に配置した状態を示す断面図である。
【図3】図2のライニング材を用いて既設管をライニングした状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態に係るライニング材及びこのライニング材を用いた既設管の更生方法について、図面を参照しつつ説明する。
【0032】
以下では、まず、ライニング材を用いて既設管の内周面をライニングする更生方法について説明し、その後、ライニング材の実施形態について説明する。
【0033】
(既設管の更生方法)
図1は、ライニング材1を用いて既設管5の内周面をライニングする更生方法の説明図であり、図2は、ライニング材1を既設管5に配置した状態を示す断面図である。
【0034】
ライニング材1は、熱可塑性の母材樹脂フィラメント及び補強材料を含む強化複合材料からなり、可撓性を有する筒状布帛である。また、ライニング材1は、複数層のライナー基材2(21、22)と、その外側の着色層3とを備えている。
【0035】
ライナー基材2としては、ライニング材1の内側層を形成するべく比較的小径に形成された第1ライナー基材21と、ライニング材1の外側層を形成するべく前記第1ライナー基材21よりも大径に形成された第2ライナー基材22とからなっている。
【0036】
第2ライナー基材22の内径寸法は第1ライナー基材21の外径寸法よりも大きく設定されている。このため、図2に示す状態では、第1ライナー基材21の外面と第2ライナー基材22の内面との間に隙間が形成されている。
【0037】
また、着色層3は、前記ライナー基材2とは異なる色であり、ライナー基材2の外周側に設けられている。図2に示すように、着色層3は、第2ライナー基材22の外周面全体を覆う筒状であり、既設管5の内径と同等の大きさ又は既設管5の内径よりも若干小径となるように形成されている。また、この着色層3は、その軸線方向の長さ寸法が、各ライナー基材21、22における軸線方向の長さ寸法に略一致している。
【0038】
図1に示すように、ライニング材1は、既設管5の補修対象箇所に挿入して用いられる。更生作業に先立ち、既設管5に下水等の流下水がある場合には、この流下水を管路からいったん除去することが好ましい。既設管5の管路には、適当な間隔を設けてマンホールM1、M2が設けられており、マンホールM2の近傍に堰き止め部材7を設けている。堰き止めた流下水は、汲み取って地上に配設した図示しない排水ホース等を迂回路として下流側へ放出する。更に、既設管5内に存在する堆積物や木片等の異物を除去し、高圧水洗浄を行ってから管内の更生作業に入る。
【0039】
なお、既設管5の更生は、図1においてマンホールM1側からマンホールM2側へ向かって行うので、以下の説明では、図中左側を前方、図中右側を後方として説明する。
【0040】
まず、マンホールM1、M2を通してライニング材1を既設管5に挿入する(挿入工程)。ライニング材1は、例えば、発進側マンホールM1と到達側マンホールM2との間の長さに余裕長さを加えた長さで用意されている。また、到達側マンホールM2の地上側に牽引ワイヤ91を巻き取るウィンチ9等の機器を設置する。牽引ワイヤ91は、到達側マンホールM2から既設管5内に挿通されており、ライニング材1の内側に配備された加熱装置(加熱手段)6を、発進側マンホールM1から到達側マンホールM2方向に牽引する。
【0041】
ここで、ライニング材1は、着色層3の内側にライナー基材2を配設した状態で既設管5に挿入する。これにより、一度の挿入作業でライニング材1を既設管5に配置することができる。また、例示の形態では、着色層3が、図2に示すようにライナー基材2とは分離した状態で形成されているので、先に着色層3を既設管5内に挿入しておき、次いでライナー基材2を、既設管5内の着色層3の内側に挿入してもよい。
【0042】
次いで、挿入工程を経て既設管5に配置したライニング材1に、加熱処理を施す(加熱工程)。この加熱工程には、加熱装置6を用いる。加熱装置6は、図1に例示するように、ライニング材1のライナー基材2を内周側と外周側の両面から加熱するようになっている。
【0043】
具体的に、この加熱装置6は、ライナー基材2の内周面に沿う円筒状の外形を有するライニング用ピグ61と、ライナー基材2に外装されて着色層3の内側に配置される筒状の補助用ピグ62とを有する。ライニング用ピグ61は、ライナー基材2を内周側から加熱蒸気等により加熱して、ライナー基材2に含まれる母材樹脂フィラメントを融解する。また、補助用ピグ62は、ライナー基材2の外周面を加熱し、外周側から母材樹脂フィラメントの融解を補助する。
【0044】
図1に示すように、加熱装置6のライニング用ピグ61は、後方部分が拡径したテーパー形状とされており、ライナー基材2を加熱しつつ前進することで、ライナー基材2を軟化させ、徐々に拡径させる。
【0045】
この加熱工程では、ライナー基材2における母材樹脂フィラメントの融点以上の温度でライナー基材2を加熱する。これにより、ライナー基材2は、母材樹脂フィラメントが溶融し、補強材料を混合した強化樹脂成形体となる。加熱装置6は、ライナー基材2を内外両面から加熱するため、ライナー基材2を構成している母材樹脂フィラメントを効率よく加熱することができる。その結果、ライナー基材2に対する加熱を均一化でき、比較的短時間で、ライナー基材2の母材樹脂フィラメントを溶融させることが可能となる。
【0046】
図1に示すように、加熱装置6の後方には拡径手段8が配備されている。ライニング材1は、加熱工程を経た段階では未だ完全に拡径、硬化した状態ではなく、既設管5の内面に密着した状態とはなっていない。前記のように加熱されたライニング材1は、拡径手段8により内側から加圧されて、既設管5の内周面に沿う管状に拡径される(拡径工程)。
【0047】
図1に例示する拡径手段8は、発進側マンホールM1側の地上に設置された反転機81と、反転機81の先端に接続された拡径用チューブ82とを備えている。この拡径用チューブ82は、内圧により十分に拡径することが可能であり、かつ拡張に際して十分な強度を有する拡張性及び耐熱性に優れたエラストマーなどを材料として形成されている。また、拡径用チューブ82は、拡径後にも拡径用チューブ82と第1ライナー基材21とが接着しない材質により形成されている。拡径用チューブ82の外径は、最大拡張時にライニング材1を内側から既設管5の内周面に押圧し得る大きさで確保されている。
【0048】
拡径用チューブ82は、拡張していない状態でライニング材1(ライナー基材2)の内側に導入され、反転機81から加圧気体が供給されることにより、加熱装置6の後方部分に追従しながら拡径する。このとき、拡径用チューブ82は、内周面が外周側に反転しつつ膨張し拡径していく。
【0049】
これに伴って、ライナー基材2は、加熱装置6を経て軟化した部分から順に、拡径用チューブ82によって内側から押圧されて拡径する。ライナー基材2の拡径した部分は、着色層3の内周面に密着し、着色層3と一体化するとともに、着色層3を既設管5の内周面に押圧する。また、加熱装置6が前進することにより、拡径用チューブ82の拡張範囲も前方へ広げられる。これにより、ライニング材1に広範囲で均一な圧力が付与され、ライナー基材2及び着色層3が既設管5の内周面に密着し、そのまま密着状態が維持される。
【0050】
既設管5の補修対象箇所の全域にわたってライニング材1が拡径されたならば、ライニング材1を冷却及び硬化させる(冷却工程)。図3は、既設管5の内周面がライニング材1によりライニングされた状態を示している。なお、このライニング状態では、前記第1ライナー基材21と第2ライナー基材22とは加熱工程において共に溶融したことで一体化している(図3では、これらライナー基材21,22の境界部分を破線にて示している)。これにより、補強材料で補強された強固なライニング層が既設管5内に形成され、既設管5がライニング材1により更生される。
【0051】
(ライニング材)
次に、前記既設管の更生方法において用いるライニング材1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図2及び図3は本発明の実施形態に係るライニング材1を示し、図2はライニング材1を既設管5に挿入した状態を示す断面図、図3は前記加熱工程及び拡径工程を経てライニング材1により既設管5をライニングした状態を示す断面図である。
【0052】
ライニング材1は、上述したように第1ライナー基材21及び第2ライナー基材22の複層からなるライナー基材2と、その外周側の着色層3とを備えている。
【0053】
ライナー基材2は、上述した如く可撓性を有する筒状布帛であり、熱可塑性の母材樹脂フィラメント、及び補強材料である補強繊維のフィラメントからなる複合材料により形成されている。
【0054】
ライナー基材2を構成する母材樹脂フィラメントと補強繊維フィラメントとの組合せは、多様な形態とすることが可能である。例えば、母材樹脂フィラメントには、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、又はポリブチルテレフタレート等の樹脂繊維が好ましい。また、補強繊維フィラメントには、ガラス繊維、炭素繊維、又はアラミド繊維等が好ましい。さらに、補強材料としては、このような補強繊維フィラメントに限定されるものではない。つまり、補強材料は、ガラス、炭素、もしくはアラミドからなる繊維材料のほか、針状形状又は粒状形状のいずれの形状の材料であってもよい。
【0055】
母材樹脂フィラメントの構成材料として、ポリプロピレン(融点は160〜170℃程度)を採用する場合には、既設管5の更生過程で用いる加熱装置6の加熱温度は例えば180℃に設定される。また、母材樹脂フィラメントの構成材料として高密度又は低密度ポリエチレン(融点は140℃)を採用する場合には、既設管5の更生過程で用いる加熱装置6の加熱温度は例えば150℃に設定される。
【0056】
ライナー基材2は、このような熱可塑性樹脂フィラメントを母材として繊維形態で補強繊維フィラメント束内に配置させた繊維束によって構成されており、編物又は織物(織布)若しくは不織布が縫合等により筒状に形成されている。上記のように補強材料は補強繊維フィラメントに限定されないため、ライナー基材2が、熱可塑性樹脂フィラメントを母材とし、針状形状の補強材料が熱可塑性フィラメントに溶着された構成であってもよい。また、ライナー基材2は、かかる強化複合材料により形成された布帛そのものの厚みで構成するだけでなく、例示するように複数枚の布帛(第1ライナー基材21及び第2ライナー基材22)を重ね合わせることによって、所定の厚みを確保してもよい。
【0057】
また、複合材料からなるライナー基材2において、少なくとも母材樹脂フィラメントは無色の透明又は半透明で形成されている。また、補強材料としてガラス(例えば、補強繊維フィラメントであればガラス繊維)を用いることにより、ライナー基材2の全体を、ほぼ無色の透明体又は半透明体として形成することが可能である。
【0058】
一方、着色層3は、ライナー基材2(第2ライナー基材22)の外周側に設けられている。着色層3は有色であり、第2ライナー基材22の外周側の略全体を覆うように筒状に配設されている。
【0059】
例えば、着色層3は、フィルム材又はシート材で形成されている。フィルム材又はシート材の厚さは、既設管5の内径に応じて、0.1〜1.0mm程度とされる。
【0060】
また、着色層3は、前記母材樹脂フィラメントを構成する熱可塑性材料の融点よりも、高い融点を有する材料からなる。具体的には、前記母材樹脂フィラメントの構成材料として、ポリプロピレン、又は高密度若しくは低密度ポリエチレン等を採用した場合、着色層3の構成材料は、これらの融点よりも高温であることが求められるので、例えば、融点が260℃であるポリエチレンテレフタレート(PET)や、融点が280〜300℃である酢酸セルロースが好ましい。
【0061】
また、着色層3は、蓄光材からなるものであってもよい。蓄光材は、特に限定されないが、例えば、硫化亜鉛系、カルシウムアルミネート系、ストロンチウムアルミネート系蓄光材が上げられる。
【0062】
着色層3の色は、ライナー基材2とは異なる色とされるが、前記のとおり、ライナー基材2の母材樹脂フィラメントが無色の透明又は半透明であるため、色を有するもの或いは発光するものであれば、どのような色であってもよい。特に、着色層3は、黒色から灰色の無彩色で明度の低い色、又は、紺色若しくは茶色等の、彩度及び明度がともに低い色とすることで、ライナー基材2との色対比を強調することができる。
【0063】
なお、ライナー基材22が肉厚になればなるほど、より色対比の大きいものがよく、また発光するものがより明確に識別可能となる。例えば、蓄光材の場合であれば、成形後、ブラックライトや蛍光灯などの光を材料に照射し、その残光で識別することができる。
【0064】
具体的には、黒色の着色層3であれば、例えば無機顔料であるカーボンブラックを用いてPET樹脂フィルム材を着色することで得られる。カーボンブラック等の無機顔料は、耐熱性、耐候性等の特性に優れ、種々の樹脂材料に幅広く用いることができる。カーボンブラックの着色層3における添加量は、PET樹脂に対して0.5wt%以上、10wt%以下でよく、かかる添加量で十分に発色させることができる。
【0065】
また、着色層3は、PET樹脂フィルム材のほか、PET樹脂フィラメントからなる織布又は不織布を用いてもよい。この場合、PET樹脂フィラメントをカーボンブラック等の無機顔料で着色し、黒色の着色層3を得る。
【0066】
このように、ライニング材1は、着色層3とライナー基材2とを別体の筒状とし、着色層3の内側にライナー基材2を配設する構成とすることで、それぞれを個別に製作することができ、生産性が高く、取り扱いも容易となる。
【0067】
なお、ライニング材1において、着色層3は、ライナー基材2の外周面に塗料を塗布したり、粉体を付着させたりして形成されていてもよい。具体的には、第2ライナー基材22の外周面を着色し、第2ライナー基材22と一体に着色層3を構成する。例えば、黒色粉体を第2ライナー基材22の外周面に吹き付け、付着させることで、簡便に黒色の着色層3をライニング材1に形成することができる。また、第2ライナー基材22の外周面に、黒色のシリコン系樹脂塗料を塗布して着色し、着色層3を形成してもよい。
【0068】
以上のように構成されるライニング材1は、前記既設管の更生方法によって、図3に示すように、第1ライナー基材21と第2ライナー基材22とが共に溶融し、着色層3と一体化するとともに、ライニング材1の内部及び各層間の空気層を無くすことによって、光の乱反射による減衰を極小に抑えて、既設管5の内周面を覆うライニング層となる。
【0069】
ここで、図2に示すような、加熱工程及び拡径工程前のライニング材1では、ライナー基材2の母材樹脂フィラメントの繊維束で光の透過を阻止するため、ライナー基材2の内側からは着色層3を視認することはできない。
【0070】
これに対し、図3に示すように、母材樹脂フィラメントが完全に溶融し、ライナー基材2と着色層3との一体成形体となると、ライナー基材2の内側から着色層3の色が見え、ライニング材1が全体として均一な色の内周面となる。また、ライニング材1の内部やライナー基材同士の間、つまり管状となったライニング層の内部に、空気層が無くなるため、光の乱反射による減衰を極小に抑え、着色層3の色を視認させるものとなる。
【0071】
ところが、加熱工程及び拡径工程を経て、母材樹脂フィラメントに少しでも溶け残り箇所があると、空気層を含むものとなってしまい、ライナー基材2の内部に入射した可視光が母材樹脂フィラメントの界面で屈折したり、散乱したりする。このため、ライナー基材2の内部に母材樹脂フィラメントの溶け残り箇所があると、当該箇所では、着色層3の色を視認することができない。つまり、ライニング材1の内側からは、着色層3の色を目視できる箇所と目視できない箇所とが混在した、まだら模様となって見える。
【0072】
そこで、ライニング材1を既設管5に施工した後、一定の光源下で、ライナー基材2のの内周側から着色層3の色を視認できるかどうかを確認する。また、蓄光材の場合は、成形後にブラックライトや蛍光灯などの光を材料に照射させ、その後、残光を視認できるかどうかを確認する。
【0073】
つまり、ライニング材1の内周面が均一に発色(又は発光)しているかどうかを確認する。これにより、母材樹脂フィラメントの溶け残り箇所の有無を調べることができる。確認作業は、既設管5の内側から作業者がその内周面の色を目視確認して行う。また、既設管5が小径である場合には、小型カメラ等を既設管5内に挿入し、画像確認により確認する。このような確認作業によって、ライニング材1の内周面にまだら模様が認められたときは、当該箇所を再度加熱し、母材樹脂フィラメントの溶け残りを解消する。
【0074】
以上のように、ライニング材1の内周面を確認して、加熱不足箇所の有無を判断することができるので、ライナー基材2における溶け残り箇所の発生を回避でき、ライニング材1の強度を十分に発現させることが可能となる。これによって、ライニング材1の加熱温度を高く設定したり、加熱時間を長く設定したりする必要がなくなり、加熱過剰によるライニング材の偏肉やピンホール等による水密性の低下も防止することが可能となる。
【0075】
(他の実施形態)
本発明に係るライニング材1、及び既設管の更生方法は、前記の実施形態以外にも他の様々な形で実施することができる。例えば、ライニング材1の構成は前記実施形態に限定されるものではなく、二層であっても、四層以上の複層構造であってもよい。この四層以上の複数層構造とした場合も、最外層のライナー基材2の外周側に、着色層3を設ける。また、着色層3の色にあっては、前記実施形態に限定されず、ライナー基材2を介して視認しやすい色であれば何色であってもよい。そのため、前記の実施形態は例示であり、限定的なものではない。
【0076】
また、前記第1ライナー基材21の内側には、熱可塑性樹脂フィルム等からなる内面被覆材層を形成するようにしてもよい。この場合、内面被覆材層は、第1ライナー基材21の内周面にあらかじめ内面被覆材を挿入し、配設された状態で加熱工程及び拡径工程を経ることによって、内面被覆材を第1ライナー基材21の内周面に融着して一体化する。内面被覆材層は、ライナー基材2の内周面を被覆して平滑に形成し、遮水性及び流水性を高める。また、拡径用チューブ82によりライナー基材2を拡径する際には、内面被覆材層によって拡径用チューブ82を既設管5の内周面の突起物から保護することができる。
【0077】
また、この内面被覆材層を一体化する工程として、前記拡径用チューブ82に代えて、チューブ状に形成した内面被覆材を用い、拡径工程を兼ねた方法をとることも可能である。すなわち、適宜の内面被覆材をチューブ状に形成し、流体圧により内面被覆材の内周面が外周側となるように反転させつつ順に挿入し、拡径させることにより、同時に一体化する方法である。これにより、拡径工程を行うと同時に、第1ライナー基材21の内周面に内面被覆材層を形成することが可能となる。
【0078】
さらに言えば、ライナー基材2は、熱可塑性樹脂フィラメントと補強材料の補強複合材に限定されない。例えば、熱可塑性フィルムの多層構造状フィルムであってもよく、一体化された後、透明或いは半透明となる材料であればよい。本発明を用いれば、熱溶着によりフィルム間の空気層を無くすことで、光の乱反射による減衰を極小に抑えることができ、着色層3を視認することが可能となって、上述のとおり、ライニング材の強度の不均一かを防止することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、母材樹脂フィラメント及び補強材を含む複合材料からなるライニング材を用いた既設管の更生に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 ライニング材
2 ライナー基材
21 第1ライナー基材
22 第2ライナー基材
3 着色層
5 既設管
6 加熱装置
61 ライニング用ピグ
62 補助用ピグ
8 拡径手段
81 反転機
82 拡径用チューブ
9 ウィンチ
91 牽引ワイヤ
M1、M2 マンホール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管の内周面を更生するライニング材であって、
複合材料からなる筒状のライナー基材と、このライナー基材の外側の着色層とを備え、
前記ライナー基材は、熱可塑性の母材樹脂フィラメント及び補強材料からなるとともに、母材樹脂フィラメントが無色の透明又は半透明であることを特徴とするライニング材。
【請求項2】
請求項1に記載のライニング材において、
前記着色層は、前記ライナー基材の母材樹脂フィラメントを構成する熱可塑性材料よりも高い融点を有する合成樹脂系材料からなることを特徴とするライニング材。
【請求項3】
請求項1に記載のライニング材において、
前記着色層は、前記ライナー基材の母材樹脂フィラメントを構成する熱可塑性材料よりも高い融点を有する無機顔料で着色されていることを特徴とするライニング材。
【請求項4】
請求項1に記載のライニング材において、
前記着色層は、蛍光材又は蓄光材からなることを特徴とするライニング材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載のライニング材において、
前記着色層は、フィルム材又はシート材からなることを特徴とするライニング材。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載のライニング材において、
前記着色層は、熱可塑性樹脂フィラメントの織布又は不織布からなることを特徴とするライニング材。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のライニング材において、
前記着色層は、ライナー基材の外周面に塗料を塗布して形成されていることを特徴とするライニング材。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のライニング材において、
前記着色層は、ライナー基材の外周面に粉体を付着させて形成されていることを特徴とするライニング材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一つの請求項に記載のライニング材において、
前記補強材料は、ガラス、炭素、もしくはアラミドからなる繊維状、針状、又は粒状材料であることを特徴とするライニング材。
【請求項10】
既設管の内周面を更生するライニング材であって、
複合材料からなる筒状のライナー基材と、このライナー基材の外側の着色層とを備え、
前記ライナー基材は、熱可塑性の母材樹脂材料、及び補強材料からなるとともに、母材樹脂材料が無色の透明又は半透明であることを特徴とするライニング材。
【請求項11】
既設管の内周面をライニング材により更生する既設管の更生方法であって、
ライニング材は、複合材料からなる筒状のライナー基材と、このライナー基材の外側の着色層とを備え、前記ライナー基材は、熱可塑性の母材樹脂フィラメント及び補強材料からなるとともに、母材樹脂フィラメントが無色の透明又は半透明であり、
ライニング材を既設管内に挿入して補修対象箇所に配置する挿入工程と、
ライナー基材の内側及び外側に配設した加熱手段を移動させつつ加熱してライナー基材を軟化させる加熱工程と、
ライナー基材を拡径手段により内側から加圧し、ライナー基材及び着色層が一体の管状ライニング層を成形する拡径工程と、
成形したライニング層を冷却して既設管の内周面に沿って硬化させる冷却工程とを有することを特徴とする既設管の更生方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−131411(P2011−131411A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290569(P2009−290569)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】