説明

ラインセンサカメラのキャリブレーション装置およびキャリブレーション方法

【課題】カメラパラメータを用いることなく簡単に高精度の「pixel→高さ」換算式を求めることを可能とする。
【解決手段】長方形状に形成されその表面に白色領域1wと黒色領域1bとを交互に配されてなるキャリブレーション用機材1と、キャリブレーション用機材1の長手方向を撮影するように配設されたラインセンサカメラ2と、ラインセンサカメラ2から出力される画像信号に基づいてラインセンサカメラ2のキャリブレーションを行う処理用コンピュータ3とを備え、白色領域1wと黒色領域1bの幅がそれぞれ同一幅であるとともに白色領域1wと黒色領域1bとの境界線がキャリブレーション用機材1本体の長手方向に対して所定の角度θだけ傾斜するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理を用いてパンタグラフの高さを測定するために用いられるラインセンサカメラのキャリブレーションを行うキャリブレーション装置およびキャリブレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気鉄道設備においては、その検査項目として架線の高さの変動幅を規定値内に収めなければならないというものがあり、架線の高さの測定を行っている。この架線の高さの測定は、車両の屋根上に設置されている集電装置であるパンタグラフの高さと架線の高さとが同値であることを利用して、パンタグラフの高さを測定することにより行っている。
【0003】
パンタグラフの高さを測定する方法の一つとして、画像処理を用いるものがある(例えば、特許文献1〜4参照)。これは、パンタグラフに特殊なマーカを設置し、エリアカメラまたはラインセンサカメラでマーカの撮影を行い、取得した画像を処理マシンに保存し、画像上からマーカパタンを検出するパタンマッチング処理を行うことによりパンタグラフの高さを測定するものである。
【0004】
ここで、マーカがパンタグラフに取り付けられていることから、下記(1)式のような関係が成り立つ。
マーカ位置=パンタグラフ位置=架線の位置 ・・・(1)
【0005】
つまり、マーカ位置が架線の位置と同値になる。その後、画像上のマーカ位置(pixel)を実際の位置に換算することで架線の位置を算出している。このマーカ位置を架線の位置に換算する際に、画像分解能や画像上のマーカ位置と実際の高さとの関係を調整する「キャリブレーション」が必要となる。
【0006】
ここで、特許文献1、特許文献2には、それぞれラインセンサカメラ、エリアカメラを用いて架線の高さを測定する方法が記載されており、カメラのキャリブレーションをカメラの位置や姿勢、レンズの焦点距離などのカメラパラメータを用いて行う旨が記載されている。具体的には、カメラパラメータを基に画像上のピクセル位置を実際の位置に換算するための関数(以下、「pixel→高さ」の換算式という)を求めている。
【0007】
また、特許文献3および特許文献4には、カメラパラメータを用いずに「pixel→高さ」の換算式を求めるラインセンサカメラのキャリブレーション方法が記載されている。具体的には、撮影位置に白黒幅が一定でかつ長さが既知であるキャリブレーション用機材やマーカを取り付け、これをラインセンサカメラで撮影し、撮影した画像を処理マシンに保存し、白黒のピクセル幅を求め、既知である白黒幅と画像上の高さとの対応点を求め、最小二乗法を用いて求めた対応点を結ぶ曲線を求めて「pixel→高さ」の換算式を算出することによりキャリブレーションを行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−250774号公報
【特許文献2】特開2008−104312号公報
【特許文献3】特開2010−190886号公報
【特許文献4】特開2010−169505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献1、特許文献2に記載された発明においては、カメラパラメータを求める必要がある。カメラパラメータとしては、カメラの位置(例えば、撮影対象までの距離)や姿勢(例えば、仰角や回転角)等があり、従来このようなカメラパラメータを手測りや画像処理によって求めているものの、撮影対象までの距離はカメラのセンサ素子からの距離であるため正確に測定することが難しいという問題があった。また、画像処理によって姿勢を求めた場合、量子化誤差などの影響により正確な値を求めることが難しいという問題があった。したがって、キャリブレーションの結果求めた「pixel→高さ」の換算式の精度をより向上させることが求められていた。
【0010】
また、上述した特許文献3、特許文献4に記載された発明においては、カメラパラメータを用いる必要はないものの、高精度なキャリブレーション結果を得るためには白黒ピクセル幅と実際の高さとの対応点を複数(理想的には1ピクセルずつ白黒となり、それぞれの高さが得られる程度)取得することが好ましい。しかしながら、現実的にはこのようなキャリブレーション用機材を作成することは困難であった。また、量子化誤差の影響を受けるため正確にキャリブレーションを行うことは困難であった。
【0011】
このように、従来、簡単なキャリブレーションにより高精度に「pixel→高さ」の換算式を求めることが困難であるという問題があった。
なお、本発明において「キャリブレーション」とは、上述した通り画像分解能や画像上の位置(pixel)と実際の高さとの関係を調整することを意味する。特許文献5,6にラインセンサカメラの撮影位置を調整するキャリブレーション方法が提案されているが、本発明はこのような「ラインセンサの撮影位置を調整するキャリブレーション」とは異なる。
【0012】
以上のことから本発明は、カメラパラメータを用いることなく簡単に高精度の「pixel→高さ」換算式を求めることを可能とするラインセンサカメラのキャリブレーション装置およびキャリブレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するための第1の発明に係るラインセンサカメラのキャリブレーション装置は、長方形状に形成されその表面に白色領域と黒色領域とを交互に配されてなるキャリブレーション用機材と、前記キャリブレーション用機材の長手方向を撮影するように配設されたラインセンサカメラと、前記ラインセンサカメラから出力される画像信号に基づいて前記ラインセンサカメラのキャリブレーションを行う画像処理手段とを備え、前記白色領域と前記黒色領域の前記キャリブレーション機材長手方向の幅がそれぞれ同一幅であるとともに前記白色領域と前記黒色領域との境界線が前記キャリブレーション用機材本体の長手方向に対して所定の角度θだけ傾斜していることを特徴とする。
【0014】
上記の課題を解決するための第2の発明に係るラインセンサカメラのキャリブレーション装置は、第1の発明に係るラインセンサカメラのキャリブレーション装置において、前記画像処理手段が、二値化閾値および前記白色領域および前記黒色領域の前記キャリブレーション用機材幅方向の長さを設定する処理パラメータ設定手段と、前記ラインセンサカメラから出力される画像信号に基づいてキャリブレーション用画像を作成するキャリブレーション用画像作成手段と、前記処理パラメータ設定手段において設定した二値化閾値に基づいて前記キャリブレーション用画像に二値化処理を施し二値化画像を生成する二値化処理手段と、前記二値化画像から前記白色領域および前記黒色領域に対応する白黒ピクセル幅を抽出する白黒ピクセル幅抽出手段と、前記処理パラメータ設定手段において設定した前記長さおよび前記白黒ピクセル幅抽出手段において抽出した前記白黒ピクセル幅に基づいて「pixel→高さ」換算式の係数を算出する換算式係数出力手段と、複数の前記「pixel→高さ」換算式の係数に基づいて前記「pixel→高さ」換算式の係数の最適値を検出する換算式係数最適値出力手段とを有することを特徴とする。
【0015】
上記の課題を解決するための第3の発明に係るラインセンサカメラのキャリブレーション装置は、第2の発明に係るラインセンサカメラのキャリブレーション装置において、前記白色領域および前記黒色領域の前記キャリブレーション用機材長手方向の幅をL、前記白色領域および前記黒色領域の前記キャリブレーション用機材幅方向の長さをHとしたときに、前記角度θがθ≦arctan(H/L)を満たすことを特徴とする。
【0016】
上記の課題を解決するための第4の発明に係るラインセンサカメラのキャリブレーション装置は、第2又は第3の発明に係るラインセンサカメラのキャリブレーション装置において、前記白黒ピクセル幅抽出手段において抽出した前記白黒ピクセル幅に基づいてキャリブレーションの実行判断を行うキャリブレーション実行判断手段を有することを特徴とする。
【0017】
上記の課題を解決するための第5の発明に係るラインセンサカメラのキャリブレーション方法は、処理パラメータとして二値化閾値および前記白色領域および前記黒色領域の前記キャリブレーション用機材幅方向の長さを設定する第一の工程と、長方形状に形成されその表面に白色領域と黒色領域とを交互に配され、前記白色領域と前記黒色領域の前記キャリブレーション用機材長手方向の長さがそれぞれ同一幅を有するとともに前記白色領域と前記黒色領域との境界線が前記キャリブレーション用機材の長手方向に対して所定の角度θだけ傾斜しているキャリブレーション用機材をラインセンサカメラで撮影する第二の工程と、前記ラインセンサカメラから出力される画像信号に基づいてキャリブレーション用画像を生成する第三の工程と、前記キャリブレーション用画像に対して二値化処理を施し二値化画像を生成する第四の工程と、前記二値化画像中の白色領域と黒色領域のピクセル幅を抽出する第五の工程と、前記ピクセル幅を用いて「pixel→高さ」換算式の係数を算出する第六の工程と、複数の前記換算式の係数に基づいて換算式の係数の最適値を出力する第七の工程とからなることを特徴とする。
【0018】
上記の課題を解決するための第6の発明に係るラインセンサカメラのキャリブレーション方法は、第5の発明に係るラインセンサカメラのキャリブレーション方法において、前記白色領域および前記黒色領域の前記キャリブレーション用機材長手方向の幅をL、前記白色領域および前記黒色領域の前記キャリブレーション用機材幅方向の長さをHとしたときに、前記角度θがθ≦arctan(H/L)を満たすことを特徴とする。
【0019】
上記の課題を解決するための第7の発明に係るラインセンサカメラのキャリブレーション方法は、第6の発明に係るラインセンサカメラのキャリブレーション方法において、前記第五の工程の後にキャリブレーションの実行が可能か否かを判断し、キャリブレーションが実行可能であれば前記第六の工程に進む一方、キャリブレーションが実行不可であれば前記ラインセンサカメラのピントまたは絞りを調整し、前記第二の工程に戻ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
上述した本発明に係るラインセンサカメラのキャリブレーション装置およびキャリブレーション方法によれば、ラインセンサカメラのカメラパラメータを用いることなく高精度に「pixel→高さ」換算式を求めることができ、キャリブレーションの精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例1に係るキャリブレーション装置の概略を示す説明図である。
【図2】本発明の実施例1に係るキャリブレーション用機材を示す説明図である。
【図3】本発明の実施例1に係る処理マシンの概略構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施例1に係るキャリブレーション装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施例1における二値化画像の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の実施例1における「pixel→高さ」の対応点および二次曲線の一例を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例1における「pixel→高さ」換算式の係数の一例を示す分布図である。
【図8】本発明の実施例2に係る処理マシンの概略構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の実施例2に係るキャリブレーション装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】図10(a)はハレーションまたは画像ぼけが発生した場合のキャリブレーション用画像の一例を示す説明図、図10(b)は図10(a)に示すキャリブレーション用画像から生成した二値化画像の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るラインセンサカメラのキャリブレーション装置およびキャリブレーション方法の詳細を説明する。
【実施例1】
【0023】
図1ないし図7を用いて本発明に係るラインセンサカメラのキャリブレーション装置およびキャリブレーション方法の第一の実施例を説明する。
【0024】
図1に示すように、本実施例に係るラインセンサカメラのキャリブレーション装置は、キャリブレーション用機材1と、このキャリブレーション用機材1を撮影するラインセンサカメラ2と、ラインセンサカメラ2から出力される画像信号が入力される画像処理手段としての処理用コンピュータ3とから構成されている。なお、図1中、上下に延びる矢印はラインセンサカメラ2の撮影位置の一例を示している。
【0025】
図2に示すように、キャリブレーション用機材1は長方形状の表面に、長手方向に向かって白色領域1wと黒色領域1bとを交互に配置して構成されている。本実施例において白色領域1wと黒色領域1bとは、その境界線(以下、単に「境界線」という)が上記表面の長手方向に対して下記(2)式を満たす角度θだけ傾斜するように配置されている。
【0026】
θ≦arctan(H/L) ・・・(2)
ただし、Lは白色領域1wおよび黒色領域1bのキャリブレーション用機材1長手方向の既知の長さ(以下、白黒幅Lという)、Hは白色領域1wおよび黒色領域1bのキャリブレーション用機材1幅方向の長さである。
【0027】
また、キャリブレーション用機材1は幅方向(図中に白抜きの矢印で示す方向)にスライド可能な機構を備えているものとする。
【0028】
ラインセンサカメラ2は、そのライン方向がキャリブレーション用機材1の長手方向に一致するように配設されているものとする。
【0029】
また、処理用コンピュータ3は少なくとも図3に示す処理パラメータ設定手段としての処理パラメータ設定部31と、キャリブレーション用画像作成手段としてのキャリブレーション用画像作成部32と、二値化処理手段としての二値化処理部33と、白黒ピクセル幅抽出手段としての白黒ピクセル幅抽出部34と、換算式係数出力手段としての換算式係数出力部35と、換算式係数最適値出力手段としての換算式係数最適値出力部36と、記憶手段としてのメモリM1,M2とを備えている。
【0030】
処理パラメータ設定部31は二値化処理用の閾値(以下、二値化閾値という)と図2に示した白黒幅Lを処理パラメータとして設定する。なお、「二値化閾値」は任意の値であり、例えば自動で二値化閾値を設定する既知の手法を用いてもよい。
キャリブレーション用画像作成部32はラインセンサカメラ2で取得した画像信号からキャリブレーション用画像を作成する。
【0031】
二値化処理部33は処理用パラメータ設定部32において設定された二値化閾値を用いてキャリブレーション用画像に二値化処理を施し、二値化処理を行った結果の画像を二値化画像4(図5参照)として生成する。
白黒ピクセル幅抽出部34は二値化処理部33によって生成された二値化画像4から白色領域1wおよび黒色領域1bに対応するピクセル幅を白黒ピクセル幅pとして抽出する。
【0032】
換算式係数出力部35は処理用パラメータ設定部32において設定された白黒幅Lと白黒ピクセル幅抽出部34において抽出された白黒ピクセル幅pとの対応点を求め、最小二乗法により「pixel→高さ」換算式の係数を求める。
換算式係数最適値出力部36は換算式係数出力部35において求めた複数の「pixel→高さ」換算式の係数からなる係数群を用いて「pixel→高さ」換算式の係数の最適な値(以下、換算式の係数最適値という)を求める。
【0033】
以下、図4に基づいて本実施例に係るラインセンサカメラのキャリブレーション方法について説明する。図4に示すように、処理パラメータ設定部31において画像処理の際に用いる処理パラメータとして二値化閾値の設定および実際の白黒幅Lの入力を行う(ステップP1)。この二値化閾値および白黒幅LはメモリM2に記憶される。
【0034】
続いて、ラインセンサカメラ2を用いてキャリブレーション用機材1の撮影を行う(ステップP2)。このとき、図1に示すように、キャリブレーション用機材1がラインセンサカメラ2の撮影ラインを横切るようにキャリブレーション用機材1をスライドさせつつラインセンサカメラ2による撮影を行う。なお、キャリブレーション用機材1をスライドさせる作業は一定速度で行わずともよく、作業者が手動で行う、又はスライドさせる機構を備えた装置を用いる等、種々の方法を用いることが可能である。また、キャリブレーション用機材1をスライドさせる方向は、キャリブレーション用機材1がラインセンサカメラ2の撮影ラインを完全に通過するのであれば、どちらの方向でもよい。
【0035】
続いて、キャリブレーション用画像作成部32においてラインセンサカメラ2から入力される画像信号を用いてキャリブレーション用画像を作成し、これをメモリM1に記憶する(ステップP3)。
【0036】
続いて、二値化処理部33においてメモリM2を経由して二値化閾値およびキャリブレーション用画像を読み込み、キャリブレーション用画像に対して二値化処理を行い、二値化画像4をメモリM2に記憶する(ステップP4)。ここで、二値化画像4の例を図5に示す。図5に示す二値化画像4においては、キャリブレーション用機材1とラインセンサカメラ2との距離が離れるにしたがって画像分解能が低下することにより、白黒幅Lに対応する幅p1〜p5が順に狭くなっている。
【0037】
続いて、白黒ピクセル幅抽出部34においてメモリM2から二値化画像4を読み込み、二値化画像4から時間毎(すなわち、一ライン毎)に白黒ピクセル幅p(例えば、図5に示すp1〜p5)を抽出してこれをメモリM2に記憶する(ステップP5)。
【0038】
続いて、換算式係数出力部35においてメモリM2から白黒幅Lおよび白黒ピクセル幅pを読み込み、画像上の境界線に対応するピクセル位置(以下、単に「画像上のピクセル位置」という)と実際の境界線の位置(本実施例では境界線の高さ)との対応点を求め、最小二乗法により「pixel→高さ」換算式の係数を算出してこれをメモリM2に記憶する。このとき、全ての時間t(全ライン)毎に独立して画像上のピクセル位置と実際の境界線の位置との対応点を求める。
【0039】
ここで、「pixel→高さ」換算式の係数の算出方法について説明する。図6に換算式係数出力部35において求めた画像上のピクセル位置(x方向:pixel)と実際の境界線の位置(y方向)との対応点の一例を示す。なお、図6に示す対応点は、図5に示す時間tA,tB,tCにおける対応点であり、本実施例では境界線の最も低い位置を高さの基準として0L=0mmとした。
さらに、全ての時間毎に既知の手法である最小二乗法を用いて画像上のピクセル位置と実際の境界線の位置との対応点を結ぶ二次曲線(図6に実線で示す曲線)の関数(「pixel→高さ」換算式)を求める。図6に示す三つの二次曲線の関数は下記(3)式〜(5)式により示される。
【0040】
A:y=a12+b1x+c1 …(3)
B:y=a22+b2x+c2 …(4)
C:y=a32+b3x+c3 …(5)
ただし、y:実際の境界線の高さ、x:境界線の画像上のピクセル位置(pixel)とする。
【0041】
そして、上記(3)式〜(5)式における係数a1〜a3、b1〜b3、c1〜c3を「pixel→高さ」換算式の係数としてメモリM2に記憶する。
ここで、この係数a1〜a3、b1〜b3、c1〜c3は、量子化誤差などの影響がなく、かつ二次曲線式を正確に求めることができた場合には下式(6)〜(8)を満足する。
【0042】
1=a2=a3 ・・・(6)
1=b2=b3 ・・・(7)
1=c2=c3 ・・・(8)
【0043】
しかしながら、実際は量子化誤差などの影響を受けるため、下式(9)〜(11)のようになる。
【0044】
【数1】

【0045】
すなわち、係数a1,a2,a3、係数b1,b2,b3はそれぞれ近い値になるものの必ずしも一致はしない。
【0046】
このように、各係数a1〜a3、b1〜b3、c1〜c3は量子化誤差の影響を受けているので、本実施例においては図7に示すように係数aと係数bの対応点を表す分布図を基にこの対応点の真値を求め、これを「pixel→高さ」換算式の最適値として出力する。ここで、係数aと係数bの対応点をある一つの高さから求めれば、必ず同じ量子誤差が乗ってしまう。これに対し、本実施例においては図2に示したようなキャリブレーション用機材1を用いることによって複数の異なる高さから係数aと係数bの対応点を求めることが可能になる。
【0047】
すなわち、本実施例に係るキャリブレーション方法によれば、量子化誤差などの影響を受けているものの、様々な高さでの係数aと係数bの対応点を求めているので、図7に示すように係数aと係数bの対応点の分布は真値に近いところに多く分布する。そこで、係数aと係数bの対応点の分布で最も密度の高い値を求め、それを「pixel→高さ」換算式の最適値として出力し、メモリに記憶する。
必要であれば、係数cの値は図5で0mmとしたところの実際の高さを測定し、下記式(12)に代入して求めるものとする。
【0048】
c=y−ax2−bx ・・・(12)
【0049】
上述した本実施例に係るラインセンサカメラのキャリブレーション装置およびキャリブレーション方法によれば、ラインセンサカメラのカメラパラメータを用いることなく高精度に「pixel→高さ」換算式を求めることができ、ラインセンサカメラのキャリブレーションの精度を向上させることができる。
【0050】
また、境界線の傾斜角θを、上記(2)式を満たすように設定することにより、Lを固定値としたときにキャリブレーション用機材1の幅方向において常に少なくとも一つの境界線を付与することができるため本実施例に係るキャリブレーション処理を好適に行うことができる。
【0051】
なお、本実施例ではキャリブレーション用機材1のスライド方向をキャリブレーション用機材1の幅方向としたが、ラインセンサカメラ2の撮影位置を完全に通過するのならば、どちらの方向でもよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【実施例2】
【0052】
図8ないし図10を用いて本発明に係るラインセンサカメラのキャリブレーション装置およびキャリブレーション方法の第二の実施例を説明する。
【0053】
本実施例は上述した実施例1に比較して処理用コンピュータ3に図8に示すキャリブレーション実行判断部37が追加された点が異なる。その他の構成は上述したものと同様であり、重複する説明は省略する。
本実施例において、キャリブレーション実行判断部37は白黒ピクセル幅抽出部34における白黒ピクセル幅pの抽出結果に基づいてハレーションや画像ぼけが発生しているか否かを判断し、キャリブレーションを実行するかどうかを決定する。
【0054】
以下、図9に基づいて本実施例に係るラインセンサカメラのキャリブレーション方法について説明する。本実施例に係るラインセンサカメラのキャリブレーション方法は、上述した実施例1におけるラインセンサカメラのキャリブレーション方法に比較して図9に示すステップP11およびステップP12を追加したものである。その他の処理については実施例1において説明したものとおおむね同様であり、重複する説明は省略する。
【0055】
図9に示すように、本実施例においては、ステップP5で白黒ピクセル幅pを抽出した後、ステップP11でキャリブレーションが実行可能か否かの判断を行う。そして、キャリブレーションが実行可能であれば(YES)、上述したステップP6に進み換算式の係数を算出する。一方、キャリブレーションが実行不可であれば(NO)、ラインセンサカメラ2のピント・絞り調整を行い(ステップP12)、上述したステップP2に戻る。
【0056】
ここで、図10を用いてキャリブレーションの実行判断処理について詳しく説明する。本実施例においては図10に示す白黒ピクセル幅p1〜p5が下式(13)を満たす場合にキャリブレーションが実行可能であると判断し、下式(13)を満たさない場合にキャリブレーションが実行不可であると判断する。そして、キャリブレーションが実行不可であると判断された場合にはキャリブレーションが実行可能であると判断されるまでラインセンサカメラ2のピントや絞りの調整を行う。なお、このラインセンサカメラ2のピントや絞りの調整は手動で行ってもよく、自動で行ってもよい。
【0057】
1≧p2≧p3≧p4≧p5 ・・・(13)
【0058】
すなわち、ラインセンサカメラ2は撮影対象までの距離によって画像分解能が異なる。具体的には、ラインセンサカメラ2と撮影対象との距離が大きくなればなるほど画像分解能は低下する。したがって、ラインセンサカメラ2のピントや絞りが適度に調整されていれば上記(13)式が成立する。
【0059】
これに対し、ラインセンサカメラ2のピントが合わなかったりハレーションを起こしてしまったりすると、例えば図10(a)に示すように二値化画像において白色の領域が実際の幅に比較して幅広に検出される等により下式(14)のようになる。
【0060】
3≦p4 ・・・(14)
【0061】
このように上記(13)式を満たさない結果が生じた場合、ハレーションまたは画像ぼけが発生していると判断する。ハレーションまたは画像ぼけが発生している場合、白黒ピクセル幅抽出部34において白黒ピクセル幅pを正確に抽出することができなくなり、キャリブレーションの結果として得られる「pixel→高さ」換算式の精度が低下するおそれがあるが、本実施例に係るラインセンサカメラのキャリブレーション装置およびキャリブレーション方法によればキャリブレーションが実行可能かどうかを判断する構成を備えることにより、確実に「pixel→高さ」換算式を算出することが可能となり、ラインセンサカメラ2のキャリブレーションを高精度に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、ラインセンサカメラのキャリブレーション装置およびキャリブレーション方法に適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0063】
1 キャリブレーション用機材
1w 白色領域
1b 黒色領域
2 ラインセンサカメラ
3 処理用コンピュータ
4 二値化画像
31 キャリブレーション用画像作成部
32 処理パラメータ設定部
33 二値化処理部
34 白黒ピクセル幅抽出部
35 換算式係数出力部
36 換算式係数最適値出力部
37 キャリブレーション実行判断部
M1,M2 メモリ
θ 白色領域と黒色領域との境界線の傾斜角度
L 白黒幅
H 白色領域および黒色領域のキャリブレーション用機材幅方向の長さ
1〜p5 白黒ピクセル幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長方形状に形成されその表面に白色領域と黒色領域とを交互に配されてなるキャリブレーション用機材と、前記キャリブレーション用機材の長手方向を撮影するように配設されたラインセンサカメラと、前記ラインセンサカメラから出力される画像信号に基づいて前記ラインセンサカメラのキャリブレーションを行う画像処理手段とを備え、前記白色領域と前記黒色領域の前記キャリブレーション機材長手方向の幅がそれぞれ同一幅であるとともに前記白色領域と前記黒色領域との境界線が前記キャリブレーション用機材本体の長手方向に対して所定の角度θだけ傾斜していることを特徴とするラインセンサカメラのキャリブレーション装置。
【請求項2】
前記画像処理手段が、二値化閾値および前記白色領域および前記黒色領域の前記キャリブレーション用機材幅方向の長さを設定する処理パラメータ設定手段と、前記ラインセンサカメラから出力される画像信号に基づいてキャリブレーション用画像を作成するキャリブレーション用画像作成手段と、前記処理パラメータ設定手段において設定した二値化閾値に基づいて前記キャリブレーション用画像に二値化処理を施し二値化画像を生成する二値化処理手段と、前記二値化画像から前記白色領域および前記黒色領域に対応する白黒ピクセル幅を抽出する白黒ピクセル幅抽出手段と、前記処理パラメータ設定手段において設定した前記長さおよび前記白黒ピクセル幅抽出手段において抽出した前記白黒ピクセル幅に基づいて「pixel→高さ」換算式の係数を算出する換算式係数出力手段と、複数の前記「pixel→高さ」換算式の係数に基づいて前記「pixel→高さ」換算式の係数の最適値を検出する換算式係数最適値出力手段とを有することを特徴とする請求項1記載のラインセンサカメラのキャリブレーション装置。
【請求項3】
前記白色領域および前記黒色領域の前記キャリブレーション用機材長手方向の幅をL、前記白色領域および前記黒色領域の前記キャリブレーション用機材幅方向の長さをHとしたときに、前記角度θがθ≦arctan(H/L)を満たすことを特徴とする請求項2記載のラインセンサカメラのキャリブレーション装置。
【請求項4】
前記白黒ピクセル幅抽出手段において抽出した前記白黒ピクセル幅に基づいてキャリブレーションの実行判断を行うキャリブレーション実行判断手段を有することを特徴とする請求項2又は請求項3記載のラインセンサカメラのキャリブレーション装置。
【請求項5】
処理パラメータとして二値化閾値および前記白色領域および前記黒色領域の前記キャリブレーション用機材幅方向の長さを設定する第一の工程と、長方形状に形成されその表面に白色領域と黒色領域とを交互に配され、前記白色領域と前記黒色領域の前記キャリブレーション用機材長手方向の長さがそれぞれ同一幅を有するとともに前記白色領域と前記黒色領域との境界線が前記キャリブレーション用機材の長手方向に対して所定の角度θだけ傾斜しているキャリブレーション用機材をラインセンサカメラで撮影する第二の工程と、前記ラインセンサカメラから出力される画像信号に基づいてキャリブレーション用画像を生成する第三の工程と、前記キャリブレーション用画像に対して二値化処理を施し二値化画像を生成する第四の工程と、前記二値化画像中の白色領域と黒色領域のピクセル幅を抽出する第五の工程と、前記ピクセル幅を用いて「pixel→高さ」換算式の係数を算出する第六の工程と、複数の前記換算式の係数に基づいて換算式の係数の最適値を出力する第七の工程とからなることを特徴とするラインセンサカメラのキャリブレーション方法。
【請求項6】
前記白色領域および前記黒色領域の前記キャリブレーション用機材長手方向の幅をL、前記白色領域および前記黒色領域の前記キャリブレーション用機材幅方向の長さをHとしたときに、前記角度θがθ≦arctan(H/L)を満たすことを特徴とする請求項5記載のラインセンサカメラのキャリブレーション方法。
【請求項7】
前記第五の工程の後にキャリブレーションの実行が可能か否かを判断し、キャリブレーションが実行可能であれば前記第六の工程に進む一方、キャリブレーションの実行不可であれば前記ラインセンサカメラのピントまたは絞りを調整し、前記第二の工程に戻ることを特徴とする請求項6記載のラインセンサカメラのキャリブレーション方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−242339(P2012−242339A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115338(P2011−115338)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】