説明

ラジエータグリルの製造方法

【課題】ガスの残留に起因する焼けや線が表面に現出しない外観品質の良好なラジエータグリルを製造する方法を提供する。
【解決手段】グリル成形用金型装置Mとして、複数の成形空間S1,S3からなるキャビティCを形成する第1金型50及び第2金型60を有するものを用い、全ての成形空間S1,S3に溶融樹脂を充填することにより、キャビティCに対応した形状のラジエータグリルを成形する。グリル成形用金型装置Mとして、上記複数の成形空間S1,S3のうち、溶融樹脂の充填に伴いガスが残留しやすい成形空間S3を特定成形空間とし、この特定成形空間の一部を同特定成形空間の他の箇所よりも幅W3aの狭い幅狭部S3aにより構成したものを用いる。そして、幅狭部S3aに面して設けたガス抜き機構70により、ガスをキャビティCの外部へ放出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリル成形用金型装置を用いて自動車用のラジエータグリルを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のエンジンルームの前部にはラジエータが配置されるとともに、そのラジエータの前方に走行風等の外気を導入してラジエータを冷却するためのラジエータグリルが配置される。このラジエータグリルの一形態として、横長の四角環状をなし、かつ横長の開口を有する枠部と、上記開口に設けられた格子部と、開口において格子部とは異なる箇所に設けられた遮蔽部とを備えるものがある。遮蔽部は、主として、ラジエータグリルの後方に位置する各種部品等が、開口を通じて前方から見えないようにするためのものであって、薄板状をなしている。このようなラジエータグリルでは、枠部及び格子部が剛性確保のために略3mmの厚みに形成され、遮蔽部が軽量化の観点から略2mmの厚みに形成されている。
【0003】
上記ラジエータグリルは例えば射出成形法により製造される。この場合、金型装置のキャビティ内にゲートを通じて溶融樹脂が注入される。キャビティには、枠部、格子部及び遮蔽部の各部を成形するための成形空間が含まれている。そして、溶融樹脂が、ゲートに近い成形空間から遠い成形空間へ向けて順に流れていき、全ての成形空間が溶融樹脂で充填される。この溶融樹脂が冷却硬化されることで、所望の形状を有するラジエータグリルが得られる。
【0004】
ところで、上記金型装置では、本来ならば全部が溶融樹脂によって充填されるべきキャビティの特定の箇所に、エアや原材料から発生したガス等(以下、単にガスという)が残留する現象が起こることがある。特定の箇所とは、遮蔽部を成形するための成形空間である。これは、この成形空間が他の成形空間よりも幅狭であって溶融樹脂が流れにくいことに加え、この幅狭の成形空間が他の幅広の成形空間によって周りを囲まれていることによる。幅狭の成形空間のガスは閉じ込められて圧縮されるが、どこにも排出されなくなる。
【0005】
そして、上記のようにガスが圧縮されて高温になると、成形品(ラジエータグリル)の表面に焼けが生じたり、圧縮されたガスが幅狭の成形空間から飛び出して、成形品の表面に線を生じさせたりする等、成形不良を発生するおそれがある。
【0006】
これに対しては、ゲートの位置、ラジエータグリル(キャビティ)の形状等、種々の要素を考慮して溶融樹脂の流動態様を解析し、キャビティにおいてガスが残留して最後まで溶融樹脂で充填されない箇所を予測する。そして、金型装置において、上記予測した箇所に対応する部位にガス抜き機構を設け、キャビティに残留したガスを、このガス抜き機構を通じて金型装置の外部へ放出することが行われる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2004−148549号公報
【特許文献2】特開平5−16183号公報
【特許文献3】特開2004−299084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、現状の解析技術では上記ガスの残留箇所を正確に予測することは困難である。金型装置の製作後に溶融樹脂をキャビティに充填したとき、予測した箇所とは異なる箇所にガスが残留するおそれがある。この場合には、上記特許文献1〜3に記載のガス抜き機構がそれ自体有効なものであっても、ガスの残留箇所から離れた箇所に位置している限り、そのガス抜き性能を充分に発揮させることが難しい。金型装置を一旦製作した後に、ガス抜き機構の位置を、実際にガスの残留する箇所に変更する等、金型装置を手直しすることが必要となる。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、ガスの残留に起因する焼けや線が表面に現出しない外観品質の良好なラジエータグリルを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、複数の金型を有するグリル成形用金型装置を用い、前記金型間のキャビティを構成する複数の成形空間の全てに溶融樹脂を充填することにより、前記キャビティに対応した形状の自動車用のラジエータグリルを成形するようにしたラジエータグリルの製造方法において、前記グリル成形用金型装置として、前記複数の成形空間のうち、前記溶融樹脂の充填に伴いガスが残留しやすい成形空間を特定成形空間とし、この特定成形空間の一部を同特定成形空間の他の箇所よりも幅の狭い幅狭部により構成し、さらに、前記ガスを前記キャビティの外部へ放出するガス抜き機構を前記幅狭部に面して設けたものを用いることを要旨とする。
【0010】
上記の方法によれば、グリル成形用金型装置を用いたラジエータグリルの製造に際しては、複数の金型間にキャビティが形成され、ここに溶融樹脂が注入される。この溶融樹脂はキャビティ内を流れる過程で、同キャビティを構成する複数の成形空間に順に充填されていく。全ての成形空間が溶融樹脂により充填されると、キャビティに対応した形状のラジエータグリルが形成される。
【0011】
溶融樹脂は、本来ならば、上記のように全ての成形空間に充填されるべきであるが、特定の成形空間にエアや原材料から発生したガス等(以下、単にガスという)が残留して溶融樹脂が完全に充填されない現象が起こることがある。請求項1に記載の発明では、このようにガスの残留しやすい成形空間が特定成形空間とされる。
【0012】
ここで、溶融樹脂が各成形空間を流れる際の流動抵抗は、成形空間の幅に応じて異なる。一般には、成形空間の幅が狭くなるに従い溶融樹脂の流動抵抗が大きくなって、溶融樹脂の流動速度が低くなる傾向にある。
【0013】
請求項1に記載の発明では、溶融樹脂のこうした流動特性が利用され、特定成形空間の一部が他の箇所よりも幅の狭い幅狭部により構成されている。この幅狭部では溶融樹脂の流動抵抗が大きく、流動速度が低くなり、特定成形空間の中でも特に幅狭部でガスが残留しやすくなる。このガスは、幅狭部に面して設けられたガス抜き機構を通じてキャビティの外部へ放出される。
【0014】
このように、請求項1に記載の発明では、幅狭部及びガス抜き機構を設けることで、ガスの残留する箇所とガス抜き機構の位置とを合致させ、ガスを特定成形空間に残留させることなく確実にキャビティの外部へ放出することができ、ガス抜き性能の向上を図ることが可能となる。ガスがキャビティに残留しにくくなり、ガスの残留に起因する焼けや線が表面に現出しない外観品質の良好なラジエータグリルを製造することが可能となる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ラジエータグリルは、開口を有する環状の枠部と、前記開口に設けられた格子部と、前記開口のうち前記格子部とは異なる箇所に設けられ、かつ前記枠部及び前記格子部よりも薄い板状の遮蔽部とを備え、前記グリル成形用金型装置として、前記遮蔽部のうち、前記枠部及び前記格子部により囲まれた箇所を成形するための成形空間を前記特定成形空間とするものを用いることを要旨とする。
【0016】
上記のように枠部、格子部及び遮蔽部を有するラジエータグリルでは、遮蔽部が枠部及び格子部よりも薄いことに加え、遮蔽部において枠部及び格子部により囲まれた箇所がある。キャビティにおいて、上記の箇所を成形するための成形空間にはガスが残留しやすい。これは、上述した成形空間の幅に応じて溶融樹脂の流動抵抗及び流動速度が異なることによる。遮蔽部を成形するための成形空間に溶融樹脂が完全に充填されるよりも前に、その周りの枠部や格子部を成形するための成形空間に溶融樹脂が充填されるからである。そのため、請求項2に記載の発明によるように、遮蔽部のうち、枠部及び格子部により囲まれた箇所を成形するための成形空間が特定成形空間とされ、その一部が幅狭部により構成されることで、ガスを幅狭部に確実に残留させることができる。そして、このガスを、幅狭部に面したガス抜き機構を通じてキャビティの外部へ確実に放出させることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記枠部は略鉛直方向へ延びる側壁部を有しており、前記格子部は車幅方向に延び、かつ端部において前記枠部の前記側壁部にそれぞれ接続された複数本の横格子部を有し、前記遮蔽部は、前記開口の車幅方向についての側部において、前記側壁部及び前記横格子部に繋がった状態で設けられており、前記グリル成形用金型装置として、前記遮蔽部において、隣り合う横格子部間であって、前記側壁部に近い箇所を成形するための成形空間を前記特定成形空間とするものを用いることを要旨とする。
【0018】
枠部、格子部及び遮蔽部がそれぞれ上記の条件を満たすラジエータグリルでは、遮蔽部において、隣り合う横格子部間であって、枠部の側壁部に近い箇所を成形するための成形空間にガスが残留しやすい。遮蔽部を成形するための成形空間に溶融樹脂が完全に充填されるよりも前に、その周りに位置する格子部の横格子部や枠部の側壁部を成形するための成形空間に溶融樹脂が充填されるからである。そのため、請求項3に記載の発明によるように、遮蔽部において、隣り合う横格子部間であって、側壁部に近い箇所を成形するための成形空間が特定成形空間とされ、その一部が幅狭部により構成されることで、ガスを幅狭部に確実に残留させることができる。そして、このガスを、幅狭部に面したガス抜き機構を通じてキャビティの外部へ確実に放出させることができる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記グリル成形用金型装置として、前記キャビティに溶融樹脂を導くゲートが、同キャビティの車幅方向についての中央部分に設けられているものを用いることを要旨とする。
【0020】
上記の方法によれば、溶融樹脂はゲートを通じキャビティの車幅方向についての中央部分に注入される。この溶融樹脂の一部は、横格子部を成形するための横長の成形空間に沿って、車幅方向についての側方へ向けて流れる。この溶融樹脂の一部は、上記横格子部を成形するための成形空間を通過した後、枠部の側壁部を成形するための成形空間を流れる。また、上記溶融樹脂の一部は、上記横格子部を成形するための成形空間を流れる途中で、遮蔽部を成形するための成形空間に流入する。遮蔽部を成形するための成形空間では幅が狭いことから、溶融樹脂が、横格子部や枠部を成形するための成形空間よりも遅く流れる。そのため、遮蔽部を成形するための成形空間に溶融樹脂が完全に充填されるよりも前に、その周りの枠部や格子部を成形するための成形空間に溶融樹脂が充填され、前者の成形空間にガスが残留しやすくなる。なかでも幅狭部では溶融樹脂の流動速度が最も遅く、ガスはこの幅狭部に残留する。従って、幅狭部に残留したガスをガス抜き機構によりキャビティの外部へ確実に放出することができる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1つに記載の発明において、前記グリル成形用金型装置として、前記複数の金型が、前記ラジエータグリルの後ろ側の面を形成する第1金型を含み、かつ前記第1金型に設けられた突部により、前記幅狭部を前記特定成形空間の前部に形成するものを用いることを要旨とする。
【0022】
上記の方法によれば、キャビティへの溶融樹脂の射出に伴い、第1金型の突部に対応する箇所には溶融樹脂が充填されず、特定成形空間の前部に位置する幅狭部に溶融樹脂が充填される。遮蔽部の一部には、遮蔽部の後面において開口する凹部と、その凹部の前側に位置する厚みの薄い箇所(薄肉部)とが形成される。突部に対応した箇所が凹部となり、幅狭部に対応する箇所が薄肉部となる。従って、ラジエータグリルの前方からは薄肉部が見えるものの凹部は見えず、この凹部がラジエータグリルの外観品質を低下させることがない。
【0023】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記グリル成形用金型装置として、前記ガス抜き機構が、前記第1金型に設けられ、かつ前記突部の表面に開口するガス抜き通路を有するものを用いることを要旨とする。
【0024】
上記の方法によれば、ガス抜き機構におけるガス抜き通路の開口が突部の表面において開口していることから、幅狭部により成形される薄肉部には開口による跡が残るおそれがある。しかし、この跡は突部により形成される凹部の内面に残る。そのため、ラジエータグリルの前方からは、上記開口による跡は見えず、ラジエータグリルの外観品質を低下させることがない。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、キャビティに残留するガスをガス抜き機構により確実にキャビティの外部に放出させることができるようになり、ガス抜き性能の向上を図ることができ、もって、ガスの残留に起因する焼けや線が表面に現出しない外観品質の良好なラジエータグリルを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
まず、グリル成形用金型装置(以下、単に金型装置という)によって成形される自動車用のラジエータグリルについて説明する。図1に示すように、ラジエータグリルRGは、自動車10のラジエータ(図示略)の前側に配置されて、走行風等の外気をラジエータの前方に導入して冷却するためのものであり、フロントグリルとも呼ばれる。ラジエータグリルRGは、自動車10のボンネット11とフロントバンパ12との間で、かつ、左右のヘッドライト13,13間に配設されている。
【0027】
図2に示すように、ラジエータグリルRGは、枠部20、格子部30及び遮蔽部40を備えており、全体がABS樹脂等の合成樹脂によって形成されている。枠部20は、横長の四角環状をなしており、この枠部20により囲まれた空間は開口21となっている。ここで、枠部20の各部を区別するために、上側部分を上壁部22といい、下側部分を底壁部23といい、左右両側部分を側壁部24,25というものとする。両側壁部24,25は略鉛直方向へ延びている。
【0028】
格子部30は横格子部31及び縦格子部35からなり、上記開口21に配置されている。本実施形態では、横格子部31についても縦格子部35についても複数本ずつ設けられている。これらの横格子部31及び縦格子部35のそれぞれの本数は適宜変更可能である(1本も含む)。各横格子部31は車幅方向(略水平方向)へ延びており、その左右両端部において、枠部20における左右の両側壁部24,25に繋がっている。より詳しくは、図3及び図4の少なくとも一方に示すように、各横格子部31は、互いに上下方向に離間した箇所に位置する上板部32及び底板部34と、それらの上板部32の前端部及び底板部34の前端部(図3及び図4の右端部)間を連結する前板部33とを備えており、車幅方向についての側方から見た場合の断面形状が略コ字状をなしている。また、図2に示すように、各縦格子部35は略鉛直方向へ延びており、その上下両端部において、枠部20における上壁部22及び底壁部23に繋がっている。
【0029】
遮蔽部40は、主として、ラジエータグリルRGの後方に位置する各種部品等が、枠部20の開口21を通じて前方から見えないようにするためのものであって、薄板状をなしている。遮蔽部40は開口21のうち横格子部31及び縦格子部35とは異なる複数の箇所に設けられている。本実施形態では、開口21の車幅方向についての両側部であって、上下に隣り合う上壁部22及び横格子部31間、上下に隣り合う横格子部31,31間、上下に隣り合う横格子部31及び底壁部23間、が上記の箇所とされている。図3及び図4(A)の少なくとも一方に示すように、各遮蔽部40は、枠部20の後端部及び横格子部31の後端部に繋がった状態で設けられている。各遮蔽部40は上記格子部30(少なくとも横格子部31)及び枠部20の側壁部24,25よりも薄く形成されている。格子部30及び側壁部24,25が剛性確保の観点から略3mmの厚みt1に形成されているのに対し、遮蔽部40は軽量化の観点から略2mmの厚みt2に形成されている。
【0030】
なお、図2に示すように、開口21の車幅方向についての中央部分には、オーナメント45が特定の横格子部31及び特定の縦格子部35に接続された状態で設けられている。このオーナメント45は省略されてもよい。
【0031】
次に、上記ラジエータグリルRGを成形する際に用いられる金型装置Mについて説明する。図5及び図6は、金型装置Mにおいて、ラジエータグリルRGの一部(所定の遮蔽部40及びその周りの横格子部31及び枠部20)を成形する箇所の断面構造を示している。
【0032】
この金型装置Mは、互いに水平方向に並べられた状態で配置された第1金型50及び第2金型60を備えている。第1金型50は主として、ラジエータグリルRGの後ろ側の面を形成するためのものであり、移動不能に設けられた固定型により構成されている。第2金型60は、主としてラジエータグリルRGの前側の面を形成するためのものであり、水平方向へ移動可能に設けられた可動型により構成されている。
【0033】
第1金型50の第2金型60側(図5及び図6の各右側)の面において、互いに上下方向に離間した複数箇所には、第2金型60側へ突出する第1成形突部51が設けられている。また、第2金型60の第1金型50側(図5及び図6の各左側)の面において、上記第1成形突部51,51間に対応する箇所には、第1金型50側へ突出する第2成形突部61が設けられている。
【0034】
そして、金型装置Mが閉じられたときには、図6に示すように各第1成形突部51の大部分が、上下に隣り合う第2成形突部61,61間に入り込むとともに、各第2成形突部61が、上下に隣り合う第1成形突部51,51間に入り込み、第1金型50及び第2金型60間に、複数の成形空間からなるキャビティCを形成する。複数の成形空間には、格子部30を成形するための成形空間S1、枠部20を成形するための成形空間S2(図7参照)、及び遮蔽部40を成形するための成形空間S3が含まれている。格子部30を成形するための成形空間S1は、第1成形突部51の周りに形成される空間である。遮蔽部40を成形するための成形空間S3は、上下に隣り合う第1成形突部51,51間の内底面52Aと各第2成形突部61の頂面61Aとの間に形成され、かつ上記格子部30及び上記枠部20をそれぞれ成形するための成形空間S1,S2よりも幅の狭い空間である。成形空間S1,S2の幅W1,W2が略3mmであるのに対し、成形空間S3の幅W3は略2mmである。なお、幅W2については図示が省略されている。
【0035】
さらに、第1金型50の所定の箇所(図2において符号55で示す箇所)には、溶融樹脂Rを上記キャビティCに導くためのゲートが設けられている。ここでは、ゲートはキャビティCの車幅方向についての中央部分、例えばオーナメント45を成形するための成形空間に繋がっている。これに加え、第1金型50には、射出装置のノズルが接触する樹脂注入口、同樹脂注入口及び上記ゲート間を接続するランナ等(いずれも図示略)が設けられている。
【0036】
そして、上記のように構成された金型装置Mでは、射出装置から射出された溶融樹脂Rがランナ、ゲートを通り、キャビティCの車幅方向についての中央部分に注入される。この溶融樹脂Rの一部は、ゲートに近い成形空間から遠い成形空間に向けて順に流れていき、全ての成形空間が溶融樹脂Rで充填される。この溶融樹脂Rが冷却硬化されることで、所望の形状を有するラジエータグリルRGが得られる。
【0037】
ところが、上記金型装置Mでは、本来ならば全部が溶融樹脂Rによって充填されるべきキャビティCの特定の箇所に、エアや原材料から発生したガス等(以下、単にガスGという)が残留する現象(ガスパックとも呼ばれる)が起こることがある。特定の箇所とは、ここでは遮蔽部40を成形するための成形空間S3である。これは、この成形空間S3が他の成形空間S1,S2等よりも幅狭であって溶融樹脂Rが流れにくいことに加え、この幅狭の成形空間S3が他の幅広の成形空間S1,S2によって周りを囲まれていることによる。幅狭の成形空間S3のガスGは閉じ込められて圧縮されるが、どこにも排出されなくなる。
【0038】
ガスGが圧縮されて高温になると、成形品(ラジエータグリルRG)の表面に焼けが生じたり、圧縮されたガスGが幅狭の成形空間S3から飛び出して、成形品の表面に線を生じさせたりする等、成形不良を発生するおそれがある。
【0039】
そこで、ゲートの位置、ラジエータグリルRG(キャビティC)の形状等、種々の要素を考慮して、キャビティC内における溶融樹脂Rの流動態様をコンピュータで解析し、キャビティCにおいてガスGが残留して最後まで溶融樹脂Rで充填されない特定の成形空間S3を特定成形空間として予測している。
【0040】
より具体的には、上記コンピュータ解析によると、溶融樹脂Rは、図3及び図7において矢印で示すように、横格子部31を成形するための横長の成形空間S1に沿って、車幅方向についての側方へ向けて流れる。この溶融樹脂Rの一部は、上記横格子部31を成形するための成形空間S1を通過した後、枠部20の側壁部24,25を成形するための成形空間S2を流れる。また、上記溶融樹脂Rの一部は、上記横格子部31を成形するための成形空間S1を流れる途中で、遮蔽部40を成形するための成形空間S3に流入する。遮蔽部40を成形するための成形空間S3では、その幅W3が幅W1,W2よりも狭い(図6参照)ことから、溶融樹脂Rが、横格子部31や枠部20を成形するための成形空間S1,S2よりも遅く流れる。これは、幅の広い成形空間では流動抵抗が小さく溶融樹脂Rが速く流れるのに対し、幅の狭い成形空間では流動抵抗が大きく溶融樹脂Rがゆっくり流れるという、溶融樹脂Rの流動特性に基づくものである。そのため、遮蔽部40を成形するための成形空間S3に溶融樹脂Rが完全に充填されるよりも前に、その周りの枠部20や格子部30を成形するための成形空間S1,S2に溶融樹脂Rが充填され、前者の成形空間S3にガスGが残留しやすくなる。
【0041】
そして、上記解析結果に基づき、上記特定の遮蔽部40を成形する成形空間S3がガスGの残留しやすい特定成形空間であると予測し、図5及び図6に示すように、金型装置Mにおいて特定成形空間に対応する部位にガス抜き機構70を設けている。ガス抜き機構70の少なくとも一部は多孔質材料によって構成されている。多孔質材料には、ガス抜き通路として、微細な孔が多数設けられている。ガス抜き機構70は、キャビティC内に残留したガスGを上記ガス抜き通路を通じてキャビティCの外部へ放出する。
【0042】
ところが、現状の解析技術では上記ガスGの残留箇所を正確に予測することは困難である。金型装置Mの製作後に溶融樹脂RをキャビティCに充填したとき、予測した箇所とは異なる箇所にガスGが残留するおそれがある。この場合には、ガス抜き機構70がガスGの実際の残留箇所から離れた箇所に位置していることから、ガス抜き性能を充分に発揮させることが難しい。金型装置Mを一旦製作した後に、ガス抜き機構70の位置を、実際にガスGの残留する箇所に変更する等、金型装置Mを手直しすることが必要となる。
【0043】
そこで、本実施形態では、上述した溶融樹脂Rの流動特性が利用され、第1金型50の上下に隣り合う第1成形突部51,51間の内底面52Aにおける特定の箇所には、同内底面52Aの他の箇所よりも第2金型60側へ突出する突部53が設けられている。この突部53は突出方向に低い立方体形状をなしている。ここでは、図3及び図5に示すように、突部53について、縦辺の長さL1、横辺の長さL2がともに略30mmに設定され、突出方向の高さHが略1mmに設定されている。そして、この突部53により、図6に示すように、上記特定成形空間(成形空間S3)の一部が、同特定成形空間の他の箇所よりも幅の狭い幅狭部S3aにより構成されている。特定成形空間の他の箇所における幅W3が上述したように略2mmであるのに対し、幅狭部S3aの幅W3aは略1mmである。
【0044】
さらに、上記ガス抜き機構70が幅狭部S3aに面して設けられている。ここでは、突部53がガス抜き機構70の一部によって構成されていて、ガス抜き機構70におけるガス抜き通路が突部53の表面53Aで開口している。
【0045】
この構成により、キャビティCへの溶融樹脂Rの注入に伴い、第1金型50の突部53に対応する箇所には溶融樹脂Rが充填されず、特定成形空間(成形空間S3)の前部に位置する幅狭部S3aに溶融樹脂Rが充填される。
【0046】
この際、特定成形空間(成形空間S3)の幅狭部S3a以外の箇所では、他の成形空間S1,S2よりも幅W3が狭いことから、流動抵抗が大きく溶融樹脂Rがもともと低い流動速度で流れるところ、幅狭部S3aではさらに幅W3aが狭くなっていて流動抵抗がさらに大きくなる。そのため、特定成形空間(成形空間S3)における溶融樹脂Rの流動速度は、幅狭部S3aにおいて最も遅くなり、特定成形空間(成形空間S3)のガスGは幅狭部S3aに残留するようになる。そしてガスGは、この幅狭部S3aに面して設けられたガス抜き機構70を通じて、より正確には、突部53の表面53Aにおける開口からガス抜き通路に入り込み、同ガス抜き通路を通ってキャビティCの外部へ放出される。
【0047】
その結果、図4(B)に示すように、遮蔽部40の後面において開口する凹部41と、その凹部41の前側に位置する厚みの薄い箇所(薄肉部42)とを一部に有する遮蔽部40が形成される。突部53に対応した箇所が凹部41となり、幅狭部S3aに対応する箇所が薄肉部42となる。
【0048】
このようにして形成された遮蔽部40を含むラジエータグリルRGにおいては、上記のようにガスGが残留することなく放出されていることから、ガスGに起因する成形不良が生じていない。また、遮蔽部40には凹部41が存在するが、その凹部41は遮蔽部40の後ろ側に位置するため、ラジエータグリルRGの前方からはこの凹部41が見えない。
【0049】
また、ガス抜き機構70におけるガス抜き通路が突部53の表面53Aにおいて開口していることから、幅狭部S3aにより成形される薄肉部42には開口による跡が残るおそれがある。しかし、この跡は突部53により形成される凹部41の内面に残る。そのため、ラジエータグリルRGの前方からは、上記開口による跡もまた見えない。
【0050】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)金型装置MにおいてキャビティCを構成する複数の成形空間S1〜S3のうち、ガスGが残留しやすい成形空間S3を特定成形空間としている。成形空間の幅が狭くなるに従い流動抵抗が大きくなって、流動速度が低くなるという溶融樹脂Rの流動特性を利用し、上記成形空間S3の一部を特定成形空間の他の箇所よりも幅W3aの狭い幅狭部S3aにより構成している(図6参照)。そのため、特定成形空間(成形空間S3)のなかでも幅狭部S3aにおいて特に溶融樹脂Rを遅く流動させることにより、幅狭部S3aにガスGを確実に残留させることができる。
【0051】
さらに、ガス抜き機構70を上記幅狭部S3aに面して設けることで、ガスGの残留する箇所とガス抜き機構70の位置とを合致させているため、ガスGを特定成形空間(成形空間S3)に残留させることなく確実にキャビティCの外部へ放出することができ、ガス抜き性能の向上を図ることができる。キャビティCに即した形状を有し、表面に焼けや線のない外観品質の良好なラジエータグリルRGを製造することができる。
【0052】
これに伴い、金型装置Mを一旦製作した後に、ガス抜き機構70の位置を変更する等、金型装置Mを手直しする必要がなくなる。
(2)ラジエータグリルRGの後ろ側の面を形成する第1金型50に突部53を設け、この突部53により幅狭部S3aを特定成形空間(成形空間S3)の前部に形成するようにしている(図6参照)。このため、遮蔽部40の一部に、遮蔽部40の後面において開口する凹部41と、その凹部41の前側に位置する厚みの薄い薄肉部42とを形成することができ(図4(B)参照)、凹部41がラジエータグリルRGの外観品質を低下させないようにすることができる。
【0053】
(3)ガス抜き機構70を第1金型50に設け、そのガス抜き機構70のガス抜き通路を突部53の表面53Aに開口させている(図6参照)。そのため、幅狭部S3aにより成形される薄肉部42に開口による跡が残ったとしても、その跡がラジエータグリルRGの外観品質を低下させないようにすることができる。
【0054】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
・本発明は、キャビティC内の複数箇所でガスGが残留する金型装置Mを用いてラジエータグリルRGを製造する場合にも適用可能である。
【0055】
・ガス抜き機構70におけるガス抜き通路を、多数の微細な孔に代え、ガスGの通過可能な小径の多数の通路により構成してもよい。
・上記実施形態において、ABS樹脂とは異なる樹脂材料が用いられてもよい。この場合、ABS樹脂とは異なる流動性を有する樹脂材料であっても、上記実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0056】
・本発明は、上記実施形態とは異なる構成を有するラジエータグリルRGを製造する場合にも適用可能である。例えば、(a)遮蔽部40を有しないラジエータグリルRG、(b)遮蔽部40が枠部20及び格子部30により囲まれていないラジエータグリルRG、(c)遮蔽部40が車幅方向についての側部に位置しないラジエータグリルRG等が挙げられる。これらのラジエータグリルRGを成形する場合であっても、キャビティCにガスGが残留するのであれば、上記実施形態と同様に幅狭部S3aを設けることで対処可能である。
【0057】
・本発明は、車幅方向についての中央部分とは異なる箇所にゲートが設けられた金型装置Mや、複数のゲートが設けられた金型装置Mを用いてラジエータグリルRGを製造する場合にも適用可能である。
【0058】
・ラジエータグリルRGの凹部41は、外観品質を大きく低下させるほど目立たたない場合には遮蔽部40の前部に設けられてもよい。この場合には、金型装置Mにあっては、第1金型50に代えて第2金型60に突部53を設け、幅狭部S3aを特定成形空間(成形空間S3)の後部に形成する。
【0059】
・ガス抜き通路の開口による跡が、外観品質を大きく低下させるほど目立たない場合には、ガス抜き機構70は、ラジエータグリルRGの前側の面を形成する第2金型60側に設けられてもよい。
【0060】
・格子部30には、上記実施形態のように縦格子部35及び横格子部31からなるもののほか、縦格子部35のみからなる(横格子部31を有しない)ものや、横格子部31のみからなる(縦格子部35を有しない)ものも含まれる。
【0061】
・前記実施形態とは逆に、第2金型60を固定型とし、第1金型50を可動型としてもよい。
・枠部20は四角環状以外の環状をなすものであってもよい。また、枠部20における側壁部24,25は厳密に鉛直方向に延びていなくてもよく、鉛直線に対し多少傾斜した方向へ延びていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明を具体化した一実施形態において、ラジエータグリルが装着された自動車を示す正面図。
【図2】ラジエータグリルの正面図。
【図3】ラジエータグリルの一部(図2のX部)の斜視図。
【図4】(A)は図3の4A−4A線に沿った断面構造を示す断面図、(B)は図3の4B−4B線に沿った断面構造を示す断面図。
【図5】第2金型が第1金型から離間された金型装置の部分断面図。
【図6】第1金型及び第2金型間にキャビティが形成された金型装置の部分断面図。
【図7】キャビティ内における溶融樹脂の流動態様を説明する部分正面図。
【符号の説明】
【0063】
20…枠部、21…開口、24,25…側壁部、30…格子部、31…横格子部、40…遮蔽部、50…第1金型、53…突部、53A…表面、60…第2金型、70…ガス抜き機構、C…キャビティ、G…ガス、M…グリル成形用金型装置、R…溶融樹脂、RG…ラジエータグリル、S1,S2,S3…成形空間、S3a…幅狭部、W1,W2,W3,W3a…幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金型を有するグリル成形用金型装置を用い、前記金型間のキャビティを構成する複数の成形空間の全てに溶融樹脂を充填することにより、前記キャビティに対応した形状の自動車用のラジエータグリルを成形するようにしたラジエータグリルの製造方法において、
前記グリル成形用金型装置として、前記複数の成形空間のうち、前記溶融樹脂の充填に伴いガスが残留しやすい成形空間を特定成形空間とし、この特定成形空間の一部を同特定成形空間の他の箇所よりも幅の狭い幅狭部により構成し、さらに、前記ガスを前記キャビティの外部へ放出するガス抜き機構を前記幅狭部に面して設けたものを用いることを特徴とするラジエータグリルの製造方法。
【請求項2】
前記ラジエータグリルは、開口を有する環状の枠部と、前記開口に設けられた格子部と、前記開口のうち前記格子部とは異なる箇所に設けられ、かつ前記枠部及び前記格子部よりも薄い板状の遮蔽部とを備え、
前記グリル成形用金型装置として、前記遮蔽部のうち、前記枠部及び前記格子部により囲まれた箇所を成形するための成形空間を前記特定成形空間とするものを用いる請求項1に記載のラジエータグリルの製造方法。
【請求項3】
前記枠部は略鉛直方向へ延びる側壁部を有しており、
前記格子部は車幅方向に延び、かつ端部において前記枠部の前記側壁部にそれぞれ接続された複数本の横格子部を有し、
前記遮蔽部は、前記開口の車幅方向についての側部において、前記側壁部及び前記横格子部に繋がった状態で設けられており、
前記グリル成形用金型装置として、前記遮蔽部において、隣り合う横格子部間であって、前記側壁部に近い箇所を成形するための成形空間を前記特定成形空間とするものを用いる請求項2に記載のラジエータグリルの製造方法。
【請求項4】
前記グリル成形用金型装置として、前記キャビティに溶融樹脂を導くゲートが、同キャビティの車幅方向についての中央部分に設けられているものを用いる請求項3に記載のラジエータグリルの製造方法。
【請求項5】
前記グリル成形用金型装置として、前記複数の金型が、前記ラジエータグリルの後ろ側の面を形成する第1金型を含み、かつ前記第1金型に設けられた突部により、前記幅狭部を前記特定成形空間の前部に形成するものを用いる請求項1〜4のいずれか1つに記載のラジエータグリルの製造方法。
【請求項6】
前記グリル成形用金型装置として、前記ガス抜き機構が、前記第1金型に設けられ、かつ前記突部の表面に開口するガス抜き通路を有するものを用いる請求項5に記載のラジエータグリルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−296394(P2008−296394A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141897(P2007−141897)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】