説明

ラノスタ−8−エン誘導体およびこれらを含有する皮膚外用剤

【目的】美白効果に優れた、ラノスタ−8−エン誘導体を提供する。これらを含有し、シミ、ソバカスを予防および治療が可能な皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【構成】本発明のラノスタ−8−エン誘導体は、特に優れたメラニン生成抑制効果を示し、これらを含有する皮膚外用剤は、シミ、ソバカス、日焼けなどに見られる皮膚の色素沈着を予防または改善することが可能である。これらは、化粧品、医薬部外品、医薬品等に応用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美白効果が顕著に高い皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シミ、ソバカス、日焼けなどに見られる皮膚の色素沈着は、皮膚内に存在するメラニン色素生成細胞がメラニン色素を過剰に生成することが原因とされている。この色素沈着の治療には、ハイドロキノンを外用する処置などが行われてきた。
【0003】
しかしながら、ハイドロキノンは色素沈着を防止する効果は認められているが、アレルギー性があるため、一般に使用が制約されており、製剤上も不安定であり問題点があった。このように、色素沈着の予防や治療に対して、効果の高い成分や製剤が望まれていた。
【0004】
一方、本発明の一般式(1)のうち、CH−OHは公知の物質である(非特許文献1)。しかし、かかる誘導体に美白効果を有することは全く知られていなかった。
【0005】
【非特許文献1】R.B.Clayton et al,Journal of Biol. Chem., 218, 305−320(1956)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような従来の問題点に鑑み、美白効果に優れ、シミ、ソバカスを予防、治療することができる物質や皮膚外用剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、安全性が高く、美白効果に優れた皮膚外用剤を得るべく鋭意研究を重ねた結果、下記の一般式(1)で表される、ラノスタ−8−エン誘導体が顕著な美白効果を発揮することを見出した。
【0008】
また、このうち下記の一般式(2)で表される、ラノスタ−8−エン誘導体が新規物質であることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、一般式(1)で表される、ラノスタ−8−エン誘導体を含有することを特徴とする皮膚外用剤や美白剤を提供するものである。(式中の置換基Aは、C=OまたはCH−OHを示す。)
【0010】
【化4】

【0011】
また、本発明は、一般式(2)で表される、ラノスタ−8−エン誘導体を提供するものである。
【化5】

【0012】
本発明は、ラノスタ−8−エン誘導体に美白効果を発見し、これを皮膚外用剤に用いたものである。以上のように、本発明のラノスタ−8−エン誘導体は、メラニン生成を抑制し、優れた美白効果により、シミ、ソバカスを予防、治療する医薬品、医薬部外品、化粧品などの皮膚外用剤の成分として有効である。
【0013】
次に、本発明の詳細について説明する。
〔1〕一般式(1)の中の置換基Aについて
置換基Aは、C=OまたはCH−OHを示す。
【0014】
〔2〕ラノスタ−8−エン誘導体の合成方法
本発明のラノスタ−8−エン誘導体の合成は、ラノステロールまたはその酸化物から種々の公知のジオール化法で製造することができる。例えば、四酸化オスミウム、オスミウム酸カリウム、過マンガン酸カリウムを用いて行う方法や、シャープレス不斉ジオール化法により行う方法がある。
【0015】
一般式(2)で表される、ラノスタ−8−エン誘導体は、ラノステロールのケトン部分を公知の方法で酸化反応させたラノステノンを調製し、次いで上記のジオール化法を用いて製造することができる。
【0016】
本発明の一般式(1)で表される、ラノスタ−8−エン誘導体は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明の皮膚外用剤は、一般式(1)で表される、ラノスタ−8−エン誘導体を配合したものであり、その配合量は、ラノスタ−8−エン誘導体として0.0001〜20重量%、好ましくは、0.001〜5重量%配合することができる。0.0001%未満の濃度では充分な効果が得られ難く、20重量%を超える濃度では効果の増強が認められないことがあり不経済である。
【0018】
本発明の皮膚外用剤には、必要に応じ、通常の化粧品、医薬部外品、医薬品などに使用される成分を適宜配合することができる。例えば、美白剤、保湿剤、油性成分、紫外線吸収剤、防腐剤、酸化防止剤、水、アルコール類、界面活性剤、キレート剤、増粘剤、粉末類、色材、香料などの原料を適宜配合することができる。
【0019】
本発明の皮膚外用剤は他の公知の美白剤、抗酸化剤と組み合わせることにより、美白効果を高めることができる。例えば、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体(アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アスコルビン酸リン酸脂肪酸エステルなど)、コウジ酸、コウジ酸誘導体、アルブチン、プラセンタエキス、ビタミンE、ビタミンE誘導体、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸誘導体、茶抽出物、タンニン、甘草抽出物、グラブリジン、メハジキ(益母草)抽出物、アロエ(アロエアンドンゲンシス、キダチアロエ、アロエベラなど)抽出物、フキタンポポ抽出物、マンネンタケ(赤霊芝、黒霊芝など)抽出物、桑白皮抽出物などを配合することができる。
【0020】
本発明の皮膚外用剤は、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、軟膏、パック、エアゾール剤、パップ剤、ペースト剤、プラスター剤、洗浄剤、ファンデーション、リップスティック、石鹸、浴用剤などに用いることができるが、これらに限定されることはない。また、本発明の皮膚外用剤は、医薬品、医薬部外品、および化粧品を含むものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のラノスタ−8−エン誘導体は、優れたメラニン生成抑制効果を示すとともに、これらを含有する皮膚外用剤は、優れた美白効果を示した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いる化合物の製造例、処方例および実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。処方例に示す配合量は重量%を示す。また、以下に示すMSとは質量分析、EIとは電子衝撃法、1H−NMRとは水素核の核磁気共鳴分析を示す。
【実施例1】
【0023】
製造例1 ラノスタ−8−エン誘導体(化合物1)の合成
【化6】

【0024】
ラノステロール1.0gをアセトン150mLと水20mLの混液に溶解し、N−メチルモルホリン−N−オキシド2.3g、四酸化オスミウム0.1gを加え、室温で24時間反応させた。反応後、溶媒を除去し、酢酸エチルと水で抽出し、酢酸エチル層を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過したのち、ろ液を濃縮した。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィーでヘキサン:酢酸エチル=1:1の溶出溶媒を用いて精製し、化合物1を0.85g得た。
MS(EI、m/z) 460(M+)、445(M−CH3)+、427、409など
1H−NMR(CD3OD、δ) 3.10〜3.23(2H、m)、2.06(5H、m)、0.9〜1.9(19H、m)、0.75(3H、d、J=6.3Hz)、0.80(3H、s)、0.91(3H、s)、0.95(3H、d)、0.98(3H、s)、1.01(3H、s)、1.12(3H、s)、1.16(3H、s)
【0025】
製造例2 ラノスタ−8−エン誘導体(化合物2)の合成
【化7】

【0026】
ラノステロール1.0gをアセトン100mLに溶解し、氷冷下、ジョーンズ試薬1.5mLを加え、1時間反応させた。反応後、溶媒を除去し、酢酸エチルと水で抽出し、酢酸エチル層を硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過したのち、ろ液を濃縮した。これに製造例1と同様にジオール化を行い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーでヘキサン:酢酸エチル=2:1の溶出溶媒を用いて精製し、化合物2を0.51g得た。
MS(EI、m/z) 458(M+)、443(M−CH3)+、425、407など
1H−NMR(CD3OD、δ) 3.14〜3.23(1H、m)、2.47〜2.71(2H、m)、2.06(5H、m)、0.88〜2.04(19H、m)、0.75(3H、d、J=6.3Hz)、0.80(3H、s)、0.91(3H、s)、0.95(3H、d)、0.98(3H、s)、1.01(3H、s)、1.12(3H、s)、1.16(3H、s)
【実施例2】
【0027】
処方例1 化粧水
[処方] 配合量
1.化合物1 0.001部
2.1,3−ブチレングリコール 8.0部
3.グリセリン 2.0部
4.キサンタンガム 0.02部
5.クエン酸 0.01部
6.クエン酸ナトリウム 0.1部
7.エタノール 5.0部
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1部
9.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1部
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする。
[製造方法]成分1〜6、11と、成分7〜10をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合しろ過して製品とする。
【0028】
処方例2 クリーム
[処方] 配合量
1.化合物1 1.0部
2.スクワラン 5.5部
3.オリーブ油 3.0部
4.ステアリン酸 2.0部
5.ミツロウ 2.0部
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5部
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0部
8.ベヘニルアルコール 1.5部
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5部
10.1,3−ブチレングリコール 8.5部
11.パラオキシ安息香酸メチル 0.2部
12.パラオキシ安息香酸エチル 0.05部
13.香料 0.1部
14.精製水にて全量を100とする。
[製造方法]成分1〜9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分10〜12、14を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加え、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分13を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【0029】
比較例1 従来のクリーム
処方例2において、化合物1をスクワランに置き換えたものを従来のクリームとした。
【0030】
処方例3 乳液
[処方] 配合量
1.化合物1 0.05部
2.化合物2 0.05部
3.スクワラン 5.0部
4.オリーブ油 5.0部
5.ホホバ油 5.0部
6.セタノール 1.5部
7.モノステアリン酸グリセリン 2.0部
8.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0部
9.ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート
(20E.O.) 2.0部
10.プロピレングリコール 1.0部
11.グリセリン 2.0部
12.パラオキシ安息香酸メチル 0.2部
13.香料 0.1部
14.精製水にて全量を100とする。
[製造方法]成分1〜9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分10〜12、14を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分13を加え、更に30℃まで冷却して製品とする。
【0031】
処方例4 ゲル剤
[処方] 配合量
1.化合物1 0.05部
2.化合物2 0.05部
3.エタノール 5.0部
4.パラオキシ安息香酸メチル 0.1部
5.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.1部
6.香料 適量
7.1,3−ブチレングリコール 5.0部
8.グリセリン 5.0部
9.キサンタンガム 0.1部
10.カルボキシビニルポリマー 0.2部
11.水酸化カリウム 0.2部
12.精製水にて全量を100とする。
[製造方法]成分1〜6と、成分7〜12をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合しろ過して製品とする。
【0032】
処方例5 軟膏
[処方] 配合量
1.化合物1 5.0部
2.ポリオキシエチレンセチルエーテル(30E.O.) 2.0部
3.モノステアリン酸グリセリン 10.0部
4.流動パラフィン 5.0部
5.セタノール 6.0部
6.パラオキシ安息香酸メチル 0.1部
7.プロピレングリコール 10.0部
8.精製水にて全量を100とする。
[製造方法]成分1〜5を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分6〜8に加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0033】
処方例6 パック
[処方] 配合量
1.化合物1 1.0部
2.化合物2 1.0部
3.ポリビニルアルコール 12.0部
4.エタノール 5.0部
5.1,3−ブチレングリコール 8.0部
6.パラオキシ安息香酸メチル 0.2部
7.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(20E.O.) 0.5部
8.クエン酸 0.1部
9.クエン酸ナトリウム 0.3部
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする。
[製造方法]成分1〜11を均一に溶解し製品とする。
【0034】
処方例7 ファンデーション
[処方] 配合量
1.化合物2 0.2部
2.ステアリン酸 2.4部
3.ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート
(20E.O.) 1.0部
4.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.0部
5.セタノール 1.0部
6.精製ラノリン 2.0部
7.流動パラフィン 3.0部
8.ミリスチン酸イソプロピル 6.5部
9.パラオキシ安息香酸ブチル 0.1部
10.カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.1部
11.ベントナイト 0.5部
12.プロピレングリコール 4.0部
13.トリエタノールアミン 1.1部
14.パラオキシ安息香酸メチル 0.2部
15.二酸化チタン 8.0部
16.タルク 4.0部
17.ベンガラ 1.0部
18.黄酸化鉄 2.0部
19.香料 適量
20.精製水にて全量を100とする。
[製造方法]成分1〜9を加熱溶解し、80℃に保ち油相とする。成分20に成分10をよく膨潤させ、続いて、成分11〜14を加えて均一に混合する。これに粉砕機で粉砕混合した成分15〜18を加え、ホモミキサーで撹拌し75℃に保ち水相とする。この水相に油相をかき混ぜながら加え、冷却し、45℃で成分19を加え、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0035】
処方例8 浴用剤
[処方] 配合量
1.化合物1 0.005部
2.炭酸水素ナトリウム 50.0部
3.黄色202号 適量
4.香料 適量
5.硫酸ナトリウムにて全量を100とする。
[製造方法]成分1〜5を均一に混合し製品とする。
【実施例3】
【0036】
実験例1 B16マウスメラノーマを用いたメラニン生成抑制試験
対数増殖期にあるB16マウスメラノーマをφ60mm dishに3×104個の細胞を播種し、被験物質を含むEagles’MEM(10%FCSを含む)を加え、37℃、5%CO2条件下にて培養した。培養5日後に細胞をdishから剥離し、細胞を超音波破砕した後、4N−NaOHを加え60℃で2時間の処理を行い、分光光度計でOD475nmを測定した。尚、超音波処理後の細胞破砕液をLowryの方法(J.Biol.Chem.1951、193、265−275)でタンパク定量し、タンパク量当りのメラニン量を比較することによって、メラニン生成抑制効果の指標とした。被験物質としては、化合物1および2、比較化合物としてメラニン生成抑制効果が知られている、アルブチンを供した。
【0037】
その結果、表1に示したように、化合物1および2は優れたメラニン生成抑制効果を示した。
【0038】
【表1】

【0039】
実験例2 臨床例
日焼け炎症後色素沈着した患者4名に対し、処方例2に示したクリームを1日2回患部に塗布し、2カ月間観察した。同時に比較例1の従来のクリームについても同様にして試験した。効果の判定は、−:変わらない、+:うすくなった、++:ほとんど消えた、+++:完全に消えた の4段階とした。また、皮膚所見では、試験による悪化、炎症などの異常を観察した。
【0040】
その結果、表2に示したように、処方例2のクリームにおいて、4例中3例に効果が認められた。これに対し、表3に示したように、比較例1の従来のクリームには効果が認められなかった。また、いずれのクリームにも皮膚の異常は認められなかった。
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
その他の処方例についても同様に使用試験を行ったところ、優れた美白効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のラノスタ−8−エン誘導体は、優れたメラニン生成抑制効果を示し、これらを含有する皮膚外用剤は、優れた美白効果を示した。これらは、化粧品、医薬部外品、医薬品等に応用可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される、ラノスタ−8−エン誘導体を含有することを特徴とする皮膚外用剤。(式中の置換基Aは、C=OまたはCH−OHを示す。)
【化1】

【請求項2】
一般式(1)で表される、ラノスタ−8−エン誘導体を含有することを特徴とする美白剤。(式中の置換基Aは、C=OまたはCH−OHを示す。)
【化2】

【請求項3】
一般式(2)で表される、ラノスタ−8−エン誘導体。
【化3】


【公開番号】特開2009−249316(P2009−249316A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97436(P2008−97436)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】