ランダムペプチドライブラリーもしくは抗体超可変領域を模倣したペプチドライブラリーと、RNA結合タンパク質を用いる試験管内ペプチド選択法を組み合わせた、新規の機能性ペプチド創製システム
【課題】NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAライブラリーと、RNA結合タンパク質を用いる試験管内ペプチド選択法を組み合わせた、新規の機能性ペプチド創製システム、および該システムによって得られた新規ペプチドを提供することを課題とする。
【解決手段】新規開発した変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーと Cv モチーフとの相互作用に基づく新規ペプチド選択システムを、化学合成で用意した完全にランダムなNNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAライブラリーから機能性のペプチドを選択するシステムへ発展させることに成功した。
【解決手段】新規開発した変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーと Cv モチーフとの相互作用に基づく新規ペプチド選択システムを、化学合成で用意した完全にランダムなNNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAライブラリーから機能性のペプチドを選択するシステムへ発展させることに成功した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランダムペプチドライブラリーもしくは抗体超可変領域を模倣したペプチドライブラリーと、RNA結合タンパク質を用いる試験管内ペプチド選択法を組み合わせた、新規の機能性ペプチド創製システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ランダムな DNA 配列からなる化学合成した DNA ライブラリーからペプチドライブラリーを構築し、その中から標的の分子を認識して強く結合するものを単離するテクノロジーは、ペプチドを基とする分子認識材料を人為的に作り出す方法論として極めて有用である。
【0003】
標的の分子を認識するタンパク質やペプチドを得る場合、一般の分子生物学者が選択できる方法論は現在でもなお、ファージディスプレイ法(非特許文献1)か抗体作製かの二者択一である。抗体作製を選んだ場合には、均一な分子として分子認識能を持ったタンパク質を得るためにはモノクローナル抗体を作製することになる。これはある程度専門の技術と装置が必要になるので一般の分子生物学者が自作するというレベルを超えてしまうため、最近では専門の業者に外注することほうが一般的である。自分で作製するという場合には、必要なツール一式がキット化(例えば New England Biolabs 社の Ph.D. システムや MoBiTec 社の pSKAN,Novagen 社のT7 Select など)されて販売されているファージディスプレイ法を用いるのが一般的である。
【0004】
ファージディスプレイ法は大腸菌に感染するバクテリオファージの生活環をたくみに利用したものであり、そのバクテリオファージの諸性質に強く依存している。そのためその生活環に負の影響を与える要因がある場合、その負の要因がそのまま選択システムの致命的欠陥に繋がるのである。そうした負の要因が発生する状況が明確であり、そうした状況では使えないと割り切ってあきらめた場合にのみ、ファージディスプレイ法は本来の機能を十分に発揮することになる。
【0005】
具体的にファージディスプレイ法の問題点をまとめると次の2点になる。その1点目は、このシステムがバクテリオファージの宿主である大腸菌という生物に依存したシステムであるという点である。ファージディスプレイ法では大腸菌の細胞内で DNA ライブラリー由来のペプチド(もしくはタンパク質)が発現することが必須であるため、大腸菌に有害なペプチド(もしくはタンパク質)はこの段階で除かれてしまう。またファージディスプレイ法の長所である、試験管内でのペプチド選択と選択されたペプチドを提示するバクテリオファージの増幅の繰り返しにおいても、バクテリオファージの大腸菌への再感染に悪影響を与えるようなペプチド(もしくはタンパク質)は、どんなに標的物質に対する結合能が高くてもその大腸菌への再感染の段階で失われてしまう。このような"標的物質との結合の強さ"とは無関係な、"大腸菌の生育およびバクテリオファージの感染能に影響しない"というまったく別次元の選択圧が常にかかっているということは、ファージディスプレイ法を行うにあたって常に頭に入れておかなければならない問題である。これはバクテリオファージの生活環に根ざすものであり、本質的に回避することのできない負の要因である。
【0006】
問題点の2点目は、選択後に標的物質に結合したバクテリオファージを回収する際にバクテリオファージの粒子が壊れないような条件でなければならないということである。一般のファージディスプレイ法ではバクテリオファージ M13 を使用する。このシステムではグリシンバッファー(0.1 M, pH2.2)の条件で回収するか、可溶性の標的物質存在下でマイルドな条件で回収することになる。これは逆に言えば、そのような条件の場合には標的物質から解離しやすいという選択圧をかけているとも考えられ、そのような条件下においても解離しないほど結合能が高いペプチドを提示したバクテリオファージは、この段階で選択からこぼれてしまうことを意味している。結果として"上記条件下で標的物質と解離しやすい"という、"標的物質との結合の強さ"とはまた別の選択圧が発生してしまうのである。この問題については非常に安定なバクテリオファージ T7 を用いることで、かなり厳しい条件下での回収(4 M 尿素、2 M グアニジン塩酸、1 % SDS、5 M NaCl、10 mM EDTA、あるいは pH4 - 10 の水溶液)を行うことにより大幅な改善が期待できるとされているが、本質的な問題解決にまでは至っていない。
【0007】
こうした問題点を解決するために、近年になって試験管内で大腸菌抽出物やウサギ赤血球溶解液由来の無細胞タンパク質合成系を使用して行うシステムが報告されている。そのなかでも特に有名なものはリボソームディスプレイ法(非特許文献2〜6)や mRNA ディスプレイ法(非特許文献7〜8)である。またこれらのシステムでは、利用できる DNA ライブラリーの多様性に対する上限を高くすることができる。ファージディスプレイ法では最初に DNA ライブラリーをコードするプラスミドを宿主である大腸菌に形質転換するステップがあるため、その形質転換効率が扱える DNA ライブラリーの多様性の上限に直結してしまう(理想的には1010 程度は出せるようであるが、現実的な値としては 108 から 109 程度が一般的である)。リボソームディスプレイ法ではリボソームの無細胞タンパク質合成系に存在する分子数がその上限となるが、試験管内での翻訳時のスケールを上げることで 1013 程度は簡単に稼ぐことができるし(非特許文献9)、理論的にリボソームの無細胞タンパク質合成系に存在する分子数に依存しない mRNA ディスプレイ法ではさらに高い多様性を持たせることが理論上可能である(実際にはそれ以外の要因で利用できる DNA ライブラリーの多様性に対する上限が決まってくるので、結局リボソームディスプレイ法と同程度で行われている)(非特許文献10〜12)。
【0008】
これらのポストファージディスプレイ法を掲げるシステム(リボソームディスプレイ法および mRNA ディスプレイ法)は非常に優れたシステムで十分な数の成功例があるが、ファージディスプレイ法のように広く普及していない。それはこれらのシステムが特殊な材料や技能、取り扱いのノウハウを必要とするからである。
【0009】
まず最も問題があると思えたのは mRNA ディスプレイ法である。この方法は抗生物質であるピューロマイシンの分子生物学的視点から見た特徴を最大限に生かした技術で、具体的には mRNA と 3’ 末端をピューロマイシン化した DNA との共有結合でできた特殊な修飾 mRNA の調整が必須である。特にこの有機合成的な手法による修飾 mRNA の調整が、システムの普遍性の面から見た場合に大きな障害となっている。このほかにも初期のシステムでは一本鎖の mRNA がむき出しのままその翻訳産物とピューロマイシンと共有結合していたため、無細胞タンパク質合成系に混在するリボヌクレアーゼによる mRNA の分解に弱い点や、翻訳産物ではなく RNA アプタマーが選択されてしまうなどの問題があった。これらは後にリボヌクレアーゼが比較的低いウサギ網状赤血球溶解液由来の無細胞タンパク質合成系を使用したり、選択前に逆転写を行って mRNA-翻訳産物複合体を DNA/RNA 二本鎖ハイブリッド-翻訳産物に変換することでほぼ解決されたようであるが、最初に述べた有機合成的な手法による修飾 mRNA の調整については、システムの根幹ということもあり、世界中のどのラボでも自由に利用できる(これはファージディスプレイ法の優れた長所の1つである)という視点から見ると、ほとんど致命的ともいえる欠点である。
【0010】
これに対して、本質的には終止コドンを持たない mRNA を調整すればいいだけのリボソームディスプレイ法は、多くの研究者(特に有機合成に疎い生化学者,分子生物学者,医薬学者)にとって圧倒的に簡単であり、高い普遍性を有しているように見える。少なくとも mRNA ディスプレイ法に比較して敷居が低いことは確実である。開発したスイスの Plu¨ckthun らのグループの論文を読んで本発明者らなりにまとめると(非特許文献13)、リボソームディスプレイ法を行うにあたって気をつける点は、
(1)マグネシウムイオン存在下で 4℃を常に維持すること。
(2)mRNA の 5’ 末端側と 3’ 末端側の双方にステム&ループ構造を導入して無細胞タンパク質合成系由来のエキソヌクレアーゼによる分解に対処すること。
(3)使用する無細胞タンパク質合成系は大腸菌抽出物(S30)が適しているのでそれを使うこと。
という3点である。発表当初、このシステムは1回の選択における mRNA の回収量が低く、最初の報告では 0.015 % であり(非特許文献4)、まだまだ改善の余地があると思われた。主な原因については複数あって明確ではないが、恐らくはリボソームディスプレイ法の開発者たちが主張するほど mRNA-リボソーム-翻訳産物の複合体が安定ではないのではないかと推測されている。
【0011】
そこで本発明者らは、この複合体を独自の方法で安定化させることにより、より簡便で普遍性や再現性の高いシステムを構築することにし、結果的に成功を収めた。
【0012】
本発明者らが着目したのは、バクテリオファージ MS2 のコートタンパク質(MSp)とその RNA ゲノム上のある特定の配列との相互作用である(非特許文献14〜23)。このMS2 コートタンパク質は2量体を形成して、ある特定の RNA 配列を認識して結合する。この結合は宿主である大腸菌の細胞内部でバクテリオファージ MS2 が増殖する際に重要な働きをすることがわかっていることから、試験管内タンパク質選択における mRNA の翻訳を行うステップで大腸菌抽出物由来の無細胞タンパク質合成系を用いる際にも、十分な結合能を発揮できると期待される。
【0013】
MS2 コートタンパク質は結合相手のゲノム RNA との複合体の形で結晶構造解析(非特許文献14、15、19、20)が行われており、ホモの2量体でありながら、それぞれのコートタンパク質が結合相手の RNA を認識して結合する様式は異なっていることが明らかとなっていた。その一方で、このタンパク質はあくまでバクテリオファージ MS2 のファージ粒子を構成するキャプシドタンパク質であることから、2量体単位で自己会合して多量体を形成することもわかっていた。この自己会合性を残したままでは、遺伝情報(mRNA)と機能(翻訳産物であるタンパク質)の1:多数もしくは多数:1のリンクが生じてしまうため、なんとかしてこれを避ける方法が必要であったが、幸いなことにすでにそうしたMS2 コートタンパク質の自己会合を著しく低下させるアミノ酸の変異導入が報告されていた(非特許文献16)。さらに MS2 コートタンパク質の結合相手である特異的 RNA モチーフに対して核酸塩基の変異導入を行った報告例があり、天然の配列のうち1塩基置換を行ったものが MS2 コートタンパク質に対してより高い親和性を持っていることが明らかとされていた(非特許文献16)。この変異型の MS2 コートタンパク質と1塩基置換された特異的 RNA モチーフとの相互作用に対する解離定数(Kd)は、4℃の中性条件下で 2.3 pM と見積もられている(非特許文献16)(図1)。
【0014】
本発明者らはこのキャプシド構造をとらない MS2 コートタンパク質を変異型 MS2 コートタンパク質(mMSp)と呼び、また天然型より高い親和性を示す RNA モチーフを Cv モチーフと呼ぶこととし、また2分子の変異型 MS2 コートタンパク質(mMSp)をグリシンとセリンの繰り返しからなるフレキシブルなペプチドリンカーで繋いで融合タンパク質(変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマー)とした発現するような遺伝子を構築した(非特許文献24)。
【0015】
本発明者らまず最初に、ヘキサヒスチジンタグ(6His Tag)と市販の nickel-nitrilotriacetic acid agarose resin (Ni-NTA アガロース)との相互作用を指標として、そのヘキサヒスチジンタグ(6His Tag)をコードする mRNA とヘキサヒスチジンタグ(6His Tag)コードしない mRNA の混合物から、ヘキサヒスチジンタグ(6His Tag)をコードする mRNA だけを選択する実験系を構築し、その選択の効率および mRNA の回収率に対する変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーと Cv モチーフとの相互作用の寄与を評価することから始めることとした。その結果、少なくとも本発明者らが見つけた条件下で変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーと Cv モチーフとの相互作用は機能し、その mRNA-リボソーム-翻訳産物の複合体はポリソーム化していて、室温で容易に扱うことができるほど安定なものであることがわかった(非特許文献24、25)。
【非特許文献1】Smith, G.P. (1985) Filamentous fusion phage: Novel expression vectors that display cloned antigens on the virion surface. Science, 228, 1315-1317.
【非特許文献2】Mattheakis, L., Bhatt, R.R. and Dower, W.J. (1994) An in vitro polysome display system for identifying ligands from very large peptide libraries. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 91, 9022-9026.
【非特許文献3】Gersuk, G.M., Corey, M.J., Corey, E., Stray, J.E., Kawasaki, G.H. and Vessella, R.L. (1997) High-affinity peptide ligands to prostate-specific antigen identified by polysome selection. Biochem. Biophys. Res. Commun., 232, 578-582.
【非特許文献4】Hanes, J. and Plu¨ckthun, A. (1997) In vitro selection and evolution of functional proteins by using ribosome display. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 94, 4937-4942.
【非特許文献5】Hanes, J., Jermutus, L., Weber-Bornhauser, S., Bosshaed, H.R. and Plu¨ckthun, A. (1998) Ribosome display efficiently selects and evolves high-affinity antibodies in vitro from immune libraries. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 95, 14130-14135.
【非特許文献6】He, M. and Taussig, M. (1997) Antibody-ribosome-mRNA (ARM) complexes as efficient selection particles for in vitro display and evolution of antibody combining sites. Nucleic Acids Res., 25, 5132-5134.
【非特許文献7】Roberts, R.W. and Szostak, J.W. (1997) RNA-peptide fusions for the in vitro selection of peptides and proteins. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 94, 12297-12302.
【非特許文献8】Nemoto, N., Miyamoto-Sato, E., Husimi, Y. and Yanagawa, H. (1997) In vitro virus: Bonding of mRNA bearing puromycin at the 3’-terminal end to the C-terminal end of its encoded protein on the ribosome in vitro. FEBS Lett., 414, 405-408.
【非特許文献9】Lamla, T. and Erdmann, V.A. (2003) Searching sequence space for high-affinity binding peptides using ribosome display. J. Mol. Biol., 329, 381-388.
【非特許文献10】Wilson, D.S., Keefe, A.D. and Szostak, J.W. (2001) The use of mRNA display to select high-affinity protein-binding peptides. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 98, 3750-3755.
【非特許文献11】Keefe, A.D. and Szostak, J.W. (2001) Functional proteins from a random-sequence library. Nature, 410, 715-718.
【非特許文献12】Raffler, N. A., Schneider-Mergener, J. and Famulok, M. (2003) A novel class of small functional peptides that bind and inhibit human α-thrombin isolated by mRNA display. Chem. Biol., 10, 69-79.
【非特許文献13】Schaffitzel, C. et al,(1999)J. Immunol. Methods, 231, 119-135
【非特許文献14】Golmohammadi, R. et al, (1993) J. Mol. Biol., 234, 620-639.
【非特許文献15】Ni, C.Z. et al, (1995) Structure, 3, 255-263.
【非特許文献16】LeCuyer, K.A. et al, (1995) Biochemistry, 34, 1060-10606.
【非特許文献17】LeCuyer, K.A. et al, EMBO J., 15, 6847-6853.
【非特許文献18】Peabody, D.S. (1997) Arch. Biochem. Biophys., 347, 85-92.
【非特許文献19】Valegard, K. et al, (1997) J. Mol. Biol., 270, 724-738.
【非特許文献20】van den Worm, S.H.E. et al, Nucleic Acids Res., 26, 1345-1351
【非特許文献21】Johansson, H.E. et al, Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 95, 9244-9249.
【非特許文献22】Convery, M.A. et al, (1998) Nat. Struct. Biol., 5, 133-139.
【非特許文献23】Rowsell, S. et al, (1998) Nat. Struct. Biol., 5, 970-975.
【非特許文献24】Sawata, S.Y et al., (2003) Protein Eng., 16, 1115-1124.
【非特許文献25】Sawata, S.Y. et al, (2004) Protein Eng. Des. Sel., 17, 501-508.
【特許文献1】特願2003-503786
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAライブラリーと、RNA結合タンパク質を用いる試験管内ペプチド選択法を組み合わせた、新規の機能性ペプチド創製システム、および該システムによって得られた新規ペプチドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、新規開発した変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーと Cv モチーフとの相互作用に基づく新規ペプチド選択システムを、化学合成で用意した完全にランダムな DNA ライブラリーから機能性のペプチドを選択するシステムへ発展させることに成功した。この人工機能性ペプチド創製システムを、ARMS システムと名づけた。ここでARMS とは、Advanced style of Ribosome-display Magnified by a Specific protein-RNA interaction の略称である(図2)。
【0018】
最初に用いたランダム配列からなる DNA ライブラリーは、NNK コドンで 16 残基のアミノ酸からなるように配列設計した。ここで N はアデニン(A),グアニン(G),シトシン(C),チミン(T)のいずれかであることを意味しており、K はグアニン(G)もしくはチミン(T)のいずれかであることを意味している。アミノ酸のコドンが NNK の場合、天然の 20 種類のアミノ酸全てを利用できるが、特定の確率(理論上約 3.1 %)で終止コドンが出現することが避けられないという欠点を併せ持っている。このランダム化の方法(NNK コドン)は従来から広く用いられている方法の一つである。
【0019】
本発明者らはARMS システムと従来型のNNK コドンによるペプチドライブラリーを用いて、化学修飾したアビジンである NeutrAvidin,悪性腫瘍細胞表面に過剰発現する受容体タンパク質 EphA2 のリガンド結合部位,II型糖尿病の原因の一つと言われるペプチドホルモンであるレジスチンを特異的に認識して結合する、新規のペプチドを創製することに成功した。
【0020】
また本発明者らは、新規の改良型 DNA ライブラリーとして、NNK コドンの代わりに NNY コドンを利用する方法を試すこととした。ここで Y はシトシン(C)またはチミン(T)を意味している。この NNY コドンを用いた場合、発現するアミノ酸は 15 種類に限定されてしまうが、本発明者らが独自に文献を精査した結果、ここで発現しないアミノ酸は、実は抗体重鎖において抗原認識の直接的役割を持つ超可変領域のひとつである CDR-H3 において(Barrios, Y. et al, J. Mol. Recognit. 17, 332-338.)、利用頻度が極端に低いアミノ酸であることがわかった(Johnson, G et al, (2000) Nucleic Acids Res. 28, 214-218.)。そのためこの NNY コドンからなる DNA ライブラリーを使用したとしても、タンパク質の結合能の多様性に大きく影響せず、むしろ抗体と類似の高い標的分子結合能を持つ可能性があがるのではないかと期待された。NNY コドンからなる DNA ライブラリーを使用することにより、終止コドンの出現確率を完全に 0% にすることができ、DNA ライブラリーの多様性を向上させることに成功した。
【0021】
ランダムなペプチドライブラリーを調整する方法としてNNYコドンを用いる方法論は米国において特許出願されているが、その内容はあくまで免疫グロブリン(抗体)の一部をランダム化させる方法論としてのもので、先述したCDR-H3におけるアミノ酸出現頻度の模倣という概念はなく、また本件のように試験管内ペプチド選択法と組み合わせる用途についても言及されていない(米国特許出願番号:20030232972)。
【0022】
本発明は、以下の〔1〕〜〔34〕を提供するものである。
〔1〕下記(i)から(iv)のDNAを含み、かつ、下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物。
(i)RNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNA
(ii)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNA
(iii)該RNA結合タンパク質をコードするDNA
(iv)リンカータンパク質をコードするDNA
〔2〕(iii)のDNAが複数個並置されている、〔1〕に記載のDNA構築物。
〔3〕RNA結合タンパク質が、MS2コートタンパク質であり、該RNA結合タンパク質が結合するRNAが、MS2コートタンパク質が結合するRNAである、〔1〕に記載のDNA構築物。
〔4〕リンカータンパク質が、g3タンパク質(g3p)またはDHFRタンパク質のアミノ酸配列を有するリンカータンパク質である、〔1〕に記載のDNA構築物。
〔5〕(ii)のDNAが、配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列を有するDNAである、〔1〕に記載のDNA構築物。
〔6〕下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物。
(i)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA
(ii)配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA
(iii)配列番号:5に記載の塩基配列からなるDNAがリンカーを介して2個並置されているDNA
(iv)配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNA
〔7〕下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物。
(i)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA
(ii)配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA
(iii)配列番号:6に記載の塩基配列からなるDNA
(iv)配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNA
〔8〕配列番号:8から10のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA構築物。
〔9〕下記(i)から(iii)のDNAを含むDNA構築物であって、下記(i)から(iii)のDNAが、クローニング部位に挿入される任意のペプチドをコードするDNA、RNA結合タンパク質をコードするDNA、およびリンカータンパク質をコードするDNAの融合された転写産物および翻訳産物が発現するように結合されているDNA構築物。
(i)制限酵素SfiIで認識されるクローニング部位を有するDNA
(ii)RNA結合タンパク質をコードするDNA
(iii)リンカータンパク質をコードするDNA
〔10〕さらに、RNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNAが含まれている、〔9〕に記載のDNA構築物。
〔11〕(ii)のDNAが複数個並置されている、〔9〕または〔10〕に記載のDNA構築物。
〔12〕RNA結合タンパク質が、MS2コートタンパク質である、〔9〕または〔10〕に記載のDNA構築物。
〔13〕配列番号:11に記載の塩基配列からなるDNA構築物。
〔14〕〔1〕から〔8〕のいずれかに記載のDNA構築物の転写産物。
〔15〕下記(i)から(iv)のRNAを含み、かつ、下記(ii)から(iv)のRNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されており、該融合された翻訳産物が、下記(i)のRNAに結合するように構築されているRNA構築物であって、終止コドンを有さないRNA構築物。
(i)RNA結合タンパク質が結合するRNA
(ii)任意のペプチドをコードし、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するRNA
(iii)該RNA結合タンパク質をコードするRNA
(iv)リンカータンパク質をコードするRNA
〔16〕(iii)のRNAが複数個並置されている、〔15〕に記載のRNA構築物。
〔17〕RNA結合タンパク質が、MS2コートタンパク質であり、該RNA結合タンパク質が結合するRNAが、MS2コートタンパク質が結合するRNAである、〔15〕に記載のRNA構築物。
〔18〕〔1〕に記載のDNA構築物を転写させる工程、および転写産物を翻訳させる工程を含む、転写産物と翻訳産物を含む複合体を製造する方法。
〔19〕無細胞系で行われる、〔18〕に記載の方法。
〔20〕〔14〕に記載の転写産物または〔15〕に記載のRNA構築物を翻訳させる工程を含む、該RNA構築物と翻訳産物を含む複合体を製造する方法。
〔21〕無細胞系で行われる、〔20〕に記載の方法。
〔22〕〔18〕から〔21〕のいずれかに記載の方法により製造される複合体。
〔23〕特定の標的物質に結合するペプチドまたは該ペプチドをコードするmRNAをスクリーニングする方法であって、下記(a)から(g)の工程を含む方法。
(a)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAを製造する工程
(b)〔9〕または〔10〕に記載のDNA構築物のクローニング部位に、工程(a)で製造されたDNAを挿入する工程
(c)工程(b)で得られるDNA構築物を利用して、〔1〕に記載のDNA構築物を製造する工程
(d)〔1〕に記載のDNA構築物を転写させる工程
(e)得られた転写産物を翻訳させることにより、転写産物と翻訳産物を含む複合体を形成させる工程
(f)該標的物質と、工程(e)で形成された複合体とを接触させる工程
(g)該標的物質に結合した複合体を回収する工程
〔24〕無細胞系で行われる、〔23〕に記載の方法。
〔25〕特定の標的物質に結合するペプチドをコードするDNAをスクリーニングする方法であって、下記(a)から(j)の工程を含む方法。
(a)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAを製造する工程
(b)〔9〕または〔10〕に記載のDNA構築物のクローニング部位に、工程(a)で製造されたDNAを挿入する工程
(c)工程(b)で得られるDNA構築物を利用して、〔1〕に記載のDNA構築物を製造する工程
(d)〔1〕に記載のDNA構築物を転写させる工程
(e)得られた転写産物を翻訳させることにより、転写産物と翻訳産物を含む複合体を形成させる工程
(f)該標的物質と、工程(e)で形成された複合体とを接触させる工程
(g)該標的物質に結合した複合体を回収する工程
(h)回収された複合体より、RNA構築物を回収する工程
(i)該RNA構築物に含まれる、標的物質に結合するペプチドをコードするRNAの逆転写を行う工程
(j)増幅されたDNAを回収する工程
〔26〕特定の標的物質に結合するペプチドをコードするDNAをスクリーニングする方法であって、下記(a)から(d)の工程を含む方法。
(a)〔9〕または〔10〕に記載のDNA構築物のクローニング部位に、〔25〕に記載の工程(j)で回収されたDNAを挿入する工程
(b)工程(a)で得られるDNA構築物を利用して、〔1〕(ii)のDNAが〔25〕に記載の工程(j)で回収されたDNAであるDNA構築物を製造する工程
(c)工程(b)で製造されるDNA構築物を転写させる工程
(d)〔25〕に記載の工程(e)から(j)を実施する工程
〔27〕無細胞系で行われる、〔25〕または〔26〕に記載の方法。
〔28〕〔23〕から〔27〕のいずれかに記載のスクリーニング方法に用いるためのキット。
〔29〕〔25〕から〔27〕のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得られたDNAによりコードされるペプチドと標的物質との結合実験に用いるためのキット。
〔30〕下記(a)または(b)に記載のDNA。
(a)配列番号:24から47の偶数番号に記載のアミノ酸配列を有するペプチドをコードするDNA。
(b)配列番号:24から47の奇数番号に記載の塩基配列を有するDNA。
〔31〕〔30〕に記載のDNAからコードされるペプチド。
〔32〕〔30〕に記載のDNAを有するベクター。
〔33〕〔30〕に記載のDNAまたは〔32〕に記載のベクターを有する細胞。
〔34〕配列番号:28、30、38、40、42、44、または46に記載のアミノ酸配列を有するペプチドを含有する抗癌剤。
〔35〕配列番号:32、34、または36に記載のアミノ酸配列を有するペプチドを含有する糖尿病治療剤。
【発明の効果】
【0023】
本発明の産業上の利用法としてまず始めに考えられるのは、細胞(例えば癌細胞など)特異的な受容体に高い親和性を持つ人工ペプチドリガンドを創製し、抗癌剤などの薬剤と結合させて、上述の受容体を持つ標的細胞に特異的なドラッグデリバリー薬剤として利用する方法である。そうした人工ペプチドの製薬としての実用化には患者の免疫反応による副作用が問題となるだろうが、本発明者らのシステムで扱うペプチドは20 アミノ酸以下の長さであるため、患者由来のタンパク質(免疫グロブリンのFcドメインやアルブミンなど)との融合タンパク質としたり、PEG 修飾したりといった改良が容易であり、十分解決可能と考える(例、EphA2,EphB2,EphB4各種受容体タンパク質結合ペプチド)。
【0024】
試験管内選択の際に、天然のリガンドを用いて競争阻害によってRNAを回収する方法をとることにより、本発明で得られる人工ペプチド自身がアンタゴニストとして機能することも期待できる。
【0025】
また標的分子がリガンド様の病原物質そのものである場合、その病原物質とその受容体との相互作用を妨げることで、治療薬としての活用も期待できる(例、レジスチン結合ペプチド)。
【0026】
その他にも食品検査や診断などで用いられている、ELISAやウェスタンブロット、免疫染色、バイオセンサーなどの、モノクローナル抗体が担っている部分について、同様の効果が期待できる。本発明では本発明者らが扱う長さのアミノ酸は化学合成可能なことから、製品の量産にも対応可能であり、実用的な検出素子と言うことができる。図10〜12の結果は、抗FLAGのHRPコンジュゲート抗体を用いたELISAアッセイであり、すぐにでも実用可能であることを明確に示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、下記(i)から(iv)のDNAを含み、かつ、下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物(本明細書においては、DNA構築物Aと称することもある)を提供する。
(i)RNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNA
(ii)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNA
(iii)該RNA結合タンパク質をコードするDNA
(iv)リンカータンパク質をコードするDNA
【0028】
本発明において、「任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNA」とは、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAライブラリーを意味する。ここで、 N はアデニン(A),グアニン(G),シトシン(C),チミン(T)のいずれかであることを意味しており、K はグアニン(G)もしくはチミン(T)のいずれか、Sはシトシン(C)もしくはグアニン(G)のいずれか、Y はシトシン(C)またはチミン(T)のいずれかを意味している。また、本発明の「ペプチド」には、ポリペプチドも含まれる。
【0029】
本発明において、「DNAが、融合された転写産物を発現するように結合している」とは、プロモーター領域に転写因子が結合することにより、融合された転写産物の発現が誘導されるように、プロモーター領域とDNAとが結合していることをいう。よって、融合された転写産物が発現する限り、プロモーター領域とDNAを繋ぐリンカー、および各DNA間を繋ぐリンカーの長さや配列に特に制限はない。
【0030】
また、「DNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合している」とは、リボソーム結合部位にリボソームが結合することにより、融合された翻訳産物の発現が誘導されるように、リボソーム結合部位とDNAとが結合していることをいう。よって、融合された翻訳産物が発現する限り、各DNA間を繋ぐリンカーの長さや配列に限定はない。
【0031】
本発明におけるプロモーターとしては、T7プロモーターおよびSP6プロモーターが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
本発明のDNAライブラリーは、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有していれば、その長さは特に限定されない。また、本発明のDNAライブラリーとしては、[システインをコードするDNA]−[NNKもしくはNNS配列、またはNNY] a−[システインをコードするDNA]、または、[NNKもしくはNNS配列、またはNNY]b−[システインをコードするDNA]−[NNKもしくはNNS配列、またはNNY] a−[システインをコードするDNA] −[NNKもしくはNNS配列、またはNNY]c(aは1〜20、bは1〜4、cは1〜4が例示できるが、これらに限定されるものではない)等の構造を有するライブラリーが例示できるが、これらに限定されるものではない。このような構造を有するDNAライブラリーとしては、配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列を有するDNAが例示できる。
【0033】
本発明のDNA構築物Aにおいては、RNA結合タンパク質をコードするDNAが複数個並置されていることが好ましい。本発明のDNA構築物Aにおいて、RNA結合タンパク質と該RNA結合タンパク質が結合するRNAとしては、MS2コートタンパク質(Min, J.W. et al, (1972) Nature 237, 82-88)とMS2コートタンパク質が結合するRNAモチーフ(Steitz J.A. (1969) Nature 224, 957-964)を用いることができる。
【0034】
本発明においては、2量体単位の自己会合が抑制された変異型MS2コートタンパク質、およびMS2コートタンパク質との結合親和性が高い変異型RNAモチーフ(Cvモチーフ)を用いることが好ましい。
【0035】
本発明のリンカータンパク質は、その種類に限定はないが、例えば、g3タンパク質(Hanes, J. et al, (2000a) Methods Enzymol. 328, 404-430., Beck E, Zink B. (1981) Gene. Dec;16(1-3):35-58.)またはDHFRタンパク質(Smith DR, Calvo JM. (1980) Nucleic Acids Res. May 24; 8(10): 2255-2274.)のアミノ酸配列を有するリンカータンパク質が例示できる。
【0036】
本発明のDNA構築物Aとしては、下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物が例示できるが、これに限定されるものではない。
(i)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA
(ii)配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA
(iii)配列番号:5に記載の塩基配列からなるDNAがリンカーを介して2個並置されているDNA
(iv)配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNA
【0037】
また、本発明のDNA構築物Aとしては、例えば、下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物が挙げられるが、これに制限されない。
(i)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA
(ii)配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA
(iii)配列番号:6に記載の塩基配列からなるDNA
(iv)配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNA
【0038】
さらに、本発明のDNA構築物Aとしては、配列番号:8から10のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA構築物が例示できるが、これらに限定されない。
【0039】
本発明は、上記DNA構築物Aの転写産物(RNA構築物)もまた提供する。このようなRNA構築物としては、例えば下記(i)から(iv)のRNAを含み、かつ、下記(ii)から(iv)のRNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されており、該融合された翻訳産物が、下記(i)のRNAに結合するように構築されているRNA構築物であって、終止コドンを有さないRNA構築物が挙げられる。
(i)RNA結合タンパク質が結合するRNA
(ii)任意のペプチドをコードし、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するRNA
(iii)該RNA結合タンパク質をコードするRNA
(iv)リンカータンパク質をコードするRNA
【0040】
「任意のペプチドをコードし、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するRNA」において、 N はアデニン(A),グアニン(G),シトシン(C),ウラシル(U)のいずれかであることを意味しており、K はグアニン(G)もしくはウラシル(U)のいずれか、Sはシトシン(C)もしくはグアニン(G)のいずれか、Y はシトシン(C)またはウラシル(U)のいずれかを意味している。
【0041】
本発明は、また、上記DNA構築物Aを調製するために用いる、下記(i)から(iii)のDNAを含むDNA構築物であって、下記(i)から(iii)のDNAが、クローニング部位に挿入される任意のペプチドをコードするDNA、RNA結合タンパク質をコードするDNA、およびリンカータンパク質をコードするDNAの融合された転写産物および翻訳産物が発現するように結合されているDNA構築物(本明細書においては、DNA構築物Bと称することもある)を提供する。
(i)制限酵素SfiIで認識されるクローニング部位を有するDNA
(ii)RNA結合タンパク質をコードするDNA
(iii)リンカータンパク質をコードするDNA
【0042】
該DNA構築物Bは、RNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNAを含むように構築することもできる。
【0043】
該DNA構築物Bにおけるクローニング部位は、「任意のペプチドをコードするDNAが挿入されない場合には、そのクローニング部位以降の翻訳産物が生じないように終止コドンが含まれており、また任意のペプチドをコードするDNAが挿入されている場合にはその終止コドンが不活化され、全長の翻訳産物が産生される」という性質を有している限り、その配列に制限はない。このようなクローニング部位としては、図4(a)に記載のクローニング部位(配列番号:48および49)が例示できる。
【0044】
該DNA構築物Bとしては、配列番号:11に記載の塩基配列からなるDNA構築物が例示できるが、これに限定されるものではない。
【0045】
本発明は、また、上記DNA構築物Aを転写させる工程、および転写産物を翻訳させる工程を含む、転写産物と翻訳産物を含む複合体を製造する方法を提供する。この製造方法においては、上記DNA構築物Aを適当な転写・翻訳系に添加または導入することにより、転写産物および翻訳産物を発現させることを特徴とする。本発明は、上記RNA構築物を翻訳させる工程を含む、該RNA構築物と翻訳産物を含む複合体を製造する方法もまた提供する。この製造方法においては、上記RNA構築物を適当な翻訳系に添加または導入することにより、翻訳産物を発現させることを特徴とする。
【0046】
本発明の方法で製造される転写産物と翻訳産物は、翻訳産物に含まれるRNA結合タンパク質と転写産物に含まれるRNA結合タンパク質の結合部位との相互作用により、安定的な複合体を形成する。
【0047】
本方法で用いる転写系や翻訳系としては、無細胞転写系、無細胞翻訳系又は生細胞などが挙げられる。無細胞転写系、無細胞翻訳系又は生細胞などは、本発明のDNA構築物AやRNA構築物を添加し又は導入することによって、該DNA構築物Aからの転写産物および翻訳産物の発現(RNA構築物を用いる場合には、翻訳産物の発現)を保証するものである限り制限されない。本方法では、好ましくは無細胞の転写系や翻訳系、特に好ましくは、細胞抽出物から構成される転写系や翻訳系を使用することができる。
【0048】
無細胞転写・翻訳系としては、原核又は真核生物の抽出物により構成される無細胞転写・翻訳系、例えば大腸菌、ウサギ網状赤血球、小麦胚芽抽出物などが使用できる。また、生細胞翻訳系としては、原核又は真核生物、例えば大腸菌の細胞などが使用できる。
【0049】
本方法により得られる、転写産物と翻訳産物を含む複合体も本発明の範囲内である。このような複合体は安定に存在することができ、後述するように特定の標的物質と相互作用するペプチドやそれをコードするmRNA若しくはDNAのスクリーニングなどに供することができる。
【0050】
本発明は、特定の標的物質に結合するペプチドまたは該ペプチドをコードするmRNAをスクリーニングする方法を提供する。該方法は、下記(a)から(g)の工程を含む。
(a)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAを製造する工程
(b)上記DNA構築物Bのクローニング部位に、工程(a)で製造されたDNAを挿入する工程
(c)工程(b)で得られるDNA構築物を利用して、上記DNA構築物Aを製造する工程
(d)上記DNA構築物Aを転写させる工程
(e)得られた転写産物を翻訳させることにより、転写産物と翻訳産物を含む複合体を形成させる工程
(f)該標的物質と、工程(e)で形成された複合体とを接触させる工程
(g)該標的物質に結合した複合体を回収する工程
【0051】
本発明は、また、特定の標的物質に結合するペプチドをコードするDNAをスクリーニングする方法であって、下記(a)から(j)の工程を含む方法を提供する。
(a)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAを製造する工程
(b)上記DNA構築物Bのクローニング部位に、工程(a)で製造されたDNAを挿入する工程
(c)工程(b)で得られるDNA構築物を利用して、上記DNA構築物Aを製造する工程
(d)上記DNA構築物Aを転写させる工程
(e)得られた転写産物を翻訳させることにより、転写産物と翻訳産物を含む複合体を形成させる工程
(f)該標的物質と、工程(e)で形成された複合体とを接触させる工程
(g)該標的物質に結合した複合体を回収する工程
(h)回収された複合体より、RNA構築物を回収する工程
(i)該RNA構築物に含まれる、標的物質に結合するペプチドをコードするRNAの逆転を行う工程
(j)増幅されたDNAを回収する工程
【0052】
本発明のスクリーニング方法では、例えば、化学合成したNNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有する一本鎖DNAを鋳型とし、適当なプライマーを用いてPCRを行うことで二本鎖DNAにすると同時に増幅することで、NNKコドンもしくはNNSコドン、またはNNYコドンをベースとしたDNAライブラリーを製造する。次いで、制限酵素SfiI、DNAリガーゼを利用して、該DNAライブラリーを上記DNA構築物Bのクローニング部位に挿入する。次いで、得られるDNA構築物を鋳型とし、適当なプライマーを用いてPCRを行い、上記DNA構築物Aを製造する。RNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNAを有さないDNA構築物Bを用いる場合は、このPCRの過程で、転写に必要なプロモーター領域およびそれに続くRNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNAを含むプライマーを用いてPCRをすることで、RNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNAを導入することができる。
【0053】
本発明の方法では、次いで、上記DNA構築物Aを転写および翻訳させ、転写産物と翻訳産物を含む複合体を形成させる。本発明において、上記DNA構築物Aの転写・翻訳系は、上記の通りである。また、標的物質は特に限定はないが、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチド等の単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、原核細胞抽出物、真核単細胞抽出物もしくは動物細胞抽出物、動植物培養細胞、動植物組織断片、単細胞微生物、ゲノムDNA、合成一本鎖DNA、合成二本鎖DNA、各種生物由来のRNA、合成一本鎖RNA、合成二本鎖RNA、糖鎖等を挙げることができる。
【0054】
本発明において「接触」は、例えば、本発明の核酸構築物を転写・翻訳後(RNA構築物を用いる場合には、翻訳後)、アガロース等の固相担体に結合した標的物質の懸濁液を添加することにより行うことができる。添加後、一定期間保持することにより標的物質と目的遺伝子の産物とを結合させる。未結合の複合体を含む上清を、混合液から除去し、適当な緩衝液で固相担体を洗浄する。
【0055】
本発明においては、例えば低マグネシウムイオン濃度下の緩衝溶液を、標的物質に結合した複合体の懸濁液に加えることで、RNA構築物を回収することができる。標的物質や選択の条件によって適宜適切な物質の添加や条件の変更を行う。次いで、回収されたRNA構築物を鋳型として、逆転写酵素、標的物質に結合するペプチドをコードするRNA部位を増幅可能なプライマーを用い、逆転写を行う。次いで、適当なプライマーを用いて、得られた逆転写産物についてnested PCRを行う。次いで、得られた増幅産物を制限酵素SfiIで処理し、増幅されたPCR産物を、例えばポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)で精製する。以上が、1回目のラウンドである。
【0056】
本発明の方法では、次いで、制限酵素SfiI、DNAリガーゼを利用して、精製されたPCR産物を上記DNA構築物Bのクローニング部位に挿入する(工程1)。次いで、得られるDNA構築物を利用して、本発明のDNAのスクリーニング方法における工程(j)で回収されたDNAを有するDNA構築物Aを製造する(工程2)。次いで、製造されるDNA構築物を転写させる(工程3)。次いで、本発明のDNAのスクリーニング方法における工程(e)から(j)を実施し、再度、標的物質に結合するペプチドをコードするDNAを回収する(工程4)。以上が、2回目のラウンドである。
本発明において、3回目以降のn回目(nは3以上の整数)ラウンドでは、n-1回目のラウンドで回収されたDNAを用いて、2回目のラウンドの工程1から4と同様の作業を実施する。
各ラウンドにおいて、電気泳動によるPCRの増幅の様子を基に、ラウンドを何回目で終了するかを判断することができる。この基準でラウンドを終了すると判断した場合、その最終ラウンド時に回収されたDNA(上記工程(j)における一回目のPCR産物)を、例えば市販のTAクローニングキットでサブクローニングし、それぞれについて配列を決定することができる。
【0057】
NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAライブラリーを用いたスクリーニング方法は、それぞれ単独で実施することもできるが、これらを組み合わせて実施することで、より多様な目的物を得ることができる。
【0058】
また、本発明は、本発明のスクリーニングに用いるためのキットを提供する。本発明のDNA構築物を用いたスクリーニングのためのキットには、例えば、(1)上記DNA構築物Aの転写産物、(2)試験管内選択の際の洗浄用緩衝液および溶出用緩衝液、(3)本発明のスクリーニング方法に用いるための各種プライマー対(例えば配列番号:16〜21)、(4)上記DNA構築物BのSfiI消化済みのものの少なくとも1つが含まれる。
【0059】
本発明においては、スクリーニングによって得られたペプチドが、標的物質に結合するか否かの確証実験を行うこともできる(図10〜12)。本発明は、このような確証実験に用いるためのキットを提供する。該キットには、本発明の確証実験に用いるためのプラスミド(例えば配列番号:22または23)、プライマー対(例えば配列番号:16および17)の少なくとも1つが含まれる。
【0060】
本発明は、下記(a)または(b)に記載のDNA、および該DNAからコードされるペプチドを提供する。
(a)配列番号:24から47の偶数番号に記載のアミノ酸配列を有するペプチドをコードするDNA。
(b)配列番号:24から47の奇数番号に記載の塩基配列を有するDNA。
【0061】
このようなDNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖をそれぞれ定法の化学合成で一本鎖DNAとして作製し、該一本鎖DNAをアニーリングして二本鎖DNAにすることで製造できる。また、ペプチドについても化学合成可能である。
【0062】
本発明のペプチドのうち、配列番号:24および26に記載のアミノ酸配列からなるペプチドはNeutrAvidinに、配列番号:28および30に記載のアミノ酸配列からなるペプチドはEphA2 受容体タンパク質に、配列番号:38および40に記載のアミノ酸配列からなるペプチドはEphB2 受容体タンパク質に、配列番号:42、44および46に記載のアミノ酸配列からなるペプチドはEphA4 受容体タンパク質に、配列番号:32、34および36に記載のアミノ酸配列からなるペプチドはレジスチンに結合する。
【0063】
NeutrAvidinに結合する本発明のペプチドは、NeutrAvidin が市販のものであることから、その市販品を用いたあらゆる用途に使うことができる。本発明のペプチドはウエスタンブロッティングでブロッキング剤として使用されるスキムミルク存在下でも極めて強くNeutrAvidinと結合することから、細胞抽出物など高タンパク質濃度下および各種生体物質共存下でも機能すると考えられるので、主としてタンパク質精製や免疫沈降の際に有効である。
【0064】
EphA2 受容体タンパク質、EphB2 受容体タンパク質、またはEphB4 受容体タンパク質に結合する本発明のペプチドは、これら受容体タンパク質が転移性の高い悪性腫瘍細胞表面に特異的に過剰発現していることから、癌細胞に特異的なドラッグデリバリー薬剤に応用できる。腫瘍細胞が悪性か否かを診断する際にも利用することができる。こうした診断はモノクローナル抗体を用いたバイオセンサーやELISA、ウェスタンブロット、免疫染色等で行われているので、こうした用途におけるモノクローナル抗体と同様の用途に使用することが可能である。
【0065】
また、EphA2受容体タンパク質に結合するモノクローナル抗体を用いることで、悪性腫瘍細胞の転移につながる形態変化や増殖が抑制され、正常細胞へはなんら影響がないことが知られている(Carles-Kinch, K. et al, (2002) Cancer Res., 62, 2840-2847.)。よって、Eph 受容体タンパク質に結合する本発明のペプチドは、抗癌剤になりうる。
【0066】
レジスチンに関しても同様であるが、特にレジスチンは遊離のペプチドホルモンであることから、それに結合するペプチドを生体に投与することによって、レジスチンの機能を妨げることが期待できる。また、抗レジスチンポリクローナル抗体(IgG)を、インスリン抵抗性で肥満かつ高血糖症のマウス(II型糖尿病のモデル動物)に投与すると、血中のグルコース濃度が一時的に低下することが報告されている。このときレジスチンと相互作用しない抗体ではそのような傾向は見られず、レジスチンに結合する抗体によって症状が緩和されたことが示されている。またこの抗レジスチンポリクローナル抗体を投与したマウスでは、グルコースの血糖値に対するインスリン感受性が見られ、この効果はレジスチンと相互作用しない抗体に対して相対的に高いものだと報告されている。このことは、レジスチンに結合するペプチドによって、II型糖尿病の病態を改善できる可能性が高いことを示唆している(Steppan, C.M. et al, (2001) Nature, 409, 307-312.)。そのため、レジスチンに結合するペプチドは直接糖尿病の治療薬となり得る。
【0067】
さらに、配列番号:24から47の偶数番号に記載のアミノ酸配列からなるペプチドには、標的タンパク質に結合しうる限り、他のペプチド、糖鎖等の生理的な修飾、蛍光や放射性物質のような標識等といった修飾を加えることができる。本発明は、このような配列番号:24から47の偶数番号に記載のアミノ酸配列を有するペプチドもまた提供するものである。たとえば、本発明のペプチドには、FLAGタグ、HAタグ、あるいはヒスチジンタグなどの付加的なアミノ酸配列が付加されてもよい。また、本発明のペプチドをドラックデリバリーに利用する場合、抗癌剤、サイトトキシン(細胞障害性物質)などが付加されてもよい。
【0068】
本発明は、上記DNAを有するベクター、および、上記DNAまたは該ベクターを有する細胞もまた提供する。
【0069】
ベクターとしては、挿入したDNAを安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましいが、市販の種々のベクターを利用することができる。本発明のペプチドを生産する目的においてベクターを用いる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内でペプチドを発現するベクターであれば特に制限されないが、例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、生物個体であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol. 8:466-472(1988))などが好ましい。ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
【0070】
上記宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。ペプチドを発現させるための細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、真菌細胞(例:酵母、アスペルギルス)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowes メラノーマ細胞)および植物細胞を例示することができる。宿主細胞へのベクター導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクタミン法(GIBCO-BRL社製)、マイクロインジェクション法などの公知の方法で行うことが可能である。
【0071】
得られた本発明のペプチドは、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一なペプチドとして精製することができる。ペプチドの分離、精製は、通常のペプチドの精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせればペプチドを分離、精製することができる。
【0072】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0073】
また、本発明のペプチドは、実質的に精製されたペプチドであることが好ましい。ここで「実質的に精製された」とは、本発明のペプチドの精製度(ペプチド成分全体における本発明のペプチドの割合)が、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、100%若しくは100%に近いことを意味する。100%に近い上限は当業者の精製技術や分析技術に依存するが、例えば、99.999%、99.99%、99.9%、99%などである。
【0074】
本発明は、配列番号:28、30、38、40、42、44、または46に記載のアミノ酸配列を有するペプチドを含有する抗癌剤、配列番号:32、34、または36に記載のアミノ酸配列を有するペプチドを含有する糖尿病治療剤を提供する。
【0075】
これら抗癌剤、および糖尿病治療剤におけるペプチドは、その状態に特に制限はなく、効果を保持できる限り、実質的に精製されたペプチドでも、クルードな状態のペプチドでも使用することができる。
【0076】
また、上記抗癌剤、および糖尿病治療剤は、ヒトやヒト以外の動物(例えば実験動物、畜産動物、愛玩動物等)の予防又は治療薬として利用することができる。
【0077】
上記抗癌剤、および糖尿病治療剤におけるペプチドは、例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤(EDTA等)、結合剤等などと適宜組み合わせて製剤化して投与することが考えられる。
【0078】
本発明の薬剤の形態(剤形)としては、注射剤形、凍結乾燥剤形、溶液剤形などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0079】
患者への投与は経口、非経口投与のいずれでも可能であるが、好ましくは非経口投与であり、例えば、注射投与が可能である。注射投与の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
【0080】
投与量は、患者の体重や年齢、投与方法、症状などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。一般的な投与量は、薬剤の有効血中濃度や代謝時間により異なるが、1日の維持量として約0.1mg/kg〜約1.0g/kg、好ましくは約0.1mg/kg〜約10mg/kg、より好ましくは約0.1mg/kg〜約1.0mg/kgであると考えられる。投与は1回から数回に分けて行うことができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
(材料および方法)
本発明では複数のタンパク質をコードする遺伝子(cDNA)を用いた。それらの由来およびそれらを用いて構築した各種プラスミドについて説明する。まず要となる変異型 MS2 コートタンパク質の遺伝子については、米国の Invitrogen 社が発売している酵母 Saccharomyces cerevisiae L40 ura MS2 の熱溶解物から PCR で増幅してクローニングした。
【0082】
Cv モチーフの鋳型となる DNA については化学合成して調達したが、その際に合成した DNA には、Cv モチーフの両端に適切な制限酵素サイトを導入した。これにより、変異型 MS2 コートタンパク質(mMSp)遺伝子の上流にクローニングした。変異型 MS2 コートタンパク質の遺伝子はその直後にリンカータンパク質遺伝子が続いており、すぐ終止コドンになっているわけではない。これはリボソームディスプレイ法において、翻訳産物のうち提示された scFv が正しいホールディングをするためには、提示された scFv とリボソームの間に 100 残基酸程度のリンカータンパク質が必要だという報告に従った結果である(Hanes, J. et al, (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 94, 4937-4942.; Schaffitzel, C. et al, J. Immunol. Methods, 231, 119-135.)。本発明者らはその遺伝子の長さおよびタンパク質の丈夫さを考慮してそのリンカータンパク質に大腸菌ジヒドロ葉酸レダクターゼ(Dihydrofolate reductase; DHFR)を使用した(Sawata, S.Y et al, (2003) Protein Eng., 16, 1115-1124.)(図3)。
【0083】
ランダムな配列からなる DNA ライブラリーを作製するにあたり、その母体となるプラスミドの収量を十分に確保するため、大腸菌内でのコピー数が多く収量が高い Invitrogen 社の pCR2.1 ベクターに Cv モチーフ、および変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマー-リンカータンパク質融合遺伝子を乗せた。Cv モチーフと変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマー遺伝子の間に、制限酵素 Sfi I によるクローニング部位を2箇所導入し、その2ヶ所を合成 DNA で作製した短いリンカー DNA でつないだ(図4(a))。このリンカーはフレームシフトを起こすように読み枠が設定してあり、そのまま翻訳されると直後の Sfi I 制限サイトで終止コドンが出現する。リンカー DNA 同様に末端に制限酵素 Sfi I制限サイトを持つように化学合成したランダムな配列からなる DNA ライブラリーをこのリンカー DNA の代わりに導入した場合、リンカー DNA が導入されていたときとは違う読み枠になるようフレームシフトが起きるように配列を設計しておくことで、試験管内での大腸菌抽出物由来の無細胞タンパク質合成系を用いた翻訳時にランダムな配列からなる DNA ライブラリーを持たない mRNA から翻訳されてできるタンパク質が意味の無い短いオリゴアミノ酸(13 残基)としてリボソームから解離するようにした。これによって、実験の効率上どうしても混入してしまう、ランダムな配列からなる DNA ライブラリーを持たない mRNA から翻訳されてできるタンパク質の影響を避けると同時に、そうした負の要因となる翻訳産物にリボソームがトラップされるのを避けることができる。ライブラリーのクローニング部位を含む必要な遺伝子一式を持つプラスミドを pUCv-mM2D と命名した(配列番号:11)。またシステム中で試験管内転写の鋳型 DNA となる PCR 産物(図2)を dUCv-libV-mM2D(-)(配列番号:8または9)およびdUCv-libVI-mM2D(-)と命名した(配列番号:10)。なお、ライブラリーを持たない PCR 産物は dUCv-mM2D と命名した(配列番号:12)。
【0084】
一つ目のランダムな配列からなる DNA ライブラリーは NNK コドンで構築されており、ランダム化した配列が16 残基のアミノ酸からなるように設計した。ここで N はアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)のいずれかであることを意味しており、K はグアニン(G)もしくはチミン(T)のいずれかであることを意味している。この際、N 末端から 3 番目および 14番目のアミノ酸を NNK コドンではなくシステインをコードする TGT に固定した。これにより、翻訳された際のランダムな配列からなる DNA ライブラリー由来のペプチドが近接する2箇所のシステイン間でジスルフィド結合を形成し、ループ構造をとりやすくなるように配慮した(図4(b))。
【0085】
二つ目のランダムな配列からなる DNA ライブラリーは NNY コドンで構築されており、ランダム化した配列が 16 残基のアミノ酸からなるように設計した。ここで N はアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)のいずれかであることを意味しており、Y はシトシン(C)もしくはチミン(T)のいずれかであることを意味している。この際、NNK コドンの場合と同様に、N 末端から 3 番目および 14番目のアミノ酸を NNY コドンではなくシステインをコードする TGT に固定した。
【0086】
本発明者らはこの NNY コドンを元に作製するペプチドライブラリーを PEACE ライブラリーと命名した。PEACE とは Peptides consisting of Essential Amino acids appeared in CDR-H3 for Enhancement of antibody binding の略である。
【0087】
最初の試験管内ペプチド選択の標的分子である NeutrAvidin 固定化アガロース担体は、米国のPIERCE 社から購入して使用した。
【0088】
標的分子である EphA2 受容体タンパク質,EphB2 受容体タンパク質,および EphB4 受容体タンパク質はマウス由来のもので、実際には本来の受容体タンパク質の全長ではなく、N 末端に存在するリガンド結合ドメインのみがヒト抗体由来の Fc フラグメントと融合したキメラタンパク質であり、米国の R & D systems 社から購入したものである。そのC 末端にはヘキサヒスチジンタグが導入されており、このキメラタンパク質を米国の Clontech 社から購入したコバルト錯体固定化アガロース担体である TALON 上に固定化して使用した。
【0089】
もう1種類の標的分子であるレジスチンはヒト由来のもので、米国の BioVendor Laboratory Medicine 社から購入したものである。そのN 末端にはヘキサヒスチジンタグが導入されており、このタンパク質を米国の Clontech 社から購入したコバルト錯体固定化アガロース担体である TALON 上に固定化して使用した。
【0090】
本実施例では、図2に記載の一連の作業を行った。より具体的には、化学合成した一本鎖DNA(配列番号:13(名称:libV)または配列番号:15(名称:libVI))を鋳型とし、プライマーfP-libIV-1(配列番号:16)およびプライマーrP-libIV-1(配列番号:17)でPCRを行うことで二本鎖DNAにすると同時に増幅し、エタノール沈殿で濃縮精製後、制限酵素SfiIで処理し、その後ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)で精製した。配列番号:13を用いた場合にはNNKコドンを、配列番号:14を用いた場合にはNNSコドンを、配列番号:15を用いた場合にはNNYコドンをベースとしたライブラリーとなる。
【0091】
次いで、後述のプラスミドpUCv-mM2D(配列番号:11)をSfiIで処理したあとアガロースゲル電気泳動で精製した。その後、適切な反応条件下で、T4DNAリガーゼを用いて、DNAライブラリーとプラスミドpUCv-mM2Dをライゲーションした。次いで、DNAライブラリーが挿入されたプラスミドを、精製することなく鋳型として、プライマーfP-T7-Cv-rec-1(配列番号:18)およびプライマーrP-stop(-)-3(配列番号:19)を用いてPCRを行った。その後、シリカメンブレンを用いた市販のRNA専用のスピンカラムで、PCR産物を精製した(図5)。
【0092】
次いで、PCR産物を転写し、精製した後に翻訳させた。次いでこの翻訳産物を含む溶液を、担体に結合した標的物質(NeutrAvidin、EphA2、EphB2、EphB4、レジスチン)を含む適当な緩衝溶液に添加した。
【0093】
NeutrAvidinを標的とした場合には、標的物質が担体と共有結合していることから、グアニジン塩酸塩の入ったタンパク質変性用緩衝液を加えて70℃で適切な時間加熱して標的物質から溶出を完全なものとした。また標的物質がEphA2、EphB4、レジスチンの場合は、これらがヒスチジンタグを持っていて、それを介して金属キレート担体上に固定化されていたことから、イミダゾールを低マグネシウム濃度緩衝液に適当量添加し、4℃で30分ほど攪拌して回収した。溶出したmRNAはシリカメンブレンを用いた市販のRNA専用のスピンカラムで精製した。
【0094】
次いで、回収されたmRNAを鋳型として、プライマーrP-entero-1(配列番号:21)を用い、標的物質に結合するペプチドをコードするRNA部位を市販の逆転写酵素を用いて逆転写した。次いで、得られた逆転写産物についてnested PCRを行った。一回目のPCRでは、プライマーfP-rec-1(配列番号:20)およびプライマーrP-entero-1(配列番号:21)を用いた。PCR産物をエタノール沈殿で濃縮したのち、これを鋳型として二回目のPCRを行った。この時のPCRでは、プライマーfP-libIV-1(配列番号:16)およびプライマーrP-libIV-1(配列番号:17)を用いた。エタノール沈殿で濃縮精製後、制限酵素SfiIで処理し、その後ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)で精製した。次いで、T4DNAリガーゼを用いて、増幅したDNAとプラスミドpUCv-mM2Dをライゲーションした。本実施例では、上記の各工程を繰り返した(図6)。各繰り返しにおいて、電気泳動によるPCRの増幅の様子を基に、繰り返しを何回目で終了するかを判断した。最終繰り返し時の一回目のPCR産物を市販のTAクローニングキットでサブクローニングし、それぞれについて配列を決定した。
【0095】
また、本実施例においては、増幅されたDNAからコードされるペプチドが、標的物質に結合するか否かの確証実験を行った。得られた各候補DNAを持つサブクローンプラスミドに対し、プライマーfP-library IV-1(配列番号:16)およびプライマーrP-library IV-1(配列番号:17)を用いてPCRを行い、SfiIで消化した。このDNA構築物は、プラスミドpUXmM2His(+)(配列番号:22)やプラスミドpUXmM2FLAG(+)(配列番号:23)のSfiI部位に再クローニングした。プラスミドpUXmM2His(+)を用いた場合、T7プロモーター、SD配列および開始コドンを上流に、ヒスチジンタグと終止コドンを下流に持つように付加したDNA構築物となる。またプラスミドpUXmM2FLAG(+)を用いた場合はヒスチジンタグがFLAGタグになる。これらDNA構築物を用いると、試験管内で転写および翻訳を行って目的のペプチド配列を含むmMSpタンデムダイマーを調整することができる。この翻訳産物を直接用いてELISAを行うことができるので、これによって確証実験を行った。
〔実施例1〕NNKコドン由来ペプチドライブラリーとNeutrAvidin 固定化アガロース担体を用いた新規ペプチドの選択
【0096】
NNK コドンによるペプチドライブラリーを用いて、ARMS システムが十分に機能するか否かを確認するための実験を行った。なお、NNKコドンを使用した場合とNNSコドン(SはCまたはG)を使用した場合では、アミノ酸の出現頻度はまったく同じであるので、NNKコドンで調整されたペプチドライブラリーは、NNSコドンでも調整することが可能である。
【0097】
この実験では標的物質として、NeutrAvidin 固定化アガロース担体を用いることとした(NeutrAvidin は米国のPIERCE 社が開発したアビジン誘導体で、独自の処理によって天然型のアビジンが持つ修飾糖鎖を除去したものである)。行った実験は、変異型 MS2 コートタンパク質(mMSp)タンデムダイマーは持つが Cv モチーフを持たないものと、変異型 MS2 コートタンパク質(mMSp)タンデムダイマーと Cv モチーフとの両者を持つものそれぞれについて同様の試験管内ペプチド選択を行い、選択の効率およびその結果得られたペプチド配列について、その NeutrAvidin 結合能を比較するというもので、その結果をまとめると次のようになる。なおARMS システムはファージディスプレイ法やリボソームディスプレイ法などと同様に、試験管内における選択と増幅を繰り返すことができる。NeutrAvidin を標的とした実験では7回の選択と増幅を繰り返した後に、回収された DNA をクローニングしてシークエンス解析した。
(1)変異型 MS2 コートタンパク質(mMSp)タンデムダイマーと Cv モチーフとの両者を持つシステムにおいて、高い NeutrAvidin 結合能を示す2種類のペプチド配列が得られ、それらを K-NAV-08(配列番号:24、25)、K-NAV-17(配列番号:26、27) と命名した。
(2)試験管内で大腸菌抽出物由来の無細胞タンパク質合成系を用いてこれらのペプチドを変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質として調整し、その NeutrAvidin アガロースとの相互作用を比較すると、K-NAV-08 を持つ変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質は、K-NAV-17 を持つ変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質よりも高い結合能を持っていることがわかった。変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーだけではこの結合は見られなかった(図7)。
(3)上記(2)で述べた相互作用は、グルタチオンセファロースについては見られなかった。このことから、(1)の結合は担体である高分子多糖(アガロースもしくはセファロース)に対するものではなく、NeutrAvidin に対するものであることがわかった(図7)。
(4)K-NAV-17 について合成ペプチドを作製し解離定数(Kd)を測定したところ 16 nM となり、その配列はこれまでに報告されたものに比べ、ほぼ同程度の解離定数を示した(表1)。
【表1】
(5)得られた NeutrAvidin 結合能を持つペプチドモチーフは新規の配列であり、従来から言われていた、ビオチンと同様の結合様式でストレプトアビジンに結合するモチーフである HPQ モチーフ(His-Pro-Gln)を持たなかった。
(6)変異型 MS2 コートタンパク質(mMSp)タンデムダイマーは持つが Cv モチーフを持たないシステムを用いた同様の試験管内選択では、特定のペプチド配列をコードする DNA を得ることはできたものの、その選択されたペプチドの結合は極めて弱く、また NeutrAvidin が固定化されていないアガロース担体とも同様の弱い相互作用することから、試験管内のペプチド選択に失敗したと考えられる。
(7)今回調整したランダムな配列からなる DNA ライブラリー(NNK ライブラリー)の多様性は、本質的に含まずに正規の読み枠を持つものだけを見積もると、1.4 × 108 であり、1種類あたりのコピー数は8.6 × 104 であった。報告されて入れているストレプトアビジンに対する試験管内ペプチド選択実験におけるNNK ライブラリーは、ファージディスプレイ法で多様性が2.0 × 107 で1種類あたりのコピー数は5.0 × 104(Devlin, J.J. et al, (1990) Science, 249, 404-406.)、リボソームディスプレイ法で多様性が2.0 × 1013 で1種類あたりのコピー数は2.0 × 102(Lamla, T et al., (2003) J. Mol. Biol., 329, 381-388.)、mRNA ディスプレイ法で多様性が6.7 × 1012 で1種類あたりのコピー数は 1 であった(Wilson, D.S. et al, Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 98, 3750-3755.)。
上記の結果から、本発明者らが新規に開発した ARMS システムは、変異型 MS2 コートタンパク質(mMSp)タンデムダイマーと Cv モチーフとの相互作用に依存して機能していることが証明された。
【0098】
〔実施例2〕EphA2 受容体タンパク質を標的とした新規ペプチドの選択
引き続いて、EphA2 受容体タンパク質(リガンド結合部位)を標的とした、人工ペプチドリガンドを創製するための実験を行った。その結果について以下に述べる。
(1)今回の試験管内における選択と増幅の繰り返しは5回で、その後に回収された DNA をクローニングしてシークエンス解析した。20クローンを選択して調べた結果、そのうち19クローンは全く同じ配列であり、残り1個だけがそれとは異なる配列でお互いに相同性は低かった。
(2)ここで前者のマジョリティの配列を K-EA2-09 (図10および配列番号:28、29)、後者のマイノリティの配列を K-EA2-19 (図10および配列番号:30、31)と命名した。この後者のマイノリティの配列(K-EA2-19)は、すでにファージディスプレイ法を用いて単離されている EphA2 受容体タンパク質に対する2種類の人工ペプチドリガンドと高い相同性を持つモチーフを含んでいることがわかった(Koolpe, M. et al, J. Biol. Chem., 277, 46974-46979.)。それに対して前者のマジョリティの配列(K-EA2-09)は他の3者と共有するモチーフを持たない、全く未知の人工ペプチドリガンドであった。
(3)試験管内で大腸菌抽出物由来の無細胞タンパク質合成系を用いてこれらのペプチドを変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質として調整し、その EphA2 受容体タンパク質との相互作用を比較すると、K-EA2-09 を持つ変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質は、K-EA2-19 を持つ変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質よりも2倍程度高い結合能を持っていることがわかった。変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーだけではこの結合は見られなかった(図9)。
(4)今回使用した EphA2 受容体タンパク質は EphA2 のリガンド結合部位の他に、ヒト由来の抗体の Fc フラグメントを持ったキメラタンパク質である。(3)で述べた融合タンパク質は、同様のキメラ型の構造を持つ ErbB2 受容体タンパク質には結合しなかったことから、K-EA2-09 および K-EA2-19 は EphA2 のリガンド結合部位を認識していることがわかった(図9)。
(5)実際に K-EA2-09 の配列を含むペプチドを化学合成し、水晶振動子によるマイクロバランスを用いた分子間相互作用定量装置でその合成した K-EA2-09 と EphA2 受容体タンパク質との相互作用における解離定数(Kd)を見積もったところ、その値はファージディスプレイ法で同定されたペプチドリガンドの2つのうち、より EphA2 に親和性の高かったものの解離定数(186 nM)よりも若干ではあるが優れていることがわかった(131 nM)(図8)。
【0099】
〔実施例3〕レジスチンを標的とした新規ペプチドの選択
比較的大きな受容体タンパク質(実際にはそのリガンド結合部位と 抗体の Fc フラグメントとのキメラタンパク質で分子量は 105 kDa)について ARMS システムが期待通り機能することがわかったので、次にもっと小さいペプチドホルモンであるレジスチン(9.9 kDa)について同様の実験を行った。その結果を以下に述べる。
(1)今回の試験管内における選択と増幅の繰り返しは7回で、その後に回収された DNA をクローニングしてシークエンス解析した。22クローンを選択して調べた結果、5種類の候補配列を得、それぞれについて K-RES-10(22クローンのうち6個がこの配列)、K-RES-11(22クローンのうち4個がこの配列)、K-RES-14(22クローンのうち3個がこの配列)、K-RES-24(22クローンのうち3個がこの配列)、K-RES-32(22クローンのうち2個がこの配列)と命名した。
(2) 試験管内で大腸菌抽出物由来の無細胞タンパク質合成系を用いてこれらのペプチドを変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質として調整し、そのレジスチンとの相互作用を比較すると、K-RES-10 (配列番号:32、33)の配列を持つ変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質が、他に比べて非常に高いレジスチン親和性を持っていることがわかった。
(3)K-RES-11(配列番号:34、35)、K-RES-14(配列番号:36、37)それぞれについては、弱い結合が見られたが、K-RES-24、K-RES-32 については、各タンパク質非添加条件でのレジスチンおよび BSA の ELISA のバックグラウンドから考慮して、有意な結合能は検出できなかった。変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーだけではこの結合は見られなかった。このことから、K-RES-10、K-RES-11、K-RES-14 をレジスチン結合ペプチドとした(図10)。
【0100】
〔実施例4〕PEACE ライブラリーを用いた新規ペプチドの選択
次に ARMS システムと組み合わせた PEACE ライブラリー(NNY コドン利用)を用意して、EphB2 および EphB4 受容体タンパク質(リガンド結合部位)を標的とした、人工ペプチドリガンドを創製するための実験を行った。その結果について以下に述べる。
(1)用意した PEACE ライブラリーは同時に用意したNNK ライブラリーの多様性(2.8 x 108)に比べて有意に高い値となった(1.0 x 109)。その他の PEACE ライブラリーとNNK ライブラリーの比較については表2にまとめた。
【表2】
(2)EphB2 についての試験管内における選択と増幅の繰り返しは5回で、その後に回収された DNA をクローニングしてシークエンス解析した。28クローンを選択して調べた結果、2種類の候補配列を得、それぞれについて Y-EB2-01(28クローンのうち13個がこの配列)、Y-EB2-02(28クローンのうち4個がこの配列)と命名した(図11)。これらのペプチドは極めてよく似たアミノ酸配列を有していた。
(3)EphB2 について得られたペプチドである Y-EB2-01(配列番号:38、39)、Y-EB2-02(配列番号:40、41)について、試験管内で大腸菌抽出物由来の無細胞タンパク質合成系を用いてこれらのペプチドを変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質として調整して、その EphB2 受容体タンパク質との相互作用を比較した。Y-EB2-01 を持つ変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質と、後者の Y-EB2-02 を持つ変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質は、EphB2 に対して同程度の親和性を示した。変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーだけではこの結合は見られなかった。
(4)今回使用した EphB2 受容体タンパク質は EphB2 のリガンド結合部位の他に、ヒト由来の抗体の Fc フラグメントを持ったキメラタンパク質である。(2)で述べた融合タンパク質は、同様のキメラ型の構造を持つ EphA2 受容体タンパク質には結合しなかったことから、Y-EB2-01 および Y-EB2-02 は EphB2 のリガンド結合部位を認識していることがわかった。またこの結果は、Y-EB2-01F’ および Y-EB2-02F’ が、同様のファミリータンパク質である EphB2 と EphA2 を識別できる分子認識能を有していることを示していた。
(5)EphB4 についての試験管内における選択と増幅の繰り返しは5回で、その後に回収された DNA をクローニングしてシークエンス解析した。22クローンを選択して調べた結果、3種類の候補配列を得、それぞれについて Y-EB4-01 (22クローンのうち6個がこの配列),Y-EB4-02(22クローンのうち2個がこの配列),Y-EB4-03(22クローンのうち1個がこの配列)と命名した(図12)。これらのペプチドは極めてよく似たアミノ酸配列を有していた。
(6)EphB4 について得られたペプチドである Y-EB4-01 (配列番号:42、43)、Y-EB4-02(配列番号:44、45)、Y-EB4-03 (配列番号:46、47)は互いに極めてよく似ていた。試験管内で大腸菌抽出物由来の無細胞タンパク質合成系を用いてこれらのペプチドを変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質として調整して、その EphB4 受容体タンパク質との相互作用を比較した。結果として、これらのペプチド配列を持つ変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質は、EphB4 に対して同程度の親和性を示した。変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーだけではこの結合は見られなかった。
(7)今回使用した EphB2 受容体タンパク質は EphB2 のリガンド結合部位の他に、ヒト由来の抗体の Fc フラグメントを持ったキメラタンパク質である。(4)で述べた融合タンパク質は、同様のキメラ型の構造を持つ EphA2 および ErbB2 受容体タンパク質には結合しなかったことから、Y-EB4-01、Y-EB4-02、Y-EB4-03 は EphB4 のリガンド結合部位を認識していることがわかった。またこの結果は、Y-EB4-01,Y-EB4-02,Y-EB4-03 が、同様のファミリータンパク質である EphB4 と EphA2 を識別できる分子認識能を有していることを示していた。
(8)実際に Y-EB4-03 を化学合成し、水晶振動子によるマイクロバランスを用いた分子間相互作用定量装置で、その合成した Y-EB4-03と EphB4 受容体タンパク質との相互作用における解離定数(Kd)を見積もったところ、その値は 27 nM であった。
【0101】
本発明者らは変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーと Cv モチーフとの相互作用を利用して、ランダム配列からなる DNA ライブラリーから調整されるペプチドライブラリーと組み合わせて試験管内で機能性ペプチドを創製するシステム(ARMS システム)を新規に構築することに成功した。そして本発明者らは ARMS システムを用いて、細胞表面に存在する受容体タンパク質や天然のペプチドホルモンに対し、特異的に結合する新規のペプチドリガンドを人為的に創製できることを示した。
【0102】
最初に本発明者らが開発した試験管内ペプチド選択システムを用いて選択した人工ペプチドはアビジンの誘導体である NeutrAvidin を認識するペプチド(K-NAV-08 と K-NAV-17)で、その結合の解離定数は 16 nM であった。最も有名なストレプトアビジン結合ペプチドはファージディスプレイ法で同定された後に点変異導入による総当りスクリーニングによって得られた Strept-tag で(Weber, P.C. et al, (1992) Biochemistry, 31, 9350-9354.; Schmidt, T.G.M. et al, (1996) J. Mol. Biol., 255, 753-766.)、その解離定数は 36800 nM である。この配列は組み替えタンパク質の精製などの応用面ですでに実用化されている。またリボソームディスプレイ法で得られた新規のストレプトアビジン結合ペプチドは解離定数が 3.6 nM と最も優れた親和性を示しているが(Lamla, T et al., (2003) J. Mol. Biol., 329, 381-388.)、この選択は本発明者らの系よりも高い多様性の DNA ライブラリー(2.0 × 1013)から得られたもので、本発明者らのシステムにおける多様性がそれより遥かに低いにもかかわらず(1.4 × 108)同程度の解離定数のペプチドが得られたことは、本発明者らのシステムがいかに効率的なものかを明確に示している。なお今回の本発明者らの実験では選択を行った際に非特異的なペプチドの結合を避けるためにウェスタンブロットで用いるスキムミルクを用いたのだが、通常スキムミルクは高濃度のビオチンもしくはビオチン化タンパク質を含有する。そのため、今回の選択は結果として、おそらく NeutrAvidin とビオチンが結合した複合体に対して行われたと考えられる。このことは、今回本発明者らが得た NeutrAvidin を認識するペプチドはビオチンおよびビオチン化タンパク質が高濃度で存在する細胞内や生体内においても十分機能すると予想される。
【0103】
次に行った悪性腫瘍細胞表面に過剰発現する受容体タンパク質である EphA2 のリガンド結合部位に対する選択の結果について考察する(Ogawa, K. et al, (2000) Oncogene, 19, 6043-6052.; Kinch, et al, (2003) Clin. Cancer Res., 9, 613-618.; Hess, A.R. et al,, (2001) Cancer Res., 61, 3250-3255.; Zelinski, D.P. et al, (2001) Cancer Res., 61, 2301-2306.; Carles-Kinch, K. et al, (2002) Cancer Res., 62, 2840-2847.)。今回得られた EphA2 を認識するペプチドリガンドは2種類あり(K-EA2-09 と K-EA2-19)、そのうちひとつ(K-EA2-19)はすでにファージディスプレイ法で得られたものと極めて高い相同性を持つモチーフを含んでいた。既報の EphA2 を認識するペプチドリガンドは悪性腫瘍細胞表面の EphA2 に対して正に作用し、その細胞内ドメインのリン酸化を促進して腫瘍細胞の転移能を活性化することが知られている(Koolpe, M. et al, (2002) J. Biol. Chem., 277, 46974-46979.)。そのため今回得られた EphA2 を認識するペプチドリガンドのうち、既報の配列に相同性を持つもの(K-EA2-19)については同様の活性が見込まれる。仮に培養細胞レベルで K-EA2-09 が EphA2 に対して分子生物学的な作用を持たなかったとしても、EphA2 が悪性腫瘍細胞の分子マーカーの有力な候補の1つであることから(Ogawa, K. et al, (2000) Oncogene, 19, 6043-6052.; Kinch, et al, (2003) Clin. Cancer Res., 9, 613-618.; Hess, A.R. et al,, (2001) Cancer Res., 61, 3250-3255.; Zelinski, D.P. et al, (2001) Cancer Res., 61, 2301-2306.; Carles-Kinch, K. et al, (2002) Cancer Res., 62, 2840-2847.)
)、悪性腫瘍細胞の検出に応用することができるだろう。同様のことは抗 EphA2 抗体を用いればできることではあるが、K-EA2-09 があくまで短鎖のペプチドであり、その化学合成はもちろん遺伝子操作も容易であることを考慮すれば、抗体では行いにくい化学修飾や遺伝子工学的修飾が容易に行うことができるので、より高機能な、ドラッグデリバリーシステム(DDS)への応用が可能であり、産業的に有用であると考えられる。
【0104】
レジスチン結合ペプチドについては候補として5種類得られたが、そのうち結合が確認できたものは3種類(K-RES-10、K-RES-11、K-RES-14)であった。このうち特に K-RES-10 のレジスチンへの親和性が際立って大きいことがわかった。レジスチンは、もともとマウス培養細胞において、低下したインスリン感受性を改善する機能を持つチアゾリジン誘導体で発現抑制される遺伝子群の中から同定された、肥大化した脂肪細胞特異的に過剰分泌されるペプチドホルモンであり、糖尿病の原因となるペプチドホルモンである可能性が疑われている。これまでマウスの実験等から以下のことがわかっている(Banerjee, R.R et al., (2003) J. Mol. Med., 81, 218-226.)。
(1)114 アミノ酸で発現後、94 アミノ酸ポリペプチドとして分泌され、26番目の Cys で二量体化する。
(2)正常マウスにおいて、高栄養摂取によって過剰発現。飢餓状態で抑制される。
(3)抗レジスチン抗体の静脈注射( 10 μg / μL, 約 50 μM)によって、糖尿病モデルマウスのインスリン感受性が向上し、血中のグルコース濃度が低下する。
【0105】
これに結合するペプチドは、体内でレジスチンが細胞に取り込まれるのを防ぐのに利用できる可能性がある(上記(3)の使用例と同等の効果)。また血中や組織中のレジスチンを検出するための検出試薬としての応用も考えられる。
【0106】
さらに本発明者らは新規に開発した PEACE ライブラリーと ARMS システムを組み合わせて、より効率よく機能性ペプチドを創製することを可能とした。PEACE ライブラリーは分子認識を持つ生体物質の代表といえる抗体の抗原認識部位の一部を模したペプチドライブラリーであり、特定の物質を認識することにより適したアミノ酸が多く含まれる。EphB2 および EphB4 リガンド結合部位に結合するペプチドを創製する際に、NNKライブラリーを用いた方法でも行ったが特定の配列に収束することができなかったことから、NNKライブラリーを用いた方法では ARMS システムをもってしてもできなかったことが、PEACE ライブラリーを用いることで可能となる事例が存在することが証明された。PEACE ライブラリーは本質的に出現するアミノ酸がNNKライブラリーより少ない。従って、NNKライブラリーとPEACE ライブラリーは補完しあうものであると考える。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】バクテリオファージ MS2 のコートタンパク質とその RNA ゲノム上の結合部位の配列に対する遺伝子工学的改良を示す図である。
【図2】ARMS システムの概念図を示す図である。
【図3】リボソームディスプレイ法(a)と ARMS システム(b)における鋳型 DNAの違いについての概念図を示す図である。
【図4】鋳型 DNA のライブラリークローニング部位(a)およびランダムDNA ライブラリー(NNK コドン利用)を導入した後の配列(b)を示す図である。
【図5】PCR産物に対してアガロースゲル電気泳動で解析した結果を示す写真である。Vはライブラリーを挿入していないプラスミドpUCv-mM2Dを鋳型DNAとしてPCRを行ったもの、Lはライブラリーを挿入したあとのDNA構築物を鋳型DNAとして同様のPCRを行ったものを示す。
【図6】RT-PCRによるライブラリー部位増幅の結果を示す写真(ポリアクリルアミド電気泳動写真)である。NeutrAvidinに対するスクリーニングをした時の結果である。MはDNAサイズマーカー。Round(ラウンド)は図2の一連の作業のことで、その数字は一連の作業を何回繰り返したかを意味する。PCRのサイクル数をすべてのラウンドで統一しているので、各ラウンドでのバンドの濃さの違いは、各ラウンドでの図2の7.のステップで回収されたRT-PCR産物の相対的な量の違いを意味する。従って、ラウンドが進むにつれて、回収されるRNAが増加していることを意味しており、標的分子に結合するペプチドが絞り込まれている様子がわかる。
【図7】NeutrAvidin に対して ARMS システムで選択されたペプチド配列を持つ mMSp タンデムダイマーを同位体標識し、その NeutrAvidin アガロースへの結合能を比較した結果を示す図および写真である。C-08-mM2はK-NAV-08 と mMSp タンデムダイマーの融合タンパク質を、C-03-mM2はNeutrAvidin に結合しない配列である K-NAV-08 と mMSp タンデムダイマーの融合タンパク質を、X-01-mM2はCv モチーフを持たないシステム(リボソームディスプレイ法と類似の方法)で得られた配列(K-NAV-X01)と mMSp タンデムダイマーとの融合タンパク質を、HPQ-mM2は既知のビオチン類似ペプチド(HPQ)とmMSp タンデムダイマーの融合タンパク質を、mM2はmMSp タンデムダイマーを意味する。(a)NeutrAvidin アガロースおよびグルタチオンセファロースからの放射活性をイメージアナライザーで検出した結果を示す写真である。(b)得られたイメージを定量解析し、各ペプチドについて相対比較した結果を示す図である。
【図8】ARMS システム(NNK コドン利用)によって得られた EphA2 結合ペプチドのアミノ酸配列(K-EA-09およびK-EA2-19)とファージディスプレイ法で得られた既知の EphA2結合ペプチド(YSA およびSWL)、および天然の EphA2 のリガンドである ephrin A1のEphA2 結合部位のアミノ酸配列を示す図である。
【図9】EphA2 に対して ARMS システムで選択されたペプチド配列を持つ mMSp タンデムダイマーを同位体標識し、その レセプター固定化セファロースに対する結合能を定量的に比較した結果を示す図および写真である。C-09-mM2 EHA2はK-EA2-09 と mMSp タンデムダイマーの融合タンパク質を、C-19-mM2 EHA2はK-EA2-19 と mMSp タンデムダイマーとの融合タンパク質を、C-17-mM2 NAVはNeutrAvidin に結合する配列である K-NAV-17 と mMSp タンデムダイマーの融合タンパク質を、mM2はmMSp タンデムダイマーを意味する。(a)EphA2 および ErbB2 固定化セファロースからの放射活性をイメージアナライザーで検出した結果を示す写真である。(b)得られたイメージを定量解析し、各ペプチドについて相対比較した結果を示す図である。
【図10】レジスチンに対して ARMS システムで選択されたペプチド配列を N 末端に、FLAG タグを C 末端に持つ mMSp タンデムダイマーを用いて、レジスチンを固定化した場合と BSAを固定化した場合のそれぞれに対し、ELISAで結合能を評価した結果を示す図および写真である。(a) 各タンパク質を試験管内翻訳して調整したものの western blotting の結果を示す写真である。(b)実際の ELISA の結果を取り込んだイメージを示す写真である。(c)ELISA で得られたイメージを定量解析し、比較した結果を示す図である(2回の ELISA の平均)。
【図11】ARMS システムと PEACE ライブラリーのコンビネーションで選択された EphB2 受容体タンパク質結合ペプチドのキャラクタリゼーションを示す図および写真である。(a)選択された EphB2 結合ペプチド配列(Y-EB2-01、および Y-EB2-02)とそれらの配列を有する融合タンパク質 (Y-EB2-nF’, n = 1, 2)の配列を示す図である。(b)Y-EB2-nF’ の構造を示す図である。(c)〜(e)Y-EB2-nF’ の EphB2 receptor に対する結合活性とその特異性の評価を示す図および写真である。(c)Western blotによるY-EB2-nF’の発現確認を示す写真である。(d)吸収スペクトルによる結合活性評価を示す図である。(e)化学発光による結合特異性評価を示す写真である。
【図12】ARMS システムと PEACE ライブラリーのコンビネーションで選択された EphB4 受容体タンパク質結合ペプチドのキャラクタリゼーションを示す図および社損である。(a)選択された EphB4 結合ペプチド配列(Y-EB4-01、Y-EB4-02および Y-EB4-03)とそれらの配列を有する融合タンパク質 (Y-EB4-nF, n = 01, 02, 03) の配列を示す図である。(b)Y-EB4-nF の構造を示す図である。(c)〜(e)Y-EB4-nF の EphB4 receptor に対する結合活性とその特異性の評価を示す図および写真である。(c)Western blotによるY-EB4-nFの発現確認を示す写真である。(d)吸収スペクトルによる結合活性評価を示す図である。(e)吸収スペクトルと化学発光(枠内)による結合特異性評価を示す図および写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランダムペプチドライブラリーもしくは抗体超可変領域を模倣したペプチドライブラリーと、RNA結合タンパク質を用いる試験管内ペプチド選択法を組み合わせた、新規の機能性ペプチド創製システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ランダムな DNA 配列からなる化学合成した DNA ライブラリーからペプチドライブラリーを構築し、その中から標的の分子を認識して強く結合するものを単離するテクノロジーは、ペプチドを基とする分子認識材料を人為的に作り出す方法論として極めて有用である。
【0003】
標的の分子を認識するタンパク質やペプチドを得る場合、一般の分子生物学者が選択できる方法論は現在でもなお、ファージディスプレイ法(非特許文献1)か抗体作製かの二者択一である。抗体作製を選んだ場合には、均一な分子として分子認識能を持ったタンパク質を得るためにはモノクローナル抗体を作製することになる。これはある程度専門の技術と装置が必要になるので一般の分子生物学者が自作するというレベルを超えてしまうため、最近では専門の業者に外注することほうが一般的である。自分で作製するという場合には、必要なツール一式がキット化(例えば New England Biolabs 社の Ph.D. システムや MoBiTec 社の pSKAN,Novagen 社のT7 Select など)されて販売されているファージディスプレイ法を用いるのが一般的である。
【0004】
ファージディスプレイ法は大腸菌に感染するバクテリオファージの生活環をたくみに利用したものであり、そのバクテリオファージの諸性質に強く依存している。そのためその生活環に負の影響を与える要因がある場合、その負の要因がそのまま選択システムの致命的欠陥に繋がるのである。そうした負の要因が発生する状況が明確であり、そうした状況では使えないと割り切ってあきらめた場合にのみ、ファージディスプレイ法は本来の機能を十分に発揮することになる。
【0005】
具体的にファージディスプレイ法の問題点をまとめると次の2点になる。その1点目は、このシステムがバクテリオファージの宿主である大腸菌という生物に依存したシステムであるという点である。ファージディスプレイ法では大腸菌の細胞内で DNA ライブラリー由来のペプチド(もしくはタンパク質)が発現することが必須であるため、大腸菌に有害なペプチド(もしくはタンパク質)はこの段階で除かれてしまう。またファージディスプレイ法の長所である、試験管内でのペプチド選択と選択されたペプチドを提示するバクテリオファージの増幅の繰り返しにおいても、バクテリオファージの大腸菌への再感染に悪影響を与えるようなペプチド(もしくはタンパク質)は、どんなに標的物質に対する結合能が高くてもその大腸菌への再感染の段階で失われてしまう。このような"標的物質との結合の強さ"とは無関係な、"大腸菌の生育およびバクテリオファージの感染能に影響しない"というまったく別次元の選択圧が常にかかっているということは、ファージディスプレイ法を行うにあたって常に頭に入れておかなければならない問題である。これはバクテリオファージの生活環に根ざすものであり、本質的に回避することのできない負の要因である。
【0006】
問題点の2点目は、選択後に標的物質に結合したバクテリオファージを回収する際にバクテリオファージの粒子が壊れないような条件でなければならないということである。一般のファージディスプレイ法ではバクテリオファージ M13 を使用する。このシステムではグリシンバッファー(0.1 M, pH2.2)の条件で回収するか、可溶性の標的物質存在下でマイルドな条件で回収することになる。これは逆に言えば、そのような条件の場合には標的物質から解離しやすいという選択圧をかけているとも考えられ、そのような条件下においても解離しないほど結合能が高いペプチドを提示したバクテリオファージは、この段階で選択からこぼれてしまうことを意味している。結果として"上記条件下で標的物質と解離しやすい"という、"標的物質との結合の強さ"とはまた別の選択圧が発生してしまうのである。この問題については非常に安定なバクテリオファージ T7 を用いることで、かなり厳しい条件下での回収(4 M 尿素、2 M グアニジン塩酸、1 % SDS、5 M NaCl、10 mM EDTA、あるいは pH4 - 10 の水溶液)を行うことにより大幅な改善が期待できるとされているが、本質的な問題解決にまでは至っていない。
【0007】
こうした問題点を解決するために、近年になって試験管内で大腸菌抽出物やウサギ赤血球溶解液由来の無細胞タンパク質合成系を使用して行うシステムが報告されている。そのなかでも特に有名なものはリボソームディスプレイ法(非特許文献2〜6)や mRNA ディスプレイ法(非特許文献7〜8)である。またこれらのシステムでは、利用できる DNA ライブラリーの多様性に対する上限を高くすることができる。ファージディスプレイ法では最初に DNA ライブラリーをコードするプラスミドを宿主である大腸菌に形質転換するステップがあるため、その形質転換効率が扱える DNA ライブラリーの多様性の上限に直結してしまう(理想的には1010 程度は出せるようであるが、現実的な値としては 108 から 109 程度が一般的である)。リボソームディスプレイ法ではリボソームの無細胞タンパク質合成系に存在する分子数がその上限となるが、試験管内での翻訳時のスケールを上げることで 1013 程度は簡単に稼ぐことができるし(非特許文献9)、理論的にリボソームの無細胞タンパク質合成系に存在する分子数に依存しない mRNA ディスプレイ法ではさらに高い多様性を持たせることが理論上可能である(実際にはそれ以外の要因で利用できる DNA ライブラリーの多様性に対する上限が決まってくるので、結局リボソームディスプレイ法と同程度で行われている)(非特許文献10〜12)。
【0008】
これらのポストファージディスプレイ法を掲げるシステム(リボソームディスプレイ法および mRNA ディスプレイ法)は非常に優れたシステムで十分な数の成功例があるが、ファージディスプレイ法のように広く普及していない。それはこれらのシステムが特殊な材料や技能、取り扱いのノウハウを必要とするからである。
【0009】
まず最も問題があると思えたのは mRNA ディスプレイ法である。この方法は抗生物質であるピューロマイシンの分子生物学的視点から見た特徴を最大限に生かした技術で、具体的には mRNA と 3’ 末端をピューロマイシン化した DNA との共有結合でできた特殊な修飾 mRNA の調整が必須である。特にこの有機合成的な手法による修飾 mRNA の調整が、システムの普遍性の面から見た場合に大きな障害となっている。このほかにも初期のシステムでは一本鎖の mRNA がむき出しのままその翻訳産物とピューロマイシンと共有結合していたため、無細胞タンパク質合成系に混在するリボヌクレアーゼによる mRNA の分解に弱い点や、翻訳産物ではなく RNA アプタマーが選択されてしまうなどの問題があった。これらは後にリボヌクレアーゼが比較的低いウサギ網状赤血球溶解液由来の無細胞タンパク質合成系を使用したり、選択前に逆転写を行って mRNA-翻訳産物複合体を DNA/RNA 二本鎖ハイブリッド-翻訳産物に変換することでほぼ解決されたようであるが、最初に述べた有機合成的な手法による修飾 mRNA の調整については、システムの根幹ということもあり、世界中のどのラボでも自由に利用できる(これはファージディスプレイ法の優れた長所の1つである)という視点から見ると、ほとんど致命的ともいえる欠点である。
【0010】
これに対して、本質的には終止コドンを持たない mRNA を調整すればいいだけのリボソームディスプレイ法は、多くの研究者(特に有機合成に疎い生化学者,分子生物学者,医薬学者)にとって圧倒的に簡単であり、高い普遍性を有しているように見える。少なくとも mRNA ディスプレイ法に比較して敷居が低いことは確実である。開発したスイスの Plu¨ckthun らのグループの論文を読んで本発明者らなりにまとめると(非特許文献13)、リボソームディスプレイ法を行うにあたって気をつける点は、
(1)マグネシウムイオン存在下で 4℃を常に維持すること。
(2)mRNA の 5’ 末端側と 3’ 末端側の双方にステム&ループ構造を導入して無細胞タンパク質合成系由来のエキソヌクレアーゼによる分解に対処すること。
(3)使用する無細胞タンパク質合成系は大腸菌抽出物(S30)が適しているのでそれを使うこと。
という3点である。発表当初、このシステムは1回の選択における mRNA の回収量が低く、最初の報告では 0.015 % であり(非特許文献4)、まだまだ改善の余地があると思われた。主な原因については複数あって明確ではないが、恐らくはリボソームディスプレイ法の開発者たちが主張するほど mRNA-リボソーム-翻訳産物の複合体が安定ではないのではないかと推測されている。
【0011】
そこで本発明者らは、この複合体を独自の方法で安定化させることにより、より簡便で普遍性や再現性の高いシステムを構築することにし、結果的に成功を収めた。
【0012】
本発明者らが着目したのは、バクテリオファージ MS2 のコートタンパク質(MSp)とその RNA ゲノム上のある特定の配列との相互作用である(非特許文献14〜23)。このMS2 コートタンパク質は2量体を形成して、ある特定の RNA 配列を認識して結合する。この結合は宿主である大腸菌の細胞内部でバクテリオファージ MS2 が増殖する際に重要な働きをすることがわかっていることから、試験管内タンパク質選択における mRNA の翻訳を行うステップで大腸菌抽出物由来の無細胞タンパク質合成系を用いる際にも、十分な結合能を発揮できると期待される。
【0013】
MS2 コートタンパク質は結合相手のゲノム RNA との複合体の形で結晶構造解析(非特許文献14、15、19、20)が行われており、ホモの2量体でありながら、それぞれのコートタンパク質が結合相手の RNA を認識して結合する様式は異なっていることが明らかとなっていた。その一方で、このタンパク質はあくまでバクテリオファージ MS2 のファージ粒子を構成するキャプシドタンパク質であることから、2量体単位で自己会合して多量体を形成することもわかっていた。この自己会合性を残したままでは、遺伝情報(mRNA)と機能(翻訳産物であるタンパク質)の1:多数もしくは多数:1のリンクが生じてしまうため、なんとかしてこれを避ける方法が必要であったが、幸いなことにすでにそうしたMS2 コートタンパク質の自己会合を著しく低下させるアミノ酸の変異導入が報告されていた(非特許文献16)。さらに MS2 コートタンパク質の結合相手である特異的 RNA モチーフに対して核酸塩基の変異導入を行った報告例があり、天然の配列のうち1塩基置換を行ったものが MS2 コートタンパク質に対してより高い親和性を持っていることが明らかとされていた(非特許文献16)。この変異型の MS2 コートタンパク質と1塩基置換された特異的 RNA モチーフとの相互作用に対する解離定数(Kd)は、4℃の中性条件下で 2.3 pM と見積もられている(非特許文献16)(図1)。
【0014】
本発明者らはこのキャプシド構造をとらない MS2 コートタンパク質を変異型 MS2 コートタンパク質(mMSp)と呼び、また天然型より高い親和性を示す RNA モチーフを Cv モチーフと呼ぶこととし、また2分子の変異型 MS2 コートタンパク質(mMSp)をグリシンとセリンの繰り返しからなるフレキシブルなペプチドリンカーで繋いで融合タンパク質(変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマー)とした発現するような遺伝子を構築した(非特許文献24)。
【0015】
本発明者らまず最初に、ヘキサヒスチジンタグ(6His Tag)と市販の nickel-nitrilotriacetic acid agarose resin (Ni-NTA アガロース)との相互作用を指標として、そのヘキサヒスチジンタグ(6His Tag)をコードする mRNA とヘキサヒスチジンタグ(6His Tag)コードしない mRNA の混合物から、ヘキサヒスチジンタグ(6His Tag)をコードする mRNA だけを選択する実験系を構築し、その選択の効率および mRNA の回収率に対する変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーと Cv モチーフとの相互作用の寄与を評価することから始めることとした。その結果、少なくとも本発明者らが見つけた条件下で変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーと Cv モチーフとの相互作用は機能し、その mRNA-リボソーム-翻訳産物の複合体はポリソーム化していて、室温で容易に扱うことができるほど安定なものであることがわかった(非特許文献24、25)。
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【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAライブラリーと、RNA結合タンパク質を用いる試験管内ペプチド選択法を組み合わせた、新規の機能性ペプチド創製システム、および該システムによって得られた新規ペプチドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、新規開発した変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーと Cv モチーフとの相互作用に基づく新規ペプチド選択システムを、化学合成で用意した完全にランダムな DNA ライブラリーから機能性のペプチドを選択するシステムへ発展させることに成功した。この人工機能性ペプチド創製システムを、ARMS システムと名づけた。ここでARMS とは、Advanced style of Ribosome-display Magnified by a Specific protein-RNA interaction の略称である(図2)。
【0018】
最初に用いたランダム配列からなる DNA ライブラリーは、NNK コドンで 16 残基のアミノ酸からなるように配列設計した。ここで N はアデニン(A),グアニン(G),シトシン(C),チミン(T)のいずれかであることを意味しており、K はグアニン(G)もしくはチミン(T)のいずれかであることを意味している。アミノ酸のコドンが NNK の場合、天然の 20 種類のアミノ酸全てを利用できるが、特定の確率(理論上約 3.1 %)で終止コドンが出現することが避けられないという欠点を併せ持っている。このランダム化の方法(NNK コドン)は従来から広く用いられている方法の一つである。
【0019】
本発明者らはARMS システムと従来型のNNK コドンによるペプチドライブラリーを用いて、化学修飾したアビジンである NeutrAvidin,悪性腫瘍細胞表面に過剰発現する受容体タンパク質 EphA2 のリガンド結合部位,II型糖尿病の原因の一つと言われるペプチドホルモンであるレジスチンを特異的に認識して結合する、新規のペプチドを創製することに成功した。
【0020】
また本発明者らは、新規の改良型 DNA ライブラリーとして、NNK コドンの代わりに NNY コドンを利用する方法を試すこととした。ここで Y はシトシン(C)またはチミン(T)を意味している。この NNY コドンを用いた場合、発現するアミノ酸は 15 種類に限定されてしまうが、本発明者らが独自に文献を精査した結果、ここで発現しないアミノ酸は、実は抗体重鎖において抗原認識の直接的役割を持つ超可変領域のひとつである CDR-H3 において(Barrios, Y. et al, J. Mol. Recognit. 17, 332-338.)、利用頻度が極端に低いアミノ酸であることがわかった(Johnson, G et al, (2000) Nucleic Acids Res. 28, 214-218.)。そのためこの NNY コドンからなる DNA ライブラリーを使用したとしても、タンパク質の結合能の多様性に大きく影響せず、むしろ抗体と類似の高い標的分子結合能を持つ可能性があがるのではないかと期待された。NNY コドンからなる DNA ライブラリーを使用することにより、終止コドンの出現確率を完全に 0% にすることができ、DNA ライブラリーの多様性を向上させることに成功した。
【0021】
ランダムなペプチドライブラリーを調整する方法としてNNYコドンを用いる方法論は米国において特許出願されているが、その内容はあくまで免疫グロブリン(抗体)の一部をランダム化させる方法論としてのもので、先述したCDR-H3におけるアミノ酸出現頻度の模倣という概念はなく、また本件のように試験管内ペプチド選択法と組み合わせる用途についても言及されていない(米国特許出願番号:20030232972)。
【0022】
本発明は、以下の〔1〕〜〔34〕を提供するものである。
〔1〕下記(i)から(iv)のDNAを含み、かつ、下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物。
(i)RNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNA
(ii)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNA
(iii)該RNA結合タンパク質をコードするDNA
(iv)リンカータンパク質をコードするDNA
〔2〕(iii)のDNAが複数個並置されている、〔1〕に記載のDNA構築物。
〔3〕RNA結合タンパク質が、MS2コートタンパク質であり、該RNA結合タンパク質が結合するRNAが、MS2コートタンパク質が結合するRNAである、〔1〕に記載のDNA構築物。
〔4〕リンカータンパク質が、g3タンパク質(g3p)またはDHFRタンパク質のアミノ酸配列を有するリンカータンパク質である、〔1〕に記載のDNA構築物。
〔5〕(ii)のDNAが、配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列を有するDNAである、〔1〕に記載のDNA構築物。
〔6〕下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物。
(i)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA
(ii)配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA
(iii)配列番号:5に記載の塩基配列からなるDNAがリンカーを介して2個並置されているDNA
(iv)配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNA
〔7〕下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物。
(i)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA
(ii)配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA
(iii)配列番号:6に記載の塩基配列からなるDNA
(iv)配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNA
〔8〕配列番号:8から10のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA構築物。
〔9〕下記(i)から(iii)のDNAを含むDNA構築物であって、下記(i)から(iii)のDNAが、クローニング部位に挿入される任意のペプチドをコードするDNA、RNA結合タンパク質をコードするDNA、およびリンカータンパク質をコードするDNAの融合された転写産物および翻訳産物が発現するように結合されているDNA構築物。
(i)制限酵素SfiIで認識されるクローニング部位を有するDNA
(ii)RNA結合タンパク質をコードするDNA
(iii)リンカータンパク質をコードするDNA
〔10〕さらに、RNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNAが含まれている、〔9〕に記載のDNA構築物。
〔11〕(ii)のDNAが複数個並置されている、〔9〕または〔10〕に記載のDNA構築物。
〔12〕RNA結合タンパク質が、MS2コートタンパク質である、〔9〕または〔10〕に記載のDNA構築物。
〔13〕配列番号:11に記載の塩基配列からなるDNA構築物。
〔14〕〔1〕から〔8〕のいずれかに記載のDNA構築物の転写産物。
〔15〕下記(i)から(iv)のRNAを含み、かつ、下記(ii)から(iv)のRNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されており、該融合された翻訳産物が、下記(i)のRNAに結合するように構築されているRNA構築物であって、終止コドンを有さないRNA構築物。
(i)RNA結合タンパク質が結合するRNA
(ii)任意のペプチドをコードし、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するRNA
(iii)該RNA結合タンパク質をコードするRNA
(iv)リンカータンパク質をコードするRNA
〔16〕(iii)のRNAが複数個並置されている、〔15〕に記載のRNA構築物。
〔17〕RNA結合タンパク質が、MS2コートタンパク質であり、該RNA結合タンパク質が結合するRNAが、MS2コートタンパク質が結合するRNAである、〔15〕に記載のRNA構築物。
〔18〕〔1〕に記載のDNA構築物を転写させる工程、および転写産物を翻訳させる工程を含む、転写産物と翻訳産物を含む複合体を製造する方法。
〔19〕無細胞系で行われる、〔18〕に記載の方法。
〔20〕〔14〕に記載の転写産物または〔15〕に記載のRNA構築物を翻訳させる工程を含む、該RNA構築物と翻訳産物を含む複合体を製造する方法。
〔21〕無細胞系で行われる、〔20〕に記載の方法。
〔22〕〔18〕から〔21〕のいずれかに記載の方法により製造される複合体。
〔23〕特定の標的物質に結合するペプチドまたは該ペプチドをコードするmRNAをスクリーニングする方法であって、下記(a)から(g)の工程を含む方法。
(a)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAを製造する工程
(b)〔9〕または〔10〕に記載のDNA構築物のクローニング部位に、工程(a)で製造されたDNAを挿入する工程
(c)工程(b)で得られるDNA構築物を利用して、〔1〕に記載のDNA構築物を製造する工程
(d)〔1〕に記載のDNA構築物を転写させる工程
(e)得られた転写産物を翻訳させることにより、転写産物と翻訳産物を含む複合体を形成させる工程
(f)該標的物質と、工程(e)で形成された複合体とを接触させる工程
(g)該標的物質に結合した複合体を回収する工程
〔24〕無細胞系で行われる、〔23〕に記載の方法。
〔25〕特定の標的物質に結合するペプチドをコードするDNAをスクリーニングする方法であって、下記(a)から(j)の工程を含む方法。
(a)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAを製造する工程
(b)〔9〕または〔10〕に記載のDNA構築物のクローニング部位に、工程(a)で製造されたDNAを挿入する工程
(c)工程(b)で得られるDNA構築物を利用して、〔1〕に記載のDNA構築物を製造する工程
(d)〔1〕に記載のDNA構築物を転写させる工程
(e)得られた転写産物を翻訳させることにより、転写産物と翻訳産物を含む複合体を形成させる工程
(f)該標的物質と、工程(e)で形成された複合体とを接触させる工程
(g)該標的物質に結合した複合体を回収する工程
(h)回収された複合体より、RNA構築物を回収する工程
(i)該RNA構築物に含まれる、標的物質に結合するペプチドをコードするRNAの逆転写を行う工程
(j)増幅されたDNAを回収する工程
〔26〕特定の標的物質に結合するペプチドをコードするDNAをスクリーニングする方法であって、下記(a)から(d)の工程を含む方法。
(a)〔9〕または〔10〕に記載のDNA構築物のクローニング部位に、〔25〕に記載の工程(j)で回収されたDNAを挿入する工程
(b)工程(a)で得られるDNA構築物を利用して、〔1〕(ii)のDNAが〔25〕に記載の工程(j)で回収されたDNAであるDNA構築物を製造する工程
(c)工程(b)で製造されるDNA構築物を転写させる工程
(d)〔25〕に記載の工程(e)から(j)を実施する工程
〔27〕無細胞系で行われる、〔25〕または〔26〕に記載の方法。
〔28〕〔23〕から〔27〕のいずれかに記載のスクリーニング方法に用いるためのキット。
〔29〕〔25〕から〔27〕のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得られたDNAによりコードされるペプチドと標的物質との結合実験に用いるためのキット。
〔30〕下記(a)または(b)に記載のDNA。
(a)配列番号:24から47の偶数番号に記載のアミノ酸配列を有するペプチドをコードするDNA。
(b)配列番号:24から47の奇数番号に記載の塩基配列を有するDNA。
〔31〕〔30〕に記載のDNAからコードされるペプチド。
〔32〕〔30〕に記載のDNAを有するベクター。
〔33〕〔30〕に記載のDNAまたは〔32〕に記載のベクターを有する細胞。
〔34〕配列番号:28、30、38、40、42、44、または46に記載のアミノ酸配列を有するペプチドを含有する抗癌剤。
〔35〕配列番号:32、34、または36に記載のアミノ酸配列を有するペプチドを含有する糖尿病治療剤。
【発明の効果】
【0023】
本発明の産業上の利用法としてまず始めに考えられるのは、細胞(例えば癌細胞など)特異的な受容体に高い親和性を持つ人工ペプチドリガンドを創製し、抗癌剤などの薬剤と結合させて、上述の受容体を持つ標的細胞に特異的なドラッグデリバリー薬剤として利用する方法である。そうした人工ペプチドの製薬としての実用化には患者の免疫反応による副作用が問題となるだろうが、本発明者らのシステムで扱うペプチドは20 アミノ酸以下の長さであるため、患者由来のタンパク質(免疫グロブリンのFcドメインやアルブミンなど)との融合タンパク質としたり、PEG 修飾したりといった改良が容易であり、十分解決可能と考える(例、EphA2,EphB2,EphB4各種受容体タンパク質結合ペプチド)。
【0024】
試験管内選択の際に、天然のリガンドを用いて競争阻害によってRNAを回収する方法をとることにより、本発明で得られる人工ペプチド自身がアンタゴニストとして機能することも期待できる。
【0025】
また標的分子がリガンド様の病原物質そのものである場合、その病原物質とその受容体との相互作用を妨げることで、治療薬としての活用も期待できる(例、レジスチン結合ペプチド)。
【0026】
その他にも食品検査や診断などで用いられている、ELISAやウェスタンブロット、免疫染色、バイオセンサーなどの、モノクローナル抗体が担っている部分について、同様の効果が期待できる。本発明では本発明者らが扱う長さのアミノ酸は化学合成可能なことから、製品の量産にも対応可能であり、実用的な検出素子と言うことができる。図10〜12の結果は、抗FLAGのHRPコンジュゲート抗体を用いたELISAアッセイであり、すぐにでも実用可能であることを明確に示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、下記(i)から(iv)のDNAを含み、かつ、下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物(本明細書においては、DNA構築物Aと称することもある)を提供する。
(i)RNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNA
(ii)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNA
(iii)該RNA結合タンパク質をコードするDNA
(iv)リンカータンパク質をコードするDNA
【0028】
本発明において、「任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNA」とは、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAライブラリーを意味する。ここで、 N はアデニン(A),グアニン(G),シトシン(C),チミン(T)のいずれかであることを意味しており、K はグアニン(G)もしくはチミン(T)のいずれか、Sはシトシン(C)もしくはグアニン(G)のいずれか、Y はシトシン(C)またはチミン(T)のいずれかを意味している。また、本発明の「ペプチド」には、ポリペプチドも含まれる。
【0029】
本発明において、「DNAが、融合された転写産物を発現するように結合している」とは、プロモーター領域に転写因子が結合することにより、融合された転写産物の発現が誘導されるように、プロモーター領域とDNAとが結合していることをいう。よって、融合された転写産物が発現する限り、プロモーター領域とDNAを繋ぐリンカー、および各DNA間を繋ぐリンカーの長さや配列に特に制限はない。
【0030】
また、「DNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合している」とは、リボソーム結合部位にリボソームが結合することにより、融合された翻訳産物の発現が誘導されるように、リボソーム結合部位とDNAとが結合していることをいう。よって、融合された翻訳産物が発現する限り、各DNA間を繋ぐリンカーの長さや配列に限定はない。
【0031】
本発明におけるプロモーターとしては、T7プロモーターおよびSP6プロモーターが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
本発明のDNAライブラリーは、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有していれば、その長さは特に限定されない。また、本発明のDNAライブラリーとしては、[システインをコードするDNA]−[NNKもしくはNNS配列、またはNNY] a−[システインをコードするDNA]、または、[NNKもしくはNNS配列、またはNNY]b−[システインをコードするDNA]−[NNKもしくはNNS配列、またはNNY] a−[システインをコードするDNA] −[NNKもしくはNNS配列、またはNNY]c(aは1〜20、bは1〜4、cは1〜4が例示できるが、これらに限定されるものではない)等の構造を有するライブラリーが例示できるが、これらに限定されるものではない。このような構造を有するDNAライブラリーとしては、配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列を有するDNAが例示できる。
【0033】
本発明のDNA構築物Aにおいては、RNA結合タンパク質をコードするDNAが複数個並置されていることが好ましい。本発明のDNA構築物Aにおいて、RNA結合タンパク質と該RNA結合タンパク質が結合するRNAとしては、MS2コートタンパク質(Min, J.W. et al, (1972) Nature 237, 82-88)とMS2コートタンパク質が結合するRNAモチーフ(Steitz J.A. (1969) Nature 224, 957-964)を用いることができる。
【0034】
本発明においては、2量体単位の自己会合が抑制された変異型MS2コートタンパク質、およびMS2コートタンパク質との結合親和性が高い変異型RNAモチーフ(Cvモチーフ)を用いることが好ましい。
【0035】
本発明のリンカータンパク質は、その種類に限定はないが、例えば、g3タンパク質(Hanes, J. et al, (2000a) Methods Enzymol. 328, 404-430., Beck E, Zink B. (1981) Gene. Dec;16(1-3):35-58.)またはDHFRタンパク質(Smith DR, Calvo JM. (1980) Nucleic Acids Res. May 24; 8(10): 2255-2274.)のアミノ酸配列を有するリンカータンパク質が例示できる。
【0036】
本発明のDNA構築物Aとしては、下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物が例示できるが、これに限定されるものではない。
(i)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA
(ii)配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA
(iii)配列番号:5に記載の塩基配列からなるDNAがリンカーを介して2個並置されているDNA
(iv)配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNA
【0037】
また、本発明のDNA構築物Aとしては、例えば、下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物が挙げられるが、これに制限されない。
(i)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA
(ii)配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA
(iii)配列番号:6に記載の塩基配列からなるDNA
(iv)配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNA
【0038】
さらに、本発明のDNA構築物Aとしては、配列番号:8から10のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA構築物が例示できるが、これらに限定されない。
【0039】
本発明は、上記DNA構築物Aの転写産物(RNA構築物)もまた提供する。このようなRNA構築物としては、例えば下記(i)から(iv)のRNAを含み、かつ、下記(ii)から(iv)のRNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されており、該融合された翻訳産物が、下記(i)のRNAに結合するように構築されているRNA構築物であって、終止コドンを有さないRNA構築物が挙げられる。
(i)RNA結合タンパク質が結合するRNA
(ii)任意のペプチドをコードし、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するRNA
(iii)該RNA結合タンパク質をコードするRNA
(iv)リンカータンパク質をコードするRNA
【0040】
「任意のペプチドをコードし、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するRNA」において、 N はアデニン(A),グアニン(G),シトシン(C),ウラシル(U)のいずれかであることを意味しており、K はグアニン(G)もしくはウラシル(U)のいずれか、Sはシトシン(C)もしくはグアニン(G)のいずれか、Y はシトシン(C)またはウラシル(U)のいずれかを意味している。
【0041】
本発明は、また、上記DNA構築物Aを調製するために用いる、下記(i)から(iii)のDNAを含むDNA構築物であって、下記(i)から(iii)のDNAが、クローニング部位に挿入される任意のペプチドをコードするDNA、RNA結合タンパク質をコードするDNA、およびリンカータンパク質をコードするDNAの融合された転写産物および翻訳産物が発現するように結合されているDNA構築物(本明細書においては、DNA構築物Bと称することもある)を提供する。
(i)制限酵素SfiIで認識されるクローニング部位を有するDNA
(ii)RNA結合タンパク質をコードするDNA
(iii)リンカータンパク質をコードするDNA
【0042】
該DNA構築物Bは、RNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNAを含むように構築することもできる。
【0043】
該DNA構築物Bにおけるクローニング部位は、「任意のペプチドをコードするDNAが挿入されない場合には、そのクローニング部位以降の翻訳産物が生じないように終止コドンが含まれており、また任意のペプチドをコードするDNAが挿入されている場合にはその終止コドンが不活化され、全長の翻訳産物が産生される」という性質を有している限り、その配列に制限はない。このようなクローニング部位としては、図4(a)に記載のクローニング部位(配列番号:48および49)が例示できる。
【0044】
該DNA構築物Bとしては、配列番号:11に記載の塩基配列からなるDNA構築物が例示できるが、これに限定されるものではない。
【0045】
本発明は、また、上記DNA構築物Aを転写させる工程、および転写産物を翻訳させる工程を含む、転写産物と翻訳産物を含む複合体を製造する方法を提供する。この製造方法においては、上記DNA構築物Aを適当な転写・翻訳系に添加または導入することにより、転写産物および翻訳産物を発現させることを特徴とする。本発明は、上記RNA構築物を翻訳させる工程を含む、該RNA構築物と翻訳産物を含む複合体を製造する方法もまた提供する。この製造方法においては、上記RNA構築物を適当な翻訳系に添加または導入することにより、翻訳産物を発現させることを特徴とする。
【0046】
本発明の方法で製造される転写産物と翻訳産物は、翻訳産物に含まれるRNA結合タンパク質と転写産物に含まれるRNA結合タンパク質の結合部位との相互作用により、安定的な複合体を形成する。
【0047】
本方法で用いる転写系や翻訳系としては、無細胞転写系、無細胞翻訳系又は生細胞などが挙げられる。無細胞転写系、無細胞翻訳系又は生細胞などは、本発明のDNA構築物AやRNA構築物を添加し又は導入することによって、該DNA構築物Aからの転写産物および翻訳産物の発現(RNA構築物を用いる場合には、翻訳産物の発現)を保証するものである限り制限されない。本方法では、好ましくは無細胞の転写系や翻訳系、特に好ましくは、細胞抽出物から構成される転写系や翻訳系を使用することができる。
【0048】
無細胞転写・翻訳系としては、原核又は真核生物の抽出物により構成される無細胞転写・翻訳系、例えば大腸菌、ウサギ網状赤血球、小麦胚芽抽出物などが使用できる。また、生細胞翻訳系としては、原核又は真核生物、例えば大腸菌の細胞などが使用できる。
【0049】
本方法により得られる、転写産物と翻訳産物を含む複合体も本発明の範囲内である。このような複合体は安定に存在することができ、後述するように特定の標的物質と相互作用するペプチドやそれをコードするmRNA若しくはDNAのスクリーニングなどに供することができる。
【0050】
本発明は、特定の標的物質に結合するペプチドまたは該ペプチドをコードするmRNAをスクリーニングする方法を提供する。該方法は、下記(a)から(g)の工程を含む。
(a)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAを製造する工程
(b)上記DNA構築物Bのクローニング部位に、工程(a)で製造されたDNAを挿入する工程
(c)工程(b)で得られるDNA構築物を利用して、上記DNA構築物Aを製造する工程
(d)上記DNA構築物Aを転写させる工程
(e)得られた転写産物を翻訳させることにより、転写産物と翻訳産物を含む複合体を形成させる工程
(f)該標的物質と、工程(e)で形成された複合体とを接触させる工程
(g)該標的物質に結合した複合体を回収する工程
【0051】
本発明は、また、特定の標的物質に結合するペプチドをコードするDNAをスクリーニングする方法であって、下記(a)から(j)の工程を含む方法を提供する。
(a)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAを製造する工程
(b)上記DNA構築物Bのクローニング部位に、工程(a)で製造されたDNAを挿入する工程
(c)工程(b)で得られるDNA構築物を利用して、上記DNA構築物Aを製造する工程
(d)上記DNA構築物Aを転写させる工程
(e)得られた転写産物を翻訳させることにより、転写産物と翻訳産物を含む複合体を形成させる工程
(f)該標的物質と、工程(e)で形成された複合体とを接触させる工程
(g)該標的物質に結合した複合体を回収する工程
(h)回収された複合体より、RNA構築物を回収する工程
(i)該RNA構築物に含まれる、標的物質に結合するペプチドをコードするRNAの逆転を行う工程
(j)増幅されたDNAを回収する工程
【0052】
本発明のスクリーニング方法では、例えば、化学合成したNNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有する一本鎖DNAを鋳型とし、適当なプライマーを用いてPCRを行うことで二本鎖DNAにすると同時に増幅することで、NNKコドンもしくはNNSコドン、またはNNYコドンをベースとしたDNAライブラリーを製造する。次いで、制限酵素SfiI、DNAリガーゼを利用して、該DNAライブラリーを上記DNA構築物Bのクローニング部位に挿入する。次いで、得られるDNA構築物を鋳型とし、適当なプライマーを用いてPCRを行い、上記DNA構築物Aを製造する。RNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNAを有さないDNA構築物Bを用いる場合は、このPCRの過程で、転写に必要なプロモーター領域およびそれに続くRNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNAを含むプライマーを用いてPCRをすることで、RNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNAを導入することができる。
【0053】
本発明の方法では、次いで、上記DNA構築物Aを転写および翻訳させ、転写産物と翻訳産物を含む複合体を形成させる。本発明において、上記DNA構築物Aの転写・翻訳系は、上記の通りである。また、標的物質は特に限定はないが、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチド等の単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、原核細胞抽出物、真核単細胞抽出物もしくは動物細胞抽出物、動植物培養細胞、動植物組織断片、単細胞微生物、ゲノムDNA、合成一本鎖DNA、合成二本鎖DNA、各種生物由来のRNA、合成一本鎖RNA、合成二本鎖RNA、糖鎖等を挙げることができる。
【0054】
本発明において「接触」は、例えば、本発明の核酸構築物を転写・翻訳後(RNA構築物を用いる場合には、翻訳後)、アガロース等の固相担体に結合した標的物質の懸濁液を添加することにより行うことができる。添加後、一定期間保持することにより標的物質と目的遺伝子の産物とを結合させる。未結合の複合体を含む上清を、混合液から除去し、適当な緩衝液で固相担体を洗浄する。
【0055】
本発明においては、例えば低マグネシウムイオン濃度下の緩衝溶液を、標的物質に結合した複合体の懸濁液に加えることで、RNA構築物を回収することができる。標的物質や選択の条件によって適宜適切な物質の添加や条件の変更を行う。次いで、回収されたRNA構築物を鋳型として、逆転写酵素、標的物質に結合するペプチドをコードするRNA部位を増幅可能なプライマーを用い、逆転写を行う。次いで、適当なプライマーを用いて、得られた逆転写産物についてnested PCRを行う。次いで、得られた増幅産物を制限酵素SfiIで処理し、増幅されたPCR産物を、例えばポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)で精製する。以上が、1回目のラウンドである。
【0056】
本発明の方法では、次いで、制限酵素SfiI、DNAリガーゼを利用して、精製されたPCR産物を上記DNA構築物Bのクローニング部位に挿入する(工程1)。次いで、得られるDNA構築物を利用して、本発明のDNAのスクリーニング方法における工程(j)で回収されたDNAを有するDNA構築物Aを製造する(工程2)。次いで、製造されるDNA構築物を転写させる(工程3)。次いで、本発明のDNAのスクリーニング方法における工程(e)から(j)を実施し、再度、標的物質に結合するペプチドをコードするDNAを回収する(工程4)。以上が、2回目のラウンドである。
本発明において、3回目以降のn回目(nは3以上の整数)ラウンドでは、n-1回目のラウンドで回収されたDNAを用いて、2回目のラウンドの工程1から4と同様の作業を実施する。
各ラウンドにおいて、電気泳動によるPCRの増幅の様子を基に、ラウンドを何回目で終了するかを判断することができる。この基準でラウンドを終了すると判断した場合、その最終ラウンド時に回収されたDNA(上記工程(j)における一回目のPCR産物)を、例えば市販のTAクローニングキットでサブクローニングし、それぞれについて配列を決定することができる。
【0057】
NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAライブラリーを用いたスクリーニング方法は、それぞれ単独で実施することもできるが、これらを組み合わせて実施することで、より多様な目的物を得ることができる。
【0058】
また、本発明は、本発明のスクリーニングに用いるためのキットを提供する。本発明のDNA構築物を用いたスクリーニングのためのキットには、例えば、(1)上記DNA構築物Aの転写産物、(2)試験管内選択の際の洗浄用緩衝液および溶出用緩衝液、(3)本発明のスクリーニング方法に用いるための各種プライマー対(例えば配列番号:16〜21)、(4)上記DNA構築物BのSfiI消化済みのものの少なくとも1つが含まれる。
【0059】
本発明においては、スクリーニングによって得られたペプチドが、標的物質に結合するか否かの確証実験を行うこともできる(図10〜12)。本発明は、このような確証実験に用いるためのキットを提供する。該キットには、本発明の確証実験に用いるためのプラスミド(例えば配列番号:22または23)、プライマー対(例えば配列番号:16および17)の少なくとも1つが含まれる。
【0060】
本発明は、下記(a)または(b)に記載のDNA、および該DNAからコードされるペプチドを提供する。
(a)配列番号:24から47の偶数番号に記載のアミノ酸配列を有するペプチドをコードするDNA。
(b)配列番号:24から47の奇数番号に記載の塩基配列を有するDNA。
【0061】
このようなDNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖をそれぞれ定法の化学合成で一本鎖DNAとして作製し、該一本鎖DNAをアニーリングして二本鎖DNAにすることで製造できる。また、ペプチドについても化学合成可能である。
【0062】
本発明のペプチドのうち、配列番号:24および26に記載のアミノ酸配列からなるペプチドはNeutrAvidinに、配列番号:28および30に記載のアミノ酸配列からなるペプチドはEphA2 受容体タンパク質に、配列番号:38および40に記載のアミノ酸配列からなるペプチドはEphB2 受容体タンパク質に、配列番号:42、44および46に記載のアミノ酸配列からなるペプチドはEphA4 受容体タンパク質に、配列番号:32、34および36に記載のアミノ酸配列からなるペプチドはレジスチンに結合する。
【0063】
NeutrAvidinに結合する本発明のペプチドは、NeutrAvidin が市販のものであることから、その市販品を用いたあらゆる用途に使うことができる。本発明のペプチドはウエスタンブロッティングでブロッキング剤として使用されるスキムミルク存在下でも極めて強くNeutrAvidinと結合することから、細胞抽出物など高タンパク質濃度下および各種生体物質共存下でも機能すると考えられるので、主としてタンパク質精製や免疫沈降の際に有効である。
【0064】
EphA2 受容体タンパク質、EphB2 受容体タンパク質、またはEphB4 受容体タンパク質に結合する本発明のペプチドは、これら受容体タンパク質が転移性の高い悪性腫瘍細胞表面に特異的に過剰発現していることから、癌細胞に特異的なドラッグデリバリー薬剤に応用できる。腫瘍細胞が悪性か否かを診断する際にも利用することができる。こうした診断はモノクローナル抗体を用いたバイオセンサーやELISA、ウェスタンブロット、免疫染色等で行われているので、こうした用途におけるモノクローナル抗体と同様の用途に使用することが可能である。
【0065】
また、EphA2受容体タンパク質に結合するモノクローナル抗体を用いることで、悪性腫瘍細胞の転移につながる形態変化や増殖が抑制され、正常細胞へはなんら影響がないことが知られている(Carles-Kinch, K. et al, (2002) Cancer Res., 62, 2840-2847.)。よって、Eph 受容体タンパク質に結合する本発明のペプチドは、抗癌剤になりうる。
【0066】
レジスチンに関しても同様であるが、特にレジスチンは遊離のペプチドホルモンであることから、それに結合するペプチドを生体に投与することによって、レジスチンの機能を妨げることが期待できる。また、抗レジスチンポリクローナル抗体(IgG)を、インスリン抵抗性で肥満かつ高血糖症のマウス(II型糖尿病のモデル動物)に投与すると、血中のグルコース濃度が一時的に低下することが報告されている。このときレジスチンと相互作用しない抗体ではそのような傾向は見られず、レジスチンに結合する抗体によって症状が緩和されたことが示されている。またこの抗レジスチンポリクローナル抗体を投与したマウスでは、グルコースの血糖値に対するインスリン感受性が見られ、この効果はレジスチンと相互作用しない抗体に対して相対的に高いものだと報告されている。このことは、レジスチンに結合するペプチドによって、II型糖尿病の病態を改善できる可能性が高いことを示唆している(Steppan, C.M. et al, (2001) Nature, 409, 307-312.)。そのため、レジスチンに結合するペプチドは直接糖尿病の治療薬となり得る。
【0067】
さらに、配列番号:24から47の偶数番号に記載のアミノ酸配列からなるペプチドには、標的タンパク質に結合しうる限り、他のペプチド、糖鎖等の生理的な修飾、蛍光や放射性物質のような標識等といった修飾を加えることができる。本発明は、このような配列番号:24から47の偶数番号に記載のアミノ酸配列を有するペプチドもまた提供するものである。たとえば、本発明のペプチドには、FLAGタグ、HAタグ、あるいはヒスチジンタグなどの付加的なアミノ酸配列が付加されてもよい。また、本発明のペプチドをドラックデリバリーに利用する場合、抗癌剤、サイトトキシン(細胞障害性物質)などが付加されてもよい。
【0068】
本発明は、上記DNAを有するベクター、および、上記DNAまたは該ベクターを有する細胞もまた提供する。
【0069】
ベクターとしては、挿入したDNAを安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましいが、市販の種々のベクターを利用することができる。本発明のペプチドを生産する目的においてベクターを用いる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内でペプチドを発現するベクターであれば特に制限されないが、例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、生物個体であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol. 8:466-472(1988))などが好ましい。ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
【0070】
上記宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。ペプチドを発現させるための細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、真菌細胞(例:酵母、アスペルギルス)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowes メラノーマ細胞)および植物細胞を例示することができる。宿主細胞へのベクター導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクタミン法(GIBCO-BRL社製)、マイクロインジェクション法などの公知の方法で行うことが可能である。
【0071】
得られた本発明のペプチドは、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一なペプチドとして精製することができる。ペプチドの分離、精製は、通常のペプチドの精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせればペプチドを分離、精製することができる。
【0072】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0073】
また、本発明のペプチドは、実質的に精製されたペプチドであることが好ましい。ここで「実質的に精製された」とは、本発明のペプチドの精製度(ペプチド成分全体における本発明のペプチドの割合)が、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、100%若しくは100%に近いことを意味する。100%に近い上限は当業者の精製技術や分析技術に依存するが、例えば、99.999%、99.99%、99.9%、99%などである。
【0074】
本発明は、配列番号:28、30、38、40、42、44、または46に記載のアミノ酸配列を有するペプチドを含有する抗癌剤、配列番号:32、34、または36に記載のアミノ酸配列を有するペプチドを含有する糖尿病治療剤を提供する。
【0075】
これら抗癌剤、および糖尿病治療剤におけるペプチドは、その状態に特に制限はなく、効果を保持できる限り、実質的に精製されたペプチドでも、クルードな状態のペプチドでも使用することができる。
【0076】
また、上記抗癌剤、および糖尿病治療剤は、ヒトやヒト以外の動物(例えば実験動物、畜産動物、愛玩動物等)の予防又は治療薬として利用することができる。
【0077】
上記抗癌剤、および糖尿病治療剤におけるペプチドは、例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤(EDTA等)、結合剤等などと適宜組み合わせて製剤化して投与することが考えられる。
【0078】
本発明の薬剤の形態(剤形)としては、注射剤形、凍結乾燥剤形、溶液剤形などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0079】
患者への投与は経口、非経口投与のいずれでも可能であるが、好ましくは非経口投与であり、例えば、注射投与が可能である。注射投与の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
【0080】
投与量は、患者の体重や年齢、投与方法、症状などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。一般的な投与量は、薬剤の有効血中濃度や代謝時間により異なるが、1日の維持量として約0.1mg/kg〜約1.0g/kg、好ましくは約0.1mg/kg〜約10mg/kg、より好ましくは約0.1mg/kg〜約1.0mg/kgであると考えられる。投与は1回から数回に分けて行うことができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
(材料および方法)
本発明では複数のタンパク質をコードする遺伝子(cDNA)を用いた。それらの由来およびそれらを用いて構築した各種プラスミドについて説明する。まず要となる変異型 MS2 コートタンパク質の遺伝子については、米国の Invitrogen 社が発売している酵母 Saccharomyces cerevisiae L40 ura MS2 の熱溶解物から PCR で増幅してクローニングした。
【0082】
Cv モチーフの鋳型となる DNA については化学合成して調達したが、その際に合成した DNA には、Cv モチーフの両端に適切な制限酵素サイトを導入した。これにより、変異型 MS2 コートタンパク質(mMSp)遺伝子の上流にクローニングした。変異型 MS2 コートタンパク質の遺伝子はその直後にリンカータンパク質遺伝子が続いており、すぐ終止コドンになっているわけではない。これはリボソームディスプレイ法において、翻訳産物のうち提示された scFv が正しいホールディングをするためには、提示された scFv とリボソームの間に 100 残基酸程度のリンカータンパク質が必要だという報告に従った結果である(Hanes, J. et al, (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 94, 4937-4942.; Schaffitzel, C. et al, J. Immunol. Methods, 231, 119-135.)。本発明者らはその遺伝子の長さおよびタンパク質の丈夫さを考慮してそのリンカータンパク質に大腸菌ジヒドロ葉酸レダクターゼ(Dihydrofolate reductase; DHFR)を使用した(Sawata, S.Y et al, (2003) Protein Eng., 16, 1115-1124.)(図3)。
【0083】
ランダムな配列からなる DNA ライブラリーを作製するにあたり、その母体となるプラスミドの収量を十分に確保するため、大腸菌内でのコピー数が多く収量が高い Invitrogen 社の pCR2.1 ベクターに Cv モチーフ、および変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマー-リンカータンパク質融合遺伝子を乗せた。Cv モチーフと変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマー遺伝子の間に、制限酵素 Sfi I によるクローニング部位を2箇所導入し、その2ヶ所を合成 DNA で作製した短いリンカー DNA でつないだ(図4(a))。このリンカーはフレームシフトを起こすように読み枠が設定してあり、そのまま翻訳されると直後の Sfi I 制限サイトで終止コドンが出現する。リンカー DNA 同様に末端に制限酵素 Sfi I制限サイトを持つように化学合成したランダムな配列からなる DNA ライブラリーをこのリンカー DNA の代わりに導入した場合、リンカー DNA が導入されていたときとは違う読み枠になるようフレームシフトが起きるように配列を設計しておくことで、試験管内での大腸菌抽出物由来の無細胞タンパク質合成系を用いた翻訳時にランダムな配列からなる DNA ライブラリーを持たない mRNA から翻訳されてできるタンパク質が意味の無い短いオリゴアミノ酸(13 残基)としてリボソームから解離するようにした。これによって、実験の効率上どうしても混入してしまう、ランダムな配列からなる DNA ライブラリーを持たない mRNA から翻訳されてできるタンパク質の影響を避けると同時に、そうした負の要因となる翻訳産物にリボソームがトラップされるのを避けることができる。ライブラリーのクローニング部位を含む必要な遺伝子一式を持つプラスミドを pUCv-mM2D と命名した(配列番号:11)。またシステム中で試験管内転写の鋳型 DNA となる PCR 産物(図2)を dUCv-libV-mM2D(-)(配列番号:8または9)およびdUCv-libVI-mM2D(-)と命名した(配列番号:10)。なお、ライブラリーを持たない PCR 産物は dUCv-mM2D と命名した(配列番号:12)。
【0084】
一つ目のランダムな配列からなる DNA ライブラリーは NNK コドンで構築されており、ランダム化した配列が16 残基のアミノ酸からなるように設計した。ここで N はアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)のいずれかであることを意味しており、K はグアニン(G)もしくはチミン(T)のいずれかであることを意味している。この際、N 末端から 3 番目および 14番目のアミノ酸を NNK コドンではなくシステインをコードする TGT に固定した。これにより、翻訳された際のランダムな配列からなる DNA ライブラリー由来のペプチドが近接する2箇所のシステイン間でジスルフィド結合を形成し、ループ構造をとりやすくなるように配慮した(図4(b))。
【0085】
二つ目のランダムな配列からなる DNA ライブラリーは NNY コドンで構築されており、ランダム化した配列が 16 残基のアミノ酸からなるように設計した。ここで N はアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)のいずれかであることを意味しており、Y はシトシン(C)もしくはチミン(T)のいずれかであることを意味している。この際、NNK コドンの場合と同様に、N 末端から 3 番目および 14番目のアミノ酸を NNY コドンではなくシステインをコードする TGT に固定した。
【0086】
本発明者らはこの NNY コドンを元に作製するペプチドライブラリーを PEACE ライブラリーと命名した。PEACE とは Peptides consisting of Essential Amino acids appeared in CDR-H3 for Enhancement of antibody binding の略である。
【0087】
最初の試験管内ペプチド選択の標的分子である NeutrAvidin 固定化アガロース担体は、米国のPIERCE 社から購入して使用した。
【0088】
標的分子である EphA2 受容体タンパク質,EphB2 受容体タンパク質,および EphB4 受容体タンパク質はマウス由来のもので、実際には本来の受容体タンパク質の全長ではなく、N 末端に存在するリガンド結合ドメインのみがヒト抗体由来の Fc フラグメントと融合したキメラタンパク質であり、米国の R & D systems 社から購入したものである。そのC 末端にはヘキサヒスチジンタグが導入されており、このキメラタンパク質を米国の Clontech 社から購入したコバルト錯体固定化アガロース担体である TALON 上に固定化して使用した。
【0089】
もう1種類の標的分子であるレジスチンはヒト由来のもので、米国の BioVendor Laboratory Medicine 社から購入したものである。そのN 末端にはヘキサヒスチジンタグが導入されており、このタンパク質を米国の Clontech 社から購入したコバルト錯体固定化アガロース担体である TALON 上に固定化して使用した。
【0090】
本実施例では、図2に記載の一連の作業を行った。より具体的には、化学合成した一本鎖DNA(配列番号:13(名称:libV)または配列番号:15(名称:libVI))を鋳型とし、プライマーfP-libIV-1(配列番号:16)およびプライマーrP-libIV-1(配列番号:17)でPCRを行うことで二本鎖DNAにすると同時に増幅し、エタノール沈殿で濃縮精製後、制限酵素SfiIで処理し、その後ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)で精製した。配列番号:13を用いた場合にはNNKコドンを、配列番号:14を用いた場合にはNNSコドンを、配列番号:15を用いた場合にはNNYコドンをベースとしたライブラリーとなる。
【0091】
次いで、後述のプラスミドpUCv-mM2D(配列番号:11)をSfiIで処理したあとアガロースゲル電気泳動で精製した。その後、適切な反応条件下で、T4DNAリガーゼを用いて、DNAライブラリーとプラスミドpUCv-mM2Dをライゲーションした。次いで、DNAライブラリーが挿入されたプラスミドを、精製することなく鋳型として、プライマーfP-T7-Cv-rec-1(配列番号:18)およびプライマーrP-stop(-)-3(配列番号:19)を用いてPCRを行った。その後、シリカメンブレンを用いた市販のRNA専用のスピンカラムで、PCR産物を精製した(図5)。
【0092】
次いで、PCR産物を転写し、精製した後に翻訳させた。次いでこの翻訳産物を含む溶液を、担体に結合した標的物質(NeutrAvidin、EphA2、EphB2、EphB4、レジスチン)を含む適当な緩衝溶液に添加した。
【0093】
NeutrAvidinを標的とした場合には、標的物質が担体と共有結合していることから、グアニジン塩酸塩の入ったタンパク質変性用緩衝液を加えて70℃で適切な時間加熱して標的物質から溶出を完全なものとした。また標的物質がEphA2、EphB4、レジスチンの場合は、これらがヒスチジンタグを持っていて、それを介して金属キレート担体上に固定化されていたことから、イミダゾールを低マグネシウム濃度緩衝液に適当量添加し、4℃で30分ほど攪拌して回収した。溶出したmRNAはシリカメンブレンを用いた市販のRNA専用のスピンカラムで精製した。
【0094】
次いで、回収されたmRNAを鋳型として、プライマーrP-entero-1(配列番号:21)を用い、標的物質に結合するペプチドをコードするRNA部位を市販の逆転写酵素を用いて逆転写した。次いで、得られた逆転写産物についてnested PCRを行った。一回目のPCRでは、プライマーfP-rec-1(配列番号:20)およびプライマーrP-entero-1(配列番号:21)を用いた。PCR産物をエタノール沈殿で濃縮したのち、これを鋳型として二回目のPCRを行った。この時のPCRでは、プライマーfP-libIV-1(配列番号:16)およびプライマーrP-libIV-1(配列番号:17)を用いた。エタノール沈殿で濃縮精製後、制限酵素SfiIで処理し、その後ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)で精製した。次いで、T4DNAリガーゼを用いて、増幅したDNAとプラスミドpUCv-mM2Dをライゲーションした。本実施例では、上記の各工程を繰り返した(図6)。各繰り返しにおいて、電気泳動によるPCRの増幅の様子を基に、繰り返しを何回目で終了するかを判断した。最終繰り返し時の一回目のPCR産物を市販のTAクローニングキットでサブクローニングし、それぞれについて配列を決定した。
【0095】
また、本実施例においては、増幅されたDNAからコードされるペプチドが、標的物質に結合するか否かの確証実験を行った。得られた各候補DNAを持つサブクローンプラスミドに対し、プライマーfP-library IV-1(配列番号:16)およびプライマーrP-library IV-1(配列番号:17)を用いてPCRを行い、SfiIで消化した。このDNA構築物は、プラスミドpUXmM2His(+)(配列番号:22)やプラスミドpUXmM2FLAG(+)(配列番号:23)のSfiI部位に再クローニングした。プラスミドpUXmM2His(+)を用いた場合、T7プロモーター、SD配列および開始コドンを上流に、ヒスチジンタグと終止コドンを下流に持つように付加したDNA構築物となる。またプラスミドpUXmM2FLAG(+)を用いた場合はヒスチジンタグがFLAGタグになる。これらDNA構築物を用いると、試験管内で転写および翻訳を行って目的のペプチド配列を含むmMSpタンデムダイマーを調整することができる。この翻訳産物を直接用いてELISAを行うことができるので、これによって確証実験を行った。
〔実施例1〕NNKコドン由来ペプチドライブラリーとNeutrAvidin 固定化アガロース担体を用いた新規ペプチドの選択
【0096】
NNK コドンによるペプチドライブラリーを用いて、ARMS システムが十分に機能するか否かを確認するための実験を行った。なお、NNKコドンを使用した場合とNNSコドン(SはCまたはG)を使用した場合では、アミノ酸の出現頻度はまったく同じであるので、NNKコドンで調整されたペプチドライブラリーは、NNSコドンでも調整することが可能である。
【0097】
この実験では標的物質として、NeutrAvidin 固定化アガロース担体を用いることとした(NeutrAvidin は米国のPIERCE 社が開発したアビジン誘導体で、独自の処理によって天然型のアビジンが持つ修飾糖鎖を除去したものである)。行った実験は、変異型 MS2 コートタンパク質(mMSp)タンデムダイマーは持つが Cv モチーフを持たないものと、変異型 MS2 コートタンパク質(mMSp)タンデムダイマーと Cv モチーフとの両者を持つものそれぞれについて同様の試験管内ペプチド選択を行い、選択の効率およびその結果得られたペプチド配列について、その NeutrAvidin 結合能を比較するというもので、その結果をまとめると次のようになる。なおARMS システムはファージディスプレイ法やリボソームディスプレイ法などと同様に、試験管内における選択と増幅を繰り返すことができる。NeutrAvidin を標的とした実験では7回の選択と増幅を繰り返した後に、回収された DNA をクローニングしてシークエンス解析した。
(1)変異型 MS2 コートタンパク質(mMSp)タンデムダイマーと Cv モチーフとの両者を持つシステムにおいて、高い NeutrAvidin 結合能を示す2種類のペプチド配列が得られ、それらを K-NAV-08(配列番号:24、25)、K-NAV-17(配列番号:26、27) と命名した。
(2)試験管内で大腸菌抽出物由来の無細胞タンパク質合成系を用いてこれらのペプチドを変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質として調整し、その NeutrAvidin アガロースとの相互作用を比較すると、K-NAV-08 を持つ変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質は、K-NAV-17 を持つ変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質よりも高い結合能を持っていることがわかった。変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーだけではこの結合は見られなかった(図7)。
(3)上記(2)で述べた相互作用は、グルタチオンセファロースについては見られなかった。このことから、(1)の結合は担体である高分子多糖(アガロースもしくはセファロース)に対するものではなく、NeutrAvidin に対するものであることがわかった(図7)。
(4)K-NAV-17 について合成ペプチドを作製し解離定数(Kd)を測定したところ 16 nM となり、その配列はこれまでに報告されたものに比べ、ほぼ同程度の解離定数を示した(表1)。
【表1】
(5)得られた NeutrAvidin 結合能を持つペプチドモチーフは新規の配列であり、従来から言われていた、ビオチンと同様の結合様式でストレプトアビジンに結合するモチーフである HPQ モチーフ(His-Pro-Gln)を持たなかった。
(6)変異型 MS2 コートタンパク質(mMSp)タンデムダイマーは持つが Cv モチーフを持たないシステムを用いた同様の試験管内選択では、特定のペプチド配列をコードする DNA を得ることはできたものの、その選択されたペプチドの結合は極めて弱く、また NeutrAvidin が固定化されていないアガロース担体とも同様の弱い相互作用することから、試験管内のペプチド選択に失敗したと考えられる。
(7)今回調整したランダムな配列からなる DNA ライブラリー(NNK ライブラリー)の多様性は、本質的に含まずに正規の読み枠を持つものだけを見積もると、1.4 × 108 であり、1種類あたりのコピー数は8.6 × 104 であった。報告されて入れているストレプトアビジンに対する試験管内ペプチド選択実験におけるNNK ライブラリーは、ファージディスプレイ法で多様性が2.0 × 107 で1種類あたりのコピー数は5.0 × 104(Devlin, J.J. et al, (1990) Science, 249, 404-406.)、リボソームディスプレイ法で多様性が2.0 × 1013 で1種類あたりのコピー数は2.0 × 102(Lamla, T et al., (2003) J. Mol. Biol., 329, 381-388.)、mRNA ディスプレイ法で多様性が6.7 × 1012 で1種類あたりのコピー数は 1 であった(Wilson, D.S. et al, Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 98, 3750-3755.)。
上記の結果から、本発明者らが新規に開発した ARMS システムは、変異型 MS2 コートタンパク質(mMSp)タンデムダイマーと Cv モチーフとの相互作用に依存して機能していることが証明された。
【0098】
〔実施例2〕EphA2 受容体タンパク質を標的とした新規ペプチドの選択
引き続いて、EphA2 受容体タンパク質(リガンド結合部位)を標的とした、人工ペプチドリガンドを創製するための実験を行った。その結果について以下に述べる。
(1)今回の試験管内における選択と増幅の繰り返しは5回で、その後に回収された DNA をクローニングしてシークエンス解析した。20クローンを選択して調べた結果、そのうち19クローンは全く同じ配列であり、残り1個だけがそれとは異なる配列でお互いに相同性は低かった。
(2)ここで前者のマジョリティの配列を K-EA2-09 (図10および配列番号:28、29)、後者のマイノリティの配列を K-EA2-19 (図10および配列番号:30、31)と命名した。この後者のマイノリティの配列(K-EA2-19)は、すでにファージディスプレイ法を用いて単離されている EphA2 受容体タンパク質に対する2種類の人工ペプチドリガンドと高い相同性を持つモチーフを含んでいることがわかった(Koolpe, M. et al, J. Biol. Chem., 277, 46974-46979.)。それに対して前者のマジョリティの配列(K-EA2-09)は他の3者と共有するモチーフを持たない、全く未知の人工ペプチドリガンドであった。
(3)試験管内で大腸菌抽出物由来の無細胞タンパク質合成系を用いてこれらのペプチドを変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質として調整し、その EphA2 受容体タンパク質との相互作用を比較すると、K-EA2-09 を持つ変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質は、K-EA2-19 を持つ変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質よりも2倍程度高い結合能を持っていることがわかった。変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーだけではこの結合は見られなかった(図9)。
(4)今回使用した EphA2 受容体タンパク質は EphA2 のリガンド結合部位の他に、ヒト由来の抗体の Fc フラグメントを持ったキメラタンパク質である。(3)で述べた融合タンパク質は、同様のキメラ型の構造を持つ ErbB2 受容体タンパク質には結合しなかったことから、K-EA2-09 および K-EA2-19 は EphA2 のリガンド結合部位を認識していることがわかった(図9)。
(5)実際に K-EA2-09 の配列を含むペプチドを化学合成し、水晶振動子によるマイクロバランスを用いた分子間相互作用定量装置でその合成した K-EA2-09 と EphA2 受容体タンパク質との相互作用における解離定数(Kd)を見積もったところ、その値はファージディスプレイ法で同定されたペプチドリガンドの2つのうち、より EphA2 に親和性の高かったものの解離定数(186 nM)よりも若干ではあるが優れていることがわかった(131 nM)(図8)。
【0099】
〔実施例3〕レジスチンを標的とした新規ペプチドの選択
比較的大きな受容体タンパク質(実際にはそのリガンド結合部位と 抗体の Fc フラグメントとのキメラタンパク質で分子量は 105 kDa)について ARMS システムが期待通り機能することがわかったので、次にもっと小さいペプチドホルモンであるレジスチン(9.9 kDa)について同様の実験を行った。その結果を以下に述べる。
(1)今回の試験管内における選択と増幅の繰り返しは7回で、その後に回収された DNA をクローニングしてシークエンス解析した。22クローンを選択して調べた結果、5種類の候補配列を得、それぞれについて K-RES-10(22クローンのうち6個がこの配列)、K-RES-11(22クローンのうち4個がこの配列)、K-RES-14(22クローンのうち3個がこの配列)、K-RES-24(22クローンのうち3個がこの配列)、K-RES-32(22クローンのうち2個がこの配列)と命名した。
(2) 試験管内で大腸菌抽出物由来の無細胞タンパク質合成系を用いてこれらのペプチドを変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質として調整し、そのレジスチンとの相互作用を比較すると、K-RES-10 (配列番号:32、33)の配列を持つ変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質が、他に比べて非常に高いレジスチン親和性を持っていることがわかった。
(3)K-RES-11(配列番号:34、35)、K-RES-14(配列番号:36、37)それぞれについては、弱い結合が見られたが、K-RES-24、K-RES-32 については、各タンパク質非添加条件でのレジスチンおよび BSA の ELISA のバックグラウンドから考慮して、有意な結合能は検出できなかった。変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーだけではこの結合は見られなかった。このことから、K-RES-10、K-RES-11、K-RES-14 をレジスチン結合ペプチドとした(図10)。
【0100】
〔実施例4〕PEACE ライブラリーを用いた新規ペプチドの選択
次に ARMS システムと組み合わせた PEACE ライブラリー(NNY コドン利用)を用意して、EphB2 および EphB4 受容体タンパク質(リガンド結合部位)を標的とした、人工ペプチドリガンドを創製するための実験を行った。その結果について以下に述べる。
(1)用意した PEACE ライブラリーは同時に用意したNNK ライブラリーの多様性(2.8 x 108)に比べて有意に高い値となった(1.0 x 109)。その他の PEACE ライブラリーとNNK ライブラリーの比較については表2にまとめた。
【表2】
(2)EphB2 についての試験管内における選択と増幅の繰り返しは5回で、その後に回収された DNA をクローニングしてシークエンス解析した。28クローンを選択して調べた結果、2種類の候補配列を得、それぞれについて Y-EB2-01(28クローンのうち13個がこの配列)、Y-EB2-02(28クローンのうち4個がこの配列)と命名した(図11)。これらのペプチドは極めてよく似たアミノ酸配列を有していた。
(3)EphB2 について得られたペプチドである Y-EB2-01(配列番号:38、39)、Y-EB2-02(配列番号:40、41)について、試験管内で大腸菌抽出物由来の無細胞タンパク質合成系を用いてこれらのペプチドを変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質として調整して、その EphB2 受容体タンパク質との相互作用を比較した。Y-EB2-01 を持つ変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質と、後者の Y-EB2-02 を持つ変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質は、EphB2 に対して同程度の親和性を示した。変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーだけではこの結合は見られなかった。
(4)今回使用した EphB2 受容体タンパク質は EphB2 のリガンド結合部位の他に、ヒト由来の抗体の Fc フラグメントを持ったキメラタンパク質である。(2)で述べた融合タンパク質は、同様のキメラ型の構造を持つ EphA2 受容体タンパク質には結合しなかったことから、Y-EB2-01 および Y-EB2-02 は EphB2 のリガンド結合部位を認識していることがわかった。またこの結果は、Y-EB2-01F’ および Y-EB2-02F’ が、同様のファミリータンパク質である EphB2 と EphA2 を識別できる分子認識能を有していることを示していた。
(5)EphB4 についての試験管内における選択と増幅の繰り返しは5回で、その後に回収された DNA をクローニングしてシークエンス解析した。22クローンを選択して調べた結果、3種類の候補配列を得、それぞれについて Y-EB4-01 (22クローンのうち6個がこの配列),Y-EB4-02(22クローンのうち2個がこの配列),Y-EB4-03(22クローンのうち1個がこの配列)と命名した(図12)。これらのペプチドは極めてよく似たアミノ酸配列を有していた。
(6)EphB4 について得られたペプチドである Y-EB4-01 (配列番号:42、43)、Y-EB4-02(配列番号:44、45)、Y-EB4-03 (配列番号:46、47)は互いに極めてよく似ていた。試験管内で大腸菌抽出物由来の無細胞タンパク質合成系を用いてこれらのペプチドを変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質として調整して、その EphB4 受容体タンパク質との相互作用を比較した。結果として、これらのペプチド配列を持つ変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーとの融合タンパク質は、EphB4 に対して同程度の親和性を示した。変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーだけではこの結合は見られなかった。
(7)今回使用した EphB2 受容体タンパク質は EphB2 のリガンド結合部位の他に、ヒト由来の抗体の Fc フラグメントを持ったキメラタンパク質である。(4)で述べた融合タンパク質は、同様のキメラ型の構造を持つ EphA2 および ErbB2 受容体タンパク質には結合しなかったことから、Y-EB4-01、Y-EB4-02、Y-EB4-03 は EphB4 のリガンド結合部位を認識していることがわかった。またこの結果は、Y-EB4-01,Y-EB4-02,Y-EB4-03 が、同様のファミリータンパク質である EphB4 と EphA2 を識別できる分子認識能を有していることを示していた。
(8)実際に Y-EB4-03 を化学合成し、水晶振動子によるマイクロバランスを用いた分子間相互作用定量装置で、その合成した Y-EB4-03と EphB4 受容体タンパク質との相互作用における解離定数(Kd)を見積もったところ、その値は 27 nM であった。
【0101】
本発明者らは変異型 MS2 コートタンパク質タンデムダイマーと Cv モチーフとの相互作用を利用して、ランダム配列からなる DNA ライブラリーから調整されるペプチドライブラリーと組み合わせて試験管内で機能性ペプチドを創製するシステム(ARMS システム)を新規に構築することに成功した。そして本発明者らは ARMS システムを用いて、細胞表面に存在する受容体タンパク質や天然のペプチドホルモンに対し、特異的に結合する新規のペプチドリガンドを人為的に創製できることを示した。
【0102】
最初に本発明者らが開発した試験管内ペプチド選択システムを用いて選択した人工ペプチドはアビジンの誘導体である NeutrAvidin を認識するペプチド(K-NAV-08 と K-NAV-17)で、その結合の解離定数は 16 nM であった。最も有名なストレプトアビジン結合ペプチドはファージディスプレイ法で同定された後に点変異導入による総当りスクリーニングによって得られた Strept-tag で(Weber, P.C. et al, (1992) Biochemistry, 31, 9350-9354.; Schmidt, T.G.M. et al, (1996) J. Mol. Biol., 255, 753-766.)、その解離定数は 36800 nM である。この配列は組み替えタンパク質の精製などの応用面ですでに実用化されている。またリボソームディスプレイ法で得られた新規のストレプトアビジン結合ペプチドは解離定数が 3.6 nM と最も優れた親和性を示しているが(Lamla, T et al., (2003) J. Mol. Biol., 329, 381-388.)、この選択は本発明者らの系よりも高い多様性の DNA ライブラリー(2.0 × 1013)から得られたもので、本発明者らのシステムにおける多様性がそれより遥かに低いにもかかわらず(1.4 × 108)同程度の解離定数のペプチドが得られたことは、本発明者らのシステムがいかに効率的なものかを明確に示している。なお今回の本発明者らの実験では選択を行った際に非特異的なペプチドの結合を避けるためにウェスタンブロットで用いるスキムミルクを用いたのだが、通常スキムミルクは高濃度のビオチンもしくはビオチン化タンパク質を含有する。そのため、今回の選択は結果として、おそらく NeutrAvidin とビオチンが結合した複合体に対して行われたと考えられる。このことは、今回本発明者らが得た NeutrAvidin を認識するペプチドはビオチンおよびビオチン化タンパク質が高濃度で存在する細胞内や生体内においても十分機能すると予想される。
【0103】
次に行った悪性腫瘍細胞表面に過剰発現する受容体タンパク質である EphA2 のリガンド結合部位に対する選択の結果について考察する(Ogawa, K. et al, (2000) Oncogene, 19, 6043-6052.; Kinch, et al, (2003) Clin. Cancer Res., 9, 613-618.; Hess, A.R. et al,, (2001) Cancer Res., 61, 3250-3255.; Zelinski, D.P. et al, (2001) Cancer Res., 61, 2301-2306.; Carles-Kinch, K. et al, (2002) Cancer Res., 62, 2840-2847.)。今回得られた EphA2 を認識するペプチドリガンドは2種類あり(K-EA2-09 と K-EA2-19)、そのうちひとつ(K-EA2-19)はすでにファージディスプレイ法で得られたものと極めて高い相同性を持つモチーフを含んでいた。既報の EphA2 を認識するペプチドリガンドは悪性腫瘍細胞表面の EphA2 に対して正に作用し、その細胞内ドメインのリン酸化を促進して腫瘍細胞の転移能を活性化することが知られている(Koolpe, M. et al, (2002) J. Biol. Chem., 277, 46974-46979.)。そのため今回得られた EphA2 を認識するペプチドリガンドのうち、既報の配列に相同性を持つもの(K-EA2-19)については同様の活性が見込まれる。仮に培養細胞レベルで K-EA2-09 が EphA2 に対して分子生物学的な作用を持たなかったとしても、EphA2 が悪性腫瘍細胞の分子マーカーの有力な候補の1つであることから(Ogawa, K. et al, (2000) Oncogene, 19, 6043-6052.; Kinch, et al, (2003) Clin. Cancer Res., 9, 613-618.; Hess, A.R. et al,, (2001) Cancer Res., 61, 3250-3255.; Zelinski, D.P. et al, (2001) Cancer Res., 61, 2301-2306.; Carles-Kinch, K. et al, (2002) Cancer Res., 62, 2840-2847.)
)、悪性腫瘍細胞の検出に応用することができるだろう。同様のことは抗 EphA2 抗体を用いればできることではあるが、K-EA2-09 があくまで短鎖のペプチドであり、その化学合成はもちろん遺伝子操作も容易であることを考慮すれば、抗体では行いにくい化学修飾や遺伝子工学的修飾が容易に行うことができるので、より高機能な、ドラッグデリバリーシステム(DDS)への応用が可能であり、産業的に有用であると考えられる。
【0104】
レジスチン結合ペプチドについては候補として5種類得られたが、そのうち結合が確認できたものは3種類(K-RES-10、K-RES-11、K-RES-14)であった。このうち特に K-RES-10 のレジスチンへの親和性が際立って大きいことがわかった。レジスチンは、もともとマウス培養細胞において、低下したインスリン感受性を改善する機能を持つチアゾリジン誘導体で発現抑制される遺伝子群の中から同定された、肥大化した脂肪細胞特異的に過剰分泌されるペプチドホルモンであり、糖尿病の原因となるペプチドホルモンである可能性が疑われている。これまでマウスの実験等から以下のことがわかっている(Banerjee, R.R et al., (2003) J. Mol. Med., 81, 218-226.)。
(1)114 アミノ酸で発現後、94 アミノ酸ポリペプチドとして分泌され、26番目の Cys で二量体化する。
(2)正常マウスにおいて、高栄養摂取によって過剰発現。飢餓状態で抑制される。
(3)抗レジスチン抗体の静脈注射( 10 μg / μL, 約 50 μM)によって、糖尿病モデルマウスのインスリン感受性が向上し、血中のグルコース濃度が低下する。
【0105】
これに結合するペプチドは、体内でレジスチンが細胞に取り込まれるのを防ぐのに利用できる可能性がある(上記(3)の使用例と同等の効果)。また血中や組織中のレジスチンを検出するための検出試薬としての応用も考えられる。
【0106】
さらに本発明者らは新規に開発した PEACE ライブラリーと ARMS システムを組み合わせて、より効率よく機能性ペプチドを創製することを可能とした。PEACE ライブラリーは分子認識を持つ生体物質の代表といえる抗体の抗原認識部位の一部を模したペプチドライブラリーであり、特定の物質を認識することにより適したアミノ酸が多く含まれる。EphB2 および EphB4 リガンド結合部位に結合するペプチドを創製する際に、NNKライブラリーを用いた方法でも行ったが特定の配列に収束することができなかったことから、NNKライブラリーを用いた方法では ARMS システムをもってしてもできなかったことが、PEACE ライブラリーを用いることで可能となる事例が存在することが証明された。PEACE ライブラリーは本質的に出現するアミノ酸がNNKライブラリーより少ない。従って、NNKライブラリーとPEACE ライブラリーは補完しあうものであると考える。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】バクテリオファージ MS2 のコートタンパク質とその RNA ゲノム上の結合部位の配列に対する遺伝子工学的改良を示す図である。
【図2】ARMS システムの概念図を示す図である。
【図3】リボソームディスプレイ法(a)と ARMS システム(b)における鋳型 DNAの違いについての概念図を示す図である。
【図4】鋳型 DNA のライブラリークローニング部位(a)およびランダムDNA ライブラリー(NNK コドン利用)を導入した後の配列(b)を示す図である。
【図5】PCR産物に対してアガロースゲル電気泳動で解析した結果を示す写真である。Vはライブラリーを挿入していないプラスミドpUCv-mM2Dを鋳型DNAとしてPCRを行ったもの、Lはライブラリーを挿入したあとのDNA構築物を鋳型DNAとして同様のPCRを行ったものを示す。
【図6】RT-PCRによるライブラリー部位増幅の結果を示す写真(ポリアクリルアミド電気泳動写真)である。NeutrAvidinに対するスクリーニングをした時の結果である。MはDNAサイズマーカー。Round(ラウンド)は図2の一連の作業のことで、その数字は一連の作業を何回繰り返したかを意味する。PCRのサイクル数をすべてのラウンドで統一しているので、各ラウンドでのバンドの濃さの違いは、各ラウンドでの図2の7.のステップで回収されたRT-PCR産物の相対的な量の違いを意味する。従って、ラウンドが進むにつれて、回収されるRNAが増加していることを意味しており、標的分子に結合するペプチドが絞り込まれている様子がわかる。
【図7】NeutrAvidin に対して ARMS システムで選択されたペプチド配列を持つ mMSp タンデムダイマーを同位体標識し、その NeutrAvidin アガロースへの結合能を比較した結果を示す図および写真である。C-08-mM2はK-NAV-08 と mMSp タンデムダイマーの融合タンパク質を、C-03-mM2はNeutrAvidin に結合しない配列である K-NAV-08 と mMSp タンデムダイマーの融合タンパク質を、X-01-mM2はCv モチーフを持たないシステム(リボソームディスプレイ法と類似の方法)で得られた配列(K-NAV-X01)と mMSp タンデムダイマーとの融合タンパク質を、HPQ-mM2は既知のビオチン類似ペプチド(HPQ)とmMSp タンデムダイマーの融合タンパク質を、mM2はmMSp タンデムダイマーを意味する。(a)NeutrAvidin アガロースおよびグルタチオンセファロースからの放射活性をイメージアナライザーで検出した結果を示す写真である。(b)得られたイメージを定量解析し、各ペプチドについて相対比較した結果を示す図である。
【図8】ARMS システム(NNK コドン利用)によって得られた EphA2 結合ペプチドのアミノ酸配列(K-EA-09およびK-EA2-19)とファージディスプレイ法で得られた既知の EphA2結合ペプチド(YSA およびSWL)、および天然の EphA2 のリガンドである ephrin A1のEphA2 結合部位のアミノ酸配列を示す図である。
【図9】EphA2 に対して ARMS システムで選択されたペプチド配列を持つ mMSp タンデムダイマーを同位体標識し、その レセプター固定化セファロースに対する結合能を定量的に比較した結果を示す図および写真である。C-09-mM2 EHA2はK-EA2-09 と mMSp タンデムダイマーの融合タンパク質を、C-19-mM2 EHA2はK-EA2-19 と mMSp タンデムダイマーとの融合タンパク質を、C-17-mM2 NAVはNeutrAvidin に結合する配列である K-NAV-17 と mMSp タンデムダイマーの融合タンパク質を、mM2はmMSp タンデムダイマーを意味する。(a)EphA2 および ErbB2 固定化セファロースからの放射活性をイメージアナライザーで検出した結果を示す写真である。(b)得られたイメージを定量解析し、各ペプチドについて相対比較した結果を示す図である。
【図10】レジスチンに対して ARMS システムで選択されたペプチド配列を N 末端に、FLAG タグを C 末端に持つ mMSp タンデムダイマーを用いて、レジスチンを固定化した場合と BSAを固定化した場合のそれぞれに対し、ELISAで結合能を評価した結果を示す図および写真である。(a) 各タンパク質を試験管内翻訳して調整したものの western blotting の結果を示す写真である。(b)実際の ELISA の結果を取り込んだイメージを示す写真である。(c)ELISA で得られたイメージを定量解析し、比較した結果を示す図である(2回の ELISA の平均)。
【図11】ARMS システムと PEACE ライブラリーのコンビネーションで選択された EphB2 受容体タンパク質結合ペプチドのキャラクタリゼーションを示す図および写真である。(a)選択された EphB2 結合ペプチド配列(Y-EB2-01、および Y-EB2-02)とそれらの配列を有する融合タンパク質 (Y-EB2-nF’, n = 1, 2)の配列を示す図である。(b)Y-EB2-nF’ の構造を示す図である。(c)〜(e)Y-EB2-nF’ の EphB2 receptor に対する結合活性とその特異性の評価を示す図および写真である。(c)Western blotによるY-EB2-nF’の発現確認を示す写真である。(d)吸収スペクトルによる結合活性評価を示す図である。(e)化学発光による結合特異性評価を示す写真である。
【図12】ARMS システムと PEACE ライブラリーのコンビネーションで選択された EphB4 受容体タンパク質結合ペプチドのキャラクタリゼーションを示す図および社損である。(a)選択された EphB4 結合ペプチド配列(Y-EB4-01、Y-EB4-02および Y-EB4-03)とそれらの配列を有する融合タンパク質 (Y-EB4-nF, n = 01, 02, 03) の配列を示す図である。(b)Y-EB4-nF の構造を示す図である。(c)〜(e)Y-EB4-nF の EphB4 receptor に対する結合活性とその特異性の評価を示す図および写真である。(c)Western blotによるY-EB4-nFの発現確認を示す写真である。(d)吸収スペクトルによる結合活性評価を示す図である。(e)吸収スペクトルと化学発光(枠内)による結合特異性評価を示す図および写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)から(iv)のDNAを含み、かつ、下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物。
(i)RNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNA
(ii)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNA
(iii)該RNA結合タンパク質をコードするDNA
(iv)リンカータンパク質をコードするDNA
【請求項2】
(iii)のDNAが複数個並置されている、請求項1に記載のDNA構築物。
【請求項3】
RNA結合タンパク質が、MS2コートタンパク質であり、該RNA結合タンパク質が結合するRNAが、MS2コートタンパク質が結合するRNAである、請求項1に記載のDNA構築物。
【請求項4】
リンカータンパク質が、g3タンパク質またはDHFRタンパク質のアミノ酸配列を有するリンカータンパク質である、請求項1に記載のDNA構築物。
【請求項5】
(ii)のDNAが、配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列を有するDNAである、請求項1に記載のDNA構築物。
【請求項6】
下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物。
(i)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA
(ii)配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA
(iii)配列番号:5に記載の塩基配列からなるDNAがリンカーを介して2個並置されているDNA
(iv)配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNA
【請求項7】
下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物。
(i)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA
(ii)配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA
(iii)配列番号:6に記載の塩基配列からなるDNA
(iv)配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNA
【請求項8】
配列番号:8から10のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA構築物。
【請求項9】
下記(i)から(iii)のDNAを含むDNA構築物であって、下記(i)から(iii)のDNAが、クローニング部位に挿入される任意のペプチドをコードするDNA、RNA結合タンパク質をコードするDNA、およびリンカータンパク質をコードするDNAの融合された転写産物および翻訳産物が発現するように結合されているDNA構築物。
(i)制限酵素SfiIで認識されるクローニング部位を有するDNA
(ii)RNA結合タンパク質をコードするDNA
(iii)リンカータンパク質をコードするDNA
【請求項10】
さらに、RNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNAが含まれている、請求項9に記載のDNA構築物。
【請求項11】
(ii)のDNAが複数個並置されている、請求項9または10に記載のDNA構築物。
【請求項12】
RNA結合タンパク質が、MS2コートタンパク質である、請求項9または10に記載のDNA構築物。
【請求項13】
配列番号:11に記載の塩基配列からなるDNA構築物。
【請求項14】
請求項1から8のいずれかに記載のDNA構築物の転写産物。
【請求項15】
下記(i)から(iv)のRNAを含み、かつ、下記(ii)から(iv)のRNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されており、該融合された翻訳産物が、下記(i)のRNAに結合するように構築されているRNA構築物であって、終止コドンを有さないRNA構築物。
(i)RNA結合タンパク質が結合するRNA
(ii)任意のペプチドをコードし、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するRNA
(iii)該RNA結合タンパク質をコードするRNA
(iv)リンカータンパク質をコードするRNA
【請求項16】
(iii)のRNAが複数個並置されている、請求項15に記載のRNA構築物。
【請求項17】
RNA結合タンパク質が、MS2コートタンパク質であり、該RNA結合タンパク質が結合するRNAが、MS2コートタンパク質が結合するRNAである、請求項15に記載のRNA構築物。
【請求項18】
請求項1に記載のDNA構築物を転写させる工程、および転写産物を翻訳させる工程を含む、転写産物と翻訳産物を含む複合体を製造する方法。
【請求項19】
無細胞系で行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項14に記載の転写産物または請求項15に記載のRNA構築物を翻訳させる工程を含む、該RNA構築物と翻訳産物を含む複合体を製造する方法。
【請求項21】
無細胞系で行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項18から21のいずれかに記載の方法により製造される複合体。
【請求項23】
特定の標的物質に結合するペプチドまたは該ペプチドをコードするmRNAをスクリーニングする方法であって、下記(a)から(g)の工程を含む方法。
(a)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAを製造する工程
(b)請求項9または10に記載のDNA構築物のクローニング部位に、工程(a)で製造されたDNAを挿入する工程
(c)工程(b)で得られるDNA構築物を利用して、請求項1に記載のDNA構築物を製造する工程
(d)請求項1に記載のDNA構築物を転写させる工程
(e)得られた転写産物を翻訳させることにより、転写産物と翻訳産物を含む複合体を形成させる工程
(f)該標的物質と、工程(e)で形成された複合体とを接触させる工程
(g)該標的物質に結合した複合体を回収する工程
【請求項24】
無細胞系で行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
特定の標的物質に結合するペプチドをコードするDNAをスクリーニングする方法であって、下記(a)から(j)の工程を含む方法。
(a)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAを製造する工程
(b)請求項9または10に記載のDNA構築物のクローニング部位に、工程(a)で製造されたDNAを挿入する工程
(c)工程(b)で得られるDNA構築物を利用して、請求項1に記載のDNA構築物を製造する工程
(d)請求項1に記載のDNA構築物を転写させる工程
(e)得られた転写産物を翻訳させることにより、転写産物と翻訳産物を含む複合体を形成させる工程
(f)該標的物質と、工程(e)で形成された複合体とを接触させる工程
(g)該標的物質に結合した複合体を回収する工程
(h)回収された複合体より、RNA構築物を回収する工程
(i)該RNA構築物に含まれる、標的物質に結合するペプチドをコードするRNAの逆転写を行う工程
(j)増幅されたDNAを回収する工程
【請求項26】
特定の標的物質に結合するペプチドをコードするDNAをスクリーニングする方法であって、下記(a)から(d)の工程を含む方法。
(a)請求項9または10に記載のDNA構築物のクローニング部位に、請求項25に記載の工程(j)で回収されたDNAを挿入する工程
(b)工程(a)で得られるDNA構築物を利用して、請求項1(ii)のDNAが請求項25に記載の工程(j)で回収されたDNAであるDNA構築物を製造する工程
(c)工程(b)で製造されるDNA構築物を転写させる工程
(d)請求項25に記載の工程(e)から(j)を実施する工程
【請求項27】
無細胞系で行われる、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
請求項23から27のいずれかに記載のスクリーニング方法に用いるためのキット。
【請求項29】
請求項25から27のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得られたDNAによりコードされるペプチドと標的物質との結合実験に用いるためのキット。
【請求項30】
下記(a)または(b)に記載のDNA。
(a)配列番号:24から47の偶数番号に記載のアミノ酸配列を有するペプチドをコードするDNA。
(b)配列番号:24から47の奇数番号に記載の塩基配列を有するDNA。
【請求項31】
請求項30に記載のDNAからコードされるペプチド。
【請求項32】
請求項30に記載のDNAを有するベクター。
【請求項33】
請求項30に記載のDNAまたは請求項32に記載のベクターを有する細胞。
【請求項34】
配列番号:28、30、38、40、42、44、または46に記載のアミノ酸配列を有するペプチドを含有する抗癌剤。
【請求項35】
配列番号:32、34、または36に記載のアミノ酸配列を有するペプチドを含有する糖尿病治療剤。
【請求項1】
下記(i)から(iv)のDNAを含み、かつ、下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物。
(i)RNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNA
(ii)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNA
(iii)該RNA結合タンパク質をコードするDNA
(iv)リンカータンパク質をコードするDNA
【請求項2】
(iii)のDNAが複数個並置されている、請求項1に記載のDNA構築物。
【請求項3】
RNA結合タンパク質が、MS2コートタンパク質であり、該RNA結合タンパク質が結合するRNAが、MS2コートタンパク質が結合するRNAである、請求項1に記載のDNA構築物。
【請求項4】
リンカータンパク質が、g3タンパク質またはDHFRタンパク質のアミノ酸配列を有するリンカータンパク質である、請求項1に記載のDNA構築物。
【請求項5】
(ii)のDNAが、配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列を有するDNAである、請求項1に記載のDNA構築物。
【請求項6】
下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物。
(i)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA
(ii)配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA
(iii)配列番号:5に記載の塩基配列からなるDNAがリンカーを介して2個並置されているDNA
(iv)配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNA
【請求項7】
下記(i)から(iv)のDNAが、融合された転写産物を発現するように結合され、下記(ii)から(iv)のDNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されているDNA構築物であって、終止コドンを有さないDNA構築物。
(i)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNA
(ii)配列番号:2から4のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA
(iii)配列番号:6に記載の塩基配列からなるDNA
(iv)配列番号:7に記載の塩基配列からなるDNA
【請求項8】
配列番号:8から10のいずれかに記載の塩基配列からなるDNA構築物。
【請求項9】
下記(i)から(iii)のDNAを含むDNA構築物であって、下記(i)から(iii)のDNAが、クローニング部位に挿入される任意のペプチドをコードするDNA、RNA結合タンパク質をコードするDNA、およびリンカータンパク質をコードするDNAの融合された転写産物および翻訳産物が発現するように結合されているDNA構築物。
(i)制限酵素SfiIで認識されるクローニング部位を有するDNA
(ii)RNA結合タンパク質をコードするDNA
(iii)リンカータンパク質をコードするDNA
【請求項10】
さらに、RNA結合タンパク質が結合するRNAをコードするDNAが含まれている、請求項9に記載のDNA構築物。
【請求項11】
(ii)のDNAが複数個並置されている、請求項9または10に記載のDNA構築物。
【請求項12】
RNA結合タンパク質が、MS2コートタンパク質である、請求項9または10に記載のDNA構築物。
【請求項13】
配列番号:11に記載の塩基配列からなるDNA構築物。
【請求項14】
請求項1から8のいずれかに記載のDNA構築物の転写産物。
【請求項15】
下記(i)から(iv)のRNAを含み、かつ、下記(ii)から(iv)のRNAが、融合された翻訳産物を発現するように結合されており、該融合された翻訳産物が、下記(i)のRNAに結合するように構築されているRNA構築物であって、終止コドンを有さないRNA構築物。
(i)RNA結合タンパク質が結合するRNA
(ii)任意のペプチドをコードし、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するRNA
(iii)該RNA結合タンパク質をコードするRNA
(iv)リンカータンパク質をコードするRNA
【請求項16】
(iii)のRNAが複数個並置されている、請求項15に記載のRNA構築物。
【請求項17】
RNA結合タンパク質が、MS2コートタンパク質であり、該RNA結合タンパク質が結合するRNAが、MS2コートタンパク質が結合するRNAである、請求項15に記載のRNA構築物。
【請求項18】
請求項1に記載のDNA構築物を転写させる工程、および転写産物を翻訳させる工程を含む、転写産物と翻訳産物を含む複合体を製造する方法。
【請求項19】
無細胞系で行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項14に記載の転写産物または請求項15に記載のRNA構築物を翻訳させる工程を含む、該RNA構築物と翻訳産物を含む複合体を製造する方法。
【請求項21】
無細胞系で行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項18から21のいずれかに記載の方法により製造される複合体。
【請求項23】
特定の標的物質に結合するペプチドまたは該ペプチドをコードするmRNAをスクリーニングする方法であって、下記(a)から(g)の工程を含む方法。
(a)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAを製造する工程
(b)請求項9または10に記載のDNA構築物のクローニング部位に、工程(a)で製造されたDNAを挿入する工程
(c)工程(b)で得られるDNA構築物を利用して、請求項1に記載のDNA構築物を製造する工程
(d)請求項1に記載のDNA構築物を転写させる工程
(e)得られた転写産物を翻訳させることにより、転写産物と翻訳産物を含む複合体を形成させる工程
(f)該標的物質と、工程(e)で形成された複合体とを接触させる工程
(g)該標的物質に結合した複合体を回収する工程
【請求項24】
無細胞系で行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
特定の標的物質に結合するペプチドをコードするDNAをスクリーニングする方法であって、下記(a)から(j)の工程を含む方法。
(a)任意のペプチドをコードするDNAであって、NNK配列もしくはNNS配列、またはNNY配列を有するDNAを製造する工程
(b)請求項9または10に記載のDNA構築物のクローニング部位に、工程(a)で製造されたDNAを挿入する工程
(c)工程(b)で得られるDNA構築物を利用して、請求項1に記載のDNA構築物を製造する工程
(d)請求項1に記載のDNA構築物を転写させる工程
(e)得られた転写産物を翻訳させることにより、転写産物と翻訳産物を含む複合体を形成させる工程
(f)該標的物質と、工程(e)で形成された複合体とを接触させる工程
(g)該標的物質に結合した複合体を回収する工程
(h)回収された複合体より、RNA構築物を回収する工程
(i)該RNA構築物に含まれる、標的物質に結合するペプチドをコードするRNAの逆転写を行う工程
(j)増幅されたDNAを回収する工程
【請求項26】
特定の標的物質に結合するペプチドをコードするDNAをスクリーニングする方法であって、下記(a)から(d)の工程を含む方法。
(a)請求項9または10に記載のDNA構築物のクローニング部位に、請求項25に記載の工程(j)で回収されたDNAを挿入する工程
(b)工程(a)で得られるDNA構築物を利用して、請求項1(ii)のDNAが請求項25に記載の工程(j)で回収されたDNAであるDNA構築物を製造する工程
(c)工程(b)で製造されるDNA構築物を転写させる工程
(d)請求項25に記載の工程(e)から(j)を実施する工程
【請求項27】
無細胞系で行われる、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
請求項23から27のいずれかに記載のスクリーニング方法に用いるためのキット。
【請求項29】
請求項25から27のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得られたDNAによりコードされるペプチドと標的物質との結合実験に用いるためのキット。
【請求項30】
下記(a)または(b)に記載のDNA。
(a)配列番号:24から47の偶数番号に記載のアミノ酸配列を有するペプチドをコードするDNA。
(b)配列番号:24から47の奇数番号に記載の塩基配列を有するDNA。
【請求項31】
請求項30に記載のDNAからコードされるペプチド。
【請求項32】
請求項30に記載のDNAを有するベクター。
【請求項33】
請求項30に記載のDNAまたは請求項32に記載のベクターを有する細胞。
【請求項34】
配列番号:28、30、38、40、42、44、または46に記載のアミノ酸配列を有するペプチドを含有する抗癌剤。
【請求項35】
配列番号:32、34、または36に記載のアミノ酸配列を有するペプチドを含有する糖尿病治療剤。
【図3】
【図4】
【図8】
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図4】
【図8】
【図1】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−29061(P2007−29061A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−221200(P2005−221200)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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