説明

リソグラフィー用洗浄液及びそれを用いた半導体基材形成方法

【課題】 i線仕様、KrF仕様、ArF仕様の各種レジスト、ケイ素含有レジスト、化学増幅型ポジ型レジストなど多種多様の組成のレジストに対して一様に良好な洗浄性を示し、処理後の乾燥性が良く、洗浄によりレジストの特性がそこなわれることのないリソグラフィー用洗浄液を提供する。
【解決手段】 (A)酢酸又はプロピオン酸の低級アルキルエステルの中から選ばれた少なくとも1種と(B)炭素数5〜7の環状若しくは非環状ケトンの中から選ばれた少なくとも1種とを(A)/(B)の質量比4/6ないし7/3の範囲で含有したリソグラフィー用洗浄液とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の異なったスペックのレジストを用いて形成したレジストパターンに対しても普遍的に適用して良好なリンス効果を示す新規なリソグラフィー用洗浄液及びそれを用いた半導体基材形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品や液晶パネル部品などの製造に用いる導体基材は、一般にシリコンウェーハ上にホトレジストを塗布し、レジスト膜を形成させることによって得られるが、このレジストを塗布する際、基板のエッジ部分や裏面部にレジストが付着し、その後に行うレジストパターン形成時の障害になるため、この不要なレジストをあらかじめ洗浄して除去する必要がある。
この目的で用いる洗浄液としては、不要なレジストを効率的に溶解除去することができ、かつ迅速に乾燥し、しかも洗浄後のレジスト膜の特性をそこなわない溶剤が用いられている。
【0003】
しかしながら、半導体素子の製造には、紫外線仕様、i線仕様、KrF仕様、ArF仕様など、多種多様の異なる組成のレジストが用いられ、また、上記同じ波長の仕様向けであっても非常に多品種化しており、さらには、特殊な目的にはケイ素含有レジストのような特殊な組成のものが用いられているため、それぞれの組成に応じ、適切な洗浄液を選ぶ必要があり、これまでに成分の異なる多くの洗浄液が提案されている。
【0004】
このような洗浄液としては、例えばエチレングリコール又はそのエステル系溶剤からなるもの(特許文献1参照)、プロピレングリコールアルキルエーテルアセテートからなるもの(特許文献2参照)、3‐アルコキシプロピオン酸アルキルからなるもの(特許文献3参照)、ピルビン酸アルキルからなるもの(特許文献4参照)などがある。
【0005】
また、2種類以上の溶剤の混合物を用いたものも知られており、例えばプロピレングリコールアルキルエーテルと、炭素数1〜7のモノケトンと、ラクタム又はラクトンとの混合物を用いたもの(特許文献5参照)及び成分iの混合重量比をxi、Fedors法により算出した溶解度パラメーターをδiとしたとき、9≦Σxiδi≦12を満たすn種類の溶剤からなるリンス液(特許文献6参照)などがある。
【0006】
しかしながら、これらのリンス液は、特定のレジストに対しては良好な洗浄性を示すが、他のレジストに対する洗浄性は必ずしも良好であるとはいえない。例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートとメチルエチルケトンとの混合物は、化学増幅型ポジ型ホトレジストに対しては、良好な結果を示すが、i線レジストやケイ素含有レジストに対しては良好な結果を示さないし、また乳酸エチル、酢酸ブチル及びシクロヘキサノンの混合物からなるリンス液は、感光性ポリベンゾキサゾール前駆体からなるレジストに対しては良好な結果を示すが、i線レジストに対しては良好な結果を示さない。
【0007】
ところが半導体素子製造メーカーは、各生産工程及び生産ラインに一括して同じ洗浄液を供給する集中配管のシステムを採用しており、このような使用環境においては、各工程あるいは生産ライン毎に使用するリソグラフィー用洗浄液を切り替える、あるいは各生産ライン毎にリソグラフィー洗浄液の洗浄性能の評価を行うことは、莫大な労力と経費を要するものである。
【0008】
半導体製造装置に設置されるリソグラフィー用洗浄液の供給配管は、その配管の数が限られており、あらゆる用途、具体的には、カップ内洗浄、基板端縁部洗浄、基板裏面部洗浄、配管洗浄、リワーク洗浄、プリウェット洗浄など、を網羅的にカバーし得る洗浄液が必要とされている。
【0009】
【特許文献1】特公平5−75110号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特公平4−49938号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開平4−42523号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献4】特開平4−130715号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献5】特開平11−218933号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献6】特開2003−114538号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、i線仕様、KrF仕様、ArF仕様の各種レジスト、ケイ素含有レジスト、化学増幅型ポジ型レジストなど多種多様の組成のレジストに対して一様に良好な洗浄性を示し、処理後の乾燥性が良く、しかも洗浄によりレジストの特性がそこなわれることのないリソグラフィー用洗浄液を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、リソグラフィー用洗浄液について種々検討した結果、使用されるレジストに対する親和性が比較的低いカルボン酸エステルとケトンとの混合物において、前者の含有量を後者よりも多くした場合に、洗浄性、特に端面洗浄性が向上し、しかもこの効果は使用するレジストの組成に影響されないことを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、(A)酢酸又はプロピオン酸の低級アルキルエステルの中から選ばれた少なくとも1種と(B)炭素数5〜7の環状若しくは非環状ケトンの中から選ばれた少なくとも1種とを(A)/(B)の質量比4/6ないし7/3の範囲で含有することを特徴とするリソグラフィー用洗浄液、及び基板上にレジストを塗布し、レジスト膜を形成させたのち、基板裏面部又は縁部あるいはその両方に付着した不要のレジストを上記のリソグラフィー用洗浄液を吹き付けて除去することを特徴とする半導体基材形成方法を提供するものである。
【0013】
本発明のリソグラフィー用洗浄液は、処理されるレジスト膜に対する親和性が比較的小さい有機カルボン酸エステル、すなわち(A)酢酸又はプロピオン酸の低級アルキルエステルと、レジスト膜に対する親和性が比較的大きいケトン、すなわち(B)炭素数5〜7の環状若しくは非環状ケトンとの混合物からなっている。
【0014】
この(A)成分としては、酢酸やプロピオン酸のような低級カルボン酸の低級アルキルエステルであって、炭素数の合計が5〜8の範囲にあるものが好ましい。
このようなエステルとしては、例えば酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチルのような酢酸エステルや、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチルのようなプロピオン酸エステルを挙げることができる。上記のエステル中のプロピル基、ブチル基、ペンチル基は、直鎖状のものだけではなく枝分れ状であってもよい。この(A)成分として特に好ましいのは酢酸ブチル、酢酸イソブチルである。
【0015】
次に(B)成分として炭素数の合計が5〜7の範囲にあるケトンが用いられる。このケトンは非環状ケトンすなわち直鎖状又は枝分れ状のアルキル基のみを有するものであってもよいし、環状ケトンであってもよい。このような非環状ケトンとしては、例えばメチルペンチルケトン、メチルブチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトンなどを挙げることができる。上記のケトン中のプロピル基、ブチル基及びペンチル基は、直鎖状又は枝分れ状のいずれでもよい。
【0016】
また、環状ケトンとしては、例えばシクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、2‐メチルペンタノン、2‐メチルヘキサノン、2,5‐ジメチルペンタノンなどを挙げることができるが、好ましいのはシクロヘキサノンである。
【0017】
このケトンを構成する炭素数の下限は5であって、炭素数がこれよりも少なくなるとレジストとの親和性が大きくなって、洗浄する際に基板上のレジスト膜の不要部分のみでなく、必要な部分までも除去されるおそれがある。また、炭素数が上限の7よりも多くなるとレジスト膜の不要な付着部分を除去しにくくなる。
【0018】
本発明のリソグラフィー用洗浄液における(A)成分と(B)成分との混合割合は、質量比(A)/(B)として4/6ないし7/3、好ましくは5/5ないし6/4の範囲である。これよりも(A)成分が少ないと洗浄した場合に端縁不要部が十分に除去されないし、これよりも(A)成分が多くなると洗浄した部分に斑点を生じたり、膜厚が不均一になる。最も好ましいのは(A)成分と(B)成分の等量混合物である。
【0019】
本発明のリソグラフィー用洗浄液を用いて基板上のレジスト不要部を除去するには、基板上に所要のレジストを、例えばスピンコートにより塗布したのち、基板端縁部又は基体裏面部あるいはその両方に、ノズルを通してリソグラフィー用洗浄液を吹き付け、レジスト膜の不要部分を洗浄除去し、次に静置乾燥する。
【0020】
不要部分が除去されたか否かは目視によって確認することができるが、微細なレジストパターンを形成させるための、半導体基材を形成させる場合は、レジスト膜を光照射、現像後、加熱し、その表面を検針スキャンして断面プロフィルの拡大パターンを記録し、端縁部に生じるピークの有無を観察する方法が有利である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、レジスト膜の組成に関係なく、効率よくレジスト液塗布後におけるレジストの不要部分を洗浄除去することができるので、これまでのように洗浄すべき対象のレジストごとに適切な洗浄液を選択する必要はない上に、洗浄後の乾燥を迅速に行うことができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
直径200mmのシリコンウェーハ上に、i線用レジスト(東京応化工業社製、製品名「THMR−iP3650」)を、スピンナー(大日本スクリーン製造社製、製品名「DNS D−SPIN」)を用い、2500rpmの回転速度で10秒間、スピンコートすることにより膜厚1.35μmのレジスト膜を形成させ、次いで60℃で80秒間熱処理した。
次に、n‐ブチルアセテート50質量部とシクロヘキサン50質量部とを混合して調製したリソグラフィー用洗浄液を、25℃においてウェーハ端縁から5mmの位置に配置したノズルから10ml/分の割合で吹き付け、レジスト膜端縁部を洗浄したのち、30秒間風乾した。
このように処理したレジスト膜端縁部を、触針式表面形状測定器(アルバック社製、製品名「DEKTAK8」)を用いてスキャニングし、断面方向の拡大パターンを作成した。この結果を図1に示す。
この図から分るように、端縁部における不要部分の残留部高さは、膜厚に対しわずかに2%であり、不要部分は、ほとんど完全に除去されている。
なお、端縁部以外のレジスト膜表面は、ほとんど平坦であり、洗浄処理による悪影響は認められなかった。
【0024】
比較例1
実施例1におけるリソグラフィー用洗浄液の代りに、n‐ブチルアセテート30質量部とヘキサノン70質量部とを混合して調製した洗浄液を用いる以外は、実施例1と同様に処理したのち、レジスト膜端縁部をスキャニングした。その結果を図2に示す。
この図から分るように、端縁部には、膜厚に対し、80%に相当する高さの不要部分が残留し、洗浄効果は不十分であった。
【0025】
参考例1
直径200mmのシリコンウェーハ表面上に、実施例1と同様にして、ArFレジスト(東京応化工業社製、製品名「TArF−P6111」)、KrFレジスト(東京応化工業社製、製品名「TDUR−P015」)及びi線レジスト(東京応化工業社製、製品名「THMR−iP3650」)を塗布したのち、100℃で60秒間熱処理することにより、それぞれ表1に示す膜厚のレジスト膜を形成した。
次いで、n‐ブチルアセテート(以下nBAと略す)50質量部とシクロヘキサノン50質量部からなるリソグラフィー洗浄液(試料A)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下PGMと略す)70質量部とプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下PGMAと略す)30質量部からなるリソグラフィー洗浄液(試料B)、シクロヘキサノン(試料C)及び乳酸エチル(試料D)を用いて、実施例1と同じスピンナーにより25℃において1200rpmで20秒間洗浄したのち、3000rpmで10秒間乾燥した。
次いで、このように処理したレジスト膜について、それぞれ残膜量(μm)を測定した。その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
この表から明らかなように、従来の代表的な洗浄液は使用されるレジストの種類に対し、それぞれ特異的な溶解性を有するが、本発明のリソグラフィー用洗浄液は、どのような種類のレジストに対しても一様に優れた溶解性を示す。
【実施例2】
【0028】
表2に示す種類のレジストを用い、実施例1と同様にして作成したレジスト膜に対し、nBAとシクロヘキサノンとの等量混合物からなるリソグラフィー用洗浄液、PGM70質量部とPGMA30質量部からなるリソグラフィー洗浄液、乳酸エチル(以下LEと略す)からなる洗浄液、及びシクロヘキサノン単独の洗浄液について、実施例1と同様にして端面部洗浄試験を行い、目視により以下の基準により評価した。その結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
注)○:端面部に全く残留物は認められない。
△:端面部に若干のシミ状残留物が認められる。
×:端面部に多量の残留物が認められる。
i線レジスト;東京応化工業社製、製品名「THMR−iP3650」
KrFレジスト;東京応化工業社製、製品名「TDUR−P015」
ArFレジスト;東京応化工業社製、製品名「TArF−P6111」
Si含有レジスト;東京応化工業社製、製品名「TDUR−SC011」
【0031】
この表から明らかなように、従来の代表的な洗浄液の端面洗浄除去効果は使用されるレジストの種類によって差異があり、それぞれ使用可能な場合と使用不可能な場合があるが、本発明のリソグラフィー用洗浄液はどのような種類のレジストに対しても優れた端面不要部の除去に優れた効果を示す。
【実施例3】
【0032】
表3に示すnBAとシクロヘキサノンとの混合比のリソグラフィー用洗浄液を調製し、実施例1と同様にして、その端面不要部の洗浄除去試験を行った。その結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
この表から分るように、(A)の割合が4/6よりも少ない場合及び7/3よりも多い場合には、端面部不要部分の除去率が低下する。
【実施例4】
【0035】
実施例1におけるnBAの代りにn‐プロピルアセテート又はエチルプロピオネートを用いた以外は実施例1と同様に処理し、端面不要部分の除去状態を目視で評価した。その結果を表4に示す。
【0036】
比較例2
実施例1におけるnBAの代りに酪酸n‐ブチル又はギ酸エチルを用いた以外は実施例1と同様に処理し、端面不要部分の除去状態を目視で評価した。その結果を表4に示す。
【実施例5】
【0037】
実施例1におけるシクロヘキサノンの代りにジエチルケトン又はエチルブチルケトンを用いた以外は実施例1と同様に処理し、端面不要部分の除去状態を目視で評価した。その結果を表4に示す。
【0038】
比較例3
実施例1におけるシクロヘキサノンの代りにアセトン又はジブチルケトンを用いた以外は実施例1と同様に処理し、端面不要部分の除去状態を目視で評価した。その結果を表4に示す。
【0039】
【表4】

【0040】
この表から分るように、従来の代表的な洗浄液の端面洗浄除去効果は使用されるレジストの種類によって差異があり、それぞれ使用可能な場合と使用不可能な場合があるが、本発明のリソグラフィー用洗浄液はどのような種類のレジストに対しても優れた端面不要部の除去に優れた効果を示す。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、基板上にレジストを塗布する際に生じる端面部、裏面部の不要部分におけるレジストを除去し、不要部分の存在に起因する製品の欠陥の発生を防止するのに特に好適であるが、それ以外にも配管洗浄、リワーク洗浄、プリウエットなど多方面に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1で処理したレジスト膜端縁部の断面方向の拡大パターンを示すグラフ。
【図2】比較例1で処理したレジスト膜端縁部の断面方向の拡大パターンを示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酢酸又はプロピオン酸の低級アルキルエステルの中から選ばれた少なくとも1種と(B)炭素数5〜7の環状若しくは非環状ケトンの中から選ばれた少なくとも1種とを(A)/(B)の質量比4/6ないし7/3の範囲で含有することを特徴とするリソグラフィー用洗浄液。
【請求項2】
(A)成分が酢酸のプロピル、ブチル及びペンチルエステルの中から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載のリソグラフィー用洗浄液。
【請求項3】
(B)成分がシクロペンタノン、シクロヘキサノン及びシクロヘプタノンの中から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載のリソグラフィー用洗浄液。
【請求項4】
(A)成分が酢酸ブチルであり、(B)成分がシクロヘキサノンである請求項1記載のリソグラフィー用洗浄液。
【請求項5】
基板上にレジストを塗布し、レジスト膜を形成させたのち、基板裏面部又は縁部あるいはその両方に付着した不要のレジストを請求項1ないし4のいずれかに記載のリソグラフィー用洗浄液を吹き付けて除去することを特徴とする半導体基材形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−189518(P2006−189518A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−382130(P2004−382130)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】