説明

リチウム−イオン用途のための安定化リチウム金属粉末、組成物および方法

本発明は、リチウム金属粉末を安定化させるための方法を提供する。この方法は、溶融したリチウム金属を得るために、リチウム金属粉末をその融点より高く加熱するステップ、前記溶融したリチウム金属を分散するステップ、および、リン酸リチウムの実質的に連続した保護層を前記リチウム金属粉末上に得るために、前記分散された溶融リチウム金属をリン含有化合物に接触させるステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2007年5月16日出願の米国特許仮出願第60/938,284号に対する優先権を主張し、その開示は引用することによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、より良好な安定性およびより長い保存期間を有する安定化させたリチウム金属粉末(「SLMP」)に関する。そのような改良型SLMPは、有機金属とポリマーの合成、再充電可能なリチウム電池、および再充電可能なリチウムイオン電池を含む、幅広い種類の用途で使用することができる。
【背景技術】
【0003】
リチウム金属、特に表面積の大きいリチウム金属粉末の反応性の高い、すなわち自然発火性の性質は、多様な用途においてその使用を抑止するものであり得る。従って、リチウム金属は、一般に安定化させた形態で存在する。例えばその開示の全体が引用することにより本明細書に組み込まれる米国特許第5,567,474号、同第5,776,369号、および同第5,976,403号に記載されるように、金属粉末表面をCOで不動態化することによりリチウム金属粉末を安定化させることが知られている。しかし、COで不動態化したリチウム金属粉末は、リチウム金属と空気が反応するために、リチウム金属含量が減少する前の限られた時間、水分レベルの低い空気中でのみ使用することができる。
【0004】
もう一つの選択肢は、リチウム粉末を保護層で被覆することであった。例えば、米国特許第6,911,280号には、アルカリ金属炭酸塩もしくはアルカリ土類金属炭酸塩で被覆することが提案されている。米国特許第4,503,088号には、不動態化層としてリチウム負極をエポキシ樹脂で被覆することが提案されている。米国特許第5,342,710号および同5,487,959号には、Iおよびポリ−2−ビニルピリジンの複合体を不動態化層として使用することが提案されている。しかしながらこれらの提案された保護層は、導電率の低下および弱い機械的強度をもたらす場合も多い。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、リチウム金属粉末を安定化させるための方法を提供する。この方法は、溶融したリチウム金属を得るために、リチウム金属粉末をその融点より高く加熱するステップ、溶融したリチウム金属を分散するステップ、およびリン酸リチウムの実質的に連続した保護層をリチウム金属粉末上に得るために、分散された溶融リチウム金属をリン酸などのリン含有化合物に接触させるステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】実施例1〜4に従って調製した安定化リチウム粉末に関するSEM画像の比較を示す図である。
【図2】実施例1および実施例5に従って調製した安定化リチウム粉末に関するSEM画像の比較を示す図である。
【図3】比較例1、比較例2、および実施例1の空気安定性の比較を示す図である。
【図4】比較例1および実施例4の安定性を比較する、アドハンスド・リアクティブ・スクリーニング・ツール比色計(colorimeter)(ARSST)試験を示す図である。
【図5】NMPにおける実施例1および実施例5の安定性を比較する、ベント・サイジング・パッケージ2(Vent Sizing Package 2)(VSP2)試験を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図面および以下の詳細な説明では、本発明が実施できるように、様々な実施形態が詳細に説明される。本発明はこれらの具体的な実施形態に関して説明されているが、本発明がこれらの実施形態に限定されないことは当然理解される。それとは反対に、本発明には、以下の詳細な説明および添付の図面を検討すると明らかになる多数の別法、変更形態および同等物が含まれる。
【0008】
本明細書において用いられる用語は、特定の実施形態を説明する目的のためだけのものであり、本発明を限定することを意図しない。本明細書において、用語「および/または」には、1以上の関連する記載項目のいずれかの組合せおよび全ての組合せが含まれる。本明細書において、単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに示されている場合を除き、複数形も同様に含むことが意図される。さらに、用語「含む」および/または「含んでいる」は、本明細書において用いられる場合には、述べられる特徴、整数、ステップ、操作、要素、および/または成分の存在を特定するが、1以上のその他の特徴、整数、ステップ、操作、要素、成分、および/またはその群の存在または追加を排除するものでないことが当然理解される。さらに、本明細書において用いられる用語「約」は、測定可能な値、例えば本発明の化合物または薬剤の量、用量、時間、温度などの測定可能な値をさす場合には、指定される量の20%、10%、5%、1%、0.5%、またはさらには0.1%の変化を包含することを意味する。
【0009】
別に定義されない限り、本明細書において用いられる全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明の属する分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。さらに、一般的に用いられる辞典類に定義されるものなどの用語は、関連技術の文脈におけるその意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書において明白にそのように定義されない限り、理想的もしくは過度に形式的な意味に解釈されないことも当然理解される。
【0010】
本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許、およびその他の参照文献は、引用することによりその全体が本明細書に組み込まれる。しかし、本明細書における参照文献の言及は、そのような言及が本明細書に記載される本発明の先行技術であるという承認として解釈されるべきではない。
【0011】
本発明は、安定したリチウム金属粉末を提供する方法に関する。この方法には、リチウム金属粉末を不活性雰囲気下でその融点より高く加熱するステップが含まれる。一般にこれは約200℃よりも高い。これは不燃性の炭化水素油を加熱することにより行われる場合が多い。例示的な炭化水素油としては、鉱油、または、分枝、直鎖または飽和環状構造を有し、引火点が約200°Fより高い、任意のその他の飽和炭化水素溶媒が挙げられる。本発明では多様な炭化水素油を使用してもよい。本明細書において用いられる、炭化水素油という用語には、主にまたは完全に炭化水素の混合物からなる様々な油性液体が含まれ、それには鉱油、すなわち、油に認められる粘度限界を有する鉱物起源の液体生成物が含まれる。従って、この用語には、限定されるものではないが、石油、シェール油、パラフィン油などが含まれる。これらの有用な炭化水素油の製造業者は数多くある。これらの有用な炭化水素油の中には、高度精製(highly refined)油、例えば、100°Fで43〜59パスカル・秒の範囲の粘度および265°Fの引火点を有するPennzoil Products社のPenreco Divisionにより製造されるPeneteck、100°Fで213〜236パスカル・秒の粘度および360°Fの引火点を有するParol 100(Pennzoil Products社のPenreco,Div.から入手可能)、およびWitco社のSonneborn Div.製Carnationホワイトオイル(粘度=100°Fで133〜165パスカル・秒)がある。さらに、リチウムの融点を含む範囲内で沸騰する特定の精製炭化水素溶媒、例えばUNOCAL社の140 Solventなどを使用してもよい。加えて、未精製油、例えばUNOCAL社の460 SolventおよびHydrocarbon Seal油およびExxon社のTelura 401およびTelura 407を用いてもよい。炭化水素油の選択は、当該技術の範囲内である。
【0012】
溶融リチウム金属は、次に例えば激しく攪拌して(agitating or stirring)高剪断力を加えることにより分散させる。高剪断力またはその他の同等な力を用いる分散ステップを行って均一なリチウム金属の小滴(droplet)または粒子(particle)を形成し、かつ凝集を回避すると同時に炭化水素油中の小滴または粒子の分散を促進する。
【0013】
分散した溶融リチウムを、リン酸(HPO)などのリン含有化合物に接触させてリチウム金属粉末上にリン酸リチウム(LiPO)の実質的に連続した保護層を得る。特に、リン酸がリチウムとの反応の間に形成されるならば、その他のリン含有化合物を使用してもよい。例えば、Pは、水分の存在下で反応させるのであれば、HPOが最初に形成され、次いでLiPOが形成されるので使用することができる。あるいは、POFガスをHFおよびHPOに加水分解し、次いでそれをリチウムと反応させてLiPOを形成することもあり得る。
【0014】
リン含有化合物は、リチウムの融点よりも高い温度での分散中に、またはリチウム分散体が冷めた後のより低い温度で、リチウム滴(droplet)に接触させるために導入され得る。このリン含有化合物は、鉱油または任意のその他の適した溶媒中に、結晶形で、または溶液形態で導入され得る。異なる処理パラメータの組合せを用いることにより固有の被膜特性が達成され得ることは理解される。例えば、リチウムとリン含有化合物の間の反応速度の制御は、空洞およびまたは亀裂の形成を防ぐ際に不可欠である。さらに、被膜を有機被膜と組み合わせることが有益であり、例えば、異なる化学組成、分子量、融点および硬度をもつ異なる数種類のワックスを用いて、特定の適用のための固有の被膜特性などを達成し、空気安定性と極性溶媒安定性の両方を改善し、慣用される極性溶媒(慣用される高分子バインダーを溶解させる)のより安全な取り扱いと使用可能性の両方を可能にすることができる。
【0015】
適したワックスは、12−ヒドロキシステアリン酸などの天然ワックス、低分子量ポリエチレンなどの合成ワックス、パラフィンワックスなどの石油ワックス、および微晶質ワックスであってもよい。ワックスは、分散中に、またはリチウム分散体冷却後のより低い温度で、リチウム滴に接触するように導入してもよい。異なる化学組成、分子量、融点および硬度をもつ異なる数種類のワックスの組合せが、特定の適用のための固有の被膜特性を達成し得ることは当然理解される。例えば、粘着性の程度を制御して、ある程度の粘着性が必要とされる、「転写剥離紙(transfer release paper)」の概念を用いてSLMPの導入を可能にすることができる。
【0016】
上記の適したワックスは、リチウム粒子に2種類の被膜、つまり、無極性のワックスが使用される物理または接着剤型を表す第1の種類、および、疎水性の特徴と親水性の特徴の両方を有する官能基を含むワックスが使用される化学結合被膜を表す第2の種類を生成することができる。被膜の厚さは、約20nm〜約200nmの範囲内で変動しうる。
【0017】
本発明は、また、LiPOにより保護されたリチウム金属粉末を提供する。薄く、濃密で、実質的に連続した本発明のLiPO層は、典型的なCOおよびLiF不動態化技術と比べて改良された保護をもたらす。リン酸リチウム層は、安定化リチウム金属粉末の約0.5%〜20重量%を含む。この範囲は、45ミクロンの粒子に基づいて推定される。つまり、0.01ミクロンの被膜は0.74%のLiPOに相当し、0.3ミクロンの被膜は18.6%のLiPOに相当する。得られるリチウム金属粉末は、改良された安定性および改良された保存期間を有する。この目的のため、より安定したリチウム金属粉末が提供される。リチウム金属粉末をHPOにより不動態化する。そのような薄く、濃密で、連続したLiPO層は、LiF(すなわち、25℃の100gHO中0.133g)およびLiCO(すなわち25℃の100gHO中1.29g)に対して、LiPOは水に不溶性である(すなわち、25℃の100gHO中0.04g)ために、COおよびLiFと比較してより良好な不動態化をもたらす。LiPOの不動態化層は水分および雰囲気ガスに対して優れたバリアとしての機能を果たす。
【0018】
以下の実施例は本発明の単なる例であって、それを限定するものではない。
【実施例】
【0019】
実施例1
バッテリーグレードのリチウム金属(411グラム)を2×2インチの試験片に切断し、一定流量の乾燥アルゴン下、室温にて、固定された高速攪拌モータに接続された攪拌軸が取り付けられた4”の上部の付いた3リットルのステンレス鋼製フラスコ反応器に装入した。反応器には上部加熱マントルおよび底部加熱マントルが装備されていた。反応器を組み立て、1078gのPeneteck(商標)油を加えた。次いで、反応器を約200℃に加熱し、250rpm〜800rpmの範囲で穏やかな攪拌を持続して全ての金属を確実に溶融した。次いで、混合物を高速(10,000rpmまで)で2分間攪拌した。オレイン酸8.22gを反応器に装入し、高速攪拌をさらに3分間継続した。次いで、高速攪拌を停止し、加熱マントルを除去して、分散体を約46℃まで放冷した。次に、予め68.59グラムの油に予め溶かした21.4グラムのリン酸を、約800rpmで攪拌しながら反応器に装入し、2℃の温度上昇を確認した。分散体をさらに10分間攪拌し、次いで保存瓶に移した。さらに、密閉された焼結ガラス製濾過漏斗でリチウム分散体を濾過し、ヘキサンで3回洗浄し、1回n−ペンタンで洗浄して炭化水素油媒質を除去した。漏斗をヒートガンで加熱して、微量の溶媒を除去し、得られる易流動性の粉末をしっかり蓋をした保存瓶に移した。
【0020】
実施例2
45ミクロンの中型(medium)粒径の124.5gのリチウムを含む、1102gの非安定化リチウム油中分散体(11.3%)を、一定流量の乾燥アルゴン下、室温にて、固定された高速攪拌モータに接続された攪拌軸が取り付けられた2リットルの三つ口ガラスフラスコ反応器に装入した。21℃にて8gの鉱油中の二相溶液の形態の7.81gのリン酸(Aldrich)を、反応器に装入した。4℃の温度上昇を相当な発泡とともに確認し、さらに1時間攪拌を継続し、次いで保存瓶に移した。さらに、密閉された焼結ガラス製濾過漏斗でリチウム分散体を濾過し、ヘキサンで3回洗浄し、さらに2回n−ペンタンで洗浄して炭化水素油媒質を除去した。漏斗をヒートガンで加熱して、微量の溶媒を除去し、得られる易流動性の粉末をしっかり蓋をした保存瓶に移した。
【0021】
実施例3
63ミクロンの中型(medium)粒径の126.4gのリチウムを含む、1128.5gの非安定化リチウム油中分散体(11.2%)を、一定流量の乾燥アルゴン下、室温にて、固定された高速攪拌モータに接続された攪拌軸が取り付けられた5リットルの三つ口ガラスフラスコ反応器に装入した。20℃にて8gの鉱油中の二相溶液の形態の7.81gのリン酸(Aldrich)を、6分間にわたり滴下して反応器に装入した。実施例2よりも高速の攪拌を用いた。20分以内に4.5℃の温度上昇を確認し、発泡は観察されなかった。攪拌をさらに5時間継続し、次いで保存瓶に移した。さらに、密閉された焼結ガラス製濾過漏斗でリチウム分散体を濾過し、ヘキサンで3回洗浄し、さらに2回n−ペンタンで洗浄して炭化水素油媒質を除去した。漏斗をヒートガンで加熱して、微量の溶媒を除去し、得られる易流動性の粉末をしっかり蓋をした保存瓶に移した。
【0022】
実施例4
63ミクロンの中型(medium)粒径の6.20グラムのリチウムを含む、55.00グラムの非安定化リチウム油中分散体(11.275%)を、1”テフロン(登録商標)被覆攪拌子を装備した120mlのハステロイ缶に装入した。溶液を200℃に加熱し、予め2mlの鉱油に溶かした0.4g無水HPOをこのリチウム分散体に加えた。温度を200℃に保ちながらこの混合物を200rpmで30分間継続的に攪拌した。サンプルを室温まで放冷し、保存瓶に移した。さらに、密閉された焼結ガラス製濾過漏斗でリチウム分散体を濾過し、ヘキサンで3回洗浄し、さらに2回n−ペンタンで洗浄して炭化水素油媒質を除去した。漏斗をヒートガンで加熱して、微量の溶媒を除去し、得られる易流動性の粉末をしっかり蓋をした保存瓶に移した。
【0023】
図1は、処理パラメータが被膜の品質に影響を及ぼすことを実証する。左から右:空洞/亀裂の量の低下によりリチウム粒子により良好な気密性がもたらされる。実施例4は液/液反応界面を表し、さらに良好な保護をもたらすと考えられる:不動態化層は微晶質LiPOの外皮のようである。例えばワックスを加えると、全ての空隙、亀裂、空洞が水分および大気ガスから確実に保護される。
【0024】
実施例5
31ミクロンのメジアン粒径の6.3グラムのリチウムを含む、実施例1で製造された、52.3グラムのリチウム油中分散体(12.0%)を、1”テフロン(登録商標)被覆攪拌子を装備した120mlのハステロイ缶に装入した。0.34gのLuwaxS乾燥粉末もこの缶に加えた。混合物を5℃/分の速度で周囲温度から75℃に加熱し、10分間保持した。サンプルを5℃/分で75℃から175℃にさらに加熱し、1時間保持した。最終的に混合物を20℃/分の速度で175℃から190℃に加熱し、続いて周囲温度まで徐冷した。この混合物を加熱相の間200rpmで継続的に攪拌した。室温まで冷却した後、サンプルをガラス製保存瓶に移した。さらに、密閉された焼結ガラス製濾過漏斗でリチウム分散体を濾過し、ヘキサンで3回洗浄し、さらに2回n−ペンタンで洗浄して炭化水素油媒質を除去した。漏斗をヒートガンで加熱して微量の溶媒を除去し、得られる易流動性の粉末をしっかり蓋をした保存瓶に移した。
【0025】
図2は、実施例1および実施例5のSEM画像の比較を図示し、多重被覆アプローチの効果を実証する。
【0026】
比較例1
バッテリーグレードのリチウム金属441グラムを2×2インチの試験片に切断し、一定流量の乾燥アルゴン下、室温にて、固定された高速攪拌モータに接続された攪拌軸が取り付けられた4”の上部の付いた3リットルのステンレス鋼製フラスコ反応器に装入した。反応器には上部加熱マントルおよび底部加熱マントルが装備されていた。次いで、反応器を組み立て、1215gのPeneteck(商標)油(Penzoil products社のPenreco、Division)を加えた。次いで、反応器を約200℃に加熱し、250rpm〜800rpmの範囲で穏やかな攪拌を持続して全ての金属を確実に溶融した。次いで、混合物を高速(10,000rpmまで)で2分間攪拌した。オレイン酸4.41gを反応器に装入し、高速攪拌をさらに3分間継続した。次いで、高速攪拌を停止し、加熱マントルを除去して、分散体を約100℃まで放冷し、その時点で32.6グラムのフッ素化剤FC70(パーフルオロペンチルアミン)を、約800rpmで攪拌しながら反応器に装入し、約45℃に冷却されるまで攪拌を継続し、そして保存瓶に移した。さらに、密閉された焼結ガラス製濾過漏斗でリチウム分散体を濾過し、ヘキサンで3回洗浄し、1回n−ペンタンで洗浄して炭化水素油媒質を除去した。漏斗をヒートガンで加熱して、微量の溶媒を除去し、得られる易流動性の粉末をしっかり蓋をした保存瓶に移した。
【0027】
比較例2
バッテリーグレードのリチウム金属441グラムを2×2インチの試験片に切断し、一定流量の乾燥アルゴン下、室温にて、固定された高速攪拌モータに接続された攪拌軸が取り付けられた4”の上部の付いた3リットルのステンレス鋼製フラスコ反応器に装入した。反応器には上部加熱マントルおよび底部加熱マントルが装備されていた。次いで、反応器を組み立て、1215gのPeneteck(商標)油(Penzoil products社のPenreco、Division)を加えた。次いで、反応器を約200℃に加熱し、250rpm〜800rpmの範囲で穏やかな攪拌を持続して全ての金属を確実に溶融した。次いで、混合物を高速(10,000rpmまで)で2分間攪拌した。オレイン酸4.41gを反応器に装入し、高速攪拌をさらに3分間継続した。次いで、高速攪拌を停止し、加熱マントルを除去して、分散体を約100℃まで放冷し、その時点で32.6グラムのフッ素化剤FC70(パーフルオロペンチルアミン)を、約800rpmで攪拌しながら反応器に装入し、約45℃に冷却されるまで攪拌を継続し、そして保存瓶に移した。さらに、密閉された焼結ガラス製濾過漏斗でリチウム分散体を濾過し、ヘキサンで3回洗浄し、1回n−ペンタンで洗浄して炭化水素油媒質を除去した。漏斗をヒートガンで加熱して、微量の溶媒を除去し、得られる易流動性の粉末をしっかり蓋をした保存瓶に移した。実施例1〜4ならびに比較例1および2に関する物理的特性を表1に示す。この表は、物理的特性により、これらの特性が類似しており、表面積効果のないことが実証されることを示す。
【0028】
図3に関して、標準的な空気安定性試験において、実施例1は明らかにより多くの金属リチウムを保持した。リチウム金属粉末はペトリ皿の中で薄い層の状態に広げられ、ある特定の水分/温度条件に曝露される。金属リチウム濃度はモニターされ、ここで金属リチウムがより多く保持されるほど、サンプルの安定性はより良好である。
【表1】

【0029】
図4に関して、0.6%の水ドープしたNMP中の、実施例4および比較例1の安定性の比較が示される。この試験は、COで被覆したSLMPは、水分でドープした溶媒へ曝露して約48時間で暴走反応を示すが、一方、実施例4の本発明に従って製造されたSLMPは湿潤したNMPに対して有意に改良された耐性を有することを示す。実施例4のSLMPは、72時間室温に曝露された場合と約30時間55℃に曝露された場合に暴走反応を有さない。
【0030】
図5に関して、NMP中の、実施例1および実施例5に従って製造されたサンプルの安定性の比較が示される。試験により、実施例1のサンプルを含む反応系について即時の暴走が観察されたことが示され、一方、実施例5のサンプルを含む系について暴走反応は観察されなかったことが示される。試験は30℃にて24時間行われた。
【0031】
このように本発明の特定の実施形態を説明したが、以下に特許請求されるその精神または範囲から逸脱することなく、多くのその明らかな変形形態が可能であるため、添付される特許請求の範囲に定義される本発明が、上記で説明される特定の詳細に限定されるものでないことは当然理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)溶融したリチウム金属を得るために、リチウム金属粉末をその融点より高く加熱するステップと、
(b)前記溶融したリチウム金属を分散するステップと、
(c)リン酸リチウムの実質的に連続した保護層を前記リチウム金属粉末上に得るために、前記分散された溶融リチウム金属をリン含有化合物に接触させるステップと
を含む安定したリチウム金属粉末を提供する方法。
【請求項2】
前記リチウム金属を加熱するステップが、炭化水素油中で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭化水素油が、鉱油、石油、シェール油、および高度精製油からなる群から選択される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記分散された溶融リチウム金属をリン含有化合物に接触させるステップ(c)が、前記溶融したリチウム金属を分散するステップ(b)中に行われる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(b)の前記分散された溶融リチウム金属が、前記ステップ(c)の前に冷却される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
請求項1の方法に従って製造された安定したリチウム金属粉末。
【請求項7】
有機被膜をさらに含む請求項6に記載の安定したリチウム金属粉末。
【請求項8】
前記有機被膜が、ワックスである請求項7に記載の安定したリチウム金属粉末。
【請求項9】
前記リン含有化合物が、リン酸、PおよびPOFからなる群から選択される請求項6に記載の安定したリチウム金属粉末。
【請求項10】
リン酸リチウムの実質的に連続した保護層を有する安定化させたリチウム金属粉末。
【請求項11】
有機被膜層をさらに含む請求項10に記載の安定化させたリチウム金属粉末。
【請求項12】
前記有機層が、ワックスである請求項11に記載の安定化させたリチウム金属粉末。
【請求項13】
(a)溶融したリチウム金属を得るために、リチウム金属粉末をその融点より高く加熱するステップと;
(b)前記溶融したリチウム金属を分散するステップと;
(c)リン酸リチウムの実質的に連続した保護層を前記リチウム金属粉末上に得るために、前記分散された溶融リチウム金属をリン酸に接触させるステップと
を含む安定したリチウム金属粉末を提供する方法。
【請求項14】
前記リチウム金属を加熱するステップが、炭化水素油中で行われる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記炭化水素油が、鉱油、石油、シェール油、および高度精製油からなる群から選択される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記分散された溶融リチウム金属をリン酸に接触させるステップ(c)が、前記溶融したリチウム金属を分散するステップ(b)中に行われる請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記ステップ(b)の前記分散された溶融リチウム金属が、前記ステップ(c)の前に冷却される請求項13に記載の方法。
【請求項18】
請求項13の方法に従って製造された安定したリチウム金属粉末。
【請求項19】
有機被膜をさらに含む請求項18に記載の安定したリチウム金属粉末。
【請求項20】
前記有機被膜が、ワックスである請求項19に記載の安定したリチウム金属粉末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−535936(P2010−535936A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508402(P2010−508402)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/006126
【国際公開番号】WO2008/143854
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(598076270)エフエムシー・コーポレイション (8)
【Fターム(参考)】