説明

リチウム含有遷移金属酸化物ターゲット及びその製造方法並びにリチウムイオン薄膜二次電池

【課題】全固体電池等の薄膜電池で使用する薄膜正極を形成するリチウム含有遷移金属酸化物ターゲット及びその製造方法並びにリチウムイオン薄膜二次電池を提供する。
【解決手段】結晶系が六方晶系を示すリチウム含有遷移金属酸化物の焼結体よりなるターゲットであって、相対密度が90%以上、平均結晶粒径が1μm以上50μm以下の焼結体よりなるリチウム含有遷移金属酸化物ターゲット及び結晶系が六方晶系を示すリチウム含有遷移金属酸化物の焼結体よりなるターゲットであって、CuKα線を使用したX線回折による(003)面、(101)面、(104)面の強度比が次の(1)及び(2)の条件を満たすリチウム含有遷移金属酸化物ターゲット。(1)(003)面に対する(101)面のピーク比が0.4以上1.1以下、(2)(104)面に対する(101)面のピーク比が1.0以上。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元電池、全固体電池等の薄膜電池に使用する薄膜正極を形成するためのリチウム含有遷移金属酸化物ターゲット及びその製造方法並びにリチウムイオン薄膜二次電池、特に、結晶系が六方晶系を示すリチウム含有遷移金属酸化物を用いたターゲット及びその製造方法並びにリチウムイオン薄膜二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高エネルギー密度電池として、非水系のリチウム二次電池の需要が急速に高まっている。このリチウム二次電池は、正極及び負極並びに、これらの電極間に介在する電解質を保持したセパレータの、3つの基本要素から構成されている。
正極及び負極として、活物質、導電材、結合材及び、必要に応じて可塑剤を分散媒に混合分散させたスラリーを金属箔や金属メッシュ等の集電体に担持させて使用されている。
【0003】
電池の正極活物質としてはリチウムと遷移金属との複合酸化物、特にコバルト系複合酸化物、ニッケル系複合酸化物、マンガン系複合酸化物が代表的なものである。これらのリチウム複合酸化物は、一般に主体となる元素の化合物(Mn、Fe、Co、Ni等の炭酸塩、酸化物)とリチウム化合物(炭酸リチウム等)を、所定の割合で混合し、それを熱処理(酸化処理)することにより合成されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
また、Li/金属比が0.97〜1.03であり、放電容量200mAh/gを得ることができるという、Ni:Mn:Co=1:1:1組成の三元系正極材料が提案されている(特許文献4参照)。
この他、Mn, Co, Niの比を所定に調整し酸素雰囲気中で焼成したリチウム二次電池用正極活物質(特許文献5)、同リチウム二次電池用正極活物質(特許文献6)の製造方法がある。
【0004】
このような中で、リチウム二次電池の高出力化の要求に対して、リチウムイオンの拡散距離を短くするために電極の薄膜化が望まれている。電極の薄膜化が達成できれば、著しい電池の小型化が可能となるからである。また、三次元電池や全固体型電池には、電極の薄膜化は不可欠な技術である。
上記引用文献1−6に示すような二次電池用正極活物質を用いた現在の電極膜の製造方法は、たとえば正極では、正極活物質に導電材(アセチレンブラック等の炭素材料)を混合し、この混合粉を有機溶媒(たとえばNMP:N-メチルピロリドン)に溶解したバインダー(たとえばpVdFに代表されるフッ素系樹脂)に加えて、均一に混練し、このスラリーを集電体(たとえばAl箔)上に塗布して乾燥後にプレスして電極膜とする。したがって、電極の厚さは通常50〜100umとなり、十分な薄膜化は達成できない。
電極を薄膜化する1手法として、ゾルゲル法に代表される湿式法が考えられる。しかし、この湿式法は装置面において、低価格で簡易的に作製できるメリットはあるが、工業的な量産は困難であるという問題がある。
【0005】
以上に替わる方法として、乾式法による薄膜の形成法、特にスパッタリング法を用いることが考えられる。このスパッタリング法は、成膜条件の調整が容易であり、半導体基板上に容易に成膜できる利点がある。
しかし、スパッタリング法による成膜には、成膜する元素を供給するためのターゲットが不可欠である。一般に、ターゲットは作製する膜の組成に合わせて準備する必要があり、また成膜中にトラブルを生じさせないことが必要である。
このスパッタリング法を用いてリチウム二次電池用正極活物質を成膜する技術は非常に少ない。その原因は、スパッタリングターゲットのリチウム二次電池用正極物質と成膜されたリチウム二次電池用正極活物質との間に成分組成の相異が生ずる可能性があること、また均一な成膜が可能な程度の高密度ターゲットを得ることができないことが予想されたためと考えられる。したがって、本質的には、これらを解決することが必要となる。
スパッタリング法を用いてリチウム二次電池用正極活物質を成膜する、いくつかの例があるので、それを紹介する。しかし、これらはいずれも限定された組成のもの(LiCoO2)であり、スパッタリングターゲットに関する上記の問題を解決する手段は示されていない。
【0006】
LiCoO2の薄膜正極を作成する場合にスパッタリング法を用いて形成したLiCoO2の薄膜アモルファスを、Ar又はO2雰囲気中650−900°Cでアニールして結晶化する技術(非特許文献1参照)、Ptを被覆したSi上に高周波マグネトロンスパッタによりLiCoO2を(104)優先方位の微細結晶を得、500−700°Cでアニーリングすることにより結晶粒径を微細化する技術(非特許文献2参照)、基板にバイアスをかけて高周波スパッタし、マイクロバッテリーの正極用LiCoO2薄膜を形成する技術(非特許文献3参照)、高周波スパッタによりLiCoO2薄膜を形成する際にrf出力を調整して(101)と(104)が優先方位であり、微細結晶構造の薄膜を得る技術(非特許文献4参照)が開示されている。
これらの開示技術されたスパッタリング法で問題となるのはターゲットであり、このターゲットが成膜の特性に大きく影響する。しかし、上記開示された文献には、リチウム二次電池用正極材の薄膜を形成するためのターゲットに関して、いかなるターゲットが最適であるか、またその製造方法はいかにあるべきか、ということを論じたものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−294364号公報
【特許文献2】特開平11−307094号公報
【特許文献3】特開2005−285572号公報
【特許文献4】特開2003−59490号公報
【特許文献5】特開平2−221379号公報
【特許文献6】特開2002−304993号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「Characteristics of thin film cathodes according to the annealing ambient for the post-annealing process」Journal of Power Sources 134(2004)103-109
【非特許文献2】「Lithium cobalt oxide film prepared by rf sputtering」Journal of Power Sources 128(2004)263-269
【非特許文献3】「Bias sputtering and characterization of LiCoO2 thin film cathodes for thin film microbattery」Materials Chemistry and Physics 93(2005)70-78
【非特許文献4】「As-deposited LiCoO2 thin film cathodes prepared by rf magnetron sputtering」Electrochimica Acta 51(2005)268-273
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記に鑑み、本発明者らは、三次元電池、全固体電池等の薄膜電池で使用する薄膜正極を形成するための最適なリチウム含有遷移金属酸化物ターゲット及びその製造方法並びにリチウムイオン薄膜二次電池を提供する。特に、均質性に優れた薄膜を得ることができる正極材ターゲットを得ることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題に鑑み、本発明は以下の発明を提供するものである。
1)結晶系が六方晶系を示すリチウム含有遷移金属酸化物の焼結体よりなるターゲットであって、相対密度が90%以上、平均結晶粒径が1μm以上50μm以下の焼結体よりなるリチウム含有遷移金属酸化物ターゲット。この相対密度が90%以上、平均結晶粒径が1μm以上50μm以下の焼結体ターゲットであることは、リチウム含有遷移金属酸化物の薄膜を形成する上で、非常に重要である。以上から、目的とする膜の成分組成に変動を生じさせないことはもとより、スパッタ膜は、均一性が必要でありかつパーティクルの発生がなく安定した膜が形成されることが必要であり、上記の要件は、これを達成する必要不可欠な条件である。
また、この条件は、結晶系が六方晶系を示すリチウム含有遷移金属酸化物からなる最適な薄膜正極を作製する上で、リチウム含有遷移金属酸化物からなる全てのターゲットに共通する問題であり、本願発明は、これを解決することができる。
【0011】
2)結晶系が六方晶系を示すリチウム含有遷移金属酸化物の焼結体よりなるターゲットであって、相対密度が90%以上、平均結晶粒径が1μm以上50μm以下の焼結体よりなり、CuKα線を使用したX線回折による(003)面、(101)面、(104)面の強度比が下記の条件を満たすリチウム含有遷移金属酸化物ターゲット。
(1)(003)面に対する(101)面のピーク比が0.4以上1.1以下
(2)(104)面に対する(101)面のピーク比が1.0以上
(003)面、(101)面、(104)面の強度比も亦、パーティクルの発生に大きく影響を与える。後述する実施例及び比較例に示すように、前記(1)及び(2)の条件を外れるとパーティクルが発生する。この条件内であれば、パーティクルの抑制効果が認められた。すなわち、(003)面、(101)面、(104)面の強度比の単独の調整によって、パーティクルの発生に対する抑制効果があることが分かる。
【0012】
3)結晶系が六方晶系を示すリチウム含有遷移金属酸化物の焼結体よりなるターゲットであって、CuKα線を使用したX線回折による(003)面、(101)面、(104)面の強度比が以下の条件を満たす1)記載のリチウム含有遷移金属酸化物ターゲット。
(1)(003)面に対する(101)面のピーク比が0.4以上1.1以下
(2)(104)面に対する(101)面のピーク比が1.0以上
この場合は、(003)面、(101)面、(104)面の強度比の調整を行った場合であり、かつ相対密度が90%以上、平均結晶粒径が1μm以上50μm以下である条件を伴うものであるので、当然ながらパーティクルの抑制効果は高く、安定したスパッタリングにより良質のリチウムイオン薄膜を得ることができる。
【0013】
4)遷移金属がNi、Co、Mnの少なくとも一つからなる1)〜3)のいずれかに記載のリチウム含有遷移金属酸化物ターゲット。
5)Li/遷移金属のモル比が1.1以上、1.3以下であるリチウム含有遷移金属塩を原料とし、これを酸化して結晶系が六方晶系を示すリチウム含有遷移金属酸化物を生成し、当該リチウム含有遷移金属酸化物を成形・焼結して相対密度が90%以上、平均結晶粒径が1μm以上50μm以下の焼結体を製造するリチウム含有遷移金属酸化物ターゲットの製造方法。
このように、前駆体の段階で、Li/遷移金属のモル比が1.1以上、1.3以下に調整することにより、膜の均質性を高め、組成のずれを抑制し、パーティクルの発生を防止することができる。
【0014】
6)結晶系が六方晶系を示すリチウム含有遷移金属酸化物の焼結体よりなるターゲットであって、CuKα線を使用したX線回折による(003)面、(101)面、(104)面の強度比が以下の条件を満たす5)記載のリチウム含有遷移金属酸化物ターゲットの製造方法。
(1)(003)面に対する(101)面のピーク比が0.4以上1.1以下
(2)(104)面に対する(101)面のピーク比が1.0以上
7)遷移金属がNi、Co、Mnの少なくとも一つからなる5)又は6)記載のリチウム含有遷移金属酸化物ターゲットの製造方法。
8)1)〜5)のリチウム含有遷移金属酸化物ターゲットをスパッタすることにより得られた薄膜を正極活物質とするリチウムイオン薄膜二次電池。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリチウム含有遷移金属酸化物ターゲットは、相対密度が90%以上と極めて高く、平均結晶粒径が微細であり、かつ1μm以上50μm以下に調整されているため、また(003)面、(101)面、(104)面の強度比が最適に調整されていることにより、スパッタ膜の均一性に富み、スパッタリング時にパーティクルの発生がなく、さらに成膜の歩留りを向上させ、安定した品質の正極活物質からなる薄膜を得ることができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のリチウム含有遷移金属酸化物ターゲットの製造に際しては、あらかじめ膜組成を構成する全元素を含む前駆体を作製し、これを酸化することで、ターゲット材の原料を作製する。そして、この原料を成形、焼結することによりターゲットを作製するものである。
ターゲット材の原料は、結晶系が六方晶系を示すリチウム含有遷移金属酸化物である。具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)及びこれら2種類とマンガン酸リチウム(LiMnO2)の3種類から2種類を任意の組成で選択した固溶体(LiMnCoO2、LiMnNiO2、LiCoNiO2)及び3種類を任意の組成で選択した固溶体(LiMnCoNiO2)が挙げられる。
これらの結晶系が六方晶系を示す酸化物を原料として、成形、焼結によりターゲットを作製する。ターゲットの結晶構造も六方晶系を示す。
【0017】
前駆体はあらかじめ膜組成を構成するリチウムを含む全元素から構成されることが重要である。これにより、組成の均一化が図られるとともに、成膜時の組成ずれも極力抑制できる効果がある。
成膜時の組成ずれは、成形後の焼成温度が前駆体の酸化処理温度に比べて高くなることから不可避的である。したがって、Li/遷移金属のモル比は1.1以上にすること、特に、1.1以上1.3以下であることが必要である。
1.1未満では、Liの飛散により組成が化学量論比を下回ることが予想される。逆に、1.3を超えると、Li比率が高くなり、成膜時に膜の均質化を妨げるとともに、ノジュールの原因となり、膜のパーティクル発生の原因となる。
【0018】
ターゲットは、相対密度90%以上で、平均結晶粒径が1〜50μmであるものが好ましい。相対密度はターゲットのノジュール発生と関連があり、90%未満ではノジュールの発生確率が高くなり、成膜時のパーティクル発生を引き起こすため、好ましくない。相対密度は、特に92%以上がより好ましく、さらに95%以上がより望ましい。
平均結晶粒径は膜の均一性と相関があり、1μm以上50μm以下が好ましい。特に、5μm以上40μm以下がより好ましい。一方、1μm未満の場合は、相対密度の向上が困難となるので好ましくない。また、50μmを越えると、膜の均一性を保つことが困難となる。また、平均結晶粒径が上記の範囲外であるとパーティクルの発生が増加し、好ましくない。
【0019】
また、結晶系が六方晶系を示す本発明のターゲットを、CuKα線によるX線回折法により測定し、ピーク強度を詳細に検討したところ、通常のリチウム含有遷移金属酸化物粉末のX線回折に比べ、以下の特徴があることを見出した。これらは、ターゲット独特のものである。
すなわち、(1)(003)面のピーク強度I(003)に対する(101)面のピーク強度I(101)の比I(101)/I(003)が0.4以上、1.1以下となり、(2)(104)面のピーク強度I(104)に対する(101)面のピーク強度I(101)の比I(101)/I(104)が1.0以上となる著しい特徴を有する。このX線回折法により測定したピーク強度の関係は、本願発明のリチウム含有遷移金属酸化物ターゲットを特徴付けることができる。
【0020】
リチウム含有遷移金属酸化物の製造に際しては、特開2005-285572に示される方法を用いることができる。この方法により製造される正極材料用ターゲットの前駆体は、各金属元素がナノレベルで均一に分散していることから、緻密なターゲットを製造する上で、より好ましいと言える。
例えば、Mn、Co及びNiから選択された金属元素の一種以上の金属塩溶液を準備し、水中に炭酸リチウムを懸濁させ、該炭酸リチウム懸濁液に準備した金属塩溶液を投入して前駆体(炭酸塩)を製造することができる。また、金属塩溶液には、可溶性の塩が使用でき、具体的には、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等の溶液が使用できる。この場合、少量のAl、Si、Mg、Ca、Ti又はCr等の異種元素(電池特性改善元素として知られているドープ元素)の金属塩水溶液を加えても良い。本発明は、これらを包含する。
炭酸リチウム懸濁量(w:モル)は、次式にしたがって決定することができる。
[w=全金属成分量(モル)×(1+0.5x)](但しx:正極材料に必要なLi量/全金属成分量)
【0021】
このようにして作製した炭酸塩ケーキをろ過、洗浄、乾燥してLi含有複合金属炭酸塩粉末を得る。さらに、得られた炭酸塩を飽和炭酸リチウム溶液又はエタノールで洗浄する。そして、得られた炭酸塩前駆体を、さらに800〜1100°C、1〜10時間大気中で酸化処理する。ろ過、洗浄、乾燥及び酸化については、工業的に用いられる、ごく一般的な方法で充分である。すなわち、ろ過、洗浄では、減圧ろ過、フィルタープレス等が使用できる。乾燥・酸化については、静置炉や連続炉の他、噴霧乾燥等も利用できる。
酸化処理したリチウム含有遷移金属酸化物粒子の集合体は、適宜粒度調整する。粒度調整は工業的に用いられるごく一般的な方法、すなわち粉砕機や分級機等を使用することができる。このようにして製造したリチウム含有遷移金属酸化物粒子を、さらに大気焼結して、ターゲットとする。
【実施例】
【0022】
以下、実施例及び比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例のみに制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想に含まれる他の態様または変形を包含するものである。
炭酸リチウムと各種金属塩化物を原料として、前駆体となる炭酸塩を作製し、これを乾燥後、焼成条件をかえて酸化して種々のターゲット原料とする。具体的には、炭酸リチウム懸濁液に、金属塩溶液(塩化物溶液、硫酸塩溶液又は硝酸塩溶液)を投入して炭酸塩を析出させる。炭酸リチウム懸濁量(w:モル)は、次式にしたがって決定する。[w=全金属成分量(モル)×(1+0.5x)、但しx:正極材料に必要なLi量/全金属成分量]
作製した炭酸塩前駆体は、さらに800〜1100°Cで1〜10時間、大気中で酸化処理し種々のターゲット原料とする。
【0023】
(実施例1−24、比較例1−6)
<ターゲット原料の作製>
上記の通り、炭酸リチウムを水中に溶解・懸濁させ、これに所定量のNi塩、Mn塩、Co塩を溶解した金属塩溶液を滴下し、炭酸塩を作製した。
表1、表2、表3に、それぞれ一元系(LiCoO2、LiNiO2)、二元系((LiMnCoO2、LiMnNiO2、LiCoNiO2)、三元系(LiMnCoNiO2)の原料を示す。
金属塩は、塩化物、硫酸塩又は硝酸塩を使用した。前駆体に含有するLi/金属比及びターゲット原料のLi/金属比は、組成はICPにより分析を行った。それぞれ表1(実施例1−8、比較例1−2)、表2(実施例9−20、比較例3−5)、表3(実施例21−24、比較例6)に示す通りである。
この炭酸塩前駆体を大気中で930℃、3時間酸化処理して、正極薄膜用ターゲット原料粉とした。この原料粉体はX線回折により、いずれも六方晶であることを確認した。
【0024】
(ターゲットの作製)
前記ターゲット原料粉を一軸成形し、大気中で焼結した。焼結温度は、前記酸化処理温度よりも150°C〜250°C高い温度で焼結し、ターゲットを作製した。組成はICPにより分析を行い、ターゲットのLi/金属比は、それぞれ表1、2、3に示す通りであった。
また、XRD回折より層状構造であることを確認した。相対密度はターゲットの密度をアルキメデス法で測定し、XRD密度との比を求めた。結晶粒径は研磨面の光学顕微鏡写真から切片法で求めた。ターゲットの相対密度はいずれも90%を超え、平均結晶粒径は、5〜40μmであった。
【0025】
(スパッタリングによる薄膜の作製)
このターゲットを機械加工して、Cu製のバッキングプレートをつけて、スパッタリング用のターゲットとし、3インチ基板用スパッタ装置で薄膜を作製した。500°Cに加熱したガラス基板上に成膜を行った。成膜は約5000Å行った。
パーティクルの発生は、成膜時のターゲット基板上のノジュール発生に起因し、一般的に高密度であれば、ノジュールは出にくくなる。また、結晶粒径が微細なほど、膜は均一でパーティクルも少なくなる傾向にあった。
【0026】
実施例1−8及び比較例1、2の成膜の状況を、表1(一元系:LiCoO2、LiNiO2)にまとめた。また、実施例9−20、比較例3−5の成膜の状況を表2(二元系:LiMnCoO2、LiMnNiO2、LiCoNiO2)にまとめた。さらに実施例21−24及び比較例6の成膜の状況を表3(三元系:LiMnCoNiO2)にまとめた。成膜の状況は、パーティクル発生状況から判断し、「あり」、「なし」で表示した。
【0027】
表1に示すように、一元系の材料(LiCoO2、LiNiO2)では、前駆体のLi/遷移金属モル比が1.4(本発明の1.3を超える条件)の比較例1と比較例2でパーティクルの発生が見られたが、実施例1−8の前駆体のLi/遷移金属モル比が1.1−1.3の範囲にあるものでは、パーティクルの発生がなかった。このように、前駆体のLi/遷移金属モル比の調整は、パーティクル防止に有効であることが分かる。
【0028】
表2に示すように、二元系の材料(LiMnCoO2、LiMnNiO2、LiCoNiO2)では、前駆体のLi/遷移金属モル比が1.4(本発明の1.3を超える条件)の比較例3、比較例4、比較例5でパーティクルの発生が見られたが、実施例9−20の前駆体のLi/遷移金属モル比が1.1−1.3の範囲にあるものでは、パーティクルの発生がなかった。このように、前駆体のLi/遷移金属モル比の調整は、同様にパーティクル防止に有効であることが分かる。
【0029】
表3に示すように、三元系の材料(LiMnCoNiO2)では、前駆体のLi/遷移金属モル比が1.4(本発明の1.3を超える条件)の比較例6でパーティクルの発生が見られたが、実施例21−24の前駆体のLi/遷移金属モル比が1.1−1.3の範囲にあるものでは、パーティクルの発生がなかった。このように、前駆体のLi/遷移金属モル比の調整は、同様にパーティクル防止に有効であることが分かる。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
(実施例25−42、比較例7−18)
<ターゲットのX線回折によるピーク強度比とパーティクルの発生状況の調査>
Li/遷移金属モル比が1.15に当たる前駆体を作製し、前記と同様に酸化処理し、ターゲットの原料粉末とした。このときのターゲット原料粉末のLi/遷移金属モル比は1.10であった。そして、X線回折によって、六方晶系であることを確認した。この原料粉を用いて、同様に酸化処理温度よりも150から250°C高い温度でターゲットを作製した。そして、このようにして得たターゲットのX線回折により(101)面、(003)面、(104)面のピーク強度を調査した。
この結果を表4(一元系:LiCoO2、LiNiO2)に、表5(二元系:LiMnCoO2、LiMnNiO2、LiCoNiO2)に表6(三元系:LiMnCoNiO2)にまとめた。成膜の状況は、パーティクル発生状況から判断し、「あり」、「なし」で表示した。
【0034】
【表4】

【0035】
【表5】

【0036】
【表6】

【0037】
表4に示すように、一元系の材料(LiCoO2、LiNiO2)では、I(101)/ I(104)が0.5(本発明の条件1.0以上)と小さい比較例7と比較例9及びI(101)/ I(003)が1.3(本発明の条件1.1以下)と大きい比較例8と比較例10については、パーティクルの発生が見られたが、実施例25−30のI(101)/ I(104)が1.1にあるもの及びI(101)/ I(003)が0.4−1.1の範囲にあるものでは、パーティクルの発生がなかった。このように、ターゲットの(101)面、(003)面、(104)面のピーク強度の調整は、パーティクル防止に有効であることが分かる。
【0038】
表5に示すように、二元系の材料(LiMnCoO2、LiMnNiO2、LiCoNiO2)では、I(101)/ I(104)が0.5、0.3、0.7(本発明の条件1.0以上)と小さい比較例11、比較例13、比較例15及びI(101)/ I(003)が1.3(本発明の条件1.1以下)と大きい比較例12、比較例14、比較例16については、パーティクルの発生が見られた。なお、比較例13については、I(101)/ I(003)の下限値も外れていた。
これに対し、実施例31−39のI(101)/ I(104)が1.1−1.8にあるもの及びI(101)/ I(003)が0.4−1.1の範囲にあるものでは、パーティクルの発生がなかった。このように、ターゲットの(101)面、(003)面、(104)面のピーク強度の調整は、パーティクル防止に有効であることが分かる。
【0039】
表6に示すように、三元系の材料(LiMnCoNiO2)では、I(101)/ I(104)が0.5(本発明の条件1.0以上)と小さい比較例17及びI(101)/ I(003)が1.3(本発明の条件1.1以下)と大きい比較例18については、パーティクルの発生が見られた。なお、比較例17については、I(101)/ I(003)の下限値も外れていた。
これに対し、実施例40−42のI(101)/ I(104)が1.1−1.3にあるもの及びI(101)/ I(003)が0.4−1.1の範囲にあるものでは、パーティクルの発生がなかった。このように、ターゲットの(101)面、(003)面、(104)面のピーク強度の調整は、パーティクル防止に有効であることが分かる。
【0040】
(スパッタリングにより作製した薄膜の評価)
上記実施例1−42のサンプルについて、作製した薄膜のラマンスペクトルを測定し、膜の結晶構造が層状構造であることを確認した。
【0041】
(電池特性の評価)
ガラス基板の代わりにAl箔を使用し、同様にして実施例42の条件で薄膜を形成し、これを正極として電池特性を測定した。対極をLiとした評価用の2032型コインセルを作製し、電解液に1M−LiPF6をEC-DMC(1:1)に溶解したものを用いて、充電条件を4.3VのCCCV、放電条件を3.0VのCCで充放電を行ったところ、初期充電容量165mAh/g、初期放電容量150mAh/g、初期効率91%なる結果を得た。これにより、薄膜正極としての電気化学的機能を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
三次元電池、全固体電池等の薄膜電池で使用する薄膜正極を形成するための最適なリチウム含有遷移金属酸化物ターゲット及びその製造方法並びにリチウムイオン薄膜二次電池を提供することができる。このターゲットを用いてスパッタリングすることによりパーティクルの発生がなく、均質性に富む薄膜を得ることができるという優れた効果を有するので、リチウムイオン薄膜二次電池用材料として有用であり、さらに電池の小型化に適用できる著しい効果を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶系が六方晶系を示すリチウム含有遷移金属酸化物の焼結体よりなるターゲットであって、相対密度が90%以上、平均結晶粒径が1μm以上50μm以下の焼結体よりなるリチウム含有遷移金属酸化物ターゲット。
【請求項2】
結晶系が六方晶系を示すリチウム含有遷移金属酸化物の焼結体よりなるターゲットであって、相対密度が90%以上、平均結晶粒径が1μm以上50μm以下の焼結体よりなり、CuKα線を使用したX線回折による(003)面、(101)面、(104)面の強度比が下記の条件を満たすリチウム含有遷移金属酸化物ターゲット。
(1)(003)面に対する(101)面のピーク比が0.4以上1.1以下
(2)(104)面に対する(101)面のピーク比が1.0以上
【請求項3】
結晶系が六方晶系を示すリチウム含有遷移金属酸化物の焼結体よりなるターゲットであって、CuKα線を使用したX線回折による(003)面、(101)面、(104)面の強度比が以下の条件を満たす請求項1記載のリチウム含有遷移金属酸化物ターゲット。
(1)(003)面に対する(101)面のピーク比が0.4以上1.1以下
(2)(104)面に対する(101)面のピーク比が1.0以上
【請求項4】
遷移金属がNi、Co、Mnの少なくとも一つからなる請求項1〜3のいずれかに記載のリチウム含有遷移金属酸化物ターゲット。
【請求項5】
Li/遷移金属のモル比が1.1以上、1.3以下であるリチウム含有遷移金属塩を原料とし、これを酸化して結晶系が六方晶系を示すリチウム含有遷移金属酸化物を生成し、当該リチウム含有遷移金属酸化物を成形・焼結して相対密度が90%以上、平均結晶粒径が1μm以上50μm以下の焼結体を製造するリチウム含有遷移金属酸化物ターゲットの製造方法。
【請求項6】
結晶系が六方晶系を示すリチウム含有遷移金属酸化物の焼結体よりなるターゲットであって、CuKα線を使用したX線回折による(003)面、(101)面、(104)面の強度比が以下の条件を満たす請求項5記載のリチウム含有遷移金属酸化物ターゲットの製造方法。
(1)(003)面に対する(101)面のピーク比が0.4以上1.1以下
(2)(104)面に対する(101)面のピーク比が1.0以上
【請求項7】
遷移金属がNi、Co、Mnの少なくとも一つからなる請求項5又は6記載のリチウム含有遷移金属酸化物ターゲットの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のリチウム含有遷移金属酸化物ターゲットをスパッタすることにより得られた薄膜を正極活物質とするリチウムイオン薄膜二次電池。

【公開番号】特開2012−164671(P2012−164671A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−85108(P2012−85108)
【出願日】平成24年4月4日(2012.4.4)
【分割の表示】特願2008−526692(P2008−526692)の分割
【原出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】