説明

リッジ型半導体レーザ

【課題】別途エッチングストッパ層を追加することなく選択エッチングによりリッジを形成でき、閾値電流が小さく、効率が良いリッジ型半導体レーザを得る。
【解決手段】n型InP基板10(基板)上に、n型InPクラッド層12(n型クラッド層)、InGaAsP多重量子井戸層16(InGaAsP活性層)、第1のp型InPクラッド層20、p型Al(Ga)InAs電子障壁層22、第2のp型InPクラッド層24及びp型InGaAsPコンタクト層26(p型コンタクト層)が順番に形成されている。そして、p型Al(Ga)InAs電子障壁層22をエッチングストッパ層として、p型InGaAsPコンタクト層26及び第2のp型InPクラッド層24が選択エッチングされてリッジ28が形成されている。リッジ28と第1のp型InPクラッド層20との間の全面にp型Al(Ga)InAs電子障壁層22が存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信システムなどで用いられるリッジ型半導体レーザに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信システムなどにおいて、電流狭窄と水平方向の光閉込のために半導体層をリッジ型にエッチングしたリッジ型半導体レーザが用いられている。従来のリッジ型半導体レーザでは、例えば、n型InP基板上に、n型InPクラッド層、n型InGaAsP光閉込層、InGaAsP多重量子井戸層、p型InGaAsP光閉込層、p型InPクラッド層及びp型InGaAsPコンタクト層が順番に形成されている。そして、p型InGaAsPコンタクト層からp型InPクラッド層の途中までエッチングされてリッジが形成されている。
【0003】
半導体レーザをレーザ発振させるためには、電子を多重量子井戸層内に蓄積して反転分布を形成する必要がある。しかし、従来のリッジ型半導体レーザでは、p型InPクラッド層の多重量子井戸層に対する伝導帯障壁の高さが数十meVと小さい。このため、電子密度が1E18cm−3近くになると、電子がp型InPクラッド層に溢れ出す現象(オーバーフロー)が顕著となる。従って、閾値電流が大きく、半導体レーザの効率が悪いという問題点があった。
【0004】
このようなオーバーフローを防止するため、多重量子井戸層の上に、p型InPクラッド層よりも不純物濃度が高いp型InPキャリアストップ層を形成したリッジ型半導体レーザが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−95822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のp型InPキャリアストップ層は、p型InPクラッド層と構成物質が同じであるため、リッジを形成する際のエッチングストッパ層の役割を果たすことはできない。従って、選択エッチングによりリッジを形成する場合は、別途エッチングストッパ層を追加しなければならなかった。
【0007】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、別途エッチングストッパ層を追加することなく選択エッチングによりリッジを形成でき、閾値電流が小さく、効率が良いリッジ型半導体レーザを得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基板上に、n型クラッド層、InGaAsP活性層、第1のp型InPクラッド層、p型Al(Ga)InAs電子障壁層、第2のp型InPクラッド層及びp型コンタクト層が順番に形成され、前記p型Al(Ga)InAs電子障壁層をエッチングストッパ層として、前記p型コンタクト層及び前記第2のp型InPクラッド層が選択エッチングされてリッジが形成され、前記リッジと前記第1のp型InPクラッド層との間の全面に前記p型Al(Ga)InAs電子障壁層が存在することを特徴とするリッジ型半導体レーザである。本発明のその他の特徴は以下に明らかにする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、別途エッチングストッパ層を追加することなく選択エッチングによりリッジを形成でき、閾値電流が小さく、効率が良いリッジ型半導体レーザを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るリッジ型半導体レーザを示す断面図である。n型InP基板10(基板)上に、n型InPクラッド層12(n型クラッド層)、n型InGaAsP光閉込層14、InGaAsP多重量子井戸層16(InGaAsP活性層)、p型InGaAsP光閉込層18、第1のp型InPクラッド層20、p型Al(Ga)InAs電子障壁層22、第2のp型InPクラッド層24及びp型InGaAsPコンタクト層26(p型コンタクト層)が順番に形成されている。そして、p型Al(Ga)InAs電子障壁層22をエッチングストッパ層として、p型InGaAsPコンタクト層26及び第2のp型InPクラッド層24がエッチングされてリッジ28が形成されている。リッジ28と第1のp型InPクラッド層20との間の全面にp型Al(Ga)InAs電子障壁層22が存在する。
【0011】
リッジ28の両側のp型Al(Ga)InAs電子障壁層22上及びリッジ28の側壁にSiO絶縁膜30が形成されている。リッジ28上におけるSiO絶縁膜30の開口を介して、p型InGaAsPコンタクト層26と接続するようにTi/Pt/Auアノード電極32が形成されている。n型InP基板10の底面にAuGeNiカソード電極34が形成されている。
【0012】
次に、本発明の実施の形態1に係るリッジ型半導体レーザの製造方法について説明する。図2,3は、本発明の実施の形態1に係るリッジ型半導体レーザの製造方法を説明するための断面図である。
【0013】
まず、図2に示すように、n型InP基板10上に、n型InPクラッド層12、n型InGaAsP光閉込層14、InGaAsP多重量子井戸層16、p型InGaAsP光閉込層18、第1のp型InPクラッド層20、p型Al(Ga)InAs電子障壁層22、第2のp型InPクラッド層24及びp型InGaAsPコンタクト層26を順番に形成する。そして、p型InGaAsPコンタクト層26上にフォトリソグラフィなどによりレジストパターン36を形成する。
【0014】
次に、図3に示すように、レジストパターン36をマスクとし、p型Al(Ga)InAs電子障壁層22をエッチングストッパ層として、p型InGaAsPコンタクト層26及び第2のp型InPクラッド層24をドライエッチング又はウェットエッチングして、リッジ28を形成する。ウェットエッチングの薬液としては、塩酸・燐酸混合液を用いることができる。また、ドライエッチングのエッチングガスとしては、メタン・水素・酸素の混合ガスを用いることができる。何れの場合でもAl(Ga)InAsに対してInPを選択的にエッチングすることができる。
【0015】
その後、レジストパターン36を除去する。さらに、図1に示すように、SiO絶縁膜30、Ti/Pt/Auアノード電極32及びAuGeNiカソード電極34を形成することで本実施の形態に係るリッジ型半導体レーザが製造される。
【0016】
本実施の形態に係るリッジ型半導体レーザの効果について参考例と比較しながら説明する。図4は、参考例に係るリッジ型半導体レーザを示す断面図である。また、図5は参考例に係るリッジ型半導体レーザの電流とレーザ出力の関係を示す図であり、図6は本発明の実施の形態1に係るリッジ型半導体レーザの電流とレーザ出力の関係を示す図である。
【0017】
参考例では、実施の形態1と比べてp型Al(Ga)InAs電子障壁層22が存在せず、p型InGaAsPコンタクト層26からp型InPクラッド層38の途中までエッチングされてリッジ28が形成されている。一方、実施の形態1では、リッジ28と第1のp型InPクラッド層20との間の全面にp型Al(Ga)InAs電子障壁層22が存在する。
【0018】
p型Al(Ga)InAs電子障壁層22はGaの添加量を減少させることにより、電子に対する障壁高さをInPよりも最大約100meV大きくすることができる。このため、p型Al(Ga)InAs電子障壁層22は、InGaAsP多重量子井戸層16から第2のp型InPクラッド層24に向かう電子に対する障壁層となる。従って、半導体レーザに電流を注入する際にInGaAsP多重量子井戸層16に電子が蓄積されやすくなる。この結果、図5,6に示すように、実施の形態1に係る半導体レーザは参考例に係る半導体レーザよりも閾値電流が小さくなる。従って、効率が良いリッジ型半導体レーザを得ることができる。
【0019】
また、リッジ28を形成する際にp型Al(Ga)InAs電子障壁層22をエッチングストッパ層として兼用することで、別途エッチングストッパ層を追加することなく選択エッチングによりリッジ28を形成できる。
【0020】
なお、p型Al(Ga)InAs電子障壁層22のキャリア濃度が0.7E18cm−3以上となるように、p型ドーパントであるZnをドーピングすることが好ましい。これにより、電子に対する障壁高さを十分得ることができる。ただし、p型Al(Ga)InAs電子障壁層22のキャリア濃度は、通常使用される1.0E19cm−3以下が適当である。
【0021】
また、InGaAsP多重量子井戸層16をn型にドーピングし、キャリア濃度を1.0E18cm−3以上にすることが好ましい。これにより、量子井戸が光利得を得るのに必要な電子及び正孔のキャリア密度(1.0〜2.0E18cm−3)に達するのに必要な注入電流を小さくすることができ、半導体レーザの閾値電流を低減することができる。ただし、InGaAsP多重量子井戸層16のキャリア濃度は、通常使用される1.0E19cm−3以下が適当である。
【0022】
また、第1のp型InPクラッド層20のキャリア濃度を2.0E18cm−3以上とすることが好ましい。これにより、電子電流が第1のp型InPクラッド層20に流れ込みにくくなるので、InGaAsP多重量子井戸層16に電子が蓄積しやすくなり、半導体レーザの閾値電流を低減することができる。ただし、第1のp型InPクラッド層20のキャリア濃度のキャリア濃度は、通常使用される1.0E19cm−3以下が適当である。
【0023】
実施の形態2.
図7は、本発明の実施の形態2に係るリッジ型半導体レーザの共振器方向の垂直断面図である。この半導体レーザは、第1のp型InPクラッド層20に回折格子40が形成された分布帰還半導体レーザである。回折格子40はp型にドーピングされている。その他の構成は実施の形態1と同じであり、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0024】
実施の形態3.
図8は、本発明の実施の形態3に係るリッジ型半導体レーザの共振器方向の垂直断面図である。この半導体レーザは、第2のp型InPクラッド層24に回折格子40が形成された分布帰還半導体レーザである。回折格子40はp型にドーピングされている。その他の構成は実施の形態1と同じであり、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0025】
実施の形態4.
図9は、本発明の実施の形態4に係るリッジ型半導体レーザの共振器方向の垂直断面図である。この半導体レーザは、n型InPクラッド層12に回折格子40が形成された分布帰還半導体レーザである。回折格子40はn型にドーピングされている。その他の構成は実施の形態1と同じであり、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0026】
実施の形態5.
図10は、本発明の実施の形態5に係る光集積回路の共振器方向の垂直断面図である。この光集積回路は、分布帰還半導体レーザと光変調器とを集積したものである。n型InPクラッド層12上に、光変調器のn型InGaAsP光閉込層42、光変調器のInGaAsP多重量子井戸光吸収層44、光変調器のp型InGaAsP光閉込層46、光変調器のp型InPクラッド層48が順番に形成されている。このような光集積回路でも実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態1に係るリッジ型半導体レーザを示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るリッジ型半導体レーザの製造方法を説明するための断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係るリッジ型半導体レーザの製造方法を説明するための断面図である。
【図4】参考例に係るリッジ型半導体レーザを示す断面図である。
【図5】参考例に係るリッジ型半導体レーザの電流とレーザ出力の関係を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係るリッジ型半導体レーザの電流とレーザ出力の関係を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係るリッジ型半導体レーザの共振器方向の垂直断面図である。
【図8】本発明の実施の形態3に係るリッジ型半導体レーザの共振器方向の垂直断面図である。
【図9】本発明の実施の形態4に係るリッジ型半導体レーザの共振器方向の垂直断面図である。
【図10】本発明の実施の形態5に係る光集積回路の共振器方向の垂直断面図である。
【符号の説明】
【0028】
10 n型InP基板
12 n型InPクラッド層
14 n型InGaAsP光閉込層
16 InGaAsP多重量子井戸層
18 p型InGaAsP光閉込層
20 第1のp型InPクラッド層
22 p型Al(Ga)InAs電子障壁層
24 第2のp型InPクラッド層
26 p型InGaAsPコンタクト層
28 リッジ
40 回折格子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、n型クラッド層、InGaAsP活性層、第1のp型InPクラッド層、p型Al(Ga)InAs電子障壁層、第2のp型InPクラッド層及びp型コンタクト層が順番に形成され、
前記p型Al(Ga)InAs電子障壁層をエッチングストッパ層として、前記p型コンタクト層及び前記第2のp型InPクラッド層が選択エッチングされてリッジが形成され、
前記リッジと前記第1のp型InPクラッド層との間の全面に前記p型Al(Ga)InAs電子障壁層が存在することを特徴とするリッジ型半導体レーザ。
【請求項2】
前記p型Al(Ga)InAs電子障壁層のキャリア濃度が0.7E18cm−3以上1.0E19cm−3以下であることを特徴とする請求項1に記載のリッジ型半導体レーザ。
【請求項3】
前記InGaAsP活性層は、n型であって、キャリア濃度が1.0E18cm−3以上1.0E19cm−3以下であることを特徴とする請求項1に記載のリッジ型半導体レーザ。
【請求項4】
前記第1のp型InPクラッド層のキャリア濃度が2.0E18cm−3以上1.0E19cm−3以下であることを特徴とする請求項1に記載のリッジ型半導体レーザ。
【請求項5】
前記第1のp型InPクラッド層、前記第2のp型InPクラッド層及び前記n型クラッド層の何れかに回折格子が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のリッジ型半導体レーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−98201(P2010−98201A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269299(P2008−269299)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】