説明

リニア型大気圧グロー放電プラズマ処理方法及びリニア型大気圧グロー放電プラズマ処理装置

【課題】 大面積の被処理基材をできるだけ少ない回数で効率的に表面処理するため、大気圧近傍の圧力下でアーク放電に移行させることなく均一かつ安定的に幕状のグロー放電プラズマを発生させる方法を提供する。
【解決手段】 対向して配置される一対の円柱状電極の少なくとも一方の対向面を固体絶縁体で密着させて覆い、該電極間のライン状の空隙に幕状の放電ガスを吹き付け、大気圧近傍圧力下で前記電極間に正弦波の高電圧高周波電界を印加して前記空隙にグロー放電プラズマを発生させ、プラズマ流の下流側で基材の表面処理を行う方法において、電極の寸法・形状や配置、放電ガスの種類・組成や吹出し条件、電極間の静電容量、電極間に印加する電界の条件などを所定の範囲内に限定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧近傍の圧力下においてグロー放電プラズマを用いて、板状ないしシート状の大面積の基材表面での、改質や接着性改善、レジストの剥離、金属酸化物の還元や製膜、付着物質の除去、などの処理を行う方法、並びにその方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、低圧条件下でグロー放電プラズマを発生させ、この時放電プラズマ中に生成する活性化学種を用いて表面処理を行う方法が実用化されている。しかし、低圧条件下における処理は、低圧条件を実現するために真空排気装置等の装置を必要とし、製造コストやプロセスの簡便性の面で工業的には不利である。このため、大気圧近傍の圧力で、かつヘリウムまたは、アルゴンとアセトンの混合ガスの雰囲気中でグロー放電プラズマを発生させる方法が提案され、例えば特許文献1にその内容が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平4−74525号公報
【0004】
ところで、幅50cm以上、長さ1m以上の大面積の板状ないしシート状の基材を大気圧近傍の圧力下でグロー放電プラズマによって表面処理するには、幕状の幅広いグロー放電プラズマを発生させ、この時生成した活性化学種(ラジカル)をプラズマ下流に輸送して基材に対して相対的に移動させながら基材表面に吹き付けると効率的に処理を行なうことができる。
【0005】
図7はこのような処理に適した装置の一例を主要部の断面構造で概念的に示したものである。この装置では、一対の長尺状電極51A、51B間に、放電ガス吹出し部52から放電ガス53を吹き出させるとともに、正弦波の高電圧高周波電界を印加してグロー放電プラズマ54を発生させて幕状の幅広い活性化学種55を生成させ、これをプラズマ流に載せて基材57の表面に吹き付ける。一対の電極51A、51B、放電ガス吹出し部52などを収納したグロー放電プラズマ発生部56は、例えば図中の矢印方向に移動させる。なお、電極51A、51B間には、アーク放電への移行を防ぐため必要に応じて、放電ガスの流通を妨げない程度の適当な厚さの固体絶縁体58を電極51A、51Bの少なくとも一方の対向面に接触させて配置する。
【0006】
この種の処理に比較的近い内容に関する技術は、被処理基材がどの程度の面積のものまで処理可能であるかは明確でないが、例えば特許文献2及び3に開示されている。
【0007】
【特許文献2】特開平5−275193号公報
【特許文献3】特開平4−358076号公報
【0008】
しかし従来は、電極部の構造及び電気的条件、電極間に印加する電界エネルギー、電極間に吹き付ける放電ガスの吹出速度、等に関してどのような条件が適切かが把握されていなかったため、放電が安定せずバラツキがあり、電極の長さ方向での放電が不均一になるという大きな欠点があった。このため、特に50cmないしそれ以上の幅の広い幕状のグロー放電プラズマを生成するのが難しく、面積の大きい板状ないしシート状基材に適用した場合は、基材の場所によって表面処理状態にムラが生じ、目的の使用に適さないという問題を引き起こしていた。また、グロー放電の状態を長時間保持するのも難しく、場合によってはアーク放電状態に移行するケースもあり、その場合、電極や放電空間が高温となり、電極の損耗や被処理基材の破損を招くという問題もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の問題に鑑み、電極部の構造及び電気的条件、電極間に印加する電界エネルギー、電極間に吹き付ける放電ガスの吹出速度、等の条件の検討を経てなされたものであって、50cmないしそれ以上の幅の広い幕状のグロー放電プラズマを、大気圧近傍の圧力下で均一でしかも安定して継続的に発生させ、それによって表面処理を行う方法を提供すること、並びにその処理に使用する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のリニア型大気圧グロー放電プラズマ処理方法は、両者の距離が略一定で対向して配置される一対の円柱状電極と、該電極の少なくとも一方の長手方向に延伸し同電極の対向面を密着して覆ってなる固体絶縁体と、が形成する電極と固体絶縁体との間または固体絶縁体と固体絶縁体との間のライン状の空隙に向けて前記電極の長手方向に延伸した幕状の放電ガスを吹き付け、大気圧近傍の圧力下で前記電極間に正弦波の高電圧高周波電界を印加することにより前記ライン状の空隙にグロー放電プラズマを発生させ、これにより生成した活性化学種を含む反応性ガスをプラズマ生成領域の下流に輸送して基材の表面処理を行う方法であって、前記一対の電極は互いに長さが実質的に同等で長さ方向に互いにずらして対向配置され、前記幕状の放電ガスが吹き出す放電ガス吹出口は形状がスリット状の長穴でありその寸法は短辺が前記電極と前記固体絶縁体との間または前記固体絶縁体と前記固体絶縁体との間の最短距離の50%以上100%以下の大きさで長辺が前記一対の電極の対向し合う長さと同等であり、電極の対向し合う電極間隙に対向して配置し、前記放電ガスは種類及び組成が原子量10以上または分子量10以上の原子または分子を10体積%以上含有する不活性ガスでありその吹出速度が放電ガス吹出口の長辺の長さ1cm当たり毎分4リットル以上8リットル以下であり、前記固体絶縁体は比誘電率が3以上10以下であり、前記電極間の1メートル当たりの静電容量は大気圧グロー放電プラズマが発生していない状態で5pF以上30pF以下であり、前記電極間に印加される電界は周波数が10kHz以上100kHz以下の範囲の正弦波の高周波電界であり、電界強度が3kV/mm以上30kV/mm以下であり、かつ入力電力が前記放電ガス吹出口の長辺の長さ1cm当たり20W以上30W以下であることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明のリニア型大気圧グロー放電プラズマ処理方法は、上記特徴に加えて、前記固体絶縁体は厚さが1mm以上2mm以下であり、かつ前記電極と前記固体絶縁体との間または前記固体絶縁体と前記固体絶縁体との間の最短距離は0.5mm以上3mm以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明のリニア型大気圧グロー放電プラズマ処理装置は、両者の距離が略一定で対向して配置される一対の円柱状電極と、該電極の少なくとも一方の長手方向に延伸し同電極の対向面を密着して覆ってなる固体絶縁体と、前記電極の長手方向に延伸した開口部を有し該開口部から前記電極と前記固体絶縁体または前記固体絶縁体と前記固体絶縁体の間のライン状の空隙に向けて幕状の放電ガスを吹き付け可能に配置してなる放電ガス吹出部と、前記電極間に正弦波の高電圧高周波電界を印加する手段と、を具備し、大気圧近傍の圧力下で前記電界印加手段により前記ライン状の空隙にグロー放電プラズマを発生させ、これにより生成した活性化学種をプラズマ生成領域の下流に輸送して基材の表面処理を行う装置であって、前記一対の電極は互いに長さが実質的に同等で長さ方向に互いにずらして対向配置され、前記幕状の放電ガスが吹き出す放電ガス吹出口は形状がスリット状の長穴でありその寸法は短辺が前記電極と前記固体絶縁体との間または前記固体絶縁体と前記固体絶縁体との間の最短距離の50%以上100%以下の大きさで長辺が前記一対の電極の対向し合う長さと同等であり、電極の対向し合う電極間隙に対向して配置し、前記放電ガスは種類及び組成が原子量10以上または分子量10以上の原子または分子を10体積%以上含有する不活性ガスでありその吹出速度が放電ガス吹出口の長辺の長さ1cm当たり毎分4リットル以上8リットル以下であり、前記固体絶縁体は比誘電率が3以上10以下であり、前記電極間の1メートル当たりの静電容量は大気圧グロー放電プラズマが発生していない状態で5pF以上30pF以下であり、前記電極間に印加される電界は周波数が10kHz以上100kHz以下の範囲の正弦波の高周波電界であり、電界強度が3kV/mm以上30kV/mm以下であり、かつ入力電力が前記放電ガス吹出口の長辺の長さ1cm当たり20W以上30W以下であることを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明のリニア型大気圧グロー放電プラズマ処理装置は、上記特徴に加えて、前記固体絶縁体は厚さが1mm以上2mm以下であり、かつ前記電極と前記固体絶縁体との間または前記固体絶縁体と前記固体絶縁体との間の最短距離は0.5mm以上3mm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法及び装置によれば、電極の構成や配置、放電ガスの種類、組成、吹出速度等の、大気圧グロー放電プラズマを発生させるための諸条件を前記のように選定し、中でも特に、固体絶縁体で覆われた一対の電極間の1メートル当たりの静電容量を5pF以上30pF以下としたので、前記一対の電極が小容量高耐圧コンデンサーを構成し、これが高いリアクタンス成分となり、電極間に流れる高周波電流が制限されるため、アーク放電状態に移行することが阻止される。また、電極の長さ方向の放電に関しても、高いリアクタンス成分が定電流素子として機能するため、放電抵抗のバラツキが無視でき、放電のバラツキがなくなり、電極の長さ方向の放電が均一になるという利点がある。そこで、大気圧近傍の圧力下で50cmないしそれ以上の幅の広い幕状のグロー放電プラズマを、アーク放電状態に移行することなく、均一でしかも安定して継続的に発生させることができ、従って、幅50cm以上、長さ1m以上の大面積の板状ないしシート状の基材をできるだけ少ない回数で効率的に表面処理することができるという優れた効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明におけるグロー放電プラズマの発生は、一対の円柱状対向電極を有し、該電極の対向面の少なくとも一方に固体絶縁体が長手方向に密着して設置されている装置を用い、前記電極の一方に固体絶縁体を密着して設置した場合は固体絶縁体と電極の間に、前記電極の双方に固体絶縁体を設置した場合は固体絶縁体同士の間に形成されるライン状の空間に向けて前記電極の長手方向に延伸した幕状の放電ガスを吹き付け、大気圧近傍の圧力下で前記電極間に正弦波の高電圧高周波電界を印加することによって行なわれる。固体絶縁体によって円柱状電極が完全に包囲されるようにするため、固体絶縁体の形状は円筒状であるのが好ましい。
【0016】
電極の配置は、長さの等しい一対の円柱状電極を長さ方向に互いにずらした対向配置とする。また、電極の一部に密着しこれを包囲する円筒状固体絶縁体は、両電極が対向し合う部分では電極を完全に包囲するとともに、片方の電極が突き出し両電極が対向し合わない部分では該固体絶縁体の両端部の少なくとも一方を長手方向に延長して配置する。図8は、円柱状電極1A、1Bと円筒状固体絶縁体2A、2Bの相対的位置関係の説明図である。固体絶縁体2A、2Bの端部の延長の方向は1本の電極につき、自己の電極が突き出している側(図8でa方向)と対向電極の方が突き出している側(b方向)の2方向がありうるが、そのうち少なくとも1方向に延長して配置する必要がある。その際、固体絶縁体の、電極が対向し合わない部分に延長される長さ(図8でL)は30mm以上確保されることが望ましい。図8(i)は固体絶縁体2A、2Bが前記a方向、b方向の両方に延長された場合を、図8(ii)は前記a方向にのみ延長された場合を、図8(iii)は前記b方向にのみ延長された場合を示している。前記条件を満たす円柱状電極と円筒状固体絶縁体の相対的位置関係はこれらの他にもあるが、図8では省略している。後述する図1の実施例においては、図8(ii)に示す位置関係になっている。なお、このような措置を取るのは、電力の入力端を確保するとともに、接近した電極間に高電圧が印加されるので、一対の対向電極の端部間で放電が起きるのを防ぐためである。
【0017】
前記電極間に吹き付ける放電ガスの形状を前記のように幕状とするには、既知の手法を用いて、ノズル等の放電ガスを放電ガス吹出し手段に導入すればよい。例えば、放電ガス吹出し手段のガス流上流側端部に多数の放電ガス導入口を設ける。
【0018】
板状ないしシート状の大面積の基材の表面処理に適するように幕状のグロー放電プラズマを生成するには、前記対向電極間で発生させたグロー放電プラズマを、両電極間の放電空間の外に延伸させる必要がある。放電ガス吹出口が両電極間の上方に配置される場合は、前記グロー放電プラズマを両電極間の下に伸ばす必要がある。なお、この幕状のグロー放電プラズマは、両電極間の放電空間に束縛されているグロー放電プラズマの本体と該グロー放電プラズマ本体内で生成した活性化学種を主体とする幕状のガス流とから構成されていると考えられている。そして、この活性化学種を主体とする幕状のガス流が基材の表面に接触して作用する。本発明では、スリット状の長穴形状とした放電ガス吹出口から該吹出口の長さ1cm当たり毎分4リットル以上8リットル以下の吹出速度で放電ガスを吹き付ける。このガス流に輸送され、両電極間の下に約5mmの延伸長の幕状のグロー放電プラズマが生成される。該放電ガスの吹出速度が毎分4リットル未満の場合は、ガス流が弱すぎて、幕状のグロー放電プラズマが両電極間の下に十分な長さで延伸しない。逆に毎分8リットルを超えると、ガス流が強すぎて、均一で安定した幕状のグロー放電プラズマが得られない不具合が生じる。なお、放電ガス吹出口は電極の対向し合う部分の電極間隙に対向して配置し、放電ガス吹出口から吹き出させる放電ガスが対向する両電極の間の中央を流れるようにする。
【0019】
スリット状の長穴形状を有する前記放電ガス吹出口の寸法は、短辺(幅)が、放電プラズマの生成空間の幅、すなわち電極と固体絶縁体との間または固体絶縁体と固体絶縁体との間の距離、の50%以上100%以下の大きさで、長辺が、帯状放電プラズマの生成空間の長手方向の長さ、すなわち一対の電極の対向し合う長さ、と同等とする。前記放電ガス吹出口の短辺は、電極と固体絶縁体との間または固体絶縁体と固体絶縁体との間の距離の50%未満にすると、供給される放電ガス流が細すぎて、均一で安定した幕状のグロー放電プラズマを得るのが困難となり、100%を超えると、幕状のグロー放電プラズマが両電極間の下に十分な長さで延伸しない。なお、均一で安定した幕状のグロー放電プラズマを生成させるには、前記放電ガス吹出口の長さと幅の比は100対1から1000対1の範囲が好ましい。
【0020】
本発明の装置に供給する前記放電ガスは、ヘリウムより多数の電子を有する原子が高濃度に存在する雰囲気、具体的には原子量10以上または分子量10以上の原子または分子を10体積%以上含有する不活性ガスが好ましい。これによって、安定したグロー放電を可能にし、高密度のプラズマ状態を実現する。
【0021】
前記放電プラズマを発生させた空間に導入する気体(以下、処理用ガスという)は任意に選択が可能である。例えば、処理用ガスとしてフッ素含有化合物ガスを用いることによって、基材表面にフッ素含有基を形成させて表面エネルギーを低くし、撥水性を付与する処理を行なうことができる。また、Si、Ti、Sn等の金属の金属−水素化合物、金属−ハロゲン化合物、金属アルコラート等の化合物の気体を処理用ガスとして用いて、SiO、TiO、SnO等の金属酸化物薄膜を形成させ、基材表面に電気的、光学的機能を与えることができる。
【0022】
前記大気圧近傍の圧力下とは、0.02MPa以上0.11MPa以下程度の圧力をさす。中でも、圧力調整が容易で装置構成が簡素になる0.09MPa以上0.11MPa以下の範囲が望ましい。
【0023】
本発明における表面処理が施される基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂等のプラスチック、ガラス、セラミック、金属等が挙げられる。基材の形状としては、板状、シート状のものが好適であるが、本発明はこれらに限定されることはなく、様々な形状を有する基材の処理に容易に対応することができる。
【0024】
前記電極としては、銅、アルミニウム等の金属単体、ステンレス、真鍮等の合金、金属間化合物等からなるものを材料として用いることができる。前記電極の形態は、固体絶縁体による包囲が容易で、また材料として入手が容易な、円柱状のものが好ましい。なお、該電極の長さと外径の比は、例えば10対1から200対1程度である。
【0025】
前記対向電極は、電界集中による局部放電の発生を避けるため、対向電極間の距離がほぼ一定になるように平行に配置する。また、前記固体絶縁体は、前記電極の対向面の一方または双方に密着させて配置する。この際、固体絶縁体が設置される側の電極は、アーク放電への移行を避けるため、その対向面を完全に覆われるようにする。
【0026】
前記電極と前記固体絶縁体との間または前記固体絶縁体と前記固体絶縁体との間の距離は、前記電極間に配置する固体絶縁体の厚さ、印加電圧の大きさ、プラズマの利用目的等を考慮して決定するが、0.5mm以上3mm以下であることが好ましい。0.5mm未満では、前記固体絶縁体を前記対向電極の少なくとも一方に密着させつつ対向電極と平行に配置することが難しい。3mmを超えると、電極間に絶縁破壊を誘起し難くなり、グロー放電プラズマを生成するのが困難となる。
【0027】
前記固体絶縁体の形状は、板状等でもよいが、電極間の絶縁破壊を確実に防ぐには、円筒状であることが好ましく、その円筒の厚さは1mm以上2mm以下であるのが望ましい。1mmより薄いと電極間に正弦波の高電圧高周波電圧を印加した時に長さ方向の放電の均一性が失われる。2mmを超えると、電極と固体絶縁体との間または固体絶縁体と固体絶縁体との間のグロー放電の発生を円滑に行なえなくなる。
【0028】
前記固体絶縁体の材料には、石英ガラス、アルミナ等の、金属酸化物から構成される物質を用いることができる。また、前記固体絶縁体の比誘電率は3以上10以下であることが好ましい。石英ガラスの比誘電率が3.8前後、アルミナの比誘電率が8.5前後であることはよく知られている。比誘電率が10を超える固体絶縁体を用いると、電極間にアーク放電が発生し易くなる問題点がある。逆に、比誘電率が3未満であれば、電極間に高電圧を印加してもグロー放電プラズマを生成し難くなる。
【0029】
本発明においては、一対の対向電極、固体絶縁体を以上のように構成し配置することによって、該電極間の1メートル当たりの静電容量を大気圧グロー放電プラズマが発生していない状態で5pF以上30pF以下とする。これにより、対向電極間に小容量高耐圧コンデンサーが構成される。この小容量高耐圧コンデンサーは高いリアクタンス成分となり、電極間に流れる高周波電流が制限されるため、アーク放電状態に移行することが阻止される。また、電極の長さ方向の放電に関しても、高いリアクタンス成分が定電流素子として機能するため、放電抵抗のバラツキが無視でき、放電のバラツキがなくなり、電極の長さ方向の放電が均一になる。この静電容量が5pF未満の場合は、グロー放電プラズマは生成するが、プラズマエネルギーが小さいため、5万ボルト以上の高電圧が必要になるが、これに適した電源装置の製作が容易でないという問題がある。一方、30pFを超えると、前記対向電極間に生成したグロー放電は均一にならず、またアーク放電に移行し易くなり、好ましくない。
【0030】
その上で、前記電極間に、周波数が10kHz以上100kHz以下、電界強度が3kV/mm以上30kV/mm以下で、長穴形状の放電ガス吹出口の長辺の長さ1cm当たりの入力電力が20W以上30W以下である正弦波の高周波電界を印加する。10kHz未満であるとプラズマ密度が低いため処理に長時間を要し、100kHzを超えると浮遊容量、寄生インダクタンス等の影響により高電圧を発生させるのが難しくなる。好ましい周波数は20kHz付近であり、この周波数では容易に高電圧を得ることができ、大電力化も可能で、処理速度を大きく向上させることができる。なお、長穴形状の放電ガス吹出口の長辺の長さ1cm当たりの入力電力は、20W未満の場合はグロー放電プラズマによる活性化学種の生成が十分でなく、また30Wを超えると電源装置の製作が困難であり、電極が蓄熱されるため放熱手段が必要になるという問題があり、好ましくない。
【0031】
本発明の装置の電極間に正弦波の高電圧高周波電圧を印加した時の電圧波形及び電流波形を図3に示す。また、図3における電流波形の一部拡大図を図4に示す。電流波形には一連のパルス状の波形が間歇的に現われているが、電圧波形は間歇的ではなく周期関数的で連続している。電流波形の立上り、立下り時間は昇圧トランス、電極間の浮遊容量、寄生インダクタンス等によって決定される。一般に、電流波形の基本波成分が印加電圧の周波数より高いのは、印加電圧の緩やかな増加に対応して電極間で電流が振動し、電極間を交互に移動するためである。この現象は雷の放電でも観測されている。
【0032】
図5は、本発明の装置の回路図である。また図6は、正弦波の高電圧高周波電界を印加する電源(正弦波インバータ)の一例の動作原理を示す回路図である。図6においてSWはスイッチとして機能する半導体素子を表わす。このスイッチとして500ns以下のターンオン時間及びターンオフ時間を有する半導体素子を用いることにより、上記のように電界強度が3kV/mm以上30kV/mm以下であり、かつ周波数の上限が100kHzであるような高電圧かつ高周波の電界を実現することができる。
【0033】
以下、図6の原理図を参照して、電源の原理を簡単に説明する。Vccは、正極性の直流電圧供給部、SW1、SW2は、上記のような高速半導体素子から構成されるスイッチ素子である。I1、I2は電流の流れの方向を表わしている。SW1、SW2を交互に開閉することによって、並列同調回路に正弦波電圧が得られる。
【0034】
上記の方法により得られる放電において、対向電極間の放電電流密度は0.1mA/cm以上10mA/cm以下となされていることが好ましい。前記放電電流密度とは、放電により電極間に流れる電流値を、放電空間における電流の流れ方向と直交する方向の面積で除した値を言い、電極として平行平板型を用いた場合には、その対向面積で上記電流値を除した値に相当する。大気圧近傍の圧力下でのグロー放電では、放電電流密度がプラズマ密度を反映し、表面処理効果を左右する。
【実施例1】
【0035】
図1は本発明のリニア型大気圧グロー放電プラズマ処理装置の要部を斜視的に示した外観図である。図2は、図1の装置要部の垂直断面の概略図である。1A、1Bで示される一対の電極は、長手方向に互いにずらして対向配置した、外径11Φ、長さ700mmのステンレス製円柱状電極である。その外周はそれぞれ、外径15Φ、長さ600mm、肉厚1.5mm、比誘電率3.8の石英ガラス管2A、2Bで包囲し、円柱状電極1A、1Bの対向部位3A、3Bにて石英ガラス管2A、2Bと密着させた。互いに並行する石英ガラス管2A、2B間の対向距離は1.5mmとした。円柱状電極1A、1B間の対向距離は略4.5mmであった。放電ガス吹出しノズル4は、長手方向の寸法が600mmであり、電極1A、1B間の上方で石英ガラス管2A、2Bと長手方向で重なるように配置し、下面に放電ガス吹出口5を形成する開口部を下に突き出して配設した。放電ガス吹出口5は幅1mm、長さ590mmのスリット状の長穴に形成した。表面処理すべき基材9は、電極1A、1B間の下方で、電極1A、1Bに平行に配置した。石英ガラス管2A、2Bと基材9との距離は、例えば2mmとした。
【0036】
プラズマ発生の手順は、吹出口5から吹き出させる放電ガス6として、例えば窒素ガスを選択し、まず放電ガス吹出口5の長手方向の長さ1cm当たり6リットルの吹出速度で吹き出させた。次いで、円柱状対向電極1A、1B間に周波数20kHz、電界強度20kV/mm、入力電力1.5kWの正弦波高周波電界を印加して、石英ガラス管2A、2B間の空間に幕状のグロー放電プラズマを生成させた。この幕状のグロー放電プラズマは、電極1A、1B間の放電空間に束縛されたグロー放電プラズマ本体7と活性化学種のガス流8とから構成されていると考えられている。なお、図1及び図2では、放電ガスを放電ガス吹出しノズル4に導入するための放電ガス導入口及びその周辺部分は省略されており、また石英ガラス管2A、2Bは分かり易くするため肉厚を線で表現してある。
【0037】
この動作条件で、幅500mm、長さ1mの板状ポリエチレンテレフタレート(PET)基材を適当な基材移動手段により2m/secの速度で移動させながらプラズマ処理を行なったところ、処理前に87度であった接触角が43度に減少することを確認できた。また、上記PET基材と同寸法の、液晶ディスプレイ等に使用されるガラス板にプラズマ処理を施したところ、処理前に40度であった接触角が3.3度に減少することが確認できた。なお、当該装置のプラズマ処理可能な幅は略550mmであった。
【0038】
以上の説明では、リニア型大気圧グロー放電プラズマ処理装置を1台だけ使用して表面処理を行なう例を取り上げたが、本発明では、これに限定されることはなく、複数台組み合わせて使用してもよい。そうすればさらに大面積の基材を処理することが可能になる。例えば1m×1mの平板基材の表面をプラズマ処理するには、前記実施例1で用いたリニア型大気圧グロー放電プラズマ処理装置をその長手方向に2台並べて配置し、その下方で該基材を移動させる。但し、該処理装置の長手方向の端部にはプラズマ処理できない領域が存在するので、2台の処理装置は、各装置のプラズマ処理可能な幅(略550mm)が該基材表面を完全に掃引し尽くすように適宜ずらして並べる必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の方法により発生させた放電プラズマは、例えば、放電プラズマに励起された化学種と基材表面の反応を利用した表面改質処理に利用が可能であり、板状ないしシート状の大面積の基材を短時間で連続して効率的に表面処理するのに有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のリニア型大気圧グロー放電プラズマ処理装置のプラズマ発生部の概要とプラズマ処理の様子を斜視的に示した外観図である。
【図2】図1のプラズマ処理装置のプラズマ発生部の要部の概略垂直断面図である。
【図3】本発明のリニア型大気圧グロー放電プラズマ処理装置の電極間に正弦波の高電圧高周波電圧を印加した時の電圧波形及び電流波形を示す図である。
【図4】図3における電流波形の一部拡大図である。
【図5】本発明のリニア型大気圧グロー放電プラズマ処理装置の回路図である。
【図6】正弦波の高電圧高周波電界を印加する電源(正弦波インバータ)の一例の動作原理を示す回路図である。
【図7】大面積の基材に対する従来の大気圧グロー放電プラズマ処理方法を説明する図である。
【図8】本発明のリニア型大気圧グロー放電プラズマ処理装置における電極と固体絶縁体の位置関係を説明するための概念図である。
【符号の説明】
【0041】
1A、1B… 円柱状電極
2A、2B… 石英ガラス管
3A、3B… 円柱状電極の対抗部位
4… 放電ガス吹出しノズル
5… 放電ガス吹出口
6… 放電ガス
7… グロー放電プラズマ本体
8… 活性化学種のガス流
9… 基材
51A、51B… 電極
52… 放電ガス吹出し部
53… 放電ガス
54… グロー放電プラズマ
55… 活性化学種
56… グロー放電プラズマ部
57… 基材
58… 固体誘電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両者の距離が略一定で対向して配置される一対の円柱状電極と、該電極の少なくとも一方の長手方向に延伸し同電極の対向面を密着して覆ってなる固体絶縁体と、が形成する電極と固体絶縁体との間または固体絶縁体と固体絶縁体との間のライン状の空隙に向けて前記電極の長手方向に延伸した幕状の放電ガスを吹き付け、大気圧近傍の圧力下で前記電極間に正弦波の高電圧高周波電界を印加することにより前記ライン状の空隙にグロー放電プラズマを発生させ、これにより生成した活性化学種をプラズマ生成領域の下流に輸送して基材の表面処理を行う方法であって、前記一対の電極は互いに長さが実質的に同等で長さ方向に互いにずらして対向配置され、前記幕状の放電ガスが吹き出す放電ガス吹出口は形状がスリット状の長穴でありその寸法は短辺が前記電極と前記固体絶縁体との間または前記固体絶縁体と前記固体絶縁体との間の最短距離の50%以上100%以下の大きさで長辺が前記一対の電極の対向し合う長さと同等であり、電極の対向し合う電極間隙に対向して配置し、前記放電ガスは種類及び組成が原子量10以上または分子量10以上の原子または分子を10体積%以上含有する不活性ガスでありその吹出速度が放電ガス吹出口の長辺の長さ1cm当たり毎分4リットル以上8リットル以下であり、前記固体絶縁体は比誘電率が3以上10以下であり、前記電極間の1メートル当たりの静電容量は5pF以上30pF以下であり、前記電極間に印加される電界は周波数が10kHz以上100kHz以下の範囲の正弦波の高周波電界であり、電界強度が3kV/mm以上30kV/mm以下であり、かつ入力電力が前記放電ガス吹出口の長辺の長さ1cm当たり20W以上30W以下であることを特徴とするリニア型大気圧グロー放電プラズマ処理方法。
【請求項2】
前記固体絶縁体は厚さが1mm以上2mm以下であり、かつ前記電極と前記固体絶縁体との間または前記固体絶縁体と前記固体絶縁体との間の最短距離は0.5mm以上3mm以下であることを特徴とする請求項1に記載のリニア型大気圧グロー放電プラズマ処理方法。
【請求項3】
両者の距離が略一定で対向して配置される一対の円柱状電極と、該電極の少なくとも一方の長手方向に延伸し同電極の対向面を密着して覆ってなる固体絶縁体と、前記電極の長手方向に延伸した開口部を有し該開口部から前記電極と前記固体絶縁体または前記固体絶縁体と前記固体絶縁体の間のライン状の空隙に向けて幕状の放電ガスを吹き付け可能に配置してなる放電ガス吹出部と、前記電極間に正弦波の高電圧高周波電界を印加する手段と、を具備し、大気圧近傍の圧力下で前記電界印加手段により前記ライン状の空隙にグロー放電プラズマを発生させ、これにより生成した活性化学種をプラズマ生成領域の下流に輸送して基材の表面処理を行う装置であって、前記一対の電極は互いに長さが実質的に同等で長さ方向に互いにずらして対向配置され、前記幕状の放電ガスが吹き出す放電ガス吹出口は形状がスリット状の長穴でありその寸法は短辺が前記電極と前記固体絶縁体との間または前記固体絶縁体と前記固体絶縁体との間の最短距離の50%以上100%以下の大きさで長辺が前記一対の電極の対向し合う長さと同等であり、電極の対向し合う電極間隙に対向して配置し、前記放電ガスは種類及び組成が原子量10以上または分子量10以上の原子または分子を10体積%以上含有する不活性ガスでありその吹出速度が放電ガス吹出口の長辺の長さ1cm当たり毎分4リットル以上8リットル以下であり、前記固体絶縁体は比誘電率が3以上10以下であり、前記電極間の1メートル当たりの静電容量は5pF以上30pF以下であり、前記電極間に印加される電界は周波数が10kHz以上100kHz以下の範囲の正弦波の高周波電界であり、電界強度が3kV/mm以上30kV/mm以下であり、かつ入力電力が前記放電ガス吹出口の長辺の長さ1cm当たり20W以上30W以下であることを特徴とするリニア型大気圧グロー放電プラズマ処理装置。
【請求項4】
前記固体絶縁体は厚さが1mm以上2mm以下であり、かつ前記電極と前記固体絶縁体との間または前記固体絶縁体と前記固体絶縁体との間の最短距離は0.5mm以上3mm以下であることを特徴とする請求項3に記載のリニア型大気圧グロー放電プラズマ処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−26710(P2007−26710A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−203080(P2005−203080)
【出願日】平成17年7月12日(2005.7.12)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】