説明

リブ付き構造の繊維強化樹脂材とその製造方法

【課題】繊維強化樹脂からなるリブ付きパネルにおいて、リブが取り付けられた表面と反対側のパネル表面に生じ得るヒケが効果的に解消されたリブ付き構造の繊維強化樹脂材とその製造方法を提供する。
【解決手段】パネル1の表面にリブ2を有するリブ付き構造の繊維強化樹脂材10であって、パネル1とリブ2はともに熱可塑性樹脂の内部に重量平均繊維長が10〜30mmの繊維材5,3が混合された素材から形成されており、リブ2を形成する素材の重量平均繊維長の割合はパネル1を形成する素材の重量平均繊維長の割合に比して低くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂からなるパネルに繊維強化樹脂からなるリブが設けられて強度が高められたリブ付き構造の繊維強化樹脂材とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂に強化用繊維材が混入されてなる繊維強化樹脂材(繊維強化プラスチック(FRP))は、軽量かつ高強度であることから、自動車産業、建設産業、航空産業等、広い産業分野で使用されている。
【0003】
たとえば自動車産業においては、環境負荷影響等に優しい車両としてハイブリッド自動車や電気自動車が注目されており、その一層の小型化、軽量化、高性能化を目指した開発が自動車メーカー各社、自動車関連メーカー各社で日々進められている。これらの所謂エコカーのみならずその他一般のガソリン車両やディーゼル車両を含む車両の全般に対して、車両の軽量化と高剛性化の双方を満足する部材として繊維強化樹脂材を車両ボディー用パネルの一部または全部に適用しようとするニーズが高まっているのが現状である。
【0004】
このように車両のボディー部材として繊維強化部材が適用される際には、フラットな2次元形状や湾曲した3次元形状、フラットな領域と湾曲した領域からなる3次元形状といった様々な形状を呈するパネルの剛性を高めたり、パネルの曲げ強度やせん断強度といった強度を高めるために、パネルの表面にリブを設けたリブ付き構造の繊維強化樹脂材が適用されることが多い。
【0005】
このようにパネルをリブで補強したリブ付き構造の繊維強化樹脂材に関する従来技術として特許文献1に開示の繊維強化樹脂成形品を挙げることができる。この繊維強化樹脂成形品は、リブを含むパネルのすべてにおいて、繊維長が0.5mm以下の繊維が30重量%以下、1.5mm以上の繊維が20重量%以上であり、かつ成形品中の繊維の重量平均繊維長をL(mm)、繊維含有量をV(重量%)とした際に、20≦L×V≦500の関係を満足する繊維強化樹脂成形品である。そして、このような構成を適用することにより、薄肉成形品のリブやボスなどの厚肉部の反対側の成形品表面に、ヒケの発生のない成形品が得られるとしている。
【0006】
上記特許文献1で開示される繊維強化樹脂成形品は、パネルとリブに対して一律に同様の関係式が適用されて繊維長や繊維含有量を規定するものであり、双方の繊維長分布も同一であると考えられるが、本発明者等によれば、パネルとリブで繊維長分布の割合が同程度の場合にはパネル表面にヒケが生じ易いことが特定されている。より具体的には、パネルの表面にリブが取り付けられた構成における該パネルの反対側の表面においてヒケが生じ易いというものである。このことから、特許文献1で記載する構成の成形品を製造した際に、ここで記載するようにヒケの存在しない成形品が得られるという効果が実際に奏されるか否かは極めて不確かである。
【0007】
したがって、繊維強化樹脂からなるパネルに繊維強化樹脂からなるリブが設けられたリブ付き構造の繊維強化樹脂材において、パネルの表面に生じ得るヒケが解消された繊維強化樹脂材とその製造方法の発案が当該技術分野で切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−226984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、繊維強化樹脂からなるリブ付きパネルにおいて、リブが取り付けられた表面と反対側のパネル表面に生じ得るヒケが効果的に解消されたリブ付き構造の繊維強化樹脂材とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明によるリブ付き構造の繊維強化樹脂材は、パネルの表面にリブを有するリブ付き構造の繊維強化樹脂材であって、パネルとリブはともに熱可塑性樹脂の内部に重量平均繊維長が10〜30mmの繊維材が混合された素材から形成されており、リブを形成する素材の重量平均繊維長の割合がパネルを形成する素材の重量平均繊維長の割合に比して低いものである。
【0011】
既述するように、パネルはフラットな2次元形状や様々な3次元形状を呈し、この表面に任意長さでかつ任意形状のリブが任意の基数設けられてパネルの強度が強化されている。また、リブの立設形態は、パネルに対して垂直方向に立設した形態のほか、所定角度傾斜した方向に立設した形態も含まれる。
【0012】
パネルとリブを形成する熱可塑性樹脂は同一種の樹脂を使用してもよいし、異なる樹脂を使用してもよく、適用される熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、メタクリル樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミド、熱可塑性エポキシ樹脂などのいずれか一種もしくは2種以上の混合材を挙げることができる。
【0013】
また、熱可塑性樹脂内に含有される繊維材としては、ボロンやアルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニアなどのセラミック繊維や、ガラス繊維や炭素繊維といった無機繊維、銅や鋼、アルミニウム、ステンレス等の金属繊維、ポリアミドやポリエステルなどの有機繊維のいずれか一種もしくは2種以上の混合材を挙げることができる。
【0014】
パネルとリブを形成する熱可塑性樹脂の内部に含有される繊維材は、その臨界アスペクト比(繊維材の直径に対する長さの比であって、ここでの「臨界」とは曲げ強度や衝撃強度のピーク値のこと)を与える10〜30mmの重量平均繊維長のものが適用され、さらに、リブを形成する素材の重量平均繊維長の割合はパネルを形成する素材の重量平均繊維長の割合に比して低くなっている。
【0015】
ここで、「重量平均繊維長」とは、様々な長さの繊維がそれぞれ、全体重量に対してどれくらいの重量割合で含まれているかの観点から算出された繊維長の平均値のことである。また、「重量平均繊維長の割合」とは、重量平均繊維長の長さの繊維がどれくらいの割合で含まれているかを示す値である。たとえば重量平均繊維長が20mmとした際に、繊維を含む熱可塑性樹脂から樹脂成分を除去して繊維のみを抽出し、分級して繊維長と配合率の分布図を作成し、20mmの長さの繊維がどれくらいの割合で含まれているかを算出する。分級精度によって重量平均繊維長の値にある程度の誤差(たとえば±5mm程度)が存在するが、この誤差範囲に含まれるものを重量平均繊維長としてプロットし、その分布図を作成し、この分布図から重量平均繊維長の割合を読み取ることができる。
【0016】
すなわち、リブを形成する素材の繊維長と配合率を座標軸とする重量平均繊維長に関するグラフを作成した際に、このグラフは配合率のピークとなる繊維長を挟んで比較的ブロードな(繊維長分布の広い)グラフとなり、一方でパネルを形成する素材の重量平均繊維長に関するグラフは配合率のピークとなる繊維長を挟んで比較的シャープな(繊維長分布の狭い)グラフとなる。
【0017】
このように、リブを形成する素材の重量平均繊維長の割合がパネルを形成する素材の重量平均繊維長の割合に比して低くなっていることで、パネルには相対的に長繊維の繊維材が適用されてパネルの曲げ強度等を向上させることができ、リブには比較的多くの短繊維が適用されることで成形型内の成形性を向上させ、形成され得る樹脂リッチな領域を解消して高強度なリブを形成することができ、かつパネルに生じ得るヒケを効果的に抑制することができる。
【0018】
また、上記するパネルの強度向上を図りながら樹脂リッチ領域を解消して高強度なリブを形成するべく、パネルを形成する素材の重量平均繊維長を規定値で最大の30mmとし、リブを形成する素材の重量平均繊維長は30mmよりも短い、たとえば20mmや10mm程度とするリブ付き構造の繊維強化樹脂材とするのが好ましい。
【0019】
また、前記リブがパネルと平行なパネル側面部と該パネル側面部から立設するリブ部とから構成され、このリブを構成する前記パネル側面部と前記パネルが一体化されているのが好ましい。
【0020】
パネルに対して立設するリブが直接繋がれた構成では、リブからパネルに亘って繊維材が連続する構造を形成するのが難しい。そして、このように繊維材がリブからパネルに亘って連続していない場合は、連続している構造に比してリブの根元部のせん断強度等の強度特性が劣るものとなる。そこで、リブの根元の強度を高めるための方策として、リブをパネルと平行なパネル側面部と該パネル側面部から立設するリブ部とから構成し、このパネル側面部とパネルを一体化させた構成とすることで、リブを構成するリブ部からパネル側面部に亘って連続するように繊維材を配設することができ、リブの根元の強度を高めることができる。
【0021】
さらに、本発明はリブ付き構造の繊維強化樹脂材の製造方法にも及ぶものであり、この製造方法は、2軸押し出し装置に連続繊維材と熱可塑性樹脂材を導入し、連続繊維材を2軸押し出し装置内で裁断しながら熱可塑性樹脂材と混練して混練材料を生成し、混練材料を成形型内に充填してプレス加工することでリブを製造すること、および、予め繊維材と熱可塑性樹脂から形成された樹脂材を別途の成形型内で溶融させてプレス加工することでパネルを製造すること、からなる第1のステップ、製造されたリブをその熱可塑性樹脂の融点以上に加熱処理しておき、前記別途の成形型を型開きして製造されたパネルの上に加熱処理されたリブを載置し、型閉めしてプレス加工することで繊維強化樹脂材を製造する第2のステップからなり、該繊維強化樹脂材は、リブを形成する素材の重量平均繊維長の割合がパネルを形成する素材の重量平均繊維長の割合に比して低いものである。
【0022】
上記するリブの成形法は、長繊維複合成形法の一つであるLFT−D法(Long Fiber Thermoplastics Direct)を適用したものであり、上記するパネルの成形法は、やはり長繊維複合成形法の一つであるGMT法(Glass Mat Thermoplasticsであり、ガラス繊維以外の繊維材を適用した場合も含むもの)を適用したものである。
【0023】
第1のステップで双方を別体に成形するに際し、2軸押し出し装置に連続繊維材と熱可塑性樹脂材を導入し、連続繊維材を2軸押し出し装置内で裁断しながら熱可塑性樹脂材と混練して混練材料を生成し、混練材料を成形型内に充填してプレス加工することにより、リブを形成する素材の重量平均繊維長の割合をパネルを形成する素材の重量平均繊維長の割合に比して低くなるように調整することが容易となる。そして、たとえばパネルを成形している成形型内に成形済みのリブをプレヒートして溶融したものを収容し、この成形型内でパネルとリブをプレス加工することで、特にパネルにおいてリブが取り付けられた箇所の背面にヒケを生じさせることなく、リブとパネルが強固に一体化されたリブ付き構造の繊維強化樹脂材を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明から理解できるように、本発明のリブ付き構造の繊維強化樹脂材とその製造方法によれば、パネルの表面にリブを有するリブ付き構造の繊維強化樹脂材に関し、リブを形成する繊維強化樹脂中の重量平均繊維長の割合がパネルを形成する繊維強化樹脂中の重量平均繊維長の割合に比して低く調整されていることで、リブが取り付けられた表面と反対側のパネル表面に生じ得るヒケが効果的に解消されたリブ付き構造の繊維強化樹脂材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のリブ付き構造の繊維強化樹脂材の一実施の形態の斜視図である。
【図2】図1のII部を拡大した図である。
【図3】ヒケの有無の確認試験と曲げ強度試験で用いた実施例および比較例の試験体の形状および寸法を説明した図である。
【図4】(a)は実施例の試験体の断面構造を示す写真図であり、(b)は(a)中のb部を拡大した図であり、(c)は(a)中のc部を拡大した図である。
【図5】(a)は比較例の試験体の断面構造を示す写真図であり、(b)は(a)中のb部を拡大した図であり、(c)は(a)中のc部を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示例は2次元平面状のパネルに縦横に延びるリブが取り付けられた形態の繊維強化樹脂材であるが、本発明のリブ付き構造の繊維強化樹脂材はこのほかにも、湾曲状、湾曲面と平面の組み合わせ、相互に傾斜する2以上の平面の組み合わせなどからなる任意の3次元形状のパネルと、このパネルに対して直交方向のみならず、傾斜方向に延びるリブや高さの相違する複数種のリブが取り付けられた繊維強化樹脂材など、多様な形状形態のリブ付き構造の繊維強化樹脂材を対象とするものである。
【0027】
図1は本発明のリブ付き構造の繊維強化樹脂材の一実施の形態の斜視図であり、図2は図1のII部を拡大した図である。図1で示す繊維強化樹脂材10は、平面状のパネル1の表面に、縦方向に4条、横方向に1条のリブ2が相互に交差して鉛直方向に立設して一体に構成されたものである。
【0028】
パネル1とリブ2はともにマトリックス樹脂を熱可塑性樹脂としてその内部に繊維材が含有されてなる繊維強化樹脂から成形されている。
【0029】
より具体的には、図2で示すように、リブ2はパネル1と平行なパネル側面部2bとこのパネル側面部2bから立設するリブ部2aから構成されており、パネル側面部2bとパネル1が一体化されてリブ付き構造の繊維強化樹脂材10が形成されている。
【0030】
パネル1は、熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂6内に繊維材5が含有された繊維強化樹脂から成形されており、繊維材5の重量平均繊維長は10〜30mmの範囲に調整されている。
【0031】
一方、リブ2も同様に熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂4内に繊維材3が含有された繊維強化樹脂から成形されており、繊維材3の重量平均繊維長も同様に10〜30mmの範囲に調整されているが、リブ2を形成する繊維材3の重量平均繊維長の割合はパネル1を形成する繊維材5の重量平均繊維長の割合に比して低くなるように調整されている。
【0032】
この重量平均繊維長:10〜30mmの範囲は、その臨界アスペクト比を与える繊維長範囲であり、この繊維長範囲で繊維の強度(引張強度など)がピーク値を示すことが本発明者等によって特定されており、この特定結果に基づいてこの重量平均繊維長範囲が規定されている。
【0033】
また、「リブ2を形成する繊維材3の重量平均繊維長の割合がパネル1を形成する繊維材5の重量平均繊維長の割合に比して低い」とは、リブ2を形成する繊維材3の繊維長と配合率を座標軸とする重量平均繊維長に関するグラフを作成した際に、このグラフは配合率のピークとなる繊維長を挟んで比較的ブロードな(繊維長分布の広い)グラフとなること、および、その一方でパネル1を形成する繊維材5の重量平均繊維長に関するグラフは配合率のピークとなる繊維長を挟んで比較的シャープな(繊維長分布の狭い)グラフとなることを意味している。
【0034】
このように、リブ2を形成する繊維材3の重量平均繊維長の割合がパネル1を形成する繊維材5の重量平均繊維長の割合に比して低くなっていることで、パネル1には相対的に長繊維の繊維材5が適用されてパネル1の曲げ強度等を向上させることができ、リブ2には比較的多くの短繊維の繊維材3が適用されることで不図示の成形型内における成形性を向上させることができ、繊維材が存在せずに樹脂リッチとなっている領域が存在しない、もしくは極めて少ない高強度なリブ2を形成することができる。
【0035】
さらに、リブ2の繊維材3の重量平均繊維長の割合をパネル1の繊維材5の重量平均繊維長の割合よりも低くしたことで、パネル1のうち、リブ2が取り付けられた側と反対側の表面箇所Aなどで生じ易いヒケの発生を効果的に解消できることが本発明者等によって見出されている。
【0036】
このようにパネル1の強度向上を図りながら樹脂リッチな領域のない高強度なリブ2を形成するべく、パネル1を形成する繊維材5の重量平均繊維長を上記規定範囲内で最大の30mmとし、リブ2を形成する繊維材3の重量平均繊維長はそれよりも短い、たとえば20mmや10mm程度とするのがよい。
【0037】
また、リブ2をパネル1と平行なパネル側面部2bとこのパネル側面部2bから立設するリブ部2aから構成したことにより、図2で示すように、リブ2を構成するリブ部2aからパネル側面部2bに亘って連続するように繊維材3を配設することができ(図中の繊維材3’)、リブ部2aとパネル側面部2bの取り合い部であるリブ2の根元のせん断強度や曲げ強度を高めることができる。
【0038】
ここで、パネル1とリブ2を形成するマトリックス樹脂4,6である熱可塑性樹脂は同一種の樹脂を使用してもよいし、異なる樹脂を使用してもよく、適用される熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、メタクリル樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミド、熱可塑性エポキシ樹脂などのいずれか一種もしくは2種以上の混合材を挙げることができる。
【0039】
また、熱可塑性樹脂内に含有される繊維材3,5としては、ボロンやアルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニアなどのセラミック繊維や、ガラス繊維や炭素繊維といった無機繊維、銅や鋼、アルミニウム、ステンレス等の金属繊維、ポリアミドやポリエステルなどの有機繊維のいずれか一種もしくは2種以上の混合材を挙げることができる。
【0040】
図示するリブ付き構造の繊維強化樹脂材10は、軽量であることは勿論のこと、パネル1の表面にヒケが生じておらず、外観意匠性に優れた製品となる。さらに、リブ2とパネル1双方の内部に構造弱部となる樹脂リッチな領域が生じ難いことから、曲げ強度や引張強度、せん断強度などの強度の高い製品となっている。
【0041】
次に、図示するリブ付き構造の繊維強化樹脂材10の製造方法を概説する。
【0042】
まず、第1のステップとして、リブ2とパネル1をそれぞれ別体で成形する。具体的には、リブ2の成形法として、不図示の2軸押し出し装置に連続繊維材とマトリックス樹脂となる熱可塑性樹脂材を導入し、連続繊維材を2軸押し出し装置内で裁断しながら熱可塑性樹脂材と混練して混練材料を生成し、混練材料を不図示の成形型内に充填してプレス加工することによって図示形状のリブ2を製造する。
【0043】
また、パネル1の成形法は、繊維材とマトリックス樹脂となる熱可塑性樹脂から形成された樹脂材を不図示で別途の成形型内で溶融させてプレス加工することによって図示形状のパネル1を製造する。
【0044】
このリブ2とパネル1の成形の際には、既述するように、リブ2を形成する繊維材3の重量平均繊維長の割合がパネル1を形成する繊維材5の重量平均繊維長の割合に比して低くなるように調整が図られている。
【0045】
次いで第2のステップとして、第1のステップで製造されたリブ2をその熱可塑性樹脂の融点以上にプレヒートし、パネル1が成形された別途の成形型を型開きして製造されたパネル1の上にプレヒートされたリブ2を載置し、型閉めしてプレス加工することにより、パネル1とリブ2が一体化されたリブ付き構造の繊維強化樹脂材10が製造される。
【0046】
[ヒケの有無の確認試験および曲げ強度試験とそれらの結果]
本発明者等は、図3で示すような形状および寸法を有する実施例および比較例の試験体を製作し、ヒケの有無を確認するとともに曲げ試験をおこなってそれらの曲げ強度を測定した。実施例1〜3と比較例それぞれのパネルとリブの重量平均繊維長の割合、ヒケの有無、曲げ強度測定結果を以下の表1に示す。また、実施例1の試験体の断面写真を図4に、比較例の試験体の断面写真を図5にそれぞれ示している。
【0047】
【表1】

【0048】
比較例はパネル、リブの重量平均繊維長割合が同じでともに長繊維の割合の高い試験体である。一方、実施例1,2,3はともに、パネルに比してリブの重量平均繊維長割合が低く、パネルは長繊維の割合が高く、リブは長繊維〜短繊維の割合分布の広い繊維材(比較的短繊維が多い)でできている。
【0049】
パネル表面におけるヒケの有無に関しては、実施例1,2,3はいずれもヒケの発生がないことが実証されている。その一方で、比較例のパネルには多数のヒケが確認されている。
【0050】
このことを図4,5の写真図を参照して説明すると、図4で示す実施例1の断面写真(図4aは全体写真、図4b、cはそれぞれ図4a中のb部、c部の拡大写真である)からも明らかなように、パネルの表面にはヒケは一切観察されない。
【0051】
そして、実施例1を構成するパネル、リブともに、繊維材が存在せずに樹脂リッチな領域はごく僅かしかなく、特にリブにおいて樹脂リッチ領域は確認できない。
【0052】
一方、図5で示す比較例の断面写真(図5aは全体写真、図5b、cはそれぞれ図5a中のb部、c部の拡大写真である)より、比較例の試験体のパネル表面には多数のヒケが観察される。また、パネル、リブ双方の内部には比較的広範囲に亘る樹脂リッチな領域が観察され、これは試験体の強度低下の原因となるものである。
【0053】
また、表1で示す各試験体の曲げ強度結果より、実施例1,2,3ともに、100MPa程度かそれ以上の高い強度を有することが実証されており、製品の曲げ強度に関しては特に多数の長繊維で補強されたパネルの有する強度の寄与が高いことより、パネルの重量平均繊維長の割合を75%以上に設定するのがよいと結論付けることができる。
【0054】
また、本実験においては当初の想定以上に比較例の試験体の曲げ強度が高く測定されているものの、特に実施例1はこの比較例の結果に対して30%程度も曲げ強度が向上することが実証されている。これは、図4,5を比較した既述の内容の通り、比較例に比して実施例1は樹脂リッチな領域が格段に少なく、しかもその領域が小さいために全体強度が高くなっていることによるものである。
【0055】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0056】
1…パネル、2…リブ、2a…リブ部、2b…パネル側面部、3…繊維材、4…マトリックス樹脂(熱可塑性樹脂)、5…繊維材、6…マトリックス樹脂(熱可塑性樹脂)、10…リブ付き構造の繊維強化樹脂材、A…パネルのリブが取り付けられた側と反対側の表面箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネルの表面にリブを有するリブ付き構造の繊維強化樹脂材であって、
パネルとリブはともに熱可塑性樹脂の内部に重量平均繊維長が10〜30mmの繊維材が混合された素材から形成されており、
リブを形成する素材の重量平均繊維長の割合がパネルを形成する素材の重量平均繊維長の割合に比して低いリブ付き構造の繊維強化樹脂材。
【請求項2】
パネルを形成する素材の重量平均繊維長が30mmであり、リブを形成する素材の重量平均繊維長は30mmよりも短い請求項1に記載のリブ付き構造の繊維強化樹脂材。
【請求項3】
前記リブは、パネルと平行なパネル側面部と該パネル側面部から立設するリブ部とから構成されており、
リブを構成する前記パネル側面部と前記パネルが一体化されている請求項1または2に記載のリブ付き構造の繊維強化樹脂材。
【請求項4】
パネルの表面にリブを有するリブ付き構造の繊維強化樹脂材の製造方法であって、
2軸押し出し装置に連続繊維材と熱可塑性樹脂材を導入し、連続繊維材を2軸押し出し装置内で裁断しながら熱可塑性樹脂材と混練して混練材料を生成し、混練材料を成形型内に充填してプレス加工することでリブを製造すること、および、
予め繊維材と熱可塑性樹脂から形成された樹脂材を別途の成形型内で溶融させてプレス加工することでパネルを製造すること、からなる第1のステップ、
製造されたリブをその熱可塑性樹脂の融点以上に加熱処理しておき、前記別途の成形型を型開きして製造されたパネルの上に加熱処理されたリブを載置し、型閉めしてプレス加工することでリブ付き構造の繊維強化樹脂材を製造する第2のステップからなり、該繊維強化樹脂材は、リブを形成する素材の重量平均繊維長の割合がパネルを形成する素材の重量平均繊維長の割合に比して低いものであるリブ付き構造の繊維強化樹脂材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−148443(P2012−148443A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7697(P2011−7697)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】