説明

リプロキシミン、新規II型リボソーム不活性化タンパク質およびその使用

新規II型リボソーム不活性化タンパク質であるリプロキシミン、および該タンパク質をコードする核酸分子が記載される。さらに、リプロキシミンの治療使用が記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規II型リボソーム不活性化タンパク質、リプロキシミン(riproximin)および該タンパク質をコードする核酸分子に関する。さらに、本発明は、リプロキシミンの治療使用に関する。
【0002】
植物リボソーム不活性化タンパク質(RIP)は、真核性リボソームおよび原核性リボソームに作用する、RNA-グリコシダーゼ活性を有する植物タンパク質の群である。いくつかのRIP(例えば、II型RIPリシン、アブリン、ボルケシン(volkesin)、ビスクミン(viscumin))はヒトおよび高等動物に非常に毒性があるが、このクラスの他のメンバーは、わずかに低い毒性を示すか、あるいは毒性を示さない(例えば、II型RIPエブリン(ebulin)、ニグリン(nigrin)、シナモミン(cinnamomin)ならびに全て公知のI型RIPおよびIII型RIP)。RNA N-グリコシダーゼの作用の分子機構は、真核性伸長因子および原核性伸長因子の両方の、リボソームとの相互作用の原因となる最も大きいリボソームRNAにおいて、高度に保存されたループ(「サルシン/リシンドメイン」)から特定のアデニンを除去し、それによってタンパク質合成を阻害することである。RIPは、1次構造を基にして3つの型に分類される。I型RIPは、いくつかの場合、非共有相互作用によって一緒に保持される2つのより短いポリペプチドにタンパク質分解処理される、約30kDaの単一の、インタクトなポリペプチドからなる。II型RIPは、ジスルフィド架橋によって一緒に保持される、A-鎖およびB-鎖と呼ばれる2つのポリペプチド鎖から構成される。無細胞系溶解物中でタンパク質合成を阻害し得るRNA N-グリコシダーゼの機能を有するI型のRIPに匹敵するN-末端のA-鎖は、炭水化物結合活性を有するレクチンであるC-末端のB-鎖へジスルフィド架橋によって連結される。II型RIPの毒性影響は、細胞表面でB-鎖の糖部分への結合によって仲介されるタンパク質の細胞取り込み、続いてリボソームを不活性化し、従ってタンパク質合成を終結するA-鎖の内部移行を含む機構に基づく(Lordら、(2003)Toxicol. Rev.22、53-64)。III型RIPは、I型RIP様N-末端ドメインおよび未知の機能のC-末端ドメインからなる。
【0003】
多くの研究は、ウイルス、腫瘍細胞、昆虫および植物真菌病原体に対する毒性のために、薬物開発、免疫-調節および作物-植物バイオテクノロジーにおけるRIPの応用について実施されてきた。RIPは、リボソームの構造を研究するための強力なプローブとして使用もされてきた。しかしながら、植物細胞においてRIPが果たす生理学的機能は、不明確である。以前の研究は、多くのRIPが植物細胞における防御機構に関わり、適切な生理学的条件下でタンパク質合成を終結し、従って代謝調節に関わることを明らかにした。RIPは種々の植物組織に存在するが、子葉、内胚乳、樹皮、塊茎、貯蔵根、球根および根茎のような貯蔵器官に最も顕著である。少しの例外は別として、RIPは多かれ少なかれ密接に関連したアイソフォームの混合物として存在する;van Damme ら、Crit. Rev. Plant Sci. 20(2001)、395-465を参照。
【0004】
II型RIPファミリーの1つのメンバーは、ヤドリギ由来の毒性レクチンであるビスクミンである。ビスクミンは、植物毒素アブリン、リシン、およびモデシン(modeccin)に対して構造および作用の機構において顕著に類似することならびにビスクミンの構成性ペプチド鎖の1つであるA-鎖が大きいリボソームサブユニットを触媒的に不活性化することによって無細胞タンパク質合成を阻害することが示された。さらに、ビスクミンは、癌治療のための見込みのある薬物候補であるように思われ、I/II相臨床試行が現在実施されている。従って、癌治療に有用であり得るII型RIPファミリーのさらなるメンバーの単離および特徴付けのための必要がある。
【0005】
従って、本発明の基礎をなす技術問題は、腫瘍の治療、免疫系の調節、抗ウイルス処置、昆虫および植物真菌病原体に対する防御に有用であり得る代替的II型RIPを提供することである。
【0006】
該技術問題に対する解決は、特許請求の範囲に特徴付けられる態様を提供することによって達成される。本発明となる実験の間に、キメニア アメリカーナ(Ximenia americana)からのタンパク質が単離および特徴付けされ得た。リプロキシミンと名づけられたこのタンパク質は、II型RIPのメンバーであり、抗新生物形成活性を示し、従って、例えば、腫瘍の治療、免疫系の調節、抗ウイルス処置、昆虫および植物真菌病原体に対する防御に有用である。
【0007】
タンパク質および配列が、実施例1記載の方法に従って得られた。
【0008】
従って、本発明は、(a)図7(配列番号3および4)または図11(配列番号6)に記述されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子;(b)図6(a)(配列番号1)もしくは(b)(配列番号2)または図11(配列番号5)に記述されるヌクレオチド配列を含む核酸分子;(c)(a)または(b)に特定される核酸分子によってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列に、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、85%、90%、95%または98%、最も好ましい態様において、98%同一であるポリペプチドの配列をコードする核酸分子;(d)遺伝コードの縮重によって(a)〜(c)の核酸分子の配列と異なる配列の核酸分子;あるいは(e)(a)〜(d)の核酸分子の断片またはバリアントを表す核酸分子である、抗新生物形成活性を示す植物II型リボソーム不活性化タンパク質(RIP)リプロキシミンまたはリプロキシミンの生物学的特性を示すポリペプチドをコードする核酸分子に関する。
【0009】
本明細書中に使用される場合、リプロキシミンの生物学的特性を示すポリペプチドは、II型RIPの生物学的活性の少なくとも1つを有するポリペプチドであることが理解される。これらの活性は、インビトロおよびインビボでの細胞毒性活性、インビボでの免疫調節活性、タンパク質合成の阻害、真核性28S rRNAのリシン-サルシンループにおけるA4324の特異的加水分解、DNAまたはRNAについてのポリヌクレオチドN-グリコシラーゼ活性、抗ウイルス、抗真菌および殺虫活性を含む。
【0010】
本発明の好ましい態様において、ポリペプチドは、薬物耐性細胞、特にMDR1タンパク質またはABC(ATP-結合カセット)トランスポータータンパク質の別のメンバーを過剰発現する細胞に対して細胞毒性である。
【0011】
好ましくは、本発明に従うポリペプチドは、単離および/または精製され、すなわち、組換えDNA技術によって生成される場合、実質的に細胞性材料または培地を含まない。
【0012】
第一の態様において、本発明は、図7(配列番号3もしくは4)または図11(配列番号6)に記述されるアミノ酸配列を含むリプロキシミンポリペプチドをコードする核酸分子を提供する。
【0013】
本発明はまた、図6(a)(配列番号1)もしくは(b)(配列番号2)または図11(配列番号5)におけるDNAについて記述したヌクレオチド配列を含むリプロキシミンポリペプチドをコードする核酸分子を提供する。
【0014】
本発明の核酸分子はDNA分子およびRNA分子の両方であり得る。適切なDNA分子は、例えば、ゲノム分子またはcDNA分子である。リプロキシミンの全てまたは一部をコードする全ての核酸分子はまた、これらが生物学的活性を有するポリペプチドをコードする限り、含まれることが理解される。本発明の核酸分子は、天然供給源から単離され得るか、あるいは公知の方法に従って合成され得る。
【0015】
本発明はまた、図7(配列番号3もしくは4)または図11(配列番号6)のポリペプチドのアミノ酸配列に、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、85%、90%、95%または98%、最も好ましい態様において、98%同一であるアミノ酸配列のポリペプチドをコードする核酸分子を提供する。かかるアミノ酸配列は、図7(配列番号3もしくは4)または図11(配列番号6)に示されるアミノ酸配列と比較して、1つまたは複数のアミノ酸残基の欠失、置換および/または挿入によって特徴付けられるか、または組換えの結果である。これらは、天然のバリエーション、例えば、他の生物由来の配列、または天然に生じ得るか、あるいは特定の突然変異誘発法によって導入されたかのいずれかの変異であり得る。これらはまた、例えば、植物細胞または植物組織から作製されたゲノムライブラリーまたはcDNAライブラリーから単離され得る。かかる核酸分子を同定および単離するために、本発明の分子またはこれらの分子の一部またはこれらの分子の逆相補物は、例えば、ハイブリダイゼーションの手段によって使用され得る。ハイブリダイゼーションプローブとして、例えば、それぞれ図6(配列番号1もしくは2)または図11(配列番号5)に記述されるヌクレオチド配列、またはこれらの配列の一部を正確にまたは基本的に有する核酸分子が使用され得る。ハイブリダイゼーションプローブとして使用される断片は、従来の合成方法の手段によって生成された合成断片および本発明の核酸分子の配列に基本的に対応する配列の合成断片であり得る。
【0016】
本発明の核酸分子はまた、遺伝コードの縮重によって図6(a)(配列番号1)もしくは(b)(配列番号2)または図11(配列番号5)に示される配列を有する核酸分子と異なる分子を含む。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、生物学的活性をなお示す本発明のポリペプチドをコードする上記記載の核酸分子の断片またはバリアントを含む核酸分子を提供する。「断片」はDNAの伸長物であることが理解され、記載されたポリペプチドの1つをコードするほど長い核酸分子の一部である。本発明の特定の態様において、断片は、該タンパク質のA-鎖および/またはB-鎖のいずれかを含み得る。さらに、断片は、細胞毒性効果を発揮するのに必要であるA鎖の一部のみを含むタンパク質のA-鎖および/またはB-鎖のトランケーション、例えば、10、15、20、25または30末端アミノ酸残基が毒性活性を残しているA鎖から除去されるトランケーション;ならびに/あるいはガラクトース認識、細胞結合および細胞質への輸送に必要であるB-鎖の一部のみを含むタンパク質のA-鎖および/またはB-鎖のトランケーション、例えば、10、15、20、25または30末端アミノ酸残基が活性を保持するB-鎖から除去されるトランケーションをコードし得る。本発明に従った断片はまた、本発明の核酸分子(の転写物)に特異的にハイブリダイズする核酸分子を含む。これらの核酸分子は、例えば、関連する植物からホモログ遺伝子を単離するための、(遺伝子)プローブまたはプライマーとして使用され得、好ましくは少なくとも10ヌクレオチド、特に少なくとも15ヌクレオチドおよび特に好ましくは少なくとも50ヌクレオチドの長さを有するオリゴヌクレオチドである。本発明の核酸分子およびオリゴヌクレオチドは、例えば、PCR反応のためのプライマーとしても使用され得る。
【0018】
バリアントは、天然バリアントまたは合成的に生成されたバリアントまたは組換えDNAプロセスによって生成されたバリアントのいずれかであり得る。天然バリアントは、図7(配列番号3もしくは4)または図11(配列番号6)に記述されるアミノ酸配列に70%よりも大きい同一性を示すアミノ酸配列を有する、キメニア アメリカーナ(例えば、アフリカ起源またはアメリカ起源のX.a.)の亜種間のバリアント、および同種で生じるイソ酵素を含む。
【0019】
一般的に、従来の分子生物学プロセスの手段によって、本発明の核酸分子に異なる変異を導入することが可能である(例えば、Sambrookら、上掲を参照)。結果として、リプロキシミンポリペプチドまたは、おそらく変更された生物学的特性を有するリプロキシミン関連ポリペプチドが合成される。1つの可能性は、核酸分子がコーディングDNA配列の5’-末端または3’-末端からの連続欠失によって生成される欠失変異および結果として短くされるポリペプチドの合成につながる欠失変異の生成である。別の可能性は、アミノ酸配列の変更が、例えば、タンパク質分解特性に影響を及ぼす位置での単一の点変異の導入である。この方法によって、例えば、変更されたKm-値を有する突然変異タンパク質(mutein)、または例えば、アロステリック調節または共有結合修飾に関して、細胞において正常に存在する調節機構をもはや受けない突然変異タンパク質が、生成され得る。
【0020】
遺伝子工学の手段による原核細胞中の操作について、本発明の核酸分子またはこれらの分子の一部は、DNA配列の組換えによる配列の突然変異誘発または変更を可能にするプラスミドに導入され得る。従来の方法の手段(参考Sambrookら、上掲)によって、塩基が交換され得、天然配列または合成配列が付加され得る。DNA断片を互いに連結するために、アダプターまたはリンカーが断片に付加され得る。さらに、適切な切断部位を提供するか、あるいは不必要なDNAまたは切断部位を除去する操作が実施され得る。挿入、欠失または置換が可能である場合、インビトロ突然変異誘発、プライマー修復、制限またはライゲーションが実施され得る。分析方法として、通常、配列分析、制限分析および他の生化学方法または分子生物学方法が使用される。
【0021】
本発明の核酸分子の種々のバリアントによってコードされるポリペプチドは、抗新生物形成活性、インビトロおよびインビボでの細胞毒性活性、インビボでの免疫調節活性、タンパク質合成の阻害、真核性28S rRNAのリシン-サルシンループにおけるA4324 の特異的加水分解、DNAまたはRNAについてのポリヌクレオチドN-グリコシラーゼ活性、抗ウイルス、抗真菌および殺虫活性、免疫学的反応またはコンフォメーション、レクチン活性、MDR1タンパク質を過剰発現する薬剤耐性腫瘍細胞における可溶性または活性のような物理的特性のような、いくつかの共通な特性を示す。
【0022】
本発明はさらに、本発明の核酸分子を含むベクターに関する。好ましくは、これらは、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージおよび遺伝子工学の分野で通常使用される他のベクターである。本発明における使用に適切なベクターは、限定されないが、哺乳動物細胞における発現のためのT7-ベース発現ベクターおよび昆虫細胞における発現のためのバキュロウイルス由来ベクターを含む。好ましくは、本発明の核酸分子は、翻訳され得る原核細胞および/または真核細胞においてmRNAの転写および合成を保証する本発明の組換えベクターの調節エレメントに操作可能に連結される。転写されるべきヌクレオチド配列は、T7プロモーター、金属結合性タンパク質プロモーターまたは多角体プロモーターのようなプロモーターに操作可能に連結され得る。
【0023】
さらなる態様において、本発明は、本発明の核酸分子またはベクターを一過的にまたは安定的に含む組換え宿主細胞に関する。宿主細胞は、インビトロで組換えDNAを取り込み得る生物および、当てはまる場合、本発明の核酸分子によってコードされるポリペプチドを合成し得る生物であることが理解される。好ましくは、これらの細胞は原核細胞または真核細胞、例えば哺乳動物細胞、細菌細胞、昆虫細胞、植物細胞または酵母細胞である。本発明の宿主細胞は、好ましくは、本発明の導入核酸分子が、形質転換細胞に関して異種、即ち、これらの細胞で天然には生じないか、あるいは対応する天然配列のものと異なるゲノム中の位置に局在するかのいずれかであるという事実によって特徴付けられる。
【0024】
本発明のさらなる態様は、リプロキシミンの生物学的特性を示すポリペプチドおよび本発明の核酸分子によってコードされるポリペプチド、ならびに例えば、ポリペプチドの合成を可能にする条件下で本発明の宿主細胞が培養され、ポリペプチドが培養された細胞および/または培地から続いて単離される、生成のための方法に関する。組換え生成されたポリペプチドの単離および精製は、分離用クロマトグラフィーおよびアフィニティーおよび例えば、抗リプロキシミン抗体を用いた免疫学的分離を含む、従来の手段によって実施され得るか、または、例えば、Smith and Johnson, Gene 67; 31-40(1988)に記載される1段階方法によって実質的に精製され得る。
【0025】
しかし、これらのポリペプチドは、組換え生成されたポリペプチドだけでなく、単離された天然ポリペプチド、合成的に生成されたポリペプチド、またはこれらの方法の組合わせによって生成されたポリペプチドも含む。かかるポリペプチドまたは関連ポリペプチドを調製するための手段は、当該分野で十分に理解されている。ポリペプチドは、好ましくは実質的に精製された形態である。さらに、ポリペプチドは、例えば、グリコシル化によってさらに処理され得る。生成細胞の内外で生じ得るこのグリコシル化は、ポリペプチドの活性および挙動に影響を有し得る。
【0026】
さらに、本発明は、本発明のタンパク質またはパートナーとしてそのA-鎖断片を含む結合体を提供する。かかる結合体、好ましくは免疫結合体が、例えば、組換えDNA技術および/または従来の化学合成によって当業者に周知の方法に従って調製され得る。免疫結合体は、例えば、新生物形成細胞の増殖の減少に適切である。例えば、リプロキシミンの結合パートナー、即ち以下に記載される抗体またはその一部が、新生物形成細胞の表面上に存在する1つ以上の新生物形成細胞特異的内部移行抗原と特異的に反応するように選択される。結合体は次に、新生物形成細胞と接触して置かれ、新生物形成細胞特異的内部移行抗原との結合を可能にする。一度結合すると、リプロキシミンまたは関連タンパク質は、エンドサイトーシス経路を介して内部移行される。従って、かかる結合体は、様々な治療、例えば、腫瘍の処置または免疫調節のために有用である。本発明の結合体のさらなる例は、リプロキシミン-フェリチン結合体である。フェリチン結合体の生成は、例えば、Schultzら、Biochemistry 20(12) (1981), 3412-8によって記載される。
【0027】
本発明はまた、リプロキシミンまたは上記に定義される関連ポリペプチドに特異的に結合する抗体に関する。用語「抗体」は、好ましくは、本質的に、異なるエピトープの特異性を有するプールされたモノクローナル抗体からなる抗体、および個別のモノクローナル抗体調製物に関する。モノクローナル抗体は、当業者に周知の方法によって本発明のポリペプチドの断片を含む抗原から作製される(例えば、Koehlerら、Nature 256 (1975),495を参照)。本明細書中に使用される場合、用語「抗体」(Ab)または「モノクローナル抗体」(Mab)は、タンパク質に特異的に結合し得るインタクトな分子および抗体断片(例えば、FabおよびF(ab')2断片のような)を含むことを意味する。Fabおよびf(ab')2断片は、インタクトな抗体のFc断片を欠き、循環からより迅速に排除され、インタクトな抗体よりも低い非特異的組織結合を有し得る。(Wahlら、J. Nucl. Med. 24: 316-325(1983))。したがって、これらの断片は、FABの産物または他の免疫グロブリン発現ライブラリーと同様に好ましい。さらに、本発明の抗体は、キメラ抗体、単鎖抗体、およびヒト化抗体を含む。
【0028】
特定の目的のために、本発明の抗体は、例えば、放射性同位体、生物発光化合物、化学発光化合物、蛍光化合物、金属キレート、または酵素を用いて検出可能に標識され得る。
【0029】
本発明はまた、本発明に従った核酸分子、ポリペプチド、結合体または組換えベクターおよび薬学的に許容され得る賦形剤、希釈剤または担体を含む医薬組成物に関する。好ましくは、医薬組成物は、滅菌組成物である。
【0030】
適切な医薬担体等の例は、当該分野で周知であり、リン酸緩衝化食塩水溶液、水、乳剤、油/水型乳剤等、種々の型の浸潤剤、滅菌溶液等を含む。かかる担体は、従来の方法によって製剤化され得、適切な用量で被験体に投与され得る。適切な組成物の投与は、異なる方法、例えば、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、筋肉内投与、局所投与、皮内投与、動脈内投与、腫瘍内投与または体外(extracorporal)投与によって実施され得る。もちろん、投与の経路は、疾患、例えば、腫瘍の性質、その局在および医薬組成物に含まれる化合物の種類に依存する。投与養生は、主治医および他の臨床因子によって決定される。医学の分野で周知であるように、任意の患者のための用量は、患者のサイズ、体表面積、年齢、性別、投与されるべき特定の化合物、投与の時間および経路、疾患(例えば、腫瘍)の種類および段階、一般的な健康および共投与されている他の薬物を含む、多くの因子に依存する。
【0031】
本発明の核酸分子の送達は、直接応用によって、または好ましくはこれらの化合物を含むキメラウイルスのような組換え発現ベクターを使用することによって、もしくはコロイド分散系を使用することによって達成され得る。標的部位への直接応用は、例えば、コロイド分散系としてのバリスティック送達によって、または動脈中の部位へのカテーテルによって実施され得る。上記の核酸分子の送達に使用され得るコロイド分散系は、巨大分子複合体、ナノカプセル、微小球、ビーズ、および水中油型乳剤(混合)を含む脂質ベース系、ミセル、リポソーム、ならびに脂質集合体(lipoplexes)を含む。好ましいコロイド系は、リポソームである。リポソームの組成は、通常リン脂質およびステロイド、特にコレステロールの組み合わせである。当業者は、所望の核酸分子の送達に適切であるかかるリポソームを選択する位置にいる。器官特異的リポソームまたは細胞特異的リポソームは、所望の組織だけに送達を達成するために使用され得る。リポソームの標的化は、一般に公知の方法を応用することで当業者によって実施され得る。この標的化は、受動性標的化(洞様毛細血管を含む器官においてRESの細胞に分布するリポソームの天然性質を利用する)または能動性標的化(例えば、リポソームの、特定のリガンド、例えば、抗体、レセプター、糖、糖脂質、タンパク質等への結合によって、周知の方法によって)を含む。本発明において、モノクローナル抗体は、好ましくは、特定の細胞表面リガンドを介した特定の腫瘍へリポソームを標的化するために使用される。
【0032】
遺伝子治療に有用な好ましい組換えベクターは、ウイルスベクター、例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニア、またはより好ましくはレトロウイルスのようなRNAウイルスである。さらにより好ましくは、レトロウイルスベクターは、マウスまたは鳥類のレトロウイルスの派生物である。本発明で使用され得るかかるレトロウイルスベクターの例は、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMuLV)、ハービーマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳房腫瘍ウイルス(MuMTV)およびラウス肉腫ウイルス(RSV)である。最も好ましくは、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)のような、非ヒト霊長類レトロウイルスベクターが使用され、マウスベクターと比較してより広い宿主範囲を提供する。組換えレトロウイルスは不完全であるので、感染粒子を生成するために補助が必要とされる。かかる補助は、例えば、LTR内で調節配列の制御下でレトロウイルスの全ての構造遺伝子をコードするプラスミドを含むヘルパー細胞株を用いることによって提供され得る。適切なヘルパー細胞株は当業者に周知である。形質導入された細胞が同定され得るように該ベクターは選択可能なマーカーをコードする遺伝子をさらに含み得る。さらに、レトロウイルスベクターは、これらが標的特異的になる方法で変更され得る。これは、例えば、糖、糖脂質、またはタンパク質、好ましくは抗体をコードするポリヌクレオチドを挿入することによって、達成され得る。当業者は標的特異的なベクターを生成するためのさらなる方法を知っている。さらなる適切なベクターおよびインビトロまたはインビボ遺伝子治療のための方法が文献に記載され、当業者に公知である;例えば、WO 94/29469またはWO 97/00957を参照。
【0033】
標的器官、例えば、処置されるべき腫瘍のみでの発現を達成するために、本発明の核酸分子が、組織特異的プロモーターに連結され得、遺伝子治療に使用され得る。かかるプロモーターは、当業者に周知である(例えば、Zimmermann ら、(1994) Neuron 12, 11-24; Vidalら、;(1990) EMBO J. 9, 833-840; Mayfordら、(1995), Cell 81, 891-904; Pinkertら、(1987) Genes & Dev. 1, 268-76を参照)。
【0034】
本発明はまた、腫瘍の処置のためまたは免疫調節のための医薬組成物の調製のための、本発明の上記の化合物(核酸分子、タンパク質、結合体、抗体、ベクター等)の使用に関する。かかる使用のために、本発明のタンパク質または核酸を含む植物抽出物が、また、適切である。かかる抽出物は実施例に記載される方法に従って調製され得る。好ましくは、粗植物抽出物は、例えば、キメニア属からの植物の植物材料からの水性抽出物によって、好ましくはキメニア アメリカーナの種の植物材料からの水性抽出物によって、少なくとも部分的に精製される。植物抽出物は、例えば、好ましくは水中の70%アセトンを用いた植物材料の前抽出によってさらに精製され得る。タンパク質汚染物を除去するために適切であるさらなる好ましい精製方法は、イオン交換クロマトグラフィーおよび/またはアフィニティークロマトグラフィーを含む。それゆえに、本発明は、細胞毒性活性、インビボ免疫調節活性、タンパク質合成の阻害またはポリヌクレオチドN-グリコシラーゼ活性のようなII型リボソーム不活性化タンパク質の活性の少なくとも1つを示すII型リボソーム不活性化タンパク質を得るためのキメニア属からの植物の使用にさらに関する。
【0035】
以下の実施例は、本発明を例示する。
【0036】
(実施例1)
キメニア アメリカーナから得られた粗抽出物の特徴付け
(A)キメニア アメリカーナからの粗抽出物の調製
キメニア アメリカーナからの乾燥植物材料を粉末にし、水性抽出物を、粉末を水中に懸濁することによって調製した。短い遠心分離の後、上清を回収した。インビトロ実験のために、粗抽出物を、培養培地で希釈し、濾過によって滅菌した。
【0037】
(B)生物学的効果
(1)細胞培養物
種々の腫瘍細胞株(16のヒト細胞株および1の齧歯類細胞株)に対する水性抽出物の効果を、調査した。最も強い増殖阻害は、MCF7乳癌細胞、BV173慢性骨髄性(CM)白血病、星状細胞腫-グリア芽腫U87-MG細胞およびラット結腸癌細胞株CC531について見出された。結果を、表1および図1に要約する。抽出物濃度およびIC50値は、粗抽出物μg/ml、すなわち、それぞれの希釈の調製について使用された乾燥キメニア アメリカーナ粉末の量(μg)で与えられる。
【0038】
(2)動物
インビボでの水性抽出物の効果を、同系結腸癌細胞株CC531の肝臓転移モデルの使用によって決定した。タンニン前抽出後の水性抽出物の種々の用量を、5日間(第1日は、腫瘍細胞の移植の日である)i.v.で与えた(applied)。結果を図2に示す。比較のために、同じ動物モデルにおける細胞増殖抑制性化合物Alimtaの最大効果を示す(*は、有意な効果を示す。多重ノンパラメトリッククラスカル-ワリス試験(ADAM,DKFZ Heidelberg)を、処置された動物の腫瘍細胞数および肝臓重量とコントロールとを比較するために使用した;p−値<0.05を、有意とみなした。)。
【0039】
(C)抽出物/活性剤の物理化学的特徴付け
(1)溶解度
水溶性;PBS:インビトロで強い増殖阻害効果(MCF7乳癌細胞に対してIC50=1.8μg粗抽出物/ml);メタノール中で部分的にのみ可溶性:インビトロでの増殖阻害効果はより低い(300倍;MCF7乳癌細胞に対してIC50=600μg粗抽出物/ml);エタノール、アセトン、クロロホルムに不溶性;水/メタノール混合物で良好に抽出され得る(メタノール<30%;IC50<2μg粗抽出物/ml);水/メタノール混合物でほとんど抽出され得ない(メタノール>70%;MCF7乳癌細胞に対してIC50>333μg粗抽出物/ml);活性化合物は、粉末の前抽出後にエタノールで完全に抽出され得る(MCF7乳癌細胞に対してIC50=2μg粗抽出物/ml);メタノールでの前抽出によって、水での第2の抽出がより非効率的になる(MCF7乳癌細胞に対してIC50=14μg粗抽出物/ml)。水中70%アセトンでの前抽出によって、水での第2の抽出がより効率的になる(MCF7細胞に対してIC50=0,7μg粗抽出物/ml)。
【0040】
(2)溶解度/生物学的活性に対するpHの影響
10mMバッファ/酸/塩基溶液での抽出(pH2〜13;1時間未満の短期露出)は、負の効果を何も示さなかった。希釈された酸(10mM塩酸、室温で2時間)は、生物学的活性を一部無効にする。濃縮された酸は、生物学的活性を完全に無効にする。希釈された塩基(10mM NaOH、室温で2時間)は、生物学的活性に対して効果を何も示さず、濃縮された塩基は、生物学的活性を完全に無効にする。抽出物濃度およびIC50値は、粗抽出物μg/ml、すなわち、それぞれの希釈の調製について使用された乾燥キメニア アメリカーナ粉末の量(μg)で与えられる。
【0041】
(3)有機溶媒での沈殿
エタノール、メタノール、アセトンまたはアセトニトリルの添加によって、水性抽出物からの活性化合物の完全な沈殿を、達成し得る。ペレットを、いかなる生物学的活性を損失することなく完全に再溶解(水またはバッファ)し得る。
【0042】
(4)超遠心分離による分子量の見積もり
活性化合物は、100kDaのカットオフ値を有する限外濾過膜を完全に通過し、50kDaのカットオフ値を有する膜を一部通過し、10kDaのカットオフ値を有する膜を通過しない。
【0043】
(5)タンニン類に対する試験(ポリフェノール類)
メタノール抽出物は、高濃度のポリフェノール類を含む。C18逆相HPLC/MSの使用によって、種々のカテキン類、ガロカテキン類および没食子酸を抽出物の成分として同定した。粗材料からタンニン類を抽出するための方法が、確立された。しかし、タンニン含有画分は、インビトロで何の効果も示さなかった。前抽出されたタンニンを含まない粗材料から調製された水性抽出物において、ポリフェノール類はHPLCによって同定され得なかった。インビトロで、この抽出物の効果は、タンニン含有初期試料から調製された抽出物の効果に比べてより強かった。
【0044】
(6)トリプシン、プロテイナーゼK、DNaseおよびRNaseを用いた消化の結果
初期試料から調製された水性抽出物を、37℃で24時間トリプシン、プロテイナーゼK、RNaseまたはDNaseで処理した後、活性の損失はなかった。しかし、タンニンを含まない抽出物の効果は、プロテイナーゼK処理の後完全に破壊された(がトリプシンでの処理の後は破壊されなかった)。
【0045】
(D)生物学的活性の安定性
(1)キメニア アメリカーナ乾燥粉末の安定性および再現性
4℃での粉末の乾燥保存の後、生物学的活性は、3年を超えて安定であった。1、2または3年後にアッセイされた粉末の試料は、インビトロで事実上一定の効果を示した。
【0046】
(2)水性抽出物の安定性
4℃で保存された場合、20%まで(1日後)、50%まで(1週間後)および80%まで(1ヶ月後)の活性の損失が観察された。1年間−20℃で保存された場合、活性の損失はなかった。
【0047】
(3)水性抽出物の温度感受性
室温での2〜3時間の保存の後、活性の損失は観察されなかった。50℃で10〜30分の後、わずかな活性の損失が観察された。90℃で10分間のインキュベーションの後、活性は、完全に無効にされた。
【0048】
(4)凍結乾燥
凍結乾燥の後、活性の損失は観察されなかった。凍結乾燥された材料の97%は、水またはPBS中に再溶解され得る。凍結乾燥された材料は、4℃で乾燥状態で保存されるかまたは−20℃で溶液中に保存される場合、1年を超えて安定である。
【0049】
結論:抽出物の安定性特徴は、活性化合物がタンパク質であることを示す。
【0050】
(5)結合−および精製特徴
C18樹脂:水性抽出物、pH7.0:活性化合物の結合なし。カラムのメタノール溶出液は、ポリフェノール類およびカテキン類を含む。
【0051】
陽イオン交換樹脂:20mM Tris-HCl中pH7.0で活性化合物の結合なし。抽出物の測定可能な精製なし。
【0052】
陰イオン交換樹脂:20mM Tris-HCl中pH7.0で、弱いおよび強い陰イオン交換媒体への活性化合物の結合がある。活性画分は、200〜400mM NaClをさらに含む20mM Tris-HCl、pH7.0で溶出され得る。2つの異なる画分は、部分的に分けられ得る。樹脂に強く結合する抽出物の成分は、NaOHによってのみ抽出され得る。
【0053】
アフィニティー結合:活性化合物は、一部加水分解されたセファロースに結合し、すなわち、ガラクトース残基に親和性を示す。洗浄の後、活性画分は、0.1Mガラクトースを含むバッファの使用によって、材料から溶出され得る。
【0054】
(E)活性化合物の精製
結果を図3に示す。活性化合物の精製のフローチャートを図3aに示す。達成された精製等級をSDSゲル電気泳動によってモニターした(図3b)。水中70%アセトンの混合物での前抽出の後、植物粉末を遠心分離によってペレット化し、空気乾燥した。第2の抽出を、乾燥前抽出粉末を水中に懸濁することによって実施した。溶解しなかった材料を、再度遠心分離して落とし、捨てた。上清を1M Tris-HClバッファの添加によってpH=7.0に調整し、DEAEイオン交換カラムにかけた。非結合成分の溶出の後、活性画分を500mM NaClを含む20mM Tris-HClバッファ(pH=7.0)で溶出した。アフィニティークロマトグラフィーのための支持体を、セファロース2Bを1M HCl中50℃で3時間加水分解することによって調製した。イオン交換精製画分を、加水分解されたセファロースを含むクロマトグラフィーカラムにかけた。非結合成分を、500mM NaClを含む20mM Tris-HClバッファ(pH=7.0)で洗浄し、活性画分を、500mM NaClおよび100mMガラクトースを含む20mM Tris-HClバッファ(pH=7.0)で溶出した。互いに部分的に分離され得る2つのタンパク質を、同定し得る(図3c)。両方のタンパク質は、約60kDaのMWを有し、各々は、26〜32のMWを有する2つのサブユニットから構成される。異なるタンパク質成分を有する種々の画分の生物学的効果を比較することによって、両方のタンパク質が抗新生物形成効果を示すことが見出された。タンパク質の1つを、さらに特徴付けし、対応する遺伝子を配列決定した。
【0055】
(F)活性化合物の特徴付け
(1)質量分析による分析
精製されたタンパク質の1つをMS-MS質量分析による分析に供した。MS同定されたペプチドのいくつかのアミノ酸配列を決定した。これらのペプチドのうち3つが、既知のタンパク質のクラス、いわゆるII型リボソーム阻害タンパク質(RIP)に対する相同性を示したことが見出された。
【0056】
(2)配列決定
ペプチドのアミノ酸配列を基礎として、410bp断片のクローン化を可能にする縮重プライマーを作製した。この配列情報から、US起源のキメニア アメリカーナ由来のRNAを使用して、完全cDNAを配列決定した。配列によって、95%を超える配列同一性を共有する2つの対立遺伝子の存在が明らかになった(図7)(配列番号3および4)。同様に、リプロキシミンに対する不完全なコードゲノムDNA配列が、タンザニア起源のキメニア アメリカーナから得られ、US起源のDNA配列およびアミノ酸配列それぞれに94%を超える同一性を示した(図6(a)(配列番号1)+(b)(配列番号2))。翻訳されたアミノ酸配列は、II型RIPファミリーのメンバーとしてリプロキシミンと命名された新規タンパク質を同定する。表2は、リプロキシミンのアミノ酸配列の公知のII型RIPのアミノ酸配列との比較を示す。リプロキシミンおよび他のII型RIPのアミノ酸配列の間のパーセント類似性および同一性は、それぞれ58%および50%を超えなかった。従って、図11(配列番号5および6)に示されるキメニア アメリカーナ由来のリプロキシミン相同物(Rpx2)のさらなるタンパク質およびcDNA配列を得た。
【0057】
図8は、リシン(SwissProt:rici-ricco, P02879)およびヤドリギレクチンI(SwissProt:ml1_visal, P81446)のデータベース配列に対するリプロキシミン配列のアライメントを示す。リプロキシミンcDNA配列の28個の位置で、一塩基多型(SNP)を同定し、そのうち10個は、異なるアミノ酸の翻訳を導く。cDNA SNPによって影響を受ける位置において、両方のアミノ酸を特定した。10個のアミノ酸バリエーションのうち2個は、N末端シグナルペプチドに含まれ、6個は、A鎖の配列に含まれ、2個は、B鎖の配列に含まれる。
【0058】
配列解析
配列解析のために、HUSARパッケージ(DKFZ, Heidelberg, Germany)からのプログラムを使用した。新しく得られたペプチド/DNA配列を用いるデータベースサーチを、プログラムFASTAを用いて実施した。それぞれのDNA配列を、プログラムCAPを用いてアセンブルした。得られたタンパク質配列をプログラムCLUSTALを用いて他のRIP配列と共に整列した。公知のRIP配列に対する相同性および同一性を、プログラムGAPを用いて計算した。
【0059】
リプロキシミン前駆体タンパク質の配列は、リシン前駆体の配列と55%の類似性および47%の同一性を共有し、ヤドリギレクチンI前駆体の配列と53%の類似性および45%の同一性を共有し、これらの両方は、毒性II型RIPのサブグループに属する。他方、非毒性ニワトコII型RIPエブリン1(EMBL: SEB400822, AJ400822)およびニグリンb(Swiss-Prot: NIGRB_SAMNI, P33183)に対する配列相同性は、より低かった(それぞれ、48%および45%類似性ならびに40%および37%同一性)。これらの相同性データは、リプロキシミンがII型RIPファミリーの毒性メンバーであることを示唆する。N末端ブロックは、エドマン分解によるB鎖(見かけMW34および31kDa)のN末端配列の決定を阻害する。A鎖はまた、高い程度のN末端ブロッキングを示した。しかし、タンパク質の量を増やすことによって、A鎖の両方(それぞれ、見かけMW=27および29kDa)が、クローン化されたリプロキシミン前駆体の57〜59位で見出された配列であるN末端配列DYPを明らかにした。A鎖の推定C末端およびB鎖の開始は、以下に示すように、リシン、ヤドリギレクチンI、アブリン、シナモミン、エブリンおよびニグリンを含む他の型の2つのRIPに対する相同性に基づいて判断された。推定されたA鎖およびB鎖の配列を、図8に示す。アミノ酸番号付けは、前駆体タンパク質の配列に基づいた。リプロキシミンA鎖およびB鎖について計算されたMWは、29〜31kDaで変化し、正確なA鎖C末端位置およびB鎖N末端位置ならびに対立遺伝子バリエーションに依存した。推定されたA鎖は、ヤドリギレクチンIのA鎖に49%の類似性および42〜43%の同一性を示し、リシンA鎖に49〜50%の類似性および41〜42%の同一性を示し、ニグリンbのA鎖に42%の類似性および33〜35%の同一性を示す。活性部位内の不変残基:リシンtyr21、arg29、tyr80、tyr123、glu177、arg180およびtrp211に対応するtyr73、arg81、tyr133、tyr172、glu230、arg233およびtrp267は、リプロキシミンA鎖の配列内で全て保存されている。さらに、分子内ジスルフィド結合に関与する保存されたC末端システイン残基(リシンのA鎖においてcys259)は、リプロキシミンにおいてcys317に対応し、リプロキシミンA鎖の終了の信号となる。A鎖内の第2のシステイン残基、cys224は、リシンのA鎖においてcys171に対応するが、ヤドリギレクチンI A鎖には存在しない。リシンA鎖が2つのグリコシル化部位を含み、その一方で、リプロキシミンA鎖の唯一の可能なグリコシル化部位が、対立遺伝子の1つの配列内に同定され(asn159)、他の対立遺伝子ではthr159に置換されている。
【0060】
リプロキシミンB鎖は、毒性RIPリシンおよびヤドリギレクチンIそれぞれのB鎖と、65%および57〜58%の類似性ならびに57〜58%および49〜50%の同一性を共有する。非毒性RIPエブリン1およびニグリンbに対する相同性は、それぞれ53%および51%の類似性ならびに45〜46%および43〜44%の同一性によって示されるように、より低い。II型RIP B鎖における4つの保存された分子内ジスルフィド架橋(リシンにおいてcys20-cys39、cys63-cys80、cys151-cys164、cys190-cys207)に関与することが公知である8個のシステイン残基およびA鎖とB鎖との間の分子間ジスルフィド架橋の形成に関与するB鎖N末端システイン(リシンにおいてcys4)は、リプロキシミンB鎖においてcys353-cys372、cys396-cys415、cys487-cys500、cys526-cys546(分子内架橋)およびcys337(N末端、A鎖cys317を結合する)として全て見出される。さらに、リプロキシミンのB鎖は、ヤドリギレクチンI B鎖のcys194に整列する別のシステイン残基(cys529)を含む。B鎖の疎水性コアを構築するのに関与すると以前に報告された全ての高度に保存された残基は、保存されるかまたは類似した疎水性のアミノ酸によって置換される。リプロキシミンB鎖は、他のII型RIPのB鎖配列内で高度に保存されたグリコシル化部位(リシンのB鎖においてasn95およびasn135)に対応する2つの可能なグリコシル化部位、asn430およびasn470を含む。
【0061】
II型RIPのB鎖において見出される2つの糖親和性ドメインの比較によって、糖結合に関与するほとんどのアミノ酸残基がリプロキシミンのB鎖において保存されていることが示される。リシンB鎖の1αサブドメインアミノ酸残基、asp22、trp37、asn46およびgln47は、リプロキシミンB鎖の1αサブドメインにおいてasp355、trp370、asn379およびgln380に対応し、その一方で、リシンのgln35は、リプロキシミンにおいてile368によって置換されている。リシンの2γサブドメインアミノ酸残基、asp234、asn255およびgln256は、リプロキシミンの2γサブドメインにおいてasp573、asn594およびgln595に対応し、その一方で、リシンのile246およびtyr248は、リプロキシミンにおいてそれぞれleu585およびtrp587によって置換されている。
【0062】
相同性モデリング
リプロキシミン前駆体配列の公知のII型RIP配列との整列に基づいて、リプロキシミンA鎖およびB鎖に対する推定配列を選択し、PDBデータベース(www.pdb.com)のFASTA検索を実施した。リプロキシミンA鎖をモデリングするために、組換えリシンR213D A鎖の構造(PDBアクセッション番号1UQ4、(21))を選択した。リプロキシミンB鎖のモデリングは、2.05まで精密化されたヤドリギレクチンI B鎖の構造(PDBアクセッション番号1SZ6)に基づいた。A鎖およびB鎖モデルを、SWISS-MODEL Automated Protein Modeling Server(Schwede et al. (2003) Nucleic Acids Res. 31, 3381-3385)上で、比較タンパク質モデリングのアプローチに従って計算した。モデルの質は、プログラムWHAT_CHECK (Hooft et al. (1996) Nature 381, 272)およびPROCHECK (Pontius et al. (1996) Journal of Molecular Biology 264, 121-136)でチェックした。
【0063】
PROCHECK*解析(ラマチャンドラン(Ramachandran)プロット)に従って、88.6%のA鎖アミノ酸は、好ましいコンフォメーションにあり、11.0%が許容コンフォメーションにあり、0.4%(arg155)のみが禁制コンフォメーションにあった。B鎖について、80.7%および18.5%のアミノ酸がそれぞれ、好ましいコンフォメーションまたは許容コンフォメーションにあり、0.8%(tyr413、ile417)のみが禁制領域内に見出された。全体的な平均G因子(理想的には>−0.5)は、それぞれA鎖モデルについては−0.03であり、B鎖モデルについては−0.15として計算された。A鎖のリボヌクレアーゼ活性に関与すると予想されるアミノ酸残基は、表面の溝の中に密集し、おそらく活性触媒部位を構成する。B鎖は、2つのドメイン構造によって特徴付けられ、それらの各々は、可能な糖結合部位を含む。8個のシステイン残基の位置によって、B鎖内の4つの予想された分子内ジスルフィド架橋の形成が可能になる。リプロキシミンの3つの可能なグリコシル化部位は、分子の表面に位置し、従って、おそらく成熟タンパク質においてグリコシル化されている。A鎖の唯一のグリコシル化部位であるasn159を除いて、リプロキシミンの対立遺伝子バリエーションのいずれも、三次元構造、グリコシル化、ジスルフィド架橋形成、触媒部位または糖結合ドメインに対して有意な効果を示さない。
【0064】
リシンまたはヤドリギレクチンIの配列と比較する際およびリプロキシミンA鎖およびB鎖の三次元構造をモデリングした後、SNPによって影響を受けるこれらのアミノ酸の全部ではないが1つがタンパク質の機能または構造に関与することは明らかである。唯一の例外は、asn159を発現する場合、リプロキシミンA鎖上でグリコシル化部位になり得る159位でのasn/thrバリエーションである。その特異性のために、このグリコシル化部位の存在は、A鎖対立遺伝子間の主な違いに寄与し得る。RIP A鎖のN-グリコシダーゼ活性に関与する不変アミノ酸の全ては、保存され、三次元モデルにおいてリプロキシミンA鎖の活性部位でありそうな溝の中に密集する。従って、リプロキシミンのA鎖が十分に活性なRNA N-グリコシダーゼであることが推定され得る。他のII型RIP A鎖に類似して、リプロキシミンのA鎖は、リジン含量が非常に低い(263アミノ酸残基のうち2つ)。低いリジン含量は、RIP細胞傷害性に関与していることが示され、なぜなら、RIP A鎖が、ユビキチン化続いての細胞質ゾルへの再配置の際の分解を回避するのを補助するからである(Lord et al. (2003) Biochem. Soc. Trans. 31, 1260-1262)。
【0065】
II型RIPのB鎖は、1および2と命名された2つの相同ドメインからなり、各々は、1α、1β、1γおよび2α、2β、2γと命名された3つのサブドメインを含む(30)。サブドメイン1αおよび2γは、リシン(Rutenber (1987) Nature 326, 624-626)、ヤドリギレクチンI(Krauspenhaar et al. (1999) Biochem. Biophys. Res. Commun. 257, 418-424)のB鎖の糖親和性の原因であると報告される。リプロキシミンのB鎖はまた、保存されたジスルフィド架橋およびグリコシル化部位を含むこの典型的な構造を示す。さらに、リシンおよびヤドリギレクチンIにおいて糖結合の原因であるほとんどのアミノ酸はまた、リプロキシミンB鎖のそれぞれのサブドメインに存在する。驚くべきことに、糖結合部位の動的モデリングは、リシンおよびヤドリギレクチン-Iの糖結合部位に対する明確な違いを明らかにした。
【0066】
(3)生物学的活性
アフィニティー精製された活性画分中のタンパク質は、0.2ng/mlのIC50を伴って、インビトロでMCF7乳癌細胞において非常に高いレベルの細胞傷害性を示した(図5)。タンパク質濃度およびIC50値を、乾燥タンパク質ng/mlで示す。アフィニティー精製された画分中の乾燥タンパク質の量(ng)を、凍結乾燥によって決定した。
【0067】
(4)タンパク質合成の阻害
タンパク質合成を阻害する効力を、(E)に記載されるようにアフィニティー精製によって得られたネイティブおよび還元リプロキシミン(リプロキシミンを1%β−メルカプトエタノールで37℃で1時間処理し、A鎖およびB鎖を解離する)の両方について決定した。
【0068】
TNT Quick Coupled Transcription/Translation System (Promega, Mannheim, Germany)に基づく非放射性方法を使用して、タンパク質合成阻害活性を決定した(Langer et al.;(1996) Analytical Biochemistry 243, 150-153)。等量(8×28.5μl)の転写/翻訳ミックス(240μl TNT Quick Master Mix、6μl 1 mM メチオニン、12μl T7ルシフェラーゼコントロールDNAおよび27μl H2O)を別々のチューブ(2コントロールおよび6阻害反応)に分配し、30℃でインキュベートした。5、7、9、11、13および15分のインキュベーションの後、第1のコントロールチューブの2μlの試料を80μlの生物発光バッファ(20mM トリシン、0.05% (w/v) BSA、pH=7.8)中に希釈し、液体窒素中で直ちに凍結し、反応を停止した。その後、1.5μl Tris-HClバッファ(20mM Tris- HCl, pH=7.0, コントロール)または適当なリプロキシミン希釈液を含むTris-HClバッファ(阻害反応)を、残りの7本のチューブ中の反応ミックスに加え、30℃でさらにインキュベートした。試料(2μl)を各反応液からそれぞれ18、20、22、24、26、28および30分に回収し、上記のように処理した。試料中の相対的ルシフェラーゼ含量をMicroLumat Plusルミノメータ(Berthold Technologies, Bad Wildbach, Germany)上でLuciferase Assay System (Promega, Mannheim, Germany)を用いて決定した。希釈された各試料の5μlを、50μlのルシフェラーゼ試薬と混合し、化学発光(cpm)を、2秒の初期遅延の後10秒間測定した。各反応について、18分試料の絶対発光計数を、24分試料のものから引き(平方根の値)、この間隔の間に発生したルシフェラーゼの相対量を得た。結果を、コントロール反応(100%)において発生したルシフェラーゼ量のパーセントとして計算し、リプロキシミン濃度に対してプロットした。
【0069】
アフィニティー精製されたタンパク質試料は、インビトロ網状赤血球溶解物転写/翻訳アッセイにおいてルシフェラーゼの合成を明らかに阻害した(図9)。明らかな濃度依存性翻訳阻害が、0.17〜50nMの非還元または還元タンパク質に応答して見られ(図9aおよび9b)、このことは、ヘテロダイマータンパク質の活性および分離されたA鎖の活性をそれぞれ反映していた。各反応において合成された相対的ルシフェラーゼ量を計算するために、動力学の直線期(18〜24分)を選んだ。翻訳阻害に対するIC50は、5.5nM(非還元)または2.6nM(還元)のリプロキシミン濃度で達成された。(図9c)。
【0070】
(実施例2)
(インビボ効力)
ラット肝臓転移モデルにおける精製リプロキシミンタンパク質の効果を決定するために、ラット結腸癌細胞株CC531-lacZを使用した(Wittmer et al. ;(1999) Clin. Exp. Metastasis 17, 369-376; Saenger et al. (2004) J. Cancer Res. Clin. Oncol. 130, 203-210)。要するに、4×10のCC531-lacZ細胞を、雄性Wag/Rijラット(Charles-River, Sulzfeld, Germany)に第0日に門脈を介して移植した。腫瘍保持ラットを、表1に示されるように第1日に開始する水性抽出物で経口的に(栄養によって)または腹腔内的に処置した。3週間後(第21日)、実験を終了し、動物の肝臓を摘出し、計量し、分析まで−80℃で保存した。肝臓あたりの腫瘍細胞の数を、前記(Wittmer et al. (1999))のように、健康肝臓組織の混合物で確立された標準曲線と比較し、腫瘍細胞の数を上げることによって、β−ガラクトシダーゼアッセイ(Applied Biosystems, Darmstadt, Germany)によって決定した。
【0071】
表3に示されるように、1段階DEAE-セルロース溶出の後得られたアフィニティー精製されたタンパク質試料を、経口および腹腔内経路を介して雄性腫瘍保持Wag Rijラットに投与した。10pmol/kgまでの腹腔内の全投薬および100pmol/kgまでの経口の全投薬の後に毒性は観察されなかった。1日おきの0.25、0.5および1pmol/kgの腹腔内投与は、それぞれ47.4、34.9および22.6(p<0.05)のT/C%(処置/コントロール×100)比によって示されるように、処置されない腫瘍保持ラットにおいて見られる腫瘍細胞数の増加を用量依存的に減少した(表3)。肝臓重量に対する効果は、それぞれ57.5、50.4および51.6のT/C%比を有してより顕著でなかった。1日おきの10pmol/kgの経口投与は、処置されないコントロールに比べて:驚くほど効果的であり、処置された動物の平均肝臓重量は、有意により低く(T/C%=30.5、p<0.05、表3)、これらの平均腫瘍細胞数は、2オーダー減少した(T/C%=1.0、p<0.05、表3)。
【0072】
Wag-Rijラットの肝臓において増殖するCC531-lacZ腫瘍細胞の平均数は、処置されないコントロールの約600倍に増加した。この増加は、9を超える細胞分裂に形式的に対応し、平均肝臓重量の3倍を超える増加に対応した(Wittmer et al. (1999))。
【0073】
アフィニティー精製されたタンパク質試料での経口処置の後、肝臓重量および腫瘍細胞数の両方は、処置されない腫瘍保持コントロールと比べた場合、有意に減少された。経口処置されたラットの実際の腫瘍細胞数は、初期腫瘍細胞移植物に関して8倍増加に対応し、これは、形式的に3の細胞分裂に等価である。抽出物について観察されるように、腹腔内経路は、経口経路より低い効果に関連した:有意に減少された腫瘍細胞数は、>77%腫瘍増殖阻害(100%−T/C%として定義される)を引き起こす最も高い用量のみに応答して見られ、その一方で、平均肝臓重量の違いは、コントロールと比較された場合有意ではなかった。未処理の平均肝臓重量より腫瘍増殖のより特異的な指標である平均肝臓重量の正味の増殖を考慮する場合、処置されないコントロールのパーセント(>69%)に表されるより高い阻害は、生体アッセイのバリエーション内の腫瘍細胞数から得られた結果を反映する。
【0074】
経口応用の高い効力は驚くべきことであり、なぜなら酸性の胃環境における分解、タンパク質分解酵素および腸壁を通してのわずかな取り込みに起因して、タンパク質は、低いから非常に低いバイオアベイラビリティーによって共通して特徴付けられるからである。従って、ヤドリギレクチンIは、胃腸管を介してはほとんど吸収されない。マウスの低い全身LD50(5〜10μg/kg)に関わらず、500mg/kg(マウス)および200mg/kg(ラット)ほど高い食餌投薬量は、大いに許容される(Pusztai et al. (1998) The Journal of Nutritional Biochemistry 9, 31-36; Pryme et al. (2004) Cancer Detect. Prev 28, 52-56)。これに沿って、組換えビスクミン(rViscumin)での癌処置は、全身投与に基づく(Schoffski et al. (2005) European Journal of Cancer 41, 1431-1438; Schofski et al. (2004), Ann. Oncol 15, 1816-1824)。それにも関わらず、経口投与されたヤドリギレクチンIの高い用量は、全身活性といくらか関係し:1日あたり10mgのヤドリギレクチンIまでを含む食餌およびマウスは、非ホジキンリンパ腫の腫瘍の大きさを減少するのに効果的であった(Pryme et al. (2004) Cancer Detect. Prev. 28, 52-56)。特に、この用量は、リプロキシミンの有効経口用量より6オーダー高い(0.6μg/kg 1日おきに投与される)。
【0075】
II型RIPの毒性および特異性の差は、おそらくそれぞれのB鎖の糖特異性およびこれらの細胞内の運命に関係する。この文脈において、リプロキシミンB鎖の2つの推定糖結合ドメインの1つのみがフレキシブルドッキングシミュレーションアッセイに従ってガラクトースを結合することになっているのは、興味深い。
【0076】
(実施例3)
MDR1タンパク質を過剰発現する薬剤耐性腫瘍細胞の活性
薬剤耐性は、化学療法剤に対する外向きのポンプとして機能するあるクラスのグリコシル化膜タンパク質である、MDR1のようなATP結合カセット(ABC)トランスポーターによって引き起こされ得る。
実験:
癌細胞に対するリプロキシミン選択性の疑問を取り扱うために、細胞傷害性実験を、それぞれの感受性細胞株CCRF-CEM(German Collection for Microorganisms and Cell Cultures; Braunschweig, Germany)に比べて多剤耐性タンパク質MDR1の>500倍より高いレベルを発現するドキソルビシン耐性CEM-ADR5000ヒトリンパ芽球様細胞(Efferth et al. (2002) Blood Cells Mol. Dis 28. (2), 160-168)を用いて実施した。活性を実施例1(3)においてのように決定した。驚いたことに、これらの実験は、CEM-ADR5000細胞の>500倍より高いリプロキシミン感受性を示し(図10)、このことは、MDR1が高度にグリコシル化された形質膜タンパク質であることに一致しており、MDR1がリプロキシミンに対する細胞性レセプターとして作用し得ることを示唆する。従って、本発明の核酸分子および/またはタンパク質は、他の化学療法薬に対して多剤耐性である、特に、その耐性がATP結合カセット(ABC)トランスポーター、例えばMDR1によって引き起こされ、および/またはドキソルビシンに対して耐性である、腫瘍の処置のための医薬組成物の調製のために使用され得る。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】



【0079】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】16個のヒト細胞株および1個のげっ歯類細胞株中にリプロキシミンを含むキメニア アメリカーナからの水性抽出物の抗新生物形成活性のインビトロ比較 IC50値を示す抽出物濃度を、μg粗抽出物/ml、すなわち、各希釈の調製に使用される乾燥キメニア アメリカーナ粉末の量(μg)で与える。全ての細胞株の平均IC50値は、49μg粗抽出物/ml培地であった。
【図2】キメニア アメリカーナ由来のタンニンの前抽出に続く、リプロキシミンを含む水性抽出物のインビボ抗腫瘍活性 タンニンの前抽出に続く、リプロキシミンを含む水性抽出物の効果を、CC531結腸癌肝臓転移モデルによって分析した(Wittmerら、Clin.Exp.Met. 17(1999)、369-376)。代謝拮抗物質Alimtaの最大効果を比較のために与える。抽出濃度を、mg粗抽出物/kg体重、すなわち各希釈の調製に使用される乾燥キメニア アメリカーナ粉末の量(mg)で与える。
【図3】抗新生物形成タンパク質、リプロキシミンの精製(a)精製フローチャート;(b)タンニン抽出後の粗抽出物のSDS-PAGE(還元条件下)(1)、イオン交換クロマトグラフィー後の全タンパク質分画(2)、およびアフィニティークロマトグラフィー精製タンパク質(3);M、分子量マーカー(kDaにおけるMW)、(c)アフィニティークロマトグラフィー精製タンパク質(3)のSDS-PAGE(非還元条件下);M、分子量マーカー(kDaにおけるMW)。
【図4】種々のアフィニティー精製タンパク質調製 レーン1〜7:7つのリプロキシミンの異なるバッチを、還元SDS-PAGE(a)または非還元SDS-PAGE(b)によって分析した。M=分子量マーカー(kDaにおけるMW)。タンパク質濃度およびIC50値を、ng乾燥タンパク質/mlで与える。アフィニティー精製分画の乾燥タンパク質の量(ng)を、凍結乾燥によって決定した。
【図5】MCF7乳癌細胞におけるアフィニティー精製リプロキシミン調製物の細胞毒性活性 生存細胞数をMTT-アッセイによって決定した(Konstantinovら、Int.J.Cancer 77(1998)、778-86)。増加濃度(ng/ml培地)の効果を未処理コントロールのパーセントで与える。
【図6】リプロキシミンコーディング遺伝子のヌクレオチド配列 (a) US-起源のキメニア アメリカーナ由来の完全cDNA配列(配列番号1)。(b) タンザニア起源のキメニア アメリカーナ由来の不完全コーディングゲノムDNA配列(配列番号2)。約250bpが5’末端で欠損している。USリプロキシミンDNA配列およびタンザニアリプロキシミンDNA配列は、それぞれの対立遺伝子状態に依存して、95〜97%同一性を共有する。
【図7】リプロキシミンの派生アミノ酸配列US-リプロキシミンの完全アミノ酸配列(配列番号3)およびタンザニアリプロキシミンの不完全C-末端配列(配列番号4)を整列した。対立遺伝子性アミノ酸バリエーションを、上付き、および下付き、ならびに強調された薄いグレーにそれぞれの略語を与えることによって示す。USタンパク質およびタンザニアタンパク質との間で異なるアミノ酸を、白でおよび強調された黒で与える。 対立遺伝子性リプロキシミンアミノ酸配列は97.9%の類似性および97.8%の同一性を示す。US-およびタンザニア起源のリプロキシミンアミノ酸配列は、それぞれの対立遺伝子状態(パーセント同一性=2つの配列内で同一なアミノ酸のパーセント;パーセント類似性=2つの配列間での同一なアミノ酸および類似するアミノ酸(同じ機能を有するアミノ酸)パーセント)に依存して、94.9〜96.2%の類似性および94.3〜95.8%の同一性を共有する。
【図8】図8は、リシン(アクセッション番号P02879)およびヤドリギレクチンI(アクセッション番号P81446)と共にリプロキシミンのタンパク質配列アライメントを示す。リシンおよびヤドリギIのA-鎖およびB-鎖の配列、ならびにリプロキシミンA-鎖およびB-鎖の配列を、黒で与え、N-末端シグナルおよびリンカーペプチドの配列を、グレーで与える。システイン残基を強調し、分子間ジスルフィド結合および分子内ジスルフィド結合の位置を、それぞれ実線および点線によって示す。A-鎖の触媒活性中心およびB-鎖の糖結合部位に関わるアミノ酸を強調する。潜在的なN-グリコシル化部位を強調する。B-鎖の疎水性核を構築するアミノ酸をグレーで強調する。
【図9】インビトロ翻訳アッセイにおけるアフィニティー精製タンパク質試料の効果。a-種々の濃度の非還元タンパク質の存在下におけるルシフェラーゼ合成の速度論;b-種々の濃度の還元タンパク質の存在下におけるルシフェラーゼ合成の速度論;c-還元タンパク質および非還元タンパク質に応答する濃度依存性翻訳効果の比較。
【図10】CCRF-CEM野生型細胞およびCEM-ADR5000ドキソルビシン(doxorubicin)耐性細胞におけるリプロキシミンの細胞毒性効果。
【図11】キメニア アメリカーナからのリプロキシミンホモログ(Rpx2)のタンパク質(配列番号6)配列およびcDNA(配列番号5)配列。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)図7または図11(配列番号3もしくは4もしくは6)に記述されるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子;
(b)図6(a)(配列番号1)もしくは(b)(配列番号2)または図11(配列番号5)に記述されるヌクレオチド配列を含む核酸分子;
(c)(a)または(b)に特定される核酸分子によってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列に少なくとも70%同一である配列のポリペプチドをコードする核酸分子;
(d)遺伝コードの縮重によって(a)〜(c)の核酸分子の配列と異なる配列の核酸分子;あるいは
(e)(a)〜(d)の核酸分子の断片またはバリアントを表す核酸分子
である、抗新生物形成活性を示す植物II型リボソーム不活性化タンパク(RIP)リプロキシミンまたはリプロキシミンの生物学的特性を示すポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項2】
請求項1記載の核酸分子を含む組換えベクター。
【請求項3】
原核性宿主細胞および/または真核性宿主細胞において、核酸分子が転写および翻訳可能なRNAの合成を可能にする調節エレメントに操作可能に連結される、請求項2記載の組換えベクター。
【請求項4】
請求項2または3記載の組換えベクターを含む組換え宿主細胞。
【請求項5】
細菌細胞または真核細胞であり、真核細胞が、例えば、哺乳動物細胞、昆虫細胞、酵母細胞または植物細胞である、請求項4記載の組換え宿主細胞。
【請求項6】
図7(配列番号3もしくは4)または図11(配列番号6)に記述されるアミノ酸配列の1つに少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を含むリプロキシミンの生物学的特性を示すポリペプチド。
【請求項7】
請求項1記載の核酸分子によってコードされる、請求項6記載のポリペプチド。
【請求項8】
(a)ポリペプチドが発現されるような条件下で請求項4または5記載の組換え宿主細胞を培養する工程;および
(b)該ポリペプチドを回収する工程、
を含むリプロキシミンの生物学的特性を示すポリペプチドの生成方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法によって生成されるポリペプチド。
【請求項10】
請求項6、7または9記載のいずれかのポリペプチドを含む結合体。
【請求項11】
免疫結合体である請求項10記載の結合体。
【請求項12】
請求項6、7または9記載のいずれかのポリペプチドに特異的に結合する抗体。
【請求項13】
検出可能に標識される、請求項1記載の核酸分子、請求項6、7もしくは9記載のポリペプチド、請求項10もしくは11記載の結合体、または請求項12記載の抗体。
【請求項14】
標識が、放射性同位体、生物発光化合物、化学発光化合物、蛍光化合物、金属キレート、もしくは酵素である、請求項13記載の、核酸分子、ポリペプチド、結合体、または抗体。
【請求項15】
請求項1記載の核酸分子、請求項6、7もしくは9記載のポリペプチド、請求項10もしくは11記載の結合体、または請求項2〜4いずれか記載の組換えベクターおよび薬学的に許容され得る賦形剤、希釈剤または担体を含む医薬組成物。
【請求項16】
腫瘍の処置または免疫調節のための医薬組成物の調製のための、請求項1記載の核酸分子、請求項6、7もしくは9記載のポリペプチドまたは請求項6、7もしくは9記載のポリペプチドを含む植物抽出物、請求項10もしくは11記載の結合体、または請求項2〜4いずれか記載の組換えベクターの使用。
【請求項17】
腫瘍が多剤耐性である、請求項16記載の使用。
【請求項18】
II型リボソーム不活性化タンパク質を得るためのキメニア属からの植物の使用。
【請求項19】
ポリペプチドが、図7(配列番号3もしくは4)または図11(配列番号6)に記述されるアミノ酸配列の1つに少なくとも70%同一であるアミノ酸配列を含む、リプロキシミンの生物学的特性を示すポリペプチドを含む植物抽出物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2008−528045(P2008−528045A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553556(P2007−553556)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【国際出願番号】PCT/EP2006/001026
【国際公開番号】WO2006/082098
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(500030655)
【Fターム(参考)】