説明

リンクバネ装置及びそれを備えた運動補助用椅子

【課題】 リンクバネ装置のバネ圧調整機構をリンクバネ装置の内部機構として配置可能とし、それによって椅子全体を従来よりもさらに簡単且つ小型化することが可能なリンクバネ装置及びそれを備えた運動補助用椅子を提供する。
【解決手段】 X字状に交差させたリンク部材201〜204を複数組み合わせてなるリンク機構を有するリンクバネ装置20が伸縮する際にリンク機構の最下部に配置されたリンク部材211a、211bのリンクプレート215a、215bの下端部を円弧状の曲面241に沿って案内する案内部材240を設けたことを特徴とし、そのようなリンクバネ装置20の最上段のリンクユニット201に座部14を取り付けて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンクバネ装置及びそれを備えた運動補助用椅子に関し、さらに詳しくは、X字状に組み合わされたリンク部材を複数連結して構成したリンク機構を有するリンクバネ装置及びそれを備えた運動補助用椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国の高齢化は急速に進行しており、人口に対する高齢者の割合が大幅上昇している。高齢者の多くは足腰の衰えや関節痛に悩まされているため椅子に腰掛けて生活している者が多いが、椅子に腰掛けたり立ち上がったりする動作はやはり負担が大きい。そのため、椅子から立ち上がる際の負担を軽減し高齢者の負担を解消すべく、例えば、特開平8−670号公報(特許文献1)、特開平8−112314号公報(特許文献2)、特開2004−267410号公報(特許文献3)などによって種々の提案がなされている。
【0003】
このような状況の中で本発明の発明者らは、リンク機構全体があたかも一つのバネのように働くリンクバネ装置を開発し特許出願すると共に(特開2007−107678号公報(特許文献4))、当該リンクバネ装置を利用することにより、椅子として利用することができ、しかも使用者が椅子に腰掛けたり立ち上がったりする動作を補助しながらそれを繰り返すことによって適度な運動を行うことが可能な運動補助具機能を備えた椅子を開発し提案を行った(特許第3795057号公報(特許文献5))。
【0004】
本発明の発明者らが発明した上述のリンクバネ装置は、特許文献4、5において示しているように、荷重を加えていくとリンクは、次第に下方側へ下がって低くなるが、ある高さまで低くなると荷重を支えるべき力が弱まるという性質がある。すなわち、このリンクバネ装置は、ある程度の高さまでは強い荷重を支えながら次第に縮まっていくが、ある程度まで押し縮められると今度はこれまで加えられていた力よりも弱い力でリンク機構が押し縮められるようになる。
【0005】
この点、通常の押しバネの場合は、負荷のかかっていない状態から次第に負荷を加えていくと初めは少ない負荷で押し縮めることができるが、押し縮められるに従ってその反発力は次第に大きくなる。しかしながら、このリンクバネ装置は、荷重に対してこれまでの押しバネとは全く逆の作用をするという性質がある。そのため、使用者が椅子に腰掛けて座部がある程度下がり、使用者の体重が椅子にかかったあたりでリンクバネ装置の力が弱まると座面が急に下がることになって実用上好ましくない。そのため、引用文献5に示す運動補助具機能を備えた椅子では水平方向に伸縮するようにした押圧力調整用のバネ圧調整機構を台座に設けてリンクバネ装置の押圧力を調整できるように構成していた。
【0006】
しかし、水平方向に伸縮するコイルバネを台座の表面に設けたバネ圧調整機構であると、その分台座の表面積を大きく取らなければならず置き場所が制約されるという問題があった。もちろん台座の表面積が広ければ椅子の安定性はよいがあまり場所を取るようでは使い勝手が悪い。
【0007】
そこで、本発明の発明者らは、引用文献5に示す運動補助具機能を備えた椅子とは異なり、台座の表面積を大きく取ることなく、椅子全体をコンパクトにまとめることを可能とするために伸縮方向(高さ方向)に配置して構成されるリンクバネ装置の押圧力調整用のバネ圧調整機構を考案し、それを取り付けた屈伸運動補助機能を備えた椅子を提案した(実用新案登録第3138071号(特許文献6))。
【0008】
【特許文献1】特開平8−670号公報
【特許文献2】特開平8−112314号公報
【特許文献3】特開2004−267410号公報
【特許文献4】特開2007−107678号公報
【特許文献5】特許第3795057号公報
【特許文献6】実用新案登録第3138071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献6に示す屈伸運動補助機能を備えた椅子によればバネ圧調整機構をリンクバネ装置の伸縮方向、すなわち垂直方向、に伸縮するように弾性体を配置したので台座の表面積を広く取る必要がなく、リンクバネ装置の押圧力の減衰を解消しつつ椅子全体をコンパクトにすることができた。
【0010】
上述した特許文献6に示す屈伸運動補助機能を備えた椅子では、引きバネによって垂直方向に伸縮する弾性体を配置したバネ圧調整機構を設けることによりリンクバネ装置の減衰を解消する構成としたが、このバネ圧調整機構はリンクバネ装置とは別に外部に設ける構成のものであった。そのため、リンクバネ装置以外にもバネ圧調整機構という別の機構を必要とする構成であったことから装置が複雑化し、部品点数も多くなってメンテナンスに手間がかかることが懸念された。
【0011】
そこで、本発明者らはリンクバネ装置20の押圧力の減衰を解消するためのバネ圧調整機構をさらに簡単な機構とし、且つ、リンクバネ装置を利用した椅子を簡単でコンパクトにすべく鋭意検討を行った結果、リンクバネ装置自体にリンクバネ装置の減衰を解消する機構を組み込むことに成功した。すなわち、本発明は、特許文献6に示す屈伸運動補助機能を備えた椅子とは異なり、リンクバネ装置の押圧力を調整するためのバネ圧調整機構をリンクバネ装置の外部に取り付けるのではなく、リンクバネ装置の減衰を解消する機構をリンクバネ装置自体に組み込んだリンクバネ装置を提供することを目的とするものである。
【0012】
また、本発明は、リンクバネ装置の減衰を解消する機構をリンクバネ装置自体に組み込んだリンクバネ装置を利用して構成される椅子を提供することを目的とする。
【0013】
さらに、特許文献6に示す屈伸運動補助機能を備えた椅子ではバネ圧調整機構を外部に取り付けていたため座部を回転させることが困難であったところ、それをも可能にしたリンクバネ装置を備えた椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために請求項1に記載の発明は、2つのリンクプレートをX字状に交差させてなるリンク部材を互いに対向させるようにして配置し、互いに対向させたリンク部材の交点同士を中心軸によってそれぞれ連結すると共にリンクプレートの端部近傍同士を連結軸でそれぞれ連結することよってリンクユニットを形成し、リンクユニットの上部側の連結軸とその上に配置された他のリンクユニットの下部側の連結軸とを共用するようにして複数連結することによって伸縮可能なリンク機構を形成し、そして、対向するようにして位置する連結軸同士をリンク機構を伸長させる方向に付勢する弾性部材を架設して構成されたリンクバネ装置において、リンクバネ装置が伸縮する際にリンク機構の最下部に配置されたリンク部材のリンクプレートの下端部を円弧状の曲面に沿って案内する案内部材を設けたことを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決するために請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のリンクバネ装置において、案内部材の円弧状の曲面に沿って案内されるリンクプレートの下端部にローラ部材を取り付けたことを特徴とする。
【0016】
上記課題を解決するために請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のリンクバネ装置において、最下部に配置されたリンク部材のリンクユニットの下端部側と案内部材との間に弾性部材を架設すると共に、弾性部材の取り付け位置を変更可能としたことを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決するために請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載のリンクバネ装置において、伸縮するリンク機構の伸縮方向を規制するガイド部材を設けたことを特徴とする。
【0018】
上記課題を解決するために請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載のリンクバネ装置を備えた運動補助用椅子であって、リンクバネ装置が配置された基台と、リンクバネ装置の最上部に位置するリンクユニットに取り付けられた座部と、リンク機構の上限位置を規制する上限ストッパと、リンク機構の下限位置を規制する下限ストッパとを備えていることを特徴とする。
【0019】
上記課題を解決するために請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のリンクバネ装置を備えた運動補助用椅子において、背もたれ及び肘掛けを備え、背もたれ及び肘掛けはリンクバネ装置とは独立して基台上に固定されていることを特徴とする。
【0020】
上記課題を解決するために請求項7に記載の発明は、請求項5に記載のリンクバネ装置を備えた運動補助用椅子において、リンクバネ装置は基台に回動可能に取り付けられていることを特徴とする。
【0021】
上記課題を解決するために請求項8に記載の発明は、請求項5から7のいずれか1項に記載のリンクバネ装置を備えた運動補助用椅子において、リンクバネ装置の最上部に位置するリンクユニットを構成する一対のリンクプレートのうち、一方側のリンクプレートの中心軸よりも上側をカットした状態で座部を取り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るリンクバネ装置及びそれを備えた運動補助用椅子によれば、リンクバネ装置自体にリンクバネ装置の減衰を解消するバネ圧調整機構を組み込んだので途中で押圧力の減衰が起こらないリンクバネ装置を簡単な機構で提供することができるという効果がある。また、そのようなリンクバネ装置を椅子に用いた場合にはバネ圧調整機構を外部に設ける必要がなく椅子全体の機構を簡単且つコンパクトに形成することができるという効果がある。さらに、リンクバネ装置自体にリンクバネ装置の減衰を解消する機構を組み込んだのでリンクバネ装置を基台上に回動可能に取り付けることができ、椅子を回転させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るリンクバネ装置の好ましい一実施形態の斜視図である。
【図2】リンクユニットの構成を示す斜視図である。
【図3】図1に示すリンクバネ装置が縮んだ状態を示す斜視図である。
【図4】最下段のリンクユニットを示す斜視図である。
【図5】(a)は最下端部のリンクユニットが伸長した状態を示す説明図、(b)はリンクユニットが荷重によって開く状態を示す説明図である。
【図6】伸長した状態のリンクバネ装置を備えた運動補助用椅子の好ましい第一の実施形態を示す側面一部断面図である。
【図7】図6の運動補助用椅子が圧縮した状態の側面一部断面図である。
【図8】図6の運動補助用椅子の平面図である。
【図9】伸長した状態のリンクバネ装置を備えた運動補助用椅子の第二の実施形態を示す側面一部断面図である。
【図10】図9の運動補助用椅子が圧縮した状態の側面一部断面図である。
【図11】図9の運動補助用椅子の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るリンクバネ装置及びそれを備えた運動補助用椅子の好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。初めに、本発明に係るリンクバネ装置の好ましい一実施形態について説明し、その後、当該リンクバネ装置を備えた椅子の好ましい実施形態について説明する。図1は本発明に係るリンクバネ装置の好ましい一実施形態の斜視図である。
【0025】
[リンクバネ装置]
図1に示すようにリンクバネ装置20は、概略として、4つのリンクユニット201〜204が上下方向に連結されて構成されている。各リンクユニット201〜204についてリンクユニット204を例にして説明すると、図2に示すように、2つのリンクプレート215a、215bをX字状に交差させて形成されたリンク部材211a、211bを一対としてそれぞれ対向させるように配置し、各リンク部材211a、211bのリンクプレート215a、215bの交点同士を中心軸217で回動可能に連結すると共に、向かい合うリンクプレート215a、215aの端部近傍同士を連結軸219aで連結し、向かい合うリンクプレート215b、215bの端部近傍同士を連結軸219bで連結することによってリンクユニット204が形成されている。リンクユニット201〜203についてもリンクユニット204とほぼ同様の構成によって形成されている。尚、リンクユニット201〜203についても同じ部材には同じ符号を付す。
【0026】
リンクプレート215a、215bは、例えば、鋼板を細長く薄板状にして形成した板状部材であり、その両端部近傍にはそれぞれ孔部216b、216bが穿設され、中央部には孔部216aが穿設されている。従って、リンクプレート215a、215bにはそれぞれ少なくとも3箇所に孔部が穿設されている。もちろん、リンクプレート215a、215bは、材質や形状はこれに限るものではなく剛性を有する適宜の材質により形成することができる。
【0027】
リンクユニット204の下部側に配置された連結軸219b、219bは、図1に示すように、その下段側に配置されたリンクユニット203の上部側の連結軸219a、219aと共有となっており、他のリンクユニット202、201も同様に連結軸219a、219aと連結軸219b、219bはそれぞれ共用となっている。尚、図1においては共用された連結軸の符号をそれぞれ219aと219bとして示しているが219aと219bのどちらで示しても実質的には同じである。このように、リンクユニット201〜204を上下方向に複数連結することによって伸縮自在なリンク機構が形成されている。
【0028】
そして、そのように形成されたリンク機構において、互いに対向するようにして平行に配置された連結軸219a、219aとの間及び連結軸219b、219bとの間にリンク機構を伸長させる方向(図1における矢印方向)に付勢する例えば引きバネからなる弾性部材220が架設されている。弾性部材220は、一対の連結軸219a、219a及び一対の連結軸219b、219bの間に1又は複数配置することができる。
【0029】
リンクプレート215a、215bによって形成される一対のリンク部材211a、211bの両孔部216a、216a同士を連結する中心軸217は、丸棒状の部材によって構成されている。一方、リンクプレート215a、215bの各孔部216b、216b同士を連結する連結軸219a、219bも、同様に、丸棒状の部材によって構成されている。この中心軸217と連結軸219a、219bの長さと、リンクプレート215a、215bの長さを適宜調整することによって取り付け面積が比較的広い安定したリンクバネ装置20としたり、取り付け面積が狭いよりコンパクトなリンクバネ装置20としたりすることができる。尚、中心軸217及び連結軸219a、219bにボールベアリング等を介在させることによりリンクプレート215a、215bの開閉を滑らかにしてリンクバネ装置20の伸縮をよりスムーズなものにすることができる。
【0030】
一方、本発明に係るリンクバネ装置20は、図4に示すように、最下部に位置するリンクユニット201の下に円弧状の曲面241を備えた円弧ベース240が配置されており、リンクユニット201を構成するリンクプレート215a、215bの各下端部側がリンクバネ装置20の伸縮に伴って円弧ベース240に設けられた円弧状の曲面241、241に沿ってそれぞれ案内されるように構成されている。円弧ベース240は、リンクプレート215a、215bの交点に位置する孔部216aから最下端部までの長さをおおよその半径とする半円形状の曲面241が形成された2枚の側板242、242をリンク部材211a、211bが配置されている幅間隔と同じ幅間隔を隔てて2箇所に立設するようにして形成されており、リンクプレート215a、215bの下端部に取り付けられたローラ230、230が曲面241に沿って案内されるようになっている。この構成により、図5(a)に示すように、伸長した状態のリンクバネ装置20を下方側へ向かって圧縮する力Fを加えた場合、リンク部材211a、211bの下端部はローラ230に案内されて容易に左右方向に開くが、このときはリンクバネ装置20自体の反発力によって比較的強い力で力Fをしっかりと支持した状態となっている。尚、図5(a)(b)では最下部のリンクユニット201のみを示している。
【0031】
そして、リンクバネ装置20をさらに圧縮する方向に力Fを加えてリンクバネ装置が所定の高さまで下がると、リンクバネ装置20はその性質により力Fに対するリンクバネ装置20の反発力は次第に減衰する。しかしながら、リンクバネ装置20をさらに圧縮するためにはリンク部材211a、211bの下端部を曲面241に沿って上方に向かってさらに移動させるようにして押し広げなければならならない。このときのリンク部材211a、211bの下端部側を押し広げるために必要な力はリンクバネ装置20が伸長した状態のときよりもより大きな力が必要となる。この力がリンクバネ装置20の圧縮に対する抵抗となり、リンクバネ装置20を圧縮した場合の減衰が解消されることになる。いうまでもないが、力Fを除けば弾性部材220、220の力によってリンクバネ装置20は上方側に伸長する。
【0032】
さらに、最下部に配置されたリンクユニット201を構成するリンク部材211a、211bの各ローラ230、230が取り付けられた下端部側と円弧ベース240との間にはバネ部材からなる弾性部材245、245が架設されており、弾性部材245、245はその取り付け位置を変更可能とされている。この弾性部材245、245の力によってリンクバネ装置20の減衰に対向する力がさらに付与されると共に、その取り付け位置を適宜変更することで弾性部材245、245のバネ圧を調整し、それによってリンクバネ装置20の減衰に対向する力を調整することができるようになっている。もちろん、弾性部材245自体をバネ圧の異なるものに交換することによってもリンクバネ装置20の減衰に対向する力を調整可能であることはいうまでもない。
【0033】
ここで、最下段部のリンクユニット201の中心軸217は、リンクユニット202〜204と異なり、後述する倒れ防止ガイド250が配置されることからリンク部材211a、211bを連結する丸棒ではなく、円弧ベース240の両側の側板242、242からそれぞれ立設するようにして取り付けられた支持部材217a、217aを介して取り付けられている。この構成により、後述する倒れ防止ガイド250はリンクユニット201の中心軸217に阻害されることなくリンク機構の略中心部に配置立設される。
【0034】
倒れ防止ガイド250は、円弧ベース240の略中心部に配置され、その上端部はリンクユニット202の中心軸217に取り付けられており、リンク機構の伸縮に応じて伸縮するようにして配置されている。倒れ防止ガイド250は、リンク機構が上下方向に伸縮する際にその伸縮方向を規制する部材である。倒れ防止ガイド250は硬性の棒部材を複数段に入れ子式に形成した部材であり、リンク機構の伸縮方向を規制する。この倒れ防止ガイド250を垂直方向に伸縮するよう配置することでリンク機構の伸縮方向が安定する。
【0035】
次に、上述したリンクバネ装置20の動作について説明する。まず、リンクバネ装置20は、連結軸219a、219a及び連結軸219b、219bの間に配置された弾性部材220、220によって伸長方向に付勢された状態となっている(図1に示す状態)。そして、リンクバネ装置20を圧縮する方向に力Fを加えると当初は弾性部材220の反発力によって力Fを支持する。さらに力Fが加えられるとリンクバネ装置20は次第に圧縮されて高さが低くなる。リンクバネ装置20が所定の高さ位置まで圧縮されると弾性部材220、220による反発力が弱まって減衰するが、リンク部材211a、211bの下端部を曲面241に沿ってさらに上方に向かって移動させるようにして押し広げなければならならず、このときの力が抵抗となってリンクバネ装置20は減衰を起こすことなくほぼ一定の力Fを負荷された状態で最後まで圧縮されることになる。そして、取り付け位置を変更可能に架設された弾性部材245の取り付け位置を適宜変更することでリンクバネ装置20のバネ圧を調整することができる。
【0036】
[リンクバネ装置を備えた運動補助用椅子]
次に、上述したリンクバネ装置20を備えた運動補助用椅子について説明する。図6は伸長した状態のリンクバネ装置を備えた運動補助用椅子の好ましい第一の実施形態を示す側面一部断面図、図7は図6の運動補助用椅子が圧縮した状態の側面一部断面図、図8は図6の運動補助用椅子の平面図である。
【0037】
[第一の実施形態]
図示された第一の実施形態に係る運動補助用椅子1は、概略として、基台11と、基台11の四方に立設された支柱13、13と、支柱13、13に支持された座板12(図8参照)と、支柱13、13を含む図示しないフレームに固定された背もたれ15及び肘掛け17、17と、基台11上に配置されたリンクバネ装置20と、リンクバネ装置20の上部に取り付けられた座部14とを備えて構成されている。
【0038】
基台11は、運動補助用椅子1を支える平面状の平板部材であり、金属製板や合成樹脂板、或いは木製板によって形成することができる。基台11には4本の支柱13、13(図6、7では2本のみが示されている)が立設されており、支柱13、13の上部には座板12が取り付けられている。尚、図示されていないが、支柱13、13には使用者が座りやすい高さに座板12の高さ位置を調整できる高さ調整機構が設けられている。座板12にはリンクバネ装置20の上部に取り付けられた座部14が収容される開口部が形成されており、リンクバネ装置20が圧縮され、後述する下限ストッパによって最下部まで下がったときに座板12と面一になるように構成されている。また、支柱13、13を含む図示しないフレームには背もたれ15及び肘掛け17、17が固定されている。ここで、肘掛け17、17は、支持棒17aの上部に前後方向にスライド自在に取り付けられており、肘掛け17、17を前方へ移動させることで使用者が立ち上がる動作をする際に不自然な姿勢を取ることなく無理なく掴めるようになっている。また、肘掛け17、17の先端17b側は使用者が手で掴みやすい形状になっている。尚、肘掛け17、17は、スライドさせたときの最前部位置と最後部位置でそれぞれ固定されるようなロック機構を設けておくとよい。また、基台11の底面の四隅にはキャスター11a、11aが取り付けられており、運動補助用椅子1を容易に移動できるようになっている。尚、キャスター11a、11aには使用する場所で固定できるようにストッパを設けておくことが好ましい。
【0039】
基台11に取り付けられたリンクバネ装置20は3つのリンクユニット201〜203を備えて構成されており、その具体的機構は上述したリンクバネ装置20と同様である。そして、図示された運動補助用椅子1に用いられているリンクバネ装置20は、最上段のリンクユニット203を構成するリンクプレート215a、215bのうち、運動補助用椅子1の前方側に位置することになるリンクプレート215bは中心軸217よりも上側がカットされて取り除かれた形状とされている。
【0040】
また、座部14は、リンクユニット203を構成するリンクプレート215aの下端部の連結軸219b(図2参照)を軸支するナット等の締着部材215gに支持プレート215fを介して取り付けられると共に、リンクユニット203のリンクプレート215aの上端部の連結軸219a(図2参照)を軸支するナット等の締着部材215hに支持プレート215iを介して取り付けられている。この構造により、使用者が座部14に座ってリンクバネ装置20が最下部まで圧縮された状態となると座部14は座板12と面一となる。そして、使用者が立ち上がってリンクバネ装置20が伸長した状態では座部14は斜めに傾斜した状態となる。
【0041】
この座部14の動きは、使用者が運動補助用椅子1に座ろうとして座部14の前方に立ったときには座部14は使用者の臀部近傍に斜めに位置することとなって使用者が座りやすいように案内するように作用する。使用者が座部14に臀部を乗せて座る動作を行うとその動作に伴って座部14は使用者の臀部を支持しながら次第に水平に近い状態となり、最後は座部14が水平となって座板12と面一となる。そして、この使用者の着座動作中においてはリンクバネ装置20のリンクバネ機構が使用者の体重を支えることになるので、足腰の弱い高齢者等は座部14に体重を支えられながら楽に腰掛けることができる。逆に使用者が立ち上がる場合にはリンクバネ装置20のリンクバネ機構が使用者の臀部を押し上げるように作用するので楽に立ち上がることができる。このように、リンクバネ装置20が使用者が座ったり立ち上がったりする動作を補助するので運動補助用椅子1を利用することで足腰の弱い高齢者等であっても容易に屈伸運動を行うことが可能となる。
【0042】
また、本実施形態における運動補助用椅子1はリンクバネ装置20によって座部14だけが伸縮するようにされているので使用者は固定されて動かない肘掛け17、17を掴んで姿勢を保ちながら屈伸運動を行うことができる。
【0043】
尚、図示された運動補助用椅子1に用いられたリンクバネ装置20の円弧ベース240の曲面241は、本実施形態においてはスリット状に開口して形成されており、このスリット状に開口した曲面241に沿ってリンク部材211a、211bの下端部に取り付けられたローラ230、230が案内されるように構成されている。この場合、スリット状に開口した曲面241からローラ230が外れないようにローラ230の断面を略H形状として曲面241から脱落しないように構成することが好ましい。
【0044】
また、図示された運動補助用椅子1に用いられたリンクバネ装置20には、リンクバネ装置20の最下部に配置されたリンクユニット201を構成するリンク部材211a、211bのローラ230、230が取り付けられた下端部側と円弧ベース240との間にバネ部材からなる弾性部材245、245をその取り付け位置が変更可能に架設して形成されており、これによってリンクバネ装置20の押圧力の減衰を解消するためのバネ圧調整機構が作用する力を調整することができるようになっている。すなわち、円弧ベース240の側板242には弾性部材245の一端部側を係止するための複数の係止部がリンク部材211a、211b下端部までの距離を異ならせて適宜配置した位置変更部材245a、245aが2箇所に設けられており、各弾性部材245、245の一端部を対応する位置変更部材245a、245aの適宜の係止部に係止することでリンクバネ装置20の減衰に対するバネ圧を調整することができる。
【0045】
また、本実施形態の運動補助用椅子1にはリンクバネ装置20の上限位置を規制する上限ストッパ261と、リンクバネ装置20の下限位置を規制する下限ストッパ263が設けられている。すなわち、側板242に形成されたスリット状に開口した曲面241にはリンク部材211aの下端部に配置された2ローラ230と、リンク部材211bの下端部に配置されたローラ230の間に挟まれるようにしてリンク部材211a、211bが伸長する方向の動きを規制する上限ストッパ261が配置されており、リンクユニット201が伸長しようとしてもその動きが上限ストッパ261に阻止されてそれ以上伸長しないようにすることで座部14の上限位置を規制するようになっている。従って、上限ストッパ261の取り付け位置をスリット状に開口した曲面241の間で適宜変更することで座部14の高さ位置を調整することができる。
【0046】
一方、座部14の下部には所定長さで下方側に突出するようにして形成された下限ストッパ263が設けられている。すなわち、下限ストッパ263は、その長さが調整可能とされていると共に、座部14が所定位置まで下がった際に倒れ防止ガイド250の上端部と当接するようになっている。これにより、座部14が下方に下がって所定位置まで下がると下限ストッパ263が倒れ防止ガイド250の上端部に当接してそれ以上座部14が下がらないように規制される。尚、下限ストッパ263による座部14の下限位置の調整は、支柱13、13に設けられた図示しない座板12の高さ位置調整と併せて行い、座部14が最下部に位置した場合に座板12と面一になるようにその調整を行うことが好ましい。また、下限ストッパ263が倒れ防止ガイド250の上端部と当接した状態で固定する固定機構を別途設けてリンクバネ装置20の機能を停止させることで運動補助用椅子1を通常の椅子として使用することもできる。
【0047】
上述した第一の実施形態の運動補助用椅子1の使用方法について説明すると、まず、使用者はリンクバネ装置20を伸長した状態にして座部14を使用者の臀部付近に位置させるようにする。そして、使用者は座部14に臀部を当てると共に、支柱13、13に固定された肘掛け17、17を両手で掴んで身体を支えながらゆっくりと腰掛ける。このとき、リンクバネ装置20はバネ圧調整機能によって急激な減衰を起こすことなく使用者の体重を支えながら座部14はゆっくりと下に下がる。座部14が座板12と面一になると下限ストッパ263が倒れ防止ガイド250の上端部と当接しそれ以上の座部14の降下が阻止されて使用者は運動補助用椅子1に腰掛けることができる。
【0048】
使用者が立ち上がるときは、肘掛け17、17で使用者の体重を支えながらゆっくりと立ち上がればリンクバネ装置20の力によって使用者の臀部が押し上げられ、使用者が立ち上がるときの負担が軽減される。そして、この動作を何回か繰り返すことで足腰の弱い高齢者などであってもリンクバネ装置20の力に支えられながら屈伸運動(スクワット運動)を行うことができる。
【0049】
[第二の実施形態]
次に、本発明に係る運動補助用椅子1の第二の実施形態について説明する。図9は伸長した状態のリンクバネ装置を備えた運動補助用椅子の第二の実施形態を示す側面一部断面図、図10は図9の運動補助用椅子が圧縮した状態の側面一部断面図、図11は図9の運動補助用椅子の平面図である。
【0050】
図示された第二の実施形態に係る運動補助用椅子2は、概略として、基台11と、基台11上に配置されたリンクバネ装置20と、リンクバネ装置20の上部に取り付けられた座部14と、リンクバネ装置20に支持された背もたれ15及び肘掛け17、17と、を備えて構成されている。尚、図9〜図11において第一の実施形態に係る運動補助用椅子1と同じ構成については同じ符号を付している。
【0051】
本実施形態における運動補助用椅子2は、基本的に第一の実施形態の運動補助用椅子1と同様の構成を備えており、大きく相違するのは支柱13、13及び図示しないフレームを備えることなく、背もたれ15及び肘掛け17、17がリンクバネ装置20に取り付けられている点と、リンクバネ装置20は倒れ防止ガイド250を中心として回転可能に基台11に取り付けられている点である。
【0052】
リンクバネ装置20は、倒れ防止ガイド250を回転軸として回転するように基台11に取り付けられている。回転機構は公知の機構を採用することができるが、所望の位置で固定できる固定機構を備えていればなおよい。リンクバネ装置20の最上段に位置するリンクユニット201の上部には取付板201aがリンク部材211a、211bの上端部に架け渡されるようにして配置されており、この取付板201aに座部14が取り付けられている。また、取付板201aに立設された支持棒201bよって肘掛け17、17が支持されており、肘掛け17、17を後ろ側で連結するようにして背もたれ15が形成されている。尚、第一の実施形態の運動補助用椅子1とは異なり、座部14の背もたれ15側は取付板201aに固定されておらず前方側に図示しないスプリングによって座部14を前方に向かって傾斜させるようになっている。
【0053】
最上段のリンクユニット201の中心軸217の長さ方向の中央付近には下限ストッパ263が取り付けられおり、倒れ防止ガイド250の先端部と当接することによって座部14の最下端位置を規制するようになっている。また、円弧ベース240のスリット状に開口した曲面241にはリンク部材211aの下端部に配置された2ローラ230と、リンク部材211bの下端部に配置されたローラ230の間に挟まれるようにしてリンク部材211a、211bが伸長する方向の動きを規制する上限ストッパ261が配置されており、これにより座部14の最上端位置が規制されている。
【0054】
この第二の実施形態の運動補助用椅子2は座部14が回転するので前方にテーブルや机等がある場合に椅子の正面を方向転換することによって容易に座ったり立ち上がったりすることができる。また、座ったり立ち上がったりする際にはリンクバネ装置20の力によって使用者の体重が支持されるのは第一の実施形態と同様であり、これを利用して使用者は肘掛け17、17を両手で掴んで身体を支えながら屈伸運動を行うことができるのも第一の実施形態と同様である。
【0055】
以上のように、リンクバネ装置及びそれを備えた運動補助用椅子によれば、従来のバネ圧調整機構に比べて簡単な構造でリンクバネ装置の減衰を防止することを可能としたので故障も少なく、且つ、安全に使用することができる。従って、下肢の衰えた高齢者に限らず、中高齢者の下肢力維持・向上及び椅子に長時間座る職業の人たちや学生にもとても非常に効果的である。
【0056】
本発明に係るリンクバネ装置及びそれを備えた運動補助用椅子について説明したが、本発明は上述した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0057】
1、2 運動補助用椅子
11 基台
12 座板
13 支柱
14 座部
15 背もたれ
17 肘掛け
20 リンクバネ装置
201 リンクユニット
202 リンクユニット
203 リンクユニット
204 リンクユニット
211a リンク部材
211b リンク部材
215a リンクプレート
215b リンクプレート
217 中心軸
217a 支持部材
219a 連結軸
219b 連結軸
220 弾性部材
230 ローラ
240 円弧ベース
241 曲面
242 側板
245 弾性部材
245a 位置変更部材
250 倒れ防止ガイド
261 上限ストッパ
263 下限ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのリンクプレートをX字状に交差させてなるリンク部材を互いに対向させるようにして配置し、互いに対向させた前記リンク部材の交点同士を中心軸によってそれぞれ連結すると共に前記リンクプレートの端部近傍同士を連結軸でそれぞれ連結することよってリンクユニットを形成し、当該リンクユニットの上部側の連結軸とその上に配置された他のリンクユニットの下部側の連結軸とを共用するようにして複数連結することによって伸縮可能なリンク機構を形成し、そして、対向するようにして位置する前記連結軸同士を当該リンク機構を伸長させる方向に付勢する弾性部材を架設して構成されたリンクバネ装置において、
前記リンクバネ装置が伸縮する際に前記リンク機構の最下部に配置されたリンク部材のリンクプレートの下端部を円弧状の曲面に沿って案内する案内部材を設けたことを特徴とするリンクバネ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のリンクバネ装置において、
前記案内部材の円弧状の曲面に沿って案内される前記リンクプレートの下端部にローラ部材を取り付けたことを特徴とするリンクバネ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリンクバネ装置において、
最下部に配置されたリンク部材のリンクユニットの下端部側と前記案内部材との間に弾性部材を架設すると共に、前記弾性部材の取り付け位置を変更可能としたことを特徴とするリンクバネ装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のリンクバネ装置において、
伸縮する前記リンク機構の伸縮方向を規制するガイド部材を設けたことを特徴とするリンクバネ装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のリンクバネ装置を備えた運動補助用椅子であって、
前記リンクバネ装置が配置された基台と、
前記リンクバネ装置の最上部に位置するリンクユニットに取り付けられた座部と、
前記リンク機構の上限位置を規制する上限ストッパと、
前記リンク機構の下限位置を規制する下限ストッパと、
を備えていることを特徴とするリンクバネ装置を備えた運動補助用椅子。
【請求項6】
請求項5に記載のリンクバネ装置を備えた運動補助用椅子において、
背もたれ及び肘掛けを備え、
前記背もたれ及び前記肘掛けは前記リンクバネ装置とは独立して前記基台上に固定されていることを特徴とするリンクバネ装置を備えた運動補助用椅子。
【請求項7】
請求項5に記載のリンクバネ装置を備えた運動補助用椅子において、
前記リンクバネ装置は前記基台に回動可能に取り付けられていることを特徴とするリンクバネ装置を備えた運動補助用椅子。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか1項に記載のリンクバネ装置を備えた運動補助用椅子において、
前記リンクバネ装置の最上部に位置するリンクユニットを構成する一対のリンクプレートのうち、一方側のリンクプレートの前記中心軸よりも上側をカットした状態で前記座部を取り付けたことを特徴とするリンクバネ装置を備えた運動補助用椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−110304(P2011−110304A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270948(P2009−270948)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【特許番号】特許第4509214号(P4509214)
【特許公報発行日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(301041508)株式会社オージーエー (9)
【Fターム(参考)】