説明

リンク機構の軸受構造

【課題】リンク機構の軸受構造において、二股軸受部分の変形を抑制し、かつ二股軸受を有するリンク部材の耐久性を向上させる。
【解決手段】軸受部120a、120bが二股状に対向して配置された二股軸受部を有する第1部材100と、二股軸受部120a、120bの間に配置される軸受部13aを有する第2部材13と、を備え、二股軸受部120a、120bと軸受部13aとを、連結ピン26で連結するリンク機構の軸受構造であって、連結ピン26は、少なくとも軸受部120a、120bの一方では内側連結ピン26aと外側連結ピン26bとが同軸状に配置される二重構造となっており、外側連結ピン26bは、第1部材100の軸受部120a、120bに挿通された状態で内周側に内側連結ピン26aが圧入されて直径が拡大することによって、第1部材100の二股軸受部120a、120bに圧入固定された状態となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンク機構の軸受構造に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の機関圧縮比を運転状態に応じて変更可能な機構として、例えば特許文献1に記載されているような、ピストンとクランクシャフトを連結するリンクと、これらのリンクの姿勢を制御するリンクとを備える複リンク式ピストンストローク機構が知られている。具体的には、クランクピンに二股軸受部を有するロアリンクを回転自在に連結し、このロアリンクの一体に形成された二股軸受部にはアッパーピン(連結ピン)を介してアッパリンクを、他端に形成された二股軸受部にはコントロールピン(連結ピン)を介してコントロールリンクを回転自在に連結し、このコントロールリンクによってロアリンクの動作を規制している。そして、運転状態に応じてコントロールリンクを制御してロアリンクの傾斜を変えることで、アッパリンクの他端に連結するピストンの上死点位置をコントロールし、圧縮比可変機構を実現しようとするものである。
【0003】
ここで、連結ピンは、連結する双方のリンクに対して摺動するフルフロート方式であるため、二股軸受部に設けたピンボスの軸方向の両端部にそれぞれ係止溝を加工する領域を設けなければならず、ピンボス部の全長に比較して、連結ピンの長さを短くせざるを得ない。そのため、連結ピン両端部におけるピンボス部との接触面積が少なくなり、それだけ面圧が高くなって、応力条件が厳しくなるという問題がある。
【0004】
この問題を解決するため、両端に小径部を設けた連結ピンを用い、当該小径部を配置した状態で二股軸受部に別体のカラー部材を圧入することにより、係止溝を不用として連結ピン両端部におけるピンボス部との接触面積を稼ぐフルフロート方式の連結構造が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−061501号公報
【特許文献2】特開2003−247524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の連結構造では、カラー部材を圧入する際に二股軸受のボス部分が変形して、圧入部の中心軸が圧入荷重方向に対してずれ、これにより圧入部で接触圧が円周方向に不均一となり、燃焼荷重等が加わった場合に、接触圧の高い部分が応力に耐えられなくなるおそれがある。
【0007】
一方、圧入代を小さくすると、ボス部分の変形を抑制することはできるものの、カラー部材の内転や脱落といった問題が生じる。
【0008】
また、連結ピンがカラー部材(二股軸受)及び連結されるリンク部材の双方に対して摺動するフルフロート方式であるため、連結ピンが二股軸受を有するリンクの強度部材として作用せず、当該リンクの耐久性が低下するという問題もある。
【0009】
本発明は上記問題の問題点に着目してなされたものであり、リンク機構の軸受構造において、二股軸受部分の変形を抑制し、かつ二股軸受を有するリンク部材の耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のリンク機構の軸受構造は、二つの軸受部が二股状に対向して配置された二股軸受部を有する第1部材と、二股軸受部の間に配置される軸受部を有する第2部材と、を備え、第1部材の二股軸受部と第2部材の軸受部とを、連結ピンで連結するリンク機構の軸受構造であって、連結ピンは、二股状に配置された軸受部の少なくとも一方では内側連結ピンと外側連結ピンとが同軸状に配置される二重構造となっており、外側連結ピンは、第1部材の軸受部に挿通された状態で内周側に内側連結ピンが圧入されて直径が拡大することによって、第1部材の二股軸受部に圧入固定された状態となっている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外側連結ピンは内側連結ピンが圧入されることによって直径が拡大し、二股軸受部に圧入固定された状態となる。すなわち、内側連結ピンを圧入しない状態では、外側連結ピンを二股軸受部分に挿通する際に二股軸受部分が変形することがない。また、内側連結ピンを圧入する際には、すでに挿通された外側連結ピンが二股軸受部分の強度部材として機能するので、二股軸受部分の変形を抑制することができる。
【0012】
そして、内側連結ピンが圧入された後は、内側連結ピン及び外側連結ピンからなる連結ピンは第1リンクに圧入固定された状態となり、二股軸受部分の強度部材として機能するので、フルフロート方式のような耐久性低下の問題もない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態による複リンク式ピストンストローク機構を備えたエンジンを示す図である。
【図2】コントロールリンクとロアリンクの連結部を示す図であり、(a)は機関前方から見た図、(b)は機関側方から見た図である。
【図3】圧入代を説明するための図である。
【図4】クランクピンと直交する面に沿うロアリンクの断面図である。
【図5】燃焼行程時に、ロアリンクの3つの軸受部が受ける入力荷重について説明する図である。
【図6】コントロールピン軸受部の圧入代について説明するための図である。
【図7】排気行程時に、ロアリンクの3つの軸受部が受ける入力荷重について説明する図である。
【図8】アッパピン軸受部の圧入代について説明するための図である。
【図9】コントロールリンクとロアリンクの連結部の別の例を示す図である。
【図10】第2実施形態の複リンク複リンク式ピストンストローク機構を備えたエンジンを示す図である。
【図11】下死点におけるピストンとカウンタウェイトの関係を示す図である。
【図12】アッパピンの軌跡を説明するための図である。
【図13】アッパリンクとロアリンクの連結部を示す図である。
【図14】ピストンとアッパピンの連結部の断面図である。
【図15】ピストンとアッパピンの連結部の他の例を示す断面図である。
【図16】外側ピストンピンの形状を説明するための図である。
【図17】ピストンピン軸受部の形状を説明するための図(その1)であり、(a)は下方から見た図、(b)は(a)のXVI−XVI線に沿う断面図である。
【図18】スラスト力が作用した場合のピストンピン軸受部の変形を説明するための図であり、(a)は周縁の肉厚が一定の場合、(b)はスラスト力が入力される部分の肉厚が暑い場合を示す図である。
【図19】ピストンピン軸受部の形状を説明するための図(その2)である。
【図20】ピストンピン軸受部の形状を説明するための図(その3)であり、(a)は下方から見た図、(b)は(a)のXVIII−XVIII線に沿う断面図である。
【図21】内側ピストンピンを圧入する際のピストンピン軸受部の変形を説明するための図であり、(a)は周縁の肉厚が一定の場合、(b)はスラスト力が入力される部分の肉厚が暑い場合を示す図である。
【図22】ピストンピン軸受部の形状を説明するための図(その4)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態による複リンク式ピストンストローク機構を備えたエンジン1を示す図である。以下、この複リンク式ピストンストローク機構を備えたエンジンを「圧縮比可変エンジン」という。
【0016】
圧縮比可変エンジン1は、ピストン22とクランクシャフト21とを2つのリンク(アッパリンク(第2部材)11、ロアリンク(第1部材)100)で連結するとともに、コントロールリンク(第2部材)13でロアリンク100を制御して圧縮比を変更する。
【0017】
ピストン22は、燃焼圧力を受け、シリンダ20内を往復動する。
【0018】
アッパリンク11の上端は、ピストンピン24を介してピストン22に連結される。一方、アッパリンク11の下端は、アッパピン25を介してロアリンク100の一端に連結される。一端がアッパリンク11に連結されたロアリンク100の他端は、コントロールピン26を介してコントロールリンク13に連結される。なお、コントロールピン26は、後述するように内側コントロールピン(内側連結ピン)26aと外側コントロールピン(外側連結ピン)26bからなる二重構造となっている。
【0019】
ロアリンク100は、ほぼ中央に形成されたクランクピン軸受部101にクランクシャフト21のクランクピン21bを保持する。ロアリンク100は、このクランクピン21bを中心軸として揺動する。ロアリンク100は上下の2部材に分割可能で、2本のボルト103,104によって一体に固定されている。
【0020】
クランクシャフト21は、複数のジャーナル21aとクランクピン21bとを備える。ジャーナル21aは、シリンダブロック23及びラダーフレーム28によって回転自在に支持される。クランクピン21bは、ジャーナル21aから所定量偏心しており、ここにロアリンク100が揺動自在に連結する。
【0021】
一端がロアリンク100に連結されたコントロールリンク13の他端は、エンジン1本体に回転可能に支持されたコントロールシャフト14の回転中心から偏心している偏心カム部15に連結する。コントロールリンク13は、この偏心カム部15を中心として揺動する。偏心カム部15は、図示せぬ圧縮比制御アクチュエータによってコントロールシャフト14が回転させられることで移動する。
【0022】
圧縮比可変エンジン1は、圧縮比を高めるときには、圧縮比制御アクチュエータを駆動してコントロールシャフト14の偏心カム部15を下げる。するとロアリンク100は時計回りに移動し、アッパピン25が上げられ、ピストン22の上死点の位置が上昇する。圧縮比を下げるときには、圧縮比制御アクチュエータを駆動してコントロールシャフト14の偏心カム部15を上げる。するとロアリンク100は反時計回りに移動し、アッパピン25が下げられ、ピストン22の上死点の位置が下降する。なお、これらの間で圧縮比を連続的に変化させることができる。
【0023】
ところで、このような圧縮比可変エンジン1において、ロアリンク100は、ピストン22が受けた燃焼圧力を、アッパリンク11を介してアッパピン25より受け取り、コントロールピン26を支点とするテコのような動作でクランクピン21bに力を伝達する。つまり、ロアリンク100は、エンジン1の各行程で、クランクピン21b、アッパピン25及びコントロールピン26からそれぞれ方向の異なる大きな荷重を受ける。したがって、ロアリンク100には大きな内力が発生するため、ロアリンク全体としてこれに耐えうる強度・剛性が必要とされる。
【0024】
そこで、本発明では、ロアリンク100とアッパピン25及びコントロールピン26とのピン連結方法を、ロアリンク100とアッパピン25及びコントロールピン26とが摺動しないプレスフィット(圧入)方式とすることでロアリンク全体としての耐久性を向上させる。以下では、ロアリンク100とコントロールピン26とのピン連結部の構造について詳しく説明する。
【0025】
図2は、コントロールピン26の軸受構造を示す図であり、(a)がロアリンク100とコントロールピン26との連結部周辺の拡大図、(b)が図1のII−II線に沿う断面図である。
【0026】
ロアリンク100の一端部には、図2に示すようにコントロールピン26を支持するコントロールピン軸受部120が二股状に形成される。この対向して二股状に形成されているコントロールピン軸受部120の一方を第1コントロールピン軸受部120aとし、他方を第2コントロールピン軸受部120bとする。第1、第2コントロールピン軸受部120a,120bはそれぞれ略一定の肉厚を有し、その間の空間(以下「コントロールピン軸受部谷間」という)121を挟んで、互いに平行に延びている。
【0027】
コントロールピン26は、まず中空円筒状の外側コントロールピン26bをコントロールピン第1、第2コントロールピン軸受部120a,120bに挿通する。ここで、外側コントロールピン26bの外径から第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bの内径を差し引いた値(以下、圧入代という)は、略ゼロとする。そして、外側コントロールピン26bを挿通した状態で、内側コントロールピン26aを外側コントロールピン26bの内側に圧入する。
【0028】
このように、外側コントロールピン26bの第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bに対する圧入代が略ゼロなので、第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bの変形を生じることなく外側コントロールピン26bを挿通することができる(このように圧入代略ゼロで挿通した状態を軽圧入とよぶ)。そして、内側コントロールピン26aを外側コントロールピン26bに圧入することにより、外側コントロールピン26bの径が拡大され、外側コントロールピン26bの第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bに対する圧入代が増大するので、圧入効果が大きくなって、外側コントロールピン26bの回転や脱落のおそれがなくなる。また、外側コントロールピン26bが軽圧入された状態で内側コントロールピン26aを圧入するので、外側コントロールピン26bが第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bの強度部材として機能し、内側コントロールピン26aを圧入する際の第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bの変形を抑制することができる。
【0029】
ところで、内側コントロールピン26aの外側コントロールピン26bに対する圧入代は、図3に示すように、挿入後に第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bの外側側面に相当する部分をA、同じく中央部分に相当する部分をB、内側側面に相当する部分をC、同じくコントロールピン軸受部13aの両側面に相当する部分をD、同じく中央部分に相当する部分をEとし、それぞれの部分の圧入代Ra、Rb、Rc、Rd、Reとしたときに、Rb>Rc>Ra、かつRe>Rdとする。そして圧入代の大きさがこのような関係になるように、内側コントロールピン26aの外径を設定する。内側コントロールピン26aの外径で圧入代を調整するのは、外側コントロールピン26bの内径を加工するのに比べて内側コントロールピン26aの外径を加工する方が加工が容易だからであり、当然、外側コントロールピン26bの内径を加工することによって調整することもできる。なお、図3は図2(b)と同様の図である。
【0030】
圧入時には、図3の連結部端面付近(A、C部)の応力は、中央部(B部)に比べて高くなりがちであるが、圧入代をRb>Rc>Raとすることにより、応力は低減され、連結部の耐久信頼性が向上する。
【0031】
また、一般に、第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bのような二股の軸受部にピンを圧入すると、そのピンは圧入部分で径が絞られ、軸受部間では中央部付近が最大径となる樽型に変形する。この変形は片当り等の原因となる。
【0032】
一方、連結ピンによる連結部において、潤滑油の油膜圧力は連結部の中央付近で最大となり、端部に近づくほど低くなる。
【0033】
そこで、圧入代をRe>Rdとすることによって樽型への変形を大きくし、十分な油膜圧力が確保できる中央部付近で外側コントロールピン26bとコントロールリンク13との接触による面圧を高め、油膜圧力が低くなる端面(D部)では面圧を低める。
【0034】
これにより、片当り等の問題を回避し、コントロールピン26(外側コントロールピン26b)とコントロールリンク13との摺動特性が向上し、フリクションの低減や、焼き付き防止等の効果を得ることができる。
【0035】
なお、ロアリンク100とアッパリンク11との連結部も、上述した図2及び図3と同様の構成及び圧入代分布とする。すなわち、アッパピン25は内側アッパピン25aと外側アッパピン25bからなる二重構造であり、内側アッパピン25aの外側アッパピン25bに対する圧入代の長軸方向の分布も、コントロールピン26の内側コントロールピン26aの外側コントロールピン26bに対する圧入代と同様の分布となっている。
【0036】
図4は、クランクピン21bと直交する面に沿うロアリンク100の断面図である。
【0037】
ロアリンク100は、クランクピンへの組み立て性のため、クランクピン軸受部101の中心を通る分割面102に沿って2部材に分割される。以下では、分割された部材のうち、アッパピン軸受部110を備える部材をロアリンクアッパ100aと、コントロールピン軸受部120を備える部材をロアリンクロア100bという。ロアリンクアッパ100aとロアリンクロア100bとは、クランクピン軸受部101の両側に配置された2本のボルト103,104によって一体に固定される。
【0038】
ボルト103は、ロアリンクロア100bに形成されたボルト挿入孔105を貫通し、ロアリンクアッパ100aに形成された雌ねじ部106にその先端が螺合する。ボルト103の先端は、アッパピン軸受部谷間111へ突き出ている。このように、ボルト103の先端をアッパピン軸受部谷間111へ突き出すことで、突き出さない場合と比べて、ボルト103の先端が螺合する雌ねじ部106近傍の応力集中を抑制できる。
【0039】
同様に、ボルト104も、ロアリンクアッパ100aに形成されたボルト挿入孔107を貫通し、ロアリンクロア100bに形成された雌ねじ部108にその先端が螺合する。ボルト104の先端が螺合する部位の応力集中を抑えるため、ボルト104の先端は、コントロールピン軸受部谷間121へ突き出されている。
【0040】
図5は、燃焼行程時に、ロアリンク100の3つの軸受部101,110,120が受ける入力荷重について説明する図である。図中の矢印Fupperは、アッパピン軸受部110がアッパピン25から受ける入力荷重とその方向を表す。図中の矢印Fcontrolは、コントロールピン軸受部120がコントロールピン26から受ける入力荷重とその方向を表す。図中の矢印Fcrankは、クランクピン軸受部101がクランクピン21bから受ける入力荷重とその方向を表す。これらの入力荷重は、主に燃焼荷重がピストン22やアッパリンク11等を介して伝達されたものである。図6は図7のコントロールピン軸受部120周辺の拡大図である。
【0041】
コントロールピン26から入力される荷重は図中右下方向となるため、コントロールピン軸受部120の、内側コントロールピン26aの中心軸に対して当該荷重方向にある部分(図5中の破線で囲んだ領域L)に高い荷重がかかる。すなわち、この領域Lは内側コントロールピン26aを圧入することによって発生する応力に加えて、さらにこのような燃焼荷重がかかる。そのため、他の領域よりも高い強度が要求される。
【0042】
しかしながら、領域Lは、機関運転中に他の部品との干渉を回避するために、肉厚を他の領域に比べて薄くしなければならない。したがって、肉厚を増大させることによる強度確保は難しい。
【0043】
そこで、内側コントロールピン26a外周とFcontrol方向との交点近傍の領域Linでは、内側コントロールピン26aの外側コントロールピン26bに対する圧入代を、他の領域よりも小さくする。これにより、領域Linで内側コントロールピン26aを圧入することによって発生する応力が低減され、燃焼荷重が作用したときに領域Lに作用する総荷重は低減される。そのため、領域Lは肉厚が薄くても、作用する荷重に対して十分な強度を確保することができる。
【0044】
図7は、排気行程時に、ロアリンク100の3つの軸受部101,110,120が受ける入力荷重について説明する図である。図中の矢印Fupper、矢印Fcontrol、矢印Fcrankは、図5と同様である。これらの入力荷重は、主にピストン22やアッパリンク11等の慣性荷重によるものである。図8は図7のアッパピン25周辺の拡大図である。
【0045】
アッパピン25から入力される荷重は図中右上方となり、アッパピン軸受部110の破線で囲んだ領域Uに高い荷重がかかる。すなわち、この領域Uは内側アッパピン25aを圧入することによって発生する応力に加えて、さらにこのような慣性荷重がかかる。そのため、他の領域よりも高い強度が要求される。しかしながら、領域Uも領域Lと同様に、他の部品との干渉を回避するために、他の領域に比べて肉厚を薄くしなければならない。
【0046】
そこで、内側アッパピン25a外周とFupper方向との交点近傍の領域Uinでは、内側ピン265aの外側アッパピン25bに対する圧入代を、他の領域よりも小さくする。これにより、領域Uも上述した領域Lと同様に、肉厚が薄くても作用する荷重に対して十分な強度を確保することができる。
【0047】
なお、外側アッパピン25bは、内側アッパピン25a及びアッパピン軸受部110よりも弾性係数が小さい材料で形成する。内側アッパピン25aとアッパピン軸受部110には、公差範囲内で寸法のずれや芯ずれがあるため、外側アッパピン25bを介さずに内側アッパピン25aをアッパピン軸受部110に圧入する構成とすると、接触面の面圧が不均一になる。このように面圧が不均一になると、面圧が高い部分に応力が集中してしまうという不具合が生じる。
【0048】
ところが、上記のように外側アッパピン25bの弾性係数を内側アッパピン25a及びアッパピン軸受部110よりも低くし、内側アッパピン25aとアッパピン軸受部110との間に外側アッパピン25bを介装する構成とすると、外側アッパピン25bの変形量が内側アッパピン25a及びアッパピン軸受部110の変形量よりも大きくなるので、内側アッパピン25aとアッパピン軸受部110との寸法ずれ等を吸収し、面圧を均一に近付けることができる。
【0049】
以上により本実施形態では、次のような効果を得ることができる。
【0050】
(1)二股状に対向して配置された第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bを有するロアリンク100と、第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bの間に配置される軸受部13aを有するコントロールリンク13と、を備え、第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bとコントロールリンク13の軸受部13aとを、コントロールピン26で連結するリンク機構の軸受構造であって、コントロールピン26は、少なくとも第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bの一方では内側コントロールピン26aと外側コントロールピン26bとが同軸状に配置される二重構造となっており、外側コントロールピン26bは、ロアリンク100の第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bに挿通された状態で内周側に内側コントロールピン26aが圧入されて直径が拡大することによって、第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bに圧入固定された状態となっているので、外側コントロールピン26bを第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bに軽圧入する際に、第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bが変形することがない。また、内側コントロールピン26aを圧入する際には、すでに軽圧入された外側コントロールピン26bが強度部材として機能するので、第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bの変形を抑制することができる。そして、内側コントロールピン26aが圧入された後は、内側コントロールピン26a及び外側コントロールピン26bからなるコントロールピン26はロアリンク100に圧入固定された状態となり、第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bの強度部材として機能するので、フルフロート方式のような耐久性低下の問題もない。
【0051】
(2)内側コントロールピン26aの外側コントロールピン26bに対する圧入代は、内側コントロールピン26a及び外側コントロールピン26bを第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bに圧入した際に当該軸受部の外側側面に相当する位置における圧入代をRa、同じく当該軸受部の略中央に相当する位置における圧入代をRb、同じくロアリンク100の軸受部13aの内側側面に相当する位置における圧入代をRc、としたときに、Rb>Rc>Raであるので、応力が高くなりがちな中央部の応力を低減することができる。
【0052】
(3)内側コントロールピン26aの外径を内側コントロールピン中心軸方向の位置に応じて異ならせることにより、内側コントロールピン26aの外側コントロールピン26bに対する圧入代の大小関係を実現するので、外側コントロールピン26bの内周を加工して当該大小関係を実現するよりも加工が容易である。
【0053】
(4)ロアリンク100の軸受部周縁のうち、燃焼上死点位置付近でコントロールピン26を介してロアリンク100に入力される荷重の作用方向にある部分近傍の領域Lは、他の部位に比べて内側コントロールピン26aの外側コントロールピン26bに対する圧入代が小さいので、領域Lで内側コントロールピン26aを圧入することによって発生する応力が低減され、燃焼荷重が作用したときに領域Lに作用する総荷重は低減される。そのため、領域Lは肉厚が薄くても、作用する荷重に対して十分な強度を確保することができる。
【0054】
(5)ロアリンク100の軸受部周縁のうち、排気上死点位置付近でアッパピン25を介してロアリンク100に入力される荷重の作用方向にある部分近傍の領域Uは、他の部位に比べて内側アッパピン25aの外側アッパピン25bに対する圧入代が小さいので、慣性荷重が作用したときに領域Uに作用する総荷重は低減される。そのため、領域Uは肉厚が薄くても、作用する荷重に対して十分な強度を確保することができる。
【0055】
第2実施形態について説明する。
【0056】
本実施形態は、基本的な構成は図1、図2と同様であるが、内側コントロールピン26aの外側コントロールピン26bに対する圧入代が異なる。ここでは、図3に示したE部とD部の圧入代を、Re<Rdとする。
【0057】
前述したように、二股の軸受部に連結ピンを圧入すると、軸受部間では連結ピンは樽型に変形する特性がある。そこで、圧入後に第1、第2コントロールピン軸受部120a、120b間における外側コントロールピン26bの外径分布が略一定となるようにReとRdとの差を設定する。
【0058】
なお、ReとRdとの差は、使用する内側、外側ピン26a、26bの材質や径、第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bの間隔等により異なる。
【0059】
上記のように、圧入代Re、RdをRe<Rdと設定することにより、圧入後の外側コントロールピン26bの外径分が略一定となるので、外側コントロールピン26bの摺動部両端にも均一に荷重がかかるようになる。これにより摺動特性の悪化を抑制することができる。
【0060】
第3実施形態について説明する。
【0061】
図9は本実施形態のコントロールピン26の軸受構造を示す図であり、図2(b)と同様に図1のII−II線に沿う断面図である。
【0062】
第1実施形態とは、内側コントロールピン26aが2つの部品に分割されている点で相違する。2つの内側コントロールピン26aの中心軸方向長さは、それぞれ第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bの中心軸方向長さと略同等である。
【0063】
そして、これらの内側コントロールピン26aは、第1コントロールピン軸受部120a側については図中左側から、第2コントロールピン軸受部120b側については図中右側から、つまり、それぞれ軸受部の外側端面から圧入する。
【0064】
内側コントロールピン26aを圧入した後は、第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bでは外側コントロールピン26bが圧入状態となって回転や脱落のおそれがなくなる。また、内側コントロールピン26aのコントロールピン軸受部谷間121部分がなくなる分だけ軽量になる。さらに、第1、第2コントロールピン軸受部120a、120bでそれぞれ独立して内側コントロールピン26aを圧入するので、圧入作業が容易になる。
【0065】
第4実施形態について説明する。
【0066】
図10は本実施形態を適用する複リンク式ピストンストローク機構を模式的に表した図である。ピストン22とクランクシャフト21とをアッパリンク11及びロアリンク100を介して連結し、ロアリンク100の傾斜をコントロールリンク13を介して制御するという構成は、図1と同様である。
【0067】
ただし、クランクシャフト21の回転軸はシリンダボア中心からオフセットし、クランクシャフト21のカウンタウェイト最外径部が、下死点近傍においてピストンピン中心軸の軸方向への延長線と交差し、クランクシャフト21が回転したときのアッパピン25の軌跡が、図12に示すようにシリンダボア中心に対してクランクシャフト回転軸側で、シリンダ軸方向に長い略楕円となるように、各リンク11、13、100のディメンションを設定する。
【0068】
図11は、図10の複リンク式ピストンストローク機構において、ピストン22が下死点に位置するときの状態をエンジン側方から見た図である。
【0069】
クランクシャフト21の回転軸をシリンダボア中心からオフセットさせることにより、図12に示すようにアッパピン25の軌跡の最下点は、クランクピン21bの軌跡の最下点とほぼ同等まで低くなる。この場合、ピストン22のスカート22aの形状が図1に示すような一般的な形状では、下死点付近においてクランクシャフト21のカウンタウェイトとピストン22のスカート22aが干渉してしまう。そこで、カウンタウェイトとの干渉を回避するために、図11に示すようにピストン22のスカート22aのクランクシャフト回転軸方向の幅を狭くする。また、ピストンピン中心軸の軸方向への延長線が下死点近傍でカウンタウェイト21c最外径部と交差するので、ピストンピン24の軸方向長さを一般的なピストン形状の場合に比べて短くする。つまり、第1ピストンピン軸受部130aと第2ピストンピン軸受部130bとの間隔は、一般的なピストン形状の場合と比べて小さく、かつピストン22の中央に近い位置に設けられることとなる。
【0070】
なお、アッパピン25の軌跡がシリンダボア中心からオフセットした構成なので、ピストン22に作用するスラスト力は、クランクシャフト21の回転に応じて反転することはなく、一方向となる。
【0071】
図13は、図2(b)と同様にアッパピン25の軸受部について示した図である。アッパピン25は、コントロールピン26と同様に内側アッパピン25a及び外側アッパピン25bからなる二重構造となっており、外側アッパピン25bを第1、第2アッパピン軸受部110a、110bに軽圧入した後に、内側アッパピン25aを外側アッパピン25bに圧入することで、アッパピン25が第1、第2アッパピン軸受部110a、110bに圧入固定されて状態となっている。
【0072】
アッパピン第1、第2軸受部110a,110bには、アッパピン25が圧入(プレスフィット)される第1ピン孔112と第2ピン孔113とが形成される。第1、第2ピン孔112,113は同軸上に位置し、互いに同じ径に形成されている。
【0073】
一方、アッパリンク11の下端部にも、アッパピン25を支持する軸受部(以下「アッパピン第3軸受部」という)11aが形成される。アッパピン第3軸受部11aにはアッパピン25を挿通する第3ピン孔11bが形成される。アッパピン第3軸受部11aは、アッパピン第1、第2軸受部110a,110bの間に形成されるアッパピン軸受部谷間111内に配置可能な肉厚を有する。
【0074】
アッパピン25は、外側アッパピン25bをアッパピン第1、第2軸受部110a,110bに対して軽圧入した状態で、内側アッパピン25aを外側アッパピン25bに圧入することにより、アッパピン第1、第2軸受部110a,110bに対して圧入固定された状態となっている。一方で、その間に配置されるアッパピン第3軸受部11aに対しては摺動可能にアッパリンク11とロアリンク100とを連結する。
【0075】
上記のようにアッパピン25の軌跡をシリンダ方向に長い略楕円にすることで、アッパリンク11の揺動角が小さくなる。つまり、アッパピン25の揺動時の角速度が小さくなる。
【0076】
ピストン22に作用する燃焼荷重は、上死点後10〜20度程度で最大となり、その後も筒内圧が十分に低くなるまで作用する。この燃焼荷重が作用する間、アッパピン25の軌跡が上記のような略楕円であれば、アッパリンク11がほとんど角度変化しない状態で燃焼荷重を受けるので、ピストンピン24とアッパリンク11との摺動速度は略ゼロとなり、潤滑特性は向上する。したがって、ピストンピン24がピストンに対して圧入される構成(挿入結合構成)であるが、ピストンピン24の摺動部にスカッフ等が発生することを抑制できる。
【0077】
図14は、ピストンピン24の軸受部について示した図である。基本的にアッパピン25の軸受構造と同様である。ピストンピン24もアッパピン25と同様に内側ピストンピン24a及び外側ピストンピン24bからなる二重構造であり、外側ピストンピン24bを第1、第2ピストンピン軸受部130a、130bに軽圧入した状態で、内側ピストンピン24aを外側ピストンピン24bに圧入することにより、圧入固定された状態となっている。なお、外側ピストンピン24bは、2つに分割されており、それぞれ第1、第2ピストンピン軸受部130a、130bに固定される。
【0078】
このようにピストンピン24が第1、第2ピストンピン軸受部130a、130bに圧入固定されることにより、ピストンピン24が第1、第2ピストンピン軸受部130a、130bの補強部材として作用する。
【0079】
ところで、上述したように第1、第2ピストンピン軸受部130a、130bの間隔が一般的なピストン形状の場合と比べて短く、かつ、それぞれが中央に近い位置に設けられるので、燃焼荷重が作用した場合には一般的な形状のピストンよりもピストン中央に近い位置で支持することとなり、ピストン冠面の変形が大きくなる、つまり燃焼荷重に対する剛性が低下してしまう。また、ピストンピンがフルフロート方式で支持される場合には、剛性を確保しようとすると、ピストン重量の増大を招くことになる。
【0080】
しかしながら、ピストンピン24がピストン22に圧入固定された状態となることで、ピストンピン24が補強部材として作用するので、ピストン重量の増加を招くことなく、剛性の低下を抑制することができる。
【0081】
内側ピストンピン24aの中心には、ピストンピン軸方向に貫通する空洞が油孔24cとして形成される。さらに、油孔24cの軸方向略中央部から内側ピストンピン24aの外周面に貫通する一本の油孔24dが形成される。内側ピストンピン24aは、この油孔24dがシリンダボア中心軸方向上向きとなるように圧入される。
【0082】
燃焼荷重は、ピストン22に対してシリンダボア中心軸下向きに作用するため、内側ピストンピン24aとアッパリンク11との摺動面では、図中下側部分の接触応力が高くなる。そのため、油孔24dから内側ピストンピン24aとアッパリンク11との摺動面へ円滑に潤滑油を供給することができる。なお、油孔24dから供給される潤滑油は、油孔24cから供給されるものである。油孔24cへは、一般的なエンジンにおいてクランクシャフトに設けた油孔から噴出した潤滑油が、コネクティングロッド小端部の上端に設けた油孔に自然給油されるのと同様の作用によって供給される。
【0083】
なお、外側ピストンピン24bを、図2の外側コントロールピン26bと同様に一体にしてもよい。この場合、外側ピストンピン24bにも、油孔24dと連通する油孔を設け、これらの油孔が連通するように内側ピストンピン24aを圧入する必要がある。
【0084】
図15は、ピストンピン24の別の構成の一例を示す図である。図15に示すように、外側ピストンピン24bを、第1、第2ピストンピン軸受部130a、130bのいずれか一方にのみ配置し、他方は内側ピストンピン24aが第1ピストンピン軸受部130a又は第2ピストンピン軸受部130bのいずれかに直接圧入されるようにしてもよい。これによれば、部品点数を削減しつつ、ピストンピン24を圧入する際のピストン22の変形を抑制することができる。
【0085】
図16は外側ピストンピン24bの別の構成の一例を示す図である。図14と同様に外側ピストンピン24bが2つに分割されている場合に、図16に示すように外側ピストンピン24bの外周部に、ピストン22の中心側から外周側に向けて外側ピストンピン24bの径方向の肉厚が厚くなるようにテーパ角を設ける。これにより、外側ピストンピン24bを図16中右側から挿入する際に、ピストンピン24の中心軸方向の位置決めが容易となって作業性が向上する。
【0086】
図17は、(a)がピストン22を下方から見た図、(b)が(a)のxvi−xvi線に沿う断面図である。
【0087】
第1、第2ピストンピン軸受部130a、130bのピストンピン24を圧入固定する孔をピストンピン孔131、ピストンピン孔131の中心軸131aを通るスラスト力作用方向線をTHとする。そして、中心軸131aからスラスト力が入力される側のスラスト力作用方向線THと第1、第2ピストンピン軸受部130a、130bとの交点までの距離をL1、他方の距離をL2としたときに、L1>L2となるように、第1、第2ピストンピン軸受部130a、130bのピストンピン孔131の周辺を形成する。すなわち、中心軸131aに対してスラスト力が入力される側のピストンピン孔131周縁の肉厚を、反対側の肉厚よりも厚くする。
【0088】
図18は、ピストン22にスラスト力が入力された場合の、第1、第2ピストンピン軸受部130a、130bの変形の様子を表した図であり、(a)はピストンピン孔131周縁の肉厚が均等の場合、(b)はスラスト力が入力される側の肉厚を反対側の肉厚より厚くした場合について表した図である。
【0089】
図18の(a)と(b)を比較すると、ピストンピン孔131周縁の肉厚が均等の場合よりも、スラスト力が入力される側の肉厚を相対的に厚くした場合の方が、スラスト力によるピストンピン孔131の変形が小さい。すなわち、スラスト力が入力された場合にも、ピストンピン孔131が円形に近い状態を維持することができる。これは、肉厚を厚くすることによって、スラスト力が入力される側の剛性が高まるためである。
【0090】
スラスト力が入力される度にピストンピン孔131が変形すると、ピストンピン孔131と、これに圧入固定されたピストンピン24との間に微少摩耗が生じる。しかし、上記のようにスラスト力が入力される側のピストンピン孔131周縁の肉厚を相対的に厚くして変形を抑えることで、この微少摩耗を抑制することができ、ひいてはピストンピン24の耐久性向上を図ることができる。
【0091】
なお、図19に示すように、スラスト力が入力される側のピストンピン軸受部間隔S1を、反対側のピストンピン軸受部間隔S2よりも小さくすることによっても、スラスト力が入力される側の剛性を高めることができ、同様の効果を得ることができる。
【0092】
以上により本実施形態では、次のような効果を得ることができる。
(1)シリンダボア中心軸とクランクシャフト回転軸とがオフセットし、かつカウンタウェイト21cの最外径部が、下死点近傍においてピストンピン24の軸方向への延長線と交差するように各リンクを配置したリンク機構において、ピストンピン24が第1、第2ピストンピン軸受部130a、130bに圧入固定された状態となるので、ピストンピン24が剛性部材として作用し、これによりピストン22の重量増加を招くことなく冠面の変形を抑制することができる。
(2)機関前方から見た際にアッパリンク11がクランクシャフト21の回転に伴ってシリンダボア中心軸に対して左右いずれか一方の範囲で揺動するので、スラスト力の入力方向は一定となる。そしてピストン22の軸受部周縁の肉厚は、シリンダボア中心軸に対してアッパリンク11が揺動する範囲とは反対側の方が同じ側よりも厚いので、スラスト力が入力された場合に、ピストンピン孔131の変形を抑制して略円形に保つことができ、これによりピストンピン24の内転を防止することができる。
(3)第1、第2ピストンピン軸受部130a、130bのピストンピン中心軸方向長さが、シリンダボア中心軸に対してアッパリンク11が揺動する範囲とは反対側の方が、同じ側よりも長いので、内側ピストンピン24aを圧入する際の第1、第2ピストンピン軸受部130a、130bの変形を抑制して略円形に保つことができる。これにより圧入作業が容易になる。
(4)内側ピストンピン24aの外側ピストンピン24bに対する圧入代は、燃焼上死点位置付近でピストンピン24を介してアッパリンク11に入力される荷重の作用方向にある部分近傍が、他の部分に比べて小さいので、燃焼荷重を受けた際に応力が高くなりがちな部分の圧入代が小さくなる。これにより応力を低減して耐久性を向上させることができる。
(5)外側ピストンピン24bは外側ピストンピン中心軸方向に二分割されて第1、第2ピストンピン軸受部130a、130bのみが二重構造となっており、各外側ピストンピン24bの外周面は、外側ピストンピン24bの径方向厚さがピストン中心側よりも外周側の方が大きくなるようテーパ状になっているので、外側ピストンピン24bの位置決めが容易となる。
(6)ピストンピン24には、軸方向に貫通する空洞及びこの空洞の軸方向略中央部からピストン冠面方向の外周面に貫通する空洞からなる油孔24c、24dが形成されているので、燃焼荷重が作用した場合に接触応力が高くなる部分と油孔24dの開口部が重なることがない。したがって、燃焼荷重が作用した場合にも、摺動部へ確実に潤滑油を供給することができる。
(7)外側ピストンピン24bは、内側ピストンピン24a及び第1、第2ピストンピン軸受部130a、130bよりも弾性係数が小さいので、圧入固定された際に発生する応力を均一に近づけることができ、ピストンピン24の内転を防止することができる。
【0093】
第5実施形態について説明する。
【0094】
本実施形態は、基本的には第4実施形態と同様の構成であり、ピストン22の形状が異なる。
【0095】
図20は、図17と同様に、(a)がピストン22を下方から見た図、(b)が(a)のxviii−xviii線に沿う断面図であり、中心軸131aからスラスト力が入力される側のスラスト力作用方向線THと第1、第2ピストンピン軸受部130a、130bとの交点までの距離L1が他方の距離L2よりも大きくなっている。
【0096】
図20(a)に示すように、本実施形態のピストン22は、一方のスカート22a(図中左側)が、他方のスカート22a(図中右側)よりも周方向の幅が広くなっている。例えば、クランクシャフト21の回転軸とシリンダボア中心とのオフセット量が図17の場合よりも大きく、カウンタウェイト21cとの干渉は片方のスカート22aのみである場合に、このようなスカート形状にすることができる。なお、スラスト力が入力される側のスカート22aの方を広くする。
【0097】
図21は、ピストンピン24を圧入する場合の、第1、第2ピストンピン軸受部130a、130bの変形の様子を表した図であり、(a)はピストンピン孔131周縁の肉厚が均等の場合、(b)はスカート22aの周方向幅が広い側の肉厚を狭い側の肉厚より厚くした場合について表した図である。
【0098】
図21(a)のようにピストンピン孔131周縁の肉厚が均等の場合、ピストンピン孔131の周縁の剛性は、スカート22aの幅が広い側の方が狭い側よりも低くなる。そのため、ピストンピン24を圧入する際に、剛性の低い側は引張り変形が大きくなり、圧入作業が困難になる。
【0099】
これに対して、図21(b)のようにスカート22aの周方向幅が広い方のピストンピン孔131周縁の肉厚が相対的に厚い場合には、肉厚を厚くした部分の剛性が高まるため、圧入時の変形を抑制することができる。これにより、圧入を容易にすることができる。
【0100】
なお、図22に示すように、スカート22aの周方向幅が広い側のピストンピン軸受部間隔S1を、狭い側のピストンピン軸受部間隔S2よりも狭くすることによっても、スカート22aの周方向幅が広い側のピストンピン孔131周縁の剛性を高めることができ、同様の効果を得ることができる。
【0101】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で様々な変更を成し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0102】
11 アッパリンク
11a アッパピン軸受部
13 コントロールリンク
13a コントロールピン軸受部
21 クランクシャフト
22 ピストン
24 ピストンピン
25 アッパピン
26 コントロールピン
100 ロアリンク
110 アッパピン軸受部
111 アッパピン軸受部谷間
120 コントロールピン軸受部
130 ピストンピン軸受部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの軸受部が二股状に対向して配置された二股軸受部を有する第1部材と、
前記二股軸受部の間に配置される軸受部を有する第2部材と、を備え、
前記第1部材の二股軸受部と前記第2部材の軸受部とを、連結ピンで連結するリンク機構の軸受構造であって、
前記連結ピンは、前記二股状に配置された軸受部の少なくとも一方では内側連結ピンと外側連結ピンとが同軸状に配置される二重構造となっており、
前記外側連結ピンは、前記第1部材の軸受部に挿通された状態で内周側に前記内側連結ピンが圧入されて直径が拡大することによって、前記第1部材の二股軸受部に圧入固定された状態となっているリンク機構の軸受構造。
【請求項2】
前記リンク機構は、
ピストンにピストンピンを介して連結されるアッパリンクと、
クランクシャフトのクランクピンに回転自由に装着されるとともに前記アッパリンクにアッパピンを介して連結されるロアリンクと、
前記ロアリンクにコントロールピンを介して連結されるコントロールリンクと、
を備える内燃機関の複リンク式ピストンストローク機構であって、
前記第1部材及び前記第2部材が、それぞれロアリンク、アッパリンク又はコントロールリンクであり、
前記連結ピンが、アッパピン又はコントロールピンである請求項1に記載のリンク機構の軸受構造。
【請求項3】
前記内側連結ピンの前記外側連結ピンに対する圧入代は、前記内側連結ピン及び外側連結ピンを前記第1部材の二股軸受部に圧入した際に前記第1部材の軸受部の外側側面に相当する位置における圧入代をRa、同じく前記第1部材の各軸受部の略中央に相当する位置における圧入代をRb、同じく第1部材の軸受部の内側側面に相当する位置における圧入代をRc、としたときに、Rb>Rc>Raである請求項1または2に記載のリンク機構の軸受構造。
【請求項4】
前記内側連結ピンは内側連結ピン中心軸方向に二分割されて前記第1部材の2つの軸受部のみが二重構造となっており、
各内側連結ピンは前記第1部材の2つの軸受部の外側側面方向から前記外側連結ピンに圧入される請求項1から3のいずれかに記載のリンク機構の軸受部構造。
【請求項5】
前記内側連結ピンの前記外側連結ピンに対する圧入代は、前記外側連結ピンと前記第2部材との摺動面端部に相当する位置における圧入代をRd、同じく摺動面略中央部に相当する位置における圧入代をRe、としたときに、Rd>Reである請求項1から3のいずれかに記載のリンク機構の軸受構造。
【請求項6】
前記内側連結ピンの前記外側連結ピンに対する圧入代は、前記外側連結ピンと前記第2部材との摺動面端部に相当する位置における圧入代をRd、同じく摺動面略中央部に相当する位置における圧入代をRe、としたときに、Re>Rdである請求項1から3のいずれかに記載のリンク機構の軸受構造。
【請求項7】
前記内側連結ピンの外径を内側連結ピン中心軸方向の位置に応じて異ならせることにより、前記内側連結ピンの前記外側連結ピンに対する圧入代の大小関係を実現する請求項3から6のいずれかに記載のリンク機構の軸受構造。
【請求項8】
前記第1部材が前記ロアリンクであり、
前記第2部材が前記アッパリンク又は前記コントロールリンクであり、
前記連結ピンが前記アッパピン又は前記コントロールピンである請求項2から7のいずれかに記載のリンク機構の軸受構造。
【請求項9】
前記第1部材が前記ロアリンクであり、
前記第2部材が前記コントロールリンクであり、
前記ロアリンクの軸受部周縁のうち、燃焼上死点位置付近で前記コントロールピンを介して前記ロアリンクに入力される荷重の作用方向にある部分近傍は、他の部位に比べて前記内側連結ピンの前記外側連結ピンに対する圧入代が小さい請求項8に記載のリンク機構の軸受構造。
【請求項10】
前記第1部材が前記ロアリンクであり、
前記第2部材が前記アッパリンクであり、
前記ロアリンクの軸受部周縁のうち、排気上死点位置付近で前記アッパピンを介して前記ロアリンクに入力される荷重の作用方向にある部分近傍は、他の部位に比べて前記内側連結ピンの前記外側連結ピンに対する圧入代が小さい請求項8に記載のリンク機構の軸受構造。
【請求項11】
前記リンク機構は、
ピストンにピストンピンを介して連結されるアッパリンクと、
クランクシャフトのクランクピンに回転自由に装着されるとともに前記アッパリンクにアッパピンを介して連結されるロアリンクと、
前記ロアリンクにコントロールピンを介して連結されるコントロールリンクと、
を備え、
シリンダボア中心軸とクランクシャフト回転軸とがオフセットし、かつ前記クランクシャフトのカウンタウェイト最外径部が、下死点近傍においてピストンピンの軸方向への延長線と交差するように前記各リンクを配置した内燃機関の複リンク式ピストンストローク機構であって、
前記第1部材がピストンであり、
前記第2部材がアッパリンクであり、
前記連結ピンがピストンピンである請求項1に記載のリンク機構の軸受構造。
【請求項12】
前記リンク機構は、機関前方から見た際に、前記アッパリンクが前記クランクシャフトの回転に伴ってシリンダボア中心軸に対して左右いずれか一方の範囲で揺動し、
前記ピストンの軸受部周縁の肉厚は、シリンダボア中心軸に対して前記アッパリンクが揺動する範囲とは反対側の方が、同じ側よりも厚い請求項11に記載のリンク機構の軸受構造。
【請求項13】
前記ピストンのスカート部の周方向長さが、シリンダボア中心軸に対して前記アッパリンクが揺動する範囲とは反対側の方が、同じ側よりも長い請求項12に記載のリンク機構の軸受構造。
【請求項14】
前記ピストンの軸受部のピストンピン中心軸方向長さが、シリンダボア中心軸に対して前記アッパリンクが揺動する範囲とは反対側の方が、同じ側よりも長い請求項12または13に記載のリンク機構の軸受構造。
【請求項15】
前記内側連結ピンの前記外側連結ピンに対する圧入代は、燃焼上死点位置付近で前記ピストンピンを介して前記アッパリンクに入力される荷重の作用方向にある部分近傍が、他の部分に比べて小さい請求項11から14のいずれかに記載のリンク機構の軸受構造。
【請求項16】
前記外側連結ピンは外側連結ピン中心軸方向に二分割されて前記第1部材の2つの軸受部のみが二重構造となっており、
各外側連結ピンの外周面は、外側連結ピンの径方向厚さがピストン中心側よりも外周側の方が大きくなるようテーパ状になっている請求項11から14のいずれかに記載のリンク機構の軸受構造。
【請求項17】
前記連結ピンはピストンピンであり、軸方向に貫通する空洞及びこの空洞の軸方向略中央部からピストン冠面方向の外周面に貫通する空洞からなる油孔が形成されている特徴とする請求項11から16のいずれかに記載のリンク機構の軸受構造。
【請求項18】
前記外側連結ピンは、前記内側連結ピン及び軸受部よりも弾性係数が小さい請求項1から17のいずれかに記載のリンク機構の軸受構造。
【請求項19】
前記リンク機構は、前記コントロールリンクの姿勢を変化させてピストン上死点位置を制御することにより機関圧縮比の変更が可能な可変圧縮比機構である請求項2から18のいずれかに記載のリンク機構の軸受構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−32853(P2013−32853A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−246575(P2012−246575)
【出願日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【分割の表示】特願2008−19219(P2008−19219)の分割
【原出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】