説明

リン酸エステルの精製方法、ポリマーの製造方法、及び、平版印刷版用版面処理剤

【課題】リン酸モノエステル及びリン酸ジエステルの混合物から容易にリン酸モノエステルを精製することができるリン酸エステルの精製方法を提供すること、並びに、ポリマー合成時のゲル化を防止し安定に製造することができるポリマーの製造方法、及び、前記ポリマーの製造方法により得られたポリマーを含有する平版印刷版用版面処理剤を提供すること。
【解決手段】リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを主成分とするリン酸エステル混合物を、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤と混合し、リン酸モノエステルを水相に抽出する抽出工程、並びに、前記水相と有機相とを分離する分離工程、を含むことを特徴とするリン酸エステルの精製方法、前記精製方法により得られたリン酸エステルを用いるポリマーの製造方法、並びに、前記製造方法により得られたポリマーを含有する平版印刷版用版面処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸エステルの精製方法、ポリマーの製造方法、及び、前記ポリマーの製造方法により得られたポリマーを含有する平版印刷版用版面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸モノエステル及び/又はリン酸ジエステルを主成分とするリン酸エステルは、重合触媒、界面活性剤、金属結合溶剤、繊維の帯電防止剤等様々な分野で用いられている。
リン酸エステルは、一般に、リン酸とアルコールとのエステル化反応、例えば、五酸化二リンとアルコールとの反応により合成されるが、リン酸モノエステル及びリン酸ジエステルを選択的に合成することは困難である。このため、高純度のリン酸モノエステル又はリン酸ジエステルを得るためには、これらの分離を行う必要がある。
【0003】
また、平版印刷版としては、親水性表面を有する支持体上に感光性樹脂層を設けた構成を有し、その製版方法として、通常は、リスフィルムを介して面露光(マスク露光)した後、非画像部を現像液により除去することにより所望の印刷版を得ていた。しかし近年のデジタル化技術により、レーザー光のような指向性の高い光をデジタル化された画像情報にしたがって版面に走査することで、リスフィルムを介することなく直接版面に露光処理を行うコンピュータートゥプレート(CTP)技術が開発され、またこれに適応した感光性平版印刷版(平版印刷版原版)が開発されている。
このようなレーザー光による露光に適した平版印刷版原版として、重合性感光層を用いた平版印刷版原版を挙げることができる。重合性感光層は光重合開始剤又は重合開始系(以下、単に開始剤又は開始系ともいう。)を選択することで、他の従来の感光層に比べ高感度化が容易である。
レーザー光源としては、405nmあるいは830nmの半導体レーザー、FD−YAGレーザーなどが用いられる。近年、システムコスト、取扱性の観点から、405nmあるいは803nmの半導体レーザーを搭載したCTPシステムが普及している。
平版印刷版を製版する際、その最終工程で、非画像部と画像部を保護するため版面処理剤(いわゆるガム液)が塗布される。この工程はガム引きと言われる。
【0004】
リン酸エステルに関し、特許文献1〜3が知られている。
特許文献1には、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルを主成分とする酸性リン酸エステル混合物と、水、非水溶性有機溶媒及び塩基性化合物を混合処理して、酸性リン酸エステル混合物を水層に抽出した後水層を分液し、次いで該水層に酸及び非水溶性有機溶媒を、または酸、非水溶性有機溶媒及び無機塩をその量を制御しながら混合して、リン酸エステルとリン酸ジエステルの組成比が制御された酸性リン酸エステル混合物を非水溶性有機溶媒層に抽出することを特徴とする酸性リン酸エステルの製造方法が記載されている。
特許文献2には、不飽和基含有リン酸エステルモノマーの製造方法が記載されている。
特許文献3には、特定のリン酸モノエステルと特定のリン酸ジエステルとを含有する重合性リン酸エステル組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−182673号公報
【特許文献2】特開2003−146992号公報
【特許文献3】特開2008−13670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、リン酸モノエステル及びリン酸ジエステルの混合物から容易にリン酸モノエステルを精製することができるリン酸エステルの精製方法を提供することである。
また、本発明の他の目的は、ポリマー合成時のゲル化を防止し安定に製造することができるポリマーの製造方法、及び、前記ポリマーの製造方法により得られたポリマーを含有する平版印刷版用版面処理剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は以下の<1>、<10>又は<12>に記載の手段によって解決された。好ましい実施態様である<2>〜<9>及び<11>と共に以下に記載する。
<1>リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを主成分とするリン酸エステル混合物を、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤と混合し、リン酸モノエステルを水相に抽出する抽出工程、並びに、前記水相と有機相とを分離する分離工程、を含むことを特徴とするリン酸エステルの精製方法、
<2>前記リン酸モノエステル及び前記リン酸ジエステルが、ともにエチレン性不飽和基を有する上記<1>記載のリン酸エステルの精製方法、
<3>前記リン酸モノエステル及び前記リン酸ジエステルが、ともに下記式(1)で表される基を有する上記<2>記載のリン酸エステルの精製方法、
【0008】
【化1】

(式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、波線部分は他との結合位置を表す。)
【0009】
<4>前記リン酸モノエステル及び前記リン酸ジエステルが、ともに(メタ)アクリル基を有する上記<3>記載のリン酸エステルの精製方法、
<5>前記分離工程において得られた水相中のリン酸ジエステルの含有量が、リン酸モノエステルの含有量に対して、25モル%以下である上記<1>〜<4>のいずれか1つに記載のリン酸エステルの精製方法、
<6>前記中性の水が、塩を含まない水である上記<1>〜<5>のいずれか1つに記載のリン酸エステルの精製方法、
<7>前記非ハロゲン系有機溶剤が、酢酸エチル、メチルt−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、酢酸3−メトキシブチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジイソプロピルエーテル、及び、メチルイソブチルケトンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の有機溶剤である上記<1>〜<6>のいずれか1つに記載のリン酸エステルの精製方法、
<8>前記リン酸モノエステルが、下記式(2)で表される化合物であり、前記リン酸ジエステルが、下記式(3)で表される化合物である上記<1>〜<8>のいずれか1つに記載のリン酸エステルの精製方法、
【0010】
【化2】

(式(2)及び式(3)中、R2は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、Xは−O−又は−N(R3)−を表し、A1は二価の連結基を表し、R3は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。)
【0011】
<9>前記抽出工程及び前記分離工程を2回以上行う上記<1>〜<8>のいずれか1つに記載のリン酸エステルの精製方法、
<10>上記<2>〜<4>のいずれか1つに記載のリン酸エステルの精製方法により得られたエチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステルを重合又は共重合する重合工程を含むことを特徴とするポリマーの製造方法、
<11>前記エチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステルとして、前記分離工程において得られた水相をそのまま使用する上記<10>記載のポリマーの製造方法、
<12>上記<10>又は<11>記載のポリマーの製造方法により得られたポリマーを含有することを特徴とする平版印刷版用版面処理剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リン酸モノエステル及びリン酸ジエステルの混合物から容易にリン酸モノエステルを精製することができるリン酸エステルの精製方法を提供することができた。
また、本発明によれば、ポリマー合成時のゲル化を防止し安定に製造することができるポリマーの製造方法、及び、前記ポリマーの製造方法により得られたポリマーを含有する平版印刷版用版面処理剤を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のリン酸エステルの精製方法、ポリマーの製造方法、及び、平版印刷版用版面処理剤について詳細に説明する。
【0014】
(リン酸エステルの精製方法)
本発明のリン酸エステルの精製方法は、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを主成分とするリン酸エステル混合物を、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤と混合し、リン酸モノエステルを水相(「水層」ともいう。)に抽出する抽出工程、並びに、前記水相と有機相(「有機層」ともいう。)とを分離する分離工程、を含むことを特徴とする。
本発明のリン酸エステルの精製方法は、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを主成分とするリン酸エステル混合物を、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤を使用して、液液分離を行うことにより、水相側にリン酸モノエステル抽出し、分離して精製する方法である。
特許文献1に記載されている方法では、酸や塩基性化合物を使用し、有機相に抽出するため、多段階の煩雑な工程が必要であり、また、使用する溶媒も多くの量が必要であった。
一方、本発明のリン酸エステルの精製方法では、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤を使用し、リン酸モノエステルを水相に抽出することにより、簡便な操作で精製することができ、また、使用する溶媒量の少ない量で精製することが可能である。
【0015】
<抽出工程>
本発明のリン酸エステルの精製方法は、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを主成分とするリン酸エステル混合物を、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤と混合し、リン酸モノエステルを水相に抽出する抽出工程を含む。
前記リン酸エステル混合物におけるリン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの含有比は、特に制限はなく、任意の割合であればよい。前記リン酸エステル混合物中には、リン酸モノエステルを1種又は2種以上含有していてもよく、また、リン酸ジエステルを1種又は2種以上含有していてもよい。さらに、前記リン酸エステル混合物中には、リン酸モノエステル及びリン酸ジエステル以外の化合物(不純物)を含有していてもよい。
前記リン酸エステル混合物は、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとが主成分である、すなわち、前記リン酸エステル混合物の全重量に対し、リン酸モノエステル及びリン酸ジエステルの合計量が50重量%以上である。
【0016】
本発明に用いることできるリン酸モノエステル及びリン酸ジエステルは、ともにエチレン性不飽和基を有する化合物であることが好ましい。リン酸モノエステル及びリン酸ジエステルがエチレン性不飽和基をいる場合であっても、本発明のリン酸エステルの精製方法であれば、リン酸のpHから中性の範囲でリン酸エステルを扱い分離するので、エチレン性不飽和基における重合等を抑制し、収率及び精製度の高い分離を行うことができる。
リン酸モノエステル及びリン酸ジエステルにおける前記エチレン性不飽和基としては、下記式(1)又は式(1’)で表される基であることがより好ましく、下記式(1)で表される基であることが更に好ましく、(メタ)アクリル基であることが特に好ましい。
【0017】
【化3】

(式(1)及び式(1’)中、R1は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、波線部分は他との結合位置を表す。)
【0018】
前記式(1)におけるR1としては、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であることがより好ましく、水素原子又はメチル基であることが更に好ましい。
また、R1におけるアルキル基は、直鎖状であっても、分岐状であっても、環構造を有していてもよい。
また、前記式(1’)におけるベンゼン環上の2つの基(ビニル基及び他との結合位置)の位置関係は、特に制限はないが、p位の関係であることが好ましい。
前記リン酸モノエステルは、エチレン性不飽和基を1つのみ有していることが好ましく、また、前記リン酸ジエステルは、エチレン性不飽和基を2つ有していることが好ましく、2つのエステル構造において、各エステル構造に1つずつエチレン性不飽和基を有していることがより好ましい。なお、前記「エステル構造」とは、リン酸エステル結合を形成しているアルコキシ基をいう。
また、前記リン酸エステル混合物において、リン酸モノエステルの1つのエステル構造と、リン酸ジエステルの2つのエステル構造とは同一の構造であることが好ましい。本発明のリン酸エステルの精製方法であれば、通常、分離しにくい同一の構造部分を有するリン酸モノエステルとリン酸ジエステルとであっても、容易に分離することができる。
【0019】
前記リン酸モノエステルとしては、下記式(2)又は式(2’)で表される化合物であることが好ましく、下記式(2)で表される化合物であることがより好ましい。
【0020】
【化4】

(式(2)及び式(2’)中、R2は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、Xは−O−又は−N(R3)−を表し、A1は二価の連結基を表し、R3は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、A2は単結合又は二価の連結基を表す。)
【0021】
前記式(2)におけるR2としては、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であることがより好ましく、水素原子又はメチル基であることが更に好ましい。
また、R2におけるアルキル基は、直鎖状であっても、分岐状であっても、環構造を有していてもよい。
前記式(2)におけるXは、−O−又は−NH−であることが好ましく、−O−であることがより好ましい。
また、前記式(2)におけるR3は、水素原子又はメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
また、R3におけるアルキル基は、直鎖状であっても、分岐状であっても、環構造を有していてもよい。
前記式(2)におけるA1は、炭素原子、水素原子、酸素原子、及び、窒素原子よりなる群から選ばれた1種以上の原子からなる基であることが好ましく、炭素原子、水素原子、及び、酸素原子よりなる群から選ばれた1種以上の原子からなる基であることがより好ましく、アルキレンオキシ基、又は、ポリアルキレンオキシ基であることが更に好ましく、エチレンオキシ基であることが特に好ましい。
前記式(2’)におけるベンゼン環上の2つの基(ビニル基及びA2)の位置関係は、特に制限はないが、p位の関係であることが好ましい。
前記式(2’)におけるA2は、単結合、又は、炭素原子、水素原子、酸素原子、及び、窒素原子よりなる群から選ばれた1種以上の原子からなる基であることが好ましく、単結合、又は、炭素原子、水素原子、及び、酸素原子よりなる群から選ばれた1種以上の原子からなる基であることがより好ましく、単結合、アルキレンオキシ基、又は、ポリアルキレンオキシ基であることがより好ましく、単結合であることが特に好ましい。
【0022】
前記リン酸ジエステルとしては、下記式(3)又は式(3’)で表される化合物であることが好ましく、下記式(3)で表される化合物であることがより好ましい。
【0023】
【化5】

(式(3)及び式(3’)中、R2は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、Xは−O−又は−N(R3)−を表し、A1は二価の連結基を表し、R3は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、A2は単結合又は二価の連結基を表す。)
【0024】
式(3)及び式(3’)におけるR2、X、A1、R3、及び、A2は、前記式(2)及び式(2’)におけるR2、X、A1、R3、及び、A2と同義であり、好ましい範囲も同様である。
前記リン酸エステル混合物において、リン酸モノエステルが前記式(2)又は式(2’)で表される化合物であり、かつ、リン酸ジエステルが前記式(3)又は式(3’)で表される化合物であることが好ましく、リン酸モノエステルが前記式(2)で表される化合物であり、かつ、リン酸ジエステルが前記式(3)で表される化合物であることがより好ましい。また、上記場合において、式(2)及び式(2’)におけるR2、X、A1、R3、及び、A2と、式(3)及び式(3’)におけるR2、X、A1、R3、及び、A2とがそれぞれ同一の基であることが好ましい。
【0025】
前記抽出工程に用いることができる中性の水としては、pHが中性(pH6〜8)であれば、特に制限はないが、pHが6.5〜7.5の水であることが好ましく、塩を含まない水であることがより好ましい。本発明のリン酸エステルの精製方法は、酸性及び/又はアルカリ性に水相を変化させずとも、分離が可能であり、また、中性の水を使用することによって、使用するリン酸エステルがあまり安定な(特に酸性又はアルカリ性に安定な)化合物でなくとも、収率及び精製効率よく分離することができる。
前記抽出工程に用いることができる中性の水として具体的には、水道水、井戸水、イオン交換水、蒸留水、及び、純水が挙げられるが、塩を含まない水であることが好ましく、イオン交換水、蒸留水、及び、純水がより好ましい。
上記「塩」とは、陽イオン及び陰イオンとがイオン結合した化合物のことであり、無機塩及び有機塩が含まれる。
なお、前記抽出工程において、リン酸エステル混合物と混合した後は、リン酸モノエステルやリン酸ジエステルなどによりpHが変動することは、言うまでもない。
【0026】
前記抽出工程に用いることができる非ハロゲン系有機溶剤としては、ハロゲン原子を有さず、かつ、水に対して非相溶である有機溶剤、すなわち、水と適当な割合で混合した場合に水相と有機相とを形成することができる溶剤であれば、特に制限はない。
前記非ハロゲン系有機溶剤としては、カルボン酸エステル類、エーテル類、ケトン類、及び、グリコールエーテル類が好ましく挙げられ、グリコールエーテル類がより好ましく挙げられる。
カルボン酸エステル類としては、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、酢酸イソアミル、酢酸n−ヘキシル、酢酸2−エチルヘキシル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸イソブチル、メトキシ酢酸エチル、エトキシ酢酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸3−メチル−3−メトキシブチル、プロピオン酸3−メチル−3−メトキシブチル、ブタン酸3−メチル−3−メトキシブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、ピルビン酸メチル、及び、ピルビン酸エチル等が例示できる。
エーテル類としては、メチルt−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチルイソアミルエーテル、ジイソアミルエーテル、及び、ジブチルエーテルが例示できる。
ケトン類としては、メチルn−プロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、及び、4−ヘプタノン等が例示できる。
【0027】
グリコールエーテル類としては、エチレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールジアルキルエーテル類、ジエチレングリコールジアルキルエーテル類、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル類、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、及び、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類が好ましく例示でき、エチレングリコールジアルキルエーテル類がより好ましく例示できる。
また、グリコールエーテル類としては、ブチル基やブチレン基等の炭素数4以上の炭化水素鎖を有する化合物であることが好ましく、炭素数4〜8の炭化水素鎖を有する化合物であることがより好ましく、ブチル基及び/又はブチレン基を有する化合物であることが更に好ましい。上記化合物であると、溶剤としての極性が適度であり、精製度により優れる。
【0028】
グリコールエーテル類としては、具体的には、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテートが好ましく例示でき、エチレングリコールジブチルエーテルを特に好ましく例示できる。上記溶剤であると、水溶解能が適度であり、分離性及び収率に優れる。
【0029】
また、本発明に用いることができる非ハロゲン系有機溶剤としては、水溶解能が1〜10である溶剤が好ましく挙げられる。
本発明における「水分解能」とは、25℃において、非ハロゲン系有機溶剤100gに溶解可能な水の量(単位:g)を表す。
例えば、酢酸エチルの水溶解能は2.94であり、ジエチレングリコールジブチルエーテルの水溶解能は1.4であり、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートの水溶解能は1.6であり、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートの水溶解能は3.7であり、酢酸プロピルの水溶解能は2.9であり、酢酸イソプロピルの水溶解能は1.9である。
【0030】
これらの有機溶剤の中でも、前記非ハロゲン系有機溶剤は、酢酸エチル、メチルt−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、酢酸3−メトキシブチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジイソプロピルエーテル、及び、メチルイソブチルケトンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の有機溶剤であることが好ましく、ジエチレングリコールジブチルエーテルであることが特に好ましい。
前記非ハロゲン系有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
また、本発明に用いることができる非ハロゲン系有機溶剤は、新版 溶剤ポケットブック(有機合成化学協会編、1994年発行)等も参照することができる。
【0031】
前記抽出工程における中性の水と非ハロゲン系有機溶剤との使用比は、水相及び有機相を形成可能であれば、特に制限はないが、重量比で、水:溶剤=5:1〜1:5であることが好ましく、2:1〜1:2であることがより好ましく、1.2:1〜1:1.2であることが更に好ましい。中性の水と非ハロゲン系有機溶剤との使用比が、重量比で1:1に近い方がより分離性及び収率のバランスに優れる。
前記抽出工程において、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤と、リン酸エステル混合物との使用比は、特に制限はないが、重量比で、水及び溶剤:混合物=10:1〜1:1であることが好ましく、7:1〜1:1であることがより好ましい。使用するリン酸モノエステル及びリン酸ジエステルの水や溶剤への溶解度にも依存するが、本発明のリン酸エステルの精製方法であると、少ない水及び溶剤により多くのリン酸エステル混合物を分離することができる。
【0032】
前記抽出工程に用いることができる混合方法や抽出方法は、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
抽出方法としては、液液抽出を行うことができる方法であればよく、分液漏斗を使用する方法等が好適に例示できる。
また、前記抽出工程において、リン酸エステル混合物と、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤と混合は、任意の方法で行えばよく、例えば、上記分液漏斗中で混合しても、別途、撹拌器等の混合手段を使用して混合してもよい。
前記抽出工程における抽出時の液温は、特に制限はなく、室温(例えば、10℃〜30℃)で抽出を好適に行うことができる。また、必要に応じて、リン酸エステル混合物や、中性の水、非ハロゲン系有機溶剤、これらの混合液に対し、加熱や冷却を行ってもよい。
また、前記抽出工程における混合時間や撹拌速度は、リン酸エステル混合物と、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤と十分に混合できる時間及び撹拌速度であれば、特に制限はない。
【0033】
<分離工程>
本発明のリン酸エステルの精製方法は、前記水相と有機相とを分離する分離工程を含む。
前記分離工程では、前記抽出工程において得られたリン酸モノエステルを含有する水相と、主成分として非ハロゲン系有機溶剤からなる有機相との分離を行うが、分離手段としては、特に制限はなく、公知の手段を用いることができる。
前記分離工程に用いる分離方法としては、特に制限はなく、公知の分離方法を用いることができる。
分離方法としては、分液漏斗により水相と有機相と分離する方法や、有機相を吸引又はデカンテーション等により除去する方法が例示できる。
前記分離工程において、前記水相と有機相とを分離する際、水相と有機相との界面が明確であることが好ましい。また、水相と有機相との界面を安定させ、明確な界面を形成させるため、リン酸エステル混合物と、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤とを混合した液を静置することが好ましい。静置時間としては、特に制限はないが、30秒〜1時間が例示できる。
前記分離工程における分離時の液温は、特に制限はないが、好ましい液温は、前記抽出工程の抽出時における好ましい液温と同様である。
【0034】
本発明のリン酸エステルの精製方法は、前記抽出工程及び前記分離工程を1回のみ行っても、2回以上繰り返して行ってもよいが、前記抽出工程及び前記分離工程を2回以上行うことが好ましく、2〜5回行うことがより好ましい。複数回、前記抽出工程及び前記分離工程を行うことにより、容易に分離能を向上させることができる。
【0035】
本発明のリン酸エステルの精製方法において、分離して得られた水相には、リン酸モノエステルが多く抽出され、また、分離して得られた有機相には、リン酸ジエステルが多く抽出される。
前記分離工程において得られた水相中のリン酸ジエステルの含有量は、リン酸モノエステルの含有量に対して、25モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、6モル%以下であることが更に好ましい。
特に、本発明のリン酸エステルの精製方法により得られたエチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステルを含有する水相は、エチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステル含有水溶液として、ポリマー合成の原料にそのまま好適に使用できる。
また、本発明のリン酸エステルの精製方法において得られたリン酸モノエステル、又は、リン酸ジエステルは、所望に応じ、公知の方法により、単離を行ってもよく、また、別の精製方法により精製を行ってもよい。
【0036】
(ポリマーの製造方法)
本発明のポリマーの製造方法は、本発明のリン酸エステルの精製方法により得られたエチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステルを重合又は共重合する重合工程を含むことを特徴とする。
また、本発明のポリマーの製造方法により製造されたポリマーは、平版印刷版用版面処理剤に特に好適に使用することができる。
【0037】
前記重合工程において使用する重合性化合物は、エチレン性不飽和基を有する化合物(エチレン性不飽和化合物)であることが好ましい。
前記重合工程においては、1種のエチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステルを単独重合しても、2種以上のエチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステルを共重合してもよく、また、1種以上のエチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステルと1種以上の他のエチレン性不飽和化合物とを共重合してもよい。
また、本発明のポリマーの製造方法により得られるポリマーは、ビニル共重合体であることが好ましい。
なお、ビニル共重合体とは、例えば、アクリレート類、メタクリレート類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、スチレン類、芳香族ビニル化合物、脂肪族ビニル化合物、アリル化合物、アクリル酸、メタクリル酸などのようなエチレン性不飽和化合物を2種以上共重合して得られる共重合体である。
前記ポリマーは、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれの共重合体でもよいが、ランダム共重合体であることが好ましい。
前記重合工程に用いることができる他のエチレン性不飽和化合物は、アクリレート類、メタクリレート類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、及び、スチレン類よりなる群から撰ばれた化合物であることが好ましい。
【0038】
前記重合工程では、重合開始剤を使用して重合又は共重合を行うことが好ましい。
本発明に用いることができる重合開始剤としては、公知のものを制限なく使用できる。具体的には、例えば、アゾ化合物、無機過酸化物、有機過酸化物、アジド化合物、メタロセン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、有機ホウ素化合物、ジスルホン化合物、オキシムエステル化合物、オニウム塩化合物、鉄アレーン錯体、トリハロメチル化合物、カルボニル化合物が挙げられる。また、重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好ましい。
中でも、水相での重合反応に使用することが可能な水溶性の重合開始剤が好ましく、水溶性アゾ化合物、水溶性無機過酸化物、水溶性有機過酸化物がより好ましく、水溶性アゾ化合物が特に好ましい。
重合開始剤は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0039】
前記重合工程における重合開始剤の使用量は、重合可能であれば特に制限はないが、重合性化合物の全量を100モル%とした場合、0.001〜20モル%であることが好ましく、0.01〜10モル%であることがより好ましく、0.05〜5モル%であることが更に好ましい。
【0040】
前記重合工程における重合は、水系媒体中で行っても、有機溶剤中で行っても、無溶媒で行ってもよいが、水系媒体中で行うことが好ましい。水系媒体中で行うことにより、本発明のリン酸エステルの精製方法により得られたエチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステルを含有する水相を容易に利用することができる。
前記重合工程に用いることができる水系媒体としては、水やアルコール類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、水系媒体には、水混和性の有機溶剤を含んでいてもよい。水混和性の有機溶剤としては、例えば、アセトンや酢酸等が挙げられ、また、前述した非ハロゲン系有機溶剤を含んでいてもよい。
これらの中でも、水及びグリコールエーテル類を少なくとも含む混合溶媒を用いることが好ましく、水及びグリコールモノエーテル類を少なくとも含む混合溶媒を用いることがより好ましく、水及びメトキシプロピレングリコールを少なくとも含む混合溶媒を用いることが更に好ましい。また、水とグリコールエーテル類との使用比は、グリコールエーテル類よりも水が多いことが好ましく、グリコールエーテル類:水=1:2〜5(重量比)であることがより好ましい。
前記重合工程に用いることができる有機溶媒としては、公知の有機溶剤を用いることができるが、非ハロゲン系有機溶剤であることが好ましい。
【0041】
前記重合工程における反応温度や反応時間は、特に制限はなく、使用するエチレン性不飽和化合物や、媒体、重合方法、反応の進行状況、所望のポリマーの物性値等を考慮し、適宜選択すればよい。
前記重合工程における重合方法としては、特に制限はないが、水系媒体中にエチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステル含有溶液と重合開始剤溶液とを徐々に滴下する方法が好ましく例示できる。
また、本発明のポリマーの製造方法により得られたポリマーは、必要に応じ、単離や精製を行ってもよいし、例えば、平版印刷版用版面処理剤の材料としてそのまま使用してもよい。
前記ポリマーにおけるエチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステル由来のモノマー単位におけるリン酸基は、塩を形成したリン酸塩基であってもよい。塩を形成する対カチオンとしては、一価のカチオンであっても、二価以上のカチオンであってもよく、公知の金属カチオン及び有機カチオンが挙げられる。
【0042】
本発明のポリマーの製造方法により製造されたポリマーを平版印刷版用版面処理剤に使用する場合における好ましい実施態様を以下に記載する。
前記重合工程において、1種以上のエチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステルと1種以上の他のエチレン性不飽和化合物とを共重合することが好ましく、1種以上のエチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステルと1種以上のスルホン酸基(−SO3H)及びその塩(−SO3M(ただし、Mはプロトン(H+)以外の対カチオンを表す。))、アミド基(−CONR−(ただし、Rは水素原子又は有機基を表す。))並びにベタイン構造よりなる群から選ばれた少なくとも1つの基又は構造を有するエチレン性不飽和化合物(以下、「特定親水性基を有するエチレン性不飽和化合物」ともいう。)とを少なくとも共重合することがより好ましい。
前記重合工程におけるエチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステルの使用量は、エチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステルを含むエチレン性不飽和化合物の全使用量に対し、2〜80モル%であることが好ましく、2〜70モル%であることがより好ましく、5〜50モル%であることが更に好ましく、10〜40モル%であることが特に好ましい。
前記重合工程における特定親水性基を有するエチレン性不飽和化合物の使用量は、エチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステルを含むエチレン性不飽和化合物の全使用量に対し、30〜98モル%であることが好ましく、40〜90モル%であることがより好ましく、50〜90モル%であることが更に好ましい。
また、前記ポリマーにおけるこれらエチレン性不飽和化合物由来のモノマー単位についても、同様の割合であることが好ましい。
【0043】
前記ベタイン構造とは、1つのモノマー単位内にカチオン構造とアニオン構造の両方を有し、同一モノマー単位内で電荷が中和されている構造である。
前記ベタイン構造におけるカチオン構造としては、特に制限はないが、第四級窒素カチオンであることが好ましい。
前記ベタイン構造におけるアニオン構造としては、特に制限はないが、−COO-、−SO3-、−PO32-、及び/又は、−PO3-であることが好ましく、−COO-、及び/又は、−SO3-であることがより好ましい。
前記アミド基は、モノマー単位において、−CONR−であっても、−NRCO−であってもよい。Rは水素原子又は有機基を表すが、水素原子又は一価の炭化水素基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜20の一価の炭化水素基であることがより好ましい。
また、前記特定親水性基を有するエチレン性不飽和化合物は、スルホン酸基及びその塩並びにベタイン構造よりなる群から選ばれた少なくとも1つの基又は構造を有するエチレン性不飽和化合物であることが好ましく、スルホン酸基を有するエチレン性不飽和化合物であることがより好ましい。
特定親水性基を有するエチレン性不飽和化合物として具体的には、以下の(Hm−1)〜(Hm−8)で表される化合物を好ましく例示できる。
【0044】
【化6】

【0045】
これらの中でも、(Hm−1)〜(Hm−4)で表される化合物がより好ましく、(Hm−1)で表される化合物(t−ブチルアクリルアミドスルホン酸)が特に好ましい。
【0046】
また、前記ポリマーは、エチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステル及び特定親水性基を有するエチレン性不飽和化合物以外に、他のエチレン性不飽和化合物を有していてもよいが、他のエチレン性不飽和化合物としては、ヒドロキシ基及び/又はポリアルキレンオキシ基を有するエチレン性不飽和化合物が好ましく例示できる。
前記重合工程におけるエチレン性不飽和化合物の使用量は、使用するエチレン性不飽和化合物の全モル量に対し、40モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることが更に好ましい。
【0047】
前記ポリマーの重量平均分子量は、5,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、また、1,000,000以下であることが好ましく、500,000以下であることがより好ましい。
前記ポリマーの数平均分子量は、1,000以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましく、また、500,000以下であることが好ましく、300,000以下であることがより好ましい。
前記ポリマーの多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、1.1〜10であることが好ましい。
【0048】
(平版印刷版用版面処理剤)
本発明の平版印刷版用版面処理剤(以下、単に「版面処理剤」ともいい、また、「版面保護剤」又は「フィニッシャー」ともいう。)は、本発明のポリマーの製造方法により得られたポリマーを含有することを特徴とする。
本発明の版面処理剤は、本発明のポリマーの製造方法により得られたポリマーを1種単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。
本発明の版面処理剤における本発明のポリマーの製造方法により得られたポリマーの含有量は、0.005〜10重量%であることが好ましく、0.01〜5重量%であることがより好ましく、0.1〜3重量%であることが更に好ましい。上記範囲であると、非画像部及び網画像部の汚れ防止効果が得られる。
【0049】
本発明の版面処理剤には、本発明のポリマーの製造方法により得られたポリマーの他に、さらに、前記本発明のポリマーの製造方法により得られたポリマー以外の水溶性高分子化合物、無機酸、無機酸の塩、有機酸、有機酸の塩、界面活性剤、有機溶剤、硝酸塩、硫酸塩、キレート剤、防腐剤、消泡剤などを含ませることができる。
以下に各種成分について述べる。
【0050】
本発明の版面処理剤には、親水性の維持や傷から版面を保護するために皮膜形成性を有する、本発明のポリマーの製造方法により得られたポリマー以外の水溶性高分子化合物を加えることが好ましい。
前記水溶性高分子化合物としては、例えば、アラビアガム、繊維素誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルプロピルセルロース等)及びその変性体、ポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びその共重合体、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル/無水マレイン酸共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、水溶性大豆多糖類、澱粉誘導体(例えば、デキストリン、酵素分解デキストリン、ヒドロキシプロピル化澱粉酵素分解デキストリン、カルボキジメチル化澱粉、リン酸化澱粉、サイクロデキストリン)、プルラン及びプルラン誘導体、大豆から抽出されるヘミセルロース等が挙げられる。
中でも、アラビアガム、デキストリンといった澱粉誘導体、カルボキシメチルセルロース、大豆多糖類などが好ましく使用することができる。
これら前記水溶性高分子化合物の含有量は、0.1〜25.0重量%であることが好ましく、0.3〜20.0重量%であることがより好ましい。
【0051】
本発明の版面処理剤は、一般的には酸性領域pH2〜6の範囲で使用する方が有利である。そのようなpHにするため、版面処理剤中に、鉱酸、有機酸、又は、それらの塩等のpH調整剤を添加し調節することが好ましい。
pH調整剤としては、例えば、鉱酸として、硝酸、硫酸、燐酸、メタ燐酸、ポリ燐酸などが挙げられる。有機酸としては、酢酸、蓚酸、クエン酸、リンゴ酸、マロン酸、酒石酸、p−トルエンスルホン酸、乳酸、レプリン酸、フィチン酸、有機ホスホン酸などが挙げられる。好ましく使用できる塩として、燐酸水素二ナトリウム、燐酸水素二カリウム、燐酸水素二アンモニウム、燐酸二水素ナトリウム、燐酸二水素カリウム、燐酸二水素アンモニウム、ピロ燐酸カリウム、ヘキサメタ燐酸ナトリウム、トリポリ燐酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
pH調整剤は、1種単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を併用してもよい。その添加量は、0.01〜3.0重量%であることが好ましい。
【0052】
本発明の版面処理剤は、更に界面活性剤を含んでいることが好ましい。
界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤及び/又はノニオン界面活性剤が挙げられる。
アニオン界面活性剤としては、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホコハク酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−メチル−N−オレイルタウリンナトリウム類、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硫酸化ヒマシ油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン−無水マレイン酸共重合物の部分ケン化物類、オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分ケン化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が挙げられる。
これらの中でも、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキル硫酸エステル塩類及びアルキルナフタレンスルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
【0053】
また、ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、グリセリン脂肪酸部分エステル類、ソルビタン脂肪酸部分エステル類、ペンタエリスリトール脂肪酸部分エステル類、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレンヒマシ油エーテル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸部分エステル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸部分エステル類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸部分エステル類、脂肪酸ジエタノールアミド類、N,N−ビス−2−ヒドロキシアルキルアミン類、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸エステル、トリアルキルアミンオキシドなどが挙げられる。
その中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類、ポリオキシエチレンヒマシ油エーテル等が好ましく用いられる。
また、アセチレングリコール系とアセチレンアルコール系のオキシエチレン付加物、フッ素系、シリコン系等のアニオン、ノニオン界面活性剤も同様に使用することができる。
【0054】
これら界面活性剤は、2種以上併用することもできる。例えば、互いに異なる2種以上のアニオン界面活性剤の併用やアニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤の併用が好ましい。これらの化合物は環境面への影響を考慮して適宜選択して使用することが好ましい。
界面活性剤の使用量は、特に限定する必要はないが、版面処理剤中に0.01〜20重量%であることが好ましい。
【0055】
本発明の版面処理剤には、画像部の感脂性を保護するために沸点130℃以上の有機溶剤を添加することが好ましい。この種の有機溶剤は一方で非画像部親水性層上に付着している微量の残量の感光膜を除去し、非画像部の親水性を高める効果を発揮する働きをする。
沸点130℃以上の有機溶剤の具体例としては、アルコール類として、n−ヘキサノール、2−エチルブタノール、n−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、2−オクタノール、2−エチルヘキサノール、3,5,5−トリメチルヘキサノール、ノナノール、n−デカノール、ウンデカノール、n−ドデカノール、トリメチルノニルアルコール、テトラデカノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等が挙げられる。
ケトン類としては、メチル−n−アミルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、エチル−n−ブチルケトン、ジ−n−プロピルケトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン等が挙げられる。
エステル類としては、酢酸−n−アミル、酢酸イソアミル、酢酸メチルイソアミル、酢酸メトキシブチル、酢酸ベンジル、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸−n−アミル、安息香酸メチル、安息香酸エチル及び安息香酸ベンジルなどの安息香酸エステル類、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸−ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジデシル、フタル酸ジラウリル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸ジエステル類、ジオクチルアジペート、ブチルグリコールアジペート、ジオクチルアゼレート、ジブチルセバケート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジオクチルセバケートなどの脂肪族二塩基酸エステル類、例えばエポキシ化大豆油などのエポキシ化トリグリセライド類、トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリスクロルエチルホスフェートなどの燐酸エステル類等が挙げられる。
アミド類としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ブチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0056】
多価アルコール類及びその誘導体としては、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールイソアミルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテルアセテート、エチレングリコールベンジルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、メトキシエタノール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、1−ブトキシエトキシプロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、グリセリンモノアセテート、グリセリントリアセテート類を挙げることができる。
炭化水素系としては、沸点160℃以上の石油留分の芳香族、脂肪族化合物、スクワランなどが挙げられる。
上記沸点130℃以上の有機溶剤を選択するときの条件としては、その環境安全性、特に臭気が挙げられる。これらの溶剤は1種単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を併用してもよい。
沸点130℃以上の有機溶剤の使用量は、版面処理剤中に、0.1〜5.0重量%であることが好ましく、0.3〜3.0重量%であることがより好ましい。
本発明の版面処理剤において、これらの有機溶剤は界面活性剤によって可溶化させて溶液タイプとしてもよいし、あるいは油相として乳化分散させて乳化タイプとしてもよい。
【0057】
本発明の版面処理剤は、硝酸塩や硫酸塩を含有していてもよい。
版面処理剤に含ませることができる硝酸塩、硫酸塩としては、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸ニッケルなどが挙げられる。
これらの使用量は、版面処理剤中に、0.05〜1.0重量%であることが好ましい。
【0058】
通常、版面処理剤は濃縮液として市販される場合が多く、使用時に水道水、井戸水等を加えて希釈して使用される。この希釈する水道水や井戸水に含まれているカルシウムイオン等が印刷に悪影響を与え、印刷物を汚れ易くする原因となることもあるので、この欠点を解消するため、本発明の版面処理剤は、キレート化合物を含有することが好ましい。
好ましいキレート化合物としては、例えば、Na227、Na533、Na339、Na24P(NaO3P)PO3Na2、カルゴン(ポリメタリン酸ナトリウム)などのポリリン酸塩、エチレンジアミンテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ジヒドロキシエチルグリシン、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ヒドロキシイミノジ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;グリコールエーテルジアミンテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ジエチレントリアミンペンタ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1,2−ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1,3−ジアミノ−2−プロパノールテトラ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩などのようなアミノポリカルボン酸類、ニトリロトリ酢酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;エチレンアジミンテトラ(メチレンホスホン酸)、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、そのカリウム塩、そのナトリウム塩などのような有機ホスホン酸類、あるいは2−ホスホノブタントリカルボン酸−1,2,4、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;2一ホスホノブタノントリカルボン酸−2,3,4、そのカリウム塩、そのナトリウム塩;1−ホスホノエタントリカルボン酸−1,2、2、そのカリウム塩、そのナトリウム塩などのようなホスホノアルカントリカルボン酸類を挙げることができる。
上記キレート化合物のナトリウム塩、カリウム塩の代りに有機アミンの塩も有効である。
これらキレート化合物は、版面処理剤組成中に安定に存在し、印刷性を阻害しないものが選ばれる。
キレート化合物の添加量としては、使用時の版面処理剤に対して、0.001〜1.0重量%であることが好ましい。
【0059】
本発明の版面処理剤には、更に防腐剤、消泡剤などを添加することができる。
防腐剤として、例えば、フェノール又はその誘導体、ホルマリン、イミダゾール誘導体、デヒドロ酢酸ナトリウム、4−イソチアゾリン−3−オン誘導体、ベンゾイソチアゾリン−3−オン、ベンズトリアゾール誘導体、アミジングアニジン誘導体、四級アンモニウム塩類、ピリジン、キノリン、グアニジン等の誘導体、ダイアジン、トリアゾール誘導体、オキサゾール、オキサジン誘導体、ニトロブロモアルコール系の2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、1,1−ジブロモ−1−ニトロ−2−エタノール、1,1−ジブロモ−1−ニトロ−2−プロパノール、及び、オマジン類などが挙げられる。
防腐剤の好ましい添加量は、細菌、カビ、酵母等に対して、安定に効力を発揮する量であって、細菌、カビ、酵母の種類によっても異なるが、版面処理剤中に、0.01〜4.0重量%の範囲が好ましく、また種々のカビ、殺菌に対して効力のあるように2種以上の防腐剤を併用することが好ましい。
また、消泡剤としては、一般的なシリコーン系の自己乳化型タイプ、乳化タイプ、界面活性剤、ノニオン系のHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値の5以下等の化合物を使用することができる。シリコーン消泡剤が好ましい。その中で乳化分散型及び可溶化型等がいずれも使用できる。消泡剤の含有量は、版面処理剤中に、0.001〜1.0重量%であることが好ましい。
【0060】
本発明の版面処理剤の残余は水であることが好ましい。
本発明の版面処理剤は溶液タイプ又は乳化タイプとして調製する場合、それぞれ常法に従って調製することができる。例えば乳化分散は、水相を温度40℃±5℃に調整し、高速攪拌し、水相の中に調製した油相をゆっくり滴下し充分撹拌後、圧力式のホモジナイザーを通して乳化液を作製することができる。
【0061】
本発明の版面処理剤は、ポジ型平版印刷版原版、ネガ型平版印刷版原版のいずれにも用いることができ、各種平版印刷版原版からの平版印刷版の製版に用いることができる。また、平版印刷版原版の現像方式は、サーマル方式であっても、フォトポリマー方式であってもよい。これら平版印刷版としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。
本発明に用いることができる平版印刷版原版としては、特に制限はないが、増感色素、重合開始剤、重合性化合物、及び、バインダーポリマーを含有するネガ型(ネガタイプ)の感光層を有する平版印刷版原版であることが好ましい。
平版印刷版に使用する各種成分や材料としては、公知のものを用いることができる。
【0062】
平版印刷版の版面処理における本発明の版面処理剤の使用態様は、特に制限されるものではないが、自動ガム塗布機などを使用すると、均一に塗布することができ、好ましい。
本発明の版面処理剤による処理は、現像後、無水洗で直ちに行うこともできるし、現像処理後(水洗工程、流水循環水洗又は少量の塗りつけ水洗を含む。)あるいは界面活性剤を含有するリンス液で処理した後に行うこともできる。
【0063】
本発明の版面処理剤による版面処理は、自動現像機を用いて行うことにも適している。この自動現像機は、一般に現像部と後処理部からなり、平版印刷版原版を搬送する装置と、各処理液槽及びスプレー装置からなり、露光済みの平版印刷版原版を水平に搬送しながら、ポンプで汲み上げた各処理液をスプレーノズルから吹き付けて現像及び後処理するものである。また、処理液が満たされた処理液槽中に液中ガイドロールなどによって浸漬搬送させて現像処理する方法や、現像後一定量の少量の水洗水を版面に供給して水洗し、その廃水を現像液原液の希釈水として再利用する方法も知られている。
このような自動処理においては、各処理液に処理量や稼働時間等に応じてそれぞれの補充液を補充しながら処理することができる。また、実質的に未使用の処理液で処理するいわゆる使い捨て処理方式も適用できる。このような処理によって得られた平版印刷版はオフセット印刷機に掛けられ、多数枚の印刷に用いられる。
【実施例】
【0064】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、以下の記載における「部」とは、特に断りのない限り「重量部」を示すものとする。
【0065】
(実施例1:ジエチレングリコールジブチルエーテルを用いての精製)
撹拌羽根(回転数250rpm)を備え付けた3つ口フラスコにジエチレングリコールジブチルエーテル(以下「DBDG」と略す。)250部、イオン交換水250部、リン酸エステル混合物100.0部(リン酸モノエステルの純度36.1%、共栄社化学(株)製)を入れ常温にて20分撹拌した。撹拌した液を分液漏斗に移し10分間静置下後に水層を取り出し、3つ口フラスコに移した。DBDG250部を新たに加え、再度20分間撹拌を行った後に分液漏斗に移し10分間静置し、水層を取り出しリン酸モノマー水溶液286.66部を得た。
得られたリン酸モノマー水溶液は、リン酸ジエステル/リン酸モノエステル=5.2モル%、濃度10.5%、水溶液中のDBDG含有率は0.3%であった。
【0066】
なお、実施例1で使用したリン酸エステル混合物中のリン酸モノエステル及びリン酸ジエステルは、それぞれ以下に示す化合物である。
【0067】
【化7】

【0068】
(実施例2:精製液を用いてのポリマー合成)
冷却管、撹拌羽根(回転数250rpm)を備え付けた4つ口フラスコにイオン交換水:メトキシプロピレングリコール=8:2の混合溶液81.06部を入れ内温を50℃とした。
実施例1で作製したリン酸モノマー水溶液127.02部、t−ブチルアクリルアミドスルホン酸(MRCユニテック(株)製)63.81部、メトキシプロピレングリコール29.29部、イオン交換水2.66部を混合しモノマー溶液とした。
また、VA−046B(和光純薬工業(株)製、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジスルフェート ジハイドレート)1.173部、メトキシプロピレングリコール6.98部、イオン交換水27.94部を混合し重合開始剤溶液とした。
モノマー溶液、重合開始剤溶液をそれぞれ反応容器に3時間かけて同時に滴下を行った。モノマー溶液、重合開始剤滴下終了後、2時間撹拌を継続した後、放冷してポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液は、還元比粘度=101.61、固形分濃度23.07重量%であった。
【0069】
(実施例3:酢酸エチルを用いての精製)
撹拌羽根(回転数250rpm)を備え付けた3つ口フラスコに酢酸エチル250部、イオン交換水250部、リン酸エステル混合物100.0部(リン酸モノエステルの純度36.1%、共栄社化学(株)製)を入れ常温にて20分撹拌した。撹拌した液を分液漏斗に移し10分間静置下後に水層を取り出し、3つ口フラスコに移した。DBDG250部を新たに加え、再度20分間撹拌を行った後に分液漏斗に移し10分間静置し、水層を取り出しリン酸モノマー水溶液286.66部を得た。
得られたリン酸モノマー水溶液は、リン酸ジエステル/リン酸モノエステル=5.1モル%、濃度10.5%、水溶液中の酢酸エチル含有率は1.5%であった。
【0070】
(実施例4:上記精製液を用いてのポリマー合成)
冷却管、撹拌羽根(回転数250rpm)を備え付けた4つ口フラスコにイオン交換水:メトキシプロピレングリコール=8:2の混合溶液81.06部を入れ内温を55℃とした。
実施例3で作製したリン酸モノマー水溶液127.02部、t−ブチルアクリルアミドスルホン酸(MRCユニテック(株)製)63.81部、メトキシプロピレングリコール29.29部、イオン交換水2.66部を混合しモノマー溶液とした。
また、VA−046B(和光純薬工業(株)製、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジスルフェート ジハイドレート)1.173部、メトキシプロピレングリコール6.98部、イオン交換水27.94部を混合し重合開始剤溶液とした。
モノマー溶液、重合開始剤溶液をそれぞれ反応容器に3時間かけて同時に滴下を行った。モノマー溶液、重合開始剤滴下終了後、2時間撹拌を継続した後、放冷してポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液は、還元比粘度=54.80、固形分濃度23.22重量%であった。
【0071】
(比較例1:モノマー精製を行わないポリマー合成)
冷却管、撹拌羽根(回転数250rpm)を備え付けた4つ口フラスコにイオン交換水:メトキシプロピレングリコール=8:2の混合溶液81.06部を入れ内温を50℃とした。リン酸モノマー13.34部、t−ブチルアクリルアミドスルホン酸(MRCユニテック(株)製)63.81部、メトキシプロピレングリコール29.29部、イオン交換水116.34部を混合しモノマー溶液とした。また、VA−046B(和光純薬工業(株)製)1.173部、メトキシプロピレングリコール6.98部、イオン交換水27.94部を混合し重合開始剤溶液とした。
モノマー溶液、重合開始剤溶液をそれぞれ反応容器に3時間かけて同時に滴下を行った。滴下開始後1時間半経過したところでゲル化が起こり、撹拌不可能な状態となった。
【0072】
(実施例5:平版印刷版用版面処理剤)
平版印刷版原版(富士フイルム(株)製HN−NV)を、露光、現像処理、乾燥の各工程順に処理した。
露光に用いた光源(セッター):赤外線半導体レーザー(Creo社製Trendsetter3244VX:水冷式40W赤外線半導体レーザー搭載)にて、出力9W、外面ドラム回転数210rpm、解像度2,400dpiの条件で画像様露光を行った。露光画像として、抜き細線評価用画像として、5〜100μm幅(5μm間隔)の抜き細線が並んだ画像を使用した。耐刷評価用としては、ベタ耐刷評価可能な画像を使用した。
露光後、加熱処理、水洗処理を行い、富士フイルム(株)製現像液HN−D(旧製品名:DH−N)の1:4水希釈液を用いて現像処理を実施した。現像液のpHは、12であり、現像浴の温度は30℃であった。
現像及び水洗処理後、特定共重合体添加剤として実施例2又は実施例4で得られたポリマーを含有する下記版面処理剤Aをそれぞれ用いて、富士フイルム(株)製自動現像機LP1310Newsにより、画像部保護を実施した。
【0073】
<版面処理剤A>
・水 746.8重量部
・ヒドロキシプロピル化デンプン(日澱化学(株)製) 197.6重量部
・リソガム(IRANEX社製) 33.4重量部
・アラビアガム(重量平均分量:20万) 61.4重量部
・エチレンジアミンテトラアセテート二ナトリウム塩 2.5重量部
・ラピゾールA−80(日本油脂(株)製) 2.7重量部
・リン酸(85%) 6.1重量部
・第一リン酸アンモニウム 1.7重量部
・水酸化ナトリウム 1.7重量部
・エレミノールMON2(三洋化成(株)製) 7.5重量部
・プロピレングリコール 11.1重量部
・パイオニンD−1420(竹本油脂(株)製) 9.6重量部
・ベンジルアルコール 18.4重量部
・特定共重合体添加剤 7.0重量部
【0074】
これを印刷機(東浜精機(株)製2N−600)にかけ、更紙、インキ(ザ・インクテック(株)製ソイビー紅)、湿し水(東洋インキ製造(株)製)を使用して印刷を行った。この印刷に使用した印刷紙を5万枚刷った時点で、一旦印刷機を停止し、3時間放置したのち印刷を再開始し、さらに200枚印刷した。非画像部から完全にインクがなくなるまでの枚数を評価した。枚数が少ない方が印刷開始からの損紙が少なくて済み、良好であるといえる。
版面処理剤Aを使用した場合は、非画像部から完全にインクがなくなるまでの枚数が、特定共重合体添加剤(実施例2又は実施例4で得られたポリマー)を含む場合には、それぞれ30枚であり、非画像部の汚れ防止性に優れる結果であった。一方、特定共重合体添加剤を含まない場合は100枚であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを主成分とするリン酸エステル混合物を、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤と混合し、リン酸モノエステルを水相に抽出する抽出工程、並びに、
前記水相と有機相とを分離する分離工程、を含むことを特徴とする
リン酸エステルの精製方法。
【請求項2】
前記リン酸モノエステル及び前記リン酸ジエステルが、ともにエチレン性不飽和基を有する請求項1記載のリン酸エステルの精製方法。
【請求項3】
前記リン酸モノエステル及び前記リン酸ジエステルが、ともに下記式(1)で表される基を有する請求項2記載のリン酸エステルの精製方法。
【化1】

(式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、波線部分は他との結合位置を表す。)
【請求項4】
前記リン酸モノエステル及び前記リン酸ジエステルが、ともに(メタ)アクリル基を有する請求項3記載のリン酸エステルの精製方法。
【請求項5】
前記分離工程において得られた水相中のリン酸ジエステルの含有量が、リン酸モノエステルの含有量に対して、25モル%以下である請求項1〜4のいずれか1つに記載のリン酸エステルの精製方法。
【請求項6】
前記中性の水が、塩を含まない水である請求項1〜5のいずれか1つに記載のリン酸エステルの精製方法。
【請求項7】
前記非ハロゲン系有機溶剤が、酢酸エチル、メチルt−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、酢酸3−メトキシブチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジイソプロピルエーテル、及び、メチルイソブチルケトンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の有機溶剤である請求項1〜6のいずれか1つに記載のリン酸エステルの精製方法。
【請求項8】
前記リン酸モノエステルが、下記式(2)で表される化合物であり、前記リン酸ジエステルが、下記式(3)で表される化合物である請求項1〜7のいずれか1つに記載のリン酸エステルの精製方法。
【化2】

(式(2)及び式(3)中、R2は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、Xは−O−又は−N(R3)−を表し、A1は二価の連結基を表し、R3は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。)
【請求項9】
前記抽出工程及び前記分離工程を2回以上行う請求項1〜8のいずれか1つに記載のリン酸エステルの精製方法。
【請求項10】
請求項2〜4のいずれか1つに記載のリン酸エステルの精製方法により得られたエチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステルを重合又は共重合する重合工程を含むことを特徴とする
ポリマーの製造方法。
【請求項11】
前記エチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステルとして、前記分離工程において得られた水相をそのまま使用する請求項10記載のポリマーの製造方法。
【請求項12】
請求項10又は11記載のポリマーの製造方法により得られたポリマーを含有することを特徴とする
平版印刷版用版面処理剤。

【公開番号】特開2011−111432(P2011−111432A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271557(P2009−271557)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】