説明

リン酸再生方法、リン酸再生装置および基板処理システム

【課題】簡易な装置構成にて確実にリン酸水溶液を再生することができるリン酸再生方法、リン酸再生装置、および、そのリン酸再生装置を用いた基板処理システムを提供する。
【解決手段】浸漬処理装置2の浸漬処理槽20に加熱したリン酸水溶液を貯留し、そこにシリコン窒化膜が形成された基板Wを浸漬してエッチング処理を行う。繰り返しエッチング処理に使用されてシリコン濃度が上昇したリン酸水溶液は、浸漬処理装置2からリン酸再生装置5の貯留タンク50に移送されて貯留される。貯留タンク50内にて使用後のリン酸水溶液の徐冷を行うことによって、ケイ素酸化物を含む不純物が析出し、その不純物は比較的サイズの大きな粒子に成長する。不純物が析出したリン酸水溶液がフィルター51を通過することによって、不純物がフィルター51に付着して除去され、リン酸水溶液の再生処理がなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン窒化膜が形成された半導体ウェハーや液晶表示装置用ガラス基板等の薄板状の精密電子基板(以下、単に「基板」と称する)のエッチング処理に使用されたリン酸水溶液を再生するリン酸再生技術、および、それを用いた基板処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程において、エッチング処理はパターン形成のための重要な工程であり、特に近年の半導体デバイスの高性能化および高集積化にともなって、基板上に形成されたシリコン窒化膜(Si34膜)およびシリコン酸化膜(SiO2膜)のうちシリコン酸化膜を残してシリコン窒化膜を選択的にエッチング除去する処理が要求されている。このようなシリコン窒化膜の選択的なエッチング処理を実行する手法として、高温(150℃〜160℃)のリン酸水溶液(H3PO4+H2O)をエッチング液として使用するプロセスが知られている。具体的には、高温のリン酸水溶液を貯留した処理槽にシリコン窒化膜およびシリコン酸化膜が形成された複数枚の基板を浸漬してシリコン窒化膜の選択的なエッチング処理を行う。もっとも、リン酸水溶液の特性上、シリコン酸化膜も微量ではあるもののエッチングされる。
【0003】
リン酸水溶液を使用してシリコン窒化膜のエッチング処理を行うと、シリコン化合物が溶解してリン酸水溶液中のシリコン濃度が上昇する。液交換を行うことなく複数回のエッチング処理を経てリン酸水溶液中のシリコン濃度が飽和濃度を超えると、ケイ素酸化物を含む不純物が析出する。本明細書において、「ケイ素酸化物を含む不純物」は、シリコン(Si)および酸素(O)を主成分とする化合物群(例えば、シロキサン)を含むものであり、純粋なSiO2のみならず、シリコンおよび酸素以外の異物が混在していても良い。リン酸水溶液中にケイ素酸化物を含む不純物が析出すると、その不純物が基板や処理槽に付着したりフィルターを目詰まりさせるという問題が生じる。
【0004】
このため、エッチング処理によってシリコン濃度が高くなったリン酸水溶液からケイ素酸化物を析出させて分離することによりシリコン濃度を低下させるリン酸水溶液の再生処理技術が特許文献1,2に提案されている。特許文献1には、リン酸水溶液の循環経路に設けられたフィルター自体を冷却することによって不純物を析出させてフィルターに付着させる手法が開示されている。また、特許文献2には、エッチング液を霧化してケイ素化合物を析出および/または凝集させ、そのケイ素酸化物をエッチング液から分離する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−219388号公報
【特許文献2】特開2009−71296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2に開示されているような技術を用いた場合、析出する不純物のサイズが小さく、多くの不純物がフィルターを通過してしまうという問題があった。このような不十分な再生処理がなされたリン酸水溶液を用いてエッチング処理を行うと、フィルターを通過した不純物が基板に付着したり、再溶解してリン酸水溶液中のシリコン濃度が再度上昇することとなる。フィルターのポアサイズ(孔径)を小さくすれば、サイズの小さな不純物であっても分離可能であるが、リン酸水溶液自体が通過しにくくなるという問題が生じる。
【0007】
また、特許文献1に開示される技術ではフィルターを冷却する機構が必要となり、特許文献2に開示される技術ではエッチング液を霧化する機構が必要となるため、装置構成が複雑になってコストの上昇も避けられなかった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、簡易な装置構成にて確実にリン酸水溶液を再生することができるリン酸再生方法、リン酸再生装置、および、そのリン酸再生装置を用いた基板処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、シリコン窒化膜が形成された基板のエッチング処理に使用されたリン酸水溶液を再生するリン酸再生方法において、前記リン酸水溶液を貯留タンクに貯留する貯留工程と、前記貯留タンク内にて前記リン酸水溶液を所定温度以下にまで冷却して液中にケイ素酸化物を含む不純物を析出させる冷却工程と、前記貯留タンク内の前記リン酸水溶液にフィルターを通過させ、前記不純物を前記フィルターに付着させて除去する濾過工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係るリン酸再生方法において、前記冷却工程では、前記リン酸水溶液を徐冷することを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項2の発明に係るリン酸再生方法において、前記冷却工程での前記リン酸水溶液の冷却速度は、前記貯留タンク内にて前記リン酸水溶液を放冷したときの冷却速度以下であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項1から請求項3のいずれかの発明に係るリン酸再生方法において、前記冷却工程での前記リン酸水溶液の冷却時間は15時間以上であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5の発明は、シリコン窒化膜が形成された基板のエッチング処理に使用されたリン酸水溶液を再生するリン酸再生装置において、前記リン酸水溶液を貯留する貯留タンクと、前記貯留タンクと配管を介して接続されたフィルターと、前記貯留タンクから前記フィルターに向けて前記リン酸水溶液を圧送するポンプと、を備え、前記貯留タンク内にて所定温度以下にまで冷却されて前記リン酸水溶液中にケイ素酸化物を含む不純物が析出した後に、前記ポンプが前記リン酸水溶液を前記フィルターに圧送して前記不純物を前記フィルターに付着させて除去することを特徴とする。
【0014】
また、請求項6の発明は、請求項5の発明に係るリン酸再生装置において、前記貯留タンク内の前記リン酸水溶液の冷却速度を調整する温調機構をさらに備えることを特徴とする。
【0015】
また、請求項7の発明は、請求項6の発明に係るリン酸再生装置において、前記温調機構は、前記貯留タンク内の前記リン酸水溶液を所定温度以下にまで徐冷することを特徴とする。
【0016】
また、請求項8の発明は、請求項7の発明に係るリン酸再生装置において、前記温調機構は、前記リン酸水溶液の冷却速度を前記貯留タンク内にて前記リン酸水溶液を放冷したときの冷却速度以下とすることを特徴とする。
【0017】
また、請求項9の発明は、請求項5から請求項8のいずれかの発明に係るリン酸再生装置において、前記貯留タンク内での前記リン酸水溶液の冷却時間は15時間以上であることを特徴とする。
【0018】
また、請求項10の発明は、請求項5から請求項9のいずれかの発明に係るリン酸再生装置において、前記フィルターのポアサイズは0.05μm以下であることを特徴とする。
【0019】
また、請求項11の発明は、シリコン窒化膜が形成された基板のエッチング処理を行う基板処理システムにおいて、リン酸水溶液を貯留し、リン酸水溶液中に前記基板を浸漬してエッチング処理を進行させる浸漬処理槽と、請求項5から請求項10のいずれかの発明に係るリン酸再生装置と、を備え、前記浸漬処理槽にて使用されたリン酸水溶液を前記リン酸再生装置に移送し、前記不純物が除去されて再生されたリン酸水溶液を前記浸漬処理槽に還流することを特徴とする。
【0020】
また、請求項12の発明は、請求項11の発明に係る基板処理システムにおいて、前記浸漬処理槽から排出されたリン酸水溶液を再び前記浸漬処理槽に還流させる循環ラインと、前記循環ラインを流れるリン酸水溶液中のシリコン濃度を測定する濃度計と、を備え、前記濃度計によって測定されたリン酸水溶液中のシリコン濃度が所定値よりも大きくなったときに、前記浸漬処理槽のリン酸水溶液を前記リン酸再生装置に移送することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1から請求項4の発明によれば、エッチング処理に使用されたリン酸水溶液を貯留タンクに貯留し、その貯留タンク内にてリン酸水溶液を所定温度以下にまで冷却して液中にケイ素酸化物を含む不純物を析出させ、貯留タンク内のリン酸水溶液にフィルターを通過させ、不純物をフィルターに付着させて除去するため、簡易な装置構成にて確実に不純物を取り除いてシリコン濃度を低下させ、リン酸水溶液を再生することができる。
【0022】
特に、請求項3の発明によれば、リン酸水溶液の冷却速度を貯留タンク内にてリン酸水溶液を放冷したときの冷却速度以下としているため、析出した不純物を大きく成長させてフィルターによって確実に除去することができる。
【0023】
また、請求項5から請求項10の発明によれば、エッチング処理に使用されたリン酸水溶液を貯留タンクに貯留し、貯留タンク内にて所定温度以下にまで冷却されてリン酸水溶液中にケイ素酸化物を含む不純物が析出した後に、ポンプがリン酸水溶液をフィルターに圧送して不純物をフィルターに付着させて除去するため、簡易な装置構成にて確実に不純物を取り除いてシリコン濃度を低下させ、リン酸水溶液を再生することができる。
【0024】
特に、請求項8の発明によれば、リン酸水溶液の冷却速度を貯留タンク内にてリン酸水溶液を放冷したときの冷却速度以下とするため、析出した不純物を大きく成長させてフィルターによって確実に除去することができる。
【0025】
また、請求項11および請求項12の発明によれば、浸漬処理槽にて使用されたリン酸水溶液を請求項5から請求項10のいずれかの発明に係るリン酸再生装置に移送し、不純物が除去されて再生されたリン酸水溶液を浸漬処理槽に還流するため、エッチング処理に使用されたリン酸水溶液の再利用が可能となる。
【0026】
特に、請求項12の発明によれば、循環ラインを流れるリン酸水溶液中のシリコン濃度を測定する濃度計を備え、濃度計によって測定されたリン酸水溶液中のシリコン濃度が所定値よりも大きくなったときに、浸漬処理槽のリン酸水溶液をリン酸再生装置に移送するため、浸漬処理槽のリン酸水溶液中のシリコン濃度が過度に高くなる前にリン酸水溶液の再生処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る基板処理システムの全体構成を示す図である。
【図2】図1の基板処理システムにおける処理動作の手順を示すフローチャートである。
【図3】徐冷時間とシリコン除去率との相関を示す図である。
【図4】フィルターのポアサイズとシリコン除去率との相関を示す図である。
【図5】第3実施形態の基板処理システムの全体構成を示す図である。
【図6】第4実施形態の貯留タンクの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0029】
<1.第1実施形態>
図1は、本発明に係る基板処理システムの全体構成を示す図である。この基板処理システム1は、リン酸水溶液中に基板Wを浸漬させてエッチング処理を行うとともに、エッチング処理に使用されたリン酸水溶液の再生処理を行う。基板処理システム1は、エッチング処理を行う浸漬処理装置2と、リン酸水溶液の再生処理を行うリン酸再生装置5と、を備える。また、基板処理システム1は、浸漬処理装置2およびリン酸再生装置5の各機構を制御する制御部3を備える。
【0030】
浸漬処理装置2は、シリコン酸化膜およびシリコン窒化膜が形成された基板Wをリン酸水溶液中に浸漬させてシリコン窒化膜の選択的なエッチング処理を行うウエットエッチング処理装置である。浸漬処理装置2は、リン酸水溶液を貯留してエッチング処理を進行させる浸漬処理槽20と、リン酸水溶液を浸漬処理槽20に循環させる循環ライン30と、を備える。
【0031】
浸漬処理槽20は、エッチング液としてリン酸水溶液を貯留し、リン酸水溶液中に基板Wを浸漬させる内槽21および内槽21の上部からオーバーフローしたエッチング液を回収する外槽22によって構成される二重槽構造を有している。内槽21は、エッチング液に対する耐食性に優れた石英またはフッ素樹脂材料にて形成された平面視矩形の箱形形状部材である。外槽22は、内槽21と同様の材料にて形成されており、内槽21の外周上端部を囲繞するように設けられている。
【0032】
また、浸漬処理槽20に貯留されたエッチング液に基板Wを浸漬させるためのリフター23が設けられている。リフター23は、起立姿勢(基板主面の法線が水平方向に沿う姿勢)にて相互に平行に配列された複数(例えば50枚)の基板Wを図示省略の3本の保持棒によって一括して保持する。リフター23は、図示を省略する昇降機構によって鉛直方向に沿って昇降可能に設けられており、保持する複数枚の基板W(ロット)を内槽21内のエッチング液中に浸漬する処理位置(図1の位置)とエッチング液から引き上げた受渡位置との間で昇降させる。
【0033】
循環ライン30は、浸漬処理槽20から排出されたリン酸水溶液を濾過・加熱して再び浸漬処理槽20に圧送還流させる循環配管経路であり、具体的には浸漬処理槽20の外槽22の底部と内槽21の底部とを流路接続して構成されている。循環ライン30の経路途中には、上流側から順に循環ポンプ31、ヒータ32およびフィルター33が設けられている。循環ポンプ31は、循環ライン30を介して外槽22から汲み出したリン酸水溶液を内槽21に圧送する。ヒータ32は、循環ライン30を流れるリン酸水溶液を所定の処理温度(本実施形態では約160℃)にまで加熱する。なお、浸漬処理槽20自体にもヒータを設け、浸漬処理槽20に貯留されているリン酸水溶液を上記所定の処理温度に維持するように加熱しても良い。フィルター33は、循環ライン30を流れるリン酸水溶液中の異物を取り除くための濾過フィルターである。
【0034】
循環ライン30の経路途中からは別配管が分岐され、その配管はさらに再生ライン80と廃棄ライン90とに分岐される。廃棄ライン90は、浸漬処理槽20のリン酸水溶液を基板処理システム1の外部に廃棄する際に使用する配管経路である。廃棄ライン90には、冷却タンク91および2つの廃棄バルブ92,93が設けられている。冷却タンク91は、浸漬処理槽20から排出された比較的高温(100℃以上)のリン酸水溶液を一時的に貯留して外部に廃棄可能な温度にまで冷却する。2つの廃棄バルブ92,93は、冷却タンク91の上流側および下流側にそれぞれ設けられている。上流側の廃棄バルブ92は循環ライン30から冷却タンク91にリン酸水溶液を流入させるときに開放される。また、下流側の廃棄バルブ93は、冷却されたリン酸水溶液を冷却タンク91から排出するときに開放される。
【0035】
一方、再生ライン80は、浸漬処理槽20のリン酸水溶液をリン酸再生装置5に導く配管経路である。再生ライン80には、再生バルブ81が設けられている。再生バルブ81と廃棄バルブ92とは選択的に開放される。すなわち、浸漬処理槽20のリン酸水溶液を廃棄するときには、廃棄バルブ92が開放されて再生バルブ81が閉止され、リン酸水溶液は循環ライン30から廃棄ライン90を通って冷却タンク91に流れる。リン酸水溶液を再生するときには、廃棄バルブ92が閉止されて再生バルブ81が開放され、リン酸水溶液は循環ライン30から再生ライン80を通ってリン酸再生装置5へと流れる。なお、浸漬処理装置2にて通常の処理を行うときには、再生バルブ81および廃棄バルブ92の双方が閉止されて循環ライン30によるリン酸水溶液の循環が行われている。
【0036】
リン酸再生装置5は、基板Wのエッチング処理に使用されてシリコン濃度が上昇したリン酸水溶液からケイ素酸化物を析出させて取り除くことによってシリコン濃度を低下させ、リン酸水溶液を浸漬処理装置2にて再度利用可能なように再生する。リン酸再生装置5は、リン酸水溶液を貯留してケイ素酸化物を含む不純物の析出を進行させる貯留タンク50と、析出した不純物を取り除くフィルター51と、リン酸水溶液を圧送するポンプ52と、再生されたリン酸水溶液を一時的に貯留する供給タンク53と、を備える。
【0037】
貯留タンク50は、浸漬処理装置2にて基板Wのエッチング処理に使用され、浸漬処理装置2から再生ライン80を介して送給されてきたリン酸水溶液を貯留する。貯留タンク50の容量は、浸漬処理槽20の容量と循環ライン30の容量との和以上とされる。すなわち、貯留タンク50は、浸漬処理装置2にて基板Wのエッチング処理に使用されていたリン酸水溶液の全量を貯留することができる。
【0038】
第1実施形態においては、貯留タンク50に温調機構54を備えている。温調機構54は、加温機構および冷却機構(いずれも図示省略)を備えており、貯留タンク50に貯留されているリン酸水溶液の加温および冷却を行うことができる。温調機構54の加温機構としては抵抗発熱体などの公知の種々の加熱のための機構を用いることができ、また冷却機構としては水冷管などの公知の種々の冷却のための機構を用いることができる。なお、温調機構54は、貯留されているリン酸水溶液を昇温または急冷するためのものではないため、備える加温機構および冷却機構の出力は比較的小さくても良い。
【0039】
エッチング処理に使用されたリン酸水溶液を貯留タンク50に貯留して徐冷することにより、リン酸水溶液中に溶解していたシリコンがケイ素酸化物を含む不純物として析出する。このときに、温調機構54によってリン酸水溶液を加温または冷却することにより、貯留タンク50内のリン酸水溶液の冷却速度を調整するようにしても良い。
【0040】
フィルター51は、配管55を介して貯留タンク50と接続されている。配管55には、ポンプ52およびバルブ56が介挿されている。配管55の下流端側(フィルター51の側)は二叉に分岐され、それぞれにフィルター51が接続されている。すなわち、配管55には2個のフィルター51が並列に接続されているのである。
【0041】
貯留タンク50からポンプ52によって圧送されたリン酸水溶液がフィルター51を通過するときに、貯留タンク50での徐冷によって析出していたケイ素酸化物を含む不純物がフィルター51に付着して除去される。フィルター51のポアサイズ(孔径)は0.05μm以下である(本実施形態では0.05μm)。なお、循環ライン30に設けられたフィルター33のポアサイズはフィルター51のポアサイズよりも大きい。
【0042】
フィルター51の下流側は、配管57を介して供給タンク53に接続されている。配管57には、バルブ58が介挿されている。供給タンク53は、ケイ素酸化物を含む不純物が除去されて再生されたリン酸水溶液を貯留するとともに、再生処理済みのリン酸水溶液を浸漬処理装置2に供給するための供給源となる。
【0043】
供給タンク53の下流側には供給ライン59が接続されている。供給ライン59は、再生処理済みのリン酸水溶液を供給タンク53から浸漬処理装置2へと還流する配管経路である。供給ライン59の基端は供給タンク53に接続され、先端は二叉に分岐してその一方が浸漬処理槽20の内槽21に繋がるとともに、他方が外槽22に繋がる。供給ライン59の分岐点より上流側には、供給ポンプ60および供給バルブ61が設けられている。また、供給ライン59の分岐点よりも下流側であって、内槽21に繋がる配管には内槽バルブ62が設けられ、外槽22に繋がる配管には外槽バルブ63が設けられている。供給バルブ61および内槽バルブ62を開放して供給ポンプ60を作動させると、再生後のリン酸水溶液が供給タンク53から内槽21へと供給される。また、供給バルブ61および外槽バルブ63を開放して供給ポンプ60を作動させると、再生後のリン酸水溶液が外槽22へと供給される。
【0044】
また、リン酸再生装置5は、フィルター51を洗浄するフィルター洗浄機構7を備えている。リン酸再生装置5でのリン酸再生処理が進むにつれて、リン酸水溶液から除去されたケイ素酸化物を含む不純物がフィルター51に蓄積する。不純物がフィルター51に過度に蓄積すると、いわゆる目詰まりの状態となり、リン酸水溶液そのものの通過が困難となる。このため、リン酸再生装置5にフィルター洗浄機構7を備えている。フィルター洗浄機構7は、フィルター51を含んで循環する配管に、フッ酸タンク70、ポンプ71、および、2つのバルブ72,73を備えて構成される。フッ酸タンク70は、ケイ素酸化物を溶解することが可能なフッ酸(HF)を貯留する。バルブ72およびバルブ73を開放しつつポンプ71を作動させると、フッ酸タンク70から送り出されたフッ酸がフィルター51を通過して再びフッ酸タンク70に還流する。フッ酸がフィルター51を通過することによって、フィルター51に付着していたケイ素酸化物が溶解され、その結果フィルター51が洗浄されることとなる。
【0045】
基板処理システム1に設けられた制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクなどを備えて構成される。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって、基板処理システム1の各動作機構が制御部3に制御され、基板処理システム1における処理が進行する。
【0046】
次に、上記の構成を有する基板処理システム1における処理動作について説明する。図2は、基板処理システム1における処理動作の手順を示すフローチャートである。以下に示す処理手順は、制御部3が基板処理システム1の各動作機構を制御することによって進行される。
【0047】
ステップS1では、浸漬処理装置2における定常処理、すなわちリン酸水溶液による基板Wのエッチング処理が行われる。ステップS1のエッチング処理をより詳細に述べると、まず、図示省略の新液投入機構から浸漬処理槽20にリン酸水溶液の新液を投入する。新液投入機構は供給ライン59に付設されていても良いし、供給ライン59とは別途設けられていても良い。浸漬処理槽20にリン酸水溶液の新液が投入されて循環ポンプ31が作動すると、循環ライン30による液循環が行われる。具体的には、循環ポンプ31が常時一定流量にてリン酸水溶液を圧送しており、循環ライン30によって浸漬処理槽20に還流されたリン酸水溶液は内槽21の底部から供給される。これによって、内槽21の内部には底部から上方へと向かうリン酸水溶液のアップフローが生じる。底部から供給されたリン酸水溶液はやがて内槽21の上端部から溢れ出て外槽22に流入する。外槽22に流れ込んだリン酸水溶液は循環ライン30を介して循環ポンプ31に回収され、再び浸漬処理槽20に圧送還流されるという液循環プロセスが継続して行われる。循環ライン30による還流の過程において、リン酸水溶液中に混在している異物はフィルター33によって取り除かれる。また、還流されるリン酸水溶液はヒータ32によって所定の処理温度(約160℃)にまで加熱される。
【0048】
このような循環ライン30によるリン酸水溶液の循環プロセスを実行しつつ、受渡位置にて複数の基板Wからなるロットを受け取ったリフター23が処理位置にまで降下して内槽21内に貯留されたリン酸水溶液中に基板Wを浸漬させる。これにより、基板W上に形成されているシリコン酸化膜およびシリコン窒化膜のうちシリコン窒化膜の選択的エッチング処理が進行し、該シリコン窒化膜が徐々に腐食される。このときに、微量ではあるがシリコン酸化膜も腐食される。所定時間のエッチング処理が終了した後、リフター23が再び受渡位置にまで上昇して基板Wをリン酸水溶液から引き上げる。その後、新たなロットが再びリフター23によって内槽21内のリン酸水溶液中に浸漬されてエッチング処理が繰り返される。なお、浸漬処理装置2においてリン酸水溶液によるエッチング処理を行っている間は、廃棄バルブ92および再生バルブ81は閉止されており、循環ライン30を循環中のリン酸水溶液が冷却タンク91または貯留タンク50に流入することはない。
【0049】
エッチング処理を重ねるにつれてシリコン化合物の溶解量が増えてリン酸水溶液中のシリコン濃度が次第に上昇する。リン酸水溶液中のシリコン濃度が上昇するにつれて、シリコン窒化膜のエッチングレートが低下する。そして、リン酸水溶液中のシリコン濃度が飽和濃度を超えると、目標のエッチング量が得られなくなるのみならず、ケイ素酸化物を含む不純物が析出して基板Wや浸漬処理槽20に付着したりフィルター33を目詰まりさせるという問題も生じる。
【0050】
このため、ある程度のエッチング処理が行われた時点でリン酸水溶液の再生処理を開始する(ステップS2)。再生処理開始の判定基準として、第1実施形態では、例えば制御部3が浸漬処理装置2に投入されてエッチング処理が行われた基板Wの枚数を計数し、その累積処理枚数が所定値に到達した時点でリン酸水溶液の再生処理を開始するようにすれば良い。また、制御部3がタイマによってエッチング処理が行われた累積時間を計時し、その累積時間が所定値に到達した時点でリン酸水溶液の再生処理を開始するようにしても良い。或いは、目標とするエッチング量が得られなくなった時点でリン酸水溶液の再生処理を開始するようにしても良い。なお、繰り返し再生処理が行われたリン酸水溶液については、廃棄処分とすることもある。この場合には、再生バルブ81が閉止されたまま廃棄バルブ92が開放され、循環ライン30からリン酸水溶液が廃棄ライン90を通って冷却タンク91に流入する。冷却タンク91に一時的に貯留されたリン酸水溶液は、外部に廃棄可能な温度にまで冷却される。その後、適宜のタイミングにて廃棄バルブ93が開放されて冷却タンク91からリン酸水溶液が排出される。
【0051】
リン酸水溶液の再生処理が開始されると、ステップS3に進み、浸漬処理装置2の浸漬処理槽20にて使用されてシリコン濃度が上昇したリン酸水溶液がリン酸再生装置5の貯留タンク50に移送される。このときには、廃棄バルブ92が閉止されたまま再生バルブ81が開放され、循環ライン30から使用後のリン酸水溶液が再生ライン80を通って貯留タンク50に流入する。浸漬処理槽20および循環ライン30にて循環使用されていたリン酸水溶液の全量を貯留タンク50に移送するようにしても良いし(全量再生)、一部のみを貯留タンク50に移送するようにしても良い(一部再生)。
【0052】
浸漬処理装置2から移送された使用後のリン酸水溶液は貯留タンク50に貯留される。このときには、バルブ56は閉止されており、貯留タンク50に貯留されたリン酸水溶液が配管55から流れ出ることはない。所定量のリン酸水溶液の移送が完了すると再生バルブ81が閉止される。貯留タンク50に移送直後のリン酸水溶液の温度は、浸漬処理装置2におけるエッチング処理の処理温度(160℃)よりも若干低い程度である(約140℃〜150℃)。
【0053】
次に、ステップS4に進み、貯留タンク50内にてリン酸水溶液の徐冷が行われる。ここで、本明細書において「徐冷」とは、リン酸水溶液の冷却速度が所定値以下となる緩やかな冷却であり、典型的には貯留タンク50内での放冷(温調機構54による加温または冷却を行わない自然冷却)であるが、温調機構54によって若干の加温または付加的な冷却が行われる場合も含む。第1実施形態においては、貯留タンク50内にてリン酸水溶液の放冷を行っている。
【0054】
貯留タンク50内においてエッチング処理後のリン酸水溶液の徐冷を行うことによって、リン酸水溶液中にケイ素酸化物を含む不純物が析出する。リン酸水溶液の温度が低下するにしたがって、溶解可能なシリコンの飽和濃度も低下する。そして、飽和濃度を超えるシリコンがケイ素酸化物を含む不純物として析出するのである。リン酸水溶液の温度が低下するにつれて飽和濃度も低下するため、不純物の析出量も多くなる。
【0055】
ここで、冷却速度の大きな急冷を行った場合には、徐冷と同じ温度まで冷却した場合であっても、個々の不純物が大きく成長しないため、多数の微細な不純物が生成されることとなる。本実施形態のように、リン酸水溶液の徐冷を行うと、初期に析出した不純物を核として新たな析出が生じ、不純物が大きく成長する。その結果、急冷を行う場合と比較して徐冷を行った場合には、総析出量は同じであっても比較的少数の大きな不純物が生成されることとなる。
【0056】
貯留タンク50内におけるリン酸水溶液の徐冷は所定時間行われる(ステップS5)。第1実施形態では、貯留タンク50内におけるリン酸水溶液を15時間以上放冷している。初期温度(貯留タンク50に移送された直後の温度)が140℃〜150℃であったリン酸水溶液を貯留タンク50内にて15時間放冷することによって、その温度が約50℃にまで降温する。
【0057】
リン酸水溶液の徐冷を開始して所定時間が経過した後、バルブ56およびバルブ58を開放するとともにポンプ52を作動させることにより、貯留タンク50のリン酸水溶液をフィルター51に圧送して濾過を行う(ステップS6)。そのリン酸水溶液がフィルター51を通過するときに、貯留タンク50での徐冷によってリン酸水溶液中に析出していたケイ素酸化物を含む不純物がフィルター51に付着して除去される。ケイ素酸化物を含む不純物がリン酸水溶液から除去されることによって、リン酸水溶液中のシリコン濃度が低下し、エッチング処理に使用されたリン酸水溶液が再生される。このときに、析出している不純物の大きさが小さいと、不純物がリン酸水溶液とともにフィルター51を通り抜けることがある。本発明では、リン酸水溶液の徐冷を行って不純物を大きく成長させているため、フィルター51によって不純物を確実に捕集することが可能となる。
【0058】
図3は、徐冷時間とシリコン除去率との相関を示す図である。同図には、エッチング処理後のリン酸水溶液に対して0時間、1.5時間、5時間、10時間、15時間の徐冷を行い、冷却後のそれぞれのリン酸水溶液をポアサイズが0.05μmのフィルターにて濾過したときのシリコン除去率を示している。同図において、各徐冷時間の再生処理前のリン酸水溶液中のシリコン濃度を白抜きにて示し、再生処理後のシリコン濃度を斜線にて示している。なお、リン酸水溶液中のシリコン濃度測定はICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を用いて行った。
【0059】
図3に示すように、徐冷時間が長くなるにしたがって、シリコン除去率が大きくなる傾向が認められる。これは、徐冷時間が長くなるにしたがってケイ素酸化物を含む不純物が大きく成長し、フィルターによってより多くの不純物が取り除かれるようになるためと考えられる。徐冷時間が15時間以上となると、再生処理後のリン酸水溶液中のシリコン濃度はICP−AESの検出限界(約10ppm)以下に到達する。
【0060】
一方、図4は、フィルターのポアサイズとシリコン除去率との相関を示す図である。同図には、エッチング処理後のリン酸水溶液に対して15時間の徐冷を行い、冷却後のリン酸水溶液をポアサイズが0.05μm、0.1μmのフィルターにて濾過したときのそれぞれのシリコン除去率を示している。図3と同様に、再生処理前のリン酸水溶液中のシリコン濃度を白抜きにて示し、再生処理後のシリコン濃度を斜線にて示している。
【0061】
図4に示すように、ポアサイズが0.05μmのフィルターを用いると、大部分の不純物が取り除かれるのに対して、0.1μmのフィルターでは不純物がほとんど除去されていない。このことから、15時間の徐冷を経た後のケイ素酸化物を含む不純物のサイズ分布が0.05μmから0.1μmまでの範囲に存在しているものと推察される。
【0062】
図3および図4より、エッチング処理に使用されてシリコン濃度が上昇したリン酸水溶液を15時間以上徐冷した後、そのリン酸水溶液をポアサイズが0.05μm以下のフィルターを用いて濾過することにより、ケイ素酸化物を含む不純物の大部分を除去してシリコン濃度を大幅に低下できることが分かる。このため、本実施形態においては、貯留タンク50内にてエッチング処理後のリン酸水溶液の放冷を15時間以上行い、フィルター51のポアサイズを0.05μmとしている。
【0063】
エッチング処理に使用されたリン酸水溶液を貯留タンク50内にて15時間以上放冷することによって、リン酸水溶液中にケイ素酸化物を含む不純物が析出し、その大きさは0.05μm以上となる。そして、そのリン酸水溶液にポアサイズが0.05μmのフィルター51を通過させることによって、ケイ素酸化物を含む不純物をフィルター51に付着させて除去し、リン酸水溶液の再生処理を行っている。再生処理後のリン酸水溶液中のシリコン濃度は10ppm以下となっている。
【0064】
図1および図2に戻り、徐冷後にフィルター51を通過して再生されたリン酸水溶液は供給タンク53に流入して貯留される(ステップS7)。そして、適当なタイミングにて、供給バルブ61を開放して供給ポンプ60を作動させ、内槽バルブ62または外槽バルブ63を開放することにより、再生処理後のリン酸水溶液が浸漬処理槽20に還流される(ステップS8)。なお、基板Wを浸漬させる内槽21内のリン酸水溶液の温度およびシリコン濃度分布を安定させる観点からは、再生後のリン酸水溶液を直接内槽21に投入するよりも外槽22に還流させて一旦循環ライン30を経由させてから内槽21に供給する方が好ましい。
【0065】
ところで、リン酸水溶液の再生処理を繰り返すにつれて、リン酸水溶液から除去されたケイ素酸化物を含む不純物がフィルター51に蓄積する。不純物が多量にフィルター51に蓄積して目詰まり状態となると、リン酸水溶液の再生処理に支障をきたすため、適宜のタイミングにてフィルター51の洗浄処理を行っている。フィルター51の洗浄処理を行うタイミングは、例えばフィルター51の前後の圧力を圧力計等によって監視し、その圧力差が所定値以上となった時点とすれば良い。フィルター51の洗浄処理は、バルブ72およびバルブ73を開放しつつポンプ71を作動させ、フッ酸タンク70内のフッ酸にフィルター51を通過させて再びフッ酸タンク70に還流させる。このときには、バルブ56およびバルブ58は閉止されており、配管55および配管57へのフッ酸の混入が防止されている。フッ酸がフィルター51を通過することによって、フィルター51に付着していたケイ素酸化物が溶解され、目詰まり状態が解消されてフィルター51が洗浄される。
【0066】
第1実施形態においては、シリコン窒化膜が形成された基板Wのエッチング処理に使用されたリン酸水溶液を貯留タンク50に貯留し、その貯留タンク50内にてリン酸水溶液の徐冷を行っている。第1実施形態では、貯留タンク50内にてリン酸水溶液を15時間以上放冷している。この15時間以上の放冷によってリン酸水溶液中にケイ素酸化物を含む不純物が析出し、その不純物は比較的サイズの大きな(0.05μm以上)粒子に成長する。そして、不純物が析出したリン酸水溶液にポアサイズが0.05μmのフィルター51を通過させることによって、不純物をフィルター51に付着させて除去し、リン酸水溶液の再生処理を行っている。
【0067】
エッチング処理に使用されたリン酸水溶液を貯留タンク50に貯留して15時間以上放冷し、そのリン酸水溶液にフィルター51を通過させるという極めて簡易な構成にて確実にケイ素酸化物を含む不純物を析出させて取り除いている。このため、特にリン酸再生装置5の装置構成を簡易なものとすることができ、リン酸水溶液の再生処理に要するコストも低廉なものとすることができる。
【0068】
<2.第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態の基板処理システムの構成は第1実施形態と同じである(図1)。また、第2実施形態の基板処理システムにおける処理動作の手順についても第1実施形態と同様である(図2)。第2実施形態においては、貯留タンク50内にてリン酸水溶液の徐冷を行う際の冷却速度が第1実施形態とは異なる。
【0069】
第1実施形態では、貯留タンク50内にてリン酸水溶液の放冷を行っていたが、第2実施形態では温調機構54によってリン酸水溶液を加温することにより、第1実施形態よりも冷却速度を遅くしている。すなわち、ステップS4での徐冷を行うときのリン酸水溶液の冷却速度を貯留タンク50内にてリン酸水溶液を放冷したときの冷却速度以下としている。但し、温調機構54によるリン酸水溶液の加温は、リン酸水溶液の冷却速度を小さくする程度のものであって昇温に至る程度のものではなく、徐冷の範疇に含まれるものである。
【0070】
温調機構54によってリン酸水溶液を加温し、放冷時の冷却速度以下の冷却速度にてリン酸水溶液を徐冷した場合であっても、その徐冷によってリン酸水溶液中にケイ素酸化物を含む不純物が析出し、そのサイズは少なくとも第1実施形態の放冷時よりも大きく成長する。すなわち、第2実施形態での徐冷後の不純物のサイズは0.05μm以上となる。よって、第1実施形態と同様に、徐冷後のリン酸水溶液にポアサイズが0.05μmのフィルター51を通過させることによって、不純物をフィルター51に付着させて除去し、リン酸水溶液の再生処理を行うことができる。
【0071】
特に、第2実施形態においては、第1実施形態よりも遅い冷却速度にてリン酸水溶液の徐冷を行っているため、析出した不純物をより大きく成長させることができ、フィルター51によって不純物を確実に除去することができる。もっとも、冷却速度が遅くなるにつれて、徐冷に要する時間も長くなるため、不純物除去率と冷却時間とのバランスを考慮して冷却速度を設定するのが望ましい。
【0072】
<3.第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図5は、第3実施形態の基板処理システムの全体構成を示す図である。同図において、第1実施形態と同一の要素については図1と同じ符号を付している。第3実施形態の基板処理システム1aの構成が第1実施形態の基板処理システム1と相違するのは、浸漬処理装置2の循環ライン30に濃度計34を設けている点である。
【0073】
濃度計34は、循環ライン30を流れるリン酸水溶液中のシリコン濃度を測定する。濃度計34は、例えば、フローセル内にリン酸水溶液を流し、そのフローセルの一方側から光を照射するとともに、他方側にて透過した光の検出を行い、特定波長の光の吸光度を測定することによって液中のシリコン濃度の測定する。濃度計34から出力された濃度信号は制御部3に伝達される。
【0074】
濃度計34を備えている点以外の残余の構成は第1実施形態と同じである。また、第2実施形態の基板処理システム1aにおける処理動作の手順についても第1実施形態と概ね同様である。但し、第3実施形態においては、ステップS2でのリン酸水溶液の再生処理開始の判定が循環ライン30を流れるリン酸水溶液中のシリコン濃度に基づいて行われる。すなわち、濃度計34によって測定された循環ライン30を流れるリン酸水溶液中のシリコン濃度が予め設定された所定値よりも大きくなった時点にて制御部3がリン酸水溶液の再生処理開始を決定する。そして、制御部3の制御により、浸漬処理装置2の浸漬処理槽20にて使用されたリン酸水溶液がリン酸再生装置5の貯留タンク50に移送される。その後の処理手順については第1実施形態と同じである。
【0075】
このようにしても、第1実施形態と同様に、リン酸水溶液を徐冷して析出したケイ素酸化物を含む不純物を除去し、リン酸水溶液の再生処理を行うことができる。特に、第3実施形態においては、浸漬処理装置2にてエッチング処理に使用されているリン酸水溶液中のシリコン濃度をリアルタイムで測定し、その測定結果に基づいて再生処理開始のタイミングを判定しているため、シリコン濃度が過度に高くなる前にリン酸水溶液の再生処理を行うことができる。
【0076】
<4.第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態について説明する。第4実施形態の基板処理システムの全体構成は第1実施形態と同じである(図1)。また、第4実施形態の基板処理システムにおける処理動作の手順についても第1実施形態と同様である(図2)。第4実施形態においては、貯留タンク50の構成が第1実施形態と相違する。
【0077】
図6は、第4実施形態の貯留タンク150の構成を示す図である。第4実施形態の貯留タンク150は、内槽151と外槽152との間に断熱材153を挟み込んだ二重槽構造を有している。このため、内槽151と外槽152との間での熱伝導が抑制され、内槽151内の保温性が向上する。なお、断熱材153に代えて、内槽151と外槽152との間を真空としても良い。また、第4実施形態の貯留タンク150には温調機構54は設けられていない。
【0078】
リン酸水溶液の再生処理が開始されると、浸漬処理装置2から使用後のリン酸水溶液が貯留タンク150の内槽151に移送される。そして、貯留タンク150内にてリン酸水溶液の徐冷が行われる。第4実施形態の貯留タンク150には温調機構54が設けられていないため、リン酸水溶液は貯留タンク150内で放冷されることとなるが、内槽151と外槽152との間に断熱材153が挟み込まれているため、その冷却速度は通常の放冷による冷却速度以下となる。
【0079】
第4実施形態の二重槽構造の貯留タンク150によってリン酸水溶液の徐冷を行った場合であっても、その徐冷によってリン酸水溶液中にケイ素酸化物を含む不純物が析出し、その不純物サイズは0.05μm以上となる。よって、第1実施形態と同様に、徐冷後のリン酸水溶液にポアサイズが0.05μmのフィルター51を通過させることによって、不純物をフィルター51に付着させて除去し、リン酸水溶液の再生処理を行うことができる。
【0080】
<5.変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記第1実施形態においては貯留タンク50内にてリン酸水溶液の放冷を行い、第2実施形態においては温調機構54によってリン酸水溶液を加温することにより冷却速度を遅くしていたが、これとは逆に温調機構54によってリン酸水溶液の強制冷却を行って放冷よりも冷却速度を大きくするようにしても良い。但し、温調機構54によるリン酸水溶液の強制冷却は、リン酸水溶液の冷却速度を若干大きくする程度のものであって、徐冷の範囲内に含まれるものとしなければならない。
【0081】
温調機構54によってリン酸水溶液を強制冷却し、放冷時の冷却速度よりも大きな冷却速度にてリン酸水溶液を徐冷した場合であっても、その徐冷によってリン酸水溶液中にケイ素酸化物を含む不純物が析出する。そして、その不純物をフィルター51によって取り除くことにより、リン酸水溶液の再生処理を行うことができる。
【0082】
また、フィルター51のポアサイズは0.05μmに限定されるものではなく、それ以下であっても良い。特に、上述のように、温調機構54によってリン酸水溶液を強制冷却した場合には、徐冷後の不純物のサイズ分布が第1実施形態より小さくなる可能性があるため、0.05μmよりも小さなポアサイズのフィルター51を用いるのが好ましい。但し、ポアサイズが0.01μm以下になると、相応の粘性を有するリン酸水溶液自体が通過しにくくなるため、フィルター51のポアサイズは0.01μmよりは大きい方が望ましい。
【0083】
また、第2実施形態のように、温調機構54によってリン酸水溶液を加温し、放冷時の冷却速度以下の冷却速度にてリン酸水溶液を徐冷した場合には、徐冷後の不純物のサイズ分布が第1実施形態よりも大きくなるため、0.05μmよりも大きなポアサイズのフィルター51を用いても良い。
【0084】
また、貯留タンク50(または150)内での徐冷では、リン酸水溶液を常温まで冷却する必要はなく、少なくとも60℃以下にまで徐冷すれば良い。リン酸水溶液を60℃以下にまで徐冷すれば、ケイ素酸化物を含む不純物を析出させ、その不純物をフィルター51にて除去できる程度にまで成長させることができる。リン酸水溶液を60℃以下にまで徐冷した後、そのまま常温まで徐冷を継続しても良いし、急冷するようにしても良いし、或いは加温して一定範囲内の温度(例えば、50℃〜60℃)を維持するようにしても良い。
【0085】
また、特定の温度範囲内のみリン酸水溶液を徐冷するようにしても良い。例えば、第3実施形態のように濃度計34を設けている場合に、飽和濃度が実際のリン酸水溶液中のシリコン濃度に等しくなる温度までは急冷を行い、その温度から所定温度(例えば60℃)までは徐冷を行い、さらにそこから急冷を行うようにしても良い。
【0086】
また、リン酸再生装置5に複数の貯留タンク50(または150)を設けるようにしても良い。貯留タンク50でのリン酸水溶液の徐冷には比較的長時間を要するため、貯留タンク50にて徐冷中に新たなリン酸水溶液の再生処理の必要が生じることもある。このような場合であっても、複数の貯留タンク50を設けていれば、異なる貯留タンク50に新たな使用後リン酸水溶液を貯留することができる。複数の貯留タンク50は、並列に設けられていても良いし、直列に設けられていても良い。
【0087】
また、上記実施形態では、再生ライン80を介して浸漬処理装置2からリン酸再生装置5の貯留タンク50にリン酸水溶液を移送するようにしていたが、これに限定されるものではなく、浸漬処理装置2とリン酸再生装置5とを分離して設け、別途の容器等によって浸漬処理装置2から使用後のリン酸水溶液を貯留タンク50に移送するようにしても良い。同様に、再生処理後のリン酸水溶液を別途の容器等によって供給タンク53から浸漬処理槽20に供給するようにしても良い。
【0088】
また、上記実施形態において、浸漬処理装置2の外槽22は必須のものではなく、循環ライン30の配管両端を内槽21に連通接続し、循環ライン30によって内槽21内のリン酸水溶液を循環させる形態であっても良い。また、リフター23が複数の基板Wを直接保持することに限定されるものではなく、リフター23が複数の基板Wを収容したキャリアを保持して昇降するようにしても良い。
【符号の説明】
【0089】
1,1a 基板処理システム
2 浸漬処理装置
3 制御部
5 リン酸再生装置
7 フィルター洗浄機構
20 浸漬処理槽
30 循環ライン
34 濃度計
50,150 貯留タンク
51 フィルター
52 ポンプ
53 供給タンク
54 温調機構
55 配管
59 供給ライン
80 再生ライン
W 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン窒化膜が形成された基板のエッチング処理に使用されたリン酸水溶液を再生するリン酸再生方法であって、
前記リン酸水溶液を貯留タンクに貯留する貯留工程と、
前記貯留タンク内にて前記リン酸水溶液を所定温度以下にまで冷却して液中にケイ素酸化物を含む不純物を析出させる冷却工程と、
前記貯留タンク内の前記リン酸水溶液にフィルターを通過させ、前記不純物を前記フィルターに付着させて除去する濾過工程と、
を備えることを特徴とするリン酸再生方法。
【請求項2】
請求項1記載のリン酸再生方法において、
前記冷却工程では、前記リン酸水溶液を徐冷することを特徴とするリン酸再生方法。
【請求項3】
請求項2記載のリン酸再生方法において、
前記冷却工程での前記リン酸水溶液の冷却速度は、前記貯留タンク内にて前記リン酸水溶液を放冷したときの冷却速度以下であることを特徴とするリン酸再生方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のリン酸再生方法において、
前記冷却工程での前記リン酸水溶液の冷却時間は15時間以上であることを特徴とするリン酸再生方法。
【請求項5】
シリコン窒化膜が形成された基板のエッチング処理に使用されたリン酸水溶液を再生するリン酸再生装置であって、
前記リン酸水溶液を貯留する貯留タンクと、
前記貯留タンクと配管を介して接続されたフィルターと、
前記貯留タンクから前記フィルターに向けて前記リン酸水溶液を圧送するポンプと、
を備え、
前記貯留タンク内にて所定温度以下にまで冷却されて前記リン酸水溶液中にケイ素酸化物を含む不純物が析出した後に、前記ポンプが前記リン酸水溶液を前記フィルターに圧送して前記不純物を前記フィルターに付着させて除去することを特徴とするリン酸再生装置。
【請求項6】
請求項5記載のリン酸再生装置において、
前記貯留タンク内の前記リン酸水溶液の冷却速度を調整する温調機構をさらに備えることを特徴とするリン酸再生装置。
【請求項7】
請求項6記載のリン酸再生装置において、
前記温調機構は、前記貯留タンク内の前記リン酸水溶液を所定温度以下にまで徐冷することを特徴とするリン酸再生装置。
【請求項8】
請求項7記載のリン酸再生装置において、
前記温調機構は、前記リン酸水溶液の冷却速度を前記貯留タンク内にて前記リン酸水溶液を放冷したときの冷却速度以下とすることを特徴とするリン酸再生装置。
【請求項9】
請求項5から請求項8のいずれかに記載のリン酸再生装置において、
前記貯留タンク内での前記リン酸水溶液の冷却時間は15時間以上であることを特徴とするリン酸再生装置。
【請求項10】
請求項5から請求項9のいずれかに記載のリン酸再生装置において、
前記フィルターのポアサイズは0.05μm以下であることを特徴とするリン酸再生装置。
【請求項11】
シリコン窒化膜が形成された基板のエッチング処理を行う基板処理システムにおいて、
リン酸水溶液を貯留し、リン酸水溶液中に前記基板を浸漬してエッチング処理を進行させる浸漬処理槽と、
請求項5から請求項10のいずれかに記載のリン酸再生装置と、
を備え、
前記浸漬処理槽にて使用されたリン酸水溶液を前記リン酸再生装置に移送し、前記不純物が除去されて再生されたリン酸水溶液を前記浸漬処理槽に還流することを特徴とする基板処理システム。
【請求項12】
請求項11記載の基板処理システムにおいて、
前記浸漬処理槽から排出されたリン酸水溶液を再び前記浸漬処理槽に還流させる循環ラインと、
前記循環ラインを流れるリン酸水溶液中のシリコン濃度を測定する濃度計と、
を備え、
前記濃度計によって測定されたリン酸水溶液中のシリコン濃度が所定値よりも大きくなったときに、前記浸漬処理槽のリン酸水溶液を前記リン酸再生装置に移送することを特徴とする基板処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−21066(P2013−21066A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151952(P2011−151952)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】