説明

レゾルシノール系球状ポリマー粒子及びその製造方法

【課題】直径50〜500nmの球状とし、化学的、熱的、物理的に優れた機能を特異的に発現するポリマー粒子を提供する。
【解決手段】塩基性縮合剤の存在下、アルキルアンモニウム塩、アルキルアミンよりなる群から選択された1種以上界面活性剤と水を特定モル比で混合した溶液に、レゾルシノール等の芳香族環に2個以上のヒドロキシル基が置換した構造を持つフェノール類の中から選択された1種類以上のモノマーとホルムアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類の中から選択された1種以上のモノマーを加え、得られる生成物を、アルコール類よりなる群から選択された1種類以上の溶媒と酸との混合溶液で洗浄処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能分離剤、吸着剤、繊維・ゴム・フィルム・プラスチック製品・インキ・塗料・接着剤・紙塗工剤などへの添加剤、コロイド結晶、液晶スペーサなど各種用途に使用されうる、レゾルシノール/ホルムアルデヒド系共重合体を骨格成分とする層状構造を構成単位とする球状構造を有する単分散性超微細レゾルシノール系球状ポリマー粒子とその製造方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
乳化重合等によって得られる高分子微粒子は、繊維、フィルム、プラスチック成形加工品などの原料として用いられるだけでなく、これら固体ポリマー製品や塗料、インキ、接着剤などの液状製品に添加され、物性の強化、製品の機能化や高性能化に供されている。また、架橋構造を賦与した高分子微粒子は、溶媒中で膨潤し架橋度に応じた細孔を形成するため、各種物質のゲルろ過材、薬剤の貯蔵・徐放剤等として用いられるほか、高機能添加剤、さらには多孔質あるいは高表面積カーボンの前駆体としても有用である。しかしながら、高分子微粒子を添加剤あるいはゲルろ過材等として効果的に活用するためには、目的に合った粒子形状や大きさ、細孔構造、表面特性をもった高分子微粒子の開発が必要であり、そのため、高分子微粒子の形状や細孔特性を幅広く制御する技術の創出が望まれている。
【0003】
フェノールのメタ位にヒドロキシル基が置換したレゾルシノールとホルムアルデヒド等のアルデヒド類を酸またはアルカリで縮合させて得られる油状または固体状の無定形高分子であるレゾルシノール樹脂は、フェノール樹脂と同様に、その熱硬化性を利用して、樹脂単独で、あるいはアルコールに溶かしたワニス、または木粉、染料などとともに硬化剤を加えて処理することにより、接着剤、絶縁積層板、化粧板等に用いられてきた。これらはいずれも専ら液状または固体高分子としての流動性、接着性、熱硬化性、成形性を応用したものである。
【0004】
これに対して近年、レゾルシノール樹脂を多孔質化あるいは微粒子化する技術の開発が進んでいる。Pekalaらは、レゾルシノール(R)−ホルムアルデヒド(F)の加水分解・縮合反応機構と無機酸化物のゾル−ゲル反応との類似性を指摘するとともに、RF縮合体の超臨界乾燥により比表面積約700m2/gのエアロゲルが得られることを見出した(非特許文献1)。また、この多孔性のRFゲルを炭化することにより多孔質カーボンが得られている(非特許文献2)。
【0005】
さらに、関連技術として、シリカ微粒子(非特許文献3)、ポリスチレンラテックス(非特許文献4)あるいはブロックコポリマー(非特許文献5)とレゾルシノール−ホルムアルデヒド樹脂との複合体を調製後、これを炭化することにより細孔構造を制御した炭素材料を合成した例も報告されている。
【0006】
高分子微粒子は、スチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、塩化ビニル等の油性モノマーを出発原料とする場合、一般に、水系分散媒体中での乳化重合あるいは分散重合により調製される。他方、フェノール類とアルデヒド類の重縮合により生成する熱硬化性ポリマーの場合、微粒子の合成法は出発原料による違いが大きく、一般性は高くない。すなわち、フェノール/ホルムアルデヒド樹脂系では、固体ポリマーを物理的に粉砕する方法あるいは予め重合したプレポリマーを乳化重合処理する方法により微粒子が調製される。これに対して、レゾルシノール/ホルムアルデヒド樹脂系では、疎水媒体中で水溶性モノマーを重合することにより、直接、直径数μmの球状粒子が得られることが報告されている(非特許文献6)。
【0007】
1992年、Mobil社により、界面活性剤ミセルを鋳型として、直径2〜8nmのハニカム状のメソ細孔を有するメソボーラスシリカが創製された(非特許文献7)。その後、同様の手法により、立方格子状等各種の細孔構造をもつメソ多孔質シリカに加えて、金属酸化物や硫化物を骨格成分とする数多くのメソ多孔体が相次いで合成された(非特許文献8)。本発明者らも、ドデシル硫酸イオンを鋳型として、尿素を用いる均一沈澱法により生成した複合体を作製し、ついで鋳型イオンを酢酸イオンで交換することにより六方構造型希土類酸化物メソ多孔体を得ている(非特許文献9、10)。さら、二種類のノニオン性界面活性剤からなる液晶中で塩化白金酸を還元することにより、白金ナノチューブの合成にも成功した(非特許文献11)。以上のように、無機材料については、界面活性剤ミセルを鋳型として細孔構造や粒子形状を制御した微粒子が多数合成されている。
【0008】
一方、高分子微粒子についても、界面活性剤を利用した調製法が開発されてきている。最も広く用いられているのは、界面活性剤を乳化剤(分散剤)として、水系の溶媒中に形成させたエマルジョン内で、油性のビニル系モノマーを重合させる方法(乳化重合法)である。実例としては、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)などの合成ゴム、スチレン系、アクリル系、酢酸ビニル系などの樹脂エマルジョンなどの合成ラテックスがあげられる。この方法の主要な構成要素は、反応媒体の水、界面活性剤、水に難溶性のモノマー、水溶性の開始剤であり、重合初期に生成した重合体粒子が反応場となって重合が進行する。界面活性剤とモノマーあるいはポリマーをクーロン的に結合させながら重合あるいは複合化させる方法も開発されている。高分子電解質に界面活性剤を添加することによって生成する複合化ポリアクリル酸/ドデシルトリメチルアンモニウムイオン複合体はその代表例である(非特許文献12)。
【0009】
同様な反応法により、ハニカム構造をもつフェノール/ホルムアルヒド高分子複合体も得られている(非特許文献13)。発明者らも界面活性剤のアルキルトリメチルアンモニウムブロミド存在下でフェノールとフルフラールを共重合することにより、チューブ状ナノ構造体を合成した(非特許文献14)。また最近、セチルトリメチルアンモニウムブロミド存在下で、レゾルシノール、ホルムアルデヒド、炭酸ナトリウム、エタノール、水から成る混合溶液を加熱反応させると、100nm以下のクラスター集合体が生成し、さらに、デシルトリメチルアンモニウムブロミドあるいはテトラプロピルアンモニウムブロミド存在下での同様な反応では直径1〜3μmの球状のレゾルシノール−ホルムアルデヒド重合体粒子が得られることが報告されている(非特許文献15)。
【0010】
一方、特許情報の中には、少なくとも約3〜12カ月間にわたり安定な、(I)水不溶性または微溶性のアルコキシシラン、(II)乳化剤、(III)水、および(IV)アルコキシシラン官能基を含有する水分散性または乳化したポリマーを含む安定な水性硬化性シラン/ポリマー組成物(特許文献1)や、液滴の分散液を調製し、次いで、ポリマー粒子が所望とされる場合は、それら液滴中でモノマーの重合を行うことによって所望の粒子を調製することが記載されている(特許文献2)。さらにまた、UL−94のV−2等級、熱安定性、タフネス、加工性、加水分解及び化学品に対する抵抗性を有する、特定の制限された量の定義された芳香族ホスフェートエステル化合物を含む低揮発性芳香族ホスフェートエステル化合物含有カーボネートポリマー樹脂が提案されている(特許文献3)。
【0011】
そしてさらに、水相に分散された油相を含んでなり、その油小球が150nm未満の数平均サイズを有する水中油型ナノエマルジョンにおいて、少なくとも一種の油、少なくとも一種の両親媒性脂質、及び少なくとも1つの疎水性ブロックと少なくとも1つの親水性ブロックとを含む少なくとも一種の非イオン性ポリマーを含み、前記両親媒性脂質に対する油の量の比率を1から10とすることによってナノエマルションを得ること(特許文献4)が提案されている。
【0012】
【非特許文献1】Pekala,J.Mater.Sci.,24,3221〜3227(1989)
【非特許文献2】R.W.Pekala,J.Non−Cryst.Solids,145,90(1992)
【非特許文献3】S.Hanほか2名,Chem.Mater.,12,3337〜3341(2000)
【非特許文献4】T.F.Baumannほか1名,J.Non−Cryst.Solids,350,120〜125(2004)
【非特許文献5】C.Liangほか4名,Angew.Chem.Int. Ed.,43,5785〜5789(2004)
【非特許文献6】T.Yamamotoほか4名,Carbon,40,1345〜1351(2002)
【非特許文献7】C.T.Kresgaほか4名,Nature,359,710〜712(1992)
【非特許文献8】木島剛ほか1名,J.Soc.Inorg.Mater.,8,3〜16(2001)
【非特許文献9】M.Yadaほか3名,Inorg.Chem.,37,6470〜6475(1998)
【非特許文献10】M.Yadaほか3名,Angew.Chem.Int. Ed.,38,3506〜3509(1999)
【非特許文献11】T.kijimaほか5名,Angew.Chem.Intern.Ed.,43,228−232(2004)
【非特許文献12】M.Antoniettiほか1名,Angew.Chem.Int.Ed.Eng.,33,1869(1994)
【非特許文献13】I.Moriguchiほか5名,Chem.Lett.,1171〜1172(1999)
【非特許文献14】M.Uotaほか7名,MRS.Symp.Proc, 775,29−34(2003)
【非特許文献15】Nishiyama et al. Carbon,43,269−274(2005)
【特許文献1】特許第3468776号
【特許文献2】特許第3530527号
【特許文献3】特許第3645910号
【特許文献4】特開2001−226221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、以上、従来技術について紹介、列挙した有機系ポリマー粒子およびその調製法に関する多岐にわたる研究報告、先行技術を念頭に置きつつ、新規な合成プロセスで調製された新規な組成、新規な物性、形態を有する粒子および提供しようというものである。その骨格はレゾルシノールを主成分のひとつとする高分子組織で構成し、しかもその形状を直径50〜500nmの球状とすることにより、物質貯蔵能、分子分離能を有し、骨格形状および組成に由来する化学的、熱的、物理的に優れた機能を特異的に発現させてなるポリマー粒子を提供しようというものである。また、これによって、化学、電子、情報、環境、バイオ分野の技術革新に寄与する新規素材を提供しようとするものである。
【0014】
レゾルシノール(R)−ホルムアルデヒド(F)の加水分解・縮合反応機構と無機酸化物のゾル−ゲル反応との類似性がPekalaらにより示されて以来、RF高分子ゲルは、その特徴である多孔性と高い比表面積を生かして燃料電池の電極補助剤やカーボン前駆体等として利用されてきた。そこで、もしこのRF高分子ゲルの形状を微細かつ精密に制御することができれば、その素材は、既存の繊維・プラスチック・インキ・塗料・接着剤等に新たな機能を付与する添加剤や、制御された構造特有の精密な分子ふるい能、物質貯蔵能等を持つ分離剤・吸着剤等として一層幅広く利用できることになる。しかしながら、従来、RF共重合体をナノオーダーで精密に制御することに成功したとの報告はなかった。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、発明者は、水溶液中におけるレゾルシノールとホルムアルデヒドの共重合反応が、有機テンプレート法で合成されるシリカ多孔体MCM−41のシリカ源であるケイ素アルコキドと類似のゾルーゲル反応を示すことから、レゾルシノール系ポリマーでも同様な鋳型効果が発揮されるとの着想のもとに、新規形態のポリマー粒子の創製を実現すべく、反応に用いる原料、触媒及び界面活性剤の種類ならびに反応条件についてさらに鋭意研究を進めた。その結果、鋳型にカチオン性界面活性剤、触媒にアルカリを使用した条件で、高度に形態制御された熱硬化性ポリマー粒子の合成に成功した。
【0016】
すなわち、本発明者等は、鋭意研究をした結果、前示課題を以下に記載する技術的構成が講じられた発明によって解決、達成することに成功したものである。
【0017】
第1の発明は、(1)レゾルシノール等の芳香族環に2個以上のヒドロキシル基が置換した構造を持つフェノール類の中から選択された1種類以上のモノマーと、ホルムアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類の中から選択された1種以上のモノマーとの共重合体を骨格成分とする直径50〜500nmの球状の構造を有することを特徴とする、単分散性超微細レゾルシノール系球状ポリマー粒子、である。
【0018】
第2の発明は、第1の発明の前躯体であり、(2)レゾルシノール等の芳香族環に2個以上のヒドロキシル基が置換した構造を持つフェノール類の中から選択された1種類以上のモノマーと、ホルムアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類の中から選択された1種以上のモノマーとの共重合体と、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド等のアルキルアンモニウム塩、ヘキサデシルアミン等のアルキルアミンよりなる群から選択された1種以上界面活性剤との結合によって成り、直径50〜500nmの球状の構造を有することを特徴とする、単分散性超微細レゾルシノール系球状ポリマー粒子、である。
【0019】
第3および第4の発明は前記第1および第2の発明のポリマー粒子の製造方法を提示するものである。
すなわち、第3の発明は、(3)塩基性縮合剤の存在下、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド等のアルキルアンモニウム塩、ヘキサデシルアミン等のアルキルアミンよりなる群から選択された1種以上界面活性剤と水を1:120〜1200のモル比で混合した溶液に、レゾルシノール等の芳香族環に2個以上のヒドロキシル基が置換した構造を持つフェノール類の中から選択された1種類以上のモノマーとホルムアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類の中から選択された1種以上のモノマーを加え、反応させることで得られる生成物を、エタノール等のアルコール類よりなる群から選択された1種類以上の溶媒と塩酸等の酸よりなる群から選択された1種類以上の酸の混合溶液で洗浄処理することを特徴とする、(1)に記載する単分散性超微細レゾルシノール系球状ポリマー粒子の製造方法、である。
【0020】
第4の発明は、(4)塩基性縮合剤の存在下、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド等のアルキルアンモニウム塩、ヘキサデシルアミン等のアルキルアミンよりなる群から選択された1種以上界面活性剤と水を1:120〜1200のモル比で混合した溶液に、レゾルシノール等の芳香族環に2個以上のヒドロキシル基が置換した構造を持つフェノール類の中から選択された1種類以上のモノマーとホルムアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類の中から選択された1種以上のモノマーを加え、反応させることを特徴とする、(2)に記載する単分散性超微細レゾルシノール系球状ポリマー粒子の製造方法、であり、第3の発明における洗浄処理前の段階からなっているものである。したがって、経時的には、第4の発明を経て、第3の発明に至るものである。
【0021】
また、以下、第5ないし第8の発明は、第1および第2の高分子/界面活性剤複合粒子の発明のポリマー粒子の用途発明を提示しているものである。
すなわち、第5の発明は、(5)前記(1)ないし(2)項に記載するポリマー粒子を何れか1種又は2種以上を含んで成り、その物性に基づいた用途に使用することを特徴とする機能性材料。
第6の発明は、(6)その用途が専ら、各種物質の分離剤、吸着剤または貯蔵剤として供され、使用されることを特徴とする前記(5)項記載の機能性材料。
第7の発明は、(7)その用途が繊維、ゴム、フィルムあるいはプラスチック製品などの添加剤として供され、使用されることを特徴とする前記(5)項記載の機能性材料である。
第8の発明は、(8)その用途が塗料、インキ、接着剤あるいは紙塗工剤などの液体製品への添加剤として供され、使用されることを特徴とする前記(5)項記載の機能性材料である。
【0022】
本発明によって得られた単分散性超微細球状高分子粒子は、先に紹介した先行文献(非特許文献15)に記載された球状ポリマー粒子の合成方法と形態に類似がある。しかし、同報告によるレゾルシノール−ホルムアルデヒド高分子粒子は、セチルトリメチルアンモニウムブロミド系の反応によって得られる粒径100nm以下のクラスター集合体、ならびにデシルトリメチルアンモニウムブロミドあるいはテトラプロピルアンモニウムブロミド系の反応によって得られる直径1〜3μmの球状粒子に限られる。これに対して、以下に述べる本発明のものは、以下に示す実施例1および実施例2の電子顕微鏡像で明らかなように、本発明によって得られるレゾルシノール−ホルムアルデヒド高分子は、直径50〜500nmの球状の構造を有することを特徴とする単分散性超微細球状高分子粒子であることが証拠付けられており、先行文献の報告例とは構造的、形態的にあるいは粒径の上で大きな違いがある。
【0023】
さらに、これらポリマー粒子の製造法も本発明と先行文献とでは異なっている。すなわち、先行文献では触媒としての炭酸ナトリウムの存在下、界面活性剤と水をモル比1:3000で混合した希薄水溶液中でレゾルシノールとホルムアルデヒドの共重合反応を進めているのに対して、本発明では先行文献と同じ界面活性剤を使いつつも、触媒となる水酸化ナトリウムの存在下、界面活性剤と水のモル比が1:360と相当に濃厚な溶液中で反応を進行させている。すなわち、セチルトリメチルアンモニウムブロミドという共通の界面活性剤を使用し、触媒と界面活性剤濃度のみを異にする、類似の合成プロセスであっても、得られる生成物は先行文献ではクラスター集合体であり、他方、本発明では層状構造を構成単位とするものが、球状の構造体へと変化して得られており、双方において得られる高分子粒子の形態が異なることは明らかである。
【0024】
先行文献においても、セチルトリメチルアンモニウムブロミドの代わりにデシルトリメチルアンモニウムブロミドあるいはテトラプロピルアンモニウムブロミドを用いた場合には球状の粒子が得られているが、その直径1〜3μmは、本発明における球状粒子の直径50〜500nmに比べて2〜20倍以上大きい。さらに、先行文献では、界面活性剤のミセル形態を壊すあるいは不安定化させる作用があるエタノールが反応系に添加されている。このため、先行文献の場合は、希薄な濃度域でしかもエタノールで不安定化した形態を持つミセルとレゾルシノール/ホルムアルデヒド共重合体とが複合化されることになり、不安定化なミセル形態を反映したクラスター粒子が得られるのに対して、本発明では、濃厚な濃度域で形成されるミセルの形態を反映した構造を持つ球状のレゾルシノール/ホルムアルデヒド共重合体が得られるものと考えられる。
【0025】
このように、用いる界面活性剤と水の混合比の大小が、先行文献と本発明における生成物の形状と粒子径に決定的な違いをもたらしていることは明らかである。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、それらポリマー粒子が前述のような組成と構造になっているため、次のような効果が期待できる。
(1)これを物質分離材として用いた場合、酸・アルカリ領域において化学的に安定でかつ粒子形態・サイズが制御されたクロマトグラフィーの担体、イオン交換樹脂等への応用が期待できる。
(2)これを物質貯蔵材として用いた場合、その特異な形状により、水素等の小分子やイオンの貯蔵に効果的に働くことが期待される。
(3)これを繊維、ゴム、フィルムあるいはプラスチック製品などの添加剤として用いた場合、化学的熱的に安定でその特異な形状より、製品の改質、補強に大きく貢献できる。
(4)これを塗料、インキ、接着剤あるいは紙塗工剤などの液体製品への添加剤として用いた場合、化学的熱的に安定でその特異な形状より、製品の改質に大きく貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
この出願の発明は、以上の特徴を持つものであるが、以下実施例を添付した図面に基づき、具体的に説明する。ただし、これらの実施例は、あくまでも本発明の一つの態様を開示するものであり、決して本発明を限定する趣旨ではない。すなわち、本発明のねらいとするところは2個以上のヒドロキシル基が置換した構造を持つフェノール類とアルデヒドの共重合体を主要成分として組織された、間隔1〜10nmの層状構造を構成単位とする直径50〜500nmの球状粒子を提供するところにあることは、前述したとおりである。その含有成分と構造は、1種類以上のフェノール類と1種以上のアルデヒド類との共重合体を骨格成分とする特定寸法・形態のポリマー粒子であり、その構成成分は、フェノール類とアルデヒド類に関しても、組成的に多様な組み合わせを許容するものであることに加え、置換反応等の操作により骨格組織中に容易に他の置換基が導入されることから、実に多様な組み合わせを含むものである。
【0028】
また、製造方法の骨子は、界面活性剤溶液中でフェノール類とアルデヒド類各1種類以上を塩基性縮合剤のもとで反応させ、特定寸法・形態のポリマー粒子を誘導するというものであり、構造体を構築するための各段階での最適反応温度や反応混合物組成も対象とするモノマー種や用いる界面活性剤の特性によって多様に変化する。対して、実施例は、本発明に対して、あくまでもその一態様例を示すものにすぎず、本発明を構成するモノマー種や製造方法もこの実施例によって限定されるべきではない。
【0029】
図1は本発明で合成されたポリマー粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)像であり、球状の形態をとっていることが確認された。これらを塩酸/エタノールで処理しても、同様な形態を保持していることが分かった。
【0030】
実施例1;
レゾルシノール、水酸化ナトリウム、セチルトリメチルアンモニウムブロミドおよび水1:0.25:1:360のモル比の溶液を調製した。この溶液を撹拌しながら、レゾルシノール:ホルムアルデヒド1:4(モル比)の溶液を添加して50℃で2時間、続いて90℃で72時間反応させた後、パラホルムアルデヒド(モル比4)と共にさらに150℃で24時間水熱処理した。得られた固相を遠心分離、洗浄し、減圧乾燥を行い、固体生成物を得た。
得られた試料の走査型電子顕微鏡(SEM)像および透過型電子顕微鏡(TEM)より、平均直径300nmの単分散球状ポリマー粒子が生成していることが分かった(図1(a,b))。
【0031】
実施例2;
レゾルシノール、水酸化ナトリウム、セチルトリメチルアンモニウムブロミドおよび水1:0.25:1:360のモル比の溶液を調製した。この溶液を撹拌しながら、レゾルシノール:ホルムアルデヒド1:4(モル比)の溶液を添加して50℃で2時間、続いて90℃で72時間反応させた後、パラホルムアルデヒド(モル比4)と共にさらに150℃で24時間水熱処理した。得られた固相を遠心分離、洗浄し、減圧乾燥を行い、固体生成物を得た。さらに、その乾燥試料1gを2M塩酸5mlとエタノール45mlの混合溶液に添加し、その分散液を室温で24時間処理することにより最終の固体生成物を得た。
得られた試料の走査型電子顕微鏡(SEM)像および透過型電子顕微鏡(TEM)より、平均直径250nmの単分散球状ポリマー粒子が生成していることが分かった(図1(c))。
【0032】
本発明は、以上の実施例に加え、多岐にわたる実験例を積み重ね、得られたデータを整理した結果、前記(1)および(2)項に記載したポリマー粒子であることが確認されたものである。
そしてその結果、本発明は、レゾルシノール系樹脂を主要成分として組織された球状ポリマー粒子を得ることに成功したものであり、その意義は極めて大であると確信する。その詳細な物性や、諸特性及び各種技術分野における作用効果に関する具体的データ等の開示、及びこれに関連して誘導される新たな技術的可能性、発展性等の研究開発は、今後の研究に待つところ大であり、委ねられているものであるが、その組成と特徴的な構造からして、諸分野において使用され優れた作用効果を奏し得、材料設計において新規な超微細高分子粒子を提供し、材料選択の自由度を高めたことからも評価され、その意義は大である。
【0033】
すなわち、形態制御されたポリマー粒子の特異な形状と細孔の微細性、分子ふるい、物質分離、特定分子に対する選択的吸着特性等の各種有用な機能を有し、これら有用機能の発現によって高性能分離剤、吸着剤、物質貯蔵剤、超微細な球状の形態を有する繊維・フィルム・プラスチック製品・インキ・塗料・接着剤・紙塗工剤用添加剤など工業的に極めて重要な各種用途に供することのできるポリマー粒子を得ることに成功したものである。
【0034】
ここに、球状高分子(第1の発明)あるいは球状高分子/界面活性剤複合体(第2の発明)を提供するための製造法は、前記実施例で具体的に開示したところであるが、これを、反応混合物の調製から実施する場合の製造方法における反応条件について言及、要約すると、以下の通りである。
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド等のアルキルアンモニウム塩、ヘキサデシルアミン等のアルキルアミンよりなる群から選択された界面活性剤1種と塩基性縮合剤の存在下、レゾルシノール等の芳香族環に2個以上のヒドロキシル基が置換した構造を持つフェノール類の中から選択された1種類以上のモノマーと、ホルムアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類の中から選択された1種以上のモノマーを反応させることによりポリマー(第1の発明)あるいはポリマー/界面活性剤複合体(第2の発明)を製造する方法である。
【0035】
その反応条件は、例示的に要約すると以下の通りである。
すなわち、レゾルシノールおよびホルムアルデヒドをモノマーとする第1の発明および第2の発明のポリマー粒子に基づき説明する。
【0036】
レゾルシノール1モルに対し、セチルトリメチルアンモニウムブロミドを0.1〜2モル好ましくは1モル、水酸化ナトリウムを0.01〜3モル好ましくは0.25モルおよび水を120〜1200モル好ましくは360モルを加えた溶液に、ホルムアルデヒドを1〜6モル好ましくは4モルおよびレゾルシノールを0〜2モル好ましくは1モルを加え、撹拌しながら40〜100℃好ましくは50℃で0〜3時間好ましくは2時間続いて、40〜100℃好ましくは90℃で0〜100時間好ましくは72時間反応させたのち、パラホルムアルデヒドを0〜6モル好ましくは4モルと共に、90〜180℃好ましくは150℃で0〜48時間好ましくは24時間反応した。
【0037】
以下、2通りの処理操作を行い、これによって、一つは球状高分子(第1の発明)、他方は球状高分子/界面活性剤複合体(第2の発明)を合成した。すなわち、第1の処理操作は、上記反応によって得られた生成物を洗浄、回収し、その試料0.5gあたりエタノール10〜100ml好ましくは50mlを20〜60℃好ましくは25℃で0〜24時間好ましくは24時間浸漬したのち、これに1〜12mol/l好ましくは5mol/lの塩酸0.5〜5ml好ましくは1mlを添加し、20〜60℃好ましくは25℃で0〜24時間好ましくは6時間攪拌した。得られた生成物を洗浄、乾燥し、試料を得た。
また、第2の処理操作では、得られた生成物を、分離し、単に洗浄、乾燥し、試料を得た。
【0038】
以上、レゾルシノール−ホルムアルデヒド系ポリマーを得る際の反応操作と反応条件を説明したが、それ以外のレゾルシノール−ホルムアルデヒド系ポリマーを前駆体とする炭素においても前示した反応操作、反応条件と同様の手順ないしはこれに準じた操作条件によって実施される。
【0039】
すなわち、このポリマー粒子の反応混合物の調製から、前駆体高分子を得るまでの過程は、次のように構成される。反応溶液を調製するにあたって、以下のような考えのもとで原料を選択することが望ましい。
【0040】
モノマーには、アルキルトリメチルアンモニウムイオンと結合するフェノキシドを与えるフェノール系の中でも水に易溶性であるレゾルシノールとホルムアルデヒドのように、モノマーが3次元的に重合し、界面活性剤と結合し、水(水系溶媒)に溶けやすいものを選択し、均一組成溶液から構造化を促すことが望ましい。
【0041】
水酸化ナトリウムの仕込み量を調節することで、層状構造を構成単位とする超微細な球状ポリマー粒子を作ることができる。水酸化ナトリウムは、レゾルシノールとホルムアルデヒドの反応の触媒作用を示すと同時に、レゾルシノールのヒドロキシル基をイオン化する役割も担うものと考えられるため、アニオン化したレゾルシノールとセチルトリメチルアンモニウムブロミドの相互作用の度合いにより、ミセル形態が変化し、最終生成物の形態にも影響を与えるものと予想される。
【0042】
以上のことを踏まえて、まず、始めにレゾルシノール、界面活性剤、水酸化ナトリウム、水から成る均一組成の溶液を調製する。この溶液にホルムアルデヒド溶液を添加することで反応開始とし、溶液全体が均一に混合されるように攪拌することが望ましい。このとき、調製溶液の粘性が増大することがあるので、十分な攪拌が得られる装置を使用することが肝要である。
【0043】
反応温度は、最終生成物の形態、収率を考慮して設定するが、反応初期は溶液全体の組成を均一にするために50〜60℃の低温で、それ以降は重合体の架橋密度を上げるために80〜90℃で少なくとも1時間以上加熱することが望ましい。パラホルムアルデヒドの添加や90〜180℃の範囲での水熱処理およびエタノール/塩酸処理は必要に応じて行うことが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、これまでになかった新規な大きさの単分散性超微細球状高分子粒子を提供したものであり、以下に列記する数々の効果が奏せられ、今後、各種分野において使用され、産業の発展に寄与することが期待される。
(1)これを物質分離材として用いた場合、酸・アルカリ領域において化学的に安定でかつ粒子形態・サイズが制御されたクロマトグラフィーの担体、イオン交換樹脂等への応用が期待できる。
(2)これを物質貯蔵材として用いた場合、その特異な形状により、水素等の小分子やイオンの貯蔵に効果的に働くことが期待される。
(3)これを繊維、ゴム、フィルムあるいはプラスチック製品などの添加剤として用いた場合、化学的熱的に安定でその特異な形状より、製品の改質、補強に大きく貢献できる。
(4)これを塗料、インキ、接着剤あるいは紙塗工剤などの液体製品への添加剤として用いた場合、化学的熱的に安定でその特異な形状より、製品の改質に大きく貢献できる。
(5)単分散性に富んだ超微細球状ポリマー粒子であるところから、近年にわかに注目されてきたコロイド結晶とこれを用いた光学素子に利用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の球状のポリマー化合物の走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)による観察写真。図中(a)は実施例1で得られた球状ポリマー粒子のSEM像、(b)は実施例1で得られた球状粒子のTEM像、(c)は実施例2で得られた球状粒子のTEM像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レゾルシノール類の芳香族環に2個以上のヒドロキシル基が置換した構造を持つフェノール類の中から選択された1種類以上のモノマーと、ホルムアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類の中から選択された1種以上のモノマーとの共重合体を骨格成分とする直径50〜500nmの球状の構造を有することを特徴とする、単分散性超微細レゾルシノール系球状ポリマー粒子。
【請求項2】
レゾルシノール類の芳香族環に2個以上のヒドロキシル基が置換した構造を持つフェノール類の中から選択された1種類以上のモノマーと、ホルムアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類の中から選択された1種以上のモノマーとの共重合体と、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド等のアルキルアンモニウム塩、ヘキサデシルアミン等のアルキルアミンよりなる群から選択された1種以上の界面活性剤との結合によって成り、直径50〜500nmの球場ポリマーの構造を有することを特徴とする、単分散性超微細レゾルシノール系球状ポリマー粒子。
【請求項3】
塩基性縮合剤の存在下、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド等のアルキルアンモニウム塩、ヘキサデシルアミン等のアルキルアミンよりなる群から選択された1種以上界面活性剤と水を1:120〜1200のモル比で混合した溶液に、レゾルシノール類の芳香族環に2個以上のヒドロキシル基が置換した構造を持つフェノール類の中から選択された1種類以上のモノマーとホルムアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類の中から選択された1種以上のモノマーを加え、反応させることで得られる生成物を、エタノール等のアルコール類よりなる群から選択された1種類以上の溶媒と塩酸等の酸よりなる群から選択された1種類以上の酸の混合溶液で処理することを特徴とする、請求項1記載の単分散性超微細レゾルシノール系球状ポリマー粒子の製造方法。
【請求項4】
塩基性縮合剤の存在下、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド等のアルキルアンモニウム塩、ヘキサデシルアミン等のアルキルアミンよりなる群から選択された1種以上界面活性剤と水を1:120〜1200のモル比で混合した溶液に、レゾルシノール類の芳香族環に2個以上のヒドロキシル基が置換した構造を持つフェノール類の中から選択された1種類以上のモノマーとホルムアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類の中から選択された1種以上のモノマーを加え、反応させることを特徴とする、請求項2記載の単分散性超微細レゾルシノール系球状ポリマー粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項2に記載するポリマー粒子を何れか1種又は2種以上を含んでなり、分離剤、吸着剤、貯蔵剤、あるいは繊維、ゴム、フィルムあるいはプラスチック製品の添加剤、あるいは、塗料、インキ、接着剤あるいは紙塗工剤などの液体製品への添加剤、の多用途に使用することを特徴とする汎用性機能性材料。
【請求項6】
その用途が各種物質の分離剤、吸着剤、または貯蔵剤として使用されることを特徴とする請求項5記載の汎用性機能性材料。
【請求項7】
その用途が繊維、ゴム、フィルムあるいはプラスチック製品などの添加剤として使用されることを特徴とする請求項5記載の汎用性機能性材料。
【請求項8】
その用途が塗料、インキ、接着剤あるいは紙塗工剤などの液体製品への添加剤として使用されることを特徴とする請求項5記載の汎用性機能性材料。


【図1】
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【公開番号】特開2007−39506(P2007−39506A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223139(P2005−223139)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第85春季年会 講演予稿集 1」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年5月10日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 54巻1号」に発表
【出願人】(504224153)国立大学法人 宮崎大学 (239)
【Fターム(参考)】