説明

レンズ付き光コネクタ

【課題】複雑な調心構造や高精度な加工を不要とすることが可能であり、また、組み付け易く生産性の向上を図ることが可能であり、さらには、レンズ汚れを防止したり損失増加を抑制したりすることが可能なレンズ付き光コネクタを提供する。
【解決手段】レンズ付き光コネクタ21は、第一レンズ付き光コネクタ23と、第二レンズ付き光コネクタ24とを備えて構成されている。第一レンズ付き光コネクタ23は、レンズ部37及びモジュール収容部29を有する第一光コネクタハウジング25と、光ファイバモジュール26と、付勢手段27とを備えて構成されている。一方、第二レンズ付き光コネクタ24は、レンズ部37及びモジュール収容部29を有する第二光コネクタハウジング56と、光ファイバモジュール26と、付勢手段27とを備えて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的な結合を行う光コネクタに関し、詳しくはレンズ付きの光コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内の光通信が普及してきており、近年では通信容量の増大が図られている。このような状況下、近年の自動車内の光通信においても使用される光ファイバは、コア径が小さく伝送帯域が大きいものが検討されている。自動車においての光ファイバ同士の接続に関しては、振動や衝撃による影響から各光ファイバ心線の先端同士を接触させることができないという理由もあって、各光ファイバの端末にフェルールを設けた後に、各フェルール間に一つ又は二つのレンズを介在させて光学的な結合を図る光コネクタ(レンズ付き光コネクタ)が提案されている(例えば下記特許文献1参照)。
【0003】
図13において、上記光コネクタを簡単に説明すると、結合すべき一対の光ファイバ1a、1bの各端末には、フェルール2a、2bが取り付けられている。そして、これらフェルール2a、2bの各外周面には、フランジ3a、3bが嵌合、固定されている。円筒状のレンズホルダ4a、4bの各一側端の中空部には、レンズ5a、5bが固定されている。各他端側の中空部には、フェルール2a、2bの各一端部が挿入されている。
【0004】
フェルール2a、2bの対向する端面の中心には、光ファイバ1a、1bの端面が配置されている。光ファイバ1a、1bの光軸とレンズ5a、5bの光軸とが一致するように調整された後には、フランジ3a、3bの端面とレンズホルダ4a、4bの端面とが溶接により接合、固定されている。また、レンズ5a、5bを保持した側の端面同士を突き合わせた状態で、レンズホルダ4a、4bの各外周面には、この各外周面に共通の円筒スリーブ6が嵌合、固定されている。
【0005】
上記構成において、光コネクタは、二つのレンズ5a、5bがフェルール2a、2bの端面間に配置されている。これにより、軸ズレによる接続損失の低減を図ることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−271758号公報 (第2頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記従来の光コネクタにおける光ファイバ1a、1b同士の接続にあっては、レンズ5a、5bをレンズホルダ4a、4b及び円筒スリーブ6により調心する必要があり、また、フェルール2a、2bもフランジ3a、3b及びレンズホルダ4a、4bにより調心する必要があることから、複雑な調心構造が必要であるという問題点を有している。また、このような調心構造により、レンズ5a、5b、レンズホルダ4a、4b、フランジ3a、3b、フェルール2a、2bの全てに高精度な加工を施す必要があるという問題点を有している。
【0008】
また、上記従来技術にあっては、レンズ5a、5b、レンズホルダ4a、4b、フランジ3a、3bが別部品からなることから、これらの組み付けに係る工程が煩雑になってしまうという問題点や、組み付け時にレンズ5a、5bへの汚れ防止対策をしなければならないという問題点を有している。この他、レンズ5a、5bをレンズホルダ4a、4bの所定位置に固定しなければならない等の作業があることから、生産性が悪いという問題点を有している。
【0009】
さらに、上記従来技術にあっては、フェルール2a、2bとレンズ5a、5bとの軸ズレ、角度ズレ、距離変動等による損失増加が懸念されるという問題点を有している。
【0010】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、複雑な調心構造や高精度な加工を不要とすることが可能であり、また、組み付け易く生産性の向上を図ることが可能であり、さらには、レンズ汚れを防止したり損失増加を抑制したりすることが可能なレンズ付き光コネクタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明のレンズ付き光コネクタは、フェルール挿入部を有し且つ互いに嵌合し合う嵌合構造部を有する透明な第一光コネクタハウジング及び第二光コネクタハウジングを備えるとともに、各前記フェルール挿入部の先端部分に、コネクタ嵌合時において所定の間隔で対向し合うレンズ部を一体に設けることを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の本発明のレンズ付き光コネクタは、請求項1に記載のレンズ付き光コネクタにおいて、出射光が前記レンズ部間で平行化するよう該レンズ部の形状を設定するとともに、前記嵌合構造部にて前記レンズ部の周囲を覆うことを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の本発明のレンズ付き光コネクタは、請求項1又は請求項2に記載のレンズ付き光コネクタにおいて、前記フェルール挿入部に挿入するフェルールの先端と前記フェルール挿入部の最奥部とにより挟み込む屈折率整合部材を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の本発明のレンズ付き光コネクタは、請求項3に記載のレンズ付き光コネクタにおいて、前記フェルールを前記最奥部に向けて付勢する付勢手段を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の本発明のレンズ付き光コネクタは、請求項1ないし請求項4いずれか記載のレンズ付き光コネクタにおいて、前記第一光コネクタハウジング及び前記第二光コネクタハウジングに、前記レンズ部同士の軸位置を合わせる軸合わせ機構を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載された本発明によれば、レンズ付き光コネクタを構成する第一光コネクタハウジングと第二光コネクタハウジングとが共にフェルール挿入部、嵌合構造部、及びレンズ部を一体に有することから、この一体化に伴いレンズ部と光ファイバとの位置ズレ量を最小限に抑えることができるという効果を奏する。また、本発明によれば、レンズ部等の各部分を一体化することから、例えばレンズ部を挿入したり、固定したり、調心したりする必要がなく、結果、組み付け易く生産性の高いレンズ付き光コネクタを提供することができるという効果を奏する。これにより、量産をする際のコスト低減も図ることができるという効果を奏する。さらに、本発明によれば、レンズ部を一体化することから、別部品の場合と比べて、組み付け最中におけるレンズ部の汚れ発生を防止することができるという効果を奏する。
【0017】
請求項2に記載された本発明によれば、損失の小さいレンズ付き光コネクタ、また、レンズ汚れの起こり難いレンズ付き光コネクタを提供することができるという効果を奏する。
【0018】
請求項3〜5に記載されたそれぞれの本発明によれば、損失の小さいレンズ付き光コネクタを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のレンズ付き光コネクタのコネクタ嵌合直前状態を示す断面図である。
【図2】コネクタ嵌合後の状態を示すレンズ付き光コネクタの断面図である。
【図3】第一光コネクタハウジング及び第二光コネクタハウジングに係る図であり、(a)は第一光コネクタハウジングの断面図、(b)は第二光コネクタハウジングの断面図である。
【図4】フェルール及び光ファイバに係る図であり、(a)は組み付け直前の状態を示す断面図、(b)は組み付け後の状態を示す断面図である。
【図5】(a)〜(e)はコネクタ組み付け工程に係る説明図である。
【図6】レンズ付き光コネクタの変形例(スリーブ及びスリット有り)を示す断面図である。
【図7】レンズ付き光コネクタの変形例(二芯用構造)を示す断面図である。
【図8】レンズ付き光コネクタの変形例(二芯用構造でスリーブ及びスリット有り)を示す断面図である。
【図9】レンズ付き光コネクタの変形例(フェルール挿入部に相当するモジュール収容部の最奥部を変形)を示す断面図である。
【図10】レンズと光ファイバ間の距離変動による損失変動を示すグラフである。
【図11】レンズ中心と光ファイバ中心の軸ズレによる損失変動を示すグラフである。
【図12】(a)はレンズ中心同士の軸ズレによる損失変動を示すグラフ、(b)はレンズ中心同士の距離変動による損失変動を示すグラフである。
【図13】従来例の光コネクタを示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら一実施形態を説明する。図1は本発明のレンズ付き光コネクタのコネクタ嵌合直前状態を示す断面図、図2はコネクタ嵌合後の状態を示すレンズ付き光コネクタの断面図である。また、図3は第一光コネクタハウジング及び第二光コネクタハウジングに係る図、図4はフェルール及び光ファイバに係る図、図5(a)〜(e)はコネクタ組み付け工程に係る説明図である。
【0021】
図1及び図2において、引用符号21は本発明のレンズ付き光コネクタを示している。レンズ付き光コネクタ21は、公知の光ファイバ22同士を光学的に接続するための部品であって、一方の光ファイバ22の端末に設けられる第一レンズ付き光コネクタ23と、他方の光ファイバ22の端末に設けられる第二レンズ付き光コネクタ24とを備えて構成されている。先ず、第一レンズ付き光コネクタ23の構成について説明をする。
【0022】
第一レンズ付き光コネクタ23は、第一光コネクタハウジング25と、この第一光コネクタハウジング25に収容・保持される光ファイバモジュール26と、光ファイバモジュール26を付勢するための付勢手段27とを備えて構成されている。
【0023】
図1から図3において、第一光コネクタハウジング25は、透明な樹脂成形品であって、ハウジング本体28と、モジュール収容部29と、嵌合構造部30と、被係止用フランジ31とを有している。第一光コネクタハウジング25は、ハウジング本体28、モジュール収容部29、嵌合構造部30、及び被係止用フランジ31を一体化して一部品となるように形成されている。上記の透明な合成樹脂材料としては、特に限定するものでないが、アクリル樹脂、脂環式オレフィン樹脂、脂環式アクリル樹脂、ポリイミド、エポキシ系樹脂等が挙げられるものとする。
【0024】
モジュール収容部29は、光ファイバモジュール26を収容することができるような穴形状に形成されている。具体的には、段付きの穴形状であって、第一光コネクタハウジング25の後端を開口して(ハウジング本体28の後端を開口して)形成される大径案内部32と、この大径案内部32に連続して第一光コネクタハウジング25の前端側に延びる小径案内部33と、小径案内部33の前端に連続するテーパ34と、このテーパ34に連続するフィルム押し当て部35とを有している。また、モジュール収容部29は、小径案内部33、テーパ34、及びフィルム押し当て部35を形成するための周壁部36を有している。モジュール収容部29は、特許請求の範囲に記載されたフェルール挿入部に相当する部分として形成されている。モジュール収容部29は、この中心軸が光軸に一致するように配置形成されている。
【0025】
大径案内部32は、後述するフェルール39のフランジ45が差し込まれてこれを案内する部分であって、また、付勢手段27の後述するバネ部材51が差し込まれる部分であって、フランジ45やバネ部材51の外径に対応するような大きさに形成されている。
【0026】
小径案内部33は、後述するフェルール39の先端側が差し込まれてこれを案内する部分であって、フェルール39の先端側外径に対応するような大きさに形成されている。
【0027】
フィルム押し当て部35は、後述する屈折率整合フィルム40の押し当て部分、且つ収容部分であって、屈折率整合フィルム40よりも若干大きな状態に形成されている。フィルム押し当て部35は、屈折率整合フィルム40が後述するフェルール39の中心から若干ズレて貼付されていても許容できるような大きさになっている。すなわち、量産に適した構造になっている。フィルム押し当て部35は、屈折率整合フィルム40が押し当てられるようになっており、このため光の散乱を小さく抑えることができるような表面粗さに加工されている。フィルム押し当て部35は、モジュール収容部29の最奥部に配置形成されている。
【0028】
フェルール挿入部に相当するモジュール収容部29の最前端位置には、レンズ部37が一体に形成されている。レンズ部37は、本形態において、球面または非球面状に加工された凸レンズであって、光ファイバ22からの出射光が平行光化し、且つ平行な入射光が光ファイバ22に向けて集光するような形状に形成されている。このようなレンズ部37は、フィルム押し当て部35からレンズ表面までの距離が最適となるように設計されている。レンズ部37の表面は、光の散乱を小さく抑えることができるような表面粗さに加工されている。
【0029】
嵌合構造部30は、周壁部36及びレンズ部37の周囲を覆う部分として形成されている(レンズ部37よりも突出しこれを保護することができるように形成されている)。また、嵌合構造部30は、第二レンズ付き光コネクタ24の後述する第二光コネクタハウジング56における嵌合構造部58と嵌合し合う部分としても形成されている。嵌合構造部30は、周壁部36に対して所定の間隔をあけるように配置形成されている。嵌合構造部30には、係止突起又は係止凹部のような公知のロック部分が形成されている(図示省略)。
【0030】
被係止用フランジ31は、ハウジング本体28の外周面に形成されている。また、被係止用フランジ31は、ハウジング本体28の後端側に配置形成されている。被係止用フランジ31には、適宜角度のテーパ38が周設されている。
【0031】
図1、図2、及び図4において、光ファイバモジュール26は、光ファイバ22の端末と、この端末に設けられるフェルール39とを備えて構成されている。また、本形態の光ファイバモジュール26は、先端(前端)に設けられる屈折率整合フィルム40(屈折率整合部材)を備えて構成されている。
【0032】
図4において、光ファイバ22は、心線部41と、この心線部41を被覆する被覆部42とを備えて構成されている。光ファイバ22は、この先端側の被覆部42が所定の長さで皮剥されている。光ファイバ22の先端側は、所定の長さで心線部41が露出するように加工されている。心線部41の端面は、平坦な面となるように加工されている。心線部41の端面は、光の散乱を小さく抑えることが可能な表面粗さに加工されている。
【0033】
心線部41は、コアと、このコアよりも屈折率の小さいクラッドとにより構成されている。尚、心線部41は、ガラス光ファイバからなるものの他に、コアが透明なPMMAから成形され、クラッドが透明なフッ素樹脂から成形されるものであってもよいものとする。
【0034】
被覆部42は、合成樹脂製のいわゆるシースであって、心線部41を保護するために設けられている。被覆部42は、本形態において、心線部41の上に設けられる一次被覆43と、この一次被覆43の上に設けられる二次被覆44とを備えて構成されている。ここでは一次被覆43が所定の長さ分だけ露出するように二次被覆44が皮剥されている。
【0035】
フェルール39は、PBT(ポリブチレンテレフタラート)を材料としてこの全体が成形されるとともに、一つの部品として形成されている(一例であるものとする。例えば、LCP(液晶ポリマー)の成形品や黄銅の切削品等であってもよいものとする)。
【0036】
フェルール39は、細長い略筒状となる形状に形成されている。フェルール39の外周面(側面)における後端側には、フランジ45が形成されている。フェルール39の後端46は、モジュール収容部29(図1及び図2参照)へのフェルール39の挿入が完了した後、後述のバネ部材51と係合し、そしてこのバネ部材51によりフェルール39が挿入方向へと押圧されるような部分として形成されている。
【0037】
フェルール39の内部には、心線部41の挿入部分となる心線用貫通孔47と、一次被覆43の挿入部分となる被覆用貫通孔48とが形成されている。また、心線用貫通孔47と被覆用貫通孔48との間には、テーパ49が形成されている。心線用貫通孔47は、フェルール39の先端面50を貫通するように配置形成されている。被覆用貫通孔48は、フェルール39の後端46を開口するように、また、心線用貫通孔47に連続するテーパ49まで真っ直ぐ延びるように形成されている。
【0038】
被覆用貫通孔48は、一次被覆43に対し、既知の固定用接着剤を使用して固定する部分、或いは既知の溶着方法による溶着にて固定する部分としても形成されている。テーパ49は、適宜角度に設定されている。このようなテーパ部49を形成することにより、心線部41の心線用貫通孔47への挿入がし易くなっている。
【0039】
上記既知の固定用接着剤としては、特に限定するものでないが、例えばエポキシ系接着剤やエポキシ混合系接着剤等の硬化性の固定用接着剤が挙げられるものとする(必要以上に内部に浸入しない粘度を有する)。この他、固定用接着剤として、紫外線照射装置からの紫外線照射により硬化するUV硬化接着剤等も挙げられるものとする。また、上記既知の溶着方法としては、特に限定するものでないが、レーザ溶着、高周波溶着、超音波溶着等の溶着方法が挙げられるものとする。
【0040】
フェルール39の先端面50は、心線部41の端面が露出するとともに、屈折率整合フィルム40の貼り付け先として形成されている。
【0041】
屈折率整合フィルム40は、柔軟性及び粘着性を有する材料により成形されている。また、屈折率整合フィルム40の材料は、心線部41のコア及び第一光コネクタハウジング25(図1及び図2参照)の材料の屈折率に近い屈折率を有している。屈折率整合フィルム40は、略円形のフィルム状に成形されており、また、フィルム押し当て部35(図3参照)に対応する大きさに形成されている。屈折率整合フィルム40は、これが押し潰されると、押し潰し相手に対して密着するようになっている。
【0042】
屈折率整合フィルム40は、上記の如く柔軟性を有することから、上記密着状態が保持されるとともに、光の界面反射の発生を抑えることができるようになっている。また、屈折率整合フィルム40は、仮に心線部41の端面やフィルム押し当て部35(図3参照)に多少の粗さが残った状態の場合であっても、これにより生じる光の散乱を抑えることができるようになっている。
【0043】
屈折率整合フィルム40の材料としては、特に限定するものでないが、シリコーン系樹脂あるいはスチレン系樹脂等が挙げられるものとする。尚、本形態における屈折率整合フィルム40の厚さは、0.1mm〜1mmとなるように設定されている(一例であるものとする)。
【0044】
図1及び図2において、付勢手段27は、バネ部材51と、バネ押さえ52とを備えて構成されている。バネ部材51は、一次被覆43を挿通可能な螺旋状に巻かれた鋼材(例えば、コイルバネ)により形成されている。また、バネ部材51は、モジュール収容部29の大径案内部32に対し挿入可能な大きさに形成されている。
【0045】
バネ押さえ52は、バネ部材51を押圧する押圧部53と、この押圧部53から延出する一対の嵌合爪54とを備えて構成されている。一対の嵌合爪54は、第一光コネクタハウジング25の被係止用フランジ31に引っ掛かり係止されるように形成されている。
【0046】
押圧部53は、略円形の板状に形成されている。また、押圧部53は、この直径が第一光コネクタハウジング25の被係止用フランジ31よりも大きくなるように形成されている。このような押圧部53の略中央には、一次被覆43を挿通することが可能な挿通孔55が形成されている。
【0047】
尚、バネ押さえ52は、図示しない連通部を有する形状に形成してもよいものとする。連通部は、挿通孔55から押圧部53の外周面に向かって切り欠くようにして形成されている。また、連通部は、一次被覆43が外部から挿通孔55に向けて移動可能となるように形成されている。
【0048】
次に、図1から図3を参照しながら、第二レンズ付き光コネクタ24の構成等について説明をする。
【0049】
図1及び図2において、第二レンズ付き光コネクタ24は、第二光コネクタハウジング56と、この第二光コネクタハウジング56に収容・保持される光ファイバモジュール26と、光ファイバモジュール26を付勢するための付勢手段27とを備えて構成されている。
【0050】
図1から図3において、第二光コネクタハウジング56は、第一コネクタハウジング25と同様に透明な樹脂成形品であって、ハウジング本体57と、モジュール収容部29と、嵌合構造部58と、被係止用フランジ31とを有している。第二光コネクタハウジング56は、ハウジング本体57、モジュール収容部29、嵌合構造部58、及び被係止用フランジ31を一体化して一部品となるように形成されている。上記の透明な合成樹脂材料としては、特に限定するものでないが、アクリル樹脂、脂環式オレフィン樹脂、脂環式アクリル樹脂、ポリイミド、エポキシ系樹脂等が挙げられるものとする。第二光コネクタハウジング56は、第一コネクタハウジング25と同じ材料が用いられるものとする。
【0051】
第二光コネクタハウジング56におけるモジュール収容部29の最前端位置には、第一コネクタハウジング25と同様のレンズ部37が一体に形成されている。
【0052】
嵌合構造部58は、第一コネクタハウジング25の嵌合構造部30と嵌合し合う部分として形成されている。また、嵌合構造部58は、レンズ部37の周囲を覆う部分としても形成されている。嵌合構造部58は、この底部分にレンズ部37が突出するような状態に形成されている。また、嵌合構造部58は、レンズ部37の周囲に所定の間隔をあけるように配置形成されている。嵌合構造部58には、係止突起又は係止凹部のような公知のロック部分が形成されている(図示省略)。
【0053】
続いて、第一レンズ付き光コネクタ23及び第二レンズ付き光コネクタ24の組み付けに係り、図5を参照しながら第二レンズ付き光コネクタ24を代表例に挙げて説明をする。第二レンズ付き光コネクタ24は、第一工程〜第五工程を順に経て組み付けられるようになっている(第一レンズ付き光コネクタ23も同じであるものとする)。
【0054】
図5(a)に示す第一工程おいて、光ファイバ22の心線部41と一次被覆43とを所定の長さ分だけ露出させるように皮剥作業を行う。
【0055】
図5(b)に示す第二工程において、光ファイバ22の一次被覆43にバネ部材51を先通しする(図示してないがバネ押さえ52も先通しする)作業を行うとともに、心線部41及び一次被覆43に跨るようにフェルール39を挿入・固定する作業を行う。その後、フェルール39の先端面50と、ここから露出した心線部41とを研磨する作業を行う。
【0056】
図5(c)に示す第三工程において、フェルール39の先端面50に屈折率整合フィルム40を貼り付ける作業を行う。以上により光ファイバモジュール26の組み付けが完了する。
【0057】
図5(d)に示す第四工程において、光ファイバモジュール26を第二光コネクタハウジング56のモジュール収容部29に挿入する作業を行う。尚、モジュール収容部29は、この穴径がフェルール39の外径に対して大きなクリアランスが生じない大きさに設定されるものとする。例えば、クリアランスをd、フェルール39の挿入長をL、所定の光軸に対する角度をθとすると、クリアランスdと挿入長Lは、角度θが0.4°(0.4度)以下に抑えられるように決められている。ここで、tanθ=d/Lの関係があるものとする。
【0058】
図5(e)に示す第五工程において、バネ押さえ52によりバネ部材51を押圧しつつこのバネ押さえ52を第一光コネクタハウジング25の被係止用フランジ31に引っ掛け係止させる作業を行う。この時、屈折率整合フィルム40はフェルール39とモジュール収容部29の最奥部とにより挟み込まれる(屈折率整合フィルム40は押し潰される)。以上により、第二レンズ付き光コネクタ24の組み付けが完了する。
【0059】
上記構成及び構造において、図1に示す如く第一レンズ付き光コネクタ23及び第二レンズ付き光コネクタ24を対向させ、この後に図2に示す如くこれらをコネクタ嵌合させると、光ファイバ22同士は本発明のレンズ付き光コネクタ21により光学的に接続される。この時、レンズ部37同士は、所定の間隔で対向し合うような状態になる。光ファイバ22からの出射光は、レンズ部37により平行光化される。また、平行光化されてレンズ部37に入射した入射光は、レンズ部37により光ファイバ22に向けて集光される。
【0060】
以上、図1から図5を参照しながら説明してきたように、本発明のレンズ付き光コネクタ21によれば、第一光コネクタハウジング25と第二光コネクタハウジング56とが共にモジュール収容部29(フェルール挿入部に相当)、嵌合構造部30、58、及びレンズ部37を一体に有することから、この一体化に伴いレンズ部37と光ファイバ22との位置ズレ量を最小限に抑えることができる。
【0061】
また、本発明のレンズ付き光コネクタ21によれば、レンズ部37等の各部分を一体化することから、例えばレンズ部37を挿入したり、固定したり、調心したりする必要がなく、結果、組み付け易く生産性の高いレンズ付き光コネクタ21にすることができる(これにより、量産をする際のコスト低減も図ることができる)。
【0062】
さらに、本発明のレンズ付き光コネクタ21によれば、レンズ部37を一体化することから、従来例のような別部品の場合と比べて、組み付け最中におけるレンズ汚れの発生を防止することができる。
【0063】
さらにまた、本発明のレンズ付き光コネクタ21によれば、光ファイバモジュール26を常に押圧して、温度・湿度の変化、振動や衝撃に起因する光ファイバ22とレンズ部37間の距離変動を生じさせないようにしていることから、距離変動による損失増加や、軸ズレ、角度ズレ等による損失増加を抑制することができる。
【0064】
さらにまた、本発明のレンズ付き光コネクタ21によれば、フェルール39とモジュール収容部29の最奥部とにより屈折率整合フィルム40を押し潰すようにしていることから、接触、振動等に起因する破損を防止したり、反射損失をなくしたりすることができる。
【0065】
ここで、レンズ付き光コネクタ21の変形例について図6から図9を参照しながら説明をする。尚、ここまでの説明と基本的に同じ構成及び構造については同一の符号を付すものとする。
【0066】
図6において、レンズ付き光コネクタ21は、一方の光ファイバ22の端末に設けられる第一レンズ付き光コネクタ23と、他方の光ファイバ22の端末に設けられる第二レンズ付き光コネクタ24とを備えて構成されている。第一レンズ付き光コネクタ23は、スリット61を有する第一光コネクタハウジング25と、この第一光コネクタハウジング25に収容・保持される光ファイバモジュール26と、光ファイバモジュール26を付勢するための付勢手段27とを備えて構成されている。一方、第二レンズ付き光コネクタ24は、割スリーブ62を有する第二光コネクタハウジング56と、この第二光コネクタハウジング56に収容・保持される光ファイバモジュール26と、光ファイバモジュール26を付勢するための付勢手段27とを備えて構成されている。
【0067】
図6におけるレンズ付き光コネクタ21は、スリット61と割スリーブ62とを有する点で相違している。スリット61は、モジュール収容部29を囲むような環状の凹部であって、第一レンズ付き光コネクタ23及び第二レンズ付き光コネクタ24をコネクタ嵌合させる際の位置ズレを許容する部分(位置ズレを吸収する部分)として形成されている。一方、割スリーブ62は、第二光コネクタハウジング56の嵌合構造部58に挿入される筒状部品であって、レンズ部37同士の軸ズレ等を抑制して接続損失を低減するために設けられている。
【0068】
図7において、レンズ付き光コネクタ21は、一方の側の二本の光ファイバ22の端末に設けられる第一レンズ付き光コネクタ23と、他方の側の二本の光ファイバ22の端末に設けられる第二レンズ付き光コネクタ24とを備えて構成されている。第一レンズ付き光コネクタ23は、モジュール収容部29を二つ有する第一光コネクタハウジング25と、この第一光コネクタハウジング25に収容・保持される二つの光ファイバモジュール26と、二つの光ファイバモジュール26を付勢するための付勢手段27とを備えて構成されている。一方、第二レンズ付き光コネクタ24も同様に、二つのモジュール収容部29を有する第二光コネクタハウジング56と、この第二光コネクタハウジング56に収容・保持される二つの光ファイバモジュール26と、二つの光ファイバモジュール26を付勢するための付勢手段27とを備えて構成されている。図7におけるレンズ付き光コネクタ21は、二芯用構造になる点で相違している。
【0069】
図8において、レンズ付き光コネクタ21は、図7のものに対しスリット61と割スリーブ62とを有する点で相違している。図8におけるレンズ付き光コネクタ21は、コネクタ嵌合をさせる際の位置ズレを許容したり、レンズ部37同士の軸ズレ等を抑制して接続損失を低減したりすることができる二芯用構造になっている。
【0070】
図9において、光ファイバモジュール26は、フェルール39の先端にテーパ63を有する点で相違している。この例においては、モジュール収容部29の奥位置にテーパを形成する必要がなく、モジュール収容部29の穴形状に係る寸法精度を高めることができる。従って、寸法精度に起因するような損失増大を抑制することができる。
【0071】
続いて、本発明のレンズ付き光コネクタをコア径200μmのHPCF光ファイバ用として設計する場合の効果について、図10から図13を参照しながら説明をする。
【0072】
図10はレンズと光ファイバ間の距離変動による損失変動を示すグラフである。図中のコネクタの軸ズレは、コネクタ内部の光ファイバ中心とレンズ中心の軸ズレを示す。また、図11はレンズ中心と光ファイバ中心の軸ズレによる損失変動を示すグラフである。さらに、図12(a)はレンズ中心同士の軸ズレによる損失変動を示すグラフ、図12(b)はレンズ中心同士の距離変動による損失変動を示すグラフである。
【0073】
レンズ部と光ファイバとの間に距離変動があると、図10に示す如く光損失が増大する。しかしながら、本発明においては、温度・湿度の変化、振動や衝撃によってもレンズ部と光ファイバとの間に距離変動が生じないよう付勢手段(バネ部材)で光ファイバモジュールを絶えず押圧していることから、レンズ部と光ファイバとの間の距離変動を抑制することができる。従って、車載用途でも低損失接続が可能になり、損失増大を抑えることができる。また、光ファイバモジュールにおけるフェルールとモジュール収容部の最奥部とにより柔軟性のある屈折率整合フィルムを挟み込んでいることから、衝撃や振動により光ファイバ端面と最奥部が接触しないため破損をなくすことができるほか、反射損失をなくすこともできる。
【0074】
レンズ中心と光ファイバ中心とに軸ズレがある場合、図11に示す如く光損失が大きく増大する。しかしながら、本発明においては、モジュール収容部の奥位置にテーパを形成していることから、または光ファイバモジュールにおいてもフェルールの先端にテーパを形成していることから、使用部材の寸法精度から生じる損失増大を抑制することができる。例えば、レンズ中心と光ファイバ中心との軸ズレを15μm以下とするような設計をした場合には、図11の点線で示すような、接続損失を0.8dBに抑えることができる。
【0075】
対向するコネクタ同士(第一レンズ付き光コネクタ及び第二レンズ付き光コネクタ)において、レンズ部中心同士の軸ズレや距離変動による光損失変化は、図12に示す如く極めて小さい。従って、コネクタ同士に若干のガタ付きがあっても、損失増大を抑えることができる。
【0076】
本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0077】
21…レンズ付き光コネクタ
22…光ファイバ
23…第一レンズ付き光コネクタ
24…第二レンズ付き光コネクタ
25…第一光コネクタハウジング
26…光ファイバモジュール
27…付勢手段
28…ハウジング本体
29…モジュール収容部(フェルール挿入部)
30…嵌合構造部
31…被係止用フランジ
32…大径案内部
33…小径案内部
34…テーパ
35…フィルム押し当て部(最奥部)
36…周壁部
37…レンズ部
38…テーパ
39…フェルール
40…屈折率整合フィルム(屈折率整合部材)
41…心線部
42…被覆部
43…一次被覆
44…二次被覆
45…フランジ
46…後端
47…心線用貫通孔
48…被覆用貫通孔
49…テーパ
50…先端面
51…バネ部材
52…バネ押さえ
53…押圧部
54…嵌合爪
55…挿通孔
56…第二光コネクタハウジング
57…ハウジング本体
58…嵌合構造部
61…スリット
62…割スリーブ(軸合わせ機構)
63…テーパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルール挿入部を有し且つ互いに嵌合し合う嵌合構造部を有する透明な第一光コネクタハウジング及び第二光コネクタハウジングを備えるとともに、各前記フェルール挿入部の先端部分に、コネクタ嵌合時において所定の間隔で対向し合うレンズ部を一体に設ける
ことを特徴とするレンズ付き光コネクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のレンズ付き光コネクタにおいて、
出射光が前記レンズ部間で平行化するよう該レンズ部の形状を設定するとともに、前記嵌合構造部にて前記レンズ部の周囲を覆う
ことを特徴とするレンズ付き光コネクタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のレンズ付き光コネクタにおいて、
前記フェルール挿入部に挿入するフェルールの先端と前記フェルール挿入部の最奥部とにより挟み込む屈折率整合部材を備える
ことを特徴とするレンズ付き光コネクタ。
【請求項4】
請求項3に記載のレンズ付き光コネクタにおいて、
前記フェルールを前記最奥部に向けて付勢する付勢手段を備える
ことを特徴とするレンズ付き光コネクタ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4いずれか記載のレンズ付き光コネクタにおいて、
前記第一光コネクタハウジング及び前記第二光コネクタハウジングに、前記レンズ部同士の軸位置を合わせる軸合わせ機構を設ける
ことを特徴とするレンズ付き光コネクタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2012−32726(P2012−32726A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174184(P2010−174184)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】