レーザとマグアークによる複合溶接方法
【課題】 本発明は、高速で溶接しても耐ギャップ性に優れ、溶接品質の向上を図ることができるレーザとマグアークによる複合溶接方法の提供を目的とする。
【解決手段】 本発明は、レーザと消耗電極式アーク溶接とを併用するレーザとマグアークによる複合溶接方法において、アークを先行させ、レーザを後行させ、レーザとアークを同一溶接線上に配置させながら溶接することを特徴とする。
【解決手段】 本発明は、レーザと消耗電極式アーク溶接とを併用するレーザとマグアークによる複合溶接方法において、アークを先行させ、レーザを後行させ、レーザとアークを同一溶接線上に配置させながら溶接することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接方法とマグアーク溶接方法を複合し併用した溶接方法に関し、主に、造船やパイプライン等を対象とする比較的厚い鋼板用のレーザとマグアークによる複合溶接を高速に実施するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接施工能率の向上に対するニーズから、様々な分野でレーザとマグアークによる複合溶接法(以下では、ハイブリッド溶接法と呼ぶ)の検討が行われている。このハイブリッド溶接法は、レーザ溶接の特徴である深溶込み、高速溶接とアーク溶接の特徴である開先精度に対する余裕度を両立できる技術として、様々な分野から実用化が期待されているものである。
【0003】
図13に従来のハイブリッド溶接法の一例を示す。この図に示す方法では、レーザ光100を照射可能なレーザヘッド101とアーク溶接ワイヤ102を支持するアークトーチ103を鋼板部材(被溶接部材)105の上方に設置し、溶接線方向106に沿ってレーザ光100およびアーク溶接ワイヤ102を配置し、この例ではレーザ光を先行とし、アークを後方として溶接を行う。そして、この種のハイブリッド溶接法においては一般に、レーザヘッド101とアークトーチ103の接触を避けるために、レーザ光軸107とアーク溶接ワイヤ102の中心軸を傾斜させて配置することによって、所定のレーザアーク間距離LA(以下、LA距離と呼称する)を確保している。
このLA距離はハイブリッド溶接を安定して達成するための極めて重要なパラメータとされている。このLA距離が短い場合はレーザ光とアークの干渉のため、スパッタの増加などの溶接不安定性が増す一方、LA距離が長い場合はレーザ光とアークが分離し、ハイブリッド溶接法としてのメリットが得られないという問題がある。
【0004】
以上のような背景において以下の特許文献1においては、母材の突き合わせ面における開先部に対してアークを発生させ、アークによる熱により被溶接部材の母材内部を溶融してクレータ部を形成するとともに、該クレータ部の底部にレーザビームを照射し、前記母材を溶接する技術について記載されている。
また、以下の特許文献2においては、V字形の開口部とストレート部とを有するY形の開先形状部を溶融することにより溶接するレーザ・アーク併用溶接方法として、アーク放電によって発生するプラズマがレーザ光と干渉しないように、Y形の開先形状部に対してレーザ照射をアーク放電に先行して行うとともに、レーザ光の焦点位置はV字形開口部の底部より開口側に設定し、レーザ光の照射範囲を上記V字形開口部の底部からストレート部に向けて、上記Y形の開先形状のうちの溶接アークが入り込めない深さの範囲に設定する技術について開示されている。
【特許文献1】特開2001−287060号公報
【特許文献2】特開2002−346777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、実構造物の溶接を行う場合、鋼板部材の組立精度や溶接変形のため、溶接機と鋼板部材の相対的な位置が変動する場合がある。このため、鋼板部材に対するレーザ光の焦点位置が、溶接過程で変動するので、溶け込み深さの変動要因となる問題がある。特に厚板の炭素鋼などの鋼材からなるパイプどうしを溶接する場合、パイプの突き合わせ部分に寸法の大きな隙間があると、レーザ光の焦点位置が溶接過程で大きく変動する場合が生じるので、溶接品質が低下するおそれがある。即ち、従来のハイブリッド溶接法においては耐ギャップ性が不充分となり易いという問題があった。
【0006】
また、図13に示す従来のハイブリッド溶接法を実施して炭素鋼を溶接した場合、溶接速度を向上させると溶接部分が溶接後に急冷されることになるために、溶接部が必要以上に硬化してしまう問題がある。この溶接部分の急冷を防止するために、アーク溶接の電極を増やして多電極化することも考えられるが、単に多電極化した場合は溶接時に有害な大粒スパッタを生じて溶接部分の品質が低下するという問題がある。
【0007】
即ち本発明は、高速で溶接しても耐ギャップ性に優れ、溶接品質の向上を図ることができるレーザとマグアークによる複合溶接方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は第1に、レーザと消耗電極式アーク溶接とを併用するレーザとマグアークによる複合溶接方法において、アークを先行させ、レーザを後行させ、レーザとアークを同一溶接線上に配置させながら溶接することを特徴とする。
アークを先行させ、レーザを後行させることで、先行するアークにより幅方向の広い範囲の溶融池を形成させることが可能となり、レーザとマグアークによる複合溶接方法として本来有する高速溶接性に加えて耐ギャップ性に優れた表面溶接幅の広い溶接が可能となる。
レーザ溶接法単独の場合、集光レーザスポット径以上のギャップが存在すると、指向性(直進性)の高いレーザ光は大部分のエネルギーを被溶接対象に照射すること無く開先材のギャップ間を通り抜けてしまう。しかし、アークと複合化された場合、ギャップが存在してもレーザが照射される位置に溶接アークにより形成された溶融池や、溶接アークから母材に移行する溶滴が存在するので、レーザ光はこれらに照射され、多重反射を繰り返しながら母材にレーザ光のエネルギーを照射することが可能となる。
特に、アークをレーザ光に対して先行させることにより、レーザ光と溶接ワイヤとが、あるいはレーザ光と被溶接部材の溶接部分に移行する溶滴とを確実に干渉させることができる。さらに、溶接ワイヤとレーザ光の位置関係によって、溶接中に溶接ワイヤか溶滴がレーザ光と干渉しなくなることが万が一生じても、アークが先行している場合はレーザ光の直下に溶融池(溶融プール)が形成されているのでレーザ光が通り抜けてしまうことはなく、母材に確実にレーザ光エネルギーを照射することができる。
これによりレーザとマグアークによる複合溶接方法では、ギャップのある開先材でもレーザ溶接法等の高密度エネルギー溶接法特有のキーホールを形成し、レーザ光にて溶接部の底部まで溶融溶接することが可能であり、深溶け込み性と高速性を兼ね備えた溶接能力を保有することができる。
【0009】
本発明は第2に、レーザ光の光軸に対して消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの送給角度を傾斜させて送給するとともに、前記レーザ光の光軸と前記溶接ワイヤの送給角度の関係を保ちながら前記アークを先行させ、前記レーザ光を後行させながらこれら両者をいずれも被溶接部材の同一溶接線方向に移動させつつ、前記アークを進行方向に交差する左右方向に揺動させて溶接することを特徴とする。
溶接の際にアークを進行方向に交差する左右方向揺動することでアークにより溶融できる幅を更に広げることができるとともに、溶接ビードの両端側にまで十分にフィラーを供給できる。よって被溶接部材の溶融幅を広げることができ、被溶接部材の溶接部分に生じている隙間を埋める溶融金属の体積を増やすことができる。さらに、万が一レーザ光と溶接ワイヤ中心が干渉しない位置関係におかれた場合でも、溶接ワイヤを左右方向に揺動することによりレーザ光と溶接ワイヤや溶滴を干渉させることが可能となり、耐ギャップ性向上効果を高めることができる。
特に、アークをレーザ光に対して先行させることにより、レーザ光と溶接ワイヤとが、あるいはレーザ光と被溶接部材の溶接部分に移行する溶滴とを確実に干渉させることができる。さらに、溶接ワイヤとレーザ光の位置関係によって、溶接中に溶接ワイヤか溶滴がレーザ光と干渉しなくなることが万が一生じても、アークが先行している場合はレーザ光の直下に溶融池(溶融プール)が形成されているのでレーザ光が通り抜けてしまうことはなく、母材に確実にレーザ光エネルギーを照射することができる。
これによりレーザとマグアークによる複合溶接方法では、ギャップのある開先材でもレーザ溶接法等の高密度エネルギー溶接法特有のキーホールを形成し、レーザ光にて溶接部の底部まで溶融溶接することが可能であり、深溶け込み性と高速性を兼ね備えた溶接能力を保有することができる。
【0010】
本発明は第3に、レーザ光の光軸に対して消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの送給角度を傾斜させて送給するとともに、前記レーザ光の光軸と前記溶接ワイヤの送給角度の関係を保ちながら前記アークを先行させ前記レーザ光を後行させながらこれら両者をいずれも被溶接部材の同一溶接線方向に移動させて溶接する際、該アークを進行方向左右に揺動周波数10〜120Hzで揺動させるとともに、前記レーザ光の照射位置と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤ狙い位置の溶接方向距離LAを、0〜3mmの範囲に設定し、前記レーザ光と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの形成する角度を20〜50゜の範囲とすることを特徴とする。
【0011】
溶接の際にアークを進行方向に交差する左右方向に揺動することでアークにより溶融できる幅を広げることができるとともに、溶接ビードの両端側にまで十分にフィラーを供給できる。よって被溶接部材の溶融幅を広げることができ、被溶接部材の溶接部分に生じている隙間を埋める溶融金属の体積を増やすことができる。特にアークを先行させ、レーザ光を後行させながら溶接する場合に、耐ギャップ性向上効果を高めることができる。
これは、アークをレーザ光に対して先行させた方が、レーザ光と溶接ワイヤとが、あるいはレーザ光と被溶接部材の溶接部分に溶接時に生じる溶滴とが干渉しやすいことに起因する。溶接中に溶接ワイヤの先端側の溶滴がレーザ光と干渉しなくなることが万が一生じても、レーザ光の直下に溶融プールが確実に形成される。
【0012】
アークを揺動させる際の周波数は10〜120Hzが好ましく、この範囲でより有効な溶接性が発揮される。揺動周波数を10Hz以上に設定することにより、溶接速度16.7mm/sec(1.0m/min)以上の高速度下の開先ギャップがある溶接でも、両側の開先を溶融し、開先中心をセンターとした左右対称形状の良好な溶接ビードを形成することができる。また、高周波数側は揺動装置機構の機械的耐久性から120Hz以下とすることが望ましい。更に、溶接ビード形成において問題ではない大きさの溶接スパッタ発生を低減するためには、揺動周波数を10〜50Hzの範囲に設定することが望ましい。
前記レーザ光と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの形成する角度は20〜50゜の範囲が好ましい。溶接トーチ角が20゜より小さい範囲ではレーザ光と消耗電極式アーク溶接トーチが干渉するためレーザとアークの複合化が難しい。トーチ角50゜より大きい角度では、アークによる母材の溶融効率が低下するために溶融面積が減少するとともに、溶滴移行も不安定となり、大粒のスパッタが発生し、良好な溶接ビードを形成できない。
距離LAが3mmを越えるとレーザ光と溶接ワイヤから離脱した溶滴との干渉が少なくなり、耐ギャップ能力の低下につながる。
【0013】
本発明は第4に、レーザ光の光軸に対して消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの送給角度を傾斜させて送給するとともに、前記レーザ光の光軸と前記溶接ワイヤの送給角度の関係を保ちながら前記レーザ光を先行させ前記アークを後行させながらこれら両者をいずれも被溶接部材の同一溶接線方向に移動させて溶接する際、該アークを進行方向左右に揺動周波数10〜120Hzで揺動させるとともに、前記レーザ光の照射位置と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤ狙い位置の溶接方向距離LAを、0〜3mmの範囲に設定し、前記レーザ光と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの形成する角度を20〜50゜の範囲とすることを特徴とする。
前記レーザ光と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの形成する角度は20〜50゜の範囲が好ましい。溶接トーチ角が20゜より小さい範囲ではレーザ光と消耗電極式アーク溶接トーチが干渉するためレーザとアークの複合化が難しい。トーチ角50゜より大きい角度では、アークによる母材の溶融効率が低下するために溶融面積が減少するとともに、溶滴移行も不安定となり、大粒のスパッタが発生し、良好な溶接ビードを形成できない。
【0014】
溶接の際にアークを揺動することでアークにより溶融できる幅を広げることができるとともに、溶接ビードの両端側にまで十分にフィラーを供給できる。よって被溶接部材の溶融幅を広げることができ、被溶接部材の溶接部分に生じている隙間を埋める溶融金属の体積を増やすことができる。特にレーザ光を先行させ、アークを後行させながら溶接する場合に、レーザでもって開先部の深い位置まで十分に加熱溶融することができ、深い位置まで満足な溶接性を得ることができる。
アークを揺動させる際の周波数は10〜120Hzが好ましく、この範囲でより有効な溶接性が発揮される。前記レーザ光と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの形成する角度を20〜50゜の範囲とすることが好ましく、角度が小さすぎるとレーザヘッドと溶接ワイヤが干渉し、角度が大きすぎるとアークの溶融効率が低下し、溶滴移行の状態が変化する。距離LAが3mmを越えるとレーザ光が溶接ワイヤおよび溶接ワイヤから離脱した溶滴と干渉しないおそれがあり、耐ギャップ能力の低下につながる。
【0015】
本発明は第5において、前記消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤを揺動周波数10〜120Hzで溶接ワイヤ径の1/3以上、3倍以下の振幅で揺動することができる。
揺動させる際の揺動振幅を大きくしすぎるとスパッタが増加し溶接ビード外観が悪化したり、レーザ光と溶接ワイヤや溶滴が干渉しない位置関係になる時間割合が長くなり、耐ギャップ性効果が低下する。また、揺動振幅を小さくしすぎると、溶融池幅の拡大効果が小さくなるため、揺動による耐ギャップ性向上効果を見込めなくなる。
【0016】
本発明は第6において、消耗電極式アーク溶接で用いるシールドガスをアルゴンガス20%以上、80%以下、残部が炭酸ガスのシールドガスとすることができる。
シールドガスをアルゴンガス20%以上、80%以下、残部を炭酸ガスで構成する混合ガスとすることで、溶適移行周期の安定化により割れなどの有害な溶接欠陥と溶接スパッタの発生を少なくすることができ、溶接不良の発生を抑制できる。
本発明は第7において、消耗電極式アークを2つ以上用い、前記レーザ光により被溶接部材を溶融させた部分に第1の消耗電極式アークを位置させ、前記レーザ光と前記第1の消耗電極式アークにより溶融させた部分から離れて被溶接部材が凝固を開始した後の位置に第2以降の消耗電極式アークを配置して被溶接部材を再加熱することを特徴とする。
アーク溶接とレーザ溶接とを複合する溶接法において、溶融金属と、溶接熱影響部が2つ目のアークにより再加熱されるために、第1の消耗電極式アークで溶融させた後に凝固を開始した部分が急冷されることがなく、過度の硬化を抑制することができる。
【0017】
本発明は第8において、前記レーザ光に複合させて発生させる消耗電極式溶接のアークの極性を正極と負極とで交互に繰り返す交流マグ溶接とすることを特徴とする。
これによりアークトーチの多電極化によりレーザと複合化する溶接トーチから発生する大粒スパッタの発生を抑制することができ、溶滴の移行が安定化するので、レーザ光と溶接ワイヤあるいはレーザ光と溶滴の干渉を安定化して耐ギャップ性の向上に寄与する。
本発明は第9において、前記交流マグ溶接法を実効電流100A以上、200A以下の交流パルスマグ溶接とし、消耗電極式アークトーチ間距離を50mm以上に設定することを特徴とする。
前記消耗電極式アークを2つ以上用いた場合、2つの電極をいずれもDCとすると、2つのアークが形成する磁場によりアークが乱れて両方の溶融池から大粒スパッタが発生する確率が高い。ここで複合するアークを交流アークとすると、交番するAC側アークの磁場がDC側アークにほとんど影響しないとともに、AC側アークに対し、DC側のアークがほとんど影響しない。このため両方のアークが安定化し、溶接性が向上する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、施工能率の優れたハイブリッド溶接を実施工において安定して適用することが可能となり、自動車部材の組立、造船、パイプラインの敷設等における溶接工程の生産性向上と、溶接品質の両立という顕著な効果が得られ、これらにより産業上にもたらす貢献は多大なものとなる。
また、鋼材パイプの溶接などのように、パイプ端部どうしを突き合わせて開先部を構成する場合、パイプ端面の形成精度の不均一性などの要因から、被溶接部材どうしのギャップが大きくなるか、ばらつくことがあるが、そのような場合であっても支障なく高品質の溶接ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態について説明するが、以下に説明する実施形態は本発明の1つの例であって本発明が以下の実施形態により制限されるものではない。
図1は本発明を実施して溶接を行っている状態の一例を示し、図2は同溶接時の斜視状態を示し、図3は本発明により溶接される被溶接部材の開先部の一例を示し、図4は図1に示す溶接状態を実現するための装置構成の一例を示す。
本実施例においては、まず、板状の被溶接部材1、2をそれらの側部どうしを突き合わせて隣接配置し、被溶接部材1、2の側部どうしの間に図3に示すように形成されるU字形の開先部3に沿ってレーザ溶接装置Aと消耗電極式アーク溶接装置Bを利用しながら溶接を行う場合について説明する。
【0020】
この形態において適用される開先部の一例としては、図3に示すように一方の被溶接部材1の側面部分に形成されている開先側面1aと他方の被溶接部材2の側面部分に形成されている開先側面2aを対向させ、対向させた開先側面1a、2aの下側に各被溶接部材1、2の側面を部分的に残した形に形成されている突出部1b、2bどうしを突き合わせてU字形に形成された形状とされる。
なお、図3では突出部1b、2bどうしを密着させた状態で示したが、突出部1b、2bどうしが図5に示す如くギャップをあけて離れた場合はこれらの間の距離がルートギャップRGAPとされる。
更に詳細には、板状の各被溶接部材1、2の上下面に垂直に伸びる仮想線Kに対し、開先側面1a、2aはそれぞれ所定の開先角度αだけ傾斜して開先部3の下部側を下窄まり状とするように傾斜され、開先側面1a、2aの底部は所定の曲率半径Rで丸形に形成された開先底部1c、2cとされるとともに、突出部1b、2bの先端面は先の仮想線Kに平行な面とされている。なお、開先底部1c、2cの最低部の高さ、換言すると被溶接部材1、2の底面から開先底部1c、2cまでの高さはルートフェイスRFとされる。
また、開先部の他の形状例として図6に示すように、被溶接部材1A、2Aが端面をそのまま残した状態で突き合わされるI型開先形状の場合は、開先角度αは90°となり、ルートフェースRFは被溶接部材1A、2Aの板厚と同一値となる。
【0021】
本実施形態では、図1の右向きの矢印a方向をアーク先行型の溶接方向と規定して説明する。なお、この場合の溶接線方向とは開先部3に沿うa方向となる。
本実施形態で使用するレーザ溶接機器Aはレーザヘッド5を有して構成され、被溶接部材1、2の上方側から被溶接部材1、2の表面に対してほぼ垂直向きにレーザ光6を照射自在に構成され、このレーザ光6を前記被溶接部材1、2の開先部3の深さ方向に集光レンズ5aを介して集光照射できるように構成されている。また、先のレーザヘッド5に対し、溶接方向aに沿う前方側に消耗電極式アーク溶接機器Bの溶接トーチ7が被溶接部材1、2の表面に対して傾斜状態で設置されている。
【0022】
前記レーザ溶接機器Aは、例えば図4に示すようにレーザ発振器8とビーム伝送ファイバ9とレーザヘッド5を備えて大略構成され、レーザヘッド5に内蔵されているレンズ機構によってレーザ光を集光して被溶接部材1、2の開先部3に照射できるように構成されている。このレーザ溶接機器Aは、kWクラスの発振出力が得られる炭酸ガスレーザ、ランプ励起YAGレーザ、半導体励起YAGレーザ、ファイバーレーザ、半導体レーザを用いることができ、消耗電極式アーク溶接法には、マグ溶接法、炭酸ガス溶接法、ミグ溶接法、を用いることができ、厚板軟鋼板への適用においては、ランプ励起、もしくは半導体励起YAGレーザおよびファイバレーザとマグ溶接法により行うハイブリッド溶接が好ましい。
前記消耗電極式アーク溶接機器Bは、例えば図4に示すように溶接電源11、溶接トーチ7、ワイヤ供給機12、ワイヤW、高速揺動可能なトーチ揺動機構15、溶接トーチの左右上下移動機構16を具備して構成されている。
なお、この図の形態においてはレーザヘッド5と溶接トーチ7をそれらの位置間隔や傾斜角度の関係を保持したまま溶接線方向に移動させるために、レーザヘッド5と溶接トーチ7及びトーチ揺動機構15をまとめて支持する溶接装置17をそれらの側部に配置し、この溶接装置17を溶接線方向aと平行移動させることにより溶接を進行させる構成とすることが好ましい。
【0023】
この実施形態において前記溶接装置17には制御機構20が付設されている。この制御機構は、開先幅方向の移動軸、高さ方向の移動軸を制御する。ここで例えば、溶接ワイヤを30°傾斜させた場合、高さ方向に1mmの変化に対して距離LAは約0.6mm移動する関係となる。
ここで距離LAとは、レーザ光軸と溶接ワイヤ中心軸の延長線とが溶接対象物と交差する点を結んだ距離と定義する。従って、例えば図1の場合、レーザ光軸6aが被溶接部材1と交差する点と、溶接ワイヤWの中心軸Waの延長線が被溶接部材1と交差する点との距離を示し、図13に示す場合においては、レーザ光軸107と溶接ワイヤ中心軸108の延長線とが溶接対象物と交差する点を結んだ距離を示す。また、距離LAは、溶接対象が板形状の場合は交差点間の直線距離であるが、パイプ材料等の局面形状の場合は交差点間の直線距離ではなく、交差する点を結ぶ開先表面上の弧状軌跡間距離とする。
また、開先ギャップが存在する場合、光軸と溶接ワイヤ中心軸が溶接対象物と交差する点が存在しないため距離LAが定義できない。この様な場合は、ギャップが無いと仮定した開先との交差点距離にて距離LAを定義する。
【0024】
図2は以上の構成の装置を用いて本発明方法に基づいてレーザとマグアークによる複合溶接を実施している状態の一例を示す。
本実施形態においては溶接トーチ7から溶接アークを発生させながら溶接ワイヤWの先端部を溶融させると同時にレーザ光6を溶接ワイヤWの先端位置近傍に集光照射しながら被溶接部材1、2の開先部3に沿って溶接トーチ7とレーザビーム6をそれらの姿勢を保持したまま移動させて溶接を行う。この作業に伴い、溶接ワイヤWの先端は溶滴30となって落下するとともに、溶接ワイヤWの先端側には溶接アークとレーザビームによる溶融池31が形成され、先の溶接トーチ7とレーザ光6が移動された後の部分においても所定幅で所定長さと深さの溶融池31が形成され、溶接トーチ7とレーザ光6の更なる移動に伴って溶融池31の部分が凝固すると開先部3と母材2を接合するように溶接金属部33が形成されて溶接される。
【0025】
以上説明のレーザとマグアークによる複合溶接方法によれば、レーザ単独の溶接方法に比べて被溶接部材1、2の耐ギャップ性が向上する。
前述のレーザとマグアークによる複合溶接方法により耐ギャップ性が向上する理由は、溶接ワイヤWから供給される溶滴30、もしくは溶接アークにより形成される溶融池31にレーザ光6が集光照射されるため、レーザ光6が溶接対象に確実に照射されることによる。
この点においてアークがない単独のレーザ溶接法では、開先部3の突合せギャップが一定の幅以上になるとレーザ照射位置に溶接対象物が存在しないためレーザ光が素通りし、溶接することができなくなる。
【0026】
次に先の溶接装置を用いてレーザとマグアークによる複合溶接を行う場合、溶接トーチ7を溶接方向直角方向に揺動し、溶接アークを揺動することにより、より耐ギャップ性を向上させることができる。
図7は溶接トーチ7を溶接方向と直角方向に水平揺動した場合の状態を示す。
この図7に示す方向に溶接トーチ7を水平揺動させることで、溶接ビード幅、つまり、溶融池31の幅を広げることができ、レーザ光6の照射位置に確実に溶融池31を形成することができることに起因して耐ギャップ性を向上できる。なお、溶接トーチ7の揺動方向は、水平揺動に限るものではなく、溶接進行方向と交差する左右方向に揺動する振り子式揺動、溶接ワイヤWが円軌道を描くような回転揺動方式でもって溶接アークを揺動するようにしても良い。
図7に示すように溶接トーチ7を揺動させながらレーザとマグアークによる複合溶接を行うならば、図5に示すように被溶接部材1、2の間に比較的大きなルートギャップRGAPが形成されている場合であっても、あるいは、図6に示すような被溶接部材1A、1Bの間に比較的大きなルートギャップRGAPが形成されている場合であっても、いずれにおいても高品質の溶接ができる。
【0027】
ここで溶接ワイヤWとして外径1.2mmのものを用いる場合、溶接トーチ7の揺動条件として例えば、揺動周波数を10〜120Hz、揺動振幅を0.4〜3.6mm、レーザアーク間距離(LA)を0〜3.0mmの範囲に設定することができる。また、この範囲の中でも、揺動周波数10〜50Hz、揺動振幅0.5〜2.0mm、レーザアーク間距離0〜3.0mmの範囲とすることが好ましい。
以上説明のレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施する場合、溶接トーチ7の揺動周波数、揺動振幅、レーザアーク間距離の他に、溶接速度、アーク溶接条件(マグ溶接条件)、溶接トーチのトーチ角の影響が大きいのでこれらの条件についても好適な範囲を選定することが好ましい。
【0028】
次に、前記レーザとマグアークによる複合溶接方法を実施する場合、レーザ光の発振出力の大出力化に限界がある場合、レーザとマグアークによる複合溶接方法の高能率化策として溶接トーチ7を溶接線上に2ヶ配置する2アーク型のレーザとマグアークによる複合溶接方法が有効となるので、その形態について説明する。
この2アーク型のレーザとマグアークによる複合溶接方法の構成は、これまでに説明したレーザによるマグアークによる複合溶接方法におけるレーザ光6と溶接トーチ7を溶接方向前方側に配置し、単独の他の溶接トーチをそれらの後方に配置して実施すれば良い。
以上説明のような2アーク型のレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施している状態を図8に示す。
この形態において溶接方向aに沿って前方側から順に溶接トーチ7、レーザ光6を配置することについては先の形態と同等であるが、それらの後方側に第2の溶接トーチ7Aを設けている。この第2の溶接トーチ7Aは先の溶接トーチ7により形成される溶融池31Aの若干後方側において溶接部が凝固された後の部分に溶接アークを発生できるように配置され、この溶接トーチ7Aの溶接アークにより形成される溶融池31Aが先の溶融池31と離間するように形成される。
【0029】
図8に示す2アーク型のレーザとマグアークによる複合溶接方法にて、先行するアーク複合溶接方法の耐ギャップ性能力を確保するには、2アーク化により生じる第1の溶接トーチ7からの大粒スパッタを抑制する必要がある。
ここで大粒スパッタとは、図9に示すように先行するレーザとマグアークによる複合溶接方法におけるアーク溶接の溶滴移行が不安定となり、溶滴30が溶融池31以外に飛散してしまう現象である。この大粒スパッタは、溶滴移行周期が不安定となり、長周期化するため大粒になる傾向があり、開先部3の内壁に付着し、融合不良などの溶接欠陥の原因にもなる。この現象は、溶接トーチを多電極にした場合に発生するアーク干渉がその一因であるが、レーザとマグアークによる複合溶接方法ではレーザ光により溶接する部分のキーホール34から噴出する金属蒸気の影響も受け、より顕著な大粒スパッタ現象が発生するおそれがある。
【0030】
前記の大粒スパッタを抑制するためには、アーク干渉の影響を小さくするために第1の溶接トーチ7と第2の溶接トーチ7A間の距離を50mm以上離すことが好ましい。
また、レーザ光6により溶融する部分のキーホール34から噴出する金属蒸気の影響を小さくするため、移行する溶滴サイズを小さくすることが有効であり、このためには実効溶接電流を200A以下にすることが好ましく、溶滴移行が比較的安定する100A以上にすることが好ましい。なお、アーク溶接をマグ溶接とした場合では、スプレー領域まで溶接電流を増加させることにより溶滴移行サイズを小さくすることも可能であるが、スプレー領域では溶接アーク長を短くすることが出来ず、金属蒸気の影響により大粒スパッタが発生してしまう傾向にある。
また、本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法に供するアークを交流マグ溶接法によるアークにすることにより、アーク干渉の影響を小さくし、大粒スパッタを抑制することが出来るようになる。
本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法によりハイブリッド化する交流マグ溶接法は、実効電流が210A以下でパルス平均周波数が50Hz以上の交流パルスマグ溶接法とすることが、大粒スパッタ抑制に関し好ましい。また、印加するパルス波形の一例として図10に示すピークを有する矩形波状のパルスを連続印加するパルス波形パターンを例示することができる。
【0031】
本実施形態に示す2アーク型のレーザとマグアークによる複合溶接方法は、溶接能率が向上するだけでなく継手特性の面でも有効である。その効果は、溶接線上に2つの熱源を直列に配置することが出来るので、単一の熱源による2パス溶接より溶接金属部の硬度を低くすることができることである。
【0032】
図11は本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法においてレーザを先行させ、アークを後行とする場合の実施形態を説明するためのもので、この形態においてはレーザ光6を溶接トーチ7よりも先行させ、溶接トーチ7から発生させるアークを後行とし、更に第2番目の溶接トーチ7Aを先の溶接トーチ7よりも後方に配置し、これらの位置関係を保持しながら溶接線に沿ってa方向に溶接を進行させる方法である。
この実施形態の方法においても先の実施形態の場合と同様に、溶接ワイヤWとして外径1.2mmのものを用いる場合、溶接トーチ7の揺動条件として例えば、揺動周波数を10〜120Hz、揺動振幅を0.4〜3.6mm、レーザアーク間距離(LA)を0〜3.0mmの範囲に設定することができる。また、この範囲の中でも、揺動周波数10〜50Hz、揺動振幅0.5〜2.0mm、レーザアーク間距離0〜3.0mmの範囲が好ましい。
【0033】
また、第1の溶接トーチ7と第2の溶接トーチ7A間の距離を50mm以上離すことが好ましいこと、平均実行電流が210A以下でパルス平均周波数が50Hz以上の交流パルスマグ溶接法とすることなどが、先の形態の場合と同様に重要であり、これらの選定により大粒スパッタ抑制に関し好ましい。
大粒スパッタ抑制からは、距離LAを50mm以上にすることが望ましく、距離の上限値は無い。硬度規制からは距離LAを長くしすぎると、硬度低下幅が小さくなるため、距離Lmax(Lmax=V・Δt:mm)範囲内にすることが好ましい。ただし、Vは溶接速度(mm/sec)であり、Δtは溶接金属部がレーザとアーク熱源により溶融・凝固した後、500℃までに低下する時間(sec)である。
【実施例】
【0034】
炭素鋼からなる板状の被溶接部材を用いて本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法と、レーザ単独溶接法、並びにアーク単独溶接法により、各種の溶接試験を行った。溶接試験方法については以下の表1〜表8に示す各条件とした。
「試験例1」
試験例1として、図6を基に先に説明したI型開先形状となる被溶接部材どうしを溶接する試験において、被溶接部材どうしの間のギャップを大きくしても溶接できるか否かについてギャップの大きさを徐々に大きくした場合のそれぞれについて、レーザ単独で溶接を行うレーザ溶接方法と、本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法のうち、アークを先行させてレーザを後行とするタイプのレーザとマグアークによる複合溶接方法(表1にアーク先行HB「ハイブリッド」と略記する。)と、レーザを先行させてアークを後行とするタイプのレーザとマグアークによる複合溶接方法(表1にレーザ先行HBと略記する。)とをそれぞれ実施した。
これらの試験の条件は表1に示す如く、板厚15mmの炭素鋼製の板状の被溶接部材どうしを表1に示すルートフェイス、開先角度、レーザ出力、LA距離、LA角度、シールドガス組成、電流、電圧、溶接速度として行った。その試験結果を以下の表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1の試験結果に示す如くレーザ溶接法においてはギャップを0.5mmとした場合に溶接ビードの形成が不可能となるのに対し、本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施するならば、アーク先行/レーザ後行とレーザ先行/アーク後行のいずれのレーザとマグアークによる複合溶接方法であっても、ギャップ1.5mmまで溶接ビード形成可能となった。
なおここで、溶接ビード形成不可とは、図12(A)に示す如く端部同士を離間して配置した被溶接部材40、41の開先部の上端部にのみに溶接部42が載るものの、両溶接部42、42が一体化しない場合、図12(B)に示す如く被溶接部材43、44の開先部の上端部から若干下側まで溶接部45が載るものの、両溶接部45が一体化しない場合を意味する。
【0037】
また、U型開先部において溶接ビード形成不可とは、図12(C)に示す如く被溶接部材46、47の開先底部に離間して溶接部48が形成される場合、図12(D)に示す如く被溶接部材48、49の開先底部からその下側まで溶接部50、50が形成されるが両者が一体化しない場合、図12(E)に示すように被溶接部材51、52の開先底部に溶接部53が一体化された状態で形成されるものの開先部の下部側まで溶接部が浸透しない場合のいずれかを意味する。
次に、溶接ビード形成可能とは、I型開先では図12(F)に示すように被溶接部材54、55の開先部の上部側に溶接部56が一体化された状態で接合されるものである。U型開先では図12(G)に示す如く被溶接部材57、58に対して開先部の中央部側まで溶接ビード59が生成し、開先部の底部側に被溶接部材57、58の裏面側まで達する裏波ビード60が形成された状態で接合されることを意味する。
なお、図12(H)に示す被溶接部材61、62と溶接金属部63並びに硬度測定線64については後述する。
【0038】
「試験例2」
試験例2として、本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法のうち、アークを先行させてレーザを後行とするタイプのレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施し、加えて溶接トーチを溶接線方向に対して直角に揺動(アーク先行HB:振幅1.5mm、周波数40Hz、レーザ先行HB:振幅2.0mm、周波数30Hz)させて先の試験例1と同様の溶接試験を行った。その際の溶接条件と試験結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2の試験結果に示す如く溶接トーチを揺動させないで溶接した場合よりも揺動させながら溶接した場合の方が広いギャップ(2.5mm)まで溶接ビードの形成ができた。この試験結果から溶接トーチを揺動させて溶接アークを揺動させながらレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施した方が耐ギャップ性が向上することが明らかになった。
【0041】
「試験例3」
試験例3として、図3または図5を基に先に説明したU型開先形状となる被溶接部材どうしを溶接する試験において、レーザ単独で溶接を行うレーザ溶接方法と、アーク単独で溶接を行うアーク溶接方法と、本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法のうち、アークを先行させてレーザを後行とするタイプのレーザとマグアークによる複合溶接方法と、レーザを先行させてアークを後行とするタイプのレーザとマグアークによる複合溶接方法とをそれぞれ実施した。その際の溶接条件と試験結果を表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
表3に示す試験結果から本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法は、アーク先行あるいはレーザ先行のいずれの場合においてもレーザ単独あるいはアーク単独の溶接方法に比べて耐ギャップ性が著しく向上している。
この試験においてレーザ先行型の溶接法の耐ギャップ性がアーク先行型の溶接法より低いのは、次のような理由である。
第1に、本試験例3でのU型開先が狭開先であるため、アーク溶接法の溶滴がレーザビームの照射される位置に供給される前に開先壁に移行してしまい、溶滴とレーザビームが干渉しない現象が生じること。
第2に、アーク溶接の溶接アークがレーザ光の後方にいるため、レーザ光の照射位置直下への溶融金属メタル供給量が、アーク先行型のレーザとマグアークによる複合溶接方法より少なくなり、レーザ照射位置直下の溶融池が小さくなるためである。
これらの現象は、揺動周波数、揺動振幅、レーザ・アーク間距離、溶接速度、アーク溶接条件、アーク溶接トーチ角などの影響を強く受けるため、特に開先材での溶接にてパラメータの適正化が重要となる。従ってこれらパラメータの好ましい条件を求めるため、以下の試験を行った。
【0044】
「試験例4」
試験例4は、先の各種パラメータのうち、揺動周波数、揺動振幅、レーザ・アーク間距離について検討した試験であり、以下の表4にその試験の溶接条件を以下の表5にその試験の溶接条件と試験結果を示す。
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
表5に示す如く溶接ワイヤ径1.2mmΦでの試験結果では、揺動周波数は10Hz以上、揺動振幅は0.4〜3.6mm、およびレーザ・アーク間距離(LA距離)は0〜3.0mmにてビード形成が可能であった。
なお、表4と表5に示す如くLA距離が−1.0mmと5.0mmの試料では溶接結果が悪く、他の表に示す結果ではLA距離0〜1.0mmの試料で問題ないのでLA距離は0〜4mmの範囲が望ましく、0〜3mmの範囲がより好ましいと考えられる。また、ギャップ1.0mmの場合に揺動周波数2Hzの試料では蛇行した溶接ビードとなり、形成される溶融プール長の半分以下の間隔で揺動できる揺動周波数10Hz以上では溶接結果が良好であり、揺動周波数は10Hz以上が望ましいと思われる。
これらの試験例1〜4試験結果から判断して、本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施する場合、揺動周波数:10〜120Hz、揺動振幅0.4〜3.6mm、レーザ・アーク間距離:0〜3.0mmの範囲が好ましいことが判明した。なお、揺動周波数に関しては10〜50Hzの範囲が更に好ましい。
【0048】
「試験例5」
次に、溶接トーチを2つ用いる2アークタイプのアーク先行型のレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施することにより、被溶接部材を溶接する試験を行った。その場合の溶接条件と試験結果を表6と表7に示す。
溶接トーチを2つ用いる2アークタイプのアーク先行型のレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施する場合、交流印加とした方が大粒スパッタの発生確率が少ないことが判明した。また、溶接速度、揺動振幅、揺動周波数においても先に記載の他の試験結果と同等の傾向が見られた。
【0049】
【表6】
【0050】
【表7】
【0051】
次に、先に説明したレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施した場合に形成される溶接部において、溶接部の硬度低下について検討した結果を示す。
図12(H)に示すように被溶接部材61、62に対して本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法においてアーク先行型の溶接を実施した場合、用いた被溶接部材の鋼材成分分析結果と、用いた溶接ワイヤのワイヤ成分分析結果と、形成された溶接金属部63の硬度測定結果(図12(H)の符号64が硬度測定線を示す。)を以下の表8(A)、(B)、(C)に示す。
【0052】
【表8】
【0053】
本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法において、溶接トーチを1つ設けて行う1アーク先行型のレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施した場合の硬度と、溶接トーチを2つ設けて行うアーク先行型のレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施した場合の硬度の比較から、1アークの場合よりも2アークとした場合の方が明らかに硬度が低下している。
ここで被溶接部材の鋼材成分が軟鋼材であることから、溶接部の硬度があまりに上昇することは望ましくないので、2アーク型のレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施した方が硬度を不用に上昇させないという面では有利であると考えられる。
また、これらの結果から、前記交流マグ溶接法を実効電流100A以上、200A以下の交流パルスマグ溶接とし、消耗電極式アークトーチ間距離を50mm以上に設定することが好ましいと思われる。
【0054】
次にI型開先に対するL−A角度の検討を行った試験結果を表9に示す。開先形状、供試体の種別、板厚、レーザ出力、L−A距離、L−A角度、シールドガス組成、電流、電圧、速度、振動振幅、揺動周波数は以下の表9の通りとした。
【0055】
【表9】
【0056】
表9に示す結果から、アーク先行HBの場合とレーザ先行HBのいずれの場合においてもL−A角度は20〜50゜の範囲が好ましく、55゜では大粒スパッタが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施する場合のレーザ光と溶接トーチの配置状態の一例を示す説明図である。
【図2】図2は本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施して被溶接部材を溶接している状態を示す説明図である。
【図3】図3は被溶接部材と開先部の一形状例を示す側面図である。
【図4】図4は本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施する場合に適用して好適な装置の一例を示す構成図である。
【図5】図5はU型の開先部を形成する被溶接部材の一例を示す説明図である。
【図6】図6はI型の開先部を形成する被溶接部材の他の例を示す説明図である。
【図7】図7は溶接トーチを揺動させている状態を示す説明図である。
【図8】図8は本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施する場合に溶接トーチを2つ用いて溶接を行っている状態を示す説明図である。
【図9】図9は溶接トーチを2つ用いて溶接を行っている場合に発生する可能性の高い大粒スパッタを示す説明図である。
【図10】図10は本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施する場合に溶接トーチを2つ用いて溶接を行う場合、印加するパルス波形として好ましい波形の一例を示すパルス波形図である。
【図11】図11は本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法の他の実施形態を示すもので、レーザ先行型の2アークタイプのレーザとマグアークによる複合溶接方法の一例を示す構成図である。
【図12】図12は試験例で得られた各種の被溶接部材の溶接部を示す模式図である。
【図13】図13は従来のレーザとマグアークによる複合溶接方法の一例を実施している状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0058】
1、2…被溶接部材、
3…開先部、
5a…集光レンズ、
6…レーザ光、
7…溶接トーチ、
7A…第2の溶接トーチ、
W…溶接ワイヤ、
30…溶滴、
31…溶融池、
33…溶接金属部、
A…レーザ溶接機器、
B…アーク溶接機器、
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接方法とマグアーク溶接方法を複合し併用した溶接方法に関し、主に、造船やパイプライン等を対象とする比較的厚い鋼板用のレーザとマグアークによる複合溶接を高速に実施するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接施工能率の向上に対するニーズから、様々な分野でレーザとマグアークによる複合溶接法(以下では、ハイブリッド溶接法と呼ぶ)の検討が行われている。このハイブリッド溶接法は、レーザ溶接の特徴である深溶込み、高速溶接とアーク溶接の特徴である開先精度に対する余裕度を両立できる技術として、様々な分野から実用化が期待されているものである。
【0003】
図13に従来のハイブリッド溶接法の一例を示す。この図に示す方法では、レーザ光100を照射可能なレーザヘッド101とアーク溶接ワイヤ102を支持するアークトーチ103を鋼板部材(被溶接部材)105の上方に設置し、溶接線方向106に沿ってレーザ光100およびアーク溶接ワイヤ102を配置し、この例ではレーザ光を先行とし、アークを後方として溶接を行う。そして、この種のハイブリッド溶接法においては一般に、レーザヘッド101とアークトーチ103の接触を避けるために、レーザ光軸107とアーク溶接ワイヤ102の中心軸を傾斜させて配置することによって、所定のレーザアーク間距離LA(以下、LA距離と呼称する)を確保している。
このLA距離はハイブリッド溶接を安定して達成するための極めて重要なパラメータとされている。このLA距離が短い場合はレーザ光とアークの干渉のため、スパッタの増加などの溶接不安定性が増す一方、LA距離が長い場合はレーザ光とアークが分離し、ハイブリッド溶接法としてのメリットが得られないという問題がある。
【0004】
以上のような背景において以下の特許文献1においては、母材の突き合わせ面における開先部に対してアークを発生させ、アークによる熱により被溶接部材の母材内部を溶融してクレータ部を形成するとともに、該クレータ部の底部にレーザビームを照射し、前記母材を溶接する技術について記載されている。
また、以下の特許文献2においては、V字形の開口部とストレート部とを有するY形の開先形状部を溶融することにより溶接するレーザ・アーク併用溶接方法として、アーク放電によって発生するプラズマがレーザ光と干渉しないように、Y形の開先形状部に対してレーザ照射をアーク放電に先行して行うとともに、レーザ光の焦点位置はV字形開口部の底部より開口側に設定し、レーザ光の照射範囲を上記V字形開口部の底部からストレート部に向けて、上記Y形の開先形状のうちの溶接アークが入り込めない深さの範囲に設定する技術について開示されている。
【特許文献1】特開2001−287060号公報
【特許文献2】特開2002−346777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、実構造物の溶接を行う場合、鋼板部材の組立精度や溶接変形のため、溶接機と鋼板部材の相対的な位置が変動する場合がある。このため、鋼板部材に対するレーザ光の焦点位置が、溶接過程で変動するので、溶け込み深さの変動要因となる問題がある。特に厚板の炭素鋼などの鋼材からなるパイプどうしを溶接する場合、パイプの突き合わせ部分に寸法の大きな隙間があると、レーザ光の焦点位置が溶接過程で大きく変動する場合が生じるので、溶接品質が低下するおそれがある。即ち、従来のハイブリッド溶接法においては耐ギャップ性が不充分となり易いという問題があった。
【0006】
また、図13に示す従来のハイブリッド溶接法を実施して炭素鋼を溶接した場合、溶接速度を向上させると溶接部分が溶接後に急冷されることになるために、溶接部が必要以上に硬化してしまう問題がある。この溶接部分の急冷を防止するために、アーク溶接の電極を増やして多電極化することも考えられるが、単に多電極化した場合は溶接時に有害な大粒スパッタを生じて溶接部分の品質が低下するという問題がある。
【0007】
即ち本発明は、高速で溶接しても耐ギャップ性に優れ、溶接品質の向上を図ることができるレーザとマグアークによる複合溶接方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は第1に、レーザと消耗電極式アーク溶接とを併用するレーザとマグアークによる複合溶接方法において、アークを先行させ、レーザを後行させ、レーザとアークを同一溶接線上に配置させながら溶接することを特徴とする。
アークを先行させ、レーザを後行させることで、先行するアークにより幅方向の広い範囲の溶融池を形成させることが可能となり、レーザとマグアークによる複合溶接方法として本来有する高速溶接性に加えて耐ギャップ性に優れた表面溶接幅の広い溶接が可能となる。
レーザ溶接法単独の場合、集光レーザスポット径以上のギャップが存在すると、指向性(直進性)の高いレーザ光は大部分のエネルギーを被溶接対象に照射すること無く開先材のギャップ間を通り抜けてしまう。しかし、アークと複合化された場合、ギャップが存在してもレーザが照射される位置に溶接アークにより形成された溶融池や、溶接アークから母材に移行する溶滴が存在するので、レーザ光はこれらに照射され、多重反射を繰り返しながら母材にレーザ光のエネルギーを照射することが可能となる。
特に、アークをレーザ光に対して先行させることにより、レーザ光と溶接ワイヤとが、あるいはレーザ光と被溶接部材の溶接部分に移行する溶滴とを確実に干渉させることができる。さらに、溶接ワイヤとレーザ光の位置関係によって、溶接中に溶接ワイヤか溶滴がレーザ光と干渉しなくなることが万が一生じても、アークが先行している場合はレーザ光の直下に溶融池(溶融プール)が形成されているのでレーザ光が通り抜けてしまうことはなく、母材に確実にレーザ光エネルギーを照射することができる。
これによりレーザとマグアークによる複合溶接方法では、ギャップのある開先材でもレーザ溶接法等の高密度エネルギー溶接法特有のキーホールを形成し、レーザ光にて溶接部の底部まで溶融溶接することが可能であり、深溶け込み性と高速性を兼ね備えた溶接能力を保有することができる。
【0009】
本発明は第2に、レーザ光の光軸に対して消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの送給角度を傾斜させて送給するとともに、前記レーザ光の光軸と前記溶接ワイヤの送給角度の関係を保ちながら前記アークを先行させ、前記レーザ光を後行させながらこれら両者をいずれも被溶接部材の同一溶接線方向に移動させつつ、前記アークを進行方向に交差する左右方向に揺動させて溶接することを特徴とする。
溶接の際にアークを進行方向に交差する左右方向揺動することでアークにより溶融できる幅を更に広げることができるとともに、溶接ビードの両端側にまで十分にフィラーを供給できる。よって被溶接部材の溶融幅を広げることができ、被溶接部材の溶接部分に生じている隙間を埋める溶融金属の体積を増やすことができる。さらに、万が一レーザ光と溶接ワイヤ中心が干渉しない位置関係におかれた場合でも、溶接ワイヤを左右方向に揺動することによりレーザ光と溶接ワイヤや溶滴を干渉させることが可能となり、耐ギャップ性向上効果を高めることができる。
特に、アークをレーザ光に対して先行させることにより、レーザ光と溶接ワイヤとが、あるいはレーザ光と被溶接部材の溶接部分に移行する溶滴とを確実に干渉させることができる。さらに、溶接ワイヤとレーザ光の位置関係によって、溶接中に溶接ワイヤか溶滴がレーザ光と干渉しなくなることが万が一生じても、アークが先行している場合はレーザ光の直下に溶融池(溶融プール)が形成されているのでレーザ光が通り抜けてしまうことはなく、母材に確実にレーザ光エネルギーを照射することができる。
これによりレーザとマグアークによる複合溶接方法では、ギャップのある開先材でもレーザ溶接法等の高密度エネルギー溶接法特有のキーホールを形成し、レーザ光にて溶接部の底部まで溶融溶接することが可能であり、深溶け込み性と高速性を兼ね備えた溶接能力を保有することができる。
【0010】
本発明は第3に、レーザ光の光軸に対して消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの送給角度を傾斜させて送給するとともに、前記レーザ光の光軸と前記溶接ワイヤの送給角度の関係を保ちながら前記アークを先行させ前記レーザ光を後行させながらこれら両者をいずれも被溶接部材の同一溶接線方向に移動させて溶接する際、該アークを進行方向左右に揺動周波数10〜120Hzで揺動させるとともに、前記レーザ光の照射位置と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤ狙い位置の溶接方向距離LAを、0〜3mmの範囲に設定し、前記レーザ光と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの形成する角度を20〜50゜の範囲とすることを特徴とする。
【0011】
溶接の際にアークを進行方向に交差する左右方向に揺動することでアークにより溶融できる幅を広げることができるとともに、溶接ビードの両端側にまで十分にフィラーを供給できる。よって被溶接部材の溶融幅を広げることができ、被溶接部材の溶接部分に生じている隙間を埋める溶融金属の体積を増やすことができる。特にアークを先行させ、レーザ光を後行させながら溶接する場合に、耐ギャップ性向上効果を高めることができる。
これは、アークをレーザ光に対して先行させた方が、レーザ光と溶接ワイヤとが、あるいはレーザ光と被溶接部材の溶接部分に溶接時に生じる溶滴とが干渉しやすいことに起因する。溶接中に溶接ワイヤの先端側の溶滴がレーザ光と干渉しなくなることが万が一生じても、レーザ光の直下に溶融プールが確実に形成される。
【0012】
アークを揺動させる際の周波数は10〜120Hzが好ましく、この範囲でより有効な溶接性が発揮される。揺動周波数を10Hz以上に設定することにより、溶接速度16.7mm/sec(1.0m/min)以上の高速度下の開先ギャップがある溶接でも、両側の開先を溶融し、開先中心をセンターとした左右対称形状の良好な溶接ビードを形成することができる。また、高周波数側は揺動装置機構の機械的耐久性から120Hz以下とすることが望ましい。更に、溶接ビード形成において問題ではない大きさの溶接スパッタ発生を低減するためには、揺動周波数を10〜50Hzの範囲に設定することが望ましい。
前記レーザ光と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの形成する角度は20〜50゜の範囲が好ましい。溶接トーチ角が20゜より小さい範囲ではレーザ光と消耗電極式アーク溶接トーチが干渉するためレーザとアークの複合化が難しい。トーチ角50゜より大きい角度では、アークによる母材の溶融効率が低下するために溶融面積が減少するとともに、溶滴移行も不安定となり、大粒のスパッタが発生し、良好な溶接ビードを形成できない。
距離LAが3mmを越えるとレーザ光と溶接ワイヤから離脱した溶滴との干渉が少なくなり、耐ギャップ能力の低下につながる。
【0013】
本発明は第4に、レーザ光の光軸に対して消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの送給角度を傾斜させて送給するとともに、前記レーザ光の光軸と前記溶接ワイヤの送給角度の関係を保ちながら前記レーザ光を先行させ前記アークを後行させながらこれら両者をいずれも被溶接部材の同一溶接線方向に移動させて溶接する際、該アークを進行方向左右に揺動周波数10〜120Hzで揺動させるとともに、前記レーザ光の照射位置と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤ狙い位置の溶接方向距離LAを、0〜3mmの範囲に設定し、前記レーザ光と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの形成する角度を20〜50゜の範囲とすることを特徴とする。
前記レーザ光と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの形成する角度は20〜50゜の範囲が好ましい。溶接トーチ角が20゜より小さい範囲ではレーザ光と消耗電極式アーク溶接トーチが干渉するためレーザとアークの複合化が難しい。トーチ角50゜より大きい角度では、アークによる母材の溶融効率が低下するために溶融面積が減少するとともに、溶滴移行も不安定となり、大粒のスパッタが発生し、良好な溶接ビードを形成できない。
【0014】
溶接の際にアークを揺動することでアークにより溶融できる幅を広げることができるとともに、溶接ビードの両端側にまで十分にフィラーを供給できる。よって被溶接部材の溶融幅を広げることができ、被溶接部材の溶接部分に生じている隙間を埋める溶融金属の体積を増やすことができる。特にレーザ光を先行させ、アークを後行させながら溶接する場合に、レーザでもって開先部の深い位置まで十分に加熱溶融することができ、深い位置まで満足な溶接性を得ることができる。
アークを揺動させる際の周波数は10〜120Hzが好ましく、この範囲でより有効な溶接性が発揮される。前記レーザ光と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの形成する角度を20〜50゜の範囲とすることが好ましく、角度が小さすぎるとレーザヘッドと溶接ワイヤが干渉し、角度が大きすぎるとアークの溶融効率が低下し、溶滴移行の状態が変化する。距離LAが3mmを越えるとレーザ光が溶接ワイヤおよび溶接ワイヤから離脱した溶滴と干渉しないおそれがあり、耐ギャップ能力の低下につながる。
【0015】
本発明は第5において、前記消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤを揺動周波数10〜120Hzで溶接ワイヤ径の1/3以上、3倍以下の振幅で揺動することができる。
揺動させる際の揺動振幅を大きくしすぎるとスパッタが増加し溶接ビード外観が悪化したり、レーザ光と溶接ワイヤや溶滴が干渉しない位置関係になる時間割合が長くなり、耐ギャップ性効果が低下する。また、揺動振幅を小さくしすぎると、溶融池幅の拡大効果が小さくなるため、揺動による耐ギャップ性向上効果を見込めなくなる。
【0016】
本発明は第6において、消耗電極式アーク溶接で用いるシールドガスをアルゴンガス20%以上、80%以下、残部が炭酸ガスのシールドガスとすることができる。
シールドガスをアルゴンガス20%以上、80%以下、残部を炭酸ガスで構成する混合ガスとすることで、溶適移行周期の安定化により割れなどの有害な溶接欠陥と溶接スパッタの発生を少なくすることができ、溶接不良の発生を抑制できる。
本発明は第7において、消耗電極式アークを2つ以上用い、前記レーザ光により被溶接部材を溶融させた部分に第1の消耗電極式アークを位置させ、前記レーザ光と前記第1の消耗電極式アークにより溶融させた部分から離れて被溶接部材が凝固を開始した後の位置に第2以降の消耗電極式アークを配置して被溶接部材を再加熱することを特徴とする。
アーク溶接とレーザ溶接とを複合する溶接法において、溶融金属と、溶接熱影響部が2つ目のアークにより再加熱されるために、第1の消耗電極式アークで溶融させた後に凝固を開始した部分が急冷されることがなく、過度の硬化を抑制することができる。
【0017】
本発明は第8において、前記レーザ光に複合させて発生させる消耗電極式溶接のアークの極性を正極と負極とで交互に繰り返す交流マグ溶接とすることを特徴とする。
これによりアークトーチの多電極化によりレーザと複合化する溶接トーチから発生する大粒スパッタの発生を抑制することができ、溶滴の移行が安定化するので、レーザ光と溶接ワイヤあるいはレーザ光と溶滴の干渉を安定化して耐ギャップ性の向上に寄与する。
本発明は第9において、前記交流マグ溶接法を実効電流100A以上、200A以下の交流パルスマグ溶接とし、消耗電極式アークトーチ間距離を50mm以上に設定することを特徴とする。
前記消耗電極式アークを2つ以上用いた場合、2つの電極をいずれもDCとすると、2つのアークが形成する磁場によりアークが乱れて両方の溶融池から大粒スパッタが発生する確率が高い。ここで複合するアークを交流アークとすると、交番するAC側アークの磁場がDC側アークにほとんど影響しないとともに、AC側アークに対し、DC側のアークがほとんど影響しない。このため両方のアークが安定化し、溶接性が向上する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、施工能率の優れたハイブリッド溶接を実施工において安定して適用することが可能となり、自動車部材の組立、造船、パイプラインの敷設等における溶接工程の生産性向上と、溶接品質の両立という顕著な効果が得られ、これらにより産業上にもたらす貢献は多大なものとなる。
また、鋼材パイプの溶接などのように、パイプ端部どうしを突き合わせて開先部を構成する場合、パイプ端面の形成精度の不均一性などの要因から、被溶接部材どうしのギャップが大きくなるか、ばらつくことがあるが、そのような場合であっても支障なく高品質の溶接ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の実施形態について説明するが、以下に説明する実施形態は本発明の1つの例であって本発明が以下の実施形態により制限されるものではない。
図1は本発明を実施して溶接を行っている状態の一例を示し、図2は同溶接時の斜視状態を示し、図3は本発明により溶接される被溶接部材の開先部の一例を示し、図4は図1に示す溶接状態を実現するための装置構成の一例を示す。
本実施例においては、まず、板状の被溶接部材1、2をそれらの側部どうしを突き合わせて隣接配置し、被溶接部材1、2の側部どうしの間に図3に示すように形成されるU字形の開先部3に沿ってレーザ溶接装置Aと消耗電極式アーク溶接装置Bを利用しながら溶接を行う場合について説明する。
【0020】
この形態において適用される開先部の一例としては、図3に示すように一方の被溶接部材1の側面部分に形成されている開先側面1aと他方の被溶接部材2の側面部分に形成されている開先側面2aを対向させ、対向させた開先側面1a、2aの下側に各被溶接部材1、2の側面を部分的に残した形に形成されている突出部1b、2bどうしを突き合わせてU字形に形成された形状とされる。
なお、図3では突出部1b、2bどうしを密着させた状態で示したが、突出部1b、2bどうしが図5に示す如くギャップをあけて離れた場合はこれらの間の距離がルートギャップRGAPとされる。
更に詳細には、板状の各被溶接部材1、2の上下面に垂直に伸びる仮想線Kに対し、開先側面1a、2aはそれぞれ所定の開先角度αだけ傾斜して開先部3の下部側を下窄まり状とするように傾斜され、開先側面1a、2aの底部は所定の曲率半径Rで丸形に形成された開先底部1c、2cとされるとともに、突出部1b、2bの先端面は先の仮想線Kに平行な面とされている。なお、開先底部1c、2cの最低部の高さ、換言すると被溶接部材1、2の底面から開先底部1c、2cまでの高さはルートフェイスRFとされる。
また、開先部の他の形状例として図6に示すように、被溶接部材1A、2Aが端面をそのまま残した状態で突き合わされるI型開先形状の場合は、開先角度αは90°となり、ルートフェースRFは被溶接部材1A、2Aの板厚と同一値となる。
【0021】
本実施形態では、図1の右向きの矢印a方向をアーク先行型の溶接方向と規定して説明する。なお、この場合の溶接線方向とは開先部3に沿うa方向となる。
本実施形態で使用するレーザ溶接機器Aはレーザヘッド5を有して構成され、被溶接部材1、2の上方側から被溶接部材1、2の表面に対してほぼ垂直向きにレーザ光6を照射自在に構成され、このレーザ光6を前記被溶接部材1、2の開先部3の深さ方向に集光レンズ5aを介して集光照射できるように構成されている。また、先のレーザヘッド5に対し、溶接方向aに沿う前方側に消耗電極式アーク溶接機器Bの溶接トーチ7が被溶接部材1、2の表面に対して傾斜状態で設置されている。
【0022】
前記レーザ溶接機器Aは、例えば図4に示すようにレーザ発振器8とビーム伝送ファイバ9とレーザヘッド5を備えて大略構成され、レーザヘッド5に内蔵されているレンズ機構によってレーザ光を集光して被溶接部材1、2の開先部3に照射できるように構成されている。このレーザ溶接機器Aは、kWクラスの発振出力が得られる炭酸ガスレーザ、ランプ励起YAGレーザ、半導体励起YAGレーザ、ファイバーレーザ、半導体レーザを用いることができ、消耗電極式アーク溶接法には、マグ溶接法、炭酸ガス溶接法、ミグ溶接法、を用いることができ、厚板軟鋼板への適用においては、ランプ励起、もしくは半導体励起YAGレーザおよびファイバレーザとマグ溶接法により行うハイブリッド溶接が好ましい。
前記消耗電極式アーク溶接機器Bは、例えば図4に示すように溶接電源11、溶接トーチ7、ワイヤ供給機12、ワイヤW、高速揺動可能なトーチ揺動機構15、溶接トーチの左右上下移動機構16を具備して構成されている。
なお、この図の形態においてはレーザヘッド5と溶接トーチ7をそれらの位置間隔や傾斜角度の関係を保持したまま溶接線方向に移動させるために、レーザヘッド5と溶接トーチ7及びトーチ揺動機構15をまとめて支持する溶接装置17をそれらの側部に配置し、この溶接装置17を溶接線方向aと平行移動させることにより溶接を進行させる構成とすることが好ましい。
【0023】
この実施形態において前記溶接装置17には制御機構20が付設されている。この制御機構は、開先幅方向の移動軸、高さ方向の移動軸を制御する。ここで例えば、溶接ワイヤを30°傾斜させた場合、高さ方向に1mmの変化に対して距離LAは約0.6mm移動する関係となる。
ここで距離LAとは、レーザ光軸と溶接ワイヤ中心軸の延長線とが溶接対象物と交差する点を結んだ距離と定義する。従って、例えば図1の場合、レーザ光軸6aが被溶接部材1と交差する点と、溶接ワイヤWの中心軸Waの延長線が被溶接部材1と交差する点との距離を示し、図13に示す場合においては、レーザ光軸107と溶接ワイヤ中心軸108の延長線とが溶接対象物と交差する点を結んだ距離を示す。また、距離LAは、溶接対象が板形状の場合は交差点間の直線距離であるが、パイプ材料等の局面形状の場合は交差点間の直線距離ではなく、交差する点を結ぶ開先表面上の弧状軌跡間距離とする。
また、開先ギャップが存在する場合、光軸と溶接ワイヤ中心軸が溶接対象物と交差する点が存在しないため距離LAが定義できない。この様な場合は、ギャップが無いと仮定した開先との交差点距離にて距離LAを定義する。
【0024】
図2は以上の構成の装置を用いて本発明方法に基づいてレーザとマグアークによる複合溶接を実施している状態の一例を示す。
本実施形態においては溶接トーチ7から溶接アークを発生させながら溶接ワイヤWの先端部を溶融させると同時にレーザ光6を溶接ワイヤWの先端位置近傍に集光照射しながら被溶接部材1、2の開先部3に沿って溶接トーチ7とレーザビーム6をそれらの姿勢を保持したまま移動させて溶接を行う。この作業に伴い、溶接ワイヤWの先端は溶滴30となって落下するとともに、溶接ワイヤWの先端側には溶接アークとレーザビームによる溶融池31が形成され、先の溶接トーチ7とレーザ光6が移動された後の部分においても所定幅で所定長さと深さの溶融池31が形成され、溶接トーチ7とレーザ光6の更なる移動に伴って溶融池31の部分が凝固すると開先部3と母材2を接合するように溶接金属部33が形成されて溶接される。
【0025】
以上説明のレーザとマグアークによる複合溶接方法によれば、レーザ単独の溶接方法に比べて被溶接部材1、2の耐ギャップ性が向上する。
前述のレーザとマグアークによる複合溶接方法により耐ギャップ性が向上する理由は、溶接ワイヤWから供給される溶滴30、もしくは溶接アークにより形成される溶融池31にレーザ光6が集光照射されるため、レーザ光6が溶接対象に確実に照射されることによる。
この点においてアークがない単独のレーザ溶接法では、開先部3の突合せギャップが一定の幅以上になるとレーザ照射位置に溶接対象物が存在しないためレーザ光が素通りし、溶接することができなくなる。
【0026】
次に先の溶接装置を用いてレーザとマグアークによる複合溶接を行う場合、溶接トーチ7を溶接方向直角方向に揺動し、溶接アークを揺動することにより、より耐ギャップ性を向上させることができる。
図7は溶接トーチ7を溶接方向と直角方向に水平揺動した場合の状態を示す。
この図7に示す方向に溶接トーチ7を水平揺動させることで、溶接ビード幅、つまり、溶融池31の幅を広げることができ、レーザ光6の照射位置に確実に溶融池31を形成することができることに起因して耐ギャップ性を向上できる。なお、溶接トーチ7の揺動方向は、水平揺動に限るものではなく、溶接進行方向と交差する左右方向に揺動する振り子式揺動、溶接ワイヤWが円軌道を描くような回転揺動方式でもって溶接アークを揺動するようにしても良い。
図7に示すように溶接トーチ7を揺動させながらレーザとマグアークによる複合溶接を行うならば、図5に示すように被溶接部材1、2の間に比較的大きなルートギャップRGAPが形成されている場合であっても、あるいは、図6に示すような被溶接部材1A、1Bの間に比較的大きなルートギャップRGAPが形成されている場合であっても、いずれにおいても高品質の溶接ができる。
【0027】
ここで溶接ワイヤWとして外径1.2mmのものを用いる場合、溶接トーチ7の揺動条件として例えば、揺動周波数を10〜120Hz、揺動振幅を0.4〜3.6mm、レーザアーク間距離(LA)を0〜3.0mmの範囲に設定することができる。また、この範囲の中でも、揺動周波数10〜50Hz、揺動振幅0.5〜2.0mm、レーザアーク間距離0〜3.0mmの範囲とすることが好ましい。
以上説明のレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施する場合、溶接トーチ7の揺動周波数、揺動振幅、レーザアーク間距離の他に、溶接速度、アーク溶接条件(マグ溶接条件)、溶接トーチのトーチ角の影響が大きいのでこれらの条件についても好適な範囲を選定することが好ましい。
【0028】
次に、前記レーザとマグアークによる複合溶接方法を実施する場合、レーザ光の発振出力の大出力化に限界がある場合、レーザとマグアークによる複合溶接方法の高能率化策として溶接トーチ7を溶接線上に2ヶ配置する2アーク型のレーザとマグアークによる複合溶接方法が有効となるので、その形態について説明する。
この2アーク型のレーザとマグアークによる複合溶接方法の構成は、これまでに説明したレーザによるマグアークによる複合溶接方法におけるレーザ光6と溶接トーチ7を溶接方向前方側に配置し、単独の他の溶接トーチをそれらの後方に配置して実施すれば良い。
以上説明のような2アーク型のレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施している状態を図8に示す。
この形態において溶接方向aに沿って前方側から順に溶接トーチ7、レーザ光6を配置することについては先の形態と同等であるが、それらの後方側に第2の溶接トーチ7Aを設けている。この第2の溶接トーチ7Aは先の溶接トーチ7により形成される溶融池31Aの若干後方側において溶接部が凝固された後の部分に溶接アークを発生できるように配置され、この溶接トーチ7Aの溶接アークにより形成される溶融池31Aが先の溶融池31と離間するように形成される。
【0029】
図8に示す2アーク型のレーザとマグアークによる複合溶接方法にて、先行するアーク複合溶接方法の耐ギャップ性能力を確保するには、2アーク化により生じる第1の溶接トーチ7からの大粒スパッタを抑制する必要がある。
ここで大粒スパッタとは、図9に示すように先行するレーザとマグアークによる複合溶接方法におけるアーク溶接の溶滴移行が不安定となり、溶滴30が溶融池31以外に飛散してしまう現象である。この大粒スパッタは、溶滴移行周期が不安定となり、長周期化するため大粒になる傾向があり、開先部3の内壁に付着し、融合不良などの溶接欠陥の原因にもなる。この現象は、溶接トーチを多電極にした場合に発生するアーク干渉がその一因であるが、レーザとマグアークによる複合溶接方法ではレーザ光により溶接する部分のキーホール34から噴出する金属蒸気の影響も受け、より顕著な大粒スパッタ現象が発生するおそれがある。
【0030】
前記の大粒スパッタを抑制するためには、アーク干渉の影響を小さくするために第1の溶接トーチ7と第2の溶接トーチ7A間の距離を50mm以上離すことが好ましい。
また、レーザ光6により溶融する部分のキーホール34から噴出する金属蒸気の影響を小さくするため、移行する溶滴サイズを小さくすることが有効であり、このためには実効溶接電流を200A以下にすることが好ましく、溶滴移行が比較的安定する100A以上にすることが好ましい。なお、アーク溶接をマグ溶接とした場合では、スプレー領域まで溶接電流を増加させることにより溶滴移行サイズを小さくすることも可能であるが、スプレー領域では溶接アーク長を短くすることが出来ず、金属蒸気の影響により大粒スパッタが発生してしまう傾向にある。
また、本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法に供するアークを交流マグ溶接法によるアークにすることにより、アーク干渉の影響を小さくし、大粒スパッタを抑制することが出来るようになる。
本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法によりハイブリッド化する交流マグ溶接法は、実効電流が210A以下でパルス平均周波数が50Hz以上の交流パルスマグ溶接法とすることが、大粒スパッタ抑制に関し好ましい。また、印加するパルス波形の一例として図10に示すピークを有する矩形波状のパルスを連続印加するパルス波形パターンを例示することができる。
【0031】
本実施形態に示す2アーク型のレーザとマグアークによる複合溶接方法は、溶接能率が向上するだけでなく継手特性の面でも有効である。その効果は、溶接線上に2つの熱源を直列に配置することが出来るので、単一の熱源による2パス溶接より溶接金属部の硬度を低くすることができることである。
【0032】
図11は本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法においてレーザを先行させ、アークを後行とする場合の実施形態を説明するためのもので、この形態においてはレーザ光6を溶接トーチ7よりも先行させ、溶接トーチ7から発生させるアークを後行とし、更に第2番目の溶接トーチ7Aを先の溶接トーチ7よりも後方に配置し、これらの位置関係を保持しながら溶接線に沿ってa方向に溶接を進行させる方法である。
この実施形態の方法においても先の実施形態の場合と同様に、溶接ワイヤWとして外径1.2mmのものを用いる場合、溶接トーチ7の揺動条件として例えば、揺動周波数を10〜120Hz、揺動振幅を0.4〜3.6mm、レーザアーク間距離(LA)を0〜3.0mmの範囲に設定することができる。また、この範囲の中でも、揺動周波数10〜50Hz、揺動振幅0.5〜2.0mm、レーザアーク間距離0〜3.0mmの範囲が好ましい。
【0033】
また、第1の溶接トーチ7と第2の溶接トーチ7A間の距離を50mm以上離すことが好ましいこと、平均実行電流が210A以下でパルス平均周波数が50Hz以上の交流パルスマグ溶接法とすることなどが、先の形態の場合と同様に重要であり、これらの選定により大粒スパッタ抑制に関し好ましい。
大粒スパッタ抑制からは、距離LAを50mm以上にすることが望ましく、距離の上限値は無い。硬度規制からは距離LAを長くしすぎると、硬度低下幅が小さくなるため、距離Lmax(Lmax=V・Δt:mm)範囲内にすることが好ましい。ただし、Vは溶接速度(mm/sec)であり、Δtは溶接金属部がレーザとアーク熱源により溶融・凝固した後、500℃までに低下する時間(sec)である。
【実施例】
【0034】
炭素鋼からなる板状の被溶接部材を用いて本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法と、レーザ単独溶接法、並びにアーク単独溶接法により、各種の溶接試験を行った。溶接試験方法については以下の表1〜表8に示す各条件とした。
「試験例1」
試験例1として、図6を基に先に説明したI型開先形状となる被溶接部材どうしを溶接する試験において、被溶接部材どうしの間のギャップを大きくしても溶接できるか否かについてギャップの大きさを徐々に大きくした場合のそれぞれについて、レーザ単独で溶接を行うレーザ溶接方法と、本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法のうち、アークを先行させてレーザを後行とするタイプのレーザとマグアークによる複合溶接方法(表1にアーク先行HB「ハイブリッド」と略記する。)と、レーザを先行させてアークを後行とするタイプのレーザとマグアークによる複合溶接方法(表1にレーザ先行HBと略記する。)とをそれぞれ実施した。
これらの試験の条件は表1に示す如く、板厚15mmの炭素鋼製の板状の被溶接部材どうしを表1に示すルートフェイス、開先角度、レーザ出力、LA距離、LA角度、シールドガス組成、電流、電圧、溶接速度として行った。その試験結果を以下の表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1の試験結果に示す如くレーザ溶接法においてはギャップを0.5mmとした場合に溶接ビードの形成が不可能となるのに対し、本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施するならば、アーク先行/レーザ後行とレーザ先行/アーク後行のいずれのレーザとマグアークによる複合溶接方法であっても、ギャップ1.5mmまで溶接ビード形成可能となった。
なおここで、溶接ビード形成不可とは、図12(A)に示す如く端部同士を離間して配置した被溶接部材40、41の開先部の上端部にのみに溶接部42が載るものの、両溶接部42、42が一体化しない場合、図12(B)に示す如く被溶接部材43、44の開先部の上端部から若干下側まで溶接部45が載るものの、両溶接部45が一体化しない場合を意味する。
【0037】
また、U型開先部において溶接ビード形成不可とは、図12(C)に示す如く被溶接部材46、47の開先底部に離間して溶接部48が形成される場合、図12(D)に示す如く被溶接部材48、49の開先底部からその下側まで溶接部50、50が形成されるが両者が一体化しない場合、図12(E)に示すように被溶接部材51、52の開先底部に溶接部53が一体化された状態で形成されるものの開先部の下部側まで溶接部が浸透しない場合のいずれかを意味する。
次に、溶接ビード形成可能とは、I型開先では図12(F)に示すように被溶接部材54、55の開先部の上部側に溶接部56が一体化された状態で接合されるものである。U型開先では図12(G)に示す如く被溶接部材57、58に対して開先部の中央部側まで溶接ビード59が生成し、開先部の底部側に被溶接部材57、58の裏面側まで達する裏波ビード60が形成された状態で接合されることを意味する。
なお、図12(H)に示す被溶接部材61、62と溶接金属部63並びに硬度測定線64については後述する。
【0038】
「試験例2」
試験例2として、本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法のうち、アークを先行させてレーザを後行とするタイプのレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施し、加えて溶接トーチを溶接線方向に対して直角に揺動(アーク先行HB:振幅1.5mm、周波数40Hz、レーザ先行HB:振幅2.0mm、周波数30Hz)させて先の試験例1と同様の溶接試験を行った。その際の溶接条件と試験結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2の試験結果に示す如く溶接トーチを揺動させないで溶接した場合よりも揺動させながら溶接した場合の方が広いギャップ(2.5mm)まで溶接ビードの形成ができた。この試験結果から溶接トーチを揺動させて溶接アークを揺動させながらレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施した方が耐ギャップ性が向上することが明らかになった。
【0041】
「試験例3」
試験例3として、図3または図5を基に先に説明したU型開先形状となる被溶接部材どうしを溶接する試験において、レーザ単独で溶接を行うレーザ溶接方法と、アーク単独で溶接を行うアーク溶接方法と、本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法のうち、アークを先行させてレーザを後行とするタイプのレーザとマグアークによる複合溶接方法と、レーザを先行させてアークを後行とするタイプのレーザとマグアークによる複合溶接方法とをそれぞれ実施した。その際の溶接条件と試験結果を表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
表3に示す試験結果から本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法は、アーク先行あるいはレーザ先行のいずれの場合においてもレーザ単独あるいはアーク単独の溶接方法に比べて耐ギャップ性が著しく向上している。
この試験においてレーザ先行型の溶接法の耐ギャップ性がアーク先行型の溶接法より低いのは、次のような理由である。
第1に、本試験例3でのU型開先が狭開先であるため、アーク溶接法の溶滴がレーザビームの照射される位置に供給される前に開先壁に移行してしまい、溶滴とレーザビームが干渉しない現象が生じること。
第2に、アーク溶接の溶接アークがレーザ光の後方にいるため、レーザ光の照射位置直下への溶融金属メタル供給量が、アーク先行型のレーザとマグアークによる複合溶接方法より少なくなり、レーザ照射位置直下の溶融池が小さくなるためである。
これらの現象は、揺動周波数、揺動振幅、レーザ・アーク間距離、溶接速度、アーク溶接条件、アーク溶接トーチ角などの影響を強く受けるため、特に開先材での溶接にてパラメータの適正化が重要となる。従ってこれらパラメータの好ましい条件を求めるため、以下の試験を行った。
【0044】
「試験例4」
試験例4は、先の各種パラメータのうち、揺動周波数、揺動振幅、レーザ・アーク間距離について検討した試験であり、以下の表4にその試験の溶接条件を以下の表5にその試験の溶接条件と試験結果を示す。
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
表5に示す如く溶接ワイヤ径1.2mmΦでの試験結果では、揺動周波数は10Hz以上、揺動振幅は0.4〜3.6mm、およびレーザ・アーク間距離(LA距離)は0〜3.0mmにてビード形成が可能であった。
なお、表4と表5に示す如くLA距離が−1.0mmと5.0mmの試料では溶接結果が悪く、他の表に示す結果ではLA距離0〜1.0mmの試料で問題ないのでLA距離は0〜4mmの範囲が望ましく、0〜3mmの範囲がより好ましいと考えられる。また、ギャップ1.0mmの場合に揺動周波数2Hzの試料では蛇行した溶接ビードとなり、形成される溶融プール長の半分以下の間隔で揺動できる揺動周波数10Hz以上では溶接結果が良好であり、揺動周波数は10Hz以上が望ましいと思われる。
これらの試験例1〜4試験結果から判断して、本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施する場合、揺動周波数:10〜120Hz、揺動振幅0.4〜3.6mm、レーザ・アーク間距離:0〜3.0mmの範囲が好ましいことが判明した。なお、揺動周波数に関しては10〜50Hzの範囲が更に好ましい。
【0048】
「試験例5」
次に、溶接トーチを2つ用いる2アークタイプのアーク先行型のレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施することにより、被溶接部材を溶接する試験を行った。その場合の溶接条件と試験結果を表6と表7に示す。
溶接トーチを2つ用いる2アークタイプのアーク先行型のレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施する場合、交流印加とした方が大粒スパッタの発生確率が少ないことが判明した。また、溶接速度、揺動振幅、揺動周波数においても先に記載の他の試験結果と同等の傾向が見られた。
【0049】
【表6】
【0050】
【表7】
【0051】
次に、先に説明したレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施した場合に形成される溶接部において、溶接部の硬度低下について検討した結果を示す。
図12(H)に示すように被溶接部材61、62に対して本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法においてアーク先行型の溶接を実施した場合、用いた被溶接部材の鋼材成分分析結果と、用いた溶接ワイヤのワイヤ成分分析結果と、形成された溶接金属部63の硬度測定結果(図12(H)の符号64が硬度測定線を示す。)を以下の表8(A)、(B)、(C)に示す。
【0052】
【表8】
【0053】
本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法において、溶接トーチを1つ設けて行う1アーク先行型のレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施した場合の硬度と、溶接トーチを2つ設けて行うアーク先行型のレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施した場合の硬度の比較から、1アークの場合よりも2アークとした場合の方が明らかに硬度が低下している。
ここで被溶接部材の鋼材成分が軟鋼材であることから、溶接部の硬度があまりに上昇することは望ましくないので、2アーク型のレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施した方が硬度を不用に上昇させないという面では有利であると考えられる。
また、これらの結果から、前記交流マグ溶接法を実効電流100A以上、200A以下の交流パルスマグ溶接とし、消耗電極式アークトーチ間距離を50mm以上に設定することが好ましいと思われる。
【0054】
次にI型開先に対するL−A角度の検討を行った試験結果を表9に示す。開先形状、供試体の種別、板厚、レーザ出力、L−A距離、L−A角度、シールドガス組成、電流、電圧、速度、振動振幅、揺動周波数は以下の表9の通りとした。
【0055】
【表9】
【0056】
表9に示す結果から、アーク先行HBの場合とレーザ先行HBのいずれの場合においてもL−A角度は20〜50゜の範囲が好ましく、55゜では大粒スパッタが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施する場合のレーザ光と溶接トーチの配置状態の一例を示す説明図である。
【図2】図2は本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施して被溶接部材を溶接している状態を示す説明図である。
【図3】図3は被溶接部材と開先部の一形状例を示す側面図である。
【図4】図4は本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施する場合に適用して好適な装置の一例を示す構成図である。
【図5】図5はU型の開先部を形成する被溶接部材の一例を示す説明図である。
【図6】図6はI型の開先部を形成する被溶接部材の他の例を示す説明図である。
【図7】図7は溶接トーチを揺動させている状態を示す説明図である。
【図8】図8は本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施する場合に溶接トーチを2つ用いて溶接を行っている状態を示す説明図である。
【図9】図9は溶接トーチを2つ用いて溶接を行っている場合に発生する可能性の高い大粒スパッタを示す説明図である。
【図10】図10は本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法を実施する場合に溶接トーチを2つ用いて溶接を行う場合、印加するパルス波形として好ましい波形の一例を示すパルス波形図である。
【図11】図11は本発明に係るレーザとマグアークによる複合溶接方法の他の実施形態を示すもので、レーザ先行型の2アークタイプのレーザとマグアークによる複合溶接方法の一例を示す構成図である。
【図12】図12は試験例で得られた各種の被溶接部材の溶接部を示す模式図である。
【図13】図13は従来のレーザとマグアークによる複合溶接方法の一例を実施している状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0058】
1、2…被溶接部材、
3…開先部、
5a…集光レンズ、
6…レーザ光、
7…溶接トーチ、
7A…第2の溶接トーチ、
W…溶接ワイヤ、
30…溶滴、
31…溶融池、
33…溶接金属部、
A…レーザ溶接機器、
B…アーク溶接機器、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザと消耗電極式アーク溶接とを併用するレーザとマグアークによる複合溶接方法において、アークを先行させ、レーザを後行させ、レーザとアークを同一溶接線上に配置させながら溶接することを特徴とするレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【請求項2】
レーザ光の光軸に対して消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの送給角度を傾斜させて送給するとともに、前記レーザ光の光軸と前記溶接ワイヤの送給角度の関係を保ちながら前記アークを先行させ、前記レーザ光を後行させながらこれら両者をいずれも被溶接部材の同一溶接線方向に移動させつつ、前記アークを進行方向に交差する左右方向に揺動させて溶接することを特徴とする請求項1に記載のレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【請求項3】
レーザ光の光軸に対して消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの送給角度を傾斜させて送給するとともに、前記レーザ光の光軸と前記溶接ワイヤの送給角度の関係を保ちながら前記アークを先行させ前記レーザ光を後行させながらこれら両者をいずれも被溶接部材の同一溶接線方向に移動させて溶接する際、該アークを進行方向に交差する左右方向に揺動周波数10〜120Hzで揺動させるとともに、前記レーザ光の照射位置と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤ狙い位置の溶接方向距離LAを、0〜3mmの範囲に設定し、前記レーザ光と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの形成する角度を20〜50゜の範囲とすることを特徴とするレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【請求項4】
レーザ光の光軸に対して消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの送給角度を傾斜させて送給するとともに、前記レーザ光の光軸と前記溶接ワイヤの送給角度の関係を保ちながら前記レーザ光を先行させ前記アークを後行させながらこれら両者をいずれも被溶接部材の同一溶接線方向に移動させて溶接する際、該アークを進行方向左右に揺動周波数10〜120Hzで揺動させるとともに、前記レーザ光の照射位置と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤ狙い位置の溶接方向距離LAを、0〜3mmの範囲に設定し、前記レーザ光と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの形成する角度を20〜50゜の範囲とすることを特徴とするレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【請求項5】
前記消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤを揺動周波数10〜120Hzで溶接ワイヤ径の1/3以上、3倍以下の振幅で揺動することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【請求項6】
消耗電極式アーク溶接で用いるシールドガスをアルゴンガス20%以上、80%以下、残部が炭酸ガスのシールドガスとすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【請求項7】
消耗電極式アークを2つ以上用い、前記レーザ光により被溶接部材を溶融させた部分に第1の消耗電極式アークを位置させ、前記レーザ光と前記第1の消耗電極式アークにより溶融させた部分から離れて被溶接部材が凝固を開始した後の位置に第2以降の消耗電極式アークを配置して被溶接部材を再加熱することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【請求項8】
前記レーザ光に複合させて発生させる消耗電極式溶接のアークの極性を正極と負極とで交互に繰り返す交流マグ溶接とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【請求項9】
前記交流マグ溶接法を実効電流100A以上、200A以下の交流パルスマグ溶接とし、消耗電極式アークトーチ間距離を50mm以上に設定することを特徴とする請求項8に記載のレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【請求項1】
レーザと消耗電極式アーク溶接とを併用するレーザとマグアークによる複合溶接方法において、アークを先行させ、レーザを後行させ、レーザとアークを同一溶接線上に配置させながら溶接することを特徴とするレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【請求項2】
レーザ光の光軸に対して消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの送給角度を傾斜させて送給するとともに、前記レーザ光の光軸と前記溶接ワイヤの送給角度の関係を保ちながら前記アークを先行させ、前記レーザ光を後行させながらこれら両者をいずれも被溶接部材の同一溶接線方向に移動させつつ、前記アークを進行方向に交差する左右方向に揺動させて溶接することを特徴とする請求項1に記載のレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【請求項3】
レーザ光の光軸に対して消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの送給角度を傾斜させて送給するとともに、前記レーザ光の光軸と前記溶接ワイヤの送給角度の関係を保ちながら前記アークを先行させ前記レーザ光を後行させながらこれら両者をいずれも被溶接部材の同一溶接線方向に移動させて溶接する際、該アークを進行方向に交差する左右方向に揺動周波数10〜120Hzで揺動させるとともに、前記レーザ光の照射位置と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤ狙い位置の溶接方向距離LAを、0〜3mmの範囲に設定し、前記レーザ光と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの形成する角度を20〜50゜の範囲とすることを特徴とするレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【請求項4】
レーザ光の光軸に対して消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの送給角度を傾斜させて送給するとともに、前記レーザ光の光軸と前記溶接ワイヤの送給角度の関係を保ちながら前記レーザ光を先行させ前記アークを後行させながらこれら両者をいずれも被溶接部材の同一溶接線方向に移動させて溶接する際、該アークを進行方向左右に揺動周波数10〜120Hzで揺動させるとともに、前記レーザ光の照射位置と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤ狙い位置の溶接方向距離LAを、0〜3mmの範囲に設定し、前記レーザ光と消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤの形成する角度を20〜50゜の範囲とすることを特徴とするレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【請求項5】
前記消耗電極式アーク溶接の溶接ワイヤを揺動周波数10〜120Hzで溶接ワイヤ径の1/3以上、3倍以下の振幅で揺動することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【請求項6】
消耗電極式アーク溶接で用いるシールドガスをアルゴンガス20%以上、80%以下、残部が炭酸ガスのシールドガスとすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【請求項7】
消耗電極式アークを2つ以上用い、前記レーザ光により被溶接部材を溶融させた部分に第1の消耗電極式アークを位置させ、前記レーザ光と前記第1の消耗電極式アークにより溶融させた部分から離れて被溶接部材が凝固を開始した後の位置に第2以降の消耗電極式アークを配置して被溶接部材を再加熱することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【請求項8】
前記レーザ光に複合させて発生させる消耗電極式溶接のアークの極性を正極と負極とで交互に繰り返す交流マグ溶接とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【請求項9】
前記交流マグ溶接法を実効電流100A以上、200A以下の交流パルスマグ溶接とし、消耗電極式アークトーチ間距離を50mm以上に設定することを特徴とする請求項8に記載のレーザとマグアークによる複合溶接方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−224130(P2006−224130A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−39764(P2005−39764)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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