説明

レーザを用いた岩石の加工方法及びその装置

【課題】 加工能率が著しく高く、加工時間の短縮、加工エネルギーの節減を図ることができるレーザによる岩石の加工技術を提供する。
【解決手段】 液体10中に浸漬して岩石11の表面に液体10を介在させ、液体10中を通って、岩石11の表面に波長1.2μm以上の液体への吸収能の高いレーザ13を照射し、液体10中に誘起気泡を発生させ、レーザ13照射部のキーホール21内に発生するドロスを飛散させると共に、レーザ照射位置を照射面に沿って連続的に移動させ、レーザ非照射部22が熱応力により割裂破壊するようにレーザ13の照射条件及び移動速度を、岩石の加工部からの情報に基いて制御し、レーザ13を矢印14で示すように移動させ、周縁23、底部24で示すような大口径の孔を効率的に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザを用いた岩石の加工方法及びその装置に関し、さらに詳しくは加工能率を著しく向上させ、加工時間の短縮、加工エネルギーの節減を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
岩石にレーザを照射し岩石を溶融させると、岩石中のガラス成分が溶融ガラス(ドロス)となって滞留し、連続して照射されるレーザが溶融ガラスで反射・散乱してレーザ熱量が岩石加工面に直接照射されない。このため、従来ドロスを飛散させるアシストガス等が用いられていた(例えば特許文献1参照。)。
【0003】
本発明者らは、液体への吸収率の高い波長を有するレーザを液体中で断続照射することにより液体中に誘起気泡を発生させ、その誘起気泡中を透過させて岩石にレーザを照射して岩石を溶融し、誘起気泡の作用により溶融ドロスを飛散除去させて岩石を穿孔する技術を開発している(例えば特許文献2参照。)。
【0004】
この技術では、波長1.2μm以上で液体への吸収率の高いレーザを用い、ドロスを析出する岩石であっても、容易に穿孔加工することができる。
【0005】
また、岩石に照射するレーザのエネルギを岩石が溶融しない程度のレーザエネルギーレベルで照射し、熱応力により割裂破砕(spall)することにより岩石を掘削する技術がある(例えば特許文献3参照。)。
【0006】
このような岩石の熱応力及び割裂特性についても知られている(例えば非特許文献1,2,3,4参照。)。
【特許文献1】特開2001−170925号公報
【特許文献2】特願2007−16917号出願
【特許文献3】米国特許出願 2006−0237233. (Methods of using a laser to spall and drill holes in rocks)
【非特許文献1】木下直人:高温下岩石の特性と熱応力による破壊挙動に関する研究、平成10年5月
【非特許文献2】資源火焔ジェット工学 レティス刊、7p、1976
【非特許文献3】高温岩体の掘削破砕技術に関する研究、工業技術院公害資源研究所、昭和53年3月
【非特許文献4】Rock Failure Mechanisms of Flame−Jet Thermal Spallation Drilling−Theory and Experimental Testing, R.M.RAUENZAHN, J.W.TESTER, Int. J. Rock Mech. Ni. Sci. & Geomech. Abst. Vol.26. NO.5, pp.381−399, 1989
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、レーザによる岩石の加工技術において、加工能率が著しく高く、加工時間の短縮、加工エネルギーの節減を図ることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題解決を達成するためになされたもので、本発明者らが開発した上記特許文献2記載の発明を主体として用い、これを適切に移動し、さらに、岩石によっては、熱応力によって割裂させる作用も併用して岩石の加工を行うものである。すなわち、本発明の技術手段は、岩石表面に液体を介在させ、該液体中を通って波長1.2μm以上のレーザを照射面に沿って連続的に移動させながら照射することを特徴とするレーザを用いた岩石の加工方法である。
【0009】
岩石表面に液体を介在させる手段は、液中に岩石を浸漬することでもよく、レーザ照射経路を筒状体で被覆して液体を供給することでもよく、またレーザ照射区域に液体を連続的に吹き付けることでもよい。介在させた液体は誘起気泡を発生してドロスや破壊岩石小片を除去する作用をなすものであるから、それが可能な態様で介在させればよい。液体は種類を問わず、また透明でも不透明でもよい。本発明は海底や、地下水を含む地中で、好適に実施をすることができる。
【0010】
波長1.2μm以上のレーザは、介在させた液体中を通って液体中に衝撃的蒸発による誘起気泡を発生させると共に、この気泡中を通って岩石に照射され、照射部の岩石を溶融させる。溶融した岩石のドロスは上記誘起気泡の衝撃力により飛散除去される。従って、容易に岩石に穴を形成することができる。
【0011】
本発明は、このレーザを岩石照射面に沿って適切な移動速度で移動させることによって、高能率で所望の形状の掘削加工を行う。
【0012】
工業的に岩石の加工を行う場合、例えば地中の岩石層を穿孔する場合、岩石の種類によって、加工特性が異なる。この場合に、溶融させてドロスを排除しつつ加工する必要のあるもの、急速加熱冷却を与えて熱応力により割裂破壊させることができるもの、その中間性状や混合性状を有するもの等がある。これらのいずれに対しても最適条件で加工することが最も望ましいことである。
【0013】
これらの岩石の加工特性は、岩石の賦存状態その他現場の実情に応じて把握する必要がある。本発明では多様な賦存状態にある岩石に対するレーザの照射条件及び移動速度を、岩石の加工部からの情報に基いて制御することを特徴とする。従って、海底、地中その他如何なる条件にも対応して適用することができる。
【0014】
この場合、前記加工部からの情報は、照射レーザの集光強度、加工部の形状、加工部で発生する音響、スパッタ及び加工部の温度から成る群から選ばれた1又は複数の情報を採用すれば、効率のよい加工を達成することができる。
【0015】
なお、本発明では、岩石を溶融するキーホール熱源を、隣接する岩石部分に熱応力を発生させる熱伝導熱源として利用することができる。すなわち、上記波長1.2μm以上のレーザによって岩石にキーホールを生成させ、生成したキーホールの隣接部の岩石をキーホールの溶融熱により加熱して隣接部に熱応力を発生させ、レーザを照射しない隣接部分の岩石に熱応力による割裂破砕を生じさせて、効率的に岩石を加工する。
【0016】
上記本発明において、岩石の性状に応じて、波長1.2μm以上のレーザに、岩石の割裂を促進させる別のレーザ、例えば波長0.8μm以上のレーザを、併用または重畳させて割裂破壊を促進し、さらに加工能率の向上を図ることとしてもよい。
【0017】
また、上記本発明において、岩石の種類や特性に応じて、前記熱応力により割裂させる部分の大きさを定めることができ、その周囲を囲繞する移動経路に沿ってレーザを移動させることによって、囲繞された部分の岩石を容易に割裂除去することができる。このようにして、円形、楕円形、多角形等の大径の孔形を能率よく加工することができる。
【0018】
さらに複数本のレーザを並列に移動し、複数本の並列レーザ相互間の岩石部分を割裂させることとしてもよい。このことにより、全体形状を任意の形状に形成する加工を容易に達成することができる。
【0019】
上記本発明を好適に実施することができる本発明の装置は、レーザ照射位置に液体を介在させる手段と、波長1.2μm以上のレーザを照射する可動装置と、該レーザの配列、照射条件、及び移動条件を加工部からの情報に基づいて制御する制御装置とを備えたことを特徴とするレーザを用いた岩石の加工装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、波長1.2μm以上の液体への吸収率の高いレーザを用いるので、介在させている液体からレーザ誘起気泡を発生し、この気泡中を通ってレーザが岩石を照射して溶融させ、発生したドロスは誘起気泡の衝撃力によって排除される。この場合、レーザ光は不透明液体、透明液体を問わずこれを透過し、岩石を溶融させることが可能である。従って、レーザ透過を目的として透明ガラスとか、透明流体流や透明ガス流を生成するためのシステムなどを水中に設ける必要がない。
【0021】
また、従来、地層を掘削する場合、掘削された孔内に生ずるドロスを排除するためにパージシステムとして高圧噴射装置が必要であったが、本発明では、この目的のための噴射装置が不要となるため、全体装置の構成が簡易となる。
【0022】
本発明によれば、レーザ光の入熱形態であるキーホール型熱源を移動させて閉ループの移動経路を形成することにより、レーザ光を照射しない隣接する閉ループ内の岩石の伝導熱源としてキーホール型熱源を利用することができ、隣接する部分の岩石を割裂破壊させることができる。そして、レーザ熱源の移動速度を適切に調整することにより、熱伝導による隣接部の岩石の割裂を効果的に促進することができる。
【0023】
本発明によれば、熱伝導による割裂で生成された岩石破砕小片が穿孔内に堆積する場合においても、レーザ誘起気泡の衝撃圧により破砕岩石小片を除去することができる。従って、熱応力により割裂させる部分の岩石破砕片の除去システムも不要である。
【0024】
本発明によれば、掘削対象岩石の性状を事前に調査する必要がなく、レーザ加工部から得た情報に基いて適切な調整により効率よく岩石の加工を行うことができる。従って、液中又は遠隔地に存する岩石の掘削に利用することが可能となる。従って、石油・天然ガス井の開発、鉱物資源開発において、有効な岩石掘削方法となるばかりでなく、トンネル掘削などの、建設・土木産業、更に岩石加工産業において利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
岩石は、温度変化による膨張、収縮が拘束されると次式で示すような熱応力を生ずる。
【0026】
【数1】

【0027】
ただし、
σ:熱応力
α:線膨張係数、
E:弾性係数
−T:温度差
である。すなわち、定常状態における熱応力は、線膨張係数、弾性係数および温度差に比例する。
【0028】
岩石の高温下における熱膨張・収縮特性は次のとおりである。
【0029】
硬岩(火成岩)の熱膨張・収縮挙動は、次の4つの要因によって支配されている。
(1)構成鉱物の熱膨張特性。
(2)温度上昇に伴う、鉱物粒子間の熱膨張率の不一致による微小クラックの発生。
(3)加熱によって生ずる構成物質の相転移による微小クラックの発生。
【0030】
例えば、花崗岩は、圧縮、圧裂引張、弾性係数ともに、500℃〜600℃の間で急激に減少する。花崗岩には石英が多く含まれ、石英は転移点573℃をすぎると、β石英よりα石英へと転移し、この時体膨張を示す。従って573℃以後鉱物組織が緩み亀裂が発生し、強度は急激に減少する。安山岩、砂岩、凝灰岩では花崗岩と違って、圧縮強度は、昇温に伴いかえって増加する。それは加熱による粘土の焼成と類似の現象が生ずるからである。
(4)押し固め作用による岩石の収縮。
【0031】
一方、軟石(堆積岩)の熱膨張・収縮挙動に対しては、上記4つの要因のうち、(2)の鉱物粒子の熱膨張率の不一致による微小クラックの発生現象の影響は無視することができ、残りの3つの要因(1),(3),(4)に加えて、軟岩固有の要因として、
(5)吸着水との脱水による岩石の収縮作用。
がある。
【0032】
次に、岩石の加熱による弾性係数の変化について説明する。弾性係数も線膨張係数と同様、熱衝撃を与えた場合に発生する熱応力に大きな影響を及ぼす。
【0033】
歪は次式に示すように、弾性係数が低下すると、作用する荷重が同一の場合、歪が大きくなる。
【0034】
【数2】

【0035】
ここで、
ε:歪、
E:弾性係数、
P:荷重、
A:断面積
である。
【0036】
例えば、花崗岩の弾性係数は、400℃までは温度上昇と共に急激に低下する。安山岩は、甲州産では、加熱温度の増加に伴い急激に弾性係数が減少し、新小松産では300℃程度までは減少するが以後ほぼ一定値を示す。一方、陶石や凝灰岩では加熱による影響が認められない。
【0037】
岩石の線膨張係数の差異は、熱衝撃を加えた場合の発生熱応力に大きな影響を与える。
【0038】
岩石の線膨張係数は、加熱温度によって変化をする。例えば、花崗岩の線膨張係数は、573℃のところで最大値を有している。これは、β‐石英からα‐石英への転移が生ずるからである。陶石、砂岩、凝灰岩等の線膨張係数は、約550度付近で同じく最大値を有している。安山岩の線膨張係数は250℃付近で最大値を有している。
【0039】
岩石の強度は温度により大きく変化する。例えば、圧縮強度は花崗岩では600℃で冷間強度の67%程度に、砂岩では800℃で35%程度に減少する。岩石の割裂破壊では
加熱と冷却を併用することによって岩石破壊効果が良くなる。
【0040】
岩石は熱物性値を温度により変化させることにより割裂させることができれば、溶融させる場合に比し、岩石加工に要する所要エネルギが少なくて済み、効率的に穿孔を行う事が可能となる。例えば、ぜい性材料としての岩石は熱衝撃により発生する熱ひずみにより容易に破壊応力に到達し得る。
【0041】
岩石の熱破壊は、岩石を熱応力により穿孔する場合に熱穿孔性を表示する指標(熱穿孔係数)Sp (Spallability)は式(3)によって示されている。
【0042】
【数3】

【0043】
ここで
:熱穿孔係数
E :弾性係数
σ :引張強度
β :線膨張係数
λ :熱伝導率
である。
【0044】
非特許文献4では、表1に示すように、岩石別に熱穿孔性(スポーリング度)の評価を行っている。
【0045】
岩石のスポーリングを生ずる温度差ΔTは
【0046】
【数4】

【0047】
ここで
ΔT:スポーリングを生ずる温度差(K)
ν:ポアソン比(−)
σc:圧縮強度(MPa)
β:線膨張係数(10-5×K−1
Ε:ヤング率(GPa)
である。
【0048】
表1によれば、スポーリング度(熱穿孔性)は、例えば花崗岩は良〜適(石英含有量により変る)、砂岩は良〜低、石灰岩は低と評価されている。
【0049】
【表1】

【0050】
本発明は、岩石表面に液体を介在させ、該液体中を通って波長1.2μm以上のレーザを照射面に沿って連続的に移動させながら照射することを特徴とするレーザを用いた岩石の加工方法である。
【0051】
岩石表面に液体を介在させて、波長1.2μm以上の液体吸収能の高いレーザを照射すると、キーホール型熱源による岩石溶融による穿孔が生成する。
【0052】
以下図面を参照して本発明のメカニズムについて説明する。
【0053】
図1は本発明の一例を説明する模式的斜視図で一部切断して示したものである。液体10内に浸漬されている岩石11にレーザ装置12からレーザ光13を照射する。レーザ光13は液体10への吸収率の高い、波長1.2μm以上のレーザとする。液体中に誘起気泡が生じ、この誘起気泡中を通ってレーザ光は岩石11に照射される。照射された岩石は溶融してキーホール21を形成し、ドロスは液体10から発生した誘起気泡31(図2)の作用により排除される。
【0054】
レーザ13を矢印14で示すように、岩石11の面に沿って旋回移動させる。キーホール21はこの旋回移動に伴って移動し、キーホール21aで示す方向に掘削加工孔が連続的に移動する。このとき、旋回移動経路の内部にある割裂破壊部(レーザ非照射部)22は、キーホール21,21aからの熱伝導により熱応力が発生し、例えばレーザ13の断続照射による急加熱急冷作用により割裂して小片の岩石片を生じ、生成した岩石片は誘起気泡の作用により除去される。
【0055】
このようにして、レーザ13を適切な条件で旋回移動させると、岩石11はレーザ非照射部22も含めて加工され、周縁23、孔底24で示されるような大口径の孔を能率よく低エネルギーで穿削加工することができる。レーザ強度、移動速度、割裂破壊部の大きさ等は、岩石の性状に依存する。従って、加工部の加工情報に基く自動制御によって、最適な条件で加工を行うことができる。
【0056】
図2は、キーホール型熱源により岩石を溶融させて穿孔する場合のメカニズムを示す。水中の岩石11に向けて液体10に吸収されやすいレーザ13を断続照射すると誘起気泡31を生成する。誘起気泡31の内部を透過したレーザ13は、岩石11に照射される。レーザ13より熱量を加えられた岩石11には、溶融部32と熱応力発生部33が生じる(図2(a))。
【0057】
次に岩石溶融部32に誘起気泡31が進入しキーホール21が生成される。キーホール21の内部には、レーザ13,13aが透過して岩石溶融部33に熱量を与え、岩石溶融部32を高温に保ち、その粘性を低下させ排除しやすくする。レーザ熱量が岩石11に伝導するに従い岩石の熱応力発生部33は拡張する(図2(b))。ここで誘起気泡31が崩壊すると岩石溶融部32は、ガラスビーズ35となって飛散し、岩石熱応力発生部33は、岩石破砕片36となって飛散する。その結果、岩石11に穿孔34が生成される(図2(c))。
【0058】
次に、図3を参照して、熱伝導型熱源による熱応力による岩石の割裂破壊メカニズムについて説明する。レーザ13が、水中岩石11に照射される。レーザ13による熱量により岩石11は、溶融部37と熱応力発生部38が生成される(図3(a))。
【0059】
誘起気泡31は、溶融部37内に進入しレーザ13は、岩石11に熱量を付与し、熱応力発生範囲が拡張され熱応力発生部38となる(図3(b))。
【0060】
レーザ誘起気泡31が崩壊すると溶融部37は、ガラスビーズ39となって飛散し、熱応力発生部38は、岩石破砕片40となって飛散する(図3(c))。
【0061】
乾燥花崗岩では、融点は約1050℃である。一方、花崗岩の線膨張係数は573℃で最大値を有し、弾性係数は400℃で急激に低下している。レーザ照射により花崗岩が溶融する前に、線膨張係数の変化、弾性係数の変化により発生する熱応力により割裂が可能になれば、岩石穿孔に要するレーザ所要エネルギが岩石の溶融温度と、線膨張係数や弾性係数等の熱物性値を変化させる温度との差に相当するレーザ照射エネルギを節約することが可能となる。
【0062】
図2で説明したキーホール型熱源による穿孔では、岩石を溶融させるエネルギーは岩石を熱応力により割裂させるエネルギーより大きい。図3で説明した熱伝導型熱源による穿孔は、図2で説明したキーホール型熱源による穿孔と異なり、レーザが直接照射されない部分(非照射部)も破壊され、熱応力により破砕されるエネルギーが溶融部分より小さくてすむ。
【0063】
岩石を溶融あるいは気化するに要するエネルギーは、固体の溶融温度までの顕熱、溶融潜熱、液体の気化温度までの顕熱、気化潜熱の合計である。熱応力による割裂による加工の方が潜熱も不要となり、所要エネルギーが小さくなるので、岩石の特性に応じて、この割裂破壊を利用して加工することが好ましい。
【0064】
以下、本発明を完成するに至った基礎実験及び実施例について説明する。これらは試験研究によって得られたものである。以下にその実験方法、実験結果について説明する。
【0065】
[基礎実験]
稲田花崗岩(石英含有量30〜40%)を溶融穿孔する実験を行った。
【0066】
岩石試料は100mm(縦)×100mm(横)×50mm(厚さ)の稲田花崗岩を、岩石試料表面が液面から深さ50mmの位置になるように設置し、岩石試料表面上でキーホール直径10mmφになるようにレーザ照射ノズル位置を調整した。
【0067】
波長10.6μm、平均出力5kWのCOレーザを用い、繰り返し周波数10Hz、負荷比(レーザオン時間とオフ時間の比率)50%で照射した。
【0068】
実際の水中でのキーホール径を把握するために、アクリル板を液面から深さ50mmになるように液中に設置してバーンパターンを取って調べた。生成された穿孔は直径7mmφであった。
【0069】
レーザ照射開始から210ms間レーザを照射した後、レーザ照射ノズルを垂直降下速度0.5mm/sで降下させながら30秒間レーザを照射した。
【0070】
次に、レーザ照射ノズルを断続的に水平移動させ、レーザ照射位置を変更した。レーザ照射位置は、図4に示すレーザ照射パターン41に基づき、各穿孔を生成した後に照射位置を次々と移動させた。
【0071】
レーザ照射ノズルを岩石試料表面に対して垂直に降下させると、レーザ照射熱がレーザの光軸上に照射されるため、キーホール径の範囲に照射される。このため、岩石溶融が支配的となり穿孔が進行する。
【0072】
照射位置を断続的に移動するレーザ照射パターン41で照射すると、図4(a)に示すように、岩石の溶融により穿孔が生成された部分と、非溶融で穿孔が生成されない非加工部分が生じた。それぞれの穿孔は連結しておらず、独立に形成されたため、岩石試料表面は蜂の巣状の形状となった。
【0073】
図4(a)に示すレーザ照射パターン41によって生じた非加工部分を、図4(b)に示すレーザ照射パターン42によってレーザ照射を行った。このレーザ照射パターン42で岩石を照射することにより、図4(c)に示すように、レーザ照射パターン43に示す非加工部分のない穿孔を得た。生成した穿孔は、概ね、直径2インチφ×深さ15mmであった。この操作によって生成した穿孔を1層目の穿孔とした。
【0074】
次に2層目の穿孔方法について説明する。レーザ照射条件は1層目と同一とした。まず、レーザ照射パターン41で照射して蜂の巣状の岩石表面を生成した。次にレーザ照射パターン42により非加工部分を照射した。この操作によって生成した穿孔を2層目の穿孔とした。1層目、2層目の生成により、概ね、直径2インチφ×深さ30mmの穿孔を生成した。
【0075】
以上の実験結果に基づき、稲田花崗岩を溶融穿孔した場合の所要エネルギーを算定した。加工体積は60.3(cc)、加工重量は146(g)で、総所要エネルギーは、25200(kJ)であった。加工効率を算定すると、稲田花崗岩加工重量1g当たりの所要エネルギーは173(kJ/g)、1cc当たりの所要エネルギーは418(kJ/cc)であった。
【実施例1】
【0076】
図5は、加工する岩石の平面図で、レーザ照射パターンの一実施例を示す図である。図5ではレーザ照射部に生じたキーホール21を円形経路53に沿って矢印14に示す方向に移動速度51で連続移動させた。
【0077】
図5では、レーザ非照射部22の周囲を連続的に旋回移動させることにより、岩石に孔23を穿孔加工した。まず、予備実験でレーザ照射ノズルの旋回移動によるレーザ非照射部22の岩石割裂効果を確認した。実施例1(図5)では最適なノズル移動速度51と旋回半径52を求めた。
【0078】
レーザ照射ノズル旋回半径52を一定とし、移動速度51をパラメータとして厚さ50mmの稲田花崗岩の、No.1〜No.9の試料にそれぞれレーザ照射した。レーザ照射ノズルの移動速度51を、1mm/sから9mm/sまで1mm/sごとに増加させて、移動速度の岩石加工量への影響を調べた。図5に示すレーザ照射ノズル回転パターンでは、キーホール21の半径54をr=2.5mmとし、ノズルの回転半径52を各照射時間は62.8秒とした。照射時間を等しくすることにより、移動速度と岩石加工量との関係を把握した。
【実施例2】
【0079】
実施例2として、キーホール21の半径54をr=2.5mmとし、旋回半径R=2.5mmの条件で、図6に示す照射パターンで実験を行った。実施例2は熱応力による割裂現象が殆ど生じない岩石、例えば、石灰岩の加工に対応するものである。
【0080】
岩石試料表面上のキーホールの直径の設定は大気中での計算上の設定値として直径10mmφとした。この値は液面下50mmでの実際のキーホール径のバーンパターンをアクリル板を使用して計測すると直径7mmφであった。岩石を溶融により穿孔する場合の実験と同一の水中岩石試料表面でのキーホール径とするため、レーザ照射パターンのキーホール径は、水中での直径7mmφとした。
【0081】
レーザ照射ノズル回転半径R=2.5mmの実施例2では、レーザ照射ノズル旋回半径とキーホール半径の差により、レーザ照射ノズルの回転移動中にレーザが照射されない部分(レーザ非照射部)はない。
【0082】
以上により、レーザノズル旋回半径R=5mm(非照射部分有り)(実施例1)及びレーザ照射ノズル旋回半径R=2.5mm(非照射部分なし)(実施例2)について、移動速度を変化させた場合の岩石加工量の変化を把握することができた。
【0083】
表2に、実施例1及び実施例2の加工結果を示す。表2中の深さは最大深さを示す。体積は、穿孔内に水を満し前後の重量差を求め体積に換算した。
【0084】
【表2】

【0085】
本実験結果を用いて稲田花崗岩の場合、レーザ照射ノズル旋回半径R=5mmとR=2.5mmのときの加工量を比較すると、レーザ照射ノズル旋回半径R=5.0mmの方の加工量が多い。そして、レーザ照射ノズル旋回半径R=5.0mmの場合、岩石加工量の変化率が極大となるのは移動速度7.0mm/sの時である。
【実施例3】
【0086】
稲田花崗岩の場合、実施例1の結果より、レーザ照射ノズル旋回半径R=5.0mm、移動速度7mm/sでの加工条件が最適であると判定した。この条件でレーザ照射時間毎の稲田花崗岩加工量の変化率を把握する。
【0087】
図7に示すレーザ照射パターンで行ったNo.10〜18の実験結果を表3に示した。No.10は、レーザ照射時間が9秒、No.11が18秒、No.12が27秒、以下No.13からNo.18までレーザ照射時間を9秒ずつ加算した。No.18では、レーザ照射時間が81秒となる。No.10からNo.18の試料では設定されたレーザ照射時間ノズルを旋回させて穿孔を行った。
【0088】
表3及び図8に結果を示した。図8は横軸に各レーザ照射ポイントの照射時間を取り、各レーザ照射パターンの照射時間と加工深さをグラフで表した。岩石試料に生成された穴の深さ、加工形状を観察したところ、No.17とNo.18で生成された穿孔ではレーザ非照射部分が未加工になっていた。すなわち、試料No.15のレーザ照射時間が54秒経過後、穿孔効率は上昇していない。
【0089】
【表3】

【0090】
稲田花崗岩に直径2インチφの孔を形成する場合は、上記の結果よりレーザ照射ノズル旋回半径R=5.0mm、移動速度7.0mm/sで移動させ、レーザ照射時間を54秒間照射するのが最良であった。
【実施例4】
【0091】
稲田花崗岩に直径2インチφの穴を生成する場合の単一孔の照射パターンを図9(a)に、これを組合わせた合成孔の照射パターンを図9(b)に示した。図9(a)に示すように、半径rのキーホール21を、旋回半径Rでレーザ非照射部22の周囲を旋回経路53に沿って矢印14方向に一周させ、周辺23で示す孔を加工した。この図9(a)に示す孔を、図9(b)に示すように、100mm×100mm×厚さ50mmの花崗岩に、No.1〜No.9に示す順番で、直径30mmφの円形経路に沿って加工し、1層当たり9個の照射区画で加工し直径約47mmφの合成孔を加工した。
【0092】
具体的には、図9(a)に示すパターンで図9(b)に示すNo.1の位置に、キーホール直径10mmφ(実測直径7mmφ)、回転半径R=5mmでレーザ照射ノズルを旋回移動させ54秒間照射した。
【0093】
同様に図9(b)に示すNo.2の照射区画にレーザ照射ノズルを移動し、レーザ照射ノズル旋回半径R=5mmで旋回移動させた。このようにして順次、図9(b)に示すNo.2〜No.9の照射区画で図9(a)に示すレーザ照射ノズル旋回パターンでそれぞれ54秒間照射した。
【0094】
これを6層繰り返した。このとき、1層あたり9箇所の図9(a)に示すレーザ非照射部分22が生成された。6層では54箇所のレーザ非照射部分が生成された。
【0095】
実験後の岩石試料は、レーザ非照射部分22に位置する部分の岩石も消滅しており、直径約47mmφの完全な穴を生成することができた。レーザ照射ノズルを旋回移動してレーザを照射すると、レーザが直接照射されない部分(レーザ非照射部分22)も割裂により穿孔が可能であることを示す結果を得た。
【0096】
レーザ照射ノズルを旋回移動させ、割裂作用も並用して加工したこの穿孔は、最大径が直径46mmφ、最大深さが36mm、加工体積が45.65cmであった。総所要エネルギはレーザ照射時間と1パルス当たりの熱量250Jを用いて算定すると7290(kJ)であった。これを稲田花崗岩加工体積1cc当たりの熱量に換算すると159.69kJ/ccであった。
【0097】
ここで、稲田花崗岩を溶融により穿孔する場合と、ノズルを旋回させ割裂破壊を伴って穿孔する場合とについて所要エネルギを比較する。前者は加工体積60.3ccで所要エネルギ25200(kJ)、1cc当たりの熱量で418(kJ/cc)であった。一方、後者は加工体積45.65ccに対して、所要エネルギ7290(kJ)、 1cc当たりの熱量159.69(kJ/cc)である。1cc当たりの加工効率を比較すると、後者は前者の38.2%となる。
【0098】
ノズルを旋回移動させて、レーザ非照射部分を割裂により穿孔する場合、岩石加工面全面にレーザを照射させて溶融させて穿孔する場合に比べて、レーザ照射エネルギを効率的に利用することができる。
【実施例5】
【0099】
次に、レーザビームを移動させて岩石を加工する本発明の実施例について図10〜13を参照して説明する。
【0100】
図10は、割裂させる岩石部分(レーザ非照射部)22を囲繞する円形の移動経路53に沿ってレーザを旋回移動させて岩石を穿孔する。レーザビームを岩石上でキーホール50を形成するように照射する。キーホール50は、平面形が半径rを持つ円形状をなしている。キーホール50をレーザ照射ノズル旋回半径(R)52で、キーホール移動方向14の方向にキーホールが旋回軌跡を描くように旋回移動させる。キーホール50は、旋回移動とともに、連続的にその位置を移動し、移動経路53上を移動速度Vで移動する。この時、キーホール半径(r)とキーホール回転半径(R)52が、R>rの場合レーザ非照射部分22が生成される。
【0101】
岩石が花崗岩や砂岩のように線膨張係数の異なる岩石成分で構成されている岩石では、キーホールの岩石表面上の移動速度Vを調整することにより、レーザが旋回移動する部分60の内側にあるレーザ非照射部22及び外側にあるレーザ非照射部61を割裂破壊部分60の内側にあるレーザ非照射部22及び外側にあるレーザ非照射部61を割裂破壊することができる。この場合には、熱応力による岩石破壊が支配的となるため、レーザ非照射部22及び61は熱応力により破壊し、岩石穿孔径(D)を有する穿孔を生成することができる。
【0102】
岩石が溶融により穿孔可能な岩石(例えば花崗岩や砂岩)であれば、キーホール50の移動速度を調整してレーザをキーホール型加工熱源として穿孔する。図11は図10に示すレーザ非照射部を熱応力により割裂破壊させる作用を併用した岩石の穿孔方法を用いて直径が約3倍(3・D)の大口径の穿孔を行った例を示す平面図である。
【0103】
岩石が石灰岩の場合、石灰岩の熱分解発生温度(800度)以上に加熱しない場合は、図10におけるレーザ非照射部22、61を割裂破壊させることができない。また、凝灰岩等は割裂作用が低い。図12はこのような場合の加工パターンを示す説明図である。図12に示すように、キーホール50の半径(r)54と、旋回半径(R)52を、R≦rになるように設定することにより、レーザ非照射部が無い状態にして岩石穿孔径(D)の穿孔を行うことができる。
【0104】
熱応力による割裂破壊ができない岩石のレーザ熱源旋回による溶融熱分解により直径Dの孔を穿孔する図12に示す穿孔方法によって、図13に示すように、直径が約3倍(3・D)の大口径の穿孔を行った。
【実施例6】
【0105】
図14は移動経路が矩形状をなす角孔状の孔を加工する実施例の加工方法を示す平面図である。中心部にレーザ非照射部22を設け、その周囲に半径rをもつキーホール50を移動経路53に沿って矢印14方向に連続移動し、周縁23をもつ大口径の孔を加工したものである。
【実施例7】
【0106】
図15は複数のレーザを用いて、複数のキーホール50を移動方向矢印14で示すように並列に移動し、これらの複数のレーザ相互間のレーザ非照射部22を割裂破壊させて岩石に周縁23をもつ大口径の矩形状の削孔を行った例を示したものである。
【0107】
形成すべき形状は、任意の形状を選択することができ、レーザの移動経路も自由に変更することが可能である。例えば、複数のレーザスポットを任意の移動パターン経路に沿って移動させることにより、楕円形、ひょうたん形、台形、多角形その他任意の形状の穴を形成することが出来る。
【0108】
以上のような加工内容は、岩石の種類、レーザ強度、その他の条件に応じて変更することができ、その変更、調節、制御は加工部の加工形状その他の情報を検知して、設計に応じて実施することができる。
【0109】
次に、本発明方法を好適に実施することができる本発明の装置について説明する。本発明装置は
(イ)レーザ照射位置に液体を介在させる手段
(ロ)波長1.2μm以上のレーザを照射する装置
(ハ)該レーザの配列、照射条件、及び移動条件を加工部からの情報に基づいて制御する制御装置
を備えている。
【0110】
岩石の性状が既知の岩石を本発明により加工する場合には、岩石の特性に応じた加工を設計により定めることができる。しかし海底、地中等の岩石の加工に本発明方法を適用する場合には、実際の岩石の穿孔状態をモニタリングし、その情報に基づいて制御することが必要となる。レーザ照射による岩石掘削状況を検知可能な情報としては、例えば、赤外線放射強度、プラズマ光、岩石掘削時の音響等がある。レーザにより岩石溶融時に発生する赤外線放射、プラズマからの熱放射は容易に検知することが可能である。例えば、キーホールが閉じる間に、プラズマシグナルが減衰し、暫らく後に温度上昇と共に岩石のスパッタが再び発生する。これを検知することによりレーザ照射エネルギの岩石への作用の状況、岩石の飛散の状況を知ることができる。
【0111】
レーザ照射による岩石掘削中の発生音は、水中にハイドロフォンを設置することにより音圧を計測することができる。レーザ照射による岩石掘削中の音圧の変化を知ることによりレーザ照射による掘削状況を知ることができる。
【0112】
岩石掘削部の形状計測には、音響カメラによって形状を把握する手法がある。音響カメラを使用することにより不透明液体中でも岩石掘削部の形状(長さ及び幅)を描き出すことが可能である。音響カメラは、不透明液体中でも超音波を使用し、音響ビームを形成して岩石掘削部を映像化することができる。
【0113】
上記のような岩石掘削モニタリング手段を採用することにより、岩石掘削状況の把握、岩石掘削部の形状把握を行い、これらのモニタリングした情報に基いてレーザの配列、照射強度、レーザの移動速度を最適な加工条件となるように制御することによって所望の岩石加工、掘削が可能となる。
【0114】
モニタリングによって得た情報に基いてキーホール形成条件を選択し、割裂破壊を併用することにより穿孔する態様が効果的であれば、割裂による条件を加えるように制御する。このように、本発明による岩石加工方法は、モニタリング手段を用いることにより岩石性状の実状に応じ、効率的に岩石を加工することができ、遠隔自動制御が可能となる。
【0115】
次に、レーザビームを移動させて穿孔する水中岩石穿孔装置を図16を参照して説明する。レーザ発振器71、レーザ伝送機構73、レーザ集光径調整機構74、レーザビーム操作機構75、モニタリング機構76はレーザ保護機構72内に収納されている。レーザ発振器71に、電力伝送・制御部70より電力を供給する。レーザ発振器71から発振されたレーザは、レーザ伝送機構73によりレーザ集光系調整機構74に伝送される。
【0116】
モニタリング機構76により岩石穿孔状態をモニタし、岩石表面でのキーホール径は、レーザ集光系調整機構74により調整する。レーザ保護装置72から出射したレーザは、レーザ誘起気泡77を生成する。生成された誘起気泡77内を透過するレーザビーム78をレーザビーム操作機構75によりレーザビーム移動79させることにより、レーザビーム78も移動しレーザ誘起気泡77もこれに伴い移動する。このようにして穿孔90を生成することができる。
【0117】
モニタリング機構76により岩石穿孔状態を把握して、電力伝送・制御部70から制御信号をレーザ発振器71、レーザ集光径調整機構74、レーザビーム操作機構75、にそれぞれ送り穿孔状況を制御する。
【0118】
本発明の別の装置として、マルチレーザビームを移動させて穿孔する水中岩石穿孔装置を図17を参照して説明する。レーザ発振器71、レーザ伝送機構73、マルチビーム生成機構81、マルチビーム集光径調整機構82、マルチビーム操作機構83、モニタリング機構84は保護装置72内に収納されている。
【0119】
レーザ発振器71に、電力伝送・制御部70より電力を供給する。レーザ発振器71から発振されたレーザは、レーザ伝送機構73によりマルチビーム生成機構81に伝送される。続いて、マルチビーム生成機構81からマルチビーム集光径調整機構82に伝送される。岩石表面でのキーホール径は、マルチビーム集光径調整機構82により調整する。
【0120】
保護装置72から出射したレーザは、レーザ誘起気泡77を生成する。生成されたレーザ誘起気泡77内を透過するレーザビーム78をマルチビーム操作機構84によりレーザビーム移動79させることにより水中岩石11に穿孔90を生成することができる。
【0121】
モニタリング機構84により岩石穿孔状態を把握して、電力伝送・制御部70から制御信号をレーザ発振器71、マルチビーム集光調整機構82、マルチビーム操作機構83にそれぞれ送り穿孔状況を制御する。
【0122】
次に、波長の異なる複数のレーザを併用または、重畳させて水中岩石を穿孔する装置について説明する。図16において、レーザ発振器71を波長の異なるレーザを発振する複数のレーザ発振器で構成し、波長の異なるビームを重畳して合成されたビームを生成することにより実施することができる。そして、それぞれのレーザビームの作用により、各レーザの特性と岩石の種類とのマッチングにより効率のよい大口径の穿孔が可能となる。
【0123】
次に、図18〜21を参照してプラズマ反射光と穿孔深さ計測用レーザ手段を用いる集光パワー制御システムについて説明する。
【0124】
図18に示すように、集光パワー制御システムは、例えば水圧によりミラー曲率を変更可能なアダプティブミラー102、穿孔深さ計測用レーザ手段、該穿孔深さ計測用レーザとその反射光、およびプラズマからの反射光を透過させる穴を持つ集光ミラー103、深さ計測用レーザとプラズマ反射光を分離するビームスプリッター107、プラズマ反射光センサ109、制御手段111、およびトランスデューサ117で構成されている。
【0125】
この集光パワー制御システムの制御方法について説明する。
【0126】
内部が空洞のリングモードレーザである岩石加工用レーザ101はアダプティブミラー102で反射し、集光ミラー103で集光されて水中に照射され、レーザ誘起気泡104を生成する。レーザ誘起気泡104内を透過した岩石加工用レーザ101は、水中岩石の岩石穿孔底部114で集光され、プラズマ105を生成する。
【0127】
プラズマ105からのプラズマ反射光106は、レーザ誘起気泡104内を透過して集光ミラー103の穴を通過し、ビームスプリッター107へ到達する。ピームスプリッター107では、プラズマ反射光106が反射し、プラズマ反射光センサ109に到逮する。プラズマ反射光センサ109からプラズマ信号110が制御手段111に送られる。
【0128】
一方、レーザ誘起気泡104が生成されている問に、穿孔深さ計測用レーザ手段112から出射された深さ計測用レーザ113は、ビームスプリッター107を透過し集光ミラー103の穴を通過しレーザ誘起気泡104内を透過する。深さ計測用レーザ113は、穿孔底で反射し深さ計測用レーザ反射光115となって集光ミラー103の穴を通過し、ビームスプリッター107を透過して穿孔深さ計測用レーザ手段112に到逮する。穿孔深さ計測用レーザ手段112は、穿孔深さに関する信号116を制御手段111に送る。
【0129】
制御手段111は、プラズマ信号110と穿孔深さに関する信号116に差づき、制御信号112をトランスデューサ117に送る。トランスデューサ117によりバルブ118の開閉が調節され水圧119がアダプティブミラー102に送られ、アダプティブミラー102を変形させる。この変形により集光ミラー103で集光距離を調整する。
【0130】
次に、アダプティブミラー102の変形と焦点距離の調整を図19を用いて詳述する。
【0131】
アダプティブミラー102は曲率Rを有している。この時の岩石加工用レーザ101は、集光ミラー103により焦点距離f1で焦点を形成している。
【0132】
図20に示すように、この時、水圧119によりアダプティブミラー102の曲率がRに変形する。岩石加工用レーザ101は、アダプティブミラー102で反射し集光ミラー103により焦点距離f2を形成する。
【0133】
上記のように、アダプティブミラー102、プラズマ反射光106、穿孔深さ計測用レーザ113を用いることにより、岩石穿孔状態をモニタリングしながら、岩石面上のレーザ強度を調整することができる。アダプティブミラー102の変形は水圧により行うものに代えて、電気的に行うことができるPZTアクチュエータを使用したアダプティブミラー102を使用してもよい。
【0134】
次に、図21を参照して、プラズマ反射光と穿孔深さ計測用超音波を用いる集光パワー制御システムについて説明する。
【0135】
図21に示す集光パワー制御システムは、例えば、水圧によりミラー曲率を変更可能なアダプティプミラー102、穿孔深さ計測用超音波121、プラズマからの反射光を透過させる穴を持つ集光ミラー103、プラズマ反射光センサ109、制御手段111、およびトランスデューサ117で構成される。
【0136】
制御方法は次のとおりである。内部が空洞のリングモードレーザである岩石加工用レーザ101はアダプティブミラー102で反射し、集光ミラー103で集光されて水中に照射され、レーザ誘起気泡104を生成する。
【0137】
レーザ誘起気泡104内を透過した岩石加工用レーザ101は、水中岩石上で集光されプラズマ105を生成する。プラズマ105からのプラズマ反射光106は、レーザ誘起気泡104内を透過して集光ミラー103の穴を通過しプラズマ反射光センサ109に到達する。プラズマ反射光センサ109からプラズマ信号110が制御手段111に送られる。
【0138】
一方、穿孔深さ計測用超音波発振器120は、岩石穿孔底部114に向けて、超音波121を発し、穿孔深さに関する信号122を制御手段111に送る。制御手段111は、プラズマ信号110と穿孔深さに関する信号122に基づき、制御信号112をトランスデューサ117に送る。トランスデューサ117によりバルブ118の開閉が調節され、水圧119がアダプティブミラー102に送られアダプティブミラー102を変形させる。
【0139】
この変形により集光ミラー103で集光距離を調整する。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】本発明を説明する模式図である。
【図2】キーホール型熱源による溶融による穿孔メカニズムを示す説明図である。
【図3】熱伝導型熱源による割裂による岩石破壊メカニズムを示す説明図である。
【図4】溶融による岩石穿孔時のレーザ照射パターンを示す図である。
【図5】旋回移動による実施例の岩石加工を示すレーザ照射パターンを示す図である。
【図6】旋回移動による実施例の岩石加工を示すレーザ照射パターンを示す図である。
【図7】キーホール旋回移動照射パターンを示す図である。
【図8】レーザ照射部の加工深さを示すグラフである。
【図9】実施例の穿孔パターンを示す平面図である。
【図10】レーザ熱源の旋回移動を用いた割裂作用も利用した岩石穿孔の説明図である。
【図11】図10を用いた大口径孔の加工を示す説明図である。
【図12】割裂作用の低い岩石の穿孔パターンを示す図である。
【図13】割裂作用の低い岩石の大口径孔の加工を示す説明図である。
【図14】移動経路が矩形の照射パターンを示す図である。
【図15】複数のレーザ熱源を移動させる照射パターンを示す図である。
【図16】レーザビームを移動させて岩石穿孔する装置の説明図である。
【図17】マルチレーザビームを移動させて岩石を穿孔する装置の説明図である。
【図18】制御装置を備えた集光パワーシステムの説明図である。
【図19】制御装置を備えた集光パワーシステムの説明図である。
【図20】制御装置を備えた集光パワーシステムの説明図である。
【図21】制御装置を備えた集光パワーシステムの説明図である。
【符号の説明】
【0141】
10 液体
11 岩石
12 レーザ装置
13,13a レーザ
14 矢印
21,21a キーホール
22 割裂破壊部(レーザ非照射部)
23 周縁
24 孔底
31 誘起気泡
32,37 溶融部
33,38 熱応力発生部
34 穿孔
35,39 ガラスビーズ
36 岩石破砕片
40 岩石破砕片
41,42,43 レーザ照射パターン
50 キーホール
51 レーザ集光径調整機構
52 キーホール回転半径(R)
53 移動経路
54 キーホール半径(r)
60 レーザが旋回移動する部分
61 レーザ非照射部
70 電力伝送・制御部
71 レーザ発振器
72 レーザ保護機構
72 保護装置
73 レーザ伝送機構
74 レーザ集光径調整機構
74,75 レーザビーム操作機構
76,84 モニタリング機構
78 レーザビーム
79 レーザビーム移動
81 マルチビーム生成機構
82 マルチビーム集光径調整機構
83 マルチビーム操作機構
90 穿孔
101 岩石加工用レーザビーム
102 アダプティブミラー
103 集光ミラー
104 レーザ誘起気泡
105 プラズマ
106 プラズマ反射光
107 ビームスプリッター
109 プラズマ反射光センサ
110 プラズマ信号
111 制御手段
112 計測用レーザ手段
113 深さ計測用レーザ
114 岩石穿孔底部
115 深さ計測用レーザ反射光
116 信号
117 トランスデューサ
118 バルブ
119 水圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岩石表面に液体を介在させ、該液体中を通って波長1.2μm以上のレーザを岩石の照射面に沿って連続的に移動させながら照射することを特徴とするレーザを用いた岩石の加工方法。
【請求項2】
前記レーザの照射条件及び移動速度を、岩石の加工部からの情報に基いて制御することを特徴とする請求項1記載のレーザを用いた岩石の加工方法。
【請求項3】
前記加工部からの情報は、照射レーザの集光強度、加工部の形状、音響、スパッタ及び温度から成る群から選ばれた1又は複数の情報から成ることを特徴とする請求項2記載のレーザを用いた岩石の加工方法。
【請求項4】
前記レーザは照射位置に隣接する部分を熱応力により割裂させる作用を併用することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のレーザを用いた岩石の加工方法。
【請求項5】
前記熱応力により割裂させる部分を囲繞する移動経路に沿ってレーザを移動させることを特徴とする請求項4記載のレーザを用いた岩石の加工方法。
【請求項6】
複数本のレーザを並列に移動し、該複数本の並列レーザ相互間の岩石部分を割裂させることを特徴とする請求項4記載のレーザを用いた岩石の加工方法。
【請求項7】
レーザ照射位置に液体を介在させる手段と、波長1.2μm以上のレーザを照射する可動装置と、該レーザの配列、照射条件、及び移動条件を加工部からの情報に基づいて制御する制御装置とを備えたことを特徴とするレーザを用いた岩石の加工装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−17864(P2010−17864A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177868(P2008−177868)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(395022018)日本海洋掘削株式会社 (10)
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【Fターム(参考)】