説明

レーザシステム

【課題】高調波光を安定して出射することが可能なレーザシステムを提供すること。
【解決手段】本発明は、レーザ光24を発振するDFBレーザ12と、DFBレーザ12の温度を調節するヒータ14と、レーザ光24をレーザ光24の高調波光34に変換する高調波生成素子18と、を有するレーザモジュール10と、高調波生成素子18で変換された高調波光34の強度を高調波生成素子18で高調波光34に変換されずに高調波生成素子18を通過した非変換光36の強度で規格化した規格化高調波光の強度が所定の強度になるようにヒータ14に注入するヒータ電流28を制御する制御部40と、を具備するレーザシステム100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザシステムに関し、特にレーザ光の高調波光を出射するレーザシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ光を出力するレーザシステムは、様々な分野で用いられている。特に、安価なレーザシステムには、半導体レーザが用いられている。しかしながら、半導体レーザには、発振が困難な波長帯の光(例えば、グリーン光)がある。そこで、DPSS(ダイオード励起固体レーザ)方式を用いて、半導体レーザでは発振が困難な波長帯の光を出射する方法が知られている。
【0003】
DPSS方式では、レーザディスプレイ用途などで要求される、例えば500MHz程度の高速変調が困難である。そこで、半導体レーザが出射したレーザ光を非線形光学素子で高調波光に変換して出射するレーザシステムが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−132595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のレーザシステムにおいて、非線形光学素子における高調波への変換効率を高めようとすると、許容される波長範囲が狭くなってしまう。半導体レーザと非線形光学素子とは異なる波長温度係数を有する。また、半導体レーザと非線形光学素子とは個別素子ごとに波長特性にバラツキも有する。このため、例えば、半導体レーザと非線形光学素子とが搭載されたレーザモジュールの温度が変化した場合に、レーザ光の波長を高効率で変換可能な波長範囲内に調整することは容易ではない。
【0006】
また、半導体レーザの温度が局所的に変化する場合や半導体レーザそのものの特性が変化する場合がある。この場合、レーザモジュールの温度に基づいてレーザ光の波長を高効率で変換可能な波長範囲内に調整することは難しく、高調波光の強度が低下してしまう場合がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、高調波光を安定して出射することが可能なレーザシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、レーザ光を発振するレーザと、前記レーザの温度を調節するヒータと、前記レーザ光を前記レーザ光の高調波光に変換する高調波生成素子と、を有するレーザモジュールと、前記高調波生成素子で変換された前記高調波光の強度を前記高調波生成素子で前記高調波光に変換されずに前記高調波生成素子を通過した非変換光の強度で規格化した規格化高調波光の強度が所定の強度になるように前記ヒータに注入するヒータ電流を制御する制御部と、を具備することを特徴とするレーザシステムである。本発明によれば、レーザ光の波長変化を補正でき、高調波生成素子から高調波光を安定して出射させることができる。
【0009】
上記構成において、前記規格化高調波光の強度が前記所定の強度となる前記レーザ光の波長は、前記高調波生成素子による前記高調波光への変換効率が最大となる波長からずれた波長である構成とすることができる。この構成によれば、規格化高調波光の強度を所定の強度に合わせこむヒータ電流の制御が容易となる。
【0010】
上記構成において、前記規格化高調波光の強度が前記所定の強度となる前記レーザ光の波長は、前記高調波生成素子で前記高調波光に変換可能な波長範囲内の波長である構成とすることができる。この構成によれば、規格化高調波光の強度を所定の強度に合わせこむヒータ電流の制御が容易となると共に、高調波生成素子から出射される高調波光の強度を大きくできる。
【0011】
上記構成において、前記制御部は、前記レーザを駆動する駆動電流を固定した状態で、前記規格化高調波光の強度が前記所定の強度になるように前記ヒータに注入するヒータ電流を制御する構成とすることができる。この構成によれば、規格化高調波光の強度を所定の強度にする制御が容易にできる。
【0012】
上記構成において、前記レーザモジュールの温度と前記ヒータに投入するヒータ電力とを対応付けたテーブルを記憶する記憶部を具備し、前記制御部は、周期的に、前記規格化高調波光の強度が前記所定の強度になるように制御した前記ヒータ電流に基づいて前記テーブルに新たなヒータ電力を書き込むと共に、前記レーザシステムの電源が投入された際に、前記テーブルを参照して前記ヒータにヒータ電流を注入する構成とすることができる。この構成によれば、レーザシステムの立ち上げ後、高調波生成素子から高調波光を素早く出射させることができる。
【0013】
上記構成において、前記制御部は、前記テーブルに予め書き込まれていた前記ヒータ電力の初期値と前記テーブルに新たに書き込んだ前記ヒータ電力の値との差分が所定の閾値を超えた場合にエラーを出力する構成とすることができる。この構成によれば、特性劣化したレーザモジュールの判別および排除が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、レーザ光の波長変化を補正でき、高調波生成素子から高調波光を安定して出射させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は実施例1に係るレーザシステムの例を示すブロック図である。
【図2】図2はDFBレーザおよびSOAの例を示す断面模式図である。
【図3】図3はレーザ光の波長に対する高調波生成素子の変換効率の例を示す模式図である。
【図4】図4(a)はDFBレーザの駆動電流に対するレーザ光の波長の変化の例を示す模式図であり、図4(b)はヒータ電力に対するレーザ光の波長の変化の例を示す模式図である。
【図5】図5は実施例1に係るレーザシステムの制御部の制御の例を示すフローチャート(その1)である。
【図6】図6は実施例1に係るレーザシステムの制御部の制御の例を示すフローチャート(その2)である。
【図7】図7(a)はレーザ光の波長に対する高調波光の強度および非変換光の強度の例を示す模式図であり、図7(b)はレーザ光の波長に対する規格化高調波光の強度の例を示す模式図である。
【図8】図8はDFBレーザの発振波長特性の例を示す模式図である。
【図9】図9(a)は初期状態のテーブルの例を示す模式図であり、図9(b)は更新後のテーブルの例を示す模式図である。
【図10】図10はレーザシステム使用開始時とテーブル更新時とにおける、レーザ光の波長に対する高調波光の強度の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、実施例1に係るレーザシステムの例を示すブロック図である。図1のように、実施例1に係るレーザシステム100は、レーザモジュール10と、制御部40と、反射ミラー42と、ビームスプリッタ44と、第1の光検出器46と、第2の光検出器48と、記憶部50と、を有する。レーザモジュール10は、DFB(分布帰還型)レーザ12と、ヒータ14と、光半導体増幅器(SOA)16と、高調波生成素子18と、温度センサ20と、レンズ22と、を有する。SOA16と高調波生成素子18とは、レンズ22を介して光結合しており、SOA16から出射されたレーザ光24は高調波生成素子18に入射する。
【0018】
DFBレーザ12は、コルゲーションを有し単一波長のレーザ光24を発振するレーザであり、例えば1064nmの波長を有するレーザ光24を発振する。DFBレーザ12は、制御部40により駆動電流26が注入されることで動作してレーザ光24を発振する。ヒータ14は、制御部40によりヒータ電流28が注入されることでDFBレーザ12の温度を調節する。SOA16は、制御部40により駆動電流30が注入されることでレーザ光24の強度を所定の値に設定したり、強度変調したりする。なお、SOA16は、レーザ光24の強度を変化させるが、レーザ光24の波長は変化させない。DFBレーザ12とSOA16とは同一チップ上に形成されており、DFBレーザ12とSOA16の光軸は一致している。温度センサ20は、レーザモジュール10の温度をモニタし、制御部40に温度モニタ値32を出力する。
【0019】
高調波生成素子18は、非線形光学素子であり、入射されたレーザ光24を高調波光34に変換する。高調波生成素子18は、例えばPPLN(Periodically Poled Lithium Niobate)であり、レーザ光24の第2高調波光である例えば532nmの波長を有する高調波光34を出射する。
【0020】
反射ミラー42は、例えば赤外ミラーであり、高調波生成素子18から出射された光のうち赤外光を反射してグリーン光である高調波光34を透過させる。つまり、高調波生成素子18に入射したレーザ光24のうち、高調波生成素子18で高調波光34に変換されずに高調波生成素子18を通過してきた非変換光36を反射し、高調波生成素子18で変換された高調波光34を透過する。反射ミラー42で反射された非変換光36は、第1の光検出器46に入射する。ビームスプリッタ44は、高調波光34の一部を分岐させて第2の光検出器48に入射させる。第1の光検出器46は、非変換光36の強度をモニタし、非変換光モニタ信号52を制御部40に出力する。第2の光検出器48は、高調波光34の強度をモニタし、高調波モニタ信号54を制御部40に出力する。第1の光検出器46および第2の光検出器48は、例えばフォトダイオードなど、一般的な光検出器を用いることができる。記憶部50は、レーザモジュール10の温度とヒータ14に投入するヒータ電力とを対応付けたテーブルが記憶されている。記憶部50は、例えば不揮発性メモリなど、一般的な記憶媒体を用いることができる。制御部40は、DFBレーザ12を駆動する駆動電流26と、ヒータ14に注入するヒータ電流28と、SOA16を駆動する駆動電流30とを制御する。
【0021】
なお、図1に示した、反射ミラー42、ビームスプリッタ44、第1の光検出器46、および第2の光検出器48は、レーザモジュール10に内蔵している場合でもよい。また、反射ミラー42およびビームスプリッタ44はそれぞれ、第1の光検出器46および第2の光検出器48がそれぞれレーザ光24の基本波だけを受光でき、高調波だけを受光できるように、レーザ光の基本波をカットするフィルタ特性および高調波をカットするフィルタ特性を有する場合が好ましい。さらに、第1の光検出器46および第2の光検出器48が、増幅回路を内蔵しているなどにより高感度化されていて、高調波生成素子18からの漏れ光を受光することで高調波光34および非変換光36の強度をモニタできる場合は、反射ミラー42やビームスプリッタ44を削除する構成としてもよい。さらに、第1の光検出器46と第2の光検出器48とが一体形成されたデュアル構成であってもよい。
【0022】
図2は、DFBレーザ12とSOA16の例を示す断面模式図である。図2のように、n型GaAs基板60上に、n型AlGaAsからなるn型クラッド層62が形成されている。基板60下には電極64が形成されている。n型クラッド層62上に、GaAsからなるベース層66内にInAsからなる量子ドット68を有する量子ドット活性層70が形成されている。量子ドット活性層70上にp型GaAsからなるp型層72が形成されている。p型層72上にp型InGaPからなるp型クラッド層74が形成されている。DFBレーザ12のp型層72とp型クラッド層74との間には出射するレーザ光24の波長を決めるコルゲーション86が形成されている。基板60からp型クラッド層74までは、コルゲーション86以外は、DFBレーザ12とSOA16とで共通である。
【0023】
DFBレーザ12とSOA16とのp型クラッド層74上に、それぞれPGaAsからなるコンタクト層76が形成されている。DFBレーザ12において、コンタクト層76上には電極78が形成されている。電極78上に酸化シリコンからなる絶縁膜80が形成されている。絶縁膜80上に例えばPtからなるヒータ14が形成されている。SOA16において、コンタクト層76上に電極82が形成されている。制御部40は、ワイヤ84を介して電極78、電極82およびヒータ14に電圧を印加する。電極64は、一定電位に接続されている。例えば接地されている。
【0024】
制御部40は、DFBレーザ12の電極78に電圧を印加することにより、電極78と電極64との間に駆動電流26を流す。これにより、量子ドット活性層70で誘導放出が生じ、活性層70付近にレーザ光24が伝搬する。また、制御部40は、ヒータ14にヒータ電流28を流すことにより、DFBレーザ12の温度を制御する。さらに、制御部40は、電極82と電極64との間に駆動電流30を流すことにより、活性層70内のレーザ光24を増幅させる。駆動電流30を変化させることにより、SOA16の増幅率が変化するため、SOA16から出射するレーザ光24の強度を所定の値に設定したり、強度変調したりすることができる。
【0025】
図3は、レーザ光24の波長に対する高調波生成素子18の変換効率の例を示す模式図である。図3のように、高調波生成素子18による基本波から高調波への変換効率は、例えば波長λ0で最大となり、λ0からずれると低下する。つまり、レーザ光24の波長がλ0のときに高調波光34の強度は最大となり、レーザ光24の波長がλ0からずれると高調波光34の強度は低下する。このように、高調波生成素子18による基本波から高調波への変換を高変換効率で行おうとすると、許容される波長範囲は領域38のような狭い波長範囲となる。
【0026】
図4(a)は、DFBレーザ12の駆動電流に対するレーザ光24の波長の変化の例を示す模式図である。図4(b)は、ヒータ14に投入するヒータ電力に対するレーザ光24の波長の変化の例を示す模式図である。図4(a)および図4(b)のように、駆動電流の大きさおよびヒータ電力の大きさが大きくなるに従い、DFBレーザ12が発振するレーザ光24の波長は長波長側にシフトする。つまり、駆動電流の大きさおよびヒータ電力の大きさが変化するとDFBレーザ12が発振するレーザ光24の波長は変化する。DFBレーザ12と高調波生成素子18とは異なる波長温度係数を有するが、駆動電流の大きさおよびヒータ電力の大きさを制御することで、DFBレーザ12が発振するレーザ光24を高調波生成素子18で高調波に高変換効率で変換可能な波長範囲内にできる。なお、レーザ光24の波長は、SOA16の駆動電流30にはほとんど依存しないため、光強度をSOA16の駆動電流30で制御し、波長をDFBレーザ12の駆動電流26、およびヒータ14のヒータ電流28で制御することが望ましい。
【0027】
次に、図5のフローチャートを用いて、制御部40の制御の例について説明する。図5のように、レーザシステム100の電源が投入されると、制御部40は、DFBレーザ12に駆動電流26を注入してレーザ光24を発振させる(ステップS10)。駆動電流26の大きさは所定の一定の大きさになるようにし、DFBレーザ12が発振するレーザ光24の強度および波長が駆動電流26により変動しないようにする。
【0028】
次いで、制御部40は、温度センサ20で出力された温度モニタ値32からレーザモジュール10の温度を把握する。そして、制御部40は、記憶部50に記憶されたテーブルからレーザモジュール10の温度に応じたヒータ電力を求めてヒータ14にヒータ電流28を投入する(ステップS12)。前述したように、レーザモジュール10の温度が変化するとDFBレーザ12が発振するレーザ光24の波長が変化する。図3のように、高調波生成素子18での高調波光34への変換効率はレーザ光24の波長に依存するため、レーザ光24の波長の変化は高調波光34の強度に影響を及ぼすことになり好ましくない。このため、レーザ光24の波長が所定の波長になるように、レーザモジュール10の温度に応じてヒータ14に投入するヒータ電力を変化させる。これにより、高調波生成素子18から所定の強度の高調波光34を出射させることができる。したがって、テーブルには、レーザ光24の波長が所定の波長になるような、レーザモジュール10の温度とヒータ電力との対応関係が書き込まれている。所定の波長は、高調波生成素子18による基本波から高調波への変換効率が最大となる波長から少し長波長側にずれ、且つ高調波生成素子18による高調波光34への変換が高変換効率で可能な波長範囲内の波長とすることができる。
【0029】
次いで、制御部40は、SOA16に駆動電流30を注入してレーザ光24の強度を調整する。また、必要に応じて、変調した駆動電流30を注入して、レーザ光24の強度を変調させる(ステップS14)。レーザ光24の強度変調は、例えば256階調が表現されるようなデジタル変調で行ってもよいし、アナログ変調で行ってもよい。
【0030】
次いで、制御部40は、第1の光検出器46から非変換光モニタ信号52が入力されることで、高調波生成素子18で高調波光34に変換されずにそのまま通過した非変換光36の強度を取得する(ステップS16)。高調波生成素子18での高調波光34への変換効率が低い場合には、非変換光36の強度は、レーザ光24の波長によらずほとんど一定となるとみなせる。例えばレーザ光24の強度が100mWより小さく、高調波生成素子18による高調波光34への変換効率が10%程度と小さい場合には、高調波生成素子18を通過した非変換光36の強度は、レーザ光24の波長に対してほとんど一定とみなせる。
【0031】
次いで、制御部40は、第2の光検出器48から高調波モニタ信号54が入力されることで、高調波生成素子18で変換された高調波光34の強度を取得する(ステップS18)。高調波生成素子18による基本波から高調波への変換効率は、図3で説明したように、レーザ光24の波長に依存する。このため、例えばDFBレーザ12の温度が変化してレーザ光24の波長が変化した場合などは、高調波光34の強度はレーザ光24の波長の変化量に応じて変化する。
【0032】
次いで、制御部40は、非変換光36の強度で高調波光34の強度を規格化する(ステップS20)。以下、非変換光36で規格化した高調波光34を規格化高調波光と称す。
【0033】
図6のように、制御部40は、規格化高調波光の強度が所定の強度であるかを判断する(ステップS22)。ステップS22で規格化高調波光の強度が所定の強度でないと判断した場合(Noの場合)、制御部40は、規格化高調波光の強度が所定の強度になるようヒータ14に注入するヒータ電流28の大きさを制御する(ステップS24)。図4(b)で説明したように、ヒータ14に投入するヒータ電力の大きさが変化することで、DFBレーザ12が発振するレーザ光24の波長が変化する。したがって、ヒータ電流28の大きさを制御することで、レーザ光24の波長を高調波生成素子18による高調波光への変換効率が所望の変換効率となる波長に制御でき、規格化高調波光の強度を所定の強度に合わせることができる。ヒータ14に注入するヒータ電流28の大きさを制御するときは、DFBレーザ12の駆動電流26の大きさを変化させずに固定させておく。
【0034】
ここで、図7(a)、図7(b)および図8の模式図を用いて、図5のステップS10から図6のステップS24で述べた制御について説明する。図7(a)は、レーザ光24の波長に対する高調波光34の強度および非変換光36の強度の例を示す模式図である。図7(b)は、レーザ光24の波長に対する規格化高調波光の強度の例を示す模式図である。図8は、DFBレーザ12の発振波長特性の例を示す模式図である。
【0035】
図7(a)のように、非変換光36の強度はレーザ光24の波長に対して一定の大きさを示す。これは、前述したように、高調波生成素子18での高調波光34への変換効率が低い場合には、非変換光36の強度はレーザ光24の波長によらずほとんど一定となるためである。非変換光36の強度は高調波光34の強度に比べて非常に大きい。一方、図3で説明したように、高調波生成素子18での高調波光34への変換効率はレーザ光24の波長に依存することから、高調波光34の強度はレーザ光24の波長に依存して変化する。
【0036】
ここで、図5のステップS10とステップS12を実行して、レーザ光24の波長を例えばλ1とした場合の高調波光34の強度が、例えば図7(a)の点90であるとする。波長λ1は、高調波生成素子18による基本波から高調波への変換効率が最大となる波長λ0から少し長波長側にずれ、且つ高調波生成素子18による高調波光34への変換が高変換効率で可能な波長範囲内の波長である。次に、図5のステップS14を実行して、レーザ光24の強度変調をした場合、高調波光34の強度および非変換光36の強度が、図7(a)の実線から一点鎖線に変化したとする。高調波光34の強度および非変換光36の強度はレーザ光24の強度の変化に応じて変化し、レーザ光24の強度変化率と高調波光34の強度変化率と非変換光36の強度変化率とは同じ大きさになる。この場合、レーザ光24の波長がλ1の場合における高調波光34の強度は、例えば点92に変化する。
【0037】
図7(b)のように、非変換光36の強度で高調波光34の強度を規格化すると、規格化高調波光の強度は、レーザ光24の強度には無依存となり、レーザ光24の波長にのみ依存することになる。つまり、SOA16によりレーザ光24の強度が変調されたとしても、レーザ光24の波長が例えばλ1である場合は、規格化高調波光の強度は、点94で示す所定の大きさになる。
【0038】
ここで、例えばDFBレーザ12の温度が局所的に変化した場合やDFBレーザ12そのものの特性が変化した場合などにより、図8のように、ピーク波長がλ1からλ2に長波長側にシフトした場合を考える。この場合、図7(b)のように、波長λ2での規格化高調波光の強度は点96で表され、点94で表された規格化高調波光の所定の強度から減少する。しかしながら、ヒータ14に注入するヒータ電流28の大きさを制御して、レーザ光24の波長がλ1になるように調整することで、規格化高調波光の強度を所定の強度(点94での強度)にすることができる。これにより、DFBレーザ12の局所的温度変化などによりレーザ光24の波長が変化した場合でも、高調波生成素子18から所望の強度の高調波光34を安定して出射させることができる。
【0039】
図6に戻り、制御部40は、周期的に、記憶部50に記憶されたテーブルを更新し、ステップS24で規格化高調波光の強度が所定の強度になるように制御したヒータ電流28の大きさに基づいて新たなヒータ電力をテーブルに書き込む(ステップS26)。次いで、制御部40は、記憶部50に予め書き込まれていたヒータ電力の初期値とステップS26で書き込んだ新たなヒータ電力との差分を求める。そして、制御部40は、その差分が所定の閾値を超えている場合に、レーザモジュール10は異常であるとしてエラーを出力する(ステップS28)。
【0040】
ここで、図9(a)および図9(b)の模式図を用いて、記憶部50に記憶されるテーブル56について説明する。図9(a)は、図6のステップS26の工程が実行される前の初期状態のテーブル56の例を示しており、図9(b)は、図6のステップS26の工程が例えば1回実行された後のテーブル56の例を示している。
【0041】
図9(a)のように、初期状態のテーブル56は、レーザモジュール10の温度が、例えば0℃、20℃、50℃、70℃の場合に応じたヒータ電力の初期値A、B、C、Dが予め書き込まれている。ステップS26の工程が1回実行された後のテーブル56は、図9(b)のように、例えばレーザモジュール10の温度が20℃の場合のヒータ電力に新たなヒータ電力の値B1が書き込まれている。このように、図6のステップS24の工程で制御したヒータ電流28の大きさに基づいて新たなヒータ電力がテーブル56に書き込まれる。よって、図6のステップS28の工程は、B1とBとの差分が所定の閾値を超えている場合に、レーザモジュール10が異常であるとしてエラーを出力することになる。
【0042】
以上説明してきたように、実施例1に係るレーザシステム100によれば、制御部40は、高調波生成素子18で高調波光34に変換されずに高調波生成素子18を通過した非変換光36の強度と、高調波生成素子18で変換された高調波光34の強度と、を取得する。そして、制御部40は、高調波光34の強度を非変換光36の強度で規格化した規格化高調波光の強度を求め、規格化高調波光の強度が所定の強度になるようにヒータ14に注入するヒータ電流28の大きさを制御する。図7(a)および図7(b)で説明したように、高調波光34の強度はレーザ光24の波長により大きさが変化するが、非変換光36の強度はレーザ光24の波長に対して一定の大きさである。したがって、高調波光34の強度を非変換光36の強度で規格化することで、規格化高調波光の強度は、レーザ光24の波長にのみ依存することになる。したがって、規格化高調波光の強度が所定の強度からずれているかにより、レーザ光24の波長が変化したかが判断できる。つまり、規格化高調波光の強度が所定の強度からずれている場合に、ヒータ電流28の大きさを制御して、規格化高調波光の強度を所定の強度に合わせることで、レーザ光24の波長の変化を補正でき、高調波生成素子18から所望の強度の高調波光34を安定して出射させることができる。
【0043】
レーザモジュール10の温度に基づいてヒータ電流28の大きさを制御してレーザ光24の波長の変化を補正する方法では、DFBレーザ12の温度が局所的に変化した場合やDFBレーザ12そのものの特性が変化した場合など、レーザモジュール10の温度が変化しない場合に対応できない。しかしながら、実施例1では、高調波光34の強度と非変換光36の強度とから求めた規格化高調波光の強度に基づいてヒータ電流28の大きさを制御してレーザ光24の波長の変化を補正している。このため、DFBレーザ12の温度が局所的に変化した場合やDFBレーザ12そのものの特性が変化した場合などにも対応でき、高調波生成素子18から安定して高調波光34を出射させることができる。
【0044】
図6のステップS24で説明したように、規格化高調波光の強度が所定の強度になるようにヒータ電流28の大きさを制御するときは、DFBレーザ12の駆動電流26の大きさを変化させずに固定したままにする。DFBレーザ12の駆動電流26の大きさが変化すると、レーザ光24の波長が変化するため、規格化高調波光の強度を所定の強度にする制御が複雑になる。したがって、規格化高調波光の強度を所定の強度とする制御を容易にするため、制御部40は、DFBレーザ12を駆動する駆動電流26の大きさを固定した状態で、規格化高調波光の強度が所定の強度になるようにヒータ電流28の大きさの制御をすることが好ましい。
【0045】
図7(a)および図7(b)のように、ヒータ電流28の大きさを制御して規格化高調波光の強度を合わせこむ所定の強度は、レーザ光24の波長が、高調波生成素子18による高調波光34への変換効率が最大となる波長λ0から長波長側にずれた波長λ1における規格化高調波光の強度である場合が好ましい。これにより、規格化高調波光の強度が低下した場合はレーザ光24の波長が長波長側にシフトし、規格化高調波光の強度が増加した場合はレーザ光24の波長が短波長側にシフトしたことが容易に分かり、規格化高調波光の強度を所定の強度に合わせこむヒータ電流28の制御が容易となる。このような観点から、所定の強度は、レーザ光24の波長が、高調波生成素子18による高調波光34への変換効率が最大となる波長λ0から短波長側にずれた波長における規格化高調波光の強度である場合でもよい。即ち、所定の強度は、レーザ光24の波長が、高調波生成素子18による高調波光34への変換効率が最大となる波長λ0からずれた波長における規格化高調波光の強度である場合であればよい。言い換えると、規格化高調波光の強度が所定の強度となるレーザ光24の波長は、高調波生成素子18による高調波光34への変換効率が最大となる波長λ0からずれた波長である場合が好ましい。
【0046】
また、規格化高調波光の強度が所定の強度となるレーザ光24の波長は、高調波生成素子18で高調波光34に変換可能な波長範囲内である場合が好ましい。これにより、レーザ光24の波長変化に対する規格化高調波光の強度変化が大きくなるため、規格化高調波光の強度を所定の強度に合わせこむヒータ電流28の制御が容易になると共に、高調波生成素子18から出射される高調波光34の強度を大きくできる。
【0047】
実施例1に係るレーザシステム100は、図1のように、レーザモジュール10の温度とヒータ14に投入するヒータ電力とを対応付けたテーブル56を記憶する記憶部50を有する。そして、図6のステップS26で説明したように、制御部40は、周期的に、規格化高調波光の強度が所定の強度になるように制御したヒータ電流28の大きさに基づいてテーブル56に新たなヒータ電力の情報を書き込む。そして、図5のステップS12で説明したように、レーザシステム100の電源が投入された際に、制御部40は、記憶部50に記憶されたテーブル56を参照して、現在のレーザモジュール10の温度に対応したヒータ電力を求めてヒータ14にヒータ電流28を注入する。これにより、レーザシステム100の電源が投入された場合に、DFBレーザ12が発振するレーザ光24の波長を所望の波長に容易に且つ素早く合わせることができる。よって、レーザシステム100の立ち上げ後、高調波生成素子18から高調波光34を素早く出射させることができる。
【0048】
図6のステップS28で説明したように、記憶部50が記憶するテーブル56に予め書き込まれていたヒータ電力の初期値と新たに書き込んだヒータ電力の値との差分を求め、その差分が所定の閾値を超えた場合にエラーを出力する。図4(b)で説明したように、レーザ光24の波長はヒータ電力の大きさにより変化することから、ヒータ電力の値が変わったということは、レーザ光24の波長が変化したことになる。
【0049】
図10は、レーザシステム100の使用開始時とテーブル56の更新時とにおける、レーザ光24の波長に対する高調波光34の強度の例を示す模式図である。図10のように、使用開始時は、レーザ光24の波長が例えばλ0にて高調波生成素子18による高調波光34への変換効率が最大になっていたが、テーブル56の更新時は、レーザ光24の波長が例えばλ3にて高調波生成素子18による高調波光34への変換効率が最大になっている場合を想定する。この場合、レーザモジュール10の特性が変化したと考えられる。したがって、ヒータ電力の初期値と新たに書き込んだヒータ電力の値との差分が所定の閾値を超えた場合は、レーザモジュール10の特性が変化したとみなして、エラーを出力する場合が好ましい。これにより、特性劣化したレーザモジュール10の判別および排除が可能となる。なお、所定の閾値とは、上述したように、レーザモジュール10の特性が変化したとみなすことができる程に、ヒータ電力の初期値と更新時の値との差分が大きくなった場合の値をいう。例えば、ヒータ電力として初期値から20%変化した場合を閾値とすることができる。
【0050】
実施例1では、図7(a)および図7(b)で説明したように、ヒータ電流28の大きさを制御して規格化高調波光の強度を合わせこむ所定の強度は、レーザ光24の波長が、高調波生成素子18による高調波光34への変換効率が最大となる波長λ0からずれた波長における規格化高調波光の強度である場合を例に示したが、これに限らず、高調波生成素子18による高調波光34への変換効率が最大となる波長λ0における規格化高調波光の強度である場合でもよい。
【0051】
実施例1では、レーザ光24の強度が低く、高調波生成素子18での変換効率が低い場合で、非変換光36の強度がレーザ光24の波長に対して一定とみなすことができる場合を例に説明してきた。しかしながら、この場合に限らず、レーザ光24の強度が例えば100mW以上と強く、非変換光36の強度がレーザ光24の波長に対して変化する場合でも、高調波光34と非変換光36との比をとることで、規格化高調波光が得られることは変わらない。
【0052】
実施例1では、レーザは量子ドットDFBレーザである場合を例に示したがこれに限られるわけではない。例えば、量子井戸DFBレーザなどである場合でもよいし、DFBレーザ以外の例えばファブリペロ型レーザである場合でもよい。また、SOA16と高調波生成素子18とはレンズ22を介して光結合している場合を例に示したが、SOA16と高調波生成素子18とは直接結合している場合でもよい。
【0053】
また、実施例1では、高調波生成素子18は、レーザ光24をレーザ光24の第2高調波に変換する場合を例に示したが、高調波生成素子18はレーザ光24のより高次な高調波光に変換してもよい。また、レーザ光24が1064nmの赤外光で、高調波光34が532nmのグリーン光である場合を例に示したが、高調波光34は他の波長の光でもよく、またレーザ光24はその他の波長を有していてもよい。
【0054】
以上、本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 レーザモジュール
12 DFBレーザ
14 ヒータ
16 SOA
18 高調波生成素子
20 温度センサ
22 レンズ
24 レーザ光
26 駆動電流
28 ヒータ電流
30 駆動電流
34 高調波光
36 非変換光
40 制御部
42 反射ミラー
44 ビームスプリッタ
46 第1の光検出器
48 第2の光検出器
50 記憶部
56 テーブル
100 レーザシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発振するレーザと、前記レーザの温度を調節するヒータと、前記レーザ光を前記レーザ光の高調波光に変換する高調波生成素子と、を有するレーザモジュールと、
前記高調波生成素子で変換された前記高調波光の強度を前記高調波生成素子で前記高調波光に変換されずに前記高調波生成素子を通過した非変換光の強度で規格化した規格化高調波光の強度が所定の強度になるように前記ヒータに注入するヒータ電流を制御する制御部と、を具備することを特徴とするレーザシステム。
【請求項2】
前記規格化高調波光の強度が前記所定の強度となる前記レーザ光の波長は、前記高調波生成素子による前記高調波光への変換効率が最大となる波長からずれた波長であることを特徴とする請求項1記載のレーザシステム。
【請求項3】
前記規格化高調波光の強度が前記所定の強度となる前記レーザ光の波長は、前記高調波生成素子で前記高調波光に変換可能な波長範囲内の波長であることを特徴とする請求項1または2記載のレーザシステム。
【請求項4】
前記制御部は、前記レーザを駆動する駆動電流を固定した状態で、前記規格化高調波光の強度が前記所定の強度になるように前記ヒータに注入するヒータ電流を制御することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載のレーザシステム。
【請求項5】
前記レーザモジュールの温度と前記ヒータに投入するヒータ電力とを対応付けたテーブルを記憶する記憶部を具備し、
前記制御部は、周期的に、前記規格化高調波光の強度が前記所定の強度になるように制御した前記ヒータ電流に基づいて前記テーブルに新たなヒータ電力を書き込むと共に、前記レーザシステムの電源が投入された際に、前記テーブルを参照して前記ヒータにヒータ電流を注入することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載のレーザシステム。
【請求項6】
前記制御部は、前記テーブルに予め書き込まれていた前記ヒータ電力の初期値と前記テーブルに新たに書き込んだ前記ヒータ電力の値との差分が所定の閾値を超えた場合にエラーを出力することを特徴とする請求項5記載のレーザシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−43994(P2012−43994A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184093(P2010−184093)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(506423051)株式会社QDレーザ (26)
【Fターム(参考)】