説明

レーザーコンプトン光発生装置、レーザーコンプトン光発生方法、中性子線発生装置

【課題】単色性の高いレーザーコンプトン光を得る。
【解決手段】偏向空洞13を通過した電子パルス12は、線形加速器14を通過する。線形加速器14中において、この電子パルス12は高周波加速を受け、高エネルギー電子パルス15となる。レーザー光源16は、可視光あるいは近赤外光でありパルス状のレーザー光17を発する。レーザー光17は、反射鏡18で反射されて、高エネルギー電子パルス15と衝突点19で衝突する設定とされる。衝突点19から、高エネルギー光(X線、ガンマ線等)とされたレーザーコンプトン光20が発せられる。偏向空洞13によって電子パルス12はその進行方向に対して傾斜角をもち、衝突点19においては、この傾斜角が大きくなった状態となるような設定とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光と高エネルギー電子とを衝突させてガンマ線やX線等の高エネルギー光(レーザーコンプトン光)を発生させるレーザーコンプトン光発生装置の構成、レーザーコンプトン光発生方法に関する。また、このレーザーコンプトン光を用いて中性子線を発生させる中性子線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
単色の光(エネルギー、波長が極狭い範囲にあるデルタ関数的なエネルギースペクトルをもつ光)は、各種の物理実験、化学実験において極めて有用である。例えば可視光や赤外光においては、光源から発した単色でない光を各種の分光器を通すことにより極狭い波長範囲の光として出力し、実質的に単色の光とすることができる。特に分光器を用いる場合には、この波長(エネルギー)を所望の値とすることも可能であり、こうした単色の光は各種の分析等に用いられている。
【0003】
同様に、単色のX線やガンマ線も各種の物理実験に有効である。例えば、単色のX線は物質の結晶構造、電子構造の解析等に使用することができ、単色のガンマ線は原子核種の分析や原子核構造の解析、同位体の非破壊分析、遮蔽された環境における核物質の検知等に使用することができる。単色のX線やガンマ線としては、原子が発する特性X線や原子核が発する特性ガンマ線が知られている。しかしながら、こうした特性X線や特性ガンマ線のエネルギーは、これらを発する原子や原子核の種類によって定まるため、ある特定のエネルギーに限定される。また、その強度も、実際に分析を充分な精度で行うには不充分な場合が多い。
【0004】
こうした問題を解消できるガンマ線源として、例えば非特許文献1に、レーザーコンプトン光発生装置が記載されている。このレーザーコンプトン光発生装置90の原理及び構成の概略を図16に示す。電子銃91によって発生した電子線92は、線形加速器93によって高エネルギー(例えば1MeV以上)にまで加速され、高エネルギー電子線94となる。一方、レーザー光源95によって発生した可視光や近赤外光であるレーザー光96は、反射鏡97で反射され、高エネルギー電子線94と衝突点98で正面衝突する設定とされる。この衝突によってレーザー光96は入射方向と反対方向に反射され、その際に高エネルギー電子線94からエネルギーを受け取るために、X線やガンマ線のエネルギー範囲とされたレーザーコンプトン光99となる。
【0005】
この装置において、一般に、線形加速器93によって得られる高エネルギー電子線94のエネルギーは準単色である。また、一般にはレーザー光96は単色である。高エネルギー電子線94とレーザー光96が共に単色である場合、その光軸(高エネルギー電子線94の光軸)上におけるレーザーコンプトン光98のエネルギーも、理想的には単色となる。ここで、一般にレーザー光96は、レーザー光源95の種類によって決まる一定の波長(エネルギー)をもつが、線形加速器93で得られる高エネルギー電子線94のエネルギーは、線形加速器93の動作条件を設定することによって適宜設定することが可能である。このため、レーザーコンプトン光99のエネルギーは、高エネルギー電子線94のエネルギーを調整することによって設定することが可能であり、X線やガンマ線等、任意のエネルギーの光を発することができる。また、レーザーコンプトン光98の強度は、レーザー光96の強度を高めることによって高めることができる。レーザー光96として超短パルスレーザー光を用いれば、極めて高強度のレーザー光96を短パルスで得ることができるため、これを用いれば、このレーザー光96に応じた短パルスで高強度のレーザーコンプトン光98を得ることができる。制御されたパルス状のレーザーコンプトン光98が得られることも、各種の実験においては極めて有利である。また、図16では記載を省略しているが、レーザー光96の偏光を制御するための偏光子をその光路中に設ければ、この偏光状態(偏光の種類や方向)はレーザーコンプトン光99においても維持される。これにより、偏光が制御されたX線やガンマ線を得ることも可能である。また、レーザーコンプトン光98は実際には発散して放射され、その発散角度によって異なるエネルギーをもつため、この発散を制限するコリメータも適宜用いられる。
【0006】
また、光だけでなく、単色の中性子線を用いても、中性子線回折等、各種の実験、分析が可能である。こうした単色の中性子線は、例えば非特許文献2に記載されるように、上記のようにして得られた単色ガンマ線をターゲットの原子核に照射することによって得られる。すなわち、レーザーコンプトン光発生装置を用いることによって、単色の中性子線を得ることも可能となる。
【0007】
こうしたレーザーコンプトン光を実際に各種の分析装置に用いる際に、その制御が容易となるような構成が提案されている。例えば、特許文献1には、衝突前の高エネルギー電子線の軌道を偏向磁石を用いて制御することにより、発生するレーザーコンプトン光の発せられる方向を制御したり、これを走査する技術が記載されている。
【0008】
このように、レーザーコンプトン光発生装置を用いて単色の高エネルギー光(X線、ガンマ線)が得られ、これを広い技術分野で使用することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Henry R.Weller、Mohammad W.Ahmed、Haiyan Gao、Wemer Tornow、 Ying K.Wu、 Moshe Gai、 and Rory Miskimen、「Research opportunities at the upgraded HIγS facility」、Progress in Particle and Nuclear Physics 62(2009)、p257(2009年)
【非特許文献2】D.Habs、T.Tajima、J.Schreiber、C.P.J.Barty、M.Fujiwara、and P.G.Thirolf、「Vision of nuclear physics with photo−nuclear reactions by laser−driven γ beams」、The European Physical Journal D 55(2009)、p279(2009年)
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−187725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の通り、レーザーコンプトン光発生装置を用いて単色に近いX線やガンマ線を得ることができる。しかしながら、理想的に単色のX線やガンマ線は得られていなかった。例えば、非特許文献1に記載された装置では100MeV程度のガンマ線が得られるものの、そのエネルギー半値幅は2〜10%程度であり、実際には厳密な単色とはなっていない。この程度の単色性で充分な場合も存在するものの、大半の実験においては、この単色性は不充分である。すなわち、レーザーコンプトン光の単色性は充分ではない。
【0012】
図16に示された構成において、レーザーコンプトン光99の単色性に影響を与える要因には各種のものがある。この主なものとしては、(1)高エネルギー電子線94の単色性、(2)レーザー光96の単色性、(3)衝突点98における高エネルギー電子線94の発散、(4)衝突点98におけるレーザー光96の発散、がある。一般的には、レーザー光96に関する(2)(4)の影響は、高エネルギー電子線94に関する(1)(3)の影響よりも小さい。また、高エネルギー電子線94の発散に関しては、限界はあるものの、例えば低エミッタンスの光陰極電子銃を電子銃91として使用すること等により、小さくすることが可能である。
【0013】
このため、実際にレーザーコンプトン光99の単色性に最も強く影響を与えるのは、(1)である。具体的には、高エネルギー電子線94のエネルギー半値幅がA%である場合、レーザーコンプトン光99のエネルギー半値幅は2A%となる。一般に、線形加速器等では、高周波によって電子が加速される。この際使用される高周波は正弦波であるため、ある一群の電子が加速されるに際し、全ての電子が同じ強度の加速電界を受けるわけではない。このため、電子ビームの進行方向に延びた形状となった電子群(バンチ)においては、エネルギーが厳密には一様とならない。単純化した計算においては、バンチの長さをs、この加速高周波の波長をλとした場合に、このバンチ中における電子のエネルギーの広がりは(2πs/λ)程度となる。これを小さくするためには、バンチの長さsを小さくする、あるいは高周波の波長λを大きくすることが有効であるが、どちらも加速器の設計上の限界がある。このため、高エネルギー電子線94の単色性を向上させることは困難であり、このためにレーザーコンプトン光99の単色性を向上させることも困難であった。こうした状況は、レーザーコンプトン光99がガンマ線である場合に限らず、X線等である場合においても同様である。
【0014】
すなわち、単色性の高いレーザーコンプトン光を得ることは困難であった。
【0015】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明のレーザーコンプトン光発生装置は、パルス状の高エネルギー粒子線とレーザー光とを衝突点において衝突させた際のコンプトン効果によって高エネルギー光を発生させるレーザーコンプトン光発生装置であって、進行方向に延びる線状となったバンチの形態で前記高エネルギー粒子線を発生させる粒子線発生手段と、前記レーザー光を発振するレーザー光源と、前記高エネルギー粒子線を前記衝突点に入射させる前に、前記衝突点において前記バンチが進行方向に対して傾斜角をもつように前記高エネルギー粒子線を偏向させる偏向手段と、を具備することを特徴とする。
本発明のレーザーコンプトン光発生装置において、前記粒子線発生手段は、電子銃と当該電子銃の後段に接続された線形加速器を具備することを特徴とする。
本発明のレーザーコンプトン光発生装置において、前記偏向手段は、前記電子銃と前記線形加速器との間に挿入されたことを特徴とする。
本発明のレーザーコンプトン光発生装置は、直列に接続された2つの線形加速器を具備し、前記偏向手段は、前記2つの線形加速器の間に挿入されたことを特徴とする。
本発明のレーザーコンプトン光発生装置において、前記偏向手段は、前記線形加速器の後段に挿入されたことを特徴とする。
本発明のレーザーコンプトン光発生装置において、前記粒子線発生手段は、電子銃と当該電子銃の後段に接続された入射用加速器とを具備する入射系と、当該入射系から出射されたパルス状の高エネルギー粒子線を高周波加速する加速空洞とを具備し、前記入射系から出射された高エネルギー粒子線を前記加速空洞を含む周回軌道で周回させる動作を繰り返し行う蓄積リングであり、前記衝突点は、前記周回軌道の中に設定され、前記偏向手段は、前記高エネルギー粒子線の進行方向において、前記加速空洞と前記衝突点との間に挿入されたことを特徴とする。
本発明のレーザーコンプトン光発生装置において、前記粒子線発生手段は、電子銃と当該電子銃の後段に接続された入射用加速器とを具備する入射系と、当該入射系から入射したパルス状の高エネルギー粒子線を高周波加速する主加速器と具備し、前記入射系から出射された高エネルギー粒子線を前記主加速器を含む周回軌道で1周させる動作を繰り返し行い、前記主加速器における前記高周波加速に用いられる高周波を、前記入射系から入射した高エネルギー粒子線に対しては加速する位相とし、前記周回軌道を1周した高エネルギー粒子線に対しては減速する位相とする、エネルギー回収型線形加速器であり、前記衝突点は、前記周回軌道の中に設定されたことを特徴とする。
本発明のレーザーコンプトン光発生装置において、前記偏向手段は、前記電子銃と前記入射用加速器との間に挿入されたことを特徴とする。
本発明のレーザーコンプトン光発生装置において、前記偏向手段は、前記入射用加速器と前記主加速器の間の前記周回軌道外に挿入されたことを特徴とする。
本発明のレーザーコンプトン光発生装置は、直列に接続された2つの入射用加速器を具備し、前記偏向手段は、前記2つの入射用加速器の間に挿入されたことを特徴とする。
本発明のレーザーコンプトン光発生装置において、前記偏向手段は、前記入射用加速器と前記主加速器の間の前記周回軌道中に挿入されたことを特徴とする。
本発明のレーザーコンプトン光発生装置において、前記偏向手段は、前記主加速器の後段の前記周回軌道中に挿入されたことを特徴とする。
本発明のレーザーコンプトン光発生装置は、直列に接続された2つの主加速器を具備し、前記偏向手段は、前記2つの主加速器の間に挿入されたことを特徴とする。
本発明のレーザーコンプトン光発生方法は、パルス状の高エネルギー粒子線とレーザー光とを衝突点において衝突させた際のコンプトン効果によって高エネルギー光を発生させるレーザーコンプトン光発生方法であって、進行方向に延びる線状となったバンチの形態で前記高エネルギー粒子線を発生させる粒子線発生工程と、前記レーザー光を発振するレーザー光発生工程と、前記衝突点において前記バンチが進行方向に対して傾斜角をもつように前記高エネルギー粒子線を偏向させる偏向工程と、前記レーザー光と偏向後の前記高エネルギー粒子線とを前記衝突点で衝突させる衝突工程と、を具備することを特徴とする。
本発明の中性子線発生装置は、前記レーザーコンプトン光発生装置と、当該レーザーコンプトン光発生装置から発せられたレーザーコンプトン光を吸収して中性子線を発するターゲットと、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は以上のように構成されているので、単色性の高いレーザーコンプトン光を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態となるレーザーコンプトン光発生装置の構成を示す図である。
【図2】電子パルスに対する偏向空洞の作用を説明する図である。
【図3】電子パルスに対する高周波加速の作用を説明する図である。
【図4】傾斜角がない場合(a)と、ある場合(b)における高エネルギー電子パルスとレーザー光との衝突の状況を示す概念図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態の第1の変形例となるレーザーコンプトン光発生装置の構成を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態の第2の変形例となるレーザーコンプトン光発生装置の構成を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態となるレーザーコンプトン光発生装置の構成を示す図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態となるレーザーコンプトン光発生装置の構成を示す図である。
【図9】本発明の第3の実施の形態の第1の変形例となるレーザーコンプトン光発生装置の構成を示す図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態の第2の変形例となるレーザーコンプトン光発生装置の構成を示す図である。
【図11】本発明の第3の実施の形態の第3の変形例となるレーザーコンプトン光発生装置の構成を示す図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態の第4の変形例となるレーザーコンプトン光発生装置の構成を示す図である。
【図13】本発明の第3の実施の形態の第5の変形例となるレーザーコンプトン光発生装置の構成を示す図である。
【図14】本発明の第3の実施の形態の第6の変形例となるレーザーコンプトン光発生装置の構成を示す図である。
【図15】本発明の第4の実施の形態例となる中性子線発生装置の構成を示す図である。
【図16】従来のレーザーコンプトン光発生装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係るレーザーコンプトン光発生装置の構成について説明する。このレーザーコンプトン光発生装置においては、進行方向に延びる線状となったバンチの形態で高エネルギー粒子線を発生させる粒子線発生手段が用いられる。同時に、レーザー光を発振するレーザー光源が用いられる。ここで、高エネルギー粒子線のエネルギーはレーザー光のエネルギーよりも大きい。この高エネルギー粒子線とレーザー光とが衝突点で衝突する設定され、(逆)コンプトン効果によってレーザー光が高エネルギー粒子線からエネルギーを受け取って高エネルギー化(短波長化)して、X線やガンマ線領域の光となる。ここでは、衝突点において、高エネルギー粒子線(バンチ)が進行方向に対して傾斜角をもつような形で偏向手段によって偏向される。高エネルギー粒子線は加速器によって得られ、レーザーコンプトン光発生装置は、加速器の種類に応じた複数の形態とされる。また、同種の加速器が用いられる場合においても、偏向手段が設置される箇所は複数とりうる場合がある。以下では、高エネルギー粒子線を構成する粒子が電子である場合について説明する。
【0020】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態となるレーザーコンプトン光発生装置10の構成を示す図である。このレーザーコンプトン光発生装置10における粒子線発生手段には、線形加速器が用いられている。図1の上側には、このレーザーコンプトン光発生装置10における電子パルスの形態の変遷が示されている。レーザー光と高エネルギー化されたこの電子パルスとが衝突する構成とされ、レーザー光が高エネルギー電子パルスからエネルギーを受け取ることにより、高エネルギー光(X線、ガンマ線)となる。
【0021】
電子銃11(粒子線発生手段)では、低エネルギー(例えば500keV以下)のパルス状の電子線(電子パルス12)が生成される。この電子パルス12は、その進行方向に沿った細長い形状(例えばその長さは1mm程度)とされる。この電子パルス12は、偏向空洞(偏向手段)13中を透過する。その後、偏向空洞13を通過した電子パルス12は、線形加速器(粒子線発生手段)14を通過する。線形加速器14中において、この電子パルス12は高周波加速を受け、例えば500MeV程度の高エネルギーとなった高エネルギー電子パルス(高エネルギー粒子線)15となる。
【0022】
一方、レーザー光源16は、可視光あるいは近赤外光でありパルス状のレーザー光17を発する。レーザー光17は、反射鏡18で反射されて、高エネルギー電子パルス15と衝突点19で衝突する設定とされる。この構成は、偏向空洞13が挿入された点以外においては、従来より知られるレーザーコンプトン光発生装置と同様である。このため、衝突点19から、高エネルギー光(X線、ガンマ線等)とされたレーザーコンプトン光20が発せられる。
【0023】
以下に、偏向空洞(偏向手段)13の構成及びその作用について説明する。図2は、偏向空洞13中において発生する高周波電気力131と、電子パルス12との関係を模式的に示す図である。ここで、電子パルス12の進行方向はz軸であるとする。この偏向空洞13中においては、電子パルス12の受ける電界分布を、z軸方向に沿って変化する正弦波状とする。これによって電子パルス12中の電子が受ける高周波電気力131を、先端部と末端部とで異なる向き、例えば進行方向先端部において上向きで進行方向末端部において下向きとなるようにする。これにより、電子パルス12は、進行方向に対して上向き(y方向)に傾く。すなわち、偏向空洞13によって電子パルス12はその進行方向に対して傾斜角をもつ。なお、電子の電荷は負であるために、実際の電界分布は図2中に示された高周波電気力131が反転した形状となるようにする。なお、電界ではなく、磁界によって同様の力が働く設定としてもよい。
【0024】
こうした電界分布を実現するための偏向空洞13の構成については、例えば、S.Belomestnykh等、Nuclear Instruments and Method、A614、p179(2010年)等に記載されている。電子パルス12の通過に同期して、その進行方向と垂直な方向に、電子パルス12を傾けるような形で力が加わる構成となっていればよい。偏光空洞13においては、このための電界又は磁界が印加される構成とされる。
【0025】
一方、線形加速器14中では、高周波の電界によって電子パルス12が加速される。この際の加速用高周波電界141の波形と電子パルス12の関係を模式的に示したのが図3である。加速用高周波電界141の波形は、一般的には正弦波形状(波長=λ)である。電子パルス12の長さをsとして、s<<λである場合には、電子パルスs中の全ての電子に対してほぼ一様な電界が印加されると考えることができる。しかしながら、そうでない場合においては、加速用高周波電界141の形状における曲率の影響が大きくなる。例えば、電子パルス12の中央と加速用高周波電界141のピークが整合する条件とした場合には、電子パルス12の中央部近辺の狭い範囲でのみ一様な電界が印加されていると考えることができ、両端部における電界はこれよりも低くなる。従って、この電子パルス12中の電子のエネルギー分布は、厳密には中央部で小さく、両端部で大きくなる。
【0026】
線形加速器14でこの電子パルス12が加速されるに際しては、軌道に対する収束力が働くため、前記の電子パルス12(高エネルギー電子パルス15)の傾斜角は一定ではなく、振動をする。このため、図1上側に示されるように、高エネルギー電子パルス15の傾斜角は、y方向で振動運動をする。衝突点19においては、この傾斜角が大きくなった状態(高エネルギー電子パルス15が進行方向から大きく傾いた状態)となるような設定とされる。
【0027】
図4は、この高エネルギー電子パルス15に傾斜角がない場合(a)と、ある場合(b)における衝突点19における高エネルギー電子パルス15とレーザー光17の状況を模式的に示した図である。ここで、高エネルギー電子パルス15とレーザー光17とは正面衝突する場合について記載している。高エネルギー電子パルス15と同様に、レーザー光17も、その進行方向と垂直な方向において有限の広がりをもつ。傾斜角がない場合(a)には、高エネルギー電子パルス15の全体がレーザー光17と衝突する。高エネルギー電子パルス15中に含まれる電子のエネルギーは、前記の通り厳密には一定ではない。このため、レーザー光17が単色であっても、レーザーコンプトン光20の単色性は、元のレーザー光17よりも劣化する。なお、実際にはレーザー光17は集光光学系によって衝突部19で集光されて照射される場合もあるが、状況は同様である。
【0028】
これに対して、傾斜角がある場合(b)には、高エネルギー電子パルス15中における衝突部分151のみが部分的にレーザー光17と衝突する。この範囲は、傾斜角がない場合(a)よりも小さくなるため、この内部における電子のエネルギー範囲は狭い。すなわち、衝突部分151内の電子の単色性は高い。単純化した計算によれば、高エネルギー電子パルス15(バンチ)の長さをs、加速高周波の波長をλとした場合には、このバンチにおける電子のエネルギーの広がりは(2πs/λ)程度となる。従って、傾斜角を設けることによって衝突部分151の長さを全体の1/3とするだけで、電子のエネルギーの広がりは1/9となる。これによって、レーザーコンプトン光20の単色性も向上する。なお、傾斜する方向は、高エネルギー電子パルス15の進行方向に対して垂直な方向であればよい。
【0029】
上記の構成は、従来のレーザーコンプトン光発生装置に、高エネルギー電子パルス15が傾斜角をもって衝突点に入射するように偏向空洞13を挿入するだけで実現できる。このため、単純な構成で単色性の向上したレーザーコンプトン光発生装置を得ることができる。
【0030】
なお、偏向空洞13の設置個所は適宜設定することが可能である。図5は、線形加速器を2つ(14A、14B)に分離して2段階に加速を行い、その間に偏向空洞13を挿入した例であり、図6は、偏向空洞13を線形加速器14の後段に挿入した例である。偏向空洞13で偏向する電子パルス12(高エネルギー電子パルス15)のエネルギーは、図1の構成において最も低く、図6の構成において最も高くなる。偏向空洞13においては、電子パルス12、加速後の高エネルギー電子パルス15のどちらも偏向することが可能であるが、一般に、偏向する電子パルス12(高エネルギー電子パルス15)のエネルギーが高いほど偏向空洞13に要求される入力パワーや、電気的特性の精度や形状精度等は高くなり、偏向空洞13は高価となる。このため、偏向する電子パルス12のエネルギーが最も低い図1の構成が最も低コストとなる。
【0031】
一方、前記の通り、衝突点19における高エネルギー電子パルス15の傾斜角を図4(b)に示されるように大きく設定することが必要である。この制御は主に偏向空洞13に印加した高周波の位相調整によって行われるが、衝突点19により近い箇所でこの制御を行うことがこの制御を精密に行うという点では有利である。このため、衝突点19に最も近い箇所でこの制御が行われる図6の構成がこの点では最も有利である。以上を考慮の上、偏向空洞13の挿入箇所は適宜設定することが可能である。
【0032】
なお、上記の構成において、高エネルギー電子パルス15とレーザー光17とを正面衝突させる設定としたが、厳密に正面衝突とする必要はなく、それぞれの軌道は、装置構成が容易なように適宜設定することが可能である。こうした場合においても、衝突点19において高エネルギー電子パルス15とレーザー光17とが図4(b)に示される形態で衝突するように偏向空洞13を制御することが可能である。この場合においては、レーザーコンプトン光20のエネルギーは、高エネルギー電子パルス15の軌道からの角度依存性をもつが、この角度を固定した場合には、単色とみなすことができる。ただし、これらの進行方向を同一直線上として正面衝突する設定とすることが、レーザーコンプトン光のエネルギーを高める上ではより好ましい。
【0033】
また、レーザーコンプトン光は、レーザー光に高エネルギー電子からエネルギーが移行して高エネルギー化した光であるため、その出力は、レーザ光のパルス出力波形に応じたパルス状となる。従来のレーザーコンプトン光における出力パルス長は、psec程度であった。これに対して、上記の構成によって、このパルス長が短くなることは、図4より明らかである。こうした超短パルスの形で得られた単色のX線やガンマ線は、各種の分析や物理実験において極めて有効である。
【0034】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係るレーザーコンプトン光発生装置においては、粒子線発生手段として蓄積リングが用いられている。蓄積リングにおいては、入射系から入射した電子線(電子パルス)が、偏向磁石によってその軌道が曲げられることによって周回軌道とされ、この周回軌道中に加速空洞が設けられる。このため、電子線を蓄積して電子数を高めることができ、蓄積された電子とレーザー光とを衝突させることができる。
【0035】
図7は、このレーザーコンプトン光発生装置30の構成及びこの中での電子パルスの形態を示す図である。入射系は電子銃11と入射用線形加速器33で構成される。電子銃11から発せられたパルス状の電子線(電子パルス32)は、入射用線形加速器33によって例えば500MeV程度まで加速された高エネルギー電子パルス34となる。その後、この高エネルギー電子パルス34は、加速空洞35を通り、複数の偏向磁石(図示せず)によってその軌道が曲げられることにより、図示される周回軌道を通って再び加速空洞35に戻るという動作を繰り返す。加速空洞35内では、印加された高周波電界によって高エネルギー電子パルス34は加速される。あるいは、偏向磁石のある場所で放射光となって失われたエネルギーがこれによって補充される。この構成により、このレーザーコンプトン光発生装置30においては、高エネルギー電子パルス(高エネルギー粒子線)34が周回軌道内で蓄積される。すなわち、この場合における粒子線発生手段は、電子銃11、入射用線形加速器33、加速空洞35、偏向磁石(図示せず)等からなる。第1の実施の形態と同様に、衝突点19においてレーザー光17が高エネルギー電子パルス34と衝突することによって、レーザーコンプトン光20が発生する。なお、この場合には、電子の軌道の1周の間において複数の高エネルギー電子パルス34が存在する状態とすることもできる。
【0036】
ここで、偏向空洞13は、周回軌道中の衝突点19の直前に設置されている。その動作は、第1の実施の形態と同様であり、これによって、衝突点19で高エネルギー電子パルス34はレーザー光17の進行方向との間の傾斜角をもつ構成とされる。これによって、レーザーコンプトン光20の単色性、短パルス性を向上させることができることも同様である。
【0037】
このレーザーコンプトン光発生装置30においては、高エネルギー電子パルス34が多数回この軌道を周回する。偏向空洞13が図7に示された箇所ではなく、電子がこの周回軌道に入る前(例えば入射用線形加速器33の直前)に設置された場合には、その後でこの高エネルギー電子パルス34は複数回この周回軌道を周回するため、衝突点19におけるこの傾斜角を制御して図4(b)の状態を実現させることが困難である。これに対して、偏向空洞13を図7に示された箇所に設置し、衝突点19でレーザー光17と衝突する直前の直線部における高エネルギー電子パルス34に対してのみ偏向電界を印加する構成とすれば、図4(b)の構成を実現させることができる。
【0038】
以上より、蓄積リングを用いたレーザーコンプトン光発生装置30においては、偏向空洞を周回軌道の途中に設置することが特に好ましい。
【0039】
このレーザーコンプトン光発生装置30においては、レーザー光17と衝突する電子数を高めることができるため、高強度のレーザーコンプトン光20を得ることができる。
【0040】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態に係るレーザーコンプトン光発生装置においては、粒子線発生手段として、エネルギー回収型線形加速器(ERL:Energy Recovery Linac)が用いられている。例えば特開2004−119097号公報に記載されているように、ERLにおいては、電子パルスは前記の蓄積リングと同様に電子は周回軌道を通るが、一つの電子パルスはこれを1周しただけで減衰する。この際、このエネルギーの減衰分が次の電子パルスの加速に用いられる。
【0041】
図8は、このレーザーコンプトン光発生装置40の構成を示す図である。この構成においては、電子銃11から発せられたパルス状の電子線(電子パルス42)は、偏向空洞13を通って入射用加速器43に入射し、例えば500MeV程度まで加速された高エネルギー電子パルス44となる。その後、この高エネルギー電子パルス44は周回軌道上の主加速器45に入射する。主加速器45は、例えば超伝導材料からなる加速空洞であり、この中で高周波によって高エネルギー電子パルス44は1GeV以上のエネルギーまで加速される。第2の実施の形態と同様に、この周回軌道は複数の偏向磁石(図示せず)によって維持され、周回軌道の途中にある衝突点19でレーザー光17と高エネルギー電子パルス(高エネルギー粒子線)44が衝突する設定とされ、レーザーコンプトン光20が得られる。
【0042】
この際、電子パルス42は、主加速器45で加速され、レーザー光17と衝突しない場合には、軌道を1周して再び主加速器45に入射する。この際、1周して戻ってきた高エネルギー電子パルス44と、入射用加速器43から次に入射する高エネルギー電子パルス44とが、加速用高周波における異なる位相となるタイミングで主加速器45に入射する。この際に用いられる高周波において、戻ってきた高エネルギー電子パルス44はこれを減速する位相で入射し、次の高エネルギー電子パルス44はこれを加速する位相で入射する。これにより、戻ってきた高エネルギー電子パルス44のエネルギーを次の高エネルギー電子パルス44に移行することができる。これにより減衰した高エネルギー電子パルス44は、金属等で構成されたビームダンプ46に吸収されて消滅する。以上の構成により、効率的に主加速器44で加速された高エネルギー電子パルス(高エネルギー粒子線)44が得られ、これをレーザー光17と衝突させてレーザーコンプトン光20を得ることができる。すなわち、この場合の粒子線発生手段は、電子銃11、入射用加速器43、主加速器45、偏向磁石(図示せず)等からなる。
【0043】
この構成においては、古い高エネルギー電子パルス44のエネルギーの減衰分を新しい高エネルギー電子パルス44に移行させることができるため、エネルギー利用効率の高い加速器となる。また、第2の実施の形態で用いられた蓄積リングにおいては、高エネルギー電子パルス34が軌道を周回する毎にその進行方向に垂直な広がり(エミッタンス)が大きくなるため、これらを小さく保つことが困難である。これに対して、ERLにおいては、高エネルギー電子パルス44は軌道を1周しかしないため、エミッタンスを小さくすることができる。このため、得られるレーザーコンプトン光20の単色性や短パルス性を特に高めることができる。
【0044】
蓄積リングを用いた前記のレーザーコンプトン光発生装置30と異なり、このレーザーコンプトン光発生装置40においては、高エネルギー電子パルス44は軌道を1周しかしないため、偏向空洞13を設置する個所としては多数が可能である。図8の例では、エネルギーが低い電子パルス42となっている箇所である入射用加速器43の前に、偏向空洞13を設置することができる。衝突点19に高エネルギー電子パルス44が達する前に、この高エネルギー電子パルス44は、主加速器45や偏向磁石等の影響を受け、その間に高エネルギー電子パルス44の傾斜角は振動によって変化する。このため、偏向空洞13において印加する高周波電界は、衝突点19における高エネルギー電子パルス44が図4(b)と同様の形態となるように適宜設定される。
【0045】
また、この変形例である図9の構成においては、入射用加速器43の直後の周回軌道外に偏向空洞13を設置している。図10の構成においては、入射用加速器を2つ(43A、43B)に分割し、これらの間に偏向空洞13を設置している。図11の構成においては、周回軌道中における主加速器45の前段に偏向空洞13を設置しており、図12の構成においては、これを後段に設置している。また、図13の構成においては、主加速器を2つ(45A、45B)に分割し、これらの間に偏向空洞13を設置している。図14の構成においては、偏向空洞13を主加速器45の後段の衝突点19に近い直線部に挿入している。
【0046】
このように、ERLを用いた場合には、第2の実施の形態と同様に電子線の軌道は周回軌道とされるものの、偏向空洞13をこの周回軌道の内外に挿入することが可能である。電子パルス42(高エネルギー電子パルス44)のエネルギーが低い箇所に偏向空洞13を設置すれば装置全体の低コスト化が可能であり、衝突点19に近い箇所に偏向空洞13を設置すれば、より精密な制御が可能となる点は、第1の実施の形態と同様である。
【0047】
(第4の実施の形態)
第4の実施の形態は、レーザーコンプトン光発生装置を用いた中性子線発生装置である。この構成は、レーザーコンプトン光発生装置として、単色性が高い前記のレーザーコンプトン光発生装置を用いた以外については、非特許文献2に記載のものと同様である。図15は、この中性子線発生装置60の構成の概略を示す図である。この構成においては、例えば181Taのように単一の核種で構成されたターゲット61に、レーザーコンプトン光発生装置10で発生させたガンマ線(レーザーコンプトン光20)を照射する。ここで、ガンマ線のエネルギーは、ターゲット61を構成する材料の原子核において(γ、n)反応を発生させる閾値よりも高くする。これにより、このレーザーコンプトン光20を吸収し、このエネルギーとこの核種における中性子離脱エネルギーの差となるエネルギーをもつ単色の中性子線62が、(γ、n)反応によってターゲット60から発生する。これを末端の中性子利用実験設備70で使用することができる。中性子線62はガンマ線の入射点から発散して発せられるため、複数の中性子利用実験設備70を同時に使用することが可能である。中性子線62のエネルギーは、レーザーコンプトン光20のエネルギーによって決まるため、線形加速器14によって電子パルス12のエネルギーを制御することにより、中性子線61のエネルギーの制御が可能である。この際、レーザーコンプトン光20の単色性が高いために、中性子線62の単色性も高まる。ここで、中性子線62の単色性を高めるためには、ターゲット61を、単一の核種(単一の同位体)からなる材料で構成することが特に好ましく、こうした材料としてはTaやBiがある。また、レーザー光17と同期した短パルス出力とされた中性子線62が得られるため、中性子線62の出力タイミングの制御も容易である。
【0048】
単色の中性子線62を利用する中性子利用実験設備70で行われる実験としては、中性子線回折による物質の構造解析、中性子散乱による磁気構造解析、即発ガンマ線分析による原子核種の解析等がある。中性子線62の単色性を向上させることによって、これらの解析の精度も向上する。
【0049】
なお、上記の例では、高エネルギー電子線を得るための加速器(粒子線発生手段)として、線形加速器、蓄積リング、ERLを使用した例について記載したが、これら以外の加速器を用いた場合でも、バンチの形態で準単色の高エネルギー電子線が得られる加速器であれば、同様の構成とすることができることは明らかである。
【0050】
なお、上記の例では、高エネルギーの電子線(電子パルス)とレーザー光との衝突によって発生したレーザーコンプトン光を発生させる例について記載した。しかしながら、電子線の代わりに、準単色の高エネルギービームとすることができる他の粒子線、例えば陽電子線を用いても同様にレーザーコンプトン光が得られることは明らかである。
【0051】
また、上記の構成以外であっても、前記と同様の高エネルギー粒子線を発生させる粒子線発生工程、レーザー光を発振するレーザー光発生工程、前記の通りに高エネルギー粒子線を偏向させる偏向工程、偏向した高エネルギー粒子線とレーザー光とを衝突点で衝突させる衝突工程、を具備するレーザーコンプトン光発生方法を用いれば、同様に単色性、短パルス性に優れたレーザーコンプトン光を得ることができる。
【0052】
また、レーザーコンプトン光のエネルギーは任意とすることができる。一般にX線領域では放射光を用いて充分な強度の光を得ることができるのに対して、特に1MeV以上のエネルギーのガンマ線を充分な強度で発する有効な光源は知られていない。このため、上記の構成のレーザーコンプトン光発生装置は、特にガンマ線領域の光源として極めて有効である。これを用いた中性子線発生装置についても、単色の中性子線を発生させることができるため、同様に有効である。
【符号の説明】
【0053】
10、30、40、90 レーザーコンプトン光発生装置
11、91 電子銃
12、32、42 電子パルス
13 偏向空洞(偏向手段)
14、14A、14B、93 線形加速器(粒子線発生手段)
15、34、44 高エネルギー電子パルス(高エネルギー粒子線)
16、95 レーザー光源
17、96 レーザー光
18、97 反射鏡
19、98 衝突点
20、99 レーザーコンプトン光
33 入射用線形加速器(粒子線発生手段)
35 加速空洞(粒子線発生手段)
43、43A、43B 入射用加速器(粒子線発生手段)
45、45A、45B 主加速器(粒子線発生手段)
46 ビームダンプ
60 中性子線発生装置
61 ターゲット
62 中性子線
70 中性子利用実験設備
131 高周波電気力
141 加速用高周波電界
151 衝突部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状の高エネルギー粒子線とレーザー光とを衝突点において衝突させた際のコンプトン効果によって高エネルギー光を発生させるレーザーコンプトン光発生装置であって、
進行方向に延びる線状となったバンチの形態で前記高エネルギー粒子線を発生させる粒子線発生手段と、
前記レーザー光を発振するレーザー光源と、
前記高エネルギー粒子線を前記衝突点に入射させる前に、前記衝突点において前記バンチが進行方向に対して傾斜角をもつように前記高エネルギー粒子線を偏向させる偏向手段と、
を具備することを特徴とするレーザーコンプトン光発生装置。
【請求項2】
前記粒子線発生手段は、電子銃と当該電子銃の後段に接続された線形加速器を具備することを特徴とする請求項1に記載のレーザーコンプトン光発生装置。
【請求項3】
前記偏向手段は、前記電子銃と前記線形加速器との間に挿入されたことを特徴とする請求項2に記載のレーザーコンプトン光発生装置。
【請求項4】
直列に接続された2つの線形加速器を具備し、前記偏向手段は、前記2つの線形加速器の間に挿入されたことを特徴とする請求項2に記載のレーザーコンプトン光発生装置。
【請求項5】
前記偏向手段は、前記線形加速器の後段に挿入されたことを特徴とする請求項2に記載のレーザーコンプトン光発生装置。
【請求項6】
前記粒子線発生手段は、電子銃と当該電子銃の後段に接続された入射用加速器とを具備する入射系と、当該入射系から出射されたパルス状の高エネルギー粒子線を高周波加速する加速空洞とを具備し、前記入射系から出射された高エネルギー粒子線を前記加速空洞を含む周回軌道で周回させる動作を繰り返し行う蓄積リングであり、
前記衝突点は、前記周回軌道の中に設定され、
前記偏向手段は、前記高エネルギー粒子線の進行方向において、前記加速空洞と前記衝突点との間に挿入されたことを特徴とする請求項1に記載のレーザーコンプトン光発生装置。
【請求項7】
前記粒子線発生手段は、電子銃と当該電子銃の後段に接続された入射用加速器とを具備する入射系と、当該入射系から入射したパルス状の高エネルギー粒子線を高周波加速する主加速器と具備し、前記入射系から出射された高エネルギー粒子線を前記主加速器を含む周回軌道で1周させる動作を繰り返し行い、前記主加速器における前記高周波加速に用いられる高周波を、前記入射系から入射した高エネルギー粒子線に対しては加速する位相とし、前記周回軌道を1周した高エネルギー粒子線に対しては減速する位相とする、エネルギー回収型線形加速器であり、
前記衝突点は、前記周回軌道の中に設定されたことを特徴とする請求項1に記載のレーザーコンプトン光発生装置。
【請求項8】
前記偏向手段は、前記電子銃と前記入射用加速器との間に挿入されたことを特徴とする請求項7に記載のレーザーコンプトン光発生装置。
【請求項9】
前記偏向手段は、前記入射用加速器と前記主加速器の間の前記周回軌道外に挿入されたことを特徴とする請求項7に記載のレーザーコンプトン光発生装置。
【請求項10】
直列に接続された2つの入射用加速器を具備し、前記偏向手段は、前記2つの入射用加速器の間に挿入されたことを特徴とする請求項7に記載のレーザーコンプトン光発生装置。
【請求項11】
前記偏向手段は、前記入射用加速器と前記主加速器の間の前記周回軌道中に挿入されたことを特徴とする請求項7に記載のレーザーコンプトン光発生装置。
【請求項12】
前記偏向手段は、前記主加速器の後段の前記周回軌道中に挿入されたことを特徴とする請求項7に記載のレーザーコンプトン光発生装置。
【請求項13】
直列に接続された2つの主加速器を具備し、前記偏向手段は、前記2つの主加速器の間に挿入されたことを特徴とする請求項7に記載のレーザーコンプトン光発生装置。
【請求項14】
パルス状の高エネルギー粒子線とレーザー光とを衝突点において衝突させた際のコンプトン効果によって高エネルギー光を発生させるレーザーコンプトン光発生方法であって、
進行方向に延びる線状となったバンチの形態で前記高エネルギー粒子線を発生させる粒子線発生工程と、
前記レーザー光を発振するレーザー光発生工程と、
前記衝突点において前記バンチが進行方向に対して傾斜角をもつように前記高エネルギー粒子線を偏向させる偏向工程と、
前記レーザー光と偏向後の前記高エネルギー粒子線とを前記衝突点で衝突させる衝突工程と、
を具備することを特徴とするレーザーコンプトン光発生方法。
【請求項15】
請求項1から請求項13までのいずれか1項に記載のレーザーコンプトン光発生装置と、
当該レーザーコンプトン光発生装置から発せられたレーザーコンプトン光を吸収して中性子線を発するターゲットと、
を具備することを特徴とする中性子線発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−33338(P2012−33338A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170647(P2010−170647)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】