説明

レーザーマーキング用シート及びその製造方法

【課題】レーザー光線の照射を受けることにより、印字部と生地色のコントラストが高く、鮮明な文字、記号、写真等のマーキングが良好に得られ、更に、無彩色だけでなく有彩色も発色可能なレーザーマーキング用シートを提供する。
【解決手段】本発明のレーザーマーキング用シート1は、熱可塑性樹脂からなる光透過性シート2と、この光透過性シート2の裏面側に形成された接着剤層3とを備え、接着剤層3が、レーザー光線を吸収して発色を生じさせるエネルギー吸収剤5を分散させてなるアクリル樹脂系の接着剤4から形成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーマーキング用シート及びその製造方法に関する。更に詳しくは、レーザー光線の照射を受けることにより、印字部と生地色のコントラストが高く、鮮明な文字、記号、写真等のマーキングが良好に得られ、更に、無彩色だけでなく有彩色も発色可能なレーザーマーキング用シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形品表面への印刷は、従来、タンポ印刷、シルク印刷、インクジェット印刷、熱転写印刷等のインキを用いた印刷方法が用いられている。この方法では、有機溶媒を含有するインキを使用するため環境衛生上問題があること、印刷時にインキの滲みが発生すること、印刷部の耐摩耗性が劣ること、屋外使用では使用するインキの耐候性に問題があること、成形品形状が複雑なものでは印刷ができない等の種々の問題がある。
【0003】
また、従来から、クレジットカード、キャッシュカード、IDカード、タグカード、表示板、認証プレート等の基板用途にプラスチックシートが用いられており、これらのカードやプレートに、個人名、記号、文字、写真をシルク印刷、昇華性印刷を施しているが、生産工程が複雑で生産性が劣るという問題がある。
【0004】
一方、インキを使用しない印刷方法として、レーザー光線を照射してプラスチック成形品に印刷するレーザーマーキング法(例えば,特許文献1又は2参照)が提案されている。更に、近年では、カラーマーキング可能なカラーマーキング用樹脂組成物として、例えば、熱硬化性樹脂に、発色成分としてロイコ化合物(ロイコ染料)を含有させた樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献3及び4参照)。
【0005】
【特許文献1】特公昭61−11771号公報
【特許文献2】特公平2−47314号公報
【特許文献3】特開平9−302236号公報
【特許文献4】特開2003−321615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記したような従来のマーキング用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等の樹脂中に発色成分を含有させた樹脂組成物であるため、マーキング用樹脂組成物を所定の形状、例えば、シート状等に成形する際に、加熱を伴う成形工程が必要である。上記特許文献3及び4のマーキング用樹脂組成物に含まれる発色成分は、加熱することによって発色してしまうため、上記した成形工程において樹脂組成物中の発色成分が発色してしまい、レーザーマーキングによる印字部と生地色のコントラストが低下し、鮮明な文字、記号、写真等のマーキングが得られないという問題があった。
【0007】
また、上記した特許文献1又は2に記載のレーザーマーキング法に用いられるマーキング用樹脂組成物は、組成物中にカーボンが含まれたものであるが、このようなマーキング用樹脂組成物は、レーザーマーキングによって発色可能な色が限られており、使用用途が限定されてしまうという問題があった。例えば、このようなレーザーマーキング法では、透明の成形品に白色を発色させることは極めて困難である。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、レーザー光線の照射を受けることにより、印字部と生地色のコントラストが高く、鮮明な文字、記号、写真等のマーキングが得られ、更に、無彩色だけでなく有彩色も発色可能なレーザーマーキング用シート及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記のような従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、光透過性シートの裏面側に、レーザー光線を吸収して発色を生じさせるエネルギー吸収剤を分散させてなるアクリル樹脂系の接着剤を用いて接着剤層を形成することにより、上記課題が解決されることに想到し、本発明を完成させた。具体的には、本発明により、以下のレーザーマーキング用シート及びその製造方法が提供される。
【0010】
[1] 熱可塑性樹脂からなる光透過性シートと、前記光透過性シートの裏面側に形成された接着剤層とを備え、前記接着剤層が、レーザー光線を吸収して発色を生じさせるエネルギー吸収剤を分散させてなるアクリル樹脂系の接着剤から形成されたものであるレーザーマーキング用シート。
【0011】
[2] 前記接着剤層が、25℃における粘度が2000〜500000mPa・sの前記接着剤から形成されたものである前記[1]に記載のレーザーマーキング用シート。
【0012】
[3] 前記接着剤層が、前記エネルギー吸収剤としてカーボンブラックを分散させてなるアクリル樹脂系の接着剤から形成されたものである前記[1]又は[2]に記載のレーザーマーキング用シート。
【0013】
[4] 前記接着剤層が、前記エネルギー吸収剤としてロイコ染料と顕色剤とを分散させてなるアクリル樹脂系の接着剤から形成されたものである前記[1]又は[2]に記載のレーザーマーキング用シート。
【0014】
[5] 前記接着剤層の厚さが5〜500μmである前記[1]〜[4]のいずれかに記載のレーザーマーキング用シート。
【0015】
[6] 前記接着剤層が、予め着色されたものである前記[1]〜[5]のいずれかに記載のレーザーマーキング用シート。
【0016】
[7] 前記光透過性シートは、光透過率が40%以上のものである前記[1]〜[6]のいずれかに記載のレーザーマーキング用シート。
【0017】
[8] 熱可塑性樹脂からなる光透過性シートと、前記光透過性シートの裏面側に形成された接着剤層とを備えたレーザーマーキング用シートを製造する方法であって、アクリル樹脂系の接着剤に、レーザー光線を吸収して発色を生じさせるエネルギー吸収剤を分散させて、エネルギー吸収剤含有接着剤を得、得られた前記エネルギー吸収剤含有接着剤を、前記光透過性シートの裏面側に塗工して前記接着剤層を形成するレーザーマーキング用シートの製造方法。
【0018】
[9] 前記エネルギー吸収剤含有接着剤を、25℃における粘度が2000〜500000mPa・sとなるように調製して、前記光透過性シートの裏面側に塗工する前記[8]に記載のレーザーマーキング用シートの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のレーザーマーキング用シートは、レーザー光線を吸収して発色を生じさせるエネルギー吸収剤を分散させてなるアクリル樹脂系の接着剤から形成された接着剤層を備えているため、エネルギー吸収剤を含む層が形成される際に、圧縮成形や射出成形等の加熱を伴う樹脂の成形工程を必要としない。このため、レーザーマーキング前のエネルギー吸収剤の発色が有効に防止されており、レーザー光線の照射を受けることにより、印字部と生地色のコントラストが高く、鮮明な文字、記号、写真等のマーキングが良好に得られる。特に、本発明のレーザーマーキング用シートは、無彩色の発色だけではなく、有彩色の発色においても有効である。また、本発明のレーザーマーキング用シートの製造方法は、このようなレーザーマーキング用シートを簡便且つ低コストに製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「実施形態」という)を具体的に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0021】
[1]レーザーマーキング用シート:
図1は、本発明のレーザーマーキング用シートの一実施形態の構成を説明する模式図であり、レーザーマーキング用シートの表面に垂直な断面を示す図である。本発明のレーザーマーキング用シート1は、熱可塑性樹脂からなる光透過性シート2と、この光透過性シート2の裏面側に形成された接着剤層3とを備え、接着剤層3が、レーザー光線を吸収して発色を生じさせるエネルギー吸収剤5を分散させてなるアクリル樹脂系の接着剤4から形成されたものである。
【0022】
本実施形態のレーザーマーキング用シート1は、エネルギー吸収剤5が上記した接着剤層3に含まれているため、エネルギー吸収剤5を含む層が形成される際に、圧縮成形や射出成形等の加熱を伴う樹脂の成形工程を必要としない。具体的には、レーザーマーキング用シート1の接着剤層3を、他のシートや成形品の表面に貼着させることにより、加熱を伴うことなく経時的に接着剤層3が硬化し、エネルギー吸収剤5を含む接着剤4から形成された接着剤層3の硬化層3a(以下、「接着剤硬化層」ということがある)を形成することができる。このため、レーザーマーキング前のエネルギー吸収剤5による発色が有効に防止されており、レーザー光線の照射を受けることにより、印字部と生地色のコントラストが高く、鮮明な文字、記号、写真等のマーキングが良好に得られる。特に、本実施形態のレーザーマーキング用シートは、無彩色の発色だけではなく、熱によって発色が生じ易い有彩色の発色においても有効である。
【0023】
本実施形態のレーザーマーキング用シート1は、図2に示すように、光透過性シート2の表面側にレーザー光線6の照射を受けることにより、レーザー光線6が光透過性シート2を透過して、接着剤層3又はこの接着剤層3が硬化した接着剤硬化層3aに達し、接着剤層3中のエネルギー吸収剤5がレーザー光線を吸収して発色を生じさせる。このようにして、レーザー光線6の照射を受けた部分にマーキング7が形成される。ここで、図2は、図1に示すレーザーマーキング用シートにレーザー光線を照射してマーキングを行う工程を示す模式図である。
【0024】
なお、本実施形態のレーザーマーキング用シートは、接着剤層に予め別の部材を貼着させたものであってもよい。例えば、図3に示すように、光透過性シート2の裏面側に形成された接着剤層3に貼着された裏面シート11を更に備えたレーザーマーキング用シート10を挙げることができる。ここで、図3は、本発明のレーザーマーキング用シートの他の実施形態の構成を説明する模式図であり、レーザーマーキング用シートの表面に垂直な断面を示す図である。
【0025】
このように、接着剤層3の接着面に、裏面シート11等の別の部材を予め貼着させたレーザーマーキング用シート10においては、この接着剤層3が、流動性を有する硬化前の状態のものであってもよいし、既に硬化した状態のもの、即ち、上記した接着剤硬化層3aであってもよい。
【0026】
本実施形態のレーザーマーキング用シートは、例えば、各種カード、具体的には、クレジットカード、キャッシュカード、IDカード、タグカード、表示板、認証プレート、ETCカード等に好適に用いることができる。また、看板、窓、容器、床材、目盛付窓、レベル窓、文具、ファイリングケース、下敷、カレンダー、ものさし等にも好適に用いることができる。
【0027】
[1−1]光透過性シート:
図1に示すように、本実施形態のレーザーマーキング用シート1の光透過性シート2としては、レーザーマーキング用シート1の表面層として用いられるものであり、レーザーマーキングを行うためのレーザー光線が透過可能であり、さらに、接着剤層3中のエネルギー吸収剤5によって発色を生じさせた際には、光透過性シート2の表面側から発色(マーキング)を視認可能な、熱可塑性樹脂からなるシートである。そして、この光透過性シート2は、エネルギー吸収剤5が含まれる接着剤層3の基材となるとともに、この光透過性シート2によって、接着剤層3又はこの接着剤層3が硬化した接着剤硬化層3aを保護することもできる。これにより、外観の損傷がなく、表面平滑性の優れたレーザーマーキングが可能となる。
【0028】
本実施形態のレーザーマーキング用シート1に用いられる光透過性シート2は、全光線透過率が40%以上であることが好ましく、70%以上であることが更に好ましく、80%以上であることが特に好ましい。なお、この全光線透過率は、JIS−K7105(光線透過率及び全光線反射率)に準拠して測定した値のことである。例えば、この全光線透過率は、日本電色工業製のヘイズメーター(商品名:「NDH 2000」)を用いて測定することができる。
【0029】
この熱可塑性樹脂からなる光透過性シートを構成する材料としては、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET、A−PET、PETG)、ポリシクロヘキサン1,4−ジメチルフタレート(PCT)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、透明ABS(MABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等を用いることができる。本発明のレーザーマーキング用シートにおいては、透明性、耐熱性、耐衝撃性、強靱性等に優れたポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)等が特に好ましい。
【0030】
また、光透過性シートの厚さは、0.5〜2000μmであることが好ましく、1〜1500μmであることが更に好ましく、5〜1000μmであることが特に好ましい。
【0031】
また、この光透過性シートは、所期の光透過性が得られるのであれば、例えば、着色剤、安定剤、離型剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、強化剤等を含んだものであってもよい。
【0032】
このような光透過性シートは、従来公知の熱可塑性樹脂からなるシートを形成する方法によって得ることができる。例えば、上記した熱可塑性樹脂を、溶融押し出し機を用いてシート状に成形する方法等を挙げることができる。
【0033】
[1−2]接着剤層:
本発明のレーザーマーキング用シートの接着剤層3は、レーザー光線を吸収して発色を生じさせるエネルギー吸収剤5を分散させてなるアクリル樹脂系の接着剤4から形成されたものである。この接着剤層3は、上記した光透過性シート2の裏面側に形成されている。このような接着剤層3は、光透過性シート2の裏面側に上記した構成の接着剤4(以下、「エネルギー吸収剤含有接着剤」ということがある)を塗工(コンバート)することより形成することができる。
【0034】
本発明のレーザーマーキング用シート1は、この接着剤層3を他のシートや成形品に貼着させた後、接着剤層3を硬化させることにより、エネルギー吸収剤5を含む接着剤層3の硬化層3aを形成することができる。このため、レーザー照射の前における、エネルギー吸収剤5による発色が有効に防止されている。
【0035】
本発明のレーザーマーキング用シート1の接着剤層3を形成する接着剤4としては、上記したように、アクリル樹脂を主成分とするアクリル樹脂系の接着剤が用いられる。このような接着剤4を用いることにより、図2に示すように、レーザー光線6を照射した際に、印字部と生地色のコントラストが高く、鮮明な文字、記号、写真等のマーキング7を良好に得ることができる。
【0036】
また、レーザーマーキングによるコントラストの良否は、接着剤層3を形成する接着剤4の粘度にも依存する。具体的には、接着剤4の25℃における粘度は、2000〜500000mPa・sであることが好ましく、5000〜300000mPa・sであることが更に好ましく、10000〜200000mPa・sであることが特に好ましい。このような粘度の接着剤4を用いて接着剤層3を形成することによって、コントラストに優れたマーキングを良好に得ることができる。なお、接着剤の粘度は、公知の回転式粘度計を用いて測定することができる。
【0037】
エネルギー吸収剤としては特に制限はなく、従来公知のレーザーマーキング用のエネルギー吸収剤を用いることができる。具体的には、例えば、レーザー光線の照射を受けることにより無彩色(例えば、白又は黒)の発色を生じさせる際には、エネルギー吸収剤としてカーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、炭酸塩、金属ケイ酸塩等を分散させてなるアクリル樹脂系の接着剤を用いて接着剤層を形成すればよい。例えば、このカーボンブラックは、レーザー光線のパワーを低くすることによって、白色の発色を生じさせることができ、レーザー光線のパワーを高くすることによって、黒色の発色を生じさせることができる。
【0038】
上記した金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化鉄、鉄黒、酸化チタン、酸化珪素、三酸化アンチモン等を挙げることができる。さらに、金属硫化物としては、硫化亜鉛、硫化カドミニウム等を挙げることができる。さらに、炭酸塩としては炭酸カルシウム等が、また、金属ケイ酸塩としてはケイ酸アルミナ、鉄を含むケイ酸アルミナ(マイカ)、含水ケイ酸アルミナ(カオリン)、ケイ酸マグネシウム(タルク)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等を挙げることができる。以上のエネルギー吸収体は、1種単独で使用することも、また2種以上を併用することもできる。
【0039】
このような無彩色の発色を生じさせるエネルギー吸収剤、例えば、カーボンブラックは、接着剤層を形成するためのアクリル樹脂系の接着剤(エネルギー吸収剤を含んでいないもの)100質量部に対して、0.001〜10質量部含まれていることが好ましく、0.01〜1.0質量部含まれていることが更に好ましい。なお、エネルギー吸収剤の量が0.001質量部未満であると、発色が薄くなり、十分なコントラストが得られないことがある。一方、10質量部を超えると、エネルギー吸収機能が過剰となりコントラストの低下、また、接着剤層又は接着剤硬化層に破損を生じることがある。
【0040】
また、レーザー光線の照射を受けることにより有彩色の発色を生じさせる際には、エネルギー吸収剤としてロイコ染料と顕色剤とを分散させてなるアクリル樹脂系の接着剤を用いて接着剤層を形成すればよい。ロイコ染料は、酸化されることによって発色する電子供与性染料であり、例えば、ベンゾイルロイコメチレンブルー等のチアジン系ロイコ染料、フルオラン系ロイコ染料、3−メチルジナフトスピロピラン等のスピロピラン系ロイコ染料、クリスタルバイオレットラクトン等のトリフェニルメタン系ロイコ染料、ロイコオーラミン等のジフェニルメタン系ロイコ染料などを挙げることができる。
【0041】
例えば、このようなロイコ染料の市販品としては、全て商品名で、「RED−40」、「BLUE−63」、「GREEN−118」、及び「ODB」(以上、山本化成社製)、「RED500」、「CVL」、及び「ETAC」(以上、山田化学社製)を挙げることができる。なお、複数のロイコ染料を組み合わせて用いることにより、例えば、黄、青、赤、緑、橙、紫等の様々な色彩の発色を生じさせることができる。
【0042】
このようなロイコ染料は、接着剤層を形成するためのアクリル樹脂系の接着剤(エネルギー吸収剤を含んでいないもの)100質量部に対して、0.01〜30質量部含まれていることが好ましく、0.1〜15質量部含まれていることが更に好ましい。なお、ロイコ染料の量が0.01質量部未満であると、発色が薄くなり、十分なコントラストが得られないことがある。一方、30質量部を超えると、エネルギー吸収機能が過剰となりコントラストの低下、また、接着剤層又は接着剤硬化層に破損を生じることがある。
【0043】
また、ロイコ染料とともに用いられる顕色剤としては、従来公知の感熱染料等に用いられる顕色剤を用いることができ、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン<ビスフェノールS>等のビスヒドロキシフェニルスルホン類、4−ヒドロキシ−4’−イソプロポキシジフェニルスルホン等の4−ヒドロキシフェニルアリールスルホン類を好適例として挙げることができる。例えば、このような顕色剤の市販品としては、商品名で、「BPS−MAE」(日華化学社製)を挙げることができる。
【0044】
このような顕色剤は、接着剤層を形成するためのアクリル樹脂系の接着剤(エネルギー吸収剤を含んでいないもの)100質量部に対して、0.01〜60質量部含まれていることが好ましく、0.1〜30質量部含まれていることが更に好ましい。なお、顕色剤の量が0.01質量部未満であると、発色が弱くなり十分なコントラストが得られないことがある。一方、60質量部を超えると、エネルギー吸収機能が過剰となり、コントラストが低下したり、接着剤層又は接着剤硬化層に破損を生じることがある。
【0045】
エネルギー吸収剤として、上記したロイコ染料と顕色剤を用いる際には、ロイコ染料と顕色剤のいずれか一方、又は、ロイコ染料と顕色剤をそれぞれ別々にカプセル化してもよい。カプセル化の方法としては、例えば、水を分散媒体とし、ロイコ染料又は顕色剤を湿式粉砕した後、コアセルベーション法又はin−situ法によってカプセル化する方法を挙げることができる。このように構成することによって、より鮮明な発色を実現することができるとともに、レーザー照射前にロイコ染料と顕色剤とが反応し発色してしまうことを有効に防ぐことができる。
【0046】
エネルギー吸収剤をカプセル化する際の壁膜材としては、レーザーマーキング時に壁膜材が破壊し得るものであれば特に制限はないが、例えば、上記したコアセルベーション法ではゼラチンを用いることができ、また、上記したin−situ法ではメラミン−ホルムアルデヒド樹脂を用いることができる。
【0047】
なお、固体状のロイコ染料を湿式粉砕してカプセル化する際には、例えば、粉砕時の分散剤として、アラビヤゴム、アルギン酸ソーダ、カルボキシメチルセルロース等のアニオン性ポリマーを用いることが好ましい。このように構成することによって、このアニオン性ポリマーとゼラチンとのコアセルベーションにより得られるカプセルが、レーザーマーキング時に破壊され易くなり、鮮明な発色を実現することができる。
【0048】
また、カプセル化の際の壁膜材の使用量については特に制限はないが、固体状のロイコ染料100質量部に対して、5〜20質量部であることが好ましい。特に、壁膜材がゼラチンの場合、ゼラチンの使用量が5質量部未満であると、壁膜材が破壊され易くなりすぎて、カプセル化による効果が低下してしまうことがある。また、20質量部を超えると、カプセルが破壊され難くなり、発色に必要なレーザー光線のパワーが多くなり、印字部と生地色のコントラストが低下してしまうことがある。
【0049】
また、エネルギー吸収剤として、ロイコ染料と顕色剤を用いる際には、増感剤を更に含んだものであってもよい。このような増感剤としては、従来公知の感熱染料等に用いられる増感剤を用いることができ、例えば、m−ターフェニル、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸フェニルエステル、p−ベンジルオキシ安息香酸ベンジル、ベンジルナフチルエーテル、ジベンジルテレフタレート、炭酸ジフェニル、炭酸ジトリル、ジフェニルスルホン、1,2−ビス(m−トリルオキシ)エタン、p−ベンジルビフェニル、1,5−ビス(p−メトキシフェノキシ)−3−オキサペンタン、シュウ酸ジエステル類、シュウ酸ジ(4−メチルベンジル)、1,4−ビス(p−トリルオキシ)ベンゼン、1,4−ビス〔2−(4−メチルベンジロキシ)エトキシ〕ベンゼン等を好適例として挙げることができる。例えば、このような増感剤の市販品としては、商品名で、「PMB−2」(日華化学社製)を挙げることができる。
【0050】
なお、このような増感剤を用いる際には、上記顕色剤と、この増感剤との総量が、接着剤層を形成するためのアクリル樹脂系の接着剤(エネルギー吸収剤を含んでいないもの)100質量部に対して、0.01〜60質量部となることが好ましく、0.1〜30質量部となることが更に好ましい。
【0051】
また、レーザー光線の照射を受ける前の接着剤層は、透明のものであってもよいし、白や黒の無彩色、又は種々の有彩色に着色されたものであってもよい。接着剤層を着色する際には、アクリル樹脂系の接着剤に公知の着色剤を含有させる方法を挙げることができる。着色剤としては、無機顔料、有機顔料、染料等を挙げることができる。このうち、無機顔料としては、酸化チタン、硫酸バリウム、硫化亜鉛、酸化亜鉛等の白色顔料、酸化鉄、チタンイエロー等の黄色顔料、酸化鉄等の赤色顔料、コバルトブルー、群青等の青色顔料などを挙げることができる。また、有機顔料としては、モノアゾ、縮合アゾ、アンスラキノン、ジスアゾ、複素環等の黄色顔料、キナクリドン、アンスラキノン、ペリレン、モノアゾ等の赤色顔料、フタロシアニン等の青色顔料、フタロシアニン等の緑色顔料などを挙げることができる。さらに、染料としてはモノアゾ、アンスラキノン、ジスアゾ、複素環等の黄色染料、アンスラキノン、ペリノン、チオインヂゴ、ジスアゾ等の赤色染料、アンスラキノン等の青色染料などを挙げることができる。なお、接着剤層の色調は、エネルギー吸収剤による発色の色とコントラストが良好なものを選択することが好ましい。
【0052】
上記着色剤の使用量は、本実施形態のレーザーマーキング用シートの用途により異なるが、接着剤層を形成するためのアクリル樹脂系の接着剤(エネルギー吸収剤を含んでいないもの)に対し、0.01〜50質量部、より好ましくは0.05〜30質量部、特に好ましくは0.1〜10質量部である。着色剤が50質量部を超えると、レーザー発色を悪化させることがあり、一方、着色剤が0.01質量部未満であると、着色力が弱いことがある。また、このような着色剤を、上述した光透過性シートを構成する熱可塑性樹脂に含有させて、光透過性シートを着色してもよい。
【0053】
また、接着剤層の厚さについては特に制限はないが、例えば、5〜500μmであることが好ましく、10〜400μmであることが更に好ましく、15〜300μmであることが特に好ましい。接着剤層の厚さが5μm未満であると、接着剤層が薄すぎて、発色を生じさせるためのエネルギー吸収剤の量が少なくなり、十分な発色が得られないことがある。また、500μmを超えたとしても、印字部と生地色のコントラストにこれ以降の変化はなくコスト高となることがある。また、接着剤層が厚くなりすぎて、取り扱いが困難になることがある。
【0054】
また、この接着剤層を形成するためのエネルギー吸収剤含有接着剤には、他の添加剤、例えば、離型剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、強化剤を含んでいてもよい。
【0055】
接着剤層を形成するためのエネルギー吸収剤含有接着剤は、例えば、アクリル樹脂系の接着剤に、上記したエネルギー吸収剤を分散させて調製することができる。
【0056】
なお、エネルギー吸収剤としてロイコ染料と顕色剤を用いる際には、ロイコ染料と顕色剤のうちのいずれか一方、又はそれぞれを別々に、上記したコアセルベーション法又はin−situ法によってカプセル化してもよい。
【0057】
また、このようにして得られたエネルギー吸収剤含有接着剤を用いて接着剤層を形成する方法としては、従来公知の塗工方法、例えば、松尾産業製の塗工装置(商品名:「Kハンドコーター」)を使用して塗工する方法を挙げることができる。
【0058】
[1−3]裏面シート:
図3に示すような、光透過性シート2の裏面側に形成された接着剤層3に貼着された裏面シート11としては、上記接着剤層に貼着可能なシートであれば、その材料等については特に制限はなく、例えば、熱可塑性樹脂からなるシートを用いることができる。具体的には、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET、A−PET、PETG)、ポリシクロヘキサン1,4−ジメチルフタレート(PCT)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ABS、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等を好適例として挙げることができる。本発明のレーザーマーキング用シートにおいては、これらの樹脂の中では、耐熱性、耐衝撃性、強靱性等に優れたポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)等が特に好ましい。
【0059】
なお、このような裏面シートとしては、光透過性のシートでなくともよいが、これまでに説明した、本発明のレーザーマーキング用シートの表面層として使用される光透過性シートと同様に構成されたシートを好適に用いることができる。例えば、裏面シートを光透過性のシートとすることにより、表面と裏面との両面にてレーザーマーキングを行うことが可能となる。
【0060】
なお、特に限定されることはないが、このように本実施形態のレーザーマーキング用シート10が、表面層として光透過性シート2と、上記裏面シート11とを備えたシートの積層体である場合には、カード用途として用いることもできる。その場合、レーザーマーキング用シート10の厚さは、0.1〜2mmであることが好ましい。このような積層体は、各種カード、具体的には、クレジットカード、キャッシュカード、IDカード、タグカード、表示板、認証プレート、ETCカード等に好適に用いることができる。
【0061】
また、本実施形態のレーザーマーキング用シートにおいては、図1に示すように、光透過性シート2の裏面に接着剤層3が直接形成されたものであってもよいが、図4に示すように、光透過性シート2の裏面に下地層12が形成され、この下地層12に接着剤層3が形成されたものであってもよい。ここで、図4は、本発明のレーザーマーキング用シートの他の実施形態の構成を説明する模式図であり、本発明のレーザーマーキング用シートの表面に垂直な断面を示す図である。
【0062】
この下地層12は、光透過性シート2と同様、透明なものであればよいが、光透過性シート2に照射されたレーザー光線が良好に透過するように、光透過率が高いものを好適に用いることができる。
【0063】
[2]レーザーマーキング用シートの製造方法:
次に、本発明のレーザーマーキング用シートの製造方法の一の実施形態について説明する。本実施形態のレーザーマーキング用シートの製造方法は、図1に示すような、熱可塑性樹脂からなる光透過性シート2と、光透過性シート2の裏面側に形成された接着剤層3とを備えたレーザーマーキング用シート1を製造する方法であり、アクリル樹脂系の接着剤に、レーザー光線を吸収して発色を生じさせるエネルギー吸収剤を分散させて、エネルギー吸収剤含有接着剤を得、得られたエネルギー吸収剤含有接着剤を、光透過性シートの裏面側に塗工して前記接着剤層を形成するレーザーマーキング用シートの製造方法である。
【0064】
このように構成することによって、図1に示すようなレーザーマーキング用シート1を簡便且つ低コストに製造することができる。
【0065】
本実施形態のレーザーマーキング用シートの製造方法に用いられる、光透過性シート、エネルギー吸収剤、及びアクリル樹脂系の接着剤については、上記したレーザーマーキング用シートの実施形態にて挙げたものを好適に用いることができる。
【0066】
例えば、光透過性シートは、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET、A−PET、PETG)、ポリシクロヘキサン1,4−ジメチルフタレート(PCT)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、透明ABS(MABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等の熱可塑性樹脂を、溶融押し出し機を用いてシート状に成形することによって得ることができる。
【0067】
エネルギー吸収剤含有接着剤は、アクリル樹脂系の接着剤に、上記したエネルギー吸収剤を分散させて調整する。
【0068】
また、このようにして得られたエネルギー吸収剤含有接着剤を、光透過性シートの裏面側に塗工(コンバート)する方法としては、従来公知の塗工方法、例えば、松尾産業製の塗工装置(商品名:「Kハンドコーター」)を使用して塗工する方法を挙げることができる。
【0069】
本実施形態のレーザーマーキング用シートの製造方法においては、エネルギー吸収剤含有接着剤を光透過性シートの裏面側に塗工する前に、光透過性シートの裏面に下地層を形成してもよい。このような下地層は、例えば、下地層の材料を溶融共押し出しして成形することができる。
【0070】
また、エネルギー吸収剤として、ロイコ染料と顕色剤を用いる際には、ロイコ染料と顕色剤のうちのいずれか一方、又はそれぞれを別々に、例えば、水を分散媒体とし、ロイコ染料と顕色剤を湿式粉砕した後、コアセルベーション法又はin−situ法によってカプセル化して用いてもよい。
【0071】
[3]レーザーマーキング方法:
本発明のレーザーマーキング用シートを用いて、レーザーマーキングを行う方法としては、例えば、本発明のレーザーマーキング用シートに、ロフィンバーゼル社製のNd:YAGレーザー(商品名:「RSM30D」)を用いて、マルチモードビーム径が80〜100μmのレーザーを照射して印字する方法を挙げることができる。
【0072】
本発明のレーザーマーキング用シートは、上記したレーザーマーキング方法によって、レーザーマーク性に優れ、その表面にレーザーで線描などを、容易かつ美麗に描くことができる。従って、本発明のレーザーマーキング用シートは、電気部品、電子部品、自動車部品、建材、各種記録媒体のケース、各種表示板などの印字に効果的に使用することができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量部及び質量%を意味する。また、実施例における各種の評価、測定は、下記方法により実施した。
【0074】
[マーキング性の評価]:マーキング性の評価は、400mm/secのレーザー照射速度にてマーキングを行い、マーキングによって発色した色と、生地色とのコントラストの良否を確認した。レーザーマーキングは、Nd:YAGレーザー(商品名:「RSM30D」、ロフィンバーゼル社製)のレーザーマーカーを使用した。なお、コントラストは、目視にて、以下の基準に従い、◎、○、△、及び×の四段階で評価した。
◎:視認性が非常に良好
○:視認性が良好
△:視認性がある
×:視認性がない
【0075】
(実施例1)
ポリカーボネート(PC)樹脂(商品名:「タフロンA2500 ナチュラル」、出光興産社製)を用いて、押し出し成形にて、光透過性シートを形成した。光透過性シートの厚さは、200μmとした。また、この光透過性シートの光透過率は90%であった。光透過率シートの光透過率は、日本電色工業社製のヘイズメーター(商品名:「NDH2000」)を用いて全光線透過率を測定した値である。
【0076】
次に、アクリル樹脂系の接着剤(商品名:「オートクリアースーパー」、日本ペイント社製)100質量部に、エネルギー吸収剤としてカーボンブラック(商品名:「カーボンブラック#10」、三菱化学社製)0.2質量部を加えて、接着剤層を形成するためのエネルギー吸収剤含有接着剤を調製した。なお、このエネルギー吸収剤含有接着剤の25℃における粘度は80000mPa・sである。
【0077】
得られたエネルギー吸収剤含有接着剤を、上記した光透過性シートの裏面側に、松尾産業製の塗工装置(商品名:「Kハンドコーター」)を用い、このエネルギー吸収剤含有接着剤からなる接着剤層を形成して、レーザーマーキング用シート(実施例1)を製造した。なお、接着剤層の厚さは、100μmとした。得られたレーザーマーキング用シートを用いて、上記したマーキング性の評価を行った。表1に、マーキング性の評価の結果を示す。
【0078】
【表1】

【0079】
(実施例2)
上記したカーボンブラックに代えて、エネルギー吸収剤として、ロイコ染料(商品名:「RED−40」、山本化成社製)5質量部、顕色剤(商品名:「BPS−MAE」、日華化学社製)10質量部、及び増感剤(商品名:「PMB−2」、日華化学社製)10質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法によってエネルギー吸収剤含有接着剤を調製し、このエネルギー吸収剤含有接着剤を用いてレーザーマーキング用シート(実施例2)を製造した。なお、このエネルギー吸収剤含有接着剤の25℃における粘度は80000mPa・sである。
【0080】
(実施例3)
上記したカーボンブラックに代えて、エネルギー吸収剤として、ロイコ染料(商品名:「BLUE−63」、山本化成社製)5質量部、顕色剤(商品名:「BPS−MAE」、日華化学社製)10質量部、及び増感剤(商品名:「PMB−2」、日華化学社製)10質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法によってエネルギー吸収剤含有接着剤を調製し、このエネルギー吸収剤含有接着剤を用いてレーザーマーキング用シート(実施例3)を製造した。なお、このエネルギー吸収剤含有接着剤の25℃における粘度は80000mPa・sである。
【0081】
(実施例4)
上記したカーボンブラックに代えて、エネルギー吸収剤として、ロイコ染料(商品名:「GREEN−118」、山本化成社製)5質量部と、顕色剤(商品名:「BPS−MAE」、日華化学社製)10質量部、及び増感剤(商品名:「PMB−2」、日華化学社製)10質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法によってエネルギー吸収剤含有接着剤を調製し、このエネルギー吸収剤含有接着剤を用いてレーザーマーキング用シート(実施例4)を製造した。なお、このエネルギー吸収剤含有接着剤の25℃における粘度は80000mPa・sである。
【0082】
(実施例5〜7)
増感剤を使用しないこと以外は、実施例2〜4のエネルギー吸収剤含有接着剤と同様の方法によってエネルギー吸収剤含有接着剤をそれぞれ調整し、このエネルギー吸収剤含有接着剤を用いてレーザーマーキング用シート(実施例5〜7)を製造した。なお、このエネルギー吸収剤含有接着剤の25℃における粘度は80000mPa・sである。
【0083】
(実施例8〜10)
実施例1と同様の材料を用いて、25℃における粘度が表1に示す値となるようにエネルギー吸収剤含有接着剤を調製し、このエネルギー吸収剤含有接着剤を用いてレーザーマーキング用シート(実施例8〜10)を製造した。
【0084】
(実施例11〜13)
実施例2と同様の材料を用いて、25℃における粘度が表1に示す値となるようにエネルギー吸収剤含有接着剤を調製し、このエネルギー吸収剤含有接着剤を用いてレーザーマーキング用シート(実施例11〜13)を製造した。
【0085】
(実施例14〜17)
カーボンブラックの使用量を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法によってエネルギー吸収剤含有接着剤を調製し、このエネルギー吸収剤含有接着剤を用いてレーザーマーキング用シート(実施例14〜17)を製造した。なお、このエネルギー吸収剤含有接着剤の25℃における粘度は80000mPa・sである。
【0086】
(実施例18〜21)
ロイコ染料、顕色剤、及び増感剤の使用量を、表1に示すように変更した以外は、実施例2と同様の方法によってエネルギー吸収剤含有接着剤を調製し、このエネルギー吸収剤含有接着剤を用いてレーザーマーキング用シート(実施例18〜21)を製造した。なお、このエネルギー吸収剤含有接着剤の25℃における粘度は80000mPa・sである。
【0087】
(比較例1)
実施例1に用いた光透過性シートと同様に構成された光透過性シートの裏面側に、アクリル樹脂系の接着剤(商品名:「オートクリアースーパー」、日本ペイント社製)を、エネルギー吸収剤を加えることなく塗工して接着剤層を形成し、レーザーマーキング用シート(比較例1)を製造した。なお、接着剤の25℃における粘度は80000mPa・sである。
【0088】
(比較例2)
実施例1に用いた光透過性シートと同様に構成された光透過性シートの裏面側に、カーボンブラック(商品名:「カーボンブラック#10」、三菱化学社製)を、接着剤を用いずにそのまま塗工して、カーボンブラックからなるエネルギー吸収剤層を形成し、レーザーマーキング用シート(比較例2)を製造した。なお、カーボンブラックは、実施例1における接着剤層(100μm)に含まれるカーボンブラックと同等の量を塗工した。また、表1におけるカーボンブラックの量は、実施例1に用いた接着剤の量を100質量部とした場合の値である。
【0089】
(比較例3)
実施例1に用いた光透過性シートと同様に構成された光透過性シートの裏面側に、ロイコ染料(商品名:「RED−40」、山本化成社製)、顕色剤(商品名:「BPS−MAE」、日華化学社製)、及び増感剤(商品名:「PMB−2」、日華化学社製)を、接着剤を用いずにそのまま塗工して、ロイコ染料、顕色剤、及び増感剤からなるエネルギー吸収剤層を形成し、レーザーマーキング用シート(比較例3)を製造した。なお、ロイコ染料、顕色剤、及び増感剤は、実施例2における接着剤層(100μm)に含まれるロイコ染料、顕色剤、及び増感剤と同等の量を塗工した。また、表1におけるロイコ染料、及び顕色剤の量は、実施例1に用いた接着剤の量を100質量部とした場合の値である。
【0090】
得られた実施例2〜21及び比較例1〜3の各レーザーマーキング用シートを用いて、上記したマーキング性の評価を行った。表1に、マーキング性の評価の結果を示す。
【0091】
(考察)
表1に示すように、実施例1〜21のレーザーマーキング用シートは、レーザー光線の照射を受けることにより、印字部と生地色のコントラストの視認性があるマーキングを得ることができた。これは、エネルギー吸収剤を含む層が形成される際に、圧縮成形や射出成形等の加熱を伴う樹脂の成形工程を必要としないため、レーザーマーキング前におけるエネルギー吸収剤による発色が有効に防止されていたためであると思われる。特に、従来のレーザーマーキングでは、コントラストが低下してしまった有彩色のマーキングにおいても、例えば、実施例2〜7のように印字部と生地色のコントラストの視認性が非常に良い又は良いマーキングを得ることができた。
【0092】
一方、接着剤のみを用いて接着剤層を形成した比較例1は、レーザーマーキングを行っても発色が生じなかった。また、接着剤(アクリル樹脂系の接着剤)を用いずに、エネルギー吸収剤のみを塗工してエネルギー吸収剤層を形成した比較例2及び3は、レーザーマーキングを行うことにより発色は生じたが、コントラストの視認性がなかった。このように、エネルギー吸収剤のみシートに塗工して用いたとしても、レーザーマーキングのコントラストの視認性は得られなかった。
【0093】
また、実施例1及び2と、実施例8〜13との比較から、コントラストの視認性は、エネルギー吸収剤含有接着剤の粘度に依存することが分かる。特に25℃における粘度が2000〜500000mPa・sのものは良好な結果を得ることができた。更に、実施例1及び2と、実施例14〜21との比較から、コントラストの視認性は、エネルギー吸収剤含有接着剤の含有量にも依存することが分かる。特に、エネルギー吸収剤含有接着剤としてカーボンブラックを用いた場合には、接着剤(エネルギー吸収剤を含んでいないもの)100質量部に対して、0.001〜10質量部の場合に良好な結果を得ることができ、ロイコ染料と顕色剤を用いた場合には、0.01〜30質量部の場合に良好な結果を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のレーザーマーキング用シートは、クレジットカード、キャッシュカード、IDカード、タグカード、表示板、認証プレート、ETCカード等で広く用いられているプラスチック製シートとして有効に利用することができる。また、看板、窓、容器、床材、目盛付窓、レベル窓、文具、ファイリングケース、下敷、カレンダー、ものさし等にも有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明のレーザーマーキング用シートの一実施形態の構成を説明する模式図であり、レーザーマーキング用シートの表面に垂直な断面を示す図である。
【図2】図1に示すレーザーマーキング用シートにレーザー光線を照射してマーキングを行う工程を示す模式図である。
【図3】本発明のレーザーマーキング用シートの一実施形態の構成を説明する模式図であり、本発明のレーザーマーキング用シートの表面に垂直な断面を示す図である。
【図4】本発明のレーザーマーキング用シートの他の実施形態の構成を説明する模式図であり、本発明のレーザーマーキング用シートの表面に垂直な断面を示す図である。
【符号の説明】
【0096】
1,10:レーザーマーキング用シート、2:光透過性シート、3:接着剤層、3a:接着剤硬化層、4:接着剤、5:エネルギー吸収剤、6:レーザー光線、7:マーキング、11:裏面シート、12:下地層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる光透過性シートと、前記光透過性シートの裏面側に形成された接着剤層とを備え、
前記接着剤層が、レーザー光線を吸収して発色を生じさせるエネルギー吸収剤を分散させてなるアクリル樹脂系の接着剤から形成されたものであるレーザーマーキング用シート。
【請求項2】
前記接着剤層が、25℃における粘度が2000〜500000mPa・sの前記接着剤から形成されたものである請求項1に記載のレーザーマーキング用シート。
【請求項3】
前記接着剤層が、前記エネルギー吸収剤としてカーボンブラックを分散させてなるアクリル樹脂系の接着剤から形成されたものである請求項1又は2に記載のレーザーマーキング用シート。
【請求項4】
前記接着剤層が、前記エネルギー吸収剤としてロイコ染料と顕色剤とを分散させてなるアクリル樹脂系の接着剤から形成されたものである請求項1又は2に記載のレーザーマーキング用シート。
【請求項5】
前記接着剤層の厚さが5〜500μmである請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザーマーキング用シート。
【請求項6】
前記接着剤層が、予め着色されたものである請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザーマーキング用シート。
【請求項7】
前記光透過性シートは、光透過率が40%以上のものである請求項1〜6のいずれか一項に記載のレーザーマーキング用シート。
【請求項8】
熱可塑性樹脂からなる光透過性シートと、前記光透過性シートの裏面側に形成された接着剤層とを備えたレーザーマーキング用シートを製造する方法であって、
アクリル樹脂系の接着剤に、レーザー光線を吸収して発色を生じさせるエネルギー吸収剤を分散させて、エネルギー吸収剤含有接着剤を得、
得られた前記エネルギー吸収剤含有接着剤を、前記光透過性シートの裏面側に塗工して前記接着剤層を形成するレーザーマーキング用シートの製造方法。
【請求項9】
前記エネルギー吸収剤含有接着剤を、25℃における粘度が2000〜500000mPa・sとなるように調製して、前記光透過性シートの裏面側に塗工する請求項8に記載のレーザーマーキング用シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−144082(P2008−144082A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335049(P2006−335049)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(591258587)日本カラリング株式会社 (36)
【Fターム(参考)】