説明

レーザー加工装置

【課題】広い幅のレーザー加工溝を形成することができ、加工ラインに沿って効果的な加工を施すことができるレーザー加工装置を提供する。
【解決手段】被加工物Wを保持するチャックテーブル36と、レーザー光線LBを照射するレーザー光線照射手段52と、両者を相対移動する加工送り手段とを具備する。レーザー光線照射手段はレーザー光線発振手段53と、レーザー光線を集光する集光器6とを具備し、集光器はレーザー光線を光学軸に対して平行な偏光成分と垂直な偏光成分に位相差を生じさせる波長板621a,622aとレーザー光線を所定の分離角度で分離する複屈折型ビームスプリッター621b,622bとからなる分離器621,622を複数個直列に配設したレーザー光線分離手段62と、複数のレーザー光線を集光する集光レンズ63とによって構成され、各複屈折型ビームスプリッターは異なる分離角度に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエーハ等の被加工物の表面に形成されたストリートに沿ってレーザー光線を照射してレーザー加工溝を形成するのに適するレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程においては、シリコン等の半導体基板の表面に絶縁膜と機能膜が積層された積層体によって複数のIC、LSI等のデバイスをマトリックス状に形成した半導体ウエーハが形成される。このように形成された半導体ウエーハは上記デバイスがストリートと呼ばれる分割予定ラインによって区画されており、このストリートに沿って分割することにより個々のデバイスを製造している。
【0003】
このような半導体ウエーハのストリートに沿った分割は、通常、ダイサーと呼ばれている切削装置によって行われている。この切削装置は、被加工物である半導体ウエーハを保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された半導体ウエーハを切削するための切削手段と、チャックテーブルと切削手段とを相対的に移動せしめる移動手段とを具備している。切削手段は、高速回転せしめられる回転スピンドルと該スピンドルに装着された切削ブレードを含んでいる。切削ブレードは円盤状の基台と該基台の側面外周部に装着された環状の切れ刃からなっており、切れ刃は例えば粒径3μm程度のダイヤモンド砥粒を電鋳によって固定して形成され、厚みが例えば20〜30μmに形成されている。
【0004】
近時においては、IC、LSI等のデバイスの処理能力を向上するために、シリコン等の半導体基板の表面にSiOF、BSG(SiOB)等の無機物系の膜やポリイミド系、パリレン系等のポリマー膜である有機物系の膜からなる低誘電率絶縁体被膜(Low−k膜)と回路を形成する機能膜が積層された積層体によって半導体チップを形成せしめた形態の半導体ウエーハが実用化されている。
【0005】
また、半導体ウエーハのストリートにテスト エレメント グループ(TEG)と云われる金属パターを部分的に配設し、半導体ウエーハを分割する前に金属パターンを通して回路の機能をテストするように構成した半導体ウエーハも実用化されている。
【0006】
上述したLow−k膜やテスト エレメント グループ(TEG)はウエーハの素材と異なるため、切削ブレードによって同時に切削することが困難である。即ち、Low−k膜は雲母のように非常に脆いことから、切削ブレードによりストリートに沿って切削すると、Low−k膜が剥離し、この剥離がデバイスにまで達しデバイスに致命的な損傷を与えるという問題がある。また、テスト エレメント グループ(TEG)は金属によって形成されているため、切削ブレードによって切削するとバリが発生する。
【0007】
上記問題を解消するために、半導体ウエーハのストリートに沿ってパルスレーザー光線を照射することによりストリートを形成するLow−k膜やストリートに配設されたテスト エレメント グループ(TEG)を除去し、その除去した領域に切削ブレードを位置付けて切削する加工方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)
【0008】
また、ウエーハのストリートに沿ってパルスレーザー光線を照射することによりストリートに沿ってレーザー加工溝を高精度に形成する方法として、パルスレーザー光線の集光スポットを楕円形に形成し、該楕円形の集光スポットにおける長軸をストリートに沿って位置付け、集光スポットとウエーハとをストリートに沿って相対的に加工送りすることにより、集光スポットの重なり率を増大するようにしたレーザー加工方法が下記特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−142398号公報
【特許文献2】特開2006−51517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
而して、上記特許文献1に開示された加工方法のようにウエーハのストリートに沿ってパルスレーザー光線を照射することによりLow−k膜やテスト エレメント グループ(TEG)を除去する場合は、切削ブレードの厚みより広い幅のレーザー加工溝を形成する必要がある。このため、レーザー光線の集光スポット径が10μm程度の場合、ストリートに沿ってレーザー光線を照射するレーザー光線照射工程を幅方向に複数回実施しなければならず生産性が悪いという問題がある。
また、上記特許文献2に開示されたレーザー加工方法のようにレーザー光線の集光スポットを楕円形に形成して実施することにより集光スポットの重なり率を増大させることができるが、楕円形集光スポットの長軸方向におけるレーザー光線のエネルギー分布はガウシアン分布を呈するため、実質的に楕円形集光スポットの効果を充分に発揮することができない。
【0011】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、広い幅のレーザー加工溝を同時に形成することができ、また、加工ラインに沿って効果的な加工を施すことができるレーザー加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段を加工送り方向に相対移動する加工送り手段と、を具備するレーザー加工装置において、
該レーザー光線照射手段は、レーザー光線を発振するレーザー光線発振手段と、該レーザー光線発振手段から発振されたレーザー光線を集光して該チャックテーブルに保持された被加工物に照射する集光器とを具備し、
該集光器は、該レーザー光線発振手段によって発振されたレーザー光線を光学軸に対して平行な偏光成分と垂直な偏光成分に位相差を生じさせる波長板と該波長板を通過したレーザー光線を所定の分離角度で分離する複屈折型ビームスプリッターとからなる分離器を複数個直列に配設したレーザー光線分離手段と、該レーザー光線分離手段によって分離された複数のレーザー光線を集光する集光レンズとによって構成されており、
該レーザー光線分離手段を構成する各複屈折型ビームスプリッターは異なる分離角度に設定されている、
ことを特徴とするレーザー加工装置が提供される。
【0013】
上記レーザー光線分離手段は、上記分離器の数または間隔を変更することにより分離された複数のレーザー光線の数またはスポットの間隔を調整する。
また、上記レーザー光線分離手段は、複数のレーザー光線の集光スポットを加工送り方向に対して直行する方向に位置付けるように構成されている。
また、上記レーザー光線分離手段は、複数のレーザー光線の集光スポットを加工送り方向に位置付けるように構成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によるレーザー加工装置においては、レーザー光線発振手段から発振されたレーザー光線を集光してチャックテーブルに保持された被加工物に照射する集光器は、レーザー光線発振手段によって発振されたレーザー光線を光学軸に対して平行な偏光成分と垂直な偏光成分に位相差を生じさせる波長板と該波長板を通過したレーザー光線を所定の分離角度で分離する複屈折型ビームスプリッターとからなる分離器を複数個直列に配設したレーザー光線分離手段と、該レーザー光線分離手段によって分離された複数のレーザー光線を集光する集光レンズとによって構成されており、レーザー光線分離手段を構成する各複屈折型ビームスプリッターは異なる分離角度に設定されているので、レーザー光線分離手段によって分離された複数の光軸を加工送り方向または加工送り方向と直交する方向に位置付けることができる。従って、レーザー光線分離手段によって分離された複数の光軸を加工送り方向または加工送り方向と直交する方向に位置付けることにより広い幅のレーザー加工溝を同時に形成することができ、また、レーザー光線分離手段によって分離された複数の光軸を加工送り方向に位置付けることにより集光スポットの重なり率が増大して効果的なレーザー加工を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に従って構成されたレーザー加工装置の斜視図。
【図2】図1に示すレーザー加工装置に装備されるレーザー光線照射手段を構成するレーザー光線発振手段および集光器を示すブロック図。
【図3】図2に示す集光器を構成するレーザー光線分離手段によるレーザー光線の分離状態を示す説明図。
【図4】図3に示すレーザー光線分離手段によって分離されたレーザー光線の集光スポットの配列の一例を示す説明図。
【図5】図1に示すレーザー加工装置に装備される集光器を構成するレーザー光線分離手段の他の実施形態を示す斜視図。
【図6】図5に示すレーザー光線分離手段の分解斜視図。
【図7】図5および図6に示すレーザー光線分離手段によるレーザー光線の分離状態を示す説明図。
【図8】図5および図6に示すレーザー光線分離手段を構成する分離器の一部を除去した場合におけるレーザー光線の分離状態を示す説明図。
【図9】被加工物としての半導体ウエーハの斜視図。
【図10】図9に示す半導体ウエーハの一部断面拡大図。
【図11】図9に示す半導体ウエーハが環状のフレームに保護テープを介して支持された状態を示す斜視図。
【図12】図1に示すレーザー加工装置によって図9に示す半導体ウエーハのストリートに沿ってレーザー加工溝を形成するレーザー光線照射工程の説明図。
【図13】図12に示すレーザー光線照射工程を実施すことによって半導体ウエーハに形成されたレーザー加工溝の拡大断面図。
【図14】図12に示すレーザー光線照射工程によって形成されたレーザー加工溝に沿って半導体ウエーハを切断する切削工程の説明図。
【図15】図14に示す切削工程におけるレーザー加工溝と切削ブレードとの関係を示す説明図。
【図16】図14に示す切削工程における切削ブレードの切り込み送り位置を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に従って構成されたレーザー加工装置の好適な実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1には、本発明に従って構成されたレーザー加工装置の斜視図が示されている。図1に示すレーザー加工装置は、静止基台2と、該静止基台2に矢印Xで示す加工送り方向(X軸方向)に移動可能に配設され被加工物を保持するチャックテーブル機構3と、静止基台2にX軸方向と直交する矢印Yで示す割り出し送り方向(Y軸方向)に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット支持機構4と、該レーザー光線ユニット支持機構4に矢印Zで示す焦点位置調整方向(Z軸方向)に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット5とを具備している。
【0018】
上記チャックテーブル機構3は、静止基台2上にX軸方向に沿って平行に配設された一対の案内レール31、31と、該案内レール31、31上にX軸方向に移動可能に配設された第1の滑動ブロック32と、該第1の滑動ブロック32上にY軸方向に移動可能に配設された第2の滑動ブロック33と、該第2の滑動ブロック33上に円筒部材34によって支持された支持テーブル35と、被加工物保持手段としてのチャックテーブル36を具備している。このチャックテーブル36は多孔性材料から形成され被加工物保持面361を備えており、チャックテーブル36上に被加工物である例えば円盤状の半導体ウエーハを図示しない吸引手段によって保持するようになっている。また、チャックテーブル36は、円筒部材34内に配設された図示しないパルスモータによって回転せしめられる。また、チャックテーブル36には、後述する半導体ウエーハを支持する環状のフレームを固定するためのクランプ362が装着されている。
【0019】
上記第1の滑動ブロック32は、その下面に上記一対の案内レール31、31と嵌合する一対の被案内溝321、321が設けられているとともに、その上面にY軸方向に沿って平行に形成された一対の案内レール322、322が設けられている。このように構成された第1の滑動ブロック32は、被案内溝321、321が一対の案内レール31、31に嵌合することにより、一対の案内レール31、31に沿ってY軸方向に移動可能に構成される。図示の実施形態におけるチャックテーブル機構3は、第1の滑動ブロック32を一対の案内レール31、31に沿ってX軸方向に移動させるための加工送り手段37を具備している。加工送り手段37は、上記一対の案内レール31と31の間に平行に配設された雄ネジロッド371と、該雄ネジロッド371を回転駆動するためのパルスモータ372等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド371は、その一端が上記静止基台2に固定された軸受ブロック373に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ372の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド371は、第1の滑動ブロック32の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ372によって雄ネジロッド371を正転および逆転駆動することにより、第1の滑動ブロック32は案内レール31、31に沿ってX軸方向である加工送り方向に移動せしめられる。
【0020】
上記第2の滑動ブロック33は、その下面に上記第1の滑動ブロック32の上面に設けられた一対の案内レール322、322と嵌合する一対の被案内溝331、331が設けられており、この被案内溝331、331を一対の案内レール322、322に嵌合することにより、Y軸方向に移動可能に構成される。図示の実施形態におけるチャックテーブル機構3は、第2の滑動ブロック33を第1の滑動ブロック32に設けられた一対の案内レール322、322に沿ってY軸方向に移動させるための第1の割り出し送り手段38を具備している。第1の割り出し送り手段38は、上記一対の案内レール322と322の間に平行に配設された雄ネジロッド381と、該雄ネジロッド381を回転駆動するためのパルスモータ382等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド381は、その一端が上記第1の滑動ブロック32の上面に固定された軸受ブロック383に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ382の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド381は、第2の滑動ブロック33の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ382によって雄ネジロッド381を正転および逆転駆動することにより、第2の滑動ブロック33は案内レール322、322に沿ってY軸方向である割り出し送り方向に移動せしめられる。
【0021】
上記レーザー光線照射ユニット支持機構4は、静止基台2上にY軸方向に沿って平行に配設された一対の案内レール41、41と、該案内レール41、41上にY軸方向に移動可能に配設された可動支持基台42を具備している。この可動支持基台42は、案内レール41、41上に移動可能に配設された移動支持部421と、該移動支持部421に取り付けられた装着部422とからなっている。装着部422は、一側面にZ軸方向に延びる一対の案内レール423、423が平行に設けられている。図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット支持機構4は、可動支持基台42を一対の案内レール41、41に沿ってY軸方向に移動させるための第2の割り出し送り手段43を具備している。第2の割り出し送り手段43は、上記一対の案内レール41、41の間に平行に配設された雄ネジロッド431と、該雄ネジロッド431を回転駆動するためのパルスモータ432等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド431は、その一端が上記静止基台2に固定された図示しない軸受ブロックに回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ432の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド431は、可動支持基台42を構成する移動支持部421の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された雌ネジ穴に螺合されている。このため、パルスモータ432によって雄ネジロッド431を正転および逆転駆動することにより、可動支持基台42は案内レール41、41に沿ってY軸方向である割り出し送り方向に移動せしめられる。
【0022】
図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット5は、ユニットホルダ51と、該ユニットホルダ51に取り付けられたレーザー光線照射手段52を具備している。ユニットホルダ51は、上記装着部422に設けられた一対の案内レール423、423に摺動可能に嵌合する一対の被案内溝511、511が設けられており、この被案内溝511、511を上記案内レール423、423に嵌合することにより、Z軸方向に移動可能に支持される。
【0023】
図示のレーザー光線照射手段52は、上記ユニットホルダ51に固定され実質上水平に延出する円筒形状のケーシング521を含んでいる。ケーシング521内には図2に示すようにパルスレーザー光線発振手段53が配設されている。パルスレーザー光線発振手段53は、YAGレーザー発振器或いはYVO4レーザー発振器からなるパルスレーザー光線発振器531と、これに付設された繰り返し周波数設定手段532とから構成されている。パルスレーザー光線発振手段53から発振されたパルスレーザー光線LBは、上記ケーシング521の先端部に装着された集光器6に導かれる。
【0024】
図2を参照して説明を続けると、図示の実施形態における集光器6は、方向変換ミラー61とレーザー光線分離手段62と集光レンズ63とからなっている。方向変換ミラー61は、上記パルスレーザー光線発振手段53から発振されたレーザー光線LBを下方即ちレーザー光線分離手段62に向けて方向変換する。
【0025】
レーザー光線分離手段62は、図2に示す実施形態においては直列に配設された2個の分離器621、622を具備している。この2個の分離器621、622は、それぞれ波長板621a、622aと複屈折型ビームスプリッター621b、622bとからなっている。波長板621a、622aは、パルスレーザー光線発振手段53によって発振され方向変換ミラー61によって方向変換されたレーザー光線LBを光学軸に対して平行な偏光成分と垂直な偏光成分に位相差を生じさせる。複屈折型ビームスプリッター621b、622bはウォラストン偏光子等からなり、それぞれ波長板621a、622aを通過したパルスレーザー光線LBの光学軸に対して平行な偏光成分と垂直な偏光成分を所定の分離角度で分離する。なお、分離器621を構成する複屈折型ビームスプリッター621bと分離器622を構成する複屈折型ビームスプリッター622bの分離角度は、異なる値に設定されている。図示の実施形態においては、分離器622を構成する複屈折型ビームスプリッター622bの分離角度は、分離器621を構成する複屈折型ビームスプリッター621bの分離角度より小さい値に設定されている。ここで、レーザー光線分離手段62によってパルスレーザー光線LBを複数の光軸に分離する状態について、図3を参照して説明する。上記パルスレーザー光線発振手段53によって発振され方向変換ミラー61によって方向変換されたレーザー光線LBは分離器621によって大きな分離角度でLB1x,LB1yに分離され、分離器621によって2分離されたLB1x,LB1yは分離器622によってそれぞれ比較的小さい分離角度でLB2x,LB2yおよびLB2x,LB2yに分割される。このように2個の分離器621、622を用いることにより、パルスレーザー光線発振手段53によって発振されレーザー光線LBは、4本のレーザー光線に分離することができる。従って、3個の分離器を用いれば8本のレーザー光線に分離することができ、4個の分離器を用いれば16本のレーザー光線に分離することができ、5個の光分器を用いれば32本のレーザー光線に分離することができる。
【0026】
図2を参照して説明を続けると、上述したようにレーザー光線LBが分離された4本のレーザー光線LB2x,LB2yおよびLB2x,LB2yは、集光レンズ63によって集光されチャックテーブル36に保持された被加工物Wに照射される。このようにして被加工物Wに照射される4本のレーザー光線LB2x,LB2yおよびLB2x,LB2yは、図2に示す実施形態においては各集光スポット(s)が図4に示すように加工送り方向(X軸方向)に対して直交する割り出し送り方向(Y軸方向)に直線状に位置付けられるように分離器621、622の配置方向が設定されている。
【0027】
次に、レーザー光線分割手段62の他の実施形態について、図5および図6を参照して説明する。
図5および図6に示すレーザー光線分割手段62は、5個の分離器621、622、623、624、625を具備している。この5個の分離器621、622、623、624、625は、図6に示すようにそれぞれ波長板621a、622a、623a、624a、625aと複屈折型ビームスプリッター621b、622b、623b、624b、625bとからなっており、それぞれ収容ケース627に収容されている。収容ケース627は、矩形状に形成され上壁および底壁にそれぞれ開口627aが設けられている(図6には上壁に設けられた開口627aだけが示されている)。この収容ケース627に収容された各分離器621、622、623、624、625を構成する波長板621a、622a、623a、624a、625aは、水平面上で回動可能即ち通過するレーザー光線の光軸周りに回動可能に構成されている。なお、波長板621a、622a、623a、624a、625aを回動することにより、レーザー光線LBの光学軸に対して平行な偏光成分と垂直な偏光成分の比率を変更することができる。また、各分離器621、622、623、624、625を構成する複屈折型ビームスプリッター621b、622b、623b、624b、625bは、それぞれ分離角度が異なる値に設定されている。図示の実施形態においては、複屈折型ビームスプリッター621bの分離角度が最も大きく、複屈折型ビームスプリッター622b、623b、624b、625bの分離角度は順次小さくなるように設定されている。このように構成された各分離器621、622、623、624、625は、分離器ユニットケース628に収容される。分離器ユニットケース628は、上下方向に長い直方体状に形成されている。この分離器ユニットケース628は、上壁628aおよび底壁628bにそれぞれ開口628cが設けられている。このように形成された分離器ユニットケース628は、上壁628aと底壁628bとの間が4個の仕切り板628d、628e、628f、628gによって仕切られて、上記分離器621、622、623、624、625を収容する5個の収容室628h、628i、628j、628k、628mを備えている。なお、4個の仕切り板628d、628e、628f、628gには、それぞれ上壁628aおよび底壁628bに設けられた開口628cと同径の開口628cが形成されている。このように構成された分離器ユニットケース628の5個の収容室628h、628i、628j、628k、628mに、分離器621、622、623、624、625が着脱可能に直列に収容される。
【0028】
上記図5および図6に示すレーザー光線分離手段62は以上のように構成されており、レーザー光線を複数の光軸に分離する状態について、図7を参照して説明する。
5個の分離器621、622、623、624、625は、パルスレーザー光線発振手段53によって発振されたレーザー光線LBを上記図2および図3に示す分離器621、622と同様にそれぞれ2分離するため、最後の分離器626によって分離されたレーザー光線の光軸は32本となる。このように分離された32本の光軸は上記加工送り方向(X軸方向)に対して直交する割り出し送り方向(Y軸方向)に直線状に位置付けられる。なお、分離された複数の光軸を加工送り方向(X軸方向)に直線状に位置付けるためには、分離器ユニットケース628の各収容室628h、628i、628j、628k、628mに収納する各分離器621、622、623、624、625を図5および図6に示す状態に対して通過するレーザー光線の光軸周りに90度回動した状態で収納すればよい。
【0029】
次に、図5および図6に示すレーザー光線分離手段62における分離器622と623を分離器ユニットケース628から除去した場合の分離状態について、図8を参照して説明する。
分離器622と623が除去され、図8に示すように分離器621と624と625によって分離されたレーザー光線は、両側にそれぞれ4本の光軸が位置付けられ、中央部には光軸が存在しない形態となる。
以上のように、分離器の数と配置状態を変更することにより、複数の光軸による種々の形態を形成することができる。従って、分離器を種々の形態に組み合わせることにより、種々の加工に対応することができる。
【0030】
図1に戻って説明を続けると、上記レーザー光線照射手段52を構成するケーシング521の前端部には、上記レーザー光線照射手段52によってレーザー加工すべき加工領域を検出する撮像手段7が配設されている。この撮像手段7は、被加工物を照明する照明手段と、該照明手段によって照明された領域を捕らえる光学系と、該光学系によって捕らえられた像を撮像する撮像素子(CCD)等を備え、撮像した画像信号を図示しない制御手段に送る。
【0031】
図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット5は、ユニットホルダ51を一対の案内レール423、423に沿ってZ軸方向に移動させるための移動手段8を具備している。移動手段8は、一対の案内レール423、423の間に配設された雄ネジロッド(図示せず)と、該雄ネジロッドを回転駆動するためのパルスモータ82等の駆動源を含んでおり、パルスモータ82によって図示しない雄ネジロッドを正転または逆転駆動することにより、ユニットホルダ51およびレーザー光線照射手段52を一対の案内レール423、423に沿って焦点位置調整方向(Z軸方向)に移動せしめる。なお、図示の実施形態においては、パルスモータ82を正転駆動することによりレーザー光線照射手段52を上方に移動し、パルスモータ82を逆転駆動することによりレーザー光線照射手段52を下方に移動するようになっている。
【0032】
図示の実施形態におけるレーザー加工装置は以上のように構成されており、以下その作用について説明する。
ここで、上記レーザー加工装置によって加工される被加工物としての半導体ウエーハについて、図9および図10を参照して説明する。
図9および図10に示す半導体ウエーハ10は、シリコン等の半導体基板11の表面に絶縁膜と回路を形成する機能膜が積層された積層体12によって複数のIC、LSI等のデバイス13がマトリックス状に形成されている。そして、各デバイス13は、格子状に形成されたストリート14によって区画されている。なお、図示の実施形態においては、積層体12を形成する絶縁膜は、SiO2 膜または、SiOF、BSG(SiOB)等の無機物系の膜やポリイミド系、パリレン系等のポリマー膜である有機物系の膜からなる低誘電率絶縁体被膜(Low−k膜)からなっている。このように構成された半導体ウエーハ10をストリート14に沿って分割する方法について説明する。
【0033】
上述した半導体ウエーハ10をストリート14に沿って分割するには、半導体ウエーハ10を図11に示すように環状のフレームFに装着された保護テープTの表面に貼着する。このとき、半導体ウエーハ10は、表面10aを上にして裏面側を保護テープTに貼着する。
【0034】
次に、半導体ウエーハ10のストリート14に沿ってレーザー光線を照射し、ストリート上の積層体12を除去するレーザー光線照射工程を実施する。
このレーザー光線照射工程は、先ず上述した図1に示すレーザー加工装置のチャックテーブル36上に保護テープTを介して環状のフレームFに支持された半導体ウエーハ10を載置し、該チャックテーブル36上に保護テープTを介して半導体ウエーハ10を吸着保持する。従って、半導体ウエーハ10は、表面10aを上側にして保持される。なお、半導体ウエーハ10を保護テープTを介して支持している環状のフレームFは、クランプ362によって固定される。
【0035】
上述したように半導体ウエーハ10を吸引保持したチャックテーブル36は、加工送り手段37によって撮像手段7の直下に位置付けられる。チャックテーブル36が撮像手段6の直下に位置付けられると、撮像手段7および図示しない制御手段によって半導体ウエーハ10のレーザー加工すべき加工領域を検出するアライメント作業を実行する。即ち、撮像手段7および図示しない制御手段は、半導体ウエーハ10の所定方向に形成されているストリート14と、ストリート14に沿ってレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段52の集光器6との位置合わせを行うためのパターンマッチング等の画像処理を実行し、レーザー光線照射位置のアライメントを遂行する。また、半導体ウエーハ10に形成されている上記所定方向に対して直交する方向に延びるストリート14に対しても、同様にレーザー光線照射位置のアライメントが遂行される。
【0036】
以上のようにしてチャックテーブル36上に保持された半導体ウエーハ10に形成されているストリート14を検出し、レーザー光線照射位置のアライメントが行われたならば、図12(a)で示すようにチャックテーブル36をレーザー光線を照射する集光器6が位置するレーザー光線照射領域に移動し、所定のストリート14を集光器6の直下に位置付ける。このとき、図12の(a)で示すように半導体ウエーハ10は、ストリート14の一端(図12の(a)において左端)が集光器6の直下に位置するように位置付けられる。この状態においては、図12の(b)で示すように集光器6から照射される上記4本のレーザー光線LB2x,LB2yおよびLB2x,LB2yの各集光スポット(s)がストリート14の幅方向に位置付けられる。そして、4本のレーザー光線LB2x,LB2yおよびLB2x,LB2yの各集光スポット(s)がストリート14の表面に位置するように、移動手段8を作動してレーザー光線照射手段52の高さ位置を調整する。
【0037】
次に、レーザー光線照射手段52を作動して集光器6から上記4本のレーザー光線LB2x,LB2yおよびLB2x,LB2yを照射しつつチャックテーブル36を図12の(a)において矢印X1で示す方向に所定の加工送り速度で移動せしめる(レーザー光線照射工程)。そして、図12の(c)で示すようにストリート14の他端(図12の(c)において右端)が集光器6の直下位置に達したら、パルスレーザー光線の照射を停止するとともにチャックテーブル36の移動を停止する。
【0038】
なお、上記レーザー光線照射工程における加工条件は、例えば次のように設定されている。
レーザー光線の光源 :YVO4レーザーまたはYAGレーザー
波長 :355nm
出力 :10W
繰り返し周波数 :100kHz
パルス幅 :1ns
集光スポット径 :8μm
加工送り速度 :100mm/秒
【0039】
上述した加工条件において集光スポット径が8μmの集光スポット(s)を図12の(b)で示すように互いに接触した状態に設定することにより、半導体ウエーハ10のストリート14には、図13に示すように上記4本のレーザー光線LB2x,LB2yおよびLB2x,LB2yによって幅(E)が32μmで積層体12より深いレーザー加工溝101が同時に形成される。このようにして、上述したレーザー光線照射工程を半導体ウエーハ10に形成された全てのストリート14に実施する。
【0040】
半導体ウエーハ10に形成された全てのストリート14に上述したレーザー光線照射工程を実施したならば、半導体ウエーハ10をストリート14に沿って切断する切削工程を実施する。即ち、図14に示すように切削装置16のチャックテーブル161上にレーザー光線照射工程が実施された半導体ウエーハ10を表面10aを上側にして載置し、図示しない吸引手段によって半導体ウエーハ10をチャックテーブル161上に保持する。次に、半導体ウエーハ10を保持したチャックテーブル161を切削加工領域の切削開始位置に移動する。このとき、図14で示すように半導体ウエーハ10は切削すべきストリート14の一端(図14において左端)が切削ブレード162の直下より所定量右側に位置するように位置付けられる。このとき、厚みが例えば20μmの切削ブレード162は、図15で示すようにレーザー加工溝101の幅(E)内に位置付けられる。
【0041】
このようにしてチャックテーブル161即ち半導体ウエーハ10が切削加工領域の切削開始位置に位置付けられたならば、切削ブレード162を図14において2点鎖線で示す待機位置から下方に切り込み送りし、図16において実線で示すように所定の切り込み送り位置に位置付ける。この切り込み送り位置は、図16に示すように切削ブレード162の下端が半導体ウエーハ10の裏面に貼着された保護テープTに達する位置に設定されている。
【0042】
次に、図14に示すように切削ブレード162を矢印162aで示す方向に所定の回転速度で回転せしめ、チャックテーブル161即ち半導体ウエーハ10を図14において矢印X1で示す方向に所定の切削送り速度で移動せしめる。そして、チャックテーブル161即ち半導体ウエーハ10の他端(図14において右端)が切削ブレード162の直下より所定量左側に位置するまで達したら、チャックテーブル161の移動を停止する。このようにチャックテーブル161を切削送りすることにより、半導体ウエーハ10はストリート14に沿って切断される。
【0043】
次に、チャックテーブル161即ち半導体ウエーハ10を紙面に垂直な方向(割り出し送り方向)にストリート14の間隔に相当する量だけ割り出し送りし、次に切削すべきストリート14を切削ブレード162と対応する位置に位置付け、図14に示す状態に戻す。そして、上記と同様に切削工程を実施する。
【0044】
なお、上記切削工程は、例えば以下の加工条件で行われる。
切削ブレード :外径52mm、厚さ20μm
切削ブレードの回転速度:40000rpm
切削送り速度 :50mm/秒
【0045】
上述した切削工程を半導体ウエーハ10に形成された全てのストリート14に実施する。この結果、半導体ウエーハ10はストリート14に沿って切断され、個々のデバイス13に分割される。
【0046】
上述した実施形態においては、複数に分離されたレーザー光線の光軸を加工送り方向(X軸方向)に対して直交する割り出し送り方向(Y軸方向)に直線状に位置付けてレーザー加工を実施することにより所定幅のレーザー加工溝を同時に形成する例を示したが、複数に分離されたレーザー光線の光軸を加工送り方向(X軸方向)に直線状に位置付けてレーザー加工を実施することにより集光スポットの重なり率が増大して効果的な加工を施すことができる。
【符号の説明】
【0047】
2:静止基台
3:チャックテーブル機構
36:チャックテーブル
37:加工送り手段
38:第1の割り出し送り手段
4:レーザー光線照射ユニット支持機構
43:第2の割り出し送り手段
5:レーザー光線照射ユニット
51:ユニットホルダ
52:レーザー光線照射手段
53:パルスレーザー光線発振手段
6:集光器
61:方向変換ミラー
62:レーザー光線分離手段
621、622:分離器
621a、622a:波長板
621b、622b:複屈折型ビームスプリッター
628:分離器ユニットケース
7:撮像手段
10:半導体ウエーハ(被加工物)
16:切削装置
161:切削装置のチャックテーブル
162:切削ブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段を加工送り方向に相対移動する加工送り手段と、を具備するレーザー加工装置において、
該レーザー光線照射手段は、レーザー光線を発振するレーザー光線発振手段と、該レーザー光線発振手段から発振されたレーザー光線を集光して該チャックテーブルに保持された被加工物に照射する集光器とを具備し、
該集光器は、該レーザー光線発振手段によって発振されたレーザー光線を光学軸に対して平行な偏光成分と垂直な偏光成分に位相差を生じさせる波長板と該波長板を通過したレーザー光線を所定の分離角度で分離する複屈折型ビームスプリッターとからなる分離器を複数個直列に配設したレーザー光線分離手段と、該レーザー光線分離手段によって分離された複数のレーザー光線を集光する集光レンズとによって構成されており、
該レーザー光線分離手段を構成する各複屈折型ビームスプリッターは異なる分離角度に設定されている、
ことを特徴とするレーザー加工装置。
【請求項2】
該レーザー光線分離手段は、該分離器の数または間隔を変更することにより分離された複数のレーザー光線の数またはスポットの間隔を調整する、請求項1記載のレーザー加工装置。
【請求項3】
該レーザー光線分離手段は、複数のレーザー光線の集光スポットを該加工送り方向に対して直交する方向に位置付けるように構成されている、請求項1又は2記載のレーザー加工装置。
【請求項4】
該レーザー光線分離手段は、複数のレーザー光線の集光スポットを該加工送り方向に位置付けるように構成されている、請求項1又は2記載のレーザー加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−156551(P2011−156551A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19009(P2010−19009)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】