説明

レーザー掘削装置

【課題】過酷な坑底の環境下で所望のレーザービームパターンを岩盤表面に描くことができるレーザー掘削装置を提供すること。
【解決手段】光ファイバーケーブル11と、光ファイバーケーブル11を内包する管12と、管12を貫通させ、軸受14を介して管12を回転自在に支持する第1偏心リング13と、第1偏心リング13を内包し、軸受16を介して第1偏心リング13を回転自在に支持する第2偏心リング15と、第2偏心リング15を内包し、軸受16を介して第2偏心リング15を回転自在に支持する固定リング17と、を含み、第1偏心リング13及び第2偏心リング15の回転によって管12の中心軸を移動させて、管12に内包される光ファイバーケーブル1のビーム放射端37の位置を移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー掘削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油やガスの開発エリアの拡大によって、深度5000mを超える大深度掘削や、水深1000mを超える海域での大水深掘削が盛んに行われている。
【0003】
石油掘削、天然ガス掘削、金属鉱山のボーリング、温泉のボーリング及び土木関連のボーリングでは、ドリルビットの高速回転によって坑底の岩盤を切り崩す、ロータリー掘削が一般的である。ロータリー掘削では、ドリルビットの摩耗が避けられないので、定期的に坑底より掘削リグが設置された地上又は海上にドリルパイプ又はコイルドチュービングからなるドリルストリングを引き上げてドリルビットを交換する作業が発生する。ドリルビットを交換する作業の間は、掘削は行えない掘削停止時間となる。掘削停止時間は坑井が深くなるほど長くなるので、大深度掘削や大水深掘削では掘削停止時間が掘削スケジュールの支配的要因の1つとなる。したがって、掘削停止時間の短縮は重要テーマの1つとなっている。
【0004】
ロータリー掘削とは異なる原理に基づく技術として、レーザー掘削が知られている。レーザー掘削は、レーザービームを坑底の岩盤表面に照射して岩盤を非接触掘削する掘削技術である。レーザー掘削の利点の1つとしては、ロータリー掘削には不可避のドリルビット交換が不要となることが挙げられる。したがって、レーザー掘削は、大深度掘削や大水深掘削において、画期的な技術となる可能性がある。しかし、未だ実用化には至っていない。
【0005】
ところで、石油掘削、天然ガス掘削、金属鉱山のボーリング、温泉のボーリング及び土木関連のボーリングでは、坑内に掘削流体が送り込まれる。その主要な目的は、(1)坑底から掘屑を除去して地表まで運ぶ、(2)坑壁内面に泥層を形成し、かつ、粘土鉱物を含む泥水によって加圧し坑壁の崩壊を抑える、(3)地下に存在する油、ガス、水などが坑壁から坑内に噴出してこないように抑える、及び(4)掘削に伴って発生する熱が坑底に蓄積しないように排出することであり、掘削流体は掘削作業を円滑に実施するために不可欠である。掘削流体は地上又は海上の掘削リグからドリルストリングを通して供給され坑底で放出されドリルストリング―坑壁間のアニュラス部を上昇して掘削リグに戻り、掘屑分離、成分調整後、再びドリルストリングへ圧送され、循環系を構成する。掘削流体はドリルストリングの内外で掘削リグから坑底まで繋がる液柱を形成し、坑底にはその液柱の圧力がかかる。坑底にかかる圧力は坑井が深くなるほど大きくなり、例えば垂直深度7000mの坑井では坑底にかかる液圧は通常700気圧を超える。また地熱の影響によって坑内温度も高くなる。例えば、垂直深度7000mでは坑内温度は約200℃にもなる。このように、掘削が行われる坑底は掘削流体による加圧、地熱による加熱という厳しい環境下にある。
【0006】
掘削流体として用いられる流体は、泥水、ブライン、エマルジョン、ガス等に分類できる。泥水は、水あるいは油を連続相とするスラリー状の流体であり、清水あるいは海水に、分散相として粘土鉱物のベントナイトを加えて調製されることが多い。しかし、ベントナイトはレーザービームを反射、もしくはそのエネルギーを吸収し、レーザービーム照射の妨げとなる。したがって、レーザー掘削においては、レーザービームの伝送過程で泥水に奪われるエネルギー損失を最小限に抑え、できるだけ多くのエネルギーを岩盤に伝えることが重要なポイントとなる。これに対して、ブラインは固形分を含まない透明の塩類溶
液であり、2.2までの任意の比重に調整できるという特徴がある。
【0007】
特許文献1には、坑底の直上に設置する高出力レーザー掘削用のレンズアセンブリーが開示されている。特許文献1に開示されているレンズアセンブリーは、掘削孔の大きさに合わせて少なくとも100本の光ファイバーを使用して掘削孔を覆うように、光ファイバーの端末に集光レンズからなる集光素子を配して構成されている。このレンズアセンブリーは、坑底の岩盤表面に向けて設置されて用いられる。レンズアセンブリーの冷却と岩盤表面から発生する掘屑の除去のために、冷却導管がレンズアセンブリーの中に組み込まれている。すなわち、冷却導管の中を流れる冷却水は、レンズアセンブリーを冷却した後、坑底に噴射されレーザー照射によって発生した掘屑を除去する役割を担う。レンズアセンブリーと冷却導管は防護容器に収納されている。
【0008】
特許文献2には、坑底の岩盤表面にレーザービームを照射してその部位において熱応力を発生させるとともに水蒸気爆発を起こさせてその部位を剥離させ、発生した砕片を洗浄システムによって除去する装置及び方法が開示されている。特許文献2に開示されている装置及び方法では、グループを構成する単一のレーザービームのそれぞれが岩盤表面のそれぞれ対応する位置に照射されるように、電気光学レーザービーム切替器によってレーザービームの岩盤照射位置を順次選択し、ビーム照射によって岩盤表面を剥離させて多重に重なりあう剥離片を生成してこれを除去することによって掘削を行う。特許文献2に開示されている装置、すなわちレーザーヘッドは(1)レーザービームを集光し方向を整えるビーム形成用光学パッケージ、(2)剥離片の除去とレーザービームの通路形成のための除去流パッケージ、及び(3)電気光学レーザービーム切替器からなり、これらはすべて防護容器に収納されている。
【0009】
特許文献3には、水中においてレーザービームを移動させて岩石を穿孔する装置が開示されている。特許文献3に開示されている装置は、レーザー発振器、レーザー伝送機構、レーザー集光径調整機構、レーザービーム操作機構及びモニタリング機構が防護容器に収納された装置である。特許文献3に開示されている装置においては、岩石穿孔に必要なエネルギーはレーザーではなく電力で供給されることが特徴的である。すなわち、地上又は海上の掘削リグから電力ケーブルで防護容器内のレーザー発振器に供給されここでレーザービームを発振する。レーザービームは穿孔される岩盤の底部に集光するように調整され岩盤にエネルギーを供給する。特許文献3に開示されている装置を構成する機器の中で、レーザービーム操作機構はレーザービームを岩盤上で移動させる機能を有するものであるが、その構成について特許文献3には具体的な記載はない。
【0010】
特許文献4には、レーザービームによって供給されるエネルギーが岩盤表面において所定のプロフィルとなるようにビームの形状を調節するシステム、装置及び方法が開示され、特に、高出力レーザーを岩盤表面に供給するレーザー坑底アセンブリーについて多様な実施例が開示されている。特許文献4におけるレーザー坑底アセンブリーは、レンズアセンブリーとその移動機構とからなる。通常、レーザービームはガウス分布のビームパターンを有するが、特許文献4に開示されているシステム等においては、レンズアセンブリーを通してこのビームパターンを所望のパターンに変換する。例えば、ビームパターンを複数のスポットに変換する。一方、移動機構はモーター駆動による回転をこのビームパターンに付与する。すなわち、特許文献4に開示されているシステム等においては、レンズアセンブリーによってレーザービームの形状を整え、その形状をモーター駆動によって回転し、坑底の岩盤表面にレーザービームパターンを描く。
【0011】
このレーザー坑底アセンブリー、すなわちレーザーヘッドは、防護容器に隔離され、レーザービームの透過可能な清浄流体をその内部に通すことによって冷却される。清浄流体はそのレーザーヘッドの側面から一部流出して掘屑の地上への輸送に使われる一方、先端
からはレーザービームを包むように流出して掘屑を坑底の岩盤表面から除去する。レーザービームは防護容器に設けられた出口窓から岩盤表面に向けて照射される。この出口窓には岩盤表面から掘屑が飛散してくるが、清浄流体の噴射によって、掘屑の衝突及び付着を防止する。
【0012】
以上述べてきた従来のレーザー掘削装置を要約すると以下のようになる。従来のレーザー掘削装置においては、地上又は海上に設置された掘削リグと坑底とを光ファイバーで繋ぎ、その先端部にレーザーヘッドを設置する。掘削リグから光ファイバーを通じて供給されたレーザービームはレーザーヘッドから岩盤表面に向かって照射される。レーザーヘッドに関して、従来技術はいずれもレンズアセンブリーを使用し、ここでレーザービームのパターン及び照射方向を調節する。特許文献1に開示されているレーザーヘッドは、100本以上の光ファイバーによって掘削孔を覆い、光ファイバーの端末にそれぞれ個別にレンズアセンブリーが設置され、レンズアセンブリーが坑底の岩盤表面全体と対向する。特許文献2に開示されているレーザーヘッドは、1本のレーザービームをレンズアセンブリーにおいて集光し照射方向を整え、電気光学レーザービーム切替器によって照射位置を順次選択して岩盤表面にレーザーエネルギーを供給するものであり、電気光学レーザービーム切替器が坑底の岩盤表面と対向する。特許文献3に開示されているレーザーヘッドは、レンズアセンブリー(レーザー集光径調整機構)において集光距離を整えレーザービーム操作機構によって坑底の岩盤表面にレーザーエネルギーを分配するものである。レーザービーム操作機構について特許文献3には実施態様が開示されていない。一方、特許文献4はモーター駆動に言及している。特許文献4に開示されたレーザーヘッドは、レンズアセンブリーにおいてレーザービームの形状を整えてから、この形状をモーター駆動によって回転し、坑底の岩盤表面にレーザービームパターンを描くものである。
【0013】
特許文献1から特許文献4は、いずれもレーザーヘッドにレンズアセンブリーを含む。レンズアセンブリーは常温の清浄な雰囲気で機能するものであり、高圧の掘削流体中において地熱によって加熱される坑底の環境下では機能しない。このため、レーザーヘッドは防護容器に収納し、水冷して常温に維持せねばならない。このために、地上又は海上と坑内を結ぶ清水の循環ラインが必要となる。低温の清水を地上又は海上で製造して低温を維持したまま坑底に供給することは困難なので、冷却水製造用の冷却器の坑内設置は不可避である。この場合、坑内設置した冷却器で低温清水を得、防護容器と熱交換した後、戻りの配管で地上又は海上に上げここで大気への放熱と予備冷却を行い、再び、往きの配管で坑内の冷却器へ供給するように冷却循環システムを構築せねばならない。また、かかる冷却システムは制御用電源を必要とし、地上又は海上より坑内の冷却器まで電源ケーブルを引かねばならない。このほか、特許文献2に記載される電気光学レーザービーム切替器を使用すると、これも水冷の対象となる。また、電気光学レーザービーム切替器も制御用電源を必要とする。以上のように、レンズアセンブリーや電気光学レーザービーム切替器等の電気的あるいは光学的機器を坑底で使用するには、限られた坑内空間に冷却器の設置が必要となり、冷却器を含むレーザーヘッドの構成は複雑となる。これを過酷な坑内環境で実施するのは困難を伴い、好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6,755,262号明細書
【特許文献2】米国特許第7,416,258号明細書
【特許文献3】特開2010−17864号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2010/0044105号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
レーザー掘削装置においては、地上又は海上から坑底直上まで光ファイバーを配して、坑底の岩盤表面全体に、効率よくレーザーエネルギーを供給することが望まれるが、従来技術には以下のような問題があった。
【0016】
掘削が行われる坑底は掘削流体による加圧、地熱による加熱という厳しい環境下にある。例えば、垂直深度7000mを超える坑井では、坑底にかかる掘削流体の圧力は通常700気圧を超え、温度は地熱の影響によって200℃を超える。このように過酷な坑内環境下で、レンズアセンブリーや電気光学的レーザービーム切替器等の電気的あるいは光学的機器を使用するには、これらの機器を防護容器に収納して清浄な雰囲気に隔離し、水冷等によって常温に維持することが不可欠となる。このために、専用の制御用電源ケーブル、清水の循環ラインが必要となる。さらに、低温の清水を地上又は海上で製造して低温を維持したまま坑底に供給することは困難なので、冷却水製造用の冷却器の坑内設置も必要となる。このように、電気的機器あるいは光学的機器を採用すると装置の構成が複雑となり、これを過酷な坑内環境で実施するのは困難を伴う。
【0017】
本発明は、以上のような技術的課題に鑑みてなされたものである。本発明のいくつかの態様によれば、過酷な坑内環境下で所望のレーザービームパターンを岩盤表面に描くことができるレーザー掘削装置を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(1)本発明に係るレーザー掘削装置は、
光ファイバーケーブルと、
前記光ファイバーケーブルを内包する管と、
前記管を貫通させ、軸受を介して前記管を回転自在に支持する第1偏心リングと、
前記第1偏心リングを内包し、軸受を介して前記第1偏心リングを回転自在に支持する第2偏心リングと、
前記第2偏心リングを内包し、軸受を介して前記第2偏心リングを回転自在に支持する固定リングと、
を含み、
前記第1偏心リング及び前記第2偏心リングの回転によって前記管の中心軸を移動させて、前記管に内包される前記光ファイバーケーブルのビーム放射端の位置を移動させる。
【0019】
本発明によれば、第1偏心リング及び第2偏心リングの回転によって管の中心軸を移動させて、管に内包される光ファイバーケーブルのビーム放射端の位置を移動させる。第1偏心リング及び第2偏心リングは機械的な構成で回転させることができる。一般的に、機械的な構成は、電気的機器や光学的機器に比べて、過酷な坑内環境下においての信頼性が高い。したがって、過酷な坑内環境下で所望のレーザービームパターンを岩盤表面に描くことができるレーザー掘削装置を実現できる。
【0020】
(2)上述のレーザー掘削装置において、
前記管を貫通させる第1波動歯車装置と、
前記管を貫通させる第2波動歯車装置と、
をさらに含み、
前記管を、継手を介して前記第1波動歯車装置の入力部に連結し、前記第1偏心リングを前記第1波動歯車装置の出力部に連結し、
前記管を、継手を介して前記第2波動歯車装置の入力部に連結し、前記第2偏心リングを前記第2波動歯車装置の出力部に連結し、
前記管の回転を前記第1波動歯車装置で減速して前記第1偏心リングを回転させ、
前記管の回転を前記第2波動歯車装置で減速して前記第2偏心リングを回転させてもよい。
【0021】
本発明によれば、管の回転を第1波動歯車装置で減速して第1偏心リングを回転させ、管の回転を第2波動歯車装置で減速して第2偏心リングを回転させるので、管の回転を利用して第1偏心リング及び第2偏心リングを回転させることができる。したがって、電気的機器や光学的機器に比べて、過酷な坑内環境下でも信頼性の高いレーザー掘削装置を実現できる。
【0022】
(3)上述のレーザー掘削装置において、
空隙を有して前記光ファイバーケーブルを被覆するジャケットをさらに含んでもよい。
【0023】
本発明によれば、光ファイバーケーブルとジャケットとの間の空隙を利用して、レーザービームに対して透明性の高い流体(例えば、清水など)を、光ファイバーケーブルのビーム放射端まで流すことができる。したがって、エネルギー効率の高いレーザー掘削装置を実現できる。
【0024】
(4)上述のレーザー掘削装置において、
前記光ファイバーケーブルと前記ジャケットと間の前記空隙と連通し、前記光ファイバーケーブルの前記ビーム放射端を囲むように設けられたノズルをさらに含んでもよい。
【0025】
本発明によれば、光ファイバーケーブルのビーム放射端を囲むように設けられたノズルから、レーザービームに対して透明性の高い流体(例えば、清水など)を放出することができる。したがって、エネルギー効率の高いレーザー掘削装置を実現できる。
【0026】
(5)上述のレーザー掘削装置において、
前記光ファイバーケーブルは、複数の光ファイバーを含み、
前記光ファイバーケーブルと前記ジャケットと間の前記空隙と連通し、前記複数の光ファイバーのそれぞれのビーム放射端を囲むように設けられたノズルをさらに含んでもよい。
【0027】
本発明によれば、複数の光ファイバーのそれぞれのビーム放射端を囲むように設けられた複数のノズルから、レーザービームに対して透明性の高い流体(例えば、清水など)を放出することができる。したがって、エネルギー効率の高いレーザー掘削装置を実現できる。
【0028】
(6)上述のレーザー掘削装置において、
前記管は、空隙を有して前記光ファイバーケーブルを内包し、
前記光ファイバーケーブルと前記管との間の前記空隙と連通し、前記光ファイバーケーブルの前記ビーム放射端を囲むように設けられたノズルをさらに含んでもよい。
【0029】
本発明によれば、光ファイバーケーブルと管との間の空隙と連通し、光ファイバーケーブルのビーム放射端を囲むように設けられたノズルから、泥水などの掘削流体を放出することができる。したがって、レーザービームによって溶融された岩盤などの溶融物を容易に除去できる。
【0030】
(7)上述のレーザー掘削装置において、
前記管は、互いに褶動可能に設けられた外管と内管とを含んでもよい。
【0031】
本発明によれば、管が互いに褶動可能に設けられた外管と内管とを含んで構成されているので、自律的に長さを調節することができる。特に、光ファイバーケーブルと管との間の空隙と連通し、光ファイバーケーブルのビーム放射端を包囲するノズルから、泥水など
の掘削流体を放出する場合には、掘削流体の流出抵抗を用いて管の長さを自律的に変えることができる。したがって、管や管に内包されている光ファイバーケーブルが岩盤などに衝突することによって破損することを抑制できる。
【0032】
(8)上述のレーザー掘削装置において、
前記光ファイバーケーブルの可動域の外に設けられ、前記光ファイバーケーブルの可動域の少なくとも一部を覆う防護殻をさらに含んでもよい。
【0033】
本発明によれば、光ファイバーケーブルの可動域の外に設けられ、光ファイバーケーブルの可動域の少なくとも一部を覆う防護殻を含んで構成されているので、光ファイバーケーブルが岩盤などに衝突することによって破損することを抑制できる。
【0034】
(9)上述のレーザー掘削装置において、
前記光ファイバーケーブルの前記ビーム放射端は、前記管の端部よりも外側に突出していてもよい。
【0035】
本発明によれば、光ファイバーケーブルを岩盤に近づけることができるので、レーザーのエネルギーを効率よく岩盤に供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1実施形態にレーザー掘削装置1の機能の概略を説明するための模式図である。
【図2】第1実施形態に係るレーザー掘削装置1の要部を模式的に示す水平断面図である。
【図3】第1実施形態に係るレーザー掘削装置1の主要な構成を模式的に示す垂直断面図である。
【図4】光ファイバーケーブル11の他の構成例を模式的に示す断面図である。
【図5】光ファイバーケーブル11の他の構成例を模式的に示す断面図である。
【図6】第1実施形態に係るレーザー掘削装置1の他の構成例を模式的に示す、光ファイバーケーブル11及びその近傍の断面図である。
【図7】光ファイバーケーブル11の中心軸に沿った方向から見た光ファイバーケーブル11のビーム放射端37及びその近傍の構成例を模式的に示す図である。
【図8】光ファイバーケーブル11の中心軸に沿った方向から見た光ファイバーケーブル11のビーム放射端37及びその近傍の他の構成例を模式的に示す図である。
【図9】図9(A)は、第1実施形態に係るレーザー掘削装置1の他の構成例を模式的に示す、光ファイバーケーブル11及びその近傍の断面図、図9(B)は、ビーム放射端37近傍についての図9(A)のA−A線における断面図である。
【図10】光ファイバーケーブル11のビーム放射端37及びその近傍の構成例を模式的に示す垂直断面図である。
【図11】光ファイバーケーブル11のビーム放射端37及びその近傍の構成例を模式的に示す垂直断面図である。
【図12】第2実施形態に係るレーザー掘削装置2の主要な構成を模式的に示す垂直断面図である。
【図13】図13(A)は、第3実施形態に係るレーザー掘削装置の光ファイバーケーブル11の水平断面図、図13(B)は、第3実施形態に係るレーザー掘削装置の光ファイバーケーブル11のビーム放射端37及びその近傍の構成例を模式的に示す垂直断面図(図13(A)のA−A線における断面図)である。
【図14】保持機構150の構成を模式的に示す断面図である。
【図15】第4実施形態に係るレーザー掘削装置3の主要な構成を模式的に示す垂直断面図である。
【図16】図16(a)ないし図16(f)は、レーザービームパターン205の実施例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0038】
1.第1実施形態に係るレーザー掘削装置
図1は、第1実施形態にレーザー掘削装置1の機能の概略を説明するための模式図である。第1実施形態に係るレーザー掘削装置1の機能は、図1に示されるように、ビーム放射端が移動する面であるビーム放射面201を岩盤表面202と対向させ、ビーム放射面201上において、光ファイバーのビーム放射端を移動させて移動パターン203を形成し、レーザービーム204を岩盤表面202へ照射することによって、移動パターン203を岩盤表面202に投影させてレーザービームパターン205を描くことである。ここで、光ファイバーケーブルが複数の光ファイバーを収納する場合には、レーザービーム204は複数のレーザービームで構成される。
【0039】
図2は、第1実施形態に係るレーザー掘削装置1の要部を模式的に示す水平断面図である。図3は、第1実施形態に係るレーザー掘削装置1の主要な構成を模式的に示す垂直断面図である。
【0040】
第1実施形態に係るレーザー掘削装置1は、光ファイバーケーブル11と、光ファイバーケーブル11を内包する管12と、管12を貫通させ、軸受14を介して管12を回転自在に支持する第1偏心リング13と、第1偏心リング13を内包し、軸受16を介して第1偏心リング13を回転自在に支持する第2偏心リング15と、第2偏心リング15を内包し、軸受18を介して第2偏心リング15を回転自在に支持する固定リング17と、を含み、第1偏心リング13及び第2偏心リング15の回転によって管12の中心軸を移動させて、管12に内包される光ファイバーケーブル11のビーム放射端37の位置を移動させる。
【0041】
図2に示されるように、本実施形態に係るレーザー掘削装置1は、光ファイバーケーブル11を管12の内部に収納し、二重の偏心リングを有する機構を適用して、管12と管12に内包されている光ファイバーケーブル11とを自在に面内移動させる。図2に示されるように、管12の断面の外形は円形である。管12の断面の内形は、光ファイバーケーブル11を内包できるかぎり任意の形状を採用できる。管12は、泥水などの掘削流体38を坑内に供給するための掘削流体供給管として機能してもよい。
【0042】
第1偏心リング13は、偏心した円形内周面を備えたリングである。管12は、軸受14を介して、第1偏心リング13の円形内周面の内側を貫通している。第1偏心リング13は、軸受14を介して管12を支持し、管12が第1偏心リング13に対して自在に回転できるように構成されている。
【0043】
第2偏心リング15は、偏心した円形内周面を備えたリングである。第1偏心リング13は、軸受16を介して、第2偏心リング15の円形内周面の内側に嵌め込まれている。すなわち、第2偏心リング15は、第1偏心リング13を内包するように構成されている。第2偏心リング15は、軸受16を介して第1偏心リング13を支持し、第1偏心リング13が第2偏心リング15に対して自在に回転できるように構成されている。
【0044】
固定リング17は、円形内周面を備えたリングである。固定リング17は、管状に構成
されていてもよい。第2偏心リング15は、軸受18を介して、固定リング17の円形内周面の内側に嵌め込まれている。すなわち、固定リング17は、第2偏心リング15を内包するように構成されている。固定リング17は、軸受18を介して第2偏心リング15を支持し、第2偏心リング15が固定リング17に対して自在に回転できるように構成されている。
【0045】
なお、上述の軸受14、軸受16及び軸受18としては、例えば、玉軸受、ローラー軸受など種々の公知の軸受を採用できる。
【0046】
図2に示されるように、第1偏心リング13を単独で回転させると、管12の中心軸は、第1偏心リング13の外周円の中心とのずれ、すなわちこの第1偏心量22を半径として、軌跡19に示されるように、円を描いて移動する。また、図2に示されるように、第2偏心リング15を回転させると、第1偏心リング13の外周円の中心は、第2偏心リング15の外周円の中心とのずれ、すなわちこの第2偏心量23を半径として、軌跡20に示されるように、円を描いて移動する。第1偏心リング13と第2偏心リング15を同時に回転させると、第1偏心量22と第2偏心量23との和を半径とする円21の内側の範囲で管12の中心軸に遊星運動をさせることが可能となる。すなわち、第1偏心量22を半径とする円運動と第2偏心量23を半径とする円運動とが重畳して、管12の中心軸は遊星運動する。管12の中心軸が移動することによって、管12に内包されている光ファイバーケーブル11も移動する。
【0047】
なお、管12の中心軸が遊星運動することによって描かれるレーザービームパターン205の例については、「4.実施例」の項で後述される。
【0048】
第1実施形態に係るレーザー掘削装置1によれば、第1偏心リング13及び第2偏心リング15の回転によって管12の中心軸を移動させて、管12に内包される光ファイバーケーブル11のビーム放射端37の位置を移動させる。第1偏心リング13及び第2偏心リング15は機械的な構成で回転させることができる。一般的に、機械的な構成は、電気的機器や光学的機器に比べて、過酷な坑内環境下においての信頼性が高い。したがって、過酷な坑内環境下で所望のレーザービームパターン205を岩盤表面202に描くことができるレーザー掘削装置1を実現できる。
【0049】
第1実施形態に係るレーザー掘削装置1において、管12を貫通させる第1波動歯車装置31と、管12を貫通させる第2波動歯車装置32と、をさらに含み、管12を、継手33を介して第1波動歯車装置31の入力部に連結し、第1偏心リング13を第1波動歯車装置31の出力部に連結し、管12を、継手34を介して第2波動歯車装置32の入力部に連結し、第2偏心リング15を前記第2波動歯車装置の出力部に連結し、管12の回転を第1波動歯車装置31で減速して第1偏心リング13を回転させ、管12の回転を第2波動歯車装置32で減速して第2偏心リング15を回転させてもよい。すなわち、管12の回転力を駆動源として第1偏心リング13及び第2偏心リング15を回転させてもよい。
【0050】
第1実施形態に係るレーザー掘削装置1においては、管12の回転の駆動源について特に制約はない。例えば、地上あるいは海上にモーターを設置して、モーターの回転力によって管12を回転させてもよい。また例えば、地上あるいは海上からドリルストリング内を通して坑内に送り込まれる泥水などの掘削流体38の流れを利用してモーター軸の回転を得るダウンホールモーターを坑内に設置し、ダウンホールモーターの回転力によって管12を回転させてもよい。後者の場合、掘削流体38は、ダウンホールモーターを駆動した後に、管12の内部に、そのすべてあるいは一部が導入されてもよい。
【0051】
管12の回転力を第1偏心リング13と第2偏心リング15の駆動に利用するために、管12の回転力は継手33及び減速機を介して第1偏心リング13に伝達され、継手34及び減速機を介して第2偏心リング15に伝達される。継手33及び継手34は、管12と減速機を接続するものであり、特に制約はない。継手33及び継手34としては、例えば、オルダム継手が適用できる。
【0052】
第1実施形態に係るレーザー掘削装置1においては、減速機として波動歯車装置(調和歯車減速機)を採用している。すなわち、管12の回転力は継手33及び第1波動歯車装置31を介して第1偏心リング13に伝達され、継手34及び第2波動歯車装置32を介して第2偏心リング15に伝達される。波動歯車装置は複雑な機構や構造を用いることなく同軸上で内リングを入力とし外リングを出力として取出し、1/30〜1/320程度の高い減速比が得られ、部品数が少なく小型軽量であるので、過酷な坑内環境に適している。
【0053】
図3に示されるように、回転する管12は、第1波動歯車装置31、第1偏心リング13及び第2波動歯車装置32を貫通し、継手33を介して第1波動歯車装置31の内リング(第1波動歯車装置31の入力部に相当する)と接続され、継手34を介して第2波動歯車装置32の内リング(第2波動歯車装置32の入力部に相当する)と接続され、その回転が第1波動歯車装置31及び第2波動歯車装置32に伝達される。管12の回転は、第1波動歯車装置31及び第2波動歯車装置32において、それぞれの減速比で減速され、それぞれの外リングより出力される。第1波動歯車装置31の外リング(第1波動歯車装置31の出力部に相当する)はその中心軸が第1偏心リング13の外周円の中心軸に一致すように、第1偏心リング13と接続される。同様に、第2波動歯車装置32の外リング(第2波動歯車装置32の出力部に相当する)は中心軸が第2偏心リング15の外周円の中心軸に一致するように、第2偏心リング15と接続される。この結果、管12の回転力によって、第1偏心リング13と第2偏心リング15を、所定の回転速度で回転させることができる。
【0054】
第1実施形態に係るレーザー掘削装置1によれば、管12の回転を第1波動歯車装置31で減速して第1偏心リング13を回転させ、管12の回転を第2波動歯車装置32で減速して第2偏心リング15を回転させるので、管12の回転を利用して第1偏心リング13及び第2偏心リング15を回転させることができる。したがって、電気的機器や光学的機器に比べて、過酷な坑内環境下でも信頼性の高いレーザー掘削装置1を実現できる。
【0055】
図3に示される例では、第1偏心リング13と第2偏心リング15が同時に回転することによる管12の遊星運動は、管12の上流側(第1偏心リング13よりも、管12に内包されている光ファイバーケーブル11のビーム放射端37から遠い側)に設けられた自在継手35を支点として行われる。これによって、図1に示されるように、ビーム放射端37がビーム放射面201の上で遊星運動を行うと、ビーム放射端37の軌跡はこの面上に移動パターン203を形成し、レーザービーム204が岩盤表面202へ到達すると、岩盤表面202に移動パターン203を相似形に拡大したレーザービームパターン205を描くことができる。
【0056】
図3に示される例では、第1波動歯車装置31、第2波動歯車装置32及び固定リング17は外周において固定管48に固定され、シール部49によって坑内の掘削流体38とは接触が断たれている。なお、固定リング17と固定管48とが一体として構成されていてもよい。
【0057】
図3に示される例では、管12は、上流側(第1偏心リング13よりも、管12に内包されている光ファイバーケーブル11のビーム放射端37から遠い側)において、結合部
材42を介して回転管43と結合されている。回転管43は、上流側(結合部材42よりも、管12に内包されている光ファイバーケーブル11のビーム放射端37から遠い側)においてダウンホールモーター(図示せず)の出力軸と結合されている。すなわち、第1実施形態に係るレーザー掘削装置1においては、回転管43は、ダウンホールモーターの出力軸と結合されることによって回転し、さらに自在継手35を介して管12を回転させる。
【0058】
掘削流体38はダウンホールモーターの駆動に利用されたあと、回転管43の内部へ誘導され、さらに管12へと誘導され、管12の端部である管端36より岩盤表面202へ向けて噴射され、岩盤表面202において発生した掘屑を除去する。そしてレーザー掘削装置1のハウジング44と坑壁50との間の空隙、すなわち、アニュラス部を通って掘屑を搬送し掘削リグへと戻って行く。
【0059】
また、図示されないが、公知の偏向機構、例えばロータリーステアラブルシステムによって、ハウジング44の中で回転管43を弾性変形させて曲げを付与し偏向させてもよい。回転管43に曲げを付与することによって、回転管43の中心軸47はフォーカル軸受45においてハウジング44の中心軸46からずれる。また、管12は、第1偏心リング13と第2偏心リング15の作用によって、自在継手35を支点として中心軸47を軸として遊星運動をする。管12の遊星運動は、岩盤表面202に向けて照射されるレーザービーム204に伝達されて拡大され、レーザービーム204が岩盤表面202にレーザービームパターン205を描くことを可能にする。なお、上述の例の場合、中心軸47が掘削方向となる。
【0060】
図3に示される例では、光ファイバーケーブル11は、1本の光ファイバーを含んで構成されているが、光ファイバーケーブル11は、複数の光ファイバーを含んで構成されていてもよい。
【0061】
図4は、光ファイバーケーブル11の他の構成例を模式的に示す横断面図である。図4に示される例では、光ファイバーケーブル11は、10本の光ファイバー60が保護シース65の内部に収納され、保護シース65と光ファイバー60との間隙にはジェリー66が充填されている。図4に示される構成の光ファイバーケーブル11の場合には、10本の光ファイバー60のそれぞれがレーザービーム204の通路となる。光ファイバーケーブル11が複数の光ファイバー60を含んで構成されていることによって、より多くのエネルギーを岩盤表面202に与えることができる。このような構成の光ファイバーケーブル11の保護シース65には高温高圧の坑内環境に耐えることが求められる。かかる観点から保護シース65は金属管であることが好ましい。保護シース65の材質として、例えば、ステンレス鋼、耐熱鋼、ニッケル基合金が挙げられる。ジェリー66は、保護シース65の坑内側端部から長手方向に水が侵入するのを防ぐように機能する。ジェリー66としては、例えば、チクソトロピー性の粘性流体コンパウンドを用いることができる。図4に示される光ファイバーケーブル11の利点としては、図5〜図9を用いて後述される構成よりも安価に製造できること、及び、10kmに及ぶ長いケーブルを容易に一体で製造できることが挙げられる。
【0062】
図5は、光ファイバーケーブル11の他の構成例を模式的に示す断面図である。図5に示される例では、光ファイバーケーブル11は、10本の光ファイバー60がスロットロッド61の外周に設けられた溝に収納され、溝を封鎖するように押え巻層62が巻き回されて構成されている。スロットロッド61には鋼撚線からなるテンションメンバー63が埋設されている。押え巻層62は外周を鉄線層64によって補強され、さらにその上から保護シース65が形成されている。図5に示される構成の光ファイバーケーブル11の場合には、10本の光ファイバー60のそれぞれがレーザービーム204の通路となる。光
ファイバーケーブル11が複数の光ファイバー60を含んで構成されていることによって、より多くのエネルギーを岩盤表面202に与えることができる。
【0063】
図6は、第1実施形態に係るレーザー掘削装置1の他の構成例を模式的に示す、光ファイバーケーブル11及びその近傍の断面図である。第1実施形態に係るレーザー掘削装置1は、空隙71を有して光ファイバーケーブル11を被覆するジャケット70をさらに含んで構成されていてもよい。
【0064】
光ファイバーケーブル11とジャケット70との間の空隙71を利用して、透明流体(掘削流体38(泥水など)よりもレーザービーム204に対して透明性の高い流体(例えば、清水など))を、光ファイバーケーブル11のビーム放射端37まで流すことができる。透明流体を光ファイバーケーブル11のビーム放射端37まで流すことによって、ビーム放射端37から岩盤表面202までの間におけるレーザービーム204に対する透明性を高めることができる。したがって、エネルギー効率の高いレーザー掘削装置1を実現できる。
【0065】
第1実施形態に係るレーザー掘削装置1は、光ファイバーケーブル11とジャケット70と間の空隙71と連通し、光ファイバーケーブル11のビーム放射端37を囲むように設けられたノズルをさらに含んで構成されていてもよい。
【0066】
図7は、光ファイバーケーブル11の中心軸に沿った方向から見た光ファイバーケーブル11のビーム放射端37及びその近傍の構成例を模式的に示す図である。図7に示される例では、光ファイバーケーブル11のビーム放射端37の周囲に、ビーム放射端37を囲むように等間隔に配置された10個の円形の単孔ノズル80が設けられている。なお、単孔ノズル80の数及び形状は、レーザー掘削装置1の仕様に応じて任意に選択できる。
【0067】
図8は、光ファイバーケーブル11の中心軸に沿った方向から見た光ファイバーケーブル11のビーム放射端37及びその近傍の他の構成例を模式的に示す図である。図8に示される例では、光ファイバーケーブル11のビーム放射端37の周囲に、ビーム放射端37を囲むように等間隔に配置された4分割されたスリットノズル90が設けられている。なお、スリットノズル90の数及び形状は、レーザー掘削装置1の仕様に応じて任意に選択できる。なお、図8に示される例では、光ファイバーケーブル11の中心軸に沿った方向から見て、光ファイバーケーブル11のビーム放射端37の一部の方位を囲むようにスリットノズル90が設けられているが、光ファイバーケーブル11のビーム放射端37の全方位を囲むようにスリットノズル90が設けられていてもよい。
【0068】
第1実施形態に係るレーザー掘削装置1によれば、光ファイバーケーブル11のビーム放射端37を囲むように設けられたノズル(単孔ノズル80又はスリットノズル90)から、透明流体(掘削流体38(泥水など)よりもレーザービーム204に対して透明性の高い流体(例えば、清水など))を放出することができる。これによって、ビーム放射端37から岩盤表面202までの間におけるレーザービーム204に対する透明性を高めることができる。したがって、エネルギー効率の高いレーザー掘削装置1を実現できる。さらに、ノズルとして、出口近傍が狭窄された形状のノズルを採用することによって、ノズルから噴射された透明流体を用いて、レーザービーム204の照射によって生じた掘屑を岩盤表面202から速やかに除去し、ビーム放射端37から岩盤表面202までの間における濁りの発生を抑制できる。
【0069】
第1実施形態に係るレーザー掘削装置1は、光ファイバーケーブル11が、複数の光ファイバー60を含み、光ファイバーケーブル11とジャケット70と間の空隙71と連通し、複数の光ファイバー60のそれぞれのビーム放射端を囲むように設けられたノズル1
00を含んで構成されていてもよい。
【0070】
図9(A)は、第1実施形態に係るレーザー掘削装置1の他の構成例を模式的に示す、光ファイバーケーブル11及びその近傍の断面図、図9(B)は、ビーム放射端37近傍についての図9(A)のA−A線における断面図である。
【0071】
図9(A)及び図9(B)に示される例では、ジャケット70は端部において、光ファイバー60の端部(ビーム放射端)と中心線が一致するようにノズル100が設けられている。図9(B)に示される例では、ノズル100は円形の単孔ノズルである。これによって、透明流体は空隙71からノズル100へと導かれ、透明流体ジェット流101が形成される。透明流体ジェット流101は光ファイバー60の端部と中心線が一致するので、光ファイバー60から放射されたレーザービーム204は透明流体ジェット流101を通路として岩盤表面202に至る。なお、図9に示される例では、光ファイバー60の中心軸に沿った方向から見て、光ファイバー60のビーム放射端の全方位を囲むようにノズル100が設けられているが、必ずしも全方位を囲むように設けられている必要はない。例えば、光ファイバー60の中心軸に沿った方向から見て、光ファイバー60のビーム放射端の周囲の一部に、ノズル100が設けられていない箇所があってもよい。
【0072】
第1実施形態に係るレーザー掘削装置1によれば、複数の光ファイバー60のそれぞれのビーム放射端を囲むように設けられた複数のノズル100から、透明流体(掘削流体38(泥水など)よりもレーザービーム204に対して透明性の高い流体(例えば、清水など))を放出することができる。これによって、ビーム放射端37から岩盤表面202までの間におけるレーザービーム204に対する透明性を高めることができる。さらに、光ファイバー60とノズル100の中心軸を一致させることによって、ノズル100から放出される流体がレーザービーム204の進路上への異物の侵入を抑制できる。したがって、エネルギー効率の高いレーザー掘削装置1を実現できる。
【0073】
単孔ノズル80、スリットノズル90あるいはノズル100によって形成される透明流体ジェット流101を取り巻く環境は、掘削流体38である。すなわち、透明流体ジェット流101は、流動する掘削流体38中に形成される。代表的な掘削流体である泥水は、水あるいは油を連続相とするスラリー状の流体であり、レーザービーム204の通路として機能はするが、レーザービーム204に対してのエネルギー損失が大きいので、エネルギー効率の観点からは好適とはいえない。透明流体は、エネルギー効率の観点から、泥水に勝るレーザービーム204の通路を提供する。清水は透明流体として好適であるが、清水によって掘削流体38中に透明流体ジェット流101を形成した場合、清水を通過するレーザービーム204の一部が掘削流体38中へ漏れ、エネルギー損失の一因となる問題が発生する。レーザービーム204の掘削流体38中へ漏れを防止するにためは、透明流体ジェット流101と掘削流体38の界面でレーザービーム204の全反射が生じる必要がある。これを実現するには、透明流体の比重が掘削流体よりも大きくなるように透明流体及び掘削流体を選択すればよい。これによって、透明流体の屈折率が掘削流体の屈折率を上回り全反射が可能となる。好適な掘削流体の例としては、ブラインが挙げられる。ブラインは塩類溶液であり、全反射実現の観点から1.4〜2.2の比重のものが好ましい。また、透明流体としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の常温常圧で気体となる流体を選択してもよい。
【0074】
第1実施形態に係るレーザー掘削装置1は、管12が空隙121を有して光ファイバーケーブル11を内包し、光ファイバーケーブル11と管12との間の空隙121と連通し、光ファイバーケーブル11のビーム放射端37を囲むように設けられたノズル110をさらに含んでもよい。
【0075】
図10は、光ファイバーケーブル11のビーム放射端37及びその近傍の構成例を模式的に示す垂直断面図である。図10に示される例では、スイベル継手(図示せず)を使用して、非回転の光ファイバーケーブル11の中心軸は、管12の管端36において、回転する管12の中心軸と一致させている。また、図10に示される例では、ノズル110は、光ファイバーケーブル11と管12との間の空隙121と連通し、管端36の内側面と光ファイバーケーブル11の外側面によって構成されるスリットノズルである。図10に示される例では、光ファイバーケーブル11の中心軸に沿った方向から見て、光ファイバーケーブル11のビーム放射端37の全方位を囲むようにノズル110が設けられているが、必ずしも全方位を囲むように設けられている必要はない。例えば、光ファイバーケーブル11の中心軸に沿った方向から見て、ビーム放射端37の周囲の一部に、ノズル110が設けられていない箇所があってもよい。光ファイバーケーブル11と管12との間の空隙121を流れる掘削流体38は、ノズル110から岩盤表面202に向けて噴射され掘削流体ジェット流39となる。ビーム放射端37から放射されたレーザービーム204は岩盤表面202に到達して岩石を溶融する。発生した溶融物及び剥離片はノズル110から噴射された掘削流体ジェット流39によって除去され掘屑となり、掘削流体38によって搬送され、岩石の掘削が進行する。
【0076】
第1実施形態に係るレーザー掘削装置1によれば、光ファイバーケーブル11と管12との間の空隙121と連通し、光ファイバーケーブル11のビーム放射端37を囲むように設けられたノズル110から、泥水などの掘削流体38を放出することができる。したがって、レーザービーム204によって溶融された岩盤などの溶融物を容易に除去できる。
【0077】
掘削の進行に伴って岩盤表面202の位置は変化する。岩盤の掘削を安定して継続するためには、岩盤表面202と管端36との間隙112を岩盤表面202の位置の変化に追従して適正な範囲に保つ必要がある。これを実現する方法の例について説明する。
【0078】
掘削流体38は掘削流体ジェット流39として岩盤表面202に衝突後、管端36の外周へ流出する。流出する掘削流体38の液層の厚さは管端36直下においてもっとも薄くなる。管端36直下における掘削流体38の液層の厚さである液層厚113は、管端36と岩盤表面202との間隙112の間隔が広いときにはその影響を受けないが、間隙112の間隔が狭くなると岩盤表面202から影響を受けるようになる。すなわち、液層厚113は間隙112によって規制されるようになり、この部位の掘削流体38の流出速度は増大し圧損が増加する。この圧損の増加は、地上あるいは海上において管12の背圧上昇として表れる。したがって、地上あるいは海上の掘削リグにおいて、掘削流体38を管12に定量供給しつつ、管12の背圧が所定の範囲に収まるように、レーザー掘削装置1の自重を利用するなどして管端36に適正な負荷を掛ければ、間隙112を適正な範囲に保つことができる。これによって、間隙112の間隔が安定するので、安定した掘削条件の下で掘削を継続することが可能となる。
【0079】
図10に示される例では、レーザービーム204は光ファイバー60から掘削流体38中へ放射される。掘削流体38には通常、泥水が使用されるが、泥水を使用するとレーザービーム204のエネルギーの伝送損失を伴う。エネルギー伝送損失を低減するために、泥水よりもレーザー光の吸収の少ない流体を掘削流体38としてもよい。掘削流体38の機能の一つは掘屑の搬送であり、地上あるいは海上において掘屑を分離後、再び坑底に送られるが、泥水よりもレーザー光の吸収の少ない流体を適用しても濁りが発生することは避けられず、ある程度のエネルギーの伝送損失は避けられない。
【0080】
レーザービーム204のエネルギーの伝送損失をさらに抑制するために、すでに図9を用いて説明したように、光ファイバー60の端部と中心線が一致するようにノズル100
を設け、透明流体ジェット流101を掘削流体38中に形成しこれをレーザービーム204の通路として利用することができる。透明流体ジェット流101は光ファイバー60の数だけ設ければよいので、透明流体の流量は掘削流体38の流量に比べて圧倒的に少ない。したがって、透明流体が加わっても掘削流体38のリサイクルシステム成立の障害となることはない。この方法によってレーザービーム204のエネルギーの伝送損失を極限にまで抑制することが可能となる。
【0081】
図11は、光ファイバーケーブル11のビーム放射端37及びその近傍の構成例を模式的に示す垂直断面図である。図11に示される例では、スイベル継手(図示せず)を使用して、非回転の光ファイバーケーブル11の中心軸は、管12の管端36において、回転する管12の中心軸と一致させている。また、図11に示される例では、ノズル110は、光ファイバーケーブル11と管12との間の空隙121と連通し、管端36の内側面と光ファイバーケーブル11の外側面によって構成されるスリットノズルである。光ファイバーケーブル11と管12との間の空隙121を流れる掘削流体38は、ノズル110から岩盤表面202に向けて噴射され掘削流体ジェット流39となる。
【0082】
ジャケット70は端部において、光ファイバー60の端部(ビーム放射端)と中心線が一致するようにノズル100が設けられている。図11に示される例では、ノズル100は円形の単孔ノズルである。これによって、透明流体は空隙71からノズル100へと導かれ、透明流体ジェット流101が形成される。透明流体ジェット流101は光ファイバー60の端部と中心線が一致するので、光ファイバー60から放射されたレーザービーム204は透明流体ジェット流101を通路として岩盤表面202に到達して岩石を溶融する。発生した溶融物及び剥離片はノズル110から噴射された掘削流体ジェット流39によって除去され掘屑となり、掘削流体38によって搬送され、岩石の掘削が進行する。透明流体は岩盤表面202に衝突後、透明流体層120を形成して掘屑を搬送し、やがて掘削流体38と一体化する。
【0083】
また、地上あるいは海上において、掘削流体38を管12に定量供給しつつ、管12の背圧が所定の範囲に収まるように、レーザー掘削装置1の吊り荷重を調整するなどして管端36に適正な負荷を掛ければ、間隙112の間隔を適正な範囲に保つことができる。これによって、ビーム放射端37から発せられるレーザービーム204によって岩盤表面202に供給されるレーザービーム204のエネルギー密度が安定し、岩盤の安定的な破壊がもたらされる。したがって、安定した掘削条件の下で掘削を継続することが可能となる。
【0084】
2.第2実施形態に係るレーザー掘削装置
図12は、第2実施形態に係るレーザー掘削装置2の主要な構成を模式的に示す垂直断面図である。第1実施形態に係るレーザー掘削装置1においては、管端36と岩盤表面202の間隙112の間隔を適正に保つために、地上又は海上において検出される管12の背圧を所定の範囲に収める方法が採用されたが、第2実施形態に係るレーザー掘削装置2は、坑内において間隙112の間隔を自律的に調整できる構成となっている。なお、第1実施形態に係るレーザー掘削装置1と同様の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0085】
第2実施形態に係るレーザー掘削装置2は、管12が互いに褶動可能に設けられた外管132と内管133とを含んで構成されている。図12に示される例では、管12が摺動可能な重複部134を有する外管132と内管133とを含んで構成されている。図12に示される例では、上流側に外管132、下流側に内管133を配しているが、これとは逆に、上流側に内管、下流側に外管を配してもよい。図12に示される例では、外管132の端部に相当する位置と、内管133の端部に相当する位置に、外管132と内管13
3との間を封止するシール部135及びシール部136が設けられている。シール部135及びシール部136が設けられていることによって、管12の内部を流通する掘削流体38の漏洩が防止される。
【0086】
管12を流通する掘削流体38は、管12の内圧によって内管133を管12の伸長方向に摺動させる。図11に示した間隙112が狭まると、間隙112における掘削流体38の流出抵抗が増大して管端36を押し上げる力が働く。管端36を押し上げる力によって、内管133が管12の収縮方向に摺動し、間隙112は回復する。このようにして、管12の長さを、外管132と内管133とが摺動可能な範囲内で自律的に調節することができる。さらに、地上あるいは海上において、掘削流体38を管12に定量供給しつつ、一定時間毎に、管12の背圧が急上昇を示すまで、レーザー掘削装置2の自重を利用するなどして管12を降下させることによって、間隙112の間隔を適正な範囲に保つことができる。これによって、ビーム放射端37から発せられるレーザービーム204によって岩盤表面202に供給されるレーザービーム204のエネルギー密度が安定し、岩盤の安定的な破壊がもたらされる。したがって、安定した掘削条件の下で掘削を継続することが可能となる。
【0087】
第2実施形態に係るレーザー掘削装置2によれば、管12が互いに褶動可能に設けられた外管132と内管133とを含んで構成されているので、自律的に長さを変えることができる。特に、光ファイバーケーブル11と管12との間の空隙121と連通し、光ファイバーケーブル11のビーム放射端37を包囲するノズル110から、泥水などの掘削流体38を放出する場合には、掘削流体38の流出抵抗を用いて管12の長さを自律的に調節することができる。したがって、管12や管12に内包されている光ファイバーケーブル11が岩盤などに衝突することによって破損することを抑制できる。
【0088】
第2実施形態のレーザー掘削装置2において、図6及び図9に示されるような光ファイバーケーブル11及びジャケット70を有する構成を採用する場合には、地上又は海上においてこのような形態にして、坑内へ搬入してもよいし、また、図12に示されるように、透明流体供給管130を坑内に配して接続部131において光ファイバーケーブル11とジャケット70との間の空隙71と接続させてもよい。なお、第1実施形態においても同様である。
【0089】
3.第3実施形態に係るレーザー掘削装置
図13(A)は、第3実施形態に係るレーザー掘削装置の光ファイバーケーブル11の水平断面図、図13(B)は、第3実施形態に係るレーザー掘削装置の光ファイバーケーブル11のビーム放射端37及びその近傍の構成例を模式的に示す垂直断面図(図13(A)のA−A線における断面図)である。なお、以下では第1実施形態に係るレーザー掘削装置1と相違する点を中心に説明し、第1実施形態に係るレーザー掘削装置1と同様の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0090】
図13(A)に示されるように、第3実施形態に係るレーザー掘削装置においては、光ファイバーケーブル11の構成は、図4を用いて説明した例と同様である。
【0091】
図13(B)に示されるように、第3実施形態に係るレーザー掘削装置においては、光ファイバーケーブル11のビーム放射端37は、管12の端部(管端36)よりも外側に突出している。すなわち、第1実施形態及び第2実施形態においては、ビーム放射端37は管端36の内部に配置されていたが、第3実施形態においては、ビーム放射端37は岩盤表面202に近接あるいは接触するように管端36の外部に突出して配置されている。
【0092】
図13(B)に示される例では、光ファイバーケーブル11の坑内側の端部となるビー
ム放射端37は、管端36から突出するように配置されており、光ファイバーケーブル11と管端36が環状のノズルを形成する。これによって、管12を通じて供給される掘削流体38は管端36において掘削流体ジェット流39となる。また、掘削流体ジェット流39と光ファイバーケーブル11との摩擦力を駆動力として、光ファイバーケーブル11を坑底へ向けて移動させることができる。光ファイバーケーブル11のビーム放射端37は、岩盤表面202に近接あるいは接触するので、レーザーエネルギーはビーム放射端37から岩盤表面202の対向部位に効率よく伝達される。より多くのレーザーエネルギーを岩盤表面202に伝達する観点から、ビーム放射端37から岩盤表面202までの間の距離は、50mm以下とすることが好ましく、30mm以下とすることがさらに好ましい。なお、管12の損耗を避ける観点からは、管端36から岩盤表面202までの間の距離は、50mm以上とすることが好ましい。
【0093】
レーザービームの一部は岩盤表面202において反射して、光ファイバーケーブル11の坑内側の端部(ビーム放射端37の近傍)を加熱する。この結果、ジェリー66は気化して光ファイバー60と保護シース65を気化熱によって冷却するが、光ファイバー60と保護シース65の損耗は徐々に進行する。光ファイバー60、保護シース65及びジェリー66の損耗分は光ファイバーケーブル11の供給によって補われる。このような損耗を制御するために、管12の内部に光ファイバーケーブル11が移動する状態と移動しない状態とを選択できる保持機構150を設置してもよい。
【0094】
図14は、保持機構150の構成を模式的に示す断面図である。図14に示される例では、保持機構150は、バネ機構151、流体受け部152及び押さえ部153を含んで構成されている。バネ機構151は、管12の内壁面に設けられている。バネ機構151は、流体受け部152及び押さえ部153を有するアームを水平方向に移動させることができる。流体受け部152は、掘削流体38の流通方向に対して斜面を有するように設けられている。図14に示される例では、流体受け部152が掘削流体38を受けることによって、アームは光ファイバーケーブル11に近づく方向に力を受ける。押さえ部153は、光ファイバーケーブル11と接することによって、光ファイバーケーブル11の移動を停止させることができる。このような保持機構150においては、掘削流体38の流量を制御することによって、光ファイバーケーブル11が移動する状態と移動しない状態とを選択することができる。このような保持機構150を設けることによって、ビーム放射端37から岩盤表面202の間の距離を調節し損耗速度を制御することが可能となる。
【0095】
第3実施形態に係るレーザー掘削装置においては、光ファイバーケーブル11のビーム放射端37が管12の端部(管端36)よりも突出しているので、ビーム放射端37を岩盤表面202に近接あるいは接触させることができる。これによってレーザーエネルギーの伝送損失が極めて小さくなるので、レーザービーム204は、高いパワー密度のレーザーエネルギーを岩盤表面202に供給することが可能となる。
【0096】
ビーム放射端37から、好ましくは10W/cm以上、より好ましくは10W/cm以上のパワー密度のレーザーエネルギーを岩盤表面202の局所に供給すると、レーザーエネルギーはほとんど損失なく岩石に伝達され、岩石成分の少なくとも一部が蒸発して噴出し、溝が形成される。「5.実施例」の項で後述されるように、坑底の岩盤表面202上でレーザービームを移動させながら照射しレーザービームパターンを描くと、レーザービームパターンに沿って溝状のパターンが形成される。すなわち、岩盤表面202は切り刻まれ多数の島に分割される。形成された島々の表層は、下層との熱膨張差や、亀裂に侵入した水の加熱膨張によって、剥離して多数の砕片となる。このように、高いエネルギー密度のレーザーエネルギーを岩盤表面202に供給すると、岩石の大部分を占める砕片は融点に達することなく固相のまま除去されるので、低いパワー密度を適用して岩石を溶融除去する方法に比べて、エネルギー効率が圧倒的に高くなるという利点がある。第
3実施形態に係るレーザー掘削装置は、このように高いエネルギー密度のレーザーエネルギーを岩盤表面202に供給する用途にも適している。
【0097】
4.第4実施形態に係るレーザー掘削装置
図15は、第4実施形態に係るレーザー掘削装置3の主要な構成を模式的に示す垂直断面図である。なお、第1実施形態に係るレーザー掘削装置1と同様の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0098】
第4実施形態に係るレーザー掘削装置3は、光ファイバーケーブル11の可動域の外に設けられ、光ファイバーケーブル11の可動域の少なくとも一部を覆う防護殻140をさらに含んで構成されている。
【0099】
図15に示される例では、固定管48及びシール部49に防護殻140が固定されている。防護殻140は、光ファイバーケーブル11の可動域の外に設けられている。また、図15に示される例では、少なくとも防護殻140の先端部141が岩盤と接触できるように構成されている。また、図15に示される例では、防護殻140は、光ファイバーケーブル11の可動域の少なくとも側方の一部を覆っている。また、図15に示される例では、防護殻140は、下方に広がるほぼ漏斗状に構成されている。
【0100】
防護殻140は、固定管48を坑内に降下させることによって坑内を降下できる。坑内で防護殻140を降下させると、防護殻140の先端部141は掘削が進行中の岩盤表面202の外周部において岩盤と接触する。レーザー掘削装置3の吊り荷重を調整するなどして、防護殻140にかかる負荷を一定に保つことによって、ビーム放射端37と岩盤表面202の間隙112は一定に保持される。これによって、ビーム放射端37から発せられるレーザービーム204によって岩盤表面202に供給されるレーザービーム204のエネルギー密度が安定し、岩盤の安定的な破壊がもたらされる。このような状況を実現するためには、防護殻140にかける負荷を、例えば、1トンから10トンとすることができる。
【0101】
図15に示される例では、防護殻140の先端部141は、防護殻140の先端全周に渡って離散的に複数の流出口142有する形状に構成されている。管端36から岩盤表面202に向けて流下する掘削流体38は掘屑が付着するのを防止すべく防護殻140の内面を洗浄して岩盤表面202に到り、ノズル100から放出される透明流体と合流し、掘屑を伴って、流出口142を通って防護殻140の外部へ移動し、坑内を上昇する。先端部141は、岩盤と接触し、脆化した岩盤を切り崩して砕片とする。これに伴う摩耗を避けるために、先端部141は耐摩耗材料によって構成される。耐摩耗材料としては、例えば、WC−Co系の超硬合金、サーメット、セラミック及び工具鋼の中から選択することができる。耐摩耗材料で構成される先端部141は、バルク材であっても被覆材であってもよい。被覆材としては、例えば、鋼表面にCo基合金粉末、サーメット粉末又はセラミック粉末を溶射したものを用いることができる。
【0102】
第4実施形態に係るレーザー掘削装置3によれば、光ファイバーケーブル11の可動域の外に設けられ、光ファイバーケーブル11の可動域の少なくとも一部を覆う防護殻140を含んで構成されているので、光ファイバーケーブル11が岩盤などに衝突することによって破損することを抑制できる。
【0103】
図15に示される例では、管12の管端36はシール部49近傍に設けられ、管端36には掘削流体ジェット流を発生させるために流路が狭窄された形状のノズルは設けられていない。この場合、管12から突出した光ファイバーケーブル11の中心軸は、スイベル継手(図示せず)を使用して管12の中心軸と一致するように管端36において調整され
ている。また、光ファイバーケーブル11の管12から突出した部分においては、曲げ変形防止のための強化がなされている。
【0104】
5.実施例
上述のレーザー掘削装置を使用すれば、第1偏心リング13及び第2偏心リング15をそれぞれ所定の回転速度で回転させることによって管12の中心軸を遊星運動させることができる。これに伴って光ファイバーケーブル11のビーム放射端37を遊星運動させることができる。この作用によって、ビーム放射面201上においてビーム放射端37の軌跡が移動パターン203を描き、この移動パターン203を、レーザービーム204を介して岩盤表面202にレーザービームパターン205として拡大転写することが可能となる。このようなレーザービームパターン205の実施例を以下に示す。
【0105】
5−1.第1実施例
表1に、第1実施例の条件を示す。
【0106】
【表1】

【0107】
サイクルタイムは、第1偏心リング13又は第2偏心リング15が1回転する時間である。偏心量は、第1偏心リング13においては第1偏心量22、第2偏心リング15においては第2偏心量23である。
【0108】
表1に示される条件で、レーザービーム204を120秒間照射した時のレーザービームパターン205を図16(a)に示す。図16(a)に示されるレーザービームパターン205は、光ファイバーケーブル11のビーム放射端37における光ファイバーケーブル11の中心線が描く軌跡と相似形である。光ファイバーケーブル11が複数の光ファイバー60を含んで構成されている場合には、レーザービームパターン205の近傍に、光ファイバー60の数に相当する数の軌跡が描かれる。
【0109】
第1実施例では、第1偏心量22と第2偏心量23の大きさが同じなので、レーザービームパターン205は、中心で交わるパターンとなっている。また、レーザービームパターン205は、第1偏心リング13が10回回転する60秒を1周期として繰り返されるパターンとなっている。
【0110】
5−2.第2実施例
表2に、第2実施例の条件を示す。
【0111】
【表2】

【0112】
表2に示される条件で、レーザービーム204を120秒間照射した時のレーザービームパターン205を図16(b)に示す。第2実施例では、第1偏心量22が第2偏心量23よりも大きいので、レーザービームパターン205の中心部において空白部分が生じる。
【0113】
5−3.第3実施例
表3に、第3実施例の条件を示す。
【0114】
【表3】

【0115】
表3に示される条件で、レーザービーム204を120秒間照射した時のレーザービームパターン205を図16(c)に示す。第3実施例では、第2実施例よりもさらに、第1偏心量22が第2偏心量23よりも大きいので、レーザービームパターン205の中心部の空白部分が第2実施例よりも大きくなっている。
【0116】
5−4.第4実施例
表4に、第4実施例の条件を示す。
【0117】
【表4】

【0118】
表4に示される条件で、レーザービーム204を120秒間照射した時のレーザービームパターン205を図16(d)に示す。第4実施例では、第1偏心量22と第2偏心量23の大きさが同じなので、レーザービームパターン205は、中心で交わるパターンとなっている。また、120秒の間では、レーザービームパターン205が同一の軌跡を繰り返すことはないので、レーザービーム204を岩盤表面202に対して細かく照射できる。
【0119】
5−5.第5実施例
表5に、第5実施例の条件を示す。
【0120】
【表5】

【0121】
表5に示される条件で、レーザービーム204を120秒間照射した時のレーザービームパターン205を図16(e)に示す。第5実施例では、第1偏心量22と第2偏心量23の大きさが同じなので、レーザービームパターン205は、中心で交わるパターンとなっている。また、レーザービームパターン205は、第1偏心リング13が6回回転する60秒を1周期として繰り返されるパターンとなっているので、第1実施例のレーザービームパターン205に比べて、岩盤表面202に対して荒く照射できる。
【0122】
5−6.第6実施例
表6に、第6実施例の条件を示す。
【0123】
【表6】

【0124】
表6に示される条件で、レーザービーム204を120秒間照射した時のレーザービームパターン205を図16(f)に示す。第6実施例では、第1偏心量22が第2偏心量23よりも小さいので、レーザービームパターン205の中心部において空白部分が生じる。第2実施例及び第3実施例と比較すると、第6実施例のレーザービームパターン205は、周辺部を荒く照射できるパターンである。また、レーザービームパターン205は、第1偏心リング13が10回回転する60秒を1周期として繰り返されるパターンとなっている。
【0125】
上述の実施例1〜6は、上述のレーザー掘削装置によって多様なレーザービームパターン205の形成が可能であることを示す。上述の実施例1〜6においては、第1偏心リング13と第2偏心リング15とを連続回転させることを前提としたが、断続回転させることも可能である。この場合、さらに多様なレーザービームパターン205の形成が可能となる。
【0126】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、複数を適宜組み合わせることが可能である。
【0127】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0128】
1…レーザー掘削装置、2…レーザー掘削装置、3…レーザー掘削装置、11…光ファイバーケーブル、12…管、13…第1偏心リング、14…軸受、15…第2偏心リング、16…軸受、17…固定リング、18…軸受、19…軌跡、20…軌跡、21…円、22…第1偏心量、23…第2偏心量、31…第1波動歯車装置、32…第2波動歯車装置、33…継手、34…継手、35…自在継手、36…管端、37…ビーム放射端、38…掘削流体、39…掘削流体ジェット流、42…結合部材、43…回転管、44…ハウジング、45…フォーカル軸受、46…中心軸、47…中心軸、48…固定管、49…シール部材、50…抗壁、60…光ファイバー、61…スロットロッド、62…押え巻層、63…テンションメンバー、64…鉄線層、65…保護シース、66…ジェリー、70…ジャケット、71…空隙、80…単孔ノズル、90…スリットノズル、100…ノズル、101…透明流体ジェット流、110…ノズル、112…間隙、113…液層厚、120…透明流体層、121…空隙、130…透明流体供給管、131…接続部、132…外管、133…内管、134…重複部、135…シール部、136…シール部、140…防護殻、141…先端部、142…流出口、150…保持機構、151…バネ機構、152…流体受け部、153…押さえ部、201…ビーム放射面、202…岩盤表面、203…移動パターン、204…レーザービーム、205…レーザービームパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバーケーブルと、
前記光ファイバーケーブルを内包する管と、
前記管を貫通させ、軸受を介して前記管を回転自在に支持する第1偏心リングと、
前記第1偏心リングを内包し、軸受を介して前記第1偏心リングを回転自在に支持する第2偏心リングと、
前記第2偏心リングを内包し、軸受を介して前記第2偏心リングを回転自在に支持する固定リングと、
を含み、
前記第1偏心リング及び前記第2偏心リングの回転によって前記管の中心軸を移動させて、前記管に内包される前記光ファイバーケーブルのビーム放射端の位置を移動させる、レーザー掘削装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザー掘削装置において、
前記管を貫通させる第1波動歯車装置と、
前記管を貫通させる第2波動歯車装置と、
をさらに含み、
前記管を、継手を介して前記第1波動歯車装置の入力部に連結し、前記第1偏心リングを前記第1波動歯車装置の出力部に連結し、
前記管を、継手を介して前記第2波動歯車装置の入力部に連結し、前記第2偏心リングを前記第2波動歯車装置の出力部に連結し、
前記管の回転を前記第1波動歯車装置で減速して前記第1偏心リングを回転させ、
前記管の回転を前記第2波動歯車装置で減速して前記第2偏心リングを回転させる、レーザー掘削装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレーザー掘削装置において、
空隙を有して前記光ファイバーケーブルを被覆するジャケットをさらに含む、レーザー掘削装置。
【請求項4】
請求項3に記載のレーザー掘削装置において、
前記光ファイバーケーブルと前記ジャケットと間の前記空隙と連通し、前記光ファイバーケーブルの前記ビーム放射端を囲むように設けられたノズルをさらに含む、レーザー掘削装置。
【請求項5】
請求項3に記載のレーザー掘削装置において、
前記光ファイバーケーブルは、複数の光ファイバーを含み、
前記光ファイバーケーブルと前記ジャケットと間の前記空隙と連通し、前記複数の光ファイバーのそれぞれのビーム放射端を囲むように設けられたノズルをさらに含む、レーザー掘削装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のレーザー掘削装置において、
前記管は、空隙を有して前記光ファイバーケーブルを内包し、
前記光ファイバーケーブルと前記管との間の前記空隙と連通し、前記光ファイバーケーブルの前記ビーム放射端を囲むように設けられたノズルをさらに含む、レーザー掘削装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のレーザー掘削装置において、
前記管は、互いに褶動可能に設けられた外管と内管とを含む、レーザー掘削装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のレーザー掘削装置において、
前記光ファイバーケーブルの可動域の外に設けられ、前記光ファイバーケーブルの可動域の少なくとも一部を覆う防護殻をさらに含む、レーザー掘削装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載のレーザー掘削装置において、
前記光ファイバーケーブルの前記ビーム放射端は、前記管の端部よりも外側に突出している、レーザー掘削装置。

【図1】
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【図16】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−92036(P2013−92036A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−199584(P2012−199584)
【出願日】平成24年9月11日(2012.9.11)
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【Fターム(参考)】