説明

レーザー溶接装置

【課題】被覆付導線の被覆除去作業と、その被覆付導線と端子とのレーザー溶接作業とを迅速かつ容易に行えるようにすること。
【解決手段】接触状態で保持された被覆付導線10と端子14とをレーザー溶接するレーザー溶接装置である。レーザー溶接装置20は、レーザー光Lを発生させるレーザー装置22と、レーザー光Lの照射位置を変更する照射位置変更機構部30と、レーザー装置22からのレーザー光Lを被覆付導線10の溶接対象領域表面に照射して溶接対象領域表面の被覆を除去した後、レーザー装置22からのレーザー光Lを被覆付導線10と端子14との溶接対象スポットに照射して被覆付導線10と端子14とをレーザー溶接するように、照射位置変更機構部30を制御する溶接制御ユニット40とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被覆付導線と端子とをレーザー溶接する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ワイヤーハーネス、電気接続箱(J/B(ジャンクションボックス)、R/B(リレーボックス)、F/B(ヒューズボックス))等の電気回路部品では、エナメル線等の被覆付導線と端子とを適宜接続することで、所定の電気回路が形成されている。
【0003】
上記被覆付導線と端子とは、被覆付導線の被覆除去を行わないで、レーザー溶接により接続することが可能である。しかしながら、被覆除去を行わないで、被覆付導線と端子とをレーザー溶接すると、炭化した被覆の残留による品質低下(接触不良、接続強度不足)、煤の付着及び溶融した被覆の残留による美観の低下等が懸念される。これらを抑制するためには、被覆付導線と端子とを接続するにあたって、予め被覆を除去しておくことが好ましい。
【0004】
ここで、被覆付導線の被覆を除去する方法の一つとして、切削等による機械的な被覆除去方法がある。
【0005】
しかしながら、機械的な除去方法では、導線に傷が入り、導線の諸性状を低下させてしまう恐れがあり、また、極細線(例えば、直径0.1mm以下のエナメル線)に対する被覆の除去加工は困難であるという問題がある。
【0006】
そこで、特許文献1に開示のように、レーザー光を使った被覆除去方法が種々開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−68343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来では、レーザー光による被覆除去作業は、専用のレーザー剥離機によって、被覆付導線の接続作業を行う前工程として実施されていた。このため、被覆付導線と端子とをレーザー溶接する場合でも、表面加工用のレーザー装置を使った被覆除去作業と、溶接用のレーザー装置を使った被覆付導電と端子とのレーザー溶接接続とを、別々に行う必要があり、被覆付導線と端子との接続作業が煩雑となっていた。
【0009】
そこで、本発明は、被覆付導線の被覆除去作業と、その被覆付導線と端子とのレーザー溶接作業とを迅速かつ容易に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様に係るレーザー溶接装置は、接触状態で保持された被覆付導線と端子とをレーザー溶接するレーザー溶接装置であって、レーザー光を発生可能なレーザー装置と、前記被覆付導線及び前記端子に対する、前記レーザー装置からのレーザー光の照射位置を変更可能にする照射位置変更機構部と、前記レーザー装置からのレーザー光を前記被覆付導線の溶接対象領域表面に照射して前記溶接対象領域表面の被覆を除去した後、前記レーザー装置からのレーザー光を前記被覆付導線と前記端子との溶接対象スポットに照射して前記被覆付導線と前記端子とをレーザー溶接するように、前記照射位置変更機構部を制御する溶接制御ユニットと、を備えるものである。
【0011】
第2の態様に係るレーザー溶接装置は、第1の態様に係るレーザー溶接装置であって、前記溶接制御部は、前記レーザー装置からのレーザー光を前記被覆付導線の溶接対象領域表面に複数回移動させつつ照射して前記溶接対象領域表面の被覆を除去するように、前記照射位置変更機構部を制御するものである。
【発明の効果】
【0012】
第1の態様に係るレーザー溶接装置によると、前記レーザー装置からのレーザー光を前記被覆付導線の溶接対象領域表面に照射して前記溶接対象領域表面の被覆を除去した後、前記レーザー装置からのレーザー光を前記被覆付導線と前記端子との溶接対象スポットに照射して前記被覆付導線と前記端子とをレーザー溶接するため、被覆付導線の被覆除去作業と、その被覆付導線と端子とのレーザー溶接作業とを迅速かつ容易に行える。
【0013】
第2の態様に係るレーザー溶接装置によると、被覆除去時に、前記レーザー装置からのレーザー光を前記被覆付導線の溶接対象領域表面に複数回移動させつつ照射するため、溶接用のレーザー装置を用いた場合であっても、被覆付導線の被覆をより適切に除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態に係るレーザー溶接装置を示す概略図である。
【図2】溶接制御ユニットを示すブロック図である。
【図3】溶接制御ユニットの処理を示すフローチャートである。
【図4】レーザー溶接装置による被覆除去動作を示す説明図である。
【図5】被覆除去中における被覆付導線を示す説明図である。
【図6】レーザー溶接装置によるレーザー溶接動作を示す説明図である。
【図7】レーザー溶接中における被覆付導線と端子とを示す説明図である。
【図8】レーザー光を溶接対象領域表面に対してその長手方向に沿って一往路分だけ移動させつつ照射した状態を示す説明図である。
【図9】レーザー光を溶接対象領域表面に対してその長手方向に沿って一往路分だけ移動させつつ照射した状態を示す説明図である。
【図10】レーザー光を溶接対象領域表面に対してその長手方向に沿って一往路分だけ移動させつつ照射した状態を示す説明図である。
【図11】レーザー光を溶接対象領域表面に対してその長手方向に沿って一往路分だけ移動させつつ照射した状態を示す説明図である。
【図12】レーザー光を溶接対象領域表面に対してその長手方向に沿って複数回移動させつつ照射した状態を示す説明図である。
【図13】レーザー光を溶接対象領域表面に対してその長手方向に沿って複数回移動させつつ照射した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態に係るレーザー溶接装置について説明する。図1は、レーザー溶接装置20を示す概略図である。
【0016】
このレーザー溶接装置20は、被覆付導線10の被覆を除去してから、被覆付導線10と端子14とをレーザー溶接にて接続する装置であり、レーザー装置22と、照射位置変更機構部30と、溶接制御ユニット40とを備えている。
【0017】
ここで、溶接対象の一具体例について説明しておくと、複数の端子14は、銅或は軟銅等で形成された長尺状の部材である。各端子14の一端部は、後述するようにして被覆付導線10と接続され、各端子14の他端部は他の電気部品(パワー半導体素子、リレー、ヒューズ、コネクタ等)と電気的に接続可能に構成されている。被覆付導線10は、銅線或は軟銅線等の導線の表面に、ポリウレタン、ポリイミド等の絶縁性の被覆を塗布等して形成したものであり、例えば、エナメル線等である。これらの被覆付導線10及び端子14は、支持部材としての絶縁板16によって、互いに接触した状態で支持されている。すなわち、複数の端子14は、その一端部を絶縁板16の一方主面に突出させると共に、その他端部を絶縁板16の他方主面に突出させるようにして、絶縁板16の保持孔に挿入されること等で保持されている。また、被覆付導線10は、被覆除去されることなく、絶縁板16の一方主面に立設された導線保持突部(図示省略)等によって、各端子14の一端部と接触させるようにして、所定の配線パターンで支持されている。これにより、絶縁板16の一方主面側で、被覆付導線10と端子14とが接触状態で支持されている。また、この絶縁板16は、保持機構部60によって、各端子14の一端部を照射位置変更機構部30側に向けた姿勢で、一定位置及び姿勢で保持されている。
【0018】
被覆付導線10と端子14とを接触状態で保持する支持部材は、上記のような絶縁板16に限られない。支持部材は、少なくともレーザー溶接中において、被覆付導線10と端子14とを接触状態で支持可能な構成であればよい。換言すれば、本レーザー溶接装置20によるレーザー溶接対象は、支持態様如何に拘らず、接触した状態で支持された被覆付導線10と端子14である。
【0019】
レーザー装置22は、端子14と被覆付導線10とをレーザー溶接可能な態様でレーザー光Lを発生させる装置であり、例えば、YAGレーザー装置を用いることができる。
【0020】
すなわち、通常、レーザー光Lを発生させるレーザー装置は、マーキング等の表面加工用のものと、溶接用のものとに大別される。表面加工用のレーザー装置としては、例えば、レーザー発信器のQ値をコントロールすることでレーザー光Lを発信するQスイッチ付のレーザー装置が用いられ、溶接用のレーザー装置としては、そのようなQスイッチを有さないレーザー装置が用いられる。通常、表面加工用のレーザー装置は、レーザー光Lを発するパルス幅が小さく、かつ、レーザー加工径は小さくなっており(つまり、エネルギー密度は高い)、加工対象物表面等の限定された範囲に対する加工に適した態様のレーザー光Lを発生させるようになっている。一方、溶接用のレーザー装置は、レーザー光Lを発するパルス幅は大きく、かつ、レーザー加工径は大きくなっており(エネルギー密度は小さい)、加工対象物内部の加工(例えば、溶融、穴あけ等)に適した態様のレーザー光Lを発生させるようになっている。ここでは、レーザー装置22として、溶接用のレーザー装置を用いている。このレーザー装置22は、レーザー光Lのピーク出力、レーザー照射時間(レーザー光Lのパルス継続時間)、単位時間あたりの照射回数を設定変更可能とされている。
【0021】
照射位置変更機構部30は、被覆付導線10及び端子14に対する、レーザー装置22からのレーザー光Lの照射位置を変更可能に構成されている。ここでは、照射位置変更機構部30として、レーザー装置22からのレーザー光Lを反射する一つ以上(ここでは2つ)のミラー32の姿勢を、ステッピングモータ或はガルバノモータ等のミラー駆動部34によって変更することによって、レーザー光Lの光路を変更して、当該レーザー光Lの照射先を変更する構成、例えば、ガルバノ光学ヘッドと呼ばれるものを用いている。そして、上記レーザー装置22からのレーザー光Lが、光ファイバ等を経由して本照射位置変更機構部30内に導かれ、照射位置変更機構部30内でミラー32によって反射されて、各被覆付導線10及び各端子14に向けて照射可能とされている。また、この際、各ミラーの姿勢を変更することで、レーザー光Lの照射先を、変更できるようになっている。
【0022】
溶接制御ユニット40は、照射位置変更機構部30に電気的に接続されており、レーザー装置22からのレーザー光Lを、被覆付導線10の溶接対象領域表面に照射して当該溶接対象領域表面の被覆を除去した後、レーザー装置22からのレーザー光Lを被覆付導線10と端子14との溶接対象スポットに照射して被覆付導線10と端子14とをレーザー溶接するように、照射位置変更機構部30のミラー駆動部34を駆動制御するように構成されている。なお、ここでは、被覆除去時とレーザー溶接時とで、レーザー装置22からのレーザー光Lの発生態様を変更しているので、溶接制御ユニット40は、レーザー装置22にも接続されており、当該レーザー装置22に対する制御をも行うように構成されている。
【0023】
図2は溶接制御ユニット40を示すブロック図である。より具体的には、溶接制御ユニット40は、CPU42、RAM44、ストレージ46、入力部48、表示部50、外部接続インターフェース52、54等がバスライン58を介して相互接続された一般的なコンピュータによって構成されている。
【0024】
CPU42は、主制御部として、ストレージ46に格納された溶接制御プログラム46aに従って演算処理を行うことで、溶接制御部42aとしての処理を実行する。この処理機能については、後で説明するフローチャートに従ってさらに詳述する。
【0025】
RAM44は、CPU42が所定の処理を行う際の作業領域として供される。
【0026】
ストレージ46は、ハードディスク装置或はフラッシュメモリ等の不揮発性の記憶装置によって構成された補助記憶装置である。このストレージ46に、照射位置変更機構部30及びレーザー装置22を動作制御するための処理を行う溶接制御プログラム46a、被覆除去条件設定データ46b、被覆除去位置方向データ46c、溶接条件設定データ46d、溶接位置データ46e等が格納されている。被覆除去条件設定データ46bは、レーザー装置22によるレーザー光Lのピーク出力、レーザー照射時間(レーザー光Lのパルス継続時間)、単位時間あたりの照射回数が、被覆付導線10の被覆除去に適した値となるように規定したデータであり、被覆をなるべく過不足無く除去できるように、予め実験的、経験的に決定された値である。また、溶接条件設定データ46dは、レーザー装置22によるレーザー光Lのピーク出力、レーザー照射時間(レーザー光Lのパルス継続時間)、単位時間あたりの照射回数が、レーザー溶接に適した値となるように規定したデータであり、なるべく溶接過多及び溶接不足が無いように、予め実験的、経験的に決定された値である。通常、被覆除去条件設定データ46bで規定されたレーザー光Lのピーク出力、レーザー照射時間、単位時間あたりの照射回数は、溶接条件設定データ46dにおけるそれらの値よりも小さくなるように設定される。また、被覆除去位置方向データ46cは、被覆付導線10の表面のうち、端子14と溶接されることとなる溶接対象領域表面の被覆除去開始位置及び当該被覆除去開始位置からのレーザー光Lの照射箇所移動方向(被覆除去方向)を規定したデータである。ここでは、複数の端子14を複数箇所で被覆付導線10に溶接する場合を想定しているので、当該被覆除去開始位置及び被覆除去方向は、複数の溶接対象領域表面に対応して複数規定されている。また、溶接位置データ46eは、被覆付導線10の溶接対象箇所と端子14とをレーザー溶接する際に、レーザー光Lを照射して溶接すべき位置(溶接対象スポット)を規定したデータである。この溶接位置も、各溶接箇所に対応して複数規定されている。これらの被覆除去位置方向データ46c及び溶接位置データ46eは、ティーチングにより或は作業者が座標等で指定すること等で、入力設定される。なお、溶接対象領域表面及び溶接対象スポットの例については後で説明する。
【0027】
入力部48は、複数のスイッチ、タッチパネル等により構成されており、本溶接制御ユニット40に対する諸指示、諸設定等を受付け可能に構成されている。
【0028】
表示部50は、液晶表示装置等であり、本溶接制御ユニット40の諸設定画面、諸作業画面等の諸情報を表示可能に構成されている。
【0029】
外部接続インターフェース52、54は、本溶接制御ユニット40が外部機器との間で諸信号を送受信するための入出力回路であり、それぞれ照射位置変更機構部30及びレーザー装置22に通信可能に接続されている。
【0030】
なお、上記溶接制御ユニット40が行う一部或は全部の処理機能は、専用の論理回路等でハードウェア的に実現されてもよい。
【0031】
図3は溶接制御ユニット40の処理を示すフローチャートであり、図4はレーザー溶接装置20による被覆除去動作を示す説明図であり、図5は被覆除去中における被覆付導線10を示す説明図であり、図6はレーザー溶接装置20によるレーザー溶接動作を示す説明図であり、図7はレーザー溶接中における被覆付導線10と端子14とを示す説明図である。
【0032】
はじめに、作業者が、被覆付導線10及び端子14を支持した絶縁板16を、保持機構部60にセットする。これにより、各被覆付導線10及び各端子14が、相互に接触した状態で所定位置及び姿勢で保持される。そして、作業者等がレーザー溶接開始指令を入力する。
【0033】
すると、ステップS1において、溶接制御ユニット40は、被覆除去条件設定データ46bに規定された被覆除去条件に設定するように、レーザー装置22に指令を与える。これにより、レーザー装置22は、当該被覆除去条件でレーザー光Lを発生可能に設定された状態になる。
【0034】
次ステップS2において、溶接制御ユニット40は、被覆除去位置方向データ46cに基づき、被覆付導線10と端子14との接続箇所のうちの一つに対応する、被覆付導線10の溶接対象領域表面の被覆除去開始位置にレーザー光Lが照射されるように、照射位置変更機構部30に指令を与える。これにより、照射位置変更機構部30は、レーザー装置22からのレーザー光Lの照射先が当該被覆除去開始位置となるように、ミラー駆動部34の駆動によりミラー32の姿勢を変更する。
【0035】
次ステップS3において、溶接制御ユニット40は、レーザー光Lの照射開始指令をレーザー装置22に与えると共に、被覆除去位置方向データ46cに基づき、レーザー光Lの照射先が対応する被覆除去方向に沿って複数回移動するように(ここでは、被覆除去方向に沿って2回移動、つまり、一往復するように)照射位置変更機構部30に指令を与える。これにより、レーザー装置22からのレーザー光Lが被覆付導線10の溶接対象領域表面10Fに一往復移動するように照射され、レーザー光Lの照射先の移動が終了すると、レーザー光Lの照射が停止される(図4参照)。ここでは、溶接対象領域表面10Fは、長円状の形状を有している(図5参照)。また、レーザー装置22は、所定のレーザー光Lのピーク出力、所定のレーザー照射時間、単位時間あたり所定の照射回数でレーザー光Lを発生する。従って、各照射タイミングにおけるレーザー光Lの略縁形状照射領域が、溶接対象領域表面10Fの長手方向に沿ってその一端側から他端側に向けて連続して連なるようにして、レーザー光Lが溶接対象領域表面10Fに照射される。これにより、当該溶接対象領域表面10Fにおける被覆が除去される。なお、被覆が除去される際の様子については後でさらに詳述する。
【0036】
ステップS3終了後のステップS4では、溶接制御ユニット40は、全ての溶接対象領域表面10Fに対する被覆除去が終了したか否かを判別し、全ての被覆除去が終了していないと判断されると、ステップS2に戻り、被覆除去されていない溶接対象領域表面10Fに対してステップS2及びS3の処理を繰返す。一方、ステップS4において全ての被覆除去が終了していると判断されると、ステップS5に進む。
【0037】
次ステップS5において、溶接制御ユニット40は、溶接条件設定データ46dに規定された溶接条件に設定するように、レーザー装置22に指令を与える。これにより、レーザー装置22は、当該溶接条件でレーザー光Lを発生可能に設定された状態になる。
【0038】
次ステップS6において、溶接制御ユニット40は、溶接位置データ46eに基づき、被覆付導線10と端子14との接続箇所のうちの一つに対応する、溶接位置(溶接対象スポット)にレーザー光Lが照射されるように、照射位置変更機構部30に指令を与える。これにより、照射位置変更機構部30は、レーザー装置22からのレーザー光Lの照射先が当該溶接位置となるように、ミラー駆動部34の駆動によりミラー32の姿勢を変更する。
【0039】
次ステップS7において、溶接制御ユニット40は、レーザー光Lの照射開始指令をレーザー装置22に与える。これにより、レーザー装置22からのレーザー光Lがいずれか一つの端子14と被覆付導線10との溶接位置10Sに照射され、溶接に必要な所定時間が経過すると、レーザー光Lの照射が停止される(図6参照)。いずれか一つの端子14と被覆付導線10との溶接位置は、例えば、端子14と被覆付導線10との接触位置を含み、当該端子14及び被覆付導線1の双方にレーザー光Lが照射されるような位置である(図7参照)。もっとも、レーザー光Lの照射によって端子14と被覆付導線10とのレーザー溶接を行えるのであれば、端子14と被覆付導線10とのうちの一方にのみレーザー光Lが照射されてもよい。これにより、当該いずれか一つの端子14と被覆付導線10とがレーザー溶接される。
【0040】
ステップS7終了後のステップS8では、溶接制御ユニット40は、全ての溶接位置に対するレーザー溶接が終了したか否かを判別し、全てのレーザー溶接が終了していないと判断されると、ステップS6に戻り、レーザー溶接されていない溶接位置に対してステップS6及びS7の処理を繰返す。一方、ステップS8において全てのレーザー溶接が終了していると判断されると、処理を終了する。
【0041】
以上のように構成されたレーザー溶接装置20によると、レーザー装置22からのレーザー光Lを被覆付導線10の溶接対象領域表面10Fに照射して当該溶接対象領域表面10Fの被覆部分10bを除去した後、レーザー光Lの照射先を変更して、レーザー装置22からのレーザー光Lを被覆付導線10と端子14との溶接対象スポットに照射して被覆付導線10と端子14とをレーザー溶接している。このため、被覆をある程度除去した状態で、被覆付導線10と端子14とをレーザー溶接することができ、炭化した被覆が残留することによる品質低下(接触不良、接続強度不足)、煤の付着及び溶融した被覆の残留による美観の低下等を抑制することができる。また、同一のレーザー装置22からの照射先を変更することで、被覆付導線10の被覆除去作業と、レーザー溶接作業とを行っているため、当該被覆付導線10と端子14とのレーザー溶接作業を迅速かつ容易に行えると共に、設備コストも低廉化することが可能となる。
【0042】
また、被覆除去痔に、レーザー装置22からのレーザー光Lを被覆付導線10の溶接対象領域表面10Fに複数回移動させつつ照射しているため、溶接用のレーザー装置を用いたような場合であっても、被覆付導線10の被覆を適切に除去できる。
【0043】
これを図8〜図13に基づいて説明する。図8〜図11は、レーザー光Lを、溶接対象領域表面10Fに対してその長手方向に沿って一往路分だけ移動させつつ照射した状態を示している。
【0044】
まず、図8に示すように、レーザー光Lは溶接対象領域表面10Fの被覆除去開始位置に照射される。この際、一往路のレーザー光Lの照射によって被覆除去を行おうとすると、被覆の厚み方向全体を除去可能な程度のエネルギー量を与えるようにレーザー光Lを照射する必要がある。この場合、導体部分10aの表面における熱的影響範囲Mは比較的広範囲となってしまい、また、被覆部分10bのうちレーザー光Lの照射部分周縁部では、被覆部分10bが炭化した残留物10cが発生してしまう。
【0045】
この状態で、図9に示すように、レーザー光Lの照射先が移動すると、レーザー光Lは炭化した残留物10cに照射されてしまう。残留物10cは、通常、周囲の色と比べて濃色を呈しており、レーザー光Lを吸収しやすい。このため、レーザー光Lが残留物10cに照射されると、図10及び図11に示すように、残留物10cの焼き付き、導体部分10aの表面における熱的影響範囲Mの拡大等が引き起され、被覆付導線10の諸性状の低下を招いてしまう。
【0046】
上記のような現象は、レーザー光Lのピーク出力、レーザー照射時間(レーザー光Lのパルス継続時間)、単位時間あたりの照射回数等を適切に設定することで、回避することが可能である。
【0047】
しかしながら、レーザー装置22の種類、特に、溶接用のレーザー装置として用いられているものでは、上記レーザー光Lのピーク出力、レーザー照射時間、単位時間あたりの照射回数等の設定範囲に対する制約から、適切な設定を行うことが困難な場合があり得る。
【0048】
そこで、そのような場合には、レーザー装置22からのレーザー光Lを被覆付導線10の溶接対象領域表面10Fに複数回移動させつつ照射することで、被覆付導線10の被覆を適切に除去できる。
【0049】
すなわち、図12に示すように、レーザー装置22からのレーザー光Lを被覆付導線10の溶接対象領域表面10Fに移動しつつ照射する往路では、被覆部分10bの表層部分だけを除去できるようにレーザー光Lを照射する。例えば、レーザー光Lのピーク出力を小さくする、レーザー照射時間を短くする、単位時間あたりの照射回数を小さくする等の態様でレーザー光Lを照射する。或は、溶接対象領域表面10Fに対するレーザー光Lの照射先の移動速度を速くする。これら等を適宜設定することによって、被覆部分10bの表層部分だけを除去できるような態様でレーザー光Lを照射する。
【0050】
この際、レーザー光Lは主として被覆部分10bの表層の一部に作用するため、導体部分10aに対する熱的影響を小さくすることができると考えられる。上記レーザー光Lによって、被覆部分10bの表層は、蒸発し、或は、溶融変形して表面に残留固化した状態等になる。この際、被覆部分10bに対しては主としてその表層に作用する程度のレーザー光Lが照射されるため、被覆部分10bは炭化し難い。このため、炭化した残留物の発生を少なくすることができる。
【0051】
そして、図13に示すように、レーザー光Lの移動往路において、上記と同様に、レーザー装置22からのレーザー光Lを被覆付導線10の溶接対象領域表面10Fに再度移動しつつ照射する。これにより、溶接対象領域表面10Fに残っていた被覆部分10bが除去される。
【0052】
この際、残っていた被覆部分10bに付与されるレーザー光Lのエネルギーは、図8に示す場合よりも小さい。また、溶接対象領域表面10Fには炭化した残留物の発生が抑制されているため(図12参照)、当該炭化した残留物によるレーザー光Lのエネルギー吸収も抑制されている。このため、やはり被覆部分10bは炭化し難く、炭化した残留物の発生を少なくすることができる。また、導体部分10aに対する熱的影響範囲Mを比較的小さくすることができる。
【0053】
このように、被覆除去痔に、レーザー装置22からのレーザー光Lを被覆付導線10の溶接対象領域表面10Fに複数回移動させつつ照射することで、溶接用のレーザー装置等を用いたような場合であっても、被覆付導線10の被覆を、炭化物の発生を抑制すると共に、導体部分10aに対する熱的影響を少なくしつつ、除去できる。
【0054】
なお、上記実施形態では、溶接対象領域表面10Fに対してレーザー光Lの照射先を1往復移動させる例で説明したが、その他の態様で複数回移動させるようにしてもよい。例えば、レーザー光Lの照射先を、溶接対象領域表面10Fに対して複数回往復移動させる例、或は、1方向に複数回移動させる例であってもよい。
【0055】
実際、溶接用のレーザー装置を用いて、被覆除去に適切な条件を実験してみた。共通する実験条件は、波長1064nmのYAGレーザー装置を用いること、レーザー加工径は直径600μm、レーザー光Lの照射先の移動速度は約1mm/sec、である。被覆の除去の程度については導通の有無で評価した。また、残留物の有無も評価した。
【0056】
例1では、ピーク出力を変更した。レーザー照射時間は1.0msであり、移動回数は6回であり、1秒あたりの照射回数は10回である。
【0057】
この場合、ピーク出力が0.6kw、0.8kwの場合に、十分な導通が得られ、かつ、残留物についても問題ない程度であることが確認された。ピーク出力が0.2kw、0.4kwでは、導通が不十分であり、ピーク出力が1.0kw、1.2kwでは、炭化した残留物が多く発生してしまうことが確認された。
【0058】
例2では、レーザー照射時間を変更した。ピーク出力は0.7kwであり、移動回数は6回であり、1秒当りの照射回数は10回である。
【0059】
この場合、レーザー照射時間が、0.8ms、1ms、1.2msの場合に、十分な導通が得られ、かつ、残留物についても問題ない程度であることが確認された。レーザー照射時間が0.4ms、0.6msでは、導通が不十分であり、レーザー照射時間が1.4ms、1.6msでは炭化した残留物が多く発生してしまうことが確認された。
【0060】
例3では、移動回数(重ね書き回数)を変更した。ピーク出力は0.7kwであり、レーザー照射時間は1.0msであり、1秒当りの照射回数は10回である。
【0061】
この場合、移動回数が、5回、6回、7回の場合に、十分な導通が得られ、かつ、残留物についても問題ない程度であることが確認された。また、表面における被覆の残留状態から、移動回数をこれ以上に大きくしても、問題無いことが推測された。一方、移動回数が、1回〜4回の場合では、導通が不十分となってしまうことが確認された。
【0062】
例4では、1秒あたりの照射回数を変更した。ピーク出力は0.7kwであり、レーザー照射時間は1.0msであり、移動回数は6回である。
【0063】
この場合、1秒あたりの照射回数が7回、10回、12回の場合に、十分な導通が得られ、かつ、残留物についても問題ない程度であることが確認された。1秒あたりの照射回数が5回の場合には、導通が不十分であり、1秒あたりの照射回数が15回、18回の場合には炭化した残留物が多く発生してしまうことが確認された。
【0064】
{変形例}
上記実施形態では、反射ミラーの姿勢変更によりレーザー光Lの照射先を変更する照射位置変更機構部30の例で説明したが、その他の構成によって、被覆付導線10及び端子14に対する、レーザー装置22からのレーザー光Lの照射位置を変更するようにしてもよい。例えば、照射位置変更機構部は、被覆付導線10及び端子14を間接的に或は直接的に保持した保持部を、レーザー光Lを出射するレーザー溶接ヘッドに対して、XY方向に移動可能に支持するXY搬送機構であってもよく、或は、一定箇所に保持された被覆付導線10及び端子14に対して、レーザー光Lを出射するレーザー溶接ヘッドをXY方向に移動可能に支持するXY搬送機構、或は、レーザー光Lの照射先を変更するようにレーザー溶接ヘッドの姿勢を変更する構成であってもよい。要するに、照射位置変更機構部は、被覆付導線10及び端子14に対する、レーザー光Lの照射位置を変更できる構成であればよい。
【0065】
また、上記実施形態では、複数の溶接対象領域表面10Fの被覆除去を全て行ってから、複数の溶接スポットに対するレーザー溶接を行っているが、溶接対象領域表面10Fの被覆除去とレーザー溶接とを交互に行ってもかまわない。
【0066】
なお、上記実施形態及びその変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組合わせることができる。
【符号の説明】
【0067】
10 被覆付導線
10a 導体部分
10b 被覆部分
10F 当溶接対象領域表面
14 端子
20 レーザー溶接装置
22 レーザー装置
30 照射位置変更機構部
40 溶接制御ユニット
42a 溶接制御部
L レーザー光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触状態で保持された被覆付導線と端子とをレーザー溶接するレーザー溶接装置であって、
レーザー光を発生可能なレーザー装置と、
前記被覆付導線及び前記端子に対する、前記レーザー装置からのレーザー光の照射位置を変更可能にする照射位置変更機構部と、
前記レーザー装置からのレーザー光を前記被覆付導線の溶接対象領域表面に照射して前記溶接対象領域表面の被覆を除去した後、前記レーザー装置からのレーザー光を前記被覆付導線と前記端子との溶接対象スポットに照射して前記被覆付導線と前記端子とをレーザー溶接するように、前記照射位置変更機構部を制御する溶接制御ユニットと、
を備えるレーザー溶接装置。
【請求項2】
請求項1記載のレーザー溶接装置であって、
前記溶接制御部は、
前記レーザー装置からのレーザー光を前記被覆付導線の溶接対象領域表面に複数回移動させつつ照射して前記溶接対象領域表面の被覆を除去するように、前記照射位置変更機構部を制御する、レーザー溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−253492(P2010−253492A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103731(P2009−103731)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】