説明

レーザ加工装置およびレーザ加工方法

【課題】温度変化が発生した場合にも、安定して高速に高精度で、加工ノズルの開口中心とレーザビームの光軸とを偏心させることのできるレーザ加工装置を得る。
【解決手段】加工ヘッドからレーザビームを出射すると同時に加工ガスを噴出し、ワークの切断加工を行う際に、レーザビームを集光させる加工レンズをレーザビームの光軸に対し垂直な平面内で2軸移動させることで、加工ノズルの中心とレーザビームの光軸中心との偏心量を制御する制御部(50)を有し、制御部は、計測された位置情報が目標位置となるように加工レンズの位置をフィードバック制御することで偏心量制御を行うとともに、フィードバック制御の実行前に本来原点であるべき位置で計測された原点位置情報に基づいて、フィードバック制御の実行中に計測される位置情報を補償する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工ヘッドからレーザビームを出射すると同時に加工ガスを噴出し、切断加工を行うレーザ加工装置およびレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加工ガスを用いた従来のレーザ切断加工では、加工ガスを噴出する加工ノズルの中心と、レーザビームの光軸中心とを偏心させ、レーザビームの光軸を加工ノズルの開口中心より加工進行方向に片寄らせることが広く知られている。これにより、溶融物の流れ方向およびスパッタ付着領域を制御し、高品質な切断加工を可能としている。
【0003】
加工ノズルの開口中心とレーザビームの光軸とを偏心させる方式としては、次のようなものがある。たとえば、加工ノズルを、駆動装置である2つの駆動モータを用いて、レーザビームに直交する平面上の任意の位置へ移動させる方法、あるいは、レーザビーム光軸を法線とした曲面上の任意の位置へ移動させる方法などが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、他の方式として、レーザビーム光軸に対する加工ノズルの開口中心の偏心量を、加工するワークの材質、板厚などによってあらかじめ設定し、駆動モータにより加工ノズルをハウジングごと回転させることにより、加工方向と偏心方向を維持する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、この特許文献2には、偏心方向、偏心量を、駆動モータに備え付けられたエンコーダによって検出し、加工ヘッド本体をNCで走査制御する方法も開示されている。
【0005】
また、このような方式とは別に、ミラー、加工レンズを、小型モータを用いて、クランク機構により揺動する方法も開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3287112号公報
【特許文献2】特開平11−90663号公報
【特許文献3】特開平5−169285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1および特許文献2における加工ヘッド本体は、加工ガスの圧力が常にかかっている状態である。したがって、気密を保ったままで移動するための構造と、ガス圧力に対する耐圧構造の両方が必要であり、加工ヘッド本体の構造が複雑になるとともに、重量が増加するという問題点があった。
【0008】
さらに、加工ヘッド本体を走査するレーザ加工装置の場合には、加工ヘッド本体の重量が重くなると、加工ヘッド本体の走査機構にも負荷がかかり、走査速度が低下し、走査精度が悪くなる問題点があった。
【0009】
また、特許文献3においては、駆動モータの回転運動を直線運動に変換するために、ボールネジ、スパーギア(平歯車)、クランク機構等の機械的機構を必要とする、しかしながら、このような機械的送り機構では、バックラッシュ等を避けがたく、そのために位置決め精度に限界があるという問題点があった。
【0010】
さらに、レンズ位置あるいはノズル位置の直接の計測、レンズ位置のフィードバックによる位置制御に関しては、いずれの特許文献にも開示されていない。
【0011】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、移動機構の発熱、レーザ光の吸収等の原因で温度変化が発生した場合にも、安定して高速に高精度で、加工ノズルの開口中心とレーザビームの光軸とを偏心させることのできるレーザ加工装置およびレーザ加工方法を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るレーザ加工装置は、レーザビームを発振するレーザ発振器と、加工ガスを供給するガス供給部と、レーザ発振器から発振されたレーザビームを、加工ノズルから出射するとともに、ガス供給部から供給された加工ガスを加工ノズルから噴出することで、加工対象であるワークの切断加工を行う加工ヘッド本体と、ワークの種類および加工条件に基づいて、レーザ発振器から発振されるレーザビームのビーム出力およびガス供給部から供給される加工ガスの供給量を制御するとともに、加工ノズルから出射されるレーザビームの光軸を、加工ノズルの開口中心に対して片寄らせる偏心量制御を行う制御部とを備えたレーザ加工装置であって、加工ヘッド本体は、レーザ発振器から発振されたレーザビームをワークに向けて集光させる加工レンズと、複数の電磁石による磁気駆動により、加工レンズをレーザビームの光軸に対し垂直な平面内または曲面内で2軸移動させる磁気移動機構と、加工レンズの位置情報を計測する位置検出器とを有し、制御部は、位置検出器で計測された位置情報が目標位置となるように、複数の電磁石の電流値をフィードバック制御し、加工レンズを目標位置に2軸移動させることで偏心量制御を行うとともに、フィードバック制御の実行前に本来原点であるべき位置で位置検出器により計測された原点位置情報に基づいて、フィードバック制御の実行中に位置検出器により計測される位置情報を補償するものである。
【0013】
また、本発明に係るレーザ加工方法は、加工ヘッドからレーザビームを出射すると同時に加工ガスを噴出し、加工対象であるワークの切断加工を行う際に、レーザビームをワークに向けて集光させる加工レンズをレーザビームの光軸に対し垂直な平面内または曲面内で2軸移動させることで、加工ガスを噴出する加工ノズルの中心と、レーザビームの光軸中心との偏心量を制御するレーザ加工方法であって、偏心量の制御の実行前に、加工レンズの本来原点であるべき位置を原点位置情報として計測するステップと、偏心量の制御の実行中に計測される加工レンズの位置情報を原点位置情報に基づいて補償するステップと、補償後の位置情報が目標位置となるように偏心量の制御を行うステップとを備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るレーザ加工装置およびレーザ加工方法によれば、電磁石に流れる電流、あるいはレンズで吸収されるレーザ光に起因して、距離測定系の温度上昇による計測値の変化があった場合にも、実際に加工を行う際の温度状態において、本来原点であるべき位置の測定を行い、この測定結果に基づいて加工レンズの位置補正を行うことにより、移動機構の発熱、レーザ光の吸収等の原因で温度変化が発生した場合にも、安定して高速に高精度で、加工ノズルの開口中心とレーザビームの光軸とを偏心させることのできるレーザ加工装置およびレーザ加工方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1によるレーザ加工装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1による図1の加工ヘッド本体、加工ノズルおよびワークの使用態様を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1による図1の加工ヘッド本体、加工ノズルおよびワークの別の使用態様を示す断面図ある。
【図4】本発明の実施の形態1による図2の磁気移動機構を示す構成図である。
【図5】本発明の実施の形態1による図2の磁気移動機構の一使用態様を示す構成図である。
【図6】本発明の実施の形態1による先の図2の磁気移動機構を示す別の構成図である。
【図7】本発明の実施の形態2によるレーザ加工装置の磁気移動機構を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の各実施の形態について図面に基づいて説明するが、各図において同一または相当部材、部位については、同一符号を付して説明する。また、各図においては、切断加工を行う面をxy平面とし、それに垂直な方向をz軸として定義している。
【0017】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1によるレーザ加工装置を示すブロック図である。本実施の形態1におけるレーザ加工装置100は、レーザ発振器10、レーザビーム伝送系20、加工ヘッド本体30、ガス供給装置40(ガスボンベ40)、および制御装置50を備えて構成されている。
【0018】
レーザビーム伝送系20は、レーザ発振器10から発振されたレーザビーム11を、複数のミラー21を介して、加工ヘッド本体30内に伝送する。また、加工ヘッド本体30には、加工ノズル36が取り付けられている。
【0019】
また、ガスボンベ40には、加工ガス導入パイプ41が接続されており、この加工ガス導入パイプ41を介して、加工ノズル36に加工ガス43が供給される。また、加工ガス導入パイプ41の途中には、加工ガス43の供給量を調整するためのガスバルブ42が設けられている。
【0020】
そして、制御装置50は、ワーク1の種類、加工条件に基づいて、ガスバルブ42による加工ガス43の供給量、レーザ発振器10のビーム出力、および加工ヘッド本体30の駆動をそれぞれ制御する。
【0021】
ここで、ワーク1は、金属、樹脂、セラミック、ガラス、結晶等、様々な材料が対象である。特に、ワーク1が金属である場合には、加工ガス43により、金属の酸化熱を発生し、切断をより高速に行うことができる。
【0022】
図2は、本発明の実施の形態1による図1の加工ヘッド本体30、加工ノズル36およびワーク1の使用態様を示す断面図である。より具体的には、ピアッシング時(切断加工の開始位置に貫通穴を開ける加工)の詳細構成を示している。
【0023】
加工ヘッド本体30は、加工レンズ31、加工レンズ保持機構32、磁気移動機構33、仕切板34、および固定台35を含んで構成されている。加工レンズ31は、ピアッシング時において、加工ヘッド本体30内部の中心軸線上に円形として配置されている。そして、加工レンズ保持機構32は、加工レンズ31を囲い、周縁部を保持している。
【0024】
磁気移動機構33は、加工レンズ31の周囲に設けられ加工レンズ保持機構32を、レーザビーム22の光軸22aに対して垂直な平面内(XY平面内)で2軸直線移動させることで、加工レンズ31を移動させる。また、仕切板34は、加工レンズ31に対向して設けられ、加工ガス43が加工ノズル36を通じて加工ヘッド本体30の内部に侵入するのを阻止している。また、固定台35は、磁気移動機構33を固定しており、この磁気移動機構33の詳細については、後述する。
【0025】
加工ノズル36は、加工ガス導入パイプ41の先端部が内部に臨んでおり、先端にワーク1に対向した開口37が形成されている。そして、この加工ガス導入パイプ41を介してガスボンベ40から加工ノズル36へ加工ガス43が供給される。ここで、例えば、ガスボンベ40には、酸素(O)ガスや窒素(N)ガスが収容されている。また、この加工ガス導入パイプ41には、加工ガス43の供給量を調整するガスバルブ42が取り付けられており、制御装置50により供給量を調整できる構成となっている。なお、ガスボンベ40の代わりに、高圧空気を供給するコンプレッサを用いてもよい。
【0026】
制御装置50は、ガスバルブ42、レーザ発振器10および磁気移動機構33にそれぞれ接続されており、ワークの種類、加工条件に基づいて、加工ガス43の供給量、レーザ発振器10のビーム出力、および加工レンズ31の位置を制御する。ここで、制御装置50は、固定台35に固定された位置検出器331と加工レンズ保持機構32に固定された位置検出器ターゲット332との間隔を、位置検出器331で計測することで、加工レンズ31の位置を求める。
【0027】
本実施の形態1におけるこのようなレーザ加工装置100では、レーザ発振器10から発振されたレーザビーム22が、レーザビーム伝送系20を介して加工ヘッド本体30内に導かれる。さらに、この加工ヘッド本体30では、導入されたレーザビーム22が加工レンズ31により集光され、加工ノズル36の先端の開口37を通じて、ワーク1に照射される。
【0028】
図2に示されたレーザ加工装置100は、ピアッシング加工時を示している。このため、ワーク1は、静止しており、レーザビーム22の光軸22aは、加工レンズ31の中心および加工ノズル36の開口37の開口中心37aと一致している。
【0029】
一方、加工ガス導入パイプ41から加工ノズル36に導入された加工ガス43は、加工ノズル36の開口37からワーク1に噴出される。ワーク1では、レーザビーム22と加工ガス43により材料が加熱、溶融され、吹き飛ばされる。この動作により、ピアッシング穴2が形成され、切断の開始位置となる貫通穴が形成される。
【0030】
図3は、本発明の実施の形態1による図1の加工ヘッド本体、加工ノズルおよびワークの別の使用態様を示す断面図ある。より具体的には、切断加工時の詳細構成を示しており、ワーク1において、レーザビーム22が走査された部分に、切断溝3が形成されて、切断加工が行われる。
【0031】
ここで、図3は、磁気移動機構33により加工レンズ31を移動させ、光軸22aに対して加工レンズ中心軸31aを、図3中の符号D1の方向に移動させた場合を示している。この場合、レーザビーム22は、加工レンズ中心軸31aの方向に曲げられ、加工レンズ中心軸31a上で集光される。レーザビーム22が曲げられたことで、加工ノズル36の開口37部分でのレーザビーム22の位置は、開口中心37aから離れた位置になる。
【0032】
例えば、図3に示すように、開口中心37aに対して、レーザビーム22の位置を加工進行方向に偏心させた場合には、切断溝3が形成された後においては、加工ガス43と溶融物4が、切断溝3に沿ってスムーズに流れる。
【0033】
ここで、磁気移動機構33は、2軸直線移動を行う機構の組み合わせになっており、ワーク1の種類、加工条件に基づいて、制御装置50により、任意の位置に制御される。また、レーザビーム22の偏心量は、ワーク1の加工材料、厚み、加工ガス43の種類、吹き付け量、加工速度、レーザビーム22の強度等のパラメータによって、選択される。
【0034】
図4は、本発明の実施の形態1による図2の磁気移動機構33を示す構成図である。より具体的には、ピアッシング時における磁気移動機構33の構成をXY平面で表したものである。加工レンズ31を保持する加工レンズ保持機構32には、第1のアクチュエータ330(1)、第2のアクチュエータ330(2)、第3のアクチュエータ330(3)および第4のアクチュエータ330(4)が、4方向から取り付けられている。
【0035】
第1のアクチュエータ330(1)と、この第1のアクチュエータ330(1)に対向して設けられた第2のアクチュエータ330(2)とが、加工レンズ31をx方向に移動させるアクチュエータに相当する。また、第3のアクチュエータ330(3)と、この第3のアクチュエータ330(3)に対向して設けられた第4のアクチュエータ330(4)とが、加工レンズ31をy方向に移動させるアクチュエータに相当する。
【0036】
また、第1のアクチュエータ330(1)〜第4のアクチュエータ330(4)のそれぞれは、四角形状の固定台35に固定された電磁石330aと、各電磁石330aに対向して加工レンズ保持機構32に固定された磁性体ターゲット330bとから構成されている。ここで、加工レンズ保持機構32は、空気、油、磁性流体等の静圧案内、あるいは、板ばね等で構成される弾性ヒンジ案内により、z方向の位置が規定されている。
【0037】
また、x方向位置検出器331xは、固定台35に固定され、対向して、x方向位置検出器ターゲット332xが加工レンズ保持機構32に固定されている。そして、x方向位置検出器331xは、x方向位置検出器ターゲット332xまでの距離を計測する。
【0038】
同様に、y方向位置検出器331yは、固定台35に固定され、対向して、y方向位置検出器ターゲット332yが加工レンズ保持機構32に固定されている。そして、y方向位置検出器331yは、y方向位置検出器ターゲット332yまでの距離を計測する。
【0039】
図4では、先の図2に示すようなピアッシング時を示しており、制御装置50は、加工レンズ31の光軸22aがレーザビーム22の中心を通過するように、それぞれの第1のアクチュエータ330(1)〜第4のアクチュエータ330(4)の各電磁石330aに流れる電流を制御している。
【0040】
このとき、同時に、x方向位置検出器331xは、x方向位置検出器ターゲット332xまでの距離を計測し、制御装置50は、x方向の位置情報をx方向位置検出器331xから読み取る。そして、制御装置50は、設定値(目標値)と位置情報(フィードバック値)との差が小さくなるように、レンズ位置のフィードバック制御を行っている。
【0041】
一方、図5は、本発明の実施の形態1による図2の磁気移動機構33の一使用態様を示す構成図である。より具体的には、切断加工時における磁気移動機構33の構成をXY平面で表したものであり、先の図3に示すように、光軸22aから加工レンズ中心軸31aをX方向に偏心させた状態を示している。
【0042】
ここでは、x方向に偏心させる位置の設定値に基づいて、制御装置50は、第1のアクチュエータ330(1)の電磁石330aに流れる電流を大きくして、磁性体ターゲット330bを電磁石330aに引き寄せることで、磁性体ターゲット330bと一体の加工レンズ保持機構32をxマイナス側に引き寄せ、加工レンズ31をxマイナス方向に移動させている。
【0043】
このとき、同時に、x方向位置検出器331xは、x方向位置検出器ターゲット332xまでの距離を計測し、制御装置50は、x方向の位置情報をx方向位置検出器331xから読み取る。そして、制御装置50は、設定値(目標値)と位置情報(フィードバック値)との差が小さくなるように、アクチュエータのフィードバック制御を行っている。
【0044】
この例は、X方向へ移動させる場合の一例であり、制御装置50は、第1のアクチュエータ330(1)〜第4のアクチュエータ330(4)のそれぞれの電磁石330aに流れる電流値を変えることで、それぞれの電磁石330aと磁性体ターゲット330bとが接触しない範囲で、加工レンズ保持機構32をxy平面の任意の位置に移動させることができる。
【0045】
すなわち、先の図5では、X方向に移動させる場合を例示したが、制御装置50は、Y方向に関しても、y方向位置検出器331yとy方向位置検出器ターゲット332yにより、y方向の位置情報を得ることができる。この結果、制御装置50は、加工レンズ31を、xy平面の任意の位置に移動させることができる。
【0046】
次に、位置検出器を介して取得した位置情報に基づいて、制御装置50が温度変化に対する位置補償を行う方法について、具体的に説明する。電磁石330aは、電流を流すと発熱し、この熱は、固定台35を経て、x方向位置検出器331x、y方向位置検出器331yの温度を上昇させる。
【0047】
また、レーザビーム22のエネルギーの一部は、加工レンズ31で吸収され、熱に変わり、加工レンズ保持機構32を介して、x方向位置検出器ターゲット332x、y方向位置検出器ターゲット332yの温度を上昇させる。さらに、電磁石330aの発熱、レーザビーム22のエネルギーの吸収に起因する発熱は、接触部分、雰囲気における磁気移動機構33全体の温度を上昇させる。
【0048】
これらの温度上昇により、x方向位置検出器331x、y方向位置検出器331yの計測値がドリフトすることとなる。その結果、正確な位置情報が得られなくなり、加工レンズ31を目的の位置に移動できなくなる。
【0049】
そこで、本実施の形態1のレーザ加工装置100における制御装置50は、4個の電磁石330aに対して等しい電流を流した状態における、x方向位置検出器331x、y方向位置検出器331yのそれぞれの計測値を原点位置として求め、その後に計測された位置情報を補償している。
【0050】
すなわち、この原点位置は、本来原点であるべき位置に相当し、位置検出器による計測値としては温度ドリフトした結果となるが、アクチュエータからの一定出力に基づく再現性のある原点位置となる。
【0051】
これにより、常に、4個の電磁石330aの電気吸引力が釣り合う位置を原点とすることができるので、加工レンズ31の位置情報を補正でき、正確なレンズ位置の制御が可能になる。この結果、加工レンズ31は、電磁石330aに流れる電流により生じた磁気吸引力で、高速で移動し、かつ正確な位置情報に基づく制御により、高精度で位置決めされる。
【0052】
従って、磁気移動機構33が電磁石330aの発熱、あるいはレーザビーム22の吸収等により温度変化した場合にも、加工ノズル36の中心とレーザビーム22の光軸22aとを高速度、高精度で偏心させることができる。これにより、レーザビーム22の光軸22aを加工ノズル36の開口中心37aより加工進行方向に偏らせることで、加工ガス43と溶融物4が切断溝3に沿ってスムーズに流れることを可能とし、高品質の切断加工を行うことができる。
【0053】
なお、電磁石330aに等しい電流を流した状態で、x方向位置検出器331x、y方向位置検出器331yの計測値を原点位置として位置情報を補償するためには、加工ヘッド本体30が、加速度運動を行っていない状態であることが必要である。なぜならば、加工ヘッド本体30が、加速度運動を行っていると、加工レンズ保持機構32に電磁石330aの吸引力以外の力が加わり、加工レンズ保持機構32が原点位置に保持されていないこととなるからである。
【0054】
また、レーザビーム22をワーク1に照射する加工中は、加工レンズ保持機構32の位置制御を行っているので、位置情報を補償することができない。そこで、制御装置50は、レーザ加工装置100が加工動作中で、レーザ加工ヘッド本体30が停止しており、かつ、ワーク1にレーザビーム22が照射されてない時間に、位置情報を補償する。位置情報を補償する時間は、加工形状、加工経路により異なるが、制御装置50により、任意に設定することができる。
【0055】
以上のように、実施の形態1によれば、電磁石に流れる電流あるいはレンズで吸収されるレーザ光に起因して、距離測定系の温度上昇による計測値の変化があった場合にも、実際に加工を行う際の温度状態において、本来原点であるべき位置の測定を行うことで、この測定結果に基づく加工レンズの位置補正を行っている。
【0056】
これにより、移動機構の発熱、レーザ光の吸収等の原因で温度変化が発生した場合にも、安定して高速に高精度で、加工ノズルの開口の中心とレーザビームの光軸とを偏心させることのできるレーザ加工装置およびレーザ加工方法を得ることができる。
【0057】
具体的には、レーザ加工機が加工動作中のレーザ加工ヘッドが停止している時間に、位置情報の補償を行うことで、常に変化する温度環境に追従できる。さらに、磁気移動機構が磁石の発熱、レーザ光の吸収等により温度変化しても、安定して高速、高精度加工が実現できる。
【0058】
なお、上述した実施の形態1では、x方向、y方向の位置検出器と位置検出器ターゲットがそれぞれ1組の場合を示したが、本発明は、このような構成に限定されるものではない。図6は、本発明の実施の形態1による先の図2の磁気移動機構33を示す別の構成図である。
【0059】
例えば、この図6では、x方向位置検出器331xとx方向位置検出器ターゲット332xに対して、加工レンズ保持機構32を挟んで対称な位置に、第2のx方向位置検出器333xと第2のx方向位置検出器ターゲット334xを配置している。このような2組の配置とすることで、x方向位置検出器331xと第2のx方向位置検出器333xの差動計測により、より安定した位置情報を得ることができる。y方向についても同様である。
【0060】
さらに、位置検出器と位置検出器ターゲットを追加すれば、加工レンズ保持機構32のねじれや、z方向の移動等の姿勢情報を検出することができる。
【0061】
また、位置検出器としては、渦電流を利用したもの、静電容量を利用したもの、光の反射を利用したもの、音波を利用したもの等、加工レンズ保持機構32の移動範囲、位置精度により、任意に選択することができる。
【0062】
実施の形態2.
本実施の形態2では、先の実施の形態1の構成に対して、ばねによる保持機構をさらに備えた磁気移動機構33Aについて説明する。図7は、本発明の実施の形態2によるレーザ加工装置100の磁気移動機構33Aを示す構成図である。
【0063】
本実施の形態2では、四角形状の加工レンズ保持機構32Aの四隅のそれぞれに、第1板ばね336の一端部が接続されている。図7において、上下方向に延びた各第1板ばね336の他端部には、第1板ばね336に対してほぼ直角で外側方向に延びた第2板ばね337の一端部が接続されている。対向した、第1板ばね336と第2板ばね337との接続部位間は、保持部材335で接続されている。さらに、第2板ばね337の他端部は、固定台35に接続されている。
【0064】
第1板ばね336および第2板ばね337は、z方向に幅広で、x方向またはy方向に肉薄である。そして、このようなバネ機構により、加工レンズ保持機構32Aは、z方向への動きが規制され、レーザビーム22の光軸22aに垂直なxy平面内を移動することができる。
【0065】
ここで、第1板ばね336は、例えば、ステンレス、リン青銅、ベリリウム銅などのばね鋼材の薄板を、矩形平板に打ち抜いて作製されている。第2板ばね337は、第1板ばね336と同じ材料を用い、同じ形状に作製されている。また、保持部材335は、例えば、アルミニウムなどの厚い板材を矩形平板に成形して作製されている。
【0066】
なお、第1板ばね336、第2板ばね337および保持部材335により、加工レンズ31が光軸22aの方向であるz方向に移動するのを規制する弾性ヒンジを構成している。
【0067】
また、x方向位置検出器331xは、固定台35に固定され、対向して、x方向位置検出器ターゲット332xが加工レンズ保持機構32Aに固定されている。そして、x方向位置検出器331xは、x方向位置検出器ターゲット332xまでの距離を計測する。
【0068】
同様に、y方向位置検出器331yは、固定台35に固定され、対向して、y方向位置検出器ターゲット332yが加工レンズ保持機構32Aに固定されている。そして、y方向位置検出器331yは、y方向位置検出器ターゲット332yまでの距離を計測する。他の構成は、先の実施の形態1のレーザ加工装置100と同じである。
【0069】
図7では、先の実施の形態1における図5と同様に、加工レンズ31がxマイナス方向に移動している状態を示している。この状態のときには、制御装置50は、第1のアクチュエータ330(1)および第2のアクチュエータ330(2)の電磁石330aに流れる電流を制御している。この結果、4枚の第1板ばね336がxy平面内で曲げられ、第1のアクチュエータ330(1)、第2のアクチュエータ330(2)の電磁力と第1板ばね336の弾性力との釣り合った位置で、加工レンズ保持機構32Aの位置が保持されている。
【0070】
また、加工レンズ31をy方向に移動させる場合には、制御装置50は、第3のアクチュエータ330(3)、第4のアクチュエータ330(4)の電磁石330aに流れる電流を制御する。この結果、両端部が保持部材335と固定台35とにそれぞれ固定された4枚の第2板ばね337がxy平面内で曲げられ、第3のアクチュエータ330(3)、第4のアクチュエータ330(4)の電磁力と第2板ばね337の弾性力との釣り合った位置で、加工レンズ保持機構32Aの位置が保持されている。
【0071】
このとき、同時に、x方向位置検出器331xは、x方向位置検出器ターゲット332xまでの距離を計測し、制御装置50は、x方向の位置情報をx方向位置検出器331xから読み取る。そして、制御装置50は、設定値(目標値)と位置情報(フィードバック値)との差が小さくなるように、レンズ位置のフィードバック制御を行っている。
【0072】
このような構成を備えることで、先の実施の形態1のレーザ加工装置と同様の効果を得ることができるとともに、さらに、磁気移動機構33Aが弾性ヒンジを備えているため、電磁石330aに電流を流さない状態でも弾性ヒンジの復元力により、加工レンズ保持機構32Aを一定の位置に保つことができる。
【0073】
すなわち、電磁石330aに電流を流さない状態での加工レンズ保持機構32Aの一定の位置とは、本来原点であるべき位置に相当し、位置検出器による計測値としては温度ドリフトした結果となるが、弾性ヒンジによる一定の復元力に基づく再現性のある原点位置となる。
【0074】
従って、電磁石330aの電流をゼロにした状態における、x方向位置検出器331x、y方向位置検出器331yのそれぞれの計測値を原点位置として求めることで、位置情報を補償することができる。すなわち、弾性ヒンジの力の釣り合った位置を、加工レンズの位置情報の原点と一致させることができるため、レンズを移動させる際、特定の電磁石330aの電流値を極端に大きくする必要がなく、電磁石330aの電流値に偏りを出なくさせることができる。
【0075】
従って、磁気移動機構33Aが電磁石330aの発熱、レーザビーム22の吸収等により温度変化しても、加工ノズル36の中心とレーザビーム22の光軸22aとを高速度、高精度で偏心させることができ、レーザビーム22の光軸22aを加工ノズル36の開口中心37aより加工進行方向に偏らせることができる。この結果、加工ガス43と溶融物4が切断溝3に沿ってスムーズに流れることを可能とし、高品質の切断加工を行うことができる。
【0076】
以上のように、実施の形態2によれば、磁気移動機構に弾性ヒンジを備えた構成となっている。この結果、先の実施の形態1と同様の効果を得ることができるとともに、電磁石の電流をゼロにした状態で計測した原点位置に基づいて、位置情報を補償することができる。この結果、弾性ヒンジの力の釣り合った位置を、加工レンズの位置情報の原点と一致させることができるため、レンズを移動させる際、特定の電磁石の電流値を極端に大きくする必要がなくなるというさらなる効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0077】
1 ワーク、2 ピアッシング穴、3 切断溝、4 溶融物、10 レーザ発振器、20 レーザビーム伝送系、21 ミラー、22 レーザビーム、22a 光軸、30 加工ヘッド本体、31 加工レンズ、31a 加工レンズ中心軸、32、32A 加工レンズ保持機構、33、33A 磁気移動機構、330(1) 第1のアクチュエータ、330(2) 第2のアクチュエータ、330(3) 第3のアクチュエータ、330(4) 第4のアクチュエータ、330a 電磁石、330b 磁性体ターゲット、331 位置検出器、331x x方向位置検出器、331y y方向位置検出器、332 位置検出器ターゲット、332x x方向位置検出器ターゲット、332y y方向位置検出器ターゲット、333x 第2のx方向位置検出器、333y 第2のy方向位置検出器、334x 第2のx方向位置検出器ターゲット、334y 第2のy方向位置検出器ターゲット、335 保持部材、336 第1板ばね、337 第2板ばね、34 仕切板、35 固定台、36 加工ノズル、37 開口、37a 開口中心、40 ガス供給装置(ガス供給部)、42 ガスバルブ、41 加工ガス導入パイプ、43 加工ガス、50 制御装置(制御部)、100 レーザ加工装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザビームを発振するレーザ発振器と、
加工ガスを供給するガス供給部と、
前記レーザ発振器から発振された前記レーザビームを加工ノズルから出射するとともに、前記ガス供給部から供給された前記加工ガスを前記加工ノズルから噴出することで、加工対象であるワークの切断加工を行う加工ヘッド本体と、
前記ワークの種類および加工条件に基づいて、前記レーザ発振器から発振される前記レーザビームのビーム出力および前記ガス供給部から供給される前記加工ガスの供給量を制御するとともに、前記加工ノズルから出射されるレーザビームの光軸を、前記加工ノズルの開口中心に対して片寄らせる偏心量制御を行う制御部と
を備えたレーザ加工装置であって、
前記加工ヘッド本体は、
前記レーザ発振器から発振された前記レーザビームを前記ワークに向けて集光させる加工レンズと、
複数の電磁石による磁気駆動により、前記加工レンズを前記レーザビームの光軸に対し垂直な平面内または曲面内で2軸移動させる磁気移動機構と、
前記加工レンズの位置情報を計測する位置検出器と
を有し、
前記制御部は、前記位置検出器で計測された前記位置情報が目標位置となるように、前記複数の電磁石の電流値をフィードバック制御し、前記加工レンズを前記目標位置に2軸移動させることで前記偏心量制御を行うとともに、前記フィードバック制御の実行前に本来原点であるべき位置で前記位置検出器により計測された原点位置情報に基づいて、前記フィードバック制御の実行中に前記位置検出器により計測される前記位置情報を補償する
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ加工装置において、
前記制御部は、前記複数の電磁石の電流値を等しく設定することで、前記フィードバック制御の実行前における前記原点位置情報の計測を行う
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項3】
請求項1に記載のレーザ加工装置において、
前記磁気移動機構は、前記複数の電磁石の電流値が0に設定された際に、前記加工レンズが本来原点であるべき位置となるような弾性ヒンジ機構を有し、
前記制御部は、前記複数の電磁石の電流値を0に設定することで、前記フィードバック制御の実行前における前記原点位置情報の計測を行う
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、
前記制御部は、前記フィードバック制御の実行前であり、前記レーザ加工ヘッドが停止中であり、かつ前記ワークに前記レーザビームが照射されていない時間に、前記原点位置情報の計測を行う
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のレーザ加工装置において、
前記制御部は、前記加工レンズの中心軸が前記加工ノズルの前記開口中心よりも加工進行方向側に位置するように前記偏心量制御を行う
ことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項6】
加工ヘッドからレーザビームを出射すると同時に加工ガスを噴出し、加工対象であるワークの切断加工を行う際に、前記レーザビームを前記ワークに向けて集光させる加工レンズを前記レーザビームの光軸に対し垂直な平面内または曲面内で2軸移動させることで、前記加工ガスを噴出する加工ノズルの中心と、前記レーザビームの光軸中心との偏心量を制御するレーザ加工方法であって、
前記偏心量の制御の実行前に、前記加工レンズの本来原点であるべき位置を原点位置情報として計測するステップと、
前記偏心量の制御の実行中に計測される前記加工レンズの位置情報を前記原点位置情報に基づいて補償するステップと、
補償後の位置情報が目標位置となるように前記偏心量の制御を行うステップと
を備えることを特徴とするレーザ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−187606(P2012−187606A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52803(P2011−52803)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】