説明

レーザ加工装置及びレーザ加工方法

【課題】 レーザ加工時に発生するプラズマ等からの発光の影響を受けず、かつ装置の小型化及び低価格化を図ることが可能なレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】 レーザ光源(1)から出射されたレーザパルスが、加工対象物上に入射する。光検出器(16)が、加工対象物に入射したレーザパルスの反射光を検出する。制御装置(20)が下記の工程を実行する。(a)加工対象物に穴を形成することができる加工用レーザパルスを、加工対象物の被加工位置に入射させる。(b)加工対象物に穴が形成されない大きさの確認用レーザパルスを、被加工位置に入射させる。(c)光検出器による確認用レーザパルスの反射光の検出結果に基づいて、穴形成完了か否かを判定し、穴形成未完了である場合、工程(a)に戻って、新たな加工用レーザパルスを被加工位置に入射させる工程から実行し、穴形成完了である場合、被加工位置への加工用レーザパルスの入射を終了させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置及びレーザ加工方法に関し、特に、絶縁層と金属層とが積層された加工対象物への穴の形成に適したレーザ加工装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属層と樹脂層とが積層された多層配線基板の樹脂層に、レーザ光を用いて穴を形成し、内層の金属層を露出させるレーザ加工技術が広く用いられている。
【0003】
下記の特許文献1に開示されたレーザ加工方法について説明する。加工対象物の加工位置にレーザパルスを入射させる。レーザパルスの一部は、加工対象物から反射され、入射経路に沿って戻る。この反射光を入射経路から分岐させて、反射光検出器でその強度を検出する。内層の金属層が露出すると、反射光の強度が増加するため、金属層が露出した時点を検出することができる。
【0004】
下記の特許文献2に開示されたレーザ加工方法について説明する。加工対象物の加工位置にレーザビームを入射させて加工を行いながら、検査用光源から加工位置に検査光を照射する。この検査光が反射された光を受光素子で検出することにより、内層の金属層が露出した時点を検出することができる。
【0005】
下記の特許文献3に開示されたレーザ加工方法では、ビーム走査器を用いてレーザビームを走査しながら穴開け加工を行う。加工対象物上においてレーザビームの入射位置が移動するため、検査光の照射位置も、レーザビームの入射位置に一致するように移動させなければならない。このため、検査光を、加工用のレーザビームの経路に合流させた後、加工対象物に入射させている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−192570号公報
【特許文献2】特開2000−137002号公報
【特許文献3】特開2002−290056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に開示されたレーザ加工方法では、穴開け加工と反射光の検出とが同時に進行する。穴開け加工時には、レーザビームの入射によってプラズマが発生する。このプラズマからの発光の影響により、反射光強度の検出精度が低下してしまう。
【0008】
特許文献2及び3に開示されたレーザ加工方法では、加工用のレーザ光源の他に、検査光用のレーザ光源が必要になる。このため、装置が大型化するとともに、装置の低価格化が困難である。
【0009】
本発明の目的は、レーザ加工時に発生するプラズマ等からの発光の影響を受けず、かつ装置の小型化及び低価格化を図ることが可能なレーザ加工装置、及びレーザ加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一観点によると、
パルスエネルギ可変のレーザ光源と、
加工対象物を保持するステージと、
前記レーザ光源から出射されたレーザパルスを、前記ステージに保持された加工対象物上に入射させる伝搬光学系と、
前記ステージに保持された加工対象物に入射したレーザパルスの反射光を検出する光検出器と、
前記レーザ光源を制御する制御装置と
を有し、前記制御装置は、
(a)前記ステージに保持された加工対象物に穴を形成することができる大きさのパルスエネルギを持つ加工用レーザパルスを、該加工対象物の被加工位置に入射させる工程と、
(b)前記ステージに保持された加工対象物に穴が形成されない大きさのパルスエネルギを持つ確認用レーザパルスを、前記被加工位置に入射させる工程と、
(c)前記光検出器による前記確認用レーザパルスの反射光の検出結果に基づいて、穴形成完了か否かを判定し、穴形成未完了である場合、前記工程(a)に戻って、新たな加工用レーザパルスを前記被加工位置に入射させる工程から実行し、穴形成完了である場合、前記被加工位置への加工用レーザパルスの入射を終了させる工程と
が実行されるように前記レーザ光源を制御するレーザ加工装置が提供される。
【0011】
本発明の他の観点によると、
(a)加工対象物に穴を形成することができる大きさのパルスエネルギを持つ加工用レーザパルスを、レーザ光源から出射して該加工対象物に入射させ、該加工対象物に穴を形成する工程と、
(b)前記加工対象物に穴が形成されない大きさのパルスエネルギを持つ確認用レーザパルスを、前記レーザ光源から出射して、前記工程(a)で形成された穴の位置に入射させるとともに、該確認用レーザパルスの反射光の強度を検出する工程と、
(c)前記工程(b)で検出された反射光の強度に基づいて、穴加工完了か否かを判定し、穴加工完了の場合には、当該穴への加工用レーザパルスの照射を終了し、穴加工未完了の場合には、前記工程(a)に戻って、途中まで形成されている穴の位置に、新たに加工用レーザパルスを入射させる工程から実行する工程と
を有するレーザ加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
確認用レーザパルスの反射光を検出することにより、加工対象物の反射率の変化を検出することができる。これにより、所望の位置まで穴が形成されているか否かを判定することが可能になる。加工用レーザパルスを入射させるごとに、確認用レーザパルスを入射させて判定を行うため、穴の形成不足や、過剰なレーザパルスの照射を防止することができる。確認用レーザパルスの照射は、加工用レーザパルスの照射後に行われるため、加工時に発生するプラズマからの発光の影響を回避して、反射光の強度を高精度に検出することが可能になる。確認用レーザパルスが、加工用レーザパルスと同一のレーザ光源から出射されるため、確認用レーザパルス生成のための専用のレーザ光源を準備する必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に、実施例によるレーザ加工装置の概略図を示す。レーザ光源1が、パルスレーザビームを出射する。レーザ光源1として、例えば炭酸ガスレーザ発振器を用いることができる。レーザ光源1は、制御装置20からトリガ信号trgを受信している期間、レーザパルスを出射する。トリガ信号trgを送出する時間を変化させることにより、レーザ光源1から出射されるレーザパルスのパルス幅を変化させることができる。パルス幅が変化することにより、1パルス当たりのエネルギ(パルスエネルギ)が変化する。
【0014】
レーザ光源1から出射されたレーザビームが、ビームエキスパンダ2により、ビーム径が拡大された平行ビームになる。ビーム径の拡大された平行ビームのビーム断面が、マスク3により整形される。
【0015】
マスク3を透過したレーザビームが、第1の部分反射ミラー4に入射する。第1の部分反射ミラー4は、入射するレーザビームの一部を反射し、残りを透過させる。第1の部分反射ミラー4の透過率及び反射率は、例えばそれぞれ約99%及び約1%である。第1の部分ミラー4を透過したレーザビームが、ビーム振分器5に入射する。ビーム振分器5は、制御装置20からの制御信号sconを受けて、入射したレーザビームを直進させてビームダンパ6に入射させる状態と、レーザビームを偏向させて加工用経路に沿って伝搬させる状態とを切り替えることができる。ビーム振分器5として、例えば音響光学偏向素子(AOD)を用いることができる。
【0016】
第1の部分反射ミラー4で反射されたレーザビームは、第1の光検出器15に入射する。 第1の光検出器15は、入射したレーザビームの光強度を電気信号に変換し、光強度信号det1を制御装置20に送信する。
【0017】
ビーム振分器5で加工用経路に振り分けられたレーザビームは、折り返しミラー7で反射され、第2の部分反射ミラー8に入射する。第2の部分反射ミラー8の透過率及び反射率は、例えばそれぞれ約99%及び約1%である。第2の部分反射ミラー8を透過したレーザビームが、ビーム走査器9に入射する。ビーム走査器9は、制御装置20からの制御信号gconを受けて、入射したレーザビームを2次元方向に走査する。ビーム走査器9として、例えばX用揺動ミラーとY用揺動ミラーを含むガルバノスキャナを用いることができる。
【0018】
ビーム走査器9で走査されたレーザビームが、fθレンズ10により収束され、加工対象物50の被加工位置に入射する。加工対象物50は、XYステージ11に保持されている。fθレンズ10は、マスク3の位置を、加工対象物50の表面に結像させる。なお、結像位置で加工を行う方法に代えて、fθレンズ10の後側焦点位置で加工を行う焦点加工法を採用することも可能である。ビーム走査器9でレーザビームを走査することにより、レーザビームの入射位置を、加工対象物50の表面上で移動させることができる。
【0019】
加工対象物50に入射したレーザビームのうち一部は、加工対象物50の表面で反射され、レーザビームの入射経路を逆行する。この反射光は、fθレンズ10及びビーム走査器9を経由し、第2の部分反射ミラー8で反射されて第2の光検出器16に入射する。第2の光検出器16は、入射したレーザビームの光強度を電気信号に変換し、光強度信号det2を制御装置20に送信する。第1の光検出器15及び第2の光検出器16として、例えば赤外線センサを用いることができる。
【0020】
図2Aに、加工対象物50の断面図を示す。ガラス繊維含有エポキシ樹脂等からなるコア基板52の表面に、銅等からなる内層導電パターン53が形成されている。内層導電パターン53を覆うように、コア基板52の上に、ガラス繊維54bを含むエポキシ樹脂54aからなる絶縁膜54が配置されている。絶縁膜54の表面上に、銅等からなる金属膜57が形成されている。例えば、絶縁膜54の厚さは30〜60μmであり、金属膜57の厚さは9〜12μmであり、内層金属パターン53の厚さは18〜36μmである。
【0021】
図2Bに、絶縁膜54の平断面図を示す。ガラス繊維54bは、エポキシ樹脂54a内に一様に分散されているのではなく、例えば、縦縞と横縞とが交差する正方格子状に分散されている。このため、格子点P3の位置において、ガラス繊維密度が最も高くなり、縦縞及び横縞のいずれも通過しない位置P1にはガラス繊維が存在しない。縦縞または横縞の一方のみが通過する位置P2のガラス繊維密度は、位置P1のガラス繊維密度と位置P3のガラス繊維密度との中間になる。
【0022】
このように、絶縁膜54の面内の位置によってガラス繊維密度が異なる。ガラス繊維は、エポキシ樹脂に比べて、レーザビームで加工しにくい。金属膜57にレーザパルスを入射させて、絶縁膜54に、その底面まで達する穴を形成する場合について考える。ガラス繊維密度が最も高い位置P3には、例えばパルスエネルギ密度20〜30J/cmのレーザパルスを4ショット入射させることにより、内層金属パターン53まで達する穴が形成される。ところが、ガラス繊維密度が最も低い位置P1には、同一のパルスエネルギ密度のレーザパルスを2ショット入射させれば十分である。位置P1に4ショットのレーザパルスを入射させると、過剰なエネルギが投入されて、内層金属パターン53が損傷を受けたり、穴形状が樽型になったりする。逆に、ガラス繊維密度が高い位置P2やP3には、2ショットのレーザパルスでは、内層金属パターン53まで達する穴が形成されない。
【0023】
次に、図3〜図5Fを参照して、実施例によるレーザ加工方法について説明する。図3は、実施例によるレーザ加工方法のフローチャートを示し、図4は、トリガ信号trg、及び制御信号gcon、sconのタイミングチャートを示し、図5A〜図5Dは、1つの穴の加工途中段階における加工対象物の断面図を示し、図5E及び図5Fは、加工完了時の断面図を示す。
【0024】
図3のステップSt1において、ビーム振分器5を制御して、レーザビームがビームダンパ6に入射する状態にし、レーザ光源1からヒートパルスHPの出射を開始する。ヒートパルスHPは、加工対象物の表面において、加工対象物50の金属膜や絶縁膜に穴を形成することができない程度の大きさのパルスエネルギ密度を持つ。また、ヒートパルスHPのパルス周波数は、例えば4kHzとする。
【0025】
ステップSt2において、レーザビームが、次に加工すべき穴の位置に入射するように、ビーム走査器9の制御を行う。ビーム走査器9の制御が完了すると、ステップSt3に進み、ヒートパルスHPの出射を停止させるとともに、ビーム振分器5に制御信号sconを送信して、レーザビームが加工用経路を伝搬する状態にする。
【0026】
ステップSt4に進み、金属加工用レーザパルスMPを出射させる。ビーム振分器5が、レーザビームを加工用経路に伝搬させる状態になっているため、金属加工用レーザパルスMPは、加工対象物1の、穴を形成すべき位置に入射する。
【0027】
図5Aに、金属加工用レーザパルスMPが入射した後の加工対象物50の断面図を示す。金属膜57に穴が形成され、その下の絶縁膜54の表層部も削られている。金属加工用レーザパルスMPは、加工対象物50の表面で、約40J/cmのパルスエネルギ密度となるように、パルスエネルギ及びビームスポットサイズが調整されている。例えば、金属加工用レーザパルスMPのパルス幅は30〜100μs程度であり、金属膜57に形成される穴の直径は、100〜125μmである。
【0028】
ステップSt5に進み、確認用レーザパルスCP(0)を出射させる。確認用レーザパルスCP(0)の、加工対象物50の表面におけるパルスエネルギ密度は、例えば5J/cmであり、絶縁膜54に穴を開けることができるパルスエネルギ密度の最低値(閾値)よりも小さい。例えば、確認用レーザパルスCP(0)のパルス幅は、数μs〜10μs程度である。この程度の短い時間では、レーザ光源1から出射されるレーザパルスの光強度が定常状態に達する前に、レーザパルスが立ち下がる。すなわち、確認用レーザパルスCP(0)の光強度のピーク値は、金属加工用レーザパルスMPの光強度のピーク値よりも小さい。
【0029】
確認用レーザパルスCP(0)は、絶縁膜54を加工しないため、図5Bに示すように、確認用レーザパルスCP(0)を照射しても、穴の深さはほとんど変化しない。
【0030】
ステップSt6に進み、1穴加工完了か否かを判定する。具体的には、第2の光検出器16で、確認用レーザパルスCP(0)の反射光の光強度を検出し、検出結果と、判定基準値とを比較する。内層金属パターン53が露出すると、反射率が高くなるため、反射光の強度が高くなる。判定基準値は、内層金属パターン53が露出していない状態の反射光強度よりも大きく、かつ内層金属パターン53が露出した状態の反射光強度よりも小さくなるように設定されている。従って、反射光の検出結果と、判定基準値とを比較することにより、内層金属パターン53が露出したか否かを判定することができる。金属加工用レーザパルスMPを照射した時点では、図5Aに示したように、内層金属パターン53が露出していないため、ステップSt6で、「加工未完了」と判定される。
【0031】
ステップSt7に進み、樹脂加工用レーザパルスRP(1)を出射させる。樹脂加工用レーザパルスRP(1)は、図5Cに示すように、ステップSt4で金属膜57に形成された穴の位置に入射する。樹脂加工用レーザパルスRP(1)の、加工対象物50の表面におけるパルスエネルギ密度は、絶縁膜54に穴を形成することができる大きさであり、例えば20〜30J/cmである。なお、パルス幅は、20〜30μs程度である。図5Cに示すように、樹脂加工用レーザパルスRP(1)が入射することにより、加工対象物50に形成されていた穴が深くなる。なお、形成された穴は、内層金属パターン53まで到達していない。
【0032】
ステップSt8に進み、確認用レーザパルスCP(1)を出射させる。確認用レーザパルスCP(1)のパルスエネルギは、ステップSt5で出射した確認用レーザパルスCP(0)のパルスエネルギと同一である。このため、図5Dに示すように、確認用レーザパルスCP(1)が照射されても、加工対象物50に形成されている穴の形状は、ほとんど変化しない。
【0033】
ステップSt9に進み、1穴加工完了か否かを判定する。この判定は、ステップSt6の手順と同一の手順で行う。図5Dに示したように、形成された穴が内層金属パターン53まで到達していないため、「加工未完了」と判定される。
【0034】
ステップSt7に戻る。3ショット目の樹脂加工用レーザパルスRP(3)の照射により、図5Eに示すように、内層金属パターン53が露出したとする。ステップSt8において、確認用レーザパルスCP(3)を照射する。図5Fに示すように、穴の底面に内層金属パターン53が露出しているため、反射率が高くなり、ステップSt9において、「1穴加工完了」と判定される。
【0035】
ステップSt10に進み、全穴加工完了か否かを判定する。「全穴加工完了」の場合には、処理を終了する。その後は、例えば、図1に示したXYステージ11を移動させて、加工対象物50の未加工領域をレーザビームの走査可能範囲内に移動させ、上述のレーザ加工と同一の手順を実行する。
【0036】
「全穴加工未完了」と判定された場合には、ステップSt1に戻り、ビーム振分器5に送信していた制御信号sconを停止させて、レーザビームがビームダンパ6に入射する状態とし、ヒートパルスHPの出射を開始する。その後、次に加工すべき穴の位置に、穴開け加工を行う。
【0037】
絶縁膜54が薄く、穴を形成すべき位置にガラス繊維が配置されていない場合には、ステップSt4における金属加工用レーザパルスMPの照射によって、内層金属パターン53まで達する穴が形成される場合もある。この場合には、ステップSt6において、「1穴加工完了」と判定され、ステップSt10に進む。なお、金属加工用レーザパルスMPの照射によって、内層金属パターン53が露出することがない場合には、ステップSt5及びSt6を省略してもよい。
【0038】
上記実施例によるレーザ加工方法では、穴を形成する位置に加工用レーザパルスが入射するごとに、穴が形成された位置に確認用レーザパルスを入射させて反射光強度を検出することにより内層金属パターンが露出したか否かを判定する。このため、加工不足、及び過剰なレーザパルスの照射を回避することができる。
【0039】
また、加工用レーザパルスと確認用レーザパルスとは、同一のレーザ光源から出射されるため、確認用レーザパルスを生成するための専用のレーザ光源を準備する必要がない。
【0040】
さらに、第1の実施例では、加工用レーザパルスの入射が終了した後に、確認用レーザパルスを入射させるため、加工時に発生するプラズマからの発光の影響を回避することができる。これにより、確認用レーザパルスの反射光強度の検出精度を高めることができる。
【0041】
図4に示す最後のヒートパルスHPの出射から、金属加工用レーザパルスMPの出射までの時間T0、金属加工用レーザパルスMPの出射から、最初の確認用レーザパルスCP(0)の出射までの時間T1、確認用レーザパルスCPの出射から、次の樹脂加工用レーザパルスRPの出射までの時間T2、及び樹脂加工用レーザパルスRPの出射から、次の確認用レーザパルスCPの出射までの時間T3は、全て等しく、例えば250μsである。すなわち、レーザ光源1から出射するレーザパルスの繰り返し周波数は、4kHzで一定である。
【0042】
炭酸ガスレーザ発振器から出射されるレーザパルスの繰り返し周波数を変化させると、パルス幅を一定にしても、パルスエネルギや、ビーム断面内の光強度分布が変動してしまう。実施例では、パルスの繰り返し周波数が一定に保たれているため、パルスエネルギや光強度分布の変動を抑制し、高品質な加工を行うことが可能になる。なお、上記実施例では、確認用レーザパルスCP、及びヒートパルスHPは、そのパルス幅が短いため、光強度が定常状態に達する前に、レーザパルスの光強度が立ち下がる。このように、定常状態に達する前に立ち下がるような短いレーザパルスでも、一定周波数で挿入することによって、パルスエネルギや、ビーム断面内の光強度分布の変動を抑制できることが実験により確かめられた。
【0043】
上記実施例では、加工対象物50からの反射光を、第2の部分反射ミラー8により、レーザビームの経路から分岐させたが、他の方法により分岐させることも可能である。例えば、偏光ビームスプリッタを用いてもよい。この場合、偏光ビームスプリッタとビーム走査器9との間のビーム経路内に1/4波長板を挿入し、往路のビームと、復路のビームとの偏光方向を90°異ならせることにより、反射光を分岐させることができる。
【0044】
上記実施例では、反射光の強度の絶対値を判定基準値と比較したが、第1の光検出器15で検出された確認用レーザパルスCPの光強度と、反射光の光強度とから反射率を求め、算出された反射率を、反射率の判定基準値と比較してもよい。算出された反射率により、穴形成完了か否かの判定を行うことにより、入射する確認用レーザパルス自体の光強度の変動の影響を排除して、より正確な判定を行うことが可能になる。
【0045】
上記実施例では、レーザ光源1として炭酸ガスレーザ発振器を用いたが、他のパルスエネルギ可変のレーザ発振器を用いてもよい。例えば、エキシマレーザ発振器を用いてもよい。
【0046】
上記実施例では、表面の金属膜57にレーザ加工によって穴を形成し、引き続いてその下の絶縁膜に穴を形成する方法(いわゆる「ダイレクト加工」)を例に挙げて説明したが、表面の金属膜に予め穴が形成されており、その穴の位置の絶縁膜にレーザ加工により穴を形成する方法(いわゆる「コンフォーマル加工」)にも、上記実施例によるレーザ加工方法を適用することが可能である。この場合には、ステップSt4〜St6が省略される。
【0047】
また、上記実施例では、絶縁膜54の下に配置された内層金属パターン53まで達する穴を形成する場合について説明したが、内層パターンが露出した時点で反射率が変化するようなその他の材料を加工する場合にも、上記実施例を適用することが可能である。
【0048】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例によるレーザ加工装置の概略図である。
【図2】(2A)は、加工対象物の断面図であり、(2B)は、その平断面図である。
【図3】実施例によるレーザ加工方法のフローチャートである。
【図4】実施例によるレーザ加工方法のタイミングチャートである。
【図5−1】(5A)〜(5D)は、実施例によるレーザ加工方法で加工される加工対象物の、加工途中段階の断面図である。
【図5−2】(5E)及び(5F)は、実施例によるレーザ加工方法で1穴加工完了時点の加工対象物の断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 レーザ光源
2 ビームエキスパンダ
3 マスク
4 第1の部分反射ミラー
5 ビーム振分器
6 ビームダンパ
7 折り返しミラー
8 第2の部分反射ミラー
9 ビーム走査器
10 fθレンズ
11 XYステージ
15 第1の光検出器
16 第2の光検出器
20 制御装置
50 加工対象物
52 コア基板
53 内層金属パターン
54 絶縁膜
54a エポキシ樹脂
54b ガラス繊維
MP 金属加工用レーザパルス
CP 確認用レーザパルス
RP 樹脂加工用レーザパルス
HP ヒートパルス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスエネルギ可変のレーザ光源と、
加工対象物を保持するステージと、
前記レーザ光源から出射されたレーザパルスを、前記ステージに保持された加工対象物上に入射させる伝搬光学系と、
前記ステージに保持された加工対象物に入射したレーザパルスの反射光を検出する光検出器と、
前記レーザ光源を制御する制御装置と
を有し、前記制御装置は、
(a)前記ステージに保持された加工対象物に穴を形成することができる大きさのパルスエネルギを持つ加工用レーザパルスを、該加工対象物の被加工位置に入射させる工程と、
(b)前記ステージに保持された加工対象物に穴が形成されない大きさのパルスエネルギを持つ確認用レーザパルスを、前記被加工位置に入射させる工程と、
(c)前記光検出器による前記確認用レーザパルスの反射光の検出結果に基づいて、穴形成完了か否かを判定し、穴形成未完了である場合、前記工程(a)に戻って、新たな加工用レーザパルスを前記被加工位置に入射させる工程から実行し、穴形成完了である場合、前記被加工位置への加工用レーザパルスの入射を終了させる工程と
が実行されるように前記レーザ光源を制御するレーザ加工装置。
【請求項2】
前記伝搬光学系は、レーザビームの入射位置が前記ステージに保持された加工対象物の表面上を移動するように、レーザビームを走査する走査器を含み、
前記制御装置は、前記工程(c)において、穴形成完了と判定された場合、さらに、
(d)次に穴を形成すべき被加工位置にレーザビームが入射するように前記走査器を制御する工程と、
(e)前記走査器の制御後、新たな被加工位置に対して、前記工程(a)から工程(c)までを繰り返す工程と
が実行されるように、前記レーザ光源及び走査器を制御する請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記工程(d)において、前記走査器によりレーザビームの入射すべき位置が移動している期間、前記制御装置は、前記ステージに保持された加工対象物に穴が形成されない大きさのパルスエネルギを持つヒートパルスが前記レーザ光源から出射されるように、前記レーザ光源を制御する請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記加工用レーザパルス、確認用レーザパルス、及びヒートパルスを含む一連のレーザパルスが一定の繰り返し周波数で前記レーザ光源から出射されるように、前記制御装置が前記レーザ光源を制御する請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
(a)加工対象物に穴を形成することができる大きさのパルスエネルギを持つ加工用レーザパルスを、レーザ光源から出射して該加工対象物に入射させ、該加工対象物に穴を形成する工程と、
(b)前記加工対象物に穴が形成されない大きさのパルスエネルギを持つ確認用レーザパルスを、前記レーザ光源から出射して、前記工程(a)で形成された穴の位置に入射させるとともに、該確認用レーザパルスの反射光の強度を検出する工程と、
(c)前記工程(b)で検出された反射光の強度に基づいて、穴加工完了か否かを判定し、穴加工完了の場合には、当該穴への加工用レーザパルスの照射を終了し、穴加工未完了の場合には、前記工程(a)に戻って、途中まで形成されている穴の位置に、新たに加工用レーザパルスを入射させる工程から実行する工程と
を有するレーザ加工方法。
【請求項6】
前記工程(c)で穴加工完了と判定された場合、さらに、
(d)前記加工対象物の表面内において、前記レーザ光源から出射されたレーザパルスの入射位置を、新たに穴を形成すべき位置まで移動させる工程と、
(e)新たに穴を形成すべき位置にレーザパルスが入射する状態で、前記工程(a)から工程(c)を繰り返す工程と
を有する請求項5に記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
前記工程(d)において、レーザパルスの入射位置が移動している期間、前記加工対象物に穴が形成されない大きさのパルスエネルギを持つヒートパルスを、前記レーザ光源から出射する請求項6に記載のレーザ加工方法。
【請求項8】
前記加工用レーザパルス、確認用レーザパルス、及びヒートパルスを含む一連のレーザパルスを、一定の繰り返し周波数で前記レーザ光源から出射させる請求項7に記載のレーザ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【公開番号】特開2009−6332(P2009−6332A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167231(P2007−167231)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】