説明

レーザ加工装置

【課題】 高価な位置合わせ装置を用いることなく、また機械的な可動部の振動による位置制御の低下をなくすることにより、安価な装置で高い位置決め精度を有し、かつ高い光利用効率で形状加工を行うレーザ加工装置を提供すること。
【解決手段】レーザ光源11と、
該レーザ光源11から出射されるレーザ光12の位相を変調する空間位相変調手段13と、
所定の加工形状に対応する加工ホログラムデータに、該所定の加工形状の像を加工面の所定の加工位置に再生する位置移動ホログラムデータを付加することにより、合成データを生成し、該合成データを上記空間位相変調手段13へ入力するデータ入力手段16,17と、
上記空間位相変調手段13により位相変調を受けた上記レーザ光12のホログラム像を上記加工面に再生させる結像手段14と、を有するレーザ加工装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザ光を被加工物へ照射して加工を行うレーザ加工装置に関し、特に、数μmから数100nmの分解能を必要とする高精度部品、例えば、MEMSや回折光学素子などの2次元あるいは3次元の形状加工品、またはフォトニック結晶、プリント基板、インクジェットヘッドなどの微細な多数の穴形状を持つ部品の加工に応用することができる。
【背景技術】
【0002】
レーザ光は、短い時間にエネルギーを微小領域に正確に集中することができるため、金属や合成樹脂等の表面パターニング、穿孔、切断、切削等のような直接材料加工や、リソグラフィや光造形などの材料の化学変化や、材料の改質・変質など様々な加工形態に用いられる(以後、単に「加工」という場合は、これら様々な加工形態の全てを含む)。特に、近年1μm以下の分解能を持つ超微細な2次元または3次元形状の加工法として多用されており、屈折型および回折型の光学素子や、光ディスクの原盤、電気回路、MEMS素子など多様な製品を作製するのに用いられている。
【0003】
従来、レーザ光を用いて形状加工を行う場合、次のような方法が存在する。
1.光を集光して加工を行う方法で、集光点または被加工物を移動させることによって加工を行う方法。
2.光をマスクに通し、マスクの形状を加工面に投影することによって形状加工を行う方法。
上記1.の方法に関しては、被加工物を照射光の光軸に垂直方向に移動させることによって加工を行う方法と、ガルバノスキャナーなどを用いて集光点を走査する方法がある。ガルバノスキャナーを用いる方法では、一般的により高速で高精度な加工が可能となるが、しかし、集光点を走査するため広い範囲の加工、または面の加工を行う際には、スループットが低いことが問題である。
上記2.の方法に関しては、マスクの形状を加工面に縮小して投影する方法をとることによって、高精度な形状を一括して加工することができる。また、グレースケールマスクを用いることによって立体的な加工も可能である。しかし、この加工法には以下のような問題がある。
(a) マスクによって光を遮蔽するため、投影する形状によっては光利用効率が非常に低いものとなる。
(b) マスクに照射される光強度のむらが、加工形状のむらとなる。
【0004】
これらの加工法の問題を解決し、高い光利用効率で形状一括加工を行う方法として、回折光学素子またはホログラムによる加工法が提案されている(特開2002−66769号公報及び特開2001−272635号公報参照)。
この加工法は、コヒーレントな光源から出射された光を、その光の位相あるいは振幅、またはその両方を変調する素子によって整形することにより、加工面で所望の形状を得る方法である。
ところで、レーザ光による形状加工装置では、所望の加工部位へ位置合わせを行う必要があり、特に高分解能を必要とする形状加工を行う際には、分解能の1/10程度以下の位置合わせ精度が必要となる。
従来、所望する加工部へレーザ光の照射位置を合わせる方法として、位置計測装置を有しているクローズドループ型のステージやピエゾ素子を用いたステージ、または高い角度分解能のガルバノスキャナーなどを用いる方法がある。特に、ホログラム素子とガルバノスキャナーを組み合わせることによって、広い範囲で形状加工を行う方法が、例えば特開2002−66769号公報などに開示されている。
【0005】
しかし、これらの装置は高価であり、またこれらの方法は機械的な可動部を有しているため、機械的な動きによる振動も問題となる。
また、特に3次元形状を造形するとき、または穿孔のように加工位置が深さ方向に変化する際に、加工を行いながらレーザ光軸方向への焦点位置の調整も必要となる。
従来、焦点位置を調整する方法としては、結像光学系にピエゾ素子を駆動源とするアクチュエータを利用する方法や、試料を固定するステージ自体を移動させる方法がある。
いずれの方法においても、高精度の駆動装置が必要であるため装置が高価になること、機械的に移動させるため、加速時または減速時に生じる振動などにより位置制御の精度が低下することなどが問題として存在している。
【0006】
この他に本発明と関連する従来技術としては、特開2000−223766号公報(レーザ加工装置およびレーザ加工方法)に記載されたものがある。この公報のレーザ加工装置は、レーザ光を被加工物へ集光照射し加工を行うものにおいて、液晶パネルによって構成される変調手段によってレーザ光の位相変調を行い、集光点の位置又は形状を変化させるものである。
また、特開2001−209003号公報(レーザ加工装置)に記載されたものがある。この公報のレーザ加工装置は、レーザ光源と、レーザ光源から出射されたレーザ光を平行ビームとする光学系と、平行ビームを加工面上に所定の強度で分布させるスポット形状変換作用及びレンズ作用を備えたスポット形状変換素子とを具備しており、該スポット形状変換素子により光の方向を変化させると共に、光強度の再配分を行ない、加工面において所定の出力強度分布となるようにするものである。
しかしながら、本発明に関する従来技術としては、前述の特開2002−66769号公報及び特開2001−272635号公報に記載されたものが、技術的により近いものと考えられるので、上記2件の公報に記載されたものについては、これ以上の説明を省略する。
【0007】
【特許文献1】特開2002−66769号公報
【特許文献2】特開2001−272635号公報
【特許文献3】特開2000−223766号公報
【特許文献4】特開2001−209003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、高価な位置合わせ装置を用いることなく、また機械的な可動部の振動による位置制御の低下をなくすることにより、安価な装置で高い位置決め精度を有し、かつ高い光利用効率で形状加工を行うレーザ加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に対する解決手段は、所定の加工形状に対応する加工ホログラムデータに対して、該所定の加工形状の像を加工面の所定の加工位置に再生する位置移動ホログラムデータを付加することにより合成データを生成し、該合成データをレーザ光の位相を変調する空間位相変調手段へ入力することが基本である。
【0010】
〔解決手段〕(請求項1に対応)
上記課題を解決するために講じた解決手段は、レーザ加工装置を前提として、次の(イ)〜(ニ)の要件を有することである。
(イ) レーザ光源、
(ロ) 該レーザ光源から出射されるレーザ光の位相を変調する空間位相変調手段、
(ハ) 所定の加工形状に対応する加工ホログラムデータに、該所定の加工形状の像を加工面の所定の加工位置に再生する位置移動ホログラムデータを付加することにより、合成データを生成し、該合成データを上記空間位相変調手段へ入力するデータ入力手段、
(ニ) 上記空間位相変調手段により位相変調を受けた上記レーザ光のホログラム像を上記加工面に再生させる結像光学手段。
【0011】
〔作 用〕
加工ホログラムデータに位置移動ホログラムデータを付加することによって合成データを作成し、この合成データにより空間位相変調手段を作動させて、レーザ光源から出射されるレーザ光の位相を変調させることによって、所定の加工形状の像を被加工物の加工面に再生することができるので、高い光利用効率を有し所望の位置に所望の形状の加工を行うことが可能となる。所定の加工形状の像を再生する機能と位置合わせ機能を、一つの空間位相変調素子によって実現することができる。
【0012】
〔実施態様1〕(請求項2に対応)
実施態様1は、上記解決手段のレーザ加工装置において、位置移動ホログラムデータは、加工面に平行な方向に関するホログラムデータ、あるいは加工面に垂直な方向に関するホログラムデータ、又はこれら両方のホログラムデータを合成した合成位置移動ホログラムデータであることである。
〔作 用〕
加工面に平行な方向に関するホログラムデータと、加工面に垂直な方向に関するホログラムデータについて、それぞれ計算した後に合成して、位置移動ホログラムデータとすることにより、計算を簡単にすることができる。
【0013】
〔実施態様2〕(請求項3に対応)
実施態様2は、上記実施態様1のレーザ加工装置において、加工面に平行な方向に関するホログラムデータは、鋸歯形状又は略鋸歯状の位相分布を持つホログラムデータであることである。
〔作 用〕
加工面に平行な方向に関するホログラムデータとして、移動させたい量に対して簡単に計算できるホログラムデータあることが望ましい。
鋸歯形状又は略鋸歯状の位相分布を持つホログラムデータを用いることによって、所望の位置と現在のレーザ光照射位置とのずれ量ΔxとΔyから、簡単な計算によって鋸歯形状を自動的に決定することができる。
また、加工ホログラムデータと鋸歯状のデータを変えながら複数回の加工を行うことにより、複雑な形状であっても、複数回の単純な形状に分けて加工を行うことが可能である。複雑な形状のホログラム像を計算するときは、計算による誤差が大きくなるが、複数の単純な画像に分けて計算することにより、ホログラムによる像再生の誤差を減少させることができる。
【0014】
〔実施態様3〕(請求項4に対応)
実施態様3は、上記実施態様1のレーザ加工装置において、加工面に垂直な方向に関するホログラムデータは、フレネルゾーンプレート状位相分布を持つホログラムデータであることである。
〔作 用〕
フレネルゾーンプレート状位相分布を持つホログラムデータにより、レーザ光の照射位置を加工面に垂直な方向(レーザ光の光軸方向)にずらすことができる。加工面に垂直な方向に関するホログラムデータとして、簡単に計算可能なホログラムデータである。
【0015】
〔実施態様4〕(請求項5に対応)
実施態様4は、上記実施態様3レーザ加工装置において、空間位相変調手段と結像光学手段との距離が、該結像光学手段の焦点距離と等しい距離となっていることである。
〔作 用〕
上記実施態様3のレーザ加工装置では、ホログラム像にフレネルゾーンプレート状のデータを付加し、結像光学手段により所望の加工面にホログラム像の再生を行う。このとき、ホログラム再生像の大きさは、フレネルゾーンプレート状データの焦点距離と結像光学手段の焦点距離、および空間位相変調手段と結像光学手段の位置関係により決定される。そこで、通常は、付加するフレネルゾーンプレート状データの焦点距離によって、再生されるホログラム像の大きさが変化するという問題が生じる。
この実施態様4のレーザ加工装置では、上記実施態様3のものにおいて、空間位相変調手段と結像光学手段との距離dを結像光学手段の焦点距離fと等しくしているので、フレネルゾーンプレート状のデータの焦点距離がどのようなものであっても、ホログラム像の大きさは常に一定であって変化することはない。
【0016】
〔実施態様5〕(請求項6に対応)
実施態様5は、上記解決手段、又は実施態様1〜実施態様4のいずれかのレーザ加工装置において、空間位相変調手段へ入力されるレーザ光の波面を計測する波面計測手段を備え、データ入力手段は、該波面計測手段により計測されたレーザ光の波面のゆがみを補正する補正データを生成し、該補正データを空間位相変調手段へ入力することである。
〔作 用〕
ホログラム像によって加工を行う場合、レーザ光源から出射されるレーザ光の波面のゆがみ(歪み)が加工形状に悪影響を及ぼす。
空間位相変調手段へ入射されるレーザ光の波面を測定して、その測定結果を該空間位相変調手段へ入力するデータへフィードバックすることにより、レーザ光の波面のゆがみ(歪み)を補正することができるので、より高精度のホログラム再生像を得ることができる。
【0017】
〔実施態様6〕(請求項7に対応)
実施態様6は、上記解決手段、又は実施態様1〜実施態様5のいずれかのレーザ加工装置において、レーザ光の照射時間を調整する照射時間調整手段、あるいはレーザ光の照射強度を調整する照射強度調整手段、又はこれらの双方を有していることである。
〔作 用〕
加工深さや加工形状はレーザ光の強度、又はレーザ光の照射時間(又はパルス数)に依存する。所望の加工形状を高精度で得るには、レーザ光の最適な強度及び照射時間を設定することが必要である。
この実施態様6では、レーザ光の照射時間調整手段又は照射強度調整手段をによって、レーザ光の照射時間や照射強度を調整することができるので、さらに精度の高い加工を行うことができる。予め、レーザ光の照射強度や照射時間に対する加工形状のデータを備えておくことが望ましい。
また、上記実施態様2の複数回の加工においては、レーザ照射時間(パルスレーザでは照射回数)を変えることによって、3次元形状の加工が可能である。
【0018】
〔実施態様7〕(請求項8に対応)
実施態様7は、上記実施態様1〜実施態様6のいずれかのレーザ加工装置において、加工面に平行な方向の位置を測定する平行方向位置検出手段を有し、該平行方向位置検出手段による位置の測定結果に基づき、加工面に平行な方向に関するホログラムデータを生成することである。
〔作 用〕
平行方向位置検出手段を用いることにより、被加工物の加工面に平行な方向の位置を正確に知ることができる。この被加工物の正確な位置を計算機にフィードバックすることによって、鋸歯形状データを自動的に決定することが可能であり、より精度の高い位置合わせをすることができる。
【0019】
〔実施態様8〕(請求項9に対応)
実施態様8は、上記実施態様7のレーザ加工装置において、平行方向位置検出手段は、加工面上の基準パターンを検出することである。
〔作 用〕
加工部の特徴点を平行方向位置検出手段である観察システムにより読み込むことによって、加工すべき位置を知ることができ、その結果を計算機にフィードバックすることによって、より精度の高い位置合わせをすることができる。
また、直接に形状変化がなされる加工においては、加工中に加工部の形状を観察することが可能となり、この観察結果を計算機にフィードバックすることによって、例えばレーザ照射位置やレーザ光強度などを調整して、より精密な加工を行うことができる。
【0020】
〔実施態様9〕(請求項10に対応)
実施態様9は、上記解決手段、又は実施態様1〜実施態様8のいずれかのレーザ加工装置において、加工面に平行な方向における、該加工面に照射されるレーザ光と該加工面との相対的位置を変化させる第1移動手段を有することである。
〔作 用〕
上記解決手段、又は実施態様1〜実施態様8のレーザ加工装置では、精密な位置合わせを行って形状加工を行うことができるが、広い面積を加工することはできない。
この実施態様9では、加工面に平行な方向に移動させる第1移動手段(例えばステージ)により、レーザ光と加工面との相対的位置を変化させながら加工を行う、いわゆるステップアンドリピート加工を行うことによって、広い面積の加工をすることが可能となる。粗調整を第1移動手段によって、微調整を空間位相変調手段へ入力するデータによって位置合わせをするので、第1移動手段は位置決め精度が数10μm以下の廉価なものを用いることができる。
【0021】
〔実施態様10〕(請求項11に対応)
実施態様10は、上記実施態様1〜実施態様9のいずれかのレーザ加工装置において、加工面に垂直な方向における、結像光学手段と該加工面との相対的な位置関係を測定する垂直方向位置検出手段を有し、該垂直方向位置検出手段による位置測定結果に基づき、該加工面に垂直な方向に関するホログラムデータを生成することである。
〔作 用〕
上記実施態様1〜実施態様9のレーザ加工装置では、加工面に垂直な方向にホログラム像の再生位置を調整することが可能であるが、所望の加工位置に精密にホログラム像の再生位置を合わせるためには、被加工物と結像光学手段との距離が重要である。特に、実施態様9で述べたようなステップアンドリピート加工を行う際には、被加工物表面のうねりなどによって結像光学手段と被加工物との距離がずれる問題がある。
この実施態様10では、被加工物と結像光学手段との距離を計測することにより、その結果を計算機へフィードバックして、ホログラム像の再生位置を光軸方向に精密に調整することができる。
【0022】
〔実施態様11〕(請求項12に対応)
実施態様11は、上記解決手段、又は実施態様1〜実施態様10のいずれかのレーザ加工装置において、加工面に垂直な方向における、結像光学手段と該加工面との相対的な位置を変化させる第2移動手段を有することである。
〔作 用〕
上記解決手段、及び実施態様1〜実施態様10のレーザ加工装置では、結像位置を数10μm程度動かすことは可能であるが、それ以上動かすことは困難である。このため、例えば段差の大きい物体の加工、又は深い溝や穴の加工が困難である。
この実施態様11では、第2移動手段を有することにより、被加工物と結像光学手段との距離を大きく変えることができ、結像位置を大きく動かすことが可能であるので、段差の大きい物体の加工、又は深い溝や穴の加工を行うことができる。
【0023】
〔実施態様12〕(請求項13に対応)
実施態様12は、上記解決手段、又は実施態様1〜実施態様11のいずれかのレーザ加工装置において、レーザ光源が数ピコ秒以下のパルス幅を持った超短パルスレーザ光源であることである。
〔作 用〕
レーザ光によって直接形状変化を誘起させる加工においては、通常、レーザの熱によって形状変化が誘起される。照射部にレーザ光のエネルギーが熱として伝わり、加工部が気化または液化することにより形状変化が生じる。このとき、加工が行われるレーザ照射部周辺まで熱伝播の影響を及ぼすため、光を照射した個所の周辺も熱の影響を受け、精密な加工が困難である。特に、微細な形状を加工する際には、熱の伝播による影響を無視することができない。
この実施態様12では、パルス幅が数ピコ秒以下の超短パルスレーザ光による加工であり、被加工物とレーザ光との相互作用時間が非常に短いため、熱伝播による影響を小さく抑えることができる。また、超短パルスレーザ光では非常に強いエネルギーが瞬間的に発生するため、低エネルギーで加工することができるので、難加工材であっても直接除去する加工が可能である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の効果を主な請求項毎に整理すると、次ぎのとおりである。
(1) 請求項1に係る発明
合成データにより空間位相変調手段を動作させて、所定の加工形状の像を被加工物の所定の加工位置に再生することができるので、高い光利用効率で、且つ高い位置決め精度を有するレーザ加工を行うことが可能である。また、所定の加工形状の再生と位置合わせを一つの空間位相変調素子によって実現することができるので、安価な装置とすることが可能である。
(2) 請求項2に係る発明
加工面に平行な方向に関するホログラムデータと、加工面に垂直な方向に関するホログラムデータについて、それぞれ計算した後に合成して、位置移動ホログラムデータを作成すると計算を簡単にすることができるので、位置移動ホログラムデータの計算にかかる時間を減らすことが可能となり、高速で次々と加工を行うことができる。
【0025】
(3) 請求項3に係る発明
加工面に平行な方向に関するホログラムデータとして、鋸歯形状のデータを用いることにより、所望の位置と現在のレーザ光照射位置とのずれ量ΔxとΔyから、簡単な計算によって鋸歯形状を自動的に決定することが可能である。
また、加工ホログラムデータと鋸歯状のデータを変えながら複数回の加工を行うことにより、複雑な形状であっても、複数回の単純な形状に分けて加工を行うことが可能である。複雑な形状のホログラム像を計算するときは、計算による誤差が大きくなるが、複数の単純な画像に分けて計算すれば、ホログラムによる像再生の誤差を減少させることができるので、さらに高精度な加工が可能である。
【0026】
(4) 請求項4に係る発明
フレネルゾーンプレート状位相分布を持つホログラムデータにより、レーザ光の照射位置を加工面に垂直な方向にずらすことができる。加工面に垂直な方向に関するホログラムデータとして、簡単に計算可能なホログラムデータである。
(5) 請求項5に係る発明
空間位相変調手段と結像光学手段との距離を、該結像光学手段の焦点距離と等しくしているので、フレネルゾーンプレート状データの焦点距離に関わらず、再生されるホログラム像の大きさを常に一定とすることが可能である。
【0027】
(6) 請求項6に係る発明
空間位相変調手段へ入射されるレーザ光の波面のゆがみ(歪み)を補正することができ、より高精度のホログラム再生像を得ることができるので、高精度の加工形状を得ることが可能である。
(7) 請求項7に係る発明
レーザ光の照射時間調整手段又は照射強度調整手段をによって、レーザ光の照射時間や照射強度を調整することができるので、さらに精度の高い加工を行うことができる。また、加工深さを精密に制御したり、3次元形状の加工が可能である。
【0028】
(8) 請求項8に係る発明
被加工物の加工面に平行な方向において、より精度の高い位置合わせをすることができるので、所望する加工位置に高精度の加工を行うことができる。
(9) 請求項9に係る発明
加工部の特徴点を平行方向位置検出手段である観察システムから読み込むことによって、加工すべき位置を知ることができ、その結果を計算機にフィードバックすることによって、より精度の高い位置合わせをすることができる。
また、直接に形状変化がなされる加工においては、加工中に加工部の形状を観察することが可能となり、この観察結果を計算機にフィードバックすることによって、例えばレーザ照射位置やレーザ光強度などを調整して、より精密な加工を行うことができる。
【0029】
(10) 請求項10に係る発明
加工面に平行な方向に移動させる第1移動手段(例えばステージ)により、レーザ光と加工面との相対的位置を変化させながら加工を行う、いわゆるステップアンドリピート加工を行うことにより、広い面積の加工を行うことが可能となる。
粗調整を第1移動手段によって、微調整を空間位相変調器へ入力するデータによって位置合わせをするため、第1移動手段は位置決め精度が数10μm以下の廉価なものを用いることができるので、安価な装置によって高精度で大面積を加工することが可能である。
【0030】
(11) 請求項11に係る発明
被加工物と結像光学手段との距離を計測することにより、その結果を計算機へフィードバックして、ホログラム像の再生位置を光軸方向に精密に調整することができるので、より高精度の加工を行うことができる。
(12) 請求項12に係る発明
第2移動手段を有することにより、結像光学手段の結像位置を大きく動かすことができるので、段差の大きい物体の加工、又は深い溝や穴の加工を行うことができる。
【0031】
(13) 請求項13に係る発明
パルス幅が数ピコ秒以下の超短パルスレーザ光による加工では、被加工物とレーザ光との相互作用時間が非常に短いため、熱伝播による影響を小さく抑えることができる。
また、超短パルスレーザ光では非常に強いエネルギーが瞬間的に発生するため、低エネルギーで加工することができるので、ダイヤモンド、ガラス、又は酸化物などの難加工材に対しても、直接除去加工が可能である。
さらに、超短パルスレーザ光では非常に強いピークパワーを持つため、2光子吸収過程を利用して加工を行うことが可能であり、レーザ光に対して透明な物体の内部に加工を行うことが可能となる。このとき、本発明のレーザ加工装置では3次元的に位置合わせが可能であるため、透明体内部の任意の位置に高い位置合わせ精度で加工することが可能である。
(14) 請求項14に係る発明
高精度の微細形状の加工品であり、低いコストで作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
レーザ加工装置において、安価な装置で高い位置決め精度を有し、かつ高い光利用効率で形状加工を行うという目的を、高価な位置合わせ装置を用いることなく、振動を生じる機械的な可動部をなくすることにより実現した。
【実施例1】
【0033】
本発明の実施例1(請求項1に対応)について、図1及び図2を参照しながら説明する。図1はレーザ加工装置の説明図であり、図2はレーザ加工装置中の計算機の処理を説明する図である。
実施例1のレーザ加工装置は、レーザ光源11、空間位相変調器13、及び結像レンズ14を有しており、該レーザ光源11から出射したレーザ光12は空間位相変調器13によって位相変調を受けた後、被加工物15に照射されその加工を行う。上記空間位相変調器13はコントローラ16によって制御されており、該コントローラ16への入力データは計算機17によって計算される。
ここで、レーザ光源11としては、YAGレーザの第二高調波532nmのレーザ光を用い、結像レンズ14として焦点距離f=10mmのレンズを用いており、該結像レンズ14と空間位相変調器13との距離dは10mmとしている。
【0034】
上記空間位相変調器13としては、液晶の配向方向によって位相差を発生させるもの、電気光学効果を用いたもの、又は磁気光学効果を用いたものなどがある。特に、電気光学効果や磁気光学効果を用いたものは、応答速度が速く好適なものである。また、空間位相変調器13は反射型のものと透過型のものが存在しており、ここでは実施例として透過型のものを示しているが、反射型のものを用いても問題はない。
この空間位相変調器13として、例えば、電気光学効果を用いた画素数512ピクセル×512ピクセル、画素ピッチが30μmで、レーザ光の波長に対して2πの位相変調を256階調で行えるものを用いている。
【0035】
次に、図2を用いて上記空間位相変調器13へ入力するデータの一例について説明する。像21は加工したい形状であり、像22は上記像21を再生するように計算された位相変調型の計算機合成ホログラム画像である。この像22は256階調、512ピクセル×512ピクセルで構成されており、最大で2πの位相変調を与えることができる。
ホログラムを計算する方法として、反復フーリエ変換法やシミュレーテッドアニーリング法などを用いることが可能である。
これらの計算方法に関しては、それぞれ以下の論文に詳しく記載されている。
(i) N.Yoshikawa and T.Yatagai,Appl.Opt.33,863-867(1994)
(ii) J.Fienup,Opt.Eng.19,297-305(1980)
上記反復フーリエ変換法は、大きな画素数のホログラムであっても、シミュレーテッドアニーリング法に比較して短時間で計算することができるため、より好ましいものである。
【0036】
上記像22に位置移動ホログラムデータ23を付加したものが、空間位相変調器13へ入力する合成データ24である。ここで、「付加」というのは、像22に像23のものを足して、それぞれの画素において計算上の位相変調量が実際に位相変調可能な量(ここでは2π)を超えていたとき、その値から2π引いた値を実際の入力データとする、操作を行うことである。
上記位置移動ホログラムデータ23は、ホログラムの像再生位置を移動することのできるデータであり、このデータは上記ホログラムを計算する方法を用いて計算することができる。
【実施例2】
【0037】
本発明の実施例2(請求項2に対応)について説明する。
この実施例2のレーザ加工装置は、上記実施例1のレーザ加工装置(図1及び図2を参照)において、より簡単に位置移動ホログラムデータを生成するものであり、位置移動ホログラムデータとして、加工面に水平な方向に関するホログラムデータと、加工面に垂直な方向に関するホログラムデータとを合成したものを用いている。ここで「合成」とは、各画素におけるデータを足した後に、変調量が2πを超えるときは2π引いた値を入力データとすることである。加工面に垂直な方向のみ、または加工面に平行な方向のみに位置調整が必要なときは、それぞれに対応したデータのみを入力すればよい。
【実施例3】
【0038】
本発明の実施例3(請求項3に対応)について、図3−1及び図3−2を参照しながら説明する。図3−1はレーザ加工装置中の計算機の処理を説明する図であり、図3−2は鋸歯形状データについて説明する断面図である。
この実施例3のレーザ加工装置は、上記実施例2のレーザ加工装置において、加工面に平行方向にレーザ光照射位置を移動させる簡単なホログラムデータ形状を用いるものであり、図1に示されているレーザ加工装置と同じものが用いられる。空間位相変調器13へ入力するデータの合成について、図3−1を用いて説明する。像31は加工したい形状であり、像32は像31を再生するように計算された位相変調型の計算機合成ホログラム画像である。像再生位置を加工面に平行な方向に移動させるためのホログラムデータ(位置移動ホログラムデータ)として、鋸歯形状データ33を用いて合成データ34を作成する。
像32を計算によって再生したものが再生像35であり、像(合成データ)34を再生したものが再生像36である。鋸歯形状データ33を付加することにより、再生像の位置がずれている。再生像35および再生像36においては、分かり易いように基準線を縦横に設けている。
【0039】
上記鋸歯形状データを決定する方法に関して以下に詳しく述べる。該鋸歯形状データの断面図を図3−2(a)〜(c)に示している。(a)に示されている断面は、傾きが非対称な形状となっている。
この鋸歯形状データを空間位相変調器へ入力することによって、x,yそれぞれの方向に角度θだけ光線を傾けることができ、光線の傾きに応じて像再生位置が加工面に平行な方向にずれる。傾き角θは数ミリラジアン程度であり、近軸近似を適用することができる。
【0040】
上記鋸歯形状データの決定方法を以下に詳しく述べる。
空間位相変調器によってx方向にθ、y方向にθだけ光軸から傾いたとき、加工面におけるx方向、y方向それぞれのホログラム再生位置ずれ量Δx,Δyは、次式により表される。なお、既に説明したとおり、fは結像レンズの焦点距離、dは結像レンズと空間位相変調器との距離である(図1を参照)。
Δx=tanθ・(2−f/d)
Δy=tanθ・(2−f/d)
空間位相変調器のある座標x,yの位相変調量φ(x,y)は、次式で与えられる。

【数1】


,aは、それぞれ空間位相変調器のx方向の画素ピッチ、及びy方向の画素ピッチである。
ここで、mは整数であり、φ(x,y)が0から2πの値になるように調整するために入れるものである。
【0041】
上記鋸歯形状データによる位置決め精度についてここで詳しく述べる。
この鋸歯形状データで与えられる最低の波面傾きは、おおよそ次式で与えられる。
λ×(8/M)/Na
ここで、λはレーザ光の波長、Mは位相変調の階調数、Nは画素のピクセル数、aは画素のピッチである。また、最小の波面の傾きとして、全ピクセルにわたって8階調分の変調があるときとした。8階調の変調があれば、理論回折効率として95%の効率が得られるため、十分であると考えられる。
この実施例の条件であると、波面の最小の傾きは約1.9μラジアンであり、この値がおおよその最小分解能であると考えられる。ガルバノスキャナーの典型的な位置決め精度は5μラジアンから10μラジアンであり、本発明では、ガルバノスキャナーのような可動部品を用いること無く、それ以上の分解能で位置決めが可能となる。このとき、被加工物へ照射するレーザ光の位置決め精度は、約20nmである。この精度の値は、空間位相変調器の性能によるものであり、画素数の多いものや変調可能な諧調が多いものを用いることによって、より高い精度で位置決めを行うことが可能である。
【0042】
鋸歯形状のデータは完全なものでなく略鋸歯形状でもよく、具体的には、図3−2(b)に示されている断面図のように量子化された構造や、図3−2(c)に示されている断面図のように鋸歯ではなくただ傾きを有するだけのもの、または傾きが直線ではなく多少丸みを帯びた形状となっているものでも良い。
【実施例4】
【0043】
本発明の実施例4(請求項4に対応)について、図4を参照しながら説明する。図4はレーザ加工装置中の計算機の処理を説明する図である。
この実施例4のレーザ加工装置は、上記実施例2のレーザ加工装置において、加工面に垂直な方向に関するホログラムデータとして、簡単に計算可能なホログラムデータを用いるものであり、図1に示されているレーザ加工装置と同じものが用いられる。
【0044】
この実施例4は、空間位相変調器13にフレネルゾーンプレート状のデータ45を入力することができる機能が追加されており、上記空間位相変調器13へ入力するデータの一例を図4を用いて説明する。像41は所望の加工形状であり、像42は像41を再生するように計算されたホログラム画像である。該ホログラム画像42に鋸歯形状データ43を付加して、一時的な合成データ44を作成し、さらに、フレネルゾーンプレート状のデータ45を付加することにより最終的な合成データ46を得る。このとき、変調量が2πを超えるときは2π引いた値を入力データとする。
フレネルゾーンプレート状の位相分布は、フレネルレンズと同様の性能を持つものであり、レーザ光の波面に所望する曲率Rを付けることができるものである。
ここで、フレネルゾーンプレート状のデータ45は完全なものでなくても良く、量子化された構造、又は多少崩れた構造になっていても良い。
【実施例5】
【0045】
本発明の実施例5(請求項5に対応)について説明する。
この実施例5のレーザ加工装置は、上記実施例4のレーザ加工装置において、付加されるフレネルゾーンプレート状データの焦点距離がどのようなものであっても、ホログラム像の大きさが変化しないようにしたものであり、上記実施例4のレーザ加工装置(図1及び図4を参照)において、空間位相変調器と結像レンズとの距離dを結像レンズの焦点距離fと等しくするものである。
ここでは、結像光学系として1枚のレンズを用いた例を挙げているが、複数枚のレンズを組み合わせた光学系を用いても良く、そのときは結像光学系の合成焦点距離fが、上記空間位相変調器と該結像光学系の合成主平面との距離と等しくなるように配置する。
【0046】
ところで、焦点距離f1を持つレンズと焦点距離f2を持つレンズが間隔dだけ離れて配置されているとき、合成系の焦点距離f'は次式で与えられる。

【数2】


よって、d=f2のとき合成系の焦点距離f'は、f1の値に関わらずf2で一定となることが分かる。
上記実施例4のレーザ加工装置において、空間位相変調手段に入力するフレネルゾーンプレートの焦点距離がf1、結像光学手段の焦点距離がf2であるとすると、空間位相変調手段と結像光学手段との距離をf2として配置することにより、合成焦点距離はf2で常に一定となり、ホログラム像の大きさがフレネルゾーンプレートの焦点距離に関わらず常に一定となる加工装置が得られる。
【0047】
このとき、焦点位置のずれΔzは以下の式で与えられる。
Δz=f/R
fは結像系の焦点距離、Rはフレネルゾーンプレート状データがレーザ光の波面に付ける曲率である。
これに対して、空間位相変調器のある座標x,yの位相変調量φ(x,y)は、以下の式で与えられる。

【数3】


,aは、それぞれ空間位相変調器のx方向の画素ピッチ、及びy方向の画素ピッチである。
ここで、mは整数であり、φ(x,y)が0から2πの値になるように調整するために入れるものである。
【実施例6】
【0048】
本発明の実施例6(請求項6に対応)について、図5を参照しながら説明する。図5は波面測定装置を備えたレーザ加工装置の説明図である。
この実施例6のレーザ加工装置は、レーザ光の波面の歪みによる加工精度への悪影響を防止することができるものであり、上記各実施例のレーザ加工装置(図1を参照)において、レーザ光源11と空間位相変調器13との間にビームサンプラー51を配置し、さらにレーザ光の波面測定装置52を設けたものである。図1に示されたものと共通する部品は同じ符号で示している。
【0049】
上記レーザ光源11より出射したレーザ光12の一部は、ビームサンプラー51によって分岐され、レーザ光の波面測定装置52に入射される。ここで、波面測定装置としては、マイクロレンズアレイを用いたシャックハルトマン型の波面測定装置や、ビームを分割し干渉させることによって波面を測定する装置などがある。
上記波面測定装置52から出力される信号は計算機17へ入力され、該計算機17では波面の歪みを補正するデータを空間位相変調器13へ送り、レーザ光の波面の歪みを補正する。
【実施例7】
【0050】
本発明の実施例7(請求項7に対応)について、図6を参照しながら説明する。図6はレーザ光の強度調整装置と照射時間調整装置を備えたレーザ加工装置の説明図である。
この実施例7のレーザ加工装置は、加工深さを精密に制御したり、3次元的な加工形状を達成したりするものであり、上記各実施例のレーザ加工装置(図1及び図5を参照)において、レーザ光強度や照射時間の調整手段を設けたものである。具体的には、レーザ光源11と空間位相変調器13との間に、1/2波長板61、グラントムソンプリズム62、及びシャッター63を配置しており、図1及び図5に示されたものと共通する部品は同じ符号で示している。
【0051】
レーザ光源11より出射したレーザ光12は、1/2波長板61、グラントムソンプリズム62、及びシャッター63を通過した後、空間位相変調器13に入射する。該レーザ光源11からの出力光は通常直線偏光であるため、1/2波長板61の角度を変えることによって、グラントムソンプリズム62を通過するレーザ光強度を調整することが可能となる。また、直線偏光度の低いレーザ光を用いる場合にはグラントムソンプリズム62を2つ用意して、一方のグラントムソンプリズムの方向を回転することにより強度を調整することも可能である。
レーザ光の照射時間(又は照射パルス数)は、上記シャッター63によって調整される。ここで、シャッター63としては機械的な動作によるものでも良いし、音響光学素子や電気光学素子を用いたシャッターでも良い。
この実施例7では、強度変調を行う装置と照射時間又は照射パルス数を制御する装置の両方を備えているが、どちらか一方のみを備えたレーザ加工装置であっても良い。
【実施例8】
【0052】
本発明の実施例8(請求項8に対応)について、図7を参照しながら説明する。図7は被加工物の位置を測定する測長器を備えたレーザ加工装置の説明図である。
この実施例8のレーザ加工装置は、加工面に平行な方向において、所望の加工位置にさらに精密に加工を行うことができるようにしたものであり、上記各実施例のレーザ加工装置(図1、図5及び図6を参照)において、被加工物の位置を2方向から測定するレーザ測長器を設けたものである。上記各実施例に示されたものと共通する部品は同じ符号で示している。
被加工物15又は被加工物15が保持されているステージに対して、照射するレーザ光と垂直な平面内において2方向からレーザ測長器71を取り付け、被加工物15の位置を測定する。該測長器71からの信号は、計算機17にフィードバックされる。
【実施例9】
【0053】
本発明の実施例9(請求項9に対応)について、図8を参照しながら説明する。図8は観察装置を備えたレーザ加工装置の説明図である。
この実施例9のレーザ加工装置は、上記各実施例のレーザ加工装置(図1、図5〜図7を参照図)において、加工すべき位置を知ることにより、さらに精度の高い位置合わせができるようにしたものであり、空間位相変調器13と結像レンズ14との間にダイクロイックミラー81を配置すると共に、顕微鏡筒82、CCDカメラ83及び照明84を設けたものである。上記各実施例に示されたものと共通する部品は同じ符号で示している。
【0054】
結像レンズ14の前にレーザ光のみを反射するダイクロイックミラー81が設置されているので、加工部はダイクロイックミラー81と結像レンズ14を通して顕微鏡筒82とCCDカメラ83により観察することができる。該加工部は照明手段84によって照明されていることが好ましい。CCDカメラの画像は計算機17へ入力され、これによって、レーザ光の照射位置を特定するための加工部の特徴点を読み取り、計算機17へフィードバックすることが可能となる。
【0055】
上記特徴点としては、予め付けられたアライメントマーク、被加工物15のエッジ部分、又は直接形状変化を伴う加工を行う際には前回までの加工部などが挙げられる。
また、このとき、レーザ光は照射されない状態にしておいても良いが、レーザ光を加工閾値以下の強度に調整して照射することにより、照射されるレーザ光の位置もCCDカメラで認識することができ、照射されるレーザ光とアライメントマークの相対的位置関係を計算機17へフィードバックすることにより、さらに精度の高い位置合わせが可能となる。
【実施例10】
【0056】
本発明の実施例10(請求項10に対応)について、図9−1及び図9−2を参照しながら説明する。図9−1は被加工物を動かすステージを備えたレーザ加工装置の説明図であり、図9−2はステップアンドリピート加工の説明図である。
この実施例10のレーザ加工装置は、高い位置決め精度を持ちながら、繰り返し加工を行うことにより広い面積の加工を可能にしたものであり、上記各実施例のレーザ加工装置(図1、図5〜図8を参照)において、被加工物をその上に固定して移動するステージを設けたものである。上記各実施例に示されたものと共通する部品は同じ符号で示している。
被加工物15は、レーザ光照射方向と垂直な平面内で可動な2軸ステージ90上に固定されている。該2軸ステージ90は、その繰り返し位置決め精度が数10μm以下の廉価版自動ステージである。CCDカメラ83からの出力信号は計算機17へ入力され、空間位相変調器13へ入力されるデータにフィードバックされる。
【0057】
ステップアンドリピート加工の流れの一例を図9−2を用いて説明する。一回目の加工によってパターン91が加工される。このとき、該加工パターン91と同時に、二回目以降の加工においてアライメントを取るために用いられるアライメントマーク92も加工される(図9−2(a)参照)。その後ステージ90を移動して、上記実施例9において説明したように、二回目の加工のためのアライメントを取り、二回目の加工パターン93の加工を行う(図9−2(b)参照)。
【実施例11】
【0058】
本発明の実施例11(請求項11に対応)について説明する。
この実施例11のレーザ加工装置は、ホログラム像の再生位置をレーザ光の光軸方向において精密に調整することができるようにしたものであり、上記各実施例のレーザ加工装置(図1、図5〜図9−1を参照)において、結像レンズ14と被加工物15との距離を計測する測長計を取り付けたものである。この測長計としては、非点収差を利用したものを用いることができるが、他に三角測量を利用したものなどを用いることも可能である。該測長計からの信号は計算機にフィードバックされ、加工面に垂直な方向に関するホログラムデータを生成する。
【実施例12】
【0059】
本発明の実施例12(請求項12に対応)について説明する。
この実施例12のレーザ加工装置は、結像位置を大きく動かすことができるようにしたものであり、上記各実施例のレーザ加工装置(図1、図5〜図9−1を参照)において、被加工物をその上に固定してレーザ光の光軸方向に移動するステージを設けたものである。
この実施例12のレーザ加工装置では、ステージをレーザ光の光軸方向に移動することによって、被加工物と結像レンズとの距離を大きく変えることができ、結像位置を大きく動かすことが可能であるので、段差の大きい物体の加工、又は深い溝や穴の加工を行うことができる。
【実施例13】
【0060】
本発明の実施例13(請求項13に対応)について説明する。
この実施例13のレーザ加工装置は、レーザ光の熱伝播による影響を小さく抑えるようにしたものであり、上記各実施例のレーザ加工装置(図1、図5〜図9−1を参照)において、レーザ光源11として、数ピコ秒(ps)以下のパルス幅を持った超短パルスレーザ光源、例えばパルス幅が100フェムト秒(fs)のチタンサファイア(Ti:Sapphire)レーザを用いるものである。
【0061】
レーザ光によって直接形状変化を誘起させる加工においては、通常、レーザの熱によって形状変化が誘起される。照射部にレーザ光のエネルギーが熱として伝わり、加工部が気化または液化することにより形状変化が生じる。このとき、加工が行われるレーザ照射部周辺まで熱伝播の影響を及ぼすため、光を照射した個所の周辺も熱の影響を受け、精密な加工が困難である。特に、微細な形状を加工する際には、熱の伝播による影響を無視することができない。
【0062】
パルス幅が数ピコ秒以下の超短パルスレーザ光による加工では、被加工物とレーザ光との相互作用時間が非常に短いため、熱伝播による影響を小さく抑えることができる。
また、超短パルスレーザ光では非常に強いエネルギーが瞬間的に発生するため、低エネルギーで加工することができるので、ダイヤモンド、ガラス、又は酸化物などの難加工材に対しても、直接除去加工が可能である。
さらに、超短パルスレーザ光では非常に強いピークパワーを持つため、2光子吸収過程を利用して加工を行うことが可能であり、レーザ光に対して透明な物体の内部に加工を行うことが可能となる。このとき、本発明のレーザ加工装置では3次元的に位置合わせが可能であるため、透明体内部の任意の位置に高い位置合わせ精度で加工することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】は、本発明のレーザ加工装置について説明する模式図である。
【図2】は、レーザ加工装置中の計算機が行う処理に関する説明図である。
【図3−1】は、レーザ加工装置中の計算機が行う処理を説明する図であり、鋸歯形状データの付加によって加工面に水平な方向の位置移動がなされることを説明する図である。
【図3−2】は、鋸歯形状データについて説明する断面図であり、(a)は傾きが非対称な形状のもの、(b)は量子化された形状のもの、(c)は傾きを有するだけの形状のものを示す。
【図4】は、本発明のレーザ加工装置中の計算機が行う処理を説明する図である。
【図5】は、波面測定装置を備えたレーザ加工装置について説明する模式図である。
【図6】は、レーザ光の強度調整装置および照射時間調整装置を備えたレーザ加工装置について説明する模式図である。
【図7】は、加工面に平行な方向において、被加工物の位置を測定する測長器を備えたレーザ加工装置について説明する模式図である。
【図8】は、加工部を観察する観察装置を備えたレーザ加工装置について説明する模式図である。
【図9−1】は、被加工物を移動するステージを備えたレーザ加工装置について説明する模式図である。
【図9−2】は、ステップアンドリピート加工の流れを説明する図であり、(a)は一回目の加工結果、(b)は二回目の加工結果を示す。
【符号の説明】
【0064】
11‥‥レーザ光源 12‥‥レーザ光
13‥‥空間位相変調器 14‥‥結像レンズ
15‥‥被加工物 16‥‥コントローラ
17‥‥計算機 21‥‥像(加工したい形状の像)
22‥‥ホログラム画像(像21を再生するように計算された位相変調型の計算機合成ホログラム画像)
23‥‥位置移動ホログラムデータ 24‥‥合成データ
31‥‥像(加工したい形状の像)
32‥‥ホログラム画像(像31を再生するように計算された位相変調型の計算機合成ホログラム画像)
33‥‥鋸歯形状データ(像再生位置を加工面に平行な方向に移動させるためのホログラムデータ)
34‥‥合成データ
35‥‥再生像(ホログラム画像32の再生像)
36‥‥再生像(合成データ34の再生像)
41‥‥像(所望の加工形状の像)
42‥‥ホログラム画像(像41を再生するように計算されたホログラム画像)
43‥‥鋸歯形状データ
44‥‥一時的な合成データ
45‥‥フレネルゾーンプレート状のデータ
46‥‥最終的な合成データ 51‥‥ビームサンプラー
52‥‥波面測定装置 61‥‥1/2波長板
62‥‥グラントムソンプリズム 63‥‥シャッター
71‥‥レーザ測長器 81‥‥ダイクロイックミラー
82‥‥顕微鏡筒 83‥‥CCDカメラ
84‥‥照明手段 90‥‥2軸ステージ
91‥‥一回目の加工パターン 92‥‥アライメントマーク
93‥‥二回目の加工パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源と、
該レーザ光源から出射されるレーザ光の位相を変調する空間位相変調手段と、
所定の加工形状に対応する加工ホログラムデータに、該所定の加工形状の像を加工面の所定の加工位置に再生する位置移動ホログラムデータを付加することにより、合成データを生成し、該合成データを上記空間位相変調手段へ入力するデータ入力手段と、
上記空間位相変調手段により位相変調を受けた上記レーザ光のホログラム像を上記加工面に再生させる結像光学手段と、
を有することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
上記位置移動ホログラムデータは、加工面に平行な方向に関するホログラムデータ、あるいは上記加工面に垂直な方向に関するホログラムデータ、又はこれら両方のホログラムデータを合成した合成位置移動ホログラムデータであることを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
上記加工面に平行な方向に関するホログラムデータは、鋸歯形状又は略鋸歯状の位相分布を持つホログラムデータであることを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
上記加工面に垂直な方向に関するホログラムデータは、フレネルゾーンプレート状位相分布を持つホログラムデータであることを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
上記空間位相変調手段と上記結像光学手段との距離が、該結像光学手段の焦点距離と等しい距離となっていることを特徴とする請求項4に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
上記空間位相変調手段へ入力されるレーザ光の波面を計測する波面計測手段を備え、
上記データ入力手段は、該波面計測手段により計測されたレーザ光の波面のゆがみを補正する補正データを生成し、該補正データを上記空間位相変調手段へ入力することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
上記レーザ光の照射時間を調整する照射時間調整手段、あるいは上記レーザ光の照射強度を調整する照射強度調整手段、又はこれらの双方を有していることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
上記加工面に平行な方向の位置を測定する平行方向位置検出手段を有し、該平行方向位置検出手段による位置の測定結果に基づき、上記加工面に平行な方向に関するホログラムデータを生成することを特徴とする請求項2〜請求項7のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
上記平行方向位置検出手段は、上記加工面上の基準パターンを検出することを特徴とする請求項8に記載のレーザ加工装置。
【請求項10】
上記加工面に平行な方向において、上記加工面に照射されるレーザ光と該加工面との相対的位置を変化させる第1移動手段を有することを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項11】
上記加工面に垂直な方向において、上記結像光学手段と該加工面との相対的な位置関係を測定する垂直方向位置検出手段を有し、
該垂直方向位置検出手段による位置測定結果に基づき、該加工面に垂直な方向に関するホログラムデータを生成することを特徴とする請求項2〜請求項10のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項12】
上記加工面に垂直な方向において、上記結像光学手段と該加工面との相対的な位置を変化させる第2移動手段を有することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項13】
上記レーザ光源が数ピコ秒以下のパルス幅を持った超短パルスレーザ光源であることを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項14】
請求項1〜請求項13のいずれかに記載のレーザ加工装置によって製作された加工品。

【図1】
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【図3−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図2】
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【図3−1】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−113185(P2006−113185A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298837(P2004−298837)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】