説明

レーザ強度分布変換装置

【課題】略平行な光束であるレーザビームの強度分布を、平行性を維持しつつ変換させ、高出力レーザにも対応可能であるレーザ強度分布変換装置を実現する
【解決手段】略平行光であるレーザビームを直角プリズム3に入射させ、斜面で全反射させる。直角プリズム3の斜面には、凸レンズ4の凸面がエバネッセント光を発生させる近距離で対向しており、凸レンズ4の凸面形状に応じたレーザ強度分布を有する内部反射光を得ることができる。2つの光学素子3,4の少なくとも1方を動的あるいは静的に変位させることでレーザ強度分布を自在に調整することができる。また、全反射現象を利用するため高出力レーザにも対応できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザビームの強度分布を、平行ビームの状態を維持したままで自在に変化させるためのレーザ強度分布変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工やレーザ計測等、レーザビームを用いた技術において、平行ビームの状態のままで強度分布を変化させることが必要となることが多い。例えば、レーザ加工の分野では、材料表面へレーザを集光あるいは照射する場合、レーザ強度分布は材料表面の温度分布に影響を与える。温度分布は加工品位に結びつくため、最適な温度制御が必要になる。
【0003】
レーザを材料内部に集光して加工する場合は、その分布のためビーム中心での表面吸収が避けられず、全体に強度を落として使用することになっている。
【0004】
レーザ計測の分野においては、例えば、レーザビームを広げて粒子の散乱強度を用いて検出する微粒子計測や、レーザを照射して材料の反射光あるいは透過光を用いてその分布から欠陥を判定する欠陥計測では、レーザの強度分布を均一化することが望まれている。
【0005】
そのようなニーズに対しては、特許文献1に開示されたように、ビームの強度分布を測定して、目標とする強度分布との差を求め、強度分布を変化させるために配置した液晶に差信号を補完するように変調するような方式が提案されている。
【0006】
また、特許文献2に開示されたように、位相分布を与えて照射領域の強度分布を変換する方式、あるいは、特許文献3に開示されたように、2つの光学素子を用いて強度分布を変化させる方式などが提案されている。
【0007】
その他にも、強度分布を補正するように透過率分布を有したNDフィルター(Neutral Density Filter)を用いて補正する構成が知られている。また、特許文献4に開示されたように、光束を分割して対象となる面で重ね合わせる照明光学系を併用した加工も行われている。
【0008】
【特許文献1】特開平06−031470号公報
【特許文献2】特開2001−209003号公報
【特許文献3】特開2005−148344号公報
【特許文献4】特開2002−224877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、レーザ加工では主として高出力パワーを用いるため、使用される光学素子が制限され、液晶は損傷する可能性が高く、NDフィルターも吸収型ではレーザ光吸収によってフィルターが損傷し、透過率特性がレーザ使用時間に従って変化する。
【0010】
また、レーザは強度分布自体にも経時変化を起こす。このため、初期の代表的特性に合わせただけでは完全に目標の強度分布は維持することはできず、リアルタイム性が必要となっている。この点はレーザ計測でも同様である。
【0011】
光束の重ね合わせを行った場合は、光束が略平行な状態を維持することはできないためレーザ集光のように回折限界まで絞り込むことはできなくなってしまう。
【0012】
本発明は、高出力のレーザ加工やレーザ計測に適用可能であり、微小領域でのレーザ強度分布の調整が容易で、経時的な強度分布の変化にも対応できるレーザ強度分布変換装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明のレーザ強度分布変換装置は、レーザビームの強度分布を制御するためのレーザ強度分布変換装置において、前記レーザビームを内部反射する第1の光学素子と、前記第1の光学素子に近接する近接面を有する第2の光学素子と、前記第1の光学素子の一面と前記第2の光学素子の前記近接面との間でエバネッセント波を伝搬させる距離に、前記第1の光学素子と前記第2の光学素子を対向させて配置する手段と、を有し、前記第1の光学素子に入射したレーザビームを前記一面において内部反射させることにより、前記第2の光学素子の前記近接面の形状に基づく強度分布を有するレーザビームに変換することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
レーザビームの強度分布を目標の強度分布に調整し、安定維持することができる。このため、レーザ加工では加工品位を大幅に向上できる。
【0015】
レーザ内部加工でも、表面吸収することなく内部に集光することが可能となり、加工が安定化する。また、レーザ強度分布を動的に可変であるため、内部集光の光軸方向の位置に応じた強度設定が可能となる。従って、加工の最適化が容易であり、レーザ強度分布の経時変化にも対応可能となる。さらに、全反射を行うことで、高出力レーザにも適用可能となる。
【0016】
レーザ計測では、強度ムラを低減することで強度ムラに対応した補正作業を省くことができ、計測処理の高速化が実現される。
【0017】
さらに、平行ビームの状態で絞り込むことで、微小領域でのレーザ強度分布を変化させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、一実施形態によるレーザ強度分布変換装置を示す。この装置は、レーザ光源1と、ビーム径を変換するビーム径変換ユニット2と、第1の光学素子である直角プリズム3と、直角プリズム3の、内部反射する一面である斜面と対向する凸面(近接面)を有する第2の光学素子である凸レンズ4と、を有する。また、直角プリズム3の斜面において内部反射したレーザビームを検知するための2次元撮像素子5と、相対する上記光学素子3,4を近接させて配置する手段と、両者の相対変位を制御するための駆動手段であるピエゾ素子6と、を備える。さらに、計測系をまとめる演算装置7と、ピエゾを駆動するためのピエゾドライバ8と、光学素子3,4の相対した状態を観察するための撮影系の光源9と、撮影光学系10と、撮像素子11と、光束の大きさを制限するアパーチャ12等を備える。
【0020】
上記のレーザ光学系において、レーザ光源1より出たレーザビームは略平行な状態でビーム変換ユニット2に入射する。
【0021】
ビーム変換ユニット2は、最終的にレーザをどのように使用するかによって大きさが決まるので、それに対応するように大きさを変化させるものである。ビーム径変換ユニット2から出射した光は直角プリズム3の直角をなす2つの面の一方から入射し、そのまま斜面で内部反射される。このとき、入射面は使用したレーザの波長に合わせて反射防止をしてもかまわないが、斜面については反射防止などの薄膜を付加してはいけない。
【0022】
直角プリズム3の斜面には、相対する凸レンズ4の凸面が近接して配置されている。
【0023】
図2は、直角プリズム3の斜面と、これに近接して配置された凸レンズ4の凸面(近接面)との関係を拡大して示す。
【0024】
図2に示すように、外側に近接する近接面が凸面である場合に得られる反射光の強度分布について考える。なお、近接面は曲率半径rの球面とする。光軸と近接面との間の最小間隔をΔoとし、最小間隔となる位置がレーザ光束の光軸と一致しているものと仮定し、そこを中心とする。直角プリズム3の斜面と近接面である凸レンズ4の凸面間の距離Δは、以下の式で表される。
【0025】
Δ=Δo+(r−sqrt(rーx))≒ Δo+(1/2)(x/r)
ここで、sqrt:平方根
Δo:中心の距離
x:中心から斜面に沿って測った距離
r:近接面の曲率半径
Δが十分小さいと、直角プリズム3の斜面よりエバネッセント波が近接面へ伝搬して光が漏れ出す。
【0026】
一般にこのエバネッセント波の透過率Tは、光学素子間の距離dに対して以下の式で表される。
【0027】
T=exp(−d/dp)
ここで、dp:光トンネル効果で強度1/eとなる距離
つまり、直角プリズム3の斜面より透過率Tで表される量が漏れるわけであるから、反射した光束は反射率R=1―Tとなり、間隔dが空間的に変化する場合、反射率分布を与えることが可能となる。
【0028】
直角プリズム3の斜面と近接面である凸レンズ4の凸面の組み合わせによる総合反射率分布R(x)は、以下の式で表される。
【0029】
R(x)=1−T(x)=1−exp(−(Δo+(1/2)(x/r))/dp)
このように、中心間隔Δoや凸レンズ4の曲率半径を替えることで、反射率分布R(x)を変化させることが可能となる。
【0030】
直角プリズム3の斜面に近接する第2の光学素子については、凸レンズ4に限らず、様々な近接面形状を用いることができる。
【0031】
例えば、図3(a)に示すように、曲率中心部に凹部を形成した近接面を有する光学素子14を用いることでビーム径を極小化することが可能である。
【0032】
また、図3(b)に示すように、中心より所望の距離に凹部を円環状に形成した近接面を有する光学素子24を用いることで、反射光は円環状のビームとなりベッセルビーム集光が可能となる。
【0033】
また、図3(c)に示すように、シリコンゴムなどの形状可変材料によって作られた光学素子34を用いることで、材料へ与える応力により、光学素子34を変形させて内部反射光の強度分布を変化させることが可能となる。
【0034】
また、図3(d)に示すように、複数の急峻な凹部を形成した近接面を有する光学素子44を用いることで、反射光は複数の微小なレーザビームを形成するが、凹部の大きさに従った広がり持った光となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】一実施形態によるレーザ強度分布変換装置を示す模式図である。
【図2】図1の主要部を拡大して示す模式図である。
【図3】第2の光学素子の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 レーザ光源
2 ビーム径変換ユニット
3 直角プリズム(第1の光学素子)
4 凸レンズ(第2の光学素子)
5 2次元撮像素子
6 ピエゾ素子
7 演算装置
8 ピエゾドライバ
9 光源
10 撮影光学系
11 撮像素子
12 アパーチャ
24、34、44 光学素子(第2の光学素子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザビームの強度分布を制御するためのレーザ強度分布変換装置において、
前記レーザビームを内部反射する第1の光学素子と、
前記第1の光学素子に近接する近接面を有する第2の光学素子と、
前記第1の光学素子の一面と前記第2の光学素子の前記近接面との間でエバネッセント波を伝搬させる距離に、前記第1の光学素子と前記第2の光学素子を対向させて配置する手段と、を有し、
前記第1の光学素子に入射したレーザビームを前記一面において内部反射させることにより、前記第2の光学素子の前記近接面の形状に基づく強度分布を有するレーザビームに変換することを特徴とするレーザ強度分布変換装置。
【請求項2】
前記第1の光学素子に対して前記第2の光学素子を相対変位させるための駆動手段を有することを特徴とする請求項1に記載のレーザ強度分布変換装置。
【請求項3】
前記第2の光学素子を変形させる手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザ強度分布変換装置。
【請求項4】
前記第1の光学素子は、前記一面において、前記第1の光学素子に入射したレーザビームを全反射することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のレーザ強度分布変換装置。
【請求項5】
レーザビームを内部反射する第1の光学素子の一面に対向させて、エバネッセント波を伝搬させる距離に近接面を有する第2の光学素子を配置し、前記第1の光学素子に入射したレーザビームを前記一面において内部反射させることで、前記第2の光学素子の前記近接面の形状に基づく強度分布を有するレーザビームに変換することを特徴とするレーザ強度分布変換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−271325(P2009−271325A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121823(P2008−121823)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】