説明

レーザ溶接方法、及びその方法によって接合されるパイプ接合体。

【課題】金属製薄肉パイプの重ね合わせ溶接において溶け込み深さを安定させ溶接品質を向上するレーザ溶接方法を提供する。
【解決手段】金属製の第1パイプ11と、第1パイプ11の径外側に嵌合する第2パイプとを溶接するレーザ溶接方法は、不活性ガス注入工程、溶接工程および冷却工程を含む。不活性ガス注入工程では、ガス注入ノズル21から第1パイプ11の内側に不活性ガスG1を注入するとともに内側の空気G0を外側へ排出することで溶接時の内壁の酸化を防止する。溶接工程では、第1パイプ11および第2パイプ12を中心軸の回りに回転させながらレーザ照射ヘッド51から第2パイプ12の外周にレーザ光Lを照射し、溶け込み部の先端が第1パイプ11の板厚内に位置するように金属を溶け込ませる。冷却工程では、不活性ガス注入工程から継続注入される不活性ガスG1によって、溶接された箇所を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製薄肉パイプの重ね合わせ溶接に適用されるレーザ溶接方法、その方法によって接合されるパイプ接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エネルギが高く指向性が良いレーザ光は、金属製部材の精密な溶接等に利用される。例えば、特許文献1、2、3には、ステンレスパイプや鋼板端面の溶接に適したレーザ溶接方法、並びにレーザ溶接において気泡などの欠陥の発生を抑える方法が開示されている。
【0003】
ところで、車両用内燃機関等の燃料噴射装置に用いられる燃料噴射弁は、一般に燃料通路部材が薄肉のパイプ状に形成されるため、燃料通路部材と噴射ノズルの嵌合部等との精密な接合にレーザ溶接を利用することが有効である。例えば、特許文献4、5には、燃料噴射弁のレーザ溶接において溶接歪み等を防止する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−132262号公報
【特許文献2】特開平9−295011号公報
【特許文献3】特開2001−205464号公報
【特許文献4】特開平11−270439号公報
【特許文献5】特開2002−317728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般にレーザ溶接では、「被溶融側部材」に「被照射側部材」を重ね合わせ、被照射側部材にレーザ照射して被照射側部材から被溶融側部材へ金属を溶け込ませる。そして、照射するレーザのエネルギ値および照射時間を制御することで被照射側部材から被溶融側部材への溶け込み深さおよび溶け込み幅を制御する。
パイプ同士を嵌合し重ね合わせ部分を溶接する場合、内側パイプが「被溶融側部材」に相当し、外側パイプが「被照射側部材」に相当する。そして、外側パイプの内壁と内側パイプの外壁とに跨って金属を溶け込ませる。ここで、例えば燃料噴射弁のように内側パイプの内壁の面粗度等について高レベルの品質が要求される製品では、溶け込み部が内側パイプの内壁まで達することを回避し、溶け込み部の先端が内側パイプの板厚内に位置するように溶け込み深さを調整することが望まれる。
【0006】
しかしながら、薄肉のパイプは、部材が受容できる熱容量が小さく、かつ、溶接時の部材の温度が環境温度に影響されやすい。そのため、溶け込み部の温度が安定せず、照射するレーザのエネルギ値および照射時間の制御だけで溶け込み深さを正確に制御することが困難である。溶け込み深さが深いと、溶け込み部の先端が内側パイプの内壁まで貫通する「突き抜け」不良が生じるおそれがある。また、「突き抜け」に伴って内側のパイプの内壁にスパッタが発生するおそれがある。このように、溶接品質が劣悪となるという問題がある。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、金属製薄肉パイプの重ね合わせ溶接において溶け込み深さを安定させ溶接品質を向上するレーザ溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、金属製の第1パイプと、第1パイプの径外方向に嵌合する金属製の第2パイプとを周方向に沿って溶接しパイプ接合体を形成するレーザ溶接方法である。このレーザ溶接方法は、不活性ガス注入工程および溶接工程を含む。
不活性ガス注入工程では、第1パイプの内側に不活性ガスを注入するとともに第1パイプの内側の空気を外側へ排出する。
溶接工程では、「被照射側部材」である第2パイプの径外方向からレーザ照射し、溶け込み部の先端が「被溶融側部材」である第1パイプの板厚内に位置するように溶け込み深さを調整して金属を溶け込ませる。
【0009】
第1パイプの内側に酸素が存在すると、レーザ照射による熱で第1パイプの内壁の酸化が起こりやすい。それに対し本発明では、第1パイプの内側に不活性ガスを注入することにより第1パイプの内壁の酸化を防止する。また、不活性ガスが第1パイプの内壁を冷却するため溶け込み部の温度が安定する。したがって、溶け込み部の先端が第1パイプの板厚内に位置するように溶け込み深さを正確に制御することができる。よって、突き抜け不良やスパッタの発生を防止し、パイプ接合体の溶接品質を向上することができる。
なお、溶接工程において、例えば第1パイプおよび第2パイプを中心軸の回りに回転させながら溶接を実施することにより、全周均一な溶接が可能となる。
【0010】
請求項2に記載の発明では、不活性ガス注入工程において、第1パイプまたは第2パイプの不活性ガス注入側と反対側の端部に不活性ガスの流出を抑える閉塞部材を当接させる。
第1パイプまたは第2パイプの不活性ガス注入側と反対側の端部が開放していると、注入された不活性ガスのうち、第1パイプの内側に滞留せずにそのまま流出する不活性ガスの割合が高くなる。そこで、不活性ガス注入側と反対側の端部を閉塞することにより、不活性ガスを第1パイプの内側に効率的に滞留させることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、閉塞部材は、不活性ガスの注入に伴い空気を排出するための空気抜き穴を有する。
これにより、第1パイプの内側にあった空気を短時間で効率よく不活性ガスに置換することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、溶接工程で溶接された箇所を冷却する冷却工程をさらに含む。
溶接工程後も、溶接箇所の温度が比較的高い期間は、酸素が触れると酸化しやすい状態が続く。冷却工程によって溶接箇所の温度を迅速に低下させることで、第1パイプの内壁の酸化をより確実に防止することができる。
【0013】
請求項5に記載の発明では、不活性ガス注入工程に加え、溶接工程においても不活性ガスを注入する。さらに、請求項6に記載の発明では、不活性ガス注入工程から冷却工程まで継続して不活性ガスを注入する。
不活性ガスを溶接工程後も続けて注入することで、冷却工程専用に別の冷却ガス等を使用する必要がなく、冷却工程を効率的に実施することができる。
請求項7に記載の発明では、注入される不活性ガスの温度は大気温度よりも低い。
これにより、冷却効果が一層向上し、冷却時間を短縮することができる。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項1に記載の発明における不活性ガス注入工程および溶接工程に代えて低圧溶接工程を含む。低圧溶接工程では、第1パイプの内側を大気圧より低圧とし、「被照射側部材」である第2パイプの径外方向からレーザ照射し、溶け込み部の先端が「被溶融側部材」である第1パイプの板厚内に位置するように溶け込み深さを調整して金属を溶け込ませる。請求項9に記載の発明は、低圧溶接工程で溶接された箇所を冷却する冷却工程をさらに含む。
【0015】
第1パイプの内側を大気圧より低圧とすることにより、第1パイプの内側は、酸素濃度が大気中よりも低い「希酸素状態」となるため、第1パイプの内壁の酸化を抑制することができる。したがって、不活性ガスを注入する方法よりも簡易的に溶け込み深さを調整することができる。また、冷却工程によって溶接箇所の温度を迅速に低下させることで、第1パイプの内壁の酸化をより確実に防止することができる。
【0016】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9に記載のレーザ溶接方法によって形成されるパイプ接合体に係る発明である。このパイプ接合体は、第1パイプの内壁が溶接前の金属光沢を維持する。「溶接前の金属光沢を維持する」とは、「焼け」または酸化による変色が無いことを意味する。すなわち、請求項1〜9に記載のレーザ溶接方法によると、溶け込み部の温度が安定し、溶け込み部の先端が第1パイプの板厚内に位置するように溶け込み深さを正確に制御することができるため、第1パイプの内壁は焼けたり酸化したりすることがない。
したがって、第1パイプの内壁を観察することにより、請求項1〜9に記載のレーザ溶接方法によって形成されたパイプ接合体であることを判定することができる。
【0017】
請求項11に記載の発明は、内燃機関の燃料噴射装置に用いられる燃料噴射弁に係る発明である。この燃料噴射弁は、燃料を噴射する噴射ノズル、噴射ノズルに連通する燃料通路を形成する燃料通路部材、燃料通路部材の内側に往復移動可能に収容され噴射ノズルを開放または閉塞する弁部材、及び、弁部材を駆動する駆動部を備える。
燃料通路部材は、請求項1〜9のいずれか一項に記載のレーザ溶接方法における第1パイプとして溶接される。そして、燃料通路部材の内壁が溶接前の金属光沢を維持する。
【0018】
この場合、第1パイプである燃料通路部材と嵌合し溶接される第2パイプとして、例えば、コイルを収容するホルダが相当する。第1パイプとしての燃料通路部材は、高圧燃料の流動抵抗を低減するため、また、高圧の燃料流により内壁から剥離する異物が燃料に混入することを防ぐため、内壁の面粗度等について高レベルの品質が要求される。したがって、本発明のレーザ溶接方法が燃料噴射弁の燃料通路部材に適用されると、特に大きな効果が得られる。
【0019】
また、この燃料噴射弁は、燃料通路部材の内壁が溶接前の金属光沢を維持する。「溶接前の金属光沢を維持する」とは、「焼け」または酸化による変色が無いことを意味する。すなわち、この燃料噴射弁の燃料通路部材は、本発明のレーザ溶接方法における第1パイプとして溶接されるため、溶け込み部の温度が安定し、溶け込み部の先端が燃料通路部材の板厚内に位置するように溶け込み深さを正確に制御することができる。そのため、燃料通路部材の内壁は焼けたり酸化したりすることがない。よって、燃料通路部材の内壁を観察することにより、本発明のレーザ溶接方法を適用して製造された燃料噴射弁であることを判定することができる。
【0020】
ところで、本発明のレーザ溶接方法は、例えば、燃料噴射弁の先端に設けられる噴射ノズルと、噴射ノズルの径外側に嵌合する燃料通路部材との溶接に適用することもできる。この場合、噴射ノズルが第1パイプに相当し、燃料通路部材が第2パイプに相当する。
このように噴射ノズルが第1パイプに相当する場合でも上記と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態によるレーザ溶接方法を示す模式図である。
【図2】(a):図1の要部拡大図である。(b):比較例のレーザ溶接方法を示す要部拡大図である。
【図3】本発明の第2実施形態によるレーザ溶接方法を示す模式図である。
【図4】(a):本発明の第3実施形態による燃料噴射弁のハウジングアセンブリを示す模式図である。(b):(a)の先端部拡大図である。
【図5】燃料噴射弁の要部を示す模式図である。
【図6】本発明の第4実施形態による燃料噴射弁のハウジングアセンブリを示す模式図である。
【図7】本発明のその他の実施形態によるレーザ溶接方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態によるレーザ溶接方法について図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態によるレーザ溶接方法は、図1に示すように、金属製の第1パイプ11と、第1パイプの径外方向に嵌合する金属製の第2パイプ12とを溶接してパイプ接合体10を形成する方法である。第1パイプ11は「被溶融側部材」に相当し、第2パイプ12は「被照射側部材」に相当する。なお、以下の説明では、図1の上側を上、図1の下側を下として説明する。
【0023】
第1パイプ11は、下端面11bが平板状のガス滞留用治具23に当接して置かれる。ガス滞留用治具23は、特許請求の範囲に記載の「閉塞部材」に相当する。
第2パイプ12は、長さが第1パイプ11とほぼ等しく、内径が第1パイプ11の外径よりわずかに大きい。第2パイプ12は、第1パイプ11の径外方向に嵌合している。ガス滞留用治具23は、回転台29の上に設置される。回転台29の回転軸Zは、第1パイプ11の中心軸に略一致している。
ガス注入ノズル21は、先端が第1パイプ11の上側の開口11aに挿入される。
【0024】
レーザ溶接方法は、不活性ガス注入工程、溶接工程、及び、冷却工程を含む。
不活性ガス注入工程では、ガス注入ノズル21のノズル孔21aから第1パイプ11の内側に不活性ガスG1を注入する。このとき、第1パイプ11の内部にあった空気G0は、開口11aから排出される。不活性ガスG1は、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等である。
【0025】
溶接工程では、回転台29およびガス滞留用治具23を所定の速度で回転軸Zの回りに回転させ、それに伴って第1パイプ11および第2パイプ12を中心軸の回りに回転させる。そして、第1パイプ11および第2パイプ12を回転させながら、レーザ照射ヘッド51から第2パイプ12の外周にレーザ光Lを照射し、第2パイプ12から第1パイプ11へ金属を溶け込ませる。このとき、溶け込み部15の先端が第1パイプ11の板厚内に位置するようにレーザ照射のエネルギ値および照射時間を調整する。
冷却工程では、不活性ガス注入工程から継続して注入される不活性ガスG1によって、溶接工程で溶接された箇所を冷却する。なお、不活性ガスG1の温度は大気温度よりも低いため、冷却効率がよく、冷却時間を短縮することができる。
【0026】
(効果)
次に、図2(a)を参照して本発明の実施形態によるレーザ溶接方法の効果を説明する。
第1パイプ11の内側に不活性ガスを注入することにより第1パイプ11の内壁の酸化を防止する。また、不活性ガスが第1パイプ11の内壁を冷却するため、溶け込み部15の温度が安定する。したがって、溶け込み部の先端が第1パイプ11の板厚内に位置するように溶け込み深さDmや溶け込み幅Wmを正確に制御することができる。よって、突き抜け不良やスパッタの発生を防止し、パイプ接合体10の溶接品質を向上することができる。
【0027】
また、第1実施形態によるレーザ溶接方法では、被溶融側部材である第1パイプ11の内壁が焼けたり酸化したりすることがなく、溶接前の金属光沢を維持している。したがって、第1パイプ11の内壁を観察することにより、本発明のレーザ溶接方法によって製造されたパイプ接合体10であることを判定することができる。
【0028】
(比較例)
次に、比較例のレーザ溶接方法を説明する。
図2(b)に示すように、比較例のパイプ接合体60は大気中でレーザ溶接される。第1パイプ61の内側には酸素が存在し、レーザ照射による熱で第1パイプ61の内壁の酸化が起こりやすくなっている。また、第1パイプ61の内壁が冷却されないため、溶け込み部65の温度は上昇し続ける。そのため、溶け込み部の温度が安定せず、照射するレーザのエネルギ値および照射時間の制御だけで溶け込み深さを正確に制御することが困難である。溶け込み深さが深いと、溶け込み部65の先端が第1パイプ61の内壁まで貫通する「突き抜け」不良が生じたり、「突き抜け」に伴って第1パイプ61の内壁にスパッタ66が発生したりするため、パイプ接合体60の溶接品質が劣悪となる。
【0029】
(第2実施形態)
続いて、本発明の第2実施形態を図3に基づいて説明する。なお、第1実施形態と実質的に同一の部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
第2実施形態では、閉塞部材として空気抜き孔24aを有するガス滞留用治具24が用いられる。これにより、第1パイプ11の内部にあった空気G0は、ガス注入ノズル21から不活性ガスG1が注入されるのに伴い空気抜き孔24aから排出される。よって、空気G0を短時間で効率よく不活性ガスG1に置換することができる。
【0030】
(第3実施形態)
次に、本発明のレーザ溶接方法を燃料噴射弁に適用した実施形態を図4に基づいて説明する。図4に示すハウジングアセンブリ30は、燃料噴射弁の中間製造物である。
ここで、まず、完成品である燃料噴射弁の要部について図5に基づいて説明する。燃料噴射弁40は、自動車等の内燃機関の燃料噴射装置に用いられる。燃料噴射弁40の要部は、案内パイプ32、コイル35、噴射ノズル41、弁部材43、可動コア44、固定コア45、アジャスティングパイプ46およびスプリング47等から構成される。
【0031】
案内パイプ32は、第1磁性部32a、非磁性部32b、第2磁性部32cから構成される。第1磁性部32a、非磁性部32b、第2磁性部32cは、図5の下側から、この順で配列される。第1磁性部32aおよび第2磁性部32cは、可動コア44、固定コア45と磁気回路を構成する。非磁性部材32bは、第1磁性部材32aと第2磁性部材32cとの間で磁束が短絡することを防ぐ。
コイル35は、非磁性部32bおよび第2磁性部32cの外側に設けられ、通電されて磁界を発生する。
【0032】
噴射ノズル41は、案内パイプ32の先端(図5の下方)に設けられている。噴射ノズル41は有底円筒状で、先端に噴孔41bを有している。
カップ状の噴孔プレート42は噴射ノズル41の外周壁に溶接により固定されている。
【0033】
弁部材43は有底円筒状の中空である。弁部材43は、先端面43aが噴射ノズル41の底面に設けられる弁座41cに着座可能である。また、弁部材43は、側壁を貫通する燃料孔43bを有している。弁部材43内に流入した燃料は、燃料孔43bを内側から外側に通過する。
【0034】
可動コア44は、弁部材43の噴射ノズル41と反対側に溶接等により接合され、弁部材43と一体に往復移動可能である。固定コア45は、可動コア44に対し噴射ノズル41と反対側であって案内パイプ32の非磁性部32bおよび第2磁性部32cの内側に、溶接または圧入により固定されている。
【0035】
スプリング47は、一端がアジャスティングパイプ46に当接し、他端が可動コア44に当接している。スプリング47は、可動コア44および弁部材43を、弁部材43が弁座41cに着座する方向(図5の下方向)に付勢している。アジャスティングパイプ46は、軸方向の設置位置を変更することでスプリング47の荷重を調節可能である。
【0036】
続いて、燃料噴射弁40の作動について説明する。
コイル35に通電されると、可動コア44は固定コア45に吸引される。これにより、弁部材43は、可能コア44と一体に図5の上方へ移動し、弁座41cから離座する。なお、図5は、燃料噴射弁40の開弁状態を示している。
図5の上方から燃料通路48に流入した燃料は、弁部材43内の内側から燃料孔43bを通過し、さらに弁部材43の先端面43aと弁座41cとの間の空間を経由して、噴孔41bから噴射される。
一方、コイル35への通電がオフされると、弁部材43が弁座41cに着座し、燃料噴射弁40が閉弁する。よって、燃料噴射が遮断される。
コイル35、可動コア44および固定コア45は、特許請求の範囲に記載の「駆動部」に相当する。
【0037】
次に、図4に戻り、本発明のレーザ溶接方法が適用されるハウジングアセンブリについて説明する。ハウジングアセンブリ30は、パイプアセンブリ31、ホルダ34、コイル35、ハウジングプレート36、樹脂モールド部37、電気コネクタ38等から構成されている。
【0038】
パイプアセンブリ31は、案内パイプ32と流入パイプ33とが一体に形成されている。案内パイプ32および流入パイプ33は、板厚が約0.35mmのステンレス製パイプである。案内パイプ32は直管状で、外径が約6mm、内径が約5.3mmである。流入パイプ33は、燃料の流入側の端部が広がっている。案内パイプ32および流入パイプ33は、高圧燃料の流路を構成する。
案内パイプ32、及び、案内パイプ32を含むパイプアセンブリ31は、特許請求の範囲に記載の「燃料通路部材」に相当する。
【0039】
ホルダ34は、案内パイプ32の径外方向にコイル35を収容する。ホルダ34の嵌合部34aは、案内パイプ32の外壁に嵌合する。
電気コネクタ38のターミナル38aには、コイル35へ通電する電流が接続される。
【0040】
パイプアセンブリ31、ホルダ34、コイル35、ハウジングプレート36、電気コネクタ38は、樹脂モールド部37の射出成形において金型にインサートされて一体成形される。このインサート成形後の段階では、ホルダ34と案内パイプ32とは嵌合しているのみで、まだ接合されていない。
【0041】
この後、「ホルダ34を案内パイプ32に溶接する工程」、及び、「案内パイプ32の先端に噴射ノズル41を溶接する工程」を実施する。この2箇所の溶接工程の順番は、いずれの溶接工程が先でもよい。第3実施形態では、「案内パイプ32の先端に噴射ノズル41を溶接する工程」を先に実施する例を説明する。
【0042】
図4に示すように、まず、案内パイプ32に噴射ノズル41を嵌合させる。その後、不活性ガス注入工程および溶接工程を実施する。噴射ノズル41は、嵌合部41aが案内パイプ32の先端部の内壁に嵌合する。噴射ノズル41は、先端に噴射孔41bを有する。噴射ノズル41は、特許請求の範囲に記載の「閉塞部材」に相当する。
【0043】
不活性ガス注入工程では、パイプアセンブリ31の流入パイプ33の口元に当接させたガス注入ノズル21から不活性ガスG1が注入されるとともに、パイプアセンブリ31の内側にあった空気G0が噴射孔41bから排出される。すなわち、噴射ノズル41の噴射孔41bは、閉塞部材の空気抜き孔として機能する。
【0044】
パイプアセンブリ31の内側の空気を不活性ガスG1に置換した後、ハウジングアセンブリ30および噴射ノズル41を中心軸の回りに回転させながら、レーザ照射ヘッド51からレーザ光Lを「被照射側部材」である案内パイプ32の外周に照射し、案内パイプ32から「被溶融側部材」である噴射ノズル41の嵌合部41aへ金属を溶け込ませる。このとき、溶け込み部16の先端が噴射孔41aの板厚内に位置するようにレーザ照射のエネルギ値および照射時間を調整する。
【0045】
続いて、同様にレーザ照射ヘッド51からレーザ光Lを「被照射側部材」であるホルダ34の嵌合部34aの外周に照射し、嵌合部34aから「被溶融側部材」である案内パイプ32へ金属を溶け込ませる。このとき、溶け込み部15の先端が案内パイプ32の板厚内に位置するようにレーザ照射のエネルギ値および照射時間を調整する。
不活性ガスG1は、不活性ガス注入工程から継続して溶接工程の後まで注入される。溶接工程で溶接された箇所は、不活性ガスG1によって冷却される。
【0046】
第3実施形態では、第1、第2実施形態と同様の効果を奏する。
燃料噴射弁40は、案内パイプ32および噴射ノズル41の内側に高圧燃料が流れる。高圧燃料の流動抵抗を低減するため、また、高圧の燃料流により内壁から剥離する異物が燃料に混入することを防ぐため、内壁の面粗度等について高レベルの品質が要求される。したがって、本発明のレーザ溶接方法が燃料噴射弁のハウジングアセンブリに適用されると特に大きな効果が得られる。
【0047】
また、第3実施形態による燃料噴射弁のハウジングアセンブリは、溶接工程において被溶融側部材である案内パイプ32または噴射ノズル41の内壁が焼けたり酸化したりすることがなく、溶接前の金属光沢を維持している。したがって、案内パイプ32または噴射ノズル41の内壁を観察することにより、本発明のレーザ溶接方法を適用して製造された燃料噴射弁であることを判定することができる。
【0048】
(第4実施形態)
第4実施形態は、本発明のレーザ溶接方法を燃料噴射弁に適用した別の実施形態である。第4実施形態では、図6に示すように、ハウジングアセンブリ30の案内パイプ32の先端に、空気抜き孔24aを有するガス滞留用治具24を当接させ、不活性ガス注入工程、及び、「ホルダ34と案内パイプ32との溶接工程」を実施する。
【0049】
この場合、不活性ガス注入工程では、パイプアセンブリ31の流入パイプ33の口元に当接させたガス注入ノズル21から不活性ガスG1が注入されるとともに、パイプアセンブリ31の内側にあった空気G0が空気抜き孔24aから排出される。続いて、ホルダ34と案内パイプ32との溶接工程および冷却工程が第3実施形態と同様に実施される。
こうしてハウジングアセンブリ30として完成した後、「案内パイプ32と噴射ノズル41との溶接工程」は、別工程で実施される。
第4実施形態では、第3実施形態と同様の効果を奏する。
【0050】
(その他の実施形態)
(ア)図7に示すレーザ溶接方法は、上記の実施形態の不活性ガス注入工程および溶接工程に代えて低圧溶接工程を含む。低圧溶接工程では、第1パイプ11の内側を大気圧より低圧とする。この実施形態では、第1パイプ11の上端の開口11aに真空ノズル22が装着される。真空ノズル22は、図示しない真空ポンプに接続されている。真空ノズル22は、気密のため、第1パイプ11の内壁に当接するOリング22bを設けている。第1パイプ11の下端の開口は閉塞治具25によって閉塞される。
【0051】
真空ポンプの作動によって真空ノズル22が第1パイプ11の内側の空気G0を吸引することで、第1パイプ11の内側は、大気圧より低圧となる。これにより、第1パイプ11の内側は、酸素濃度が大気中よりも低い「希酸素状態」となり、第1パイプ11の内壁の酸化を抑制することができる。
なお、この場合、不活性ガスG1による冷却効果が得られない。そこで、別途冷却ガス等を使用するか、自然冷却の場合は溶接箇所が充分に冷却するまで「希酸素状態」を維持することが好ましい。
【0052】
(イ)不活性ガス注入工程を含む実施形態においても、溶接工程後まで不活性ガスG1の注入を継続せず、自然冷却によって溶接箇所を冷却してもよい。
(ウ)上記の実施形態では、鉛直方向に設置されるパイプに対して不活性ガスG1が天方向から注入され、また、レーザ光Lが水平方向から照射される。しかし、不活性ガスの注入方向およびレーザ照射方向はこれに限定されない。例えば、水平方向に設置されるパイプに対して、レーザ光がパイプの軸と直交する方向から照射されてもよい。
【0053】
(エ)上記の実施形態では、大気中に置かれるパイプに対して不活性ガスG1を注入する。その他、例えば搬送ロボットによって不活性ガスが充満した部屋内にパイプを置き、溶接工程を実施してもよい。この場合は、不活性ガスが充満した部屋にパイプを置くこと自体が「不活性ガス注入工程」に相当する。
【0054】
(オ)上記の実施形態では、溶接工程において、レーザ照射ヘッド51が固定され、第1パイプおよび第2パイプが中心軸の回りに回転する。その他、固定された第1パイプおよび第2パイプの周囲をレーザ照射ヘッドが回転し、溶接工程が実施されてもよい。
(カ)第1パイプおよび第2パイプとレーザ照射ヘッドとの相対回転中、レーザ光が連続して照射されてパイプの全周を均一に溶接する実施形態に限らず、断続的に照射されて「点溶接」されてもよい。
【0055】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 ・・・パイプ接合体
11 ・・・第1パイプ
12 ・・・第2パイプ
15、16 ・・・溶け込み部
21 ・・・ガス注入ノズル
23、24 ・・・ガス滞留用治具(閉塞部材)
24a ・・・空気抜き孔
30 ・・・(燃料噴射弁の)ハウジングアセンブリ
31 ・・・パイプアセンブリ(燃料通路部材)
32 ・・・案内パイプ(燃料通路部材)
33 ・・・流入パイプ
34 ・・・ホルダ
34a ・・・嵌合部
40 ・・・燃料噴射弁
41 ・・・噴射ノズル(閉塞部材)
41a ・・・嵌合部
41b ・・・噴射孔(空気抜き孔)
43 ・・・弁部材
51 ・・・レーザ照射ヘッド
66 ・・・スパッタ
G0 ・・・空気
G1 ・・・不活性ガス
L ・・・レーザ光
Dm ・・・溶け込み深さ
Wm ・・・溶け込み幅
Z ・・・回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の第1パイプと、前記第1パイプの径外側に嵌合する金属製の第2パイプとを周方向に沿って溶接しパイプ接合体を形成するレーザ溶接方法であって、
金属製の第1パイプの内側に不活性ガスを注入するとともに前記第1パイプの内側の空気を外側へ排出する不活性ガス注入工程と、
前記第2パイプの径外方向からレーザ照射し、溶け込み部の先端が前記第1パイプの板厚内に位置するように溶け込み深さを調整して金属を溶け込ませる溶接工程と、
を含むことを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項2】
前記不活性ガス注入工程において、
前記第1パイプまたは前記第2パイプの不活性ガス注入側と反対側の端部に不活性ガスの流出を抑える閉塞部材を当接させることを特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項3】
前記閉塞部材は、不活性ガスの注入に伴い空気を排出するための空気抜き穴を有することを特徴とする請求項2に記載のレーザ溶接方法。
【請求項4】
前記溶接工程で溶接された箇所を冷却する冷却工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザ溶接方法。
【請求項5】
前記溶接工程において不活性ガスを注入することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザ溶接方法。
【請求項6】
前記不活性ガス注入工程から前記冷却工程まで継続して不活性ガスを注入することを特徴とする請求項5に記載のレーザ溶接方法。
【請求項7】
注入される不活性ガスの温度は大気温度よりも低いことを特徴とする請求項6に記載のレーザ溶接方法。
【請求項8】
金属製の第1パイプと、前記第1パイプの径外側に嵌合する金属製の第2パイプとを周方向に沿って溶接しパイプ接合体を形成するレーザ溶接方法であって、
金属性の第1パイプの内側を大気圧より低圧とし、前記第2パイプの径外方向からレーザ照射し、溶け込み部の先端が前記第1パイプの板厚内に位置するように溶け込み深さを調整して金属を溶け込ませる低圧溶接工程と、
を含むことを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項9】
前記低圧溶接工程で溶接された箇所を冷却する冷却工程をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載のレーザ溶接方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のレーザ溶接方法によって形成され、
前記第1パイプの内壁が溶接前の金属光沢を維持することを特徴とするパイプ接合体。
【請求項11】
内燃機関の燃料噴射装置に用いられる燃料噴射弁であって、
燃料を噴射する噴射ノズルと、
前記噴射ノズルに連通する燃料通路を形成する燃料通路部材と、
前記燃料通路部材の内側に往復移動可能に収容され前記噴射ノズルを開放または閉塞する弁部材と、
前記弁部材を駆動する駆動部と、
を備え、
前記燃料通路部材は、請求項1〜9のいずれか一項に記載のレーザ溶接方法における前記第1パイプとして溶接され、
前記燃料通路部材の内壁が溶接前の金属光沢を維持することを特徴とする燃料噴射弁。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−240390(P2011−240390A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116253(P2010−116253)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】