説明

レーザ穿刺装置のレーザ照射方法

【課題】傷跡が残らず、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を可能にするレーザ穿刺装置のレーザ照射方法を提供する。
【解決手段】左側のレーザパルス光L1が表皮を穿刺するためのレーザパルス光であり、右側のレーザパルス光L2が真皮を穿刺するためのレーザパルス光である。表皮を穿刺するためのレーザパルス光L1の全時間幅T1は100〜400μsであり、真皮を穿刺するためのレーザパルス光L2の全時間幅T3は50〜300μsが好ましく、各レーザパルス光L1,L2の全時間幅T1,T3の差(T1−T3)は50〜200μsが好ましい。また、レーザパルス光エネルギーは、二つのレーザパルス光L1,L2が単位面積(1cm2)に照射したエネルギーの合計が100〜300Jであることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の皮膚をレーザ光で穿刺するレーザ穿刺装置のレーザ照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図9は、従来のレーザ穿刺装置であり、101が共振器、102が本体、103がコントローラ(電源)、104がレンズフード、105が集光レンズ、106が台、107が被採血者の指、108が係止体である。共振器101が発振するレーザ光は、レーザ波長が1.5〜3μmのパルス光で、パルス光の幅が100〜300μsであり、パルス光エネルギーが1〜1.5Jである。
【0003】
レーザ光はレンズフード104に納められた集光レンズ105で集光され、指107の皮膚上で集光径が0.5〜3mmとなるようにしてある。被採血者は、指107を台106の上に置き、係止体108に押し当てて位置を固定する。共振器101は、コントローラ103からの電力でレーザ光を発振する。レーザ光は集光レンズ105で集光されて、指107の皮膚に微小な傷を付ける。そしてその傷から、血を滲み出させて採血を行っている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平04−314428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のレーザ穿刺装置のレーザ照射条件では、レーザ光の集光径が0.5mm以上と大きく傷跡が一週間以上残ってしまう場合がある。また、皮膚の厚さや水分量には個人差があるが、一発のレーザ光パルスで確実に穿刺を行ない安定して採血を行なうため、結果として、必要以上のレーザ光エネルギーを照射することになっていた。このため、皮膚の穿刺深さが深すぎるため痛みが強くなる場合があった。
【0006】
発明者による検討の結果、傷痕が残らないレーザ光の集光径は、0.15mm以下であり、望ましくは0.1mm以下であることが分かった。また、発明者は、採血に必要なレーザ光エネルギーの個人差が、集光径0.5mm(従来)では約二倍近くあったのに対して、集光径0.15mm以下では10数パーセント程度と小さくなることを見出した。さらに、発明者は、採血に必要なレーザ光エネルギーも、集光径が0.15mm以下では数十mJ程度と非常に小さいエネルギーで可能であることを見出した。
【0007】
発明者は、レーザ穿刺による皮膚からの採血を詳細に検討した結果、次のことを見出した。図10は皮膚の概略図である。皮膚は外側から表皮、真皮の順で構成されており、採血を行うためには、真皮にある真皮乳頭内の毛細血管を傷つける必要がある。しかし真皮乳頭の近傍には、痛みを検知する自由神経終末も存在している。表皮は、再表面の角質層を始め5種類の層から構成されている。
【0008】
一般に、採血は指先または手のひらの皮膚から行われる。これは、例えば糖尿病患者の血糖値を測定する上で、指先や手のひらの毛細血管中の血糖値が、最も時間遅れなく測定できるからである。最も一般的な採血箇所である指先は表皮、特に角質層が厚く1〜1.5mmの厚さがあると言われている。また、角質層は細胞の死骸であり、毛細血管のある真皮の真皮乳頭などの細胞組織とは様子が異なる。
【0009】
発明者は、レーザ穿刺時の皮膚の深さ方向の形状を観測したところ、例えば断面が丸いレーザ集光パターンを表面に照射すると、角質層を主体とする表皮ではほぼ円柱状の断面形状であり、真皮では円錐状の断面形状となることを発見した。
【0010】
痛みが少ないレーザ照射方法を実現するには、この真皮での円錐状レーザ穿刺の断面形状の深さを必要最小限に制御することが重要である。深すぎると自由神経終末を刺激し痛みを感じさせる確率が高くなり、また必要以上の出血をさせてしまう。また、真皮を深く穿刺すると真皮組織をレーザ光エネルギーの光吸収による加熱と蒸発の反作用として、蒸発と反対方向への衝撃波(粗密波)を発生してしまい、これも一種の痛みとなってしまう。
【0011】
本発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたものであって、傷跡が残らず、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を可能にするレーザ穿刺装置のレーザ照射方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、表皮をレーザ穿刺するためのレーザ照射条件と、真皮をレーザ穿刺するレーザ照射条件とを異ならせ、異なるレーザパルス光エネルギーで複数回に分けて照射することで、安定した採血と痛みの少ないレーザ穿刺を実現するものである。
【0013】
具体的には、表皮を穿刺する第一のレーザパルス光は、真皮を穿刺する第二のレーザパルス光と比較して、その時間幅が同じかあるいは長く、レーザ光エネルギーを大きくする。ここで、表皮を穿刺するレーザパルス光をさらに複数回に分けることも、安定した採血に有効である。この場合は、表皮を穿刺するレーザパルス光と、真皮を穿刺するレーザパルス光の照射条件は、個々のレーザパルス光として比較した際に、同等か、真皮を穿刺するレーザパルス光の方が時間幅が長く、レーザ光エネルギーが大きい場合もある。
【0014】
また、本発明に係るレーザ照射方法は、表皮と真皮を含む皮膚にレーザパルス光を照射することによりレーザ穿刺を行なうレーザ照射方法であって、前記表皮を穿刺するためのレーザパルス光を照射するステップと、前記表皮の穿刺箇所に、前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光を照射するステップとを有する。
【0015】
上記構成によれば、真皮を穿刺するためのレーザパルス光が、表皮を穿刺するためのレーザパルス光と同一位置に照射され、真皮にすり鉢状の穿刺孔を形成するため、真皮を深く穿刺することがなく、傷跡が残らず、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を行なうことができる。
【0016】
また、本発明に係るレーザ照射方法は、前記表皮を穿刺するためのレーザパルス光は、前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光より、その時間幅が同じあるいは長く、そのエネルギーが大きいものである。
【0017】
上記構成によれば、真皮でのレーザ穿刺の断面形状の深さを必要最小限に制御することができ、傷跡が残らず、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を行なうことができる。
【0018】
また、本発明に係るレーザ照射方法は、前記表皮を穿刺するためのレーザパルス光の時間幅が、100〜400μsであり、前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光の時間幅が、50〜300μsであるものである。
【0019】
上記構成によれば、真皮を深く穿刺することがないため、傷跡が残らず、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を行なうことができる。
【0020】
また、本発明に係るレーザ照射方法は、前記表皮を穿刺するためのレーザパルス光の時間幅と、前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光の時間幅との差が、50〜200μsであるものである。
【0021】
上記構成によれば、被採血者は一回の穿刺と知覚するため、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を行なうことができる。
【0022】
また、本発明に係るレーザ照射方法は、前記表皮を穿刺するためのレーザパルス光と、前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光との照射間隔が、500ms以下であるものである。
【0023】
上記構成によれば、被採血者は一回の穿刺と知覚するため、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を行なうことができる。
【0024】
また、本発明に係るレーザ照射方法は、前記表皮を穿刺するためのレーザパルス光と、前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光とが照射するエネルギーの合計が、1平方センチメートル当たり100〜300Jであるものである。
【0025】
上記構成によれば、採血のためのレーザパルス光を最小限のエネルギーとすることができ、傷跡が残らず、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を行なうことができる。
【0026】
また、本発明に係るレーザ照射方法は、前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光のエネルギーが、前記表皮を穿刺するためのレーザパルス光と前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光とのエネルギーの合計の10〜40%であるものである。
【0027】
上記構成によれば、真皮での円錐状レーザ穿刺の断面形状の深さを必要最小限に制御することができ、傷跡が残らず、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を行なうことができる。
【0028】
また、本発明に係るレーザ照射方法は、前記レーザパルス光の集光径が、0.15mm以下であるものである。
【0029】
上記構成によれば、採血に必要なレーザパルス光のエネルギーの個人差を小さくすることができ、傷跡が残らず、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を行なうことができる。
【0030】
また、本発明に係るレーザ照射方法は、前記表皮を穿刺するためのレーザパルス光が、複数のレーザパルス光を含むものである。
【0031】
上記構成によれば、皮膚の厚さや水分量等による個人差に応じて、表皮を穿刺するためのレーザパルス光を細かく制御できるので、傷跡が残らず、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を行なうことができる。
【0032】
また、本発明に係るレーザ照射方法は、前記表皮を穿刺するための前記複数のレーザパルス光のそれぞれの時間幅が、100〜400μsであるものである。
【0033】
上記構成によれば、被採血者は一回の穿刺と知覚するため、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を行なうことができる。
【0034】
また、本発明に係るレーザ照射方法は、前記表皮を穿刺するための前記複数のレーザパルス光の間隔が、500ms以下であるものである。
【0035】
上記構成によれば、被採血者は一回の穿刺と知覚するため、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を行なうことができる。
【0036】
また、本発明に係るレーザ照射方法は、前記表皮を穿刺するための複数のレーザパルス光と、前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光とが照射するエネルギーの合計が、1平方センチメートル当たり5〜100Jであるものである。
【0037】
上記構成によれば、採血のためのレーザパルス光を最小限のエネルギーとすることができ、傷跡が残らず、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を行なうことができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、真皮を穿刺するためのレーザパルス光が、表皮を穿刺するためのレーザパルス光と同一位置に照射され、真皮にすり鉢状の穿刺孔を形成するため、真皮を深く穿刺することがなく、傷跡が残らず、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の一実施形態として、レーザ穿刺装置によって、生体の皮膚をレーザ光で穿刺(レーザ穿刺)するレーザ照射方法について説明する。まずレーザ照射方法を説明した後、装置について説明する。
【0040】
図1は、本発明の実施形態にかかるレーザ穿刺装置のレーザ照射条件の概略図である。同図において横軸は時間であり、縦軸がレーザ光強度である。左側のレーザパルス光L1が表皮を穿刺するためのレーザパルス光であり、右側のレーザパルス光L2が真皮を穿刺するためのレーザパルス光である。
【0041】
表皮を穿刺するためのレーザパルス光L1の全時間幅T1は100〜400μsである。真皮を穿刺するためのレーザパルス光L2の全時間幅T3は50〜300μsが好ましい。各レーザパルス光L1,L2の全時間幅T1,T3の差(T1−T3)は50〜200μsが好ましい。なお、レーザパルス光L1とレーザパルス光L2の間隔T2は、短ければ短いほど良く、500ms以下が望ましく1ms以下がさらに望ましい。
【0042】
レーザパルス光エネルギーは、二つのレーザパルス光L1,L2が単位面積(1cm2)に照射したエネルギーの合計が100〜300Jであることが望ましい。例えば、照射面積が直径0.1mm(=0.01cm)であったとすると、面積は7.85×10-5cm2 (=0.005×0.005×π)となり、これに照射単位面積あたりのエネルギー密度100〜300J/cm2を掛け、7.85×10-5cm2×100〜300J/cm2=7.85〜23.6mJが、レーザパルス光L1,L2全体のエネルギーとなる。
【0043】
また、真皮を穿刺するためのレーザパルス光のエネルギーは、表皮を穿刺するためのレーザパルス光のエネルギーと真皮を穿刺するためのレーザパルス光のエネルギーの合計の10〜40%であることが望ましい。すなわち、レーザパルス光L1,L2全体のエネルギーが20mJの場合、真皮を穿刺するためのレーザパルス光L2のエネルギーが全体の10〜40%(2〜8mJ)であることが望ましい。
【0044】
さらに、レーザパルス光の集光径は0.15mm以下であり、望ましくは0.1mm以下である。また、各レーザパルス光L1,L2の時間間隔T2は、短ければ短いほど良く500ms以下であり望ましくは1ms以下である。
【0045】
図2は、本発明の実施形態にかかるレーザ穿刺装置のレーザ照射条件での皮膚の穿刺拡大図である。表皮を穿刺するための第一のレーザパルス光L1を皮膚に照射すると、図2(a)のように表皮に柱状の穿刺孔が形成される。
【0046】
次に、真皮を穿刺するための第二のレーザパルス光L2が第一のレーザパルス光L1と同一位置に照射されると、図2(b)のように真皮にすり鉢状の穿刺孔が形成される。この時真皮内の毛細血管が損傷され血液が滲み出る。滲み出た血液は表皮のレーザ穿刺孔を経由して皮膚上に滲み出る。真皮へのレーザ穿刺深さは0.05〜0.3mmであり、望ましくは0.05〜0.25mmである。
【0047】
図3は、本発明の実施形態にかかる他のレーザ照射条件である。図1に示した表皮を穿刺するための第一のレーザパルス光L1がさらに複数のレーザパルス光L3,L4,L5に分割されている。表皮を穿刺するための各レーザパルス光L3,L4,L5は、それぞれの時間幅T4,T6,T8が100〜400μsである。
【0048】
また、レーザパルス光L3,L4,L5,L6が単位面積(1cm2)に照射したエネルギーの合計は、5〜100J(照射単位面積あたりのエネルギー密度5〜100J/cm2)である。各レーザパルス光L3,L4,L5,L6の時間間隔T5,T7,T9は、短ければ短いほど良く500ms以下であり望ましくは1ms以下である。
【0049】
図4は、本発明の実施形態にかかるレーザ穿刺装置に搭載されるレーザ発振器20の概略図である。レーザ発振器20は、端面にレーザ光共振器用のミラー膜23,24が形成されたレーザロッド25と、レーザを励起するためのフラッシュランプ21、フラッシュランプ21の光を効率良くレーザロッド25に導くためのランプハウス22から構成され、この他に図示していないフラッシュランプ21を動作させるための電源がある。なお、レーザロッド25と二つのミラー膜23,24でレーザ光共振器を構成する。
【0050】
フラッシュランプ21から放出された白色光はランプハウス22内を直接または反射して、レーザロッド25の吸収のある波長がレーザロッド25に吸収され、レーザロッド25の内の活性媒質が励起され反転分布が形成される。自然放出光がレーザロッド25内を伝播しレーザロッド25両端面のミラー膜23,24で反射され光共振器内の固有解であるモードで往復し誘導放出によって増幅され、反射率を若干低めた一方のミラー膜23からレーザ光として取り出される。
【0051】
フラッシュランプ21は、トリガー電極による予備電離によってガラス管内部のXeガスが、コンデンサに充電された高電圧電荷によって放電することによって、白色光を放出する。複数レーザパルス光を発振するには複数回フラッシュランプ21が発光しなければならない。これは、例えば、一旦充電された高電圧電荷を半導体ゲートスイッチ(IGBT)でゲート制御することで複数回発光させる方法や、充電を行いながらゲート制御することで可能となる。ゲート制御パターンを検討することで、各レーザパルス光のパルス数・全時間幅・光エネルギー・パルス間隔を制御可能である。
【0052】
図5は、本発明の実施形態にかかるレーザ穿刺装置1の概略図である。本体内にレーザ発振器20と図示しない電源と、レーザ発振器20のレーザ光軸32上に集光レンズ12が具備される。本体のレーザ光軸32上で集光レンズ12の集光点に開口33が設けられ、ここに指を当ててレーザ穿刺を行うことで指から採血することが可能となる。
【0053】
図6(a)は、本発明の実施形態にかかるレーザ穿刺装置1の上面図であり、図6(b)は、その内部構造を示す概略の断面図である。レーザ穿刺装置1は、本体2と、動作電源を含むレーザ発振器9と、集光レンズ12と、穿刺アダプター7と、制御基板11と、電池10と、動作スイッチ5と、設定ボタン4と、ディスプレー3とから構成され、電池10と制御基板11およびレーザ発振器9、制御基板11とレーザ発振器9、設定ボタン4、ディスプレー3および動作スイッチ5は、電気的および信号的に接続されている。
【0054】
図7は、本発明の実施形態のレーザ穿刺装置1における穿刺アダプター7の概略図である。穿刺アダプター7は、中空体13をベースとした形状であり、種々のプラスチック材料が利用可能であり、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PPB)、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂などである。望ましくは、プラスチック表面のゼータ電位が低い材料が良い。
【0055】
本体側の開口には集光レンズ保護フィルム6が装着されている。この集光レンズ保護フィルム6は、レーザ穿刺時に皮膚から蒸発した組織片が集光レンズ12に付着して集光レンズ12を汚染するのを防ぐ役割がある。集光レンズ保護フィルム6の基材には、ナイロン、ポリエステル、ポリイミド、フッ素系、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン等が利用可能である。
【0056】
人の皮膚(指など)が当たる部分である開口にも穿刺フィルム8が設けられており、基材には、ナイロン、ポリエステル、ポリイミド、フッ素系、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン等が利用可能である。
【0057】
次に、レーザ穿刺装置1の動作について説明する。まず使用者が動作スイッチ5を押すとレーザ穿刺装置1が始動を始める。次に使用者は、レーザ穿刺装置1の動作条件を設定ボタン4を使用して入力する。入力後、使用者は穿刺アダプター7を本体2に挿入し、穿刺箇所である指を穿刺アダプター7に押し付ける。
【0058】
準備完了後、ディスプレー3にスタンバイが表示され、使用者が動作スイッチ5をもう一回押すとレーザ発振器9はレーザパルス光を発振する。発振されたレーザ光は、集光レンズ12で集光され、中空の穿刺アダプター7内でそのビーム径を細くしながら、使用者の指の皮膚に集光されレーザ光が皮膚に吸収され、皮膚が加熱・蒸発することで穿刺を行う。穿刺により皮膚の表皮と真皮のごく表面が蒸発し、真皮の例えば真皮乳頭内の毛細血管が損傷し血液が滲み出し、穿刺された孔を通って血液が皮膚の表面に染み出す。
【0059】
このとき、集光レンズ保護フィルム6には孔は開かず、他方、皮膚が押し当てられた方の穿刺フィルム8はレーザ光を吸収して孔が開き、この孔を通じて先のレーザ穿刺が行われる。レーザ穿刺時に皮膚の蒸発によって発生したプルームは穿刺フィルム8の孔を通して中空体13の内部に拡散する。
【0060】
プルーム内には、皮膚の組織を構成するタンパク質の構成要素であるアミノ酸が分解した揮発性物質が漂っており、レーザ穿刺時の主たる対象である角質層はタンパク質ケラチンの繊維状組織からなり、比較的多く含まれるアミノ酸シスチンの硫黄部分の結合であるシスチン結合により繊維間が結合している。これらアミノ酸が蒸発時に分解することで揮発性の硫黄化合物や窒素化合物が発生し、特に硫黄化合物を人は異臭と感じる。
【0061】
そこで、穿刺アダプター7の内部はプルームの異臭成分に対する消臭機能を持たせてある。主な硫黄化合物としては、硫化水素やメチルメルカプタンがあげられる。硫化水素は化学吸着剤によって脱臭が可能であり、マンガン、銅、コバルトの複合酸化物を用いることができる。なお、マンガン、銅、亜鉛、コバルトのいずれかを含む酸化物、水酸化物、複合酸化物あるいはその混合物とすることにより、同様に硫化水素に対する強力な化学吸着作用を有する吸着剤とすることができる。
【0062】
化学吸着剤は、硫化水素を最終的に硫酸塩の形や硫黄単体として化学吸着するものである。また、同じ硫黄系臭気であるメチルメルカプタンを、より閾値の高い二硫化ジメチルに転化する媒作用も有する。この作用のため、脱臭されたのと同等の効果を感じうることができる。
【0063】
さらに、物理吸着剤を担持させておくことにより、二硫化ジメチルを物理吸着作用により除去できるため硫黄化合物を全般的に除去することが可能となる。物理吸着剤として、シリカ分の多い疎水性ゼオライトを用いることができ、その他ゼオライト、セピオライト、シリカ、アルミナ等を用いても同様な効果が得られる。
【0064】
これら化学吸着剤と物理吸着剤を、集光レンズ保護フィルム6、穿刺フィルム8または穿刺アダプター7の基材に添加する。あるいは、集光レンズ保護フィルム6、穿刺フィルム8または穿刺アダプター7の内部に塗布することも可能である。
【0065】
また、穿刺フィルム8は使用者の指と接触するので抗菌性を持たせると好適である。抗菌性は、基材への塗布や練り込みで実施できる。抗菌剤としては、Ag、Cu、Zn、Ni、Coやその合金、TiO2、ZnO、WO3等があげられる。なお、抗菌性は穿刺フィルム8に限らず、穿刺アダプター7の中空体13または集光レンズ保護フィルム6の外表面に施すことも有益である。
【0066】
図8(a)は、本発明の実施形態のレーザ穿刺装置1における他の穿刺アダプター14の概略図である。この穿刺アダプター14は、皮膚が押し当てられる側の開口径が突起15により制御されている。突起15により、最適な皮膚の押し当てを実現する径とその深さに設定されており、確実な採血を可能にしている。
【0067】
図8(b)は、レーザ穿刺時のレーザ穿刺箇所の拡大図である。使用者は、穿刺アダプター14を皮膚16のレーザ穿刺予定箇所に当てる。この時、突起15が穿刺フィルム8より1〜3ミリメートルほど突出しており、この突起15が皮膚16を押すようになる。これにより、レーザ穿刺予定箇所の周囲を刺激することになる。このため、レーザ穿刺時に使用者が感じる刺激を緩和することが可能となる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態のレーザ穿刺方法によれば、真皮を穿刺するためのレーザパルス光が、表皮を穿刺するためのレーザパルス光と同一位置に照射され、真皮にすり鉢状の穿刺孔を形成するため、真皮を深く穿刺することがなく、傷跡が残らず、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を行なうことができる。
【0069】
また、表皮を穿刺するためのレーザパルス光が、真皮を穿刺するためのレーザパルス光より、その時間幅が同じあるいは長く、そのエネルギーが大きいため、真皮での円錐状レーザ穿刺の断面形状の深さを必要最小限に制御することができ、傷跡が残らず、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を行なうことができる。
【0070】
また、本実施形態のレーザ穿刺装置1によれば、穿刺フィルム8、中空体13および集光レンズ保護フィルム6で閉空間を形成でき、レーザ光で穿刺フィルム8に孔を開けこの孔越しに皮膚にレーザ穿刺することで、発生したプルームをこの閉空間に閉じ込めることができる。
【0071】
さらに、穿刺フィルム8、中空体13および集光レンズ保護フィルム6に設けられた消臭機能により異臭を無臭化でき、防菌機能も設けられているので感染の恐れがない。さらに、この穿刺アダプター7,14は交換可能なので、使用毎に交換することで感染を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、傷跡が残らず、穿刺時の痛みが少なく、安定した採血を可能にするレーザ穿刺装置のレーザ照射方法等として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施形態にかかるレーザ穿刺装置のレーザ照射条件の概略図
【図2】本発明の実施形態にかかるレーザ穿刺装置のレーザ照射条件での皮膚の穿刺拡大図
【図3】本発明の実施形態にかかるレーザ穿刺装置における他のレーザ照射条件の概略図
【図4】本発明の実施形態にかかるレーザ穿刺装置に搭載されるレーザ発振器20の概略図
【図5】本発明の実施形態にかかるレーザ穿刺装置1の概略図(1)
【図6】本発明の実施形態にかかるレーザ穿刺装置1の概略図(2)
【図7】本発明の実施形態にかかるレーザ穿刺装置1の穿刺アダプター7の概略図
【図8】本発明の実施形態にかかるレーザ穿刺装置1の穿刺アダプター14の概略図
【図9】従来のレーザ穿刺装置の概略図
【図10】皮膚の概略図
【符号の説明】
【0074】
1 レーザ穿刺装置
2 本体
3 ディスプレー
4 設定ボタン
5 動作スイッチ
6 集光レンズ保護フィルム
7 穿刺アダプター
8,14 穿刺フィルム
9 レーザ発振器
10 電池
11 制御基板
12 集光レンズ
13 中空体
15 突起
16 皮膚
20 レーザ発振器
21 フラッシュランプ
22 ランプハウス
23,24 ミラー膜
25 レーザロッド
32 レーザ光軸
33 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮と真皮を含む皮膚にレーザパルス光を照射することによりレーザ穿刺を行なうレーザ照射方法であって、
前記表皮を穿刺するためのレーザパルス光を照射するステップと、
前記表皮の穿刺箇所に、前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光を照射するステップとを有するレーザ照射方法。
【請求項2】
請求項1記載のレーザ照射方法であって、
前記表皮を穿刺するためのレーザパルス光は、前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光より、その時間幅が同じあるいは長く、そのエネルギーが大きいものであるレーザ照射方法。
【請求項3】
請求項1記載のレーザ照射方法であって、
前記表皮を穿刺するためのレーザパルス光の時間幅は、100〜400μsであり、前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光の時間幅は、50〜300μsであるものであるレーザ照射方法。
【請求項4】
請求項1記載のレーザ照射方法であって、
前記表皮を穿刺するためのレーザパルス光の時間幅と、前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光の時間幅との差は、50〜200μsであるものであるレーザ照射方法。
【請求項5】
請求項1記載のレーザ照射方法であって、
前記表皮を穿刺するためのレーザパルス光と、前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光との照射間隔は、500ms以下であるものであるレーザ照射方法。
【請求項6】
請求項1記載のレーザ照射方法であって、
前記表皮を穿刺するためのレーザパルス光と、前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光とが照射するエネルギーの合計は、1平方センチメートル当たり100〜300Jであるものであるレーザ照射方法。
【請求項7】
請求項1記載のレーザ照射方法であって、
前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光のエネルギーは、前記表皮を穿刺するためのレーザパルス光と前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光とのエネルギーの合計の10〜40%であるものであるレーザ照射方法。
【請求項8】
請求項1記載のレーザ照射方法であって、
前記レーザパルス光の集光径は、0.15mm以下であるものであるレーザ照射方法。
【請求項9】
請求項1記載のレーザ照射方法であって、
前記表皮を穿刺するためのレーザパルス光は、複数のレーザパルス光を含むものであるレーザ照射方法。
【請求項10】
請求項9記載のレーザ照射方法であって、
前記表皮を穿刺するための前記複数のレーザパルス光のそれぞれの時間幅は、100〜400μsであるものであるレーザ照射方法。
【請求項11】
請求項9記載のレーザ照射方法であって、
前記表皮を穿刺するための前記複数のレーザパルス光の照射間隔は、500ms以下であるものであるレーザ照射方法。
【請求項12】
請求項9記載のレーザ照射方法であって、
前記表皮を穿刺するための複数のレーザパルス光と、前記真皮を穿刺するためのレーザパルス光とが照射するエネルギーの合計は、1平方センチメートル当たり5〜100Jであるものであるレーザ照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−194347(P2008−194347A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34575(P2007−34575)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】